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Vol.3 AMH検査で“卵子の残り数”がわかる!? 産みどき考えるヒントに

わずかな血をとって送るだけで自分の卵子の残り数がわかる。そんなフェムテックがいま注目を集めています。年齢とともに減っていく卵子が、卵巣内にどれぐらい残っているかを示すAMHというホルモンの値を調べる検査キットで妊娠のタイムリミットを知る手がかりの一つになるというのです。 これまで病院でしかできなかった検査が、約2万円で自宅でできるというこのキット。働く女性の人生設計にどう役立てられるのか、利用の際の注意点もあわせて、取材しました。

(ディレクター 浅岡理紗 宣英理)

“妊娠のタイムリミットの目安がわかる”

働く女性を悩ませる“産みどき”。11月に放送したクローズアップ現代プラス『女性の体の新常識 フェムテックで社会が変わる』のディレクターは全員30代女性ということもあって、取材中も話題に上りました。「長期のプロジェクトに関わることもあるし、出産のタイミングがわからない」「子どもが欲しいと思ったとき自分は産めるのか不安だけど、病院に行く時間もない」・・・
こうした悩みに応えようと、去年7月に発売されたのが、このAMH検査キットです。

男性の精子が毎日新しく作られるのと対照的に、女性の卵子は胎児の頃に一生分が作られます。出生時には約200万個の卵子(原始卵胞)を持っていますが、月経時に排出されたり、自然に消えたりして減っていき、30代で残っているのは2~3万個です。私も初めて知ったとき、ちょっと“ガツン”と来ました・・・

卵子の数を知る手がかりになるのがAMHというホルモンの値です。この値が高ければ多くの卵子が残っている、低ければ数が少なくなっていることを示すため「妊娠可能な期間」の目安になります。

(提供 浅田レディースクリニック)

AMHの値は一般的に年齢とともに下がっていき、2以下では不妊治療が効果的に行えなくなる可能性があるといいます。しかし個人差が大きいため、自分の値は検査しなければわかりません。AMH検査はこれまでも病院では受けられましたが、産婦人科の受診はハードルが高いという人も多いため、自宅で受けられる検査キットが作られました。

どうする? 仕事と産みどき

検査キットを利用することにした夫婦を取材しました。ことし入籍した渡部英里菜さん(32)と夫の光樹さん(40)。光樹さんは早く子どもが欲しいと思っていますが、英里菜さんは正社員として転職したばかり。まだ慣れない中、出産で職場を離れることに不安を感じています。一方、同世代の友人たちが不妊治療を始めたこともあり、妊娠のタイムリミットが気になっているといいます。

英里菜さん

「漠然とあと2~3年たったら子どもを、と思っているんですが、そのときに不妊だとわかったら手遅れにならないか、怖いですね。家でできるなら、ちょっと調べてみようと思いました。」

光樹さん

「女性は卵子の数が年齢とともに減っていくなんて、全然知らなかったです。男女ともに30代前半は仕事のやりがいが出てくる時期なのに、反比例するように体の問題が出てくるなんて、女性は本当に大変・・・、せめて応援したいと思いました。」

指先に針を刺し、にじみ出た血液を容器に入れて送ると、10日前後で結果をスマートフォンで確認できます。

32歳の英里菜さんのAMHの値は・・・

英里菜さん

「あー、やばい! 実年齢より高い・・・」

妊娠や不妊治療を急がねばならない値ではなかったものの、渡部さん夫婦は結果に少し戸惑っているように見えました。ふたりは、1年後には妊活を始めようかと話し合ったそうです。

英里菜さん

「やってよかったです。仕事ばかり優先するのではなく、そろそろシフトチェンジも考えなければいけないのかな。判断基準として、知ることができるのは、助けになります。」

光樹さん

「自宅で検査に立ち会い、結果を共有できたことで、男性も一緒に考えるべきことだと感じました。漠然としていたものがハッキリしたことで、ライフプランを真剣に考えるきっかけになりました。次は病院で自分の精子の状態も調べてみたいです。」

不妊治療による離職を防ぎたい

検査キットを提供しているのは、不妊治療に関する情報共有を行うウェブサイトの運営会社です。開発のきっかけは、利用者に「もっと早く治療を始めればよかった」という声が多かったことでした。

F treatment代表 服部恵子さん

「不妊治療との両立の難しさから仕事を辞めたり、子どもを諦めたりした人を数多く見てきて、社会にとっても大きな損失だと思いました。少しでも早く自分の体の状態を知る人が増えれば、離職も減らせるのではないかと、産婦人科の先生と意気投合したんです。生き方は人それぞれですが、自分の体を知った上で人生の選択をしていただけたらと思います。」

11月に発表された調査では、不妊治療をしている女性の83%が「仕事との両立が困難」だと答えています。 産婦人科医の浅田義正さんも、同じ問題意識から検査キットの商品化に協力したと言います。

浅田レディースクリニック 浅田義正医師

「不妊治療を始める年齢が年々上がり、40代が主流になっていますが、病院で初めてAMHを測って、結果にがく然とする人が少なくありません。卵子が少なくなってから不妊治療を始めると、期間や費用がよりかかります。自宅で手軽にできれば、検査のハードルが下がると期待しています。」

検査キットの開発で最も難しかったのが精度です。医療機関での採血と違い、自宅で個人が採取できる量には限りがあり、わずか0.1mlからAMHの値を正しく測定する技術を確立するのに苦労したと言います。値段は2万円弱と高価ですがこれまでに約1200人が利用しました。

AMH検査には注意点も

ただ浅田医師によると、検査結果を受け止める上で注意点もあると言います。

AMHの値は、あくまでも卵子の“残り数”の目安であり、“質や老化”を反映するものではありません。AMHの値が低い人でも、年齢が若ければ卵子の質が良く、妊娠できることもあるため、数値だけに振り回されて絶望する必要はありません。


AMHの値が高いからと安心するのも危険です。不妊には卵子の残り数以外にさまざまな要因があり、別の不妊の要因を見落としてしまうリスクもあります。
※値が年齢の水準より大幅に高いと「多膿疱性卵巣症候群」、大幅に低いと「早発閉経」などの病気の可能性も。

妊娠を考える人は、この検査をきっかけに早めに産婦人科医を受診してほしいと、浅田医師は強調していました。

身近になるAMH検査 人生を変えることも

こうした検査キットは、海外でも次々と登場しています。カリフォルニアのスタートアップ、Modern Fertilityは、AMHなど9種類のホルモンを調べることで、卵子の残り数や閉経の予想時期、卵子凍結や体外受精の適性などがわかるという検査キットを発売。検査結果をどう読み解くのか、産婦人科医などがアドバイスしてくれる仕組みや、利用者同士で情報交換ができるコミュニティも提供しています。キットはスーパーの店頭でも販売され、身近なものになってきています。

アメリカのフェムテック事情に詳しいデロイトトーマツベンチャーサポート・セントジョン美樹さん

「アメリカでは今、ジェンダー平等が政治的にも経済的にも重要なテーマとなっています。女性が人生を豊かにしていくために、まずは自分の体を知り、いろいろな選択肢をデザインする。フェムテックは、そうした個人の人生設計とエンパワーメントのみならず、それを支える寛容な社会への変革に大きな役割を果たすと期待されています。」

この番組の40代女性プロデューサーも、かつて取材の一環でAMH検査を受けたことがあるそうです。当時30代半ばでしたが、40代半ばの水準という極めて低い値が出て、ショックを受けたと言います。それまで「あと1本番組を出せたら・・・」と出産を先延ばしにしてきましたが、この結果を受けて異動希望を出し、一時期、妊活を優先しながら働くことを決めました。
その後 授かったお子さんは今は8歳になり、「あのとき検査を受けていなければ、娘はいなかったかもしれない・・・」と、AMH検査が人生の分岐点になったと感じているそうです。

これまで見えなかった“体の中の状態”を知る手がかりとなるフェムテック。「いつかは産みたい、でもいつ?」、そんな悩みを抱える女性が後悔のない選択をする上で、手助けになるかもしれないと思いました。

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