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「更年期革命」起こした女性が語った秘訣は・・・

更年期についての授業を学校教育で必修化、職場では企業に更年期への対策を義務づける――女性が働き続けられる社会を目指し先進的な取り組みに舵を切ったイギリス。国を動かしたのは、たった一人の女性が始めた署名活動でした。現地で「更年期革命」とも呼ばれるこの取り組みに刺激を受けて動き出した日本人女性が、革命を起こしたキーパーソンにオンラインで話を聞きました。日本で「更年期革命」を起こすために何が必要なのか、2人のやりとりからヒントを探ります。  

ダイアン・ダンゼブリンクさん
自身も更年期障害に苦しみ4年前に「#MakeMenopauseMatter(更年期を社会の問題に)」という署名キャンペーンを開始。18万人以上の賛同を得て政策の実現につなげてきた(ダイアンさんについて詳しくはこちら)。

高本玲代(たかもと・あきよ)さん
日本で「更年期を社会課題に!」とオンライン署名を開始。自身も更年期の症状と付き合いながら、“更年期世代”の夫婦のコミュニケーションをサポートするアプリの開発や、当事者どうしが悩みを打ち明けられるオンライン掲示板を運営する。

背中を押したのは「ネットで集まった女性たちの声」

高本さん

キャンペーンを始めたきっかけは何ですか。ご自身も更年期障害で苦しいなかで、背中を押したのは誰のどんな言葉やサポートでしょうか。

ダイアンさん

私は手術による閉経、つまり卵巣を両方同時に摘出したことで更年期障害を経験しました。当時は医療チームから適切なアドバイスやサポートもなく、更年期障害について何も知らなかったので、人生のどん底まで落とされた気持ちになりました。医師から適切な支援を得て立ち直ったとき、「こんなに不幸なのは私だけなのか、他にも苦しんでいる女性がいるのではないか」と思ったのです。

高本さんのインタビューに答えるダイアンさん
ダイアンさん

インターネットで調べ始めると、強い衝撃を受けました。「助けて」「自分が何者か分からない」「途方に暮れている」「仕事に悩んでいる」「人間関係がうまくいかない」という女性たちの声であふれていたのです。世界の人口約80億人の半分は生涯のうちに更年期を経験するのに、情報がこんなに少なくて話題にならないなんてあり得ない、と思いました。これが私の人生を大きく変えました。

自分の経験を公に語り始めると、大きな反響がありました。オンラインで立ち上げた支援コミュニティはあっという間に広がり、私は毎日のように苦しんでいる女性の相談に乗るようになりました。こうして草の根のコミュニティが育ち、広がり始めたことが私の背中を押し、医療・教育・職場で全ての人のためのよりよいケアとサポートを求め続ける原動力になっています。

ダイアンさんが運営する オンラインコミュニティ

私が更年期を語ることが、誰か1人の人生を変えられるかもしれない

ダイアンさん

正直に言うと、初めてテレビで自分の体験を話した2015年当時は、本当に孤独でした。みんな「更年期障害」という言葉を口にしたがらないんです。今でこそイギリスには自分の経験を喜んで話してくれる有名人がたくさんいますが、当時は違っていました。

私たちを本当に助けてくれたのは、多くの女性がSNSを利用していることです。Instagramには素晴らしい更年期障害のコミュニティがあります。良い情報を共有し人々の孤独感を和らげるのに役立っているのです。

NHKのインタビューに答えるダイアンさん(去年11月)
ダイアンさん

更年期障害について話をしようと思う人たちが絶対に必要です。誰もが私のように国民的キャンペーンを展開したいわけではありませんし、誰もが自分の経験を公にできるわけでもありません。でも自分の友人や家族、職場の仲間内で個人的に話すことができたら、それだけでも誰かの人生を変えるかもしれません。それこそが、この活動の目的なのです。一朝一夕にはいきませんし、変化には時間がかかります。でも多くの人を巻き込み、こうした対話がいかに重要かを理解してもらえれば、大きな力となります。

賛同する人はみんなメンバー

高本さん

署名キャンペーンのメンバーはどのように募ったのですか。

ダイアンさん

このキャンペーンは私が2018年10月に立ち上げました。①すべての開業医と医学生に更年期教育を受けさせること。②すべての職場で更年期障害に対する認識とサポート体制を用意すること。③学校のカリキュラムに更年期障害を取り入れること。この3つの明確な目標を掲げて全国的な署名運動を開始しました。

メンバーはキャンペーンの趣旨に共感してくれた方全員です。誰でも署名でき、誰でも共有できるキャンペーンだからです。多くの人々が自分の暮らしの中で更年期について認識し、自分も声を上げたいと思うようになったのです。

ダイアンさん(中央)と署名活動のメンバー
ダイアンさん

すでにイングランドとスコットランドでは、学校のカリキュラムに更年期を取り入れることになりました。また最近、すべての医学部の新入生に更年期の講義が義務づけられると聞きました。つまりキャンペーンの目標のうち2つはすでに達成できたのです。職場の状況も刻々と変化していて、経営者は人材を確保するためには更年期障害のサポートが必要であることを理解し始めています。

みんなに共通していた「3つの悩み」

ダイアンさんが始めたオンライン署名
高本さん

その3つの目標はどうやって決めたのですか。

ダイアンさん

私が決めました。3年間女性たちの相談を聞くなかで、みんな同じことを口々に言うのです。「医師から適切な援助やサポートを受けられない」「職場でサポートが得られない」「なぜ私はこのことについて何も学ばなかったのだろう」と。みんなが最も苦労する3つの問題が明らかに同じだったので、彼女たちがなぜ苦労するのかを考えれば目指すべき目標は明確でした。

キャンペーンで大切なことは、最初から目的をはっきりさせておくことです。10個の目標を掲げても意味がありません。明確で一貫性がなければならないのです。というのも、この3つの目標は、何度も何度も繰り返し取り上げられるからです。この3つは今でも、私たちのサポートコミュニティに参加している31,000人以上の女性たちから毎日聞かれる問題です。

「女性の健康問題」を訴えることは不公平?

高本さん

日本では、更年期障害に対処しようとすると「女性だけを優遇するのは不公平だ」という声も聞かれます。こうした人の理解を得るために、どのような工夫をしましたか?

ダイアンさん

女性の健康にフォーカスしているのは不公平だという意見もあるのですね。私たちは、更年期障害にはさまざまな影響があることを説明しました。更年期は夫婦や恋人など人間関係にも影響します。しかし自分が抱えている問題が更年期と関係していると認識している人はどれだけいるでしょうか?更年期への理解不足が原因です。もっと理解があれば、対話はやりやすくなるはずです。

私たちは誰も1人で生きているわけではありません。誰かが更年期障害でつらい思いをしていたら、その人個人だけでなく家族や子ども、パートナー、同僚、友人との関わり方にも影響を与える可能性があるのです。

ダイアンさんと夫のマーティンさん
ダイアンさん

重要なのは「女性の健康は注目されるに値する」そして「更年期は女性に直接影響を与えるだけでなく、女性の人生にかかわる多くの人々にも影響を与える」という事実を忘れないことです。人間関係が壊れるのを防ぎ、女性が仕事を辞めるのを防ぎ、組織が優秀な人材を失うのを防ぎ、家族の崩壊を防ぐことができれば、良いことでしかないですよね。

高本さん

この問題にはみんなが関係しているということですね。

ダイアンさん

その通りです。にもかかわらず、更年期にどんな症状が起こるのか、誰も教えてくれません。自分が理解していないことに対して共感したり、同情したりすることは非常に難しいのです。だからこそ、社会全体でしっかり認知してもらうことが重要なのです。

若い世代にとっても更年期は「自分ごと」

高本さん

若い世代は月経や不妊への関心が向きがちですが、イギリスの若い世代は更年期の問題をどう捉えていますか?

ダイアンさん

確かにそうですね。ただ、イギリスの学校教育では、月経と生殖機能の問題はすでに焦点が当てられていて、性教育などの中に含まれています。一方で、誰にでも起こる更年期については誰も取り上げてこなかったのです。

若い人たちに更年期のことを話すときは、それがあなたのお母さんや先生に起こっていることかもしれないと結びつけたり、実は100人に1人の女性が40歳未満で閉経を経験することを説明したりすると伝わりやすいと思います。

更年期障害が自分の人生に何らかの影響を及ぼすことを認識し、理解すれば、たとえそれが自分の身に直接起こっていなくても、自分の人生に関連付けられるのです。情報を与えることで10代の子どもたちは自分のことを深く理解した上で人生を歩むことができますし、身近な人に起きたことをより深く理解することができます。

様々な形で声を届けることで国が動く

高本さん

「国を動かす」という意味で最も効果的だったのはどういう点ですか?

ダイアンさん

最も効果的だったのは、政府と何らかの対話をすることでした。カギとなった出来事の一つは、2018年から2019年にかけて国会議員と会合を持てたことです。ある現職の国会議員が非常に協力的で、教育省に提言してくれたので、私たちは学校のカリキュラムに更年期障害を盛り込むという目標を実現できました。大学の医学部での更年期教育の必修化が可能になったのも、私たちの調査結果を政府に共有することができたおかげです。

ダイアンさん

あなたの声を届けるあらゆる可能性を検討してください。キャンペーンという公の場で声を上げる。メディアで声を上げる。あなたが見たいと思う変化を実際に起こせるステークホルダーの人たちと関わることも重要です。そして非常に忍耐強くあることも必要です(笑)。

高本さん

成功させるために最も重要なポイントは忍耐力なのですね。

ダイアンさん

そうだと思います。目標の一貫性と忍耐力です。あきらめそうになるたびに、実は世の中にはまだ多くの人が静かに苦しんでいることを思い出し、それが私を前進させる原動力になっています。しかし、忍耐と一貫性が一番のカギなのです。

一人ひとりの声が変化のきっかけに

高本さん

素敵な言葉を贈って下さってありがとうございます。とても大切なことですね。企業や政府などの大きな変化は最近でもありましたか?

ダイアンさん

最近、政府は「女性の健康戦略」を発表しました。今後10年間、女性の健康について何を変えるべきかをまとめたものです。長期的な戦略ですぐに実現できるものではありませんが、この戦略を実行する「女性の健康大使」が任命されました。政府が言う「変化」を実際に起こすように働きかけを続けることも重要です。

ダイアンさん

そして、「職場における更年期」という政府の報告書が出されました。これも、職場での女性がいかに重要かを示すためのものですが、これまでと違うのは企業や産業界が、職場の女性を支援し更年期への意識を高めることは、自分たちにとっても良いことだと認識している点です。次第に更年期障害に関する取り組みが増え、職場のウェルビーイング戦略に組み込まれるようになると思います。

みんながそれぞれの職場で「この企業には更年期に関する施策はありますか?」とか「更年期のサポートはどうなっていますか?」といった質問をするようになっています。こうした重要な質問をする女性たちによって、キャンペーンは進められているのです。

更年期は人口の半分に直接、残りの半分に間接的に影響する

ダイアンさん

更年期障害は人口の約半数に直接影響を与えますが、残りの半数には間接的に影響を与えます。私たち全員が正しく理解することで、自分自身のために適切な支援を受けられるだけでなく、周囲の人たちを思いやり、サポートすることが絶対に必要なのです。

ダイアンさん

たった一人の人生を変えることができれば、それだけで価値があります。でも、キャンペーンをすることでもっと多くの人生を変えることができます。日本でのキャンペーンがうまくいくことを祈っています。

高本さん

ありがとうございます。私には娘が2人いるのですが、いつも「娘にどんな時間を残せるか」と考えています。娘が40歳になったとき、更年期で困るようなことはさせたくないんです。とても難しいことですが、やってみます。

インタビューを終えて

高本さん

イギリスでは月経など女性の他の問題に対する理解はすでに進んでいるとおっしゃっていましたが、日本はその問題もまだ残っているので、越えるべき山がもう2つくらいあるなと思いながら聞きました。「全部一緒にやっていかないと日本は間に合わないですよね」というメッセージに変えていかないといけませんね。更年期の問題を優先しろということではなく、相対的に女性の問題が置き去りにされてきたという意味で、「生涯を通じた女性の身体の問題」として社会全体で変えていこう、という発信をしていきたいです。ダイアンさんはとても強い方だなと思いますが、見習って思いを受け継ぎながらやっていきたいと思いました。

「更年期障害は人口の約半数に直接影響を与えるが、残りの半数には間接的に影響を与える」というダイアンさんの言葉が印象的でした。更年期革命のカギとなるのは、この「間接的に影響を受ける」人たちではないでしょうか。

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この記事の執筆者

報道局社会番組部 ディレクター
市野 凜

2015年入局、首都圏局・前橋局・政治番組を経て現所属。コロナ禍の女性不況・生理の貧困・#みんなの更年期などジェンダーや労働に関わるテーマを取材。

みんなのコメント(2件)

体験談
なべ
50代 女性
2023年12月2日
10年以上更年期のやる気のなさと疲労で苦しんでます。
仕事に行けるので障害とまでは言えないと婦人科は真剣に取り合ってくれず適当に薬を出されて(全く効かない)終わり。漢方も高いお金を払ってなんだかカモにされている感じです。

この時期だけだから我慢しろといろんな人に言われました。QOLを10年以上台無しにされて我慢するなんておかしいと思いませんか?

本当に真剣に取り合ってくださるお医者様が欲しい(奈良は大阪に近いので大阪の病院まであちこち回りましたが大都会にしてろくな病院なかったです)ネットを見ても栄養のあるものを食べて運動してしっかり眠るしか書いていません。

仕事、子育て、介護に忙しいのに毎日大豆を使った手の込んだ料理できると思いますか?
運動、しんど過ぎてやれると思いますか?
まして睡眠なんて。

もう少しまともなアドバイスをしてくれる方が欲しいです。
悩み
さくら
40代 女性
2023年9月19日
更年期の症状が、4年半つづいています。
少し、回復してきたかなと思ったら、私が体調不良の間、夫が風俗に行っていたことが発覚。
夫は私が相手をしないからだで、悪いのは私だと開き直り。
私はショックで悲しい。風俗の内容からして、浮気だと私は思うが、世間はどうなのか?
話せる人なく、誰かに読んでほしくて投稿しました。