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海外出稼ぎの背景にある“世界の人材獲得戦” 高い賃金で労働力確保へ

2月1日に放送したクローズアップ現代「“安いニッポンから海外出稼ぎへ” ~稼げる国を目指す若者たち~」。日本を出て海外で働いてお金を稼ぐ「海外出稼ぎ」をする若者について紹介したところ、「海外はどうして高給なのか?」「どういう職場環境で働いているのか?」など、SNSや記事のコメント欄で多くの反響をいただきました。

「海外出稼ぎ」の背景にある、受け入れ側の国の現状とは?なぜ、日本人を積極的に受け入れているのか?今回、現地取材したオーストラリアの事情をひもとくと、より好待遇を用意して人材の確保に走る、世界で加速する人材獲得の動きが見えてきました。
(クローズアップ現代取材班)

クローズアップ現代の放送内容をテキストでご覧いただけます ?
「“安いニッポンから海外出稼ぎへ” ~稼げる国を目指す若者たち~」(2023年2月1日放送)

オーストラリアの介護現場 日本人を積極的に受け入れる理由は?

オーストラリア・シドニーにある介護施設。ここでは、30人以上の日本人が派遣スタッフとして働いています。その多くは、ワーキングホリデーを利用して渡航してきた若者たち。オーストラリアはワーキングホリデーで受け入れる日本人に人数の制限がなく、給与水準も高いため、「手軽に稼げる」と若者たちに人気の国です。

この施設の時給は、平日で約2700円。仕事の内容は、利用者の着替えや食事、入浴や排せつの介助です。日本の介護職の平均月収が約25万円に対して、ここではひとつきで80万円を稼ぐこともできるといいます。

好待遇な環境に魅了され、この施設と契約する日本人は年々増加。日本人スタッフを積極的に受け入れてきた施設のマネージャーは、その仕事ぶりを高く評価しています。

「ユナイティング・ウェズリー・ガーデンズ・ベルローズ」 ジェラルディン・タッターサル サービス・マネジャー
「ユナイティング・ウェズリー・ガーデンズ・ベルローズ」 ジェラルディン・タッターサル サービス・マネジャー

「日本人スタッフはとても優秀で思いやりと気遣いがあり、仕事にとても集中しています。手順や規則もよく守ります。そして、同僚から尊敬され、利用者やその家族からも好かれています。これはとても重要なことです」

どうして、オーストラリアの介護現場で日本人の需要が高まっているのか。シドニー各地の介護施設に日本人スタッフを派遣している会社の代表は、その背景にオーストラリア国内のある事情が関係していると話しました。

「メディテック・スタッフィング」ロッド・レイロック CEO
「メディテック・スタッフィング」ロッド・レイロック CEO

「高齢者介護や障害者介護は、キャリアとして真っ先に選ばれるような業界ではありません。加えて、新型コロナでここ数年、オーストラリアの国境が閉鎖されました。そのため、あてにしていた海外からの労働者がたくさん来られなくなってしまったのです。オーストラリアは高齢化が進んでいるので、今後ますます需要が増えて事態が悪化するでしょう」

「レイバー・ショーテイジ・クライシス」 新型コロナで深刻な労働力不足に

実は今、オーストラリアでは「レイバー・ショーテイジ・クライシス(人材不足危機)」 と呼ばれるほど、歴史的にみても特に深刻な人手不足が起きています。2022年まで行った新型コロナによる入国制限措置の影響が、介護のみならずあらゆる産業に波及しているのです。

「オーストラリア国立大学」 社会学者 マット・ウィザーズ博士
「オーストラリア国立大学」 社会学者 マット・ウィザーズ博士

「オーストラリアは移民の国で、労働者の3人に1人は海外で生まれています。オーストラリアは日本よりも大きく一時的外国人労働者に依存しています。ですから、一時的外国人労働者に大きく依存しているいくつもの産業が、パンデミックの間は新規労働者を獲得することができなくなってしまいました。現在、オーストラリアの労働市場の求人件数は過去最高を記録しています」

外国人労働者の確保 オーストラリア政府の対策は?

新型コロナの影響で減少した外国人労働者を取り戻そうと、現在オーストラリア政府は様々な対策を講じています。例えば、医療や福祉、サービス業でコロナ以前から働いていた外国人労働者の滞在期間を1年間延長しました(2020年施行)。また、一部の卒業ビザの就労権の延長も発表しました(2023年7月施行予定)。オーストラリア国内で長く働くことができるように、国をあげて次々と環境を整備しているのです。

高い賃金で労働力を確保へ 外国人労働者に選ばれる国に

オーストラリア・ビクトリア州のチェリー農園では、ことしの収穫シーズンに約300人の外国人労働者が集まりました。その数は新型コロナ前の水準に戻ってきているといいます。この農園の給与は、収穫できた量に基づく歩合制を採用。また、この歩合の比率はチェリーの種類や収穫の量・速さによって日々細かく変更し、労働者の作業量や能力にみあった最大限の報酬を提供するシステムになっています。週に20万円以上を稼ぐこともできて、労働者のモチベーションアップにつなげています。また、大学生やバックパッカーなどあらゆる分野から募集を行なって、積極的に人材確保に乗り出してきました。日本や韓国、マレーシアやインドネシアなど、様々な国から出稼ぎ労働者の確保に成功しています。

「コアラ・チェリーズ」 マイケル・ルージェ オーナー
「コアラ・チェリーズ」 マイケル・ルージェ オーナー

「今年は十分な人員が確保できています。多くの人が仕事に復帰し、労働力として戻って来ています。私たちは、選ばれる雇用主でありたいと考えています。ですから、良い条件を整え、人々に敬意を持って接するようにしています。だから、人々はここに来ることを楽しみにしてくれます」

世界的に人材獲得競争が激しくなるなかで、いかにして外国人労働者を確保していくか。オーストラリアの農民連盟の代表は、高い賃金を払うなど外国人労働者の待遇をさらに良くしていく必要性を訴えています。

「ナショナル・ファーマーズ・フェデレーション」トニー・マー CEO
「ナショナル・ファーマーズ・フェデレーション」トニー・マー CEO

「農家が支払える範囲で高い賃金を支払い、労働者を引き付けなければなりません。農家はそれを実現しようと懸命に努力しています。オーストラリアは経済状況が良好であり、ラッキーなことに旅行や観光に適した場所がたくさんあるので多くの人々がオーストラリアに来たがっています。しかし、非常に競争の激しいグローバルな雇用市場ですから、できる限りのことをしなければなりません。外国人労働者はまだまだ必要です。そして、日本のような国からももっと必要なのです」

世界で加速する人材獲得の動き

実は今、オーストラリアだけでなく、世界的にも外国人労働者を積極的に受け入れていく動きが加速しています。

【世界各国の人材受け入れ策】
・ニュージーランドは、ワーキングホリデーによる受け入れを倍増させる方針に(2022年)
・フランスは、ワーキングホリデーの対象年齢の上限を30歳から31歳に変更(2022年)
・カナダは、ワーキングホリデーの受け入れを20%増加(2023年)

日本人の海外出稼ぎの背景にある、世界の人材獲得術。各国が好待遇な条件で人材を確保しようと乗り出しているなかで、これから日本国内の労働者をどう守っていくのか。若者や日本で働く外国人労働者が希望を持って働くことができる社会にするためにはどうすればいいのか。上がらない賃金や長時間労働など、向き合う問題は様々あります。これから私たちができること、日本社会全体で考えるべきときがきています。

クローズアップ現代「“安いニッポンから海外出稼ぎへ” ~稼げる国を目指す若者たち~」

安定した職をも捨てて、若者たちが続々と海外に出稼ぎに向かう!オーストラリアの農場で働く男性は1日6時間の作業で月収50万円。介護施設で働く女性はアルバイトを掛け持ちして9か月で270万円貯金、念願の大学院進学の準備が整った。背景には経済成長と同時に賃金を上昇させる先進国のトレンドに日本だけが取り残される現実が。さらに外国人労働者から見た日本の魅力も低下。安いニッポンで今、何が?専門家と共に考える。(2023年2月1日放送)

この記事のコメント投稿フォームからみなさんの声をお待ちしています。

みんなのコメント(1件)

体験談
みかん
40代 女性
2023年3月5日
結婚や駐在ではなく、ワーホリからドイツで生活して14年目です。最初はひどい給料だったものの今では平均的な給料を貰えるようになりました。年齢的にも日本に帰った方が良いかもとも思いますが、給料が低いこと、休みの取り方など条件がこちらの方が断然いいことなどから帰れません。日本のこと、例えば低賃金とかみなし残業?などを問題視すると日本の人から叩かれますし...コロナ対策で筋の通っていないことが色々ありましたのに。日本は生きにくい国だと思ってしまいます。