クロ現+
2021年4月28日
このお題はクローズアップ現代+で番組になりました

「生理の貧困」男にできることは? 考え続けた1か月

経済的な理由などで生理用品を購入したり、入手したりすることができない「生理の貧困」。4月6日に放送した「クローズアップ現代+」は、SNSなどを中心に大きな反響を呼びました。
女性ディレクターや記者中心に立ち上がった取材チームに、私が合流したのは3月初め。資料を読んだり、取材チームと議論したりしながら、男性としてこの問題にどう向き合えばいいのか、解決のためにできることはあるのか、考え続けた1か月でした。

(クローズアップ現代+キャスター 井上裕貴)

<関連番組>
「生理の貧困 社会を動かす女性たち」
「最初は正直、身構えた」
それまで生理は私にとって縁遠いものでした。男三兄弟で育ち、生理について家族で話すこともありませんでした。高校までアメリカで暮らしていましたが、学校の性教育の授業も男女別々に行われたので、生理について学ぶ機会もなかったのです。ですから今回「生理の貧困」をテーマに放送すると聞いたときは、正直言って身構えました。男性が女性の問題について声をあげていいのか、生理を経験したことがない自分には「生理の貧困」を語る資格はないのではと思いました。

大多数の男性が同じではないかと思いますが、生理には「触れてはいけない、関わってはいけないもの」というイメージがあります。ふだん隠されているものなので、目の前にいる女性が生理だと頭の中で映像化してはいけない、女性自身もきっと想像してほしくないだろう、そう思っていました。ドラッグストアの生理用品が並んでいる棚の前を通ることすら、避けるような気持ちがありました。

「これってセクハラ?」女性に聞く難しさ


このテーマを放送することが決まってから、生理用品が使えないって女性にとってどういうことなのか知りたいと、同僚の女性アナウンサーに聞いてみたりもしました。でも「え?いきなり何を言い出すの?」という感じの反応で、深い話をするのは簡単ではありませんでした。「今度番組でやるから」と説明すれば理解してくれたのですが、ふだんニュースや社会問題に触れている彼女たちでもそうなのだから、一般の人はなおさら抵抗があるだろうと思いました。相手によってはセクハラと捉えられかねませんし、難しさを実感しました。

生理の貧困の実態を知って


そんな中で、私がこの問題は大事だと理解できたのは、今回取材を受けてくださったサクラさん(仮名)の姿を通してです。ネット上では、生理の貧困をめぐって、男性を中心に「スマホとか持てる金銭的余裕があるなら、生理用品くらい買えるのでは」という疑問の声が多く上がっています。しかし、収入が激減したサクラさんが、「困窮を知られたくないから、人には見えないところを切り詰めたい」と、トイレットペーパーでタンポンやナプキンの代用品を自作しているのを見てハッとしたんです。これはその人の尊厳に関わる問題なんだと。

少し違うかもしれませんが、僕はずっとアトピーで、アトピーの薬を使っていますし、目が悪いのでコンタクトレンズも欠かせません。毎月お金がかかりますが、生きていく上で欠かせないものです。それを我慢せざるを得ないことの重さを実感しました。

「裕貴は男だからわからない」 心にひっかかっていたことば
もう一つ、心に響いたのが、生理の貧困が「男性中心に作られた社会構造の問題だ」という指摘でした。世界各地で対策を求める動きが高まる中で、「生理用品が課税されていることや公共トイレにトイレットペーパーはあるのに生理用品がないのはおかしい」といった声が上がっています。

実はジェンダーの問題については、ずっと心にひっかかっていることがありました。
帰国子女の友人で、私と同じように日本に帰ってきて就職した女性たちが何人か、職場などでジェンダー不平等を実感して、「やっぱり日本は合わない」とアメリカに戻って行ったのです。そのひとりに、「差別とかってやっぱりあるんだ」みたいなことを言ったら、こう言われました。

「日本で男として生まれてきたことがどれだけ恵まれているか、裕貴はわかっていない」

私は最初、この言葉の意味がわかりませんでした。しかし今回の取材で、生理一つとっても構造的な問題があることを知って、パズルが少しつながった気がしたのです。

番組のインタビューに答えてくれたイギリスの活動家ローラ・コリトンさんが、現地では女性が夜道を安心してひとりで歩けないことが社会問題になっていると話していました。考えてみると、男の私は夜道を歩くのが怖いと思ったことはほとんどありません。これまで何の疑いもなく生きてきたこの社会にも、男として無意識に得てきた権利や有利な状況があったのかもしれない。今回の番組によって、ジェンダーの問題の入り口に立たせてもらった感じがしましたし、もっとアンテナを張って気づいていくことが必要だと感じました。

「ナプキン」「タンポン」を口に出してみて
男性の自分に何かできることがあるのか。



番組では今回、アメリカで男性として初めて生理用品への課税廃止を求める法案を出したバージニア州のマーク・キーム議員を取材しました。スタッフの女性から話を聞いてこの問題に取り組み始めたキーム議員。インタビューの中で、「当初、他の男性議員はタンポンやナプキンについて口にすることもためらっていたが、社会のあちこちで人々が生理について話すようになって、そういう男性たちも抵抗がなくなった」と語っていました。

私もささやかではありますが、まずふつうに話すことから始めたいと思いました。



放送前のツイートで、「まずは生理という言葉を思い切って口に出すことから始めました」と投稿したところ、多くの方からポジティブな反応をいただききました。 そして放送でも、ちょっと心がざわざわしましたが、「ナプキン」や「タンポン」といった単語を口にしました。放送後、祖母と電話したら「えらい生理生理言いよったなー」とびっくりしていましたが・・・

生理は命をつなぐ上で欠かせない自然な生理現象で、それを女性は担ってくれています。だからこそ、生理について自然に語れるようになることが大切だと思います。こういうテーマを地上波の放送できちんと扱うこと、そして男のキャスターが語ることで、社会や家族でオープンに語る風潮ができればと思うのです。



最初は保里キャスターと打ち合わせで話すだけでも恥ずかしい気持ちでいっぱいでしたが、放送が終わったら、もう日常の言葉になっていて、保里キャスターも「もう違和感なくなりました」と言っていました。

もちろん、生理用品が買えない人への公的支援の仕組みを作ること、そして税や法律の不平等を変えることは、社会がまずやるべきことです。また、教育現場で「いやらしい、恥ずかしい」という感情が芽生える前に、体の自然な現象として教えることも大切だと思います。

どんなテーマにも“共通点”を見つける
ジェンダーの問題にとどまらないかもしれませんが、こういったテーマと向き合う中で、大切にしたいと思っていることがあります。それは、一見すると自分とは関係がないように思える取材相手や状況に、自分との共通点を見つけることです。例えば生理用品が買えないことは、私にとってコンタクトレンズやアトピーの薬が使えないことと近いのではないかと気づいたとき、当事者の人たちに共感することができました。視聴者の皆さんにも、そういった共通点を見つけるヒントになる情報をお伝えしていきたい、それがさまざまな問題を解決する一歩になるのではないかと思っています。