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「常に、紙一重に賭ける」 銀メダル 平野歩夢が挑んだ高み

「常に、紙一重に賭ける」 銀メダル 平野歩夢が挑んだ高み

2018年2月14日

ピョンチャン五輪で、銀メダルを獲得したスノーボード・ハーフパイプの平野歩夢選手。究極の大技、「ダブルコーク1440(4回転)の連続技」に果敢に挑み、見事に決めた。しかし、大舞台への道のりは決して平たんではなかった。選手生命を揺るがす大けが、そして“恐怖心”との闘い。どのように乗り越えたのか。密着取材による知られざる挑戦の記録である。

「こんなの見たことない!」 世界初の大技 “ダブルコーク1440の連続技”

「攻めて周りを黙らせる滑りをするしかない。さりげなく勝つのはいやですね。」

五輪を前にこう語っていた平野歩夢選手。その言葉通り、攻めに攻めた本番の滑りだった。

ハーフパイプは全長およそ180m、斜度18度の半円状にくりぬいたコースで、左右の壁を猛スピードで駆け上がり、宙に舞って技を繰り出すスポーツ。1回の滑走につき、5~6回程ジャンプし、高さや難易度、完成度を競う。


中でも最高難度といわれる技が、4回転の「ダブルコーク1440」。パイプの縁ギリギリで踏み切り、空中へ。体をひねりながら、2回転。このとき、地面からの高さは13m近くに達する。降下しながらさらに2回転して着地。世界でも平野選手を含む一握りの選手しか成功していない。危険と背中合わせのこの大技には、高い技術に加え、強じんな精神力がもとめられる。

五輪の直前、平野選手はこの大技を史上初めて、なんと連続で決めてみせた。1月末に行われたプロの大会「Xゲーム」。その瞬間、観客は沸き立ち、実況はこう絶叫した。「こんなの見たことあるかい? ない。だって地球上で初めてなんだから!」。得点は百点満点の99.0点。文句なしの優勝だった。しかしここに至るまでには、乗り越えなければならない大きな試練があった。

“犯罪者”の濡れ衣 失意の中での大けが

4年前のソチ五輪。平野選手はすい星のごとく現れた。15歳で銀メダル。日本選手として、冬のオリンピック史上最年少でのメダル獲得だった。

ずっと目標にしてきたのは、アメリカのショーン・ホワイト選手。トリノ大会、バンクーバー大会と五輪連覇を果たしたスーパースターだ。小さい頃からの夢は『オリンピックで、憧れのショーンに勝って金メダル』。ソチ五輪直前、クローズアップ現代のインタビューにも「ショーンを倒して優勝したい」と語っている。結果は2位。次のピョンチャンこそ金メダルをと誓い、練習を積んできた。しかし2年前、思わぬ事態に直面する。

スノーボードの未成年の強化指定選手が大麻を使用していたことが発覚。平野選手は無実だったにもかかわらず、ネット上で犯罪者扱いされたのだ。

「意味わかんねぇよっていうぐらい感情的になる部分があった。オリンピック、もういいかなって。」

全日本スキー連盟は、国際大会への日本代表チームの派遣を自粛。平野選手は名誉だけでなく、実戦の機会まで奪われた。さらに去年(2017年)3月。気持ちの整理がつかないまま、個人の資格で出場した大会で、4回転に挑み転倒。左膝のじん帯と肝臓を損傷し、全治3か月の大けがを負ってしまう。

心の中に忍び込んだ「恐怖心」との闘い

平野選手は逆境に懸命に立ち向かった。リハビリを重ね、驚異的な回復を果たす。けがから5か月で左膝の痛みは完全になくなり、本格的な雪の上でのトレーニングができるまでになった。しかし、新たな試練が待ち受けていた。4回転が跳べないのだ。

「“やっぱ怖いな”って。例えば、あした、(4回転を)やろうかなって思う日の、寝て、朝起きて、どんどん山行って、どんどん滑る。自分がやることに近づくと同時に、それって思い出してくる。」

心の中に忍び込んだ『恐怖心』という見えざる敵。成功のイメージを取り戻したいと、平野選手は、過去の4回転の映像を繰り返し見て、目に焼き付けようとした。

「みんな結果にこだわるために、自分の体ひとつで、いつけがをするか分からない覚悟を持ちながら練習していると思うんですけど、自分もそこにいなきゃいけない。そういう覚悟を持ってやる。だったら、1440(4回転)入れなきゃ勝てない。」

紙一重に賭ける 五輪2か月前の大勝負

転機が訪れたのは去年(2017年)12月。ワールドカップ第2戦でのことだった。大会には平野選手が憧れてきたあのショーン・ホワイト選手も出場していた。実はこの3か月前、ショーン・ホワイト選手はジャンプで転倒し、顔を62針縫う大けがを負っていた。当時、SNSにこう投稿している。「私はすぐに戻る。さらに強くなって」 。その言葉を、ショーン・ホワイト選手はこの試合で実践してみせたのだ。ケガの影響を微塵も感じさせないダイナミックな滑り。代名詞である3回転半のダブルマックツイストも決めた。叩き出したのは87.25 の高得点。その強さを目の当たりにし、平野選手は大きな刺激を受けた。

「ショーンは“あきらめない人”なんで、“何が何でもやってやるぞ”ぐらいな気持ちを持って大会には出てくる。人間として強い。すごい刺激を感じる。」

3回の滑走で、最高得点を競うこの大会。ショーン・ホワイト選手の滑りを見た平野選手が向かった先は、ボードのメンテナンスを行うスタッフの元だった。ワックスをいつもより念入りにかけてもらうことにしたのだ。助走のスピードが上がり、より高く跳ぶことができる。しかし、コントロールは難しくなる。一か八か、賭けだった。

平野選手の2回目。繰り出したのは、最高難度のあの「4回転」だった。恐怖心に打ち勝ち、ついに試合で成功させたのだ。ショーン・ホワイト選手に8点もの大差をつけてトップに躍り出た。

優勝は確実。すでに祝福ムードも漂う中、最後の滑走を控えた平野選手は1人集中していた。3回目の滑走。再び4回転を決めた平野選手。そしてなんと、そのまま続けて4回転を跳んだ。世界で誰一人成功させたことがなかった連続技。着地がわずかにずれたものの、自らの限界への挑戦だった。1か月後、平野はこの大技を試合でついに成功させ、五輪に乗り込んだ。

「常に紙一重の状況で、自分は賭けて滑っているっていう。そこを目指している以上は、1440(4回転)は2連続つなげて、オリンピックでも、今後大会で出せるときは出したいと思ってるし、人がたどりつけないようなことを、自分の夢にできればなと思いますね。」

「ショーンに勝って金メダルを」。追い求めた夢は掴めなかった。しかし挑戦が終わったわけではない。恐怖を乗り越え、大舞台でも攻めの滑りを貫いた19歳。次はどんな驚きのパフォーマンスを見せてくれるのだろうか。


この記事は2018年2月7日に放送した「ピョンチャン五輪 極限への挑戦  スノーボード 平野歩夢」を元に制作しています。

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