みんなでプラス メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

みんなでプラス

アンケート から聞こえてきた 子どもたちの声とは?―あしなが育英会・西田正弘さん×グリーフケア研究・髙橋聡美さんに聞く(1)

「会いたい」、「寂しい」、「感謝」、「後悔」…… 東日本大震災で親を失った多くの子どもたちが、10年経ったいま抱いている、親への気持ちです。

1800人にのぼった震災遺児。直後から子どもの心のケアなどの支援を続けてきた「あしなが育英会」では、遺児たちがいま何を感じて過ごしているのか知るため、大規模なアンケートを実施。今年3月、結果を公表しました。回答を寄せたのは、中高生94人、18歳以上216人。
アンケートからは、“これまで聞こえていなかった子どもたちの声”が聞こえてきたと言います。
あしなが育英会・東北レインボーハウス所長の西田正弘さんと、グリーフケア(心のケア )の研究者・髙橋聡美さんに聞きました。

(仙台放送局 ディレクター 岡部綾子)

西田正弘さん
一般財団法人あしなが育英会が設置した「東北レインボーハウス」の所長 兼 心のケア事業部長

阪神・淡路大震災では、親を亡くした子どもたちの支援を経験。 東日本大震災後は、宮城県仙台市・石巻市、岩手県陸前高田市の3か所に設置された子どもたちの支援の拠点「東北レインボーハウス」で所長をつとめる。 遺児や保護者の10年の歩みに耳を傾け、社会に伝えたいと、現在、インタビューの取り組みも進めている。
髙橋聡美さん
前 防衛医科大学校 精神看護学教授

グリーフやトラウマに関する研究者で、遺族サポート、災害時のメンタルヘルス、自殺予防等についての講演活動をおこなう。 2011年は仙台の大学に在籍し、東日本大震災を経験した。 東北レインボーハウスと連携して震災遺児・遺族のグリーフケアに尽力。 今回のアンケートでは監修を担当した。

グリーフは“現在進行形”

遺児への大規模なアンケートがおこなわれたのは、今回が初めてのこと。 「親を思い出すタイミング」や「親に対する気持ち」、「親について誰と話すか」などの質問に、選択式や自由記述で回答してもらいました。そして、年齢や社会的立場による違いを明らかにするため、18歳以上と中高生を区分して分析しました。

1500人あまりに依頼し、2割ほどの310人(中高生94人、18歳以上216人)から寄せられた声。 10年経った今もグリーフと向き合い続ける様子が浮かび上がりました。
※グリーフ…死別・喪失体験に伴って起きる愛惜や悲しみなどの様々な感情のこと

――「亡くなった親をどんな時に思い出すか?」という質問では、中高生・18歳以上ともに「命日」を選んだ人が最も多く、およそ7割にのぼりました。ただ他にも、季節行事や学校行事、進学や就職のときなど、あらゆる場面で親を思い出している様子が伝わってきます。

西田:例えば学校行事であれば、「友達のうちは来ているけどうちはいない」という不在感を、強烈に突きつけられるところはありますよね。「なんでうちだけなの?」という、友達の家庭との比較。自分の周りに震災で親を亡くした子がいなければ、余計にそれが際立っちゃうので、日々の中で強く印象づけられるのはありますよね。

髙橋:親がいないこと自体は“絶対的な喪失”なんだけれど、親がいる家庭を見たときに相対的に喪失したんだっていうことを実感することはあると思う。卒業式や人生の節目、高校受験に成功したとか希望の大学に行けたとか、人生の転機をいくつか経験して、「お父さんにも喜んでもらいたかったな」とか、そんな機会がやっぱりあるのかなっていう感じもしました。

――親を思うことは、10年経ったいまも日常の中にあり続けていると。

西田:現在進行形ですよね。中学から高校、就職、大学へとか、本当に1日1日、1年1年の中で、いろんなことを思っている。なかなか“現在進行形”っていうのを理解してもらうのが、グリーフでいうと難しい。

髙橋:まだ身近な人の喪失体験をしていない方たちの中には、「もう四十九日経ったから大丈夫でしょ?」みたいに、亡くなったときがいちばん大変で、そのあとはどんどん回復していくようなイメージがあって、「もう10年だから大丈夫でしょ」と、グリーフが現在進行形であるという認識がない場合がある。 震災自体は10年前に起きていて、過去のことなんだけれど、子どもたちの成長は現在進行形だし、グリーフの歩みや亡くなった人への思いは、日々の生活の中で直面する課題も含めて、いろんな局面をこの10年で迎えたんだろうなということを感じました。

会いたいから悲しい

――「親を思い出したときの気持ち」では、「会いたい」が最も多かったのが印象的でした。 その次に「寂しい」や「悲しい」が続いていく。この結果をどうご覧になりますか?

西田:非常に率直な気持ちなんじゃないかなっていうのが僕は第一印象ですね。

髙橋:「会いたいから悲しい」し、「会いたいから寂しい」。だからこの割合が一致する。表裏だからね。

西田:26年前に阪神・淡路大震災があって、グリーフやトラウマというのが理解されるようになってきた。そのときにグリーフが「悲嘆」と訳されたので、どうしてもそのとらえ方でここまできていて。グリーフという言葉は、本当にさまざまな気持ち、全体の総称だっていうのがなかなか理解されていない。

髙橋:そう。「遺族、遺児は弱い人」みたいな構図ができちゃってる。失くした体験は、その人のアイデンティティの中の一部なんだけれど、あたかも“震災遺族”というのがその人の全体像みたいなとらえ方をしていて、「あの人、家族が震災で亡くなってるのによくあんなふうに楽しめるわね」みたいな、一生悲しんでいるのが震災遺族みたいなそういうイメージがある。だから楽しんじゃうと罪悪感を感じたり、幸せになっちゃいけないみたいな感じになったりとかね。 “嘆き悲しむだけの遺族像”を周りは抱きがちだけど、グリーフって実はそうじゃなくて、「会いたい」とか、愛しい気持ちがある。周りのグリーフに対する認識と、当事者が感じているグリーフの歩みのギャップがすごくある。

西田:人って本当にいろんな気持ちがあってごく自然ということを、子ども自身がちゃんと体験してくれるといいな。会いたいし、悲しいし、やっぱつらいしっていう。それを体験するのは結局、亡くなった親への愛情ゆえで、その人がいたからこそ。そこはぜひ大事にしてほしいなと思うんですよね。喜怒哀楽の感情が自分の中にあるっていうところを、邪険に扱わずに丁寧に扱う力をつけてくれたらいいなっていうのが僕らの願いなんです。自分の気持ちを耕すというか、それを大事にしていく。

髙橋:私が気になるのは、(親を思い出すと)「つらい」が20%くらい、「思い出したくない」が7~8%なんだけど、「会いたい」気持ちと少し離れちゃってるような気持ちの場合、このつらさの中身ってなんなのかな。震災そのものを思い出すことがすごくつらくて思い出したくもない?

西田:そうだね。だた、「思い出したくない」っていうのは、自分の中にさまざまな感情があって、それが出てきたら対応せざるを得ない。そこにある意味振り回されるというか、どう自分の気持ちを落ち着けていいか少しわからなくて、時間かかる。丁寧に触れていく力をちょっとずつつけていかないといけない。そこにエネルギーを取られるから思い出さないっていうふうに、自分で抑えちゃう可能性もあったりするかなと思う。

――「亡くなった親に対する気持ち」では、「後悔」と「感謝」が際立って多かった。 18歳以上では6割が選んでいて、複雑な感情が同居しているのが見てとれます。

髙橋:「感謝」の気持ちがある一方で、「後悔」の気持ちをたくさんの子どもたちが抱いている。あたかもネガティブな気持ちと、ポジティブな気持ちと、相反する気持ちが同居しているような、アンビヴァレンスな印象を受けますけれども、ベースはやっぱり大好きだから後悔する。必ずしもネガティブな気持ちじゃなくてそういう愛しさなのかなという印象を受けています。

西田:本当に表裏一体というか、それこそ一緒のものというか。 どうしてもこういうアンケートになると、分解していくみたいなベクトルがどうしても働いちゃう。本当は丸ごとなんだけど。なかなか人を丸ごとって見なくなっちゃって、一部分を理解したらそこを代表させるみたいな、偏差値的な発想が本当に強いんじゃないかなっていう気がどうしてもするんだよね。グリーフって本当に丸ごとだと思うので。そこに傷もあったりとかね。

対談の続編では、被災した時点での子どもの年齢による傾向の差や、アンケートから新たに見えてきた課題などについて、さらに分析を進めていきます。

「コメントをする」からあなたのコメントを書き込むことができます。
対話を見て感じたことや、あなた自身が経験したことをお寄せください。

「私も誰かに話してみたいことがある」と思った方、こちらから声をお寄せください。