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更年期障害の私は4月30日、雇い止めにあった

「呆然としています。まさか更年期障害で仕事を辞めさせられるなんて」

契約社員だった彼女は、4月30日で勤めていたコールセンターの仕事を雇い止めになりました。

理由は更年期障害で欠勤が増えたこと。

彼女の9か月をたどると、更年期で働く人たちを取り巻く厳しい状況が見えてきました。

(政経・国際番組部ディレクター 市野 凜)
(ネットワーク報道部記者 吉永なつみ)

“更年期離職” まさか私が

ナオミさん

「まだ呆然としています。他の仕事を探すにしても年齢の壁があるので、見つけられる自信が全くありません。お先真っ暗って感じです」

都内で夫と2人で暮らしているナオミさん(仮名・50歳)。

週3日の勤務で月の手取りは11万円ほどありました。

自営業の夫はコロナ禍で仕事が減っています。家庭での食品や日用品の購入はナオミさんの収入が頼りでした。

それが突然、絶たれたというのです。

まるで熱中症 知らなかった更年期障害

ナオミさんが異変を感じたのは、50歳を目前にした2020年8月。

立ち上がれなくなるほどのひどい頭痛に吐き気、めまいや微熱もありました。

初めは熱中症だと思い、何度か仕事を休みました。

しかし症状は治まらず突然またやってきました。

もともと生理が重かったナオミさん。

定期的に通っていたかかりつけの婦人科医に相談しました。

すると症状などから女性ホルモンの減少などで起こる更年期障害だと診断されたのです。

ナオミさん

「それまで更年期障害はイライラなど精神的な症状のイメージが強かったので、まさかこれが更年期と関係があるの?と思いました。症状にはすごく個人差があるんだということを初めて知りました」

続く欠勤 使えるのは有給休暇だけ

処方された薬

更年期障害による頭痛やめまいだけでなく生理痛もひどかったため、超低容量のピルを飲んで様子をみることになりました。

しかし症状は一向に改善されませんでした。

ナオミさん

「あまりの頭痛で動けなくなったこともありました。生理と違って周期的なものではないので、職場の人たちに申し訳ないと思いながらも仕事を急に休むことが増えていったんです」

同じ女性特有の体の不調でも生理痛などの場合は、本人が休みたいと言えば「生理休暇」を取得させなければならないと法律で定められています。

しかし更年期障害には法律になんの定めもありません。

ナオミさんの会社も対応できる制度はなく、年に6日の有給休暇を使い切るとその後は欠勤扱いとなってしまいました。

なんとか働いていた去年12月末、仕事の契約更新の時期を迎えました。

この時、上司から思いもよらないことを告げられたといいます。

職場の上司

「出勤率を9割以上にしなければ次の契約更新はしない」

更年期障害で休みがちになった去年8月以降、出勤率は8割を切っていました。
また急に症状が出たらどうしよう。

不安だらけでしたが、会社の方針を受け入れるしかなかったといいます。

ナオミさん

「9割にするのは正直無理だと思いましたが、もう決定事項のようでした。ここで何か言っても『ゴネてめんどくさい』と思われて印象が悪くなるだけだと思って、全く自信ないけど頑張りますと言ってしまいました」

休めない!のしかかるプレッシャー

働き続けるために出勤率をあげなければならない。

その日からナオミさんは体調が悪くても無理をして働くようになりました。

このころ別の薬に切り替えていましたが、体に合わず症状はむしろ悪化していました。

それでもめまいがして立ち上がれないときは午前中だけ半休にして午後は働きました。

出勤途中に突然頭が割れそうに痛くなったら、いったん家に帰って症状が治まるのを待って遅刻して出勤しました。

「休めない」というプレッシャーの中、さらに追い打ちをかける出来事がありました。

職場のマネージャーとの面談でこう言われたそうです。

マネージャー

「別にあんたじゃなくてもいいんだけどさ。でも新人いれたら研修から始めなきゃいけないし、ある程度仕事できる人がいたほうがいいんだよ。だから頑張ってよ」

「あんたじゃなくてもいい」ということばは、仕事にやりがいと自負をもっていたナオミさんの心のバランスを崩しました。

ナオミさん

「駅のホームで思ったんです。この電車に乗って会社に行って、私の居場所はあるんだろうか。使い捨てのババア、また遅刻しやがってと思われているんじゃないかって」

「頑張れと言うけど、できるかぎりのことはやっていたんです。これ以上何をしたらいいの?誰がちゃんと話を聞いてくれるのって」

精神的にも落ち込むようになったナオミさん。

それでも出勤率9割を達成するため、無理を重ねました。

「泣きながらはうようにして行ったこともありました。もう出勤率の達成は難しくなっていたんですけど、もしかしたら大目に見てくれて契約を更新してくれるんじゃないかと」

そして雇い止めに

次の契約更新が1か月後に迫った3月末。

出勤率は9割を下回ったままでした。

会社からはそれを理由に次の契約更新はしないと告げられたといいます。

3年間働いてきた職場を失うことが決定的になった瞬間でした。

そもそも更年期障害ってどんなもの?

更年期障害は閉経の前後に女性ホルモンが急激に減ることなどで起こります。

日本産科婦人科学会によりますと、閉経の前後の10年間を「更年期」といい、この時期に現れる症状のうち、ほかの病気によるものではなく日常生活に支障をきたす状態が「更年期障害」。

日本人は平均しておおむね50歳で閉経を迎えるため、45歳から55歳くらいの女性が更年期にあたりますが、個人差が大きいと言われています。

また症状も多岐にわたるといいます。

【更年期障害の主な症状】
▽ほてり ▽のぼせ ▽発汗 ▽どうき ▽のどのつかえ ▽気分の落ち込み ▽イライラ ▽不眠など
更年期障害に詳しい対馬ルリ子医師
対馬医師

「ふわふわする感じや首が締めつけられるような嫌な感じ、味覚の変化などを感じる人もいます。ホルモン治療をして楽になってから『あれは更年期の症状だった』とわかることがよくあります」

更年期世代で働く女性は年々増加

日本では今、第2次ベビーブームに生まれた人たちがちょうど更年期に当たっています。

45歳から54歳で就業している女性の数は727万人(2021年3月時点)。

仕事に就いている女性の4人に1人に上っているのです。

働きながら更年期障害を経験する女性が増えるとみられる中、社会の理解や制度面の整備が追いついていないという指摘があります。

対馬医師

「40代から50代の女性はホルモンの変化で心身ともに大きな揺らぎがあり、外からのストレスはより大きなダメージとなって症状を悪化させます」

「会社は、更年期のことがよくわかる医師に相談できる体制を整えたり、ヘルスケアや通院の時間を勤務の一環、または福利厚生で提供したりして、女性が長く働き続けられるよう制度を整える必要があると思います」

NPOや労働組合も向き合い始める

労働問題に取り組むNPO法人POSSEは、ナオミさんからの相談を受けて更年期による労働問題がどれくらい広がっているのか、アンケート調査を始めています。

NPO法人POSSE 青木耕太郎さん

「私たちにとっても更年期障害による労働問題は盲点でした。言いだしにくい、恥ずかしいという意識があったからかもしれません」

「でも女性が定年まで会社で働き続けることが当たり前になってきている今、問題を抱えている人は少なくないはず。多くの女性が更年期障害で収入やキャリアを失って追い込まれていくのは、放置してはいけない大きな問題です」

更年期障害が関係する仕事の悩みやトラブルについて無料の労働相談も行うことにしています。

NPO法人POSSE
https://www.npoposse.jp/
03-6699-9359(労働相談)
03-6693-6313(生活相談)

また労働団体の連合には、この5年間に更年期障害に関係した労働をめぐる相談が少なくとも30件寄せられています。

中には職場の理解がなく、退職を迫られたケースもありました。

【相談の例】
「更年期障害と診断され、ホルモン治療を受けているが、有給休暇を使ってまで通院する必要があるのかと言われた」

「更年期の体調不良で早退が続いたところ、上司から『無理して働くことはない』と退職を勧められている」
連合 総合運動推進局長 山根木晴久さん

「相談からはひとりで悩んでいる様子がうかがえた。更年期障害や生理に理解を深め、仕事との両立が図れるようにしていく必要がある」

“更年期離職”しなくていい社会に

4月いっぱいで仕事を失ったナオミさん。

個人で加入できる労働組合の総合サポートユニオンに入り、会社に団体交渉を申入れました。

雇い止めの撤回や更年期障害で休んでも解雇など不利益な取り扱いを受けない制度をつくるよう求めています。

ナオミさん

「職場の同僚だった女性から、もし自分にも起こったらどうしたらいいんだろう、全くひと事じゃないって言われたんです。私の雇い止めにショックを受けているようでした。声を上げることで、私のように更年期障害で仕事を失う人が減るきっかけになればと思いました」

ナオミさんの話を聞いて、私たちは更年期の人が働く中で直面する問題を見過ごしてきたことに気付きました。その実態を詳しく調べたいと考えています。

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