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男にもタイムリミットがある!? ~精子“老化”の新事実~

男にもタイムリミットがある!? ~精子“老化”の新事実~

2018年2月20日

去年、衝撃の調査結果が発表された。「欧米男性の精子の濃度が40年で半減している」というのだ。別の研究では、見た目が元気な精子でも、受精卵の細胞分裂を促す力が衰えている場合があることも分かった。WHOによれば、不妊の原因の半数は男性側にあるという。精子の状態を回復させる術はあるのか。不妊治療を受ける場合、どんなことに気をつければよいのか。最新研究をもとに、男性不妊に向き合うヒントを探る。

精子が急減!? 男性にいま何が起きているのか

世界が驚いた調査結果は、欧米男性を対象にしたものだった。日本人にも精子の危機はしのびよっているのか?取材班は検査を希望する20~50代の日本人男性9人に集まってもらい、専門医の監修のもとで、それぞれの精子の濃度と運動率を測った。WHOによると、自然妊娠するには精液1ミリリットル中に精子が1,500万以上。そのうち活発なものが40%以上いるのが望ましいとされる。今回、9人のうち5人がこの基準を下回る結果となった。中には精子の濃度が基準の3分の1、運動率が基準を大きく下回る8%という男性もいた。
都内のあるクリニックでは、この3年間で564人の精子の濃度や運動率を検査。6人に1人がWHOの基準を下回ったという。専門家も驚く結果だった。
「これは多分、かなり衝撃的なデータだと思う。一般の方が想像されているよりは(下回る)率が高いだろう。」(順天堂大学 浦安病院 辻村晃教授)


隣国、中国でも状況は深刻だ。近年、不妊が大きな問題となり、行政機関が全国25か所に精子バンクを設立。精子の提供を呼び掛けている。ところが、妊娠の確率を上げるためにWHOより厳しい基準を設定したところ、およそ7割が基準以下。精液が常に足りない状態だという。大気汚染など、環境の変化が原因のひとつだと考えられている。

「私たちはとても深刻な問題だと考えています。たぶん、食べ物の添加物の成分とか、大気汚染とか、ライフスタイルとか、それらの要因が精子の数や運動率の低下を招いたと思います」(国営 精子バンク管理組長 范立青さん)

“老化”する精子 30代から注意が必要な人も

さらに最新の研究で、新たなリスクが判明した。精子の「老化」だ。見た目は元気でも、中身が衰えている場合があるという。獨協医科大学の岡田弘教授によれば、35歳を過ぎたあたりから、精子の力が衰えはじめる人たちがいる。原因のひとつが、精子の中にあるDNAの損傷。精子が卵子に入り、互いのDNAが結び付くと発育の土台が整い、細胞分裂が進む。ところが、精子のDNAが傷ついていると、うまく結合ができず、細胞分裂が正常に進まないのだ。

「これからは精子の質の検定が大事になってくる。いつまでも男の場合は精子さえいれば子供ができるかといえば、そうはいかない。年齢的に子供ができにくくなるというのは、女性だけではなく、男性にも責任の一端がある」(獨協医科大学埼玉医療センター 泌尿器科 岡田弘主任教授)


※マウスの卵子に男性の精子を入れて、卵子が“活性化”するか調べる。右側は“活性化”して細胞分裂の準備段階までは進む。(マウスの卵子を受精させてもネズミ人間が生まれることはありません)

では、なぜ精子のDNAが損傷してしまうのか。専門家は「環境の変化」と「ライフスタイルの変化」を指摘する。

「ひとつは環境の変化。日本国内の研究では、中国の大気汚染の原因であるPM2.5が精子の所見に悪影響を及ぼす、というデータがあります。それからライフスタイルの変化。ここ数十年で人間のライフスタイルというのは、大きく変わってきています。肥満、睡眠不足、喫煙など、体にかかる『老化のストレス』を増やすような生活習慣、そういうものが精子の所見を悪化させて、精子の中のDNAを傷つける可能性があることが分かっています」(獨協医科大学埼玉医療センター 小堀善友講師)

不妊の原因の約半数は、男性側にあることも分かってきた。WHOの調査によると、原因が「男性のみ」の場合は24%、「男女両方」では24%、合計で48%となっている。

「精子を守るための7か条」

自分の精子は大丈夫だろうか。確かめたければ、泌尿器科か産婦人科で精液検査を受けることができる。また、もし精子の劣化が見つかったとしても、改善の余地はがないわけではない。独協医科大学の小堀善友講師は「必ずしも科学的な根拠があるわけではない」と前置きしつつ、精子の状態をよくするために日常生活で気をつけるべき7つのポイントを挙げる。

「まずは『禁煙』。それから『禁欲は間違い』です。また精巣自体が熱によるストレスに非常に弱いため、できるかぎり精巣を温め過ぎないこと。『ブリーフよりトランクス』、『妊活の時期はサウナを控える』、『膝上のパソコン操作はダメ』です。『自転車に注意』というのは、長時間の自転車が、会陰部、陰のうの下辺りの細かい血管にダメージを与えるからです。それから『育毛剤(飲み薬)に注意』。飲み薬による育毛薬の一部は、効果がある一方、体内のホルモンに影響を及ぼし、精子の所見を悪くしてしまう可能性があることも指摘されています」(獨協医科大学埼玉医療センター 小堀善友講師)


それでも精子の状態が回復しないとき、子どもを望むカップルにとって、頼みの綱となるのが不妊治療だ。自然妊娠が難しいとされた場合、いくつかの選択肢がある。男性の精子を採取し、女性の子宮近くに入れる人工授精(費用は1回1~3万円程度)。卵子と精子の両方を採取し受精させてから母体に戻す体外受精(費用は1回25~50万円程度)。そして最も高度な顕微授精は、状態のよい精子を1つ選んで受精を試みる手法で、費用は1回、30~60万円ほどかかる。

ただし、体外受精と顕微授精を合わせた妊娠率は、16.9%。思うような結果が得られない場合など、治療の負担が夫婦の関係に深い傷を残してしまうケースもある。

男性側に原因があるとわかったら… 3つの対処法

夫に不妊の原因がある場合、どのように治療に向き合えばいいのだろうか。臨床心理士・生殖心理カウンセラーの小倉智子さんが指摘するのは、男性特有の難しさだ。

「男性に問題があると言われた時のショックというのは、女性とはまた別にすごく傷つくものです。しかも自分が原因なのに、治療する上では女性側の負担が強いられるという所にすごく複雑なものがある。」

そのうえで、小倉さんは「まずは専門のカウンセラーや、男性の『ピアカウンセラー』などのサポートを受けてほしい」とアドバイス。さらに、治療を前向きに進めるための3つのポイントをあげる。

「まずは、『男女のズレに気をつける』。女性の場合は問題点があると、まずは感情的な部分を共有したくなりますが、男性は問題を解決させようとがんばる。そうした男女の思考のズレを知っておくこと。2つめは、『治療以外の会話も楽しむ』。治療中は、2人でそのことばかり話してしまいがちですが、その時間はなるべく短くして、それ以外はつとめて楽しい時間を過ごすこと。そして3つめは、『2人で納得した結論を』。子供を授かるということは2人の選択なので、それぞれの考えや価値観を共有していくことが大切。不妊治療を続けていくのか―。それとも“子供を授かる”ことを考え直すのか―。それぞれのカップルが納得した結論こそが、正解だと思う。」(臨床心理士・生殖心理カウンセラー 小倉智子さん)

晩婚化が進み、高齢で子供を望む夫婦は増えている。精子の減少や老化は、ますます切実な問題になっていくだろう。どうすれば自分の精子の状態を知ることができるのか、精子を守るためにどんな生活習慣が大切なのか、そして不妊治療にどう向き合えばいいのか。夫婦の切実な悩みを乗り越える術を、社会で広く共有していく必要がありそうだ。

この記事は2018年2月6日に放送した「男にもタイムリミットが!?~精子“老化”の新事実~」を元に制作しています。

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