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ほっとかない社会 ~地域でつながるプロジェクト~
お年寄りの孤独死や、女性や子どもの自殺者数の増加・・・。いま私たちが暮らす社会にはさまざまな歪みが生じています。
こうした中で公共メディアとしてのNHKの役割は何か。私たちは新たな地域連携のプロジェクトを始めることにしました。地域で行動している人や組織と協力し、そこでの社会問題の改善にどれだけ貢献できるかを探っていきます。
見過ごせない課題も、誰かの頑張りも「ほっとかない」。これは地域の未来をあなたとともに創るプロジェクトです。地域との連携の第1弾として、東京・豊島区が行う「ひきこもり支援」についてお伝えしていきます。

Topic03 ひきこもり支援に欠かせない“まなざし”とは 2021.02.10公開
Topic02 「“ひきこもり”をほっとけない」 鈴木係長のSOS 2020.12.25公開
Topic01 NHK×豊島区「ひきこもり支援」始動 2020.12.11公開
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2021年2月10日
ひきこもり支援に欠かせない“まなざし”とは
豊島区全庁をあげた「ひきこもり支援」。4月からのスタートに向けて、急ピッチで準備が進んでいます。

部局横断グループの中心として活動する福祉総務課・鈴木寛之係長は、メンバーにひきこもり支援を深く学んでもらおうと勉強会を開催しました。

支援に欠かせない“まなざし”と、見えてきた課題をお伝えします。

報道局社会番組部(デジタル開発)ディレクター 髙松 俊

11課が集結


今月3日、勉強会が開かれたのは、再開発が進む池袋の中心部にある、としま区民センターです。



健康推進課、子ども若者課などひきこもり支援に直面するグループから、介護保健課、生活福祉課などひきこもりとはあまり馴染みのないグループまで、11課38人が参加しました。ひきこもりは複合的な課題を抱えているため、どの課も当事者と接する可能性があります。たらい回しにしないためにも、各課で適切な対応を学ぶ必要があるのです。

窓口対応の人、自宅までアウトリーチする人、施策決定を行う司令塔の人、様々な立場のメンバーが集まり、勉強会スタート。副区長のあいさつに始まり、いかにも“お役所的”な感じで進行していくかと思いきや…
“対策”はしない
(KHJ全国ひきこもり家族会連合会の本部事務局長・上田理香さん)

冒頭、講師の上田さんの一言が会場をザワつかせます。

「みなさん “対策”と言っていますが、“対策”したらひきこもりは隠れます」

どういうことでしょうか?上田さんは続けます。

KHJ全国ひきこもり家族会連合会 本部事務局長 上田理香さん
「対策という言葉は当事者にとっては、ひきこもりがあそこにいるぞ!と言って追ってくる“自粛警察”のようなもの。まずは本人の心情を知ること。その上で、“ひきこもりをなおす”ではなく、彼らの状況を聞き、困っている事柄を解消していくフラットな姿勢が大切です。」

なるほど、たしかに「君にはこういう問題がある」と大きなレッテル貼りをしてくる人の話は聞きたくならないですよね。それよりも具体的な事象に目を向けようと。納得です。
欠かせない家族支援


ひきこもり支援に欠かせないのが「家族支援」です。印象に残った点をまとめました。

①家族の感情は当事者に伝染する
家族の感情はプラス方向でもマイナス方向でも当事者に伝染し大きな影響を与える。だから家族の支援が第一歩目となる。

②否定→肯定的関心へ
本人の言動には必ず本人なりの理由がある。たとえばゲームは自分のままでいられる唯一のコミュニティかもしれない。周囲が理解のまなざしを向けていくことが大事。

③充電期間が不可欠
ひきこもりは家族全員が日々エネルギーを消耗させた状態なので、先を急がない。

ひきこもり≠問題がある人 各課で新たな気づき
上田さんが最後に強調したのが、「地域でともに生きている認識を持つ」ことでした。

KHJ全国ひきこもり家族会連合会 本部事務局長 上田理香さん
「無意識の内に“ひきこもりイコール問題がある人”というレッテルを貼りがちだが、私は “地域でともに生きている人”という認識で接しています。当事者は支援者のまなざしに敏感です。生活の小さな困り事が糸口になることも多く、植木の伐採、ペットの世話、健康相談など日常生活の情報提供からやっていきましょう。」



1時間の勉強会が終了。参加者のみなさんは自分たちの仕事を振り返るいい機会になったようです。

社会福祉協議会の職員
「グサグサっと刺さった。無意識にひきこもりという当てはめをして、相手に相談しづらさを与えていたことに気がつきました。今どういう状況でどういうことに困っているか具体的に聞いて、一緒にできることを考えるようになりたい。」

介護保健課の職員
「高齢者のお宅を訪問すると、“この部屋は子どもがいるけど…”と隠そうとするケースがあり、それ以上踏み込まないようにしていました。ご家族の心情を勉強させてもらったので、今後はフラットに情報提供ができればと思いました。」

見えてきた課題


勉強会終わり、黙々と片付けをする鈴木係長に話を聞きました。手ごたえとともに、今後の課題も見えてきたといいます。

ひとつは「待ちの姿勢→攻めの周知へ」。支援グループの情報を流して待っているだけでは、そもそも当事者に届かない。今後は、当事者や家族がアクセスしやすいSNSの運用も検討していきたいといいます。

もうひとつは専門家の不足です。ひきこもりは複数の専門領域を横断するため、たとえば、多重債務等の問題に対応できる「弁護士」、精神的なケアに精通した「看護師」、家計を考えられる「FP」をチームに組み込めれば、機動的な対応が可能になります。

4月に向けて鈴木さんたちの準備は加速していきます。リアクションやご意見ありましたら、下記の「コメントする」からぜひ声をお寄せください。あなたの声が豊島区を動かすかもしれません。

「#こもりびと」特設サイト
https://www3.nhk.or.jp/news/special/hikikomori/
関連記事
「“ひきこもり”をほっとけない」 鈴木係長のSOS
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0022/topic002.htmll
#豊島区#ひきこもり
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2020年12月25日
「“ひきこもり”をほっとけない」 鈴木係長のSOS

NHKが地域とつながるプロジェクトの第1弾として豊島区の「ひきこもり支援」に密着することを前回の記事でお伝えしました。

NHK×豊島区「ひきこもり支援」始動(2020年12月11日公開)
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0022/topic001.html

豊島区では2021年度から本格的に支援を始めるとしています。今回は、なぜ私たちが豊島区と連携することになったのか豊島区はどんな問題意識を抱えているのかといったプロジェクトのきっかけについてお伝えします。

報道局社会番組部(デジタル開発)ディレクター 新井 直之


豊島区職員からのSOS


今年10月、取材で長年関わりのある豊島区の職員から1通のメールが届きました。

「『ひきこもり支援』についてご意見いただきたくご連絡いたしました。(中略)大変恐縮ですが、お時間をいただきたくお願いのメールでした」。

いつもとは違う緊迫感のある連絡だったため、すぐに会いに行くことにしました。

豊島区役所4階の福祉総合フロアで待っていたのは、福祉総務課自立促進係長の鈴木寛之(すずき・ひろゆき)さん(45歳)です。自立支援の相談窓口の現場責任者をしています。鈴木さんは、生活保護のケースワーカーなどを経て、6年前からこの部署で区民の相談に乗ってきました。

窓口にはいま、新型コロナの影響で収入を失った人などからの相談が多く寄せられています。鈴木さんたちは、相談者の事情に応じて生活費の貸付や家賃の助成などの緊急対策を行い、生活再建のサポートをしています。

この日、鈴木さんから打ち明けられたのは、「ひきこもり」の問題が深刻さを増しているということでした。川崎での通り魔事件や元農林水産省事務次官の父親が長男を刺殺した事件など、ひきこもりが関連しているとされる事件が続いたことも大きなきっかけのひとつだといいます。

豊島区福祉総務課自立促進係 鈴木 寛之係長
「豊島区でもいつ同様の事件が起きるか分かりませんよね。さらにこの新型コロナでみんなが外出を控えるようになったことで、困っている人への支援がますます届きづらくなってきています。いま手を打たないと取り返しのつかないことになるかもしれない。豊島区では区長の号令のもと、来年度からひきこもり支援に力を入れていくことになりました。メディアとしても何か力を貸していただけませんか?」


豊島区ならではの課題も


厚生労働省の定義では、ひきこもりとは「就学、就労、交遊などの社会的参加を回避し、原則的には6か月以上にわたって、おおむね家庭にとどまり続けている状態」をいいます。

内閣府の調査によると、ひきこもり状態にある人は全国で115万人いると推計され、女性よりも男性のほうが多く、40才以上の人が半数以上を占めているとされています。

しかし、自治体単位での詳しい実態調査はほとんど進んでおらず、正確な数をどう把握して対策を行うかが全国共通の課題となっています。

さらに、ひきこもりを支援するにあたって、豊島区特有の課題があります。豊島区には「単身世帯」が特に多く、全世帯に占める割合は6割を超えています(2015年 国勢調査)。全国的に見ても非常に高い割合となっているため、他の自治体に比べて1人暮らしのひきこもりの人が多くいる可能性が高いのです。

親など家族と同居している場合には、その親が窓口に相談に来るケースが多いですが、1人暮らしだと本人が直接訪れない限り、区が把握するのは難しいのが現状です。鈴木さんは、単身のひきこもりの人の多くが中高年で、別の自治体で暮らす親などからの仕送りに頼って生活していると推測しています。

豊島区福祉総務課自立促進係 鈴木 寛之係長
「1人暮らしで孤立しているとどうしても私たちは見逃してしまいがちです。いまは親からの仕送りがあるから経済的には余裕があっても、この先のことを考えるとリスクが高まる可能性があります。こうした人たちにどうアプローチすればいいのか、答えを見つけられていないのが悩みです」

鈴木さんは、1人暮らしのひきこもりの問題は専門家の間でもまだ解決の糸口が見えていないといいます。そのため他の自治体においてモデルケースがないことも大きな課題です。 豊島区が全国に先がけて直面している“大きな壁”なのかもしれません。

職員たちが胸に刻む25年前のある事件


豊島区にはもうひとつ、ひきこもりに強い危機感を覚えている理由があります。鈴木さんが見せてくれたのは、『池袋 母子 餓死日記 覚え書き(全文)』(公人の友社)という1冊の本。これは約25年前に起きた「池袋母子餓死事件」と呼ばれる事件で、亡くなった母親が書いていた日記をまとめたものです。

豊島区福祉総務課自立促進係 鈴木 寛之係長
「豊島区の職員の多くが、この事件のことをいまも胸にとどめて職務にあたっています。私たちにとって忘れてはいけない事件です」

1996年4月27日、豊島区池袋のアパートの一室で、77歳の母親41歳の息子が餓死した状態で発見されました。死後20日以上経過していました。

母親は、1993年12月24日から、遺体として発見される直前の1996年3月11日まで大学ノートに「覚え書き」として日記を書き続けていました。その日の天気や気温、何をいくら支払ったかなど、生活の様子が詳細に記録されています。2人が遺体として発見される約2年半前には、次のように記していました。

心配なのは、来年、私しと、子供は、どうなるのでせうか。後少しのお金で、一年持つか、持たないかの不安と、同時に、其の後は、どんな生活に、成るのでせうか、家賃を無事におさめきるか、そして又、三月には、再契約仕無ければ、おられないけれども、その契約金どころか、毎日、毎月の生活費を、はら、はらした毎日で、来年は、何んとか、決心しなければならないが、相談する人もないし、役所などに相談した所で、最後は、自分で、決めねばならない。(原文ママ/1993年12月31日)

日記を読み進めると、2人が都会の片隅で頼れる人もなく行政にも相談できないまま孤立していた様子が推察できます。

豊島区は1996年、「餓死した背景を明らかにする社会的意義がある」として母親の手記を公開することにしました。鈴木さんは、こうした悲劇を繰り返したくないと考えています。

豊島区福祉総務課自立促進係 鈴木 寛之係長
「この親子のように孤立し、行政に相談できないまま命を落とすようなことは絶対に繰り返してはならないと強く心に誓っています。だからこそ、ひきこもりの問題も手をこまねいているわけにはいかないのです」


部局横断の支援グループを結成


鈴木さんたちはこの秋、本格的なひきこもり支援の準備を始めました。まず行うのは1人暮らしに限らず、ひきこもりの人が豊島区にはどれだけいるかを調べることです。

これまで、ひきこもり状態の疑いがある人については、その人の背景や実情、相談の状況などを区の担当部署ごとに把握しているだけでしたが、これを取りまとめて全体の状況を確認し、対策に生かしていきたいとしています。

具体的には、鈴木さんのいる福祉総務課をはじめ、高齢者福祉課、障害福祉課、介護保険課、子ども若者課、子育て支援課、健康推進課、長崎健康相談所(注:長崎は豊島区の町名)、社会福祉協議会、地域包括支援センターの計10の部署から1人ずつ担当者を集めて、部局を横断した支援グループを作ることにしました。

その上で、11月に関係各所に調査票を配布。12月までに回答を受けて調査結果をまとめ、来年度(2021年度)から本格的に始める「ひきこもり支援」の内容を詰めていくことにしています。

支援グループを率いる鈴木さんがいま最も必要としているのは、当事者の声だといいます。

豊島区福祉総務課自立促進係 鈴木 寛之係長
「専門家の意見や経験者の声には日ごろから耳を傾けています。でも、“本物”にはなかなか出会えません。“本物”とは何かというと、今まさに1人暮らしでひきこもり状態にある方の声です。接触できる機会がないので、何に困っているのかが分からない。何とかして当事者の方の声を聴いて、より多くの人に響く支援のあり方を考えていきたいです」

何が当事者にとって“最善のゴール”なのか


区をあげて取り組みを進めていく上で、どんなゴールを設定するかも大きな課題です。行政としては、ひきこもりの疑いのある人を把握して戸別訪問などを行いながら相談窓口につなげ、生活支援や就労支援などに結びつけることを目指しています

しかし、鈴木さんは現場で支援を続ける中で、戸惑いを覚えることが少なくないといいます。

豊島区福祉総務課自立促進係 鈴木 寛之係長
「ひきこもりの方を私たちが支援の名のもとに外へ引っ張り出すことがはたして正解なのか、就労につなげられればそれでいいのか、といつも悩んでいます。それが本当にその人にとって最善のゴールなのだろうかと。ひきこもりの問題は、突き詰めれば“健康問題”です。ひきこもっていても健康であれば行政の支援は必要ないのですから。ひきこもっている方たちが行政に何を求めているのかという原点を忘れてはいけないと思っています」

豊島区が当事者の声を施策に反映させるにはどうすればよいか。鈴木さんたちの挑戦は始まったばかりです。

私たち「ほっとかないプロジェクト」でも、放送や記事で発信するだけでなく、どんなサポ ートができるか模索中です。行政に期待していることや、要望したいこと、力になれることがあるという場合は、下記の「コメントする」から声をお寄せください。あなたの声が豊島区を動かすかもしれません。

「#こもりびと」特設サイト
https://www3.nhk.or.jp/news/special/hikikomori/
関連動画
単身のひきこもり どう支援する?(2020年12月14日放送)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/hikikomori/pages/articles_95.html
関連記事
高齢化する一人暮らしのひきこもり 東京・豊島区が直面する課題(2020年12月14日)
https://www.nhk.or.jp/shutoken/ohayo/20201214.html
#豊島区#ひきこもり
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2020年12月11日
NHK×豊島区「ひきこもり支援」始動
地域とつながるプロジェクト、第1弾の相手は東京・豊島区役所です。

2020年12月14日(月)放送のおはよう首都圏でもご紹介のとおり、豊島区では来年4月から全庁あげて「ひきこもり支援」に乗り出すことにしました。

内閣府によると、「ひきこもり」と呼ばれる人は、全国に100万人いると推計されていますが、詳しい調査はほとんど行われておらず、全国の自治体で実態の把握が課題となっています。新型コロナウイルスの感染が再び拡大している中、行政による支援はより一層厳しさを増しています。

こうした中、豊島区では支援にあたる中心メンバー10人が部局を超えて集結し、すでに準備を始めています。今後、実態の把握と計画の策定を急ピッチで進めることにしています。

NHKでも現在#こもりびとプロジェクト として「ひきこもり」と呼ばれる人たちひとりひとりに寄り添うキャンペーンを展開中です。いかに当事者やその家族の声に耳を傾け、先入観なく向き合うことができるか。生きづらい社会をどうすれば変えていけるのか、考え続けています。

そこで今回、豊島区の全面協力のもと、区の「ひきこもり支援」を準備の段階から密着取材させてもらい、自治体が行う対策の裏側をこのサイトや放送で継続的に発信していくことにしました。自治体の職員がさまざまな壁にぶつかりながらも支援の内容を決め、戸別訪問や窓口で当事者と向き合い、組織の縦割りと闘いながら「ひきこもり」という社会課題に向き合う様子を逐一伝えていきたいと考えています。

継続取材を通じて、普段は知ることができない自治体職員たちの熱い思いや激しい葛藤が垣間見えるかもしれないだけでなく、メディアが行政に間接的に関わることで、あなたの声が行政の「中の人」に直接届く機会が生まれるのではないかと期待しています。

行政と市民をつなぐ新たな回路―。それこそ、社会課題の解決を目指すメディアの重要な役割のひとつではないかと思います。

国や行政に求めることや、「ひきこもり」について思うことなど、あなたのご意見やご要望を下記コメント欄からお寄せください。豊島区民でなくても、私たちの声で豊島区を動かすことができれば、あなたの町も変わるかもしれません。

報道局社会番組部(デジタル開発)ディレクター 新井 直之・髙松 俊

#豊島区#ひきこもり
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