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夫婦げんかで子供の脳にダメージ!?

夫婦げんかで子供の脳にダメージ!?

2017年12月28日

夫婦げんかが子どもの脳を傷つける原因になる―という驚きの研究結果が明らかになった。福井大学とハーバード大学が、アメリカ人を対象に行った調査では、日常的に両親の暴力や暴言に接してきた子どもたちは、脳の視覚野の一部が萎縮していた。記憶力や学習に影響が出る可能性もあるという。どんな夫婦げんかが子供に悪影響を与えるのか。あなたの家庭は大丈夫だろうか?

「激しい夫婦けんかが子どもに与える影響とは」

大学生のりょうさん(仮名)は、物心ついたころから10年以上両親のけんかに接してきた。暴言は毎日のように飛び交い、別の部屋にいても大声が響く。父親は、家事や育児などの気に入らない点をあげつらい、母親を厳しく責めた。母親も応戦し、激しいけんかが日常茶飯事だった。

「めちゃくちゃすごいっすよ。生きた心地しないっすよ、本当に。家帰ってきたら、戦場に一変するみたいな。」(りょうさん:20歳)

その後両親が離婚し、暴言から解放されたかと思いきや、中学校に入るとりょうさんに異変が起こる。感情をコントロールできなくなり、家族や友人に対してキレやすくなったのだ。

「『俺をこんなに怒らせるな』みたいなことを言ってきたり、パパがここにいるみたいな。パパの再来みたい。」(りょうさんの母親)

激しい夫婦げんかが子どもにもたらす感情のゆがみ。福井大学などが行った脳科学的な研究によって、そのメカニズムが明らかになった。日常的に夫婦の暴言に接すると、脳の海馬や扁桃体に異常を来し、怒りや不安を感じやすくなる上、視覚野の一部も萎縮。記憶力や学習能力が低下してしまうというのだ。

同大学などがアメリカで行った調査では、言葉の暴力のリスクの大きさも浮き彫りになった。年齢層と学歴が同じ若者から、夫婦間の身体的暴力を目の当たりにしてきた人と、言葉の暴力に接してきた人を抽出し、それぞれの脳をMRIで調べた。その結果、双方とも脳の視覚野の一部が萎縮していたが、身体的な暴力を見てきた人の萎縮率が3.2%だったのに対し、言葉の暴力に接してきた人では19.8%と6倍も高かったのだ。

ではどの程度、言葉による夫婦げんかに接すると脳に影響が出るのか。福井大学の友田明美教授ら(日本発達神経科学会理事)は、独自のチェックリストを作成した。「叱る」「脅す」「ばかにする」などの行為を、どのくらいの頻度で目にしたのか、15の質問項目を設定。毎月なら4点、毎日なら7点というように、頻度が多いと点数が高くなる。このスコアが40点以上の人で脳の萎縮が確認されたという。本人の了解を得て友田教授のアンケート調査に回答してもらったところ、りょうさんのスコアは72点だった。友田教授によると「りょうさんの脳の画像を見たわけではないし、直接、診察もしていないのではっきりしたことはいえないが、両親の激しいけんかが、“生きづらさ”の引きがねになっている可能性は大いにある」とのこと。

※チェックリストはこちらへ → http://www.nhk.or.jp/gendai/kiji/067/

夫婦げんかを減らす3つのコツ

夫婦げんかのリスクは暴言や暴力に限らない。言葉を交わさず無視し合う、いわゆる「冷戦」も、子どもに悪影響を及ぼす可能性があるという。夫婦や子どものカウンセリングをしている臨床心理士の信田さよ子さん(日本臨床心理士会理事)は「両親の冷戦状態は、自分のやり方しだいで仲よくなるんじゃないか、自分のせいだ、自分が頑張らないからお父さんとお母さんが仲よくならないんだというような、自責感、自己否定感が強くなったりする」と話す。

では、どうすれば夫婦けんかを減らせるのか。信田さんがあげるポイントは3つだ。

(1) 主語を「あなた」ではなく「私」にして、相手を批判するのではなく自分の気持ちを説明する。

(2) 「いつも」や「どうせ」など決めつけでものを言わない。決めつけられたほうは自分がすごく責められている、これ以上何も話したくないという気分になる。

(3) 居間などで話すとどうしても日常の延長になってしまうため、大事な話は場所を変え、公園やカフェなど、自宅以外の場所で、2人でする。

どこの家庭でもなかなかゼロにはできない夫婦げんかだが、信田さんは、マナーを守りながら、子どものいない場で、しっかり互いの思いをぶつけ合うことが重要だと指摘する。

子どもが傷ついてしまったら… 自己肯定感を高めるケア法

一方、子どもが夫婦げんかで傷ついてしまったらどうケアすればよいのか。福井大学が研究し、小中学校の授業にも導入されている方法がある。

それは、子どもたちに自分の長所を考えさせて紙に書き「宝物ファイル」を作るというもの。友達や親からも長所を書いてもらい、ファイルにとじていく。100点のテストや、運動会でもらった賞状も、長所を見つけるための大事な宝物だ。このファイルを何度も見直すと、自己肯定感が高まるという。

この取り組みは、両親のけんかに悩む子どもたちを数多く救ってきた。そのひとり、岸村香織さんは、小学生のころ夫婦げんかを目の前で頻繁に見ていたという。友田教授のアンケート調査のスコアは、50点を超えていた。

香織さんは、次第に両親の前で感情のコントロールがうまくできず、反抗的な態度を取るようになる。そんな状況を変えたのが、小学5年生のときに作り始めた「宝物ファイル」だった。夫婦げんかが絶えず、娘に注意が向かなかった母の真知子さんは、友達が書いてくれたメッセージを読み、娘の長所に初めて気付かされたという。

「私の知らないところがいっぱいあって、ドッジボールがうまいって書いてあったり、足が速いって書いてあったり、この子がいちばん育つときに夫婦げんかを見せてきたところが自分の反省。いま改めてつくづく思います。」(母 真知子さん)

その後、真知子さんは娘の長所に目を向けるようになり、香織さんの態度や行動は次第に落ち着いていった。

「両親にも褒められるようになって、いま自分が子どもを産んで親の立場になって、子どもの良いところを見つけて、少しでも褒めるようになりました。」(岸村香織さん)

この「宝物ファイル」を使ったケアについて、友田教授は、まだ研究段階で断定はできないとしながらも、脳を回復させる可能性が十分あると評価する。海外の研究でも、心の傷を克服するような適切なケアを行うと、大人の脳でも回復するということがわかってきているという。

また、臨床心理士の信田さんは「夫婦げんかを子どもの前でしてしまったら、けんかの理由と仲直りしたこと、そしてけんかが子どものせいではないことをしっかり伝えて子どもに安心感を与えることが大事」と、けんか後のケアの重要性をあげる。

夫婦にけんかはつきもの。しかし、いちばん傷つくのは子どもたちだ。そのことを心にとめておきたい。

この記事は2017年12月13日に放送した「夫婦げんかで子どもの脳が危ない!?」を元に制作しています。

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