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Vol.27 みなさんの声から考える トランスジェンダーのハナとトイレのこと

6月にEテレで放送した海外ドラマ『ファースト・デイ わたしはハナ!』(全4回)は、男性の体で生まれ、男性として生きてきたトランスジェンダーの主人公ハナが、自分らしく女性として中学校生活をスタートする“はじめの一歩”を描いた物語です。放送中と放送後に、みなさんから たくさんのご意見や感想が寄せられました。ありがとうございました。

「言葉で多少知ったつもりでいたトランスジェンダー問題について、反省、感慨、さらなる関心など、たくさんの刺激をもらいました」(70代・静岡)

「ハナの体験は、これから我が子に起こるだろうことを追体験している気持ちになり、親の立場としては涙が止まりませんでした」(40代・兵庫)

「多目的トイレがあり、LGBTQの人たちはトイレに不便はないと思っていましたが、ドラマを見て、そう簡単でないと知りました」(40代・東京)

寄せられたご意見で比較的に多かったのは、ハナが直面した「トイレ」の問題。そこで、ドラマの関連するシーンと、みなさんからの声を紹介しながら、LGBTQの人たちをはじめ、誰もが安心してトイレを使えるようになるためにはどうすればいいか、考えます。

(編成局 展開戦略推進部 鈴木彩美)

多目的トイレを使うことを強いられるハナ

ドラマは、小学校まで「トーマス」とう名前で男性として生活していたハナが、中学校に進学するのを機に本当の自分として生きることを決意し、母親と一緒に校長先生との面談に向かうところから始まります。教職員みんなでハナの学校生活をサポートするという校長先生の言葉にハナは喜び勇み、トイレについて尋ねます。

(「ハナ」を演じるのは自身もトランスジェンダーのイーヴィー・マクドナルドさん)
ハナ「…じゃあ女子トイレも使えますか?」

校長先生「すぐにはまだ。当面は保健室の『だれでもトイレ』を…」

ハナの母「電話でも話しましたが、女子トイレを使っても問題は起きないと思います」

校長先生「今後、検討はしていきますが、ほかの保護者にも配慮しないと。男子が女子トイレを使うとなると…」

ハナ「男子じゃありません!」
(ドラマ『ファースト・デイ』より)

親子の訴えもむなしく、しばらくは保健室にある多目的トイレを使うように言われます。教職員以外には自分がトランスジェンダーであることを隠しておきたいハナは、多目的トイレを使うことで自分の“秘密”が生徒たちにバレてしまうことをとても心配していたのです。

ハナの母「(入学前の)お休みの間に一緒に考えてみよう。(なぜ『だれでもトイレ』を使っているのか、誰かから)聞かれたときに、なんて言うか」

ハナ「そんなの聞かれたくないよ。ただ、みんなと同じようにしたいだけなのに…」
(ドラマ『ファースト・デイ』より)

そして迎えた中学校の初日“ファースト・デイ”。仲良しの友達もでき、ハナは順調に学校生活をスタートさせますが、ある日、恐れていた“そのとき”が訪れます。

男子生徒たちから、ハナのことを好きな生徒がいるという話を聞いて、気まずさを感じたハナ。「ちょっとトイレに行ってくる」と言って、その場から離れようとすると、1人の男子生徒から問いかけられます。

男子生徒「なんで『だれでもトイレ』使ってんの?」

ハナ「入ったことない?広いんだよ。それに1人で使えるし、待たなくていいし…」
(ドラマ『ファースト・デイ』より)

一生懸命 言い訳をするハナ。「本当の自分として生きようとしているだけなのに、そのために友達にウソをつかないとならないなんて…」。胸が痛くなった視聴者の方も少なくないのではないでしょうか。

ハナの気持ち わかります (60代・北海道)

わたしも、仕事場で『だれでもトイレ』を使っています、というか、使うように言われています。 女子トイレを使えないのは、とても寂しい気持ちになります! 受け入れられていないんだなと思います! 普段生活していても、バレないかと、ビクビクしながら生きています!ハナの気持ちがとてもよくわかります。

社会生活で悩むことほど つらいものはない (20代)

ドラマでも取り上げられていたトイレや服装の問題。社会生活をする上で欠かせないものに悩むことほど、つらいものはありません。また、名前の呼ばれ方、「さん」「君」や「彼女」「彼」という呼び分けが性別によって異なる今の風潮は、人格を否定する要素になると思います。

「どのトイレ使おうか」が当たり前になってほしい (40代・神奈川)

トランスジェンダーだとカミングアウトするのに戸惑わない世の中にしないといけないと思う。「私、女じゃないかも」ってサラッと言えて、「じゃ、どのトイレ使おうか」って会話が当たり前になったらいいのに。

みなさんの職場ではどうしていますか? (50代・福岡)

アライ*になりたいと心がけています。 私の職場に、結婚してお子様もいて、60過ぎまで戸籍上は男性として生きてきた方が、女性の格好をし、女性になりたい、好きになるのはきれいな若い女性と言って、女性のトイレやロッカールームの使用を求めていました。でも、周りの女性はこれまでのその方の言動を見ていて、同じトイレの使用を拒否しています。皆さんの職場ではどうされているのでしょうか。

*アライ(ally):LGBTQの人たちの支援者や味方の意。

ハナの日本語の声を演じた井手上 漠(いでがみ ばく)さん。身体も戸籍も男性ですが、性別にこだわることなく生きています。漠さんは、男子トイレを使うことにも、女子トイレを使うことにも違和感があるそうです。

(「ハナ」の日本語の声を演じた井手上 漠さん)
井手上漠さん

「私が女子トイレに入ったら、普通に『いい』っていう子もいるかもしれないけれど、『え?』って思う子もいるかもしれない。私がすがすがしい気持ちでも、『え?』って思った子からしたら、嫌な気持ち。これって平等じゃないじゃないですか。だからすごい難しい。今の私にとって、ほんとに小さな救いといえば『多目的トイレ』なんです。でも『多目的トイレ』が当たり前の世の中かって言われるとそうじゃない。」

変わりはじめた日本のトイレ

実は、日本の公共の場所に設置されているトイレも少しずつ変わりはじめています。

このようなマークがついたトイレを見たことはありませんか?これは「オールジェンダートイレ」の目印。性別に関係なく、誰でも使えるトイレだということを表しています。空港やショッピング施設、大学、飲食店などでも、こうしたトイレの設置が増えています。

「オールジェンダートイレ」はLGBTQの人だけのものではありません。障がいのある人やお年寄りなど、トイレに介助が必要な人にとっても、介助する人が異性の場合、一緒に入りやすくなります。また、女性用、男性用のトイレが長蛇の列というときに「オールジェンダートイレ」を使うことも可能です。

さらに自由な発想でトイレをデザインしなおそうという動きもあります。大手住宅設備メーカーLIXILが新たにつくったのは「男女共用」でも「男女別」でもない新発想のトイレでした。

(大手住宅設備メーカーがつくった新発想のトイレ)

トイレの入り口の手前に「自分にあった個室をお選びください」という案内表示があり、ピクトグラムでそれぞれのトイレの機能が紹介されています。手洗い場が中にある、着替えスペースがある、車椅子で入れるなどを見て、自分がそのとき使いたい機能のトイレを選んで使うというトイレなのです。

(トイレの入り口に掲げられた案内表示)

従来との大きな違いは、男性用トイレと女性用トイレを壁で隔てるのではなく、1つの広い空間に女性用、男性用、男女共用それぞれの個室を配置していること。男女どちらかのトイレに入ることにためらいがある人やどちらのトイレに入ったかを周りの人に知られたくない人に配慮したそうです。

(男性用トイレの個室)

男性用の小便器も一つずつ個室にしました。それぞれの個室は床から天井まで壁で仕切られているので、プライベート性が高く、音やにおいなどを気にせず、リラックスして使うことができます。

「トイレで異性の人とはちあわせたり、すれ違ったりすることが不安」という人たちの声にも配慮しています。個室が並ぶスペース全体を明るく開放的な空間にして、行き止まりや死角ができないように個室を配置しました。また、手洗い場を女性用の個室がある側と男性用の個室がある側にそれぞれ設けて、個室から出たあとの女性と男性の動線を分けました。こうした工夫や配慮は女性からも男性からも好評だそうです。

みんなが安心して使えるトイレを

新しく開発したトイレは「オルタナティブ(=選択肢)・トイレ」。LGBTQの人や障がいのある人だけでなく、誰もが、そのとき、使いたい機能のトイレを選んで使うことができるというトイレです。企画した石原雄太さんに話を聞きました。

(「オルタナティブ・トイレ」を企画した石原雄太さん)
LIXIL 石原雄太さん

トランスジェンダーの人がトイレに困っているという話から、新しいトイレを考え始めましたが、最終的に完成したものは、男性、女性、大人、子ども、健常者、障がい者という枠をなくし、 誰もが用途に合わせて自由に選べるトイレ でした。これから多様性を尊重する社会をつくっていく上で、こうした「オルタナティブ・トイレ」は大切なインフラになると感じていますし、このトイレを利用することで、「多様性を知る・考える」きっかけになると思います。

オフィスや学校など日常的に顔を合わせる人が多い場所では、自分のセクシュアリティを知られるのは心理的に負担が大きいだろうということから、まずはオフィスのトイレで、オルタナティブ・トイレをデザインしました。

今後は、さらに公共の場所でも「誰もが安心して使えるトイレ」をめざして、引き続き調査・開発していきます。

誰もが安心して暮らせる社会に・・・ 私たちができることは?

ドラマでは、その後、ある生徒の心ない行為によって、ハナがトランスジェンダーであることを学校中が知ることになります。すると親友たちは、ハナが女子トイレを使えるようにしてほしいと校長先生に粘り強く頼みます。一部の生徒からは嫌がらせを受けたり、冷たくされたりもしますが、ハナは“ありのままの自分”を受け入れてくれた友達に支えられ、“本当の自分”をつらぬいて生きていくことを固く決意して、物語は終わります。

LGBTQの人たちをはじめ、誰もが安心して日常生活を送れるようになるために、私たちひとりひとりは何ができるのか。寄せられた声を紹介します。

性別に関わらず“自分らしくできるよう”みんなが協力する (10代 愛知)

学校でトランスジェンダーの授業を増やして、トイレや更衣室や服装の性別はなくして、それぞれが思う性別を、学校や会社のみんなが理解するようになればいい。性別に関わらずに、自分は自分らしくできるよう、みんなが協力していけばいいと思います。

「個人の性は“個性”」と言える社会になる (20代)

私達は、生まれるときに名前も性別も国も家庭も選べません。好みや考え方は人の数だけ違います。個人の性が「個性」だと言える社会となるために、“その人らしさ”という個人の性が「普通」の時代になってもいいのではないでしょうか。

セクシュアルマイノリティーの人が出演するドラマを! (20代・兵庫) 

今後、朝ドラなどに井手上 漠さんが出演するのを見たいです! まだまだセクシャルマイノリティーの人たちがドラマに出演することが日本では少ないと思うので、当たり前のように出演するようになると、ちょっとは世の中の人に“普通のこと”として受け入れられるようになっていくのではないかと思います。

親は子どもの“ありのまま”を受け入れてほしい (30代・神奈川)

親が寛容でなかったりする状況に子どもたちが本当に苦しんでいるなあと思いました。子どもが生まれてきてくれたそのことに感謝して、ありのままを受け入れていくことの大切さを再認識しました。

区別すべきは男女でなく“心の性”ということを教育する (10代・北海道)

着替えるときに男女でお互いに恥ずかしさを感じるのはきっと生まれたときから“男女は違うもの”として教えられているからだと思う。区別すべきは「心の性」だということを教育できる世界になれば解決されると思います。

トイレの問題も、LGBTQの人たちが生きづらいという課題も、すぐに解決につながる答えが出るものではありませんし、ひとりひとりが置かれている場所や環境によっても答えは違ってくると思います。だから「こういうトイレをつくらねばならない」「全員こうしないといけない」ということではなく、たとえば職場、学校ごとに、空間を共有するみんながどうすれば気持ちよく過ごすことができるのか、率直に話し合える環境をつくることがまずは不可欠と思いました。

8月21日(土)夜9時30分からEテレで放送予定の『ウワサの保護者会』では、中学生たちが『ファースト・デイ わたしはハナ!』を見て、多様な性について考えます。ぜひご覧ください。

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