2021年1月7日

常田大希さん作曲「2992」 スタジオ収録に密着

音楽家・常田大希(つねた・だいき)さん(millennium parade/King Gnu)が作曲したNHKスペシャル「2030 未来への分岐点」のテーマ音楽「2992(にきゅうきゅうに)」が公開されました。
制作を担ったのは、常田さんが率いる音楽プロジェクト「millennium parade(ミレニアム・パレード)」。その名前には「ミレニアム=1000年後にも残る作品を生み出したい」という思いが込められていますが、新曲のタイトル「2992」も、1992年生まれの常田さんが、自分が生まれた年から1000年たってもこの曲が残っていてほしいという願いをかけて名付けられました。

強く激しいバンド演奏と壮大で美しいオーケストラの音色が調和した「2992」。去年12月、メンバーがNHKに集まってパフォーマンス収録が行われました。今回は、その収録当日の様子をお伝えします。(取材:髙橋 隼人 ディレクター/構成:新井 直之 ディレクター)

※この曲の創作現場に長期間密着したドキュメンタリー番組「Tokyo Chaotic 音楽家 常田大希」が3月5日(金)にBSプレミアムで放送されました。

バンドとオーケストラの融合 出演者は30人以上


12月13日午後、NHK放送センターの西口玄関に到着した常田大希さん。白いスウェット姿に革のジャケット、黒いリュックを肩に提げスタジオへ向かいました。

―いよいよですね
「そうですね。ようやく納得するかたちで迎えられてよかったです」
―手応えはいかがですか?
「うん。すごくライブ映えするというか、いい演奏が撮れるんじゃないかと思います」

収録を行う101スタジオでは、スタッフによる準備が慌ただしく行われていました。重い扉を開いた先には、無数のライトに照らされた円形のステージ。
その中央には、常田さんが演奏するアップライトピアノが置かれています。それを取り囲むように2つのドラムセット、グランドピアノ、オーケストラの楽器などがびっしりと配置されていました。


午後4時半ごろ、常田さんを含む演奏者たちが一斉にスタジオ入りしました。このパフォーマンス収録の大きな特徴のひとつは、バンドとオーケストラ合わせて30人以上の出演者がいることです。

millennium paradeのバンドメンバーは、常田さんがKing Gnu(キング・ヌー)でも活動をともにする、ベースの新井和輝さん、ドラムの勢喜遊さん、ピアノの江﨑文武さんのほか、ボーカルにermhoi(エルムホイ)さん(“2992”の作詞も担当)、今回はベースを担当したアジテーターの佐々木集さん(常田さん率いるクリエイティブ集団「PERIMETRON」のプロデューサー/クリエイティブディレクター)、ドラムの石若駿さん(King Gnuの前身Srv.Vinciの元メンバー)、シンセベースのMELRAW(メルロウ)さん、そして今回はサンプラー/コーラスを担当したアジテーターの森洸大さん(「PERIMETRON」のアートディレクター/デザイナー)が参加しています。

一方、総勢23人からなるオーケストラは、常田さんの兄、常田俊太郎さん(King Gnuやmillennium paradeのオーケストレーションバイオリンも担当)がコンサートマスターを務め、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、ホルン、トランペット、フルート、クラリネット、ファゴット、ハープ、オーボエを率います。
各方面で活躍するプロの音楽家たちが一堂に会してサウンドチェックを行う様子を、常田さんはスタジオの端からうれしそうに眺めていました。

―どんな気持ちですか?
「絶景ですね。想像よりもずっといい。みんな演奏が上手だし。曲作りを始めた当初は1人で大変だったけど、いろんな人が参加してきてくれて、徐々に曲が発展していくのを見るのは楽しいですね」

タイトルに込められた ”千年後まで残る楽曲を”


常田さんは、こうした才能のある仲間と一緒に新しい作品を生み出すことにこだわりを持っています。10月に行ったインタビューではこう語っていました。

常田大希さん(10月21日)
「すごく恵まれているなと思うのは、世間の評価とまったく関係なく、自分たちの尺度で作品を作れるチームのメンバーがいること。彼らからしたら、世間からどう思われるかとか、どう評価されるかというのはどうでもよくて、単純に『これかっこいい』とか『この作品ヤバいね』ということしかない連中なので、俺にとっての「財産」であり、本当に「救い」みたいな感じですね。お金ではなくて、かっこいいものが作りたいというところで繋がっているから、すごく尊いことです」

常に信頼する仲間と新たな挑戦を続ける常田さん。この「2992」という曲のタイトルについても思い入れがあるといいます。

常田大希さん(10月21日)
「1992年生まれが、“ミレニアム・パレード”していったら1000年後だから、“2992”というタイトル。規模がでかい話になっちゃいました。音楽もけっこう規模がでかい。この曲が2992年に残っていたら面白いですよね。この作品頑張らないと」

世間の評価ではなく自らが納得できる作品づくりに徹した結果、1000年後まで残る作品ができたらいい。目先の利益に惑わされず、普遍的な価値を追求する真摯な姿勢に共感しました。

”想像をはるかに超える曲”


午後5時。スタジオの準備が整い、収録本番の時間を迎えました。中央に立つ常田さんの指揮で演奏が始まります。
激しいドラムとオーケストラによる、物語の始まりを予感させるプロローグ。一拍間を置いて常田さんが腕を振り下ろすと、2人のベースが低音を響かせるアップテンポな演奏が始まります。常田さんもピアノで加わり、女性ボーカルの歌い出しを迎えました。

You won’t believe what I saw
(私が見たこと、あなたには信じられないでしょう)
There are no words to make you believe me
(あなたに信じさせる言葉が見つからない)



ボーカルを務めるのは、女性シンガーのermhoi(エルムホイ)さんです。以前、たまたま彼女の歌を聴いた常田さんがその才能に惚れ込み、知人を介して会ったことがきっかけで自身の作品バンドに招いたと言います。今回、「2992」の作詞も担当しました。
最初にこの曲を聴いたとき、「規模感が大きすぎて私の想像をはるかに超えた曲だったので焦りました」と語っていたermhoiさん。歌詞については、「そのとき(2992年)に生きている人に、いまこういうことを考えていますと伝えたい」という思いで書いたといいます。



当初、ermhoiさんはレコーディングブースで、「この曲をつかみ切れていない」と嘆いたこともありました。ささやくような優しい声、無機質な声、いらだちを加えた荒々しい声…。どんな音色で歌えばいいのか、何度も試行錯誤を重ね、常田さんたちと“答え”を探し続けてきました。

そして迎える曲のサビです。
In this life we live everyone is made to feel confused
(私たちが生きるこの人生では皆 混乱するように仕組まれている)
I just wanna break free and see
(私はただ自由になって自分の目で見たいの)
Like we all used to do in the old days
(その昔私たちがしていたように)

憂いを帯びながらも力強いermhoiさんの声にバンドとオーケストラが呼応しながら、スケールの大きなメロディが奏でられました。
明け方、スタジオからの帰路で語った言葉ー


分厚い音の層の中心で、無心に鍵盤をたたく常田さん。バンドとオーケストラを両立させるために、これまで苦労を重ねた日々があったといいます。

常田大希さん(11月4日)
「いわゆるバンドミュージックじゃないから、バンドのプレイをするとお互いけんかしてしまう。おいしいところが出てこない。どっちかに偏るとどっちかが死んでしまう」

常田さんは今回、ポップスでバラード系の曲によく取り入れられるオーケストレーションとは一線を画したいと考えていました。後ろで少し弦が鳴っていればいいというものとは違い、今回はオーケストラも主役だと考えていたからです。両者をどう調和させるか、収録のギリギリまでアレンジに手を加え続けてきました。



なぜ、ここまでストイックに曲作りができるのか。楽曲の制作が佳境を迎えたある日の明け方、帰路につくため車を運転している常田さんに、その疑問を投げかけたことがありました。

常田大希さん(11月5日未明)
「なんでですかね。強迫観念みたいな感じがありますね。何かに突き動かされている感じ。俺が止まったら全部が止まるんじゃないかという“動力”として今までやってきたから」

「芸術とは破壊と構築を繰り返すこと」だとも語っていた常田さん。いま、バンドとオーケストラのそれぞれのよさを最大限に引き出し、まったく新しい音楽を生み出そうとしていました。そして、曲はクライマックスへと向かいます。

“いい景色が見られた” 理想的なかたちでのフィナーレ


I'll go ahead and start this run into space
(先に宇宙へと走り出すわ)
While I still have the plan in my mind
(まだ頭の中の計画があるうちに)

スタジオの熱気は最高潮に達し、演奏が終わりました。その後も別アングルでの撮影を繰り返し、収録は約4時間にわたる長丁場となりました。
夜9時、収録の成功を拍手でたたえ合うと、全員そろっての集合写真。仲間に囲まれた常田さんの笑顔には、安堵の色がにじみ出ていました。スタジオを去ろうとする常田さんに最後のインタビューを行いました。

―収録を終えていかがですか?
「最初の構想どおり、いろんなタイプの人たちがこうやって集まってくれて、ひとつの音楽をみんなで作り上げられたのは、すごく自分が思い描いている理想的なかたちで、いい景色が見られました。この曲が1000年後に残るかどうかは分からないですけど、1000年続けたいパレード、そういうマインドでこれから過ごしていくには本当に素敵な機会でしたし、いい曲ができてよかったという日でしたね。よかったです」



NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」のテーマ音楽、「2992」。常田さんは「自然や宇宙との親和性も高い」と前回のインタビュー( Topic㊻テーマ音楽を手がけた音楽家・常田大希 ロングインタビュー)でも語っていました。
あなたは、この曲からどんなメッセージを受け取り、どう未来につなげていきますか?ぜひ、放送とともにお楽しみください。

放送予定
「Tokyo Chaotic 音楽家 常田大希 」NHK BSプレミアム 3月5日(金)夜11:15ー(89分)
NHKスペシャル 2030 未来への分岐点
第3回 プラスチック汚染の脅威 大量消費社会の限界 2/28(日) 夜9:00ー

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