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40代の予期せぬ妊娠 中絶率が10代よりも多いその背景とは

14,506件。2020年度の1年間で人工妊娠中絶をした40代の女性の数です。中絶件数全体の1割以上を占め、実は20歳未満よりも多くなっています。

この背後で、さらに多くの女性が「予期せぬ妊娠」を経験しているのではないか―。今回、30代後半~50代の女性に予期せぬ妊娠についての声を募ると、“オトナ世代”ならではの避妊の難しさが見えてきました。一体、どんな事情があるのでしょうか。

(あさイチ「#自分のカラダだから」取材班)

あさイチ「“オトナ世代”の予期せぬ妊娠」

取材した内容は、2022年12月19日(月) に放送しました。

「まさか私がこの年で…」子育て、仕事…直面する課題

九州地方に暮らすトモミさん(仮名・42歳)が妊娠に気づいたのは、ちょうど1年前。めまいなど突然の体調不良に襲われました。若いときは確実に避妊をしていましたが、パートナーも年齢的に妊娠しないと思っていて、40代になってからはコンドームをつけていなかったといいます。

トモミさん・仮名

「本当にまさか、と思いました。『高齢になると不妊治療が大変』という情報が世の中にあふれているので、私自身も40歳を超えてもう大丈夫なんじゃないか、という気持ちになっていました。閉経するまでは自然妊娠の可能性があるという知識が足りなかったし、真剣に考えていなかったと反省しています」

現在、高校生の娘がいるトモミさん。20代の初産では妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)になり、入院するほど苦しい経験をしました。40代の体で出産まで耐えられるのか。多感な時期の娘との関係はどうなるのか。離れて暮らしていたパートナーと何度も話し合った末に人工妊娠中絶を決断しました。

40歳前後以上の“オトナ世代”の予期せぬ妊娠には、いくつもの決断が伴います。小学1年生と4歳の2人の子どもを育てながら、夫と共働きをしている三毛猫さん(仮名・40歳)。予期せぬ妊娠をしたのは、下の子が4歳になるのを機に、キャリアや収入のために時短勤務からフルタイムに戻そうと決めた矢先でした。

妊娠が分かる数か月前から生理周期が急に変化して不順になっていたため、早めの更年期が来ているのかと思い、妊娠するとは全く想像していなかったといいます。

三毛猫さん・仮名

「夫が『コンドームつけると気持ち良くない』と言うので、機嫌を損ねないよう迎合してしまっていました。自分でも腑に落ちませんが……。妊娠が分かった瞬間、金銭面、キャリア、ワンオペの不安が一気に頭を駆け巡りました」

気持ちが揺れ動いていた妊娠10週目に流産した三毛猫さん。流産の手術も心身のダメージが大きく、「もう二度とこんな思いはしたくない」と夫に伝えました。しかし最近になって夫から「あのとき仕事の話を出して中絶の可能性を示唆したことが許せない」と言われ、愕然としました。

三毛猫さん・仮名

「産んでもワンオペで3人を見ることになるのは目に見えていて、妊娠も出産も産後のキャリアの断絶も体の負担も私だけなのに、この人に何が分かるんだと思いました。自分は出産の痛みも産後の回復も関係なく仕事も時短にしなくていい。あまりに理解がなくてすごくショックで、いまだにしこりが残っています」

「もう避妊しなくていい」「膣外射精で十分」希薄な避妊意識

「予期せぬ妊娠」というと、10代など若い世代の妊娠や中絶がニュースなどで大きく取り上げられがちです。しかし実は、厚生労働省の統計によると、40代の中絶件数は20歳未満を上回っています。中絶件数の総数はこの20年間大幅に減少し続けている一方で、世代別でみると40代の中絶件数は最も減少率が低くなっているのです。

この背景に何があるのでしょうか。
大阪市内の産婦人科クリニックの佐久間航(さくま・こう)医師は、40代で予期せぬ妊娠に至った女性たちと長年向き合ってきました。その多くが夫との間での妊娠で、すでに子どもがいる夫婦も少なくないといいます。

産婦人科医・佐久間航さん

「30代後半・40代以上の世代では、年齢的なことや経済的なことなどから、中絶を選択する方も珍しくありません。『40超えたからもう子どもできへんわ』っていう意識は皆さんあると思うんですけど、排卵が起きている限りは妊娠の可能性があります」

産婦人科医 佐久間航さん
産婦人科医・佐久間航さん

「相手の男性側も同年代かちょっと上の年代で、『もう大丈夫や』と避妊の意識が希薄だったりして、若い人に比べると無防備かなと感じることもあります。『ちゃんと避妊しとったんですけど』と言うのでどんな方法か聞くと、『膣内では出しません』みたいな。膣外射精は避妊じゃないですよっていうのはお伝えしていますけども……。経験則で『これまで妊娠しなかったから今回も大丈夫だろう』というのが一番危ないんです」

NHKでは今年8月、性に関する意識や経験について、専門家のグループと共同でインターネット調査を行いました。調査結果からは、“オトナ世代”の避妊に関する課題が浮かび上がりました。

主な避妊方法を尋ねたところ、全ての世代で圧倒的に多いのがコンドームの使用。一方、40代・50代男性では15%ほどが「膣外射精」と回答し、20代男性の4倍以上にのぼりました。射精の前から分泌液の中には精子が含まれていて妊娠する可能性があるため、膣外射精は有効な避妊法ではないとされています。

また女性主体の避妊方法であるピル(経口中絶薬)の使用率は、20代女性で12.7%だった一方、40代・50代女性では4%以下でした。

背景には、40歳前後以上で新たにピルの服用を開始する場合、血栓症のリスクが高まるとされていることもあると考えられます。そうしたリスクがないとされる「ミニピル」などが海外では使われていますが、日本では未承認です(40歳以上の避妊方法などについて詳しくはこちらの記事をご覧下さい)。

多くの避妊方法は100%確実なわけではありません。しかし、「避妊しても妊娠することがある」ことを男性のおよそ4割が知らない、という現実も浮き彫りになりました。

夫に言えなくて……自分で避妊を決められなかった後悔

避妊についての知識があっても、夫婦の間で十分にコミュニケーションが取れていないケースもあります。関西地方に暮らすユルさん(仮名・61歳)は、息子と娘の2人を子育て中だった38歳のときに予期せぬ妊娠をしました。結婚以来、コンドームをつけないセックスが続いていたといいます。

ユルさん・仮名

「夫は『僕は(膣外射精が)うまいから』と言っていました。結婚当初から『そうじゃない』と思っていたのですが、言えないままずるずる10年以上が経ってしまっていました。コンドーム以外に女性主体で決められる避妊方法があることも当時知らなかったので彼だけを責める気はありませんが、『避妊してください』と言えなかったことに今でも後悔が残っています」

当時は上の子どもがようやく小学校に上がったばかりで、義母の介護にも奔走していた時期。2度の出産は帝王切開だったため、3回目の手術に耐えられるかどうかも不安でした。子どもは好きでしたが、夫婦の話し合いの末、中絶を決めました。ユルさんはその後、夫とのコミュニケーションを変えようとしてきましたが、難しさも感じています。

ユルさん・仮名

「避妊を『ちゃんとしてね』と言えるようにはなりました。でもそういう行為がそこから減ってきたのは否めないです。自分がそうだったので、息子にも娘にも避妊について伝えました。娘には『(避妊してと)言えないような人とは つきあわないで』と言っています」

NHKの調査で「避妊をするかどうか、誰が決めるか」を尋ねたところ、「パートナーが決めている」と「その場の流れで決まる」と答えた人は男性で21.6%、女性で28.9%。特に40代・50代の女性では3割以上が「避妊を自己決定できていない」ことがわかりました。

産婦人科医の佐久間さんは、予期せぬ妊娠や中絶の相談を受けたあとは必ず避妊方法についても伝えていますが、パートナー間の関係性まではなかなか踏み込めないもどかしさを感じています。

産婦人科医・佐久間航さん

「40代以上は特に『性について口にするもんじゃない』という世代で、正面から避妊について話すことが難しい。夫との力関係のために『避妊して』と言い出せなかったり、ご本人も避妊について考えることをやめてしまっていたりするケースもあります。やっぱり何でもコミュニケーションなので、夫婦でしっかりコミュニケーションが取れるって大事になると思います」

取材の中では、避妊を学び直す必要を痛感している、という声も寄せられました。40代前半で、3人目の子どもを予期せず妊娠したカオリさん(仮名・49歳)。夫婦で産婦人科を受診すると待合室は女性ばかりで、病院からは「ご主人は院外で待機してください」と指示されました。

医師から、40代の予期せぬ妊娠が多いことや女性主体の避妊方法に加えて、男性の避妊や避妊手術についてもひとりで説明を受けました。それを後から夫に伝えなければならないのがつらかったといいます。

カオリさん・仮名

「正直、男性の避妊については私を経由するよりも直接説明してもらったほうが理解できると思います。全身麻酔をして中絶手術するという話や、生死に関わることだというのも、先生から夫に直接説明してほしかったです。夫はその後もコンドームをつけずにしようとして、その場その場で拒否しているのですが、この人分かってないんだな、と思ってしまいます」

コンドームをしていても装着に失敗したり破れたりするなどの恐れもあると知り、男性ができる確実な避妊法として「避妊手術」についても夫に提案してみましたが、話し合いにならず流されてしまいました。いま、カオリさんは性行為自体が嫌だと感じています。

カオリさん・仮名

「夫のことは尊敬していてパートナーとしてはずっと好きでいると思いますが、行為については無理かな。もうリスクは取りたくないです。胎児の命や妊娠出産の体の負担を考えれば、避妊手術をしてもいいんじゃないかと思うのですが、(夫には)中絶のことが軽く受け止められているのかな。重みがやっぱり男女で違うのかなと思います。予期せぬ妊娠は女性の問題として取り上げられますが、男性はどう思っているんでしょうか。男性同士でも話してほしいし、どういう考えを持っているのかを知りたいです」

産婦人科医の佐久間さんは、子どもや若者の性教育が近年注目されている一方で、“オトナ世代”の学びなおしについても考えていく必要があると指摘します。

産婦人科医 佐久間航さん
産婦人科医・佐久間航さん

「セックスは非常に大事なコミュニケーションで、年齢を重ねても夫婦生活を持っているのはすばらしいこと。ただやっぱり、安心してセックスに向き合える環境が一番大事です。若い世代には少しずつそういう意識が浸透してきているのかなと思いますが、30代、40代の方はそこが抜け落ちたままだったりする。中年になって改めて避妊について産婦人科に話を聞きにいくのは勇気がいると思うんですね。性に対する抵抗感、恥じらい、表立って言うことじゃないという微妙な感覚を払拭していきたいです」

#自分のカラダだから 納得して決めるために

大人なら性について知識も経験もあるから大丈夫―。そう思い込んでいても、意外と認識不足だったり、パートナーとのすり合わせができていなかったりすることがあります。性や生殖に関する選択は、私たちの生き方にも影響する大事なこと。正しい知識や情報をもとに、それぞれが納得して自分で決めていくためには何が必要なのか。私たちは「#自分のカラダだから」をキーワードに取材を進めています。皆さんのご経験や思いをこちらの投稿フォームから寄せてください。

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あさイチ「“オトナ世代”の予期せぬ妊娠」

取材した内容は、2022年12月19日(月) に放送しました。