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「生理の貧困」男にできることは? 考え続けた1か月

経済的な理由などで生理用品を購入したり、入手したりすることができない「生理の貧困」。4月6日に放送した「クローズアップ現代+」は、SNSなどを中心に大きな反響を呼びました。
女性ディレクターや記者中心に立ち上がった取材チームに、私が合流したのは3月初め。資料を読んだり、取材チームと議論したりしながら、男性としてこの問題にどう向き合えばいいのか、解決のためにできることはあるのか、考え続けた1か月でした。

(クローズアップ現代+キャスター 井上裕貴)

「最初は正直、身構えた」

それまで生理は私にとって縁遠いものでした。男三兄弟で育ち、生理について家族で話すこともありませんでした。高校までアメリカで暮らしていましたが、学校の性教育の授業も男女別々に行われたので、生理について学ぶ機会もなかったのです。ですから今回「生理の貧困」をテーマに放送すると聞いたときは、正直言って身構えました。男性が女性の問題について声をあげていいのか、生理を経験したことがない自分には「生理の貧困」を語る資格はないのではと思いました。

大多数の男性が同じではないかと思いますが、生理には「触れてはいけない、関わってはいけないもの」というイメージがあります。ふだん隠されているものなので、目の前にいる女性が生理だと頭の中で映像化してはいけない、女性自身もきっと想像してほしくないだろう、そう思っていました。ドラッグストアの生理用品が並んでいる棚の前を通ることすら、避けるような気持ちがありました。

「これってセクハラ?」女性に聞く難しさ

このテーマを放送することが決まってから、生理用品が使えないって女性にとってどういうことなのか知りたいと、同僚の女性アナウンサーに聞いてみたりもしました。でも「え?いきなり何を言い出すの?」という感じの反応で、深い話をするのは簡単ではありませんでした。「今度番組でやるから」と説明すれば理解してくれたのですが、ふだんニュースや社会問題に触れている彼女たちでもそうなのだから、一般の人はなおさら抵抗があるだろうと思いました。相手によってはセクハラと捉えられかねませんし、難しさを実感しました。

生理の貧困の実態を知って

そんな中で、私がこの問題は大事だと理解できたのは、今回取材を受けてくださったサクラさん(仮名)の姿を通してです。ネット上では、生理の貧困をめぐって、男性を中心に「スマホとか持てる金銭的余裕があるなら、生理用品くらい買えるのでは」という疑問の声が多く上がっています。しかし、収入が激減したサクラさんが、「困窮を知られたくないから、人には見えないところを切り詰めたい」と、トイレットペーパーでタンポンやナプキンの代用品を自作しているのを見てハッとしたんです。これはその人の尊厳に関わる問題なんだと。

少し違うかもしれませんが、僕はずっとアトピーで、アトピーの薬を使っていますし、目が悪いのでコンタクトレンズも欠かせません。毎月お金がかかりますが、生きていく上で欠かせないものです。それを我慢せざるを得ないことの重さを実感しました。

「裕貴は男だからわからない」 心にひっかかっていたことば

もう一つ、心に響いたのが、生理の貧困が「男性中心に作られた社会構造の問題だ」という指摘でした。世界各地で対策を求める動きが高まる中で、「生理用品が課税されていることや公共トイレにトイレットペーパーはあるのに生理用品がないのはおかしい」といった声が上がっています。

実はジェンダーの問題については、ずっと心にひっかかっていることがありました。
帰国子女の友人で、私と同じように日本に帰ってきて就職した女性たちが何人か、職場などでジェンダー不平等を実感して、「やっぱり日本は合わない」とアメリカに戻って行ったのです。そのひとりに、「差別とかってやっぱりあるんだ」みたいなことを言ったら、こう言われました。

「日本で男として生まれてきたことがどれだけ恵まれているか、裕貴はわかっていない」

私は最初、この言葉の意味がわかりませんでした。しかし今回の取材で、生理一つとっても構造的な問題があることを知って、パズルが少しつながった気がしたのです。

番組のインタビューに答えてくれたイギリスの活動家ローラ・コリトンさんが、現地では女性が夜道を安心してひとりで歩けないことが社会問題になっていると話していました。考えてみると、男の私は夜道を歩くのが怖いと思ったことはほとんどありません。これまで何の疑いもなく生きてきたこの社会にも、男として無意識に得てきた権利や有利な状況があったのかもしれない。今回の番組によって、ジェンダーの問題の入り口に立たせてもらった感じがしましたし、もっとアンテナを張って気づいていくことが必要だと感じました。

「ナプキン」「タンポン」を口に出してみて

男性の自分に何かできることがあるのか。

番組では今回、アメリカで男性として初めて生理用品への課税廃止を求める法案を出したバージニア州のマーク・キーム議員を取材しました。スタッフの女性から話を聞いてこの問題に取り組み始めたキーム議員。インタビューの中で、「当初、他の男性議員はタンポンやナプキンについて口にすることもためらっていたが、社会のあちこちで人々が生理について話すようになって、そういう男性たちも抵抗がなくなった」と語っていました。

私もささやかではありますが、まずふつうに話すことから始めたいと思いました。

放送前のツイートで、「まずは生理という言葉を思い切って口に出すことから始めました」と投稿したところ、多くの方からポジティブな反応をいただききました。 そして放送でも、ちょっと心がざわざわしましたが、「ナプキン」や「タンポン」といった単語を口にしました。放送後、祖母と電話したら「えらい生理生理言いよったなー」とびっくりしていましたが・・・

生理は命をつなぐ上で欠かせない自然な生理現象で、それを女性は担ってくれています。だからこそ、生理について自然に語れるようになることが大切だと思います。こういうテーマを地上波の放送できちんと扱うこと、そして男のキャスターが語ることで、社会や家族でオープンに語る風潮ができればと思うのです。

最初は保里キャスターと打ち合わせで話すだけでも恥ずかしい気持ちでいっぱいでしたが、放送が終わったら、もう日常の言葉になっていて、保里キャスターも「もう違和感なくなりました」と言っていました。

もちろん、生理用品が買えない人への公的支援の仕組みを作ること、そして税や法律の不平等を変えることは、社会がまずやるべきことです。また、教育現場で「いやらしい、恥ずかしい」という感情が芽生える前に、体の自然な現象として教えることも大切だと思います。

どんなテーマにも“共通点”を見つける

ジェンダーの問題にとどまらないかもしれませんが、こういったテーマと向き合う中で、大切にしたいと思っていることがあります。それは、一見すると自分とは関係がないように思える取材相手や状況に、自分との共通点を見つけることです。例えば生理用品が買えないことは、私にとってコンタクトレンズやアトピーの薬が使えないことと近いのではないかと気づいたとき、当事者の人たちに共感することができました。視聴者の皆さんにも、そういった共通点を見つけるヒントになる情報をお伝えしていきたい、それがさまざまな問題を解決する一歩になるのではないかと思っています。

みんなのコメント(21件)

りん
20代 女性
2021年12月28日
こうやって公共のメディアで、そして男性も一緒にこの問題について考えてもらえるのは本当にありがたいです。
chell
2021年11月6日
えっ、めっちゃいい人やん
男性が生理のことこんなに考えてくれてうれしい
トキコ
30代 女性
2021年6月30日
生理用品を買えないなら大学に行くな、携帯を持つな
という意見が、同じ女性からでるのがとてつもなく悲しいし、その意見をもつに至った周囲の環境があたりまえだったことが悲しい。
そして、せめて生理用品は生活必需消耗品なので軽減税率を望むばかり。
Sarah
60代 女性
2021年6月30日
生理だけを取り上げるのはおかしいと思います。母の介護で尿取りパッド、オムツを購入します。生理と違い毎日のことなので、結構な金額になります。医療費控除はありますが、消費税は含まれています。生理は1週間ほどです。買っても良いし手作りしたって良い、最近では洗って何度も使える布製のものもあります。生理の貧困と言って特別扱いするのはおかしいと思います。みんな何かを切り詰めてなんとかやっているのですから。
いずみん
2021年6月30日
人は人を外側で判断し、スマホがなければ今は電話番号を持つことも仕事をすることも出来ない時代です。
また、親が子どもが成長すること女性になることを受け止められず、普通にスポブラや
ナプキンを用意してもらえない家庭に育ったという話も見聞きし虐待の問題も孕んでいます。
ナプキンを学校トイレに設置するなどは
社会的養護としてあってもいい施策なのではないかと思います。
non
20代 女性
2021年6月29日
こんな風に一緒に考えて、社会全体の問題だと捉えられる男性の方もいらっしゃるのが嬉しいです。「生理の貧困」が人の尊厳の問題だというのも、その通りだと思いました。誤解されがちですが、これは単純にナプキンを買うお金がないということだけでなく、知識や意識の上での貧困でもあります。
ことね
40代 女性
2021年6月28日
このコメント欄にすら見られる声が、世の中の無理解と差別の視覚化です。
「痴漢はほとんど冤罪だ」と決めつけ、「生理の貧困などない」と言い切る人達が無くしたいものは何なのでしょう。「ずるをしようとしている」と決めつけ、救われたいと口にすることを許さない心理はなんなのでしょう。
こちらもとりあげていただきたいテーマです。
さとと
30代 女性
2021年6月28日
いちごさん、わずか数百円の生活必需品とのことですが、経血量により昼夜用、タンポンも購入するとなったら千円を超えます。それが毎月となったら一年での出費は大きなものです。
記事にもありましたが携帯電話は社会で生きるうえで今では欠かせませんし学費は将来の職業選択や収入面で必要なものです。
この記事を読んでなお生理用品を非課税にすることや社会で助けることについてなぜそんなに否定的でいられるのか不思議です
わたっこ
2021年6月28日
これがきっかけで井上さんのことを知りました。応援します。
子供の頃は生理との付き合い方がわからず、毎月体調が悪くなり、制服に血がついてしまったことも何度もありました。それでも人に相談できなかったし、話しても「生理は病気じゃないんだから」で済まされ余計相談しづらくなったり。ナプキンが買えないというのにはそういう空気も関わっていると思うので、こうやって身近な話題として話すことが第一歩になると思います。
こめ
20代
2021年6月27日
思わず涙が出てしまいました。
同じ女性同士でも理解が進まない生理について、男性キャスターさんがここまで考えてくださったということがまず嬉しいです。
恥ずかしさや不安を乗り越えてくださったこと、ありがとうございます。
女性である自分自身も他の人と生理の話をすることには躊躇いがあります。
でも生理があたりまえの言葉になるよう、少しずつ、でも押し付けず、私も努力していきたいと思いました。
mactori
30代 男性
2021年6月27日
>>わずか数百円の生活必需品が買えないと言いながら大学に通う、スマホを持つことに疑問を持ってください

生理用品買うために大学中退したりスマホ解約したりする方がクレイジーでしょ。お金を切り詰めて大学で学ぶのは尊いことだし、スマホは今や衣食住と同様の生活必需品です。生理用品とスマホどっちか選べという性質のものではない
よる
20代 女性
2021年6月26日
デリケートなこのテーマに男性として取材の体勢、また感じたことをしっかりと言語化し行動に移しているところがとても良いと思いました。人目につかない所を出来るだけ削る、他の見えるところや生活必需品はなかなか削れず、生理用品を買えなくなる現状が悲しく、社会として変えて行きたいですね。
そしてこの記事、番組を見ても「生理の貧困」を理解しないコメントがあるのに驚きました。この時代スマホなしでは仕事出来ません。
40代
2021年6月26日
私たちの時代以上に同世代での「横並び」であることに重圧がかかる若い人たち。昭和のバブル前なら「貧しいけど就職にいるから固定電話はつなぐ」のと同じように「貧しいけどスマホは維持する」わけで、バブル前に吊るしのスーツ2万円で就活してたのが今はさらにさがって1万円弱。収入は減っているからどちらもぎりぎり。
普通に無駄遣いをしてなくてこういう生活になるという今の社会が危険なのだと思います。カンパしてきます
はな
30代 女性
2021年6月26日
これだけ取り上げられてるのに、いまだに「スマホ持ってるのに生理用品に困るのはおかしい」と言う人がいることに驚く。スマホがないと仕事も生活もできないから手放せない。だから食費や生理用品のような人目につかない部分から節約してしまうものなのです。
めんま
30代 女性
2021年6月26日
大学や仕事に行けるのにナプキンは買えないの?という女性の発言にびっくりです。断片的ですね。
ご飯を食べるのがやっとで、貯金もできないギリギリの生活を新卒のときに経験しました。電気が止まる、ガスが止まる。そんな中何を削るか、まず食費、(服も娯楽扱い)次に消耗品(ここでナプキン)一枚で長持ちするようにトイレットペーパーを重ねて何日も使う。2パックで半年。オフィス街で働く普通のOLでした。
あんころもち
30代 女性
2021年6月26日
感極まって拝読したあとのコメント欄に驚きました。私が男性がつくった仕組みの中で生きていると痛感したのは妊娠してからです。男性が出産できるようになれば、無痛分娩が当たり前になるのではないかと思います。スマホ代と生理用品代を天秤にかけるのには違和感を覚えます。スマホがなければ生活が成立しない時代ですし、そもそも男性に生理はありません。議論が進み、性差に関して成熟した感覚を持つ時代が来ることを望みます。
ごんごん
50代 女性
2021年5月10日
私は教育の現場で働いています。かつて女子生徒からナプキンがあったら1つわけて欲しいと言われて「ナプキンくらいちゃんと携帯しなさい」と言ってしまったことを思い出しました。その当時は思いもしませんでしたが、ナプキンを買えないでいた生徒だったらと考えると軽率だったと反省したと同時にショックでした。私の勤務先にも告白できない生徒が潜んでいるかも知れません。注意深く見ていこうと思います。
いちご
50代
2021年5月8日
井上さんは男性だから女性の話を鵜呑みにしてしまうんですね。自分に都合のいいことしか言わない女性とばかり話したんですね。もっと大勢の女性と話してください。視野を広げてください。わずか数百円の生活必需品が買えないと言いながら大学に通う、スマホを持つことに疑問を持ってください。常識ある人たちは、働いて納税して自分の生活を営んでいます。すぐに「税金で」というのは、働く人たちを侮辱することだと思います。
いちご
50代 女性
2021年5月7日
「貧困のため生理用品が買えない」という人たちの家計簿が見てみたいです。
明日の月は。
女性
2021年5月2日
井上キャスター、よく、頑張られたと思います。
デリケートなお話への、慎重で冷静なご対応とご理解に、お疲れさまですと申し上げたいです。
ご自分の事柄にも触れられて、
恐れ入ります。
どうぞお体を大切になさってくださいませ。
裕貴さんの、勇気をいただきました。
ふじふじ
女性
2021年4月30日
他人事に捉えず、積極的にこのテーマに取り組まれた井上さんの姿勢が素晴らしいです。様々なこと乗り越えてのあの30分の放送だと感じました。また、男性1人ではなく、保里さんとバディのようにメインキャスターを務めていらっしゃるスタイルだからこそ、視聴者も違和感なく、この特集を受け止められたと思います。リニューアルされたクロ現+の良さが出てました!