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“みんなで考えられる社会へ” 一人の女性から始まったイギリスの「更年期革命」

”更年期”と聞くと「ある年齢になると女性は大変そう」など、漠然としたイメージしかない方も多いのではないでしょうか。私もそうでした。

実は働く女性の中には更年期症状のせいで昇進を辞退したり、仕事を辞めたりするまで追いつめられる人も少なくないことがわかってきました。

「経験や実績を積んだ女性たちが働けなくなることは社会全体にとって大きな損失だ」と考えたイギリスでは、更年期を社会みんなの問題として考えようという動きが大きなうねりとなっています。

世界に先駆けたこの取り組み、日本の女性たちに、そして男性や若い世代にもぜひ知ってほしいです。

(政経・国際番組部ディレクター 宣英理)

関連番組の放送予定

NHKスペシャル「#みんなの更年期」

2022年4月16日(土)総合・夜10時放送
※放送から1週間は見逃し配信をご覧いただけます。

「更年期法案」の審議が始まったイギリス 国をあげて対策へ

イギリス保健省 コーフィールド政務次官

「新たに更年期症状に関する対策本部を設置することを決定いたします。“革命”を起こしましょう!」

2021年10月、イギリスの議会で更年期症状への対策を初めて盛り込んだ法案の審議が行われました。

新たに対策本部を設置し、治療費の補助や企業に対策を働きかけていくことが決まったのです。

この日、議会前には大勢の女性たちが集まり、審議の行方を見守りました。

キャロリン・ハリス議員

「きょう大きな大きな一歩を踏み出すことができました。“更年期革命”が2021年に始まったことを忘れてはいけませんし、それを担ったのはあなた方です。ありがとう!」

国を動かしたのは一人の女性の問題提起でした。

5年前から更年期症状に苦しむ女性たちの深刻な状況を訴え、対策を求めてきたダイアン・ダンゼブリンクさんです。

ダイアン・ダンゼブリンクさん

「声を上げ始めたとき周囲の人には“10年かけないと変わらないだろう”と言われましたが、5年できょうという日を迎えました。信じられないことです」

“命を絶ちたい” 更年期症状に苦しむ女性たち

更年期とは、女性ホルモンが急激に減少する閉経前後の40代半ばからの10年ほどを指します。

気分の落ち込みやほてり、激しい頭痛など様々な不調があらわれます。

ダイアンさんは10年前に更年期症状を経験。

ほてりや不眠、不安障害など様々な症状に苦しみ、仕事も辞めざるをえませんでした。

ダイアン・ダンゼブリンクさん

「当時小さなビジネスを2つ経営していたのですが、集中力がなくなり、記憶力も衰え、仕事をやめざるを得ませんでした。何もかもが暗く絶望的に思え、自分は役立たずで価値のない人間だと感じました。もう少しで人生を終えるところでした」

当時ダイアンさんは、このような不調が更年期症状だとは考えもせず、病院を受診するまで2年半を要しました。

うつ病などの精神的な病気ではないかと考えていたといいます。

ダイアン・ダンゼブリンクさん

「自分は精神的におかしいと思い込んでいたので、病院に行くのが怖かった。抗うつ剤を飲み続ける人生になるか、もっとひどい人生になるかと考えていました」

ダイアンさんの様子をそばで見ていた夫のマーティンさんが病院に行くよう説得し、ようやく治療をうけることができました。

ダイアンさんの夫 マーティンさん

「『命を絶ちたい』と、彼女はとても真剣に言いました。私は医師に連絡し彼女を診てもらうようにお願いしました」

ダイアンさんのように更年期症状だとわからずに治療が遅れる女性は少なくありません。

イギリスの医療関連の団体が行った調査によると、更年期症状に苦しむ人のうち病院を受診する人は4割程度でした。

更年期症状には低下した女性ホルモンを注射や塗り薬で補充するなどの治療法があります。

ただ女性自身や医師にさえも十分に知られていないのです。

更年期症状に詳しい リズ・マカロック医師

「女性は、自分の症状がホルモンと関連していることに気づきません。医師でさえ診断に時間がかかるのです」

体調不良を周囲に言えずに苦しむ女性が多いこともみえてきました。

支援団体が更年期症状を経験した人を対象に行った調査では、仕事を辞めることを検討した人は4割。

また上司に相談できないと答えた人は7割に上り、「恥ずかしい」「仕事ができないと思われる」と答える人が多くいました。

メディアや企業が一丸に 苦しむ女性たちの環境を変えた

ダイアンさんはこうした問題を知り「更年期を社会みんなの問題に」というオンライン署名を立ち上げました。

国に求めたのは医師に対する教育と職場での支援制度の整備です。

<ダイアンさんが立ち上げた署名サイト>

まずダイアンさんの呼びかけに応じたのはメディアでした。

BBCは「BBC更年期」というキャンペーンを行い、SNS上で様々な動画を配信。

大手テレビ局Channel4では自身も更年期症状に悩む著名人が出演し、症状をオープンに語るとともにどんな治療方法があるのか伝えました。

テレビプロデューサー ケイト・ミュアさん

「ほんの5年前まで、イギリスで更年期症状は完全にタブーでした。ところがテレビの最前線で活躍する女性がこの問題について語り、メディアによる更年期症状や治療法についての取り上げ方は変わっていきました」

そして今、多くの企業が更年期対策に乗り出しています。

家具の製造・販売を手がける会社では、社員が専門家にオンラインで相談できる支援を導入。

<専門家に相談する専用のアプリ>

鉄道の管理・運営を行う企業では、長時間外で作業することも多いため女性従業員が長く働き続けられないという課題を抱えていました。

そこで急な体調不良にも対応できるよう勤務時間を柔軟に調整できるよう改善。

ほてりなどの症状を緩和するために携帯できる扇風機も配布しました。

中でも力を入れたのが管理職や男性社員への研修です。

更年期の詳しい症状や仕事にどのような影響があるのか伝える動画を制作しました。

ジャネット・トラウズ人事部長は「他の企業に比べ女性従業員が少ないからこそ、みんなが意識を高め、女性社員が男性上司ともきちんと話し合える環境を整えるのが大事だ」と意義を強調しています。

<鉄道管理会社が制作した動画より>

一人の女性の声から大きく動き出したイギリス社会。

ダイアンさんが始めた署名は16万人の賛同を得て、国に届けられました。

今後も国や企業に対し働きかけを続けていくといいます。

ダイアン・ダンゼブリンクさん

「更年期症状は人口の半分(女性)だけでなく、残りの半分の家族、友人、同僚にも影響を与えます。更年期症状について知ることはみんなにとって有益です」

更年期症状で苦しむ男性も…日本でも求められる“支える仕組み”

実は更年期症状は男性にもストレスなどが原因で現れることがわかっています。

NHKが専門機関と共同で日本の40代~50代の男女4万5000人を対象に調査を実施したところ、症状を「いま経験している」または「過去3年以内に経験した」と答えた女性は37%、男性でも9%に上りました。

このうち、治療が必要な不調があるとみられるおよそ5300人に仕事への影響を聞いたところ、症状が原因で「仕事をやめた」と答えた女性は9%、男性は7%と、男女ともに1割近くに上りました。更年期症状を個人の問題として片付けるのではなく、社会の問題として捉えて支えていく仕組みは、日本でも求められています。

NHKでは「みんなの更年期」というホームページを立ち上げ、みなさんの体験やご意見も募集しています。ぜひご意見をお寄せください。

国際報道2021 12月6日放送より

関連番組の放送予定

NHKスペシャル「#みんなの更年期」

2022年4月16日(土)総合・夜10時放送
※放送から1週間は見逃し配信をご覧いただけます。

この記事のコメント投稿フォームからみなさんの声をお待ちしています。

みんなのコメント(6件)

体験談
すぬちゃん
60代 女性
2022年4月17日
更年期についての特集番組があるなんて、題名観ただけで、涙出そうになりました。ありがとうございます。
48歳から15年間更年期症状が出ています。ホットフラッシュでの大汗は、今も続いていますが、ひどい時はびっしょりになって何回も着替えました。怠さもありました。
この番組を観て、同じ更年期で悩んでいる方が多い事を知り、なんかうれしくなりました。漢方薬を処方してもらって飲んでいるので、以前よりはホントに楽になりました。
体験談
あっこ
50代 女性
2022年4月17日
50歳から56歳まで、辛い日々が続きました。ある日、突然カーっと体が火照り、冬でも、クーラーと扇風機がかかせず、寒がりの夫と寝室は別々に、不眠が続きました。仕事では、新たな仕事に、係長の役職が与えられ、気持ちは『やる気』に満ち溢れていましたので、残業もいとわず、頑張りました。
この頃、実家の父親の介護がはじまり私自身も仕事の無理がたたって、体調不良が続きました。今思えば更年期と重なっていたと思います。介護を理由に異動願いをしたところ、介護関係に異動となりました。
そこでは、3年に一度の介護保険料の改定という重要な業務担当となりました。毎日頭の中に霧がかかった状態で、体調不良が続く中、思考が止まってミスもあり、女性の上司に、ミスを厳しく指摘され結局、その係は1年で外され私は、ダメな人間だと落ち込む日々が続きました。
体験談
ふたご座
50代 女性
2022年4月16日
26歳で3人目を出産。27歳で若年性更年期障害と言われました。それから25年、更年期障害と付き合ってきました。毎月2~3回、婦人科を受診をし、生理の期間を計算しながら・乳ガンのリスクを考えながら投薬による補充を続けてきました。
経済的なこと、時間、通院をする体力は、25年間とても大変でした。
先生からは、更年期障害は鬱に似た症状があるから間違えやすく、若い年代は精神科や心療内科に行く事も多く、症状に気付かず悪化する事もある。あなたの場合は、婦人科で治療をするからね。と、最初に言って貰った事が救われました。
若年性更年期障害の原因は幾つかありました。先生からも指摘があったのは旦那の存在でした。実家の両親とは縁を切らざる終えないと考え始めた時期でもありました。仕事は請け負いです。不規則で徹夜・無休は当たり前でした。今思う事は当時の記憶はほとんど無いです。自分と子どもの命を絶たなくて良かったです。
感想
まる
40代 男性
2022年4月16日
建設産業の労働組合で専従として働いています。更年期は女性のみならず、働いている人たちみんなに関わってくる問題だと感じました。
組合では『〇〇小町』の様な形で建設現場で働く女性が増えるように訴えもしていましたが、番組を拝見して、ピントがずれていたのかなと感じました。
もっと女性が抱える環境や更年期等の症状に寄り添う形の現場改善が必要だと思いました。
まずは、男社会で働く男の私たちが更年期について正しく理解していく事が重要だと感じました。
有意義な番組をありがとうございます。応援しています。
提言
マロン
50代 女性
2022年4月16日
日本でもイギリスのように行政や企業が更年期障害に対して、揶揄せず理解して女性の環境づくりに前向きに取り組みしてほしい。一人の女性も取り残さないようにしてほしい!当事者も遠慮せず声をあげてゆきたい。
体験談
よし
40代 女性
2022年4月8日
私は今、更年期真っ只中です。
持病のメニエールもあり、頭痛や動悸、精神的な不安定で車の運転をしなくなりました。1人でバスや電車に乗るのも難しい時があります。買い物の時なども具合が悪くなりそうな時は必要なものだけを買って急いで家へ帰ります。家族の理解があり生活出来ています。ただ、表面上は普通なので具合が悪いのが伝わりにくく無理をして仕事をすることがあります。ただの怠け者と思われそうで…。
更年期なのかメニエールなのか、もしかしたら精神的に病んでいるのか。1つの所で診て欲しい、と思います。