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Vol.29 働く女性と生理  “ひとりで悩ませない” 企業の取り組み最前線

生理の痛みは“あって当たり前”だと、いまも多くの女性がなんとかやり過ごしているのではないでしょうか。働いている時のつらさに どう対処されていますか?

労働力人口の約45%が女性で、企業や組織での役割も高まっているにもかかわらず、女性の健康については十分なケアがなされているとは言えません。下腹部の痛みやイライラなど生理に伴う症状が原因の労働損失は年間4900億円に上るという試算もあります。

私がこのテーマを取材するようになったのは去年春、自分と同じように報道現場で撮影の仕事をしている若い後輩からの相談がきっかけでした。

「生理がつらいと上司に伝えると大切な仕事を任せてもらえなくなるのではないか…」。生理の不調を訴えにくいと悩んでいました。

私自身は頭痛や出血が長引くなどの不調があっても、あまり深く考えてきませんでした。考えようとしてこなかったのかもしれません。

どうしたら職場でひとりで抱え込まずに解決に進めることができるのか。先進的な取り組みを進める企業や、啓発活動を行っている産婦人科医のグループを取材してみると、改善には一人一人が自分の体を知ろうとすることに加え、企業や組織からの“働きかけ”が大きな鍵となることが見えてきました。

(報道局映像センター 早川きよ)

社員の8割が生理痛 模索する企業

((左)つくば市内のサロンの社員の皆さん ・(右)施術イメージ)

全国に172店舗を展開する大手エステサロン「ミュゼプラチナム」は3年前から生理に悩む社員の支援に取り組んでいます。社員およそ3500人の9割以上が女性です。

サロンでは腰をかがめた姿勢でお客さんの肌の手入れをするため、勤務の間は休憩時間をのぞくと ほとんど立ったままです。生理の不調でつらい時もほぼ立ったままとなると 苦痛は想像に難くありません。

(つくば市内のサロン 店長 吉原晴菜さん)

茨城県つくば市内の店舗の店長をつとめる吉原晴菜さん(32歳)は長年、腰の痛みや気分が落ち込むといった生理の不調に悩まされてきた1人です。かつては生理のつらさを理由に仕事を休むことがはばかられ、市販の痛み止めを飲むなどして接客にあたることもあったと言います。

吉原晴菜さん

「生理痛がある時は、腰や おなかが痛いことがあるのですが、そんな中でも仕事をしなければいけないのが結構つらかったです。腰が痛い時には、コルセットを巻いたりして、調整することもありました。」

(本社 社員のみなさん)

「生理による不調のケアについて、会社の課題として取り組んでほしい。」

3年前、1人の女性社員の声をきっかけに、会社は生理に関する啓発活動を行っている産婦人科医のグループ「日本子宮内膜症啓発会議」に相談して、社員の生理の実態を知ることから始めました。

2019年と2020年の2回、全女性社員を対象に大規模なアンケートを実施。設問は「生理中、おなかの痛みがあるか?」「出血量はどれくらいか?」。また月経前にイライラ、発汗、対人関係不良などはあるか。さらには「不調は仕事にどれくらいの影響を及ぼしているか?」など38項目にわたります。

(会社が実施した女性社員へのアンケート 著作権:日本子宮内膜症啓発会議)

その結果、回答した およそ2600人の社員うち8割以上に生理痛があることが分かりました。また生理痛があると答えた社員の5割以上に子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が潜んでいる可能性があることも明らかになりました。

(会社が日本子宮内膜症啓発会議と行ったアンケート結果2020年)

さらにPMS(月経前症候群)や更年期障害など生理によるほかの症状もあわせて、社員のパフォーマンスの低下による労働損失額は年間13億8千万円にのぼると試算されました。

(社員の生理対策に取り組んでいるCSR推進室室長 柳沼政樹さん)
ミュゼプラチナム CSR推進室室長  柳沼政樹さん

「80%の人は痛い思いをしているのだと感じて、これは大変なことだと思いました。会社として13億円(の労働損失)という数字のインパクトは大きいです。それだけ生理で悩んでいる社員が多い、対策が不十分なために彼女たちに”しわ寄せ“が来ている。『この仕事をずっと続けられるのかな?』と思う社員も絶対にいると思うのです。そういうところを改善したいと率直に考えました。」

自分の生理・病気のリスクを知ってもらう

(2019年の研修会の様子)

アンケートの結果を受けて、会社は2年前から定期的に産婦人科医のグループと話し合いを始めました。

また全国各地を回って各店舗の店長などを集めた講習会を開き、生理のしくみや関連する病気の具体的な症状について社員自身が学ぶ機会を設けています。

(つくば市内のサロン店長 吉原晴菜さん)

生理に悩んできた店長の吉原さんはその講習会に参加して、自分の抱えるリスクに気づいたといいます。

吉原晴菜さん

「“異常”とされる生理の出血の量や状態を聞いて、『あ、ちょっと私 危険かも。病院に行った方がいいかな』と思いました。『普通だと思っていたことは普通じゃない』と気づくことができました。」

講習会をきっかけに産婦人科を受診したところ、「月経困難症」と診断されました。放置すると子宮内膜症などにつながる可能性もある病気です。

吉原さんは医師から処方された薬を服用したら出血の量が減り、気分の浮き沈みも改善されたと言います。さらに働き方にも変化が見られるようになったと上司は評価しています。

(吉原さん(左)と上司の工藤邦子さん)
つくば市内のサロン 工藤邦子さん

「以前はイライラしていて笑顔が少なかったり、指示を出しても『私はやっているんですけど』などマイナスな発言をすることもありましたが、今は笑顔も増えて すごく前向きになりました。仕事に対しても、考え方もそうです。店長が明るく仕事をしてくれるようになると、周りのスタッフも明るく仕事をしてくれます。スタッフの成長にもつながっていますし、店舗の成長にもつながっているのではないかと思います。」

ひとりで悩ませない

会社は8月から講習会で新たな取り組みを始めました。
生理の不調から産婦人科を受診して病気が見つかった社員たちが自らの体験を語る動画を各店舗で見てもらい、ディスカッションを行います。

誰でも病気になり得るということ、そして その怖さを実感してもらうと同時に生理を“自分ごと”として捉え、周りと話し合うきっかけをつくることがねらいです。

((左)社員が自己体験を語る動画・(右)動画を視聴する社員)

動画では1人の社員がおりものの量が多く、においも普段と違っていたり、疲れやすい状態が生理が終わったあとも続いたりしたことから病院に行ったところ、子宮けいがんが見つかったという話をしていました。

子宮内膜症と診断されたという別の社員はひどい生理痛に加えて生理前には気分の落ち込みがあり、「死にたくなるような孤独感」を感じることもあったと言います。

この店舗では動画を見たあと、社員が3人ずつに分かれて自分自身の生理の経験や、いま不安に思っていることを語り合いました。同じ職場で働く仲間の証言を見たあとだけに活発に意見を交わしていました。

「私も生理がちゃんと来なかったり、生理痛が多かったりするけど受診するべきかな?」

「自分がつらい時には周りにフォローしてもらい、声をかけてもらえたらすごくありがたい。だから自分もなるべく周りを見てフォローできるようにしたい」

「今回の研修を受けていないスタッフには『生理のつらさは改善できるよ』と教えてあげた方がいいかも」

会社では新しい動画を制作中です。内容は“女性社員が産婦人科に行ってみた”というもの。実際に診察台に座ってどのような診察がされるのか、産婦人科医からどんな質問をされるのかを撮影しています。

「産婦人科で何をされるのか分からない」という恐怖感を取り除くために、病院内の様子や 必ずしも内診をするわけではないことなどを紹介しています。

CSR推進室室長 柳沼政樹さん

「ただ『研修をやりました』では行動に移せず、結果として『何も変わらないじゃないか』となることは十分想定できます。会社にとって何が課題で、それを解決することで社員にどんなメリットがあるのかを分かった上で取り組みをしていけば、結果が変わってくると思います。

一過性で終わらせない。長く取り組み続けることによって徐々に働く環境がよくなってくるのかなと思っています。」

取り組みを進めて3年。生理の問題をひとりで抱え込む社員が減り、社員の欠勤率が12.8%から5.3%になり、経営上も改善が見られるようになったといいます。

企業の生理ケア ビジネスチャンスに!

生理に悩む女性に新たなサービスを提供しようという企業もあります。大手商社の丸紅はヘルスケア関連企業とともにオンライン診療のシステム開発に乗り出しました。オンライン診療であれば自宅や会社のちょっとした時間で診察を受けることができ、手軽に生理の悩みを医師に相談できると考えたからです。

(オンライン診療を受ける社員)

このオンライン診療の実証実験に参加している20代の社員は病院に行かずに医師から薬の処方を受け、自宅に配達してもらっています。

(オンライン診療を行う産婦人科医)
産婦人科医

「月経痛が重いって話だったけど、その後どうですか?」

社員

「だいぶ楽になって、すごく痛いということが無くなりました。どのタイミングでピルを飲むのをやめるんですか?」

産婦人科医

「妊娠したいタイミングでやめる人が一番多いです。ただ、やめたくなったらいつでもやめて大丈夫だからね」

この社員は4月からサービスを利用し、薬を服用しはじめてからは生理痛が軽減したと言います。

社員

「産婦人科に行くこと自体ちょっと抵抗もあるし、これくらいの症状で産婦人科に行ってもいいのかな?とか悩むところがありました。いろんなオンライン診療がある中で、どこが安心できるのか、自分で判断するのはすごく難しかったので自分の会社が契約している病院があるのはメリットだと思います。」

女性の働きやすさにつながるオンライン診療のシステム。この商社では今後、ほかの企業などの福利厚生としてもビジネス展開したいと考えています。

組織、国をあげた対応を

働く女性の生理について詳しい産婦人科医は、取り組みを浸透させるためには組織や国をあげた対応が必要だと指摘しています。

(聖路加国際病院 女性総合診療部部長 百枝幹雄医師)
聖路加国際病院 百枝幹雄医師

「メタボを中心にいろいろな健康課題がある中、月経の問題が本当に重要なんだということを認識している方がまだ少ない。職域検診(健康診断)の中に月経の状態を聞くような項目を追加するだけで、『やっぱりこれは、問題なんだ』ということに女性自身が気づくことができます。

女性のキャリア形成がなかなか進まないのは月経などの健康問題が背景にあるかもしれないことを認識して、国の問題として取り組むことが重要ではないでしょうか。こうした問題点が改善されれば女性はもっと活躍できると思います。

男女平等が求められますが男女が平等に働くためにも、男女の身体的な生理的な違いにきちんと対応することが不可欠です。」

『働く女性と生理』を取材して…

私自身、男性の多い職場で同僚たちと同等に働きたいという思いから、男女の身体の違いについて考えないようにしてきました。男女格差を測る「ジェンダーギャップ指数」は日本は世界156か国中120位(2021年3月 世界経済フォーラム発表)。百枝医師が指摘するように、企業や組織が男女の身体の違いに応じてしっかり対応することが男女格差を解消する上で欠かせないと思います。

また学校や職場の定期健康診断の問診票に生理関連の質問を入るだけでも、ひとりひとりの意識は少なからず変わると思います。そこで異常を感じて すぐに病院に行くものではないにしても、年に1、2回 生理のことを問われ続ければ定期的に意識するだけでなく、周りの同僚や家族で話したり考えたりしやすくなるのではないでしょうか。

一生を健康的に生きることが出来るかどうかにまで影響を及ぼし、新たな命を授かる上でも大切な「生理」。“タブー視”せず、女性だけの問題ととらえず、社会全体で考えていく必要があると感じています。生理の悩みについて一人で抱え込まずに女性だけの問題ととらえず、女性も男性も気軽に話し合える環境を作るためにどうすればいいか。これからも取材を続けます。

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