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ジャーナリスト・国谷裕子さんが “地球温暖化の権威”に聞く

「クローズアップ現代」のキャスターを長年務めたジャーナリストの国谷裕子さんは、数年前から環境問題やSDGsに関する取材を続けています。今年1月に放送したNHKスペシャル「2030未来への分岐点 暴走する温暖化 “脱炭素”への挑戦」では、地球温暖化研究の世界的権威・ヨハン・ロックストローム博士にインタビューを行いました。
地球は「後戻りできない状況に陥りつつある」と警告する博士に対し、「どうすれば十分なメッセージを伝えられるのか?」と問う国谷さん。放送では紹介しきれなかった二人の対話をご紹介します。

インタビューはオンラインで実施

国谷裕子さん ジャーナリスト
大阪府出身 米ブラウン大学卒業
1993年4月から2016年3月まで「クローズアップ現代」のキャスター
東京藝術大学理事、国連食糧農業機関(FAO)日本担当親善大使などをつとめる

ヨハン・ロックストローム博士 環境学者
スウェーデン出身 ポツダム気候影響研究所・所長
SDGsにも大きな影響を与えた「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」理論を提唱

「自然に対する戦争」国連・事務総長発言の意味は?

オンラインでのインタビューが行われたのは2020年12月。
その直前、国連のグテーレス事務総長が演説で「簡単に言えば地球は壊れているのです。人類は自然に対して戦争を仕掛けています」と発言し、注目を集めていました。

グテーレス国連事務総長

国谷さんは最初の質問で、この発言に関する博士の意見を聞きました。

国谷裕子さん

最初におうかがいしたいのは、最近のグテーレス事務総長の発言についてです。事務総長は、気候変動によって地球は破壊され、『人類は自然に戦争を仕掛けている』と語り、これは『自殺的だ』と訴えました。このコメントについてどのように思ったかお聞かせください。

ロックストローム博士

:なぜ私たちは緊急事態を宣言するのでしょうか?それは壊滅的な危険があるからです。
同時に、残り時間がわずかなことを意味しています。

今、私たちは非常に重要な10年に入りました。
この10年で、未来の人類のすべての世代に影響する結果が決まる可能性が高いのです。私たちは流れを変えなければなりません。
壊滅的な危険に直面しているだけでなく、残り時間がわずかになっているのです。

国谷裕子さん

これまで地球は、驚くほどのレジリエンス(回復力)と強さを備えていました。それにも関わらず、私たちはどうしてこのような状況に陥ってしまったのでしょうか。

ロックストローム博士

:産業革命が始まってから150年間、私たちは大きな恩恵を受けてきました。
人類の幸福、好調な経済成長、平均寿命の延長や生活の質の向上をもたらす目覚ましい進歩です。そして今日のような文明を手に入れました。
私たちは地球を犠牲にして成功の道のりを歩み、その結果、地球のシステムの回復力が少しずつ失われてきたのです。

ロックストローム博士

:ここ5年間で多くの科学的エビデンスが示しているのは、私たちが飽和状態に達しているということです。
森林は吸収できる容量をこれ以上増やし続けることができません。
そして、予想していなかったさまざまな影響が現れ始めています。

オーストラリア、カリフォルニア、アマゾンでますます多くの森林火事が発生しています。さらには、北極圏の泥炭地が(主に温暖化による乾燥により)延々と燃え続けていて、消火することができません。
今、われわれ人類は地球の変化を引き起こす、もっとも大きな原動力になっています。
その明白な科学的証拠があるということです。

国谷裕子さん

人間の活動の規模があまりにも大きくなったことが原因ですね。人類が地球に大きな負荷を与えて地球のシステムを変化させてしまった。

ロックストローム博士

それは、この10年間でもっとも重要な人類への科学的メッセージだと言えます。
私たちは、1万2000年前から続いていた完新世*から人新生(アントロポセン)*という時代に入りつつあります。
人類が新しい地質年代を生み出し、地球における変化を引き起こす支配的な勢力になったのです。人類の変化のペースと振幅が自然の変動を超えています。

幸運なことに、科学は地球のシステムを理解しており、まだ間氷期(氷期と氷期の比較的温暖な時代)の状態から離れたわけではない。
しかし、温暖化が連鎖的に暴走するティッピング・ポイント(臨界点)に近づいています。どこにあるか正確にはわかりませんが、臨界点に近づいているとわれわれは結論づけています。
それを超えると、不可逆的にホットハウス・アースに向かう危険があります。

*完新世…地層などから決められる地質年代の区分の1つで、人類が大きく発展を遂げたおよそ1万年前から現在までの期間を表す。
*「人新世」は、20世紀後半以降に爆発的に増大した人類の活動が地球環境を大きく変えた結果、地質年代も完新世の次の時代に突入したという考えから作られた造語。

「+4℃」灼熱地球は本当に起きるのか?

ロックストローム博士が3年前に発表したのが「ホットハウス・アース理論」です。
産業革命前に比べて地球の平均気温が「+1.5℃」を超えてさらに上昇すると、温暖化が連鎖的におき、後戻りできない状況になるとしています。

シベリアなどの永久凍土が溶けて、二酸化炭素の25倍の温室効果を持つメタンガスが大量放出されます。アマゾンが枯れた草原へと変化し、熱帯雨林に蓄えられていた二酸化炭素が大気中へ。
たとえ人類が温室効果ガスの排出をやめたとしても、数百年かけて「+4℃」というきわめて危険なレベルに到達してしまう、『灼熱地球』へのシナリオだと警告しているのです。

温暖化対策の“防衛ライン”とも言われる「+1.5℃」は、早ければ2030年にも到達すると予測されています。

国谷裕子さん

温暖化が進んでいくと、不可逆的な状況が次々とドミノ倒しのように起こり、ホットハウス・アースに陥ると博士は主張されています。そのプロセスは、実際にどのようなものになるのでしょうか?

ロックストローム博士

崖から転げ落ちるように、直ちにアルマゲドンに陥るわけではありませんが、地球のシステムがその方向へ押し流され始めて、気候による強制力が増加し、温暖化がますます進み、私たちはそれを押し戻すことができなくなります。

永久凍土が溶け始め、氷が溶け、森林が失われ、すべてのシステムが自ら温暖化を進めるようになるため、2℃を超えて4〜6℃の気温上昇が起こり、『ホットハウス・アース』と呼ばれる状態になるのです。
地球は熱帯の惑星となり、熱帯の大部分はデッドゾーンになります。気温が非常に高く、熱波に襲われるため、暮らせない地域となるでしょう。

国谷裕子さん

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2018年10月に1.5℃に関する報告書を出して以来、パリ協定の2℃目標*は、世界的に1.5℃未満へと、その目標を変えつつあります。
この1.5℃という目標の重要性をどのように考えますか?

ロックストローム博士

:1.5℃は地球物理学的に見た地球の限界だということを裏づける科学的証拠が増えています。2015年のパリ協定の時、そのエビデンスは揃っていませんでしたが、今は1.5℃を超えれば、すべての人々の暮らしは非常に困難になることを科学的エビデンスが強く示しています。

2℃の気温上昇によって今後500年で起きる6メートルの海面上昇は、とても懸念される問題です。もし私たちがパリ協定の目標を達成できなければ、この海面上昇によってニューヨークを失い、東京の一部を失い、ストックホルムを失うことになるでしょう。

ですから、どのような角度から見ても、2℃は避けるべきだと思います。不可逆的に6メートルの海面上昇に向かう地球を自分の子供たちに引き渡すことは容認できることではないと思います。

多くの人が心配しているのは30年後か、せいぜい今世紀の終わりまでに何が起こるかだと思います。しかしそれは間違いです。
私たちは、2000年前までさかのぼる過去の物語や歴史的事実にもとづいた価値観や信仰、文化のなかで暮らしています。
私たちも500年、1000年、2000年先の文明のことまで考え、責任を持つべきではないでしょうか。

*パリ協定の目標:世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする

もっとも先進的でクールなのは『持続可能な未来』

国谷裕子さん

IPCCは1.5℃未満が私たちの目指すべき安全圏だと言っています。そのためには、2030年までに二酸化炭素を45%削減し、2050年までに排出実質ゼロにする必要があります。
日本を含む多くの国が2050年ゼロエミッションを目指すと約束していますが、それはどれくらい大きな挑戦となるのでしょうか。

ロックストローム博士

:30年後までにゼロエミッションにすることは革命にほかなりません。
平均して10年毎に排出量を半分にしなければならないのです。これは持続可能性のための世界的な転換であり、大規模な挑戦です。

強調したいのは、今や希望的観測ではなく、実際に達成できるということです。少なくとも、達成できないことを示すエビデンスはどこにもありません。

国谷裕子さん

私たちはこの10年が非常に重要な10年であることを日本の視聴者に伝えたいと思っています。しかし今のところはそのメッセージを広く浸透させることができていないと感じています。
どのような語り口を用いるべきでしょうか。何が人々を納得させ、行動を取りたいと思わせるのでしょうか?

ロックストローム博士

これまでは環境の話をすると、『洞窟に住んでいた時代に戻る』と受け止められたり、『時代を逆行する語り口だ』と批判されたりしました。
問題を解決するにはある程度の代償や犠牲が必要であり、行動を抑制しなければならないというナラティブ(語り口)が支配的でした。

しかしいま新しいナラティブが出現しています。
それは、『持続可能性こそが成功の入り口だ』というものです。私はこれこそが多くの人々を仲間に引き入れることができるものだと確信しています。

いまは持続可能性へとギアチェンジをして、先進的な未来への旅が始まっています。もっともハイテクで、もっとも先進的でクールな未来は『持続可能な未来』です。これが突破口になると思います。
持続可能性が、今よりはるかに魅力的な未来への道です。

ロックストローム博士

私たち科学者や環境保護論者だけではなく、ビジネスリーダーやスポーツ・文化・音楽の世界の人々も「持続可能性は未来への道である」というメッセージを伝えることができます。私たちは時代のヒーローになることができます。
そしてこの瞬間に、私たちは立ち上がって困難に立ち向かうことができます。
私たちが一緒に創造する未来がとても明るいものになる。少なくともそれが私の希望です。

みんなのコメント(1件)

かに
40代 男性
2021年4月23日
この記事を読んでいて、人口増加=人類の幸福と信じて発展し続けた時代は終わったという現実を改めて認識させられました。地球温暖化などの問題は人類に対する因果応報なのかなと感じましたし、これからの振る舞いで、世界がどのような結果を迎えるのか、どんなに栄えても必ず衰える世の中の運命を変えられるのか、ですかね。