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#Beyond Gender
2021年6月3日

ジェンダーをこえて考えようVol.19  トランスジェンダーのハナ 演じた2人の思い

6月4日(金)からオーストラリアのドラマ『ファースト・デイ わたしはハナ!』(全4回)が放送されます。主人公のハナはトランスジェンダー。男の子の体で生まれ、自分の性に違和感をもちながら生活してきましたが、中学生になるのを機に女の子として生きることを決意。家族に支えられながら 新しい友だちや先生との出会いの中で新たな一歩を踏み出すストーリーです。

主演を務めるのは、みずからもトランスジェンダーのイーヴィー・マクドナルドさん。日本語版の吹き替えを担当するのは井手上 漠(いでがみ ばく)さん。放送前にふたりにこのドラマや自身について話を聞きました。



“わたしの経験も含まれた「ハナの物語」”
物語は、小学校の卒業を間近に控えたハナが、女の子として生きていこうとするところから始まります。ハナを演じたイーヴィーさん自身も幼い頃から自分の性に違和感をもって生きてきた経験があります。


(イーヴィーさん演じるハナ<左から2人目>と新しい友だち 『ファースト・デイ わたしはハナ』より)

Q:「ハナ」を演じてどうでしたか?

イーヴィーさん
演じてみて もっとも難しかったのは、自分が経験してきた感情をハナとして再現することでした。自分自身の感情を思い返し、ハナに合わせて変えたりもしました。ハナの物語は、たくさんの人の実話をベースにしたものなんです。なるべくリアルにするために制作チームはトランスジェンダーの人々を取材しました。物語にはわたしの経験も含まれています。

Q:イーヴィーさんは何歳くらいから「自分は周りとは違う」と思い始めたのですか?

イーヴィーさん
5歳のころから、自分は友だちとは違うなと思い始めました。その前から自分は女の子だと思っていたのですが、両親から わたしは女の子ではないと言われていたので戸惑っていました。でも、学校に行き始めて自分が周りとは違うと はっきり分かったんです。

Q:当時は誰かイーヴィーさんのことを理解してくれましたか?

イーヴィーさん
わたしの両親が支えてくれました。ふたりに理解してもらうまで9年間、口論と対話を繰り返しましたけどね。今は家族にも友だちにも本当の自分を受け入れてもらえていることが、大きな力になっています。

Q:日本の学校では、男子と女子で分けられることが多いですが、そういう経験はありますか?

イーヴィーさん
はい、ありました。オーストラリアでは、天気が悪いと屋外授業が室内授業に切り替わるんですが、ある雨の日に、男子は体育館で運動を、女子は教室で絵や工作をすることになりました。わたしはスポーツではなく、女の子とたちと教室に残っていたかったのに、先生はわたしを教室から引きずり出したんです。両親はひどく怒って、その日に学校を辞めさせてくれました。


(現在、高校生のイーヴィー・マクドナルドさん)

Q:第2回(6月11日放送予定)では、ハナが一番の親友に自分がトランスジェンダーであることを打ち明けるシーンがあります。あなた自身が友だちに初めてトランスジェンダーだと伝えたときはどんな気持ちでしたか?

イーヴィーさん
わたしが友だちのひとりに、生物学的には男性で生まれたんだと伝えたとき、その子は気にしませんでした。一緒に笑って、「あなたはあなただよ」と言ってくれたんです。とてもすてきな経験でした。否定的な反応をする人もいますが、気にしないようにしています。

Q:女の子であることを打ち明けてよかったと思っていますか?

イーヴィーさん
打ち明けたことは後悔していません。最大の後悔は、もっと早く打ち明けなかったこと。女の子として生活を始めてから過去を振り返ったことは一度もありません。自分の中に秘めていた本当の自分を外に出すことができたとき、心からうれしかったです。何ものにも代えがたい気持ちでした。

Q:あなたにとって理想的な社会は?

イーヴィーさん
お互いを認め合い、相手に優しくできる社会。そして、知らないことを学ぼうとする社会です。 オーストラリアでは、同性婚が認められ、また、“紫色を身につけようデイ*”や“トランスジェンダー認知の日**”などを通して、人々の多様性への意識を高めようとしています。でも、小学校や中学校の教育はもっと改善できると思います。人種やインクルージョンなど多様性を教える科目を作ることが重要です。わたしはこれまで、みんなから あらゆることを質問され、説明してきました。それは子どもたちの多くがトランスジェンダーであることはどういうことかを知らないから、わたしのような人について教えられていないからです。

*紫色を身につけようデイ(Wear It Purple Day)…オーストラリアの若者が運営する非営利組織がLGBTQの人たちへの理解と認知を広げるために毎年開しているイベント。紫色の服を着てLGBTQの人たちへの指示を表明する。
**国際トランスジェンダー認知の日(International Transgender Day of Visibility)…毎年3月31日。世界中のトランスジェンダーの人たちの活動や勇気を祝い、差別の現状を知る日。


Q:「ハナ」のように生きづらさを感じている子どもたちにメッセージはありますか?

イーヴィーさん
自分自身に正直でいてほしいです。周りから「あなたはこうあるべき、こうあってはならない」と言われても、どんな自分になりたいかを決めるのは、あなた自身です。だから自分に正直に生きてほしいです。

“性別の壁をリアルに描いたドラマ”

(声優に初挑戦した井手上 漠さん)

日本語吹き替え版のハナの声を担当した井手上 漠さんは、体は男性、心は“男性っぽい部分”と“女性っぽい部分”の両方をもつ18歳です。

Q:『ファースト・デイ』の見どころは どんなところですか?

井手上さん
このお話は、自分の18年間の人生と少し重なる部分が多くて。目に見えにくい部分とか、当事者でないと分からない壁をすごくリアルに描いています。性別の壁の問題を、このドラマを通して、みなさんにお見せすることができたらと思います。

Q:お気に入りのシーンはありますか?

井手上さん
二つあります。一つ目は、ハナはあんまり人に自分のことを話すことができない子なんですが、仲良くなったお友達に自分のことをカミングアウトするシーン。見ていて自分も心動かされるというか、自分と重なったというのもあるんですけど、すごく感動しました。いろんな人に届けられるメッセージがあのシーンだけでもあるんじゃないかなというくらい、すごく感動的なシーンで好きですね。

もう一つはハナが女の子の制服を着て、学校に初めて登校する日に、家でお兄ちゃんがさりげなく朝食を食べて、ハナの姿を見て、「あっ、かわいいじゃん」って言うんですよね。それが、なんかきょうだいなんだけど、しっかりハナのことを見ていて理解していて。その言葉が、お兄ちゃんからしたら さりげないんだろうけど、ハナからしてもそれが普通なんだろうけど。いいきょうだいだなと思うし、血がつながってるからこそのあの軽い表現っていうのが、わたしはすごく重く感じて。あのシーンは一番好きかな。


(ハナと親友たち 『ファースト・デイ わたしはハナ』より)

Q: ご自身が友達に助けられたりした経験は?

井手上さん
友達に助けられたことは何度もあります。学校生活では友達といることが多いじゃないですか。わたしの大親友が一人いて、その子だけはわたしを見捨てないでくれていたんですよ、ずっと。「この子だったら、打ち明けても大丈夫な気がする」っていう子が一人でもいると、やっぱり、そこに逃げ込むっていう言い方はあれかもしれないけど、頼りたくなるんだなって。そこもすごく共感しました。ジェンダーのことだけじゃなく、誰でも悩みを持っているものだし。逃げられるところがあるというのを見つけたハナもすごいし、共感しました。

Q:今回、声優 初挑戦でしたが、いかがでしたか?

井手上さん
一番最初にご指導いただいたとき、本当にうまくできなくて、正直泣きそうだったんですよ。いろんなお仕事をしてきた中で、声のお仕事は初めてで。今までのお仕事は自分の中では、うまくできていたなって感じでしたけど、この声のお仕事は初めて詰まったというか、自分の中ですごい高い壁だなと感じて。普通のお芝居とは違って、その声で人の感情とかを表現する。声だけで感情を表現するというのが思った以上に難しくて。でも、自分だから演じれるハナというのが絶対にあるから、それだけはこの作品に残したい。そういう思いはありますね。

Q: このドラマを見る人に、どんなことを感じてほしいですか?

井手上さん
日本って、ちょっと昔ながらの風潮だったりを大事にする国じゃないですか。「男らしさ、女らしさ」や「男はロマンだ」みたいな感じから、なかなか抜けきれていなくて。わたしみたいな人たちが増えている時代で、新しく(昔ながらの風潮を)進化させていいものも、たくさんあるんじゃないかなって思うんですよね。

このドラマはすごくリアルな作品になっています。きっと、性別の壁にぶち当たった当事者だけでなく、当事者以外の人たちにも何か感じるものだったり、心動かされるものが、この作品には詰まっていると思います。その主人公ハナを演じることができるというのはすごく光栄ですし、本当にいろんな人にこの作品を見てほしいです。特に今の時代だからこそ、伝えられることが たくさんこの作品には詰まっています。

第1回「新学期はドキドキ…」のストーリーは

(第1回 『新学期はドキドキ…』より)

女の子として生きる決意をしたハナ。新しい友だちもでき、中学校生活は順調にスタートしたものの、学校側との約束で「だれでもトイレ」を使わなくてはならなかったり、“友だちに秘密を知られたら…”など不安もいっぱい…。ある日、ハナの”過去”を知る幼なじみと出くわします。どうする、ハナ!

【放送予定】
海外ドラマ 『ファースト・デイ わたしはハナ!』 (全4回)夜7:25~
[Eテレ]
6月 4日(金) 第1回 「新学期はドキドキ…」
6月11日(金) 第2回 「信じてもいい?」
6月18日(金) 第3回 「気分はサイアク」
6月25日(金) 第4回 「わたしらしく」

みなさんは、自分や大切な人が、ハナのように体の性に違和感を感じて悩んでいたら、どうしますか? この記事を読んで、また、『ファースト・デイ わたしはハナ!』を見て、どう思いましたか? あなたの感想や考えを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。