クローズアップ現代トップ > みんなでプラス > インクルーシブな社会のために > マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
2020年12月2日

マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"

足が速いんでしょ」「英語ペラペラなんですよね」「元々黒いから日焼けしなくて、いいね」――日本に住むアフリカをルーツにもつ人たちがたびたび言われるという言葉です。
ふだんの会話の中で、何の気なしに発せられるものですが、中には言われた側が傷つき、さらにいじめや差別などにもつながることもあることもわかってきました。こうした行為は「マイクロアグレッション(小さな攻撃性)」とも言われ、海外では長らく問題視されています。
「マイクロアグレッション」がなぜ、どんな場面で生まれるのか。傷つく人を減らすためにどうしたよいのか考えます。
(取材:「おはよう日本」ディレクター 加藤 麗)

渋谷で開かれた#BLMデモに3500人が参加

わたしは大学時代、アフリカのルワンダ共和国に10か月間留学した経験があり、アフリカや黒人差別の問題に関心を持ってきました。人種差別に対する抗議の波が世界中に広がり続けていた6月、東京・渋谷で行われた#BLM(ブラックライブズマター)のデモの現場を取材しました。この日、渋谷のデモに集まったのは3500人。私は参加者たちが掲げるボードの一つに目が止まりました。「BLMは対岸の火事じゃない」ー


2020年6月に渋谷で行われた#BLM デモ



「“黒人”としてではなく、人として接してほしい」

日本も「対岸の火事じゃない」とはどういうことなのか? 私は日本に住むアフリカにルーツを持つ若者たちの”居場所”として活動する「アフリカン・ユース・ミートアップ」に取材を申し込みました。代表の三浦アークさん(17・高校生)は、東アフリカのウガンダ共和国と日本のルーツを持ち、日本で生まれ育ちました。


はじけるような笑顔が印象的な三浦アークさん 実体験を動画にし自作曲とともにSNSに投稿している


三浦さんは中学校でバスケットボール部に入部すると、すぐに周囲から「スポーツがうまそう」と声をかけられ、チームの戦力として期待が寄せられました。しかし「期待に応えたい」という気持ちとはうらはらになかなか上達せず、逆にからかわれるようになります。それはやがていじめへとつながっていきました。

日焼けをした同級生が肌を並べてきて「三浦と色が近づいた」と嫌そうに言うなど、外見の違いをネタにしていじめられることも重なり自尊心を失っていきました。そのうち学校が怖くなり、不登校になりました。

三浦アークさん
「“黒人“としてみんなが期待するように運動ができるわけでもない。日本では、髪がサラサラで肌が白くて小柄な女の子がかわいい、と言われるけど自分は正反対。残念な存在だなと思っていました


「目立ちたくない」という思いから、三浦さんはカメレオンのように、その場の状況に適応することを心がけてきたといいます。高校に入るといじめはなくなりましたが、制服で立っているだけで職務質問を受けたり、行く先々で出身国を聞かれるなど、見た目だけをもとに判断されていると感じることは続き、自分は何者なのか?という問いに苦しめられました。

三浦アークさん
「17年間日本で育っているので見た目以外は日本人なんです。それなのにどこに行っても外人というレッテルで見られているように感じます。一人の人として接してもらいたいそれが一番の願いです」


三浦さんが仲間と立ち上げた”アフリカン・ユース・ミートアップ”の集まり


一人悩んだ経験生かして 高校1年で”若者の居場所づくり”

周りに相談できる人がおらず一人で悩んだ経験から、三浦さんは高校1年生だった去年、同じようなルーツを持つ若者が集まる“居場所”にしたいと、「アフリカン・ユース・ミートアップ」を立ち上げました。いまは月に1回ほどオンラインでミーティングを開いています。 仲間と話すことで三浦さん自身、⾃らのルーツに誇りを持てるようになっていったといいます。

三浦アークさん
「いじめを経験すると、みんな自分を ”ダメな存在だ” と責めてしまうんです。でも肌の色みたいに、自分では変えられないものを理由に、言われる言葉が(他の人と)変わるのはよくないですよね。これは普通の人がしない経験です・・・。同じ経験やルーツを持つ人たち同士でアドバイスし合うことで”自分は自分でいい” と思い直せるように。”自分を責めないで生きてほしい” と伝えたいです」


アフリカンルーツの若者が日本社会で経験する差別

三浦さんが体験したような「肌の色やルーツに対する差別」はどのくらい起きているのか。アフリカにルーツを持ち日本で育った5人に集まってもらい、差別にあった経験についてたずねました。似た背景を持つ者同士が集まっている安心感もあってか、ふだんの生活の中ではあえて話さないような体験談が次々と出てきました。

「患者さんを治療しようとしたら ”このゴリラめ”、”お前みたいな原始人めが” って言われて、すごくショックを受けて、何も言えなくて言い返せないでいたら、”お前なんかもう看護師になるんじゃねえ!”、”もう別の人呼んでこい"」とか言われて。結局ちょっと半泣きしながら先輩を呼んできて先輩と一緒に謝ったんですけど、次の日に思い出してブワァってすごい泣きました(ナナさん・仮名/看護師)」

「職務質問をしょっちゅう受けます。止められるだけならまだ我慢できるんですが、”クスリをやってるんだろう” って決めつけて言われちゃうんですよ。”黒人って財布のここの部分に麻薬が入ってるんだよね” みたいな。(ナカオ・エイベルさん/モデル)」

「”お父さんどこの人?”と聞かれて、ガーナ人ですっと言うと ”じゃあ出稼ぎなの?”、”どこの部族なの?” とか。アフリカ系の人とか黒人系の人が野蛮だったりとか知能が低いとか、そういうイメージを持って前提として話されるんです。”日本人と結婚できてお父さんラッキーだったね” みたいなこととか。(アリサさん・仮名)」


悪意のない発言にも潜むネガティブな力

そして5人が口をそろえたのが、明らかな差別だけでなく悪意のない言葉や行動のなかにも深く傷つくものがある”ということでした。

・「足が速そう、歌やダンスが得意そう」と言われる
・「その髪どうなっているの?」と言われ、勝手に触られたり引っ張られたりする
・「元々黒いから日焼けしなくて、いいね」と言われる
・「英語が話せない」と言うと、「変だね」と言われる
・「日本で育ちました」と伝えても、「お国はどちら?いつ帰るんですか?」と聞かれる
・レストランで、日本語で話していても英語のメニューとフォークが出てくる


当然ながら、アフリカをルーツに持つ人でも、運動や歌などが苦手な人はたくさんいます。得意でないことに過度なプレッシャーをかけられることで、期待にこたえられない自分を責めてしまい、自尊心を失ってしまうといいます。

ルーツのある国を聞かれることも、1回なら問題がなくとも、1日に何十回も、毎日のように質問されると「あなたはこの国の人ではない」というメッセージとなり、心の中に積み重なっていくといいます。

今回参加してくれた5人は、長年こうした言葉に悩まされてきましたが、そのことを特に声に出して発信することはありませんでした。周囲に相談しても「気にしすぎ」「聞き流せば良い」と言われることが多かったからです。

日本人vs外国人のようになってしまうのは望んでいません。相手に悪気がないこともわかっているので、加害者であるかのように責めることはしたくないですし、今まで強く指摘しないようにしてきました。でも、僕らの下の代の子たちも同じことで苦しみ続けています。僕はモデルですが、自分が世に出ることで、僕らの経験や思いを理解してもらうきっかけになればと思い、この職を選びました」(ナカオ・エイベルさん/モデル)

座談会で語るナカオ・エイベルさん(モデル)


放っておくと危険な「マイクロアグレッション」

アパルトヘイトなど差別問題の解決に長年関わり、アフリカにルーツを持つ日本の若者の支援を行っている津山直子さん(アフリカ日本協議会代表)に、5人の体験を読み解いてもらいました。「明らかな差別に見えなくとも、先入観や偏見を基に相手を傷つける行為」は「マイクロアグレッション」(小さな攻撃性)と呼ばれ、アメリカでは1970年代から問題視されてきたといいます。

下の図はマイクロアグレッションの危険性を示した「ヘイトのピラミッド」です。

監修: アフリカ日本協議会代表 津山直子さん


1つ1つは大したことがないように見えても、小さな攻撃性を持つ言葉や行為が社会にまん延すると、ピラミッドの上段にあたる、よりひどい差別が起こりやすくなります。社会に偏見が広がると過激な差別発言をする人が増えますし、ステレオタイプを元にした”からかい”が増えれば、いじめにつながりやすくなるといわれています。こうしたことは、国を問わず、特にマイノリティや力の弱い人々に対して共通して起きている問題だといいます。


「マイクロアグレッション」をどうしたら無くせる?解決へのヒント

先日、「おはよう日本」でマイクロアグレッションについての企画を放送し、 それを動画にしてSNSでも投稿したところ、”何の気なしの言葉に傷つくなどと言われたら、コミュニケーション自体しづらくなる” という意見を数多く頂きました。マイクロアグレッションをなくすためにはどうすればいいのか。座談会の5人の意見を紹介します。

「やっぱり学校教育が変わってほしいです。黒人奴隷としてだけでしか私たち(のルーツ)が描写されてないんですよね。それも歴史の記録の問題かもしれないですが、今はどうなのかとか、身近な生活につなげるディスカッションをもっとしたほうがいいと思います。(三浦アークさん/高校生)」

「ふだん日本で見かけるアフリカの映像って悪い面ばかり。アフリカは貧しくてみんな飢え死にしてるわけじゃないのですが・・・。”今でもジャングルで住んでる人とかいるの?” って聞かれたんですよ。"いるかもしれないけど、ほぼいません" って感じです。アフリカ人はみんなジャングルで動物と暮らしてる、みたいなイメージがまだあるということが、よくないと思います」。(ナナさん・仮名/看護師)


日常会話の中で、ちょっと気をつけるだけで大丈夫、という具体的なポイントも教えてもらいました。

「みんな日本に住んでいるので ”ハロー” とかじゃなくて普通に ”こんにちは”でいいです。”ハロー” と言われると ”こんにちは、でも私は日本人です” っていうところからのスタートになっちゃうので。(アリサさん・仮名)」

バックグラウンドとかそういう質問を投げかけてもらう時に、”もしこれ聞いて傷ついたら申し訳ないけど” とか前置きがあってくれるとすごくいいなって。(マヤさん・仮名/デザイナー)」


いま「マイクロアグレッション」を考えたい理由

取材をしていると私自身、ギクッとすることが多くありました。私もアフリカに留学していたとき「目が細くてキレイだね」「日本人だからカンフー上手いでしょ」などと言われ、悪意がないとわかっていてもモヤッとした経験があります。にもかかわらず、自分も日本でアフリカのルーツを持つように見える人に対して「きっとこうだろう」という安易な推測をもとに発言をしてしまったことがあると思うからです。

親切心やほめことばが、マイクロアグレッションにつながってしまう場合もあり、どこからがマイクロアグレッションかというのは難しい問題です。だからこそ取材した皆さんも「自分だけが我慢すれば良い」と声を抑えてきたのだと思います。今回、勇気を出して取材を受けてくれた人の中には、涙ぐみながら、複雑な心境や差別体験を語ってくれる方が多くいました。

誰が悪い、何が悪いという話ではなく「外国人=全員よそから来た人」という先入観を疑い、コミュニケーションすることが大事だと感じました。日本には、多種多様なルーツを持つ人々がいて、日本人として生きている人も数多くいます。相手がどういう事情や思いを抱えているのか、もっと想像をしながら接することが、社会の“⽣きづらさ” をなくしていくためのカギではないかと感じています。
(取材:「おはよう日本」ディレクター 加藤 麗)


【あわせて読む】
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【後編】『表現の自由』どう考える
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【前編】差別あおる言葉なくすには
・いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”
・在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント 
・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声