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2021年9月23日

「亡くなった親のことを誰とも話さない」中高生の半数が回答…アンケートから聞こえてきた子どもたちの声は?

東日本大震災から10年。親を亡くした子どもたちは、今なお深い悲しみや親への愛情を抱きながら過ごしています。 しかし、多くの子どもは、親についての気持ちを誰にも話さずに過ごしていることが、支援団体「あしなが育英会」のアンケートで明らかになりました。
10年が経ち、環境が変わったり、就職や結婚・出産を経験するなかで、改めて親の不在という喪失感に直面する遺児が増えてきています。そのとき、周囲はどう向き合うことができるのでしょうか。あしなが育英会・東北レインボーハウス所長の西田正弘さん、グリーフケア(心のケア)の研究者・髙橋聡美さんと考えます。

(聞き手:「いま言葉にしたい気持ち」プロジェクト ディレクター 岡部綾子)


《対談(1)を読む》
《対談(2)を読む》


西田正弘さん
一般財団法人あしなが育英会が設置した「東北レインボーハウス」の所長 兼 心のケア事業部長
阪神・淡路大震災では、親を亡くした子どもたちの支援を経験。 東日本大震災後は、宮城県仙台市・石巻市、岩手県陸前高田市の3か所に設置された子どもたちの支援の拠点「東北レインボーハウス」で所長をつとめる。 遺児や保護者の10年の歩みに耳を傾け、社会に伝えたいと、現在、インタビューの取り組みも進めている。


髙橋聡美さん
前 防衛医科大学校 精神看護学教授
グリーフやトラウマに関する研究者で、遺族サポート、災害時のメンタルヘルス、自殺予防等についての講演活動をおこなう。 2011年は仙台の大学に在籍し、東日本大震災を経験した。 東北レインボーハウスと連携して震災遺児・遺族のグリーフケアに尽力。 今回のアンケートでは監修を担当した。

学校ではグリーフを表現できない
あしなが育英会が、震災で親を亡くした子どもたちにおこなったアンケート。 (回答数…中高生:94、18歳以上:216)
前回は、親についての気持ちを「誰とも話さない」と答えた割合が、中高生の1/2、18歳以上の1/4にのぼることに注目しました。
では、気持ちを話す場合は、誰に話しているのか。その相手を見ていくと、親や兄弟姉妹、祖父母など家族・親族が多く、学校の友達や先生は5%前後にとどまっています。 子どもにとって大きな社会であり、日常の大半を過ごす学校は、グリーフを表現する場になっていないという事実が浮かび上がりました。
西田さんは、引っ越しなどで環境が変わり、当時の付き合いが持続していないことや、「死別の話をしたら、予想以上に重く受け止められるのではないか」と不安を抱く子どもが多いことが、背景にあると指摘します。
グリーフ…死別・喪失体験に伴って起きる愛惜や悲しみなどのさまざまな感情のこと




西田正弘さん:
(保護者に)引越しの数を聞いたんですが、そこに少し表れているような感じがしました。皆さん、少なからず1回引っ越しをされている。3回引っ越された方も全体の1割ぐらいいらっしゃるので、家族を亡くしただけじゃなくて、生活とかの場所を変えざるをえなかった。10年間のうちに2回、3回と引っ越しをするのは、かなりのエネルギーじゃないかなと思います。 環境が破壊され、大切なものも、家族以外のものもいっぱい一緒になくしてしまっている。 失ったものの大きさを、10年という時間の中でじわじわ感じている部分もあるのかなと。

髙橋聡美さん:
周りの人たちが、遺族や遺児と接しているときに前向きであってほしいって思うから、声かけするときでも「大丈夫?」と聞いてしまうんですよね。「大丈夫?」って聞かれて「大丈夫じゃない」って答えることはめったにない。「前向きであってほしい」「大丈夫であってほしい」っていう周りの気持ちは、悪意じゃなくてまったくもって善意なんだけど、その善意が遺族を孤立させてしまう。 弱いところを見せられないとか、元気でいないとみんなに心配かけちゃうとか。でもデータで見てみると、悲しいとか寂しいとかそういう気持ちがやっぱりたくさんある。

子どものグリーフプログラムの中では、「会いたい」という言葉に対して「そう。会いたいんだね」。「悲しい」「悲しいんだね」、「自分を責めちゃう」「自分を責めちゃうんだね」って、どんな気持ちを言ってもそのまま認めてもらえるけれども、いったんコミュニティーに出て「さみしい」と言うと、「もう10年経ってるよ。早く前向かないとお父さん悲しむよ」みたいに言われてしまうこともある。 「自分を責めてる」って言うと「いつまでも責めてないで、前を向いたほうがいいよ」なんて励まされたりする。アドバイスされることを体験してるんだろうなと。 いろいろな思いを「それもあるよね」というような受け止めを、世の中全体ができるといいのかな。

レジリエンスを高めるコミュニティーに

髙橋:
困難な状態から自分の生活を再構築していくときの力を「レジリエンス」と言います。そのレジリエンスを高めるコミュニティーなのか、それとも下げるコミュニティーなのかは、グリーフに関する知識がそのコミュニティーにあるかないかがすごく大きく影響する。 遺族に対するグリーフの理解が乏しいコミュニティーだと、やたらとアドバイスをされたり、励まされちゃう。「会うとまたいろいろなことをアドバイスされるから、もう会いたくない」となり、今度は当事者たちが孤立してしまう。そうすると、グリーフを抱えた人たちが孤立していって、レジリエンスが下がっていく――
10年経って今でもまだまだグリーフに対する啓発は追いつかないと感じています。30か所近く子どものグリーフプログラムができましたが、それに伴って社会のグリーフに対する理解が進んだかというと、まだまだ追いつかず、(遺児たちが)傷つけられることが多い。(私たちがもっと)頑張らなきゃいけませんね。


主導権を取り戻す


――もう1点注目すべきは、「親について誰と話すか」で、「話せない」ではなく、「話さない」という回答が多いことです。「話せる相手がいない」という割合は、中高生・18歳以上ともに3~4%にとどまりました。子どもたちは自分の意思で「話さない」と判断しているとみることもできます。

髙橋:
もし「亡くなった人について語るべきだ」と思っていたら、「誰とも話さない人が半分もいるってどういうこと?」となると思うんだけど、話すか話さないかはその人が決めること。 話すことでグリーフワークになる人もいるし、話さないことがそんなに問題だとは思いません。「話す相手がいない」割合が高いと問題になるんだけれども、必要性がないから話していないだけだと思う。 心のサポートも、大体同じような割合の子たちが「心のサポートを受けていない」と書いてあります。 日常生活の相談相手に関して、9割は「どこかに相談できる相手がいる」という結果も出ているから、グリーフについても誰とも話さないのは、話す相手がいないんじゃなくて、話さなくて済んでいると、私は理解をしました。

西田:
話をするのは、いろいろな表現の1つですよね。言葉が苦手な子は動きまわったり、体で発散したり、絵で表現したり…その子に合った表現の仕方があると思います。 話すか話さないかでいうと、自分に主導権をきちんと持っているかどうかが大事。 話したほうがいいとは言っていなくて、自分で主導権を持って、表現する。表現しないのも、自分のペース。

髙橋:
「こういう※グリーフワークをすべき」「こういう支援を受けるべき」とか、その主導権を支援者側、あるいはコミュニティーが奪ってはいけないなと思います。 震災で親を亡くすこと自体が、ある意味、人生の主導権をそのときに奪われているから、その主導権を取り戻す作業は、すごく大事なグリーフワークだなと思っています。 話さないことを自分で選ぶ、サポートを受けないことを自分で選ぶ。必要なときにはつながるといいなと思うけれども、必要かどうかも本人が決めることだから。 ただ、サポートが必要な人は一定数いるから、その場をずっと持ち続けていく。話したいなと思うときに、安心安全に話せる場所があるのは、すごく大事なことだなと。
※グリーフワーク…死別・喪失による悲しみなどの感情から立ち直る心のプロセス

西田:
(「誰にも話さない」と2人に1人が)回答した子たちはまだ中高生なので、これから進路選択をしたり、就職・結婚したり、自分で責任を負っていくプロセスの中で、なかなか自分で決められない場面になっていく。 誰かに助言やフォローがほしいと思うときに、彼ら自身がまた主導権を発揮して、相談するチョイスをしてくれたらいいかな。 今後また、現在進行形でいろいろ変化があったときに、彼ら自身が選んだり相談できる。そういう環境があることが大事かなと思いますね。


語ることの意味


――亡くなった親のことや自分の気持ちを語ることには、どんな意味があるのでしょうか?

西田:
聞き手がいて、ちゃんとキャッチしてもらいながら語る。それは目の前の人にただ語っているというよりも、自分語りの部分もあります。ひとりで独白しても言葉にならないことがあるけど、聞き手がいて、うなずきながら聞いてくれることによって、確認しながら、その瞬間に言葉が生まれてくるところもあります。その時間をシェアしてもらって、結果的に最後「あっ、こんな言葉が出てきた」といった発見もある。 自分の喜怒哀楽の感情を感じたり、自分が「こんなふうに考えているんだ」と整理して、気持ちが落ち着く

髙橋:
グリーフサポートと言うと、メンタルな部分だけに焦点が当たりがちですが、実際はメンタルとソーシャルの両輪だと考えています。 ソーシャルな意味で言ったら、とりわけ中高生は進路の問題。「私は高校受験のときにこの奨学金を借りたんだよ」なんて情報をシェアできたり、「どういうふうに大学受験勉強した?」といったことを、元遺児だったファシリテーターの子たちに聞くことができるとか、そういうモデルに出会えるっていうのもピアサポートのいいところの一つですね。
ピアサポート…同じような悩みをもつ当事者同士で支えあうこと


ライフステージが変化したあとも、支え合えるつながりを

アンケートの自由記述欄には、親になっての悩みを寄せる遺児も


――10年が経つと、就職や結婚、子育てなど、ライフステージの変化を経験する遺児も増えてきます。それに伴う気持ちや悩みの変化もあると思いますが、アンケートから読み取れることは?

髙橋:
学業中心のライフステージにある子たちと、いわゆるAYA世代と言われる子たち―就職して結婚して子どもを生み育てるという子たちとでは生じてくる課題が違ってきます。 グリーフについても、AYA世代特有の問題があります。就職するまでは自分が中心の課題がたくさんあるけれども、その後は、自分で新たに家庭を築いていくとか、違うフェーズに入ります。 そのときに、自分は小さいときに母を亡くしているから「お母さんってどういう役割をしていいのかわからない」とか、「見本となる人と一緒にいない」とか。 学生時代とまた違う課題とぶつかっているから、そういう当事者同士で「どうしてる?」という話をするのは、すごく大事だなと思います。 けれども、AYA世代に関しては、すっぽりサポートが抜けている世代です。とにかく仕事や子育てが忙しいなど、なかなかそういうサポートも場もないんですね。 だから、この世代をどうするかは、今のグリーフサポートの体制の中ではすごく大事なポイントだと思っているんです。
AYA世代…Adolescent and Young Adult 15歳~39歳の思春期・若年成人世代を指す。親から自立したり、学校から社会での活動に移行するなど、大きな転換期を迎える時期

西田:
その世代は、グリーフや傷も抱えた子どものままの自分と、成長して仕事とかで責任も感じたり、親になって自分が子育てをして、大人になっていかないといけない部分が大きくある。 サポートし合えるつながりは、すごく大事だと思います。それを今、東日本大震災後の取り組みでやっているので、震災に限らず、さまざまな理由で親を亡くした人同士のつながりをちょっとずつ広げていけるようになればいいかなと思います。


東北レインボーハウスでは、18歳以上の遺児が交流するイベント「にじカフェ」を定期的に開催


――今回のアンケート結果を受けて、いま、社会に伝えたいことは?

西田:
この50年くらいに、子どもがいてお父さんお母さんがいて、じいちゃんばあちゃんがいるという家族形態がずいぶん変わってしまいましたよね。 “幅広い年代の物差し”みたいなものが本当になくなっています。その中で父や母が亡くなると、途端に土台が弱くなります。

髙橋:
おじいちゃん・おばあちゃん・お父さん・お母さんだったら4分の1だったのが、いま核家族だったら2分の1ですからね。

西田:
親戚も昔は1か所に住んでいたのが、もう全部バラバラで。子どもを支える環境や家族の力がかなり弱くなっているのは間違いないので、それをサポートし合うつながりは大事だと思います。 アンケートで、子どもたちの声によって、今まで聞こえてこなかった声が少し聞こえてきて、現在進行形の気持ちを社会の皆さんに理解してもらえたらいいなと。 そういう子どもたちがいるんだということを、そのまま受け取ってもらえるとありがたいです。 10年のつながりがあってこそ教えてもらった気持ちだと思うので、これから必要なことは、このつながりを切らさない。一緒に歩みを続けるというのが改めて大事かなと思います。

取材のあと、西田さんが語ってくれたのは、亡き人を悼むことの大切さ。
特にコロナ禍のいま、大切な人の最期に立ち会えないケースが増えてきています。だからこそ死者を思い、心をこめて追悼することが、今後大きな課題になってくると言います。
“その人のいない人生”を歩むとき、物理的には離れても、つながって生きていると感じることが大事だと、西田さんは話してくれました。今回のアンケートから伝わってきたのは、まさにそのとおり、子どもたちが、今なお親への豊かな思いを抱きながら生きている姿です。
このサイトでは、引き続き、さまざまな思いに耳を傾け、記録し、伝えていきたいと思います。


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