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“ごみの王様”が挑む プラごみをなくす新ビジネスとは

みなさんは『トム・ザッキー』という名前を聞いたことがありますか?
日本では知らない方がほとんどかと思いますが、リサイクル技術を次々に開発し“ごみの王様”の異名をもつ起業家です。
2年前にはプラスチック容器の利用を減らすための新しいビジネスモデルを発案し、世界から注目を集めています。一体どんなサービスなのか?そして「社会システムそのものを抜本的に変えよう」と語るザッキーさんの信念とは?

(NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」取材班)

“ごみの王様”の異名を持つ起業家

アメリカ・ニュージャージー州に拠点を置くトム・ザッキーさん(39)は、国連の『世界を変えるリーダー賞(2012年) 』をはじめとする数々の賞を受賞するなど、次世代を担う若き起業家です。

プリンストン大学の1年生だった2001年、リサイクル企業・テラサイクル社を1人で立ち上げ、大学の寮で『ミミズの糞(ふん)から肥料を作る』ことから事業をスタートさせました。

その後、たばこの吸い殻や歯ブラシ、使用済みおむつなど、リサイクル困難と言われるプラスチックごみのリサイクル技術を開発していきました。いまや世界21か国に支社を持つまでに成長し「ごみの王様(Gabae Mogul)」の異名もとるようになりました。

オフィスにお邪魔すると、ザッキーさんのユニークなこだわりに驚かされます。
ペットボトルで出来た壁、古い冷蔵庫のドアとワイン樽で出来た机、レコード盤で出来た間仕切りなど、100%捨てられるはずだったごみを再利用しています。

古い冷蔵庫のドアとワイン樽を再利用した机

リサイクルだけでは限界・・・たどり着いたのは「ごみという概念をなくす」こと

半世紀に渡り、人類は利便性、経済効率を優先させ、金属やガラス・陶器で作られていたものを急速にプラスチックに置き換えてきました。結果、大量消費・大量廃棄の構図を生み、あふれ出したプラスチックが生態系の脅威となりつつあります。

この状況に立ち向かうためリサイクル技術を追究してきたザッキーさんですが、実は1950年以降に世界で生産されたプラスチック83億トンのうち、リサイクルされているのはたった9%(2015年の推計) しかありません。
リサイクルだけでは限界があるのではないかー

2019年1月、各国の政財界のキーパーソンが集まる「世界経済フォーラム(ダボス会議)」に参加したザッキーさんは、これまでとはまったく違うアイデアを発表し、世界を驚かせました。

「リサイクルがゴミ問題の本当の解決策か考えてきました。
リサイクルは重要ですが、ごみ問題の根本的な解決にはなりません。辿り着いたのは、“ごみという概念をなくすこと”。これを最も皆さんが納得してくれる方法、つまり、持続可能なビジネスを通して広げたいのです。」

(テラサイクル トム・ザッキーCEO)

「容器が循環し続ける」新しいサービスとは

ザッキーさんが考案したのは『Loop(ループ)』という名のサービスです。ひとことで言えば、シャンプーや洗剤などの消費財やアイスやジュースなどの食品のネット通販ですが、ポイントは使い捨て容器に頼らず『容器が循環し続ける』ことです。
「使い捨て容器をなくすにはどうしたらいいか」という、抜本的な問いに挑戦するものです。

その仕組みがこちら

1. 消費者がインターネットで商品を注文すると、専用のバッグに入った商品が自宅へ配達される。
2. 容器はガラスやステンレス製などの容器や瓶で、繰り返し使える耐久性の優れたもの。
使い終わったら玄関に置いておくと、容器は配達員によって回収され洗浄。
3. メーカーに容器が戻り、新たに中身が充填され、再び消費者の元へ送られる。

新しい“循環型ショッピングプラットフォーム”として注目を集めるこのサービスですが、消費者としては、容器を捨てたり洗浄したりする手間が省け、洗練されたデザインの容器や使い心地を今まで以上に楽しめるというメリットもあります。

またアマゾンやウーバーイーツのように消費者が利用しやすいプラットフォームであるため、企業としても相乗りしやすい利点があります。P&G、ユニリーバ、ネスレ、コカ・コーラ、ハーゲンダッツなどのグローバル企業が、その先進性に期待し参加しています。

すでにアメリカでは3万5千世帯が利用し、世界7か国で導入が決定。日本でも2021年、25ブランドと提携し、サービスを開始する予定です。

「私たちは買い物を通して、未来に対して投票しています。考えなければならないのは、持続可能な未来に対してどう投票するかです。買う量を減らすのか長く使えるものを選ぶのか、この投票に今こそ向き合うべきなのです。」
(テラサイクル トム・ザッキーCEO)

脱プラスチック 日本はどうする?

ところで日本のプラスチックごみの現状はというと、廃プラスチックの有効利用率は84%と高水準に見えます。しかしそのうち56%が燃やされて熱エネルギーとして回収されています(プラスチック循環利用協会2018)。見た目上はエネルギーとして再利用されているものの、温室効果ガスを生み出す温床となっているリスクが指摘されているのです。

残りの廃プラスチックの多くは東南アジアを中心に輸出していましたが、国際条約により2021年1月より原則輸出は禁止になりました。廃プラスチックの処理に行き詰まりを迎えた今、自国で大幅に削減する必要性が急速に高まっているのです。

マイボトルやマイバッグなどで使用量を減らす『Reduce(リデュース)』も重要な解決策の1つです。廃プラスチックを再利用した新素材の開発も有効な手立てとなり得るでしょう。

Loopだけでなく、環境に配慮した商品・サービスは世界中に次々に生まれ、買い物の選択肢は増え続けています。私たち一人一人の消費行動がプラスチック汚染とどうつながっていくのか、買い物の時に一瞬でも考えてみてはいかがでしょうか。持続可能な未来への1票として地球を救う力になるかもしれません。

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