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2020年11月27日

在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント

11月に放送した クローズアップ現代+「日本で暮らし続けたい~ルポ“在留資格”のない子どもたち~」では、在留資格を持たない、いわゆる“非正規滞在”の外国人について取り上げました。こうした非正規滞在の外国人と諸外国はどう向き合っているのか。日本と異なる制度や仕組みを導入している2か国について、海外の移民政策に詳しい小井土彰宏・一橋大学教授にお話を聞きました。
(取材:「クローズアップ現代プラス」ディレクター 前田 陽一))

非正規移民の若者たちを救った!? アメリカの注目政策

まず、最初に紹介するのはアメリカ合衆国です。「移民の国」として知られるアメリカは、非正規移民の数が推定1150万人。トランプ大統領の非正規移民に対する強硬策は、報道などを通して知っている人も多いでしょう。非正規移民に対して厳しい国、というイメージがあるアメリカですが、注目すべき政策があります。それが「DACA(ダカ)」プログラムです。DACAによって、2012年以降、76万の若者が暫定的ながら、一定の権利を認められています。

DACAとは?
若年移民に対する国外強制退去の延期措置(Deferred Action for Childhood Arrival)のこと。子どものときに親に連れられてアメリカに不法入国した人などの強制送還を猶予する制度です。猶予は2年間で、更新可能。

DACAに至る背景 声を上げ続けた非正規移民の若者たち

2000年代、アメリカでの非正規移民が1000万人を超え、改革が必要と求められていきますが、その中でも柱として考えられたのが、高学歴層の若者の滞在と就学・就労を承認するという目的で提案されたドリーム法案(DREAM ACT)でした。ドリーム法というネーミングには、困難な中で大学進学を果たすなど、非正規移民の若者が実現してきたものこそがまさに現代のアメリカン・ドリームであるという意味が込められており、数世代前に夢を追ってアメリカにやってきた多くのアメリカ市民たちの理解を受ける狙いでつけられました。

しかし、この法案はなかなか実現しませんでした。変革を訴えて登場したオバマ大統領は、非正規移民たちからドリーム法案の実現を強く期待されていました。しかし、グローバル金融危機を背景に登場したオバマ政権は、本格的な改革に着手できませんでした。共和党が支配する連邦議会でもドリーム法案は繰り返し挫折します。
それどころか、日本ではあまり認識されていませんでしたが、オバマ政権は多くの非正規移民たちを強制送還し、その数は一時年間40万人に達したほどです。きわめて大規模な強制移動です。

(非正規移民の若者と面会するオバマ元大統領)

DACAは、このような大きなジレンマの中でオバマ政権が状況の突破口として編み出したものでした。2012年6月にオバマ政権は、立法府である連邦議会を通さない形で、連邦の方針として該当者に強制送還を猶予し、一定の権利を与えることを決めたと発表しました。

その該当者とは、16歳未満で国境を越えて米国に来て、成長して大学に進学したり、高校在学中で大学進学が可能な状態にある人でした。加えて、非行集団に属した経験などがないといった、アメリカ社会に順調に適応しているという条件を満たしていることが求められます。

DACAがもたらしたものとは

彼らに与えられる権利は、強制送還の2年間の猶予です。暫定的ではありますが、合法的にアメリカに滞在することが認められ、DACAと記された身分証明書を与えられ、大学の進学奨学金への応募も幅広く認められるようになります。

そして、卒業後は、合法的に就労が可能となります。これまで学費を稼ぐために例えば家事労働や、洗車といった、低賃金で流動性が高い職種で働かざるを得なかった彼らが、DACA認定を受けることで、大学で学んだ内容を活かせるような職種につくことが可能になっていきました。
DACAの権利の有効期間は2年間で、完全な合法化・正規化とは異なるものの、更新が可能でそれが繰り返される限りは、就労に支障もありませんでした。

DACAは非正規移民の子どもたちに何をもたらしたのか。複数の専門家の実証研究によると平均的な時給や所得の上昇といった経済的な改善が見られました。また、ホワイトカラーの専門職への就職、大学院への進学という形で、自らの職業的能力を発揮したり、知的能力を向上させたりするルートが増えました。
例えば、国内有数の名門大学であるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)には数百名のDACAを受けた学生がいるという報告もあります。


(DACAを求める非正規移民の若者たち)

トランプ政権による移民排斥ばかりがクローズアップされるアメリカですが非正規移民に対する政策の中には日本も学ぶべきものもあります。もちろんDACAには、高学歴層に限定するなど、様々な問題がありますが、結果的に救われている人がいるのも事実です。そして、それが実現した背景には声を上げ続けた当事者たち、彼らの力を必要とする産業界の声など、様々な要素が相まっているのです。
DACAに否定的だったトランプ政権の終焉が確実になってきたことにより、この制度の存続が可能になる見通しとなりました。今後、非正規移民の若者のより安定的な権利に向けての議論が再び活発化していくものと考えられます。


ヨーロッパ中でも“ユニーク”な移民政策で知られるスペイン

次にご紹介するのは、移民を巡って揺れ動いてきたヨーロッパの中でもユニークな政策で知られるスペインです。知らない人も多いかも知れませんが、21世紀の最初の10年間で、アメリカに次ぐ世界二位の移民受け入れ国となったのがスペインで、人口4000万を切る程度の国だったのが400万人以上を新たに受け入れた結果、人口に占める移民の割合は12%を突破しています。これはヨーロッパの中ではドイツに匹敵する数字です。その後、経済危機により近年は減少に転じました。
しかし、より注目すべきはこれだけ短期間に急激な移民人口増を見ながらも、スペインでは本格的な移民を巡る深刻な社会的紛争は限られており、また少なくとも2019年ごろまでは本格的な移民排斥運動も極右の台頭も見られてこなかった点です。この非常に興味深いケースを内部から観察するため、私は2014年夏より1年間かけて現地調査するなどしてきました。


(スペインとモロッコの国境。アフリカ西部からの流入が多い)


かつては移民を“送り出す”側だったスペイン

スペインの歴史は、西欧諸国と比較して独特です。戦後も独裁体制が継続し、スペインは政治的に孤立して経済発展は遅れていました。この結果、スペインは戦後1970年代半ばまで、ドイツやかつてスペイン帝国の旧植民地であったラテンアメリカに向けての移民送出し国であり、亡命者が出ていく国であったのです。
1975年以降スペインは民主化を経験することで、その後、急激に経済成長を経験していきます。この結果、1980年代後半になって初めて本格的な移民受け入れを経験していきます。過去、移民や難民の経験を持つ人々が国内の各層に多数いる中で、新たな移民を受け入れていったわけで、このことが独自の移民政策の素地となりました。


(第二次世界大戦後もフランコ政権による独裁が続いた)

社会への“定着性”を評価

実は、スペインも急激に移民労働者が増大した際に正規の手続きを行わずに入国し、非正規移民として就労を続ける人々が急増しました。日本にも似て表向きは厳しいビザ手続きがありなかなか取得できない一方、実は国内には労働力が不足する中小自営業等が多数存在し、非正規移民労働者を雇用して事業を続ける雇用主が多数いました。これに対するスペイン国家の対応は、周期的に正規化=合法化を行うことで、非正規移民が一定数を超えることを避けながら必要な労働力を維持することでした。

ここでスペインが特徴的なのは、たとえ非正規であっても、社会や職場に定着したことを評価して、在留資格を与える「正規化」を行ってきたのです。過去最大の正規化を行ったのは2005年、実にその数、70万人に達しました。このときは、過去1年間の就労実績と社会的な「定着」が考慮されました。
つまり、技能を語学試験や、免許などの形式的な資格ではなく、現場で身に着けたものを評価するという発想です。正規化の際には、例えばシェフがコックとして働く移民の能力を証明したり、建設の小事業主が移民の大工としての能力と就労した事実を証明したりするわけです。

なぜ排外主義は台頭してこなかったのか

スペイン政府はこの大規模正規化とともに、「社会統合全国フォーラム」という協議会を設立し、担当官庁や人権・支援NPO、そして移民自身の団体を組み込んだ三者による円卓形式の会議を、移民専門家を議長に据えて、定期的に開催してきました。このような当事者たちの「声」を組み込むことで、参加民主主義的な形で相互理解を促進することを重視してきました。

また、社会統合研究所という機関を各自治州に設置して、移民たちの動向を分析し、地域的な議論として活用してきました。 各自治体レベルでは、「通文化(間文化)媒介者」と呼ばれる、 移民と地元の人々の間や多様な移民相互間の文化を橋渡しする人々を配置。住民と移民の間の偏見や誤解に基づく紛争を事前に回避したり、緩和したりするための政策を進めてきました。このような実質的な受入れと共生政策を合わせて打ち出すことで、急激な移民増加による社会的緊張を緩和させることができたと言えるでしょう。

このような制度構築ができた背景には、移民として働いた経験のある労働者層に加えて、エリート層の中にも亡命者として他国で滞在したことがある者がいたことがあります。スペインは、移民の視点を理解することの重要性を歴史の中で体得してきたのです。

ちなみに2018年、「Vox」という極右政党が民主化後初めて議会で一定の議席を獲得したことが注目されていますが、これをもって単純に反移民勢力が台頭したとも言えません。この政党への支持はカタルーニャ州の分離独立主義に対するマドリードの保守派層などを含んでおり、同じ選挙では移民に寛容な社会労働党も議席を増加しています。不況長期化=反移民台頭という図式では簡単に語ることは難しいと思います。

“非正規滞在外国人”と国家 どう向き合えばいい?

ここまで、アメリカとスペインの2か国について見てきました。現代、世界のどこの国家においても、非常にうまく移民政策を実施できているとは言い切れません。ですが、そのことへの反発で現実的に必要な人々の受入れを恣意的に断ち切ろうとすれば、より深い問題を作ることにもなりかねません。
一挙に理想的な移民政策を打ち出せると考えたり、逆に難しい問題が出てくるからといって移民政策という課題を否定したり回避したりすることは現実的ではありません。現実の経済的・社会的必要に応じて制度を構築し、それを常に“manage”する。すなわち多面的な課題に何とか対処しながら、時間をかけ、段階的に制度を改善していくことが大切でしょう。

小井土彰宏 一橋大学大学院社会学研究科・教授
ジョンズ・ホプキンズ大学社会学部博士課程修了、カリフォルニア大学サンディエゴ校研究員、北海道大学文学部助教授、上智大学国際関係研究所助教授を経て現職。『移民政策研究』編集委員長


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