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ゴミから現金が見つかる!?  “忘れもの“急増の謎

ゴミから現金が見つかる!?  “忘れもの“急増の謎

2018年1月25日

群馬で4,200万円、石川で2,000万円、富山で1,700万円・・・。巨額の現金が“忘れもの”として見つかる事態が多発している。発見されるのはゴミ集積場や廃棄物処分場。警察庁によると、現金拾得物は過去最高水準まで増加しているという。取材を進めると、現代社会のある断面が見えてきた。

ゴミの中から1億円超 いったい誰が?

去年1年でゴミの中から発見された現金は、少なくとも1億1,000万円以上。いずれもゴミ集積所や廃棄物処分場から出てきた「忘れもの」だ。
実はここ数年、現金の忘れ物や落し物は増加傾向にある。グラフを見ると突出して多いのは東日本大震災のあった平成23年で、津波で流されたりしたものだ。しかし、それ以降も増え続け、一昨年には177億円に上っている。いったい何が起きているのか。

 
千葉県八千代市の清掃センターを訪ねた。ここでは3年前から相次いで現金が見つかっている。タオルの中から20万円、布団にくるまれた封筒から50万円といった具合だ。ここ数年、この清掃センターでは、亡くなった家族の遺品を処分しに来る人が増えている。作業員に話を聞くと、そうした遺品を捨てに来た人が誤って現金まで捨ててしまったのではないかという。

その仮説を裏付けるケースが見つかった。群馬県の廃棄物処理会社だ。去年4月、ゴミの分別中に現金4,200万円を発見した。警察が特定した持ち主は、亡くなった1人暮らしの高齢男性で、現金は長年自宅にためていたいわゆる「タンス預金」ということだった。息子は現金の存在を知らされておらず、依頼された業者が家具などと共に処分していた。

さらに取材を進めると、危うく捨てられかけている現金がまだまだあることもわかってきた。福岡県の遺品整理業者。遺族などの依頼を受けて、亡くなった人の部屋の品々を整理・処分しているが、毎月のように遺品から多額の現金が見つかるという。5年間で見つけたのはおよそ2億円。5,000万円近くが見つかったケースもあるという。業者はできる限り貴重品や思い出の品を遺族に返したいという思いから、部屋の隅々まで探す。しかし今、多くの人は遺品への思い入れが薄れ、整理に手間をかけなくなっているという。

「もう見もしていなくて『捨ててください』と依頼が来る。親が大切にしていたものという見方ではないと思うんですね。」(遺品整理業者 岩橋ひろしさん)

家族に知られずひっそりと眠るタンス預金。その総額は45兆円になるという試算もある。試算を行った第一生命経済研究所の熊野英生さんは、異例の低金利政策が続く中、高齢者の将来への不安がタンス預金を膨れ上がらせていると指摘する。

「自分が長生きすればするほど、経済的な不安が増す。年金の不安もあるでしょう。その時、自分の見えないところにあるんじゃなくて、自分の見えるところにあるのがいちばん安全だと。」(第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生さん)

忘れもの急増 原因はスマホ?

急増している落とし物は現金だけではない。警察庁の調べによると、落とし物や忘れものの数は増え続け、2016年は過去最多の2,796万点だった。

忘れものの代表格といえば、傘。ある鉄道会社の「お忘れもの管理センター」にはひと月におよそ2,000本が集まる。3か月の保管期限が過ぎたものは鉄道会社の所有物となり、リサイクル業者などに買い取られる。

鉄道会社から50年以上忘れものを買い取っているリサイクル会社の社長は、ファストファッションやディスカウントストアなどが広まり、忘れものの中に、価格が安いものが目立つようになったと話す。

「全体的に安価になってますよね。(なくしたあと)捜す手間のほうが大変だからいいわという感じになってしまう。」(リサイクル会社社長 岩崎悦征さん)

このことは、忘れものが持ち主に返される割合にも如実に表れている。財布や携帯電話など、高価なものは8割以上、持ち主が取りに来るのに対し、傘は2割、マフラーや手袋などの衣類は1割程度に過ぎない。

 
さらに、忘れものの増加には、スマートフォンも影響しているという指摘もある。ヒューマンエラーの研究を行っている立教大学の芳賀繁教授は、コミュニケーションツールの発達が私たちの注意力を奪っていると指摘する。スマートフォンを使いながら視覚や聴覚などの刺激に対する反応を調べる実験では、SNSやゲームなど双方向で情報をやり取りするほど、忘れもののようなエラーが格段に起こりやすくなるというのだ。

「いっときもじっとしていないで情報を探りにいっている、あるいは情報を交換しにいっている。そういう時間を使うようになったということが、忘れものを増やす原因になっているかもしれない。」(立教大学 教授 芳賀繁さん)

実際、忘れものの数の推移を見ると、日本でスマートフォンが普及し始めた平成20年ごろから急激に増加している。

 
作家の重松清さんはかつて、忘れ物をテーマに現代社会を見つめた作品を書いた。作品の発表から11年、連絡を受けても忘れものや落とし物を取りに行かない人が増えていることに驚きを隠さない。

「物と人との関係が薄くなっている。そもそも物を買うときだって、スマホのタッチで終わり。昔は、物を買う、買い物ってやっぱりイベントだったと思うけど、そうなるとやっぱり、どうしても思い入れも少なくなっちゃうし、薄くなります。」(重松清さん)

一方、物との新たな関わり方も広がり始めている。例えば車や家など、多くの人で共有して使うシェアリングエコノミー。サービスや個人の間で中古品を売買するフリマアプリなど、市場規模は急拡大しており、2025年には36兆円を超えるという試算もある。

かつて、ものを持ち、持ち続けることは幸せなことだった。その価値観は今、大きく揺らいでいるようだ。それでも、重松さんはこう話す。

「思い出と一緒にあるものって、たぶんなくならない、なくしてほしくないなと思うんです。やっぱり思いのしっかり込もったものを持つって、幸せなんじゃないかなと。忘れものをしたらね、必死に捜し回るものがあるというのは、幸せかもしれませんよね。」

日々忘れ物が増えていく現代社会。その中で、ものやお金に思いを込めた人たちとのつながりや思い出まで、見失ってはいないだろうか。

この記事は2018年1月16日に放送した「現金が捨てられる!? ~“忘れもの”急増の謎~」を元に制作しています。

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