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社会が動いた 「生理の貧困」が国の方針に明記されるまでの4か月

「生理の貧困」について報道を始めたのは今年3月。
それまで、「日本に生理用品を買えない人なんていない」と考えられていましたが、今では「生理の貧困」は社会問題として広く知られるようになりました。
政治や行政からも大きな関心を集め、先月、政府が発表した「骨太の方針」でも、政策課題として向き合うことが明記されました。この4か月を振り返ります。

国の方針で示された「生理の貧困」対策

毎年6月に発表される「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」。国の重要課題や政策の方向性を示す方針に、今年、生理の貧困への対策が初めて明記されました。
具体的な内容を示した「女性活躍・男女共同参画の重点方針2021」では、生理の貧困を「健康や尊厳に関わる重要な課題」だと指摘しています。

【女性活躍・男女共同参画の重点方針の主な支援策】
・自治体に対し、生理用品の提供を交付金で支援するとともに、背景や事情に丁寧に向き合いながら相談にあたるよう促す。(内閣府)
・自治体が子どもたちのニーズに応じて適切に支援する取組みを後押しする。(内閣府)
・生理用品の入手が難しい児童生徒について、養護教諭やスクールソーシャルワーカーが連携して、生活支援や福祉制度につなぐ。(文部科学省)
・「生理の貧困」がもたらす健康への影響について、今年度から調査する。(厚生労働省)

・・・など

“政治の言葉”になった

    「#みんなの生理」共同代表 谷口歩実さん(左)と福井みのりさん(右)

取材を続けてきた私は、骨太の方針で「生理の貧困」という言葉が使われたことに驚きました。ことし3月4日、初めて「学生の5人に1人が生理の貧困」という調査結果を伝えたときに「学生の5人に1人が生理の貧困」、テレビのニュースでこの言葉を使うことをためらったからです。海外では“period poverty(生理の貧困)” は社会問題として注目されていましたが、日本ではほとんどの人にとって馴染みのない言葉でした。

しかし、それからわずか4か月。「生理の貧困」は国の政策の中で使われる言葉、いわば“政治の言葉”にまでなったのです。

“生理の貧困”の調査を行った団体「#みんなの生理」のメンバーは、この4か月で「生理」をめぐる意識が大きく変わったと感じています。

「#みんなの生理」共同代表 谷口歩実さん

「思っていた以上に政治や行政が早く動いてびっくりしています。『生理』はこれまでとてもプライベートな問題で、おおっぴらに話すことはタブーとされてきました。『政治』という究極の公共の場で生理が議論されるようになったことは、画期的だと思います」

“リアル”では聞こえない声

私が「生理の貧困」の取材に取り組み始めたのは去年秋。コロナ禍で女性の雇用や生活が大きな打撃を受けている実態を取材するなかで、「支援物資を準備すると生理用品がすぐになくなる」という声を複数の支援団体から聞いたことがきっかけでした。

しかし、学校や行政の福祉窓口などに取材しても、「生理用品に関する相談をうけたことはない」「生理用品の支援はしていない」などと言われるばかり。問題がどれほど広がっているのか、私自身も確信を持てずにいました。

こうしたなか、「#みんなの生理」に話を聞き、ネット署名などを通じて、「生理用品に困っている」という声が数多く集まっていることを知りました。「生理」は友人同士でも面と向かって話し合いにくいため、誰にも相談できず、ネット上でしか声が上がっていなかったのです。

話題に上らないため“存在しない”ことになっていた「生理の貧困」。どうすればこうした声を可視化し、解決につなげられるのか。「#みんなの生理」の呼びかけで、オンラインアンケートによる実態調査を行うことになりました。

「#みんなの生理」共同代表 福井みのりさん

「海外では『生理の貧困』に関する調査結果も出ていたので、日本でもやってみようと思いました。調べてみて、『困っている人はいませんでした』ならそれで良いので、まずは調査をやってみようと思いました」

一方、私はネットで上がっている声をたどるなど、取材に応えてくれる当事者を探すことにしました。そして、専門学校に通うサクラさん(19歳)に出会い、話を聞かせてもらいました。

私が生理用品を買えなくなった日

そして風が吹いた

    2021年3月4日放送 おはよう日本

3月4日、「おはよう日本」で実態調査の中間結果サクラさんの声を伝えると、大きな反響が広がりました。調査に関するニュース記事はSNSで広く拡散され、「私も生理用品に困っていた」という人たちの声が次々と上がり始めました。

生理がきたことを誰にも言えなかった

「見捨てられるのが怖い」10歳で生理の貧困になった私

調査結果は、各メディアが一斉に取り上げ、国会でも「生理の貧困」に関する質問が相次ぎました。さらに、災害用に備蓄していた生理用品などを無料で配布する自治体も次々に現れ、この問題の認知度が一気に高まりました。

逆風も・・・直面した“貧困”や“生理”への無理解

大きな反響と追い風を感じる一方、新たな問題も出てきました。ネット上を中心に、「生理の貧困」に対するバッシングの声が相次いだのです。

「#みんなの生理」共同代表 福井みのりさん

「私たちの中では、貧困は『お金がない』という意味じゃなくて、もっといろんな含みがありました。知識不足や情報不足、お金以外の理由で物にアクセスできない・・・『生理の貧困』はいろんな意味を含んだ言葉なのに、金銭的な部分だけが大きく受け取られてしまったことは残念でした」

「生理の貧困」が“コロナ禍での金銭的な困窮”という狭い意味で捉えられた責任は、私たちメディアの伝え方にもあるのではないか。さらに取材を重ね、国際NGOプラン・インターナショナルによる新たな調査などから、経済的な側面以外の背景も取り上げました。

生理の貧困” 経済的困窮以外に “恥ずかしい” が要因に

支援に取り組む自治体が増加 国の方針にも明記

そして、4月6日のクローズアップ現代プラス「生理の貧困 社会を動かす女性たち」では、社会全体の問題としてどう解決していくべきか、世界の取り組みを交えて紹介。生理をめぐる様々な問題は、生きていく上で当たり前のように起きるにもかかわらず、これまで「存在しないもの」として見過ごされてきたこと、他者の苦しみに対する想像力の貧しさこそが「生理の貧困」であることを伝えました。

番組では、東京・豊島区がいち早く生理用品の無償配布に取り組んでいることを紹介しましたが、今ではこうした動きが全国に広がっています。内閣府の調べでは、5月の時点で支援に取り組む自治体は255自治体に上り、今もその数は増え続けています。

“内閣府が自治体の取り組みなどを紹介しているページ

そして6月、国の「骨太の方針」に生理の貧困への支援が初めて明記され、今年度から国が調査を始めることや、自治体の対策を国が後押しすることなどが決まったのです。

“みんなの生理”は終わらない

「生理の貧困」を解決するための取り組みは、最初の報道から4か月たった今も続いています。「#みんなの生理」では、学校のトイレに生理用品の無償設置を要望するオンライン署名や、自治体への要望活動を広げています。

「#みんなの生理」共同代表 福井みのりさん

「“貧困”対策としての支援だけでなく、全ての人がどんな状況でも生理用品に困ることなく、安心して生理を迎えられる社会が実現できればと考えています」

「#みんなの生理」共同代表 谷口歩実さん

「今回の調査は、学生に限定してしまったのですが、生理をめぐる問題については初潮から閉経後の更年期まで生涯を通じたケアが必要です。また、生理を経験する人の中には性自認が女性ではない人もいます。様々な人のニーズに応えられるような仕組みづくりを要望していきたいです」

生理をめぐる私たちの想像力の貧困はまだまだあります。私たちはこれからも、声を上げにくいがゆえに“存在しない”とされてきた問題に目をこらし、解決に向けた動きを取材していきます。
記事に対する感想や意見、あなたの体験談、取材してほしい内容などを、「この記事にコメントする」からお寄せ下さい。

この記事の執筆者

報道局社会番組部 ディレクター
市野 凜

2015年入局、首都圏局・前橋局・政治番組を経て現所属。コロナ禍の女性不況・生理の貧困・#みんなの更年期などジェンダーや労働に関わるテーマを取材。

みんなのコメント(4件)

悩み
やや
19歳以下 女性
2023年5月7日
わたしのしょうがっこうにはせいりようひんのしえんがありません。
それでおねえちゃんがこまっていました
体験談
30代 女性
2023年3月13日
朝早くの投稿、失礼します。
私は毎月、生理が来る時に生理用のカイロと、最大吸収容量のナプキンと、生理用紙ショーツを7日間使っています。
1日に3回まで最大吸収容量のナプキンを使っていますが、それだけでは本当に足りません。
足りない分は、トイレットペーパーで代用しています。
本当は、お手洗いの度にナプキン交換できることが理想です。
そして、経血量に応じた種類のナプキンと紙ショーツが7日間分必要です。
家族と暮らしていたころは、できていました。
しかし、私は社会人になって一人暮らしを始めてから、生理の貧困になってしまいました。
10年以上この状態です。
私が生理の貧困という言葉を知ったのは、10年経ってからでした。
皆さんありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
ようちゃん
30代 女性
2021年10月28日
この問題を取り上げていただき、ありがとうございます。生理用品にかける費用は、経血量などによっても異なり、女性同士でも理解がなかったりします。トイレに生理用品を置くなど、相談せずとも安心して使えるようにする取り組みが広まってほしい。また、生理の貧困に悩む人に月経カップを勧めてはどうかとの意見も見たことあり、カップは大変便利で広まって欲しいものの、本来は使いたい人が使うというのが筋だと思います。
彩実
30代 女性
2021年7月19日
ナプキンを使うことはあたりまえだと思ってましたが、買わせて貰えない人がいたのは今回初めて知りました
こういう問題を取り上げてくれる番組が増えるといいですね