クロ現+
2020年12月22日

ひとり親家庭を「無料の弁当」で支えたい


いま、ひとり親家庭の経済的な困窮が深刻さを増しています。政府は12月、生活実態が厳しいひとり親世帯への支援策として、子ども1人あたり最大5万円の給付金を追加で支給する方針を固めました。

こうした中、さまざまな事情を抱えたひとり親を対象に、無料で弁当を届ける支援を行う男性がいます。この取り組みは、SNSなどを通じてスポーツ選手や有名人などの間で共感が広がり、瞬く間に知られるようになりました。どんな思いで始めたのか、男性を訪ねました。

(報道局 映像センター取材グループ 菅原 紀子)


六本木のイタリア料理店の経営者が自転車で…


東京・目黒区の住宅街を走り抜ける1台の自転車。運転している男性が向かった先は、あるマンションの一室です。インターホンを鳴らして中から出てきたのは、母親と小学生くらいの男の子。男性は2つの弁当を親子に手渡しました。母親から「ありがとうございます。いつも頼りにさせてもらっています」と感謝の言葉を告げられると、男性は再び自転車にまたがり、次の配達先へと走り出しました。

この弁当を配達しているのは、六本木のイタリア料理店を経営する笹 裕輝(ささ・ゆうき)さんです。ことし4月から新型コロナウイルスの影響で経済的に厳しくなっているひとり親家庭を支援しようと弁当を無料で届ける活動をしています。

生活の厳しいひとり親家庭を支えたい
 

緊急事態宣言が出された4月、笹さんの店も休業をよぎなくされました。店の売り上げが大幅に落ち込みましたが、持続化給付金などの支援制度でなんとかしのいできました。

そんな中、知り合いのシングルマザーの家庭の生活が厳しいという話を耳にして「この状況で何かできることはないか」と始めたのが、ひとり親家庭に無料で弁当を届けることでした。

まず行ったのは、店の近所で困っていると聞いたひとり親家庭に弁当を届けることです。弁当はスタッフ5人で手分けして作り、子どもが安心して食べられるようにと、無添加の調味料を使って栄養バランスのよいメニューを考えました。配達は、コストをかけずに済むよう自転車で行いました。

その後、取り組みを知ったひとり親家庭から「私の家にも弁当配達をしてほしい」という声が多く寄せられたため、5月にクラウドファンディングなどで寄付を募ったところ、合計4,000万円を越える支援金が集まりました。ひとり親家庭で育ったというスポーツ選手や有名人の間で共感の輪が広がったからです。さらに、共感してくれた同業者たちの支援を得ながら、配達エリアを都内12区にまで拡大して、11月下旬までに3万8,000個の弁当を届けてきました。

背景には自らも母子家庭で育った境遇が…

(弁当支援をしていた母親から届いた手紙)


笹さんがこの取り組みを始めたのは、笹さん自身が母子家庭で育ったからです。3歳のころに両親が離婚し、母親がひとりで家計を支えながら姉と自分を育てる姿を見てきました。

母親は、昼は美容院で、夜はスナックで忙しく働いていました。母親と話ができたのは、夜の仕事に向かう前、夕食の支度をする1時間足らずの時間だけでした。笹さんはいつもさみしさを感じていたといいます。

無料で弁当支援を行う 笹 裕輝さん
「母ともっと一緒に過ごす時間があればいいのに、といつも感じていました。弁当を届けることで、経済的な支えになるだけでなく、食事を作るために使っていた時間を、子どもと会話をする時間に使ってもらえたらいいと思いました」

弁当支援に救われた母と子


笹さんが弁当支援を始めた直後から、頻繁に訪問してきた家庭があります。20代の女性と娘の2人暮らしの家庭です。女性は、去年の秋ごろから事情があって夫と別居するようになり、生まれたばかりの娘と2人で暮らすようになりました。

ことし4月からは飲食業の仕事に就く予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で内定を取り消されました。貯金を取り崩す不安な生活を送る中、SNSで偶然弁当支援のことを知り、配達を希望したといいます。

支援を受けた結果、食費を大幅に抑えられ、買い物のために子どもを連れて外出する頻度も少なくできたといいます。

1人で子どもを育てる女性
「頂いたお弁当のお米をみじん切りにして、おかゆにして娘に食べさせました。あまったご飯は次の日の朝食にも使うなど、食費を節約することができました。子どもと買い物に外に出れば感染リスクがあるので、弁当を届けてもらえてとても助かりました」

さらに、女性は弁当を届けてくれる配達員とも顔見知りになり、言葉を交わすようになりました。子どもと2人、家に閉じこもりがちの女性にとって、配達の時間は孤立感を和らげてくれる貴重な機会になったといいます。

1人で子どもを育てる女性
「コロナで誰とも会えない状況の中で、娘と2人きりで過ごす生活は気持ちが落ち込むことも多かったです。そんな中で、配達員のお兄さんからお弁当を受け取るときには、『ありがとうございます!』と笑顔になることができました」

国の支援のはざまで苦しむ人にも弁当が届くように
  

女性が笹さんの弁当支援を頼りにしているのには、もうひとつ大きな理由があります。現在、女性は夫と離婚調停を行っていますが、緊急事態宣言の間、調停は延期されました。いまも調停が立て込んでいるという理由から次の期日がなかなか決まらず、別居から1年がたったいまでも離婚が成立していません。

そのため、女性はひとりで子育てをしていますが、ひとり親世帯を対象とした「臨時特別給付金」や「児童扶養手当」など行政の支援を受け取ることができていないといいます。
 
1人で子どもを育てる女性
「まさかひとり親世帯を対象とした支援が受けられないとは思いませんでした。無料のお弁当の支援はうちのような家庭でも受けられたので、とても助かりました」

笹さんは、弁当支援を続ける中で、この女性のように制度のはざまで苦しむ親が多くいることをはじめて知りました。コロナ禍の混乱の中で、人知れず苦しんでいる人がいるのであれば、なんとか力になりたい。笹さんは、離婚調停中であっても別居中であっても、わけへだてなく、ひとりで子育てをしている親に弁当配達を行っていきたいと考えています。

無料で弁当支援を行う 笹 裕輝さん
「妊娠中だが支援してもらえませんかとか、別居中でも頼めますかとか、これまでに多くの相談がありました。困っているひとり親を助けたいという思いでやっているので、行政の支援が受けられない人にも、しっかりと届けていきたいです」

今後はよりきめ細かい支援へ


多くの家庭に弁当を無料で届けてきた笹さんはいま、支援を一歩先に進めたいと考えています。ただ広く弁当を配るだけでなく、より支援が必要な家庭に深く関わり、自立のための後押しをすることが大切だと感じたからです。

都内12区への配達は今月中旬でいったん終了することにし、配達エリアを新宿区と品川区の2区に絞り、あらかじめサポート期間や目標を定めた上での配達を新たに始めています。

無料で弁当支援を行う 笹 裕輝さん
「今後はこれまで以上に、ひと家庭ごとにきめ細かなサポートを続けて行きたいです。それぞれの目標に向かってがんばるひとり親のサポートが弁当を通じてできれば嬉しいです」

民間だけでは限界が… 求められる行政の支援

弁当支援を始めとした「現物給付」の対策は各地で広がっています。東京・世田谷区では11月下旬以降、ひとり親世帯などへの支援策として1世帯につき米10キロを配りました。しかし、地域による支援の格差が広がらないようにするにはどうするかが今後の課題です。

さらに、今回の取材を通じて、「法律上のひとり親世帯」に限らず、広く「ひとりで子育てをしている親」への支援が急務だと感じました。行政にはより柔軟な対策が求められています。

<笹 裕輝さんの弁当支援情報サイト>

hottokenine(ホットケナイン)
※リンクをクリックするとNHKサイトを離れます。
https://hottokenine.jp/
笹さんが行う弁当支援のホームページです。弁当支援の相談方法や支援金募集などについて書かれています。



記事に対する感想や意見、あなたの体験談などを、下の「コメントする」からお寄せください。今後も取材を進めていきます。

トップに戻る