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トイレで、お風呂で・・・ 日常に潜む盗撮

「通勤途中に駅のトイレに寄ったら、個室の中にカメラが仕掛けられていました」

今月「性暴力を考える」取材班のもとに、目を疑う写真が届きました。ある40代の女性が、駅の女性用トイレで、盗撮目的の小型カメラを発見したというのです。

取材を進めると、盗撮用のカメラがあちこちに巧妙に仕掛けられ、私たちの日常に紛れ込んでいるという現実が見えてきました。誰が、いつ、どこで盗撮被害に遭うか分からないのです。

※この記事では、被害を未然に防ぎ加害をなくす動きにつなげるため、カメラ設置の手口などを具体的に伝えています。ご気分が悪くなるような表現があるかもしれません。あらかじめご留意ください。

(「性暴力を考える」取材班 信藤敦子 飛田陽子)

クローズアップ現代「急増する盗撮 暮らしに潜む危険と対策」

10月26日(水)午後7:30~7:57放送予定
※放送から1週間はNHKプラスで見逃し配信をご覧いただけます。

いつもの通勤中 秋葉原のトイレで…

小型カメラを発見した女性に、話を聞くことができました。

それは、ふだんと変わらない平日の朝だったといいます。ちょうど1年前、10月のある朝の9時ごろ、女性は電車で通勤途中トイレに行くことにしました。立ち寄ったのは、JR秋葉原駅のホームに隣接した女性用トイレ。用を足し終え、個室から出ようと支度していたときでした。女性は、ふと違和感を覚えたといいます。

盗撮カメラを発見した40代の女性

「便器の後ろにある排水口のフタの奥が、黒く光っていたんです。よく見たら小さなレンズみたいなものがあるぞと目に付いて。こんなのは初めてだなと不思議に思いました」

(女性が記録していた排水口の様子)

不自然に黒く光る排水口のフタ。まさか…と思いながらも女性がフタを取り外してみると、異様な物があらわれました。小さなレンズには細いコードがつながっていて、引き抜くとバッテリーと基板が付いた小型カメラのようなものが出てきたのです。トイレの排水口に必要なものとは思えません。「これ、盗撮だ」瞬時にそう気付いたといいます。

(女性が記録していたカメラの様子)
盗撮カメラを発見した40代の女性

「こういう小型カメラが出回っていると聞いたことがありましたが、実物を見つけるのは初めてで、うわ…と、ことばにしようのない、嫌な感じがしました。それから、もし自分の姿が映っているのなら消してほしいと。“とにかく駅員さん呼ばなきゃ、通報しなきゃ”と思いました」

証拠としてカメラや排水口の写真を撮ったあと、すぐに個室を飛び出した女性。もしかすると、自分が発見した物のほかにも、カメラが仕掛けられているかもしれない…。駅員を探している間にほかの女性が被害に遭うことのないよう、並んでいた女性たちに「ここ、カメラ仕掛けられてます!使わないほうがいいですよ!」と慌てて呼びかけました。普通の“駅ナカのトイレ”で起きた突然の出来事に、ほかの女性たちは ただぼう然としていたといいます。

(女性の通報を受け、駅員がトイレを閉鎖している様子)

女性の通報を受け駆けつけた駅員たちは、トイレの入り口を閉鎖し、ほかにカメラがないか調べました。間もなく近隣の警察署から警察官もやってきて、女性は事情聴取を受けることになりました。

盗撮カメラを発見した40代の女性

「結局、カメラは私が見つけたものだけでした。カメラのバッテリーが切れていて、私の姿は映っていないとのことでしたが、ほかに映っていた人もいるはずです。被害に遭っていることにさえ気づけないものなのだなと、恐ろしくなりました」

警察官は女性に、公衆トイレでよくある盗撮の手口についても注意喚起したそうです。しかしあまりに巧妙な手口に、女性は無力感を覚えたといいます。

盗撮カメラを発見した40代の女性

「排水口の下から出てくるというのは珍しいケースだったらしく、警察官からは『トイレの場合、飲みかけの紙カップをゴミのように装ってストローにカメラを仕掛け、便器の後ろや横の棚に置かれていることが多いので、気をつけてくださいね』と言われました。正直、気をつけろと言われてもどうしようもないのでは…という思いもあります」

“生活用品ならなんでも” そこら中にある盗撮リスク 

盗撮被害は、いったいどこまで広がっているのか。実態を詳しく知る人物がいると聞き、取材班は和歌山県へ向かいました。

話を聞かせてくれたのは、盗撮被害者の支援に20年以上取り組んできた、全国盗撮犯罪防止ネットワーク代表の平松直哉さん。平松さんの話は、取材班の想像を超えるものでした。

(全国盗撮犯罪防止ネットワーク代表 平松直哉さん)
全国盗撮犯罪防止ネットワーク 平松直哉さん

「スマホの普及や小型カメラの精度の向上、記録メディアの大容量化などの技術の進化もあって、今や私たちが安心して過ごすどんなところでも、盗撮行為が可能になってしまっています。加害者が仕込もうと思えば、すべての生活用品に小型カメラを仕込むことが可能なんです」

そう言って見せてくれたのが、こちらの“お風呂セット”。銭湯や温泉など、公衆浴場の風呂場や脱衣所でよく見かけるものですが、実はこのなかに小型カメラが仕掛けられているというのです。みなさん、どこにあるか分かりますか?

カメラが仕掛けられていたのは、シャンプーの容器の中。赤い丸で囲んだ説明書きの黒い印字のあたりに、小さなレンズが隠れています。空のシャンプー容器にカメラとバッテリーをくくりつけ、2ミリほどの穴を細工することで、「撮影機器」として使えるのだそうです。

取材班は、カメラがついていると説明を受けた上で容器を見せてもらいましたが、どこに穴があるのかしばらく発見できませんでした。これが無防備でいる脱衣所や大浴場のなかに置いてあったらと思うと、ことばもありませんでした。

全国盗撮犯罪防止ネットワーク 平松直哉さん

「銭湯や温泉など、男女が別れている空間は安全と思うかもしれませんが、実際には多数の盗撮被害が起きています。たとえば、女性しか入れない現場では、“撮り子”と呼ばれる女性の仲間を雇って写真や動画を撮影させ、インターネット上のアダルト商品やDVDとして販売しているケースもあるんです。もちろん、映っている本人や施設はその事実に気づいていません」

(実際の盗撮映像が使用されている可能性のあるDVD)

平松さんは、アダルトコンテンツとして流通している映像の中から、実際の盗撮映像と思われるものを特定する活動を続けています。被害者や撮影された場所を明確にすることで、加害者の逮捕につなげるためです。

見せていただいた調査資料には、大浴場で体を洗う姿や、脱衣所で汗を拭く様子など、衣服を身につけていない女性たちの画像が画面いっぱいにコラージュされていました。モザイク処理などの加工は 一切施されていません。パッケージの裏には、「盗撮の醍醐味(だいごみ)ここに総結集」「まるで自分がその場にいるかのようになれる逸品」など、盗撮行為を面白がるキャッチコピーが記載されていました。

全国盗撮犯罪防止ネットワーク 平松直哉さん

「盗撮被害の実態について啓発活動をする中で、『私は年をとっているから』『私は太っているから』『私はかわいくないから』など、自分だけは狙われない、被害に遭わないだろうという反応を見受けることがあります。しかし加害者にとっては、そんなことは関係がありません。かれらは「自分が見たいものを見る」ことしか考えていません。年齢や体型、外見によらず だれでも被害に遭ってしまうのが盗撮被害なのです」

盗撮の危険あふれる社会…できることは?

いつでも、どこでも、誰でも被害に遭う可能性があるという現実。盗撮のような性犯罪を行う加害者が減ることが一番ですが、私たちはどうやって自分や大切な人の身を守ればいいのでしょうか。平松さんに、日ごろの生活で気に留めておくといいことを教えてもらいました。

全国盗撮犯罪防止ネットワーク 平松直哉さん

「これだけ小型カメラの精度が上がっていると、“盗撮カメラを見つけよう”と思ってもなかなか見つけることはできません。そのため私たちが被害の調査に出るときは、“カメラを探そう”とするのではなく、“生活用品にしてはおかしいところがないか”という目線で手がかりを見つけようと心がけています」

通勤中に駅のトイレでカメラを見つけた女性も、最初は「排水口のフタの奥が光っている」ということへの違和感が、発見のきっかけでした。身の回りに当たり前にある物に対して、少しでも違和感を覚えたら、詳細に確認してみることが 被害に気付くきっかけとなるかもしれません。

平松さんから、よく盗撮行為が起きる次のような場所について、意識しておくべきポイントを教えてもらいました。

エスカレーターでは、前ではなく横を向いて乗ることで、盗撮犯に「気付かれるかもしれない」という恐れを与えることができるそうです。

トイレは、さまざまな場所に小型カメラを仕掛けることが可能な空間だといいます。確認すべきポイントは、貯水タンクやトイレットペーパーの近くなど、死角になりやすい部分。個室の中だけでなく、洗面台に「顔」を撮るためのカメラが隠れていることもあります。

銭湯や温泉などでは、長時間脱衣所にいる人物や、シャンプーなどの「お風呂セット」を持って不自然にうろうろとしている人物に気をつけてほしい、と平松さんは指摘します。“置き撮り”という手法で、「お風呂セット」の位置を固定して撮影する手法もあるといいます。なじみの銭湯などでいつ行っても同じ場所に置いてあるものがあれば、確認してみてもいいかもしれません。

しかし、もしカメラを発見したとしても、警察に通報するのは抵抗があったり、「知らないままでいたほうがいいのでは…」と考えたりする人もいるのではないでしょうか。それでも声を上げることで、よい変化が起きることもあります。

記事冒頭の、駅のトイレで小型カメラを発見した女性。実は、続きがあります。

通報から1週間後。警察から連絡があり、加害者が逮捕されたという報告を受けたのです。

盗撮カメラを発見した40代の女性

「どういう経緯で加害者の特定ができたのかは分からないのですが、盗撮の常習犯だったと聞きました。つまり、ほかにも色んなところで盗撮を重ねて、何人、何十人という被害者を出してきた人だったんです。私が通報していなければ、もっとやっていたかもしれない…そう思うと、きちんと通報してよかったと感じています。ほかの人たちにも、もし盗撮を見つけたら、ちゃんと通報してもらいたいです。被害に遭った人には自分の身に何が起きているか知る権利があるし、もし知らないところで写真や動画が出回ってしまっていたら、それは被害を知る怖さよりよほど怖い。社会みんなで“盗撮は犯罪だからよくない”という認識を広げていくことが、まずは大事なのではないかと思います」

取材を通して

痴漢やセクハラ。日常生活に潜む性被害は、たくさんあります。しかし、なぜか盗撮については、“私は被害に遭ったことがない” と何の根拠もなく思い込んでいる自分がいました。盗撮がどのように行われ、写真や動画がどのように消費されているのか。そうした情報を知る機会が、乏しかったためだと思います。

平松さんから盗撮映像が使われている可能性のあるDVDを実際に見せてもらったとき、私はしばらく立ち上がることができませんでした。こんな無防備な姿が、どこの誰か分からない人に撮影され、どこかで「商品」として売られ、不特定多数の人に見られているかもしれない。私たちはそんな社会で生きているのです。パッケージに躍る「盗撮」ということばは、犯罪行為なのに商品価値を高めることばかのように使われています。現実を知ると、これまで「安全」だと思っていたすべてを疑いたくなりますが、被害に遭わないよう「気をつける」のではなく、加害の全容を明らかにしていくことで、この悪辣(あくらつ)な犯罪を「許さない」空気を作っていきたいです。今後も取材を続けますので、皆さんの思いや考えをお聞かせ下さい。

クローズアップ現代「急増する盗撮 暮らしに潜む危険と対策」

10月26日(水)午後7:30~7:57放送予定
※放送から1週間はNHKプラスで見逃し配信をご覧いただけます。

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