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返却された婚姻届 結婚の平等を求めて

ことし6月、大阪地方裁判所で同性どうしの結婚ができない現状は憲法に違反しないという判決が出ました。

原告となった一組の女性どうしのカップルに、私たちは4年前に出会いました。彼女たちは同じ屋根の下で10年以上、共に互いを励まし、支えあって暮らしています。でも日本の法律上は家族と認められず、「他人」です。

結婚の平等を求め、“共に安心して暮らせる社会”をめざして歩み続ける2人を取材しました。

(国際放送局 ディレクター 柳下明莉、番組 ディレクター 山口美紀)

2人の“マイホーム”

京都市内で暮らす坂田麻智さん(左)とテレサさん(右)と愛犬のロージー

私たちは4年前に京都に暮らす坂田麻智(まち)さんとテレサさんと出会いました。2人は街なかの細い路地の奥にある古い町家をリフォームした一軒家に、愛犬のロージーと一緒に暮らしています。

テレサさんは母国アメリカから仕事の都合でやってきた日本で2008年に麻智さんと出会いました。同棲(どうせい)して13年。7年前にテレサさんの故郷のオレゴン州で結婚式を挙げました。

リビングの一角には結婚式で撮影した写真が飾られています。式にはテレサさんの家族と麻智さんの母、親しい友人たちも参列して新しい門出を祝福してくれたそうです。

2015年にアメリカで結婚したテレサさんと麻智さん

アメリカではこの年、すべての州で同性どうしの結婚が憲法上の権利と認められました。しかし日本では同性どうしの結婚は認められていないため、麻智さんもテレサさんも「独身」扱い。一緒に購入を決めた家も共同でローンを組むことができませんでした。また、どちらかが働けなくなったり病気になったりしたときに家族として支えることが難しいかもしれないという不安を抱えながら暮らしていました。

山登りや旅行などアウトドアが大好きな2人(2018年 愛媛県の石鎚山にて)

返却された婚姻届

2人は日本でも結婚したいという意志を示すために2019年1月に婚姻届を出しました。「妻になる人」という欄にテレサさんの名前を、「夫になる人」という欄の「夫」の文字を二重線で消し「妻」に修正して、麻智さんの名前を記入しました。

2019年1月14日 京都市の区役所で婚姻届を提出する2人

担当者に手渡して受理されるのを待つ間、婚姻届を出しに来たカップルに向けて窓口に置かれていた冊子を2人は手に取りました。

テレサさん

「『結婚&家族生活を始めるブック』だって」

麻智さん

「もう始めちゃってるけど」

テレサさん

「始めちゃってるけど、どんな夫婦になりたい?」

麻智さん

「『10組の夫婦には10とおりの形がある』、まあそのとおりだよね」

政府が2015年に策定した「少子化対策大綱」には結婚支援が施策として盛り込まれ、行政は婚活イベントを開催するなど男女のカップルの結婚を後押ししています。同性カップルの婚姻届はどう受けとめられるか、ソワソワしながら待っていた2人が窓口に呼ばれました。

区役所の担当者

「日本の法律には適合しないので、こちらをお受けすることはできないということで、申し訳ありませんけれども、この届けは返却をさせていただきます。本日はわざわざお越しいただきまして希望に添えませんで残念ですが、申し訳ありませんでした」

日本の法律では同性どうしでは結婚することができないことが2人にはっきりと示された日でした。

麻智さん

「面と向かって突きつけられて、(同性どうしの結婚は)本当にダメなんだな、受け付けてもらえないんだなと非常に残念でしたね。男女であれば受け取る側の市役所の方たちも『おめでとうございます』って感じだと思うんですけど。誰にも祝福されない、祝ってもらえない存在なのかなって、本当に悲しくなりましたね」

返却された婚姻届を2人は保管している

もし どちらかが異性であれば祝福され、受け取られたであろう婚姻届を2人は今も大切に保管しています。

始まった原告生活

2019年2月14日、全国で一斉に同性カップルが結婚の平等を求める裁判が始まりました。性的指向による差別は許されないという考えが広まる中、国が法律を改めないのは法の下の平等などを定めた憲法に違反するとして、東京、大阪、名古屋、札幌の裁判所で賠償を求める初めての集団訴訟です(※2019年9月に福岡で、2021年に東京で第二次訴訟が始まっています)

麻智さんとテレサさんも原告として参加しました。

麻智さん

「日本では裁判を起こさないと何も動かないかなと以前から思っていたので。(裁判では)ネガティブな意見を聞くことが増えると思うので、心折れないようにするのが一番大事かな。はっきり反対する人の声が聞こえてくるわけでしょ。持ちこたえられるかな」

テレサさん

「日本は顔出しNGとか名前出したくない人とか多い。私は全然OKだから、頑張れる範囲で頑張ろうと思います」

2019年4月19日 大阪地方裁判所に向かうテレサさんと麻智さんら原告と弁護団

2019年4月26日、麻智さんが法廷で話をする日がやってきました。共に原告となった田中昭全(あきよし)さんと川田有希(ゆうき)さんカップルと一緒に裁判所に入ると、傍聴席はLGBTQの当事者や支援者など裁判の行方を見守ろうと集まった人たちで埋まっていました。ピンと張り詰めた空気の中、麻智さんはこの訴訟にかけるテレサさんと自分の思いを裁判官たちを前に堂々と伝えました。

麻智さん
「若い頃は、ずっと一緒にいられたら結婚なんてどうでもいいと思っていました。です
が一生共に歩んでいきたいパートナーを目の前にして、ずっと安心して暮らしていける
のかと真剣に考えたとき、私たち同性カップルに用意されているセーフティネットがあまりに少ない、いや、ほとんどないことに気がつきました。家族にさえカミングアウトできない状況だったり、職場や学校に理解者がいなかったり、中には命を絶った友人もいました。もしすでに平等な社会であれば、誰もこのような悩みを抱える必要はありません。

もうこれ以上、私たちをいないことにしないでください。誰もが同じ権利を持ち、同じスタートラインに立てる、同性愛者だからといって将来を悲観しなくてもいい、誰もが希望をもてる社会になることを心から願っています」

麻智さんの言葉を聞きながら傍聴席では涙ぐみ、すすり泣く人たちもいました。

支援者の人たちに報告する麻智さんとテレサさん

裁判のあと、原告を応援するために集まった人たちにテレサさんも自分の思いを語りました。

テレサさん

「私も裁判所で隣に座って麻智の言葉を聞いて ぐっときました。サポーターのみなさんが来てくれてありがたいし心強いです。改めて何のために頑張っているかを感じています」

傍聴に来ていた人の中には、“ずっと日陰の存在”だと言っていた同性愛者の人たちが公の裁判の場で自分たちのことを語り、権利を求める日が来たことがとてもうれしいと話す人もいました。

新型コロナウイルスとパートナーシップ制度 

2020年に入って新型コロナウイルス感染が拡大するなか、それまで数か月ごとに開催されていた裁判は延期を余儀なくされました。また麻智さんとテレサさんのどちらかがコロナに感染して入院せざるを得なくなった場合、病院で家族として扱ってもらえないかもしれないという懸念が2人の間で膨らんでいました。

不安が募るなか、2020年9月に京都市で同性どうしでもお互いを人生のパートナーとして宣誓できるパートナーシップ宣誓制度が始まり、2人はさっそく登録しました。

2020年9月1日京都市長から「パートナーシップ宣誓書受領証」を受け取る2人

パートナーシップ制度は2015年に東京の渋谷区と世田谷区で始まり、今では全国200以上の自治体に広がっています。ことし2022年11月から東京都での導入が決まるなど、都道府県単位でこれから制度を取り入れる、あるいはすでに取り入れた自治体もあります。

パートナーシップ宣誓書受領証カード裏面 法律上の効果はないと記載されている

ただパートナーシップ制度と結婚には大きな差があります。婚姻届を提出すれば得られる相続や税金の控除はパートナーシップ制度にはありません。また基本的には自治体ごとの制度のため、引っ越す時には返還することになります。

テレサさん

「婚姻制度は国が決める制度に対し、パートナーシップ制度は自治体が決める制度なので、できることは限られています。携帯電話の家族割りは使えたりしますが、配偶者ビザが出たり、配偶者として家や財産を相続したりすることはできません」

同性婚の法制化が進まない中で、自治体が独自にできる範囲のことをやっているというのがパートナーシップ制度の現状です。

テレサさんの妊娠 

2021年12月。麻智さんテレサさんにとって大きな変化がありました。テレサさんが妊娠したのです。ずっと子どもを産み育てたいと考えていた2人は友人から精子提供を受けました。

テレサさん

「とりあえずやってみようという気持ちだったから、(赤ちゃんが)できてびっくりしたね 」

麻智さん 

「早く会いたいな」

テレサさん

「近所の人たちとか会社の人も楽しみにしてくれていて すごくうれしい。私たちも早く会いたいね」

判決が出る前日、お腹(なか)の子どもの話をする2人(2022年6月19日)

子どもは日本で育てていこうと2人は決めていますが、麻智さんは法律上、子どもの親になれません。またアメリカ人と日本人の異性間のカップルの場合、結婚するとその子どもは20歳まで両方の国籍を持つことができますが、テレサさんが出産する子どもに日本国籍はありません。

テレサさん

「裁判が始まったときは2人でできる限りのことをしようと思っていたけど、赤ちゃんができて、判決はこれから生まれてくる子どもたち、次の世代のためにもなると感じています。明るい将来のためにいい判決が出ることを期待しています」

3年越しの判決は…

2022年6月20日、麻智さんとテレサさんをはじめ3組の同性カップルが結婚の平等を求めていた裁判の判決が大阪地方裁判所で言い渡されました。

判決を前に緊張した面持ちの原告たち
「原告らの請求をいずれも棄却する」

麻智さんは判決文を聞きながら上を向いて大きく息を吸って頭を抱えました。テレサさんは判決文を読み上げる裁判長から一度も目をそらさずにじっと見つめていました。

判決では、異性間の婚姻は「男女が子を産み育てる関係を社会が保護するという合理的な目的により歴史的、伝統的に完全に社会に定着した制度」であるのに対し、同性間の関係性に「どのような法的保護を与えるかは議論の過程」として、法の下の平等を定めた憲法14条に違反しないと判断しました。

また「婚姻は男女から成ることを想定したもので、異性間の婚姻のみを指し、同性間の婚姻を含むものではない」として、婚姻の自由を定めた憲法24条にも違反しないと判断し、訴えを退けました。

一方、判決は「社会の中でカップルとして公に認知されて共同生活を営むこと」で得る利益は人の尊厳にかかわる重要なもので、異性愛者だけでなく同性愛者にも認められていると指摘しました。ただ「契約や遺言など他の民法上の制度等を用いることによって、一定の範囲では婚姻と同等の効果を受けることができる」、「同性カップルと異性カップルの享受し得る利益の差異は相当程度 解消ないし緩和されつつある」としました。さらに同性カップルを現行の婚姻制度の対象に含めるのではなく、法律的に承認される新しい制度を作ることも示唆しました。

判決直後にメディア取材に応える原告のテレサさん・麻智さん・男性カップルの2人
麻智さん

「アメリカで黒人差別があって、白人と黒人が結婚できなかった時代がありました。また、(人種によって)バスやトイレを区別されていたんですよね。(同性間の婚姻を類似の制度を作って男女間の婚姻と区別するというのは)その発想と同じだなと思います。区別すること自体が差別。差別を容認しているとしか思えません」

同性間には異性間の婚姻とは別の、婚姻類似の制度を作るという考え方に麻智さんは強い疑問を抱きました。

判決は長い道のりの“通過点”

判決後、原告たちに願いを託してきた支援者たちも涙ぐんでいました。

傍聴していた人たち

「僕の周りでもずっと結婚できずに苦しんでいる人たちもいる。みんなが生きているうちに勝ち取りたいって思います。だから一緒に闘います」

「(原告の)彼ら彼女らは本当に氷山の一角です。うちはパートナーがクローゼット※なのでカミングアウトできていない。9割方、(社会で)“見えない”家族のことを守るには法律しかありません。未来の我々のためにもこれからも頑張ってほしいと思います」   
(※クローゼット…LGBTQであることを周囲の人に知らせていないこと)

厚生労働省が2019年に実施した調査※でも、自身が性的マイノリティであることを伝えている相手はいるか尋ねたところ、「いない」と答えた人が6割前後に上りました。メディアで顔を出して語ることのハードルの高さはもちろん、身近な家族や友人であったとしてもカミングアウトせずに暮らしている当事者は多くいます。(※「令和元年度 厚生労働省委託偉業 職場におけるダイバーシティ推進事業 報告書」IV.労働者アンケート調査結果 P.134)

そうした人たちにとっては、法律でパートナーとの関係が守られれば安心して生活できるようになるという期待につながります。

判決が出た直後、全国の原告たちからも麻智さんやテレサさんら原告と弁護団にメールやSNSでメッセージが多く寄せられました。札幌で訴訟を続けている原告のカップルは大阪に駆けつけてエールを送りました。

札幌から駆けつけたたかしさん(左)と国見亮佑さん(右)  顔出しをせずに裁判に臨んでいる
札幌の原告 たかしさん(仮名)

「絶対に(同性どうしの結婚を認める法律は)実現しますよね。だってこれ人権問題なんですから。だから実現するまで何があっても心を腐らせないようにして、みんなで行きましょうと伝えたいです」

「結婚」と「人権」

「結婚は人権問題」というのはなかなかピンと来ないかもしれません。私たち自身も取材を始めた4年前は「結婚できないよりはできたほうがいいよね」くらいの認識でした。しかし取材を通して出会った多くのLGBTQの方々を通して その認識は変わりました。

アメリカで暮らしていたときにアメリカ人のパートナーと結婚した小森俊輔さんは次のように語ってくれました。

2019年 ニューヨーク市に結婚届を提出した小森さん(中央・右)と夫ダニー・タンさん(中央・左)とタンさんの両親
小森俊輔さん

「アメリカで同性婚が認められて自分にも家族ができることになって、すごい解放感で一気に未来の選択肢が広がった気持ちになりました。僕らはやっと二流市民じゃなくて一人の市民として社会に認められるようになった。そういう喜びを分かち合うことができて人生の大きな転機にもなりました」

小森さんの「一人の市民として認められた」という喜びの言葉。
麻智さんが法廷で訴えた「私たちをいないものにしないでください」と言葉。

同性間の結婚を望むのは決して特別な権利を求めているのではなく、ただ1人の人間として同じく平等に扱ってほしいということなのだと気づかされました。

判決の10日後、麻智さんとテレサさんたち原告の3組は大阪高等裁判所に提訴しました。
結婚の平等、人権を求める闘いはこれからも続きます。

裁判を続ける決意を取材班に語る2人
テレサさん

「この先も長い道のりになるけれど、裁判に関わっている人々は決して諦めない。それが自分を前に進める力になります」

平等な権利を求める当事者たちの声はこれまでも社会や法律を変えてきました。WHO(世界保健機関)は1990年、それまで “病気”とされていた同性愛を治療の対象から外すことを決定しました。文部省は1994年、生徒の指導資料で「非行のひとつ」として扱ってきた同性愛の記述を削除しました。同性婚を認める国も世界で少しずつ増えています。

仕方がないとあきらめたくなるような状況にあっても、粘り強く前に進み続ける当事者たちの声をこれからも取材していきます。

【関連番組】 Culture Crossroads / NHKワールド
Fighting for Marriage Equality in Japan」(結婚の平等を求めるレズビアンカップル)
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