なぜ40代の女性はホームレスに?コロナで新宿の食料品配布会場に増える女性の姿
NPOが行う食料品配布の会場で、最近女性の数が増えているといいます。
「家賃の支払いがギリギリ」
「このままでは家を失ってしまう」
話を聞くと、みなさん切実な状況を語ってくれました。
彼女たちはなぜ追い詰められているのか、私たちはいったい何ができるのか――。
取材を続けるなか、実際に「帰る家を失ってしまった」という一人の女性と出会いました。
(クローズアップ現代+ ディレクター 荒川あずさ)
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「家賃が払えない」ホームレスの炊き出しに並ぶ女性たち
https://www.nhk.or.jp/minplus/0020/topic037.html
「私、家がないんです」 帰り際に出会ったホームレスの女性
11月20日、土曜日。毎週行われている新宿の食料品配布会場には、過去最多と見られる約400人が集まり、そのうち50人ほどが女性でした。
女性たち一人ひとりに話を伺うと、口々に言うのは「家賃に回すため、少しでも食費を浮かせたい」という家賃の悩み。コロナ禍で収入が減るなか家賃の負担が大きくなり、生活を圧迫しているそうです。
この日最後に声をかけたのが“ゆきさん”(仮名・40代)でした。
ディレクター「今からお帰りですか?」
ゆきさん「あ、えっと・・・私、家がないんです」
持ち物は、トートバッグと小さめのボストンバッグの2つ。
とりあえず駅の方へ向かうと言うので、歩きながら話を聞かせてもらうことにしました。
ビジネスホテルから路上へ ゆきさん(仮名・40代)
ゆきさんは、今年6月末まで、両親ときょうだいの5人で都営住宅に暮らしていました。非正規雇用で働く父親の収入を柱に、家族みんなのアルバイト代などで生計を立てていました。ゆきさんも清掃の仕事やコンビニのアルバイトなどで家計を支えてきたと言います。
しかしコロナの影響で、ゆきさんは去年3月に失業。他の家族も次々に仕事を失ったそうです。貯金を取り崩してぎりぎりの生活を続けてきましたが、この夏には家賃が払えなくなり、3か月滞納。そして都営住宅を出ることになったそうです。
その後、一家は離散。ゆきさんは、1泊3000円ほどのビジネスホテルなどを転々としてきましたが、わずかな蓄えは底をつき、ついに泊まる場所さえ失ったと言います。
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ゆきさん(仮名)40代
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「最初の頃は、別れた家族を探していました。だけど11月半ばには、お金もなくなっちゃって、今は公園とかで寝ています。ひとの目が怖いので、小さな公園とかが多いです」
ゆきさんは「暗くなる前に寝るところを探したい」と、新宿の人混みの中に消えていきました。
所持金は0円 携帯電話を持てず 転々としながら生活する日々
2週間後の12月4日、土曜日。私は、再び新宿の食料品配布会場に取材に行きました。この日も多くの女性が食料品配布の列に並ぶなか、ジャケットを羽織ったゆきさんの姿を見つけました。
食料品配布の後、再び話を聞かせてくれました。
現在の所持金は0円。携帯電話はもっていないそうです。
同じ場所で野宿を繰り返すと身の危険を感じることから、都内の公園などを転々として生活していると言います。
肌身離さず持ち歩いているという手帳には、炊き出しなどで食料や衣類を配布された記録がびっしり書かれていました。
今後、どうするつもりなのか来てみると。
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ゆきさん(仮名)40代
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「12月半ばには、ダメ元で申し込んでいる都営住宅の抽選結果が出る。とりあえず、それまでしのぎながら、生活保護の窓口やNPOにも相談してみようと思います」
そして「なんとか生活を立て直そうとハローワークに通っているが、なかなか仕事は見つからない」と言い、去って行きました。
家がなくても 連絡先がなくても 支援につながれる
家を失い、携帯電話を持っていない、ゆきさん。彼女のような女性たちはどうすればいいのか。新宿区役所に聞いてみました。
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新宿区 生活福祉課
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「家がなくても、連絡先がなくても生活保護の申請はできます。寝泊まりしている公園などがある地域の役所に行ってみてほしいです。また、家がない場合は、宿泊所や婦人保護施設などの紹介を行います」
そのほか、新宿区では女性の相談員が対応し「今、どこで、何に困っているのか」を丁寧に聞き取り、支援につなげてくれるそうです。
「あなたは悪くないよ」「あなたに会えて良かったよ」
でも、ゆきさんのように家を失うまで追い詰められている女性は、情報を手に入れることができず、行政の支援につながれないことがあるそうです。そうした女性たちをサポートするNPOを取材しました。
6年前から活動を始めた、東京都国立市のNPOでは、貧困やDVなどにより家を失った女性たちが自立できるよう、「居住支援」「同行支援」「就労支援」を柱に取り組みを行っています。
地域の大家さんから家賃が安い古いアパートを借り上げ、生活困窮女性のためのケア付きアパートとして運営。礼金敷金などは必要なく、1泊1650円から入居でき、空きがある限り無条件で受け入れを行っています。
そして、生活保護申請や離婚調停やハローワークの申し込みなど、要望があれば行政手続きに同行してサポートするなど、きめ細かく女性たちを支えています。
コロナの影響でニーズが増大しているため、現在、地元国立市と社会福祉協議会とともに、新たに住居を確保できないか検討を重ねていると言います。
そして、こうした支援を円滑に進めるために、大事なことのひとつが、女性たちとのコミュニケーション。お誕生会やお食事会といった時節のイベントはもちろん、普段の生活上での何気ない触れあいを通して交流を深め、必要があればスタッフがカウンセリングを行います。
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「くにたち夢ファーム」理事・遠藤良子さん
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「女性の場合、家賃が払えないなら家賃を払えばいいというだけの問題ではありません。 家を失うような女性たちは、総合的に様々な家庭の問題を抱えていることが多く、話しにくいこともたくさんあります。
まずは、生活相談、DV相談などとカテゴライズせずに、“女性相談”として、本当のことを話してもらうことが大切。それが相談員の役割です。
自分を責める人も多いので、
「あなたは悪くないよ!」
「あなたに会えて良かったよ!」
というところから始めないと、相談は成立しないんです」
精神的にも追い詰められてしまった女性たち。彼女たちを支えるには、目の前の問題を解決するだけでなく、心にためこんだ悩みや不安を少しずつでも引き出していくことが大切だと教えてくれました。
女性のための相談窓口
「生活が苦しい」「DVや性暴力を受けた」など、悩みを抱える女性を支援してくれる相談窓口を、国やNPOなどが設置しています。助けになる情報をまとめたサイトや、主な相談窓口をご紹介します。
https://www.nhk.or.jp/minplus/0020/topic030.html
クローズアップ現代+ 「私には帰る場所がない」家を失う女性たち
2021年12月15日放送