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大切な親との別れ 言葉にできるようになるまで

ある日、突然、大好きなお父さんがいなくなってしまったら――
東日本大震災で大切な親を失った子どもたちを支援してきた、あしなが育英会は、震災10年となる今年、子どもたちへのアンケートを行いました。そこから見えてきた子どもたちの心模様について、私たちは3回にわたり連載でお伝えしてきました。
仙台に暮らす萩原 彩葉(さわは)さん(19歳・大学生)も、震災で父を亡くした一人です。 アンケートの結果を振り返りながら、彩葉さんがどんな思いで10年を歩んできたのか、お話を聞きました。
(仙台放送局 ディレクター 岡部綾子)

萩原 彩葉(さわは)さん(19)

仙台出身で、小学2年生のときに震災を経験。自宅は内陸部にあり、母やきょうだいは無事だったが、仕事で宮城沿岸部の名取市閖上(ゆりあげ)にいた父・英明さん(当時36)を津波で亡くした。

「心に区切りをつけたとき、いい思い出になった」

父・英明さん(享年36)と彩葉さん

お話を聞かせてもらったとき、最初に彩葉さんが見せてくれたのは、父・英明さんとのお気に入りの写真です。震災が起きた日、彩葉さんは仙台市内の小学校にいて無事でしたが、大工だった父は、仕事で沿岸部の名取市閖上(ゆりあげ)に行っていて津波に巻き込まれ、帰らぬ人となりました。

――すごく良い写真ですね。

彩葉さん:
ありがとうございます。お父さんとはめっちゃ仲良くて、小学校のときは友達と遊ばないで、お父さんと遊ぶためにダッシュでした。(下校時)「さようなら」ダーッみたいな(笑)。遊園地とかに行くよりも、お父さんとスーパーマーケットに行くだけで楽しかったです。お父さんは顔はすごく怖そうなんですけど、めっちゃ明るくて、お笑い芸人みたいに面白い人でした。

あしなが育英会がおこなったアンケート(回答数 中高生94 18歳以上 216)

――アンケートの「親を思い出すタイミング」では、「親の命日や誕生日」だけでなく、学校や季節の行事といった回答も多く、日常のあらゆる場面で思い出している様子が伝わってきました。彩葉さんはどうですか。

彩葉さん:
私が一番、「お父さんがいてくれたらな」と思っていたのは、学校の行事です。入学式や卒業式、授業参観とかのたびに思い出していました。高校の部活で「おやじの会」というのがあったんですけど、部員のお父さんたちがカレーや芋煮を作ってくれたりして、そのときに「私のお父さんがいたらもっと盛り上がっていたんじゃないかな」と思うことが多かったです。だから小中学生の時よりも、高校生の時のほうが、お父さんを思い出すきっかけが多かったです。

――震災から間もないころよりも、時間が経ってお父さんを思う機会が増えたということですか。

彩葉さん:
そう...小中学生の時は、思い出したらすぐ泣いちゃいそうになるっていうのもあって、どこかで思い出さないようにしていました。でも高校生になって事実を受け入れるようになって、心に区切りをつけたときに、いい思い出として思い出すようになりました

萩原 彩葉さん

――アンケートを見ると、進学や就職など、自分の人生を考えるタイミングで親を思い出す人も多いようです。

彩葉さん:
私も高校や大学受験の時に、お父さんがいたら違う進路も可能性としてあったのかなと思うことはあります。あとは未来の話なんですけど…自分が誰かと結婚するときに、誰とバージンロード歩くんだろう。お兄ちゃんと歩くのか、おじさんと歩くのか、誰と一緒に歩くんだろうなって考えます。お父さんがいるのが当たり前だと思っていたので、その当たり前がなくなったときに、「自分は幸せだったんだな」って思いました。だから、感謝を伝えられなかったことは後悔しています

「私まで泣いたら、家族みんな死んじゃうんじゃないか」

――「親についての気持ちを誰と話すか」という質問で、「誰とも話さない」と答えた割合の高さが際立っていました。中高生では半数、18歳以上では4人に1人です。

彩葉さん:
私もきょうだいとも親とも、学校でも話さなかったです。
お父さんが亡くなったことを最初に聞いたとき、私は全然理解できなくて、信じたくなかった。だから泣くこともできなくて。でもきょうだいとか親はすごい泣いていて、その姿を見て、私まで泣いたら、家族みんな死んじゃうんじゃないかって思って。話したら泣いちゃうっていうのも分かっていたので、その気持ちはしまって、泣かないように、話さないようにしてました。

――自分が泣いたら家族が壊れてしまうと感じたんですね。

彩葉さん:
お母さんが全然食べなくなって、すごく痩せちゃって。みんな死んじゃうんじゃないかという思いが、よりリアルになっていきました。みんなで泣いたら、みんなが元気になるきっかけがなくなっちゃうんじゃないかなと思って。だから私は泣かないで、できるだけ笑って過ごそうと思っていました。

震災の2年後、小学5年生のとき、彩葉さんがあしなが育英会で書いた作文

――作文に「小学校でお父さんがいないと言えない」と書いています。どんな気持ちだったんですか。

彩葉さん:
周りには震災で親を亡くした子も、その歳で親と死別した子もいませんでした。親がいるのが当たり前だと思っていたり、「お父さん嫌い」とか何気なく言う子が多かったので、私がお父さんが亡くなった話をしたら、その子たちが学校でお父さんの話をする時間を取っちゃうのかなって思って、言えませんでした。
陰で「かわいそうだね」と言われるのも嫌でした。私と話すときはみんな気遣って顔色をうかがって。それがつらく感じて1人で泣くことが多かったです。周りから見たらかわいそうなのかもしれないですけど、それ以上にいろいろな感情があって、いろいろな出来事があったのに、一概に「かわいそうだね」「つらかったね」って言われると線を引かれた気分になって。特別扱いされたくなかった。

「弱い自分を見せていいんだよ」

あしなが育英会では、親を亡くした子どもたちが交流し、気持ちを語り合う
話したくない子は「パス」していいというルールがある
彩葉さんはあしなが育英会に通うようになって3年後に、初めて自分の思いを語った

彩葉さんが初めて周囲に父の話をしたのは、震災の3年後。 あしなが育英会の交流の場で、ボランティアの学生に声をかけられたのがきっかけだったと言います。

――どんなきっかけで、お父さんのことを周囲に話してみようと思ったんですか。

彩葉さん:
小5の時に、あしなが育英会で出会った「みなみ」というファシリテーター(遺児と接するボランティア)に、初めて話しました。
ちょうどそのころ私は学校で、父が津波で亡くなったことを言いふらされて、いじめみたいなことに遭っていました。それでも私はずっと人前で泣かないようにしてたんです。みなみの前でもへラッと笑いながら話して。そうしたらみなみは、“私が泣けないんじゃないか”と思ったらしくて。「泣いていいんだよ」「ちゃんと悲しむことも大切だし、自分の感情に素直にならなきゃどんどん感情がなくなって、もっと感情の出し方が分からなくなるよ」「弱みを見せてもいいんだよ」って言ってくれました。

彩葉さん(左から3人目)と、声をかけてくれたボランティアの森田みなみさん(中央)

――初めて話したときはどうでしたか。

彩葉さん:
話していったら、つらくなったとかではなくて「やっと話せるようになった」という感覚でした。そのときまでずっと我慢してどうにかつなぎ止めていたので、そのタガがなくなって一気に安心しました。
「弱い自分を見せていい」って言われて、自分が思っているマイナスな気持ちや悲しい気持ちを誰かに話してもいいんだなって思いました。

――話したことで、彩葉さん自身に変化はありましたか。

彩葉さん:
自分の感情に目をむけて向き合ったほうが、我慢して意地張ってるよりも生きやすいなって思いました。もっと、人の「悲しい」とか「苦しい」とか、そういう感情に目を向けられるようになりました。自分はいろいろなことを思っていたり、いろいろな感情を持っているので、それを自分で見つけて分かるようになって、よかったなって思います。

みなみさんの言葉で救われたという彩葉さん。将来は悩みを抱える子どもの支えになりたいと、現在、養護教諭を目指して大学で学んでいます。
さらに、自分も親を亡くした子どもと接するファシリテーターになろうと、この夏、養成講座を受けました。取材の最後、心に秘めた思いを語ってくれました。

ファシリテーターの養成講座を受講する彩葉さん(左)

彩葉さん:
私はお父さんが亡くなった時期など、学校に行けなくなったときがありました。そのときに保健室の先生が「なんで来たの?」って理由を聞くのではなくて、「寝る?それとも本読む?」って温かく迎えてくれた。そんなふうに、逃げ場じゃないですけど、悩んでいたり苦しんでいる子が安心できる場所をつくってあげたいなと思って養護教諭を目指して勉強しています。 ファシリテーターになるのは、自分が話せなかったみたいに、気持ちを誰にも言えないで苦しんでる子や、自分の感情が分からなくて苦しんでいる子が絶対どこかにいるので。その子のお手伝いをしたり、その子が孤独だなって思ってるとき、一緒に寄り添える人になりたいなと思っています

あしなが育英会のアンケートと彩葉さんのインタビューは、
NHK仙台のニュース「てれまさむね」にて2021年10月27日に放送しました。

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