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原爆6000発分 「プルトニウム大国」日本に世界が向ける目

原爆6000発分 「プルトニウム大国」日本に世界が向ける目

2017年11月14日

核兵器の材料になることから国際的に厳しく管理されているプルトニウム。日本は、原発で使い終わった核燃料からプルトニウムを取り出し、資源として再利用する「核燃料サイクル」を核兵器保有国以外で唯一、推進している。しかし今、その核燃料サイクルに行き詰まりが見られ、プルトニウムが大量にたまり続けている。現在(2016年末時点)、日本のプルトニウム保有量は約47トン。原爆に換算すると約6000発分に相当する。大量のプルトニウムを抱える日本に対し、同盟国のアメリカの一部など、世界から懸念の声が上がりはじめている。

なぜ大量のプルトニウムがたまってしまったのか

核燃料サイクルとは、原発で使い終わった核燃料を再利用して使い続ける一連の流れのこと。原発で使用した核燃料を「再処理工場」で化学処理をし、プルトニウムを取り出す。取り出したプルトニウムを次世代の原発といわれる「高速炉」で再利用することで、核燃料を使い続けるとされてきた。

しかし、去年(2016年12月)、相次ぐトラブルなどが原因で、高速増殖炉の「もんじゅ」の廃炉が決まり、核燃料サイクルの柱が失われた。一方、電力事業者は従来の原発でプルトニウムを再利用するとして、原発16~18基で使用する計画を立てていたが、福島第一原発の事故の後、再稼働した原発でプルトニウムが使われたのは3基にとどまっている。その結果、たまり続けたプルトニウムは現在47トン。さらにこうした中で、青森県六ヶ所村にある再処理工場が、本格稼働に向けた国の審査を受けている。工場が稼働すれば、年間最大で8トンのプルトニウムが生み出されるという。


大量のプルトニウムを保有する日本に対し、世界からは懸念の声が上がっている。国の原子力委員を務めた長崎大学教授の鈴木達一郎さんによれば、懸念は主に3つだという。まず「核テロ」のリスクの高まり、次に日本の核武装への懸念。そして3つ目に“プルトニウム競争”のはじまりだ。日本を前例に、プルトニウムを取り出す技術を持ちたいという国が他にも出てくるのではないか。特に警戒感を高めているのがアメリカだという。

日本のプルトニウムが国際社会のあつれきに?

かつて米国防総省で安全保障政策に関わった、ヘンリー・ソコルスキーさん。日本がプルトリウムを大量に持ち続ければ国際社会にあつれきが生じ、核武装する意思がなくても、疑念を招きかねないと指摘する。実際、国連総会では、中国の大使が「日本が核開発に乗り出す可能性がある」と主張、これに対して日本の大使が「専守防衛を基本方針とする日本は、他国への軍事的脅威とはならない」と反論する場面もあった。

「プルトニウムを最大年間8トン生み出す六ヶ所村の工場が運転を開始すれば、近隣諸国の不安が高まる。これは地域の安全保障の問題です」(ソコルスキーさん)

日本が、核兵器の材料にもなるプルトニウムを平和利用できるのは、戦後、アメリカと結んだ「日米原子力協定」があるため。この協定が日本の原子力政策の根幹となっている。しかし、約30年続いた協定の有効期間は来年(2018年)の7月まで。トランプ政権は、協定を延長する方針を示しているが、アメリカの一部からは日本の原子力政策の見直しを迫る声があがっている。

特に、アメリカが心配するのは朝鮮半島情勢への影響だ。一昨年(2015年)、韓国がアメリカとの原子力協定を改定。これにより、韓国でも平和利用目的でプルトニウムを取り出す研究が認められた。韓国がアメリカと交渉を行った背景には、日本と同等の技術を持ちたいという考えがあったとみられており、アメリカの一部には、北朝鮮が核・ミサイル開発を続ける中、韓国が将来、核開発につなげるのではないかと問題視する向きもある。オバマ政権で核不拡散に取り組んだ元政府高官のジョン・ウルフソルさんは、こう指摘する。

「今、韓国で起きつつある議論は、北朝鮮に対して抑止力を発揮するために核開発は必要だというものです。日本は将来の原子力に関する意思決定において、この点も考慮に入れるべきだと思います」

核燃料サイクルをやめられない事情

プルトニウムを利用する核燃料サイクルは、世界各国が計画を進めてきた。しかし、経済性や安全性の観点から、アメリカ、イギリス、ドイツなどは断念。ロシアや日本は今も推進している。ただその日本でも、福島第一原発の事故後、核燃料サイクルを見直す動きがあったという。

経済産業省の元官僚の伊原智人さん。民主党政権のころ、国家戦略室でエネルギー政策の立案に携わっていた。伊原さんは福島第一原発の事故を受け、核燃料サイクルの凍結を具体的に検討したが、凍結できない、ある“事情”に直面したという。

「約束と違うことが起こってはいけない。私ども、ごみ捨て場ではないんだ」(青森県の三村知事)

凍結に強く反発した青森県。その理由はこうだ。原発で使い終わった核燃料は、「再利用する」という前提で青森県六ヶ所村にある再処理工場に保管している。しかし、核燃料サイクルをやめるとなると、その前提が崩れる。ならば青森で保管し続けることはできないというわけだ。そうなれば、使用済みの核燃料は各地の原発に返さざるを得なくなる。すると、いずれ貯蔵スペースがいっぱいになり、原発の運転ができなくなってしまう。伊原さんは一度始めた政策をやめることの難しさを痛感した。結局、先行きが見えないまま核燃料サイクルは続けられることになった。

「核燃料サイクルを見直すと言った瞬間に『原発に議論が飛ぶ』と感じる方々が、『パンドラの箱は開けたくない』という力も大きい」(伊原さん)

将来のエネルギーをどうするのか

原子力政策を所管する経済産業省は「資源の少ない日本にとってプルトニウムを有効利用することが最適な政策」としている。六ヶ所村で再処理して取り出されるプルトニウムの量についても、プルトニウムの需給バランスを見ながら、責任をもってチェックすると説明している。

「経済大臣がプルトニウムバランスの観点から工場の生産の計画について関与していくことになっているので、アメリカ、世界に対しても説明していくことだと思っている。サイクルの問題、プルトニウムバランスの問題、課題があるとすれば、それに対して解決できるだけの方策を、英知を絞ってやっていく」(経済産業省・資源エネルギー庁 日下部聡長官)

また、再処理事業はこれまで民間の事業だったが、昨年から国の管理事業となった。原子力委員会のメンバーだった鈴木達治郎さんは、「国が関与する法的な担保ができたことは一歩前進だ」と評価する。

「これまでは生産されたプルトニウムを消費の方に増やしていくという考え方だったが、消費に合わせて生産を調整するという新しい考え方になった。2014年のエネルギー基本計画の中でも、プルトニウムバランスで国際情勢を考えてすすめていくという政策がはいっている。それをしっかりと公約することが大事だと思います」

それでも、核燃料サイクルの行方は依然不透明だ。プルトニウムが大量にたまっていることに不安を感じる人も少なくないだろう。この問題が国内にとどまらず、日米原子力協定に基づくアメリカとの関係、さらには、北東アジアを中心とした国際情勢に影響を与えることも見過ごせない。先の見通せない原子力政策をどうするのか、専門家だけでなく、私たちも将来のエネルギーをどうするかという広い視点に立って、考えるときではないだろうか。

この記事は2017年10月30日に放送した「“プルトニウム大国”日本 ~世界で広がる懸念~」を元に制作しています。

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