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“性暴力”を考える vol.121~

“性暴力”を考える vol.121~

同意のない性的な言動はすべて“性暴力”です。
このページでは、性をめぐる問題について 皆さんと一緒に考えたいと思っています。

「これって性暴力?」
「被害を打ち明けられたときは、どうすれば?」
「子どもへの性教育はいつから?」

あなたの思いや悩み、意見を各トピックにある「コメントはこちら」か ご意見募集ページより聞かせてください。(※)
投稿の一つひとつに、担当のディレクターや記者が目を通し、返信させていただいたり新たな取材につなげたりしていきます。
※どちらも、匿名で送っていただくことができます。ただし個別の被害相談、ご要望などにはお応えできないことがあります。
【毎週金曜日に更新中】
日本人留学生 駐在員から性暴力 被害者は他にも…【vol.142】
太田啓子さんに聞く "男の子"を性被害の被害者・加害者にしないために【vol.141】
“男の子”の性被害 見知らぬ男や同級生から…“SOSは出せなかった” 【vol.140】
教員からの性暴力 私はPTSDで退学し 先生は今も教壇に・・・【Vol.139】
“わいせつ教員対策法”成立 被害者支援などに課題も・・・【Vol.138】
“傍観者”にならない!セクハラ・性暴力 大学生たちの挑戦【Vol.137】
"自撮り"を送らされ被害に…児童ポルノマーケットの闇【Vol.136】
#男性の性被害 相談窓口の課題は【Vol.135】
荻上チキさんと考える #男性の性被害 “セカンドレイプ”をなくすために【Vol.134】
身近に潜む!男の子の性被害 私たちにできること【vol.133】
わいせつ、自慰の強要・・・男性の性被害 切実な声【vol.132】
男性の性被害 292人実態調査アンケート結果【vol.131】
マンガで伝える「男性看護師 セクハラ被害の実態」【vol.130】
男性のレイプ被害 HIVに感染も「被害を認識できなかった」【vol.129】
男性の性被害 実態調査アンケートご協力のお願い【vol.128】
“科学者”になって性を学ぼう!~子どもへの性教育~【Vol.127】
SNS相談から見えた被害事例は?【vol.126】
性教育に役立つ絵本 警察庁の現役キャリア官僚監修【vol.125】
就職活動中などのセクハラ “4人に1人が経験”【vol.124】
どう考える?ネットにあふれる性的な情報【vol.123】
男性の性被害 誰にも相談できず…性暴力被害の実態【vol.122】
山本潤さんに聞く! 議論大詰めの “刑法改正” 【vol.121】
【過去のトピックを読む】
Vol.1~Vol.40
Vol.41~Vol.80
Vol.81~120

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クロ現+
2021年9月24日

日本人留学生 駐在員から性暴力 被害者は他にも…

「頼りにしていた現地の日本人駐在員から性被害に遭いました」
「日本人会のパーティーに私だけ違う時間に呼ばれて性暴力を受けました」


これは、夢と希望を胸に渡った留学先で、性暴力の被害に遭った人たちの声。大学生たちがアンケート調査を行ったところ、留学先での性被害の事例が200件以上寄せられ、深刻な事態が浮き彫りになってきました。
新型コロナウイルスの影響で留学を断念する学生も多いなか、理不尽な理由で夢を諦めるようなことがないように。立ち上がった学生たちを取材しました。  

 (さいたま放送局記者 信藤敦子)

夢抱いた海外留学 信頼していた駐在員から性暴力被害に

【カホさん(22歳・仮名)】

都内の大学に通う、埼玉県在住のカホさん(22歳・仮名)です。将来、紛争解決や人道支援に携わるため、英語以外の語学を学びたいと、去年夏までの1年間、ヨーロッパに留学しました。

現地に着いてほどなく、街を歩いていると、1人の日本人男性から声をかけられました。大手企業から派遣され、妻子とともに滞在しているという30代の駐在員。語学も堪能で、「困ったことがあったらいつでも言ってね」と言われ、カホさんは進路への学びが得られるかもしれないと考えました。

1週間後、食事に誘われたカホさん。駐在員は、留学先を選んだ理由や将来の夢を熱心に聞いてくれ、「自分はビジネスで来ているけど、感化された。応援するよ」と励ましてくれたといいます。その後も、現地の人とのトラブルの回避方法から、日本食を扱うスーパーまで、親身になって教えてくれた駐在員。カホさんがアルバイトする日本語学校に駐在員の子どもは通っていて、送迎時にたびたび顔を合わせていたこともあり、信頼しきっていたといいます。

カホさん(仮名)
「海外で活躍する日本人駐在員が、自分のことを肯定してくれているような気がしてうれしくなりました。ホームステイ先と大学とバイトの往復では他の日本人と知り合う機会もなく、定期的に連絡がくるなかで、いつのまにか留学先で唯一頼れる存在になっていました」

出会ってから4か月がたった、その年の暮れ。「日本食を作るから食べにおいで。日本のテレビも見られるよ」と、自宅に誘われます。妻子が日本に一時帰国するタイミングだと知り、カホさんは「外のレストランにしませんか」などと提案しましたが、何度も誘われたといいます。

今後の関係に亀裂が生じることを恐れ、カホさんは断り切れずに自宅を訪れました。すると突然、「大丈夫だから、信頼して」と、別人になったかのように強引に性行為を迫られました。カホさんが「やめてください」と泣いても、「しばらくすれば慣れるから」と受け入れられませんでした。逃げようにも外は真っ暗で家までの道も分からず、治安が悪い海外で服が乱れた状態で出ることも危険に思えました。「外に出すから」と避妊もしようとしない駐在員が、さらに暴力的になることにも恐怖を覚えたカホさん。終わるまで耐えて、相手が満足したらすぐに帰ろう、それが最善の方法だと思ったといいます。

カホさん(仮名)
「その場では、必死で相手を逆なでしないことを考えていました。どれだけ泣いても全く相手に届かないことに、体もそうですが、心も傷つきました。しばらくは、あれはたいしたことではなかったんだと、自分に言い聞かせるようにしていましたが、相手の子どもへの罪悪感も生まれました。お父さんを悪い人にしてしまった。ちゃんと断っておけばよかったという後悔でいっぱいになりました」

他の駐在員からもセクハラ被害に
年が明け、日本大使館で現地の日本人が参加する新年会が行われました。加害した駐在員以外の日本人とのつながりも作りたいと参加したカホさん。しかし、そこでも別の複数の駐在員からセクハラ被害に遭ったといいます。

40代から50代の駐在員たちに自己紹介を促され、カホさんは将来の夢や留学の目的について話しました。すると、「そんな真面目なことはいいから」とお酒を強要され、「毎晩おじさんたちの相手をしてよ」と体を触られたり、卑わいな言葉を投げかけられたりしました。その場には、大使館の職員や駐在員の妻たちもいましたが、誰も助けてくれず、ある女性は「若いっていいわね」と通り過ぎて行ったといいます。カホさんは、そこで初めて「これはおかしい」と気づきました。

カホさん(仮名)
「私は『若い女』としての価値しかないような気持ちになりました。こんなハラスメントが当たり前の古い価値観の中にいるから、あんなことが平気でできるんだと思いました。女性を物としか見ていないと、やっと分かったんです」

カホさんは、現地で知り合った年上の日本人女性に、駐在員のコミュニティーが苦手だと伝えました。すると女性は、カホさんに性行為を強要した駐在員の名前を出して、「ご飯に誘われて、キスをされそうになったから逃げたことがある。あの人は危ないから、気をつけて」と告げました。

駐在員が同じことを繰り返していると知ったカホさんは、女性に被害を打ち明けました。すると女性は、「生理はきているのか」と確認した上で、性病の検査も必要だからと、病院に行くよう勧めました。「将来、不妊につながる可能性もある。万が一妊娠していたときのことを考えて」との助言はその通りでしたが、現地の言葉が十分に分かからない中での検査には、戸惑いや不安でいっぱいだったといいます。

カホさん(仮名)
「女性の強い説得で、初めて自分の体に危険があると気がつきました。避妊はするのが当たり前だと思っていたものの、経験や知識もまだないなかで、相手に『外に出すから』と言われた意味もよく分かっていませんでした。決死の覚悟で病院に行き、幸い何もありませんでしたが、こんな経験は、もう誰にもしてほしくないと心から思います」

アンケート調査が浮き彫りにする留学先での性被害の実態
文部科学省が平成25年から官民協働で展開する留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」の奨学金を使い、留学したカホさん。自分が受けた性被害や理不尽な現状を留学生が集まるSNSに投稿したところ、約100人からメッセージが寄せられました。「あなたは悪くない」「適切なカウンセリングを受けて」といった声とともに、「私も同じような被害に遭った」という声も数多くありました。


(SAY NO!ホームページより)

留学先の性暴力被害の実態を少しでも明らかにしたい-。カホさんら、同じ文部科学省のキャンペーンで留学した約10人は、去年5月から7月にインターネットでアンケート調査を実施しました。

【アンケート調査の詳細はこちらから読むことができます】 ※NHKサイトを離れます



回答したのは留学生や留学経験者など516人。留学先で性被害を受けたケースは157件あり、被害を見聞きしたケースを合わせると、216件が報告されました。
また被害は世界各地に及び、ヨーロッパや中南米、アフリカでは、留学生の数に比べて被害件数が多いことも明らかになりました。



日本人の加害者は、半数以上が大企業や商社、国際機関などの「駐在員」。次いで「友人・知り合い」「現地就職者」でした。



また、6割近くが「周りに頼れる人がいなかった」と回答。留学先では、知人や身近な人がいない場合が多く、問題に直面したときの解決が困難となりやすい状況も明らかになりました。

さらに自由記述欄には、多くの切実な声が記されていました。

「何も知らない若い留学生という弱い立場につけ込まれた」
「被害を伝えても、よくあることだよと取り合ってもらえなかった」
「現地の外国人に、アジア人はセックスワーカーだと言われてお尻を触られた」
「ホストファミリーからセクハラにあった」


カホさんたちは、記述の1つ1つを、胸が締め付けられる思いで読み進めたといいます。

 
(公認心理師 齋藤梓さん)

性暴力被害に関する研究や被害者支援を行っている公認心理師で、目白大学専任講師の齋藤梓さんは、加害者が社会的な地位や関係性を利用していると指摘します。

目白大学専任講師 齋藤梓さん
「言葉も分からない海外でどれだけ孤独で不安だったか、察するに余りある。頼れる人の少ない留学生と、現地に根ざしている駐在員とでは圧倒的な力関係の差があり、断れないのは当然のこと。留学生を守るためにも、早急な対策が必要だ。 加害者が自らの優位性を生かし、断りにくい関係を利用している構図は、多くの性暴力被害で見られる。たとえ家に行ったとしても、性行為に同意したわけではない。被害を受けた人は、どうか自分を責めないでほしい」

「留学生のための性暴力対策マニュアル」作成

(留学生のための性暴力対策マニュアル より)

カホさんたちはアンケートに寄せられた様々な声をもとに、「留学生のための性暴力対策マニュアル」を作成しました。集まった声を無駄にせず、1人でも多くの留学生を性暴力の被害から守りたいという思いからでした。

【マニュアルの詳細はこちらから読むことができます】※NHKサイトを離れます

▽日本人からの性暴力
「日本人だからと相手のことをむやみに信用しすぎず、適度な距離感を保つこと」

▽外国人からの性暴力
「日本でされて嫌なことは、どの国でされても嫌なこと」
「はっきりNOといい、逃げても大丈夫」

その上で、性暴力が起きたらすぐに検査することや、相談できる人を複数持つことの重要性、そして加害者を処罰することで尊厳を回復できたり、社会を信頼できたりすることにつながることなどを紹介しています。
また、もしもの際にすぐに連絡できる日本語対応の医療施設や大学の留学支援室の連絡先、留学先のアフターピルの取り扱いについて調べておくようにアドバイスしています。

カホさんは日本の弁護士に相談し、数か月の交渉の末、駐在員から慰謝料の支払いを受けました。駐在員は、自宅に誘って性行為をしたことは認めましたが、同意の有無についてははぐらかしたままだといいます。その上で、「傷つけたことは申し訳なかった」と謝罪したといいます。

カホさん(仮名)
「泣き寝入りはしたくなかったし、手続きを経て、自分が悪くなかったとも思えました。でも、大事な留学の時間を費やさなければいけなかったことが悔しい」

カホさんは、留学することを心配していた家族には、被害のことを一切話していません。そうしたなか、目標だった語学検定に合格。人道支援の現場で働きたいという夢に向かって、着実に歩んでいます。

自分と同じ思いをする人がいなくなってほしい-。カホさんたちは、マニュアルの冒頭にこう記しています。

私たち留学生は勇気と覚悟を持って留学する。
どの場所で生きようと、個人の尊厳が担保され人間として 生きる権利を持っている。
留学中に被害にあった私たちは、世界に旅立つ前のあなたに伝えたいメッセージがある。
留学中に起こりうる悪質な性暴力があることを知って欲しい。
未来を担う若者たちが、安全に留学できるように。

取材を終えて
専門家によると、留学先での安全対策は学生任せになっているのが実情だといいます。大学側が安全性を1つ1つチェックすることは現実的に難しく、留学前のオリエンテーションなども十分に行われない大学もあるそうです。
ことし3月の参議院文教科学委員会で、萩生田文部科学大臣は「邦人の性被害が非常に多いと聞いて、大変ショックを受けた。渡航前にみなさんにアドバイスする必要があると認識している」と述べ、実態の把握や、関係省庁と連携して学生が安心して留学できる環境整備のあり方を検討する考えを示しました。
カホさんたちは、HPで「このマニュアルはゴールではない。 暗澹 あんたん たる戦いの開幕戦です」と、思いをつづっています。学生たちにこれ以上、 暗澹 あんたん たる気持ちにさせない社会をわれわれ大人たちが率先して作らねばならないと、強く感じています。

留学先での性暴力被害の実態について、どう感じられましたか。皆さんのご意見をお寄せください。 この記事に「コメントする」か、 ご意見募集ページよりお待ちしております。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。


クロ現+
2021年9月10日

太田啓子さんに聞く "男の子"を性被害の被害者・加害者にしないために

身近に潜む、"男の子"の性被害。前半の記事では、レイプ被害に遭った男の子が、性の知識が無いために被害の重大性を認識できなかったり、同級生にパンツを下ろされた男の子が、親からの叱責を恐れて被害を口にできなかったりする実態を紹介しました。加害者が男の子だったケースも少なくはなく、男の子を被害者にも、加害者にも、傍観者にもしないためにどうすればいいか、社会全体で考える必要があります。
後半では、著書「これからの男の子たちへ 『男らしさ』から自由になるためのレッスン」が大きな反響を呼んでいる太田啓子弁護士に、この問題についてうかがいます。

(報道局社会番組部ディレクター 竹前麻里子)



太田啓子さん
弁護士。離婚や性暴力事件などを主に手がける。著書「これからの男の子たちへ 『男らしさ』から自由になるためのレッスン」は、「子どもたちは、社会から発せられる性差別的な価値観や行動パターンを身につけてしまうのではないか。性差別や性暴力を無くすためには、男の子の育て方が大切では」というテーマで、1年で10刷と大きな反響を呼ぶ。中学1年生と小学4年生の男の子の母親。

SOSを出せない男の子たち…私たちができること
ディレクター:NHKが性被害に遭った男性にアンケートをお願いしたところ、292人もの方が回答してくれました。そのうちの6割は、未成年のときに被害に遭っており、埋もれている男の子の性被害はかなりあるのではないかと感じます。

太田さん:男の子の性被害は、私も仕事で扱ったことがあります。本当に明るみに出づらいんですよね。女の子も性被害に遭ったことは言いづらいですが、男の子の場合は、被害を信じてもらえないのではないか、からかわれたり差別的なことを言われたりするのではないかと想像して、相談できないのだと思います。

ディレクター:太田さんがおっしゃるとおり、未成年で被害に遭った男性の7割以上は、誰にも被害を相談していませんでした。これは、成人してから被害に遭った方よりも2割近く多かったです。


男性の性被害約300人アンケートの全体状況はこちら

太田さん:暴力を受けたときに人に相談するかどうかは、男女によって大きな差があるという調査もあります。あるNPOが高校生に、暴力を受けたときにどう対応するのか聞いたところ、「誰かに話を聞いてもらう」「相談する」と答えた男子の割合が、女子よりもかなり少なかったのです。一方、男子に多かった回答は「やり返す」でした。



ディレクター:どうして、こうした差が生まれてしまうのでしょうか?

太田さん:個人差もあるにせよ、全体の傾向としては、男の子か女の子かによって、相当違うメッセージを親や先生や社会が発しているからだと思います。「男が弱音を吐くんじゃない」「男は弱いままじゃいけない、やり返せ」と周囲から言われると、男の子たちは性暴力の被害に遭ったときに、被害者としての自分を受け入れづらくなってしまう。
男性たちによる、理由が不明の無差別連続殺人事件などの凶悪事件などを背景に、アメリカでは2010年頃から、男性の問題行動について「Toxic Masculinity(トクシック・マスキュリニティ)」という用語で語られ始めました。日本語では「有害な男らしさ」と訳されることが多いですが、「男らしさそのものが有害」というより、「男らしさ」に過剰に執着するゆがみが、自他を害する暴力的な行動につながりかねないと警鐘を鳴らす言葉です。
弱音を吐かず、危機的状況でもくじけずにたくましく切り抜けるといった「男らしさ」を社会が男性に求めることは、よい効果を生むことがある反面、男性が痛みや恐怖といった感情を抑え込んだり、弱みを開示できなかったりする、有害な面もあります。
男性の自殺率が女性に比べ2倍以上高いのも、こうした背景が関係している部分もあるのではないでしょうか。


太田さんの著書でも、「有害な男らしさ」が大きなテーマになっている。

ディレクター:確かに、前半の記事で紹介した被害者の中にも、「母親から『男のくせに情けない』と何度も言われてきたので、性被害に遭ったときに相談できなかった」という方がいました。私も2人の男の子の母親なので、多くの男の子がつらいことがあっても1人で耐えているとしたら、とても胸が痛みます。

太田さん:そこで重要になってくるのが教育です。先ほど紹介したNPOは、高校生にアンケートをとったあとに、生徒たちに対してワークショップを行っています。生徒たちに2人1組になってもらい、「先輩から暴力をふるわれ、さらに父親から『男のくせに、やられたらやり返してこい!』と怒鳴られ、落ち込んでいる生徒役」と、「声をかける友達役」をやってもらいます。「誰かに話を聞いてもらう」場面を疑似体験することや、暴力ではない問題解決方法を考えてもらうことが目的です。ワークショップの後に再度アンケートをとると、男子の「誰かに話を聞いてもらう」「相談する」という割合が増えました。暴力を受けたときは、誰かに相談することが望ましいと教えれば、子どもたちの考え方をバージョンアップすることができるんです。

ディレクター:そうした教育は全国で行ってほしいですね。家庭では、どんな声かけを男の子にすれば、被害に遭ったときにSOSが出しやすくなると思いますか。


太田さんと息子さんたち

太田さん:私は息子たちが負の感情を出したときに、言語化を促すようにしています。「よく言えたね」「いま疲れてるんだね」「何が悔しかったの?ママに説明してみて」「ああいうふうに言われて悲しかったんだね」といった感じです。「男が弱音を吐くんじゃない」という言葉の対局ですね。感情には、いろいろなひだがあるはずなので、それを言葉にできて初めて、自分の感情の輪郭を正確に把握できるのではないかと思います。自分の気持ちをぼんやりとしか表現できないと、自分が傷ついたときや、他人の痛みに対して、感覚が鈍くなってしまう。
ただ、私が息子たちにうまく対応できているかというと、そんなことはなくて、まだ試行錯誤中です。

太田さんが息子さんたちの感情の言語化をサポートする上で参考にしている本
「こころキャラ図鑑」(池谷裕二監修)
男の子にも幼いころからの性教育が重要
ディレクター:前半の記事では、小学生のときに公園のトイレでレイプされる被害に遭ったものの、性に関する知識が無く、被害の重大性に気づけなかったという方を取材しました。幼いころからの性教育の必要性を感じさせるお話です。



太田さん:性教育は、遅くとも5歳くらいから始めなければならないと思っています。ユネスコは「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」のなかで、5歳から包括的性教育(性交や出産のことだけでなく、他者との関わりなど広く人権に関わる問題を教えること)が必要だとしています。海外ではこのガイダンスを参考に、多くの国で具体的な避妊法、性の快楽、性暴力から身を守る方法などを子どもたちに教えています。しかし日本の公教育では性交は扱ってはならないとされており、国際水準からとんでもなく遅れていると思います。

ディレクター:性交を扱わないと、どのような性暴力があるのか、子どもはイメージしづらいですよね。

太田さん:学校の性教育では不十分なので、私は子どもが小さい頃から、絵本を使ってプライベートゾーンについて教えてきました。「水着で隠れるところは自分だけの大切な部分だよ。自分でも大事に扱うんだよ。人に黙って見られたり触られたりしたら性暴力だから、叫んで逃げるんだよ」という話をしています。
性被害が心配なので、ショッピングモールなどの男子トイレはできるだけ子ども1人で行かせずに、2人で行かせるようにしています。トイレの外から「ママ、ここで待っているからね。大丈夫?」と声をかけて、親が近くにいると言うことをアピールしてきました。

ディレクター:男の子も性被害に遭うという前提で、身を守る方法を教える必要がありますね。

太田さんが家庭で包括的性教育を実践する上で参考にしている本
「おうち性教育はじめます」(フクチマミ・村瀬幸浩著)
男の子を加害者や傍観者にしないために
ディレクター:この問題ではもう一つ、気になる調査結果があります。「男性の性被害」アンケートでは、未成年で被害に遭った人のうち、加害者が男性だったと答えたケースは87%にのぼりました(加害者が「男性」+「男女ともいた」の割合)。また、加害者の約3割は、学校や習い事の同級生や先輩でした。つまり、男の子が加害者になってしまうケースが少なくいのです。


※女性から加害を受けたケースも2割以上あり。女性が加害者の場合、周りから「うらやましい」などと言われて被害を理解してもらえず、つらい思いをする被害者も。詳しくはこちら

太田さん:法務省の犯罪白書を見ても、性犯罪の加害者の圧倒的多数は男性です。もちろん、男性の多くは性暴力の加害者ではありませんが、統計からは、性差別構造がある社会で、男性に刷り込まれる「有害な男らしさ」の中に、性暴力に走ってしまいかねないバイアスが潜んでいることに大きな関係があるのではないかと思います。

ディレクター:息子たちが将来、性犯罪の加害者にならないようにするためには、どんな教育が必要なのか考えさせられます。太田さんは息子さんたちに、家庭でどんな話をしていますか?

太田さん:性暴力の問題がニュースで報じられたときに、子どもが分かる言葉で「誰でも悪いことをする気持ちの芽があるかもしれない。ママだってあるかも。そういう気持ちに気付いて、自分でそれを抑えられるように成長していかないとね」「こういうときはどうすればいいだろうね」といった話をするようにしています。なかなか毎日できるわけではないですが。
あとは息子たちが「カンチョー」(他人の肛門付近を指で刺したり、刺すふりをしたりすること)と言いながらお尻をたたくなどしたときも、その都度厳しく注意しています。「カンチョー」や「スカートめくり」に、他者への暴力のほう芽があるかもしれないと思うからです。なかなか簡単には止まりませんでしたが、私がすごく真剣な顔で話しているということは伝わっているようです。
性暴力に関しては、加害をする人は多数派ではなく、一番多いのは、傍観者に回ってしまう人ではないかと思います。目の前で被害が起きても何もしない、被害に気づこうとしない人が多いと思うので、そうならないようにすることも重要です。

ディレクター:そうですね。前半の記事で取材した男性は小学生のとき、同級生にパンツを脱がされる被害に遭ったのですが、周りに複数の同級生がいたにも関わらず、誰も止めてくれなかったそうです。周りの誰かが「やめよう」と言えば、防げる被害もあるはずです。



太田さん:本当にそう思います。ある男子校の先生に話を聞くと、男の子が何か悪いことに誘われるときに、「お前、男だろ」という言葉をかけられることがとても多いというんです。男の子は思春期になると、「お前も男だろ」「お前は入ってこないのか」というホモソーシャル的なノリにどう抗うか、という問題が出てきます。

ホモソーシャルとは
同性どうしの性的関係性を持たない結びつきのこと。「男のつきあい」「男どうしの友情」「男の絆」という意味合いで用いられる。その絆にとって異質なものとして、女性や、「男らしさ」を欠く男性(男性同性愛者など)が、蔑視や嫌悪の対象となることも。

ディレクター:性暴力の取材をしていると、ホモソーシャル的な話を聞くことは多いです。前半の記事で紹介した被害者の方も、「知人の男性が、女性の同意をとらずに性的な行為を行ったことを武勇伝のように話していた」と言っていました。
ただ、男の子がホモソーシャル的なノリに抗って、友人に「性暴力をネタにするのはやめよう」「被害者の人権を軽視するな」というのは、ハードルが高いですよね。

太田さん:そうですよね。中学生の長男が小学6年生のときに、「もしも同級生の女の子が痴漢に遭って、友人の男の子がそれをからかっていたら、僕はどうしよう」ということを私に聞いてきたんですね。これは、私が息子に勧めたマンガに出てくるエピソードなんですけれど。

太田さんが息子さんたちに勧めたマンガ
「マンガでわかるオトコの子の『性』思春期男子へ13のレッスン」(村瀬幸浩監修、染矢明日香・みすこそ著)

ディレクター:本からそうした気付きを得られるのは素晴らしいですね。

太田さん:この本は長男が小学校中学年くらいのころから読んでいて、セクシャリティに関する基本的で重要なことが分かりやすく描かれていておすすめです。こういう場面があったらどうしようかと考える機会を男の子がなるべく早く持つというのは、重要なことだと思います。

ディレクター:「痴漢被害をからかう男友達に、どう対応すればいいか」という息子さんの悩みに、太田さんはどう答えたんでしょうか?

太田さん:私は、「友達に正面から反対すると、周りから浮いたり仲間外れにされたりする心配があるよね。その気持ちはよく分かる。だから一緒に悩もう。色んな人の意見を聞いて、私も一緒に考えたい。どうすればいいか考え続けることが大事なんだよ。
友達に『やめろよ』って言うのが難しかったら、最低限、笑いに同調しないことはできるんじゃないかな。友達が『どんな風に触られた?』と言って盛り上がっていても、1人だけ絶対に笑わないで、ムスッしているといった、消極的な抗い方はできると思うよ」という話をしました。
ホモソーシャルな攻撃や暴力は笑いの形でやってくることが多いので、笑いには注意だよということは折に触れ息子たちには話しています。どのくらい伝わっているのか分からないですけれど。

ディレクター:私の同僚が取材した記事でも、大学で起きた性暴力事件に関して、学生たちが「自分もその場にいたかった」などと会話のネタに盛り上がっていたというケースがありました。性暴力を笑いのネタにするのは、許しがたい行為です。

太田さん:男性も、そうしたことを楽しんでいる人ばかりでは無いと思います。私の本の感想を読むと、「ホモソーシャル的なノリが嫌だった」という男性は結構います。案外、おつきあいで合わせている人が多いかもしれません。「そろそろ、こういうのはやめませんか」ということを言い出せる人が増えてほしいですね。

ディレクター:私の息子たちにも、そういう人になってほしいです。きょうのお話を参考に、息子たちへの声かけをできるところからしていきたいと思います。
インタビューを終えて
私は以前、息子たちに「たくましく我慢強い子に育ってほしい」という思いを持っていました。しかし、太田さんの本を読んだり、お話をうかがったりする中で、子どもへのこうした態度は「つらいことがあっても周りに言えずに抱え込んでしまう」という、生きづらさにつながるのではないかと気づかされました。
また、男の子たちを性暴力の被害者だけでなく、加害者にも傍観者にもしないために、どんな教育ができるかという太田さんの視点は、性暴力を無くしていく上でとても重要だと感じました。
「男の子の性被害」については、今回ご紹介した事例以外にも、様々な被害者の声が寄せられています。これからも、見えづらい被害の実態を取材していこうと思います。

前半の記事: “男の子”の性被害 見知らぬ男や同級生から…「SOSは出せなかった」

イラストは、性教育マンガがネット上で話題のヲポコさんに描いていただきました。ヲポコさんの性教育マンガ、インタビューはこちら

子どもの性被害や、男性の性被害について、あなたの体験や思いを聞かせてください。 この記事に「コメントする」か、ご意見募集ページよりお待ちしております。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。


クロ現+
2021年9月10日

"男の子"の性被害 見知らぬ男や同級生から…「SOSは出せなかった」

「下校中に面識のない男に公衆トイレに連れ込まれ、無理やり、肛門に性器を挿入された」
「同級生の男子に手足を押さえられ、ズボンとパンツを下ろされて性器を露出させられた。助けを求めて叫んだが、だめだった。帰宅途中に一人で泣いた」


NHKが性被害に遭った男性292人にアンケートを行ったところ、回答してくれた人の約6割(178人)が、未成年のときに被害に遭っていました。また、そのうちの7割は被害を誰にも打ち明けていませんでした。レイプの被害に遭ったものの、性に関する知識がなく、重大な被害だと認識できなかったケース。幼いころから母親に何度も言われた“ある言葉”が、SOSを出すのをためらわせたというケースも。当事者たちの声から、“男の子”の性被害の実態や、SOSが出しにくい背景が見えてきました。

(報道局社会番組部ディレクター 竹前麻里子)


関連記事:太田啓子さんに聞く “男の子”を性被害の被害者にも加害者にもしないために
レイプ被害に遭ったが「重大な被害だと分からなかった」
アンケートに答えてくれたケンタさん(仮名・20代)は、11歳のとき、見知らぬ男にレイプされる被害に遭いました。「男性も性被害に遭うという社会的な認知が広がってほしい。私も性被害に遭った男性の記事を読むことで、精神的に助けられることがあったので、同じような被害に遭った方の少しでも力になれれば」と、私たちの取材に応じてくれました。


ケンタさん(仮名・20代)

被害に遭ったのは小学校からの帰り道。一緒に下校していた友達と別れ、自宅まであと10分ほどというところでした。20歳前後の知らない男がケンタさんに近づき、ついてくるように言いました。ケンタさんはそれまで、見知らぬ男から声をかけられたことがほとんどなかったため、なぜ男がそんなことを言うのか分からず、思考が停止したといいます。また小学生だったケンタさんにとって、大人の男性は少し怖い存在で、断りづらいと感じ、とっさに逃げたり抵抗したりすることはできませんでした。どうしようかと戸惑い体が固まってしまったケンタさんを、男はすぐ近くにあった公園のトイレに連れ込み、ズボンを下ろして肛門に性器を挿入してきたといいます。



ケンタさん
「男は明らかに悪そうとか、暴力的な感じの人ではありませんでした。もし男が暴力を振るってきたりしたら、おかしいと思い逃げたかもしれませんが、そういうことはなかったです。知らない人にトイレに連れ込まれるというのが、当時は全く想定外の出来事だったので、どうすればいいのか分かりませんでした。男が性器を挿入してきたときも、当時は性に関する知識が未熟だったので、それが何を意味するのか理解が追いつかず、体が動きませんでした」

ケンタさんは周囲の大人から「性被害に気をつけて」「知らない人について行かないで」と声をかけられた経験はありませんでした。また授業などで、どのような性暴力被害があり、どうやって身を守ればいいのかということを習った記憶もありません。
男はケンタさんに、「このことは絶対に誰にも言うな。言ったら殺すぞ」と言って去っていきました。被害について、ケンタさんが周りの大人に打ち明けることはありませんでした。

ケンタさん
「被害に遭ったことは、ショックと言えばショックだったんですが、何が起きたのかよく分からないという気持ちのほうが大きかったです。言語化できないというか。 被害について親や先生に話すのは、なんとなく恥ずかしいと思いました。それまで周りの大人に迷惑をかけるタイプではなく、腹を割って話すのが得意ではなかったので、打ち明けるのは、心理的な障壁がありました。当時は自分が受けた被害が重大なことだと分からなかったこともあり、黙っていようと思いました」

精神的な不調あったが 「甘えでは」との思いも
ケンタさんは思春期に入ってから、次第に被害の重大さに気づくようになりました。そのころから、精神的な不調に悩まされるようになります。あまり親しくない人に不信感を抱いたり、知人の男性が飲み会の席などで「女性の同意をとらずに性的な行為を行った」ことを話しているのを聞くと、気分が悪くなったりするようになりました。



ケンタさん
「心の浮き沈みが激しく、しんどいなあと思うことは結構あります。でも、これがどのくらい被害と直接的に関係あるのか分からず、もやもやします。『人と接するのが苦手なことを、被害のせいにするのは甘えではないか』『自分の弱い部分を正当化してしまうと、前に進めないのでは』と思うことも。 たとえば、自分の弱い部分の何パーセントが事件に起因しています、ということが分かれば、『なるほど』となると思うのですが、明確な切り分けは難しいですよね」

一時期は、就職活動が手につかなくなるほど、精神的に追い詰められたケンタさん。現在は仕事に就いていますが、被害とどう向き合えばいいのか、葛藤し続けています。

加害者が男の子だったケースも…
学校の同級生から性被害に遭ったケースもあります。アンケートに答えてくれたリョウさん(仮名・30代)は小学6年生のとき、同級生の家で男子児童6人ほどが集まって遊んでいた際に、ズボンとパンツを無理やり脱がされる被害に遭いました。


リョウさん(仮名・30代)

リョウさん
「体の成長が気になる男子がいて、男性器の話題になりました。私はそういう話は避けたかったのですが、話に入らざるを得なくなり、手足を押さえつけられて下半身を露出させられました。助けを求めて叫び、抵抗しましたが、だめでした。 私の下半身を見た見た男子は『すげー』など言ってきました。『体の成長は個人差があるのに、なぜそれを見て騒ぐのか』と本当に嫌な気持ちになり、帰宅途中に一人で泣きました」



リョウさんは中学生のときも、別の男子生徒から同じような被害に遭いました。水泳の授業で、下半身をタオルで覆って水着に着替えるときに、タオルを無理やり下ろされたのです。加害者は、リョウさんを殴ったり持ち物を壊したりといういじめもしていて、その一環でこうした行為をしてきたといいます。

リョウさんのように、男の子が加害者だったケースは珍しくありません。「男性の性被害」アンケートでは、加害者の性別は、「男性」「男女ともいた」を合わせると、87%にのぼりました。また未成年のときに被害に遭った人のうち、加害者が「学校や習い事の同級生や先輩」だったケースは全体の3割にのぼり、「全く知らない人」の次に多くなりました。




男性の性被害約300人アンケートの全体状況はこちら
「男らしさ」求められ SOSを出せなかった
リョウさんもケンタさんと同様に、性被害を周りの大人に相談することはありませんでした。以前、いじめについて教員に相談した際に、一時的に収まることはありましたが、しばらくすると再びいじめられるようになり、今回も改善は期待できないと思ったからです。また、幼いころから何度も母親に言われた言葉が、SOSを出すのをためらわせたといいます。

リョウさん
「幼いころ、私はよく泣くタイプだったのですが、そのたびに母親から『男のくせに情けない』と言われました。『周りの子どもに何かされても耐えなさい』ということを植え付けられてきたので、被害に遭ったことは話せませんでした。男らしさ、たくましさを求められることで、感情表現や行動の選択肢が限られてしまうことが、ずっと苦痛でした」



リョウさんは生まれたときの性別も性自認も男性ですが、子どものころから家庭や学校で「男らしさ」を求められることに、息苦しさを感じていました。「自分が経験したことを伝えることで、こうした社会の空気を変えていきたい」と、私たちの取材に応じてくれました。

性被害に遭った男の子の約7割が「誰にも相談しなかった」
「男性の性被害」アンケートでも、未成年のときに被害に遭った男性のうち7割以上は、被害を誰にも相談していませんでした。20代以上に比べると2割近く多くなっています。理由を見ると、「恥ずかしくて誰にも言えなかった」「どこ(誰)に相談していいか分からなかった」「相談しても無駄だと思った」という回答が上位を占めました。





見知らぬ男から被害に遭ったケンタさんは、男性の性被害は特殊なものではないかと考え、親や先生だけでなく、カウンセリングなどの専門機関にも相談できなかったといいます。では、どのような環境であればSOSを出しやすいのでしょうか。

ケンタさん
「僕も知らなかったのですが、NHKの記事を読むと、結構、男性も被害に遭っているんですよね。そういうことが世の中に周知されれば、人に相談したり、公的な機関に相談しやすかったりすると思います。たとえば、痴漢の被害に遭う女性がいることは多くの人が知っていると思いますが、男性の性被害についても、そのくらい認知されればもっと相談しやすいですね」
「男性の性被害」を特集したNHKの記事はこちら

同級生から被害に遭ったリョウさんは、周囲の大人が男の子に対する声かけや接し方を改めるべきだと話します。

リョウさん
「『男なら我慢しなさい』『自分で解決しなさい』という考え方ではなく、性別問わずに『嫌なことがあったら助けを求めなさい』と周りの大人から言われていれば、相談しやすかったと思います。教育やしつけについて、男女で差をつけないでほしい。男が泣いているとけなされる、といった風潮を無くしていくことが重要だと思います」

現在、幼い息子がいるリョウさん。感情表現や振る舞い、服装、趣味などが、男だからといって選択肢が狭まらないよう、「男はこう」「女はこう」という刷り込みをせずに育てたいと考えています。

男の子を被害者にも加害者にもしないために
4歳と1歳の男の子を育てる私(ディレクター)にとって、被害者のお2人が感じてきた苦しみはひと事とは思えず、胸が痛くなりました。
「男の子は性被害に遭わないだろう」と決して思い込まずに、どのような性被害があるのか、性被害に遭いそうになったらどう行動すればいいのかということを、幼いころから教えることの重要性を感じました。
また、私たちが無意識のうちに男の子に向けている「たくましく、我慢強い子に育ってほしい」という思いが、被害に遭ったときにSOSを出しづらい環境を作り出している可能性もあると気づかされました。
加害者の9割近くを未成年を含む男性が占めており、男の子たちを被害者にも、加害者にも、傍観者にもしないためにどうすればいいのか、という問いが投げかけられていると感じます。

記事の後編では、著書「これからの男の子たちへ 『男らしさ』から自由になるためのレッスン」が大きな注目を集める弁護士の太田啓子さんに、私たちに何ができるのかうかがいます。

イラストは、性教育漫画がネット上で話題のヲポコさんに描いていただきました。ヲポコさんの性教育漫画、インタビューはこちら

子どもの性被害や、男性の性被害について、あなたの体験や思いを聞かせてください。 この記事に「コメントする」か、ご意見募集ページよりお待ちしております。
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クロ現+
2021年9月3日

教員からの性暴力 私はPTSDで退学し 先生は今も教壇に・・・

「高校生だとしても、『先生』という立場の人からはどんなに頑張っても圧倒的な力で押さえつけられ、逃げられないということを分かってほしいです」

高等専門学校(5年制)の3年生だった去年、教員から性被害に遭ったという19歳の莉子さん(仮名)

被害の影響でPTSDを発症して学校に通えなくなり、3月に自主退学しました。一方、教員は今も教壇に立ち続けています。学校に被害を相談しましたが、証拠がなく事実確認ができないとされたのです。

「相談するのはすごく勇気が必要だった。でも結局、自分の被害や気持ちは否定された。他の人が被害に遭わないように何かできることをしたい」と思いを語ってくれた莉子さん。彼女が教えてくれたのは、教員と生徒の圧倒的な力関係によって発覚しづらくなる性暴力の実態、そして、性暴力が被害者からあまりにも多くのものを奪い、人間としての“尊厳”をも破壊する現実でした。

(報道局社会番組部ディレクター 村山かおる)

※この記事では、性暴力の実態を伝えるため、被害の具体的な内容にも触れています。フラッシュバックなどの症状がある方はご留意ください。
始業式の集合写真に自分の姿はなかった

(莉子さん・仮名)

高等専門学校(5年制)を自主退学した翌月のことし4月。莉子さんは、ある写真を見せてくれました。それは、高等専門学校でつい最近行われたという始業式の集合写真。4年生に進級した同級生たちが全員スーツを着て、笑顔で同じポーズをとって並んでいました。莉子さんはこの写真が届いたとき、思わず自分の姿を探したといいます。

「これまで学校の集合写真には必ず自分も写っていたので、当然のように自分を探していました。でも、どこを見ても自分の姿はなくて…。退学したから当たり前なんですが、ああそうか、もうみんなと一緒に学校生活を送れないんだと思ったらすごく悔しくて。つらい気持ちとか悲しい気持ちが押し寄せてきて、溺れるような、感情がなくなっちゃうような感じでした

スーツを着れば、始業式の同級生たちのように晴れやかな気持ちになれるのではないかと、家でひとり、スーツを着てみたという莉子さん。しかしPTSDの症状の影響で、そうはいきませんでした。

「今は、治療で病院に行くときも電車で隣に人が立つのが怖くて…。音にも敏感で急に足がすくんでしまって、外を歩くことさえも難しいです。友達はみんな新生活を頑張っているのに自分だけ何もできなくて、逆に、自分は本当に価値のない人間だと思ってしまいました

高校生の莉子さんにとって、社会との唯一のつながりでもあった学校や友達の存在。それを奪ったのが、尊敬していた教員から受けたという性暴力でした。

尊敬していた先生


3年生の担任になった男性教員を、とても尊敬していたという莉子さん。専門分野の研究室を選択するとき、「厳しいけどいちばんためになる」という先輩のアドバイスを聞き、力をつけられるのではないかと、男性教員の研究室を希望しました。

男性教員の研究室の生徒は、莉子さん一人だけでした。新型コロナウイルスの感染拡大で、授業はオンライン。研究室の授業は、週に1度、約20ページの哲学書をレジュメにまとめ、発表するというもので、なかには、「性器」や「セックス」などの言葉が入ったものがありました。

1ページ読むだけでも1時間かかる難解な哲学書。莉子さんは、オンライン授業が終わる夕方5時から深夜2時まで、毎日哲学書を読み、準備しました。

しかし、5月の最初の授業でレジュメを発表しても、講評はなく、指導してもらえなかったといいます。莉子さんは、次こそは講評してもらえるレベルにしようと、睡眠時間をさらに削ります。2~3時間しか寝ない日々が続きました。

ストレスも体力も限界に達していましたが、先生に怒られるのではないかと思い、何度も自分を奮い立たせて課題を作成しました。でも3回目の授業の発表後、先生からは『まったく理解してないね』と一言。その瞬間、体が硬直し、言葉で殴られたような衝撃を受けました。高圧的な態度で内容の振り返りが始まり、私は申し訳なさと、恐怖でいっぱいになりました。でも最後には応援してくれて、私の理解が遅いから、怒りたくないけど怒ってくれているのだととらえました

逃げることも叫ぶこともできなかった
その後も授業についていこうと、睡眠時間を削る生活を続けた莉子さん。頭痛やおう吐などの症状が出始め、宿題が終わらないことや先生に怒られるんじゃないかという恐怖と焦りで、ぐっすり眠ることができなくなっていました。そんな状況で迎えた、5回目の授業。莉子さんは性暴力の被害に遭ったといいます。

対面で取材に応じてくれた莉子さんですが、被害当時の状況については、今なお口に出して語ることは難しいといいます。彼女は、PTSDの治療の中で、被害を物語にして整理するという宿題に取り組み、100ページに及ぶ手記をまとめ上げていました。取材を重ねるなか、それを読ませてくれました。

莉子さんの手記

いつも通りにレジュメを発表して、内容の振り返りに入る。欲望についての説明を聞いていると、「男は胸が大きい女性を見ると、生理現象、勃起とかが起こる。そんな感じでなるのが欲望だよ。僕は女性についてはどうかわからないけど、莉子さん(仮名)もなるでしょう。良い身体つきの男性を見たりすると、エッチなこと考えない?」「どんなときに、エッチなこと考える?」と言われた。

は?何言ってるんだろうと思ったが、授業の一環だと思い、ぐっと気持ちを抑えた。

先生は、良い先生だ。私はもう何度も、先生に相談させてもらっているが、先生はそのたびに的確な答えをくれて、私は凄く気持ちが軽くなる。そして、どうでもいい話に付き合ってくれたり、自分の時間を削ってまで、人の事を考えてくれるとてもいい先生だ。

この質問には何か理由があるんだろう。私が理解する力がないから、例を使って分かりやすく説明してくれたのかもしれない。そう思い、これ以上踏み入れられたくなくて、ただ笑った。

次の週、ホームルームが始まると、頭痛がするようになった。先生の声で朝を迎えるのが苦痛でしょうがなかった。声を聞くと、不安と恐怖が襲ってくる。音声なしでやってくれたら、どんなに良いだろうと思いながら、苦痛に耐えながらホームルームを受けた。

そして6月、授業がオンラインから対面に切り替わります。教員からの行為はさらにエスカレートしていったといいます。

莉子さんの手記

対面授業が始まって、2日後、頭痛もするし、頭が回らなくなってきた。これはもう無理だなと思い、「もう辛いです。できません」と先生に言いに、先生の研究室に行った。

「寝むれなすぎます。私にはもう無理です」など、先生に不満をぶつけていると、「おいで」と手を広げられた。なんでだろうと、一瞬思ったが、手を広げたのは、何もしないから、という意味だと思ったし、「おいで」と言うのは、私の声が小さくて聞こえないから近づいて、という意味かと思った。

私は手を前に組んでいたので、このまま近づいたら、私の手が先生の下腹部にあたってしまうと思い、手を身体の横に持って行って、「もう、無理です」と、さっきの話の続きを言いながら、近づいた。

すると、抱きつかれた。

気付いた時には、背中に無骨で重い先生の手があった。上半身が密着していた。

何が起こったのか分からなくて、フリーズした。手を振り払おうと思ったが全く力が入らなかった。

ああ、私は女だ。

先生の硬い手を感じ、自分はなんて脆くて力がないんだろうと思った。

そのまま少ししていると、背中に水気を感じた。先生の手汗だった。

全身に鳥肌が立ち、得も言われぬ不快感と恐怖が襲ってきた。

これ以上私がなにか、アクションを起こさなかったら、何かされるかもしれないと、身の危険を感じ、突き放そうと、先生の腰まで手を動かした。

でも、そこからどんなに力を入れようとしても、どうしても力が入らなくて、そこから逃げる事も、叫ぶ事もできなかった。ただただ怖かった。自分の意志とは反対に、全く動かない身体。先生の体温や身体が、重くのしかかってきて、私の身体はそのまま壊れてしまいそうだった。

そのまま、5分くらいして、ようやく力が少し入って、そのまま先生の腰を思いきり突き放した。

精一杯の力だったが、先生の腰が動いたのは、わずか5cmほどだった。私が、突き放した後、先生は笑って私の目を見つめていた。

それでも莉子さんは、先生が生徒に手を出すなんてことは絶対ない、自分の勘違いだと考えるようにしたと言います。

先生が私にした行為が、教育でも指導でもないとしたら、それは残酷すぎるよなって思っていました。私はどうしても学校をやめたくなかったし、自分の世界が変わることに不安や怖さがあって。先生がしたことを被害だと認めてしまったら、自分の世界が変わってしまうし、誰を信じていいか分からなくなっちゃうと思って。信じていたかったです」

その後も、頭をなでられたり、性的な言葉を言わされたりすることがあったといいます。しかし、進学や留年についても権限を持っている教員に対して、抵抗することはできませんでした。

「私さえ我慢していればこの行為はすぐ終わって、私が嫌という気持ちを認めなければ先生は今までどおり良い人で、いつもと何も変わらない毎日が送れる、だから私は何もしてはいけないんだという思いになっていきました。先生は逆らっちゃいけない人間で、ご機嫌をとらないと行為をされてしまうと思って、自分じゃなくて先生の気持ちを第一に動こうとなっていきました。

性暴力を受けているときは、自分の気持ちを入れるスペースがありませんでした。全部相手の感情に左右されてしまう。先生の感情に支配されていて、自分の気持ちを感じる隙すらない。全部支配される、そんな感覚でした」

あの日から 私の体と心は“もとに戻らない”


されている行為を性被害と認識するのではなく、「これは指導だ」「先生は悪くない、自分がおかしい」ととらえることで、なんとか心を保っていた莉子さん。体重が落ち、学校を休みがちになっていく姿に友人や教員が気づき、保健担当の教員と面談の場が設けられましたが、被害のことは打ち明けられませんでした。

それでもカウンセリングを受けるよう言われ、莉子さんはこれまでされてきた行為を紙にまとめ、元担任の教員たちに見せました。しかしそれは、“被害に気づいてほしい”というSOSではありませんでした。

「他の先生に『これは(加害者の)先生が悪いわけじゃない、普通のことだよ』と言ってほしいという思いで、紙を持って行ったんです。そう言ってもらえれば、気持ちが落ち着くと思いました。でもいざ持って行ったら、懲戒免職だとか問題だとか言われて。先生は良い人なのに、私のせいでこんなふうになってしまって申し訳ないし、どうにかして(加害者の)先生を守りたいっていう気持ちが大きくなっていました」

当時を振り返り、先生を“守らなくては”という心理が働いていたという莉子さん。これまでのことは、自分の勘違いだと納得したくて、研究室を訪ねました。しかしそこでの出来事が、莉子さんの心を壊すことになります。

莉子さんの手記

研究室を叩いた。そこには、いつも通りの優しい先生が立っていた。そのまま、夏休みの事や、最近、気持ちがコントロールできないんだという事を相談した。

なぜかわからないけど、涙がでてきて、止まらなかった。ティッシュ持ってない...やばいなーと思っていると、「これ使って」と先生が箱ティッシュを差し出してくれた。

あーやっぱり先生は優しいなと思っていると、先生がいつもより、椅子を近づけてきて、私の膝にくっつきそうになった。

あ、やばい、このままじゃ、膝がくっついてしまうと思っていると、先生が足を少し広げながら近づいてきて、私の膝が先生の広げた足の中に入った。

なんでこんなに近づいてくるんだろうと思っていると、先生の手が私の太ももを触った。

ほんの一瞬だった。

先生から謝罪の一言は、なかった。

その瞬間にすべてを悟った。

ああ、あれは授業でもなんでもなくて、私は先生のおもちゃだったんだな。


学校の中であるにも関わらず、全く涙が止まらなかった。

時の長さというものは、人の意識によって、長くも短くもなる。

先生には、ほんの一瞬の出来事だったかもしれないけど、私には一生だった。

この日から、私の心と身体はもとに戻らない。

莉子さんは、このときの感情を“崩れた”ような感覚と表現し、この日から世界の見え方が180度変わり、誰もが自分を傷つける存在に見えるようになったと話します。その後、PTSDと診断され、3年生の秋から学校に行けなくなりました。

教員はいまも学校に


その後莉子さんは、フラッシュバックや頭痛、吐き気に常に苦しむ状態となり、自宅にこもる日々が続いていました。そうした症状を治療するため、精神科に通った莉子さん。「自分が悪いのではないか」という考え方は「自分は悪くない、悪いのは加害者の教員だ」と変わっていきました。

学校では、莉子さんが紙に書いた内容がハラスメント行為にあたるのではないかと、9月に「ハラスメント対策委員会」を設け、男性教員から聞き取り調査を行いました。男性教員は「性的なことばが多用された教材を使用したこと」「規定の授業時間を超えた指導や課題を出していたこと」を認め、委員会は、未成年である高校生に対する教材としては適切ではないと判断、超過した授業についても問題としました。一方教員は「腕の長さを比べたことはあったが、ハラスメント行為はしていない」と、莉子さんが訴えた性的な行為については認めませんでした。目撃者や録音・録画などもなかったため、「セクシュアル・ハラスメント」の認定はせず、「アカデミック・ハラスメント」として、ことし2月に男性教員を「訓告処分」とし、文書で校長から厳重注意し、再発防止を求めました。教員はいまも同じ学校で教壇に立っています。

学校ではその後、莉子さんの担任を変え、精神的なケアを行う体制を整えるなどしました。しかし莉子さんは「セクシュアル・ハラスメント」と認定しなかった学校の対応に、さらに深く傷ついたといいます。

「映像や音声の証拠が無いから、校長が厳重注意するだけになったと聞きました。でも、体を触られているときにそんなことできません。被害のことを話すのはすごく勇気が必要でした。自分の勘違いだったら申し訳ないという気持ちも、被害を認めたくない、認めたら普通に生きられないという気持ちもありました。それでも、他の人が被害に遭わないようにと声を上げたんです。でも結局、私の被害や気持ちは否定されました。

性暴力は、その時だけではなく、その後もずっと苦しめられるんです。触られただけ、ではないんです。信頼していた人にやられて、もう誰を信じていいのか分かりません


尊厳を踏みにじられる 性暴力被害の“その後”
“触られただけ”ではない。男性教員から離れたその後も、性暴力は、莉子さんから多くのものを奪っていきました。そのひとつが、「自分は価値のない人間」だという思いです。大切な居場所だった学校、被害に耐えていたときの大きな救いだった友達だけでなく、性暴力被害は、莉子さんの“尊厳”を奪い続けていました。

それでも莉子さんは、ある決断をしました。被害を思い出すことにつながるため、半年以上開けなかった教科書を開き、受験勉強を始めることにしたのです。大学に入って社会とつながることで、少しでも自分に価値を見出せるのではないかと考えてのことでした。


(半年以上触れられなかった教科書)

6月末、受験勉強を再開する日。莉子さんから立ち会ってほしいと連絡を受け、自宅を訪ねました。恐る恐る教科書を本棚から抜き出し、表紙を見つめ、少しずつ手を触れる莉子さん。数分後、現代文の教科書を開きました。しばらくパラパラとページをめくると突然、「頭が痛いので外に出たい」と、家を出ました。

家の近くの道を、頭を抱えるようにして歩く莉子さん。教科書を見たことで学校生活を思い出し、“どうして自分だけ学校に行けないんだろうか、どうして自分が被害に遭わなくてはならなかったのか…”というやり場のない気持ちが巡ってきたといいます。この日、もう教科書を開くことはできませんでした。

その後も連絡をくれる莉子さん。「今日も教科書を開いてみたけれどだめでした」「こんな簡単なことができなくて悔しい、もう自尊心なんかないです」「今は寝ていることしかできない、でも生きていかなくてはいけないから、あきらめることはしたくない」と、苦悩しながらも挑戦を続けている様子でした。

しかし8月中旬、彼女は疲れ切った様子で言いました。「もう勉強はやめました」

「家にいれば100パーセント安全ですが、外の世界はそうではない。そんな社会に出る必要があるのか、何のために勉強をするのか、分からなくなってしまいました」

この電話があった日、知り合いから「被害のことは早く忘れて次に行こうよ」という言葉をかけられたと言います。

「終わったことかもしれないけど、私のなかではずっと続いているし、みんなにとっては過去だけど私にはずっと現実なんです。学校に行きたい、やりたいことはたくさんある、でも、できないんです。どうしたらいいんですかね、私は…」

被害者を苦しめる“社会”を変えるために


莉子さんは、自分の意見や考えをはっきり言うタイプの方です。しかし、成績を左右する圧倒的に上の立場にある教員に対しては、抵抗できず、性被害だと認識できるまで長い時間がかかりました。専門家によると、こうした心理や加害者をかばうことは、特に、力を持つ立場の人からの長期にわたる性暴力被害でよくみられるということです。2人の会話を最初から分析していく必要がありますが、もともと「尊敬」「信用」している相手なので疑わず、関わりのなかでやらない・できないという選択肢がなくなるほどの「恐怖」をすり込まれ、一方で自分を守ったり認めたりしてくれた「恩」もあり、自分がつらくても加害者をかばうという強固な認知になる傾向があるといいます。

そして、高校生だった莉子さんにとって、学校は「社会とつながる唯一の場所」でした。その社会ともう一度つながりたいと、一歩一歩進もうとする莉子さんを阻んでいるものが、この社会にはたくさんあります。「高校生なんだから、性的な行為の意味も分かるし拒否できるでしょう」という考え方。よかれと思ってかける「もう忘れなよ」というひと言。この社会にはびこる性暴力への認識や制度が、被害のその後も、莉子さんを深く傷つけていました。

10代の女性が、大きな負担を背負いながら教えてくれた、被害を被害と認識できない心理や、被害後も続く苦悩。それを知った私たちは、被害に遭った方たちが尊厳を取り戻し、“生きていきたい”と思える社会にするために何ができるのか、考え続け、変えていかなくてはいけません。

教員に抵抗できない「教員からの性暴力」の構造、性暴力によって被害者の“尊厳”が奪われている実態について、どう感じられましたか。皆さんの経験や意見をお寄せください。この記事に「コメントする」か、 ご意見募集ページよりお待ちしております。
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クロ現+
2021年8月27日

“わいせつ教員対策法”成立 被害者支援などに課題も・・・

後を絶たない教員による児童や生徒へのわいせつ行為をなくすための法律が、ことし5月に成立しました。“わいせつ行為”を“性暴力”と明確に定義したり、各教育委員会が教員免許を再交付しないことを可能にしたり、厳正な対応を定めたこの法律。しかし被害当事者や専門家からは、法律制定だけでなく、被害者支援の仕組みなどを具体的に構築してほしいという声が上がっています。新しい法律で何が変わるのか、学校現場はいまどんな問題を抱えているのか、取材しました。

(報道局社会番組部ディレクター 二階堂はるか)


“わいせつ教員対策法” 何が定められたのか?
2019年度に、わいせつ行為やセクハラ行為で懲戒処分などを受けた教員は273人。これは前の年度に次いで過去2番目の多さで、近年増加傾向にあります。 そうしたなか、今回の法律は自民・公明両党の作業チームが野党側とも協議してまとめたもので、提出から1週間という異例の早さで成立しました。



法律では、子どもたちの「尊厳を保持するため」に、教員によるわいせつ行為などを「児童生徒性暴力」と定義。性暴力は子どもたちの「権利を著しく侵害し」「生涯にわたって回復し難い心理的外傷」「心身に対する重大な影響を与えるもの」と捉え、子どもの同意の有無にかかわらず「禁止」としました。

また、各都道府県の教育委員会が、わいせつ行為などで懲戒処分になり教員免許を失効した教員に対し、免許を再交付するかどうか判断できるようになりました。これまでは、教員免許を失効したとしても、3年が経過すれば再び取得することができたため、性犯罪を起こした元教員が処分歴を隠して他の自治体で採用され、子どもたちに性暴力を繰り返していた事例も報告されていました。新しい法律では、各教育委員会が、専門家でつくる「教員免許状再授与審査会」の意見を聴いた上で、不適格と判断すれば、免許を再交付しないことも可能になったのです。

さらに、わいせつ行為で免許を失効した人の氏名や理由などの情報を共有するデータベースを国が整備し、教育委員会が教員を採用する際に活用することになりました。

「革命的な法律」と評価する一方、課題も

(千葉大学大学院 後藤弘子教授)

刑事法が専門の千葉大学大学院の後藤弘子教授は、法律ができたこと自体は大いに評価できると言います。

千葉大学大学院 後藤弘子教授
「これまで子どもへの性暴力は教員の“不祥事”として扱われてきました。人事管理上の問題程度の認識だったのです。それを、子どもに対する『性暴力』と明確に位置づけ、子どもへの『人権侵害』だと定義したことは革命的だと感じました。また、子どもの同意の有無を問わずに教員からの性暴力を禁止したことも評価できます。児童や生徒、教員の間には、『子ども―大人』『児童・生徒―教員』といった二重の権力性が存在し、そもそも対等な関係ではありません。同意とは対等な関係を前提になされるもので、対等な関係ではない同意は同意ではないのです。一見、子どもが同意したように見えても、教員が立場を利用して、グルーミング(手なづけ)といって、子どもの性行為に対する知識の乏しさや判断力の脆弱さにつけこみ、“恋愛”だと思わせたり子どもに自分が同意したように思わせたりすることも可能です。現在の刑法では、性交するかどうか自ら判断できるとみなされる性交同意年齢は13歳以上とされていますが、明治時代に定められたものでいまの社会情勢に合うものではなく、諸外国でも年齢の引き上げが検討、実施されています。その点を考えると、子どもの同意の有無は問わないという“当たり前のこと”を前提としているこの法律は、とても意義があると思います」

一方で後藤教授は、この法律には「性暴力の認定の方法や、どのように被害に遭った子どもを守り、支援していくのかについて、明確に定められていない」と課題を指摘します。

千葉大学大学院 後藤弘子教授
「法律である以上、内容が理念的になるのは仕方がないことではありますが、被害が発覚した後、学校や教育委員会などはどう対応し、どう子どもたちを支援するのかなどについては、具体的に書かれていません。具体的な体制を作っていかなければ、被害が報告されても、それが被害と正しく認められなかったり、子どもへの二次被害を与えたりしてしまう危険性もあります。例えばこの法律では、事案の「通報」先として「警察」が明記されていますが、「児童相談所」も組み込んだほうが良いと思います。警察につなげば、子どもを刑法の観点から守ることにはなりますが、支援というよりも加害者を罰していくという点に重点が置かれます。一方、児童相談所は児童福祉という観点で子どもに対応します。性虐待のケースを多く扱っていますし、被害者の聞き取りや支援などこれまでの蓄積があります。刑法と児童福祉という二つの観点から子どもを守る体制を作ることが大切だと思います。現在、文部科学省が新しい法律を運用していくための方針を検討していますが、細やかで具体的な支援策が求められています」

「いまの学校に支援体制はない」 被害者家族の訴え

(Aさん(男性・40代))

現在、学校現場ではどのような支援策が講じられているのか。わが子が被害に遭い、みんなでプラスに投稿を寄せてくれた京都府在住のAさん(男性・40代)は、「支援体制は無いに等しい」と訴えます。

Aさんは当時小学校低学年だった娘が、男性の常勤講師から性暴力の被害を受けました。被害が発覚したきっかけは講師の逮捕。十数人の児童が被害に遭っていました。講師は教室やトイレなどで子どもの服を脱がせたり下半身を触ったりし、その様子を動画で撮影、さらに検尿と称して尿を採取し飲んだこともあるといいます。Aさんの娘は陰部をなめられ、講師の陰部もなめさせられたといいます。

しかし、被害の後に学校が最初にとった対応は、教頭を中心に「被害児童の様子を観察すること」だけ。さらに、担任やスクールカウンセラーには、「被害者保護」という理由で被害に遭った子どもが誰なのかも明かされず、事件の内容などもまったく共有されなかったといいます。

Aさん
「被害児童が誰かも分からない状態で、どうやって支援できるのでしょうか。学校側に『どう子どもたちを見守るのか』を問うと、『教室の外から子どもを見守る』と言われました。まったく支援の体を成してないですし、何もしていないことと同じだと感じました。確かに、学校側も事件の内容については報道で知る程度で、警察からは『捜査上の理由』で詳細は教えられなかったと言います。学校自身が、学校で何が起きたのか、分かっていませんでした。ですが、見守り以外にも学校が取り組めることはなかったのでしょうか。やれる範囲で済まそうと思っているその“甘さ”に強い怒りを感じました」

Aさんは、事件をきっかけに娘ら被害に遭った子どもたちをしっかりと支援する体制をつくってほしいと、教育委員会にも繰り返し訴えました。半年後、ようやく京都府教育委員会の局長などと面談する機会を得ましたが、納得できる答えではなかったといいます。

Aさん
「これまで被害者への支援や対応はあったのかと聞きましたが、『何ひとつない』という回答でした。これからどうしていくのかと聞いても、『どうしたらよいか分からない』と黙ってしまいました。同じ京都府の亀岡市で教員による性暴力事件があったにも関わらずです。最後に局長らは『再発防止に努める』と言いましたが、教育行政には子どもたちを守り、支援するノウハウやその蓄積はまったくないんだと痛感しました」

なぜ学校や教育委員会はこのような対応になるのか。後藤教授は学校の構造的課題を指摘します。

千葉大学大学院 後藤弘子教授
「そもそも学校のいちばんの目的は教育であり、被害者の支援は制度として組み込まれていないのです。相談先として学校内にスクールカウンセラーはいますが、性暴力についての知識が十分でない人も多いし、学校にいるといっても1週、2週に1回といった程度。学校と情報を共有したり、支援していくよう指示したりすることには限界があります」

具体的な対応策を提言 千葉市の取り組み
そうしたなか、学校や教育委員会の具体的な対応策をまとめた自治体があります。千葉市です。これまで、子どもたちをどう支援していくかについては制度化されておらず、学校や教育委員会がその都度、担当者の判断で対応してきました。

しかし、2019年に市内の小学校で起きた教員による児童性暴力事件を受け、去年1月に「子どもへの性暴力防止対策検討会」を設置。学校の校長や大学教授、弁護士、精神科医、臨床心理士らが、性暴力が起きる要因や根絶に向けた取り組みについて議論を重ね、今年6月に「子どもへの性暴力防止対策について-提言-」として教育長に提出しました。学校や教育委員会の役割分担を明確にし、性暴力事案が発生した際、それぞれどう行動したらいいか、規範をあらかじめ定めたのです。



検討会がまとめた提言では、子どもの安全確保を第一に考え、性暴力の「疑いが生じた」時点で迅速に対応します。学校は、「誰に、何をされたのか」を子どもたちから「簡潔に」聞きとり、すぐに管理職、教育委員会に報告します。子どもへの聞き取りは、専門知識を持つ人でなければ、発言が誘導されたり、記憶が変わったりして、信ぴょう性が損なわれる恐れがあるため、あくまで「簡潔」に行います。

また、性暴力をした、または疑いのある教員が子どもたちと接触しないよう、担任を外すなど分離することが重要だとしています。子どもとの接触が可能な環境だと、加害を繰り返したり、子どもに口封じをして証拠隠滅を図ったりする恐れがあるからです。被害者が複数人いる場合もあることから、子どもではなく加害教員を離します。

その後は教育委員会が主導します。被害確認のノウハウをもつ児童相談所などに協力を要請し、子どもから事実確認を行い、犯罪の疑いがあると思われるときは、警察に告発します。また、子どもが受けた心の傷は長期にわたり継続することをふまえ、児童相談所や性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターなどの専門機関と連携し、子どもたちへのカウンセリングなど継続的な支援を提示します。

加害教員に対しては、懲戒処分などの対応を行うために聞き取りが求められますが、事実認定の専門家ではない教育委員会ではなく、弁護士や専門家によるチームを事前に設置しておき、そのチームが調査、対応を行うことが大切だとしています。

提言はこのほかにも、性暴力を生まないための環境整備や早期発見のために大切なこと、教員の行動指針などもまとめ、文部科学省にも提出されました。



千葉市「子どもへの性暴力防止対策について―提言―」 詳細はこちら
https://www.city.chiba.jp/kyoiku/kyoikusomu/kyoikushokuin/seibouryokubousi-teigen.html

検討会の座長を務めた後藤教授は、何より大切なのは、徹底して子どもを守るという視点に立つことだといいます。

千葉大学大学院 後藤弘子教授
「性暴力をした教員を学校から排除して終わり、懲戒処分したから終わりではありません。被害に遭った子どもたちは学校に通い続けます。心や体に受けた傷は残り続けます。被害に遭った子どもたちの存在を忘れてはいけません。加害教員を任命したのは教育委員会です。だからこそ、性暴力を生まない仕組みや早期発見、子どもへの支援体制を構築する責任を負うべきだと思います。そのためにも、あらかじめ児童相談所や警察、支援の専門機関などと協議し、性暴力が発生した際にどう連携し、子どもたちを支援していくか、事前に体制を整えておくことが大切です。また、子どもたちに対して人権教育としての性教育を行ったり、相談しやすい環境を整えたり、教員に対して性暴力に関する知識を深める研修を行ったりすることも欠かせません。起きたことを教育に生かしていく、それが学校の本来の在り方なのではないでしょうか」

支援員を学校に設置してほしい


娘が小学校の講師からの性暴力に遭ったAさん。独自に被害児童の支援策を考え、学校や教育委員会に提案しました。学校内に犯罪被害者支援の専門家を入れ、教頭や教育委員会、スクールカウンセラーなどによる「ケア会議」というチームを結成。全員で情報を共有しながら被害児童の状況を確認し、学校や教育委員会は定期的に専門家からのアドバイスを受けながら、被害児童を見守るのです。

Aさんは、被害者支援や心理学などを専門とする支援員を学校に設置し、支援の中心を担ってほしいと考えています。

Aさん
「学校は教育の専門家であり、犯罪被害者支援や福祉の専門ではありません。いきなり『被害者の支援』と言われても途方に暮れてしまうのは当然のことです。だからこそ、学校に特化し、被害者支援の蓄積を持った支援員の存在が重要だと思います。被害が発覚してからすぐに被害者側に立つ支援員が入り、被害者やその家族に寄り添いながら一貫して支援を続け、学校や教育委員会、福祉などの公的支援や警察、弁護士などと連携し、関係各所への連絡や調整などを行うべきです。さらに、支援員の公正中立を担保するためにも、第三者機関を設置し、支援員はその機関に属した人でなければなりません。また第三者機関が支援員の後方支援をしながら情報収集し、その情報をもとに性暴力の被害を分析・検証すれば、防止策にも繋がります。被害者支援の事例や支援の手法・知見が蓄積されていけば、より効果的に性暴力の防止、早期発見、支援を組織として全国的に行うことができるのではないでしょうか」


文部科学省の見解は


法律の成立を受け、具体的に施策を進めるための基本指針を検討している文部科学省。支援体制の構築についてどう考えているのか、聞きました。

文部科学省初等中等教育局
「専門家などに知恵をもらいながら、法律を改めて整理し、より具体化していく作業を行っている。今後のスケジュールを含め、まだ話せる段階ではない。教員による性暴力は社会的にも関心が高い事案であり、本気で取り組まないといけない問題だと捉えている。文部科学省としてもやれることはやっていきたい。自治体に通知するだけでなく、様々な会議や研修の場などで説明したり、学校現場や教員に対し繰り返し伝えたりすることで、周知徹底していきたい。『文部科学省に言われたからやる』『性暴力の事案はうちとは関係ない』ではなく、すべての自治体が『自分事』として、同じ思いを持ってこの問題に組んでほしい」

取材を終えて
教員による「子どもの性的搾取を許さない」という理念を掲げた法律ができたことは大きな一歩だと思います。ですがまだ一歩だと思います。教員だけでなく、日常的に子どもに接する人、保育士やベビーシッター、塾講師や外部コーチなどによる性暴力はどうするのか・・・子どもと性暴力に関する課題は山積しています。

どうしていいか分からないから、前例がないから、変わるのが大変だから、忙しいから…いつまで大人は“勝手な”都合を子どもの前で振りかざすのでしょうか。学校も教育委員会も、そして私たち含め社会が、子どもと性暴力という事実を直視する時だと思います。この法律が“絵に描いた餅”にならないように、引き続き動向を見つめていきたいと思っています。

“わいせつ教員対策法”について皆さんの意見をお寄せください。この記事に「コメントする」か、 ご意見募集ページよりお待ちしております。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。


クロ現+
2021年8月13日

“傍観者”にならない!セクハラ・性暴力 大学生たちの挑戦

飲み会で隣の人が「最近いつセックスした?」と言われているのを、「お酒の席の下ネタ」とスルーする。
痴漢被害に遭った人に「なんで女性専用車両に乗らなかったの?」と問う。


こうした第三者の言動が、性暴力が起きやすい環境を助長したり、被害に遭った人に声を上げにくくさせたりしているのではないか。そうした思いから、加害者・被害者だけでなく、“傍観者”にならないようにと活動する大学生たちがいます。注目するのは「アクティブバイスタンダー(積極的に被害を止める第三者)」という考え方。もしその場に居合わせたとき、私たちに何ができるでしょうか。

(報道局国際部記者 白井綾乃)


キャンパスから性暴力をなくしたい 学生団体「Safe Campus」

(Safe Campusのオンラインミーティングの様子)

2019年11月に設立された、慶應義塾大学の学生団体「Safe Campus」。学生およそ20人が、キャンパスから性暴力や性差別をなくしたいと活動しています。

ことし3月には、他団体と協力して、ネット上でダウンロードできる「性的同意ハンドブック」を作成しました。「性的同意」とは「ボディータッチや性的な言動を含む、すべての性的な行為で確認すべき同意」と解説。性的な行為への参加にはお互いの「したい」という積極的な意思表示があることが大切だという内容のほか、学内の相談機関の情報などをまとめています。(性的同意ハンドブックの詳細はこちら


(佐保田美和さん)

メンバーの1人、理工学部4年の佐保田美和(さほだ・みわ)さんです。2019年、大学の卒業生がOB訪問中の就活生に性的暴行をしたとして逮捕されたり、学生による盗撮行為が明らかになったりしたとき、事件そのものだけでなく、周囲の学生の言動に強い違和感を覚えたといいます。

Safe Campus 佐保田美和さん
「事件について『被害者のほうも悪い』と被害者に責任があるような発言や、『自分もその場にいたかった』と言って笑う人がいました。被害を会話のネタにしてセカンドレイプにあたる発言をし、周りもそれを止めないことに強い違和感と憤りを覚えました。そういうときに物申せる人になりたいと思ったんです」

実際に起こった被害を「性的なコンテンツ」として消費するかのように盛り上がる学生の姿を見て、性暴力が軽視される風潮を変えようと活動を始めました。


(佐久川姫奈さん)

また同じくメンバーで、総合政策学部4年の佐久川姫奈(さくがわ・ひな)さんは、セクハラの被害者から相談を受けたとき、具体的に何をしたら被害者の助けにつながるのか自信が持てなかったといいます。

Safe Campus 佐久川姫奈さん
「その被害者は自分を頼りに相談してくれて、私なりに『こうしてはどうか?』と伝えましたが、うまく対処できず…。当時はジェンダーの問題や被害者のサポートについて分からなくて、もっと自分に知見があれば何か違った対処ができたんじゃないかと悔しく思いました。すべての人が安心して自分らしく過ごせるキャンパスにしたくて活動を始めました」

見て見ぬふりをしない! “アクティブバイスタンダー”になるために
2020年、Safe Campusは慶應義塾大学の学生や教員などを対象に性暴力の実態調査を実施しました。



回答した325人のうち、「学内で『この人は性暴力やセクハラを受けているんじゃないか』と心配になるような言動を見聞きしたことがある」のは約5人に1人の割合に。被害が起きやすいのは飲み会やサークル活動で、先輩が加害者になることが多い傾向が見られました。また被害に遭った約7割の人がどこにも相談していませんでした。

なかでも佐久川さんたちが注目したのが、加害者・被害者とともに存在する「第三者」の役割でした。

体型など他人の容姿への言及。性的なジョークや、いわゆる“お持ち帰り”など「飲み会はそういうものだから」という性被害を生みかねない日常の風潮。先輩・後輩の上下関係。声を上げた被害者を「売名行為じゃないか」「あなたにも悪いところがあったのでは?」と責め、「大げさ」「よくあること」として被害をわい小化させるセカンドレイプ。

性暴力が起き、被害者が相談しにくい環境を許しているのは、自分たちを含む「第三者」ではないか。そこで出会ったのが、周囲の人が何かしらの行動を起こすことで、性暴力の防止や被害の軽減など、被害者の助けになれる「アクティブバイスタンダー(積極的に被害を止める第三者)」という考え方でした。


(Safe Campusのツイッターより)

アクティブバイスタンダーがとれる具体的な行動は、「5つのD」と言われます。
「5つのD」
  • Distract 注意をそらす
    …知人のふりや、関係のない話をするなど、加害者の注意をそらすことで被害を防ぐ。
  • Delegate 第三者に助けを求める
    …教員や店舗の責任者、駅員など別の人に助けを求める。
  • Direct 直接介入する
    …加害者に注意する。加害者の敵意が向く場合もあるので、被害者と介入者の安全が確保されていることが大切。
  • Document 証拠を残す
    …日時や場所を特定できるよう、映像などを撮影する。安全な距離を保ち、撮影中も被害者から目を離さないこと、撮影したものをどうしたいか被害者に確認をとることが大切。
  • Delay 後で対応する
    …その場にいなかったときや行動を起こせなかった場合でも、被害者に声をかけ、何かサポートできる方法があるか尋ねるなど、事後に行動する。

日本ではまだあまり知られていない「アクティブバイスタンダー」の認知度を上げようと、Safe Campusはバッジを作ることを決めました。

バッジなら「私はいつでも被害者の味方だ」ということを負担なく表明することができるだけでなく、被害者にとって最初から警察や専門機関に相談するハードルが高かったとしても、大学で誰かが「私は性暴力を容認しない」という印を付けていれば、被害を否定せずに背中を押してくれる存在が見えるようになると考えたのです。

デザインコンテストを実施し、受賞作品が7月に発表されました。


(デザイン:山田萌美さん)

グランプリ作品は「性暴力を許さない」という強い意思のもと、多くの人が被害者の支えとなるように、複数の手がつながりあうデザイン。バッジはことし9月ごろをめどに、まずはSafe Campusや全国の性暴力防止に取り組む団体のメンバー、大学のカウンセラーなどに配布する予定だということです。


(小笠原和美教授)

警察庁の現役キャリア官僚で、性暴力対策に取り組んできた慶應義塾大学の小笠原和美教授は、バッジによってアクティブバイスタンダーの認識が広がり、被害防止に向け人々が多様な行動をとれることを期待しています。

慶應義塾大学 小笠原和美教授
「電車内などの痴漢でも『私たちは泣き寝入りをしない』という意思表明のバッジを着けたら、被害を受けなくなったという事例があります。バッジによってアクティブバイスタンダーの認識が広がることで被害者を孤独にしないこと、そして加害者に対し『周囲が自分を見ている』『行為をほっといてくれない』と感じさせるような機運が高まることに意味があると思います。『5つのD』とは何か、まずは認識を持ってもらい、居合わせたときにどんなことなら自分にもできそうか、心の中で選択肢を持っている人をこれから増やしていくことが大切です」

Safe Campus 佐久川姫奈さん
「アクティブバイスタンダーの存在が広まることで、止められる性被害があるということ。被害が起きた後にセカンドレイプをせず対応できることを多くの人に知ってもらいたいです。性暴力は、加害者と被害者だけの問題ではなく、私たちを含む第三者にもすごく密接に関わっているという当事者意識を持ってもらいたいです。バッジがそのシンボルになってほしいと思います」

最後に、アクティブバイスタンダーになるための第一歩として何をしたらいいかを尋ねると、佐久川さんたちは「身近な相談機関を理解しておいて、被害者から相談を受けたときに『あなたは何も悪くない。必要があればサポートを受けることもできる』と外部の相談先につなげることも、立派な行動の1つだ」と話していました。

取材を終えて
性暴力やハラスメントを「見て見ぬふりをしない」こと、それは加害者に直接注意することで、実行に移すのはハードルの高いことだと思っていました。今回、行動のバリエーションはほかにもあり「ゼロか100か」ではないことが分かりました。

印象的だったのはSafe Campusの皆さんが「被害をなくすとともに加害者も出したくない。セカンドレイプの加害性は誰しもにある」と話していたことです。被害者に対して、服装や状況など落ち度を指摘したり、「この程度でよかった」などと言ったりしないか。改めて問いかけられました。

キャンパスから性暴力をなくすために学生が主体的に行動するのはとても心強いことですが、私たち大人も、周囲に関心を持ってそれぞれできる行動をとることで、社会から性暴力をなくしていけると感じます。

性暴力の加害者にも被害者にも、そして傍観者にもならないためには何が必要だと思いますか。皆さんの意見をお寄せください。この記事に「コメントする」か、 ご意見募集ページよりお待ちしております。
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クロ現+
2021年7月30日

"自撮り"を送らされ被害に…児童ポルノマーケットの闇

“俺のこと好きだったら裸の写真送って”
“自慰行為してる動画を送ってよ、他の子たちも送ってくれるよ”


こんな言葉でSNSなどを通じて自分の性的な画像・動画を要求され、送らされる、“自撮り”による被害が後をたちません。なかでも被害に遭うケースが多いのが18歳未満の子どもたちです。

一度でもネットに流出すると、際限なく拡散されていく性的な画像や動画。実態を取材すると、それらに高値をつけて取り引きする児童ポルノマーケットと、金銭目的でマーケットに関わる多くの一般人の存在が浮かび上がってきました。

※この記事ではデジタル性暴力の被害の実態を伝えるため、被害の詳細や加害者の手口について触れています。フラッシュバック等症状のある方はご留意ください。

名古屋局報道部記者 佐々木萌 中川聖太
報道局政経・国際番組部ディレクター 町田啓太
報道局社会番組部ディレクター 朝隈芽生


増える10代からの“自撮り”による被害相談 コロナ禍の影響も

(NPO法人ぱっぷす スタッフが手分けして検索し動画を探し出す)

「また出てますね…」

都内にあるNPO法人ぱっぷすの事務所の一室で、ぽつりと漏れた一言。本人の同意なく性的な画像や動画が拡散される「デジタル性暴力」に関する相談活動を行うこちらの法人では、相談者からの依頼を受けて、ネット上に流出した性的画像や動画を探し出し、サイト運営者に削除を要請する業務を無償で行っています。

相談件数は増加の一途をたどり、10代からも数多く寄せられています。特に、新型コロナの感染拡大で1回目の緊急事態宣言が発出された去年4月以降、その傾向は顕著で、「在宅時間が長くなり、オンラインで人と交流する機会が一層増えたことで、被害に遭うことが多くなっている」とみています。



ある10代の女性は、ツイッターで知り合った男性から被害を受けました。友人関係の悩みなどを相談するうちに、“何でも話せる”と信頼を寄せるようになったといいます。しかし頻繁にやりとりをするようになった頃、予想外の要求をされました。

“裸の動画を送ってほしい。俺以外誰にも見せない”

女性は断りましたが、男性は動画を送ることが“信頼の証しだ”として要求を繰り返しました。拒み続けると、男性は急に冷たい態度をとり、“これまでのメッセージを学校の友人にバラす”と脅迫してきました。

女性は“誰かに知られては困る”という気持ちと、男性に“嫌われたくない”という気持ちから、裸の動画を自分で撮影し、送ったといいます。

このようにSNSを通じて知り合った相手から動画を要求されるほか、オンラインゲームのチャットで盛り上がっているうちに被害に遭ってしまったケースなどもあるといいます。


(NPO法人ぱっぷす 相談員 岡恵さん)

NPO法人ぱっぷすで相談員を長年務めてきた岡恵さんは、「加害者は10代の心理につけこむことで巧妙に画像や動画を送らせる」と指摘します。

NPO法人ぱっぷす 相談員 岡 恵さん
「相談者と加害者の間で交わされたチャット上の会話をよく読んでいくと、断ろうとする相談者に、『いかに送らせるか』といった“攻略ゲーム”のような感じで言葉をかけて送らせていく様子が見えてきます。例えば、罪悪感を抱かせるような言い方をして、被害を受けた方が『悪いことしてしまった』と思わせて送らせる。被害者に責任転嫁することは加害者の手口のひとつです」
「本来、嫌なものは嫌でいいはずなのに『君にはできないんだね』と言われると、10代の多くは『自分がおかしいのかな』『自分のほうがいろいろと分かっていないのかな』と自分に疑問を持ってしまいます。そうした若者たちの心理を、加害者たちは熟知していて、言葉巧みに送らせようとするんです」

消しても消しても拡散される… 終わりなき削除
相談者の多くが、自分の裸や性行為が映った画像や動画を、SNSで知り合った相手や元交際相手によって流出され、拡散されています。NPO法人ぱっぷすでは、被害を食い止めようと掲載されたサイトの運営者に削除の要請を行っています。しかし1件削除する間にさらに複数のサイトに転載される、いたちごっこのような日々が続いています。

ある相談者の動画の削除実績を、同意を得て教えてもらうことができました。この5年間で削除要請を出したのは315回(7月初旬時点)。児童ポルノに該当するため、9割近い281のサイトが削除要請に応じ、動画は削除されました。しかし、アメリカのアダルトサイトに掲載されたことがきっかけで、ヨーロッパ、アジアなど世界各地のアダルトサイトに転載され、今もネット上に残り続けています。


(削除要請の作業をするスタッフ)

削除要請を担当するスタッフは“絶対にネット上から根絶させる”という一心で取り組み続けていますが、世界中に存在するアダルトサイトの中から相談者の動画を探し出すのは、非常に根気のいる作業だといいます。

NPO法人ぱっぷす 削除要請チーム 菱田 咲子さん
「時に児童ポルノであっても、成人女性と見せかけるようなタイトルに変えていたりするので、元の動画の特徴を記憶してヒットしそうなキーワードで検索をかけたりしています。投稿し続ける人間に強い憤りを感じながら、すべてが消えるまで粘り強く交渉していきます」

子どもたちの性が売買される・・・ 児童ポルノマーケットの実態
18歳未満の子どもたちの性的な動画などを送らせたり、ダウンロードしたりすることは“児童ポルノ禁止法”の摘発の対象です。にも関わらず、子どもたちの性的な動画や画像が拡散されるのはなぜなのか。取材を進めると、動画1本で莫大な利益を手にできる、巨大な“児童ポルノマーケット”の存在が浮かび上がってきました。

去年、愛知県警などにより、国内最大級の児童ポルノの販売サイトが摘発され、運営者や出品者など48人と、サイト運営に関わった3つの法人が検挙されました。押収されたハードディスクにはおよそ2万人の会員情報がありました。明らかになったのは、“児童ポルノは今、一部の人間の間でやりとりされているのではなく、ビジネスとして大規模に売買されている”ということでした。


(摘発された販売サイト ここで多数の子どもたちの性的な画像や動画が取り引きされていた)

摘発されたサイトは、誰でも10分足らずで簡単に登録、販売ができました。出品者はネットなどで手に入れた児童ポルノに自由に価格を設定しサイトに投稿します。そして購入されるとサイトの運営者と出品者の両方に金が支払われるようになっていました。

さらに、サイトには出品者のランキングや、購入者からのレビューが掲載され、売買をあおるような仕組みも。サイトでは20億円の売り上げがあったとみられていますが、サーバーは捜査が及びにくい海外に置かれていました。

出品者として検挙された18人のうち16人は、これまで児童ポルノとは無縁でした。性的な好みではなく、金だけを目当てに売買に関わっていたのです。また、11人は児童ポルノなどの販売で生計を立てていて、1000万円以上の利益を得ていた人が8人。中には1億円以上の利益を得ていた人もいました。(※検挙者の数などは、いずれも3月時点)


(児童ポルノサイトが収益を上げる仕組み)

「引くに引けなかった・・・」 ある出品者の告白
私たちは、サイトに出品して逮捕され、刑事処分を受けた40代の男性を取材しました。警察によると、男性は2年間で1300万円の違法な収益を得たといいます。


(取材に答える元出品者の男性(40代))

物腰の柔らかい“普通の人”に見える男性。「児童ポルノの現状を知ってもらうために役に立てば」と語り始めました。

きっかけは3年前、持病のため運送業の仕事を失ったことでした。インターネットで別の仕事を探していたとき、“売り手募集”と書かれたアダルト動画の出品者募集の広告を見つけたといいます。


(摘発されたサイトに掲載されていた売り手を募集する広告 ※現在は閉鎖されています)

体への負担が少ない作業で稼げると考えた男性は、最初は成人のアダルト動画をネット上で購入し、より高い値段で転売していました。しかし、思うように売り上げが伸びません。そうしたとき、サイト内で児童ポルノが高値で売買されていることに気づきました。

摘発されたサイトに出品していた男性
「サイトにランキングが出ていて、上位10位くらいのうちの半分は小学生などの子どもが映っている児童ポルノ、それも自宅で自撮りしたようなものがほとんどでした。値段も成人の動画の30~50倍はありました」

試しに児童ポルノを販売してみたところ、売り上げが大幅に上昇。違法性を認識していたものの、生活に必要な金を稼ぐため児童ポルノの販売にのめりこんでいきました。

摘発されたサイトに出品していた男性
「作業自体は簡単で、長くても1時間くらいあれば販売までできて、しかも、家でやっているので腰に負担もないし、寝っ転がってできるような感じなので、それで何十万と稼げたらやはり普通に外に出て仕事しようという気にはならなかったですね。労力は全然かからなくても、収入は前の倍はあるので・・・。正直、ちょっと引くに引けないところがありました」
「売買を続けていていいのか悩んでいた時期もありましたが、どんどん売り上げが増えていくうちにお金目的だけになったような感じですね。被害者と直接関わったわけではなく、ネットからネットで横流ししているような感じなので、あまり罪の意識というのはなかったと思います」

気軽に始めた児童ポルノ売買 その代償は
しかし去年6月、サイト運営者が警察に逮捕されました。その後、捜査は出品者たちにおよび、男性も逮捕され、略式起訴で50万円の罰金刑を受けました。

摘発されたサイトに出品していた男性
「子どもを対象にお金を稼ぐというのは卑劣だったと思います。なんでこんなことになったんだろうという惨めな気持ちにもなります。悪いことはいつかばれるので」

男性は、今では自分がやったことを後悔し、地道に就職活動をしていると語りました。

拡散を加速させる “アフィリエイター”
子どもたちの性的な動画や画像の拡散を加速させているのは出品者だけではありません。特に警察が“犯罪を助長する”として警戒を強めているのが、広告掲載で収入を得るアフィリエイターの存在です。

今回の事件で、検挙された中には、サイトとアフィリエイターをつなぐ事業者も入っていました。アフィリエイターは自らが運営するサイト上に、児童ポルノの販売は“簡単に高収入を得られる”などと書き込み、摘発された販売サイトのリンクやバナーなどを掲載していました。これによって購入者や出品者が販売サイトに集まり、アフィリエイターも儲かる仕組みです。こうしたアフィリエイターも巻き込んだシステムによって、子どもたちの性的な動画や画像は拡散を続けていたのです。

取材した捜査関係者は「アフィリエイターがいなければ、ここまで大きなサイトにはならなかっただろう」と話していました。

児童ポルノのビジネス化 “割に合わない犯罪にすることが必要”
サイトの運営者や購入者、出品者、アフィリエイターなど、さまざまな関係者が子どもたちの“自撮り”による性的な動画や画像に群がり、拡散させていた今回の事件。驚きだったのは、児童ポルノを販売し、数千万円を稼いで逮捕されても、50万円の罰金刑で済んでしまったことでした。捜査関係者の中には「違法な売買で得られる利益の方が大きすぎて、止めることができない」と話す人もいました。

今回摘発されたサイトは閉鎖されましたが、同じようなサイトが次々と現れ、子どもたちの性的な動画や画像の拡散は続いているといいます。こうした状況を変えるには割に合わない犯罪にしていくことが必要で、弁護士やインターネット上の犯罪に詳しい専門家などからは、厳罰化や取り締まりの強化などを求める声も多く聞かれました。



取材を終えて
警察庁が発表したデータによると、去年までの4年間で毎年500人以上の子どもが“自撮り”による被害に遭っており、うち半数は小中学生が占めています。しかし、この数は警察が把握しているものだけで、実際にはさらに多くの子どもたちが被害に遭っているとみられています。被害に遭った子どもや若者は、家族や学校から“送った方が悪い”と責められることを恐れて、被害を打ち明けられない人も少なくありません。

しかし、子どもたちがたとえ自主的に送ってしまったとしても、性の知識が少ない子どもたちにつけ込んで性的な画像や動画を送らせる行為や、本人の同意なくインターネット上などで不特定多数に拡散する行為は性暴力であり、許されることではありません。拡散し続けることで、長期化し、被害者のその後に大きな影響を与える“自撮り”被害。必要なのは子どもたちが被害に遭ったときにいち早く相談できる環境と、性的な画像や動画が拡散しない仕組み。そして、児童ポルノ売買に群がる加害者たちへの厳しい視線ではないでしょうか。

【NPO法人 ぱっぷす】
HP https://www.paps.jp/ (NHKサイトを離れます)
電話 050-3117-5432
メール  paps*papps-jp.org (*部分を@に置き換えてください)
Twitter @PAPS_jp
LINE paps24

“自撮り”による被害をなくし、子どもたちを守るためには何が必要だと思いますか。 皆さんの意見をお寄せください。この記事に「コメントする」か、 ご意見募集ページよりお待ちしております。
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クロ現+
2021年7月16日

#男性の性被害 相談窓口の課題は

性暴力の被害者のために、全国に相談窓口が設けられています。ところが、全国すべての相談窓口の状況を取材したところ、性被害を受けた男性への対応については、体制の整備が追いついていないなど、様々な課題があることが見えてきました。現場の実情を報告します。

男性の性被害 全国の相談窓口はこちら
※男性の相談を受け付けているか、どのような取り組みを行っているかまとめました。
全都道府県にアンケート 男性被害者への対応状況は
性暴力の被害に遭ったときの相談先となるのが、全国の都道府県にある「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」です。ここは行政が関与する相談窓口で、国によると、性別や年齢を問わずに相談ができることになっています。

全国に52か所あるこれらのワンストップ支援センターでは、被害に遭った男性にどのような対応をしているのか。NHKでは各都道府県の担当部署等を対象にアンケートを実施し、52か所すべての状況について回答を得ました。

まず聞いたのは、男性からの相談に対応しているかどうか。その結果、48のセンターでは年齢などの条件を設けることなく、すべての男性に対応していることが分かりました。一方、対応していないセンターが2か所、年齢などの条件を設けているセンターが2か所あることが分かりました。



男性からの相談を受け付けていない2つのセンターは、体制の整備ができていないことを理由にあげています。もし男性から相談があった場合は、他の機関を紹介するとしています。

▼性暴力救援センター和歌山「わかやま mine(マイン)」の回答
救援センターの運営主体が女性相談所となっており、支援員が女性のみであり常駐は1名の状況。支援員の安全性を確保できる施設環境でないこともある。また医療面などの面でも体制ができていない。しかし、男性の被害者がいることは承知しており、今後の体制については県として考えて頂く必要があるのではないかと思っている。


▼性暴力被害者支援センターたんぽぽ (島根県女性相談センター内)の回答
男性の相談を受ける体制が整っていないため、男性からの相談があった場合は他の相談機関(被害者サポートセンター、性犯罪110番)を案内している。

また、条件があると回答した「NPO 法人 千葉性暴力被害支援センター ちさと」は主に学童期の男児に限定、「性暴力救援センター・大阪 SACHICO」は18歳未満の男性に対応を限定しているということでした。  

男性被害者への支援内容にもバラつき
男性からの相談に対応している48のセンターは、実際にどのような支援を行っているのか。男性への支援内容を聞いたところ、センターによってバラつきがあることも分かりました。



電話相談は受けているものの面談は行っていないというセンターがあることや、証拠採取・保管などの医療支援ができるセンターが少ない現状が見えてきました。

さらに、男性からの相談を受けるために行っていることについても聞きました。



男性からの相談を受けることへの課題は
男性からの相談を受けている48センターに、課題があるか聞いたところ、29のセンターで課題を感じていることも分かりました。



具体的には、「相談員が女性であるため男性相談者の気持ちを十分に理解できない場面もある」といったスタッフの性別や、「男性被害者への支援に特化した研修を受けておらず、実際の支援における想定ができていない」などスタッフの専門性をあげるセンターが複数ありました。また、「男性の被害者のための医療機関(泌尿器科や肛門科等)との連携が課題である」といった体制の問題をあげるセンターも複数ありました。

男性被害者への対応 どう進めていくのか
ワンストップ支援センターを管轄する内閣府の担当者に話を聞いたところ、すべての都道府県にセンターが設置されたのは3年前で、各センターは地域のなかで模索をしながら、最善を尽くしているといいます。そのうえで、「性別によって相談が受けられないということはあってはいけないこと」、「男性であっても女性であっても、困ったときにいつでも相談できる状況が担保されるようになるということが大事」との認識を示しました。そのために、国は平成29年度から男性被害者への対応を「先進的な取り組み」と位置づけて、体制整備等にかかる経費の2分の1を交付していると言います。

それでも、課題がある現状については、今年度中に調査を行った上で、対応を考えたいとしています。

内閣府男女共同参画局 男女間暴力対策課 担当者の話
「内閣府の調査を見ても、圧倒的に女性の被害者が多く、どうしても女性への支援が優先されてきたということはあろうかと思いますが、男性も被害に遭っていることがデータ上でも分かっているなかで、男性への対応をきちっとしていかないといけないという認識を私たちも持っています。国としても、ワンストップ支援センターにおける男性被害者の支援状況を把握する必要性があると考えていて、今年度の事業として調査を行う予定です。そこで、ほかに参考になりそうな創意工夫をしているセンターが把握できたときには、そうした好事例を展開していくことで、一歩でも進めていけたらと考えています。

こうしたメディアを通じて被害に遭った男性の声を聞くなかで、男性に対する支援は女性と同じでいいのかということについても、そうではないという部分も見えてきつつあるように感じています。そういった意味では、いままで被害者と一括りに見ていたものを、小さく対象を分けることで、よりきめ細やかな支援につなげていけたらいいのかなと思います」

男性が性暴力の被害に遭ったとき、どのような相談・支援の体制があれば、相談しやすいと思いますか?「こんな窓口があったら話しやすい…」、「こんなふうに対応してもらえたら・・・」など、みなさんの考えや意見を 下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。


クロ現+
2021年7月9日

荻上チキさんと考える #男性の性被害 “セカンドレイプ”をなくすために

クローズアップ現代+で「男性の性被害」の実態についてお伝えしたところ、一部で被害者を責めるような声がありました。それは決して許されない「二次加害(セカンドレイプ)」という被害者を傷つける行為です。
なぜ二次加害が起きるのか、被害者が傷つくことのない社会にするためにはどうしたらいいのか、10代のときに自身も性被害に遭った荻上チキさんに聞きました。

(報道局社会番組部ディレクター吉岡礼美)


1981年生まれ。評論家。
10代前半のとき男性教員による性被害に遭う。それを「性暴力」と認識したのは20年ほどたった30代半ば。
6月24日放送 クローズアップ現代+ 「あなたはひとりじゃない~性被害に遭った男性たちへ~」ゲスト出演。番組の詳細はこちら

根深い“思い込み”によって起こる二次加害
ディレクター: 番組放送後、さまざまな反響がありました。多くが被害に遭った男性たちに共感する声でしたが、その中には残念ながら二次加害にあたるものもありました。荻上さんはどう考えますか。



荻上チキさん: WEB上での反応はいろいろ見ました。実は、私自身も知り合いがSNSで“女性から男性への性被害は自慢かと思ってしまう”という内容の投稿をしていたのを見て、縁を切ろうと思いました。とても不快でした。私は同性からの被害でしたが、女性から男性への被害については、「男性にとっては喜ばしいもの」という誤った認識を持たれることがよくあります。

ディレクター:荻上さんは番組のなかでも、男性の性被害につながりかねない「男性版レイプ神話」についてご指摘されていましたね。



荻上チキさん:男性版のレイプ神話は、男性というのは女性以上に抵抗できるはずだから男性の被害は存在しない。あるいは男性というのは性に対して積極的な存在だから、そうした目に遭ってもそれはうれしいはずだというような格好で、被害に遭ったつらさをかき消すような声があるのです。
そうしたものが周りにあるということを知っていたからこそ、被害者の中には自分の心を守るために、被害がつらかったという気持ちにふたをしてエピソードトークで済ませるとか、笑い話で済ませるという人も恐らく多いと思うのです。

ディレクター:荻上さんご自身も、レイプ神話に苦しめられたり影響を受けたりしたことがありましたか?

荻上チキさん:自分に起きた被害をどう解釈していいかが分からないなかで、私も一つの冗談とか、ある種、身の上話の経験談として、仲間におもしろおかしく話すということをしていました。ただ、その語りも自分にはしっくりこなくて、30代になってようやく「性暴力」だと認識できるようになりました。
データや文献を調べていくと、自分が受けた行為は決して小さなことでもなければ珍しいことでもないのだとわかり、被害を繰り返さないためにはどうすればいいのかを考えていきたいと思いました。
まずは、こういったレイプ神話やステレオタイプが「ある」ということを認識しておくことが必要です。 私たちが心のままに行っている判断や行動、バッシングというものの背景にこうした誤った思い込みが潜んでいて、被害者がSOSを出すことを妨げてしまっているのです



ディレクター:ほかに二次加害が起きてしまう原因をどうとらえますか?

荻上チキさん:被害を受けた人に対して攻撃をする背景には、その攻撃をする側のストレスがあるわけですね。そのニュースから受けたストレスを、“自分とは関係ない”と線引きしたいがゆえに、「これはこの人に特別な落ち度があったからこのような被害を受けたんだ」という物語に改修したいという、自分を守るための手段として行う背景があるわけです。
そのようなバッシングがあるなかで、被害者も「自分に落ち度があった」という物語を自分にもあてはめる場合があります。

ディレクター:番組で声を寄せてくださった男性たちのなかにも「自分を責めていた」という声が多くありました。

荻上チキさん:それは2つの側面があると思います。
1つは、被害者も世の中のバイアスに対して縛られてしまっていることです。
もう1つは、「自分に落ち度があった」ととらえるほうが、実は回復が早い場合があるんです。被害者の方がそうした“被害者非難の物語”、つまり自分が悪かったんだという物語を信じた方が社会にうまく適応できるというデータがあるんです。それはなぜかというと、“自分のせいで被害に遭った”という形にすれば、「次は気をつけよう」という格好で、気をつけさえすればそのような目には二度と遭わないんだと信じることができるからです。



ディレクター:そう思うことによって自分を守ろうとする反応が起きることがあるんですね。
でも、どんな理由があっても、性暴力が許されることにはなりませんし、被害者が責められる必要はありませんよね。

荻上チキさん:私もそう思います。
ただ、人間にはそのような“機能”があるので、加害者や傍観者は被害者の落ち度のせいにして、二次加害を行ってしまったり、肯定してしまったりと、誤った行動を取ってしまう。そのことを意識していかなければ、社会は一向に安全な状態にならない。むしろ遠ざかってしまう。 私たちのなかにある“機能”を認識して攻撃を止めた方が、議論が先に進むということを共有する必要があると思います。

性暴力のない社会にするために 私たちに必要なこと
ディレクター:番組で荻上さんが、被害に遭ったと相談されたときに大切なのは 「有益なアドバイスをするよりも、(被害者を責める)“有害な聞き手”にならないこと」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。
他にも、私たちにできることはありますか?



荻上チキさん:支援の情報が社会に埋め込まれている状況をつくることが大切だと思います。支援する方法を知っている人は、被害者をわざわざ叩かなくて済むのです。
例えば、目の前でけがをしている人がいた時に、いきなり説教はしないですよね。「大丈夫ですか」と声をかけた後、「じゃあ119番しましょうか」と言いますよね。自分が解決できなくても、ここに行けば解決してくれる人がいる、世の中がそのように回っていくことを信頼できているため、目の前にけが人がいてもその個人を叩かなくて済むということです。
一方で性被害や震災被害などは、どこで何をすれば回復できるのか、その問題が解決するのか想像しにくいところがあります。だからこそより危機意識が高まってしまう。その点、さまざまな支援措置が広く社会に埋め込まれていれば、そのような攻撃を減らすことができます。支援の手がかりがあちらこちらにある社会をつくっていくことがとても重要になります。

ディレクター:そのためには、私たち報道機関も支援の情報が広く行き渡るように発信していくことが大切ですね。

インタビューを終えて
性暴力、二次加害、その一つひとつが決して許されないものです。私自身 “有害な聞き手”にならないように努めると同時に、誰もが周りに手をさしのべられる社会になるように、必要な情報を伝え続けていきたいと思います。

二次加害を無くすため、 私たち一人ひとりにできることをみなさんとともに考えていきたいと思っています。あなたの思いや意見を、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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クロ現+
2021年7月2日

身近に潜む!男の子の性被害 私たちにできること【vol.133】

「うちの子は男の子だから、性被害には遭わないだろう」と思っていませんか?クローズアップ現代+が行った男性被害者へのアンケートでは、292人のうち6割以上が未成年のときに被害に遭っていました。学校で同級生に性器を触られたり、公園のトイレに連れ込まれてレイプされたりと、多くのケースが私たちの身近なところで起きています。ところが被害者の7割以上が誰にも相談していませんでした。
どうすれば被害を防げるのか?被害に遭ったとき話しやすい環境を作るには?
男の子の母親で、性教育に関するマンガが大きな反響を呼んでいるヲポコさんと考えました。

(報道局社会番組部ディレクター 竹前麻里子)

身近に潜む性被害から男の子を守るには
ディレクター:私は4歳と1歳の男の子を育てているのですが、番組が実施した「男性の性被害アンケート」の結果を見て、男の子の被害があまりに多く、とても怖くなりました。多くの被害が、登下校中など子どもたちの日常の中で起きています。

・男性の性被害を取り上げたクローズアップ現代+の内容はこちら
・男性の性被害292人アンケートの全体状況はこちら

中学生~大学生のとき被害に遭った男性
「通学の電車で10回以上痴漢にあった。 ズボンのチャックを下ろされて、中まで触られたこともあった」
小学校高学年のとき被害に遭った男性
「下校中に、面識のない20歳前後の男性にトイレの個室に連れ込まれ、無理やり肛門に挿入された。『周りにこのことを話したら殺すぞ』と言われた」
10歳のとき被害に遭った男性
「ピアノの先生(女性)とその友人にレイプされた。大人になっても女性と接するのが怖くて苦しんでいる」

ヲポコさん:本当につらい話ですね。男の子は女の子に比べて、被害に遭わないよう周りが気をつけたり、自衛の手段を教えたりする機会が少ないので、そこにつけ込む犯罪者も多いのではないかと感じました。

30代、男の子(小学生)と女の子(未就学)の母親。保育士資格、社会福祉主事任用資格を持つ。2020年にツイッターで発表した性教育に関するマンガが3.8万リツイート、5.7万いいねと大きな反響を呼ぶ。ヲポコさんのマンガはこちら

ディレクター:ヲポコさんは男の子を育てていますが、そもそも性について家庭でどんなふうに伝えていますか?

ヲポコさん:息子は8歳ですが、同級生でお兄ちゃんがいる子たちは、そろそろ勃起や射精について聞くことがあると思うんです。そうした話を友達伝いに聞くよりも、親が正しい知識をまず教えたほうがいいと思い、包括的性教育(性に関する知識やスキルだけでなく、人権やジェンダー観、多様性など)とあわせて、勃起や射精の仕組みについて教えています。「性器を触ってもいいけれど、周りに見えないところでやるのがマナーだよ」とか。そのときに、「性器を見せる人や、あなたの性器を触ってくる人がいたら犯罪者だよ。逃げるんだよ」ということも同時に教えます。

ディレクター:アンケートでも「知識が無いために被害を認識できなかった」という声があったので、性教育は重要ですね。

幼児のとき被害に遭った男性
「大衆浴場で、知らない男性から『皮がむけてないから、おじさんがむいてあげよう』と言われ、男性器を何度も何度も刺激された。当時はおじさんが親切でむいてくれたのだと思っていた」
小学生のとき女性からレイプ被害に遭った男性
「自分が被害に遭ったのは性的知識がないころ。それを『被害』と認識することも困難だったが、『性的快感』という今までに感じたことがなかった感覚があり、年上の女性に『言うな』と言われ、幼心に『誰にも言えない行為』ということは感じた」
※性器を刺激すると勃起や射精をするのは反射のような反応で、被害者の意思とは関係ありません。望まない性的な行為はすべて性暴力です。詳しくはこちら

ヲポコさん:最近、性教育に関する本がたくさん出ているので、私は子どもたちと一緒に読みながら体の仕組みを教え、どのような加害があるかも同時に話しています。

ディレクター: 本を使うと、性被害について親子で話すときのハードルが下がりそうですね。

男の子を被害者にも、加害者にもしないために
ディレクター:アンケートを読んでいてショックだったのは、男の子同士のからかいやいじめの中で、被害が起きるケースも多かったことです。

小学6年生のとき被害に遭った男性
「クラスメートの男子の家で、6人くらいで集まって遊んでいたときに、どういうわけか男性器の話になった。他の男子に手足を押さえられ、ズボンと下着を下ろされ、下半身を露出させられた。私の下半身を見た男子は『すげー』などと言ってきた。帰宅途中に一人で泣いた」
中学1年のときレイプ被害に遭った男性
「同級生たちから性的ないじめに合い、勃起して射精してしまったので逆らえなくなった。その後も何度も呼び出されて同じことをされた」

ヲポコさん:性的ないじめは絶対に許されることではないけれど、加害をした子どもも、知識が無いためにやってしまうこともあると思います。
私は以前「保育園に通う男の子が、同じ園の女の子の性器を乱暴に触って傷つけた」という告発をツイッターで見たことがあります。
「自分や他人の性器を見せたり触ったりしてはいけない」という性教育が保育園、幼稚園、学校で行われていれば、子どもが被害者になることも、加害者になることも防げるケースが多いはずです。

ヲポコさんはツイッターの一件を知ったことをきっかけに、性教育のマンガを書き始めました。
マンガの続きはこちら


ディレクター:日本の性教育は、諸外国に比べても遅れていると言われていますね。

ヲポコさん:日本の学校では、性交の仕組みについて教えていないんですよね。でも、ここをぼかすと、どんな被害があるのか正確に伝わらなくなってしまうと思うので、早急に見直してほしいですね。
SOSが出しづらい社会 変えるには
ディレクター:もう一つ重要なデータがあります。未成年のときに性被害に遭った男性のうち、73.6%が被害を誰にも相談していませんでした。20代以上で被害に遭った男性(同52%)に比べると、20ポイント以上高い数字です。その理由がこちら。

1位 恥ずかしくて誰にも言えなかった
2位 どこ(誰)に相談していいか分からなかった
3位 相談しても無駄だと思った
4位 そのことについて思い出したくなかった
5位 自分さえ我慢すればなんとかこのままやっていけると思った
6位 相手の行為が理解できず被害を受けたと思わなかった
7位 男性の被害を誰も信じないだろうと思った
7位 今まで通りのつきあいができなくなると思った
9位 被害中に体の反応(勃起など)が起こり後ろめたさや自責感があった
10位 相談するほどのことではないと思った
(※6月20日までの回答をもとに集計)
ヲポコさん:被害を打ち明けられなかった理由を見ると、周りの大人の接し方が大きく影響しているなと感じます。昔、保育士をしていたとき、「カッコいい男の子は泣かずに頑張れるよね!」「男の子なんだからそれぐらい平気でしょ!」といった保育者や保護者の声かけを何度も目にしました。そう言われて育った男の子は、性被害に遭っても「恥ずかしくて誰にも言えない」「誰に相談していいか分からない」と、心にしまい込んでしまうと思います。
男の子が泣いていたり、「〇〇が嫌だ!」と言ったりしているのを見たら、その気持ちを丁寧に受け止めて「君は〇〇をされると嫌なんだね」と一緒に言語化すること。それを積み重ねることで、被害に遭ったときにSOSが出しやすくなるのではないでしょうか。

ディレクター:大事なことですよね。私はそれがなかなかできなくて、反省することが多いです。わが家は共働きで2人の子育てをしているのですが、毎日、家に帰ったあとに本当に時間が無くて。4歳の長男がお風呂に入るのを嫌がったりすると、本人の気持ちを聞かずに叱ってしまうこともしばしばです。

ディレクターと長男

ヲポコさん:実際には、毎日丁寧に子どもと向き合うのは難しいですよね。配偶者の仕事が忙しくて、子育てや家事を一人でやっている人もいるし、本当に難しい。
保育士や学校の先生も、子どもたちの思いを丁寧に受け止める余裕を持つのは難しいと思います。
私が保育士をしていたときは、年中さん27人を1人で担任していました。国の基準では問題はないのですが、もっと保育士がいたらと思うことは、かなりありました。1人がおう吐して、もう1人がおしっこを漏らして、もう1人がごはんをこぼしたら、手が回らない。けんかが起きて、その子どもたちと丁寧にやりとりをしようと思うと、他の子どもを見る余裕がなくなってしまう。

ディレクター:息子の園では、国の基準よりも保育士さんが見る子どもの数を少なくしたり、フリーの先生がいたりしますが、すべての園がそうではないですもんね。

ヲポコさん:保育園や学校、親の努力に任せていると、格差ができてしまうし、現場で頑張っている人がつぶれてしまう。だから国が、先生や親が余裕を持てるようなサポートをしてほしいと思うのです。

ディレクター:子どもたちがSOSを出しやすくするために、私たちがすぐにできることはあると思いますか。

ヲポコさん:ネット上では、性暴力は「喜ぶべきエロハプニング」という誤った認識をもった書き込みや、被害者を責める、セカンドレイプ発言が多く見られます。被害者がそれを目にすると、SOSを出しにくくなってしまいます。また、それを見た人が「性暴力はたいしたことないんだ」と思い込み、新たな加害者になってしまうことも。何気なく書き込んだ1行のコメントでも、社会を構成する一端を担っているんだという意識を、私たち全員が持たなければならないと思います。
また、マスコミが「性的ないたずら」といった言葉を使って、性暴力を軽くとらえる風潮をあおってしまうこともあります。性暴力は人を深く傷つけることで、絶対にしてはいけないことだと、印象づける報道のしかたをしてほしいです。

ディレクター:私たち報道機関が、性暴力をどう伝えるのかも問われていますね。書いた文章がどう受け取られるのか、それによって被害者をさらに傷つけたり追い込んだりしていないか、私も日頃から気を配っていきたいと思います。

・被害者や周囲の人が相談できる、全国の窓口はこちら
・ヲポコさんが描いたマンガ「男性看護師のセクハラ被害」はこちら

ヲポコさんが描いた性教育マンガ






男性の性被害について、あなたの体験や思いを聞かせてください。この記事に「コメントする」か、 ご意見募集ページよりお待ちしております。
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クロ現+
2021年6月25日

わいせつ、自慰の強要・・・男性の性被害 切実な声【vol.132】

「非常階段に連れ込まれ性器をつかまれた」「トイレに閉じ込められ、自慰行為を強要された」。男性の性被害に関するアンケートを実施したところ、260人の被害者から声が寄せられました。今回は、クローズアップ現代+の放送でご紹介しきれなかったみなさんの思いを伝えます(放送内容はこちらから)。
※この記事では、性暴力の実態を伝えるため、被害の具体的な内容にもふれています。フラッシュバックなどの症状がある方はご留意ください。

【男性の性被害者 260人のアンケート結果はこちらから】
【性被害に遭った男性のみなさんへ 相談窓口の情報はこちらから】

「性器をつかまれた」「自慰を強要された」深刻な被害
痴漢、セクハラ、レイプ、自慰行為の強要など、男性たちが受けた被害は多岐にわたります。被害に遭った男性の7割近くは「誰にも相談していない」と答え、被害を1人で抱え続けていました。また、たとえ周囲に打ち明けても、深刻に受け止めてもらえなかったことへの悔しさをつづってくれた男性もいました。



「私が被害に遭ったのは中学生のとき、マンションのエレベーターを降りて玄関のインターホンを押そうとしたときのことでした。一緒にエレベーターに乗っていた男が背後からついてきて、私の手をつかんで非常階段まで連れて行きました。突然のことで、声を出すこともできませんでした。その非常階段の踊り場で、キスをされたり、性器をつかまれたりしました。5分くらい続いたと記憶しています。なんとか逃げましたが、男は追ってきませんでした。その後、玄関のインターホンを押し、家族が鍵を開け家に入りました。突然のことで何があったのか認識できず、性被害に遭ったことは話せませんでした。今でも自分しか知りません。しかしショックは思っている以上に大きく、もうすぐ40代を迎える独身ですが、自分の子供がこのような被害に遭ってしまったらどうしようと思うと、結婚して子供を作るのが怖くなってしまいました」(39歳)
「男性同士の悪ふざけのような行為とみなされ、被害と認識さえしてもらえない現状が嘆かわしく、アンケートに回答いたしました。私は会社のフロアで数名が見ている前で、男性上司から、お尻を触られる行為を受け、それを見ていた別の上司から『喜んでいるんだろ、この変態め』とはずかしめる発言も浴びせられました。総務部や上司に相談をして、加害者や目撃者から話を聞く調査をしてもらいましたが、加害者は会社のトップだったこともあり、“なかったこと”にされてしまいました。弁護士に相談をしても、男性の被害は認めてもらいにくいので、訴えてもいい結果が出る見込みがないと言われました」 (31歳)
「中学のときに複数人から男子トイレに閉じ込められ、自慰行為を強要されたことが何回かあります。自宅に遊びに来た友人に、性器を触られ何かされたこともありました。性被害に遭ったことを人に話したら『それはあなたの心の弱さが招いたものだから、強くなりなさい』と言われました」 (46歳)
“他の被害者のために”声を上げた男性たち
自分が受けた行為を被害と認識することが難しかったり、第三者に打ち明けることに恐れや抵抗感を抱いてしまったりするケースが多い、男性の性被害。そうした中でも「他の男性被害者の救いに繋がれば」と、声を寄せてくれた男性が多くいました。

「同じように悩んでいる人のために、少しでも情報共有できればと思いました」 (40歳)
「男性の性被害者は声に出しにくいという事実があると思います。自分の被害を公にすることで、他の被害者も声を上げやすくなって一人でも多くの方に助かっていただきたいです」 (45歳)
「被害に遭った当時まだ私は子どもでしたが、今でも忘れることがない記憶です。私は今さら周りに話すつもりもないですが、いま被害に遭っているという人には、相談をしてほしいと思っています」(32歳)
“男性も性被害が苦痛だと感じる”ことを理解して
アンケートでは「性暴力の被害に遭った男性が、第三者に相談したりSOSを出したりしやすくなるために、何が必要だと思いますか」と聞きました。この質問に対し、多くの方が男性も性被害に遭うこと、被害に遭うと女性と同じように苦痛を感じることを理解してほしいと話していました。



「世の中から『男は小さいことを気にするな』といった考え方がなくなってほしい。男性にも羞恥心があることを知ってほしい。男らしくないという抑圧をなくしてほしい」(44歳)
「女性へのセクハラも、当初は『コミュニケーションの1つだ』と言われていましたが、今はやってはいけないという認識が浸透しています。やはり地道に『知ってもらう』ことからだと思います。『嫌なことは嫌と言っていい、それには男女や性指向、性自認は関係ない』ということを、多くの人が知る機会がなるべくたくさんあるといいと思います」(45歳)
男性の性被害 防ぐため”早期の性教育を”
さらに、男性の性被害についての教育を充実させてほしいという意見も多く寄せられています。

「まず被害者が自分の被害を認識できないといけません。そして周囲にも、それを奇異の目で見ないよう教えないといけないと思います。そういった意味で、学校教育の現場などで男性の性被害のことをしっかり学ばせる必要があると思います。それから、学校内で性被害に遭った私からすると、中立公正で専門家を常置した第三者機関が必要だと思います」(45歳)
「早い年齢からの『正しい性教育』が欠かせないと思います。それと並行して『ゆがんだ性行為に心当たりがある』と感じたら『どういう所に相談できるのか』という『つらい心の行き先を、できれば二つ以上』早い年齢から周知させる社会基盤の整備が欠かせません。そういうことが頭の中にあらかじめ入っていないと、SOSも出せずにその後の人生を崩壊させてしまうことに至ると思います」(50歳)

アンケートにご回答いただいた皆さん、本当にありがとうございました。
私たちはこれからも、すべての性暴力をなくすために取材と発信を続けていきます。ぜひ、番組への感想や、みなさんの体験、思いを聞かせてください。この記事に「コメントする」か、 ご意見募集ページよりお待ちしております。

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クロ現+
2021年6月24日

男性の性被害 292人実態調査アンケート結果【vol.131】

「男性の性被害」について伝えた、6月24日放送のクローズアップ現代+。番組では性被害に遭った男性にWEB上でアンケートを行い、放送後の6月末までに292人から回答をいただきました。専門家によると「男性被害者の声がこれほど多く集まるのは、日本で初めてではないか」ということです。ご協力いただいた皆さん、本当にありがとうございました。

アンケート結果から見えてきたのは「子どものころの被害が多い」「約7割が誰にも相談していない」など、男性の性被害の実態。専門家とともに読み解きます。



▼〈被害内容〉痴漢・自慰の強要・レイプなど多岐にわたる

▼〈被害に遭った年齢〉子どものころの被害が多い

▼〈被害を認識するまで〉4割が「1年以上かかった」 20年以上のケースも

▼〈加害者〉上司、先輩など上下関係を利用するケース目立つ

▼約7割が「誰にも相談しなかった」

痴漢・自慰の強要・レイプ…さまざまな被害


アンケートでまず尋ねたのは、過去に受けた被害の内容について。国が調査の対象としている男性の性被害は「無理やりに性交等(性交、肛門性交または口腔性交)をされた経験」に限られています(内閣府「男女間における暴力に関する調査」)。しかし、望まない性的な行為はすべて性暴力です。私たちは、より広く被害の実態を捉えるため、複数の選択肢を設けました。

もっとも多かった回答は「衣服の上から体を触られた」(195人)「直接 体を触られた」(142人)といった、体に触れる被害。「無理やり指や性器・器具などを挿入された」(53人)「無理やり指や性器・器具などを挿入させられた」(35人)、「自慰行為をするよう強要された」(40人)「自慰行為を見るよう強要された」(19人)といった被害も目立ちます。「その他」には、「性器をなめろと強いられた」「無理やりに性器をなめられた」という被害が複数ありました。

男性の性被害について研究している立命館大学大学院の宮﨑浩一(みやざき・ひろかず)さんによると、「男性の性被害の実態が、これだけ詳細に明らかになるのは私が知る限り日本で初めてであり、意義深い」といいます。


(宮﨑浩一さん 立命館大学大学院人間科学研究科博士課程後期課程。臨床心理士・公認心理師の資格を持つ。男性の性被害の実態や被害者の心理について研究しており、2020年6月には法務省「性犯罪に関する刑事法検討会」のヒアリングに協力)

立命館大学大学院 宮﨑浩一さん
「これはインターネット上のアンケートではありますが、日本には男性の性被害の実態について広く捉える調査や研究がほぼありません。今回292人もの方がご自身の経験した被害について答えてくれたことには、とても意味があると感じました。ことし発表された国の調査では、無理やりに性交等されたことがある男性は“100人に1人”という結果でしたが、このように被害を広く捉えれば、つらい体験をしたことがある人がもっと多く存在していることが分かります」

また、被害内容についての自由記述では、「被害とは言えないと思うが…」「大した被害ではないけれど…」などの前置きを添えている人が目立ちました。宮﨑さんは、「男性の身に性被害が起こり得ることが知られていないためではないか」と指摘します。

立命館大学大学院 宮﨑浩一さん
「どういう行為が性被害なのか、あまりにも情報が足りていません。性的に不快だったという“個人の体験”が性被害に該当するのかどうか、どこからもお墨付きが得られず、自分から被害だと表現することに難しさを感じてしまうのだと思います。その一方で加害者は、被害者の行動や心理をよく観察して、自分が加害行為に及ぶことができる状況を巧みに作り出すのです」

子どものころの被害が多い


被害に遭ったときの年齢については、過半数が「未成年」と回答していました。子ども時代に何らかの性被害を経験した上で、成人してからも再び被害に遭ったという人や、複数年に渡って継続的に被害に遭い続けていたという人も珍しくありません。宮﨑さんは「若年層の被害が多いことは、性暴力を取り巻くあらゆる議論を進めていく上で、とても重要」と指摘します。

立命館大学大学院 宮﨑浩一さん
「この調査結果だけでなく、警察庁がまとめている強制わいせつや強制性交の認知件数を見ても、20代までの子どもたちの被害がとても多いことが分かります。いま、性犯罪の刑法改正をめぐる議論では、“性交同意年齢”(※)が明治時代に制定された“13歳”のままであることをどう考えるべきか、意見が分かれています。そうした議論の中でも、性別に関わらず、子どもたちが性被害に遭っているという現実を踏まえて、子どもの被害をなくすために何ができるのか、真剣に考えていただきたいと思っています」
※性交同意年齢…自分で性行為に同意するかどうか判断できるとみなされる年齢の下限。日本では現在、13歳の少年少女が性的暴行を受けた場合、脅迫されたか、抵抗したかなどを、かれらが自分自身で具体的に説明しなければなりません。(ただし親などの「監護者」が18歳未満に性的暴行をした場合は、同意の有無にかかわらず処罰の対象になります)

約4割が性被害と認識するまで「1年以上」 20年以上かかることも


若年層の被害が目立つ一方で、注目したいのが、自分が受けた行為を「性被害」として認識するまでにかかった時間です。約半数が行為の直後から被害を認識していたのに対し、約4割が1年以上かかったと回答。20年、30年以上かかったと自由記述欄に書いた人や、「いまも被害とは感じられない」と答えた人もいます。刑事事件の性犯罪・性暴力の時効は、強制わいせつ罪が7年、強制性交等罪は10年。この時効が実態に即しているか議論する上でも、重要なデータです。

加害者は上司・先輩など 上下関係を利用するケース目立つ




加害者は「男性」とは限らず、「女性」や「男女ともいた」というケースも少なくありません。また、加害者が複数いたケースも3割近くにのぼり、いじめやリンチの一環で性被害に遭ったと答えた人も複数いました。



加害者との関係について尋ねると、57.2%が「知っている人」と答えました。「上司」「先輩」「学校の先生」など上下関係を利用した加害が目立ちます。宮崎さんは、このほかに“見えない上下関係”や“ジェンダー構造のねじれ”についても注視する必要があると指摘します。

立命館大学大学院 宮﨑浩一さん
「人間関係は、上司と部下、先輩と後輩といった分かりやすい上下関係だけではありません。例えば、同級生どうしの被害であっても、クラスの中でのパワーバランスや、ヒエラルキーのような“見えない上下関係”が存在していて、被害につながっていることがあります。また 男性の性被害の場合、“男だったらこれぐらい大丈夫だろう“と強い男らしさを勝手に期待されて被害に遭うことがあります。また、“女性が劣位、男性が優位”とされている社会構造の中で加害者が女性だった場合は、一般的に認識されているジェンダー構造と一致せず、ねじれが生じるので加害者の存在が見えにくく、被害に遭った男性の側も、ひとりで抱え込んでしまいがちです。男性被害者の苦しみの根深さがうかがえると思います」


“誰にも相談しない” 約7割 その理由は…


性被害について、誰かに打ち明けたり、相談したりした経験について尋ねたところ、66.4%が「どこ(誰)にも相談しない」と答えました。その理由としてもっとも多かったのが「恥ずかしくて誰にも言えなかった」(84人)。次いで「相談してもむだだと思ったから」(74人)、「どこ(だれに)相談してよいのか分からなかった」(60人)など、 相談すること自体への諦めや、被害に遭った人に必要な相談先の情報提供が不足していることもうかがえました。

また、「男性の性被害を誰も信じないだろうと思ったから」(51人)、「被害中に身体反応(勃起など)が起こり、うしろめたさや自責感があったから」(46人)、「相談することは、男らしくないと思ったから」(26人)など、自分の心や体が“男性”であるがゆえに相談をためらったという人たちも。

一方で自由記述欄には、「相談」という形ではないものの、人に話したこと自体はあると書いた人も少なくありませんでした。

・相談ではないが、男子校の友人に「ネタ」として話したことがある
・しっかりした相談というより、飲み会の中で笑い話として話した感じ
・“腹が立つ話”として職場で喋(しゃべ)った。相談ではない。


宮﨑さんは、相談することをためらい、笑い話や“ネタ“に変えて語るのは、男性の性被害者の“精一杯のアクション”ではないかと指摘します。

立命館大学大学院 宮﨑浩一さん
「誰かに“相談する”という行動は、被害を被害として捉え、自分を被害者として受け止めなければできません。それはためらってしまうという人が少なくないのではないでしょうか。男性の性被害の実態がまだまだ知られておらず、打ち明けた先にどう思われるのか分からないという不安な状況の中では、被害のことを笑い話や“ネタ“として話して、相手の反応をうかがうのが精一杯なのかもしれません」

では、相談したことがあるという人たちは、どんな相手に打ち明けているのでしょうか。



もっとも多かったのは「友人・知人」(48人)、「家族や親せき」(34人)といった身近な存在。全都道府県に1か所以上設けられている“性暴力ワンストップ支援センター”などを示す「性暴力被害者支援の専門相談窓口」は、292人中5人にとどまりました。(※相談窓口の情報はこちらからご覧いただけます)

身近な人に被害を打ち明ける人が多いなか、宮﨑さんは「打ち明けた人たちが、被害をどう受けとめてもらったのかという点も考える必要がある」と指摘します。

立命館大学大学院 宮﨑浩一さん
「臨床心理士など性被害に関わる支援者の間でさえ、男性の性被害について知る機会が少ないのが現実です。まだまだ実態が知られていないために、“男性が性被害に遭うわけがない”として信じてもらえないなど、偏見がもたらす影響が根強く残っています。もし、大切な誰かが被害を打ち明けてきたときに、その言葉を否定せずに受け止めることができるかどうか。多くの人に考えてもらいたいです」


292人の声を未来につないでいくために


性暴力の被害は、被害を被害として認識するまでに長い時間がかかったり、被害を受けとめていたとしても、第三者に打ち明けにくかったりと、社会に埋もれてしまうことが少なくありません。しかし、たとえ被害の実態が見えにくいからといって その事実が、その苦しみが、その悔しさが、社会のどこからも“なかったこと”になっていいはずがありません。

この記事では、アンケートに集まった292人の声を集計し、データを中心にお伝えしましたが、アンケートには、「その他」の自由記述欄がいっぱいになるほど、ご自身の思いを書いてくださった方々もいらっしゃいます。「偶然アンケートを見つけて、被害のことを思い出した」という方や、長い間ひとりで抱えてきた思いを「このアンケートで初めて人に話します」という方も。私たちは 皆さんが発してくれた声の一つひとつを大切に受け止め、全ての性暴力をなくし、万が一被害が起きても、被害に遭った人を取り残さない社会を作るためにはどうすれば良いのか、みなさんと一緒に考え続けたいと思います。

このアンケート結果について、みなさんはどう感じましたか? あなたの思いや意見を、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。


クロ現+
2021年6月18日

マンガで伝える「男性看護師 セクハラ被害の実態」【Vol.130】

男性がセクハラ被害に遭う割合が高い職場があるのをご存じですか?その1つが看護の現場です。2011年に行われた調査では、「職員間のセクハラを経験した」と答えた男性看護師は13.3%。7.3%だった女性看護師の倍近くに上りました(※1)。男性看護師に聞き取り調査を行った専門家によると、背景には「人手不足でストレスがたまりやすい」「男性が少数派」など、保育や介護の現場にも共通する組織の特性があるといいます。
男性看護師はどんなセクハラ被害に遭うのか?被害を防ぐために、私たちができることは?保育士の資格を持ち、性教育を題材にしたマンガを発表している、ヲポコさんに描いていただいた作品とともに考えます。
(※1 安全医学「東京都の医療機関における暴力の現状」より。半年に一度以上、被害に遭った看護職の割合)

(報道局社会番組部ディレクター 竹前麻里子)





マンガの続きはこちら
セクハラの背景に"ケア現場のひずみ"
男性看護師のセクハラ被害について調査を行った、東邦大学看護学部の後藤喜広助教です。後藤さんは看護師として働いていた若いころに何度もセクハラを見聞きし、自身も被害に遭ったことがあるといいます。


東邦大学看護学部 後藤喜広助教

その経験から、男性看護師が受けるセクハラの実態や背景を調べるために、2016年から2019年にかけて、被害経験のある男性看護師20名以上にインタビューを行いました。すると、次のような事例が明らかになりました。

▼女性看護師がお尻を触ってきて、ほかの同僚を呼んで触らせようとする。
▼女性看護師が「筋肉すごいね」「体格いいよね」と言って、胸や腕を触ってくる。
▼男性看護師が女性患者のぼうこう留置カテーテルの挿入を行う場面で尿道口が見つけられなかったため、先輩の女性看護師に報告。すると「まだ女の体を知らないのか」と笑いものにされた。尾ひれがついてうわさが広がり、ほかの同僚にもからかわれた。
▼男性看護師だけの飲み会で、先輩から「全員脱げ」といわれて、半裸で写真を撮ることになった。お尻を出している人、パンツを脱いでいる人もいた。


加害者は女性看護師のケースが約半数で、女性患者、男性看護師が続き、男性患者や女性売店販売員が加害を行っていたケースもありました。
同僚や上司から行われたセクハラの多くには、1つの共通点がありました。若い男性看護師を性的なからかいの対象にして、笑いを取る目的で行われていたのです。背景には、ケアの現場が抱えるひずみがあると、後藤さんは指摘します。

東邦大学看護学部 後藤喜広さん
「世界でも高齢化が著しい日本では、患者数の増加に伴い、多忙のためにストレスを抱える看護師が少なくありません。職場の疲弊を紛らわせるためのはけ口として、マイノリティである男性看護師にセクハラが行われるケースが多いと考えています」

また導尿行為や排泄介助など、身体接触を伴う業務が多いため、性的なからかいに結びつきやすいと後藤さんは話します。

東邦大学看護学部 後藤喜広さん
「日常的に身体接触を伴う業務をしていると、身体に関する話題に心理的抵抗が少なくなる。『看護に関することだから、脱線したセクシャリティの表現があっても許容される』と思い込み、加害をしてしまうケースが多くありました」

「人手不足でストレスを抱えやすい」「身体接触が多い」「男性が少数派」という特徴は、介護や保育などのケアの現場にも共通すると後藤さんは考えています。
被害に遭った男性看護師のほとんどが声を上げない
さらに調査から、被害を受けた男性看護師の大半が、誰にも相談していないことがわかりました。その理由について、被害を受けた看護師の男性から話を聞くことができました。

タイキさん(仮名・20代)は、3年前に上司である男性看護師からセクハラを受けました。
タイキさんが体調不良で仕事を休んだときのことです。検査の結果、異常が無かったことを上司に電話で伝えると、思わぬ言葉が返ってきました。「本当になんともなかったの?性感染症なんじゃないの?相手はA子では?」。A子さんは、その前の晩にタイキさんと夜勤に入っていた女性看護師です。まじめに業務の連絡をしているときに、性的な暴言が飛び出したことにタイキさんはとても不快な気分になりました。
上司はその日以外にも、「最近B子と仲良いね、もうやったの?」といった性的な話題を、職場でたびたび投げかけてきました。しかしタイキさんは、上司にやめてほしいと言うことも、他の上司に相談することもせず、我慢し続けていました。


タイキさん(仮名)

タイキさん
「(セクハラ発言をする)上司は専門看護師の資格を持っていて、自分は技術を教えてもらう立場なので言い出しにくかったです。仕事を円滑に進めるために、セクハラ発言を大ごとにすることはできませんでした」

上司を監督する立場の看護師長も、注意することはなかったと言います。

タイキさん
「上司は、師長にはバレないようにセクハラ発言をしていました。この人なら騒がないだろうという人を選んでやるんです。師長はうすうす気づいていたかもしれませんが、定年退職まで数年だったので、大ごとにしたくなかったのか、注意はしませんでした」

セクハラ被害を調査した後藤さんによれば、タイキさんのように不快な感情を押し殺している男性看護師は少なくないと言います。看護の現場は少人数でシフトを組まなければならず、「特定の人物とペアを組めない、一緒の時間帯に働けない」という状況は、職場全体に迷惑がかかったり、評価が下げられたりしてしまうのではと心配する人が多いためです。
また、うわさが広まるのを恐れたり、「女性が多い職場なので、男性のセクハラ被害は共感されないのでは」と考えたりして、誰にも相談しなかった人もいました。

東邦大学看護学部 後藤喜広さん
「院内にセクハラ相談窓口をもうける病院は増えています。しかし、男性看護師がより安心して相談できる環境を整えるためには、病院外の弁護士事務所などに第三者の相談窓口を設け、秘密を厳守していることを周知することが重要ではないでしょうか」

私たちにできることは“意識のアップデート”
男性のセクハラ被害を無くしていくために、また男性被害者が声を上げやすい社会を作るために、私たちにはどのようなことができるのでしょうか。ヲポコさんに聞いてみました。




男性の性被害 取材を続けます
「セクハラの被害者は、たとえ不快な思いをしていても、それを表に出せない人が多い」という調査結果が心に残りました。もしかしたら私(女性・ディレクター)も、無意識のうちに同僚や後輩の男性を傷つけていたかもしれないと反省しました。
ヲポコさんがおっしゃっていた、「男女の性別を逆転したら今の行動は違和感がないか?」「笑いのネタが相手を傷つけていないか?」を意識して、健全なコミュニケーションを心がけたいと思います。
今後も、男性の性被害の実態について取材を続けます。

男性の性被害について、もしよろしければあなたの体験や思いを聞かせてください。この記事に「コメントする」か、 ご意見募集ページよりお待ちしております。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。


クロ現+
2021年6月11日

男性のレイプ被害 HIVに感染も「被害を認識できなかった」【vol.129】

複数の男性から望まない性行為を強いられ、HIVに感染したという男性が、体験談を寄せてくれました。男性は長い間、自分が被害者だと認識することができなかったといいます。その背景には、多くの男性被害者が直面する深刻な事情がありました。

(報道局政経・国際番組部ディレクター 神津善之)

サウナでレイプされHIVに感染

40代男性です。よく通っているサウナで知り合った同年代の男性から、別のいいサウナの施設があると誘われ一緒に行きました。
館内休憩所でアルコールを飲んだあと突然睡魔に襲われ、薄暗い仮眠室のようなところで横になりました。
一緒に来た男性が僕の着ていたガウンを脱がして性器をフェラチオしてきました。やめてと言っても脱力で力が入らなかったです。
周りの男性も寄ってきて、交代で私の口や肛門に、性器を入れてきました。手に握りしめていた冷たくなったタオルの感触は鮮明に覚えています。妻には絶対言えません。


みんなでプラス「“性暴力”を考える」にこの投稿を寄せてくれた、ダイスケさん(40代・仮名)です。関東地方で看護師として働き、妻と2人の子どもと暮らしています。


ダイスケさん(仮名)

ダイスケさんが被害に遭ったのは3年前。銭湯で出会った男性に連れられて行った、男性専用のサウナでの出来事でした。休憩所でアルコールを飲んだあと、急激な睡魔に襲われました。いま考えると、レイプドラックが入っていたのではないかと感じていますが、そのときは分からずに、男性に支えられながら仮眠室へ向かい横になったと言います。そして眠りに落ち、気が付くと、複数の男からレイプされていたのです。



被害時の行為でHIVに感染し、いまも血液検査や薬の処方が欠かせず、3か月に1回、通院しています。(※現在はさまざまな治療薬があり、服薬することでエイズ発症を予防することが可能です)
ダイスケさんは、検査日が近づくたびに、被害のことを思い出して苦しくなると言います。

ダイスケさん(仮名)
「なんで自分がこういうことになってしまったんだろうという思いとか、悔しさとか、自分の何が悪かったんだろうという気持ちとか、そういうのが一つひとつ積み重なっていくというか。やっぱりそういうことを考えてしまうので、一つひとつ苦しいっていう感じがあります。
以前はフラッシュバックが頻回にあったり、そのフラッシュバックによって急に目が覚めて中途覚醒みたいな感じになったり、十分な睡眠や休息がとれないとか、男性の大きな声を聞いたりするとドキっとしてその瞬間手が震えはじめたりとか、そういう体の変化もありました」
体の反応に混乱「被害を認識できない」
被害によって体にも心にも大きなダメージを受けたダイスケさん。しかし、被害について当初は「レイプだと認識できなかった」と話してくれました。
もともと男性がレイプの被害に遭うということを考えたことがなかったことに加えて、被害時に自らの体が反応したことをどう理解すればいいか分からなかったからだと言います。
望まない性的な行為であったにも関わらず、性器や肛門を刺激され、ダイスケさんは勃起し射精しました。そうした体の反応によって、大きな混乱に陥り、被害と認識することができなくなったのです。

ダイスケさん(仮名)
「自分の中では非常に苦痛だったし、自尊心を傷つけられることだったので、本当につらい状況だったという認識なんですけれど、体の反応としては、快楽が得られたあとのような反応、つまり、勃起して射精しているような状況だったので、まったく自分の中でも理解できないというか、自分の気持ちが本当に性行為をやめてほしかったのか、それとも受け入れていたのか、その辺が本当に混乱して。 (被害時に)射精した瞬間、やっぱり正直言うと、気持ちいいという感じがあったので。気持ちいいと思ったんだったら、自分はそれを受け止めていたんだろうという気持ちがあった。体で感じた感覚と心で感じた痛みっていうのはすごい乖離しているので、非常に混乱したっていう感じですね」

「自分を許せなかった」と繰り返し語ったダイスケさん。被害に遭ったという認識を持てず、自らを責め続けてきました。そして、この経験を誰にも話すことができず、一人で抱え続けてきたのです。

ダイスケさんが、自らの経験を性被害だと明確に認識するようになったのは、「“性暴力”を考える」の記事がきっかけでした。



レイプの被害に遭った男性の記事を目にしたのです。さらに、専門家のインタビューで印象的な一文がありました。
「熱いものを触ったときにやけどをするのと同じように、性器を触られて勃起したり射精したりするのは、あなたの意思とはまったく関係がない。あくまでも自然な体の反応。だから、あなたがおかしいわけではないんです」
こうした情報を得たことで、体に起きたことを理解し、自分を責める気持ちも軽減されたと言います。

ダイスケさん(仮名)
「自分が受けた行為がどういうものだったか、ほかの方のエピソードを通じて理解することができて、自分は男性による性被害を受けたんだと、男性も性被害を受けることがあるんだということが、一番理解につながったというか、自分を受け止められるきっかけになったと思います。 その中で、自分が自分に対して嫌悪感を持っていた射精する行為っていうのが、生理的な反射によって起こったことで、自分の思いとは違うということが理解できて、自分をやっと許せるように思いが変わってきたという感じです」

ダイスケさんが読んだ記事はこちら【被害に遭った男性のみなさん そばにいるみなさんへ】

男性の性被害についての知識を得たことで、徐々に自らの被害について受け止められるようになったというダイスケさん。今回、その経験を語ることで、自分と同じように被害に遭った人の役に立つことができればと取材に応じてくれました。それでもまだ、家族に対しては「自分の言葉で十分に伝えられるか不安がある」として、打ち明けることができずにいます。

男性の性被害 取材を続けます
ダイスケさんへの取材を通して、同じ男性として、被害に遭ったときに起きる体の反応を想像し、その混乱の深さを思わずにはいられませんでした。そして、その混乱が、被害について声を上げることの難しさへとつながり、多くの男性の性被害が埋もれている実態があるのではないかと感じています。今後も、男性の被害の実態について取材を続けていきたいと思います。

男性の性被害について、もしよろしければあなたの体験や思いを聞かせてください。この記事に「コメントする」か、 ご意見募集ページよりお待ちしております。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。


クロ現+
2021年6月4日

男性の性被害 実態調査アンケートご協力のお願い【vol.128】

「みんなでプラス“性暴力”を考える」では、なかなか認知されてこなかった男性の性被害について取材し、発信を続けてきました。今回、男性が受けた性被害について WEBアンケート調査を行い、より広く 被害の実態や社会的背景を捉えたいと考えています。

※アンケートは終了しました。

被害を思い出し、第三者に伝えることは たとえインターネット上で 匿名で回答できるアンケートであっても、つらい気持ちや苦しさを伴います。被害に遭ったことがある方に、直接ご協力をお願いすることを心苦しく思いながら、私たちがこのアンケート調査を実施しようと決めたのには、理由があります。

認知されにくい 男性の性被害


ことし3月に公表された国の調査によると、女性だけでなく男性も含めて約24人に1人が無理やりに性交等される被害に遭っています。しかし被害に遭った男性の約71%が、「どこにも(誰にも)相談しなかった」と回答しています。その理由として多く挙げられたのは、「自分さえがまんすれば、なんとかこのままやっていけると思った」「相談してもむだだと思った」というもの。被害が“起きていない”のではなく、“被害に遭ったことを安心して打ち明けられる環境”が不足していることがうかがえます。

そうした中、私たち「みんなでプラス“性暴力”を考える」のもとには、性被害に遭った男性や 被害に遭った男性の身近にいる方から、切実な投稿が届いています。ひとつひとつの声から浮かび上がってくるのは、国が調査している性器の挿入を伴う被害以外にも、痴漢や、“パワハラ・セクハラ”、“いじめ行為”として行われる性暴力など、様々な被害が起きていることです。さらに詳しく取材させていただいた男性たちからは、「性暴力被害は女性だけの問題と捉えられているような気がして、今まで誰にも言えなかった」という声を聞くこともあります。



被害者に “誰も頼ってはいけない”“自分が強くあらねば”と思わせてしまう社会がいいはずはありません。性別に関わらず、性暴力被害に遭った誰もが安心して声を上げ、SOSを出すことができる社会を作るためには何が必要か。私たちは皆さんのご経験や思いをお聞きし、この問題についてより広く深く伝えていくことで、社会全体に問いかけたいと考えています。そのために、まずは被害の実態を把握したいです。ご無理のない範囲で、あなたの力を貸してください。

アンケート調査に回答するには


アンケート調査にご協力いただく方法は、以下の通りです。

●回答期間:2021年6月4日(金)~20日(日)昼12時まで
●回答方式:こちらの WEBフォーム から 匿名でもご回答いただけます。(※アンケートは終了しました。)

※メールアドレスなどご連絡先をご記入いただいた方には取材班から後日ご連絡させていただく場合があります。
※クリックするとアンケートフォームにジャンプします。

●回答のご負担への配慮
性被害当事者を対象にしたこのアンケート調査では、ご回答いただく方の負担軽減、プライバシーへの配慮が通常にもまして必要です。私たちは、なるべくご負担をおかけしないように、被害の実態を知ることと プライバシーへの配慮のバランスについて、専門家や研究者のアドバイスを受けながら注意深く検討しました。例えば、質問形式の多くは「選択式」を採用し、質問数は10問程度に絞りました。それでも、被害について思い出したり、言葉にしたりすることは少なからず負担を伴います。どうか、途中で負担を感じる場合は、無理をせず回答を中止してください。
※大変申し訳ございませんが「みんなでプラス“性暴力”を考える」では、個別に専門的な支援を提供することができません。性暴力被害の相談窓口については こちらに私たちがこれまで取材した情報をまとめてあります。ご活用いただければ幸いです。

●複数の被害に遭った方へ
今回のアンケート調査では、ご回答いただく方の負担を軽減する目的と集計上の理由から、一度のご回答につき、詳しくお聞きするのは最も衝撃をうけた被害に絞っています。複数の被害に遭った経験があり、お伝えいただけるという方は、自由記述欄にご記入いただくか、大変お手数ですが被害ごとにご回答くださいますよう、お願いします。ただ、くれぐれもご無理のないようにお願いします。

●男性以外の性自認で、性暴力被害に遭った方へ
性暴力被害は ジェンダーやセクシュアリティ、年齢に関わらず誰の身にも起こりうることです。私たちは2年前から「みんなでプラス“性暴力”を考える」のページや「クローズアップ現代+」などの番組で被害の実態を伝え、被害者・加害者・傍観者を生まないために何が必要か、皆さんと一緒に考えてきました。過去の記事はこちらから読むことができますので、もしよかったら ご覧いただけるとうれしいです。また、今回のアンケート以外にも、それぞれの記事ごとに添えられている「コメントする」というボタンや、ご意見募集ページから、匿名であなたの体験や思いをお寄せいただくことも可能です。よろしければ あなたの声を聞かせてください。
※「コメントする」にいただいた声は、公開させていただく可能性があります。

●個人情報の取り扱い・調査結果の公表について
皆さんからいただいたご意見・情報は趣旨を変えずに一部表現を修正し、個人情報を伏せた上で今後の「クローズアップ現代+」の放送や、番組の公式ツイッター、「みんなでプラス“性暴力”を考える」で紹介させていただくことがあります。 また調査結果は 改めて「みんなでプラス“性暴力”を考える」の記事でもお伝えする予定です。いずれの場合も、皆さんのメールアドレスなど個人にかかわる情報が公開されることはありません。なお個人情報保護に関する情報は、「報道・著述・学術研究分野の個人情報の保護について」をご参照ください。

クロ現+
2021年5月28日

“科学者”になって性を学ぼう!~子どもへの性教育~【Vol.127】

「科学者になったつもりで話を聞いてもらいます」
白衣姿の講師がそう語り始める性教育があります。体の仕組みなどの性の話は、恥ずかしいことではなく科学の話。そうした視点でタブーを取り払って性を学ぼうと、札幌市のNPOが行っています。
今年度から「生命(いのち)の安全教育」が教育現場に段階的に導入されていくなか、性被害を防ぐための教育に何が求められるのか。このNPOの取り組みからヒントを探ります。

(報道局社会番組部ディレクター 吉岡礼美)


性の話は“科学の話”
「赤ちゃんはどこから生まれてくるの?」
「赤ちゃんはどうやっておなかに入るの?」

子どもたちからこんなことを聞かれ、戸惑った経験はありませんか?


(NPOピーチハウス「性の健康教育 からだの科学」 子ども向けの動画より)

札幌市のNPOピーチハウスが、15年以上にわたって行っている性教育の講座「性の健康教育 からだの科学」(対象:未就学児~高校生)。子どもたちに次のように切り出します。

「皆さんは科学者になったつもりで話を聞いてもらいます」
「科学者は『うえー、気持ち悪い』とか『嫌だ、恥ずかしい』とか決して言いません。その代わり『なるほどそういうことか』と言います」


照れや恥ずかしさを取り除き、科学的な視点で正しい性の知識を学ぶ準備をしてから講座の内容に入るのです。

最初は「プライベートゾーン」の大切さ。口と胸と、両足の間にある「性器」という名前の場所は誰も勝手に見たり触ったりすることが許されない部分であることを伝えます。触られたくないときは「嫌だ」とはっきり断り、それでも触ろうとする人には「パンチをしてもいい、キックをしてもいい、ゲロをかけてもいい、何をしてもいいから逃げる」と、身を守る方法を具体的に教えます。

同時に、性器が痛んだり、何か違和感を覚えたりしたときは、恥ずかしがらずに保護者や医師に声をあげるよう伝えます。

こうして自分の体の守り方を理解したあと、性器や体の部位の名前を一つひとつ丁寧に教え、声に出して繰り返してもらいます。


(NPOピーチハウス「性の健康教育 からだの科学」 説明する講師)

次に、妊娠までの過程や仕組みをストレートに伝えます。あいまいな言葉は使いません。

「男の人のペニスを女の人のワギナ(ちつ)に入れて、精子を卵子に届けます。精子と卵子が結びつくことを受精といいます。そうして赤ちゃんができます」
「そしてこれらのことをセックスする、もしくは性行為と言います」


また「2人の大人がお互い大好きになると、多くの場合セックスをたくさんしたくなります」と説明した上で、避妊の方法を教えます。


(避妊具の使い方と廃棄のしかたを教える講師)

こちらも実際に、避妊具(コンドーム)を見せて付け方を説明。医師が手術の際に使う手袋と同じ素材でできていること、精子が避妊具の中に出ることで卵子に届かなくなることを伝えます。さらに、使用後は紙などに包んで捨てるよう廃棄のしかたも示し、マナーを守れない大人にならないよう教えます。

講座の内容は発達段階に合わせて構成されますが、言葉が話せるようになった幼児期から性器の名前や妊娠までの過程、避妊具について学びます。早い段階から正しい知識やマナーを身につけることで、子どもたちが、性暴力の加害者にも被害者にもならないようにすること、そして性において自己決定ができるようになることを目指しています。

子どもだけでなく大人も学ぶ
NPOピーチハウスは17年前、地域の保護者が集まり、学校の授業では性行為や避妊方法が取り扱われないなか、子どもに性や性暴力の正しい知識を届けたいと発足しました。子どもの性教育における第一人者、カナダのメグ・ヒックリングさんの教育法に学び、“科学的な視点”で語れば、性の話がタブー視されがちな日本でも正しい知識を伝えることができると考えました。


(NPOピーチハウス 吉裕子さん)

NPOピーチハウスのメンバーで講座の講師を務めている吉裕子(よし・ゆうこ)さんは、社会のなかで心も体も健康に生きていくためには、まずは自分の体を知ることがとても大切だといいます。

NPOピーチハウス 吉裕子さん
「感情を横に置いて考えると、体がここにあり、生命がつながれてきたことは事実です。まずは体があって、その上で社会のなかで生きていくから関係性や社会性というものが出てくる。自分の体を気持ちよく受け入れる、もしくは受け入れられない理由を自分で理解するには、自分の体のことを知ることが大切ですし、それは健康に生きることそのもので、自己肯定感と深く関わります。ですので、子どもたちにまずは“事実”として私たちの体の仕組みを伝えることがとても大切で、“科学的な視点”はその事実を捉えるためのキーワードだと考えています」


(NPOピーチハウス「性の健康教育 からだの科学」 大人のための講座)

NPOピーチハウスがこだわっているのは“大人も学ぶこと”。子どもたちが講座に参加する場合、保護者には大人向けの講座に参加してもらうようにしています。まずは大人に科学的な視点から学んでもうらことで、子どもたちが学ぶ知識と情報を理解して納得してもらうこと、共有してもらうことが欠かせないと考えているのです。子どもたちからの性の質問にどう答えたらいいか戸惑う大人も多いことから、子どもたちへの教え方や教えるタイミングについても詳しく伝えています。


(大人向けの講座の参加者に配布している資料)

さらに講座では、参加者どうしで性の話をすることを大事にしており、毎回「初めて触れた性の情報」について周りの人と話してもらう時間を設けています。

NPOピーチハウス 吉裕子さん
「大人の方が、照れや恥ずかしさがあったり、タブー視していたりということがありますので、性のことをあえて口にしてもらいたいと思っています。相手の話を聞く練習にもなりますし、自分の経験を振り返ることによって、改めて家庭で性の情報を伝えることを自分ごととして考えていただく契機にしたいと考えています。そして最初に性の情報に触れたときのことを話してもらうと、『恥ずかしいと感じた』とか『気持ちが悪かった』とか、ネガティブな感情がともなっていた人が多いことが分かります。周囲の反応や、当時の気持ちをよく記憶していることが多いため、そこから子どもたちに伝えるときの雰囲気づくりやユーモアを交える必要性を感じてほしいと思っています」

コロナ禍で始まったオンライン講座 予想外の広がり
NPOピーチハウスがこれまで行った講座は、70回以上。しかしコロナ禍で実際に子どもたちや保護者を集めることが難しくなり、中止せざるをえない事態となりました。コロナ禍でも必要な情報を届けるにはどうすればいいか。ことし3月、初めてオンラインで講座を開催することにしました。


(NPOピーチハウス「性の健康情報 からだの科学」 オンライン講座)

対面での話し合いを大切にしてきた吉さんたちにとって、オンラインは抵抗があったといいますが、思わぬ広がりが生まれました。北海道だけでなく全国からおよそ50人が参加。しかも、これまでほとんど参加する人がいなかったという男性が多く見られたのです。


(初めて参加した中野創さん)

初めて「性教育」に関する講座に参加した中野創さん。札幌市の学童保育の支援員として、小学1~6年生の子どもたちと接していますが、性の誤った情報がまん延していると強い危機感を抱いてきました。

小学校高学年の男子が2人で遊んでいる低学年の男女に対して「お前らヤってんだろ」と発言したり、「オナニー」「セックス」という発言をしたりすることがあり、意味を分かっているのか尋ねたところ「みんなエロ動画観てるよ」という言葉が返ってきたといいます。さらに、友達の下着をスマホのカメラで撮影する子もいて、注意しながらもどう教えていいのか頭を悩ませてきました。

オンラインであれば対面の講座よりもハードルが低く、参加しやすかったという中野さん。この日、子どもたちが自分の体を守るために何を教えることが必要なのか、何を教えると他者を大切にできるのか、学びました。

参加者 中野創さん
「性教育は必要だと感じていましたが、自分自身が性教育をきちんと教わったことがなく、どのような知識が必要なのか分からずにいました。自分の経験や感覚、思いや気持ちだけで対処しようとすると必ず行き詰まってしまう。性の健康情報を『科学的視点から学ぶ』というのが相当腑に落ちたところがありました。『ここまで教えるのか』と思いましたが、自分の体の名称や体の仕組みを知っておくことは自分を大切にすること、相手を思いやることにつながると思いました。周りの人にも伝えて、より正しい性教育の知識を身につけていかなければならないと感じています」

「生命の安全教育」 今年度から段階的に導入
国は今年度から、「生命(いのち)の安全教育」を教育現場で段階的に導入することにしています。

「生命の安全教育」は、子どもたちが性犯罪・性暴力の被害者にも加害者にも傍観者にもならないように行う教育で、今後実証研究を行ったあと、全国の学校で本格的に導入される予定です。先月、文部科学省と内閣府が専門家とともに作成した教材や指導資料が公表され、本格的な導入に向けて準備が進んでいます。


(「生命の安全教育教材(幼児期)」より)


(「生命の安全教育教材(小学校 高学年)」より)

新たな教材は、幼児期から大学生まで発達段階に応じて6種類作成されており、指導の手引きと合わせて指針となるものが示されています。

NPOピーチハウスの吉さんは、今回の導入を歓迎しながらも、ある課題を指摘します。学習指導要領では「妊娠の経過は取り扱わない」と明記されており、「生命の安全教育」でも、性行為などについては触れないという方針なのです。

NPOピーチハウス 吉裕子さん
「私たちが始めた当初は講座を開催するだけで多くの批判がよせられたこともありました。性の話なんてするもんじゃないと。ですので、とても大きな変化だと思います。しかし、まだ(教える内容が)限定されていることが課題だと思います。教育現場の先生方に教えるためのトレーニングをしたり、教える際にまわりの先生と情報共有をしたり、場合によっては外部との連携も必要になったりすることもあると思いますが、そういった体制づくりが今後問われていくと思います。

私たちの団体には今まさに子育て中で子どもの性の問題に直面しているメンバーもいます。教育現場の方や地域の皆さんと一緒に話し合ったり提案をしたりしながら、性教育、性の健康教育がよりよい形で広がっていくことに貢献できたらと思います」

どうしたら社会から性暴力をなくし、一人ひとりのいのちを守ることができるのか。皆さんとともに考えていけたらと思います。性教育についてのあなたの体験や考えを、この記事に「コメントする」か  ご意見募集ページより聞かせていただけたらありがたく思います。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。


クロ現+
2021年5月21日

SNS相談から見えた被害事例は?【vol.126】

チャットで性暴力の悩みを相談できる「Cure time(キュアタイム)」。被害に遭った人たちが相談しやすい環境を作るため、年齢・性別を問わず、匿名で相談を受け付けています。内閣府は先週(12日)、これまで相談があった293件についての調査報告書をまとめました。見えてきたのは、SNS相談ならではの強みや特徴。あなたも相談してみませんか?

67日間で293件の相談 その内容は?
「性暴力を考える」でこれまでもたびたび紹介してきた、Cure time。内閣府が主導し、性暴力被害者支援などを行う団体が協力し、現在は週3日、専門の相談員がチャットで相談に応じています。(※詳細は相談現場を取材したvol.111をご覧ください)

去年10月からことし1月までに寄せられた相談は、293件。そのうち女性からの相談が238件、男性からは26件、それ以外の方からは10件、不明が19件でした。

年代別にみると、10代・20代が約6割を占めていますが、幅広い年齢層から相談があったことも分かります。



今回まとめられた報告書では、相談した人たちがどんな被害に遭ったのか、その類型も示されました。 レイプ(強制性交)55件、強制わいせつ43件、性虐待32件、画像、動画にかかわる相談(デジタル性暴力)22件となり、さまざまな性暴力の被害が相談されていることが分かります。



相談事例を詳しく見ると、コロナ禍による影響を訴える声もありました。
「外出自粛により、誰にも会えず、さびしくなり、SNSでつながった男性に裸の写真を送ってしまった」
「家族からの被害に悩んでいるが、移動ができず、どこにも避難できない」
「1人でいる時間が増え、過去の被害を思い出しつらい」

また、被害から相談するまでにどれぐらいの時間を要したかを分析したところ、72時間以内が7件にとどまる一方、10年以上前の被害についての相談が36件と最も多くなっています。



拡充が求められる 専門的なSNS相談
ことし3月に公開された、内閣府「男女間における暴力に関する調査」によると、無理やりに性交等をされる被害を受けた人の約6割は誰にも相談していません。また、相談ができたとしても、民間の専門家や専門機関に相談した人は1.4%、ワンストップ支援センターに相談した人は0.7%となっており、専門的な相談支援につながりにくいことが課題となっています。

そうした現状に対し、SNS相談は匿名性が高く相談のハードルが低いこと、電話相談よりも若年層が使いやすいことなどの強みがあり、活用に期待が寄せられています。しかし、Cure timeを利用できる日時は週3日に限られており、相談者へのアンケート調査では「いつでも相談できるようにして欲しい」という声もあがっています。

報告書は最後に「SNS相談は、性暴力被害者支援のために、必要なツールであり、十分な予算と人員を確保し、継続すべき」と述べています。

Cure time 相談はこちらから
性別や年齢を問わず、さまざまな人が利用しているSNS相談。秘密は守られますので、あなたも相談してみませんか?Cure timeはこう呼びかけています。「これって普通なの?と思うこと、イヤだったこと、困っていること、モヤモヤしていること、何でも相談して下さい」

相談受付
月・水・土曜日の17時~21時
年齢・性別を問いません。
他の人や身近な人に相談内容が漏れることはありません。
外国語でも相談できます。
https://curetime.jp/


年齢や性別にかかわらず、相談しやすい環境をつくるために、あなたは何が必要だと思いますか?下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。


クロ現+
2021年5月14日

性教育に役立つ絵本 警察庁の現役キャリア官僚監修

いま、書店には家庭で性教育を学ぶための本が数多く並んでいます。インターネットで子どもの世界が広がり、戸惑いや焦りを感じる親も多いなか、「性教育本」の出版が相次いでいるのです。

ことし2月に出版され、注目を集めているのが「おしえて!くもくん」(東山書房)。性暴力の被害者も加害者も傍観者も作らないための“予防教育”に着目して制作された絵本です。物知りの雲“くもくん”が、空の上で子どもたちを見守りながら、性被害を防止するのに必要な知識を教えてくれるストーリー。監修したのは、警察庁の現役キャリア官僚で、慶應義塾大学教授の小笠原和美さんです。長年、警察官として性暴力被害者の支援に取り組んできた小笠原さんが絵本に込めた思いとは。

(さいたま放送局 記者 信藤敦子)


くもくんが教える“プライベートゾーン”の大切さ



(「おしえて!くもくん」より)

「おしえて!くもくん」は、空から子どもたちを見守っている雲のキャラクター「くもくん」が、公園でふざけて友達のパンツを脱がせようとする男の子を見つけて、注意するシーンから始まります。そして、一緒に遊んでいた女の子を含めた3人に、なぜパンツを脱がせることがいけないのか、水着で隠れる場所は、簡単に他人に見せたり、触らせたりしてはいけない「プライベートゾーン」であることを伝えます。


(「おしえて!くもくん」より)

そのうえで、他人のプライベートゾーンを無理やり触らないことや、触られそうになったときにはいやだと拒否すること、また第三者として目撃した場合には、助けてあげたり、大人に話したりすることを教えます。
警察官として実感した“予防教育”の重要性

(「おしえて!くもくん」監修 小笠原和美さん)

絵本を監修したのは、小笠原和美さん。福島県警警務部長や北海道警察函館方面本部長などを歴任した警察庁の現役キャリア官僚です。現在は警察庁に所属しながら、慶應義塾大学で社会安全政策やジェンダー論を教えています。警察官として様々な部署で働きながら、性暴力対策と被害者支援に携わってきた小笠原さん。様々な事件や海外での取り組みを知るなかで、性被害をなくすためには、子どもたちを加害者にも被害者にもさせない教育が必要だと実感しました。その予防教育の入り口として、まずはプライベートゾーンの知識が欠かせないと指摘します。

小笠原和美さん

「幼いころに被害に遭った人の多くは、被害を被害と認識できなかったという。もし知っていれば、抵抗や相談もできたかもしれないという声を聞き、まずは被害を被害と認識するためにプライベートゾーンの重要性を伝えることが先決だと考えた」

また小笠原さんは、多くの性被害の支援者と関わるなかでも、予防教育の重要性を実感したといいます。

小笠原和美さん

「被害後の支援はとても大事で、さらに充実させていくべきですが、PTSD治療の専門家からは、費用対効果から見ても、“予防教育”が最も効果が高いと指摘されている。予防教育により、自分が被害に遭っていると認識することで、抵抗したり、誰かに相談できたりすることにつながる。また、被害に遭ったとしても、自分が悪いわけではないとあらかじめ知っておくことは、その後の人生においても非常に重要だと考えている」



それでは、こうした予防教育は何歳から行うべきなのでしょうか?小笠原さんはあるデータを示しました。令和2年に認知された強制わいせつ事件のうち、被害者の17%が12歳以下で、そのうちの13%は男子だったそうです(警察庁の統計より)。

小笠原和美さん

「想像し難いことですが、小学校入学前の被害や、男の子の被害も発生している。つまり予防教育は、小学校に入る前の子どもたちに、男女の性別を問わず行う必要がある」
“被害者”も“加害者“も“傍観者”もなくす
この絵本のこだわりの1つが、登場人物に被害者・加害者・目撃者の三者を入れることでした。絵本ではそれぞれの立場で考えるページがあり、加害をした子のページでは、自分も同じことをされたらいやだと気づき、被害者に共感することで考えを改めます。被害を受けた子は、くもくんから「いやって大きな声で言おうね」と提案されるものの、「本当はいやだと思ったけど、言えなかった」と打ち明けます。くもくんは、「そうだね、いやって言えないときもあるよね」と寄り添い、次は「勇気を出せるといいね」と励まします。

小笠原和美さん

「実際の性被害でもすぐにいやと言えず、抵抗できないことはよくあること。いやと言えないのも普通のことなので、次は勇気を出せるといいねと、エンパワーすることを大事にした」

最後に、現場に居合わせた目撃者の女の子に対して、くもくんは「もしも、お友達がいやなことをされていたら、助けてあげてね。自分で助けるのが難しければ大人に話せばいいよ」と解決策を伝えます。すると女の子は、「大人に話せばいいのね!それならできそう!」と笑顔になります。絵本のなかでくもくんは、「子どもたちにもきっとできることはあるよ」と、常に背中を押してくれる存在として描かれているのです。

子どもに繰り返し読んでもらうために

(左:小笠原和美さん 右:サトウミユキさん)

「おしえて!くもくん」は、小笠原さんの活動を長年支えてきた友人のmasumiさんが全体の企画やストーリーを構成。グラフィックデザイナーのサトウミユキさんが、くもくんのキャラクターをデザインしました。3人でプロジェクトを結成し、約2年かけて「性暴力を予防するための絵本」を目指してきました。実際の子どもの反応を見るために、サトウさんは、当時4歳だった娘の反応を見ながら制作を進めたそうです。

サトウミユキさん

「最初に娘に読んだときの感想が『あー長かった!』だった。そこから、子どもに夢中になって読んでもらうにはどうしたらいいか、チームで何度も議論を重ねた」




サトウさんは、子どもが親しみやすいように絵本全体のトーンを、青い空を中心にした明るくやさしい色合いにすることを徹底しました。そして物語の最後には、くもくんから子どもたちに向けて「自分の体は自分のもので、ひとりひとりが大切なんだ」と伝える手紙をつけることや、子どもが好きな迷路を取り入れてクイズ形式でプライベートゾーンを守る約束を学べたりすることも、プロジェクトで話し合って決めました。大切にしたのは、子どもたちが楽しみながら何度も読んでくれる絵本にすることでした。

サトウミユキさん

「加害者の手を黒い色にしていたときもあったが、大事なことは繰り返し読んでもらうこと。子どもが怖く感じる要素は一切やめた」
「空を見上げればくもくんの存在を思い出してもらえる。そんな絵本になってくれたらうれしい」


「恥ずかしい」ではなく「大切なところだから守ろう」に

(「おしえて!くもくん」より)

“くもくん”の輪は着実に広がり始めています。今年2月の出版以降、保育園や幼稚園を卒園する際にプレゼントする園や、絵本を購入すると特典としてダウンロードできるポスターを掲示したり、指導者向けの手引きや保護者への資料を活用したりして、小学校での読み聞かせを実践しているところもあるということです。

プロジェクトのホームページに感想を寄せた都内の保育園で働く30代の女性は、勤務する保育園で、裸になってなかなか服を着ない子や、大人が見ていないところで、友達同士で面白がってお尻などを出す子などの対応に苦慮していました。しかし、この絵本と出会ってから、子どもたちに前向きな言葉がけができるようになったといいます。

30代の女性読者

「『だめだよ、恥ずかしいよ』ではなくて、『大切なところだから守ろうね』と伝えるようになった。成長とともにプライベートゾーンへの興味を持つなかで、叱るのではなく、具体的にどうすればいいのかを学ぶきっかけになった」


小笠原和美さん

「すべての子どもたちに、この絵本の読み聞かせを通じて、自分の大切な心と体の守り方、必要な知識と勇気を送り届けてほしい」


取材を終えて
私は娘が3歳のときに、プライベートゾーンについて学べる絵本「わたしのはなし」(童心社)を読み聞かせました。数日後、夫が娘のお腹をくすぐろうとすると「私のプライベートゾーンを触らないで!」と拒み、絵本の力を実感したことを覚えています。6歳になって読んだ「おしえて!くもくん」では、ページの後半にある迷路が気に入ったようです。「プライベートゾーンをさわられて『ないしょだよ』といわれたら、どうする?」の問いには、すぐに「だれかにそうだんする」を。「もし、きみがプライベートゾーンをみられたりさわられたりしたら、わるいひとはだれ?」の問いには「みたひと、さわったひと」を迷わず選んでいました。自分の体は自分だけのもので、ひとりひとりが大切。くもくんからのメッセージを、改めて繰り返し伝えていかなければと感じました。

日本では自分の体をどう守るかについて、学習指導要領に盛り込まれておらず、学校教育で学ぶ機会はほとんどありませんでした。しかし去年6月に政府が出した「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」で、子どもたちが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないよう、全国の学校で「生命の安全教育」を推進することになりました。「性教育」や「予防教育」についてのあなたの体験や考えを、この記事に「コメントする」か ご意見募集ページより聞かせていただけたらうれしいです。

クロ現+
2021年5月7日

就職活動中などのセクハラ “4人に1人が経験”【vol.124】

就職活動やインターンシップでセクハラを受けた経験があると回答した学生が、4人に1人に上ったことが、厚生労働省が初めて行った実態調査で分かりました。採用する側とされる側という圧倒的な立場の差があり、深刻化しやすい一方、被害者が声を上げることが難しい“就活セクハラ”。調査から見えてきた実態と相談窓口について伝えます。

“4人に1人” 明らかになった実態
この調査は、就職活動中のセクハラの実態を調べるため厚生労働省が初めて行いました。 2017年度から2019年度に大学や専門学校などを卒業し、就職活動やインターンシップをした男女1000人に調査しました。

それによりますと、就職活動中にセクハラを受けた経験があると回答したのは25.5%4人に1人に上ることが分かりました。

その内容を複数回答で聞いたところ「性的な冗談やからかい」が40.4%と最も多く、次いで「食事やデートへの執ような誘い」が27.5%などとなっています。

性的な言動に対して拒否や抵抗をしたことで内定を取り消されるなどしたケースもありました。



またセクハラの行為者について複数回答で聞いたところ「インターンシップで知り合った従業員」が32.9%、「採用面接の担当者」が25.5%などとなっています。

セクハラを受けたあと誰にも相談しないケースが目立っていて、その理由については「何をしても解決にならない」「就職活動で不利益が生じる」などが多くなっています。

厚生労働省は「就職活動中のセクハラはあってはならないもので、企業などに対策を求めていきたい」としています。

「職場のハラスメントに関する実態調査」はこちら (NHKサイトを離れます)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000165756.html



“就活セクハラ” 被害にあったら
大学のキャリアセンターや学生相談窓口、企業の採用担当者、下記の相談窓口に相談することができます。

▼総合労働相談コーナー
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html
各都道府県の労働局が設置している相談窓口で、労働問題に関する相談をワンストップで受け付けています。就活生(求職者)も利用することができます。

▼性暴力ワンストップ支援センター
各都道府県に設置された性犯罪・性暴力専門の相談機関です。産婦人科医療やカウンセリング、法律相談などの専門機関とも連携していて、必要な支援を一緒に考えてサポートしてくれます。下記の記事に相談窓口一覧があります。
あなたの地域の性暴力ワンストップ支援センター【vol.34】

今回の調査から見えてきたように「就職活動で不利益が生じる」ことなどを恐れ、多くの人が相談できず、就職活動中のセクハラの実態は埋もれています。私たちはどんな被害が起きているのか、対策のために何が必要なのか、皆さんと一緒に考えていきたいです。

あなたの経験や考えをこの記事に「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。(どちらのやり方も、匿名可です。)

クロ現+
2021年4月30日

どう考える?ネットにあふれる性的な情報【vol.123】

スマートフォンの普及が当たり前となったいま、避妊の方法やセックスについての知識をインターネットで得る若者が増えています。しかし、ネット上にあふれる性的な情報の信頼性や安全性は不確かです。さらに、性暴力の被害者が被害内容や相談窓口を検索しようとしても、検索サイトの上位に表示されるのはアダルトサイトといった実態も・・・。誰もが安心して正しい性の情報にアクセスするためには何が必要なのか。声を上げ始めた大学生の取り組みなどとともに考えます。

(NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子 田邊幸)


セックスを“ネット”や“SNS”で知る若者たち


日本性教育協会が1974年から6年ごとに行っている「青少年の性行動全国調査」。この調査では、中学生から大学生の男女を対象に、“セックス”や“避妊方法”について、どこから知識や情報を得ているのか質問しています。最新の調査結果(2017年)によると、“性交(セックス)”について知るための情報源として最も多く挙げられたのは男女ともに「友人や先輩」でしたが、「インターネットやアプリ、SNSなど」を挙げた人は男子大学生で49.8%、女子大学生で43.8%と半数近くを占めていました。

どうやって決まる?ネットの“検索結果”
しかし、みんなでプラス“性暴力を考える”には、インターネット上にあふれる性的な情報をめぐって、こんな声が寄せられています。

「子どものスマホの検索履歴を見たら、性暴力を娯楽のように描いた漫画を読んでいることが分かった。間違った知識や考え方が身についてしまわないか、とても心配」

「痴漢被害に遭ってどうすればいいか分からず、助けになる情報を求めて“痴漢”と検索した。でも、表示されたのはアダルトビデオや風俗店の情報ばかり…。かえって傷ついた」

確かに、「痴漢」というキーワードで検索してみると…


(2021年4月25日 大手検索エンジンで検索)

最上位に表示されたのはアダルトDVDのパッケージ写真などを含む画像。その下には、近隣にある風俗店の位置情報が並んでいました。被害に遭って悩んでいる人や、何も知識がない子どもたちが、こうした検索結果を真っ先に目にする可能性があるのです。

ネット検索の「検索結果」や「表示順」はどのようにして決まるのでしょうか。ITや情報セキュリティ分野担当の三輪 誠司(みわ せいじ)解説委員に聞きました。


(NHK解説委員 三輪誠司)

三輪解説委員

グーグルなどの大手プラットフォーム各社は、ホームページの重要性や関連性を様々な尺度で評価して、検索結果の表示順を決める独自のアルゴリズム(プログラム)を作っています。しかし、どの会社もその仕組みを公開していません。企業や個人に関わらず、ネット上に自分たちの“利益につながる情報“を掲載する側は、検索の「上位」に表示されることを望みます。 逆に、ネット上に過去の不祥事など“不利益な情報“が流れていれば、検索の「下位」に表示されることを望みます。プラットフォーム側は、そうした個々の思惑を排除し、“検索の公平性”を保つために、自社のアルゴリズムがどうなっているのか明らかにせず、無数の変更・修正を繰り返しています。そのためユーザーである私たちは、なぜその検索キーワードでその結果が表示されるのか、“厳密にはよく分からない”というのが実情です。

子どもたちが無防備に有害な情報や暴力的な情報に触れないようにするために考えられる対策は、親や大人たちがしっかりと子どものスマホやネット利用を管理することです。たとえばグーグルであれば、「セーフサーチ」という機能をオンにすると(※)、100%の精度ではありませんが、ポルノなどの露骨な表現を含むコンテンツを検索結果から除外してくれます。(※グーグル内の「検索の設定」というページから機能をオンにできます)

性暴力の被害に遭った当事者の方が情報を求めて検索する時には、調べたいキーワードの後ろに「被害」「支援」など自分のスタンスを明確にするキーワードをつけて検索すると、ポルノコンテンツや、加害者側の情報が混ざらなくなると思います。
“安心して性の情報に触れたい” 声を上げ始めた大学生たち

(4月30日 記者会見を開くSEOセックスプロジェクト)

こうしたなか、「安心して性の知識が得られるサイトが検索結果の上位に出るようにしてほしい」と、声を上げ始めた大学生たちがいます。4月30日に都内で記者会見を開いた、「SEOセックスプロジェクト」です。

SEOセックスプロジェクト・伊東勇気さん

「僕は子どもの頃、自分の体の発達について興味を持っても親にも相談できず、とても不安でした。やがて精通(初めての射精)するようになっても、インターネットにある膨大な情報の中からは、どれが正しい情報なのか分からず、自分に何が起きているのか分からなくて苦しみました」

SEOセックスプロジェクト・中島梨乃さん

「私たちは、子どもたちが初めて触れる性情報は、アダルトサイトではなく信頼できる情報が掲載されたサイトであってほしいと思っています。そして、もし性暴力の被害に遭った人がインターネットの検索を使う時は、迅速に支援の情報にたどり着くようになってほしいと考え、声を上げることにしました。不確かな性の情報によって傷つく人を、一人でも減らしたいです」
プロジェクトでは、検索エンジンを運営するIT企業や政府に提出するため、オンラインで署名活動を始めました。性的なキーワードを検索した際、公的な相談窓口の情報や、性に関する正しい情報が掲載されているページが優先して上位に表示されるよう、仕組みを整えてほしいと要望するものです。

メンバーのなかには、実際に性暴力の被害に遭った女性もいます。高校生のとき、習い事に行く道すがら 突然見知らぬ人から襲われ性交を強いられた前田かや子さん(仮名)です。前田さんは、被害の後 フラッシュバックなどPTSDの症状に苦しめられましたが、自分の身に起きたことが性暴力だとは分からず、誰にも打ち明けられぬまま、ネット検索を頼ったといいます。


(前田かや子さん・仮名)

SEOセックスプロジェクト・前田かや子さん(仮名)

「混乱しながら訳も分からず、“触られた”“やられた”‟道 襲われた“など抽象的なキーワードで検索し続けました。機械的に、様々な情報が表示こそされますが、当時私は性的なことについては全く無知で、どれが信頼していいものなのか、どこが私の悩みを聞いてくれるところなのか判断できませんでした。中にはアダルトサイトもあり、つらい中、やっとの思いで検索した時に上位に出てくるページがこういうサイトなのか、と胸に突き刺さりました。そんな思いをする人が、少しでも減ってほしいです」

SEOセックスプロジェクトは、3万件の賛同を集め、6月23日~29日の男女共同参画週間のタイミングに合わせて署名を提出することを目標にしています。

“ネットの性情報” 求められる議論
実は4月から政府は、インターネットで学校生活での悩みなどを検索すると、国の相談窓口が表示される取り組みを始めました。これは検索サイト大手の「ヤフー」と連携して始めたもので、「学校行きたくない」とか「新学期憂うつ」などと検索すると、24時間対応の相談窓口の情報が表示されます。新型コロナウイルスの影響が長期化するなか、子どもたちの学校での人間関係や、いじめの被害といった悩みの相談に応じることが目的です。

そうした学校生活での悩みと同様に、多くの若者たちがインターネットを通じて性的な情報に触れているなか、その情報の取り扱いをどう考えていくべきか。まだまだ議論が必要です。私たちは、“ネットの性情報”について取材を続けていきます。あなたの体験や考えを、この記事に「コメントする」か ご意見募集ページより聞かせていただけたらうれしいです。

クロ現+
2021年4月23日

男性の性被害 誰にも相談できず…性暴力被害の実態【vol.122】

ことし3月、内閣府は「男女間における暴力に関する調査」の最新報告書を公開しました。この調査は、無理やりに性交等される被害や つきまとい行為など、暴力行為の実態について把握するために平成11年度から3年おきに行われているものです。調査によると、女性だけでなく男性も含めて、約24人に1人が無理やりに性交等される被害に遭っています。しかし、被害に遭った男性の約71%が、「どこにも(誰にも)相談しなかった」と回答していました。なぜ、男性は相談することが難しいのか。福岡県のワンストップ支援センターで男性の性被害の相談に応じている浦 尚子(うら ひさこ)センター長と共に、その背景を考えます。

(NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子)


実態見えにくい 男性の性被害


「性暴力は、女性だけが被害に遭うもの」と思う人も珍しくないかもしれません。しかし実際には、性暴力は、性別や世代に関係なく、誰の身にも起こり得ます。内閣府はDVや性暴力などの実態を把握するため、去年11月から12月にかけて、全国の20歳以上の男女5,000人を対象に調査を行い、約69%に当たる3,438人から回答を得ました。「無理やり性交等されたことがある」と回答したのは142人。そのうち、17人が男性でした。しかし、浦さんは、調査結果に表れた被害は氷山の一角だろうと指摘します。

浦尚子さん(性暴力被害者支援センター・ふくおか センター長)
この調査では、挿入を伴う被害だけを調査しています。痴漢や、いじめとしてズボンをおろされたり自慰を強要されたりする被害も加えると、男性の性暴力被害は 実はまだまだ多いのだろうと推測されます。私たちの支援センターに相談してくれる男性たちには、被害直後は誰にも相談できず、時間が経ってようやく話すことができるようになったという人も少なくありません。


(性暴力被害者支援センター・ふくおか 浦尚子センター長)

男性被害者の約71% “相談しなかった”


調査では、無理やりに性交等される被害に遭った人たちに 被害を誰かに打ち明けたり、相談したりしたかどうかを聞いています。女性の58.4%、男性の70.6%が「どこにも(誰にも)相談しなかった」と回答していました。女性が相談しなかった理由(複数回答)として最も多かったのは「恥ずかしくて誰にも言えなかったから」の49.3%でしたが、男性が相談しなかった理由(複数回答)として最も多かったのは、「自分さえがまんすれば、なんとかこのままやっていけると思ったから」「相談してもむだだと思ったから」が共に33.3%、次いで、「世間体が悪いと思ったから」「他人を巻き込みたくなかったから」が25%でした。

浦さんは、男性の性暴力被害者は、女性の被害者以上に、自分が被害に遭ったことを受け入れることができなかったり、誰かに打ち明けても信じてもらえないと不安になったりしているのではないかと考えています。

浦尚子さん(性暴力被害者支援センター・ふくおか センター長)
“男が性被害に遭うわけがない”という社会の無理解や、“たとえ傷つく体験をしても、男は強くあらねばならない”とか“男なのに自分が弱かったせいで、被害に遭ってしまったのだ”といったジェンダーバイアスに苦しめられて、心がギリギリの状態になるまでひとりで抱え込んでしまう人が少なくありません。あるいは、勇気を出して周囲の人に打ち明けたとしても、「作り話なのではないか」と疑われたり、「あなたも気持ち良かったんでしょう?」などと からかわれたりしたという人もいます。その間にPTSDの症状などが深刻化してしまうと、回復にはさらなる時間がかかります。埋もれてしまいがちな男性被害者を孤立させないために、社会全体で“性暴力の被害に性別は関係ない”ことや“性暴力の被害者に責任はない”ことを知っていてほしいと思います。

被害に遭った男性の皆さんへ どうかひとりで悩まないで

(性暴力被害者支援センター・ふくおか HPより)

浦さんがセンター長を務めている福岡県のワンストップ支援センターでは、2016年12月からホームページに男性被害者に向けた文章を掲載し、男性被害者が悩みやすいことについてQ&Aコーナーを設けています。このごろは、福岡県外の男性たちからも“話を聞いてほしい”と電話が入るようになったといいます。(※)
※福岡県外からの相談の場合、電話相談は対応していますがその先の支援については応じられないことがあります。



(性暴力被害者支援センター・ふくおか HPより一部抜粋)

浦尚子さん(性暴力被害者支援センター・ふくおか センター長)
いま、性暴力の公的な相談窓口として各都道府県にワンストップ支援センターが置かれていますが、残念ながら、地域によっては対応が十分に追いついていないところもあり、相談や支援の受け皿を急いで増やしていく必要があると感じています。男性やLGBTQの皆さんには、被害を他人に打ちあけることに躊躇(ちゅうちょ)してしまう人も多いと思いますが、最近は電話相談だけでなく、SNSを使った相談窓口(※vol.111で紹介しています)もできました。どうか一人で悩まずに、まずは相談してみてほしいです。

男性の性被害 取材を続けます
「みんなでプラス“性暴力”を考える」では、これまでもたびたび、男性の性被害についてお伝えしてきましたが 被害の実態や、被害をなくすために必要なことについて、もっと皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。もしよければ あなたの体験や思いを聞かせてください。下の「コメントする」か、ご意見募集ページから お待ちしています。(どちらのやり方も、匿名可です。)
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。

クロ現+
2021年4月2日

山本潤さんに聞く! 議論大詰めの“刑法改正” 【vol.121】

いよいよ大詰めを迎えている法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」。これまでも繰り返し、このみんなでプラス「性暴力を考える」で伝えてきましたが、同意のない性行為は処罰の対象にできるのか?多くの被害者が泣き寝入りする原因ともなっている「暴行脅迫要件」はどうなるのか?検討会の委員の一人で、被害当事者で作る団体「Spring」代表理事の山本潤さんに、その行方と議論がまとまる前に伝えたい思いを聞きました。

(さいたま放送局 記者 信藤敦子)


「暴行脅迫要件」見直しを


刑法の性犯罪の規定は2017年、大幅に改正されました。強姦罪の名称は「強制性交等罪」に変更され、被害者を女性に限っていた規定も見直されました。さらに、18歳未満の子どもを監護・保護する立場の人が、その影響力に乗じてわいせつな行為をした場合は、暴行や脅迫がなくても処罰できる「監護者性交等罪」も新設されました。こうした改正は明治40年の制定以来、初めてのことでした。

しかし、この改正ではまだ被害の実態に見合わないと考えた山本さんたちが国会議員らに働きかけ、法律には施行後3年をめどに必要があれば見直しを検討する付則がつきました。こうして開かれているのが、今回の「性犯罪に関する刑事法検討会」です。山本さんは唯一の被害当事者として、17人の委員の一人に選ばれ、去年6月から始まった検討会に参加してきました。


(刑事法検討会の資料)

次なる改正に向けて、山本さんが強く訴えているのは「暴行脅迫要件」の見直しです。性行為を犯罪として処罰するには、「相手が同意していないこと」に加えて、加害者が被害者に暴行や脅迫を加えるなどして、「抵抗できない状態につけこんだ」ことが立証されなくてはなりません。3月8日に開かれた13回目の検討会では、その「暴行脅迫要件」について、大詰めの議論がなされました。


(一般社団法人Spring 代表理事・山本潤さん)

山本さんは、現状の要件では処罰できないケースがたくさんあることを検討会で繰り返し訴えてきました。

山本潤さん
「改正に慎重な人からは、たとえ暴行脅迫要件があっても、押し倒したとか、暴行とまでは言えないようなケースでも暴行ととらえて有罪にしている例もあるとよく言われるんですね。ただ、私は裁判にもたどり着かない数多くの被害の訴えを見ているので、そんな例は多くないと思っています。これまでの検討会で議論を積み重ねてきたことで、だいぶ理解されてきたとは感じています」

山本さんは、同意できる状態ではないということを示すために、暴行脅迫以外に例示を列挙する案を提案していました。具体的には、不意打ちや だま しなど、被害者が抵抗を困難な状況にすることを例示することで、被害を捕捉できないかと考えたのです。こうしたことを受け、8日の議論では、刑法に詳しい委員からも「受け皿規定」の文言を考える案が出たといいます。

山本潤さん
「国家が人を裁く刑法には、より狭く、抑制的にという“至上命題”があるので、改正には厳しい面も感じていましたが、8日の検討会で、刑法学者が暴行脅迫以外の「受け皿規定」のような文言を考えてくれたのは、涙が出るほどうれしく、希望というか、本当に実態を踏まえて考えてくださっているんだなと実感できました。議論は途中で様々な意見が出ているので、どういう形で集約されるかはまだ見えないのですが、現状では救えない被害を救おうと考えてくれるようになったことは、やはり性暴力の実態、被害の救われなさを理解してくれたのだと思って、感謝しています」

性被害の実態を調査 検討会に提出
検討会で性暴力の実態を踏まえた議論をしてもらおうと、山本さんの団体は去年アンケート調査を実施。インターネット上で約6000人もの回答が寄せられました。性暴力についての調査で、これだけの数が集まるのは画期的なことです。



研究者の分析では、▼性暴力被害者の多くが、明確な暴行や脅迫がなくても恐怖で抵抗できず、被害だと認識するまでに平均で7年半かかっていたということや、▼被害を受けたときに6歳以下だった場合、4割以上が被害の認識までに11年以上かかっていたことなどが明らかになりました。

山本潤さん
「被害の累計を踏まえた立法のための、とても重要な調査結果だと思います。検討会にも提出していて、実際に考えられていると思います。また、性暴力がとても重いトラウマになることも、ぜひ知ってほしいです。PTSDの発症率は、災害や戦争体験と比べても一番高いんです。約半数がPTSDになり、3割がうつになるほど精神的ダメージが大きく、自殺率も高いことがわかっています。それがどうして起こるのかとか、どういうダメージなのか一般の人は知らないし、ましてや当事者自身もわからないんです。なんで自分がこうなっているのか、どうして似たような人を見たら体を震え出すのか。どうしてそうなるのかわからない中で、誰も性暴力被害の実態を知らないわけです。だからこそ、勝手なことを言われるんです」

不同意性交等罪を目指して

(2018年7月 イギリス視察の様子 右端が山本さん)

実態が知られてきた今こそ、同意のない性交を性犯罪にする「不同意性交等罪」を創設できないかと、山本さんは考えています。海外では、不同意の性交を刑事罰の対象としている国が複数あります。山本さんたちはそうした国の1つ、イギリスに3年前に視察に行き、記者も同行しました。

山本潤さん
「イギリスでは、性暴力は非常にわかりにくい犯罪で、多くの人が表に出すことが難しい問題だと正しく認識されています。だからこそ被害は生まれているし、加害者が処罰されない。そういう実態が社会の中で理解されていて、被害者をシステムの中でケアをして支えているんです。そうした支援で、実際に訴えられるようになる被害者もいます。もちろん、被害を訴えることで、加害者を捕まえることもできます。捕まえた上で、事実関係は裁判で争われるわけですが、被害者支援の重要性が理解されていて、それにより性暴力をなくしていくという指針が非常に明確でした。中でも強調されていたのが、「ヴィクティム・ファースト(被害者中心主義)」。被害者を優先してすべての支援や体制を整えていくことが徹底されているので、その認識は日本にも必要だと思います」

「不同意性交等罪」について、検討会の議論がどうまとまるのか、山本さんは現段階ではわからないといいます。

山本潤さん
「元々、刑法の性犯罪の規定は「不同意」の性行為を処罰するものですが、外見では不同意だとはわからないので、殴る蹴るなどの暴行をしたとか、脅したとか、抵抗できない状態だからと、それを指標にして「同意のある性交」ではないと認定しているだけだとよく言われるんです。ただ、抵抗できない状態を表す「抗拒不能」という言葉が、日本語としてとてもハードルが高い。また、裁判の判例で、抵抗できないほどの暴行脅迫と言われてきたので、警察や検察の判断で、それは暴行じゃないとか、抵抗していないと言われてしまうことは、今もかなりあるんです。本当に不同意の性行為を罰するならば、同意できない状態である、というところをきちんと刑法の文言に入れてくれたらと、被害者としては思いますけど、刑事法という司法のシステムがある中で、どういう風に作っていくのか、バランスを持って決めないといけないことは理解しています。これまで全く考えられてこなかった「同意」について入れてほしい。これはとても希望しています」

議論は大詰め 行方は

(3月8日 仲間が見守るなか検討会に向かう山本さん)

検討会はいよいよ大詰めを迎え、そろそろまとめの段階に入ってもおかしくない時期にきています。被害当事者として山本さんが初めて委員となり、性暴力の実態を伝えてきたことで、実態を反映した改正になるか注目が集まっています。3月8日の検討会は「国際女性デー」と重なり、山本さんが向かう法務省の前には多くの女性たちが集まり、山本さんに思いを託していました。



山本さんは、ここ数年で性暴力に関する社会の認識は明らかに変わってきたと感じています。

山本潤さん
「さまざまな社会的な運動が次々に起こってきて、背中を押された気がします。私たちは「Spring」で刑法改正にコミットした活動をしていますけど、2017年秋くらいから「#MeToo運動」が、2019年3月の4件の性犯罪の無罪判決後に「フラワーデモ」が起こって、それはとても大きなことでした。性暴力はずっとタブー視されてきて、被害者がなかなか声をあげられない問題でした。私たちも4年前に議員会館に面談に行ったときは、議員から『面会に来たことは発信しないで』と言われたこともあったんです。一方で、徐々に話を聞いて理解して、動いてくれた人もいます。こうしたことから、伝われば変わってくるんだなということは、希望に感じました」

「性暴力を許している構造が日本の社会にはずっとあるんです。それは刑法が、同意のない性行為を取り締まってこなかった歴史があって、自分は捕まらないと思っている加害者が行為を繰り返しているからです。『YES』のない性行為は同意のない性行為であり、それは犯罪であり、性的暴行だときちんと理解してほしい。理解したら行動も見方もかなり変わってくると思うので、まずは知ることから始めてほしいですね」

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