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高校中退を年間100人から半減 ある都立高校の改革とは

「さらば!社会からのドロップアウト」を掲げる高校があります。東京都立八王子拓真高校です。

中学校まで不登校を重ねたり、虐待などの家庭の問題を抱えたりした生徒が多く入学してくる、いわゆる“課題集中校”とも言われる高校です。この学校ではかつて、1年で100人を超える生徒が中退していきました。

しかし、3年前に着任したスキンヘッドの“ぼうず校長”こと磯村元信さんは、「高校こそが困難を抱える10代の最後の砦」として従来の高校にはないさまざまな対策を打ち出して、中退者を約半数まで減らしました。

日本全国で毎年4万人以上が高校を中退していくなか、 八王子拓真高校はどのようにして中退者を減らすことができたのか?

その疑問を磯村校長にぶつけたところ、2021年4月から、八王子拓真高校を1年間取材させていただけることになりました。

生徒たちが中退する理由は何なのか。生徒たちはどんな悩みを抱えているのか。

さらに、高校卒業後、社会に出ていく生徒たちにどんな支援が必要かなど、この高校の取り組みを通してお伝えします。

(クローズアップ現代+ ディレクター 山浦彬仁)

2021年4月 入学式 “よく来たね 待っていたよ”

    2021年4月7日 入学式

東京都立八王子拓真高校に今年も283人の生徒が入学しました。

八王子拓真高校は定時制高校で、午前を中心に授業を受けるI部、午後を中心に授業を受けるII部、夜間を中心に授業を受けるIII部に分かれています。

都内で唯一、不登校経験などのある生徒が受験できる「チャレンジ枠」という制度を設けていることでも知られていて、生徒は都内だけでなく、山梨や岐阜など各地からやってきます。

新たな人生の第一歩。それは誰しも期待と不安が入り交じり緊張するものだと思いますが、不登校などでこれまで十分な力を発揮出来なかった生徒たちは、複雑な心境でこの日を迎えたのかもしれません。集まった生徒たちの表情は一様に硬く、式場は静まりかえっていました。

壇上に上がった “ぼうず校長”こと磯村元信さん。緊張した面持ちの生徒たちを優しい眼差しでゆっくり見渡すと、マイクで語りかけました。

    八王子拓真高校 校長 磯村元信さん
磯村元信さん(八王子拓真高校 校長)

「よく来たね。待っていたよ。もうすぐ芽が出るよ。新入生の皆さん、今、どんな気持ちでこの入学式を迎えているでしょうか。きっと、不安な気持ちがいっぱいあるんではないでしょうか。

でも、大丈夫です。本校は面倒見の良い先生がたくさんいます。これが本校の自慢です。これまでに学校や教室に通えなかった皆さん、勉強が苦手だった皆さん、コミュニケーションが上手にできなかった皆さん、そして日本語が苦手な皆さん。皆さんの一人ひとりのそういう課題に対して、先生方そして外部のサポーターが、しっかりと応援してくれます。安心してください。

私から皆さんに、この晴れの門出を祝ってですね、魔法の言葉を伝えたいと思います。この言葉は、皆さんの、テストや試験では測れない可能性を、どんどん伸ばしてくれる魔法の言葉です。

『分からないことがあります』『教えてください』『お願いします』。

この言葉は、困っています、助けてください、お願いします、と同じ意味です。

分からないこと困っていることがあるのは、全然恥ずかしいことじゃありません。みんな何かに困っています。分からないことがあります。私もいっぱいあります。

大事なことは誰かに助けを求める力、仲間や先生に助けを求める力。これをしっかりと身につけていくことだと思います。私は、学校というのは、分からないこと、困ったことを、先生と一緒に乗り越えていく、そんな練習をする場だと思っています。

ぜひ皆さんの可能性の芽をどんどん伸ばすように、この魔法の言葉を使って、先生たちと一緒に楽しい高校生活をつくっていきましょう」

かつては毎年100人以上の生徒が中退

かつて八王子拓真高校では中退者が続出していました。

“ぼうず校長”が着任する2018年度には中退者は104人、その予備軍ともいわれる不登校者(30日以上の長期欠席者)は198人。全校生徒の3割が学校に来なくなっていたのです。

「ルポ 教育困難校」(朝日新書)の著者・朝比奈なをさんによると、生徒たちは高校に入る以前の小学校・中学校時代から問題を抱えはじめているといいます。

朝比奈なをさん(教育ライター)

「課題集中校に通う生徒の多くは小中学校で取り残されている生徒です。こうした生徒が底上げされることなく、高校へ進学します。

しかし、高校に上がっても課題が克服されることなく、支援が受けられないため多くの生徒は高校で不登校になったりします。高校は義務教育ではないため、欠席が一定の日数を超えたり、試験などで規定の点数がとれなかったりすると高校にいられなくなってしまいます。

小中学校に取り残されてきた課題が手当てされないまま、高校にもいられなくなってしまうことが高校中退の大きな問題です」

課題を積み残してしまったままの子どもたちをどう育てていくのか。“ぼうず校長”、そして八王子拓真高校には、大きな役割が期待されていました。

不登校経験者が集まる「チャレンジクラス」で教師が伝えたメッセージ

    1年8組担任 後藤和也さん

八王子拓真高校には、不登校経験などのある生徒が集まった「チャレンジクラス」が各学年に2クラスあります。そのひとつ1年8組の担任となったのが後藤和也さん。

後藤さんは、入学式当日クラスの生徒32人一人ひとりに宛てた手紙を用意していました。

内容は『高校生活で期待すること』。たとえば、ある生徒への手紙にはこんなことが書いてありました。

「入学おめでとうございます。担任の後藤和也です。これからよろしくね!今日が高校生活の中で一番緊張する日です。先生も緊張していると思います。少しずつ学校やクラスになれていこう…(以下略)」

手紙の内容はすべて後藤さんが考えたもの。入学試験の時に「中学生活で心残りだったこと」「高校生活で始めてみたいこと」などのアンケートを回答してもらったのですが、それをもとに、一人ひとりが目標をもって高校生活を送れるようにと考えました。

後藤和也さん(八王子拓真高校1年8組 担任教師)

「中学校にほとんど行っていなかった子が、32人のクラスにいきなり入るって勇気のいることじゃないですか。待っていたよ。これから一緒に頑張ろうという気持ちを込めて、一人ひとりに向き合って、メッセージを書きました」

入学から5日後 “欠席”が増え始める時期に行った授業とは

入学式から5日後、「チャレンジクラス」では、すでに3人が欠席。この日、後藤さんはホームルームで、ある課題を出しました。

それは「言われてうれしい言葉」と「言われて嫌な言葉」をそれぞれ書き出していこうというものでした。

後藤和也さん(八王子拓真高校1年8組 担任教師)

「言葉で傷ついた人って絶対いるじゃん。絶対いると思う。それってさ、その人によって絶対違うから。少なくともこの言葉だけは言われたくないよねと。

ここの教室ではそういった言葉が聞こえないようにしたいね。このクラスだけでもいいから、そういう言葉が飛び交わないようにしてほしいな。

じゃあ、逆に、教室で言われたい言葉があふれてくれたほうが、先生はうれしいなと思います」

女子生徒

「ちなみに先生の言われたい言葉と、言われたくない言葉って何なんですか」

後藤和也さん(八王子拓真高校1年8組 担任教師)

「俺ね、中学校のとき、どっちかというとイジメられていたのね。ちょっと太っていたし、ちっちゃかったし。あのときの言葉は嫌だったね。言われたくない言葉は『消えろ』が一番嫌かな。そこの存在を否定されちゃうのはすごく嫌」

先生が突然語ったつらい体験に聞き入る生徒たち-。その話に触発されるように、生徒たちの間から「言われてうれしい言葉」「言われて嫌な言葉」が次々と発表されていきました。

    言われて嫌な言葉
    言われてうれしい言葉
    言われてうれしい言葉

「教室で言われてうれしい言葉」

「ありがとう」「一緒にいるといいね」「大丈夫」「おはよう」「調子どう?」

「言われて嫌な言葉」

「消えろ」「ウザい」「あっちへいけ」「バカ」「死ね」「キモい」「なんで出来ないの」

後藤和也さん(八王子拓真高校1年8組 担任教師)

「この1年間でね、先生のなかでも気をつけていきたいことが2つあります。それは『傷つけない』『自分を大切にしましょう』だよ。

まず、最も恐ろしいのは『言葉による暴力』です。言葉は相手も自分も簡単に傷つけることができます。

次に、不登校経験があったり、仲間意識をなかなか築けなかったりした人、今すごく頑張ると思う。無理しなくたっていいと思うよ。自分のペースでいてねって。嫌だなと思ったら、言えるようにしてね。一人で居たっていいじゃん。でしょ?

先生だってね、中学生のときに授業を受けるのがつらかった。ずっとウーって思っていたんだけど、サッカー部のやつがちょっかいを出してくるんだね、そういうときにね。

きついときは、きつくていいんだよ。そのときは一人でいいんだよ。ここに居ていいんだよ。そのときに、その人を尊重してあげて、今日はそっとしてほしいんだなって思ってくれるといいと思います。自分を大切に、あなたらしくいてほしいと思います」

この日の終わり、後藤先生は私にさきほどの授業のねらいを教えてくれました。

後藤和也さん(八王子拓真高校1年8組 担任教師)

「友達からイジメられたりとかで不登校経験がある子たちが多いので、トラウマをぶり返しちゃうかなとは思ったんですけど、今回みんなと話せてよかったです。

ここにいる子の多くは、高校生でちょっと頑張りたいという子たちなんですけれども。中学校生活をちゃんと送れなかった生徒が多いと思うんです。彼らの集団生活の基準はどこなのかと言ったら、小学校なんですよね。

そしたらそこまで下げなければいけないこともあるかなって。特に繊細な生徒が多いので、言葉で自分を傷つけるのはやめようと話し合いをしました。少しずつ慣れてきて、少しずつコミュニケーションがとれるようになって話し合いができるようになっていけばいいと思います。

一人ひとりがどういうことで傷ついてきたのか、その背景を知らなきゃいけない。せっかく高校で再チャレンジしようとしているのに、言葉で傷ついて学校に来られなくなったり、無理して身体を壊したりしたら、おかしい話じゃないですか。ゆっくりここが居場所に思えてくれればいいのかなと思っています」

「チャレンジクラス」ではこうしたコミュニケーションの基本技術を学ぶ授業などを、年間を通して行っていく予定です。学期毎にクラス全員がスクールカウンセラーの面談を受けるなど、学校や家庭の悩み事を話せる機会も作っていくそうです。

私は、「嫌な言葉」に並ぶ暴力的な言葉の数々から、生徒たち一人ひとりがこれまでどれだけ人に傷つけられてきたのかを、まざまざと思い知らされました。

一方で「うれしい言葉」の中にあった「一緒にいて楽しい」「ありがとう」という言葉の中に、生徒がこれからの高校生活に何を求めているのかを探るヒントがあるように感じました。

いま私たちが考えねばならない高校教育とは何か。八王子拓真高校の取り組みをさらに見つめていきたいと思います。

次回予告

3年前の着任以来、中退者を大きく減らすことに成功した、“ぼうず校長”こと磯村元信さん。ある日の取材中、私を呼び止めました。「山浦さん、門外不出の記録を渡しますよ…」。手渡されたのは「改革の黙示録」と書かれた1冊の冊子…。

次回は「さらば!高校ドロップアウト」を掲げた磯村校長の学校改革の神髄に迫ります。

高校中退を半減させた“ぼうず校長” 学校改革の極意に迫る
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0020/topic042.html

みんなでプラスでは、「高校中退をどう減らすか」について、八王子拓真高校の取り組みを通じて、みなさんと考えていきたいと思います。

八王子拓真高校の取り組みや、今の学校教育などについて質問や疑問、または応援の声など、ぜひコメントをお寄せください。

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