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“育休制度世界一”の日本で、育休をとれないのはなぜ…?インフォグラフィック作ってみた

子育てに関する膨大なデータをどう直観的にわかりやすく伝えるか?
NHKで映像編集に20年以上携わってきた“職人”が新たな映像表現に挑戦。舞台裏を本人がつづりました。

NHKスペシャル「つながれ!チエノワ」 制作チーム)

まずはこちらの動画、ご覧ください。

「へぇ~、カワイイじゃん」絵コンテを描きながらもん絶していた私に、ぶっきらぼうな声で話しかけてきたのは高校3年生の長女でした。なるべく父親と話すのは遠慮したいはずの年頃なのに、長女なりの優しさだと分かるので心にしみました。 

長女も長女で、大学受験を半年後に控え、深夜まで勉強したり、進路に悩んだり、将来への不安がいっぱいなのでしょう。そんな時は2人とも一旦中断して、お笑い番組を見て「ランジャタイって天才だよね~」とか言いながらひとしきり笑い、そして眠る。
その何気ない「普通」の時間がたまらなくいとおしいです。

はじめまして!映像制作の仕事をしているT・Aです。妻と、長女17歳、長男12歳の家族4人と、それにペットのシーズー犬と平凡な暮らしをしています。テレビの映像を作る仕事に20年以上携わってきて、現在はグラフィックを使った映像表現にチャレンジしています。

今回、NHKスペシャル「つながれ!チエノワ #子育てのもやもや解消」でデータとグラフィックを融合させる、インフォグラフィックスのSNS動画制作に挑戦しました。

人の役に立てる映像って?コロナ禍を経て生まれた仕事への想いの変化

コロナ禍になる前は、仕事、仕事、仕事。家族のことを振り返る余裕もないまま、駆け抜けてきました。私の中での映像の仕事とは「心に残る表現で描き、正確に伝えること」です。それをすることが社会貢献につながると信じていました。

でも、その価値観を大きく変えてしまったのがコロナ禍でした。

始まりは、長男の小学校での新型コロナウイルス感染拡大。複数の感染者が出たことで、学校はしばらく休校になりました。その後は、オンライン授業と、登校再開を繰り返し、もやもやしたまま小学校を卒業。春休みが明けた頃には「中学行きたくない」と、すっかり無気力になってしまった長男に衝撃を受けました。今は大きなタメ息をつきながらも、なんとか毎朝登校しています…。

「学校に行きたくない」と言うある日の長男。今回担当したnoteのサムネイルも実体験に基づいて描いています

長女の方は、高校生活のほとんどの学校行事が中止。最後の望みだった修学旅行も中止。今は大学受験勉強のど真ん中。「大学受かったとしてさぁ、こんなんでやっていける自信がないわ…」と言われ、私も妻もかけてあげる言葉が見つからない。
そして私はパンデミック後、テレビの制作現場から離れ、デジタルコンテンツ制作に配属が変わりました。そこでも目の当たりにしたのは、SNSにあふれる「コロナ禍における閉塞感」でした。

社会から、学校から、家族から、「普通」の日常が消えてしまいました。

この大変な状況の中、映像でできることに限界を感じていたとき、同僚の番組ディレクターから「シリーズで、コロナ禍を生きる知恵を集める番組を作ります!第1回のテーマは『コロナ禍の子育て』です。」と声をかけられました。しかも、それはテレビだけではなく放送前にSNSなど、デジタルでも展開して、日本中から課題解決のアイデアを集めるという番組。そのSNS向けの映像コンテンツを作ってほしいという仕事の相談でした。

今までも、これからも、映像しか作れないのだから「心に残る表現で描き、正確に伝える」プラスほんの少しでも「人の役に立てるもの」を作ろうと決意しました。そういった気持ちから「つながれ!チエノワ#コロナ禍のもやもや子育てプロジェクト 」に参加しました。

コロナ禍を生きるチエノワよ、広がれ!

SNS向けの映像の制作にあたり、NHKスペシャルの番組班が取材した膨大なデータを「インフォグラフィックス」という形にして、フルアニメーションの動画を投稿しようと提案しました。親しみやすいイラストのアニメーションであれば、文字や数字だけの情報よりも、コロナ禍に疲れた多くのお父さん、お母さんに届くのではないかと考えたからです。

※インフォグラフィックスとは、インフォメーション(情報)とグラフィック(写真、映像、CG)を融合させ視覚的、直観的に伝える表現方法です

動画にするテーマで悩んでいたとき、今回のNHKスペシャルの担当ディレクターから共有された資料の中に「育休制度で日本は世界1位」というユニセフの調査がありました。

ユニセフ「先進国の子育て支援の現状」2021年度版より OECD、EU加盟41か国のランキング

「えっ、1位?」と、かなり驚きました。と言うのも、ここ最近周囲で同僚や友人のお父さんが育休を取ったのは、たった1人だけだったからです。私自身、13年前に長男が生まれた時に「育休」は選択肢にすらありませんでした。その実感を裏付けるように、厚生労働省の調査では、男性の育休取得率は、長男が生まれた平成21年は1.72%。年々上昇するものの、令和2年になっても12.65%となっていました。
ユニセフのランキングでも日本は育休の「制度」だけが1位で、その他の項目を足した総合順位では21位となっていました。

育休の「制度」は充実しているのに、育休を取れないのは何故だろう?これから作る動画を見てもらう事で、コロナ禍のお父さんがもっと主体的に子育てに関わるきっかけになれないだろうか…。

「育休」をテーマにすることに決めました。

どのようなストーリーにすれば「育休」について考えてもらえるのか。まずは、データをストーリーにしていくにあたって、何度も何度もさまざまなデータ同士を組み合わせてみました。まさに難解なパズルです。ノルウェーやカナダなどの諸外国の研究も加えて、ストーリーが完成しました。それを「文字コンテ」として番組担当ディレクターにチェックしてもらいました。データの取り扱いや、コメントの文脈にそごが無いかチェックをしてもらうためです。さらに、それを「絵コンテ」に描き起こし番組班が再度チェック。文字コンテでは分からなかった、映像の表現方法、キャラクター、文字のレイアウト、情報量、カメラの動き等、ここで全てを可視化させ、バグを出し切ります。

「絵コンテ」ができ上がったら、そこからはほぼ1人旅です。
動画の中のキャラクターや背景、小物などなど、イラストレーターで全てのアニメーションの元となる素材を自分で作画していきます。作画は絵コンテを見ながら、アニメーションさせる前提でパーツごとにバラバラに描きます。全ての素材を自作する利点は、アニメーションを作りながら、問題点を直ちに素材ごと修正できる点です。修正の時点で細かなアップデートも同時に行い、最終的に全体のクオリティを上げる事にもつながります。

素材作りの時に参考にしていたのは、赤ちゃんの頃の長女と長男の写真です。ついついノスタルジーに浸り、昔の家族写真も見返して、作業時間をロスしたりしていました。やれやれ…。

素材が揃ったらいよいよアニメーションさせていきます。なるべく自然の法則に従い、重力や、慣性を意識していくことが重要です。そうすることで作画したキャラクターに血が通うようになり、感情も生まれます。もう、ひたすら納得できるまでトライ&エラーです。「完成品」という結果には表れない、誰にも気づいてもらえない作業ですが、これはもう、見てくれた人の心を少しでも動かしたいという「祈り」のような作業ですね。

動画の最後のメッセージに込めた思い

NHKスペシャル「つながれ!チエノワ #子育てのもやもや解消」放送の3日前、「育休インフォグラフィックス」は完成しました。

この動画の内容のように、制度があっても育休を取得するのは簡単な事ではないと思います。職場での立場、会社の雰囲気、復帰後の不安など、なかなか一歩を踏み出せない事かもしれません。でも、ノルウェーの研究のように、誰かが「育休」について話したり、考えたりすることで、職場の雰囲気に変化がおきるかもしれません。

動画の最後のメッセージ、
「一緒に育休を考えよう。」
はこうした思いから生まれました。

子どもって、本当にすぐに大きくなってしまいます。最近は「あの頃に戻って、子育てをやり直せたら…」と反省することばかりで、私が取らなかった「育休」もその反省の一つです。
今回の番組や、動画が、「育休」や、「子育て」について、ご家庭で話をするきっかけになれたのであれば、映像を作る人間として、一人の父親として、うれしい限りです。

Twitterに無事投稿された瞬間力尽きた私とスマホで動画を見る長女

「子育て」のことはまだ分からないよな…と思いつつ、いつの日か子どもたちが大きくなった時、父親がそんな仕事をしていた事を思い出してくれたらいいなと思いました。

「つながれ!チエノワ」プロジェクトでは、今後も視聴者のみなさんの投稿やネットにあふれる膨大な情報などの「チエ」を集めて、解決のヒントを探っていきます。番組では、今後取り上げてほしい「もやもや」を募集中! 身近なお悩みから社会課題までなんでもお寄せください。

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