クロ現+
2021年1月26日

パート従業員のストライキ


「これまでも不公平だな、おかしいなと思うことはありましたが飲み込んで、店のために働いていきました。それなのに…」
去年4月、新型コロナの感染拡大に伴って店が休業するとパート従業員の彼女には「休業手当」がほとんど支払われませんでした社員には全額支払われていたといいます。
「社員はうちに生活の基盤があるから守らないといけない」
会社からそう説明された時、彼女の中の何かが変わりました。
「おかしいことはおかしいと言おう」
労働組合に加入して2回に渡ってストライキを決行。今も全国の同じような思いをしている女性たちとつながり、声をあげ続けています。

(社会部 記者 松田 伸子)

コロナ前から抱えていたモヤモヤ


首都圏のベッドタウンに住む主婦のあきさん(35歳・仮名)
大手外食チェーンのカフェで2年前からパート従業員として働いています。
職場は店長以外の全員がパートとアルバイトです。商品の管理や発注からクレーム対応まであきさんのような比較的、長く働いているパートがこなしています。
店長が休みの日には実質的な店長を任されることもありますが時給は1,120円。ほかのアルバイト時給1,100円とほぼ同じです。

あきさん(仮名)(35歳)
「シフトに入るパートの数はコロナの影響が出る前から人件費削減のために減らされていました。休憩すら取れないくらい忙しいし、残業することもありました。正社員の店長とほぼ同じ仕事をしているのにおかしいなとは思っていましたが、仕事が好きだったし、店長に嫌われたらシフトに入れなくなるので言えませんでした」

欠かせない生活費が・・・


新型コロナの感染拡大で初めて緊急事態宣言が出された去年4月。店は休業し3日しかパートに入ることができませんでした。それまでは週4日働いて月に10万円の収入があったあきさん。店からは6割が補償される可能性があると聞いていましたが、4月の給与明細をみてみると休業手当として補償されたのはわずか1万5,000円あまり。働いた日の時給と合わせて給与は3万円しかありませんでした。

夫が単身赴任のため、あきさんは未就学の子ども2人の面倒をみながら働いています。家計はぎりぎりでパートの収入は欠かせない生活費でした。

あきさん(仮名)(35歳)
「どう考えても少なすぎると思いました。店長に聞いても詳しい説明はしてもらえず、なんとか補償してもらえないかと考えるようになりました」

休業手当「5月は0です」募る不信感

この時、店は5月いっぱい休業することが決まっていました。
5月の給与は?休業手当はどうなるの?

それまでは店長の顔色をうかがって聞く勇気がありませんでしたが、背に腹は代えられないと思い切って聞くことに。携帯電話には店長とのショートメッセージのやりとりが残されています。



あきさんが「5月分の補償はゼロになりますか?」と聞くと、店長は「5月はゼロです」と返信してきました。その一文だけでほかに説明はなかったそうです。この時は「有給(休暇)を全部使いたいです。よろしくお願いします」と返して収入を確保するのが精一杯でした。

しかし時がたつにつれ会社に対する不信感が増していきました。なぜ休業の補償がされないのか。理由をきちんと説明してほしい。

労働組合に加入 会社との団体交渉へ

それまで業務に関する問い合わせは店長にする以外に方法がありませんでした。知る人もいない本社にパートの自分が説明を求めてもきっと相手にされないだろう。そう考えたあきさんは去年6月、パートと学生アルバイトの4人で個人加入できる労働組合に入り、休業手当の支払いを求めて会社と交渉することにしたのです。

あきさん(仮名)(35歳)
「辞めさせられたりシフトを減らされたりするかもしれない。そもそも会社にたてついていいのか。いろんな気持ちがありましたが、それしか声をあげる手段が考えられなかったんです」

労働組合に加入 会社との団体交渉へ


初めて臨んだ団体交渉。そこで実は休業手当が正社員には全額支払われていたことを知りました。あきさんが働く大手外食チェーンは正社員が約600人、パートやアルバイトが約7,800人。なぜ店を共に支える私たちにはほとんど支払われないのか。疑問をぶつけると会社はこう答えました。

会社
「社員はうち(会社)に生活の基盤があるから守る必要がある」

会社は「そもそも支払いの義務は無い」とも主張しました。法律では休業手当について「会社の都合で」従業員を休ませた場合に支払わなければならないと規定されています。しかし今回の休業は、緊急事態宣言によって店が入る商業施設が閉まったからで会社の都合ではないというのです。国は支払い義務の有無にかかわらず雇用調整助成金を活用して支払うよう促していますが、その考えもないようでした。

あきさん(仮名)(35歳)
「店の中心となって働いてきたという自負がありました。それなのに私たちのことをなんだと思っているのか、結局は使い捨てなのか。悲しくて悔しくて涙が出ました」

ストライキに出るも…


去年9月3日。あきさんはパート仲間と2人で東京・霞が関にある厚生労働省の記者会見室にいました。休業手当の支払いを求めてストライキをする。その発表のためです。

あきさん(仮名)(35歳)
「まさか自分がストライキや、記者会見をするなんて想像もできませんでした。でも会社がこのまま逃げるのは許せない。私たちの決意をわかってもらいたい。おかしいことはおかしいと言おうと、コロナ禍で思うようになったんです」

本社に通告してこの日からストライキが始まりました。シフトはストライキとは関係なく組まれていましたが、出勤しませんでした。すると店長から電話がかかってきました。

店長
「きょうはお休みですか?」

会社はストライキが行われていることを店の誰にも知らせていなかったのです。ストの期間、あきさんたち2人は欠員扱いとなり店は通常通り営業しました。結局会社の対応は変わらないまま、ストライキはあっけなく終わりました。

あきらめから「もう一度」


一緒にストライキをしたパート仲間は、これ以上嫌な思いをしたくないと店を辞めていきました。あきさんも年内いっぱいでパートを辞める決意をし、労働組合にも伝えました。

交渉をしている間に国は休業支援金という新たな制度をつくり、休業手当が支払われない労働者に支給を始めていました。しかし対象となるのは中小企業に雇用されている人で、大企業で働くあきさんはこれも活用できませんでした。そうして失意の中で働いていた時、1本の電話がかかってきました。

パート従業員の女性
「団体交渉はその後どうなっていますか?私にはできないけれど応援しているので頑張ってください」

状況は何も変わってはいないけれど、やってよかったと思えたそうです。

あきさんは昨年末、今度はたった一人で2回目のストライキを行いました。そして正社員と非正規社員の待遇の違いが法律に違反しているとして、労働委員会に調停の申し立てをしています。会社はNHKの取材に対し「弁護士に任せているのでコメントできない」としています
声をあげることは後ろめたいことではない


あきさん(仮名)(35歳)
「理想論かもしれませんが、雇う側と雇われる側は対等であるべきです。声をあげることは悪いことでも後ろめたいことでもない。全国にいる非正規雇用の人たちの中にはおかしいと思いながらも、いろんな事情で声をあげられない人がたくさんいる。私が声をあげ続ければ、1人でも2人でも一緒に行動してくれる人が出てくるかもしれない」。

活動がきっかけとなって非正規雇用で働く全国の子育て中の女性たちとつながりができたというあきさん。厚生労働省や国会議員に直接窮状を訴える活動も始めました。これからもパートとして働きながら声をあげ続けていくつもりだそうです。

今月、再び緊急事態宣言が各地に出され、飲食店などでは休業を余儀なくされる労働者が相次いでいます。

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