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"人道危機を越えている"【マリウポリ ボイチェンコ市長単独インタビュー】

3月30日、ロシア軍との激しい戦闘が続くマリウポリのボイチェンコ市長が私たちのビデオインタビューに答えました。ボイチェンコ市長は現在、ウクライナ東部の別の都市に移ってマリウポリ住民の避難を指揮しているといいます。20分あまりのやりとりの中で、「市の半分がロシア軍に占領され、食料も水も底をついている」「住民が強制的にロシア側に連れ去られている」という人道危機の実態を訴えました。それでも強調したのは「ウクライナとして生きるため最後まで戦う」という決意でした。
(国際報道2022 3月30日放送より)

"50%がロシア軍に占領され、50%はウクライナ軍が掌握している”

Q: お忙しいと思いますので、すぐインタビューに入りたいと思います。もし明かしてもいいのでしたら、今どこにいるのでしょうか。

ボイチェンコ市長:

「私は今、ドネツク州政府の管理下で安全な場所にいます。人道支援本部で援助をコーディネートし、住民をマリウポリから避難させています」

Q: 先日、マリウポリでの一般市民の犠牲者がすでに5,000人以上に達したと公表されました。ロシア軍の激しい攻撃は続いていますが、現在の状況を教えてください。

ボイチェンコ市長

「非常に緊迫しています。マリウポリはすでに35日にわたってロシア軍からの攻撃を受け続けており、完全に封鎖され、水も電気も暖房もなく、携帯電話などの通信手段も途切れています。人道危機の一線を越えているのです。食べ物も底をつき、水もどこか水源を探して手に入れなければなりません。実際、水の確保がいま一番大きな問題です。
マリウポリの住民の命を救うために団結してほしいと、私たちは全世界のパートナーや国際機関に訴えています。必要なのは、住民の完全な避難です。そのためには最低でも2週間の停戦が必要です。人道支援のための人道回廊を確保し、10万人以上の住民をウクライナが管理している地域へと避難させねばなりません」

Q: ロシア軍はマリウポリ市内に深く侵入してきています。どの地区がロシア軍によって占拠されているのか、戦闘の状況はどうなっているのでしょうか。

ボイチェンコ市長

「すでに市内で戦闘が行われています。街中で銃撃戦が起こっています。市の中心部の50%はロシア軍に占領されており、残りの50%がウクライナ軍によって掌握されています。ただ、ウクライナの旗が掲げられている所も多くあります。ウクライナ軍、国家警備軍が英雄的な戦闘を行っていて、ロシア軍からの攻撃を跳ね返して防衛しています。想像してみてください。現在、1人のウクライナ軍兵士は、ロシア軍兵士の10倍も15倍も力を使って戦わねばならないのです。
世界で2番目の軍事力を持つ国が、35日かかっても市内を掌握できない。意味しているのはウクライナ軍の英雄的な行為、職業意識の高さです。ウクライナ軍の戦いのお陰で、マリウポリが防衛されているのです」

<パトロールするウクライナ軍の兵士>

"隣人は銃を持った兵士に連れ去られた”

Q:すでに3万人の住民がマリウポリからロシアへ強制的に連れ去られたという情報があります。いったいどうやって一般市民を強制的に移動させることが出来るのでしょう?

ボイチェンコ市長

「私の隣人に起こった実例をひとつご説明します。地下シェルターに隠れていましたが、強制移動させられました。夜、突然自動小銃を持った兵士が近づいて来て『完全避難をするからバスに乗れ』と言われたのです。いったいどこの兵士なのかもわからず、全員避難をさせられたのです。全員が地下シェルターから出され、バスに乗せられて夜中どこかへ移動し、目が覚めると着いたのはすでにロシア領だったというわけです。これが、自由意志の避難なのでしょうか?収容所のような場所で人々は調べられてふるいにかけられ、ロシアの奥地へと送られるのです。ウクライナの人達が強制的に退去させられ、ロシア内で必要とされている所へ送られたのです。
現在、強制的に国から連れ去られた人たちに対して、ウクライナの管理下にある地域へ戻れるような処置を講じています連絡が取れる人には在外公館の連絡先を伝えるなどして、なんとかウクライナ管轄下にある地域までたどり着けるようにつとめています。バルト3国やポーランドも協力してくれています」

Q: 住民たちがクリミアに連れていかれているという事もあるのでしょうか?

ボイチェンコ市長

「クリミアに行った人もいますが、大部分の人はウクライナ管轄下の領地に戻りたいと強く願っています。例えば昨日、ロシアに占領されているペルジャンスクから避難するバスを運行しました。自分たちの車で逃れてきてガソリンが無くなり、我々のバスに乗り換えてザポロージャまでたどり着いた人もいました。この一時的な"国境"を超え、ウクライナの管轄地域へと入ってウクライナの国旗を見るとむせび泣き、大声で万歳、我々は自分の国に戻った!!と叫ぶのです。
私たちはそのために働いていますし、"自分の国に帰った”という声を聞くために生きていると思います」

"ウクライナに対するジェノサイドだ”

Q:なぜそんなことをするのでしょう、強制的に連れ去る理由・目的は何だと思いますか。

ボイチェンコ市長

「ロシア側が恐れているのだと思います。なぜ人道回廊を通ってマリウポリから人々を避難させないのかということにも通じます。例えば今、赤十字や国連、ユニセフなどの機関の代表団が来て、以前の繁栄した西欧風のマリウポリが、ロシア軍の攻撃によりすっかり変わり果てた姿になっているのを目の当たりにしたらどう反応するかと恐れているのでしょう。私たちも『いったい何が起きているのだろうか』と自問自答することがあります。"人類に対する戦争犯罪"であることは明らかだと思います。これは"ジェノサイド"です。ウクライナに対してのジェノサイドです。ロシア側はそれが発覚するのを恐れていて、人道回廊を開けないのです。
もうすでに30日間、人道回廊が開くように戦っています。国際社会に対しても訴え続けています。昨日フランスのマクロン大統領がプーチン大統領と協議した事は知っています。そしてプーチンは『マリウポリの住民を避難させることは不可能である。避難が可能なのはウクライナが武器を置く時だ』と。つまり、ウクライナ軍兵士が降伏し、捕虜となる時であるということです」

ボイチェンコ市長

「理解しておいてほしいのはマリウポリの住民は、人種的には2人に1人がロシア人だということです。彼らは昔、ソ連の時代に工場建設に従事するためにやってきました。住居やその他インフラ建設にも関わり、マリウポリに残ったのです。彼らはロシア語を母国語とする住民です。その彼らを、砲撃や空爆で解放したとでもいうのでしょうか。ミサイル攻撃で解放したというのでしょうか。恐ろしい攻撃でもう何千人もの人たちが犠牲になっています。中には子どもたちもいます。避難シェルターとなっていた劇場も破壊されました。産院も爆撃されました。
それなのに、ロシア側は『市長が劇場を爆破して戦争犯罪を行った』と私を非難しているのです。私ははっきりと申し上げたい。この戦争犯罪はいつか正しい方法で裁かれ、罪を犯した者は必ずや罰せられるであろうと」

"ロシア側が伝えているのは恥知らずなうそ”

Q: ロシアのメディアは『ウクライナ側が一般市民を人間の盾にして利用している』と伝えています。このことについてどんな意見でしょうか。

ボイチェンコ市長

「ロシア側が伝えていることは恥知らず以外のなにものでもありません。図々しい恥知らず、うそなのです。
一例を挙げると、現在マリウポリを攻撃している人々は、市長の私が劇場や産院を爆破したと主張しています。またロシアのラブロフ外相は別の主張をしています。彼いわく『産院には民族主義者たちがいて、武器を持った民族主義軍が駐留していた』というのです。劇場の地下でがれきの下に取り残されたのは、武器どころか防弾チョッキも持たない高齢者や女性、子どもたちでした。それがみな民族主義者たちだというのです。ウクライナの国民はみんな国民主義者だというのです。こんなこと誰が信じますか?」

<攻撃で破壊されたマリウポリの劇場>
ボイチェンコ市長

「これはうそです。ロシアはマリウポリを封じ込め、戦争が始まって5日目にはもうインフラを破壊し始めました。誰も市から出しませんでした。ロシア軍がどのようにマリウポリに侵入し、殺りくを行ったか証明する人もいます。
ロシア軍は『マリウポリの住民を街から出してよいと言う指示は上から出ていない』と言います。分かってもらいたいのですが、この3日間も私たちは避難ルートを確保しようと努力しています。人道回廊を約束したはずなのに、3日続けてバスを出発させることが出来ません。恥知らずのロシアのメディアはそれを無視しています。ロシア側がわざと市民を避難させないのだということを伝えないのです」

"完全な停戦 2週間の人道回廊を”

ボイチェンコ市長

「ロシア側は本当に恥知らずで、マリウポリへの支援物資も通そうとしません。その一方でロシアから救援物資が届くのを待っているのです。あたかもウクライナ政府は何もやらないが、ロシアがマリウポリの住民に支援物資を配給しているかのように見せるためです。
私たちはすでに200トンの支援物資を集めています。支援者の皆さんに大変感謝しています。しかしロシア軍が救援物資を通さないため、市内まで持ち込むことができないのです。赤十字の支援物資さえもマリウポリの市内に通さないのです」

Q: もし今後、国際機関からの支援が途切れたら、マリウポリはどうなってしまうでしょうか?

ボイチェンコ市長

「マリウポリの封鎖はウクライナ軍の力によって解かれなければなりません。それ以外の判断や仮定は今のところありえません。それを証明しているのがゼレンスキー大統領の声明です。我々は領土の取引はしません。2月23日の時点でウクライナの管轄下にあったすべての領土は、すべてウクライナ政権下で管理されなければなりません。私たちはこのことを固持します。
現在要請しているのはマリウポリ住民の完全避難です。私たちにとって重要な事は一般市民を救うことです。15日間で10万人以上の住民をウクライナの管轄地域に避難させました。しかし、全員を避難させたと言えるまでにはまだ十分ではありません。
ですから完全なる停戦を要請しています。2週間の安全な人道回廊を保障することが必要なのです。そして残っている人々をウクライナ管轄下の領地へと避難させたいと願っています」

"ウクライナとして生きるため 最後まで戦う”

ボイチェンコ市長

「最後まで戦います。マリウポリ住民がいないということは、マリウポリが無いのと同じことです。マリウポリが無いという事は、ウクライナが無いのと同じです。
もしウクライナが存在しないなら、我々民族の存在価値はなくなります。プ―チンがどんな目的を持っているかは知っていますが、絶対に同意できません。最後まで奮闘します。私の息子は、今もウクライナ軍の将校として前線で戦っています。勝利するため、主権を守るためです。我が国の自由を守り、現代の自由なヨーロッパの国ウクライナとして生きるためなのです。
これからも連絡を取り合いましょう。ウクライナとして感謝します。
私たちは今、自分の国のため、自由のために戦っています。すべてがウクライナのためです」

みんなのコメント(1件)

感想
かに
40代 男性
2022年4月12日
ボイチェンコ市長の話、マリウポリから避難して来た住民の話や、キーウ周辺などでの惨状についての報道を目の当たりにすると、ロシア軍が"特別軍事作戦"と呼ぶ意味はそこにあるのかと感じてゾッとします。ロシアがウクライナに対して「我々に降伏しなければ、人質にしている多くの住民が死ぬぞ」と脅しているように感じますし、作戦中の非人道的な行為もウクライナ側に対する見せしめとして実行しているかもしれません。