
性交同意年齢とは?なぜ13歳?世界では…<用語解説>
最近、ニュースなどで目にする機会が増えた「性交同意年齢」。これは性行為への同意を自分で判断できるとみなす年齢のことで、日本では刑法で13歳と定められています。これは、明治時代に制定されてから変わっていません。
何のために「性交同意年齢」が定められているのか?どうして日本では13歳なのか?海外ではどうなっているのか?長らく性暴力の被害者支援に携わっている、弁護士の上谷さくらさんに聞きました。
性交同意年齢 とは

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“性暴力”を考える ディレクター(以下、ディレクター)
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ことし7月、立憲民主党の衆議院議員が党の会合で「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになるのはおかしい」と発言したと報じられ、SNS上などで「性交同意年齢」という言葉が飛び交いました。批判が相次ぎ衆議院議員は議員辞職しましたが、そもそもこの一件で初めて「性交同意年齢」という言葉を知ったという人も少なくないのではないかと思ったんです。
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上谷 さくらさん
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普通に生活していると、なかなか聞き慣れない言葉だと思います。被害者弁護をしていても、お子さんが性被害に遭って、同意があったとみなされてしまったときに初めて性交同意年齢の定義を知って、親御さんが驚がくする…というケースも少なくありません。
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ディレクター
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率直に、「性交同意年齢」の定義って、何ですか?
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上谷 さくらさん
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性交、つまりセックスすることについて 同意する能力があるだろうとみなされている年齢、という言い方になりますね。また「性的同意年齢」というものもあります。キスしたり、裸にして体をなめたりなど、“性交”以外の性的行為に対して同意する能力があるとみなされる年齢のことです。

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上谷 さくらさん
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日本では「性交同意年齢」も「性的同意年齢」も「13歳」になっているので、13歳未満でレイプされたり、胸を触られる、無理やりキスされたりといった性被害に遭った場合は、その事実さえ立証できれば、問答無用で性犯罪に問うことができます。しかし逆に言えば、被害に遭ったのが13歳以上である場合、被害者は暴行や脅迫をされたか、抵抗できない理由があったかなどを自分で具体的に説明しなければならないのです。いまの刑法には「暴行脅迫要件」というものがあり、望まない性行為を犯罪として処罰するには、「同意していないこと」だけでなく、加害者から暴行や脅迫を加えられるなどして、「抵抗できない状態につけこまれた」ことを被害者側が立証しなければならないからです。
(※加害者が親など“監護者”にあたる場合は、刑法第179条「監護者わいせつ及び監護者性交等」により「18歳」とされています)
刑法 第176条 強制わいせつ
13歳以上の者に対し、暴行、または脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6か月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
刑法 第177条 強制性交等
13歳以上の者に対し、暴行、または脅迫を用いて性交、肛門性交、または口腔性交をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も同様とする。
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ディレクター
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「13歳」というのはどういう理由からなんでしょうか。
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上谷 さくらさん
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日本の性交同意年齢は、刑法が制定された1907年から変わっていないんです。つまり、明治時代から「13歳」のままということです。日露戦争が始まったのが1904年です。第一次世界大戦(1914年~)が始まるよりも前の社会で作った基準を、ずっと使い続けているということになりますね。制定当時、なぜ「13歳」とされたのかは意見がいろいろと分かれるところですが、そのころの女性の平均寿命は44歳で、若くして結婚したり、子どもを産んだりということが当たり前でした。当時の社会とすれば、性交同意年齢が「13歳」であることは妥当な年齢だったのかもしれません。ちなみに、2017年に一度刑法が改正されたときは、まだお隣の韓国でも13歳のままだったので(※)、今ほど議論にならなかったと聞いています。
(※現在 韓国の性交同意年齢は16歳。他の国の同意年齢については後述します)
何のために必要? 性交同意年齢

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ディレクター
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年齢で線を引くことにはどういう意味があるのでしょうか。
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上谷 さくらさん
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もし同意年齢が無ければ、司法の現場は大変なことになると思います。たとえば加害者が成人した大人で、被害者が子どもの場合、何歳の子どもであっても抵抗困難なほどの暴行・脅迫がなければ犯罪として成立しないケースが増えるからです。「被害に遭った子の年齢は10歳だけど、この子は頭がとても良くて性知識も豊富なんです。だからセックスに同意する能力は十分あったと思います」とか「この子の物言いは思わせぶりなので、大人の側が“同意があった”と誤解してしまっても仕方がないです」というような言い分がまかり通ってしまうと、子どもたちを守れないですよね。
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ディレクター
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なるほど、「性交同意年齢」は、被害に遭った子どもを守るための指標でもあるんですね。それが明治時代に「13歳」とされて、今もそのままである、ということですか。
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上谷 さくらさん
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そうなんです。同意できるとかできないとか、子どもの能力や性的自由を議論するための年齢というより、子どもたちを性的搾取からどう保護するか、その対象を線引きするための年齢であるべきなんです。一般の方にとっては「同意年齢」、という言葉が紛らわしい印象を与えていると思うので、私は「性的保護年齢」と言い換えてはどうかとも考えています。
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ディレクター
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確かに、子どもの同意能力の有無についてだけで「性交同意年齢」を捉えていると、「何歳までは手を出しちゃいけない」とか「何歳からは手を出していい」とか、自分よりも若い相手に性交に及ぶ大人側の視点でしか話ができなくなりそうです。
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上谷 さくらさん
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同意年齢は、大人の子どもに対する性行為の自由を保障するためのものではありません。いま、運転免許証の取得は18歳からですよね。実は18歳未満でも、運動神経抜群で知識豊富であれば、車を運転する能力そのものは持ちえるのかもしれません。でもどうして18歳まで免許が取得できないかというと、18歳未満はそれに伴う責任を負えないし、自己加害(※)の心配もあると考えられているからです。そこには制限という意味だけでなく、子どもたちを保護している意味合いもあるわけですよね。それと同じ考え方で捉えてほしいと思います。
(※自己加害…その人にその行為をするかどうか自己決定できる能力があったとしても、その行為が本人を害することになること。未成年の飲酒・喫煙など)
世界の性交同意年齢は?
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ディレクター
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「性交同意年齢(性的同意年齢)」は子どもたちを保護するためのもの、と捉えると、それが2021年のいまも「13歳」というのは妥当なのか?と気になってきますが、上谷さんはどのように考えますか。
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上谷 さくらさん
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私個人としては16歳まで引き上げて、せめて義務教育の間は守られるべきだと考えています。16歳でも、セックスに同意したり、予期せぬ妊娠をしてしまったりするリスクを考えて行動することができる能力が十分かと問われれば、いろんな意味でまだまだ未成熟だろうと思います。ただ一方で、性的なことは本人の自由意志に基づいて行われるべきものだから、国が過度に介入すべきではないという刑法の性質も鑑みる必要があります。ですので、少なくとも16歳ぐらいがいいのではないかと思います。
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ディレクター
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海外ではどうなっているんでしょうか?

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上谷 さくらさん
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国によって、宗教や文化的な背景、性教育の内容が違うので単純な比較はできませんが、先進国はだいたい15~16歳という感じですね。韓国でも去年、13歳から16歳に引き上げられたところです。少なくとも、日本の13歳は低すぎる設定だと思います。
年齢引き上げの議論は どうなる?
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ディレクター
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同意年齢については、去年6月からことし5月まで行われていた国の「性犯罪に関する刑事法検討会」でも取り上げられ、刑法を改正して引き上げるべきかどうか、議論されていましたね。議事録には、「引き上げは必要ない」という意見もいくつかありました。例えば、「大学生のお兄さんがいる中学生が お兄さんの友達を好きになるとか、近所のお兄さんなんかを好きになるとか、そういう恋愛はあり得る。そういうところまで処罰の対象になってしまう規定を作るのは適当ではないのではないか」など…。一般の人たちの間でも、真摯な恋愛関係の中での“純粋な”性行為と、性犯罪として処罰されるべき性行為は違うものではないかという戸惑いがあるだろうと思います。上谷さんはどうお考えですか。
(※国の「性犯罪に関する刑事法検討会」議事録は、こちらで読むことができます。NHKサイトを離れます)
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上谷 さくらさん
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私は子どもたちが年上の大人に恋心を抱くことを禁じたいと考えているわけではないんです。それ自体はあり得ることだと思いますが、いま日本には、まだ未成熟な子どものときに、大人から言葉巧みに“真摯な恋愛”だと思いこまされて、望まない性的な行為に応じてしまい、後から“あの同意は間違いだった”と。“あれは真摯な恋愛なんかじゃなかった、性被害だった”ということを認識して、その後の人生で長く苦しみ続けている…という人がたくさんいるわけですよね。そういう実態をちゃんと直視して、議論していくべきだと思います。
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ディレクター
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ここまで、「大人と子ども」のケースを中心にお話を聞いてきましたが、例えば交際関係にある13歳と18歳というような、子どもどうしでも性行為に至るケースはあり得ますよね。そういったことの取り扱いはどのように考えていますか?
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上谷 さくらさん
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いまは、加害者側が少年法で刑事責任を問われる年齢(14歳)に至っていれば、少年事件として取り扱われることになります。ただ今後、たとえば、性的同意年齢が私の主張する16歳に引き上げられたとすると、15歳と14歳など、恋愛関係に基づく子どもどうしの性的行為も犯罪となってしまいます。先ほどの国の検討会では、そういったケースまで犯罪とすべきではないという意見でまとまっています。私自身もそう思っています。なので、新たに「年齢差」を要件に設けるべきという声も上がりました。ただこれも、まずは同意年齢を引き上げるのか、引き上げないのか。引き上げるとして、何歳とするのか?という議論が落ち着いてから、対処を検討していくことになりそうです。
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ディレクター
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既に検討会は終了しましたが、これから先、議論はどのような流れで進むのでしょうか?
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上谷 さくらさん
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検討会が取りまとめた論点を、今後は法務省に置かれている「法制審議会」というところで議論していくことになります。まずは誰がその審議会の議論に入るか、委員を選ぶところから始まります。論点も、同意年齢だけにとどまりません。性的な画像や動画を盗撮する行為を対象とした罪の新設や、暴行・脅迫がなくても被害者の同意がない性行為を処罰の対象とすべきかなど、様々です。かなり時間のかかる議論になると思いますが、いちばんよくないのは、誰もあずかり知らぬところで議論だけが進んでしまうことです。性行為に関することは、この社会に無関係な人が誰ひとりとしていない大事な話です。ぜひ、多くのかたに議論のゆくえを注視してほしいと思っています。
(対談:2021年8月)