メタンはCO2の25倍の温室効果を持つガスで、その大量放出は温暖化をより一層加速させ、手のつけられない暴走状態に陥れる危険性があります。(University of Alaska Fairbanks, Go Iwahana)
(CG・メタンガスが噴き出すイメージ/NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」より)
In this life we live everyone is made to feel confused
(私たちが生きるこの人生では皆 混乱するように仕組まれている)
I just wanna break free and see
(私はただ自由になって自分の目で見たいの)
Like we all used to do in the old days
(その昔私たちがしていたように)
持続可能な社会へ “地球のミライ”は私たちの手に Vol.2
いまや待ったなしの「温暖化対策」。このままでは2030年にも地球は“後戻りできない状態”になると言われています。どうすれば持続可能な社会を実現できるのか。次の世代のために私たちは何をすべきなのか。”地球のミライ”を一緒に考えませんか?

























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“ごみの王様”が挑む プラごみをなくす新ビジネスとは
日本では知らない方がほとんどかと思いますが、リサイクル技術を次々に開発し“ごみの王様”の異名をもつ起業家です。
2年前にはプラスチック容器の利用を減らすための新しいビジネスモデルを発案し、世界から注目を集めています。一体どんなサービスなのか?そして「社会システムそのものを抜本的に変えよう」と語るザッキーさんの信念とは?
(NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」取材班)
プリンストン大学の1年生だった2001年、リサイクル企業・テラサイクル社を1人で立ち上げ、大学の寮で『ミミズの糞(ふん)から肥料を作る』ことから事業をスタートさせました。
その後、たばこの吸い殻や歯ブラシ、使用済みおむつなど、リサイクル困難と言われるプラスチックごみのリサイクル技術を開発していきました。いまや世界21か国に支社を持つまでに成長し「ごみの王様(Gabae Mogul)」の異名もとるようになりました。
オフィスにお邪魔すると、ザッキーさんのユニークなこだわりに驚かされます。
ペットボトルで出来た壁、古い冷蔵庫のドアとワイン樽で出来た机、レコード盤で出来た間仕切りなど、100%捨てられるはずだったごみを再利用しています。
古い冷蔵庫のドアとワイン樽を再利用した机
この状況に立ち向かうためリサイクル技術を追究してきたザッキーさんですが、実は1950年以降に世界で生産されたプラスチック83億トンのうち、リサイクルされているのはたった9%(2015年の推計) しかありません。
リサイクルだけでは限界があるのではないかー
2019年1月、各国の政財界のキーパーソンが集まる「世界経済フォーラム(ダボス会議)」に参加したザッキーさんは、これまでとはまったく違うアイデアを発表し、世界を驚かせました。
リサイクルは重要ですが、ごみ問題の根本的な解決にはなりません。辿り着いたのは、“ごみという概念をなくすこと”。これを最も皆さんが納得してくれる方法、つまり、持続可能なビジネスを通して広げたいのです。」
(テラサイクル トム・ザッキーCEO)
「使い捨て容器をなくすにはどうしたらいいか」という、抜本的な問いに挑戦するものです。
その仕組みがこちら
2. 容器はガラスやステンレス製などの容器や瓶で、繰り返し使える耐久性の優れたもの。
使い終わったら玄関に置いておくと、容器は配達員によって回収され洗浄。
3. メーカーに容器が戻り、新たに中身が充填され、再び消費者の元へ送られる。
新しい“循環型ショッピングプラットフォーム”として注目を集めるこのサービスですが、消費者としては、容器を捨てたり洗浄したりする手間が省け、洗練されたデザインの容器や使い心地を今まで以上に楽しめるというメリットもあります。
またアマゾンやウーバーイーツのように消費者が利用しやすいプラットフォームであるため、企業としても相乗りしやすい利点があります。P&G、ユニリーバ、ネスレ、コカ・コーラ、ハーゲンダッツなどのグローバル企業が、その先進性に期待し参加しています。
すでにアメリカでは3万5千世帯が利用し、世界7か国で導入が決定。日本でも2021年、25ブランドと提携し、サービスを開始する予定です。
(テラサイクル トム・ザッキーCEO)
ところで日本のプラスチックごみの現状はというと、廃プラスチックの有効利用率は84%と高水準に見えます。しかしそのうち56%が燃やされて熱エネルギーとして回収されています(プラスチック循環利用協会2018)。見た目上はエネルギーとして再利用されているものの、温室効果ガスを生み出す温床となっているリスクが指摘されているのです。
残りの廃プラスチックの多くは東南アジアを中心に輸出していましたが、国際条約により2021年1月より原則輸出は禁止になりました。廃プラスチックの処理に行き詰まりを迎えた今、自国で大幅に削減する必要性が急速に高まっているのです。
マイボトルやマイバッグなどで使用量を減らす『Reduce(リデュース)』も重要な解決策の1つです。廃プラスチックを再利用した新素材の開発も有効な手立てとなり得るでしょう。
Loopだけでなく、環境に配慮した商品・サービスは世界中に次々に生まれ、買い物の選択肢は増え続けています。私たち一人一人の消費行動がプラスチック汚染とどうつながっていくのか、買い物の時に一瞬でも考えてみてはいかがでしょうか。持続可能な未来への1票として地球を救う力になるかもしれません。
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ジャーナリスト・国谷裕子さんが “地球温暖化の権威”に聞く
地球は「後戻りできない状況に陥りつつある」と警告する博士に対し、「どうすれば十分なメッセージを伝えられるのか?」と問う国谷さん。放送では紹介しきれなかった二人の対話をご紹介します。
インタビューはオンラインで実施
大阪府出身 米ブラウン大学卒業
1993年4月から2016年3月まで「クローズアップ現代」のキャスター
東京藝術大学理事、国連食糧農業機関(FAO)日本担当親善大使などをつとめる
スウェーデン出身 ポツダム気候影響研究所・所長
SDGsにも大きな影響を与えた「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」理論を提唱
その直前、国連のグテーレス事務総長が演説で「簡単に言えば地球は壊れているのです。人類は自然に対して戦争を仕掛けています」と発言し、注目を集めていました。
グテーレス国連事務総長
国谷さんは最初の質問で、この発言に関する博士の意見を聞きました。
最初におうかがいしたいのは、最近のグテーレス事務総長の発言についてです。事務総長は、気候変動によって地球は破壊され、『人類は自然に戦争を仕掛けている』と語り、これは『自殺的だ』と訴えました。このコメントについてどのように思ったかお聞かせください。
なぜ私たちは緊急事態を宣言するのでしょうか?それは壊滅的な危険があるからです。
同時に、残り時間がわずかなことを意味しています。
今、私たちは非常に重要な10年に入りました。
この10年で、未来の人類のすべての世代に影響する結果が決まる可能性が高いのです。私たちは流れを変えなければなりません。
壊滅的な危険に直面しているだけでなく、残り時間がわずかになっているのです。
これまで地球は、驚くほどのレジリエンス(回復力)と強さを備えていました。それにも関わらず、私たちはどうしてこのような状況に陥ってしまったのでしょうか。
産業革命が始まってから150年間、私たちは大きな恩恵を受けてきました。
人類の幸福、好調な経済成長、平均寿命の延長や生活の質の向上をもたらす目覚ましい進歩です。そして今日のような文明を手に入れました。
私たちは地球を犠牲にして成功の道のりを歩み、その結果、地球のシステムの回復力が少しずつ失われてきたのです。
ここ5年間で多くの科学的エビデンスが示しているのは、私たちが飽和状態に達しているということです。
森林は吸収できる容量をこれ以上増やし続けることができません。
そして、予想していなかったさまざまな影響が現れ始めています。
オーストラリア、カリフォルニア、アマゾンでますます多くの森林火事が発生しています。さらには、北極圏の泥炭地が(主に温暖化による乾燥により)延々と燃え続けていて、消火することができません。
今、われわれ人類は地球の変化を引き起こす、もっとも大きな原動力になっています。
その明白な科学的証拠があるということです。
人間の活動の規模があまりにも大きくなったことが原因ですね。人類が地球に大きな負荷を与えて地球のシステムを変化させてしまった。
それは、この10年間でもっとも重要な人類への科学的メッセージだと言えます。
私たちは、1万2000年前から続いていた完新世*から人新生(アントロポセン)*という時代に入りつつあります。
人類が新しい地質年代を生み出し、地球における変化を引き起こす支配的な勢力になったのです。人類の変化のペースと振幅が自然の変動を超えています。
幸運なことに、科学は地球のシステムを理解しており、まだ間氷期(氷期と氷期の比較的温暖な時代)の状態から離れたわけではない。
しかし、温暖化が連鎖的に暴走するティッピング・ポイント(臨界点)に近づいています。どこにあるか正確にはわかりませんが、臨界点に近づいているとわれわれは結論づけています。
それを超えると、不可逆的にホットハウス・アースに向かう危険があります。
*「人新世」は、20世紀後半以降に爆発的に増大した人類の活動が地球環境を大きく変えた結果、地質年代も完新世の次の時代に突入したという考えから作られた造語。
産業革命前に比べて地球の平均気温が「+1.5℃」を超えてさらに上昇すると、温暖化が連鎖的におき、後戻りできない状況になるとしています。
シベリアなどの永久凍土が溶けて、二酸化炭素の25倍の温室効果を持つメタンガスが大量放出されます。アマゾンが枯れた草原へと変化し、熱帯雨林に蓄えられていた二酸化炭素が大気中へ。
たとえ人類が温室効果ガスの排出をやめたとしても、数百年かけて「+4℃」というきわめて危険なレベルに到達してしまう、『灼熱地球』へのシナリオだと警告しているのです。
温暖化対策の“防衛ライン”とも言われる「+1.5℃」は、早ければ2030年にも到達すると予測されています。
温暖化が進んでいくと、不可逆的な状況が次々とドミノ倒しのように起こり、ホットハウス・アースに陥ると博士は主張されています。そのプロセスは、実際にどのようなものになるのでしょうか?
崖から転げ落ちるように、直ちにアルマゲドンに陥るわけではありませんが、地球のシステムがその方向へ押し流され始めて、気候による強制力が増加し、温暖化がますます進み、私たちはそれを押し戻すことができなくなります。
永久凍土が溶け始め、氷が溶け、森林が失われ、すべてのシステムが自ら温暖化を進めるようになるため、2℃を超えて4〜6℃の気温上昇が起こり、『ホットハウス・アース』と呼ばれる状態になるのです。
地球は熱帯の惑星となり、熱帯の大部分はデッドゾーンになります。気温が非常に高く、熱波に襲われるため、暮らせない地域となるでしょう。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2018年10月に1.5℃に関する報告書を出して以来、パリ協定の2℃目標*は、世界的に1.5℃未満へと、その目標を変えつつあります。
この1.5℃という目標の重要性をどのように考えますか?
1.5℃は地球物理学的に見た地球の限界だということを裏づける科学的証拠が増えています。2015年のパリ協定の時、そのエビデンスは揃っていませんでしたが、今は1.5℃を超えれば、すべての人々の暮らしは非常に困難になることを科学的エビデンスが強く示しています。
2℃の気温上昇によって今後500年で起きる6メートルの海面上昇は、とても懸念される問題です。もし私たちがパリ協定の目標を達成できなければ、この海面上昇によってニューヨークを失い、東京の一部を失い、ストックホルムを失うことになるでしょう。
ですから、どのような角度から見ても、2℃は避けるべきだと思います。不可逆的に6メートルの海面上昇に向かう地球を自分の子供たちに引き渡すことは容認できることではないと思います。
多くの人が心配しているのは30年後か、せいぜい今世紀の終わりまでに何が起こるかだと思います。しかしそれは間違いです。
私たちは、2000年前までさかのぼる過去の物語や歴史的事実にもとづいた価値観や信仰、文化のなかで暮らしています。
私たちも500年、1000年、2000年先の文明のことまで考え、責任を持つべきではないでしょうか。
IPCCは1.5℃未満が私たちの目指すべき安全圏だと言っています。そのためには、2030年までに二酸化炭素を45%削減し、2050年までに排出実質ゼロにする必要があります。
日本を含む多くの国が2050年ゼロエミッションを目指すと約束していますが、それはどれくらい大きな挑戦となるのでしょうか。
30年後までにゼロエミッションにすることは革命にほかなりません。
平均して10年毎に排出量を半分にしなければならないのです。これは持続可能性のための世界的な転換であり、大規模な挑戦です。
強調したいのは、今や希望的観測ではなく、実際に達成できるということです。少なくとも、達成できないことを示すエビデンスはどこにもありません。
私たちはこの10年が非常に重要な10年であることを日本の視聴者に伝えたいと思っています。しかし今のところはそのメッセージを広く浸透させることができていないと感じています。
どのような語り口を用いるべきでしょうか。何が人々を納得させ、行動を取りたいと思わせるのでしょうか?
これまでは環境の話をすると、『洞窟に住んでいた時代に戻る』と受け止められたり、『時代を逆行する語り口だ』と批判されたりしました。
問題を解決するにはある程度の代償や犠牲が必要であり、行動を抑制しなければならないというナラティブ(語り口)が支配的でした。
しかしいま新しいナラティブが出現しています。
それは、『持続可能性こそが成功の入り口だ』というものです。私はこれこそが多くの人々を仲間に引き入れることができるものだと確信しています。
いまは持続可能性へとギアチェンジをして、先進的な未来への旅が始まっています。もっともハイテクで、もっとも先進的でクールな未来は『持続可能な未来』です。これが突破口になると思います。
持続可能性が、今よりはるかに魅力的な未来への道です。
私たち科学者や環境保護論者だけではなく、ビジネスリーダーやスポーツ・文化・音楽の世界の人々も「持続可能性は未来への道である」というメッセージを伝えることができます。私たちは時代のヒーローになることができます。
そしてこの瞬間に、私たちは立ち上がって困難に立ち向かうことができます。
私たちが一緒に創造する未来がとても明るいものになる。少なくともそれが私の希望です。
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サステイナブルな世界の動きを 写真とグラフィックでご紹介
「地球のミライ」のインスタグラム(@nhk_sdgs)にも掲載しています。
\バナナの葉がプラスチック容器代わりに!?/
プラスチック容器の代わりに使われているのは、なんとバナナ🍌の葉!タイにある、学校の食堂でのお話です。
タイでは昔から食べものを包んだり、蒸したりするのにバナナの葉が使われてきましたが時代とともにその需要が減っていました。
しかし「脱プラ」の流れもあり、ふたたびバナナの葉が脚光を浴びているのです。
丈夫で自然由来のため、子どもが使っても安心と評判。
地元政府にも評価され、支援を受けています。
それぞれの国が習慣や伝統を生かして、”サステイナブルな暮らし”を模索しています。私たちにできることは?
\余った生地を再利用♲して新たな服👗に/
イタリアのあるファッションブランドでは、捨てられるはずだった生地を再利用し、洋服をつくっています。
ファッション業界は「環境への負荷が大きい」と指摘されますが、あまった生地を有効活用することで二酸化炭素の排出を減らすなど、業界の改革を目指しています。
取り組みが評価され、去年12月にはブランドを立ち上げたアンナ・フィスカレさんに イタリア共和国功労勲章が送られました👏
<NHK・BS1「国際報道2020」より>
詳しくはこちらの記事も👀
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環境への“意識が高い”なぜ敬遠されるの?
新語が収録されている年鑑を開くと「ソーシャルメディア上で意識の高い発言をする(中略)が、実力がともなわず空回りする人のこと」(「現代用語の基礎知識2019」より)とされています。
初めは主に就職活動中の一部の学生に対して使われていたようですが、最近は、環境問題について積極的に発信している人たちにも、投げかけられることがあります。
地球温暖化やプラスチックごみ問題への対策が待ったなしの状況の中、環境への「意識が高い」ことはとても大切に思えます。
「なぜ共感してもらえないの?」地球のミライを真剣に考えているのに・・・。
色々な思いを抱えながら活動する若者たちに話を聞きました。
(社会部 環境省担当記者 岡本基良)
トラウデン直美さん
多数のフォロワーを持つSNSでは、身近な取り組みを紹介しています。
(インスタグラムより)
ファッション業界では、新しい服の半分が一度も着られないまま大量に廃棄されたり、コットンの生産過程で大量の水が使われていたり、環境に負荷をかけていることが問題視されています。
トラウデンさんはファッションショーで再生素材を使った服を紹介し、リメイクやリユースをもっと活用するよう呼びかけるなど、業界全体への働きかけも行っています。
また、2020年6月には、レジ袋の有料化にあわせて「環境省プラごみゼロアンバサダー」にも就任しました。
「私はもともと、不便で面倒くさいことは大嫌いなんです。でも、例えばレジ袋だったらみんな同じ白いポリ袋に入れて持ち歩くよりも、自分のお気に入りのマイバッグを使った方がおしゃれで楽しいですよね。また、ボディソープをせっけんに代えると、詰め替える手間がなくてむしろ便利だと感じています。“環境配慮=我慢“と思われがちですが、環境に配慮していても便利に生きられることを、多くの人たちに気付いてもらいたいです」
ファッションショーでマイバッグを紹介するトラウデンさん
菅総理大臣やノーベル賞受賞者の吉野彰さん、経団連の杉森務副会長などが出席する中、トラウデンさんは若い世代の1人として考えを述べました。
「買い物をする際、店員に『環境に配慮した商品ですか』と尋ねることで、店側の意識も変わっていく」この発言がニュースで取り上げられました。
当時のニュース映像
トラウデンさんが会議で説明したスライド
これに対してSNSでは、「意識高すぎ」「めんどくさい客だ」といった批判の声が相次ぎました。一部のメディアには「トラウデン直美、意識高すぎて炎上!」という見出しのネット記事が掲載されました。
「環境問題について話すと『意識高い系』などと言われてしまう空気感が変わって、もっと自然に話し合える社会になればと思って発言しましたが、違う趣旨で受け取られてしまって残念です。ただ、自分のSNSのアカウントには、励ましのメッセージも数多く寄せられました。声に出さないだけで、共感してくれた人たちも多かったのではないかと思います」
どうすれば環境への配慮を求めるメッセージを、敬遠されずに受け取ってもらえるのか。 トラウデンさんは、環境配慮に対するハードルを下げ、完璧を求めすぎないことが大切なのではないかと考えています。
「100%環境に配慮した生活をしてないと偽善っぽく見えるから、なかなか環境に配慮していると言いづらいのではないでしょうか。でも全くそんなことはなく、1%でも2%でも取り組めばすばらしいと思います。
私は『プラごみゼロアンバサダー』ですけれども、マイバッグが足りなくなった時、お金を払ってレジ袋をもらうこともゼロではありません。私自身100%は無理だと思っているので、1人1人できることから少しずつやろうよ、と呼びかけたいです」
「気候マーチ」に参加する宮﨑さん(前列左から2番目)(2019年)
就職活動でも温暖化対策に積極的な会社を探したところ、創業140年の老舗企業「大川印刷」に出会いました。社長自らが「環境印刷」を経営方針に掲げ、石油を原料に使っていないインクや、適切に管理された森林から生まれた紙の利用、再生可能エネルギーの導入などを積極的に進めています。
「ほかの企業の面接で気候変動問題について思いを話しても、『君の思うようにはいかないんじゃないか』などと言われ続けました。でも、大川印刷では社長も同じ問題意識を持っていることがわかり、共感することができました」
大きな期待を抱いていた宮﨑さんは、新入社員ながら、それぞれが気候変動に対して問題意識を持って行動するよう呼びかけました。しかし初めは、なかなか思うように話を受け入れてもらえなかったといいます。
「自分の問題意識をなかなか理解してくれない先輩社員もいて、直接電話をかけて相手の考えを尋ねてみたこともありました。学生時代は、同じ年代、同じ考えの集まりでしたが、社会人になると親くらいの世代とやりとりするわけです。
そうなると、思いを感情のままぶつけても空振りしてしまう。ただ『プラカード』を掲げていてもダメなんだ、と気づきました」
悩んだ末、宮﨑さんはある行動に出ます。全社員出席の勉強会で「気候変動」をテーマにみずから講演したいと提案したのです。社長や社員の理解も得て、2021年2月、前例のない最年少社員による勉強会が実現しました。
社内勉強会で講演する宮﨑さん
「理想をふりかざしているだけでは、相手は話を聞いてくれない」
そうした反省から、宮崎さんは自分の気持ちを、できるだけ素直に伝えることを心掛けました。
地球温暖化に関心をもったきっかけから、就職活動で感じた社会への不満、そしてスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの言葉に衝撃を受けたことなどを率直に語りました。そして今、社員1人1人が将来の地球環境のことをより意識し、みずから社会に働きかけていくことが大事ではないかと呼びかけました。
勉強会を聞く従業員
勉強会後のアンケートでは、「宮﨑さんの考え方や取り組んできた経緯を聞けて、自分たちにもできる事があると感じられました」「いまの会社の取り組みについて宮﨑さんがどう思っているのか知りたい」といった声が寄せられました。
「自分とは考えが違っても、まずは相手の考えを知り距離を縮めたうえで、自分の思いも理解してもらうことが大事だと思っています。最近『持続可能な社会』『脱炭素』といった言葉をよく聞きますが、どれも主語が大きすぎて身近に感じられないと思います。まずは自分の言葉で思いを語り、周囲の人たちに共感してもらうことから始めつつ、社会全体に向けても危機感を訴え続けていきたいです」
そのカギとして挙げるのが「3.5%」という数字です。
「全国民の『3.5%』が非暴力の抗議活動をすると、必ず社会の大きな変革が起きたという研究結果があります。これは市民運動によって独裁政権を打倒した、といったケースの研究ですが、環境問題についても当てはまるかもしれません。
現状で積極的に活動している人は1%にも満たないように思います。しかし環境を意識して生活している人はもっと多いはずです。この人たちが声を上げれば社会は変わるかもしれません」
江守さんは、少数の活動が広がって社会が変わった例として「分煙化」を挙げます。
もともと日本社会では、オフィスや列車内などでも構わず喫煙が行われていました。受動喫煙の影響を懸念する声などが徐々に広がり、規制や法律が設けられました。東海道新幹線で全席禁煙の列車が走り始めたのは2007年。最近のことなのです。
「『分煙』は社会運動を発端にいつの間にか当たり前になりました。環境に関する運動が成功すれば、近い将来、当たり前に電気自動車を買ったり、自宅の電気契約を再生可能エネルギー由来に切り替えたりしているかもしれません。トラウデンさんや宮﨑さんのような人たちが、まずは身近なところで意識を広げる事例を積み重ねていくことで、社会の大きな変化につながっていくはずです」
“分煙化”は少数の声から規制・法律制定につながった
世界の科学者は、「いまのままでは早ければ2030年には世界の平均気温が1.5度上昇し、異常気象がさらに増加する」と予測しています。これから環境に配慮した行動を始めたい人は、どうすればいいのでしょうか。
「まずアンテナを立ててみることを提案します。例えば、気候や環境に関するニュースをフォローして、世界で起きている事実を知ることから始めてみて下さい。そうすることで、現在の社会の何が問題で、自分がいま何をするべきなのか、おのずと見えてくると思います」
異常気象が増えるなど、地球温暖化の影響は身近にも感じられるようになってきています。環境配慮のアクションの始め方は人それぞれ。
「意識高い系」と敬遠せず、できることから始めてみませんか。
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地球のミライ「インスタグラム」始めました
今回、もっと多くの方にこの問題を知ってもらいたいと思い、インスタグラムのアカウント@nhk_sdgs (※NHKサイトを離れます)を新たに開設しました。
NHKの番組で取り上げた環境やSDGsの情報を、写真やグラフィックでご紹介していきます。
\SDGs “ウェディングケーキ”/
最近よく話題になる「SDGs(持続可能な開発目標)」
「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」など、2030年までの達成が目指される17の目標が設定されています。
こちらの3段重ねの「ウェディングケーキ」のようなイラストは、17の目標がそれぞれどんな関係にあるのか示したものです。
もとの3段の図は、スウェーデンの研究機関「ストックホルム・レジリエンス・センター」の研究者などによって発表されたものです。
よりイメージがわくようにイラストを加えました
イラストを拡大してじっくり見てみてください。
一番下が「環境」、その次が「社会」、
一番上が「経済」に関わる目標になっています。
つまり「環境」がわたしたちの生活の土台・基盤となっていることを意味しています。
プラスチックゴミや食品ロスを減らす工夫などわたしたちにできることを一緒に考えていきましょう!
\未来リナさんと考える地球のミライ🌏/
日本人の父とスペイン人の母をもつモデルの未来リナさん(21)。
10代のときにヴィーガンに興味を持ったのをきっかけに環境やサステナブルな暮らしを 意識するようになったそうです。
⭐マイストロー、⭐再利用可能なラップを使うなど
身近なところから“気負わずに”プラスチックごみを減らす工夫を続けているとのこと。
インスタグラム(@nhk_sdgs)では今後も定期的に、未来リナさんと地球のミライ🌏を考えていきます✨
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【未来リナさんからのメッセージ】
地球は、みんなでシェアしている“たったひとつのHOME”
今の自分にできるベストなことを楽しく実践して、みんなで支え合いながら「地球のミライ」をどんどん明るくしていきましょう!!
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\プラスチックごみからアクセサリー!?/
岐阜県の20代のグループが手作りするプラスチックごみを材料にしたアクセサリー💍 イベントやショップで販売しています。
大事にしているのは「かわいい💛」「すてき✨」を通じて、多くの人に環境問題に関心をもってもらうこと。
最近は各地から声がかかり活動の幅が広がっています。
\のんさん「楽しくサステナブルに」/
もしあなたが「SDGsは難しい」とか「何だかわからない」と感じていたらー
俳優・のんさんも以前は「自分に何ができるの?」と思っていました。
のんさんは手芸が好きで、着なくなった服を自分で作りかえていましたが、ある時服を捨てずに使い続けることは「環境にいい」と知り、「わたしにもできることがあったんだ!」とうれしくなったそうです。
写真のジャケットは長い間着ないまま、のんさんの自宅に眠っていた一着。
袖にギャザーを入れたり、ポケットに刺しゅうをほどこして、魅力的な一着に生まれ変わりました👔
そんなのんさんがとても共感しているというのがSDGsの目標のひとつ「つくる責任 つかう責任」。製品を作る企業も、それを使う消費者も、「持続可能な取り組み」をする責任があるというものです。
のんさんのコメントです↓
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エコバックを持って買い物に行った時、「わたしは地球に貢献しているぞ」って何か得した気持ちになるというか、“うぬぼれ”をすごく感じるんです。
「地球に恩が売れた」みたいな(笑)。そうやって楽しく始めることが突破口になって、みんながサステナブルなことにつながっていけたらいいなと、思っています。
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「頑張らず、できるところから楽しくやる」。これから取り組みたい、ちょっと興味がある方、一緒に楽しく考えていきませんか?
写真:仁科勝介
\廃棄されるはずの野菜がおいしい料理🍳に/
日本の食品ロスの量って1人あたりにすると年間で約48㎏にも及んでいるんです。
この問題をなんとかしたいと立ちあがったのが高知県の大学生、陶山智美さん。
売れ残ったり、形や大きさが規格外という理由で捨てられる予定だった野菜🥬を使って、料理を提供する食堂を営んでいます。 陶山さんの取り組みに賛同した農家は10軒以上にもなったということです。
この春大学を卒業した陶山さん。「地域の人に恩返ししたい」という強い思いから4月からは、“おすそわけ食堂”の経営に 専念することになりました。
\ムダなく食べることが温暖化対策に💡/
世界で大量に廃棄される食料・・・。
食品ロスをなくすために工夫していることはありますか? 実は、ムダなく食べるその工夫は「温暖化対策」にもつながっているんです!その理由をイラストにしてみました🎨
もっと知りたい方は国立環境研究所の三枝信子さんに 監修していただいた詳しい記事もご覧下さい👀
\未来リナさんとクイズでSDGs💡/
リナさんがやってきたのは渋谷にある「NHKプラスクロス」。
環境問題についての企画展「2030 あなたはどうする?」が 行われています。
いま地球でなにが起きているのか?
リナさんが動画でクイズを出題します!
企画展の内容を見たい方は「NHKプラスクロス」のHPで 360°カメラを使ったバーチャル体験もできますよ~!
https://www.nhk.or.jp/plusx/event/2030sdgs/
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プラスチックで覆われた荒川・河川敷 ~ごみ拾いのデータが示すもの~
「海のごみは、海で出たもの」
そんなイメージもあるかもしれませんが、元をたどれば街で出たごみが川を経由し海に流れ着いたものです。都内を流れる荒川には、大量のプラスチックごみが流れ込み、深刻な状況を引き起こしています。 (地球のミライ 取材班 ディレクター 三木健太郎)
埼玉から東京湾へ注ぐ流域人口1,000万人の荒川。ひとたび河原に踏み込んでみると、一面プラスチックごみというショッキングな光景が広がっています。 そのほとんどは、様々な理由で川に流入したごみが、台風などで水かさが増したときに河原に打ち上げられたとみられています。
荒川河口域をすみかにしているトビハゼ(環境省準絶滅危惧種)も、巣の上にレジ袋が被されれば貧酸素状態になってしまう可能性があります。
クロベンケイガニがマイクロプロチックを噛み砕いて食べている姿もたびたび目撃されています。
私たちの暮らしから出たごみが荒川流域の生き物の命を脅かし始めているのです。
こうした現状に危機感を募らせているのが、NPO法人『荒川クリーンエイド・フォーラム』です。クリーンエイドは「clean:きれいにする」+「aid:助ける」という造語、“ごみを拾ってきれいにして自然が回復するのを助ける”をモットーに、1994年から荒川流域のごみ拾い活動を続けています。
その特徴は国土交通省荒川下流河川事務所や沿川の自治体と連携し、365日いつでも活動できる仕組みを整えている点です。市民団体や自治体、企業、学校などと共に活動し、回収したごみを行政が処理する、流域一丸となった活動モデルを構築しています。これまで延べ23万人が参加、2019年には190回のごみ拾い活動を実施し、『現場体験の場』を提供しています。
(荒川クリーンエイド・フォーラム 今村和志 理事/オフィスマネジャー)
取材した2020年10月には、大手水産会社・ニッスイ(日本水産(株))の新人社員が研修としてごみ拾いをしていました。
参加者が特に驚いていたのは、土を少し掘り返すとマイクロプラスチックと土が細かく混ざり合っているという悲惨な状況です。
(ニッスイ 新人社員)
荒川クリーンエイド・フォーラムでは5、6人のグループに分かれ、拾ったごみの種類や数を細かに記録し集計しています。
ごみを減らすにはどうすれば良いかを考える「調べるごみ拾い」と呼んでいます。実はこの手法は、国際的に定められたごみ拾いのルールにのっとったやり方で、その結果は研究者たちも参考とする貴重なデータとなっています。

荒川で回収されたごみ上位20(2019)提供 荒川クリーンエイド・フォーラム2019年のデータを見ると、断トツで多いのがペットボトル、次いで食品のポリ袋、プラスチック容器と続き、食品に関するプラスチックごみが上位を占めています。
私たちのライフスタイルを映し出す鏡とも言えます。
しかし研究者の試算によると、ペットボトル1つ拾うだけで1平方キロメートルに散乱するマイクロプラスチックを回収したことになり、レジ袋1枚拾うだけで数千個から数万個のマイクロプラスチックの流入を抑えたことになるといいます。
あなたの行動ひとつが海へプラスチックが流出する前の砦(とりで)となり、一匹でも多くの生き物の命を救う可能性があるのです。まずは近くの川へ足を運んでみて1つでもプラスチックごみを拾ってみてはいかがでしょうか?ごみと共にプラスチック汚染の問題について考えるきっかけを拾うことにつながるかもしれません。
続きを読む
あなたの知らない プラスチックごみの行方
先進国で出たプラスチックごみは、自国内では処理しきれず、世界中に流通しています。かつては世界のおよそ50%を中国が引き受けていましたが、環境悪化を理由に2018年に受け入れを禁止しました。今は、その役割を東南アジアが担い、マレーシアは世界有数のプラスチックごみの輸入国となりました。
国は規制を強化していますが、「リサイクルがコストに合わない」と判断した業者が敷地内に放置し、火災につながるケースが後を絶ちません。
「学校に行って5分も経たないうちに目が赤くなり、鼻血も出ます」 症状から、近所の煙によるアレルギーと診断されました。
「2019年の3月頃から、呼吸の不調を訴える人が15%増えました。マレーシアは外国からのあらゆる種類のごみ捨て場になってしまいました。自分たちのごみは自国で処理するべきであり、マレーシアにごみを持ち込んで欲しくはありません。」
日本も毎年およそ100万トンのプラスチックごみを輸出しています。分別して適切に捨てたはずのごみが、地球のどこかで悪影響を及ぼしている可能性があるのです。大量生産、大量消費の便利さを享受する社会システムのしわよせが、こうした場所で起きているのです。
インドネシア・バリ島にすむメラティ・ワイゼンさん(20歳)は、12歳の頃に海岸に散乱するプラスチックごみに衝撃を受けました。心を痛めたメラティさんは、2つ下の妹・イザベルさんとともに、「なにか行動を起こさなくては」と決意しました。
ワイゼンさんが調べると、バリ島では、毎日、14階建のビル1棟分のプラスチックごみが排出されていました。まずは、このごみをなくすことができないかと考えましたが、2人の思いだけで、世の中が動くとは到底思えません。
そこでワイゼンさんは「仲間作り」を始めることにしました。注目したのは教育です。小冊子を作り、学校や地域のコミュニティーでワークショップやごみ拾い活動を始めました。
プラスチックごみ問題を描いたカラフルな絵本を作成
地元、バリ島でも「プラスチックのレジ袋」禁止に賛成する署名は10万人にのぼります。活動を始めて6年。バリ島では袋だけではなく、ストロー、カップや食品容器などの発泡スチロール製品を含む、使い捨てプラスチック製品が禁止されました。
活動開始当初、「プラを使わない生活なんて」と考えていた人たちが「プラを使わなくても全然大丈夫」という意識変化を起こしたことを目のあたりにして、メラティさんは、手応えを感じています。
「子どもの人口は世界の25%ですが、未来の可能性の100%を握っています。それは、私達の行動を伴ってすでに始まっているのです。」
「私達の世代には緊迫感があり、大人になるまで待っている時間はありません。若者は皆、変化を加速させる力を持っている、そう信じています。」
2/28放送のNHKスペシャル 2030 未来への分岐点 (3)「プラスチック汚染の脅威 大量消費社会の限界」でこの問題を考えます☟

今起きているプラスチック問題☟
「胃袋から276 個のプラスチック片が…世界遺産の島で何が」
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「常田大希 破壊と構築」 ドキュメンタリー ダイジェスト 保存版
また、NHKスペシャル シリーズ「2030 未来への分岐点」は、第3回 プラスチック汚染の脅威 大量消費社会の限界がNHK総合で2月28日(日) 夜9時から放送予定で、番組内で「2992」がどう使われているのか注目されます。
3月5日(金)夜11時15分からは、BSプレミアムで常田さんのドキュメンタリーの拡大版(89分)も放送予定で、鋭意制作中です。今回は、放送したドキュメンタリーの内容をテキスト化しました。
(ディレクター 高橋 隼人)
いま、音楽シーンを席けんする男のプライベートスタジオ。曲づくりの現場に初めてカメラが入ることが許された。
若者から絶大な支持を集め、またたく間に頂点に上り詰めた。男の名は常田大希(つねた・だいき)、28歳。 日本を代表するロックバンド King Gnu(キング・ヌー)を率い、その楽曲制作すべてを担っている。「白日」 はストリーミング回数、3億を超える大ヒットとなった。
惜しげもなくカメラにさらした創作の一部始終…。
音楽の深き森に分け入り、答えとなる音を探し続けていた。
東京藝術大学に収まり切らなかった異才(器楽科チェロ専攻 中退)。チェロやドラムなど10以上の楽器を操り、音をくみ上げていく。クラシックの要素も大胆に取り入れる。生み出されるのは、誰も聞いたことのない世界。
「今までをどう変えていくかという魅力を芸術に感じていたので。破壊と構築を繰り返していくじゃないけど」
クリエイターの仲間とともに、常田の世界は映像にも広がる。新境地を切り拓く新たなプロジェクト millennium parade(ミレニアム・パレード)。常田の限界を、まだ、誰も知らない。
SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2020 BEST CREATIVE PARSON
PEN クリエイター・アワード2020
「クリエイティブ暴走族みたいなもんですよ。あと優しいよ」
常田:
「優しいを売りにはしたくないよね(笑)」
3か月に及んだ完全密着。私たちはある楽曲の制作過程をつぶさに追った。
そのタイトルは 「2992」(にきゅう きゅうに)。
「それが2992年に残ってたら面白いっすよね。その作品が。頑張んないと」
はるか地球の未来に、常田は何を投影したのか…。
「いろんな人たちがいて、いろんな価値観があってというものを肯定できる作品というか」
完成を目前にしてもなお…。
「一回きれいなものができあがったから、壊し出さないと」
常田:
「まだできる、まだできるの連続で、何をそんなに焦っているのか」
終わることのない破壊と構築の繰り返し。その日々を、追った。
撮影が始まったのは、 2020年9月。
常田が都内のスタジオに到着した。
この日はmillennium paradeのレコーディングだった。millennium paradeは新たな音楽的挑戦として、常田が同世代のミュージシャンと2019年に立ち上げた。
テレビカメラを連れてきた常田に「すごい密着感あるじゃん」と声をかけたのは、ピアノ・シンセサイザーを担当する江﨑文武、28歳(WONK/millennium parade)。東京藝術大学の同級生だ。
メンバーはそれぞれが独自に音楽活動をする多彩な顔ぶれだ。
ベースを担当するのは、新井和輝、28歳(King Gnu/millennium parade)。10代からジャズ・ファンクシーンで活動してきた。新井が常田の横で曲に合わせてベースを弾き始める。
「おもろいけどね」
新井:
「最後のフィル(フィル・イン=即興のアレンジ)はああいうのがはまりそう」
江﨑:
「うん。模範的だよね。ラシドレミソミって」
常田:
「これキープしよう」
新井:
「もう一回いきます」
再び、新井がベースを弾く。ふつう、プロデューサーが入り指揮をとるが、ここにはいない。常田がすべての判断を下している。
常田:
「そんなにないよね」
江﨑:
「大希は、最終判断は自分で握っているけど、それぞれのプレイヤーの良さを引き出すタイプの作り手かな」
新井:
「特に今のこのセクションはその極みですね。他の現場でこんなにベースを弾くことはまずないくらい」
常田:
「(millennium paradeは)そういう意味ではミュージシャン勢が本当に羽ばたけるプロジェクト」
江﨑:
「攻めの表現をやれる場所っていう感じだよね」
9月22日。
この日はKing Gnuの新曲「千両役者」のレコーディングだ。ドラムとベースのレコーディングの様子をモニター越しに見ながら常田が意気込みを語る。
「なんせKing Gnuが今年初リリースなんで。
(ファンに)待たれている感をビンビン背中に感じるから。もうちょうどツアーのタイミングでどんぴしゃでコロナ始まっちゃったから。
明けてからが楽しみですね。秋のツアーたぶんやる予定ではあるんですけど」
視線の先にいるのはレコーディング中のドラム担当、勢喜遊、28歳(King Gnu/millennium parade)。
「髪型に合わせてプレースタイルも渋くなってる」
半年ぶりにレコーディングを再開したばかりだった。録り終えてブースから出てきた勢喜に常田が声をかける。
「(髪)いつ切ったの?」
勢喜:
「昨日くらい」
マネージャー:
「前髪の高さとか絶妙だよね」
勢喜:
「前髪だけちょっと長い。下ろしたらめっちゃきもいよ。耳にかけたら普通になるのよ」(一同爆笑)
マネージャー:
「普通ではない」
イスに座った常田がパソコンを取り出し、文字を打ち始めた。
常田:
「いまダーッと韻を踏む言葉を書き出している。言葉をマシンガンのようにはめているから文字をいくら出してもなかなか終わらない」
レコーディング中のこの曲の歌詞を、まだ書き終えていなかった。
「なかなか1サビはいい感じになっちゃったから。
“生への渇望”と“生きるきらめき”みたいなテーマですかね。
照れてきた(笑)。おおよそそんな感じで。すごい恥ずかしい」
サビの最後のフレーズについて語り始めた。
パソコン画面には「ただ生きるための 抗体を頂戴」と表示されている。
「“抗体を頂戴”と。早く抗体を作ってくれないと俺らも大変なんで、科学者の人たちに頑張ってほしいですね、ほんとに。
俺たち何もできないんでね。っていう切実な歌詞ですね」
常田が気にかけていることがあった。スタッフに問いかける。
「最近どうなんですか?(新型コロナの影響が)緩和されてきたイメージは」
スタッフ:
「緩和されてきたイメージはある。ただツアーでたくさん(チケットの)本数を切るっていうのはすごいリスクある。チケット売って(ツアー)一本目でコロナが出たりスタッフが感染しても…」
常田はテレビカメラのほうに向き直り、「という意味でも“抗体を頂戴”っていう、切実な曲が出来上がりましたね」と笑った。
レコーディングを終えてスタジオを出る常田。
駐車場で「こっち乗って行きます?」とテレビクルーを誘った。
「夏が終わってきましたね」
常田が運転席でそうつぶやいた。
「最初20歳くらいで車買って維持費が高いってなって、車検のタイミングで手放しました。なんとも言えない。金稼ぎてぇみたいな」
常田の愛車は70年代の国産車だ。
「メシ食います?あんまり高くなさそうなところがいいな」
焼き肉店に入った常田。好きな食べ物は卵かけご飯らしい。
「いただきます」とさっそく豪快にかきこんだ。
「箸の持ち方も俺やばいし、一切マナーの教育受けてない」
―あまり家は厳しくなかったですか?
常田:
「全然厳しくない。米津玄師のレコーディング現場でみんなで弁当食ってたんですけど、米津が『文明で育ってきたのか』って驚愕していたくらい。
食べ方がきたないって言われて以来、気を付けていますね。箸の持ち方も練習して」
この夜、帰ったのは自宅ではなくプライベートスタジオだった。歌詞の続きをここでまた考える。1人、アコースティックギターを弾きながら口ずさみ続けていた。
9月26日。
King Gnuの「千両役者」のボーカルレコーディングの日。常田は歌詞を仕上げてきた。 ブースで歌うのは、井口理、27歳(King Gnu)。
「一世一代の大舞台…」と早いテンポで言葉を畳みかける。
一連のフレーズを歌い終わると、井口が声を上げた。
するとブースの外で聴いていた新井がリズムを取る。
言葉と音のタイミングをずらしてブレスを取れるように歌ってみせる。
常田も「いいね」と復唱する。歌い直す井口。
チームワークでレコーディングが進んでいく。
休憩中のことだった。マネージャーからツアーを縮小して開催するという話があった。
「(全国ツアー)縮小してやります」
常田:
「なんで?やばくなってるの?」
マネ:
「やばくなってないけど色んなリスク含めて」
マネ:
「(集客は)4万人くらい。元々は10万人くらい」
井口:
「半分か」
常田:
「半分以下だ。うわ、やば。残念やな、普通に」
話し合いが終わったあと、別室で常田に気持ちを聞く。
「いや残念だよね、普通に。ことし本来イケイケだったから。とはいえ、できることをやるだけです。
コロナがみんなの時間の感じ方をすごく変えていますよね。
冷凍保存されているじゃないけど、2020年が来年もう一回来ても、たぶん違和感ないというか。そっちの方がしっくりくるというか。
(冷凍保存された時間を)力ずくで動かすためにこういう曲を作って世間に出すっていう作業を本能的にやっている。どうにか動かそうとしていますね」
常田がブースに入って歌う。
「もう一回」と常田。
「生涯をただ生きるための抗体を頂戴」
「あ、もう一回もう一回」
納得いくまで同じフレーズを繰り返す。
常田の原点となった場所があるという。
生まれ故郷・長野から18歳で上京し、7年間、祖母と暮らしていた家だ。祖母はすでに他界し、3年前から空き家になっている。常田が家の中を案内してくれた。
部屋の隅に置かれていた風景画とスケッチブックを手に取る。
変わったおばあちゃん。俺に一番近いかな家系的には」
続いて和室に入る。
アルバムを見つけた。
これ、ばあちゃんだ」
両親がともにピアノを弾き、自然と楽器を覚えた常田。
音楽を突き詰めて学ぼうと東京藝術大学に進学。
世界的指揮者、小澤征爾のオーケストラにも参加。そこが大きな転機となった。
「そこでの感動は今も痛烈に残っていますね。
ホールの鳴り、お客さんの感じ、指揮者の表情、鳴っている音、自分の美しいと思う基準の幹になっている感じはありますね。
でも、今までをどう変えていくかとかという魅力を芸術に感じていたので。
破壊と構築を繰り返していくじゃないけど」
大学は1年で辞めることにした。常田が使っていた部屋の天井には…。
この部屋で破壊と構築を繰り返し自らの音を探し始めた。当時、レコード会社に送ったデモ音源が残されている。19歳の常田が作ったものだ。
当時、この音源を聴いたレコード会社の新人発掘担当(当時)、田口実はこう振り返る。
「牙をむいているサウンドだな。純粋な10代最後の叫び。
でも、その才能がどうやればビジネスになるかっていう、ひも解きがやっぱり難しくて」
常田は自身の将来をどう考えていたのか。
「音楽の歴史とすごい向き合って楽器と向き合って、何でこんなに世の中に必要とされてないんだって。
アーティストとしてのプライドもあるから別にそこ(音楽業界)にウケるものがアーティストとして優れていると思ったことは一度もないし、やっぱり音楽には嘘はつけないと思って生きているわけですよ。
だからこそ勝ち取らなきゃいけないものがあるというか、評価されないといけないものがある」
妥協の音楽は作りたくない。だからこそ自らの音楽を認めさせたい。
曲を作っては自らミュージックビデオも制作、地道に配信を続けた。
そして2019年。King Gnuでメジャーデビューをつかむと、常田は人々を熱狂の渦へと巻き込んだ。
2020年、常田はひとつの夢に挑んでいた。オーケストラと現代の音楽を融合させる楽曲制作だ。それはまさに常田の28年の歩み、そのもの。
かつてmillennium paradeで作った「DURA」(デュラ)という曲を一からつくり直す。
「いい感じで聞いたことないようなバランスになったら面白いんですけど。
美しいものも汚いものも全部入れたい。それが人生だし。
土臭くもあり美しくもあるものになったらいいですね」
常田がプライベートスタジオでアレンジを行う様子を定点カメラで撮影した。
まず、ピアノでアレンジを始めた常田。しばらくすると今度はチェロを取り出す。
このようにオーケストラの楽器を次々と組み込んでいく。
常田の原体験となった「美しさ」を表現するためだ。
チェロを置く。今度は曲に合わせてベース音を口ずさむ。30分後。
エレキベースを手に取り、オーケストラとは異質のサウンドを探る。
ロックやファンクっぽいものを試してみるが…。
リズムを取りながらスタジオをうろうろしたり、鍵盤を弾いたり…。
再びエレキベースを手に取っては、「おおこれだ」と「いらねえか」の繰り返し。
試行錯誤を続けるさなか、常田はふと隣の部屋にむかった。
そこでは男たちが議論を交わしていた。
彼らはPERIMETRON(ペリメトロン)というクリエイター集団。常田を中心にした10人からなり、2016年から本格始動した。「Fly with me」や「lost and found」に代表されるように、常田は音楽を、彼らはその映像を一緒に作ってきた。
ミュージックビデオの衣装の構想を常田に見せるのは、映像作家のOSRIN(オスリン)。
(和装の写真を示して)「こういう格好もありだな」
常田:
「ああ、すごい(イメージが)浮かぶね。“三文小説”っぽいし」
彼らは、駆け出しの頃からともに歩み、常田の支えになってきた存在だ。
「King Gnuの最初のころなんてファミレスとかで編集してたからね」
オスリン:
「ファミレスで編集してた。朝5時までやって終わらなくて、その後近くの漫喫(漫画喫茶)に行って」
常田:
「そうそう地獄やマジ」
オスリン:
「で、ファミレスに戻るみたいな。ファミレスが開いて」
常田:
「それ考えたらすげえ俺たち頑張ってきたな」
オスリン:
「まじ頑張ったよな。ずっとエビとトマトのスパゲッティを大希は食ってたから」
そしてまた、創作に戻る。
King Gnu「三文小説」のミュージックビデオの撮影が行われたこの日。撮影を終えた深夜3時、常田が思わぬことを話し始めた。
「明日は何にせよ大事ですからね。
「DURA」、「2992」ってタイトルに変わったんですけど。
要は1992年生まれがミレニアム・パレードしていったら千年後だから「2992」っていうタイトル。
規模がでかい話になっちゃいました。音楽もけっこう規模でかいんで。それが2992年に残っていたら面白いですよね。頑張んないと」
こうして、曲のタイトルは「2992」と決まった。
10月12日。
常田の合図で「2992」の音のバランスを整える作業が始まった。
ここから、さらに楽器ごとにアレンジを加えるという。ところが…。
一度レコーディングした音を差し替えようと言い出した。パソコンで打楽器の音を探る。
「これとかいいんじゃない」とエンジニアにUSBを渡す。
常田:
「トラック何個あるの?」
エンジニア:
「150くらい」
―このくらいのトラック数って当たり前なんですか?
常田:
「全然当たり前じゃないでしょ」
エンジニア:
「当たり前じゃないですね。なかなかないですね」
10月22日。
最終形が見えないまま迎えた「2992」のボーカルの収録日。
やってきたのは、ボーカルを担当するermhoi(エルムホイ)、28歳(Black Boboi/ millennium parade)。
「ここの言葉足りていない感」
エルムホイ:
「ここに『all』 足してるんだよ」
作詞を担当したermhoiと直前まで歌詞を考え続ける。
「俺たち1992年生まれだし、ちょうど千年後ってことで」
エルムホイ:
「私たちが1000歳になってたらくらいの感覚で、その時に生きている人に今こういうことを考えてますみたいな感じの(歌詞)」
混とんとした現代から、千年後の未来へ。音と言葉を紡いでいく。
ブースで歌詞の序盤を歌ってみたermhoiがマイク越しに常田に問いかける。
常田:「むずいよね」
ブースから出てきたermhoi。ソファにもたれる。常田も何とも言えない表情。
「もうすでにサウンズグッドではあるけどね。お行儀よすぎる気がする。
オケ(オーケストラ)のちょっとよくできた感じとかも」
エルムホイ:
「きれいなね。ポップスオーケストラアレンジの爽やかな感じ。
空気によどみがない」
常田:
「もっと汚したい。まだまだ長そうですよ、今日は。(夜の)12時までには終わりたいですね」
11月4日。
迎えた「2992」のミックスチェック。いわば完成前の仕上げ段階…。
聴き終わった常田がエンジニアに提案する。
ここに来てもなお、音を差し替えるという。しかも使う音は、花火。
常田:
「そう、ドラムのスネアを」
(花火の音「ドーン」)
常田:
「おおー。(ドラムの)フットも探そうよ。やべえ作業始まったっぽい」
(打ち上げ花火の音)
常田:
「イントロでピューン使いたいからピューンもいいのがほしいね」
深夜1時30分。
エンジニアがシンセベースを持ってきた。ここからさらに作っては壊し、究極の音楽を探し続ける。常田大希の創作に、終わりはない。
そして1ヶ月後。「2992」は完成した。
NHKスペシャル 「2030 未来への分岐点」テーマ音楽「2992」
millennium parade
曲 常田大希 詞 ermhoi
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《「2992」がテーマ音楽の番組を見る》
NHKスペシャル シリーズ「2030 未来への分岐点」
▼第3回「プラスチック汚染の脅威 大量消費社会の限界」
【放送予定】2月28日(日)[総合]後9:00~9:50
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胃袋から276 個のプラスチック片が…世界遺産の島で何が
オーストラリアとニュージーランドの間にある、小さな島、ロード・ハウ島。澄んだ空気は鳥のさえずりで満たされ、緑豊かな自然、そして、透明度の高い海が広がっています。世界遺産にも選ばれ、人気の観光スポットですが住民は350人、許可されている訪問者は常時わずか400人と、往来する人を制限し、自然環境の保護にも力を入れている場所です。
実はこの島で子育てをすることで知られる『アカアシミズナギドリ』が、プラスチックの脅威にさらされていることがわかってきました。
タスマニア大学のジェニファー・レイバース博士が調べたところ、胃袋に、プラスチック片がぎっしり詰まっているひなが続出。15年の調査で調べたひなから明らかになった数は、最大で1羽当たり276個。体重の15%を占める(体重60㎏の人で9㎏に相当)量に上っていました。
親鳥が、海に浮かぶプラスチック片をイカや魚などのエサと勘違いし、ひなに与え続けてしまったことによるものです。さらに、血液を分析したところ、カルシウム濃度が低下していました。カルシウムは卵の殻をつくる成分でもあり、将来、繁殖時にたまごが割れやすく、うまく育たない可能性があります。
こうしたプラスチックは、世界中で廃棄されたゴミが長い年月をかけて、徐々に砕けて小さな破片となったものが海を漂いつづけているものです。プラスチックは環境の影響を受けにくい極めて安定した性質を持つため、こうしたプラスチックが消えることはありません。 いま世界中の研究者たちが、生態系への影響を懸念しています。
「この5年で、海鳥の体内のプラスチック量は増加している。彼らは非常に重要なメッセージを伝えている。それに耳を傾けるかどうかは私たち次第です。」
軽くて丈夫で、あらゆる形に加工できる上に、安い。
プラスチックは1950年代に使用されるようになって以来、瞬く間に私たちの生活に浸透しました。2015年の推計値では、4億トンのプラスチックが使用されたと考えられています。
そのほとんどが使い捨てで、リサイクルされるのは全体の9%。焼却処理されるのは12%です。実は廃棄されたプラスチックのおよそ8割は、埋め立てなど「ごみ」のまま地球上に積み上がっています。その一部が海へ流れ出続けています。
トロント大学のロシュマン博士の推計によると、その量は2020年で年間3000万トンに達しており、一人当たり年間約4kgのプラスチックごみを海に捨てていることになるのです。
SDGsでは「14 海の豊かさを守ろう」という目標の中で、海洋プラスチックの問題が取りあげられています。日本でも2020年7月に、プラスチック製の買い物袋が有料化されるなど、「ごみに繋がるプラスチック量を抑制」する動きが始まっています。
その一方で産業界では、根本的な解決策を模索する取り組みが活発化しています。「すでにあるプラスチックを循環させていく」という挑戦です。
2019年8月、フランスで「ファッションパクト」というファッション協定が結ばれました。アディダスや、ナイキ、H&M、シャネル、アルマーニ、プラダ、フェラガモなど、32グループが参加を表明。今では66グループ200以上に増えています。『気候変動』『生物多様性』『海洋』の3分野で、実践的な目標を協力して達成するとしました。
そうした企業が続々と採用を決めている素材があります。漁網や使い古したカーペットなどの廃棄物から作る「再生ナイロン(ECONYL)」です。
イタリアのアクアフィル社が開発したもので、加工の過程で使う溶剤も無害とされるものを選び、使用後に何度でも素材に戻せることから、「素材循環」のモデルの一つになると、考えられています。
今回のファッションパクトを牽引する、ケリングのブランドでも、すでに商品化を進めています。こうした取り組みは、イメージ戦略としても今後重要になると考えています。
「天然資源の枯渇の観点からもサステナビリティーの考えは必須で、企業の発展にも不可欠です。若い世代は特に環境問題に敏感ですから、その需要に応えることも必要です」
自社製品を「廃棄」するのではなく「もう一度再利用する」動きは、他の産業にも広がっています。家具やインテリア製品で知られるIKEAもそのひとつ。IKEAでは2030年までにプラスチックを含むすべての材料で、リサイクルまたは再生可能な素材へ100%切り替えることを目指しています。
現在は再生可能な素材がおよそ6割、リサイクル率1割と言うので、かなり野心的です。この目標を達成するために「サーキュラー(循環)チーム」と呼ばれるコアグループが既存の1万以上の製品について一つ一つサーキュラー度を検討し、改善を始めています。
サーキュラーチームの4つの視点です。
②耐久性の向上&製品の規格化
③中古家具のレンタル・売買など、製品を循環させ続ける
④他企業との連携し、社会システムとして達成する
例えば、家具は、痛みやすいところがある程度決まっています。回収して、使用できるものをもう一度使えば、新規の材料は大幅に減らせることになります。その他、クッションやカーテンなどは、材料をペットボトルを原料とした再生素材にしたり、子供用の食器は環境負荷の少ないトウモロコシやサトウキビなどを原料にしたり、製品そのものの規格をあらかじめ別の製品とそろえることで、再利用しやすくするなど、製品の設計から見直す作業が続けられています。
「事業を完全な『循環型』に転向するのは、野心的かもしれません。しかし、それは、事業を発展させることにつながると考えています。」
2/28放送のNHKスペシャル 2030 未来への分岐点 (3)「プラスチック汚染の脅威 大量消費社会の限界」でこの問題を考えます☟

プラスチックの問題を『自分事として』考える☟
「海が好きな高校生が挑む プラスチックごみ問題」
「バナナの葉でプラスチックごみ削減!?」
「世界中の海からプラスチックをなくす」
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地球温暖化なのに なぜ寒波?
SNSの投稿より
今年は寒波や大雪の被害を伝えるニュースも目立ち「地球は本当に温暖化しているの?」と思う方も多いかもしれません。 『大雪が降る』『寒波が来る』 ということは、『温暖化していない』ことを意味するのでしょうか?その疑問を解消するため専門家に取材しました。
(「地球のミライ」 取材班 ディレクター 山下健太郎/捧 詠一)
東京大学先端科学技術研究センター 中村尚教授
100年以上にわたる長期的な観測の積み重ねによって「着実に温暖化し続けている」ことがわかってきました。とくにここ30年ほどは顕著です。
海面水温も上がり続けている。例年より気温が下がったり、降雪量が増える年はありますが、それは「自然のゆらぎ」の範囲内。数十年、数百年単位でデータを解析することで、真実が見えてくるのです。
気象庁のサイトを見てみると「世界の年平均気温(陸上のみ)」というページに、1880年の統計開始以降の気温の変化がグラフとして記されています。それによると、変動を繰り返しながら100年あたり0.96度の割合で上昇を続けています。
一時的に"寒冷化“したように感じても、長期観測データは温暖化の傾向を明示しています。
気象庁のサイトより
北日本から西日本の日本海側を中心にしばしば大雪となり、19地点で72時間の降雪量が過去最高を記録しました。1月上旬の平均気温は北日本で36年ぶり、西日本で35年ぶりの低温を観測しています。
厳しい寒さをもたらした要因としては「2つのジェット気流の蛇行」が考えられます。
『寒帯前線ジェット気流』と『亜熱帯ジェット気流』がともに日本付近で南に蛇行し、寒気が流れ込みやすくなりました。また『寒帯前線ジェット気流』の蛇行とともに、北極域に存在していた『極渦(きょくうず)』が分裂して南下したことで、日本の上空に極渦および周辺の強い寒気が流入しました。
その結果、”驚くべき寒さ“がもたらされたと考えられています。
(※詳しくは、気象庁発表資料をご覧下さい)
気象庁報道発表資料より
サハラ砂漠でも、1月に異例の降雪が観測されましたが、これも”寒冷化“ではなく、今年特有の理由があったといいます。
サハラ砂漠に雪 世界中で驚きの声が
当時の天気図から察すると、ヨーロッパの東に強い寒気がやってきて、さらに偏西風が異常に南下してきました。その影響で寒気がイタリアの上空を通ってアフリカ北部に到達し、雪を降らせたようです。これも自然変動です。いくつかの気象条件が重なれば、例年雪が降らない場所でも、雪が降る可能性はゼロではないわけです。
つづいて話を伺ったのは、温暖化が大雨や大雪に与える影響について、コンピューターシミュレーションを活用して研究している、気象庁気象研究所の川瀬宏明主任研究官です。
「『温暖化すると雪は減るだろう』と思っている方もいるかもしれませんが、そう単純には言えない複雑さがあります」
気象庁気象研究所の研究では、このまま温暖化が進むと今世紀末の⽇本では、全体の降雪量が減るとともに、雪が降る期間も短くなると考えられています。ところが⼀部の地域では、むしろ局地的に集中して降る“ドカ雪”が増えるという予測もあるそうです。なぜでしょうか?
温暖化によって海⾯⽔温が上昇すると「日本海が出す⽔蒸気量」が増加します。また気温が上昇すると「⼤気が取り込める⽔蒸気量」が増えることになります。日本海から出た水蒸気は、大陸から吹く北西の風に乗って日本列島に運ばれてきます。
冬場の気温が低い北陸地方の山沿いや北海道の内陸部などでは、温暖化によって増えた⽔蒸気が雪として降るため、強い寒気が流れ込んだ際に降る極端な⼤雪がかえって増えるというのです。
川瀬さんは、こうした温暖化による影響が、すでにこの冬の降雪にも現れている可能性があるとして、スーパーコンピューターを使った検証を始める予定です。
「地球温暖化というと夏の暑さや豪雨・台風のことに目を向けがちですが、冬の気候にも大きな影響をもたらすのです。」
WMO(世界気象機関)は、2020年の世界の平均気温が観測史上2番目に高かったと発表しました。去年1年間の世界の平均気温は14.9度で、産業革命前の水準と比べておよそ1.2度上昇していることがわかっています。
国連は「地球温暖化の深刻な被害を防ぐために、平均気温の上昇を1.5 度以内に抑える必要がある」と呼びかけていますが、すでに目標達成は危機的状況にあるのです 。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の評価報告書が示しているのは、温暖化の未来予測のシナリオです。一番の不確実性は「人類が気候変動にどう対処するか」。それが読めないので、報告書はいくつものシナリオを用意しているわけです。ここから先は、我々がどうするかにかかっています。
どうすれば、危機を回避できるのか。すでに具体的な動きが各地で始まっています。
札幌市では昨年の11月と12月に「気候市民会議さっぽろ2020」と題して、10代から70代までの市民20人による会議を4回にわたり開催しました。
このまま温暖化が進めば、北海道独自の文化やまちづくりにも大きな影響を及ぼします。降雪量が減ると「雪まつり」開催の断念・スキー場の閉鎖などにもつながる可能性があり、市民にとっても大きな関心事となっています。
会議では各分野の専門家に最新の温暖化の状況や対策について話をしてもらい、多様な背景や意見を持つ市民同士が、計16時間にわたりじっくりと議論を重ねました。その結果を札幌市における気候変動対策やまちづくりの議論に活用していきます。
オンラインで開かれた「気候市民会議さっぽろ2020」
こうした気候市民会議は、フランスやイギリスを始めとした欧州の国や自治体で、2019年頃から広く行われるようになっています。
国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多副センター長は、政府が昨年10月に「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」方針を表明したことで、温暖化対策への考え方が劇的に変わったと感じています。
(国立環境研究所 地球環境研究センター 江守正多 副センター長)
「菅首相が具体的な数値目標を打ち出しました。その結果、産業界が大きな変革を始めています。私たち一人一人も、「できること」(☞わたしたちができる5つのこと )をするだけでなく、『脱炭素化した未来はこうなってほしい』という具体的なイメージをしっかり抱いて、そのミライを実現するために議論や行動を重ねていく「やるべきことを実行する」フェーズに入ったといえます」
脱炭素化した未来を想像するために☟
持続可能な社会 2050年の未来予想図
地球温暖化で何が起こっているかを知る☟
明らかになる『地球温暖化と“異常気象”の関係』
『モリウイルス』『メタンガス』 永久凍土が溶けて起きること
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『環境クイズ王』決定戦! 未来をになう若者たちが真剣勝負
突然ですがクイズです!
【問題】
地球上で1分間に失われる森林の面積は、サッカーコート50面分よりも大きい? 小さい?
どうです、わかりますか?
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正解は…『小さい』
つづいて第2問!
【問題】
ひと冬で日本全国に降る雪の量は、温暖化の影響で増える? 減る?
いかがでしょうか?
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↓
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↓
↓
↓
↓
正解は…『減る』
しかしその一方で「“ドカ雪”は増える」という予測もあるんです。温暖化で海面の温度が上昇すると、大気中の水蒸気量が増加します。その大量の水蒸気が上空で冷やされるため、短期間に降る⼤雪はかえって増えるというのです。
先日も日本海側で記録的な大雪となりましたが、やはり海水温の高さが原因のひとつと見られています。
スタジオにはMCの田村淳さんのほか、平祐奈さん、ファーストサマーウイカさんが出演し、さらにクイズのゲスト出題者として、ローラさん、森七菜さん、人気YouTuberのフィッシャーズなどの豪華メンバーが登場します。
今回出題するクイズは「QuizKnock(クイズノック)」の手によるものです。「QiuzKnock」は”クイズ王”として知られる伊沢拓司さんを中心とした東大発の知識集団で、ハイレベルなクイズ制作に定評があります。今回のクイズ制作にかけた時間はなんと10時間以上。同世代の解答者を悩ませる、数々の難問をお楽しみに!
実は、クイズ大会の参加者は、環境問題やSDGsなどに高い関心を持ち、日頃から学生団体などで積極的に活動している若者たちです。しかし「温暖化対策が重要!」と訴えても、なかなか周囲の人に伝わらず歯がゆい思いをしていました。
そこで今回、クイズ大会というエンターテインメントを通じて、より多くの人が環境問題を考えるきっかけにしてほしいと、およそ100人もの若者が番組に協力してくれたのです。
その中からほんの一部ですが、参加者の熱い思いをご紹介します。
松田響生さんは現役の東大生。「国際資源・エネルギー会議」という学生団体の代表を務めています。資源やエネルギー問題について議論し『持続可能な社会』の実現をめざす活動をしています。
「日頃から、団体の活動を通して気候変動やエネルギーについて学んでいることもあり、『自分の知識がどこまで通用するか試したい』という気持ちで大会に参加することを決めました。」
強い意気込みの一方で、松田さんはこんな悩みも…
「気候変動などの問題に向き合う人があまり周りにいないので、"意識高い"というレッテルを貼られないよう、そういった話題を口にすることを控えてきました。この番組への参加案内メールをもらった時に『同じ問題に向き合う若者が、全国にたくさんいるんだ』とうれしくなりました。番組参加をきっかけに、同世代とつながり連携していきたいと思っています。」
関西学院大学4年の北川美乃里さんは、SDGsの認知向上を目指す学生団体「KAKEHASHI」に所属しています。自分たちの活動を理解してもらうために、いつも試行錯誤しています。
「『社会のために』『地球のために』と声高に言っても関心を持っていない人には響きにくいと感じています。インスタで情報発信をするときも、『服×環境』などの身近な話題を、おしゃれなイラストや柔らかい表現を使って、”意識が高い”と敬遠されないように工夫しています。」
北川さんは番組への参加を通じて「もっと活動に自信を持ちたい」と話します。所属している学生団体は発足して1年足らずと歴史が浅く、知識やノウハウを学んでいる途中。昨年11月には、アフリカ・モザンビークへの農業支援を行うクラウドファンディングを実施しましたが、目標金額に届かず悔しい思いをしました。
「まだまだ自分は未熟だということを痛感しました。番組で同じ志をもつ仲間から刺激を受けるとともに、ほかの団体のノウハウも吸収し、自分たちの活動にもっと自信を持ちたい。大きな転機にしたいです。」
琉球大学エコロジカル・キャンパス学生委員会の大城悠生さんは、海岸でのゴミ拾いなどを通じて、環境問題の解決を目指す活動を続けてきました。
しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、メンバーが集まることが難しくなったり、県外の団体との交流も行えなくなるなど、大きな危機感を感じています。
「もともと私たちの委員会は学内の知名度がなかったので、、活動規模が縮小すると誰にも気づいてもらえないんです。だから新メンバーも入らず人員不足に陥っています。このままでは本当にヤバい。何か打開策はないかと悩んでいたんです…」
そんな時に舞い込んできたのが、番組からの『参加依頼メール』。千載一遇のチャンス!とばかりに参加を決めました。
「もう『これしかない!』と。大会に出場して、優勝したり、目立つ活躍をすれば、全国に私たちの存在を知ってもらえるかもしれない。学内知名度も上がるでしょう。ほかの参加者に、モチベーションでは負けていない自信があります。」
「未来王 2030」の収録はVR(バーチャルリアリティー)空間で行われました。 解答者の若者は『アバター』となって登場。100人が集まった様子は壮観です。
MCの田村淳さんたちが見守る中、QuizKnockによる「環境クイズ」が次々と出題されていきます。第1ステージでの基本問題から始まり、第2、第3、第4と進むにつれてどんどん難易度がアップ。100人いた解答者も、決勝の舞台にたどり着くまでにわずか3人に絞られます。
『未来王』の栄冠を勝ち取ったのは誰なのか?ぜひ放送で確かめてください!
「未来王2030」【総合テレビ】2月23日(火・祝) 午後10:15~11:15
3時間に及んだ収録の翌日、松田さん・北川さん・大城さんに参加した感想を聞きました。
『みんな結構正解するなぁ…』と、正直驚きました笑。同世代の中では自分はかなり勉強している方だと思っていましたが、まだまだだということを痛感しましたね。僕も負けてはいられません。もっと学びつつ、これからは同世代の力にも積極的に頼っていきたいと思います。
「参加者の中に13歳の中学生もいて驚きました!しかも強い思いと確かな知識を持っていました。これまでは強い言葉で発信することに葛藤もあったけど『もっと自信を持って発言していいんだ!』と思えたので、参加して本当によかったです!」
「結構、目立つことができたかなと思っています。番組を色んな方にシェアして、アピールしていきたいです。参加者の方で、連携したいと思った方もたくさんいたので、連絡を取り合って、活動をさらに拡げていきたいと感じました。この大会、次回もあれば、ぜひまた参加したいです!」
最後にせっかくなので、番組で出題しきれなかったクイズをご紹介します。
QuizKnockからの挑戦状、あなたはわかりますか?
【問題】
人間が海に捨てた網などの釣り具。それに魚が捕らえられてしまう現象を「○○フィッシング」というでしょう?
正解は『ゴースト(フィッシング)』
【問題】
世界でリサイクルされているプラスチックは、プラスチックごみ全体の何割くらいでしょう?
正解は『1割』
環境問題の解決に向けて、若者たちはこんな活動も行っています☟
?気候変動の対策求め声を上げ始めた中学生・高校生たち
?世界に自分たちの意見を届けたい
?若者たちがつながることで自分たちの声を力に
(『地球のミライ』 取材班 ディレクター 捧 詠一)
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『日本は二流国に』”知の巨人” ジェレミー・リフキン氏の警告
いま世界ではヨーロッパを中心に温暖化対策と経済成長を同時に進め、持続可能な社会を実現ようとする動きが加速しています。この動きをリフキンさんは“新しい産業革命”と表現します。
その一方で日本は、優れた技術力という大きなポテンシャルを持っているものの、再生可能エネルギーへの転換を進めなければ、いまの経済大国としての地位を失うと警告します。
厳しい分析の理由を聞きました。( NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」取材班)
ジェレミー・リフキン Jeremy Rifkin
特に経済やエネルギー問題の分野に明るく、著書『限界費用ゼロ社会』では、再生可能エネルギーやIoTなどの先進技術によって生産性が極限まで高まり、将来的にモノやサービスが無料になると予想している。
未来を展望する確かな議論が世界各国から評価され、ヨーロッパなど世界各国の首脳・政府高官のアドバイザーを務めてきた。
リフキンさんが強く訴えているのが、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー(再エネ)への転換です。その理由はエネルギーをめぐる「お金」の大きな変化です。詳しく見ていきましょう。
まずは発電コストの変化です。
太陽光発電と風力発電の電力の価格は、どのくらい変わっているのでしょうか?
この10年で欧州やアメリカなどでは、発電コストが原子力や火力(石炭など)の発電コストを逆転するようになってきており、世界平均でも再エネが最も安い発電方式となっています。
一方、再エネ(水力含む)は18%で、先進国37か国中で下から8番目と、低い水準にとどまっています。2030年には22%~24%まで上げるべく目標値を定めています。
ヨーロッパでは再エネを積極的に取り入れてきました。ドイツはすでに発電量の42%が再生可能エネルギー。2030年には65%という数値目標を掲げています。
現在、日本政府は再エネの割合を高くしようと目標値の引き上げを行おうとしています。2021年内にも2030年度の再生可能エネルギーの割合を引き上げるか議論される見通しです。
一方で、化石燃料では再エネとは逆の評価が起きています。これもリフキンさんが再エネへのいち早い転換を勧める理由です。
化石燃料による発電にかかわる設備や権利は「座礁資産」と呼ばれるようになってきました。特に石炭からはどんどん投資の手が引かれているといいます。
安い太陽光発電や風力発電に切り替えが進んでいくと、火力発電所やパイプライン、採掘権などの費用の“もとが取れなくなる”と考えられるからです。
すでにドイツ大手電気会社の化石燃料発電部門が売りにでたものの、買い手がつかなかったといいます。
ただ日本は、市場が“(化石燃料は)間違っている”と示す転換点が来ているにもかかわらず、石炭火力発電所や液化天然ガス発電所を建設していますが。再生可能エネルギーは新しい産業革命なのです」
その一つが、ネットワークでつながった新しい発電システムです。すでにドイツなどでは、一般家庭まで参加する新しい発電ネットワークが始まっています。
それぞれが持っているものを地域や国で共有する。壮大な話にも聞こえますが、すでにドイツで構築されているのは国内全土に広がる巨大な“発電ネットワーク”。大規模に設置されている太陽光発電や風力発電の施設だけでなく、1万を超える個々の住宅や工場などの太陽光発電・風力発電・蓄電池をつないで全体で管理しています。
天気が悪くても、大丈夫です。太陽光発電や風力発電は、天候に大きく左右され、不安定ですが、それを解消しようと、電力をデジタル管理することで一つの発電所のように安定させています。
発電量が多いときには蓄電池に分散して貯蔵し、悪天候などで電気が足りなくなると蓄電池から給電する、いわば、「仮想発電所」ともいえるシステムです。家庭にある太陽光パネルや蓄電池もネットワークに参加していて、市民一人ひとりの力が社会を変えていく時代が始まっています。
こうした取り組みは、ドイツだけでなく、欧州の他の国や中国・アメリカの一部で導入が始まっているといいます。
変革を進め、日本にこの新しい時代をリードさせるべきです。
私たち次第です。始めましょう。明日の朝からです」
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「グリーンリカバリー」が世界で加速 欧米も中国も
就任と同時にパリ協定への復帰に署名したアメリカのバイデン大統領は、4年で200兆円を越す巨額のグリーンリカバリー投資を表明しています。アメリカだけではありません。イギリスもEUも、そして中国もー グリーンリカバリーをめぐる各国の動きをお伝えします。
(『地球のミライ』取材班 プロデューサー・堅達京子)
最大の排出国である中国は、9月の国連総会で「CO2排出量を2030年までにピークにし、2060年までに実質ゼロをめざす」と宣言していましたが、習近平国家主席は、中国が2030年までにGDP(国内総生産)単位あたりの二酸化炭素排出量を2005年に比べ65%以上減らすなど、新たな自主目標を発表しました。
トランプ政権だったアメリカはこのサミットには参加しませんでしたが、大統領就任を控えていたバイデン氏は、同じ日、改めて気候変動対策の強化を表明しました。 バイデン大統領は、選挙公約として任期となる4年で200兆円を超す規模をグリーンリカバリー に投資し2035年までに電力の脱炭素化を目指すとしています。
EUも2030年までの削減目標を40%から55%以上に引き上げました。中でも、今年11月に開催される温暖化対策の国際会議「COP26」のホスト国・イギリスは、率先して野心的な目標を打ち立てました。
ジョンソン首相は「イギリスは、2030年までに1990年比でCO2を少なくとも68%削減します。コロナ禍から抜け出しながら、地球を救い、膨大な雇用を生み出すためです」と訴えました。まさにこれがグリーンリカバリーの考え方です。
イギリスは着実に実現するための具体策を発表しています。「グリーン産業革命に向けた10の計画」と名付け、洋上風力の強化や、2030年ガソリン車の新規販売禁止さらには建築や農業分野の脱炭素政策まで分かりやすく国民に示しました。蒸気機関から始まった元祖「産業革命」の国として、今度は「グリーン産業革命」を主導するという強い決意が表れています。
EUの電力業界は2020年以降の石炭火力の新規建設を禁止し、風力や太陽光など再生可能エネルギーへの転換を進めていきます。この他にも、電気自動車などの普及を一気に進めるため2025年までに百万基もの充電設備を整備します。
さらに、エネルギー消費を抑えるため2030年までに住宅や公共施設の断熱化を推し進める計画です。
もう一つ力を入れているのは、サーキュラーエコノミー (循環経済)への転換です。EUでは、排出量の20%を占める製造業などの産業部門も循環型に変革。生産・輸送・廃棄などの工程で、大量の温室効果ガスが発生する繊維産業に対しては、古着から繊維を取り出して再利用することなどを強く求めています。
しかしこうした様々な対策には費用がかかり、コスト高となるため、製品の競争力としては不利になります。そこでEUが2021年に具体案を示す予定なのが「国境炭素税」です。
温暖化対策を取っていない企業に対価として税金を支払わせる大胆な制度です。それを支払わない限りEUの中で製品を流通できなくします。
例えば、燃料税の引き上げに反対している車を移動に使わざるを得ない人々をはじめ別の産業への転換を迫られる炭鉱や石炭火力発電などの産業で働く人々への補償や、他にも様々な人々に公正に資金が還元される仕組みを整えることはとても大事な視点です。
そこをきちんと設計できれば、炭素税をはじめとするカーボンプライシング(排出される二酸化炭素に価格をつけ、排出量に応じたコストを負担してもらう)という考え方は、気候変動を食い止める大きな力になるはずです。
国連の気候野心サミットでは、カナダのトルドー首相が連邦炭素税を2030年にCO2排出量1トン当たり170カナダドル(約14,000円)にまで大幅に引き上げると発表しました。これまでは毎年10カナダドルずつ引き上げ、2023年には50カナダドルにするとしてきましたが、今回2030年までの長期目標を掲げることで、産業界への強いメッセージを送ったのです。
痛みを伴うカーボンプライシングの議論は、長年たなざらしになってきました。しかし脱炭素というのは経済利害も関わる重要な問題です。2050年にカーボンニュートラルを実現し、特に正念場と言われる2030年までの具体的なロードマップを考えるには、様々なステークホルダーを巻き込んだ国民的な議論が必要です。脱炭素社会の構築のため、いまこそ、国を挙げて議論をすることが求められていると思います。
いま世界中で、野心的な目標引き上げやビジネス界の動きを後押ししているのが、気候変動対策を求める若い世代の訴えです。グレタ・トゥーンベリさんをはじめとする若者たちは、政治家たちに働きかけるだけでなく、個別の企業やプロジェクトに対して抗議の声をあげるなど、プレッシャーを強めています。 (こちらの記事も☞『バイデン氏支持した若者たち』)
こうした声に、世界の先進的なグローバル企業はどうこたえようとしているのか?脱炭素に向かうビジネス界の最新の動向については、次の機会に詳しくご報告したいと思います。
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『モリウイルス』『メタンガス』 永久凍土が溶けて起きること
いま世界の科学者たちがもっとも懸念しているが、シベリアなどの永久凍土の融解が止まらなくなることです。永久凍土の中には数多くの“未知のウイルス”が眠っているとみられ、実際に『モリウイルス』という高い増殖能力を持つ新種のウイルス が発見されています。さらにCO2の25倍の温室効果を持つ『メタンガス』が大量に放出される恐れもあります。
これは決して「遠い将来」の危機ではありません。いま、まさに瀬戸際の状況でこの10年の私たちの対策にかかっているという正念場に突入しているのです。
私たちには何ができるのでしょうか? (地球のミライ取材班 プロデューサー 堅達京子)
今年は、東北や北陸地方で大雪の被害が相次ぎ「温暖化どころではない」と思った人が多いかもしれません。でも実は、この異常な大雪にも温暖化が影響していると言われています。
気象庁は今回の日本海側の大雪について、日本海の海面水温が平年より1~2℃高く、大気中に含まれる水蒸気が多い状態で、強い寒気が水蒸気を取り込んだことが原因の一つだとしています。今後、温暖化に伴ってこうした極端なドカ雪が増えると予測する科学者もいます。
⇒こちらの記事も 「地球温暖化と異常気象の関係は?」
EUの気象観測機関「コペルニクス気候変動サービス」は1月、去年の世界の平均気温は、2016年と並んで史上最高を記録したと発表しました。特に北極圏で38℃を記録するなど、シベリア北部の一部で記録的な高温になり、1980年―2010年の平均と比べて6℃以上高い地域も観測されたといいます。
2020年の年平均気温を示す図。赤色が濃いほど1981~2010年の平均気温よりも高かったことを示す(コペルニクス気候変動サービス・欧州中期予報センター提供)
一つは、溶けた永久凍土から未知のウイルスが拡散されること。
新型コロナウイルスによるパンデミックは、人類が免疫を持たない未知のウイルスによる感染爆発ですが、永久凍土にも数多くの未知のウイルスが眠っているとみられます。
実際にフランスのウイルス学者のチームは、溶け始めた永久凍土から「モリウイルス」という新種のウイルスを発見しました。生物の細胞に入ると12時間で1000倍に増殖し、その高い増殖能力に脅威を感じたといいます。
もう一つは、数万年にわたって溶けずに永久凍土に封じ込められていたメタンガスが大気中に放出されること。
メタンはCO2の25倍の温室効果を持つガスで、その大量放出は温暖化をより一層加速させ、手のつけられない暴走状態に陥れる危険性があります。(University of Alaska Fairbanks, Go Iwahana)
(CG・メタンガスが噴き出すイメージ/NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」より)
温暖化研究の世界的権威であるヨハン・ロックストローム博士(ポツダム気候影響研究所・ドイツ)たちが提唱しているのが 「ホットハウスアース(灼熱地球)理論」です。
気温上昇が産業革命前から1.5℃を超えてさらに上昇していくと、温暖化の進行が後戻りできないティッピングポイント(臨界点)を超えてしまい、ドミノだおしのように暴走していくリスクが高まるというのです。
地球の防衛ラインと言われる+1.5℃に抑えることは、パリ協定の目標でもありますが、 このままでは早ければ2030年にも突破しそうな勢いなのです。
東京で見てみましょう。 気温が35℃を超える猛暑日は、2020年の約4倍に増加、47日もあります。(環境省/文部科学省/気象庁/国立環境研究所)
(CG・NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」より)
屋外で労働できる時間は3割から4割も減少します。外出することが死につながるような暑さです。熱中症のリスクは東京23区で現在の13.5倍に高まり、一夏に24万人が緊急搬送、医療は危機に瀕します。(筑波大学研究チーム)
⇒こちらの記事も 「地球温暖化で寿司が消える⁉」
また高温のため、アジアでオリンピックが開催可能な都市は、標高の高いモンゴルのウランバートルとキルギスのビシケクの2か所だけになってしまいます。(データ提供:Kirk R. Smith et al. 2016, The Lancet)
(NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」より)
そして台風の脅威はさらに増し、首都東京はかつて体験したことのない大水害に見舞われる危険があります。2019年の台風19号が+4℃上昇した条件で上陸した場合をシミュレーションすると、広い範囲で赤い色の非常に激しい雨が降り、全体の降水量は30%以上増加することが新たに分かりました。
1時間に50ミリ以上の非常に激しい雨が降る地域も、現状よりも広い範囲に広がります。 首都圏を流れる荒川では、国が想定する最大規模に匹敵する水量が押し寄せる可能性があり、荒川の右岸で堤防が決壊した場合のシミュレーションでは、浅草も秋葉原も水没。死者は約2300人。浸水が広範囲で2週間以上続く恐れもあるのです。(国交省荒川下流河川事務所)
(CG・NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」より)
海抜の低い島嶼国では、国そのものが水没するリスクがあります。さらに、干ばつなどで食料生産が厳しくなり飢餓や環境難民の増加につながる地域もたくさんあります。
すでに気温が1℃上昇している現在でもこれほどの異常気象や災害に見舞われているのですから、4℃上昇なんてとんでもない。危機を避けるには、上昇を1.5℃に抑えるしかありません。
気温上昇を1.5℃に抑えるためには、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を、植林などで人為的に吸収する量を差し引いて実質ゼロにする“カーボーンニュートラル”という状態にしなければならないのです。
日本政府は去年10月、2050年のカーボンニュートラルを宣言しましたが、その背景には地球温暖化がここまで悪化し、追い込まれている厳しい現実があるのです。
でも、カーボンニュートラルへの道は簡単ではありません。科学者たちは「2030年までに温室効果ガスの排出量を半減させる必要がある」と警告しています。箱根駅伝に例えれば、今すぐ、山登りではなく山下りに転じて、猛スピードで駆け下りてゼロをめざさなければなりません。
大事になるのは産業システムそのものの変革です。
つまり“脱炭素”を頑張った企業が得をする仕組みに変えることですが、そのためには、企業に影響力のある私たち消費者の行動を変えることが大切です。
⇒こちらの記事も 「2050年の未来予想図」
新型コロナウイルスの危機で思い知らされたのは、一人一人が科学的な意味を分かった上で「マスクをする」「3密を避ける」という“行動変容”することで、感染リスクを減らし危機を乗り越えることができるということでした。気候危機も同じです。
ワクチンや治療薬・医療体制の整備に匹敵するシステムの変革も必要ですが、一人一人が“脱炭素”に役立つ行動に変える!という積み重ねも大事です。 まさに“正念場の10年”、全員参加の総力戦で一緒にチャレンジしていきましょう!
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持続可能な社会 2050年の未来予想図
地球のミライ取材班では“2050年の未来予測”を行ったある報告書を元に、「脱炭素化」した社会の姿をビジュアル化しました。 協力してくれたのは、若者向けのメディア「NO YOUTH NO JAPAN」のみなさんです。2050年には社会の中心になっている世代です。
左から 吉井紗香さん(21)/川添由貴さん(20)/黒住奈生さん(23)/グラフィックデザイナー 平山みな美さん(33)
今回の“ネタ元”になったのは「ネット・ゼロという世界 2050年日本(試案)」という報告書です。持続可能な開発や環境対策について研究している「地球環境戦略研究機関(IGES)」が去年発表したものです。石油化学や建設業界など様々な企業や研究機関にヒアリングを行い、温室効果ガスの削減に向けて今後導入される技術や、それぞれが目指している未来の姿などを調査しました。
その上でエネルギー需要と温室効果ガスの排出量の変化を試算し、2050年の社会や暮らしについて “未来予測”を行いました。
まずは、温室効果ガス排出の「実質ゼロ(ネット・ゼロ)」とは?
(※画像はすべてダウンロード可能です。SNS投稿などで自由にお使い下さい)
1つは、社会の変化がほとんど起きず、エネルギーも石油などの化石燃料を使い続けながら、ネット・ゼロを達成するというものです。これは排出されたCO2を『地下に埋め込む』ことを想定していますが、いまの段階では不確実性が高い技術です。
もう1つは、社会制度や経済構造などに“変革”がおき、再生可能エネルギーがこれまで以上に使いやすくなることで、「化石燃料を使わない社会」が実現するというものです。
報告書では「トランジション・シナリオ」と呼んでいます。
この「トランジション・シナリオ」が実現した場合、わたしたちの暮らしはどう変わるのでしょうか。
もちろん、こうした社会を実現するのは決して簡単ではありません。
私たち一人一人に何が求められるのでしょうか?
「ネット・ゼロという世界 2050年日本(試案)」を中心となって作ったのは、30代の研究員です。メンバーの一人、栗山昭久さんは以前、温室効果ガスの排出を80%減らすことすら難しく、ましてや「ネット・ゼロ社会は不可能」と感じていたといいます。
しかし今回の調査を通じて、排出削減が難しいとされる鉄鋼業界などもヨーロッパでは、ネット・ゼロへの道筋を描いていることを知り「達成は可能ではないか」と思うようになりました。
「持続可能なネット・ゼロの世界を実現するためには、CO2を排出しない再生可能エネルギーへの転換、そして、それを効率的に使っていくデジタルトランスフォーメーション、電化を進めることがカギだと感じています。
実現させるために欠かせないのが変革です。エネルギーを始め、人々の行動・価値観が変わっていく必要があります。 これからの10年が大きな分岐点だと思います」
もし「トランジション・シナリオ」によってネット・ゼロが実現したら、
2050年の街の姿はどうなるのでしょうか?
「NO YOUTH NO JAPAN」のメンバーが、報告書の内容に自分たちの希望を重ね、 “未来予想図”を作ってくれました。
「ただ『脱炭素化』した街を描くのではなく、自分たちが30年後に住みたい街を描きたいと考えました。幾何学的なグラフィックだと実際に住むイメージがつかないので手描きのイラストにしました。わたしが育った家の近くには林があり、よく虫を観察していたのでそうした原体験から意識的に緑を増やしました。」
今回の企画に参加してくれた大学生のメンバーからは「めざすべき社会の形が具体的にイメージできるようになった」と、前向きな言葉がよせられました。
「いままでは地球が大変なことになっていることを聞いていて、努力したとしても、 よい未来にはならず、現状維持がギリギリなのではないかと思っていました。 ですが、いまはより環境に配慮した生活に変えれば、良い未来になるのだと 希望が持てました」
「2050年の未来は想像がつかないことが多いのかと思ったのですが、いまある技術を 使って新しい生活様式になっていくところがあり、とてもワクワクしました。
環境を守ることの先に、ワクワクする未来があるところがいいなと思いました」
「いままで、気候変動というと話すのにはハードルが高く、このNOYOUTH NOJAPAN以外の友人と話したことがありませんでした。しかし今回、身近な暮らしにおいての考え方や、将来像を思い描くことができたので、こうしたところからなら、環境問題の話をすることができると思いました。」
先日放送したNHKスペシャル「2030未来への分岐点 暴走する温暖化“脱炭素”への挑戦」のなかで、気候変動研究の世界的権威であるヨハン・ロックストローム博士は、次のように話していました。
しかしいまやギアチェンジをして、先進的な未来への旅が始まっているのです。 もっともハイテクでクールな未来こそ、持続可能な未来なのです。」
2月7日のNHKスペシャル「2030未来への分岐点 大地は人類を養えるのか(仮)」では、温暖化とも大きくかかわる『食料と水』の問題を考えます。ぜひご覧ください。
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明らかになる『地球温暖化と“異常気象”の関係』
では温暖化が進んでいなかったときと比べ、実際にどんな変化が起き、どのくらい被害が増えたのでしょうか。最新の研究であきらかになりつつあります。
自然災害の研究が専門の、京都大学防災研究所・中北英一教授にお話を伺いました。
( NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」取材班)
(京都大学防災研究所 中北英一教授)
「『数年前から温暖化の影響は出始めている』と自信をもってお話します。『温暖化の世界』に足を突っ込んでいてもう待ったなしです。災害が多くなり、豪雨が強くなって、世界が新たなフェーズに入っていると思ってもらった方がいいと思います」
NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」(1月9日放送)では、中北教授をはじめ気象学・河川工学・水工学など様々な分野の専門家と独自に検証しました。
シミュレーションしたのは、2019年に九州地方から東北地方にかけて広い範囲で猛威を振るった台風19号です。“温暖化が進む前”の気候条件と比較していくと、明らかな違いがあることが浮き彫りになりました。 温暖化が進む前の1980年ごろの気候で台風19号が発生したと想定すると、降水量は全体で10%ほど増えることが明らかになったのです。
(気象研究所 川瀬宏明 文科省「統合的気候モデル高度化研究プログラム」)
「もし温暖化が進んでいなかったら、2019年の台風19号はそこまで大雨にはならず、長野市の千曲川も堤防決壊を起こすまでの水位にはならなかったということです。今回の解析結果は、温暖化の怖さをより如実に語ってくれています」
「総雨量が1.1倍になると、河川の流れる量は1.2倍になります。そして浸水するリスク、確率がさらに1.4倍になるんです」
今回のNHKスペシャルでは、異なる分野の専門家がデータを共有し合い、具体的に踏み込んだ解析を行いました。温暖化で平均気温が約1℃上昇したことで、どれほど被害が増え、命が奪われることにつながったのかも可視化しました。

(東京理科大学 二瓶泰雄 京都大学防災研究所 佐山敬洋 文科省「統合プログラム」と連携)上の2つの地図は川からの浸水をシミュレーションしたものです。1つめは温暖化していなかった場合の被害予想地域です。堤防を越水したとしても床上浸水はほとんどありませんでした。しかしいまの気候(2つめの地図)では、堤防が決壊しておよそ9平方キロメートルにわたって浸水、家屋の85%が床上浸水し、2人が犠牲となりました。
こうしたシミュレーションの意義を、中北教授は次のように語ります。
「実際に起こったことを科学で再現できて『温暖化があった時はこうなります』『より温暖化が強くなればこうなります』『温暖化がなかったら堤防はあふれませんでした』といったことを目のあたりにしてもらうことによって、より多くの方に『温暖化がもう始まっている』という認識をもっていただきたい。また、温暖化の恐さ自体も認識いただきたい」
私たちは、これからどのように対策を考えていけばよいのでしょうか。
「『将来、さらに被害が大きくなっていく』ことを共通認識とし、いま対策を始めなければいけません。『いまはまだ温室効果ガスの影響がわからないから、わかるまで待っておこう』。そんな悠長なことを言っている時期ではありません。いま始めないといけません」
「温暖化の影響はこれからの10年はまだ続くと思いますし、さらに大きくなっていきます。そのことをわかったうえで対応する必要があります。いままで逃げられたところが逃げられなくなることも、出てきます。行政の施策だけでなく、地域に住む人々の防災への意識を高めることが大事になります」
さらに中北教授は国が取り組むべきこととして「治水の目標を早く達成すること」と「中小河川・流域に対する洪水対策」をあげています。
温暖化の影響で被害が起きやすくなるため、まずは以前からの治水の目標を達成していないところから充分な手を打つことが、予防的な意味でも重要だと言います。そして大規模な河川だけではなく、流域も含めた中小河川に対する洪水対策を進めていかなければ、被害がどんどんふえていくことになると警告します。
(京都大学防災研究所 中北英一教授)
「防災を意識する人々がもっともっと増えることが、治水や災害への大きな対策になると思います。住む場所を考える時などに、危険なところではないか、あるいはどう逃げるかを考える。自分で命を守るという意識を高めることがとても重要です。
もちろん行政は国民の命を守るため、精いっぱいの使命を果たしますが、もはやそれだけでは足りない世界になってきます。ひとりひとりの意識が高くないと、今後、災害に対して太刀打ちできません。日本人は自然の厳しいところで自然の懐に抱かれながら、色々な災害を生き抜いてきていますので、本来そういう力を持っているんですね。だから、いままでの治水や災害に対する考え方や力をもう一度発揮する時期がきているのだと思います」
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地球温暖化で寿司(すし)が食べられなくなる?
寿司好きの人にとっては、まさに衝撃的ともいえる話ですが、このまま温暖化が進めばその可能性は決して否定できないそうなんです。海水温の上昇などによって、イクラ・ホタテ・タイなど寿司ネタに欠かせない魚介類が、日本の海に生息できなくなる恐れがあるからです。
いつ、どのネタが食べられなくなる可能性があるのか?専門家に話を聞きました。
NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」から (「地球のミライ」取材班)
「もしかしたら、こうしたネタが食べられなくなるかもしれません。
早くて30年後くらいから始まります。」
今回お話をうかがったのは、東京大学の伊藤進一教授。海の環境と生物の関係について研究しています。まず伊藤教授は「おことわり」として次のように話します。
その上で伊藤教授は、これまでに国内外で発表された海や温暖化に関するおよそ30本の論文をベースに、80年後の2100年までに考えうる可能性を考察しました。その結果、このまま地球温暖化が進めば、海水温の上昇や海水の酸性化などが起こり、日本の海に住めない生き物がでてくる可能性が見えてきたというのです。
では、具体的にどの寿司ネタがいつ頃消えてしまうのでしょうか?
その4つとは、シャコ、サケ・イクラ(国産)、イカナゴ。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
江戸前寿司の代表格のシャコ。
東京湾のシャコは川から海に流れ込む水の量が多いと、沖に流されてしまうと考えられています。また、豪雨は海水の塩分濃度を下げます。シャコの幼生は低い塩分濃度に対して弱く、集中豪雨がより多く発生すると、将来シャコは東京湾で取れなくなるかもしれません。
国産の主な天然サケといえば、北海道や東北でとれる「シロザケ」です。シロザケは水温の低いオホーツク海やベーリング海など、北の海で成長する魚です。 海水温の上昇が続けば、シロザケの分布は北上します。21世紀末には日本周辺での回遊が困難になり、それにともなって国産のサケ・イクラの入手は困難になると予想されます。
(※「サーモン」として提供されているものは輸入や養殖が一般的です)
つくだ煮で出てくることが多いイカナゴ。
えさが少なくなる夏に”夏眠”といって砂の中で冬眠のような状態になります。温暖化で海水温が上がると、夏眠の期間が長くなるうえ、熱さでえさが減って栄養を蓄えられません。栄養が足りないと産卵ができないまま夏眠をむかえ、次の世代を残せなくなります。紹介したなかで、最も早く消えてしまう可能性が高いでしょう。
つまり、2050年ごろには…
2050年、2060年、2070年…と聞くと遠い未来の話に聞こえるかもしれませんが、例えばあなたがいま20歳なら、子どもや孫と一緒に寿司屋に行き「昔はもっといろんなネタがあったんだよ…」と話しているかもしれません。
そのころまでに消えていく可能性のあるのは、高級ネタのホタテ、ウニ、アワビ。
複数の要因が重なって深刻な影響が出る可能性があります。
ホタテガイは海水温が23℃を超えると生理的に障害が起こり、傷を負っても治癒しないことが確認されています。
海水温の上昇による影響が比較的穏やかな深い水深でも、酸素が少なくなった海水が多いところが出てくる可能性があり(貧酸素化)、養殖できる領域には限界が生じます。
さらに海は二酸化炭素を吸収して酸性化するので(海洋酸性化)貝殻を作るエネルギーが多く必要となります。成長にまわるはずのエネルギーが、貝殻を作ることに取られてしまうので、成育が悪くなったり、養殖が困難になったりすることが考えられます。
ウニとアワビは海水温の上昇による直接の影響と、それによるえさの消失という間接的な影響の2つが同時に起きる可能性があります。
ムラサキウニは生息できる限界水温が25℃、エゾアワビやクロアワビの稚貝は24~25℃です。海水温が上昇すると高水温期(8月)に、その温度を超える海域が日本でも多くなります。
さらに、ウニやアワビが食べる海藻類も同じ水温帯を適水温としているため消失する恐れがあり、より深刻な影響が危惧されるのです。
また、殻の形成に海洋酸性化が影響する可能性もあります。
たくさんあったネタも…
私たちの孫やひ孫の世代が社会の中心になり、22世紀が近づくころになると、 いま食べている寿司そのものが消滅している可能性も否定できません。 かろうじて残っていたヒラメ、マダイ、ズワイガニにも消え、日本近海で取れるネタをそろえたお寿司屋さん自体がなくなってしまうかもしれないのです。
もう聞きたくないかもしれませんが、理由はこちらです。
ヒラメとマダイはほとんど同じ水温帯で、高水温期の8月には27.5℃以下の海水温に分布しています。
海水温の上昇が続くと、21世紀末までに九州、瀬戸内海、近畿、そして東京湾でも成育が難しくなると考えられています。
深い水深に生息するズワイガニ。
他の生き物より水温の影響は受けにくいのですが、別の要因で消滅する可能性があります。貧酸素化によって、生息できる水深が狭くなる恐れがあります。また、海洋酸性化の影響で殻を作るためにエネルギーが割かれてしまい、成長が悪くなる危険性もあります。深いところに住むズワイガニも、地球温暖化の影響からは逃れられないと考えられます。
あくまで可能性の話ではあるものの、現実味を感じた方も多いのではないでしょうか。 ここで改めて伊藤教授に、特に海の生き物への影響が大きいと考えられる環境変化について教えてもらいました。
地球温暖化は海でも起こっていて、海水の温度が上がっています。海面の温度は世界でおよそ130年の間に平均で0.5度上昇(※)。日本近海での海面の水温は、この100年で1度以上熱くなりました。
今後、21世紀末までにおよそ1度~3度の上昇が予想されています。 海が熱くなると、それまでいた場所には住めなくなる生き物がでてきます。
地球温暖化を引き起こす二酸化炭素は、森だけでなく海にも吸収されています。
吸収された二酸化炭素は、水と結びついて酸性の物質に変化します。影響が出やすいと考えられるのは、アルカリ性の物質をもとに殻をつくる貝類などの生き物です。酸性化が進んだ海では、殻を作るのにより大きいエネルギーが必要になるため、成長が悪くなったり、住めなくなったりする生き物がでてくると考えられます。
海水温が上昇すると、海の中に酸素が運ばれにくくなります。今後も海水温が上がると考えられているので、海水に溶けている酸素はさらに減少すると見られます。そうすると、生き物の住める領域が小さくなると考えられます。
大気中にある水蒸気の量が増えていることで、集中豪雨が多発するようになっていて、これが海にも影響を与えます。極端な豪雨が増えると、大量の土砂が海に流れ込み、沿岸部の生き物が大打撃を受ける年が頻発することが考えられます。
「普段食べることの多い海洋生物でさえも、わかっていない基礎的な特性がまだまだあります。今回、研究者のわたし自身があらためて感じました。」
「温暖化は進行していきます。海洋生物資源の保護は、生き物自体の研究や適切な資源管理、そして環境問題への一人一人の努力にかかっています。」
このまま温暖化が進むとどのような危機が待っているのか。 そして、危機を回避するために私たちは何をしなければならないのか。
番組ではより広い視野で詳しくお伝えします。
第1回 暴走する温暖化 “脱炭素”への挑戦
1月9日(土)夜9時~[総合]
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常田大希さん作曲「2992」 スタジオ収録に密着
制作を担ったのは、常田さんが率いる音楽プロジェクト「millennium parade(ミレニアム・パレード)」。その名前には「ミレニアム=1000年後にも残る作品を生み出したい」という思いが込められていますが、新曲のタイトル「2992」も、1992年生まれの常田さんが、自分が生まれた年から1000年たってもこの曲が残っていてほしいという願いをかけて名付けられました。
この曲の創作現場に長期間密着したドキュメンタリー番組が3月5日(金)に放送されます。
放送 NHK BSプレミアム 2021年3月5日(金)夜11:15ー(89分)
強く激しいバンド演奏と壮大で美しいオーケストラの音色が調和した「2992」。去年12月、メンバーがNHKに集まってパフォーマンス収録が行われました。今回は、その収録当日の様子をお伝えします。(取材:髙橋 隼人 ディレクター/構成:新井 直之 ディレクター)
12月13日午後、NHK放送センターの西口玄関に到着した常田大希さん。白いスウェット姿に革のジャケット、黒いリュックを肩に提げスタジオへ向かいました。
「そうですね。ようやく納得するかたちで迎えられてよかったです」
―手応えはいかがですか?
「うん。すごくライブ映えするというか、いい演奏が撮れるんじゃないかと思います」
収録を行う101スタジオでは、スタッフによる準備が慌ただしく行われていました。重い扉を開いた先には、無数のライトに照らされた円形のステージ。
その中央には、常田さんが演奏するアップライトピアノが置かれています。それを取り囲むように2つのドラムセット、グランドピアノ、オーケストラの楽器などがびっしりと配置されていました。
午後4時半ごろ、常田さんを含む演奏者たちが一斉にスタジオ入りしました。このパフォーマンス収録の大きな特徴のひとつは、バンドとオーケストラ合わせて30人以上の出演者がいることです。
millennium paradeのバンドメンバーは、常田さんがKing Gnu(キング・ヌー)でも活動をともにする、ベースの新井和輝さん、ドラムの勢喜遊さん、ピアノの江﨑文武さんのほか、ボーカルにermhoi(エルムホイ)さん(“2992”の作詞も担当)、今回はベースを担当したアジテーターの佐々木集さん(常田さん率いるクリエイティブ集団「PERIMETRON」のプロデューサー/クリエイティブディレクター)、ドラムの石若駿さん(King Gnuの前身Srv.Vinciの元メンバー)、シンセベースのMELRAW(メルロウ)さん、そして今回はサンプラー/コーラスを担当したアジテーターの森洸大さん(「PERIMETRON」のアートディレクター/デザイナー)が参加しています。
一方、総勢23人からなるオーケストラは、常田さんの兄、常田俊太郎さん(King Gnuやmillennium paradeのオーケストレーションバイオリンも担当)がコンサートマスターを務め、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、ホルン、トランペット、フルート、クラリネット、ファゴット、ハープ、オーボエを率います。
各方面で活躍するプロの音楽家たちが一堂に会してサウンドチェックを行う様子を、常田さんはスタジオの端からうれしそうに眺めていました。
「絶景ですね。想像よりもずっといい。みんな演奏が上手だし。曲作りを始めた当初は1人で大変だったけど、いろんな人が参加してきてくれて、徐々に曲が発展していくのを見るのは楽しいですね」
常田さんは、こうした才能のある仲間と一緒に新しい作品を生み出すことにこだわりを持っています。10月に行ったインタビューではこう語っていました。
「すごく恵まれているなと思うのは、世間の評価とまったく関係なく、自分たちの尺度で作品を作れるチームのメンバーがいること。彼らからしたら、世間からどう思われるかとか、どう評価されるかというのはどうでもよくて、単純に『これかっこいい』とか『この作品ヤバいね』ということしかない連中なので、俺にとっての「財産」であり、本当に「救い」みたいな感じですね。お金ではなくて、かっこいいものが作りたいというところで繋がっているから、すごく尊いことです」
常に信頼する仲間と新たな挑戦を続ける常田さん。この「2992」という曲のタイトルについても思い入れがあるといいます。
「1992年生まれが、“ミレニアム・パレード”していったら1000年後だから、“2992”というタイトル。規模がでかい話になっちゃいました。音楽もけっこう規模がでかい。この曲が2992年に残っていたら面白いですよね。この作品頑張らないと」
世間の評価ではなく自らが納得できる作品づくりに徹した結果、1000年後まで残る作品ができたらいい。目先の利益に惑わされず、普遍的な価値を追求する真摯な姿勢に共感しました。
午後5時。スタジオの準備が整い、収録本番の時間を迎えました。中央に立つ常田さんの指揮で演奏が始まります。
激しいドラムとオーケストラによる、物語の始まりを予感させるプロローグ。一拍間を置いて常田さんが腕を振り下ろすと、2人のベースが低音を響かせるアップテンポな演奏が始まります。常田さんもピアノで加わり、女性ボーカルの歌い出しを迎えました。
(私が見たこと、あなたには信じられないでしょう)
There are no words to make you believe me
(あなたに信じさせる言葉が見つからない)
ボーカルを務めるのは、女性シンガーのermhoi(エルムホイ)さんです。以前、たまたま彼女の歌を聴いた常田さんがその才能に惚れ込み、知人を介して会ったことがきっかけで自身の作品バンドに招いたと言います。今回、「2992」の作詞も担当しました。
最初にこの曲を聴いたとき、「規模感が大きすぎて私の想像をはるかに超えた曲だったので焦りました」と語っていたermhoiさん。歌詞については、「そのとき(2992年)に生きている人に、いまこういうことを考えていますと伝えたい」という思いで書いたといいます。
当初、ermhoiさんはレコーディングブースで、「この曲をつかみ切れていない」と嘆いたこともありました。ささやくような優しい声、無機質な声、いらだちを加えた荒々しい声…。どんな音色で歌えばいいのか、何度も試行錯誤を重ね、常田さんたちと“答え”を探し続けてきました。
そして迎える曲のサビです。
(私たちが生きるこの人生では皆 混乱するように仕組まれている)
I just wanna break free and see
(私はただ自由になって自分の目で見たいの)
Like we all used to do in the old days
(その昔私たちがしていたように)
憂いを帯びながらも力強いermhoiさんの声にバンドとオーケストラが呼応しながら、スケールの大きなメロディが奏でられました。
分厚い音の層の中心で、無心に鍵盤をたたく常田さん。バンドとオーケストラを両立させるために、これまで苦労を重ねた日々があったといいます。
「いわゆるバンドミュージックじゃないから、バンドのプレイをするとお互いけんかしてしまう。おいしいところが出てこない。どっちかに偏るとどっちかが死んでしまう」
常田さんは今回、ポップスでバラード系の曲によく取り入れられるオーケストレーションとは一線を画したいと考えていました。後ろで少し弦が鳴っていればいいというものとは違い、今回はオーケストラも主役だと考えていたからです。両者をどう調和させるか、収録のギリギリまでアレンジに手を加え続けてきました。
なぜ、ここまでストイックに曲作りができるのか。楽曲の制作が佳境を迎えたある日の明け方、帰路につくため車を運転している常田さんに、その疑問を投げかけたことがありました。
「なんでですかね。強迫観念みたいな感じがありますね。何かに突き動かされている感じ。俺が止まったら全部が止まるんじゃないかという“動力”として今までやってきたから」
「芸術とは破壊と構築を繰り返すこと」だとも語っていた常田さん。いま、バンドとオーケストラのそれぞれのよさを最大限に引き出し、まったく新しい音楽を生み出そうとしていました。そして、曲はクライマックスへと向かいます。
(先に宇宙へと走り出すわ)
While I still have the plan in my mind
(まだ頭の中の計画があるうちに)
スタジオの熱気は最高潮に達し、演奏が終わりました。その後も別アングルでの撮影を繰り返し、収録は約4時間にわたる長丁場となりました。
夜9時、収録の成功を拍手でたたえ合うと、全員そろっての集合写真。仲間に囲まれた常田さんの笑顔には、安堵の色がにじみ出ていました。スタジオを去ろうとする常田さんに最後のインタビューを行いました。
「最初の構想どおり、いろんなタイプの人たちがこうやって集まってくれて、ひとつの音楽をみんなで作り上げられたのは、すごく自分が思い描いている理想的なかたちで、いい景色が見られました。この曲が1000年後に残るかどうかは分からないですけど、1000年続けたいパレード、そういうマインドでこれから過ごしていくには本当に素敵な機会でしたし、いい曲ができてよかったという日でしたね。よかったです」
NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」のテーマ音楽、「2992」。常田さんは「自然や宇宙との親和性も高い」と前回のインタビュー( Topic㊻テーマ音楽を手がけた音楽家・常田大希 ロングインタビュー)でも語っていました。
あなたは、この曲からどんなメッセージを受け取り、どう未来につなげていきますか?ぜひ、放送とともにお楽しみください。
▶「Tokyo Chaotic 音楽家 常田大希 」NHK BSプレミアム 3月5日(金)夜11:15ー(89分)
▶ NHKスペシャル 2030 未来への分岐点
第3回 プラスチック汚染の脅威 大量消費社会の限界 2/28(日) 夜9:00ー
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『食品ロス』をアプリで削減へ 飲食店と消費者をつなげる
SDGs(持続可能な開発目標)では『目標12』の「つくる責任 つかう責任」の中で、世界全体の一人当たりの食品ロスを2030年までに半減させることなどが盛り込まれています。日本でも2019年に「食品ロス削減推進法」が施行され、全国の自治体で食品ロス削減に取り組みことが求められています。
そんな中、飲食店の食品ロス削減を掲げているスマホアプリが注目を集めています。消費者にもメリットがあるというこのアプリ、つくった人を取材すると食品ロスに対する強い思いが見えてきました。
このアプリをつくったのは、料理イベントや食のワークショップなどの企画運営を行っている川越一磨さんです。飲食店と協力して2018年にサービスを立ち上げました。
飲食店側があまった食品を割安でアプリ上に出品し、希望する人が購入できるというもので、新型コロナウイルスの影響で飲食店の需要が減っている中、利用する飲食店が増えていて、現在およそ1500店が参加しています。大阪府や福岡県など16の自治体とも連携しています。
スマホアプリ「TABETE」
営業中に料理を切らさないためには多めに作らざるを得ず、その結果どうしてもあまりが出てしまいます。以前はあまった分は捨てるしかなく『食品ロス』になっていました。
しかし川越さんのアプリサービスを利用するようになってからは、あまったカレーを弁当にして、ひとつ500円で出品しています。
取材したこの日は、出品するとすぐに購入され、買った人がお店にお弁当を受け取りにきました。
「500円でカレーセットが買えて、しかも食品ロスを減らせるのがいいと思いました」
「捨ててしまうものを買ってもらえて、おいしく食べてもらえるのはうれしいです」
サービスを立ち上げた川越さんが『食品ロス』の問題に関心を持ったのは、大学時代に飲食店でアルバイトをしたことがきっかけでした。食べ残ったものなどが毎日大量に捨てらているのを目の当たりにして、大きな衝撃を受けました。
「なんでこんなに残すんだろうと、怒りもあるし悲しみもありました」
いま川越さんは、若い世代に食品ロスの削減に関わってもらいたいと、定期的に学生たちと話し合う機会を持っています。未来のことを一緒に考えていくことが大事だと、考えているからです。
川越さんの取り組みを動画にまとめました。ぜひご覧下さい!
▼大学生が営む“おすそわけ食堂
▼私たちができること「食品ロスを減らす」
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食品ロスを減らせ 大学生が営む“おすそわけ食堂”
画像は、5/27放送のクローズアップ現代プラス「“新型コロナ” 日本の食に異変あり!?」から)
この問題をなんとかしたいと、高知県の大学生が、捨てられる予定だった野菜をつかって料理を提供する食堂をオープンさせました。高知放送局の取材です。
高知県香美市にオープンした、夜だけ営業する食堂。開いたのは大学4年生の陶山智美(すやま・ちみ)さんです。スタッフもすべて大学生です。
かぼちゃの煮つけや地元特産のりゅうきゅうの酢の物など、料理に使われている野菜のほとんどは、捨てられてしまう予定だった野菜です。
売れ残ったり、形や大きさが規格外といった理由で捨てられてしまう野菜を、農家から譲り受けているのです。定食が600円と手ごろな値段ということもあり、学生から親子連れなどから人気を集めています。
その後も何とかできないか考えた結果、捨てられてしまう野菜を活用して、食堂が開くことを思いつきました。農家に相談してみたところ、野菜などを提供してくれる人が現れました。
いまでは陶山さんの取り組みに賛同して「おすそわけ」してくれる農家は10軒以上になり、なすやきゅうりなど25種類の野菜をほぼ無償で分けてもらえるようになりました。
「いつか地域の人々に恩返しがしたい」。陶山さんの取り組みを動画にまとめました。
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テーマ音楽を手がけた音楽家・常田大希 ロングインタビュー
コチラも☞常田大希さん作曲「2992」 スタジオ収録に密着(1月7日公開)
今回は、テーマ音楽に込めた思いに加えて、「芸術とは破壊と構築を繰り返す」ことだという常田さんの信念や、幅広いジャンルの音楽を吸収してきたことが現在の創作活動につながっているといったエピソードなど、貴重な言葉が詰まったインタビューを番組の放送に先がけて公開します。(2020年10月13日収録)
(聞き手:「常田大希 破壊と構築」担当 髙橋隼人 ディレクター)
ロックバンド「King Gnu」(キング・ヌー)の作詞作曲を担当。2019年にソロプロジェクト「millennium parade」(ミレニアム・パレード)も本格稼働。同世代のクリエイターで構成されるクリエイティブチーム「PERIMETRON(ペリメトロン)」とともに音楽・映像・アートワーク・ライブのすべてで独自の世界観を築き上げ、若い世代から熱狂的な支持を集めている。
――今回のオファーを受けた時、率直にどう思いましたか?
常田:
硬派な案件きたなぁと思いましたね。NHKスペシャル、渋いなと(笑)10年後の地球の未来がテーマとして設定されていることが大事だなと思いました。環境問題は大事なことですが、自分にとってリアリティがあるかと言われると、正直あまりないかもしれません。でも、あまり普段そういった将来の大きな問題を意識することがないからこそ、これを機に勉強させていただきたいという気持ちで引き受けました。
――テーマ音楽はどういう思いで制作されたのでしょうか。
常田:
「地球を表現した」なんて寒いことは言いません。説教臭くなるし、絶対につまらなくなるので。だから、単純に音がかっこいいかどうかでつくりました。自分が持っている問題意識やアーティストとしての追求に素直に反応してつくった感じですね。
――完成したテーマ音楽のイメージを教えてください。
常田:
オーケストラを使うこともそうですけど、広い音響というか、大きな空間を意識していますね。自然や宇宙との親和性は高いんじゃないかな。番組で取り上げるテーマや映像に乗ったときに初めてリンクするのではないかと思っています。
――新型コロナウイルスの感染拡大で、春に予定していたKing Gnuの全国ツアーもすべて延期になりました。どう過ごしていたんですか?
常田:
今年1月に『CEREMONY』というアルバムを出して、これからという時期で残念な部分はもちろんありました。でも音楽家として世間に対してできることはほとんどないと思ったので、単純に自分たちが信じるものと向き合って作品を作るということをストイックにやっていました。
――そもそも常田さんはいつごろから音楽をやっていこうと意識されたんですか?
常田:
両親が音楽をやっていたこともあり、家に楽器やCDが山ほどあったんです。親が弾くピアノの音が家じゅうにあふれているような環境だったので、そういうものを聴いて育つ中ですごく自然に音楽に興味を持ちました。中学、高校くらいのときには自分の曲みたいなものは作り出していたので、そのころには意識して始めていましたね。
――その後、長野から上京して東京藝術大学に入学しましたが、どんなことを感じましたか?
常田:
もともと音楽や絵画などの芸術の魅力は「破壊と構築を繰り返し、今までのものをどう変えていくか」というところにあると感じていました。でも大学に入って周りの学生を見たら、習い事を続けるというマインドが強いと感じました。藝大の音楽は伝統芸能に近い気がして、そういう再現芸術のようなものにはあまり興味がなかったんです。だからここで4年間を過ごすよりは、腹をくくるためにポンと外の世界に出てみることにしたんです。
――実際に大学を辞めて活動を始めていかがでしたか?
常田:
当時、2010年代前半は世界各地のクラブシーンでビートミュージックが盛り上がってきている時期でした。新しい音やカルチャーが次々と作られていく中で、特にジャズやヒップホップをベースにしたLAのミュージシャンたちにけっこう影響を受けましたね。リアルタイムに音楽の進化を体感したことで、自分もこういうことがしたいというアーティストとしてのスタンスも見えてきて、日本のアーティストとしてどうすればいいんだろうみたいなことを考える日々でした。
――そうした試行錯誤があったからこそ、常田さんのジャンルを超えた音楽づくりにつながっているのでしょうか。
常田:
当時は、いろんな情報をとりあえず飲み込んで、体の中に残ったものを大事にするという作業をひたすら繰り返していました。飲み込むというのは、食わず嫌いをしないということです。別に好きじゃないけど何かあると感じたら1回食べてみる。その中で「このジャンル、この人たちにはこういう良さがある。この部分は好きではないけど理解はできる」みたいなことを確かめる作業ですね。
―常田さんが手がける楽曲を昔から知っている人にとって、「King Gnu」の『白日』などは、かなりポップで大衆向けの印象があります。何かねらいがあったんでしょうか?
常田:
たくさんの情報を吸収している時期にJ-POPにも触れていたので、それがKing Gnuの活動にもつながっています。僕たちは本来ヒットチャートを賑わせるようなシーンの人間ではないから、日本の音楽業界がすごく客観的に見えたんです。試行錯誤する中で、自分の知らない景色を見たいと思って、そういうポップな表現もしてみたくなったという感じです。ただ、J-POPで成功することが、音楽家としての成熟や進化を意味するかと言えばそれは違うと思うので、これが正解だとは思っていません。
――一方で音楽業界の真ん中にいて、売れるものも作ってほしいという周囲からの期待と、自分が本当にやりたい音楽との間で悩むことはありませんか?
常田:
もちろん悩むことも多いです。自分が価値があると思うものと世の中のニーズは必ずしもリンクしないというのは子どものころから染みついていることなんです。文化祭で何か演奏したときの反応を見れば一目瞭然で、流行の曲を演奏したらお客さんはすごく沸くのに、自分がかっこいいと思うものを演奏してもぽかんとされるみたいな。それでも、僕は音楽ってコミュニケーションだと思っているんです。自分の芯があって行くべき道はありながらも、それ以外を排除する必要はない。ちゃんとコミュニケーションをとればそこで得るものは絶対にあると思うので、あまり視野を狭めないように意識しています。
――常田さんは、King Gnuと同時にmillennium parade やPERIMETRONなど、複数のプロジェクトで活動されていますが、それはどうしてですか?
常田:
1個の箱で全部をやろうとするとすごく中途半端なものができてしまうというか、どちらにも振り切れないものになってしまう。それが気持ち悪くて、しっかり活動を分け始めたんです。アーティストは多数決をとる作業じゃないのに、大勢の意見に引っ張られてしまうことがよくあるんです。だから自分を強く持っていないと、どんどん多数決の作業になってしまう。例えば、音楽をしっかり勉強した身からすると10人中 9人がいいと思うものを作ろうと思えば作れるんですよ。ただ、最近は10人いたら10人とコミュニケーションがとりたいという性質の作品を作ることもありますし、10人いたら誰も理解できないようなものだって作る意味があると思って、腹をくくるようになりました。自由自在に飛び回りたいという気持ちになっています。
――常田さんは同世代のクリエイターの仲間と一緒に仕事をすることが多いと思いますが意識していることはありますか?
常田:
仲間と仕事をする上では、ポジティブな面がある一方で、甘えが生じるなどネガティブな面もあるので、お互いに仲間であることの意味や強みをちゃんと意識しなきゃいけないと思っています。それによって、この仲間でしか作れない作品や仕事ができるし、思いもよらないレベルに到達できるんじゃないでしょうか。
――最後に、常田さんがアーティストとして一番大切にしたいことと、最終的な目標を教えてください。
常田:
一番大切にしたいことは、自分が今まで積み上げてきた芸術の文脈、音楽の文脈にちゃんと敬意を払うことです。自分のやることは、そういう文脈の上に構築されているので、自分が納得できるかどうかをいちばん大事にしています。だから、アーティストとしての目標も納得できる作品を作り続けることです。人間として目標は、自分の葬式で愛する人たちが自分の死を悲しんで弔ってくれることでしょうか。
――ありがとうございました。NHKスペシャルで放送されるテーマ音楽、楽しみにしています。
記事☞ 常田大希さん作曲「2992」 スタジオ収録に密着
今後の放送について☟
「常田大希 破壊と構築」
放送予定 2021年3月5日(金) [BSプレミアム] 午後11:15-(89分)
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TOPIC⑱ アクセサリーが地球のミライに貢献!?
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TOPIC⑩ 自分にできること 「手軽でおしゃれなエコバッグ」を作る
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アメリカ大統領選挙 “バイデン氏勝利”と温暖化対策の関係は?
(地球のミライ 取材班 ディレクター 山下健太郎)
「温暖化対策というと『プラスチックを使わない』など小さな行動を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、個人が生活のなかでいくら温暖化に配慮しても限界があります。企業の活動を一変させるような強力な力が必要です。そして、それができるのは政府です。気候政策に大きなチェンジがなければ、この気候危機に対処することはできないのです」
(plus1vote のインスタグラムより)
この活動にはインスタグラムで世界3600万人のフォロワーを抱える有名モデルなど著名人も参加。結果、全米20万人以上が「VOTE」画像をアップするほどの広がりを見せました。さらに投票を巡る課題解決でもネットを駆使しました。ライドシェアサービス企業の「Lyft」と提携。投票所までの移動手段がない人に無料で送迎する取り組みを進め、投票率の向上を目指したのです。
ネットの拡散力を活用することと同じくらいにサードさんが大事にしていることが、一対一の「対話」です。新たに活動に参加したメンバーとのオンラインミーティング。16歳のケイリー・シェリーさんは、古着を活用したり、プラスチックを使わずマイボトルを持ち歩いたりするなど、普段からサステナブルな生活を実践してきましたが、政治への働きかけが重要だと考えるようになって、活動に参加しました。選挙権のない彼女にサードさんが伝えたのは、周りの誰か1人でいいから投票に行くよう語りかけて欲しいということでした。
「運動というと何か大勢の人に働きかけなければならないと思うかもしれませんが、そうではありません。身近な人の誰か1人の行動を変えるだけでも大きな変化を生み出すことができます。過去の選挙もわずか数百票の差が勝敗を左右したこともありました。私たちの団体plus1voteという名前もそういう思いを込めています」
投票日まで1週間を控えたこの日。サードさんは、街頭で投票を呼びかける最後のイベントを開きました。家族を期日前投票に連れて行った後、ケイリーさんも合流。サードさんに促され、彼女も拡声器を手にしました。
「私は16歳です。投票権はありません。では私の声は大切ではないのでしょうか。そんなことはないはずです。みなさんにお願いです。投票することができない人のためにも、私たちの声を届けるためにも、投票して下さい」
そして、開票後の混乱を経て、勝利宣言を行ったバイデン氏。地球温暖化対策に取り組むことを明言しました。
投票結果の分析を行っているタフト大学のグループによると、今回の大統領選で18歳~29 歳の52~55%が投票。前回2016年の42~44%を大きく上回りました (11月18日時点) 。またアリゾナ、ペンシルバニア、ミシガン、ジョージアなどの激戦州でバイデン氏が勝利したところにおいては、若者のバイデン氏に対する投票はトランプ大統領よりも高い結果となりました。(ミシガンはバイデン62%でトランプ35%など)。
バイデン氏支持の若者が優先順位が高いとした争点が、1位 コロナ対策、2位 人種差別、3位 気候変動、と温暖化対策が3位に位置していたことからも、サードさんたち温暖化対策に関心を持つ若者たちの行動が、大統領選挙の結果に少なからず影響を与えていたと推測できます。
サードさんは選挙の次を見据えています。
「ジョー・バイデン氏とカマラ・ハリス氏を選出することができて、とても嬉しく思っています。しかし、投票して終わりではありません。彼らが本当に温暖化対策を実行するように声を上げ続けることが必要です。私たちはようやく温暖化対策のスタートラインに立ったばかりなのです。」
このまま温暖化が進むとどのような危機が待っているのか。そして、危機を回避するために私たちは何をしなければならないのかー。
1月9日(土)放送のNHKスペシャル 2030 未来への分岐点・第1回「暴走する温暖化 “脱炭素”への挑戦」で詳しくお伝えします。
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NHK「SDGsキャンペーン」始まります!
持続可能で多様な社会の実現にむけて、NHKが一丸となって取り組むSDGsキャンペーン「未来へ 17アクション」が来年(2021年)1月から、スタートすることになりました。
キャンペーンの第1弾は、このサイト名と同じ「地球のミライ」 プロジェクト。各番組が集結し、さまざまな角度から地球環境について考えていきます。
メインとなるのはNHKスペシャル「2030 未来への分岐点」。
地球環境が”後戻りできなくなる分岐点”とされる2030年まで残り10年を切った中どうすれば危機を回避し、持続可能な未来を実現できるのか?「温暖化」「水・食料問題」「プラスチック汚染」について世界の最前線を取材します。そして、番組のテーマ曲を手がけるのはー
NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」のテーマ音楽は、いま注目を集める音楽家・常田大希さん(millennium parade/King Gnu)が制作しました。人気ロックバンド「King Gnu」のメンバーとして、作詞作曲を担い、若者たちの熱狂を集めている常田さん。その彼が、純粋に創造性を追求するために結成したプロジェクト「millennium parade」を率い、今回の楽曲作りに取り組みました。その思いを常田さんに聞きました。
―今回のオファーを受けた時、率直にどう思いましたか?
硬派な案件きたなぁと思いましたね(笑)
―それでは、なぜオファーを引き受けようと思ったんですか
10年後の地球の未来がテーマとして設定されていることが大事だなと思ったんですよね。普段、あまりそういった将来の問題を意識することがないからこそ、これを機に勉強させていただきたいっていう気持ちで引き受けました。
―テーマ音楽はどういう思いで制作されたのでしょうか。
自分が持っている問題意識やアーティストとしての追求に素直に反応してつくった感じですね。地球を表現したなんてことは言いません。説教臭くなるし、絶対つまんなくなるので。今回のNHKスペシャルで取り上げるテーマや映像と合わさったときに、初めてリンクするのではないかと思っています。
―テーマ音楽のイメージを教えてください。
広い音響というか、大きな空間は意識していますね。自然や宇宙との親和性は高いんじゃないかな。
また、常田さんの創作現場に長期密着したドキュメンタリー番組「常田大希 破壊と構築」1/8(金)午後10:00-10:44 総合も放送。今回のNHKスペシャル「2030 未来への分岐点」のテーマ曲は、オーケストラと現代の音楽を、常田さんにしかできないバランスで融合させた楽曲。そこに込めた“ミレニアム”=1000年後にも残る作品を生み出したいという壮大な“夢”への思いに迫ります。
今回、NHKスペシャルの主題歌と劇中音楽のオファーを頂きました。NHKスペシャルの思い出はアウシュビッツ収容所の特集回が特に印象に残っていまして、世界大戦時の人間の愚かさや恐ろしさを浮き彫りにしたそのドキュメンタリー映像を今でも鮮明に覚えています。社会問題と真摯に向き合うNHKスペシャルに協力が出来て、とても光栄に思います。
それに伴い、私のアーティスト活動に完全密着したNHKドキュメンタリーも放送されるということで、最近毎日のように密着されてる訳ですが、ただ黙々と作品制作を進めるだけの地味な日々ばかりにも関わらず(音楽家の日常なんて基本的にはそんなものなのです)、ドキュメンタリーチームは朝から晩から、時には朝から晩から朝まで中々しぶとく食らいついてきますね。お互い本気ですね。
NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」では今、注目の若手俳優、森七菜(もり・なな)さんがナビゲーターを務めます。環境意識が高まっていると言われる若い世代の後押しをして、行動する人々を増やしていくことを目指します。
台風や大雨など、大きな災害は毎年のように起きていて、 地元・大分県で暮らしているときにも大雨などを頻繁に経験して、怖い思いをしました。
でも、そのときは高台に逃げて時が過ぎるのを待つことしかできず、 もっと十分な知識があったら、そう思いました。例えば、地球温暖化の問題。
普段、街中を歩いていると地球温暖化防止のポスターなども見かけたりもするけれど、 多くの人が見慣れてしまい、なんの気無しにその前を通り過ぎてしまう。 麻痺(まひ)してしまっているのかもしれません。
でも、それは決して慣れてしまってはいけないこと。
今、何を学び、何を大切にするか、私も皆さんと一緒に学び考えていきたいと思います。
今後の放送について☟
NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」
?①暴走する温暖化 “脱炭素”への挑戦 1/9(土) 夜9:00-
?②飽食の悪夢~水・食料クライシス~ 2/7(日) 夜9:15-
?③プラスチック汚染の脅威 大量消費社会の限界 2/28(日) 夜9:00-
※「NHKスペシャル」はNHKワールドJAPANで英語版を全世界に放送配信
※気候変動のデータを映像化したインフォグラフィックの一部は、NHKアーカイブスポータルサイト内でダウンロード提供します。https://www.nhk.or.jp/archives/creative/
☞1月からのプロジェクトに先駆けて、さまざまな番組でも「地球のミライ」を考えます。
?不可避研究中「#地球、詰んだ? 私たちはずっとクリスマスを祝えるんだろうかSP」 12/25(金) 夜11:45-
?BS1スペシャル「グリーンリカバリーをめざせ!ビジネス界が挑む脱炭素」 1/3(日) 夜10:00-
?BS1スペシャル「クライメート・ジャスティス パリ"気候旋風"の舞台裏」 1/3(日) 夜11:00-
?「チコちゃんに叱られる!」 1/8(金) 夜7:57-
ウェブサイトやSNSでも☟
?みんなでプラス「地球のミライ」:関連記事を多数掲載予定
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0019/
?YouTube:NHK公式チャンネルにて配信予定
https://www.youtube.com/user/NHKonline
?Twitter:各番組の公式アカウントから関連情報を発信予定
クローズアップ現代+@nhk_kurogen、NHKスペシャル@nhk_n_sp、
NHK MUSIC@nhk_musicjp、不可避研究中@nhk_fukahi、広報局@NHK_PRなど。
?世界同時アンケート「未来計画Q」
NHKワールドJAPANでは、世界の放送局やNGOと若い世代の環境問題への意識について、世界同時アンケートを実施しています。(12月17日まで)これまでのアンケート結果はこちらから↓
☞ TOPIC㊷世界同時アンケート「未来計画Q」新型コロナ後の社会と環境問題
☞ TOPIC㉙ 世界で同時にミライを考えよう
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気候変動に対策を! 日本でも声を上げ始めた中学生・高校生たち
(「地球のミライ」取材班 捧 詠一 ディレクター)
「社会問題に対して行動する人を『かっこいい』と思える社会にしたい」と考え、オンラインコミュニティの運営や、中高生記者が社会課題の現状を取材・発信するメディアサイトの開設、大手電機メーカーやクリーンエネルギー事業を営む企業などに、中高生の思いとニーズを伝える勉強会の開催などを行ってきました。
この日のオンラインイベントでは、環境問題の改善に取り組んでいるアウトドア企業の社員を招いて講演会を開催。参加者はWebで応募した中高生です。気候危機のために企業が行っていることを学んだ上で、「自分たちなら実際の店舗を使って、気候危機問題にどうアプローチするか」を提案します。中高生に学ぶ機会を提供しつつ、中高生の声を企業に直に届けることで、企業活動をより環境に配慮した方向へと導こうねらいです。
「気候変動や気候危機がもっと身近に感じられないといけない。企業や国が色々やるのも大事ですが、『気候問題に取り組むのは特別なこと』とか『環境問題やってる人すごい』って思ってるだけじゃダメだと思う。その辺の意識が変わってほしい」
「Sustainable(サステナブル)のオプションが増えるといい。オーガニックとか増えだしてきているけど値段が高かったり、選択肢が少なかったりするので。2030年までにはもっとオプションが当たり前にたくさんあって、みんなが手に取れるような価格になっていてほしい」
まず行われたのは、参加企業の札幌支店からの中継リポート。現地の建物保存に貢献するため、築146年の石蔵を店舗として活用していること。床には、廃屋から切り出した木材を使用していること。札幌市主催のSDGs講座に社員が参加し、学びを深めると同時に地域とのつながりを築いていることなどが紹介されました。
また、環境対策の担当者からは、30年以上前に自社商品のコットンTシャツから有害物質・ホルムアルデヒドが放出され、店内にいたスタッフが体調不良になった経験があること。それは、コットン栽培時に大量の殺虫剤を使用したのが原因だったこと。以来、環境への配慮に会社として傾注し始めたことなどが語られました。
…とは言っても、初対面の中高生同士がグループになっても、最初は何から話を切り出してよいのやら。気恥ずかしさもあり、まずは探り探り。
「そもそも同じ店に通うことがある?」という素朴な疑問から。
「私はこれまで結構引っ越すことが多くて、今住んでいる地域にどんな店があるのかもよくわかっていない。一つの店に通い続けるってこともあまりなくて、ちょっと“同じ店に通う”事に対してモチベーションがわかない」
「僕も同じ店に行くのは多くて3回位ですかね、通ったとしても。美容院だったら家族が同じとこ行ってたりするけど、『この前、お母さんがこんな事言ってたよ!』って店員さんに言われるとちょっとイヤな部分もありつつ…。アットホームなところもあるんですけどね」
「僕も、店に通うというのがあまりない。店員さんと仲良くなった経験は今までない…。通えば、交流とかすごくできると思うんですけど…」
ネットで服を買うこともできるし、同じ店員さんに何度も会うのも気が引けて、そもそもあまり店に通わないという意見で一致。
じゃあ、「通いたくなる」×「地球に優しい」店舗とは?
ここで、先ほどのレクチャーで話に出た、「9か月長く服を使えば、服の生産などで使用する水やエネルギー、発生する廃棄物を20~30%減らすことができる」という情報からアイデアを広げていきます。
「1度着古した製品を店舗が回収して、修繕して安い価格で販売して、エコにつなげるとか。安ければ学生とかたくさんの人が手を出せる。もともと高くてもいい製品なら、古着でも長く使える。自分で修理するワークショップ開催もいいと思う!破れてるところにパッチを貼ったりして。『長く使い続けよう』っていうワークショップを通じて、持続可能につなげていくことができると思う」
「いま古着って結構、中高生の間で流行っているイメージがある。結構みんな古着活用して、下北沢とか行っている子が多いから、『古着』っていうワードは中高生が引かれるワードだと思う」
「店舗で、古着とか、修理したものを例えば学生限定で売るとか。かつ、もっと定期的に来られるように、そこに自習スペースを作るとか。そうしたら気軽に来られるし、忙しいときでも勉強できるならみんな来るし」
「コミュニティを作るってこと?環境に興味がある人同士で話したりもできるね」
「そう。中高生のコミュニティを作って、心の豊かさを作ることによって、環境に目が向けられるようにするとか。環境に限らず、色んなことをカミングアウトし合える場になっていけばいいし。社員さんもうまく話しかけてくれれば、孤独感を感じている人の救いになるかもしれない」
次第に、考えることが楽しくなってきた参加者達。グループごとの考えを発表する時間が迫る中、協力してスライドを作り上げていきます。
そして、発表の時間に。
1グループ目は、「中高生が通いたくなる、自習コーナーや古着コーナーを併設した店舗」を。
2グループ目は、「店舗を再利用資源で建設し、売れ残った商品のみ安価で販売する古着専門店」を。
3グループ目は、「衣類の交換会などイベントを通じて消費の責任を実感できる店舗」というアイデアをプレゼンデーションしました。
プレゼンテーションを聞いた企業担当者も、「自分たちの目線に立って課題を突きつけてくれて大変参考になりました。是非、社内での提案に、みなさんのアイデアを活かさせていただきたい」と喜びの声が。
学生は学びと考える機会に。企業は持続可能なビジネスのヒントに。互いに有益な時間となったようです。
☟気候変動に立ち向かう若者たちの動き☟
TOPIC㊶目指せ2050年温室効果ガス「実質ゼロ」私たちの声を届けたい
TOPIC㉔ 広がる輪 つながる若者たちの思い
TOPIC⑧ グレタさんの言葉に触れて、立ち上がった若者たち2
TOPIC② グレタさんの言葉に触れ、立ち上がった若者
「自分たちのミライを明るくしたい」という中高生たちの想いに、大人たちはどう報いることができるのか。知恵を出し合って、持続可能な社会を作り上げようと葛藤する動きに、どう自分も加わっていくのか。
時代も社会も動き続けています。みなさんは、今、何をすべきだと感じますか?
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