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インクルーシブな社会のために

インクルーシブな社会のために

“女の子はスカートをはくもの―”
“見た目が '外国人’ だったら英語が話せる―”

周囲が当たり前のように思い込んでいることが、本人にとっては”生きづらさ”につながっていた…私たちの身の回りにはそんなケースがいくつもあります。

さまざまな要素を持った人たちが集まるこの社会。それぞれの多様性を認め、ひとりひとりが自分らしく生きられる“インクルーシブ(排除しない)な社会” にするために必要なことは?
みなさんの声を取材し、考えていきます。


外国ルーツの人達の事情を知る
いま日本に住む“外国ルーツ”の人は約280万人、ここ数年は毎年10万ずつ増えています。
「在日外国人」とひとくくりに言っても、日本に来て暮らしている背景や事情は様々。
隣り合って暮らす外国ルーツの人たちを理解し、私たちの社会に何が必要か考えます。

・「本当はテレビに出るのは怖い」 故郷のために声をあげるミャンマー人は、あなたの隣にいる
・わが子と一緒に暮らせない 在日ベトナム人 母たちの涙
・“圧倒的な孤独感” 注目の若手監督が描く ベトナム人実習生の生き様 ~『海辺の彼女たち』藤元明緒監督に聞く~
・あなたがいるだけで十分なんだよ  作家・温又柔さんとの対話
・コロナ禍の渋谷サイレントデモに込めた想い 在日ミャンマー人チョウチョウソーさんに聞く
・”アフリカ少年”だった漫画家が「“違い”を楽しもう」と呼びかける意味―星野ルネさん―
・集まってしまって、ごめんなさい 在日ミャンマー人の若者 民主主義への思い
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【後編】『表現の自由』どう考える
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【前編】差別あおる言葉なくすには
・いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”
・マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
・在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント 
・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声




ジェンダーをこえて考えよう #BeyondGender
社会的につくりだされた”男らしさ” ”女らしさ”に縛られず、“ありのままの自分”でいられる社会になるために…さまざまな視点から考えていきます。

・Vol.26 夫の家事育児と妻のホンネ
・Vol.25 この仕事は男性?女性? ジェンダー・バイアスを考える授業
・Vol.24 男性はどう思う?ジェンダー格差  NHK世論調査より②
・Vol.23 ジェンダー “社会の本音”は? NHK世論調査より① 
・Vol.22 夫婦別姓 子どもはどうなる?家族は変わる? 
・Vol.21 地方で暮らすLGBTQの“私たち”
・Vol.20 LGBTsの私が地方で暮らして 見つけた“希望”
・Vol.19 トランスジェンダーのハナ 演じた2人の思い
・Vol.18 らじらー!× u&i 「男らしさ 女らしさのモヤモヤ みなさんの声」
・Vol.17 “性”について語ろう④ 性のあり方って?
・Vol.16 “性”について語ろう③ 男らしさ・女らしさに縛られてない?
・Vol.15 “性”について語ろう② 相手の気持ちも大切に
・Vol.14 “性”について語ろう① プライベートゾーンって?
・Vol.13 陣痛見守るモニターも アメリカのフェムテック最前線
・Vol.12 紗倉まな×NHK “あったらいいな こんな性教育”
・Vol.11 ジェンダーをこえて考えよう みなさんの声②
・Vol.10 “性”を語りやすい社会に
・Vol.9 “わきまえる”の波紋
・Vol.8  予期せぬ妊娠 命つなぐ マタニティホーム
・Vol.7  脱コルセット “女らしさ”という束縛から脱却する女性たち
・Vol.6  ジェンダーをこえて考えよう みなさんの声①
・Vol.5 「私たちはなぜミスコンがしんどいのか」
・Vol.4 更年期対策にピル代負担まで⁉︎ 変わる企業の“健康経営”
・Vol.3 AMH検査で“卵子の残り数”がわかる!? 産みどき考えるヒントに
・Vol.2 次々登場“フェムテック” 生理用ショーツに更年期対策も
・Vol.1 “有毒な男らしさ”を考える

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#Beyond Gender
2021年7月21日

Vol.26 夫の家事育児と妻のホンネ

いまや男性が家事や育児をするのは“当たり前”。NHKの調査※でも「台所の手伝いや子どものおもりをするのは当然」と答えた男性は88.2%(2018年)でした。さらに『ウワサの保護者会』(Eテレ)で男性の家事育児についてアンケートを行ったところ、男性たちから「掃除と洗濯は自分の仕事」「休日は料理をしている」などの声が多く寄せられました。
(※「第10回 日本人の意識」調査」2018年
しかしいざ妻たちに取材すると「やるのはいいけど“ガサツ”」「恩着せがましいのが嫌」など不満の声が続出。一体どうしてなのでしょうか?
7月3日に放送した『ウワサの保護者会 夫の家事育児と妻のホンネ』では、“ホゴシャーズ”(小中学生の保護者)の男性2名、そして“尾木ママ”こと教育評論家の尾木直樹さんら専門家とともに、不満を口にする妻のホンネについて考えました。

(「ウワサの保護者会」ディレクター 大島悠也)

「妻を助けたい」と家事を始めたけど・・・
“ホゴシャーズ”のひとり、都内の飲料メーカーに勤めるジャッカルさん(仮名)は、フルタイムで働く妻と小学5年の長男の3人家族です。これまでほぼすべての家事を妻に任せていましたが、コロナ禍のリモートワークで時間ができたことを機に、忙しく働く妻の助けになりたいと家事をするようになりました。

この日も夕食後に家族全員の皿を洗い、その出来栄えに自信満々。

ジャッカルさん「100点ですね。120点!」

(皿洗いをするジャッカルさん)

でも妻のあゆみさんの評価は「80点」。お皿に汚れが残っていたり、シンク周りの拭き上げが足りていなかったりするところが気になるようでした。


(左:洗い残しがある お皿 右:シンクの様子)

あゆみさんは夫の思いやりをうれしく思う反面、家事については不満を感じていました。


(妻あゆみさん)

妻あゆみさん
ひと言で言うと“がさつ”なんです。信じられないと思うほど。

でも夫には細かいところもあるんです。家族旅行で遊びに行く時は何時にどこに行くか、車の中でどんな音楽をかけるか、など細かく決め、詳細なスケジュールを作ります。

(家事では)何回言っても変わらないから諦めるようになりました。いくらやってくれても汚かったら、私がまた洗わなければいけないじゃないですか。だから任せられないんです、すべてを。」

ジャッカルさん
「妻が(仕事から)忙しく帰ってきて、家でも(家事で)忙しいじゃないですか。だから(助けたいと思い)『ゴミとか出しておくよ』と言うと『やらなくていい』と言われる。やると怒られる。言葉は変ですけど、せっかく『やる』って言ってんだから『やらしてくれよ!』みたいな。で、結局やらなかったらやらなかったでまた『なんにもやんねぇ』って怒るじゃん、みたいな。」

「家事」の発想を変える
妻を助けたいと家事をしているのに「やらなくていい」と言われてしまうジャッカルさん。どうしたらいいのか、家族関係や親子関係の問題に詳しい恵泉女学園大学学長の大日向雅美さんや尾木ママとスタジオで話し合いました。


(スタジオ 左から大日向雅美さん、尾木ママ、ジャッカルさん)

尾木ママも、かつて家庭でお皿洗いをしていたとき、ジャッカルさんと同じように妻や娘に注意されていたそうです。2人からの指摘を“細かい”と感じていたといいます。

尾木直樹さん
「(皿洗いが)うまくいかなかったときに娘がね、『お父さんこうやるんだよ』と言って、向こうもしびれを切らしたみたいな感じでやりかたを教えてくれて。そうすると、ものすごく能率よくきれいにあっという間に終わるわけ。そういうことを教わって、『なーんだ早く教えてくれよ』と思いました。やっぱり家事をやっていても、心のどこかに片隅にね、『やってあげてる』っていう気持ちがあるの。だから(夫は)そこではごまかそうしたりなんだかんだね、理屈をこねるわけですよ。

大日向雅美さん
「ジャッカルさんは、“がさつ”だと言われてモヤモヤしていらっしゃるけど、”がさつ”でいらっしゃるんですか?お仕事とか他のことではどんな感じの方なんですか。」

ジャッカルさん
「結構、計画的に物事を進めるのが好きなんです。仕事とか数字を扱ったりする業務ではあるんで。あと自分の興味のあることはすごく緻密にやっていますね。家族旅行などでも、誰かが喜んでくれるのが分かるとやりたくなっちゃうんですよ。」

会社の仕事や家族旅行の際には緻密なのに、家事では“がさつ”と思われてしまうのはなぜか。大日向さんは2つの理由を指摘しました。


(恵泉女学園大学学長 大日向雅美さん)

大日向雅美さん
「ギャップを感じる理由の一つは、ジャッカルさんが<『仕事と家事は別と捉えている』ことです。もし職場の仕事であれば、上司や仲間から注意されたら”ダメ出し”としてでなく、改善やスキルアップのアドバイスとして捉えるはずです。もう一つは『家事を”喜ばれること”と捉えていない』こと。家事は本来シンクをきれいにしたり、美味しい食事を作ったりして、家族と喜びを分かち合うことです。」

解決のためには発想の転換が必要といいます。

大日向雅美さん
『家事は仕事の一つ。注意は“ダメ出し”でなくてアドバイス』
『家事は、家族と喜びを分かち合うこと』


そのように発想を変えると、ジャッカルさんの持っている素養や素質が発揮できるはずです。」

夫は家事育児フル回転 でも妻には気になるところが
都内の日用品メーカーに勤めるカッパさん(仮名)は、フルタイムで働く妻と大学2年生の長女の3人家族です。リモートワークを機にほぼすべての家事を引き受けるようになったといいます。


(料理から掃除まで、あらゆる家事をこなすカッパさん)

平日は毎朝6時過ぎに誰よりも早く起き、家族の朝食をつくり、妻が職場で食べる軽食も用意します。妻を車で駅まで送ったあとは部屋の掃除と洗濯。その後、会社の就業時間の8時半から17時まで仕事をきっちりこなします。お昼休みには長女のごはんを作り、終業後は家族全員分の夕ごはんの支度を整えます。

しかしそんなカッパさんに対し、妻のカイツブリさん(仮名)は、感謝しつつも気になっていることがあるそうです。それは家事をしているときに時折、不機嫌な様子を見せること。


(夫の不機嫌な様子が気になるという妻カイツブリさんと夫カッパさん)

妻カイツブリさん
「私が(仕事で)すごく疲れていて、食卓に伏せて寝てしまうこともあるんです。そうすると男気があって『(夕飯の後片づけも)俺がやるよ』と言ってくれるのだけど、やっぱりそれ(お皿を洗うことが)がしんどくて、ぶつぶつ言っちゃう。」

一方カッパさんは「不機嫌な様子が態度に出るのは悪い」としつつ、「そういう不満を出すくらいがちょうどいいのでは」と反論します。

カッパさん
「朝から夜にかけて家事やら仕事やらをやっていくと、時計が10時を指したころには眠気が襲って疲れがたまってきて、おでこに“たこじわ”が寄ってしまう。『なんで俺がやってるんだ』という不満が言葉と態度に出てしまいますが、それがなかったら、爆発してしまいます。」

こうした夫の不機嫌な様子を見る妻の心境を、大日向さんは「自分が責められているような気持ちになるのでは」と分析します。

大日向雅美さん
「妻のカイツブリさんもつらいと思います。カッパさんに感謝していればいるほど余計に申し訳ないという気持ちがはたらくのではないでしょうか。『本当は自分がもっと仕事を減らして夫に楽をしてもらわなきゃいけないんじゃないか』とか、カッパさんの不機嫌が自分の胸に刺さるように思っちゃうのかなって。」

“夫に言えなかった…” 妻のキャリアへの思い

(発展途上国の開発支援をする会社で働くカイツブリさん)

カッパさんの妻カイツブリさんは、発展途上国の開発援助をする会社で働いています。多くのプロジェクトを抱え帰宅が深夜になることもある中、「夫が家のことを、ほぼやってくれているので、仕事に没頭できている」と感謝を示す一方、これまで夫には打ち明けることのできなかった複雑な思いがあるといいます。


(タンザニアに出張したときのカイツブリさん 37歳当時)

カイツブリさんは大学卒業後、両親の勧めもあり地元で高校の教員になりました。しかし以前から興味のあった国際協力の仕事に転職しようと、27歳で東京に移り今の業界に入りました。その後、勉強を重ねて現地に赴いて活動する専門職に就き、アジアやアフリカなどの国々を飛び回り、現地に2週間から2か月滞在して活動するなど、充実した日々を送っていたといいます。

そんな中でカッパさんと出会い、40歳で母親となりました。子育てを優先するために、海外には行かず国内で出来る仕事に切り替えました。


(長女が生まれたころのカッパさんとカイツブリさん)

カイツブリさん
「その時はしかたないと思っていました。家族のためなら、子どものためなら一歩引いてしまうところはどうしてもありましたね。子育てに自分が一番責任を負っていると思っていました。」

娘が小学校に入ったころから、夫の協力を得て海外での仕事を再開したものの、以前のように長期の出張をすることはままならなかったといいます。もっと他にやり様があったのではないかという思いが、今になって何度も頭をよぎるそうです。


(カッパさんの妻カイツブリさん)

カイツブリさん
「かつて、私に指名で『入ってほしい。すぐにどこどこの国に行ってほしい』という案件がありましたが、悩んだ末に、『子どもが小さいから行けません』と断りました。あんなチャンスもこんなチャンスもあった、あれを全部やっていたら今、違うポジションにいたよなと思うことがあります。

夫も子育てに協力してくれました。でも仕事も大事、子どもも大事。すごいジレンマでした。そういう苦労を夫は知らないと感じるんですよ。あのとき一緒に考えてもらえたら、もうちょっと方法ないか考えてみようと言ってもらえたら、めっちゃうれしかったかもしれません。」

“妻の気持ちに気づけなかった…” 背景に男女の役割意識


妻がひとり抱えてきた思いについて語る映像を見ていたカッパさん。思いに気づけなかったこと、そして妻と話し合いをしてこなかった自分を責めているようでした。

カッパさん
「妻が、具体的にそこまでやりたかった仕事を犠牲にしてまで、家事育児をやってくれていたというのは改めて知りました。子どもが小さいころって、妻と向き合える時間が取れなかったというところもあるし。私も逃げていたところがあるんですよ。」

大日向さんは、夫婦で話し合わなかった原因は、時間がないことだけではないのでは、と指摘します。



大日向雅美さん
子どものことは『母の役割だ』という思い込みが、どこかにお互いあったのではないでしょうか。

カッパさんも妻のカイツブリさんが海外出張に行っている間は、長女の世話や家事のため、仕事を早めに切り上げるなど、職場のつきあいなどを諦めてきた部分もあったと思います。(でも)カイツブリさんはいろんなものを失い、捨ててきたのでしょう。

世間では『女性活躍』なんていうが、そんな上っ面なものじゃないんですよ。実際に結婚し、子どもを持って家庭を持ったら、仕事も大事、家庭も大事と揺れていく。そういう中で一枚一枚翼をもがれていくような思いで生きている女性たちがたくさんいるのが実態です。

大日向さんは、カッパさん夫婦に「今からでも遅くありません。もう一度、会話や対話をすることで『実りの多い第二の人生』になるはずです」とアドバイスしました。

カッパさん
「今になって、彼女の思いを少しでも還元してあげたいというか。今の自分のできることで恩返ししたいなと思います。」

お互い納得できる夫婦関係を築くコツは?
最後に、大日向さん、尾木ママに、よい夫婦関係を築くためのコツを聞きました。


(左:恵泉女学園大学学長 大日向雅美さん 右:教育評論家 尾木直樹さん)

大日向雅美さん
「相手が一番聞いてほしいことは何なのか。その糸をたぐり寄せることができるたら、夫婦はうまくいくと思います。

また100点満点を求めすぎず、『夫婦2人で100点くらいでいいじゃないか』と思うことが重要です。パートナーであるということは、人生を分かち合うということ。そして『家事育児』はまさに人生。家事育児の夫婦分担を『4:6』『7:3』などの割合で考えるのではなく、夫婦で家事育児を分かち合うことが大切です。その原点は共感なんです。

尾木直樹さん
「夫婦だといろいろ面倒になったり、嫌になったり、ぶつかり合うこともあると思うんです。大事なのは相手の立場に立ってみること。それでお互いが納得した関係性でいられたらすばらしいですね。」

取材を通して感じたこと
私自身も「家事をやっているほうだ」と自負していました。でも今回、取材を進める中で、いつも家事をしながら妻に「こんな夫いないでしょ?」と“ドヤ顔”していた自分に気づき、赤面しました。今振り返ると、心のどこかに「本来は自分の仕事ではない」という意識があるが故の振る舞いだったのだと思います。仮に夫のほうが家事育児を多くこなしていても、「男は仕事、女は家庭」という役割意識がなくならない限り、対等な夫婦関係を築くことができないのではないかと思います。

ジャッカルさんが取材の最後におっしゃっていた次の言葉にとても共感しました。 「子どもには、『お父さんとお母さん2人足して100点だよ』っていうのを実践して見せていきたいと思います。彼らが大人になったときには、『女の人だから男の人だから』とかいう意識がなくなり、ボーダレスになればいい。」

次世代が”らしさ”の縛りのない社会で生きられるように、自分たちの日々の言動も見直していく必要があると強く感じています。

あなたは、「男は仕事、女は家庭」という思い込みをなくしていくために、何が必要と思いますか? 記事への感想やご意見などを、下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


#Beyond Gender
2021年7月16日

Vol.25 この仕事は男性?女性? ジェンダー・バイアスを考える授業

「ジェンダー・バイアス」って聞いたことはありますか?「女の子なんだからお行儀よく」「男らしく決断しろ」・・・このような(社会的・文化的な意味での)性差に対する固定概念や偏見のことです。

福岡県嘉麻(かま)市では、ほとんどの公立小中学校で、「ジェンダー・バイアス」について考える授業を行っています。この情報を知ったのは福岡県庁で取材をしているときでした。聞いたときには「え?嘉麻市で?」と驚きました。嘉麻市は人口3万7千。市全体の72%が森林と耕作地という、自然豊かでのどかなまちです。ジェンダーの取り組みとイメージが結びつかなかったのです。

なぜこのまちで、子どもたちに「ジェンダー・バイアス」について教えているのか。実際どんな授業なのか。一つの小学校を取材しました。

(福岡放送局 ディレクター 廣瀬温子)

ジェンダー・バイアスを問い直す 小学校の授業

(福岡県嘉麻市)

嘉麻市は福岡県のほぼ中央に位置する農業がさかんな地域です。嘉麻市立下山田小学校では3年前から全学年を対象に「ジェンダー・バイアスを学ぶ」授業を行っています。この日、私たちが取材したのは4年生の教室でした。


(4年生の担任 篠原美代子さん ※取材当時)

授業の冒頭、担任の篠原美代子先生は、子どもたちに「男だから○○、女だから○○」と言われた経験があるかどうか尋ねました。

男子児童「男だから台所に立ったらダメだと言われた。」

女子児童「女の子だからお手伝いをしなさいと言われた。」

福岡県で生まれ育った私自身も小さい頃、このように両親や親戚から言われていましたが、今でもあまり変わっていないのだなと感じました。

続いて先生は複数のカードを子どもたちに配りました。カードには「大学の先生」「トラックの運転手」「お花屋さん」などの職業や、「赤ちゃんのお世話」「裁縫」などの家事が、イラスト付きで描かれています。

カードを配り終わると、先生は「手元にあるカードを『男性がすること』『女性がすること』『どちらでもよいこと』のいずれかに仕分けてください。あまり深く考えずに直感で分けてみて」と子どもたちに伝えました。


(職業や家事の絵が描かれたカード)

黙々と作業を進める子どもたち。手元をのぞくと多くの子どもが「大工さん」や「野球選手」「トラックの運転手」は『男性がすること』に、「キャビンアテンダント」や「裁縫」は『女性がすること』に、「幼稚園の先生」や「赤ちゃんのお世話」は『どちらでもよいこと』に分類していました。


(ある児童が仕分けたカード:左から「男性がすること」「どちらでもよいこと」「女性がすること」)

次にそれぞれの役割が本当に男や女“だけ”がすることなのか、みんなで考えていきました。

先生「“トラック運転手”。これは、女性がやっているのを見たことがある人はいますか?」

一人の女子児童が手を挙げます。

先生「どこで(女性のトラック運転手を)見た?」

女子児童「お父さんがトラックの運転手で、そこで見た」

先生「お父さんの職場でも女性の方がおられるそうです。じゃあこれは、男性だけがすることでは…?」

児童たち「ない!」

先生「女性が(トラックの運転手を)しても?」

児童たち「いい!」

そのほかの職業についても、「そういえばテレビで女性の大工さんを見たことがある」とか、「男のキャビンアテンダントもいるよね」などと、活発に意見が交わされました。

最後に子どもたちは自分が仕分けたカードを見直して『男性がすること』や『女性がすること』に分けていたカードをすべて、『どちらでもよいこと』に移動させていました。

授業のあと児童に感想を聞きました。

男子児童
「今まで男女の職業を決めつけていたけど、話を聞いてどちらでもよいと思うようになりました。」

女子児童
「自分は女だからといって、できない仕事はないってことがわかりました。」

多くの子どもたちが「男女関係なく、自由に何でもできるっていいな」と、目をきらきらさせていました。たった45分の授業。しかしそれは、子どもたちの人生を大きく変えうる時間だと思います。

この授業を導入したのは下山田小学校の宮脇教子教頭(取材当時)です。子どもたちが、ジェンダー・バイアスについて考える授業を毎年繰り返し受ける中で、確実に意識の変化が生じているといいます。

宮脇教子 教頭
「授業を受けた子どもたちは一様に、“良かった!”“うれしい”“ほっとした”といった反応を示します。性別による制限はないとわかり、自由が増えた、可能性が広がった、と実感しているのでしょう。そして委員長や応援団を決めるときなどに、男だからする、女だからできない、という話はまず出てきません。」

さらにジェンダー平等の考え方がしっかりと子どもたちに浸透するよう、授業にある工夫がされているといいます。

宮脇教子 教頭
「意識改革は継続しないとすぐに元に戻ります。そのため“点”ではなく“面”で指導していくようにしています。ジェンダー・バイアスについて考える機会を、道徳・家庭科・社会科・ホームルームなど、さまざまな授業の中に“バラまく”のです。例えば、家庭科で家事の学習をする際に、“家事は、お母さんだけでなく、お父さんも行うものだ“と教えるとか、ホームルームで係を決めるときに、“男の子も女の子も、どんな係をやってもいい”と教えるなどです。そして考え、話し合う機会を増やしています。」

このカリキュラムは嘉麻市内の小中学校では必ず実施することになっています。

嘉麻市のジェンダーに関する授業は、あるテキストに基づいて行われています。2010年に制定された「嘉麻市男女共同参画推進条例」を、児童向けにイラスト入りでわかりやすく解説した『学ぼう そして 行動しよう』(2018年)です。市の男女共同参画課と教育委員会などが協働し、2年がかりで作成しました。


(福岡県嘉麻市『学ぼう そして 行動しよう』2018年)

「男女共同参画社会」とは、「女だから」「男だから」ではなく、誰もが自分の力を発揮し、のびのびと生きることができる社会であることや、そうした社会を実現するために基本となる考え方などについてわかりやすくまとめています。“男女共同参画は、自分たちのまちの条例で定められているんだ”、ということを、子どものころから認識することもとても大事だと感じます。

子どもへのジェンダー教育に力を入れる市民団体「かまネット」
このテキストの作成や、嘉麻市のほとんどの小中学校で行っているジェンダー・バイアスの授業を発案し、教育現場に協力を呼びかけたのは、地元の市民団体「かま男女共同参画推進ネットワーク」、通称「かまネット」です。男女が対等に活躍できる社会を目指し、15年前に結成されました。

中心メンバーの職業は農家、お弁当屋さん、福祉施設職員、元教師などさまざまです。みなさん、過去に職場で差別を受けたり昇進を妨げられたりするなど、性別を理由に差別や不公平を感じた経験があるといいます。


(「かまネット」のみなさん)

かまネットはジェンダー・バイアスの授業のほかにも、男女で形が違う小学校の通学帽を子どもたちそれぞれが自由に選べるように提案したり、市の諮問機関である審議会の女性の割合を増やしたり、男女共同参画の条例を作るよう市に働きかけたりしてきました。さらには地元広報誌で、ジェンダー・バイアスを助長するような表現があったらそれを指摘して修正を求める、などの活動を続けてきました。

長年にわたる かまネットの活動が少しずつ成果を出してきてはいるものの、「なかなか男女が平等であるというところには行き着いていない」そうです。そうした中、子どもたちの教育に力を入れることが重要と、代表の大塚裕子さんは言います。

かまネット代表 大塚裕子さん
「大人の意識はなかなか簡単には変わらない。だからこそ子どもたちには、今からこんな平等な社会を作っていこうねって、思ってほしい。」

かまネットのメンバーたちは少しずつ、まちが変わっていきていると感じています。

かまネット代表 大塚裕子さん
「子どもたちが学校でジェンダー・バイアスを学んで帰ってくることで、親や祖父母、地域のおじいちゃんおばあちゃんなど、大人たちがハッとさせられることが多い。“私たち大人がそれを否定しないように、伸びている芽を摘まないようにしないとね”と、話し合っています。」

さらに老人会や隣組など、地域の役員の“会長”に女性が就任するようになってきたり、地域の集まりの時に男性がお茶を入れたりするようになってきているといいます。男性も「ジェンダー・バイアスはおかしい、是正していくべきだ」と考え始めていると実感しているそうです。

取材して…
社会に根強く残っているジェンダー・バイアス。それに気づき、なくすという作業は簡単ではありません。生まれたときからあまりに当然のように、わたしたちの身の回りにあるからです。そういった中、小学校のころからジェンダー・バイアスを知る機会があるというのは、とても貴重なことだと思い、授業の取材をさせて頂きたいと申し込みました。

根気強く声を上げ続けている『かまネット』の皆さんももちろんすごいですが、実際に制度を変えたり、新しく授業をはじめたりするためには、行政や教育現場の理解や協力がないと実現しません。地域の未来のために、そして子どもたちのために、地域が一体となって前に進んでいる様子が印象的でした。

あなたは 子どもたちに「ジェンダー・バイアス」について教えることについて、どう思いますか?また、あなたの周りで「ジェンダー・バイアス」についてみんなで考える取り組みはありますか? 記事への感想やご意見などを、下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


#Beyond Gender
2021年7月9日

ジェンダーVol.24 ジェンダー格差 男性はどう思ってる?  NHK世論調査より②

男女格差や女性活躍について、男性はどのように感じているのでしょうか。NHKは3月末に2890人を対象に電話による「ジェンダーに関する世論調査」を行いました。Vol.23「ジェンダー 社会の“本音”は?」に続いて、今回は世論調査の結果を男性の視点から捉え、専門家の意見を交えて掘り下げます。

 (NHK放送文化研究所 岡田真理紗 (所属は調査当時))


現役世代の男性の3~4割が“不利益”を感じている
調査では、男性・女性の性別によって不利益を受けたと感じたことがあるかどうかを尋ねました。今回、調査に協力いただいた1508人のうち、不利益に感じたことが「大いにある」「ある程度ある」を合わせた『ある』は3割強、「まったくない」と「あまりない」を合わせた『ない』は6割に上りました。



この結果を男女別にみると、不利益を感じたことが『ある』と答えたのは、男性は26%、女性は42%でした。自分の性別によって不利益を感じている人は、男性より女性のほうが多くなっています。



さらに男女の年層別に見ると、性別による不利益を感じている男性は若い年層ほど多く、女性は40~50代が5割近くで多くなっています。



筆者(岡田)は30代後半ですが、出産するまでは女性であることに不利益をそれほど感じたことはありませんでした。ただ出産してからは、育児の負担が女性に偏っていると感じることが多くあります。ですので、女性のほうが不利益を感じる人が多いという結果は予想していました。しかし調査結果を見て、男であることの不利益を感じている男性が、18~39歳は4割近く、40~59歳が3割あまりいることは少し意外に感じました。

性別による不利益を感じている男性が、現役世代に少なくない背景に何があるのか。ジェンダー論が専門の東京大学の瀬地山角(せちやま・かく)教授に聞きました。



瀬地山教授
「不利益を受けていると感じている男性には2つのパターンがあると考えられます。

1つ目は『男は仕事、女は家庭』などといった性役割分業の考えに否定的な人です。男性は『育休が取りにくい』『働いて家族を養わなければいけない』『女性におごらなければいけない』といった男性に押しつけられた役割に反発し、それを不利益だと感じている人たちです。

2つ目は性役割分業には肯定的だけれども『女性が優遇されている』と感じる人。例えば、女性専用車両やレディースデーなどを『女性優遇』であると認識し、相対的に『男性は不利益を受けている』と考える人たちです。」

女性専用車両やレディースデーなどを例に挙げて「女性のほうが優遇されている」という意見は、SNSなどで目にすることがあります。こうした考えをもつ人は、最近増えているということなのでしょうか。

瀬地山教授
「『女性のほうが優遇されている』という声は、男女平等を訴える声が社会で強くなるほどに、それに対する攻撃として出てくるものだと理解しています。いわゆる“バックラッシュ(反動)”です。

1960年代に『住友セメント事件』という裁判がありました。会社が定めた『女性社員は結婚したら退職しなければいけない』という決まりに対して、女性が会社を訴えたものです。いま考えれば『結婚したら退職』という制度はあきらかに女性差別ですが、当時の週刊誌などを見ると、差別を訴えた女性の側を激しく攻撃しているものもあります。差別をなくそうという動きが高まるたびに、こうした意見は必ず出てくるものではないかと思われます。ただ今回のデータを見ると、『女性のほうが優遇されている』と感じている人は一部にとどまっていると言えると思います。」

「女性より男性のほうが優遇されている」
世論調査では、「社会では男女どちらが優遇されているか」という質問も行いました。「どちらかといえば」を含めた『男性のほうが優遇されている』と答えた男性は7割弱、女性は8割弱に上りました。



さらに結果を男女の年層別に見ると『男性のほうが優遇されている(「どちらかといえば」を含む)』と答えた人は、男女ともにどの年層でも多数を占めています。一方『女性のほうが優遇されている(「どちらかといえば」を含む)』と答えた人が、男性では18~39歳の比較的若い世代で多い傾向がみられました。また「平等である」と思う人は、女性の40~59歳では5%と極端に少なくなっています。



若い男女ほど「男女平等である」「女性のほうが優遇されている」と思う傾向があることについて、瀬地山さんは次のように指摘します。

瀬地山教授
若い世代に『男女は平等』だと感じる人が多いとすれば、1つには結婚や出産といったライフイベントをまだ経験していないから、といったことが考えられます。20代の初めまでは学生もいますから、学校にいるうちは男女の差を感じにくい。具体的な根拠はないのであまり断定的なことは言えませんが、もう1つ理由があるとすれば、世代によって考え方が変わってきている可能性も考えられます。

女性活躍について現役世代の男性は
世論調査では、国会議員や企業の役員などについて一定の割合を女性に割り当てる、いわゆる「クオータ制」導入への賛否についても聞きました。男女の年層別にみると、女性の全世代と男性の60歳以上では「導入するべきだと思う」は7割超でしたが、18歳から50代の現役世代の男性は6割弱にとどまりました。



瀬地山教授
「強烈なデータですね。特に男女の40代の意見の違いが、きれいに出ています。女性の40代は82%と圧倒的多数がクオータ制の導入に肯定的なのに対し、男性の40代は55%とより否定的です。

40代は、組織のなかで昇進などの真っただ中にいる人たちなので、男性にとってはクオータ制が自分の昇進などに不利に働くと感じている。不平等と思っている人も少なくない。それが数字に表れているのでしょう。

60代で『賛成』が一気に8割近くに増えるのは、自身が退職して、自分ごとというよりは一般論として考え始めるので『別にいいんじゃないか』と感じるのだと思います。

ただ全体で見ると、クオータ制には肯定的な人が、出世レースの真っただ中にいる40代の男性でも過半数を超えている。すべての年代の男性がクオータ制を肯定しているということのほうが、私には驚きでした。」

女性では、クオータ制に『賛成』している人は40代で8割を超えます。職場で自身も管理職や役員として力を発揮したいと考える現役世代の女性は多いのでしょうか。

瀬地山教授
「今の女性の40代では、正社員として働いている人の割合はそこまで高くないと思います。それでもこれだけ数字が高いのは、かつて正社員だったときの自分の経験や、現在非正規で働いている環境などを含め、多くの女性が不当な立場におかれていることを知っているから。8割というのは重く受け止めるべき数字だと思います。」

男性の育児休業 男性の本音は
最後に注目するのは、男性の育休取得への賛否のデータです。



男性の育児休業について、どちらかといえば賛成の人を含めた『賛成』が8割強と大多数を占めています。しかし、国のデータ(令和元年度・厚生労働省『雇用均等基本調査』概要 全体版P.22)を見ると、実際に取得できた割合は、7.48%にとどまっています。このギャップをどうご覧になりますか。

瀬地山教授
「今回の調査で男性の育休取得に『賛成』と答えた人が、おそらく想定している育休期間は1~2週間程度だと推測します。実際に育児の戦力として役立つかと考えると、十分な期間とは思えません。育児休業で1か月以上あるいは1年休むことについて意見を聞いたらもっと『賛成』が少なくなると思います。」

6月には、男性が育休を取りやすくするために法律が改正され、通常の育休とは別に、妻の産後8週間以内に男性が最大4週間取得できる新しい育休制度の新設や、企業が従業員に育休取得の意向を確認する義務がもうけられました。しかし三菱UFJリサーチ&コンサルティングが平成31年に実施した調査※では、男性が育休を取らなかった理由として、最も多かったのが「会社で育休制度が整備されていなかったから」(23.4%)、次いで「収入を減らしたくなかったから」(22.6%)、「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから」(21.8%)などの理由が挙げられています。
(※平成31年2月『労働者調査 結果概要』 4.男性の育児のための休暇・休業の取得 P.21図表19)

なぜこんなに男性が育児することが難しいのでしょうか。

瀬地山教授
「1つは、政策的な側面があると思います。配偶者控除や会社からの配偶者手当の制度などは、『男は仕事、女は家庭』という性役割分業を促進するものになっています。 “妻が専業主婦になったほうが得ですよ”という制度が2つも3つもある中で、男性の育休に多少のインセンティブを設けたところで、社会全体は動かないということだと思います。

また日本の場合、一度正社員をやめたら簡単には戻れないという雇用慣行があります。そこで第一子を出産後に女性が退職してしまうと、再び働くにしても非正規雇用が多く、それが男女の収入の決定的な差につながってしまう。日本の雇用慣行が男性に育児をさせず、女性にとっては生涯賃金の大幅な低下という大きな不利益を生み出していると思います。」

収入を担うこと、家事育児をすることの負担が男女どちらかだけに偏らないようにしていくには、まずは制度や仕組みを変えていくことが不可欠なのでしょうか。

瀬地山教授
「もちろん個々の人々、個別の家庭で相談して変えられることはあると思います。ただ男女の性別役割分業に誘導しないような制度をつくらないと、社会全体としては解決しないだろうと思います。女性の出産後の就労に中立的な制度ができて初めて、どちらがどれだけ働くか、どれだけ家事・育児をするかという話を始められるのではないでしょうか。配偶者控除が問題の大きな要因のひとつであることは何十年も前から指摘されています。」

世論調査を行って
女性は過去に、参政権が認められない、結婚・出産したら退職する、などのあからさまな不利益がありました。一方、男性が「稼がないといけない」「おごらなければいけない」などの固定観念を押しつけられることは、“見えにくい不利益”だと思います。また、男性は社会的には「優遇されている」と自身が感じ、周りにもそう見られているために、「なんで自分が稼がないといけない?」「なんで自分がおごらないといけないのだろう」などの疑問や違和感を口にしにくい面もあるように思います。

調査結果を見ると、社会の状況やライフスタイルが大きく変化する一方で、性別によって「こうあるべき」という意識は根深く残っています。男女ともに、押しつけられた価値観と現実とのギャップに違和感を抱いたり、苦しんでいたりする人は少なくないと感じました。

遠くない未来に「男だから」「女だから」といった理由で、個人が抑圧されない社会を実現することができるのか。これからも注視したいと思います。

あなたは、「性別による不利益」をなくしていくには、何が変わることが必要だと思いますか? 記事への感想やご意見などを、下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


#Beyond Gender
2021年7月1日

Vol.23 ジェンダー “社会の本音”は? NHK世論調査より①

社会や家庭における男女の役割、夫婦別姓、同性婚…
「ジェンダー」をめぐるさまざまな問題ついて、人々はどのような価値観や考えを持っているのでしょうか。NHKは3月末に電話による「ジェンダーに関する世論調査」を行いました。その結果をテーマ別に紹介します。

(テーマ)
・家庭における男女の役割・育て方
・夫婦別姓
・同性婚
・女性リーダー
・性別による差別

調査は2021年3月26日から28日までの3日間、全国の18歳以上を対象にコンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかけるRDDという方法で行いました。調査の対象となったのは2,890人で、このうち52.2%にあたる1,508人から回答を得ました。

(NHK放送文化研究所 世論調査部 研究員 岡田真理紗)



家庭における男女の役割について
現在「共働き世帯」(雇用者の共働き世帯)は1245万世帯、「専業主婦世帯」(男性雇用者と無業の妻からなる世帯)は582万世帯。「共働き世帯」は「専業主婦世帯」の2倍以上です。(『男女共同参画白書 令和2年版』 ※NHKサイトを離れます。)

家庭における男女の役割や、男女の子どもの育て方について、人々はどのように考えているのでしょうか。


Q1.「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」に、賛成?反対?



「反対」「どちらかといえば反対」を合わせた『反対』は49%と約5割を占めていますが、「賛成」「どちらかといえば賛成」を合わせた『賛成』も41%で約4割に上っています。


Q2.男性の育休に、賛成?反対?



国は男性が育児のために仕事を休む「育児休業」を増やそうとしています。これに関連して、男性が妻の出産後、一定期間、仕事を休んで育児や家事をすることについて、賛否を尋ねました。「どちらかといえば反対」を合わせた『反対』は全体の2割弱。「どちらかといえば賛成」を合わせた『賛成』は8割を超えました。

子どもの育て方
Q3.子どもに家事を手伝わせるなら、男の子と女の子どちらかにさせる?どちらにもさせる?



9割以上は「家事は、女の子にも、男の子にも、同じくらいさせたほうがよい」でした。「家事は、主に、女の子にさせたほうがよい」は4%、「家事は、主に、男の子にさせたほうがよい」は0%(1,508人中2人)「その他」も0%(1,508人中3人)でした。


Q4.「男は男らしく、女は女らしく育てる」という考えには賛成?反対?



「どちらかといえば」を合わせた『賛成』は6割近くで、「どちらかといえば反対」を合わせた『反対』は3割強にとどまりました。

夫婦別姓について
今の法律では結婚した夫婦は、同じ名字を名乗らなければなりませんが、同じ名字にするか、別々の名字にするか、選べるようにするべきだという意見もあります。これに関連して、選択的夫婦別姓への賛否と、その理由を尋ねました。

Q5.夫婦は同じ名字を名乗るべき?それとも、選べるようにすべき?



「夫婦は、同じ名字を名乗るべきだ」が4割に対し、「同じ名字か、別の名字か、選べるようにすべきだ」が6割近くにのぼりました。


Q6.「別の名字にしないほうがよい」と思う理由は?



第5問で「夫婦は、同じ名字を名乗るべきだ」と答えた人に、別の名字にしないほうがよいと思う理由を選択肢の中から1つ選んでもらいました。最も多かったのは「夫婦は同じ名字を使うことが当然だから」4割近く。次いで「子どもに好ましくない影響を与えるから」、「家族の絆や一体感が弱まるから」「周囲の人が混乱するから」がそれぞれ2割前後でした。


Q7.「同じ名字か別の名字か、選べるようにするべきだ」と思う理由は?



第5問で「同じ名字か別の名字か、選べるようにするべきだ」と答えた人に、そう思う理由を選択肢の中から1つ選んでもらいました。最も多かったのは「個人の意思を尊重するべきだから」が約6割。次いで「女性が名字を変えるケースが多く、不平等だから」が約2割でした。

同性婚ついて
日本の婚姻制度では、結婚は男女の間に限られていますが、同性婚を認めることへの賛否と、その理由を尋ねました。

Q8.男性どうし、女性どうしの結婚も認めるべきだと思うか



同性婚を認めることに「どちらかといえば賛成」を合わせた『賛成』は全体の約6割。「どちらかといえば反対」を合わせた『反対』は約4割。『賛成』が『反対』を上回りました。


Q9.同性婚に賛成の理由は?



男性どうし、女性どうしの結婚も認めるべきだという意見について「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した人(856人)に、その理由を選択肢の中から1つ選んでもらいました。同性婚に『賛成』の理由で最も多かったのは「誰にでも平等に結婚する権利があるから」が8割近く。次いで「愛しあっていればよいと思うから」、そして「海外でも認められているから」でした。


Q10.同性婚に反対の理由は?



男性どうし、女性どうしの結婚も認めるべきだという意見について、「反対」「どちらかといえば反対」と回答した人(552人)に、その理由を選択肢の中から1つ選んでもらいました。「子どもが生まれず少子化が進むから」と「結婚は男女ですべきものだから」が、いずれも36%。次いで「伝統的な家族のあり方が崩れるから」24%でした。


Q11.自分の家族が同性と結婚したいと言ったら、受け入れられますか?



「どちらかといえば受け入れられる」を合わせた『受け入れられる』は45%。「どちらかといえば受け入れられない」を合わせた『受け入れられない』は49%でした。

同性婚については『賛成』という人が57%と多くても(Q8)、自分の家族の同性婚について『受け入れられる』という人は45%にとどまっています。

女性リーダーについて
Q12.「女性のリーダー」の割合をどう思うか

日本の国会議員や企業の役員などに占める女性の割合について、どう考えるか、「今よりも、女性が多いほうがよい」「今のままでよい」「今よりも、女性が少ない方がよい」の3つの選択肢の中から1つ選んでもらいました。



「今よりも、女性が多いほうがよい」が全体の約6割で最も多く、次いで「今のままでよい」が3割で、「今よりも、女性が少ないほうがよい」はわずかでした。


Q13.女性リーダーが増えたほうがよい理由は?



第12問で「今よりも、女性が多いほうがよい」を選んだ人(855人)に、その理由を選択肢の中から1つ答えてもらいました。最も多かったのは、「物事を決めるときに女性の考えが反映されるから」で全体の5割弱。次いで、「男女が平等な社会になってほしいから」が約3割。「女性が社会で活躍するための目標になるから」が2割。「日本のイメージアップをはかれるから」はわずかでした。


Q14.日本でも「クオータ制」を導入すべき?

女性のリーダーを増やすために、国会議員や企業の役員などについて、一定の割合を女性にする制度を、日本でも導入するべきだと思うかどうかを尋ねました。



最も多いのは「どちらかといえば導入するべきだと思う」の44%で、次いで多い「導入するべきだと思う」の24%と合わせると、『導入するべきだと思う』が約7割にのぼりました。「どちらかといえば」を合わせた『導入するべきだとは思わない』は約2割。「わからない、無回答」が1割でした。

性別による差別
男女格差を測る「ジェンダーギャップ指数」(世界経済フォーラム2021年3月)で、日本は156か国中120位。依然として政治や経済の分野で大きな格差があると指摘されています。

実際、日本の社会では、男女の地位は平等と思うか、性別によって差別を受けたことがあるか、尋ねました。


Q15.男女の地位は平等?どちらかが優遇されている?



最も多いのは「どちらかといえば男性のほうが優遇されている」の49%で、「男性のほうが優遇されている」の22%と合わせて約7割でした。「平等である」は15%、「どちらかといえば」を合わせて『女性のほうが優遇されている』は7%にとどまりました。


Q16.男性、女性といった性別によって、不利益を受けたと感じたことがありますか?



「大いにある」「ある程度ある」「あまりない」「まったくない」の4つから選んでもらいました。最も多かったのは「あまりない」の40%で、「まったくない」の20%と合わせると、不利益を受けたと感じたことが『ない』は6割。一方「大いにある」は8%、「ある程度ある」は26%で、合わせて3割あまりが不利益を受けたと感じたことが『ある』と答えています。

<調査の概要>
期 間 : 2021年3月26日(金)~ 28日(日)
方 法 : 電話法(固定・携帯RDD)
対 象 : 全国の18歳以上2,890人
回答数(率) : 1,508人(52.2%)


・ 調査結果の%は小数点以下を四捨五入し「整数」で表示しているため、%の合計が100にならないことがあります。
・ 複数の選択肢を合計する場合、実数を足し上げて%を再計算しているため、%を合計した値とは一致しないことがあります。
・本文やグラフで使っている『』(二重かぎかっこ)は、複数の選択肢を合わせたものを示しています。


あなたは、世論調査の結果についてどう思いますか? 気になるデータはありますか? 記事への感想やご意見などを、下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


#Beyond Gender
2021年6月29日

Vol.22 夫婦別姓 子どもはどうなる?家族は変わる? 

夫婦が希望すれば、結婚前の姓を名乗ることができる選択的夫婦別姓。今、この制度の賛否をめぐって大きな議論になっています。もし夫婦ともに結婚前の名字を選べるようになったら・・・子どもはどうなるのか? 家族のあり方は変わるのか?

6月26日にEテレで放送された「ウワサの保護者会」では選択的夫婦別姓制度について、“ホゴシャーズ”(小中学生の保護者のみなさん)や親子同士、そして“尾木ママ”こと教育評論家の尾木直樹さんや専門家とともに考えました。

(「ウワサの保護者会」ディレクター川崎彰子)


結婚と名字にまつわる歴史
1876年、当時の明治政府は、妻に実家の名字を名乗るよう「夫婦別姓」という指令を出しました。それにもかかわらず、庶民の間では妻が夫の家の名字を名乗ることが多くなってきたと言われます。そして1898年、いわゆる明治民法で「家制度」が規定され、妻は夫の家の名字を名乗ることが決められました。


(『明治民法』で妻は結婚によって夫の家に入り、夫の名字を名乗ることが決められた)

1947年に改正された民法では、家制度は廃止され、夫か妻のどちらかの名字を名乗る夫婦同姓が定められました。

女性の社会進出などを理由に夫婦別姓の機運が高まり、2017年の政府の調査では、選択的夫婦別姓制度に賛成する意見が42.5%と過去最高となりました。


(2017年に政府が行った調査で選択的夫婦別姓制度への「賛成」が過去最高となった)

なぜ「選択的夫婦別姓制度」が求められる?
家族法が専門の早稲田大学法学学術院教授・棚村政行さんは、選択的夫婦別姓制度は、さまざまな理由から名字を変えたくない人たちのアイデンティティや自由を守るために不可欠なものと話します。

棚村政行さん(早稲田大学法学学術院教授・弁護士 家族法が専門)
「別姓を希望する人は、生まれたときから使ってきた名字も自分のアイデンティティとして捉えていたり、結婚前から続けてきた資格や仕事のキャリアが断絶してしまったりするため、困っています。この制度では、名字を同じにしたい人は一緒にすればいいし、名字を変えたくない人は別姓を選べる。変えたくない人の自由を認めようというものです



(早稲田大学法学学術院教授 棚村政行さん)

1996年には選択的夫婦別姓制度の法案が準備されましたが、伝統的な家族のあり方を壊すのではないかという意見もあり、国会への法案の提出が見送られたまま、現在も議論が続いています。

世界を見渡すと、1970年代以降多くの国で選択制を導入しています。現在、法務省が把握している限りでは、法律で夫婦同姓を義務づけている国は日本しかないとされています。

旧姓に戻したい母 子どもはどう思う?
「ウワサの保護者会」のホゴシャーズの一人、ユーカリさんは、夫婦別姓を選択できるようになったら、名字を元に戻したいと思っています。現在、結婚前から続けてきた仕事に支障が出ないよう旧姓を使っていますが、2つの名字を使い分けることに違和感を抱いてきました。

その思いを長男に伝えてみたところ・・・


(ユーカリさん(右)と長男)

ユーカリさん
「ママは自分の名字を選びたいんだよ。生まれた時の自分のままでいたいしさ。ママが元の名字に戻すの、どう思う?」

長男
別にいいんじゃない。もし変えるのが自分の立場になったら絶対嫌だと思うし。もし戻してもいいよってなったら、自分なら多分戻すと思うから」


(ヒトミさん(右)と子どもたち)

もう一人のホゴシャーズ、ヒトミさんは、結婚した当時、夫の名字を名乗ることに違和感を抱いたといいます。もし、今から名字を戻したら子どもたちはどう思うのでしょうか。

長男
「僕たちに関係ないし…」

長女
できれば戻さないでほしい。名字が違うと家族がまとまってないって感じがする。お母さん、私が生まれてからずっとこの名字だったから、それが変わっちゃうとなんかさみしい」

母親
「名前が変わっちゃったら、ちょっとさみしい気がするんやな。自分が結婚する時、もし選べたらどうする?」

長女
「うーん、選べるんだったら…私は名字を変えたくない・・・やっぱり今の名字にすごい親しみがあるというか…他の名字にするのは、なんか気持ち的に変えられる気がしない」

長男
「僕はどっちだっていいよ」

母親
「“俺の名前にしろよ”とか思わないの?」

長男
「思わない」

長女
「えー!なんで?こだわりはないの?名字変えちゃったら、うちの家が終わっちゃうじゃん」

長男
「いいよ、別に。」

長女
「えーっ?!」

母親
「うん、終わっちゃう。それで日本はずっときたんだよね、長男が継ぐってことで。難しいよね。どうしたもんかねぇ」

親子によって考え方はさまざま
2つの親子の話し合いを受けて、スタジオで4人のホゴシャーズ、“尾木ママ”、早稲田大学教授の棚村政行さんが話し合いました。


(スタジオでも意見が交わされた)

チャボさん(父親)
「母親の名字は元に戻しちゃだめって言いつつ、自分は変わりたくないって。兄弟でも違うし」

ヒトミさん(母親)
「こういう話題、みなさんもそうだと思うんですけど、真面目に話したことがなかったので面白かったです。自分の子どもの意見なんですけど、あ、なんか意外に考えてるんだなとか」

ミーアキャットさん(母親)
「夫の名字に変わることを私はネガティブに捉えたことがない。私の娘も家族がバラバラになった感じがするから嫌だって」

ヒグマさん(父親)
家族の中だと名字で呼ぶことはないので、家庭内ではあまり違和感ないのかな」

棚村さん
「今、結婚は年間およそ60万件で、離婚がおよそ21万件。この数字を見ると、家族は名前を1つにすれば必ずしも強くなるわけではない。シングルで育てるなど、いろいろな家族の形があるので、家族の形に合わせてサポートできる法律の整備が求められていると思う。その1つとして、選択的夫婦別姓の提案があると思うんです」

さらに、家族で名字がバラバラだと子どもがいじめられないか、と心配する意見も出ました。

ヒトミさん(母親)
「親が離婚して名字が変わったお友だちがいると気をつかうという話を子どもから聞いたことがあるので、子どもは子どもで親には言わなくても気にしているのかな」

チャボさん(父親)
「娘のクラスに外国籍の方がいて(親と子の)名字が違うけど、仲間はずれになっていない。親よりもむしろ子どもたちの方がこだわりはないのでは

尾木ママ
「夫婦別姓が当たり前になったら、逆にイジメは起きないと思う」

棚村さん
「1996年に準備された法案でも、子どもの名字については混乱が起きないように結婚時にどちらにするかあらかじめ決めておいて、兄弟はみな同じ名字を名乗るという配慮がされています。

現在、再婚も増えており、親が名字を変え、子どもたちもそれにあわせて名字を変えなければならないのは非常に不便。結婚時に別姓も選べるようになれば、子どもたちへの負担も減ると思います」

現在の制度のもとで夫婦別姓を選んだ家族
長野県に暮らす内山由香里さんと小池幸夫さんのご夫婦は、それぞれが結婚前の姓を名乗るために、婚姻届を出さない「事実婚」を選択しました。

内山さんが夫婦別姓を望んだきっかけは、女性が夫の名字に変えるのが当たり前にされてきたことに違和感を感じたことでした。夫の小池さんは最初のうちは戸惑いを見せましたが、2人で話し合いを重ね、理解したといいます。

小池幸夫さん
「姓を変えることによって自分自身じゃない存在になっていくのは大変なことだなと」

内山さんは別姓を選びましたが、子どもたちは小池の名字にするため、結婚と事実婚を繰り返してきました。


(小池幸夫さん内山由香里さんご夫婦と次女の真実さん)

夫婦別姓を選んだ家族の子どもは…
両親の別姓が当たり前で何不自由なく育った次女の真実さん(大学2年生)は、両親の選択をどう思っていたのでしょうか。

真美さん
「家にハンコが2つあったぐらいで、同姓の家族となにも変わらないと思う。親が夫婦別姓だと、なんで子どもがかわいそうって思われるのかな」

真実さんは、高校生のときに「夫婦別姓」について調べ、映像作品を作りました。制作のきっかけについて聞くと・・・

真美さん
「結婚したら96%(の夫婦)が夫の名字になることを知って、男女平等じゃないんだってショックを受けたんです。(今の法律では結婚したらどちらかの名字にすることが定められていて)『男性の名字にするとは決まってないのに、なんでだろう』って。私と同じように、同世代の子たちも夫婦別姓のことを全然知らないと思うんですよね。この映像をきっかけに考えてもらえたらいいなって」

真美さんは、両親が夫婦別姓を選択するまでの過程や思いについて初めて知ったといいます。

真美さん
「お互いの名字のまま2人とも対等な関係で、お互いの当たり前を大事にしながら、ちゃんと話し合っていろいろ決めてきたのが、いいなぁと思いました。

性別とか国籍とか年齢とか障碍とか関係なく、みんなが困ることなく自分の普通や当たり前を持って暮らせるようになったらいいな。いろんな考え方を認め合える世の中になってほしいと思います。」

“自分らしく生きる” “夫婦が理解し合っている姿”が大切
専門家のお二人に、選択的夫婦別姓制度をめぐって、大切なポイントをまとめてもらいました。


早稲田大学法学学術院教授 棚村政行さん・教育評論家 尾木直樹さん)

棚村政行さん(早稲田大学法学学術院教授)
・自分らしく生きられることが大事。
・家族のあり方が変わる中、実態に合わせた法律にすることが大切。

尾木直樹さん(教育評論家)
・多様な考えがある中で、夫婦が話し合い理解し合っている姿が 子どもに与える影響は非常に大きい。
・次世代の子どもたちのために、どういう社会を展望しつくっていくのか、  話し合うことが大切。


取材後記
今回の番組を制作する過程で、夫婦別姓を選んだ内山由香里さんが、取材を受けてくれた理由を語ってくれました。

実は最近、内山さんの長女が結婚。長女は婚姻届を出して夫の名字を名乗ることになり、一日かけて銀行やクレジットカードなどの名前変更手続きをしました。その最中に、長女から電話があり、泣きながらこう話したそうです。「名前変更手続きが、まるで自分を葬っているようだ」と。

そのとき内山さんは、自分が結婚時に名字を変えることに違和感を覚えた経験を思い出し、それから30年たった今も、娘に同じような目に遭わせてしまっていることを悔やんだと言います。「何も変えられなかった、今からでも次世代の娘たちにとって生きやすい社会を作れたらと願っています」と、内山さんは話してくれました。

私自身、「嫁に行く」という言葉にずっとモヤモヤを感じていました。今回、夫婦の名字の歴史背景を知り、たくさんの方々を取材する中で、自分の価値観を大切に生きている人は、周りの人の思いも大切にしていたのがとても印象的でした。息苦しい思いをしないで、自分が納得して選んで生きられる社会に少しでもなればいいなと思います。

もし選択的夫婦別姓制度が導入されたら、あなたはどう思いますか?こどもへの影響など心配なことがありますか?みなさんのご意見や記事への感想などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


#Beyond Gender
2021年6月28日

Vol.21 地方で暮らすLGBTQの“私たち”

好きになる相手の性、自分の認識する性は、ひとりひとり違います。でも、同性の人を好きになる、恋愛感情をもたない、自分の性に違和感があるなどのLGBTQ※当事者の人たち、とりわけ地方に住むLGBTQの人たちにはなかなか焦点があてられてきませんでした。(※LGBTQ…L(レズビアン)、G(ゲイ)、 B(バイセクシャル)、T(トランスジェンダー)、Q(これらの定義でくくれない性)

NHK松江放送局では、そうした皆さんのことを、広く知ってもらうために、「私たちはここにいる」キャンペーンを行っています。島根県の出身者や島根県に住んだことがあるLGBTQ当事者の方々の声を取材して集め、松江放送局のホームページやツイッターに掲載しています。

当事者の皆さんの声から見えてきたのは、あからさまな差別ではないものの、固定観念や偏見によって相手を傷つけてしまう行為、“マイクロアグレッション(小さな攻撃)”の実態でした。

(松江放送局ディレクター 岩永奈々恵)


「LGBTQがいないことになっている」当事者のつぶやき
キャンペーンを立ち上げたきっかけは、私がLGBTQの当事者の方々に取材でお話を聞く中で、出雲市に住むシロクマさん(30代)がポツリとつぶやいた一言でした。「島根県では、LGBTQが“いないこと”になっているんです」

“いないことになっている”…。その意味がすぐには理解できませんでしたが、話を聞いていくうちに、シロクマさんのように同性のことが好きになる人や、男性も女性も好きにならない人、自分の体と自認する性が一致しない人など、多様な性をもつ人たちがいる実態が日常生活の中で“無視されている”場面がたくさんあるということが分かりました。

シロクマさんが特に違和感を覚えたのは、中学生の保健の授業だったそうです。「人は、思春期になると、異性への関心が高まってきます」。そのように習い、“異性”という文言にシロクマさんは動揺し、「自分はおかしいんじゃないか」「ばれたらどうしよう」と不安になったといいます。

友達との会話でも、「好きな異性のタイプは?」「彼氏はいるの?」と“異性愛が前提”の話が出る度に、本当の感情は押し殺してウソをつき、そのことに傷ついていたそうです。「男性と女性の2つしかいない世界」「人は異性を好きになるものだという前提で成り立っている世界」では本当の自分のままでは生きていけないのだと、当時は将来への希望も持てず、絶望的な気持ちで過ごしていました。

シロクマさん
「もしも、保健の授業の時に、先生が『異性を好きになる人ばかりじゃないんだよ』『同性を好きになる人もいるし、恋愛感情を持たない人もいるよ』と補足してくれてさえいればどんなに救われたか…。」

このように、悪意がなくとも、何気ない日常の中で、自分にとっては“普通”でないことを“普通”として認識させられるような状況も、マイクロアグレッションの1つです。

同じ悩みを抱えるLGBTQ当事者が見えづらい…
松江市出身で広島県在住の松島彩さん(30歳)。LGBTQについての情報がネットや書籍などで出ている今は自分の性別について「男でも女でもない」、好きになる対象も「性別問わず」と感じているそうですが、テレビなどで「オカマ」と揶揄(やゆ)される人たちを見て、“自分のことは絶対に周囲には言ってはいけない”と ひた隠しにしてきたといいます。また、自分と同じような悩みをもつ人たちが周りにいることにも、日々の暮らしの中では気づくことはなかったそうです。

高校生の頃、自分の性別や恋愛対象のモヤモヤを母親に話したことがありました。しかし、返された言葉は意外なものでした。

「小さい頃は、性同一性障害を疑って、病院に連れて行こうと悩んだこともあったんだけど。最近は女の子らしくなって安心していたのよ。」

女性らしい振る舞いをしたがらない娘を心配して、母親なりに調べ、身体の性と自分自身が認識している性が一致しない「性同一性障害」かもしれないと考えたようでした。しかし、その説明は自分にとってはしっくりくるものではありませんでした。

「“性別がない”と思っているのは、世界で私ひとりなんだろうな」。学校の先生や、友人に相談することもなく、孤独に悩み続けていたといいます。

2年前、大阪でLGBTQの集まりに参加した際に、初めて「Xジェンダー(性自認が男性にも女性にもあてはまらない)」という言葉を知り、自分は性同一性障害ではなく、男らしさ・女らしさなど社会がつくり出した性(ジェンダー)と自分自身が認識している性の違いを非常に敏感に感じていることが分かったそうです。

松島彩さん
「あの頃、もし自分の周りにも、自身の性について悩みを抱えているLGBTQの当事者の存在が見えていて、お互いの思いや心の声を語り合える仲間がいたら、どれだけ心強かったか…と思います。」

「気にしすぎだよ」善意のつもりでも…
当事者が抱えている悩みを、周りが軽く受け流したり、善意のつもりでかけたりする言葉も、当事者のアイデンティティや気持ちを傷つけてしまうことにつながる場合もあります。

5年前、東京から島根県の中部の山あいの邑南町(おおなんちょう)に移住した藤彌葵実(ふじや あみ)さんは恋愛感情をもっていません。また、松島さんと同じように、女性・男性という性別で区別されることに違和感を覚えています。ことし4月に放送したNHKの番組でそのことを話してくれました。すると、放送後に周りの人から「気にしすぎじゃない?」「藤彌さんは、カミングアウトしなければ、普通の人と変わらないから大丈夫だよ」という言葉をかけられたといいます。


藤彌葵実さん
「自分が日常生活で傷ついたり、悩んだりしているのは、私が『気にしすぎ』だからなのかな?カミングアウトせずに、周囲に合わせていたらいいってこと?それとも、私を励まそうと善意で言ってくれているのかな…。それぞれの言葉を聞いて、モヤモヤしました。

(自分の存在が)ないものにされてしまっているという感覚が強いです。女性は女性らしく振る舞うことや、異性と恋愛をすることなど、「○○が普通です」と、“普通です”の顔をした差別がすごくあると思っています。」

“自己肯定感を下げてしまう” マイクロアグレッション
4人目は、日本海に面した島根県浜田市出身で、東京在住の大賀一樹さん(32歳)。臨床心理士としてLGBTQの人たちの支援も行っています。大賀さんは、明らかな差別ではないものの、誤った先入観や偏見によってLGBTQの人たちを傷つけてしまう「マイクロアグレッション」は、あからさまな暴言や暴力を受けるのと同程度の、心理的な負荷がかかると指摘します。


大賀一樹さん
「そういう言葉をかけられた本人は、私が悪いのかなとか、私はいちゃいけないのかなと思わされてしまうんです。自己肯定感などが低下したり、”死にたい“とか”消えてしまいたい“という気持ちを増幅させてしまう一つの要因となるといわれます。私自身も、島根にいたときにそれを経験して、”もうここではやっていけない、死んでしまうかも“という思いに襲われ、”強くならなきゃ“という危機感があって、東京に出ました。」

大賀さん自身も小さい頃から、自分の性について悩みを抱えてきました。保育園の時から話し方やしぐさが「女っぽい」というだけで「オカマ」と呼ばれ、小中高校時代も、先生、友達、親の理解をなかなか得ることはできず、18歳で逃げるように東京の大学に進学。学生時代に性的マイノリティーのサークルで初めて同じ悩みをもつ仲間と出会って救われたそうです。

大賀さんによると、マイクロアグレッションは、そうした言葉をかける側も、かけられる側も、“差別”として認識していないことがほとんどだといいます。

大賀一樹さん
「マイクロアグレッションは、周りが“相手を傷つけるためにて言っているわけではない”ということ、また言われた側も “私が弱いからダメなんだ”とか、“私がもっと強くないと”と思わされてしまう。どちらの側も、“差別している”、“差別されている”とはっきり認識できないからこそ、複雑で難しいものと思います。

どうすればマイクロアグレッションをなくせるか
LGBTQの人たちに対する社会の理解を深め、マイクロアグレッションをなくすためにはどうすればいいか。当事者それぞれに話を聞きました。


シロクマさん(男性と女性の間の中性だと感じている、女性を好きになる)
「自分だけの考えが全てじゃなくて、色々な人がいるというのを、本当にみんなが思っていれば、声かけひとつ変わってくると思います。自分の考えが正しいとか普通だと思って発言するよりも、自分はこう思っているけど、そうじゃない人たちもいるよねと思って発言した方が、傷つく人が減ると思います。」


松島さん(女性でも男性でもないと感じている、性別を問わず好きになる)
「“ふつう”を持ち出して話をするのではなく、“自分はこう思う”で話をすることだと思います。“ふつう”を持ち出す人は、説明を怠けているんです。そして、言われた側も、「あなたにとっての“ふつう”って何ですか?」と恐れず聞くことが大事だと思います。目の前の人に向き合って、話をすることだと思います。」


藤彌さん(性別で区別されることに違和感がある、恋愛感情をもたない)
「周りにLGBTQであることをカミングアウトしても、やっぱり変わらない部分もありました。地域や文化に強く根ざした価値観や意識を変えるのは非常に難しいと思います。当事者ばかりが頑張るんじゃなくて、行政側も、社会としてLGBTQへの理解を深めたり、差別をなくすような制度や体制を早く整えて、“普通”をアップデートすることも大事だと思います。」


大賀さん(男性でも女性でもない、他者に恋愛的にひかれることはほとんどない)
「自分は“恵まれている”と思う部分と、“人と違うなあ”って思う部分って、自身がマジョリティー、マイノリティーのどちらに属していようが関係なくあると思うんです。“恵まれている” と “人と違う” 部分の両方を自覚することが必要と思います。

また、もし性をめぐることで何か間違った発言や行動をしてしまったとしても、自分や相手を責めるのではなく、言葉を訂正したり素直に謝罪したりして、未来を変えていくのは自分なんだと “主体性”を持つことが大事だと思います。 」


島根でLGBTQの方々を取材して…
普段から地域で、自分の親世代以上の方々を取材する中で、「彼氏はいるの?」「結婚しているの?」「うちの息子の嫁にどう?」と言われることがあります。笑って受け流していますが、こうした質問が重なると つらくなることがあります。でも私自身、同世代の人たちとの会話で「彼氏いないの?」「結婚しないの?」「子ども(をつくること)は考えているの?」、こういった言葉を何気なく使っていたことが、これまであったと思います。しかし、LGBTQの方々から「それは“ふつう”の側に立って話しているから出る言葉ですよ」と教えていただくことで、こうした発言には自分の必ずしも正しくない“思い込み”や“常識”が混ざってしまっているということを思い知りました。

相手は何かしら自分の“常識”とは違う部分を持っているかもしれません。それを私が知らないだけかもしれません。それを思うと、言葉選びも変わってきます。「彼氏いないの?」ではなく「パートナーはいるの?」。「結婚しないの?」ではなく、「結婚とか考えたりするの?」。「子どもいないの?」は聞かない、などです。

いろんな人がいることを知り、それをわざわざ評価せずに、「そうなんだ」とただ思うだけでいいと思っています。

相手の何気ない言動で、“常識”を押しつけられていると感じたり、傷ついたりした経験はありませんか。どんな発言に傷ついたか、どんな声かけだったらうれしいか、みなさんのご意見や記事への感想などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


2021年6月18日

「本当はテレビに出るのは怖い」 故郷のために声をあげるミャンマー人は、あなたの隣にいる

ミャンマーで軍によるクーデターが起きて4ヶ月が経ちました。欧米を中心とした経済制裁、様々なメディアによる報道にもかかわらず、状況は悪化の一途をたどっています。 私はここ数ヶ月、岡山で声を上げ続ける在日ミャンマー人の活動を取材してきました。その中で、この悲惨な状況を変えるために日本人ができることがあるのか、ずっと考え続けてきました。彼ら・彼女達が発した言葉の中に、その答えを探してみたいと思います。 
(岡山放送局ディレクター 吉田宗功)

「お兄ちゃんの分も、2倍がんばります」
岡山でクーデターへの抗議活動を続けている主要メンバーのひとり、ミン・ミン・ティンさんは、私に一枚の写真を見せてくれました。去年10月、東京のミャンマー大使館前で撮った写真です。 その日ミンさんは、ミャンマーで行われた総選挙に在外投票するため東京にかけつけ、アウンサンスーチー氏が率いる政党・NLDに一票を投じました。結果はNLDの圧勝。ところがその4か月後、軍はその選挙に不正があったとしてクーデターを起こしました。ミンさんには許しがたいことだったといいます。

ミンさん
ふるさとのため、若者のため、子ども達のために東京へ行って投票した。それが踏みにじられた。こんなことを起こすために投票したんじゃない。

そう、涙まじりに悔しさを語ったミンさん。そして、人前でマイクを持つ勇気、テレビ取材に答える決意について次のように話してくれました。

ミンさん
本当はテレビに出るのは怖い。大勢の前で話すのも苦手。でも、デモクラシーがほしいと思っていて部屋の中にいるだけだと、誰にも私の声が聞こえない。故郷の民主化という目標のためには、今、声を上げないといけない。


左:デモ活動でマイクを握るミンさん 右:去年10月投票のために東京へ


4月上旬、抗議活動の準備を取材するためミンさん宅を訪れた時のことです。ミンさんの友人が私に声をかけてきました。私が取材に入ると聞いて、急遽、仕事を休み高松から岡山までやって来たと言います。彼女は切実な事情を抱えていました。この取材の前日、故郷であるミャンマーの古都バゴーが治安部隊の襲撃を受け、現地で暮らす兄と連絡がとれなくなったというのです。兄の分も声を上げるという決意を語ってくれました。

高松から岡山での抗議活動にかけつけた女性
お兄ちゃんは、向こうで「あなたの分まで、デモクラシーが欲しいと叫ぶ」と言って、活動に参加していた。だから、明日のデモ活動は、お兄ちゃんの分まで2倍頑張ります。


 
連絡が取れなくなった兄との思い出と、自らの決意を語るミンさん

ミャンマー人は、あなたの“となり”にいる
今、日本にいるミャンマー人は3万3000人ほど。その半分以上が首都圏に住んでいます。

岡山県にはおよそ340人。主に福祉や製造業の現場で、私たちの生活を支えています。取材に協力してくれたミンさんは、市内の福祉施設で働いています。取材に行った日も、「そのマニキュア、かわいいですね」と、介助を受け持つ入所者のマニキュアの色を褒める声かけをするなど、一人一人に向き合って仕事をしている様子が印象に残っています。

そして、岡山に暮らすミャンマー人への取材を通して、彼らの多くが日本の文化に親しみを感じていて、岡山という地域やそこで暮らす人びとに溶け込もうとしていることを、私は知りました。

たとえば、部品加工場で品質管理の仕事をしているモーさんは、上司が開いてくれたたこ焼きパーティーや、浴衣を着て祭りに参加したことが大切な思い出だと語ってくれました。自動車整備の技術を学校で学んでいるタイさんは、日本の自動車に憧れを抱いて来日、岡山のJ2チーム・ファジアーノのユニフォームを着た写真を見せてくれました。

しかしデモで2人が見せていた表情は、それらの写真とは全く違う、悲しみや憤りに満ちたものでした。モーさんは友人5人が軍に拘束されていて、タイさんは弟が命を落としています。

左:抗議活動でのモーさん 右:浴衣のモーさん(左端)


左:抗議活動でのタイさん 右:J2チームのユニフォームを着たタイさん


こんなにも、日本・岡山に心を寄せてくれている彼らが、胸が張り裂けそうな思いをしていることに、私はいたたまれなくなりました。

「NUGを正統な政府として認めてほしい」
5月、軍の弾圧によってミャンマー国内でのデモ活動はさらに困難になってきていました。岡山のミャンマー人たちは、岡山県選出の衆議院議員、逢沢一郎氏と意見交換する機会を得ました。逢沢氏は「日本・ミャンマー友好議員連盟」の会長を務めています。

ミャンマー人たちが最も強く訴えたのが、「日本政府は国民統一政府(NUG)を正当な政府として認めてほしい」という思いです。

リーダーのひとりアウンさんは、「日本政府はミャンマー国民の味方ですか?それとも、軍の見方ですか?日本政府ははっきり決めて、私たちミャンマー人の力になるような言葉を言って下さい」と、訴えかけました。それに対し、逢沢議員は、解決には時間はかかるかもしれないとした上で、「正当性はNUG(国民統一政府)にあるという整理の中で、物事を動かしていきたい」と答えました。

逢沢議員に要望を伝えるアウンさん


国民統一政府(NUG)とは、アウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主同盟(NLD)の議員らを含む民主派が結成した独自政府で、民主化デモの主導者や少数民族も含まれています。日本政府には、NUGを正当な政府と認め、また軍に対し毅然とした態度をとってほしいというのが、アウンさんらの訴えです。

たとえば、アメリカやイギリス、カナダ、EUは、軍の幹部や軍が所有または管理する企業等に対し、制裁措置を講じています。これに対し日本政府は、ミャンマーへの新規のODAの供与を見送り、継続中のODAは軍の対応次第で、停止を検討する考えを示すにとどまっています。

外務省は、「ミャンマー側に具体的な行動を求めて行く上では、日本とミャンマーには独自のパイプをいかして、やはり国軍側と意思疎通せざるを得ない」としています。 また茂木敏充外相は4月の国会で日本の対応を問われ、「イソップ童話の北風がいいのか太陽がいいのか、様々な組合せがないと、なかなか、この厳しい状態というのは打開できないのではないか」と答弁しています。

私が会った多くのミャンマー人は、こうした日本政府の姿勢に不満を抱いていました。これだけの多くの人の命を奪ってきた軍は、もはや対話が通じる相手ではない、と彼らの目には映っているからです。

あるミャンマー人のことば
軍が交渉できる相手だということを、もはや、信じてはいけない。長年、私たちを裏切り、今回もこれだけ残虐な行為を行った軍とは、もはや共存できない。

  アウンさんたちが企画した、ミャンマーでの軍による暴力のようすを演劇で伝えるパフォーマンス。ミャンマーでは軍が市民・メディアに対する情報統制を強めており、弾圧の実態が海外に伝わりにくくなっている。在日ミャンマー人たちが自ら軍や市民に扮して演じた。(5月2日撮影)
弟が武器を持って戦う日
4月上旬、NUGは、軍に対抗するための人民防衛隊(People’s Defence Force)を組織すると発表しました。軍に気づかれない僻地で訓練を始めた様子や、手作りでライフルを作る様子が、ニュースやSNSでも流れ始めました。

話を聞かせてもらったミャンマー人の中には、弟が人民防衛隊に入ったという人がいました。ただし、どこにいるかまで聞くと、情報が漏れるかもしれないから、詳しくは聞かないようにしているとも。 そして、「本当は故郷に帰って自分も人民防衛隊に参加したい」という声も多く聞かれました。「自分の命が犠牲になることも、怖くないー」そんな切実な思いを口にする人さえいました。

弟が人民防衛隊の訓練に参加しているというミャンマー人はこう言います。

大学にも通えなくなり、普通に生活しているだけでも、いつ拘束されるかもしれない。そうであれば、もう軍に入って戦うしかない。母親も息子のことを心配している。でも、武器を持って戦った方が未来を変えられる、私はそう考えるようになっています

「何もできないと、思わないで下さい」
ミャンマーでの軍の支配と市民の抵抗がエスカレートしていく中で、日本の私たちに何ができるでしょうか。正直なところ、岡山でいくら抗議活動を行っても、ミャンマーの状況を今すぐ劇的に変えるのは難しかもしれません。また私自身、岡山でミャンマー人のみなさんを取材しローカル番組で放送しても、どのくらい状況を変えられるだろうかと無力感を抱くこともあります。

そんな時に思い出す言葉があります。最初に紹介したミンさんがデモ中に発した言葉です。

ミンさんのスピーチより
関係ないと思わないで下さい。何もできないと思わないで下さい。
関心を持ち続けて下さい。惨状をもっと知って下さい。
それが私たちの国の力になると思います


抗議活動でスピーチするミンさん


ミンさんは、日本で声をあげ続けることの意味を、こう話してくれました。故郷のミャンマー人に、「あなたたちのことを忘れていない。最後まで、私も一緒に戦う」というメッセージを送っているんだと。実際に、彼らは必ずデモ活動をライブ配信して母国に届くようにしています。そして、日本人がデモ活動に来たり、募金したり、情報をSNSで拡散してくれると、それは自分たちにとってとても力になる、とも話してくれました。

それを聞き、日本人が何らかの形で意思表示をすることは、回り回って、ミャンマーで平和のために戦っている人の力にもなるはずだ、と私は思いました。たとえ、ほんの、ごくわずかな力だとしても。

関わり方は あなた次第
最後に、抗議活動に参加した日本人の言葉を紹介したいと思います。

4月のデモに参加していたある親子は、以前ミャンマーに旅行に行ったことがあり、「また、ミャンマーが平和な国になって、旅行に行きたい」と、かけつけたそうです。

また6月のデモでは、イマドキなファッションに身を包んだ若者3人組が足を止め、「一日一善っすよ」「ニュースとかは見てないけど、困っている人を見たら、ほっとけないでしょ」と、1人1000円ずつ寄付していました。 「困っている人を見たらほうっておけない」。シンプルで、とても素敵な言葉だとわたしは思いました。

ミャンマーを旅行したことがある女の子
ミャンマーには1回旅行したことがあるけん、平和な国になってほしいとは思います

足を止めた3人組
「たまたまですよ。一日一善っていう気持ちで」
「誰か困っている人を見たら、ほっとけないでしょ」


ミャンマーに旅行したことがある親子

募金した男性


実は私は、これまでデモに対して“なんとなく近づきがたいもの”というイメージを持っていました。政治意識・人権意識が高い人が参加するものという先入観もあったと思います。

今回の取材を通じて、デモ活動の輪に入らず立ち止まるだけでもいい。ミャンマーの人たちが歌う歌に耳を傾けるだけでも、彼らの力になれるかもしれないと思いようになりました。

または、ミャンマーのニュースについて誰かと話したり、SNSで発信してみる、そうしたことからでも彼らとつながれるのではないか、今はそう感じています。 

みなさんは、ミャンマーで続く惨状に、日本からどんな関わり方ができると思いますか? もしくは、どんな関わり方を、どんな思いで、されていますか?皆さんの声を、お寄せ下さい。
(岡山放送局ディレクター 吉田宗功)


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#Beyond Gender
2021年6月18日

ジェンダーVol.20 LGBTsの私が地方で暮らして 見つけた“希望”

女性、男性という性別で区別されることに違和感があり、恋愛感情もない。私が出会った藤彌葵実(ふじや あみ)さんは、性的マイノリティー・LGBTsの中でも、L(レズビアン)、G(ゲイ)、 B(バイセクシャル)、T(トランスジェンダー)の定義ではくくれない性「s」の一人です。

藤彌さんが暮らすのは島根県の山間にある小さな集落。「女は結婚して家庭に入り、子を産み、育てる」。そんな考えが根強く残る地方で、藤彌さんが何を感じ、周囲とどんな関係を築きながら暮らしているのか?そんな関心から取材を始めました。

(松江放送局ディレクター 岩永奈々恵)


どこにも居場所がない…東京から逃げるように地方へ

(初めて会った頃の藤彌さん(中央)と筆者(左))

「私たちだって、 恋愛してなくても十分“リア充”しているのにね!」

初めて藤彌さんと会ったのは4年前。NHK松江放送局に赴任したばかりの頃、プライベートで参加した地域イベントでした。お互いの年齢が近く、一緒にランチを食べながら恋愛トークになったのですが、それまで同世代と交わしてきた恋愛トークとはちょっと違いました。

いきなり藤彌さんが「わたし恋愛とかってちょっと分からなくって…」と言いました。恋愛に疎い私は即座に「わたしもです」と返しました。そこから話は、「なぜ世の中は恋愛をしないと“非リア充 認定”されるのか。私たちは恋愛してなくても、十分リア充してるのに」「この世の中は、異性恋愛至上主義だ!」と、社会に対する憤りの方向へ…。とても印象的な出会いでした。

意気投合して以来、何度か会って話をするうちに、ご自身がLGBTsであり、それを家族に伝えることなく、身寄りのないこの地に移住したことなどを語ってくれるようになりました。

藤彌さんは29歳。5人家族の長女として広島県で生まれ、中国地方で育ちました。父親の転勤で転校も多かったといいます。子どもの頃、好きだったのは恐竜のフィギュアで遊んだり、少年マンガを読むこと。

しかし、周囲からは「女の子らしい遊びをしなさい」と言われました。遊びから服装まで、いろんなことが「男の子」「女の子」に分けられていると感じ、ストレスのためか、小学生ながら円形脱毛症や胃潰瘍になったといいます。

中学や高校で、同級生が恋愛トークをするようになっても、自身は部活や趣味に忙しかったという藤彌さん。「恋愛感情がない」と気づいたのは大学生のときでした。

ずっと感じてきた“周囲に馴染めない感覚”。

その正体について調べるうち、自分が「Aジェンダー」(女性/男性という性別で区別されることに違和感を持つ)、「アロマンティック」(恋愛感情をもたない)、「アセクシャル」(性的感情を持たない)だと分かったのです。自分と同じような人が他にもいることも知りました。しかし、友人に打ち明けても理解されず、孤立感を深めていきました。


(東京で働いていた頃の藤彌さん)

大学3年で就職活動を始める頃から、「社会になじまないといけない」と、自分を押し殺すようになっていったといいます。ネットなどで学んだ就活生の“正しい服装”にあわせ、メークをしてスカートを履くようになったのもこの頃からです。

東京の大手企業に就職すると、同僚や上司とのつきあいの中で、自分の思いとは裏腹に、男性より一歩下がるなど、“望まれる女性像”に近づいていきました。

ある日、つらい出来事が起きます。同僚から恋心を抱かれ、拒否すると嫌がらせを受けるようになったといいます。

周囲に相談しても「気を持たせたあなたが悪い」と理解されませんでした。自分の思いのとおりに生きることを許されず、自分の思いを押し殺して生きても理解されない。家族にも話しづらい。「どこにも居場所がない・・・」。一時は「死ぬ」ことさえ考えました。

すべてをリセットしたいと、5年前、偶然ネットで求人募集を見つけた島根県邑南町への移住を決めたのです。

藤彌さん
「砂漠に生きてる魚みたいな。この社会で生きるのに、わたしは向いていません、死ぬしかないって思ったんです。ただ、死ぬのって案外難しくて…。だから、死んだつもりになって、田舎に移住しようって思いました。」
過疎の集落で初めて感じた “生きていてもいいかも”

(島根県 邑南町 日和地区)

藤彌さんが移り住んだ島根県邑南町日和地区は、高齢化と過疎化が進む山間の集落です。人口はここ10年あまりで2割以上減り、およそ400人が暮らしています。

自分のことを誰一人知らない土地で暮らし始めて半年、自然豊かでのんびりとした環境に身も心も癒やされる中で、少しずつ自分らしく振る舞えるようになっていきました。肩よりも長かった髪の毛は、徐々に短く。「これでも大丈夫かな?」と周囲の目線を気にしながらも、服装は動きやすいトレーナーやズボンへと変えていきました。


(町役場で働く藤彌さん)

藤彌さんは町役場の職員として働きながら、地域の活動にも積極的に参加するようになっていきました。集落の青年部では祭りを企画。人手不足で途絶えていた集落の花火を30年ぶりに復活させました。また、後継者がいなくて衰退しかけていた、集落に古くから伝わる神楽団では笛を担当し、今では中心的な存在になっています。

一人都会からやってきた藤彌さんに、集落の人たちは優しく接してくれました。神楽団の師匠たちは、藤彌さんのことをわが子のようにかわいがってくれ、夕食を自宅でごちそうになることも少なくありません。温かく見守り、助けてくれる集落の人たち。地域の活動では、頑張れば頑張るだけ感謝され、喜んでもらえる。自分の居場所を初めて見つけた気がしたといいます。


(地元の人と話す藤彌さん)

藤彌さん
「日和ってすごく良いところなんですよ。私こういう話するとウルッと来ちゃうんですけど、人も優しいし、みんなすごい見ててくれるし、褒めてくれるし、助けてくれるんですね。神楽団も(住民たちと)一緒で、青年部も一緒で、職場も一緒で、いろんな面を知ってるのが田舎の特徴かなと思っています。『私一人で、あなたも一人で、マジョリティーとかマイノリティーじゃなくて一対一だよね』って。とりあえず生きてていいかなと思います。へへへ。」

LGBTsであることを告白 でも…
藤彌さんは、これまで、職場の仲間や一部の親しい人を除いて自分がLGBTsであることは伝えていませんでした。しかし、地域の人たちが藤彌さんの活躍ぶりを見て信頼を寄せてくれている、自分を“女性”としてでなく「藤彌葵実」という個人として見てくれていると感じるようになるにつれ、伝えてもいいかもしれないと思うようになりました。また、集落の人たちから「結婚はまだ?」「息子の嫁に」といった言葉がかかるたびに、ごまかす答えを返しながら、相手にうそをついてしまっているような後ろめたさも感じていました。


(日和地区山根谷集落の会合)

おととし9月、藤彌さんは意を決して、地域の人たちに自分のことをカミングアウトすることにしました。集落の戸主が月に1回集まる会合に出席。みんな70代以上の男性、これまで自分のことを優しく見守ってくれてきた人たちです。藤彌さんはその席でおそるおそる、「恋愛とか結婚は考えられない」と伝えました。

藤彌さん
「私、日和に住んでていろいろ活動してるんですけど、あんまり今、恋愛をしたりとか、結婚したりっていうビジョンがないんですね。そういう考え方で、日和で過ごすのってどうですか?」


(言葉を失う集落の人たち)

藤彌さんの告白に一瞬、みんな言葉を失いました。これまでこの地区で、LGBTsであることをカミングアウトした人はいません。藤彌さんの言葉の意味を真剣に考えようとしながらも、どうしても理解できない様子でした。

住民
「若いもんの考えが分からん。」
「いつか良い人ができるよ、そりゃ。」


自治会長の佐々木正晴さん(73)は、これまで、特に藤彌さんのことを気にかけてくれていました。地域の活動に熱心に取り組む藤彌さんを「若いから」と不安視する住民に対し、「信頼して任せよう」と説得してくれたこともありました。いずれは、藤彌さんに集落の住民と結婚してほしいと願っていただけに、思いがけない告白に混乱を隠せませんでした。

自治会長 佐々木正晴さん
「うーん。結婚する気がないっちゅうのが、わしもよく分からんのじゃけど。藤彌さんは全くおかしいことはないよ。ものすごく正常なつきあいというか、わしらもいっぱい話をさせてもらって。だけど、結婚を考えてないっていうのはちょっと、こういうこと言っちゃいけないかもしれないけど、異常って感じがする。」



すぐには受け入れてもらえないかもと覚悟はしていたものの、藤彌さんはこれまで親しくしてきた人たちが戸惑う姿に、言いようのない悲しみを感じました。

藤彌さん
「幸せな人生ですねって言われてもいいはずなのに、幸せじゃないと思われる。異性と恋愛をして、結婚をして、子育てをして、幸せな家庭を築いて、老後を迎えて死ぬっていうステレオタイプがあって、そうじゃない人はそうなるように努力しなければいけないんじゃないかって思わされてしまう気がします。」

男女の役割分担の壁 話し合いは平行線、それでも…
「結婚して幸せに」。そんな価値観とともに、藤彌さんがぶつかっていた壁がありました。男女の役割分担です。

特に藤彌さんが納得できないでいたのが消防団の活動です。藤彌さんも所属する町の消防団は男女別に分かれていて、男性消防団は消火活動など力仕事、女性消防団は被災者のケアや広報活動などと役割が異なります。


(男性消防団と女性消防団)

藤彌さんが消防団に入ったのは、隣の家が火事になったとき、避難の手助けなどを手伝ったことがきっかけです。藤彌さんは、これまで繰り返し、現場で消火活動に関わりたいという思いを伝えてきましたが、女性消防団は現場に行かせられないと言われてきました。

この春に行われた消防団の防火パレードでも、女性消防団として参加するように言われました。しかも、女性らしく車両に乗って手を振る役。どうしても納得できず欠席しました。

「自分の本当の気持ちを伝えずに殻に閉じこもる」。このままだと、東京で自分を偽っていた頃とまったく変わらない…。消防団の活動でも、自分の思いを率直に伝えるべき時が来ていると感じていました。

藤彌さん
「東京にいたときは、“納得できません”って言えなくて。“スカートを履かないといけないなんて納得できません、私はズボンで出社します”って言えなかったんですね。本当はそう思っているのに、そう思っている自分を否定して、社会の常識を肯定してしまっていたんです。でも、それだと、私がこの社会で生きてる意味はないんじゃないかって思えてくるんですよ。“納得できません”って言うこと自体は、自分を肯定することだと思うんですよ。」


(女性消防団の副団長 中井伸人さんと藤彌さん)

思い切って、女性消防団の副団長で、神楽団や集落のバドミントンサークルの仲間でもある中井伸人さん(66)に、「女性消防団を辞めて、男性消防団で消火活動に参加させてほしい」と訴えました。消防団に入ったきっかけやLGBTsであることも伝えました。中井さんはじっと聞いていました。

中井さん自身、葛藤していました。「藤彌さんの気持ちを受け止めてあげたい。その一方で、男性と女性とではやはり役割に違いがあるのではないか…」。そう思う原点は中井さんのこれまでの人生にありました。中学生の時に亡くなった父の代わりに母と2人の弟を養うため、高校卒業後、集落に残り働く道を選びます。同級生の多くが大学進学や就職で都会に出る中、苦渋の選択だったといいます。


(郵便局で働き始めた頃の中井さん(前列中央)と中井さんの母と弟2人)

それでも、男だから家族を守るのは当たり前だと考えていました。一生懸命、地元の郵便局で働き、弟たちを進学させ、母親の面倒を見続けました。男性と女性、それぞれに役割があり、そのためには個人の我慢も必要だと考えてきたのです。

1か月後、中井さんは藤彌さんを事務所に呼び、伝えました。「男性の消防団に入ることを認める。しかし、条件が一つ。人手不足の女性消防団にも残り、今までどおりの仕事も続けてほしい。」

条件を加えた背景には、もう一つ、一対一の人間として藤彌さんと向き合いたいという中井さんの思いもありました。藤彌さんの意見も聞き入れる代わりに、消防団としての願いも聞いてもらう。それが 「一対一の関係」ではないかと感じていました。

しかし、「“男性”と“女性”だけを想定して制度ができている」ことそのものに違和感を覚えてきた藤彌さんは、中井さんの結論に納得できず、中井さんに率直に自分の思いをぶつけました。


(話し合う中井さんと藤彌さん)

藤彌さん
「私は、個人の話をすればいいじゃないって最初から思っているので、現場に来れる人は来る。できることをみんながやるっていうことだと思うんですよ。」

中井さん
「それは違うよ。男子じゃけ、それなりの力をもっとる、で、現場で皆が大きな声だして、こうじゃないああだ!って言えるじゃない。女性には、けがさせちゃいけんと思うじゃない。例えば顔に傷。男がここ(顔)擦り傷するのと、女性がここに 擦り傷するのとじゃ違うじゃない?」

藤彌さん
「そこまで話をすると、じゃあ私は消防団に入っている意味はないんじゃないかと思って。」

中井さん
「もう少し辛抱することはできんかね?だってそんなこと言ったら、人生も全部一緒じゃん。嫌だったら辞めればいいってものじゃないでしょ。」

議論は最後までかみ合いませんでした。

「めっちゃイライラしました!」 
そう言いながら、話し合いから戻ってきた藤彌さん。表情はスッキリしているようにも見えました。



藤彌さんは落胆していませんでした。たとえ考え方が違っても、こうして自分の意見を伝えられたこと、それを聞いて本心で議論してくれる人がいることのありがたみを実感していました。そして、「中井さんとのつきあいは、これまでどおり続けていく」と、力強く語りました。

藤彌さん
「こんな場面なんて山ほどあって、そのたびに屈していたら生きていけないことを実感したので。それをされたからこの人は敵だ、もう話ができないと思うんじゃなくて、概念がかみ合わないところはそのまま置いておいて、他のところで仲良くなればいいんじゃないかな。中井さんとは、また神楽とかで一緒になりますし、今日もこれから一緒にごはんを食べますし。そうやって暮らしていくんだと思います。」

“一人の中に、いろんなアイデンティティーがある”
「結婚=幸せ」なの?「男女の役割分担」って何?過疎化が進む集落に藤彌さんが次々と投げかける疑問。地元の人たちの考え方も少しずつ、変わり始めています。

「結婚するつもりはない」という藤彌さんに「異常」と言った自治会長の佐々木さん。そのことを反省していました。「性別は男女だけではない。多様な性がある」ということを知り、その後の集落の会合で、こんな言葉を藤彌さんにかけました。

自治会長 佐々木さん
「結婚するかどうかは個人の自由ですからね。特別じゃない。普通のひとと変わらないよ。なあ、藤彌さん。」

2人はこれまでと変わらず大事につきあっていくつもりです。


(神楽団の仲間と話す藤彌さん)

藤彌さんと同世代の男性や女性たちも、「結婚が当たり前」という年配世代の考え方を柔軟に捉えるようになっています。かつては「結婚はまだ?」と近所の人に聞かれるたびに傷ついていましたが、今は「この人は私のことを思ってくれている」と、言葉の裏にある、その人の思いを受け止めるようになったそうです。

藤彌さん自身も「結婚はまだ?」は、「幸せになってね」と変換して受け取ればいいと考えるようになりました。

藤彌さん
「田舎に来てから、人って一面だけの存在じゃないんだなって。その人の中にいろんなアイデンティティーがあるなって思います。だから一面だけをみて判断するんじゃなくて、社会がLGBTsを前提としていなくても、そこに生きてていいし、自分らしく生きてていいし、幸せにもなれる。」

性が多様なのと同じように、一人一人の中にも多様性があると気付いた藤彌さん。地方で暮らす中で見つけた“希望”です。



取材を続けて感じたこと
4年前に出会った頃、藤彌さんは地域に根ざした結婚観や、男女の役割分担が押しつけられることにいらだっているように見えました。「地域の価値観は古いもので、当然アップデートされるべきだ」と、当時は藤彌さんも、私も、思っていました。しかし、ちょうどカメラを回し始めた2年前あたりから、藤彌さんの考え方が次第に変わっていったように感じます。いちばん驚いたのは、ことし3月、ロケの終盤にさしかかった時に「自分が変わりたくなかったように、相手も変わりたくないと思う」とおっしゃったことです。

相手へのリスペクトを忘れずに、互いに変われる、変わりたいと思うところは変える、変わりたくないところは受け入れる。時に衝突することがあっても、それまでと同じように、共にご飯を食べ、働き、対話を絶やすことなく暮らし続ける地域の方々と藤彌さん。その姿に頭が上がりません。また、どうしたら誰もが暮らしやすい社会になれるか、大きな手がかりを教えてもらったように思います。これからも取材を続けます。

(取材した内容は2021年4月に「目撃!にっぽん 地方で暮らすLGBTsの私」で放送しました。)

地方に根強い価値観によって、生きづらさを感じることはありませんか?またそういった声を聞いたことはありませんか?誰もが暮らしやすい地域になるためにはどうすればいいか。みなさんのご意見や記事への感想などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


#Beyond Gender
2021年6月3日

ジェンダーをこえて考えようVol.19  トランスジェンダーのハナ 演じた2人の思い

6月4日(金)からオーストラリアのドラマ『ファースト・デイ わたしはハナ!』(全4回)が放送されます。主人公のハナはトランスジェンダー。男の子の体で生まれ、自分の性に違和感をもちながら生活してきましたが、中学生になるのを機に女の子として生きることを決意。家族に支えられながら 新しい友だちや先生との出会いの中で新たな一歩を踏み出すストーリーです。

主演を務めるのは、みずからもトランスジェンダーのイーヴィー・マクドナルドさん。日本語版の吹き替えを担当するのは井手上 漠(いでがみ ばく)さん。放送前にふたりにこのドラマや自身について話を聞きました。



“わたしの経験も含まれた「ハナの物語」”
物語は、小学校の卒業を間近に控えたハナが、女の子として生きていこうとするところから始まります。ハナを演じたイーヴィーさん自身も幼い頃から自分の性に違和感をもって生きてきた経験があります。


(イーヴィーさん演じるハナ<左から2人目>と新しい友だち 『ファースト・デイ わたしはハナ』より)

Q:「ハナ」を演じてどうでしたか?

イーヴィーさん
演じてみて もっとも難しかったのは、自分が経験してきた感情をハナとして再現することでした。自分自身の感情を思い返し、ハナに合わせて変えたりもしました。ハナの物語は、たくさんの人の実話をベースにしたものなんです。なるべくリアルにするために制作チームはトランスジェンダーの人々を取材しました。物語にはわたしの経験も含まれています。

Q:イーヴィーさんは何歳くらいから「自分は周りとは違う」と思い始めたのですか?

イーヴィーさん
5歳のころから、自分は友だちとは違うなと思い始めました。その前から自分は女の子だと思っていたのですが、両親から わたしは女の子ではないと言われていたので戸惑っていました。でも、学校に行き始めて自分が周りとは違うと はっきり分かったんです。

Q:当時は誰かイーヴィーさんのことを理解してくれましたか?

イーヴィーさん
わたしの両親が支えてくれました。ふたりに理解してもらうまで9年間、口論と対話を繰り返しましたけどね。今は家族にも友だちにも本当の自分を受け入れてもらえていることが、大きな力になっています。

Q:日本の学校では、男子と女子で分けられることが多いですが、そういう経験はありますか?

イーヴィーさん
はい、ありました。オーストラリアでは、天気が悪いと屋外授業が室内授業に切り替わるんですが、ある雨の日に、男子は体育館で運動を、女子は教室で絵や工作をすることになりました。わたしはスポーツではなく、女の子とたちと教室に残っていたかったのに、先生はわたしを教室から引きずり出したんです。両親はひどく怒って、その日に学校を辞めさせてくれました。


(現在、高校生のイーヴィー・マクドナルドさん)

Q:第2回(6月11日放送予定)では、ハナが一番の親友に自分がトランスジェンダーであることを打ち明けるシーンがあります。あなた自身が友だちに初めてトランスジェンダーだと伝えたときはどんな気持ちでしたか?

イーヴィーさん
わたしが友だちのひとりに、生物学的には男性で生まれたんだと伝えたとき、その子は気にしませんでした。一緒に笑って、「あなたはあなただよ」と言ってくれたんです。とてもすてきな経験でした。否定的な反応をする人もいますが、気にしないようにしています。

Q:女の子であることを打ち明けてよかったと思っていますか?

イーヴィーさん
打ち明けたことは後悔していません。最大の後悔は、もっと早く打ち明けなかったこと。女の子として生活を始めてから過去を振り返ったことは一度もありません。自分の中に秘めていた本当の自分を外に出すことができたとき、心からうれしかったです。何ものにも代えがたい気持ちでした。

Q:あなたにとって理想的な社会は?

イーヴィーさん
お互いを認め合い、相手に優しくできる社会。そして、知らないことを学ぼうとする社会です。 オーストラリアでは、同性婚が認められ、また、“紫色を身につけようデイ*”や“トランスジェンダー認知の日**”などを通して、人々の多様性への意識を高めようとしています。でも、小学校や中学校の教育はもっと改善できると思います。人種やインクルージョンなど多様性を教える科目を作ることが重要です。わたしはこれまで、みんなから あらゆることを質問され、説明してきました。それは子どもたちの多くがトランスジェンダーであることはどういうことかを知らないから、わたしのような人について教えられていないからです。

*紫色を身につけようデイ(Wear It Purple Day)…オーストラリアの若者が運営する非営利組織がLGBTQの人たちへの理解と認知を広げるために毎年開しているイベント。紫色の服を着てLGBTQの人たちへの指示を表明する。
**国際トランスジェンダー認知の日(International Transgender Day of Visibility)…毎年3月31日。世界中のトランスジェンダーの人たちの活動や勇気を祝い、差別の現状を知る日。


Q:「ハナ」のように生きづらさを感じている子どもたちにメッセージはありますか?

イーヴィーさん
自分自身に正直でいてほしいです。周りから「あなたはこうあるべき、こうあってはならない」と言われても、どんな自分になりたいかを決めるのは、あなた自身です。だから自分に正直に生きてほしいです。

“性別の壁をリアルに描いたドラマ”

(声優に初挑戦した井手上 漠さん)

日本語吹き替え版のハナの声を担当した井手上 漠さんは、体は男性、心は“男性っぽい部分”と“女性っぽい部分”の両方をもつ18歳です。

Q:『ファースト・デイ』の見どころは どんなところですか?

井手上さん
このお話は、自分の18年間の人生と少し重なる部分が多くて。目に見えにくい部分とか、当事者でないと分からない壁をすごくリアルに描いています。性別の壁の問題を、このドラマを通して、みなさんにお見せすることができたらと思います。

Q:お気に入りのシーンはありますか?

井手上さん
二つあります。一つ目は、ハナはあんまり人に自分のことを話すことができない子なんですが、仲良くなったお友達に自分のことをカミングアウトするシーン。見ていて自分も心動かされるというか、自分と重なったというのもあるんですけど、すごく感動しました。いろんな人に届けられるメッセージがあのシーンだけでもあるんじゃないかなというくらい、すごく感動的なシーンで好きですね。

もう一つはハナが女の子の制服を着て、学校に初めて登校する日に、家でお兄ちゃんがさりげなく朝食を食べて、ハナの姿を見て、「あっ、かわいいじゃん」って言うんですよね。それが、なんかきょうだいなんだけど、しっかりハナのことを見ていて理解していて。その言葉が、お兄ちゃんからしたら さりげないんだろうけど、ハナからしてもそれが普通なんだろうけど。いいきょうだいだなと思うし、血がつながってるからこそのあの軽い表現っていうのが、わたしはすごく重く感じて。あのシーンは一番好きかな。


(ハナと親友たち 『ファースト・デイ わたしはハナ』より)

Q: ご自身が友達に助けられたりした経験は?

井手上さん
友達に助けられたことは何度もあります。学校生活では友達といることが多いじゃないですか。わたしの大親友が一人いて、その子だけはわたしを見捨てないでくれていたんですよ、ずっと。「この子だったら、打ち明けても大丈夫な気がする」っていう子が一人でもいると、やっぱり、そこに逃げ込むっていう言い方はあれかもしれないけど、頼りたくなるんだなって。そこもすごく共感しました。ジェンダーのことだけじゃなく、誰でも悩みを持っているものだし。逃げられるところがあるというのを見つけたハナもすごいし、共感しました。

Q:今回、声優 初挑戦でしたが、いかがでしたか?

井手上さん
一番最初にご指導いただいたとき、本当にうまくできなくて、正直泣きそうだったんですよ。いろんなお仕事をしてきた中で、声のお仕事は初めてで。今までのお仕事は自分の中では、うまくできていたなって感じでしたけど、この声のお仕事は初めて詰まったというか、自分の中ですごい高い壁だなと感じて。普通のお芝居とは違って、その声で人の感情とかを表現する。声だけで感情を表現するというのが思った以上に難しくて。でも、自分だから演じれるハナというのが絶対にあるから、それだけはこの作品に残したい。そういう思いはありますね。

Q: このドラマを見る人に、どんなことを感じてほしいですか?

井手上さん
日本って、ちょっと昔ながらの風潮だったりを大事にする国じゃないですか。「男らしさ、女らしさ」や「男はロマンだ」みたいな感じから、なかなか抜けきれていなくて。わたしみたいな人たちが増えている時代で、新しく(昔ながらの風潮を)進化させていいものも、たくさんあるんじゃないかなって思うんですよね。

このドラマはすごくリアルな作品になっています。きっと、性別の壁にぶち当たった当事者だけでなく、当事者以外の人たちにも何か感じるものだったり、心動かされるものが、この作品には詰まっていると思います。その主人公ハナを演じることができるというのはすごく光栄ですし、本当にいろんな人にこの作品を見てほしいです。特に今の時代だからこそ、伝えられることが たくさんこの作品には詰まっています。

第1回「新学期はドキドキ…」のストーリーは

(第1回 『新学期はドキドキ…』より)

女の子として生きる決意をしたハナ。新しい友だちもでき、中学校生活は順調にスタートしたものの、学校側との約束で「だれでもトイレ」を使わなくてはならなかったり、“友だちに秘密を知られたら…”など不安もいっぱい…。ある日、ハナの”過去”を知る幼なじみと出くわします。どうする、ハナ!

【放送予定】
海外ドラマ 『ファースト・デイ わたしはハナ!』 (全4回)夜7:25~
[Eテレ]
6月 4日(金) 第1回 「新学期はドキドキ…」
6月11日(金) 第2回 「信じてもいい?」
6月18日(金) 第3回 「気分はサイアク」
6月25日(金) 第4回 「わたしらしく」

みなさんは、自分や大切な人が、ハナのように体の性に違和感を感じて悩んでいたら、どうしますか? この記事を読んで、また、『ファースト・デイ わたしはハナ!』を見て、どう思いましたか? あなたの感想や考えを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


2021年5月28日

わが子と一緒に暮らせない 在日ベトナム人 母たちの涙

成田空港で別れを惜しむ、あるベトナム人家族。赤ちゃんと父親が出発ゲートの向こうに消えてゆき、ひとり残った母親が、涙を流しながら見送るー

記者である私(大野)には1歳の娘がいるのと同時に、まもなく、2人目の出産を迎えます。泣き崩れるその母親の姿を動画で初めて見たとき、とても他人事とは思えず、胸が苦しくなりました。それと同時に、いくら生活のためとはいえ、生後まもないわが子と離れることは到底想像ができず、「もし自分だったら、子どもと一緒に国に帰るだろうな…」と、率直に思ってしまったのです。ところが、取材を進めるうちに見えてきたのは、彼女たちは「わが子と離れる以外の選択肢はない」という現実でした。

   大野桃(国際放送局 記者)  朝隈芽生(報道局社会番組部 ディレクター)

<関連番組>目撃にっぽん「母と子の別れ〜この国で働くために〜」

母と子 別れの理由
千葉県の施設で働いている介護福祉士のグエン・ティ・トゥイ・ズンさん(26)。3年前に留学生として来日しました。介護の専門学校に通っていたとき、日本で技能実習生として働いているパートナーとの間に子どもを授かりました。当初は出産や育児のために帰国を希望していたものの、家族の生計のために1人、日本に残る選択を迫られました。

介護分野の人手不足が深刻な日本では、外国人材の積極的な受け入れを目指して、様々な制度を導入しています。ズンさんが利用したのは、日本で5年間働くことを条件に300万円の学費が免除される制度でしたが、育児のために休学すれば、その学費が借金として重くのしかかる上、在留資格を失う可能性がありました。

そのためズンさんは家族3人で暮らすことを諦め、生後2ヶ月のわが子と離れて、ひとり日本に残ることになったのです。

介護施設で働くズンさん・左



介護福祉士 ズンさん:
出産してしばらく、子どもと離れたくないという気持ちしかなかったです。空港で別れた日も、泣いてばかりいました。本当は子どもと一緒にベトナムに帰りたかったです。でも、帰国すれば、勉強が中途半端になってしまいます。借金もとうてい返せる額ではないので、日本で働いて利用した制度の契約を満了させる必要がありました。そうでなければ、将来的に子どもの生活も困窮してしまうからです。



増える妊娠相談 日本での労働の長期化で
都内で活動するNPO法人「日越ともいき支援会」の代表、吉水慈豊さんです。吉水さんはベトナム出身の技能実習生や留学生を中心とした在留資格についての相談を受けたり、仕事や住まいを失った若者が共同生活できる場所を提供したりしています。
ズンさんのことも支援していて、成田空港での家族との別れも付き添い、動画を撮影しました。

日越ともいき支援会代表 吉水慈豊さん 常にスマホで情報収集と支援をしている

吉水さんはこの1年で、50人以上から妊娠に関する相談を受けました。なかには、日本での出産を諦めて帰国したり、日本に残って働き続けるため中絶を選ぶ人もいるといいます。

日越ともいき支援会 吉水慈豊さん:
日本で働く外国人労働者のほとんどが20代や30代の若者です。さらに新しい在留資格「特定技能」の創設などもあり、従来よりも日本で働く期間が延びています。そんななか、若い彼らが恋愛し、結婚し、そして出産することは自然なことだと思います。

とはいえ、外国から来た子たちが日本で出産する場合には、どうしても在留資格や制度の問題がつきまとってきます。日本で育てることは難しいため、相談を受けたとき、本人たちには「つらい別れがやってくるよ」ということを説明しながら出産まで支えますが、その別れを迎える瞬間というのは、私も毎回とてもつらいです。



ズンさんの動画を見る吉水さん。撮影した吉水さん自身、ズンさんの動画を見るたびに涙を抑えられないという


コロナ禍で失職も・・・ 21歳の元技能実習生が授かった命
妊娠がわかり複雑ながらも喜ぶチャンさん(左)とチュンさん(右)


今回の取材では、これから出産を控えているベトナム人実習生のカップルにも出会いました。チャンさんとチュンさんです。

チャンさんは3年前に技能実習生として来日。東北地方の養鶏場で働きながら、農家を営む実家の生活費やきょうだいの学費の支払いのために月10万円近くの仕送りをしてきました。しかしコロナ禍の去年、休暇中に関東地方で働くチュンさんに会うために県をまたぐ移動をしたことをきっかけに、会社から一方的に解雇を告げられたといいます。チュンさんもまた、技能実習生として建築現場で働いていましたが、会社とのトラブルが原因で仕事を失いました。

2人が新たな仕事を見つけたいと吉水さんに相談した矢先、チャンさんの妊娠がわかったのです。

チャンさん:
彼とは25歳くらいで結婚したいと、両親には話していました。 なので、検査薬で妊娠が分かったときは、とても不安で一日中泣いていました。 出産を諦めることも頭によぎりましたが、翌日にチュンさんと話し合って2人でこの子を見守ろうと決めました。


チュンさん:
私は日本に働きにきてまもなく母が交通事故で亡くなったこともあり、新しい家族が増えることには喜びを感じました。できればベトナムに帰国して、3人で暮らしたいと思い(両方の)家族に相談することにしました。



両親に帰国を反対され、涙ぐむチャンさん


チャンさんはベトナムに帰国して出産したいと母国の両親に電話しましたが、チャンさんの仕送りを頼りにしていた両親は「日本で働き続けてほしい」と泣き崩れたといいます。

チャンさん:
両親に電話したらショックを受けて怒っていました。今も怒っています。「日本にいなさい、いま帰国してもあなたたちまで世話できる余裕がない」と言われました。



チャンさんが帰国すると家族の生活が成り立たなくなるうえに、さらにもう1つ懸念がありました。技能実習生として来日するために、母国で多額の借金を負っているのです。

技能実習制度は、もともとは途上国への技術移転のために創設された制度ですが、実習生は今や日本の産業を支える実質的な労働力となっています。その日本での需要を支えるために、一部の国々では、実習生の送り出しは一大ビジネスになっています。ベトナムでは、母国の「送り出し機関」と呼ばれる団体から渡航準備や語学習得と称して数百万円の支払いが求められることがほとんどで、チャンさんとチュンさんもあわせて200万円ほどの借金を負って来日しました。

この時点で、まだ30万円ほどの返済が残っていた2人は、日本に残って働きながら出産できないか、方法を考えることになりました。


「長く滞在して働いてほしい」企業にメリットも
チャンさんとチュンさんから相談を受けた吉水さんは、2人のために新しい就職先を探しました。しかし、妊娠が分かる前に「チャンさんを雇用したい」と言っていた企業にチャンさんの妊娠を告げると、「受け入れは難しい」と断られてしまいました。

企業の多くは外国人労働者に即戦力を期待しているため、妊娠した女性を受け入れてくれる企業は少ないのが現実です。新たな就職先が見つからなければ、技能実習生として来日した2人の在留資格を延長することも難しくなるため、吉水さんは頭を悩ませていました。

しかし数週間後、妊娠しているチャンさんとチュンさんを一緒に雇いたいという企業が見つかりました。岡山で食品加工会社を経営する田所雅江さんです。田所さんの会社では、いわゆる“巣ごもり需要”の高まりで増産を計画していたものの、深刻な働き手不足に陥っていました。求人サイトなどを利用して日本人への募集も行ってきましたが、地元では人を集められなかったといいます。

岡三食品 代表取締役 田所雅江さん

そこで、働く意欲のある外国人の若者を雇用したいと考えました。なかでも、家族で雇用することで、安定して長く働いてくれるのではと考え、「家族一緒に働いてくれるなら、雇用したい」とチャンさんたちに持ちかけたのです。

食品加工会社 代表取締役 田所雅江さん:
長く働くことで色んな仕事を覚えることができますし、責任ある立場を任せることもできます。それに、家族で生活基盤を築いてくれれば、企業としても安心だと思いました。



チャンさんとチュンさんも田所さんの会社で働きたいと希望し、岡山に移り住むことになりました。2人は最長5年間日本で働くことができる在留資格「特定技能」の取得を目指しながら働きます。
勤務初日、工場で働くために準備するチャンさんとチュンさん



出産と同時に始まる 別れへのカウントダウン
岡山に移り住んで間もなく、チャンさんとチュンさんは結婚しました。仕事も得て日本で出産までの生活のめどが立った2人は、産後の子どもとの生活をどうするのか話し合いをはじめました。

チャンさんとチュンさんは会社が借り上げた寮で暮らすことになった


生まれてくる子どもと3人で暮らすことを望んでいましたが、同時に日本で子どもを育てることは難しいとも考えていました。実家に仕送りをしながら借金を返すためには2人ともフルタイムで働く必要があります。さらに母国よりも物価が高い日本で子どもを育てていくことはできないと考えていたのです。

チャンさん:
出産して半年くらいまで自分たちで育てて、そのあとはベトナムの両親のところで面倒を見てもらうしかないと考え始めています。本当は家族3人で暮らしたいですが、今後のことを考えるとしかたありません。


チャンさんは出産費用を捻出したいと、会社に頼み込んで出産ぎりぎりまで働き続け、臨月に入ってからは吉水さんを頼って1人で東京にやってきました。
そして数週間後、新型コロナウイルスの影響で立ち会いもないなか、チャンさんは女の子を出産しました。

赤ちゃんの誕生を喜ぶ吉水さんとチャンさん


チャンさんたちに産まれた女の子


母になって初めてわかったこと
出産を終えたチャンさんに、改めて子どもとどう暮らしたいのかたずねると、次のように返ってきました。

チャンさん:
産む前は気持ちが分からなかったけど、産んでから赤ちゃんを1時間も離したくありません。少しでも赤ちゃんと長くいたい。でも一緒にいる時間が長くいればいるほど離れがたくなるし、どうすれば・・・。



母親として揺れ動く心にどう寄り添い、別れが繰り返されないためにはどうしたらいいのか。取材を終えた今でも、チャンさんに対してどう言葉を返したらいいのか、答えは見つからないままです。


母と子の別れはなぜ起きるのか
「母と子の別れ」を生んでしまう構造的な要因のひとつは、実習生になるために来日前に「送り出し機関」に多額の借金をせざるを得ない制度の歪んだ側面があることです。さらにもうひとつは、そもそも実習生は単身で来るのだから、と育児を「想定外」と位置づけてきた日本の姿勢です。実習生の多くは若者であるにも関わらず、恋愛や出産を前提に制度を見直してこなかったために、多くの若者たちが「出産」や「育児」に際して、現実的な選択肢がない状況にあるのです。

チャンさんのように日本で出産した場合、国は、「子育てをしながら実習を続けられるのか」「扶養できるだけの経済力・サポート体制はあるか」といった条件を総合的に審査します。審査に通らなければ、赤ちゃんは短期的なビザが与えられたのち、速やかに帰国させられます。

中には、いったん母国に帰って出産して、赤ちゃんとともに再び日本に来て働きたいという実習生もいますが、それは許可されません。国は「技能実習生はあくまで日本の技術を学びに来ているのであって、日本国内で子育てをすることは想定していない」という立場で、家族を連れてくることを認めていません。

今後も労働力不足が深刻な日本。「外国人労働者には積極的に働いてほしい」でも、「家族は作らないでほしい」と言っているようにも受けとれる制度のあり方がこのままでいいのか、考えさせられました。私たちと外国からきた労働者たちが共に働き暮らしていくためにはどうすればいいのか。引き続き、取材していきます。

   大野桃(国際放送局 記者)  朝隈芽生(報道局社会番組部 ディレクター)



外国から働きにくる若者たちの多くが家族では暮らせないことについて、みなさんはどう考えますか。記事へのコメントは、下の「コメントする」よりお寄せください

#Beyond Gender
2021年5月31日

Vol.18 らじらー!× u&i 「男らしさ 女らしさのモヤモヤ みなさんの声」

5月8日(土)、Hey!Say!Jumpの八乙女光(やおとめひかる)さんと伊野尾慧(いのおけい)さんがMCを務める『らじらー!サタデー』(ラジオ第1)に、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんがゲスト出演!きゃりーさんは多様性について考える子ども番組『u&i』(Eテレ)で、伊野尾さんと一緒にサルの妖精の声を担当しています。5月12日、19日の『u&i 男らしく、女らしくがいいの?』の放送を前に、八乙女さん、伊野尾さん、きゃりーさんが、「男らしさ、女らしさのモヤモヤ」について語り合いながら、リスナーのみなさんから寄せられたご意見を紹介しました。



服装や“見た目”の決めつけ
伊野尾
「男なんだからめそめそするな」、「女の子はおしとやかに」とか言われた経験、みなさんあると思います。そんなときに、「男らしさ、女らしさ、なんだろう」ってモヤモヤしたエピソードを投稿してもらいました。

八乙女
キャリーさんは「女の子らしくしなさい」とか言われたことはありますか?

きゃりー
私はファッションでけっこう言われたことがあって。もちろんワンピースなども好きなんですけど、メンズ服のダボダボのデニムとかをはいたりとか、髪もいま金髪なんですけど。「女の子なんだから、黒髪とかスカートはきなよ」と言われたことがある。まあ、そう言われることも分かる。でも、自分の個性として、「私はこれが好きだからこう着ている」と思ったりします。

伊野尾
そうですよね。最近、制服なんか女性はスカートだけでなくてパンツも増えてきたりして。逆に男性でもスカートをはきたい人もいると思うから、男性のスカートも用意してほしいと思う。女性のパンツスタイルはけっこう多く取り上げられているけど、その逆もあるんじゃないかなと思いますけどね。

八乙女
自由度は広げてほしいですよね。

リスナーのみなさんからも、服装や“見た目”について、いろいろなモヤモヤが寄せられました。

なぜ男子のスカートはだめ?   

かえる丸・15歳・女性・石川

私が住む県では今年から高校の制服は女子でもズボンをはいていいことになりました。確かにこれはいいことですが、なんで男子がスカートをはくのは許可されていないのかと思います。制服も自由になってほしい。

女性の就活はパンツスーツよりスカート?  

ぜんでん・23歳・女性

就活中のことです。面接の練習にパンツスーツで参加したら講師の方に「女の子は肌が見えているほうが柔らかい印象に見えるから、スカートのほうがいいよ」と言われました。「じゃあパンツスーツしか選べない男の子は不利なんですか?」と思ったけれど、聞くことはできませんでした。

容姿で男女を判断されてしまう

いちごのかき氷・16歳・女性・大阪

中学生の妹が髪をばっさり切ってから、服装もあってか「僕ちゃん」と呼ばれたり、女子トイレに並んでいると「間違ってない?」と声をかけられることが増えたそうです。それを初めて聞いたときはすごく不快な気分になりました。やっぱり容姿で判断してしまうのかな? 「男と女の区別をつけない呼び方」も必要と思います。

無意識の固定観念

ともろう・40代・女性・奈良

3人の子どもを育てている母です。なるべく「男の子だから」「女の子だから」という言葉を使わないようにしていたつもりですが、次女が5歳のときに「○○くんは男の子なのにピンクのズボンはいている。変じゃない?」と言ってきたことがあり、「あなただって青や水色好きでしょ?男の子がピンク好きだって変じゃないよ」と諭しました。でも、振り返ると、自分が妊娠して赤ちゃんの性別が分かった時点で、「女の子はピンク」「男の子は水色っぼい色」で準備しました。普段ジェンダーを意識してなくても、なんとなく頭に固定観念はあるんだなあと感じた出来事でした。

昔はランドセルも赤と黒の2色だったことを考えると選択の幅は広がっているし、こうしてアイドルがジェンダーを語ってくれることを考えると、確実に時代は前に進んでいると思っています。

なぜ女性だけ 脱毛?

茶碗・女性・千葉

男性は毛が生えていても良しとされているのに女性にはあまりそれが許されていないような空気が気になります。男性にそる・そらないの選択肢があるなら、女性にも同じように選択の自由があっていいはずです。しかし現状はそれが許されていないように感じるのは、「女性は美しくあるべき」という女性に対する差別的な思想が根底にあるからなのかなと思います。動画サイトによく流れる「ムダ毛の処理を怠っていると彼氏に嫌われちゃう」という広告にも、規定された美への圧力を感じモヤモヤします。

日本も見た目に関してとやかくいう人がいなくなり、一人ひとりがもっと自分らしくいられるような生きやすい国になってほしいと切実に思います。

できること・やりたいことは性別と関係ない
八乙女
「こうだから女の子」って決まっているわけではないし。「自分らしさ」って無限大にあるので、一つにカテゴリーされると、「あれ?」ってなりますよね。

伊野尾
ピアノは女性のほうが多く弾いているイメージがあるよね。小学生の頃にピアノをやっている男の子って、僕が小学生の頃だったからかもしれないけど、「え、なんで男の子なのにピアノ?」ってところがちょっとあった。でも、それが意外と子どもの頃だけだったり。逆に、高校生、大学生とかで男性の人がピアノ弾けると…

きゃりー
めっちゃかっこいいですよね。

伊野尾
そんなに縛られなくていいのかなと思いますよね。「男の子だから」「女の子だから」と余計なひとことがヤモヤするポイントかもね。

“男だから…”は負担

さっぱりコーラ・男性・北海道

男だからといって重いものを持たされたり、肉体的な仕事を求められることがあります。しかし力がそんなにない自分にとってはそれは負担だったりします。

同じ人間です

ひかもも・22歳・女性・静岡

重い荷物を運ぶときに、「女の子だから男の子に任せればいいよ」と言ってくれる方がいます。でも、それが通ってしまうと、男性は女性の分まで肉体労働をしなければいけないことになり、それがすごい複雑な気持ちで、「同じ人間なんだから私にも運ばせて!!」と私は意地を張ることが多いです。男性の方、いつも気づかってくれてありがとう。

“女子っぽい字”って?

ゆいか・17歳・女性・熊本

私は周りの女の子よりも少し字が下手。バランスが悪く、きれいに書けません。学校で宿題を名無しで提出する人がいるため、先生が字を確認して「この字は男っぽいな」「この字は女子っぽいな」とか言います。私はそう言われるのが小学生の頃から嫌でした。女の子=字が上手というイメージを持つことをやめてほしい!

男の人も泣くのに…

き抹茶 18歳・女性・福岡

中学生のとき、バレーボール部の男の顧問の先生に怒られて泣いたら、「すぐに女子は泣く、メンタルが弱い」とさんざん言われました。「男の人も泣くのになあ」と、すごくモヤモヤしました。

女性は昇進しない?

アネモネ・40代・女性

会社の昇進試験の勉強をしていたら男性の先輩に、女子は試験に受かっても昇進しないのになんでそんなに頑張るの?と言われました。

気にせずにやり通す

眠れない一匹狼・26歳・女性・埼玉

学校でチアではなく応援団に立候補したり「男の子がやることをなんでやるの?」と親に言われたり、クラスの女子たらし」と呼ばれることが多かったです。気にせずやり通しました。

「あなたらしくあること」が力になる   

マッチョパフェ・24歳・男・熊本

僕は、昔から体育より家庭科が好きで得意でした。そのせいで「男なんだから、将来 仕事場で自慢できることをやれ!」や、「男のくせに女々しい(笑)」と言われたりしました。でも今回のコロナでマスク不足の際、ばかにされてきた服飾スキルでマスクを大量につくり、人の役に立てました。

「らしさ」で悩んでいる方、大丈夫です。あなたが「あなたらしくあること」がいつかあなたの力になります。 あなたのすてきな個性を捨てないでください。

小学校の教育現場は…

(伊野尾慧さんとシッチャカ、きゃりーぱみゅぱみゅさんとメッチャカ)

『u&i 』は、小学生のふたりの子どもが妖精のシッチャカ(声:伊野尾慧)とメッチャカ(声:きゃりーぱみゅぱみゅ)といっしょに、無意識の固定観念について本音をぶつけ合い、悩みながら、多様性について理解を深めていく番組です。アレルギーをもっていたり、一つのことに集中しやすかったり、周りとちょっと違ったように見える子どもたちについて、「あの子は変だから」と決めつけずに、その子の抱えている問題としっかり向き合い、どうしたら互いに助け合えるかを考えています。『u&i』は、小学校の授業の教材として使っていただけるように、NHK for Schoolのサイトでも見ることができます。


(『u&i』男らしく、女らしくがいいの?)

『男らしく、女らしくがいいの?』を実際に授業で使った札幌市幌北小学校の安井政樹先生と電話をつないで4人で話しました。

伊野尾
安井先生、こんばんは。私ときゃりーさんは番組の立ち上げときに少しお話もさせていただいたんですよね。今の小学校でも「男の子だから、女だから」という空気感とかはあるんですか?

安井先生
いや、だいぶなくなってきていると思います。出席番号も男女別じゃないんですよ、もう。朝礼などで並ぶときも、男の子、女の子はまざって並んでいるので、だいぶそういう雰囲気はなくなってきていると思います。(※安井先生の小学校の場合) 

伊野尾
僕らが小学生の頃は、男子は組み体操をやって、女子はダンスとかあったりしたじゃないですか。そういうのもなくなっている?

安井先生
そうですね。(うちの学校は)先生たちも男女平等を意識しているので、男の子、女の子で分けて教育することがないように気をつけているとこですね。

きゃりー 八乙女
へえー。いい学校ですね。

伊野尾
時代とともに変わってきているんだね。


他の学校の先生からも声が届きました。子どもたちに「性別にとらわれない考え方」をもってもらいたいと、さまざまな工夫をされています。

「男女」のくくりをしない教育を   

みい・26歳・女性・千葉

小学校の教師をしています。新学期に教科書を運んだりするときは男の子に頼むのではなく男女関係なく「運ぶのを手伝ってくれる人いるかな?」と聞いています。6年という歳月は子どもたちの価値観を大きく変える時期なので、私たちが男女というくくりにはまらずに接することを心がけています。

固定観念にとらわれない環境づくり   

毎週のらじらー!は心のよりどころ・50代・女性・神奈川

小学校に勤務しています。学校では「らしさ」「男だから女だから」のような発言は先生たちはもちろん、子供たちの間でも「それはおかしい」といえる雰囲気づくりに努めています。色の決めつけはしていません。例えば、図工で絵を描いてそれを台紙に貼る場合、各々好きな色を選んでもらっています。すると、子どもたちは自分の思いで台紙を選ぶことができ、選ぶ色には男女差がないことにも気づきます。

運動会の徒競走も男女で分けません。保護者の方から「男の子と走るのはかわいそう」と言われることがありますが、小学生の時期は(体力に)性差はなく、女の子でも速いので、男女を分ける必要はないのです。まずは、固定観念にとらわれない環境づくりからではないかと思います。親御さんのほうが、まだまだ「男だから」「女だから」にとらわれている気がします。「男らしさ」「女らしさ」という言葉が「自分らしさ」に置き換わるといいですね。

悩み続けるなかで “自分らしさ” を見つける
きゃりー
もったいないですよね。自分の可能性を封じ込めてしまったら。

伊野尾
男だから、女だからというので自分の可能性に蓋をしちゃうのはもったいない。やりたいこと、したいことをやるべきだよね

八乙女
(男らしさ、女らしさの問題は)大人でもものすごい悩むから、子どもが悩むことは当たり前だよね。でも、いっぱい悩んで悩んで、そこから「自分らしさ」というものを見つけていくんだと思いますね。


自分自身がモヤモヤした理由を突き詰める中で、モヤモヤ解消のヒントや、「自分らしさ」を互いに認め合うための手がかりを見つけ出している人も少なくないようです。

「家事を手伝う」という表現がなくなれば

ほいっぷ・女性・鳥取

最近 大学で、「父親の子育て」について いろんな本を読んで勉強しています。「父親が家事を手伝う」という表現はまだまだ残っていて、母親は家事や育児をするのは当たり前みたいな雰囲気があります。この「手伝う」という表現をする風潮がなくなればいいのに…といつも思います。

男性も女性も 仕事と家庭の両立しやすい社会に 

抹茶大好き・女性

女性の社会進出は増えていますが、仕事をしていたとしても子どもが生まれたときに休職して世話をするのは母親です。私は2年後に医師になりますが、幸せな家庭を築きたいという思いと共に、医師としてのスキルを身につけ、沢山の命を救いたいという思いもあり、仕事と家庭の両立をどうすればいいか悩んでいます。

こうした悩みは男性よりも女性がもつことが多く、男性で育休を取る人もほとんどいません。男女平等というなら、女性の負担をもう少し減らせる制度が導入され認知され、男性も女性も仕事と家庭の両立をしやすい社会になってくれればと思います。

違和感を持つことは大事な一歩

めいか・20代・女性・宮城

私がモヤモヤを感じたのは職業体験で児童館へ行った時でした。全日を通して、男子は子どもたちと鬼ごっこなどの運動、女子は裏で掲示物の作成を指示されました。見かねた男子が担当者に話してくれて、結局 私たちも運動の方にまわることができました。ですが、個人の得意不得意は関係なく、「男子は運動」「女子は細かい作業」と決められていたことへのモヤモヤは残ったままでした。

この出来事から6年、私は今大学で共生に関する勉強をしています。ジェンダーについても勉強する中で、あのとき感じていたモヤモヤは間違っていなかったと分かりました。子どもの頃から無意識のうちに「男らしさ女らしさ」がすりこまれているのであたりまえのことと済ませてしまいがちですが、違和感を持つことは大事な一歩だったのかもしれないです。

一人一人の意識や自覚が大切

いのふく・40代・女性・熊本

長男が通っていた中学校では、4年前にスカートをはくのに抵抗がある女子生徒のためにブレザータイプも用意されました。長男の学年では2名の女子がブレザーを着用しました。2年後に娘が入学した時、一部の生徒の間でブレザーを着用する女子生徒に偏見の目を持つ生徒がいるみたい…と言っていました。学校が性別に縛られずに制服の選択肢を与えていても、一部とはいえ、偏見の目を向けてしまう生徒がいることは残念でなりません。

みんな違ってみんな良い、個人が尊重された世の中になっていくには一人一人の意識や自覚が大事なんだなということを痛感しております。またu&iの新作も楽しみにしています。

『らじらー!』と『u & i』では、「男らしさ、女らしさのモヤモヤ」について、考えていきます。

あなたが“モヤモヤ”の中から見つけ出した「モヤモヤ解消」や「自分らしく生きる」ためのヒントはありますか? この記事を読んでどう思いましたか?「下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


2021年5月20日

“圧倒的な孤独感” 注目の若手監督が描くベトナム人実習生の生き様 ~『海辺の彼女たち』藤元明緒監督に聞く~

3度目の緊急事態宣言下、ある映画が全国のミニシアターで大きな話題を呼んでいます。東京上映の初日のオンラインチケットは約5分で売り切れ、16日連続で完売となりました。映画のタイトルは「海辺の彼女たち」。失踪したベトナム人技能実習生が主人公で、人間が普遍的に抱える「孤独」というテーマが描かれています。
監督の藤元明緒さんは、撮影のために、自ら実習生の経験を長期間取材したそうです。なぜいまこのテーマに向き合ったのか。藤元監督に聞きました。

(「インクルーシブな社会のために」ディレクター 髙田彩子)


映画『海辺の彼女たち』あらすじ
技能実習生として来日した若きベトナム人女性のアンとニューとフォンはある夜、搾取されていた職場から力を合わせて脱走を図る。新たな職を斡旋するブローカーを頼りに、辿り着いた場所は雪深い港町。やがては不法滞在となる身に不安が募るも、故郷にいる家族のためにも懸命に働き始める。
しかし、安定した稼ぎ口を手に入れた矢先にフォンが体調を壊し倒れてしまう。アンとニューは満足に仕事ができないフォンを心配して、身分証が無いままに病院に連れて行くが—。
(映画公式サイトより)




見えにくい「技能実習生」の素顔 人間らしさを伝えたい
藤元明緒監督は1988年生まれの33歳。ミャンマー人の妻と結婚し、自ら東南アジアと日本を行き来する生活を続けています。在日ミャンマー人を描いた前作『僕の帰る場所』が東京国際映画祭の「アジアの未来」部門で2つの賞を受賞するなど、国内外で高い評価を得ています。

インタビューに答える藤元監督

今回の映画のきっかけとなったのは、ミャンマー人の技能実習生の女性から届いたSOSのメールです。藤元監督は2016年から、ミャンマー人向けに日本で生活するのに必要な情報を伝えるフェイスブックページを妻とともに運営していましたが、そこに「実習先から不当な扱いを受けているので逃げたい」という連絡が来たのです。

何回かやりとりをしたものの、その後女性とは連絡が取れなくなりました。

これ以降、「行方不明になった彼女のその後」を幾度となく想像するうちに、日本社会のなかで見えない存在になりがちな技能実習生の姿を、映画を通じて捉え直したいと考えたといいます。

藤元監督:
実習生と聞くと、悪い制度に利用されたかわいそうな人達というラベルが貼られがちなんです。こちらからコンタクトを取っていかないと会わない、おそらくふだん歩いていてすれ違うくらいの関わりだと思うんです。

ただ、実習生の方が作ったものとか食べ物などは生活のなかで手にしているはずで、間接的には日本国民のほとんどが関わっているはずですけども、どうしてもダイレクトに会う機会がないので、あまり実感しにくい人たちなんだなというのは思いますね。本当に”インビジブル”な人たちなんだなと。

僕らが「この人たちかわいそうでしょ、同情して助けてください」という理屈ではなくて、人間らしいところを伝えられたら、もっとシンプルな関係性になるんじゃないかなと。



描きたかったのは“圧倒的な孤独感”
日本で就労する技能実習生は40万人あまり。その半数以上がベトナム人であることや、逃げた先の生活を描く材料も比較的多いため、ベトナム人実習生を主人公にした映画を作ることにしました。
藤元監督は、ベトナム人技能実習生を支援するシェルターなどを約2ヶ月にわたり取材。夢を持って日本に来て問題なく実習制度を終えた人、実習先に恵まれず逃げ出さざるを得なかった人など、様々なケースについて当事者や支援者から直接じっくり話を聞きました。その中で、技能実習生の多くが孤独感を抱えていることに気づいたといいます。



藤元監督:
今回、人物を3人描く上でやりたかったのが、圧倒的な孤独感です。異国の地で家族のために働くプレッシャーのもと、自分たちが失敗すると母国にいる家族に迷惑をかけるかもしれない。何か問題を起こすと親が悲しむかもしれない。そういう責任感のなかでどんどん孤独になってしまうということは、取材を通してすごく色んな方がおっしゃっていたので、その孤独感は、映画全編を通して表現したかった部分です。

いい職場で働いている実習生にもかなり多くお会いしました。しっかりスキームができている企業に所属している実習生の方はモチベーションが高く、楽しくやっている感じでした。そういう部分も事実としてありますので、いちがいに技能実習制度というよりも、制度を使う人がどう実習生たちとコミュニケーションし、ともに仕事をするのかが本当に問題だと思いました。

彼女たちは幸せを求めて、日本の場所で生きているので、何かレッテルを貼りすぎないようにその生き様を捉えるというところにフォーカスしました。



「演じる」のではなく俳優に体験してもらう
登場人物の「人間らしさ」を表現するために、藤元監督は、俳優たちが登場人物の置かれた状況を追体験できるように工夫しました。

俳優たちにはクランクインの前に、日本語学校に数ヶ月通ってもらい、実際に技能実習生がたどるプロセスを経験してもらいました。食事のシーンで使う料理は、撮影地のスーパーに一緒に買い出しにいって、俳優達自身が「こういうときはこういうスープを食べるかな」と選んだ食材で作るようにしました。さらに、台本には状況は書いてあるが、せりふはそれぞれの俳優が考えてくる、という方式をとりました。



藤元監督:
僕がトップダウン的に「このキャラクターはこう思っているからこう演じてください」というよりは「ここでどう生きたいですか?」ということですね。僕らのチームの場合は何かを“演じる”というよりも、「もしも私がこの世界に生きていたら」という“もしも世界”の中でセリフを話したりアクションを起こしたり、ということを積み重ねていくので、必ずしも“演じている”というのははまらないと思っています。

たとえば料理を食べるシーンで「こういう環境だったらどういう料理を作りたいか」を考えてもらって、「あ、いいですね、じゃあこうしましょうか」と。ある種、彼女たちに委ねるというのが、こういう作品の作り方では大事になってくるんじゃないかなと思っています。



声を出せない人たちに、私たちは声をかけられるか
場面のディテールは俳優にゆだねる一方で、藤元監督が決めた、主人公のフォンが辿る運命は容赦なくシビアです。救ってくれる人は現れず、彼女自身も「助けて」という声を上げようとしません。

フォンたちを世話し、見張るブローカー


藤元監督:
率直に言って辛いですよね、やっぱり。せっかく映画なのだから、脚本で何かハッピーなことを用意してあげたいというのはあるんですよね。ただそれをし過ぎると、本来描きたかった今の日本の社会が浮かび上がってこないな、というのは感じたので。そこはもうシビアに描写していきましたね。

主役3人は仲が良いと思われがちなんですけども、やっぱりどこまでいっても仕事仲間。お互いの利害のなかで結びついているもろい関係性だなというのは感じていて。そのなかでひずみが生まれたり、よくない判断をしてしまったり、そういう孤独感からくる問題もあると思います。
 


―実習生たちは誰かに心を開いて相談することはないのでしょうか?
(日本人との)信頼感が壊れてきてしまっていると思うし、そういった中でまた第三者に相談しようというのはなかなかやっぱり、正論だとしても難しいのじゃないかなと思いますね。

分断された世界のなかで彼女たちが生きているというのはすごくシビアな問題だと思うし、ここで声を出せない彼女たちのために僕らが“声をかけてあげられるか”というのはこの映画が持っている問いですね。いま気づきました。



観客と「彼女たち」の関係が始まることを信じて
藤元監督たちが『海辺の彼女たち』公開準備を進めていた2月1日、妻の出身国であるミャンマーでクーデターが起き、日常生活が一変しました。藤本さん自身、映画よりも「ミャンマーのための活動を優先した方がいいのではないか」、悩み抜いたといいます。

藤元監督:
ミャンマーでは常にニュースになる何かが起きていて、誰かが亡くなって、(『海辺の彼女たち』の)宣伝的なことをやめようかなとずっと悩んでいたんです。たぶん今じゃないなと。

ですけどやっぱりミャンマーのことはミャンマーで起きている、じゃあ『海辺の彼女たち』の声がなくなっていいのかというと、世界中でいろんな問題があっていろんな失われている声があって、どこまでいってもたぶん、個人の僕が恣意的に判断していくしかないんだろうなってある種あきらめがついたというか。

僕はもうミャンマーと、『海辺の彼女たち』のような人達について発信しますという、覚悟が決まりましたね。



今月映画が封切されてから、藤元監督は毎日のように映画館に出向いて舞台挨拶をしているほか、オンラインコミュニティをつくって観客との対話を続けています。映画にとって最も大切なのは、観客の受け止め方だと考えているからです。

藤元監督:
この映画って、決して何かハッピーになれたり、救われるような映画ではないとは思ってるんですね。ただそういうシビアな映画を見たあとの観客の皆さんがどう彼女たちの世界に介入していくのか、どう手を差し伸べていくのかという関係性を作りたかったんです。

僕らが映画で表現して、こういう助け方があるよとか言いすぎると、見てくれた人が受動的になってくると思うんですよね。敢えて厳しい映画を作ることで、一般の見てくれた方々がどういうアクションをしてくるのか。どういう感情になるのかを信じて映画を作りました。



ベトナム人元実習生たちはどう受け止めた?
実際の“当事者”たちは、この映画をどう見たのでしょうか。藤元監督の取材に協力した、ベトナム人技能実習生を支援するシェルター「日越ともいき会」に滞在している元実習生たちに、感想を聞くことができました。

感想を伝えるベトナム人の元技能実習生たちと藤元監督


トゥイさん:
悲しい映画でしたね。日本でお金を稼ぐことは簡単じゃないですね。彼女たちと私の経験は違いますが、自分と似ていると思ったのは、家族を思い出すことです。実習期間中は家族に連絡する時間もなくて、家族がどうしているかわからない。それが一番心配でした。それは同じでした。
(来日4年目の24歳 3年の技能実習を修了)


リーさん:
逃げると”悪い人”になってしまうと思って、いくら大変でも3年間頑張りました。実習中は日本語が全然わかりませんでした。いろいろ仕事を教えてもらいましたが、日本語がわかりませんでした。映画の子達みたいに、仕事ができなくてお金も貯まらないと、逃げます。逃げていい人に会うこともあれば、悪い人に会うと大変です。お金がないとみんな悪い人になります。泥棒になります。日本で働きたい人は日本語を勉強してください。日本語大事です。
(来日4年目の25歳 3年の技能実習を修了)


皆が口を揃えて言ったのは「映画の続きがもっと見たい」「主人公のフォンさんに幸せになってほしい」ということでした。


誰にでもある 「選んだようで、選ばされている」状況
この作品の主人公フォンのように、豊かさを求めていたはずなのに、気づくと自由になる選択肢がない状況は、どの国の誰にでも訪れる、と藤元監督はいいます。

藤元監督:
自分が用意したものではない、誰かに与えられたAとBで、どっちですかと言われたときに、もう既に選ばされている状態というのは、誰が悪いとかじゃないと思うんですけど、世知辛いなと。なんとも言えない気持ちになるんですよね。豊かさを求めるんだけどそれが何のための豊かさなのかとか。それがすごくアンバランスになったところで生きているというのは、この物語が一番普遍性を持っている部分じゃないかというのは感じています。


―助けが必要な人を前にして「自分も何かをしなければ、動かなければ」と感じる人もいると思います。ただ、実際には余裕がなかったり、踏み出せないことも少なくありません。どうしたらいいでしょうか?

藤元監督:
わかります。たぶんやっぱりどこまでいっても、まず一番最初はやっぱり個人が何ができるかという所からスタートすると思うんですよね、連帯するにしても。でもそこで無理しすぎない。自分の出来る範囲というのをしっかりやっていくというのしかないのだろうと思います。


『海辺の彼女たち』は、ポレポレ東中野ほかで全国順次公開中です。

また、ミャンマーの軍事クーデターに対する緊急企画として、在日ミャンマー人の親子を描いた藤元監督の作品『僕の帰る場所』のチャリティ上映が全国の映画館で始まりました。配給収益はすべて、クーデターの影響で困窮しているミャンマー市民に寄付されるということです。

藤元監督がチャリティ上映の特設サイトに寄せたメッセージ


NHKでは在留ベトナム人の母と子の別れを描いたドキュメンタリーが放送されます。 放送後に「インクルーシブな社会のために」で関連記事を公開予定です。


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#Beyond Gender
2021年4月23日

Vol.17 “性”について語ろう④ 性のあり方って?

“性”について考える『からだとこころの話』4本目は、性の多様性について。人間の性は男性と女性の2つだけではなく、実にさまざまです。好きになる相手が異性だけとも限りません。

 

性のあり方って?

女性を好きな女性。
男性を好きな男性。
男性も女性も、好きな人。
自分の「性」に違和感をもつ人。
ある調査では、LGBTなどの人は「10人に1人」という結果も。
「性のあり方」は人の数だけあるんです。

(監修:防衛医科大学校 教授 西岡笑子、慶應義塾大学大学院 特任准教授 本田由佳)


私たちひとりひとりの中に、いくつもの「性」があります。体の性(身体的性)、心の性(性自認)、表現する性(性別表現)、好きになる性(性的指向)。そして、その濃淡もひとりひとり異なります。例えば、体と心が女性で、表現する性(服装や言葉づかい)が男性、好きになる対象は男性という人もいます。体は男性で心が女性、表現する性は男性でも女性でもなく、恋愛感情をもたないという人もいます。性のあり方は、人それぞれです。

「性の多様性」は社会の活力(防衛医科大学校 教授 西岡笑子さん)

現在、「性」を男性か女性かといった“性別二元論”ではなく、連続するもの、「性のグラデーション」ととらえ直すことが提案されています。それぞれの「性」の要素の濃淡はひとりひとり違います。それは「セクシュアリティの個性」です。人口の数だけ「性」があります。

性的マイノリティがいるから性は多様なのではなく、すべての人ひとりひとりが異なる性を持っていて、「誰もが多様な性の構成員」です。人間という種の中の「性の多様性」は社会の活力になります。「性」について悩みを抱えている人も、そうでない人も、ぜひ、そのことを覚えておいていただきたいと思います。

#BeyondGenderのホームページには、あらゆる世代の方々から、自分の性のあり方について疑問やお悩みの声が寄せられます。

「僕は、体は女性。相手が男でも女でもそれ以外でも好きになります」(10代)

「20年以上前からパートナーと暮らしていますが、お互い、ゲイとカミングアウトせずに生活しています」(60代)

「“男の子”を押しつけられるようにして育てられましたが、ストレスからか、小学生のときから女性化乳房に…。親・親族への恐怖心から、女性らしくいたくても、それができません」(30代)


性のあり方はひとそれぞれ。むりやり型にはめるのでなく、誰もがありのままの自分でいられる社会に、居心地のいい社会になるために、皆さんのご意見をお聞かせてください。これからも取材を続けます。

あなたは、あなた自身がもつ、さまざまな「性」について、どう感じますか?「性は個性」と社会で広く受けとめられるようになるために、私たちひとりひとりは何ができると思いますか? 動画や記事への感想やご意見を、下の「コメントする」か、、下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


#Beyond Gender
2021年4月23日

Vol.16 “性”について語ろう③ 男らしさ・女らしさに縛られてない?

“性”について考える『からだとこころの話』3本目は、性別をめぐる固定観念についてです。知らず知らずのうちに、“思い込み”や“決めつけ”をしていませんか。

 
『男らしさ・女らしさに縛られてない?』

男性は、積極的、社交的で、「外で仕事」?
女性は、やさしくて器用で、「家事育児」?

いま、共働き世帯は専業主婦世帯より多いんです。
役割・生き方は人それぞれ。
みんなが、自分らしく。

(監修:防衛医科大学校 教授 西岡笑子、慶應義塾大学大学院 特任准教授 本田由佳)


NHKが3月末に全国の18歳以上を対象に行った世論調査*で、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について、賛成か反対かを尋ねたところ、「反対」「どちらかといえば反対」を合わせた『反対』は5割近くを占めた一方、「賛成」「どちらかといえば賛成」を合わせた『賛成』も4割に上りました。



男女別では、回答に差はありませんでした。年代別にみると『反対』と答えた人は、60代までは5割以上~6割前後で多数を占め、『賛成』を大きく上回りました。これに対し、70歳以上は、『賛成』が5割を超えて、『反対』を大きく上回っていました。


【*NHK世論調査…期間:2021年3月26日~28日、方法:電話法(固定・携帯RDD)、対象:全国の18歳以上2,890人、回答数(率):1,508人(52.2%)】

では、実際に、夫が外で働き、妻が家庭を守っている世帯はどれくらいあるのでしょうか。国の調査によると、1990年代半ばから2019年まで「共働き世帯」(雇用者の共働き世帯)の数は、「専業主婦世帯」(男性雇用者と無業の妻からなる世帯)より増え続けていて、今では2倍以上です。



多くの人の“思い込み”と実態に大きなギャップがあることが分かります。

「性別への“思い込み”にとらわれないことが、自分自身の、そして、周りの人たちの可能性を広げることにもつながります。」

防衛医科大学校医学教育学部教授の西岡笑子さんは、公立中学校2年生に向けた「ジェンダーフリーについて考える」授業でそう伝えています。看護学生の実習の一環で行っているこの授業。まず、中学生に髪の長い子どもの写真を見せて、「女の子・男の子どちらと思う?」と尋ねます。「女の子」と答える生徒がほとんどですが、写真の子どもは実はウイッグ・ドネーションのために髪を伸ばしている男の子。さらに、職業でも、男性のキャビンアテンダントもいれば、女性の医者もいるなどの実態を伝えることで、社会がつくり出した性別をめぐる固定観念が、いかに自分たちの思考や行動の幅を狭めてしまっているか、“気づき”を促しています。

“性別の思い込み”にとらわれないために(防衛医科大学校教授 西岡笑子さん)

まず、自分の中にある“思い込み”に気づくことが重要です。そのためにも周りと話すことをおすすめします。人の話を聞く中で、自分の意見と同じ・違うなどと考えながら、おのずと自分の身の回りのことを振り返り、自身の考えが整理されていきます。

自分の中にある “思い込み”に気づき、その“思い込み”から自分を解放することで「一人の人間」として生きやすくなり、そして周りの人たちのことも尊重できるようになります。そういう人が増え続けることが多様性と包容力のある社会につながっていくと思います。

「男だから」「女だから」ではなく、「あなただから」「自分だから」という考え方を身に着けたいですね。

あなたは、性別をめぐる固定観念について、どう思いますか? そうした“思い込み”にとらわれないために、ご自身が気をつけたり、心がけたりしていることはありますか? 動画や記事への感想やご意見などを、下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


#Beyond Gender
2021年4月23日

Vol.15 “性”について語ろう② 相手の気持ちも大切に

性教育動画『からだとこころの話』2本目は、「性的同意」です。「性的同意」とは、セックスはもちろん、手をつなぐ、ハグやキスなど、すべての性的な行為をするときに、それをお互いが積極的に望んでいるか、気持ちを確認することです。知らず知らずのうちに、大切な相手の心と体、自分自身の心と体を傷つけないためにも、「性的同意」は必ず必要です。

あなたが大切に思っている相手やパートナーといっしょに考えてみませんか。

 
『相手の気持ちも大切に』

「好きだから一緒にいたい。ふれたい」って自然な気持ち。
でも、待って。ふれる前に、相手の気持ちを言葉でしっかり確認しよう。

「イヤ」と言われたら、もちろんダメ。
返事がないのも、ダメ。
その場の雰囲気で相手の気持ちを判断するのもダメ。

“YES”は「いいよ」と言われたときだけ。
心と体、どちらも大切にしよう。 

(監修:防衛医科大学校 教授 西岡笑子、慶應義塾大学大学院 特任准教授 本田由佳)

性的同意をとるとき、どんなことに気をつければいいか。ジェンダー平等や多様性など、人権の尊重に基づいた「包括的性教育」の普及に取り組んでいる防衛医科大学校医学教育部教授の西岡笑子さんに聞きました。

性的同意のポイント(防衛医科大学西岡笑子教授)

●2人が対等な関係であることが大前提
上司と部下、教師と生徒、先輩と後輩のように社会的地位の上下関係や力関係がある場合、地位や力が弱いほうは、その後の関係性を考えて「NO」と言いづらいという実態があります。

●相手が「NO」と言える環境が不可欠
相手が泥酔していたり、寝ていたりしたら、同意はとれません。相手が恐怖を感じている場合は、言葉が出なかったり、動けなくなったりすることもあります。

●1つの行為への同意は他の行為への同意ではない
相手が2人だけでお酒を飲むことに、2人で個室で過ごすことに同意していたとしても、それはキスやセックスに同意したいうことにはなりません。必ず、その都度、言葉で確認することが大切です。

積極的な同意のない、強引で一方的な性的行為はすべて性暴力です。

西岡さんは、「本来、好きな相手とふれあったり、性行為をすることは、お互いを豊かにしてくれるはず。でも、どちらかの気持ちが少しでももやもやしたり、嫌な気持ちになったりするのは、同意が尊重されていないことに原因があることが少なくない」といいます。

内閣府の調査*では、およそ24人に1人、そのうち女性のおよそ14人に1人は「無理やりに性交等をされた」被害経験があります。加害者は「交際相手・元交際相手」が28.9%で最も多く、次いで「配偶者」(16.2%)、「元配偶者」(10.6%)、「職場・アルバイト先の関係者」(8.5%)など顔見知りがほとんどで、「まったく知らない人」は12.0%です。また、加害者が親族や交際相手以外だった人に加害者の立場について聞いたところ、職場やアルバイト先の上司や先輩、学校・大学の教職員や先輩など、自分よりも社会的な地位が「上位だった」が55.3%に上りました。(*内閣府2021年3月『男女間における暴力に関する調査』)

さらに被害にあったときの状況について、「相手から不意をつかれ、突然に襲いかかられた」が26.8%と最も多く、次いで「相手から、『何もしない』『変なことはしない』『乱暴しないなどとだまされた」、「相手との関係性(関係が壊れる、仕事への影響等)から拒否できなかった」がそれぞれ23.2%となっています。



“イヤよイヤよも好きのうち”ではありません。相手が何も言わなければ、それは“NO”です。
同意のない性行為はすべて性暴力です。

あなたは、パートナーと「性的同意」をどのように確認していますか? 自分や相手が気持ちを伝えやすくするために、心がけていることはありますか? 動画や記事への感想やご意見を、下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
#Beyond Gender
2021年4月23日

Vol.14 “性”について語ろう① プライベートゾーンって?

”性”と聞くと、身がまえてしまう人も少なくないかもしれません。でも ”性”について考えることは、子どもを、大切な人を、あなた自身を性被害から守るために、そして、誰もが「体」と「心」の健康と幸せを守るために欠かせないものです。

#BeyondGenderでは、子どもも大人もいっしょに性教育を考える動画『からだとこころの話』4本を、放送やインターネットで発信しています。それぞれの内容を連載でお伝えします。

1本目は「プライベート ゾーンって?」。
親子で“性”について、語り始めるきっかけにしてみませんか。

 
『プライベート ゾーンって?』

「プライベート ゾーン」は、あなただけの特別で大切な体の一部。
自分のを誰かに見せない、さわらせない。
誰かのを勝手に見ない、さわらない。
自分はイヤなのに「見せて・さわらせて」と言われたら、はっきり「イヤ!」と言おう。
そして、安心できる人に話そう。

(監修:防衛医科大学校 教授 西岡笑子、慶應義塾大学大学院 特任准教授 本田由佳)

2009年にユネスコが発表した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」をご存知でしょうか。世界の「性教育」に大きな影響を与えている国際的な指針です。このガイダンスに基づいて、アメリカやヨーロッパ各国、アジアでも中国や韓国などで、5~8歳からプライベートゾーンや性器の大切さについて教えています。

最近、日本でも、保育園、幼稚園、小学校低学年などで、子どもたちがプライベートゾーンについて学ぶチャンスが増えています。また、関連する絵本やネット動画なども目にするようになりました。

家庭で、親子で、「プライベートゾーン」について、いつ、どのようなタイミングで話したらいいのでしょうか。ジェンダー平等や性の多様性などを含め、人権の尊重に基づいた包括的な性教育の普及に取り組んでいる防衛医科大学校 医学教育部教授の西岡笑子さんに聞きました。

「プライベートゾーン」を話すときのポイント(防衛医科大学校 教授 西岡笑子さん)

「個人差はあると思いますが、子どもが2~3歳になった頃から、入浴時に『性器は、自分で洗うよ』と、声かけを始めてみてはいかがでしょう。お父さん、お母さんが自分の性器や胸を洗ってみせるという方法もあると思います。

自分の体は自分で洗うことを、子どもたちに生活習慣として身につけさせることは大切です。子どもたちにとって『体は自分のもの」ということを実感する「体(からだ)感(観)」のもとになるからです。

さらに、『プライベートゾーンを大切にできる人は、自分を大切にできる人。そしてプライベートゾーンを大切にできる人は、友だちやまわりの人を大切にできる人なんだよ』と伝えていただけたらと思います。」   

プライベートゾーンは、体を守るためだけのものでなく、自分自身を、そして周りの人たちのことを大切に思う気持ちを育むことにもつながるんですね。お父さんが娘さんに、お母さんが息子さんに伝える場合、絵本などを使って言葉や図で補いながら話してみるのもいいそうです。

内閣府の調査*で、「無理やりに性交等された被害経験がある」という人は24人に1人。そのうち、未成年で被害にあった経験をもつ人は49.2%とほぼ半数に上ります。そのうち、「小学校入学前」は8.5%、「小学生のとき」は11.3%です。男性も女性も被害にあっています。(*内閣府2021年3月「男女間における暴力に関する調査」)



性別を問わず、子どもも大人も“性”について一緒に考えていくことが大切です。

あなたは プライベートゾーンや“性”について、子どもや周りの人と話したりしますか? 話しやすくするために工夫したり、心がけたりしていることはありますか? 動画や記事への感想やご意見を、下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
#Beyond Gender
2021年3月30日

Vol.13 陣痛見守るモニターも アメリカのフェムテック最前線

女性特有の体の悩みを最新技術で解決しようというフェムテック。アメリカでは次々と新しい製品やサービスが生まれ、市場は拡大を続けています。その中で注目を集めるサービスの一つが陣痛モニターです。妊娠中にお腹に貼り付けるだけで、自宅にいながら子宮の動きや胎児の心拍をスマホで確認することができると言います。どんなサービスなのか、アメリカの最新事情を取材しました。

(政経・国際番組ディレクター 宣英理)


家にいながらお腹の赤ちゃんを見守る
新しいフェムテックが次々と生まれているアメリカ・シリコンバレー。ここに拠点を置くスタートアップ企業、ブルームライフは、妊婦の悩みを解決するフェムテックで、今世界的に注目を集めています。

この会社が2年前に開発したのが、小型の陣痛モニターです。
お腹に貼り付け、子宮の動きと、妊婦と胎児の心拍を計測できます。


(陣痛モニター)

妊娠後期になると、ときどき子宮収縮が起きますが、それが出産につながる陣痛なのか、多くの場合妊婦自身にはわからず、病院に行くのが遅れて、胎児に危険が及ぶこともあります。

このモニターを使うと、スマホで子宮収縮の頻度を確認でき、それが規則的になると陣痛が始まった可能性があると、いち早くわかると言います。


(青い線の波形が子宮の動きを示し、濃い青の部分が子宮収縮を表しているという。その上に表示される数字は子宮収縮の長さ。)

Bloomlife エリック・ディー代表
「女性たちが自宅にいながら、自分の体に何が起きているか分かる初めての装置です。これによって、妊娠中もより安心して過ごすことができます。」

働く女性の妊娠支える
このモニターを特に支持しているのが、働く女性です。



オリール・パーキンスさん。去年、妊娠中にこのモニターを活用していました。

看護師として1日12時間以上働いてきたパーキンスさん。14年前、予定日より3か月早い早産を経験しました。そのとき生まれた長男は、体重が1500グラム。集中治療室で5週間治療を受けなければなりませんでした。

オリール・パーキンスさん
「私のせいだと自分を責めました。私が仕事をしていたのがいけなかったのだろうか、と。」

アメリカでは、妊婦の10人に1人、年間38万人が早産しています。早産で生まれた子どもは、病気や障害のリスクが高まります。医療コストもかかり、社会全体の問題として捉えられています。

パーキンスさんは去年、妊娠中にこのモニターを知りました。利用料が月額20ドルと手ごろだったこともあり、「少しでも安心して過ごせるなら」と使い始めました。

すると、出産予定の2か月前、異変に気づきました。

オリール・パーキンスさん
「波形を見て驚きました。陣痛が始まっていることを示していたのです。病院に駆けつけ、医師に画面を見せると、急を要することがすぐに伝わったんです。」

パーキンスさんは、病院で子宮収縮を抑える薬を投与され、なんとか早産を回避することができました。その後、娘のアメリアちゃんを無事出産しました。


(パーキンスさんと娘のアメリアちゃん)

オリール・パーキンスさん
「私たちの命を救ってくれました。これなしに妊娠生活を送ることはもう想像できません。」

開発のきっかけは妻の流産
このモニターを開発したエリック・ディーさん。開発の背景には自身のつらい経験がありました。

妻が、一人目が生まれるまでに3回流産を経験したのです。ディーさんはその過程で、妊婦健診で病院に行かなければ、胎児の状態がわからないなど、数十年前と変わらない周産期医療のあり方に問題意識を持ったと言います。


(開発したBloomlife エリック・ディー代表)

Bloomlife エリック・ディー代表
「これほどイノベーションが起きていない医療分野は他にありません。近年、出産年齢の上昇などにより、出産に関わるリスクは高まり続けています。これは解決すべき課題だと思いました。」

ビッグデータの活用で広がる可能性
このモニターを使った妊婦はこれまでに1万2000人以上。ディーさんは今、集まったビッグデータの活用にも取り組んでいます。



蓄積された100万時間以上の妊婦と胎児の記録をデータベース化。これをその他の医療データと組み合わせ、AIで解析することで、胎児の異常や突然死、早産などの兆候を早期発見できないか、欧州の研究機関などと共同研究しているのです。

この会社には今、モニターの世界的な普及を期待する投資家や、新たな治療法の発見を期待する大手製薬会社などから、提携や投資の依頼が相次いでいます。これまでに集まった投資は、1400万ドルを超えました。

Bloomlife エリック・ディー代表
「彼らは、こうした医学的データには非常に価値があるということを知っています。投資家などが、女性の健康が巨大な未開拓市場だと気づいたことが、資金の流入につながっているのです。」

アメリカのフェムテック、最新トレンドは
アメリカには他にも、妊娠しやすい日を教えてくれるウェアラブル端末、妊娠可能期間や閉経時期の目安を教えてくれるホルモン検査キットなど、新たなフェムテックが次々と生まれています。現地の事情に詳しいデロイトトーマツベンチャーサポートのセントジョン美樹さんに、市場拡大の背景や今後の可能性について聞きました。


(デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 マネジャー セントジョン美樹さん)

セントジョン美樹さん
「アメリカでは、人口の約半数が39歳以下のミレニアル世代です。デジタルネイティブの世代でもあるため、自分の体についてデータで把握したいという傾向が強く、今後、フェムテックやスマートウォッチなどの普及によって、女性の体についての膨大なデータが蓄積されていくとみられます。妊婦や胎児に関するものだけでなく、女性ホルモンの値や月経周期などのビッグデータも集まっており、それを認知症などの病気の早期発見や治療に役立てようという研究が活発化しています。」

これまで、ベンチャーキャピタルの投資家は中高年の男性がほとんどで、女性の健康に関する商品開発には関心が薄く、投資が集まらない状況が続いてきましたが、潜在的な市場の大きさや可能性が明らかになったことで、一気に投資が増え、大手企業との連携も活発化していると言います。今後の注目ポイントは。

セントジョン美樹さん
「フェムテックは当初、生理周期を記録するアプリなど、「生理」に関するものから始まり、次に、「妊娠・出産・授乳」に関するものへと広がってきました。最近ホットになっているのが、「更年期」に関するもの。これまではタブーとされがちでしたが、更年期症状を抱えながら仕事や育児をする女性が増える中でニーズが高まっていて、将来の更年期症状のタイプを予測し、最適な治療法を紹介してくれるというサービスや、更年期特有のほてり対策用のウェアラブル端末などが登場しています。

また、健康経営や福利厚生の一環で、妊活などをサポートするフェムテックを社員に提供する動きも活発化しています。優秀な人材に選んでもらうためには、こうした取り組みが欠かせないと考える企業が増えているのです。 」

フェムテックはまだ黎明期で、中にはエビデンスが薄いものもあるため気をつけて活用した方がいいと指摘する専門家もいますが、これが広がることで女性たちが我慢していたことを話しやすくなるなど、社会に良い変化が生まれて欲しいと感じます。フェムテックによって、女性の暮らしはどう変わっていくのか、今後も海外の動きに注目したいと思います。
#Beyond Gender
2021年3月12日

Vol.12 紗倉まな×NHK “あったらいいな こんな性教育”

2月26日放送の「不可避研究中」では、AV女優の紗倉まなさんと20-40代のNHK職員6人をオンラインでつなぎ、「性教育」について議論しました。紗倉さんは、小説家や情報番組のコメンテーターとしても活躍していて、「高齢者の性」を描いたり、性的同意(性行為の同意)の大切さなどについて発言したりと、さまざまな視点から「性」について積極的に発信しています。

なかなか誰かに話しいくい「性」の話。本音をさらけ出すことで見えてきたのは、性についてオープンに語りあえる社会の必要性、そして人と人とのコミュニケーションの大切さでした。

「性」を堂々と語りにくい…
紗倉まなさん(以下、紗倉さん)
早速ですが、皆さんはこれまでどんな性教育を受けた記憶がありますか?

秋山
僕の中で記憶に残っているのは、保健体育の先生が教室にやってきて、手に持っていた鉄の棒を教壇の上にドンって置いて、「いいか、こうやってつけるんだ」とコンドームをそこに装着し始めたんです。

(一同)
えー!



秋山
コンドームのつけ方って大事なことだから、強烈に印象には残ったけど。

紗倉
衝撃的ではあるけど、保健体育の授業としては実践的でありがたいような。

三日市
紗倉さん、例えば「コンドームしないでセックスしたい」って、パートナーが言ってきた場合に、何か言ったりしますか。

紗倉
言います。でも、言えるようになったのも、けっこう大人になってからなんです。断りきれない人も多いとよく聞きます。雰囲気が作られている中で手元にコンドームがなくて、いざセックスしようとしたときに、「コンドームつけて」➡「ないんだけど」➡「じゃあ買いに行こうか」➡萎(な)える、みたいな。ちゃんと言ったほうがいいけど、ムードを壊したくなくて配慮しちゃうっていうのも、問題としてはあるのかな。

立野
それこそ学校で、そこだけは教えておいてほしいですよね。「拒む権利があなたにはあります。お互いの体を大事にしましょう」って。



三日市
でも本音って、そういう雰囲気の中で言いづらい可能性もある。また、「嫌」と言っているのに、「嫌よ嫌よも(好きのうち)」みたいな感じで相手に誤解されてしまう可能性も。

髙田
AVのお仕事でも「嫌よ嫌よも…」でなし崩しOKしちゃうような演技が求められることはけっこうあるんですか?

紗倉
よくあります。そういう演出がひとり歩きしちゃうんじゃないかというのは、女性の立場からすると本当に悩みどころで。

(一同)
うーん。

紗倉
そのようなAVに影響を受けて、嫌がっている女性を見ても、「実は好きなんだけど嫌よっていうポーズをしているだけなんだ」と誤解されちゃったら困るなと思います。それが「ふり」なのか本音なのかは本当に個人差があるところで、そこを自分に都合のいいように解釈して進んではいけないのだとは思います。

リカD
「嫌よ嫌よ」は、多くの場合「嫌」を意味すると思いますけどね。

紗倉
そうですよね。本当に嫌なときって、「嫌」としか言えないし、体もやっぱり、こわばったり硬くなるじゃないですか。

(男性陣)
 やっぱり。そっか…。

三日市
「自分がこれをしたら相手はどう思うか・・・」。目の前にいる人の気持ちに想像をはせるのって大事ですね。

リカD
自分の身を守る知識をつけるのも大事なことですよね。もちろん体を守る術を知らないからって嫌なことをされてもいい理由には絶対にならないけど、コンドーム以外にも選択肢があって、使うかどうかを選択するのは個人によるけど知識をつけるのは大事だと思う。

紗倉
私、3年ぐらい前から子宮にミレーナ(子宮内避妊システム)っていうのを入れているんですけど、そういう避妊具やピルに関して全然教わった記憶がないし、実際教わっていないから、「コンドームしか選択肢がない、それがダメならもうダメ」みたいになってしまうのはすごく分かる。

リカD
性的同意について海外の事例とか、過去に髙田さん取材していましたよね。どうですか。

髙田
日本を訪れている外国人50人ぐらいに、性的同意について取材したことがあります。海外では恋愛関係のつきあい方って、(上下でなく対等な)パートナーシップが基本なので、「『イエス』『ノー』ってはっきりと言うよ」という人がほとんどでした。しかも、すごいと思ったのは、テレビカメラを構えて質問しても、カップルの男女がハキハキと話すんですよ。

紗倉
おおーっ。

髙田
そのカップルの片方は「私は昔から家庭でもそういう話をするし、今のパートナーとも、ちゃんと『イエス』『ノー』を確かめています」って。そうしたら、隣にいたパートナーも「そうだよね。それで断られることもあるし、僕が断ることもあるよ」と言っていました。

(一同)
へえー。

髙田
家族連れの人にも、「性的同意の話で取材しています」と伝えたところ、お父さんが娘さんに「何か意見ある?」と話を振って、娘さん自身もお父さんの前で意見を言っていました。

紗倉
ええー。

髙田
その子、13歳ぐらいだったんですけど、「今ボーイフレンドとつき合い始めて…」みたいなことを恥ずかしがらずに話していて。「性」が人生の中で特別なこととして浮いているのではなくて、人権として自分の意志をちゃんと伝えることの一部なのだなと感じました。

紗倉
セックスについてどう考えているかって、日本の中であんまり堂々と言える環境や機会もないような気がして。どこで海外との差が出てしまうのかなと、すごく感じます。隠すこととか、秘めることが美徳みたいなイメージじゃないですか、日本って。

性教育 日本と海外でどこが違う?
リカD
日本の性教育と海外の性教育について、調べてみました。日本では中学1年生で成長に伴い男女の体がどのように成熟していくか、ヒトの受精卵がどう胎内で成長するかを学ぶんですが、教科書ではその前提となる性行為については触れていません。避妊方法もほとんど教えていないようなんです。

(一同)
そうなんだ。

リカD
(中学校の)学習指導要領(文部科学省が定めている教育課程の基準)に1998年から「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という文言が含まれていて、いわゆる「歯止め規定」と呼ばれているそうなんです。

髙田
海外の場合、「性教育」の授業はもっと幅広い内容を教えているように思います。

リカD
そのとおりで、ユネスコ=国連教育科学文化機関が包括的性教育の枠組みを示した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」というものがあります。セックスや避妊、ジェンダーの平等など“性の権利”を基本的人権の一部と捉えています。これが2009年に公開されて以来、ヨーロッパ各国や台湾などアジアでも、このガイダンスを踏まえて性教育の方針を出しているそうですよ。

丸山
ユネスコのガイドラインの話を聞くと、人権・文化・家族とか、性教育の捉え方がすごく広い。「それって性教育とどう関係しているの?」と聞かれても答えられないと思うくらい、「性教育」という漢字3文字が表している幅が、今まで僕らが受けてきた日本の性教育だとすごく狭いのかなって感じますね。

紗倉
根本的にコミュニケーション不足がたたっている部分もあるのかと思う。オープンに話したり相談しづらいがために、独学でインターネットなどでいろいろと(誤った情報も含めて)詰め込んで、それをそのまま実践して、相手を傷つけてしまうこともありますよね。 正しい性の知識を知りたくても知ることができないというのは、寂しいことだなと思います。知りたくなくて避けてきたわけじゃなくて、なかなか知る機会がない。そこはどうにかして補いたいところだし、気後れしたり恥ずかしがったりすることもなく話せる環境や、相談できる場があれば、理想的なのかなと思いました。

ジェンダーロールにとらわれがち…
リカD
ユネスコのガイドラインにはジェンダーについての記載もあると説明しましたが、みなさんジェンダーロール(性的役割)について思うことはありますか?

秋山
セックスのときに「男はこうしなきゃいけない、女はこうしなきゃいけない」みたいなのにすごく縛られている感じはしますよね。

紗倉
確かに、役割分担みたいな。

立野
以前ジェンダーに関する番組を作ったときに、街中の人に、「男だから・女だからこうしろって言われて嫌な経験ありますか」とひたすら聞く取材をしました。たくさん出てくるんですよね。「女なんだから家事をしなさい」、「男なんだから泣くな」みたいな。「それが性行為のときにも起こっているな」とリンクしています、今。

丸山
それはすごく感じますよ。リードしないといけなさそうな気がするのと、そのタイミングって聞くことじゃなさそうな気がするっていうか。空気感やムードとか、「男が主導で進めていかなければダサい」みたいなことに、もしかしたら男側はとらわれているかも。

秋山
めちゃめちゃとらわれている。

丸山
よくも悪くも「男性側がリードすべし」を前提とされているイメージがあります。

紗倉
そうですよね、そこの負担、男性側は大きい気がしますよね。「今日はしたい・したくない」という、「イエス・ノー」に関してもそうですし、「こんなシチュエーションがいいな」という意見交換もそうですし、全体的なコミュニケーションって希薄なまま進むことが多いと感じやすいというか。

秋山
女性側はどうですかね。「台本にのっとってやられると冷める」とか、そういうことはない?

立野
でも、合意に関しては、絶対に台本どおりに聞いたほうがいいんじゃないですか。

髙田
私、その質問も海外の20代半ばの男の子たちに街頭インタビューで聞いたことがあります。「そういうことをすると日本だと『冷める』って言われるんですけど、どうですか?」って。そしたら「お互いの意志のほうが大切だから冷めても聞きます」って堂々と。

秋山
「する・しない」の同意はもちろん必要だけど、そのあとの詳細については?

髙田
詳細についてもたぶん同じことじゃない?それって秋山君が言わないと伝わらないじゃん。「僕はこうしたいんだけど」って。

(一同)
確かに、確かに(笑)。

秋山
あー、そっか。恥ずかしがらずに相談する。

リカD
「恥ずかしい」とか「聞けない」みたいなのも、ジェンダーロールに縛られがちな自分がいるからなのかもしれませんね。

家庭で「性教育」すべき?
紗倉
自分の次の世代の子どもたちにはどういったことを学んでほしいか、どんな風に引き継いでいったらいいかということも、課題だと思いました。やっぱり、大人が恥ずかしがるっていうのがよくないんですかね。

三日市
さっきの海外の方たちの話を聞いていると、日本の社会にあるような空気感とは違うコミュニケーションがあるのだろうなっていうのは分かるじゃないですか。

髙田
うんうん。

三日市
そもそも性教育って学校だけで教えるもの?すごく大事なことだから、親が子どもにしつけとか教育をすることがあるんだったら、性についても親が教える責任もあるのではないかと思ったりします。その反面、親子でオープンに性の話をするメンタルを僕自身が持ち合わせていないのは課題ですけど。



三日市
逆に性教育を、例えば「生理が始まるからやりましょう」という場当たり的なことじゃなくて、もう少し幼い頃から、はっきり教えずとも何が起こって自分が生まれたかということも含めて、当たり前のように家の中でしゃべることのできるような社会が日本にもあるといいんじゃないかなって思います。

紗倉
学校で教えることが難しいっていう点ももちろんあると同時に、ずっと「こうのとりに運んできてもらった話」をされるよりも、家の中でも堂々と自分の性やセクシュアリティについての話ができたり、相談できたり教えてもらったりっていう環境が自然と整うことも大事ですよね。

三日市
それが当たり前の環境になっていれば、たぶんカップルになったときも、「私こういうのが好きなのよ」とか、「きょう私は攻められたいの」とか「きょう、俺は攻めるよ」とか言いやすい感じにはなっているんだろうな。

丸山
そういえば僕、親から受けた性教育を今思い出しました。中学生のときに2つだけ教えてもらったなと思うことがあって、1個は、「体にいいから毎日牛乳を飲みなさい」もう1個が「コンドームをつけなさい」っていう話。

紗倉
牛乳とコンドーム。

丸山
中学生のときに、母がサランラップの芯をボンッと目の前に置いて、「こうやってつけるんだよ、将来必要になるから覚えておきな」と。

紗倉
ええーっ。

秋山
“サランラップ母さん” かっこいい。僕の場合は家庭内で性の話をしないっていう環境で育っているから、親と性についてオープンに話す環境をつくるということには、違和感をまだ感じています。そういう意味で学校が、家庭とはワンクッション距離を置いたところで、オープンに話せる場をつくる可能性はあるんじゃないかなって思いました。

髙田
いろんな事情で学べない場合もあるから、男女平等や性的同意とかもちゃんとできる社会の実現のためには、やっぱり学校の義務教育の範囲内で、ある程度やったほうがいいとも思います。

リカD
義務教育でも学びつつ、家庭でも必要なことは教えつつですね。 だいぶ盛り上がりましたけれども、そろそろお時間です。

紗倉
道徳とか歴史とか、性教育っていろんなジャンルの要素が含まれているカテゴリーだなってすごく感じたので、これ、ひと言でまとめるのは難しいですね。



秋山
でも、それぐらい根深いし広いですよね。保健体育だけには収まらない。

紗倉
広いです。「地理1」とか「地理2」とかあるじゃないですか。「道徳編/モラル編」とか、「避妊編」とか、ほんと、たくさん章立てしてほしいですね。

リカD
いろいろな側面を含んだ包括的な性教育、日本でも取り入れたいですね。

紗倉
というわけで、これを持ちまして本日の会議、終了にしたいと思います。皆様、本日はご参加いただきありがとうございました。

(一同)
ありがとうございました。

番組を企画・制作して…
今回の議論を通して、年代や性別は違っていても、みんな「性」に関して何かしら抱えているのだなと感じました。自分の体と向き合って、好きな人やパートナーができて、結婚して、親になって…それぞれのステージで悩むことはあると思います。誰にでも関わる「性」のこと。命を育むこと、大切な人を傷つけない・自分の身を守るために必要な知識、心や体の悩み。どこか切り離されているようで密接につながっているとも感じます。

4月から「生命(いのち)の安全教育」という、性にまつわる具体的なリスクを教えるための新しい教育が段階的に導入されます。今回の議論のように「タブー視せず、向き合ってみる」という機会が増えたら、どんな社会に変わるでしょうか。今後も取材を続けていきたいと思います。

(2021年2月26日放送『不可避研究中 #性の教科書・理想の目次』担当 リカD/川田莉加)


あなたは、キスやセックスをするときに「男だから・女だから、こうしないといけない」と感じたことはありますか?これまでにどんな性教育を受けてきましたか?それについてどう思いますか?下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。





<あわせて ご覧いただきたい動画・記事・番組情報>

#Beyond Gender
2021年3月5日

Vol.11 ジェンダーをこえて考えよう みなさんの声②

ジェンダーについてご意見をお寄せいただき、ありがとうございます。10~20代のみなさんから多くの声が届いています。その中から、性別や性的役割が押しつけられることへの違和感、そして“生きづらさ”の解消・解決の手がかりを紹介します。
“性別”への違和感…
“結婚こそが幸せ”ではない

10代・女性・福井

私は高校生で大学への進学を考えています。将来的には自分の就きたい職に就いて、定年まで働きたいです。ですが、中学生の時から父に「おまえは女の子やからな~どうせ結婚して家庭を持つんやから大学で勉強せんでもいいしな~」や「いい旦那さんと結婚して幸せな家庭を持ってくれればそれでいい」と言われました。もちろん親孝行はしたいです。それでも「女の子=結婚」という考え方、そして結婚こそが幸せだという考え方は間違っていると思います。来年、私は生徒会長に立候補するつもりです。そこでの公約として、女子が上に立ちやすい活動を考えています。

人間は 男性と女性だけではない

20代・性別/男女以外

自分がLGBTQ当事者になって、日本のジェンダーへの意識、特に『男性と女性』だけのくくりの性的役割の意識の根深さに、がく然としています。そもそもなぜ「人間は男性と女性だけ」と思っていて、なぜ「同性は好きにならない」と思っているのか。先入観だけで生きてきたのではないか。

自分の性自認について、こんなに悩んで考えることがない社会が一刻も早く来てほしいです。 "男性"と"女性"だけを過剰に求めないでほしいです。相談することや打ち明けることすら勇気のいる社会で生きていくのはつらいです。

女子学生限定の会社説明会に疑問

20代・女性・福島

現在、就職活動中です。女子学生限定の会社説明会などがあり、人事の方は、「うちの会社は育休が取りやすい」などと話します。しかし、女性(女性に限らず)は、出産や育児をすることになれば、会社が育休を取りやすい雰囲気だろうとそうでなかろうと取得しなければいけない、と思います。

育休や急な早退などの時に、心の中で「申し訳ない」と思う必要がない環境を会社でつくることが大切なのであって、そのためには女子学生だけに話すのではなく、性別関係なくすべての学生に話すことで理解が深まると思います。育休を取得する男性が多くなっている現代で、女性だけなどと性別を限定して話す必要があるのか疑問に思います。会社がどのような意図でそのような説明会を開催しているのか知りたいです。

自分らしくいたい

10代・性別/男女以外・東京

トランスジェンダー*のFTM**ですが、学校では「足を閉じなさい」、「『僕』と言うのはやめなさい」、「女らしくしなさい」と言われます。制服もズボンにしたかったけど、スカートを履かされました。いつも恥さらしを受けてるみたいで、すごく嫌です。家でも「行動や口調を女らしく」とかいろいろ言われます。モヤモヤして、とても嫌です。

僕は、メンズ服を着たり、口調も「僕」とか「俺」にしたいんです。遊ぶ時も、「男子と二人きりはダメ」って言われますが、僕は二人きりでも平気。逆に女子が少し苦手なので、女子と二人きりは苦手です。 男になりたいといつも思います。「男・女」と分けないで自分らしくしたいです。
*トランスジェンダー…心と体の性が一致しない人
**FTM(Female to Male)…体は女性で、本人が認識する性「性自認」が男性。体が男性で、性自認が女性の場合はMTF(Male to Female)


体は女性、心は中性 親に打ち明けられない

10代・性別/男女以外

今、ジェンダーレスが広まり、多くの学校で女子のズボンが認められてきています。すごくいい取り組みと思いつつ、それで満足していいと思えません。男子のスカートは?女子のズボンよりも認められていないですよね。僕としてはそこが気になります。

僕は、体は女で心は中性。(相手が)男でも女でもそれ以外でも好きになります。打ち明けた友達は気にせずに接してくれます。普段スカートを履いて学校生活を送っています。まだ親にはっきりと打ち明けられていません。そこがずっとモヤモヤしています。

心は女性、体は男性 社会に出たら居場所がない

10代・男性

私は心が女性で、体が男性です。高校生の頃、ジェンダーについて悩み、とてもしんどく生きていました。当時、それを打ち明けた友達がいて、今もその友達とは仲良くしています。 ですが、やっぱり親というのは、男として生きてほしいのか、「自分は女だ」と言っても、どうしても認めてくれません。

洋服屋とかに行くと、レディースの服の方に目が移るし、「あの服かわいいな」と思いながら、いつも前を通り過ぎています。髪の長い女性を見ても、「あんなふうに伸ばしたい」と思います。自分はどうして女の子に生まれなかったのかな、と心が苦しいです。「私」という言葉を使うだけで、「〇〇さんは、『俺』とか『僕』とか使わないの?」と聞かれ、答えにも困ります。それって個人それぞれだと思います。 そして、もう一つ、高校生の頃は、居場所があったのに、社会人になったら居場所がないと気がつきました。

男性のような格好いいものになりたい

10代・女性・香川

私の好きなゲームに、ピーコックというキャラクターがいて、女の子なのに男性のような服装をして、男性のような言動をとっています。私自身のジェンダーがどうなっているのかはよく知りません。多分異性愛者の女性で間違いないです。でも、ピーコックを見つけたとき、なぜか「私を見ていてくれた人がいたんだ」と涙があふれました。

このキャラクターのファンたちのツイッター投稿を見ていると共通点があります。みんな、女性でありながら「格好いいものへの憧れ」が強いのではないかと思いました。それは「格好いい男性と恋愛をしたい」というものではなく、自分が男性を含めた「格好いいものになりたい」という憧れなのだと思います。

性別の悩み 親世代に受け入れられない

10代・女性・神奈川

漫画やアニメなどで自分の性別について悩んでいる人たちの話をよく見るので、そういった知識や考えを理解している人は私の高校では多いと思います。一方で私たちの親の世代はまだ受け入れられていないようで、ズボンを履いている女子生徒を変わった子と判断したり、自分の子供は同性愛者になってほしくないと考えているようです。

男性への圧倒的・無条件な信頼に疑問

10代・女性・愛媛

書類に家族の名前を書くことになったときに必ず、先に父(男性)の名前から書くこと、未成年のことで書類に親・保護者の名前を求められたときも、母ではなく父(男性)の名前を書くことが当たり前になっていることにずっと違和感を感じています。何かを新しく作ったり、契約したり、買ったりするときに必要な書類にも、女性が自分の名前を書こうとしても「ご主人様の名前でお願いします」という要求の言葉を目の当たりにします。

日常生活に必要な物事に出向くことを求められるのは、仕事中の男性に比べて、大部分は女性だと思います(これも違和感ですが)。なのに、その場にいない男性への圧倒的な無条件な信頼の大きさに疑問や不安が募ります。

“生きづらさ”を解消するために…
「こうあるべき」から「こうでもいい」へ

10代・女性・山形

「これって、おかしくない?」とジェンダー問題を問いかけても、「それが当たり前なんだから仕方ないよ」と、変化することをあきらめたような返事ばかり来ます。考えてすぐに大きな変化が生まれるわけでもなければ、深く考えたこともないことを聞かれたら「仕方ない」にたどり着くかもしれません。私は何より、ジェンダーへの関心が薄いことが日本の弱点だと思います。もっと皆が男女のあり方を考えて、「こうであるべき」という視点から、「こうでもいいし、こうでもいいよね」といったように、肯定的に考えられたらいいなと思います。

ジェンダーにとらわれない価値観 広げるアクションを

20代・女性・東京

「女性の活躍推進」が謳(うた)われるとき、想定されているのは『結婚し、子どもを産み育てる女性』という、ジェンダーにならったロールモデルばかりであることに強い違和感をもっています。 「結婚して子どもを産まない女性は社会に必要ない」と暗に言っているかのようです。今は父権的な慣習から抜け出すための最初の数歩であり、市民も社会も、より高い視座を持つ準備ができていないのかもしれません。

確かに子どもを産むのは生物学的な女性に特有の機能ですが、それを望まない・できない「女性」もいることを忘れてはならないでしょう。今後、ジェンダーやロールモデルにとらわれない価値観がもっと広がっていくためにどんなアクションが必要かを、自分自身も考え続けたいと思っています。

性を強要せず、個人を尊重する

20代・東京

私の見た目は女性です。しかしふたを開けると、ホルモンバランスの障害で妊娠出産は難しいと診断されている身体です。男性ホルモンが女性の平均以上 分泌されているためと伺いました。世間は女性に妊娠出産を求めます。それに応えられず、ホルモン値だけを見るなら男性的ですらある私は何者か、と自問自答した時期があります。

しかし、考えたところで私は私です。容(い)れ物こそ女性であれ、私が私らしくいられれば世間に呼応せずともそれで良い。個人は個人、性別は個性のひとつでしかない。 男性にも女性にも、性を持たない方に対しても、性を強要されず、求められない社会であってほしい。「性別」という要求にすんなり応えられる人間はそう多くない。まずはそれぞれが「個人」をきちんと尊敬し、尊重し、向き合えるようになってくれれば、多くの方が抱える生きづらさを少しだけ和らげられるんじゃないかと期待しています。

学校でLGBTQについて学ぶ機会を

10代・東京

僕の場合、学校で「キモい」「意味わからない」「〇〇ってLGBTなんだってw」「どうせ気分でしょw」とさんざんばかにされます。いちばんつらいのが信用してた友人にカミングアウトした次の日に「〇〇はジェンダーレスってヤツなんだって」と、悪気がないのは分かるんですが、ばらまかれてしまった。まだまだ学校で取り扱ってもらえないので、肩身が狭いです。学校教育の必修でLGBTQについてもっと学ぶ機会がほしい。そうすれば少しでもこのような問題を防ぐことができると思います。

カテゴリー化しなければ、排除されない

10代・東京

私はXジェンダー*でアセクシュアル**と自認しています。自分は男でも女でもないですし、恋愛をしません。仲の良い人との関係に、「恋人」や「友達」というような区別や名前はいるのか疑問に思います。人間という上で大きな共通点があるのにも関わらず、体が男だから女だから、肌の色が違うから、容姿が良くないから、などという理由で人々を区別するのはどうかと思います。

カテゴリー化という概念が、差別という概念を生み出すのであれば、区別しなければ排除される人間もいない。なぜそんな簡単なことができないのか。そもそも性を自認せずとも、誰もが自分らしく、自分の生きやすい生き方で生きていける社会になってほしい。人は誰でも1人きりだけど、だからこそ唯一無二の自分を探したいです。
*Xジェンダー…自分を男でも女でもないと感じる人
**アセクシュアル…誰かに恋愛感情をもったり 性的魅力を感じたりしない人、無性愛者


自分の特権に気づき、違いを認める

20代・女性・静岡

森会長の会見を見て感じたのが、他人が何を言っても、本人が自分で自主的に意識的に気づいたり学んだり変わるという思いがなければ、本質的な変化は期待できないということ。しかし、特権を持っている人が、その特権に気づくことはとても難しい。男性優位な社会で生きてきて、差別的な発言や行動が許されてきたような人に関しては、より難しいのだと思う。もちろんあのような発言は許されるべきではないが、そのような発言を許してきた社会を変えていかなければ根本的な解決にはならないと感じる。

もっと多くの人が問題意識を持ち、自分が持つ特権に気づき、それを自分のためではなく他人のために使い、違いが認められ、尊重され、個性が輝く社会になってほしいと強く願っている。自分の力はちっぽけかもしれないが、RBG*のように、どんな困難にもめげずに、明るい未来を信じて、自分の信念を強く持って、戦い続けたいと思う。
*RBG…2020年に亡くなるまで、アメリカ連邦最高裁の判事を務めたルース・ベイダー・ギンズバーグ。男女平等やマイノリティーの権利などの概念を一般に浸透させた。

自分のアイデンティティに名前をつけない

20代・性別/男女以外

私は、世間一般ではXジェンダーのパンセクシュアル*というアイデンティティに分類されるのかもしれません。 社会では、アイデンティティに特定のイメージが付きます。「Xジェンダーはこういう人である」というような。それは「男らしさ、女らしさ」といったところからも見て取れます。でもそれが窮屈です。自分で主体性を持って自認するアイデンティティのはずが、いつの間にか社会で表象されるアイデンティティによって自分がコントロールされてしまうから。

だから私は自分のアイデンティティに名前を与えるのをやめました。そうしたら、しがらみから解放されました。自由になりました。特定のアイデンティティに勝手にイメージを結びつけて、他人を、そして自分を縛るのはやめませんか。もっと自由で、多様でいいのではないですか?
*パンセクシュアル…男女ふくめ、あらゆる性の人に性的魅力を感じる人

ニュース番組で使う色やイラストに注意を

10代・女性

NHKや他の放送局のニュース番組で、男女別のグラフが表示されるとき、男性が青系統、女性が赤系統の色で表現されることがしばしばある。色によって、無意識のうちにステレオタイプの男女像を、より強化しているように見える。強い違和感と反感を覚える。このような色分けは、時代遅れだと思う。ニュースで使うイラストにも注意を払ってほしい。

性の多様性を学ぶ

10代・性別/男女以外・奈良

父さんには「女のくせに口答えをするな」と言われたり、先生には「どうして女のお前がリーダー的な行動を取るんだ」とどなられたり。母にはこう教え込まれました。「女が露出の多い服を着ていたら、胸が大きければ性被害にあっても仕方がない」「女の人はたくさんの男性とつき合って、その中でいい人を見つけて、結婚して子どもを産んで幸せになるものだよ」。 生まれたときに割り当てられた性別が女であったことで、どうしてこんなに苦しまなければならないのか、生き方まで決まってしまうのか。そんなモヤモヤを中学生のときから抱えていました。

大学生になって性の多様性を学びました。性のあり方は男女2択だけではなく、他人に強要されるものではない。「自分らしく生きていけばいい」という考えに出会えました。

1年に1つ、“生きづらさ”に目を向け、解消

10代・性別/男女以外・静岡

正装と呼ばれるような服は、現代ではメンズかレディースという2つの選択肢しかないに等しく、どちらにもしっかり当てはまらない不定性の自分はどの服を着れば良いのか、自分の着たいものを選べば礼儀がなっていないとばかにされないかなど相当な量の心のエネルギーを奪われます。

ジェンダーレスな正装がもっとたくさん流通して一般的になれば、オープンキャンパスや面接などの場へ向けた準備につらさや不安などの暗いイメージが先行せず、自分の未来への明るいイメージを持つことができたろうと思います。それは不安が先行してしまう現状と比べ物にならないほどの生きる意欲になると思います。

生きづらいことを完全になくすのはとても難しいとは思いますが、1年に1つ、生きづらさを解消していけ、10年後には10個解消できます。 少しずつでも、まずはどんなネックになること、つらいことがあるのかに目を向け、改善への歩みを進めることのできる優しい世の中であってほしいと思います。 いつか1人残らず楽しくて心地いい生活ができるように…。


“性別・性的役割の押しつけ”について、10~20代のみなさんが抱いている違和感や“生きづらさ”について、あなはたどう思いますか? どうすれば解消・解決されると考えますか?下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。





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2021年3月5日

あなたがいるだけで十分なんだよ  作家・温又柔さんとの対話

台湾で生まれ、3歳から日本で育った作家の温又柔さん。
2017年「真ん中の子どもたち」で芥川賞候補となり、2020年には「魯肉飯のさえずり」で織田作之助賞を受賞しました。日本語・台湾語・中国語が飛び交う家庭に育った影響から、複数の言語を用いた創作でも知られています。
作品には温さんと同じように多文化にルーツのある主人公が登場し、「自分は何者なのか」について悩み、葛藤する物語を書き続けてきました。

「普通じゃなくても、あなたがいるだけで十分」

温さんのメッセージは、生きづらさを抱える多くの人に力を与えています。
どのようにしてその言葉にたどり着いたのか、温さんにロングインタビューしました。

※ラジオ深夜便「明日へのことば」でのインタビューを再構成
(アナウンサー 鎌倉 千秋)


否定していた母の言葉が愛おしくなったとき

インタビュー収録のスタジオで 姉妹のように話題がつきませんでした(左・筆者)

台湾出身の母を持つ私にとって、共通する背景の多い温さんは、いつかお話を聞いてみたいと思っていた存在でした。温さんが生み出すたくさんのユニークな表現の中で、私がとりわけ惹きつけられたのは「ママ語」ということばです。

「ママ」とは温さんのお母さんのこと。台湾に生まれ、3歳の時に日本に移り住み、日本語を自然と身につけた温さんにとって、日本語、台湾語、中国語を混ぜて話す母の言葉が「雑音交じりの言葉」に聞こえたこともありました。

成長し、自ら多言語を用いて作品を書くうちに、母の話す言葉を「ママ語」として再発見したのだそうです。

温又柔さん
うちの母の言葉って、中国語でも日本語でも台湾語でもなく、全部が何となく混じり合っているんです。

私の育った環境や小学校って、私自身以外はほとんど日本の子たちしかいなかったので、日本人ではない自分のお母さんが、ちょっと普通じゃないような気がして、何で違うんだろうって。

その一番大きいところは母のしゃべる言葉だったんですね。授業参観のときとかに、ばーってしゃべるのを友達に聞かれると、みんな不思議な顔して見ている。他の子と違う自分が何か普通じゃないのが嫌だなって思ったことは、一時期ありましたね。

結局怒りとかいらだちが母にぶつかる、家に帰って、「なんでママあんな目立つんだよ」みたいな。普通のママだったらこんな思いしなくて済んだのにと。


大学生になった温さんに、母の言葉を見つめなおすきっかけが訪れました。

温又柔さん
両親の言葉を学ぼう、中国語をちゃんと勉強しようと学生時代に上海に留学に行ったんです。そこで、自分が思い通りに使える言葉ではない世界で生きるって、単純にこんなに大変なんだって。うちの母や父は、子どもを育てながらこんな事していたんだって思って。

急に、その日本語が世界の全てって思っていたことが相対化されたことによって、もっと日本語に対して、外国の人が頑張って学ぼうとしているその部分、親の苦労ですよね。

最初から日本語しか存在しない世界で、私はすっとなじめたけれど、なじめずにここに生きている人たちのことをもっと想像しなきゃなって思ったのが結構大きかったですね。


 
『ラジオ深夜便』の収録時、温さんは「ママ語」に関わるくだりを朗読してくれた



上海での経験は、母の言葉を見つめなおす「芽」となりました。そして作家として様々な場面で「あなたの母語はどれですか?」と問われる中で、次第にそれが「ママ語」という表現をもつ「花」となり「実」となっていったそうです。

温又柔さん
母の話す、全部が何となく混ざり合った言葉を自分の「母語」と呼ぶんだったら、いっそ、うちのママのことばだから「ママ語」という呼び方にしちゃおうかなって。わざと「ママ語」って呼ぶように決めたんです。


温さんの、多言語があふれる独特の執筆スタイルも「ママ語」と向き合ってきたことと深くかかわります。

温又柔さん
私は、母の日本語じゃない部分をノイズとして思い、いつも排除してきました。でも排除したものが傍らにあるのに、何もなかったふりをして端正な日本語を使って生きていることに、無理を感じるようになりました

今の社会も本当は(いろいろなものを)放り込んだほうが社会自体がすごく豊かになるきっかけをもっているかもしれないのに、それをノイズ扱いして不可視にしてしまうのはとてももったいない。自分がこの(多言語の)文体を見いだせたように、社会もそういうものを見いだせたらと思うから、自ら率先してノイズを立てていきたいんです。


温さんは、 “わたしの普通”は他人が決めるものではなく自分が決めるものだと気づいたとき、自身を育んできた「ママ語」をとても愛おしく感じるようになったのだそうです。

台湾に行くとどこでも、大好物の「魯肉飯(台湾語で”ロバプン”)」を頼んでしまうそう



「対岸の火事ではない。足元で燃えている」

多言語を使いながら、日本や台湾、中国にルーツのある主人公がアイデンティティに悩み、日本社会で居場所を見出そうと苦悩する姿を描き続けてきた温さん。そのテーマで書き続けるとの思いをより強くしたのは4年前。とある文学賞で選考委員から受けた批評がきっかけでした。

批評の内容は「当事者たちには深刻なアイデンティティと向き合うテーマかもしれないが、日本人の読み手にとっては対岸の火事であって同調しにくい。なるほどそういう問題も起こるのであろうという程度で他人事を永遠と読まされて退屈だった」というものでした。

温又柔さん
この選考委員の方が「俺にとって退屈だった。俺には他人事って」と言った主語がもしご自身であったら、「そっか、この人は私の書いたものが退屈だったんだな」で終わった話だったんです。主語が「日本人」だったことがやっぱり私の中でちょっと看過できないなって。

私は、日本人とは誰だろうとか、自分は日本人なのか何人なのかということを悩んでいる自分の分身のような人物たちの小説を書いたつもりなんです。著者である私は、その物語を日本語で書くしかなかった。このこと自体がこういう、「日本語で生きている」人もいるっていうことの証しだと思ったんですけれども。選考委員の1人がそのことを、「これは日本人とは関係ない話だ」と切り捨ててしまったことに、ものすごくショックを受けたんですね。


温さんはツイッターでこの選考委員のコメントへの反論を投稿しました。

温又柔さん
なんて言うのか、日本人であるというだけで、自分のものとばかりに日本語の中に安住してそこから1回もずれる恐怖も不安も感じずにすむ人が、私が日本語で書いたこの内容を、「対岸の火事」というふうに、遠くのものとして見なせることって…。やっぱり、「あなたにとっては対岸に見えるけれども、この炎はもう足元で、燃えているものだよ」ということを、ちょっと言っておこうと思って。


「もどかしく悲しく怒りに震えた」とまで書いた反論は注目され、論争が巻き起こりました。選考委員に同調する人たちから、小説は普遍的なものだから多くの人が共感できるものを書くべきという批判もあれば、文学の包容力はもっと大きいものではないかと温さんに共感する声もありました。 この経験が、温さんの決意を固めました。

温又柔さん
自分が小説家として表現するべきものは、変わらず自分のように日本社会になじめず、日本人になろうとすごくあがきながら、結局日本人になれなかった人たちの居場所を作ること。自分のような育ち、複雑なルーツを抱え込みながら、普通じゃないかもと悩んでいる人たちにとって、ここにいてもいいんだよって言ってあげられるものを作りたい。

一方で、お前たち普通じゃないぞっていう圧力を投げ続ける人たちに対しては、いやいやあなたたちの普通こそ盤石だと思うなよっていう、この両方をやっていかなきゃなっていう覚悟にはなったので、結果的にその選考委員のおかげで自分は考えがとても深まったので、よかったなとは思っていますね。



動かしようのない現実ほど、動かしたらみんな楽になる

外国語に限らず、たとえば方言を話すことで“普通”からはみ出してしまうと不安を感じる方もいるかもしれません。温さんは、他人の決めた“普通”に縛られ、生きづらさを感じる人たちに語りかけます。

温又柔さん
私の場合は外国にルーツがある人間だったけど、本当はこの国にたくさんいる日本人も、同調圧力にさらされながら、自分の感情を抑え込んだり、自分はちょっとおかしいって思い込まされたり。

自分自身を大事にできないと、そうじゃない人に対しての目もちょっと厳しくなってしまう。私はこんなに頑張って普通であろうとしているのに、何であの人たち普通じゃないのみたいなことで。何かこう悪い方向でお互いを絞め合っちゃう。もう、その、誰かが敷いたわけでもない普通をまず破ろうよって。そうすることでもしかしたらもっと楽になれるんじゃないのって。

私がなるべく心がけたいのは、その場を乱すこと。乱してでも変わった方がいいことは変えていきたいって思う。ルールとかモラルとか言われて、動かしようのない現実といわれていることほど、実は動かしたら多くの人が楽になれるんじゃないかって気がするんですね。

今みんな何となく信じ込まされているけど、実はそもそもおかしいんじゃないのってもっと気軽に言い合えるような仲間を作ったり、ちょっと連帯したりしていくことで、全体的に、社会全体にとっていい変化が起きるんじゃないかなと、信じたいところです。


確実にここに存在する違和感を、形にする

ー声を上げ続けることの意味って、温さんはどんなふうに考えていらっしゃるでしょうか。

温又柔さん
自分にとってはなにか身構えて声を上げているつもりはなくて、ただやっぱり、私自身のリアリティーがみんな伝わってないなら、伝えようかなという感じですね。そうじゃないと、自分の違和感とか自分のリアリティーがまるでないものになっちゃうのが怖いなと。確実にここに存在している自分の違和感とかをきちんとその都度その都度、形にするというか、声にすることによって、ちょっとずつ社会が、今の形じゃなくて、もっと包容力のある形になってゆくことを祈りつつ、という感じですね。


違和感をしまい込まず、声を上げることは、時に温さんにとっても、とても辛いことだといいます。なぜ、それでも続けることができるのでしょうか。

インタビューの最後、温さんは、「人の善意」を信じていると強く語りました。 それは温さん自身、小さい頃、周囲の日本人に温かく受け入れられた体験に根差す言葉でした。


自分以外の人たちを支える人でありたい

温又柔さん
はっきりいって心ない人のささいな行動とかささいな発言ですぐに絶望しそうになることが多いんですよ。絶望することにすら疲れてくるみたいなことがあるんだけど、でもやっぱり心ある人は必ずいる。心ある人が、すぐに言葉にならなくてもちゃんと、他人を信じようとか。自分以外の人たちを支えようと願っている人も、この世にはこの社会にはちゃんといるっていうことを忘れたくないし、自分もそういう人でありたいという、そのこと自体の信頼を、コロナ禍でやっぱりもう1回、自分の中でこれは守りたいなと思っています。

―そういう人が、社会には必ずどこかにいる?

温又柔さん
私自身もそういう人でありたいと。誰もがここにいていいんだよって、誰かが、私に思わせてくれた人たちがいるように私も、普通じゃないのかな、自分って悩んでいる人に、いいんだよって、全然普通じゃなくても、あなたがいるだけで十分なんだよということを 感じさせるような作品を描きたいなって思っていますね。



『ラジオ深夜便』インタビュー収録のスタジオにて


取材後記
私自身も、台湾出身の母、日本人の父の下、とある地方の街で育ちました。
周囲に外国人はそれほど多くなく、グローバル化や多様性という言葉がまだなじみのない時代、「“普通”って何だろう」という無意識の違和感を抱えながらも、地域の人たちには分け隔てなく受け入れられ、育ちました。

高度成長期は遠い日となり、社会の余裕が失われたのも一面には確かですが、本来的に大らかで他者に優しく、外への好奇心が旺盛な日本人の心は変わらないと信じ、まず自らが率先してそうありたいと思います。

この記事を書くきっかけになった温又柔さんへのインタビュー「“ふつう”って何だろう」を、NHKラジオ深夜便『アーカイブス』のコーナーで4月中に再放送することになりました。読んでくださった皆様に、ぜひ聞いていただきたいです。
(アナウンサー 鎌倉 千秋)


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#Beyond Gender
2021年2月22日

Vol.10 “性”を語りやすい社会に

「どうしたら子どもはできるの?」

もし 子どもから こう聞かれたら、あなたはどう答えますか?

ネットで検索すればさまざまな性の情報に触れることができる時代。
子どもたちが間違った知識から、誰かを傷つけてしまうかもしれません。

しかし、「性の話はタブー」「話すのは恥ずかしい…」と感じている人も多いのではないでしょうか。性の正しい知識について、子どもから大人まで誰もが気軽に学び、語りあえるきっかけをつくろうと、さまざまなツールの開発・制作に取り組む若者を取材しました。

(NHK名古屋 ディレクター 大間千奈美)


“親しみやすい”性教育を
東京都内で性教育に関するワークショップが開かれました。学校や家庭でもなかなか教わらない性の話を詳しく知りたいと、10代から40代まで幅広い年代の人が参加。講義が始まると思いきや、参加者が始めたのは、なんとボードゲームでした。


ワークショップで性教育ボードゲームをする参加者

「初めての生理/射精。処理方法がわからない…」
「セックスという言葉を耳にした。インターネットで調べたら変な動画が出てきた」

誰もが思い当たるようなできごとの数々…。

ゲームを通して 子どもが直面する性の課題を体験してもらい、そのときどきに必要な、正しい知識を学ぶ仕掛けです。

このゲームを制作した鶴田七瀬さんです。親しみやすい性教育を広めようと取り組む団体を2年前、23歳のときに起業しました。


性知識を学ぶツールを開発する ソウレッジ代表 鶴田七瀬さん(25)

鶴田七瀬さん
「性教育とは『人生の中でこういうフェーズがあって、あなたにはこういう知識が必要なんですよ』みたいなことを一緒に歩んでいくような教育だと思います。日常に性教育を取り入れることをすごく大切にしています。」

海外で目にした「性知識」の伝え方
鶴田さんが性教育と向き合うようになったのは、大学生のとき。親友から性暴力の被害にあっていると打ち明けられたことがきっかけでした。


大学時代の鶴田さん

鶴田七瀬さん
「どうしたらいいか わからなかったから、話を聞くことしかできなくて。何を言ったらよくて何を言っちゃいけないのかが わからず、提案もサポートもできなくて、もどかしい気持ちになりました。そして、知識が必要なんだというところにたどり着きました。」

性について学ぼうと、ユネスコが作成した『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』をはじめ、性教育に関する本や記事を読みはじめた鶴田さん。調べていくうちに、海外では幼少期から性教育を行っている国があると知ります。実際にどのように行われているのか、自分の目で確かめるために、1年近く、デンマークやオランダ、フィンランドなどに留学しました。


留学中フィンランドの小学校で授業に参加した鶴田さん

そこで、学校や家庭で誰もが当たり前のように性について話し合う様子を目にします。

オランダでは、小学校の教育に性について学ぶ“性教育月間”があり、子どもたちは図書館などで性について、自分自身で本や資料を使って調べる習慣がありました。

イギリスでは幼児向けの動画を通して、性教育が行われていました。水着で隠れる部分は「プライベートゾーン」といい、大切なところだから人に触らせてはいけないということをポップな動画で伝えていました。

特に印象的だったのは、その伝え方です。幼少期より、「あなたは大切」と伝えることから性教育が始まり、「その大切なあなたをどうやったら守ることができるのか?」という視点で、性の知識を深めていくのです。

鶴田七瀬さん
「『自分の体があまり大切じゃない』という感覚を持っていたら、自分の体を守ろうとは思えないからだと思います。そこで、まず自分の体を大切にすることを伝え、それから相手の体や気持ちを尊重することを伝えていました。それを見て、性教育は『人生の中で必要なことを考える教育』だと思いました。」

日常で「性知識」を学べるように
自分や相手の体が大切であることを含め、性の正しい知識を、誰もが日々の暮らしのなかで身近に学べる環境を作りたいと思った鶴田さん。帰国後、まず始めに作ったのは「性教育トイレットペーパー」です。


性教育トイレットペーパー

トイレットペーパーに書かれているのは、性に関するさまざまな情報です。性別にも「自分らしさ」があり、さまざまなセクシュアリティがあるということ。「性暴力」とは、同意なしに性的な行為を無理やりすること。また、相手を傷つけないために気持ちを確認することが欠かせないという「性的同意」の話などを、わかりやすい言葉で盛り込んでいます。

開発資金をクラウドファンディングで募ると500人以上が賛同。一般向けに販売を開始し、子どもに食事や居場所を提供する 子ども食堂などには無料で配布したところ、親世代から大きな反響がありました。

「子どもにきちんと性教育をしてあげたいと思いながらもキッカケがなかったのですが、性教育トイレットペーパーが背中を押してくれました」

「こんなにわかりやすい教材が、私の子どもの頃にあったら良かったのに」


「性の悩み」を気軽に話せる環境づくり
知識を得るだけでなく、悩みを気軽に話せるようしたいと、鶴田さんが次に制作を手がけたのが、冒頭で紹介した性教育ボードゲーム。自分の経験を話すための工夫も盛り込まれています。


『性の課題を学ぶボードゲーム』

たとえば「通勤中の満員電車で痴漢にあった」というマスにはクイズも掲載しています。

問題 日本では痴漢にあったことがある人は何%いるのか?

答え 女性の70%、男性の32%が電車やバス、道路などの公共空間で 何らかのハラスメント被害を経験していると言われており、 痴漢被害にあった人の約半数が「我慢した」と答えています。

(#WeToo Japan調査より)


ボードゲームは、保護者や教員向けにネットで販売を始めています。また、鶴田さんは性教育のワークショップでも活用しています。この日のワークショップ。参加者のひとりの駒が「痴漢にあった」というマスに止まり、自身の体験を話し始めると、ほかの参加者たちも堰(せき)を切ったように語り出しました。


性について自身の経験を語り合う参加者

「痴漢にあったときに、親に全然話せなかったし、相談できなかった」

「私は痴漢にあったときに、母親から『なんで大声を出さなかったの?』と聞かれたその ひと言で二度と相談しなくなりました」


「知識を得るだけでなく、性の悩みを安心して話すきっかけになる」と、子育て中の親や養護教諭などにも好評です。


ワークショップで参加者と話す鶴田さん

鶴田七瀬さん
「話しても大丈夫と感じさせる環境を大人側がつくっていくことが重要。日常生活の中に性教育を取り入れることによって、もっと話しやすい環境、安心して相談できる場所ができるのではないかと思っています。」

取材して…
国の調査(「男女間における暴力に関する調査 報告書」内閣府男女共同参画局 平成30年3月)では男女あわせて20人に1人が「無理やりに性交等された被害経験がある」と回答していますが、そのうち女性の約6割、男性の約4割は、誰にも相談していないという実態があります。

鶴田さんの取り組みは被害が起きてからではなく、起きる前に私たちが知っておくべき情報を伝え、悩みを相談できる環境をつくることにつながっていると感じました。性被害から自分や大切な人を守るために、性の話をタブー視せず、日頃からしっかり向き合うことが何よりも大切だと強く思いました。

あなたが 子どもの時に知っておきたかった性の知識はありますか? 子どもたちに伝えたい、伝えておいたほうがいいと思う 性の知識はありますか? 下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。



<あわせてお読みいただきたい記事>
2021年2月19日

コロナ禍の渋谷サイレントデモに込めた想い 在日ミャンマー人チョウチョウソーさんに聞く

2月14日(日)、東京・渋谷に全国から在日ミャンマー人4,000人以上が集まり、ミャンマーの軍事クーデターに無言で抗議する「サイレントデモ」が行われました。
その中心メンバーのひとりが、1988年のミャンマーの民主化運動に参加し、難民となったチョウチョウソーさん(57)です。実は去年8月、わたしは新型コロナウイルスの影響が広がる中で「安心できるコミュニティーを守りたい」と奮闘するチョウチョウソーさんの様子を取材していました。
今回チョウチョウソーさんが語った、怒り、悲しみ、そして、希望・・・
デモに込められた思いは、日本に住むわたしたちへの問いかけでもありました。
(「みんなでプラス」取材班 ディレクター 伊藤 加奈子)

「新型コロナの中ですが、どうか力を貸してください」

子ども「コロナなのに、なんでこんなに人がいるの?」
母親 「それだけ“重要なこと”っていうことだよ」

春の陽気となった2月14日の代々木公園。在日ミャンマー人たちのデモの様子を見ていた日本人親子の会話です。この親子のように「デモを見た日本人にミャンマーで何が起きているのか考えるきっかけにしてほしい」というのが今回のデモの目的でした。人通りの多い渋谷周辺が選ばれたのも多くの人の目につくようにするためです。

デモを企画したひとりが、ミャンマー難民のチョウチョウソーさん(57)です。ミャンマー人が多く暮らす高田馬場で料理店を営んでいます。店は在日ミャンマー人たちが安心できる場であり、「駆け込み寺」のような存在です。

コロナで経営が苦しい中でも、職を失った仲間たちをサポートするなど、チョウチョウソーさんはコミュニティーのリーダー的役割を果たしています。日本人にミャンマーのことを伝える活動も積極的に行ってきました。

チョウチョウソーさん 経営する店は在日ミャンマー人たちにとって大切な場

チョウチョウソーさん
「今回クーデターが起きて最初に思ったのは、若者たちの夢が終わってしまったということです。日本に来ている留学生などは、日本のことを勉強し会社の仕組みなども学んで、ミャンマーに帰って国のために頑張ろうとしていました。
新型コロナでみんなが大変な中、軍の私利私欲のための“国民のためではない”クーデターが起きてしまったことが悲しい。」

今回のデモにあたりチョウチョウソーさんたちは大きなルールを決めました。声をあげず『ただ黙って歩くこと』です。クーデター後に日本でも連日デモが行われましたが、緊急事態宣言中に「集まって声を出すこと」には批判の声も寄せられました。そこで感染対策の強化を考えた結果、「サイレントデモ」の形をとることにしたのです。

行進する際も3列で速めに歩く、ゴミ袋を持ったスタッフが巡回する、デモへの理解を求めるチラシを用意する・・・といった工夫を行いました。

誘導するチョウさん。参加者はマスクに×印で「サイレントデモ」のアピール

整然かつ毅然と、黙って歩く4,000人。沿道で見ていた日本人の中には、強権的な政治への抵抗を示す3本の指を立てるポーズで、無言で応援する人もいました。それに対しチョウチョウソーさんも力強いポーズで応えていました。

チョウチョウソーさん
「デモを見た日本の人たちに『なぜ日曜日に、こんなにたくさんの人が無言で歩いているのか』を考えてもらい、ミャンマーに関心を持ってもらうきっかけを作りたいと思いました。
コロナの中で申し訳ありませんが、ミャンマーで何が起こっているのか理解して、応援してほしいのです。どうか力を貸してください。」

名古屋、香川などから来た参加者も


「政治こそが自分たちの未来」

チョウチョウソーさんが来日したのは1991年、28歳のときでした。1988年のミャンマーの民主化運動に参加し、仲間たちが次々と拘束される中、「もし捕まったら殺されるかもしれないと身の危険を感じた」といいます。
結婚したばかりだった妻ヌエさんをミャンマーに残して日本に逃れてきました。

日本に来てまもないころ ミャンマーでは会計士の仕事をしていた(写真提供:チョウチョウソーさん)

1998年に難民認定を受けたあと妻ヌエさんを呼び寄せ、都内でミャンマー料理店を開きました。店を切り盛りする一方で、ミャンマーの民主化実現に向けて日本の外務省や国会議員に働きかけるなど、ロビー活動を続けてきました。
「政治こそが自分たちの未来」だと信じてきたからです。

ミャンマー人の民主化への思いの強さを示すエピソードを、チョウチョウソーさんが教えてくれました。去年11月に総選挙が行われたときのことです。
日本に暮らすミャンマー人たちも東京の在日大使館で投票に参加し、地方からも投票のために多くの人が上京しました。貸し切りバスでやってきた人たちもいました。その中にはこんな人もいたそうです。

チョウチョウソーさん
「“コロナが拡大している今、東京に行くなんて・・・”と会社に言われて、投票後、14日間の自宅待機をした地方のミャンマー人もいました。この間、無給となりましたが、それでも投票したい思いはお金には換えられません。」

総選挙の結果はNLD=国民民主連盟の圧勝でした。民主的な政治を求める大多数の国民の願い。それが今回のクーデターによって覆されてしまったのです。

ダンスにゲーム、鍋たたき 広がるCDM

チョウチョウソーさんのもとにはSNSでミャンマーの情報が入ってくる

チョウチョウソーさんのスマホには、ミャンマー全土で広がる抗議活動の様子がひっきりなしに届きます。『市民的不服従運動(Civil Disobedience Movement)』略して『CDM』と呼ばれていて、夜8時に一斉に鍋をたたいたり、ダンスで抗議の思いを表現したり、ゲームを通じてデモの作戦を立てたり、多くの市民が様々な形で軍への抗議の意思を示しています。

運動の中心となっているのは20代~30代です。「このままでは自分たちの未来がなくなる」という切迫感が、若い世代を突き動かしているといいます。

チョウチョウソーさん
「88年のときは、とにかく“政治、社会のシステムを変えたい”という思いで動いていました。当時は国がクローズしていて海外と繋がれませんでしたが、民政になって以降は海外留学などのチャンスもひろがり、若者たちはそれぞれ夢を持っています。
みんながスマートフォンを持ち、自分たちのやりたいことを探せる時代です。若者たちは今、“自分の夢のために”動いています。その思いを支えたいのです。」

(『ミャンマー人の若者とデモ』こちらの記事も⇒「集まってしまって、ごめんなさい」
 
 
デモ帰りの人たちが店にやってくる

チョウチョウソーさんの店には、デモを終えた在日ミャンマー人の若者たちが数多く集まってきます。若者たちに対しチョウチョウソーさんは、こんな言葉をかけているそうです。

「ミャンマーがどうなるのかはまだわからないけれど、これから何をしたいか?日本でどうしたいのか?勉強は足りているか?きちんと自分の頭で考えてね。盲目的に何かを支持するのではなく、なぜやるのか、自分の責任で判断してね。」

デモで若者たちと一緒に歩くチョウチョウソーさん


  「自分の頭で考えているか」

チョウチョウソーさんと話をしていると「自分の頭で考える」という言葉が、繰り返し出てきます。実はこれには「ミャンマーの教育の在り方を変えたい」という思いがこめられています。

ミャンマーの学校教育は『先生が一方的に教える』スタイルが一般的だそうです。チョウチョウソーさんはこうした従来の教育を変え「自分で考えられる人を育てたい」と取り組んでいます。

在日ミャンマー人に日本語を教える活動をしている東京女子大学教授・松尾慎さんに協力を依頼し、2018年からミャンマーで、先生たちを対象にした参加型学習のワークショップをスタートさせたのです。

ワークショップでは、「医療・平和・教育・食事・意見表明という5つの権利のうち、もし手放すとしたらどの順番か?」など、正解が一つではない問いを投げかけ、対話をする経験を積んでもらっています。

ミャンマーでのワークショップ/左が松尾慎さん

2019年のグループワークの様子(写真提供:Villa Education Center事務局)

東京女子大学教授 松尾慎さん
「教育を変えたいというチョウチョウソーさんの熱い思いをミャンマーの先生たちに伝えるパイプができ、授業にも取り入れてほしいと考えていたところでした。去年はコロナの影響で、今度はクーデターで、次はいつ行かれるかわからなくなってしまったのが本当に残念です。」

松尾教授は日本でも、ただ日本語を教えるだけでなく、みんなで議論して学び合う場を設けています。
毎週活動に参加しているチョウチョウリンさん(59)は、ミャンマーで軍に拘束された経験があります。そこから逃れて来日し難民認定を受けました。

軍に拘束された経験があるチョウチョウリンさん

チョウチョウリンさん
「ミャンマーでは人が死ぬのは当たり前、仕方ないことだと思っていた。日本に来て『安心安全』とはどういう意味か知り、初めて怖くなってミャンマーに帰れなくなりました。」

その上でチョウチョウリンさんは「自分の頭で考えることの大切さ」を訴えます。

チョウチョウリンさん
「デモがエスカレートすれば、ミャンマーではまた人がたくさん死ぬかもしれない。デモの先のことをもっと考えて、議論をしないといけないとわたしは思っている。“アウンサンスーチーさんが解放されたらなんとかなる”のでも、“みんなに従えばよい”のでもなくて、これからのことを自分の力で考えないといけない。
わたしは自分の考えを話したけれど、それが正しいか正しくないかは、あなた自身が自分でちゃんと考えてね。」


  「これは日本にも関係する話なのです」

日本人に向けてミャンマーの状況を発信し続けている人もいます。
ミョウミンスウェさん(51)は東京大学大学院で修士号を取得後、ヤンゴンで日本との輸出入の仕事に従事するなど、日本とミャンマーの「ビジネス面でのかけはしになりたい」と考えてきました。しかし1月中旬から日本に来ていた間にクーデターが起き、帰国できなくなりました。ミャンマーにいる家族ともバラバラになっています。

そうした中でミョウミンスウェさんは、SNSでミャンマーの様子を日本語でも発信し、日本の人たちに関心を持ってほしいと呼びかけています。

東京大学大学院で修士号を取得したミョウミンスウェさん

ミョウミンスウェさん
「ミャンマーの国民たちは、コロナで死ぬより、軍事独裁下で抑圧されるのをもっと怖がっています。ヤンゴン近郊には日本が投資しているティラワ経済特区もあります。このままでは、日本の経済を支えているミャンマーの日系企業に大きな影響を及ぼすでしょう。
日本が沈黙しているとミャンマー国民からも信頼を失うことになりかねません。日本にも関係のある話だと知ってほしいです。」

チョウチョウソーさんも、日本人に向けてこう訴えます。

チョウチョウソーさん
「今の時代、何事も関係がないことはない。すべてが繋がっています。ミャンマーの安定は、アジアの安定につながり、最終的には日本にも利益があると思います。そういうつながりを、自分の頭で考えてみてほしいです。」


取材後記
日本にいるわたしにとって、軍事政権下の生活や民主化運動とは何なのか、想像しにくい部分がありました。その意味が少しわかったのが、2月10日のチョウさんとの会話です。その前日、ミャンマーでデモに参加していた19歳の女性が警察の発砲を受け、銃弾がヘルメットと頭の骨を貫通し、この時点で意識不明の重体となっていました。
チョウさんは一言、「こういうことなんですよ」と語気を強めました。
「夢のために立ち上がっただけなのに。もし撃たれたのが自分だったら・・・」 自分の頭で想像したら涙があふれてきました。
民主主義を守るために、微力でもできることを続けたいと改めて思いました。


【あわせて読む】
・「安心できる場」である店を守りたい チョウチョウソーさん
・「集まってしまって、ごめんなさい」在日ミャンマー人の若者 民主主義への思い
・ミャンマー クーデター 抗議デモの行方
・ミャンマー クーデター「アジア最後のフロンティア」に思わぬ落とし穴?日本企業は今
#Beyond Gender
2021年2月16日

Vol.9 “わきまえる”の波紋

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森会長が、みずからの女性蔑視と取れる発言の責任を取って辞任する考えを明らかにしました。

「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」という発言に加え、「組織委員会にも女性がいるが、みんなわきまえている」という発言に対しても、SNSを中心に大きな議論が起きました。広がる波紋を取材すると、スポーツ界だけでなく、私たちの社会、組織のありように対する疑問の声が聞こえてきました。

(「おはよう日本」取材班)

#わきまえない女 声を上げる人たち


「わきまえない女、ここにいます」
「わきまえろと言われても声を上げ続けるのが私たちのやり方です」


森会長の発言以降、「わきまえない女」というキーワードをつけた投稿が、SNSで相次いでいます。

特に多くの賛同を集めているのが、家庭に居場所がなかったり、性搾取を受けたりしている10代の女性に衣食住を提供する活動をしている仁藤夢乃(にとうゆめの)さんの投稿です。青少年の支援について話し合う行政の会議に参加した際、出席者のほとんどが男性で、議論が既定路線で進む様子にショックを受けたとつづっていました。

『初めて行政の会議の委員になったとき、長年委員をしていた男性たちが、事前に決められた方向性やゴールに向けて誘導的な発言をするだけで、そのためのアリバイづくりみたいになっている会議に驚きショックだった。現状を変えるため、たくさん発言した。これからもそうしていく』


(一般社団法人Colabo(コラボ)代表 仁藤夢乃さん)

仁藤夢乃さん
「“もとから考えられている路線と違うことを言うなよ”という空気を感じながら、言うことは言うようにしています。女性差別とか、性搾取とか、多くの女性が困っている問題が放置されてきたのも、男社会で男性たちが権力を握って決めてきたから。現状を変えるためにも、多くの女性がはっきりと発言をして議論の場、決定の場に入っていくことが重要だと思っています。おとなしくしていることが『わきまえる』ことになってしまうという日本社会の現状が、女性差別の深刻な状況をあらわしていると思います。」

わきまえたこと、ある?


街の人に聞くと、男女を問わず、“わきまえた” 経験があるといいます。

20代 女性
「前の会社だと男社会という感じだったので、強気な『こうした方がいいのではないですか』という発言はしづらかった。」

18歳 男性
「部活とかだったら、年代が3世代で後輩先輩の差があるので、先輩に意見するときは自分の感情をちょっと抑えてというのが “わきまえた”経験かな。」

70代 男性
「男の人は出世しなきゃいけないところがあるじゃない。男の人だけでないかもしれないけど。みんな中央に向いている。」

“わきまえる”リスク 企業トップも・・・
こうした中、“わきまえる”ことについて危機感をにじませる意見を投稿した人がいます。

「これは私たち日本が育んできた文化・社会でもあります。私としては猛省する」

投稿したのは、国内最大級のフリマアプリ、メルカリの代表取締役・CEOの山田進太郎さん。“わきまえる”ことで多様な意見が出づらくなったら、企業は生き残れないといいます。


(メルカリ代表取締役・CEOの山田進太郎さん)

山田進太郎さん
「サービスが広がるほど、年齢、性別、外国人など、さまざまな方々の多様なニーズに対応するためには、社内で多様な声があるということがすごく重要。“わきまえる”というのは明確なマイナスがあると思う。」

山田さんはいま、社内で萎縮せずに意見を言える環境作りを模索しています。

山田進太郎さん
「誰も意見を言ってくれなっちゃったら、(自分が)どんどん“裸の王様”になってしまって、いくら気をつけていても(周りが自分に意見を)言いにくいことなどあると思います。だから、まずは みずから自覚することが大切。言い方もそうですし、“言える文化”というか、言い続けることで“言える文化”にしていくしかない。

私には子どもがいますが、今のこの社会、世界のまま、子どもたちに残せないと感じています。今回の件をきっかけにして、いろいろな人がダイバーシティを考えることが重要だと思います。 」

取材して感じたこと
そもそも「わきまえる」とは、「ものの道理を十分に知る」という意味で、必ずしも「黙ったほうがいい」というわけではないはず。しかし、改めて自分の経験を振り返ると、「リーダーは男性の方がいいだろう」など性別を理由に、プロジェクトの代表を決める場で、やってみたい意志があったものの立候補しなかったことがあったのを思い出し、反省しました。

今回の発言をきっかけにして、知らず知らずのうちに「言っても仕方がない」と思っていた問題に対して、きちんと声を発していく社会にどうすれば変えていけるのか、考え続けていきたいと思います。

みなさんから寄せられる声をもとに取材を続けます。ご意見をお待ちしています。

あなたは、職場、学校、家庭などで、性別によって役割や仕事を固定されたり、格差を感じたりしたことがありますか?そのような格差をなくすためにどうすればいいと思いますか?
ご自身のエピソードや周りで見聞きした経験でもかまいません。
下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
#Beyond Gender
2021年2月15日

Vol.8 予期せぬ妊娠 命つなぐ マタニティホーム

去年11月、神戸市の元女子大生が、就職活動中に羽田空港のトイレで出産し、赤ちゃんの遺体を遺棄したとして、逮捕される事件がありました。生後間もない赤ちゃんが母親に遺棄され、亡くなるケースはあとを絶たず、おととしまでの16年間に全国で156件に上ります。

予期せぬ妊娠に悩む女性たちに支援が届いていれば、命を救えたかもしれない…。焦りが募るなか、去年12月、妊娠で追いつめられた女性たちの生活を支える滞在型の支援施設、マタニティホーム(妊婦の家)が神戸市に開設されたと聞き、取材しました。

全国でも珍しいこの取り組み。そこから見えてきたのは、誰にも頼ることができず、孤立に追い込まれる母子の実態でした。

(神戸放送局 記者 井上幸子、おはよう日本 ディレクター 朝隈芽生)


妊娠で追いつめられた女性に “ぬくもりある居場所”を

(マタニティホーム Musubi室内 撮影:小さないのちのドア)

神戸市内の住宅街にある「マタニティホーム Musubi」。寄付で運営され、滞在費は無料。助産師や保健師などのスタッフが24時間常駐し、妊婦たちの体と心のケアから、病院や行政へのつきそい、さらに出産後に体調が落ち着くまで、さまざまなサポートをしています。

入居する女性たちそれぞれに個室が準備されていますが、昼、晩の食事は、スタッフを含め、みんなでテーブルを囲みます。入居者からのリクエストに応えたメニューや手作りのケーキが並ぶこともあります。時には入居者同士が連れ立って日用品の買い物に行くなど、和やかな雰囲気に包まれていました。

入居者専用のセキュリティ対策の施された出入り口があって、外部の人は入れないようにするなど、プライバシーも守られています。産まれてきた赤ちゃんのためのおもちゃや絵本なども備えられていて、女性たちが少しでも安心して出産を迎えられるよう、さまざまな工夫や配慮がされているように感じました。


(一般社団法人「小さないのちのドア」代表 永原郁子さん<右>)

この施設を運営するのは、神戸市の団体「小さないのちのドア」です。代表を務める助産師の永原郁子さん。永原さんたちは3年前から予期せぬ妊娠に不安を抱える女性たちの相談を受けつけてきました。これまでに電話やSNSで寄せられた相談は1万3000件に上ります。

『陣痛が来ています。でも誰にも相談できない』
『たった今、ひとりで出産しました』
『赤ちゃんをどうしたらいいかわかりません』


家族にも打ち明けられないまま、ネットカフェや知人の家を転々としている、金銭的に余裕がなくて病院に行くことができない、母子手帳も持っていないという女性も少なくありません。特に、去年の春以降、新型コロナウイルスの感染拡大と比例するように相談は増えました。1回目の緊急事態宣言が出された時期には、小学生を含め、10代からの相談が急増。また、コロナで会社が倒産して仕事と住む場所を失い、生活費を稼ぐために援助交際や風俗業に入らざるを得ず、妊娠してしまったという女性も少なくありませんでした。


(「小さないのちのドア」にSNSで届いた相談)

助けを求めるせっぱ詰まった声の先で、小さな命が危機にさらされている…。それを痛感した永原さんは、相談を受けるだけでは命を守りきることができないと、マタニティホームの開設に踏み切りました。


(「小さないのちのドア」代表 永原郁子さん)

永原郁子さん
「話を聞くだけではもうどうにもならない。『住むところがない』『食べていない』と言われたら、電話ではもうどうにもならないですから。『信頼してもいいですか』と伸ばされてきた細い手をそっとつながないと、すっと引っ込められてしまう。だからこそ、ここから先は別のところに引き継ぎます、とは言えません。相談から生活支援、そして産後の自立支援まで一貫して行えるマタニティホームのような受け皿が必要なんです。」

“産んでも育てられない…” 

(ハルカさん(仮名)・18歳)

去年12月、マタニティホームが開設された数日後には、中国地方や九州などから女性が入居し、5部屋ある個室のうち、4部屋は埋まりました。私たちは入居者の女性の一人に話を聞くことができました。

出産を間近に控えた18歳のハルカさん(仮名)。去年10月、体に違和感を覚えて病院に行くと、すでに妊娠7か月と診断されました。中絶が許される期間をすでに過ぎていたため、医師から「産むしかない」と告げられました。仕事のストレスで体調を崩しただけだろうと思っていて、妊娠は想像もしていなかったといいます。

パニックになったハルカさんを見て、病院が「小さないのちのドア」につないでくれたといいます。

ハルカさん
「(病院は)このまま私がひとりで帰ったら自殺してしまうのではと思ったのかもしれません。いますぐ『小さないのちのドア』に相談に行きなさいと言われました。妊娠のことを親にも友達にも言えず、どうしようと思っていましたが、永原さんたちと話すことで落ち着くことができました。」

ハルカさんは子どもの父親についても言葉少なに語ってくれました。「つきあっている人ではない…」。妊娠のことを伝えても人ごとのような反応が返ってきたため、出産やこれからについて協力を得ることはできないと思ったそうです。

赤ちゃんもお母さんも守りたい
出産予定日が2か月後に迫る中、生まれてくる赤ちゃんを誰がどう育てていくか、ハルカさんは永原さんたちと繰り返し相談しました。妊娠によって高校を卒業してから働いていた会社を辞めざるを得ず、収入はありません。永原さんや保健師らの仲介で、家族に妊娠を伝えることはできましたが、サポートを得るのは難しく、1人で育てていくことに大きな不安を感じていました。

悩んだ末、ハルカさんは「特別養子縁組」で新しい家庭に子どもを育ててもらうことを決断しました。特別養子縁組は、さまざまな事情から実の親と暮らせない子どもを救うために、育ての親と法律上の親子関係が認められる制度です。

ハルカさん
「まだ自分も若いし、育てる自信がないから。中途半端な状態で、ひとりで育てるよりは託した方が赤ちゃんも幸せになると思う」


(ハルカさんと永原さん)

しかし、出産予定日が近づくにつれ、ハルカさんの気持ちは揺れていました。ハルカさんのこうした様子を見て、永原さんは優しく語りかけました。

永原郁子さん
「赤ちゃんの幸せのために新しいお母さんに託すんだから。すばらしい選択をしたんだって思えばいいからね。胸張って生きていったらいいからね。」

その後、ハルカさんは元気な男の子を出産。そしてまもなく赤ちゃんと別れ、ホームを去っていきました。その時、赤ちゃんにメッセージを残しました。

『私にとって、宝物が増えました。元気に生まれてきてくれてありがとう。』

赤ちゃんは今、新しい家庭で元気に育っています。

安心して産むことのできる場所があり、頼れる人がいれば、赤ちゃんの命も、お母さんのその後の人生も守ることができると、永原さんは確信しています。



永原郁子さん
「命がつながることができて、うれしいです。お母さんたちはここに来られるときは、涙を流し、つらい顔をしている。でも、ここで安心して出産して、笑顔に変わって出ていくことができる。そんな場所にしたいです。」

永原さんたちは、今後、お母さんたちの就労支援まで広げ、母子それぞれが安定して暮らせるようにサポートしていくということです。

孤立の原因は、相手の男性や周囲の心ない態度
予期せぬ妊娠に苦しむ女性たちを取材していて、強く思うのが、相手の男性の姿が見えないということです。ハルカさんのように、ひと事のような対応をされ、協力を得られないケースだけでなく、妊娠を伝えたとたんに連絡が取れなくなってしまうことも多いといいます。

相手の男性の無責任さに加えて、周りからの心ない言葉が、女性たちを孤立に追いこんでしまうと永原さんは感じています。

永原郁子さん
「妊娠したのは自業自得だとか、非難するような言葉が女性たちに向けられることがあります。『育てられないなら中絶しろ』とか、『風俗で妊娠しても女性の責任』というような風潮もあります。でも、女性は一人で妊娠したわけではありません。風俗で働かざるを得ない状況に追い込まれてしまった背景があるかもしれません。

相手の男性も周りの人たちも、そういうことをしっかり認識して、責任ある行動をとってほしい。女性を責めるのではなく寄り添って、どうすれば女性も赤ちゃんも救うことができるのか、一緒に悩み考えてほしい。

また、親から虐待を受けた経験があるなど、身近に頼れる人がいないというケースも少なくありません。妊娠が支援と出会うきっかけになるような、みんなで女性たちをあたたかく支えられる社会であってほしい。 」

マタニティホームを取材して…
「自分が救われたように、誰かの救いにつながるのであれば」と 今回、匿名を条件に話をしてくれた入居者の女性たち。中には、ネットカフェなどを転々としたあとに ようやくホームにたどり着き、疲れ切ってしばらく眠り続けていた人もいました。初めのうちは、心を開いてもよいのだろうかと警戒する様子の人もいました。しかし、手作りの食事をみんなで囲み、悩みを打ち明ける中で、自ら命をつなぐ決断をし、さらに表情も穏やかになっていったのが印象的でした。

今回の取材を通して、予期せぬ妊娠で孤立してしまった女性たちの生活を支える取り組みが全国に広がる必要があると強く思うと同時に、予期せぬ妊娠を防ぐための性教育、そして、妊娠で悩む女性たちを孤立させない社会をつくることが早急に求められていると痛感しました。これからも取材を続けます。

●一般社団法人 小さないのちのドア (24時間 対応)
ホームページ https://door.or.jp/  (※NHKホームページを離れます)
電話     078-743-2403
メール    inochi@door.or.jp 

もし、あなたが、あなたのパートナーや大切な人が予期せぬ妊娠をして悩んでいたら、どうしますか?どうしたら救われる・救うことができると思いますか?みなさんのご意見や記事への感想などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
2021年2月11日

”アフリカ少年”だった漫画家が「“違い”を楽しもう」と呼びかける意味―星野ルネさん―

いまSNSで『アフリカ少年が日本で育った結果』という漫画が話題になっています。作者はカメルーン生まれ・日本育ちの漫画家、星野ルネさん(36)。日本に移り住んでから体験した学校生活や、友人とのちょっとした会話の中に出てくる誤解などをコミカルに描いています。漫画を通じて差別や偏見などの問題に挑む星野さんに、いまの表現にたどり着くまでのお話を伺いました。 
(NHK 報道局「国際報道2021」ディレクター 重田 竣平)

“アフリカ少年”が見た日本の景色

「髪の毛触らせて!」と群がってくる同級生たちー 学校の入学式など新しい環境に移るたびに、“アフリカ少年”に好奇の目が向けられました。都内に暮らす漫画家・星野ルネさんは、そんな子ども時代の体験や何気ない日常を漫画にしてツイッターに投稿しています。3年前にスタートし現在 5万人のフォロワーを集めています。

漫画「好奇心の行方」


漫画「未知との遭遇」


星野ルネさん(自宅のアトリエにて)


星野ルネさん
「アフリカの少年が日本で育つと どういう景色が見えるのか。 みんなが当たり前に思っている日本の景色とは、違う景色があるというのを紹介したかったんです」


左:日本に移住した直後 4歳の星野さん
右:小学校6年生の星野さん 遠いアフリカからやってきた母と自分を温かく迎えてくれた大好きな祖母と


1984年、星野さんはカメルーン人の両親の元、ジャングル近くの農村で生まれました。転機が訪れたのは4歳の頃。母親が村に研究で訪れた日本人の生物学者と再婚し、兵庫県姫路市に移り住むことになったのです。
家の中で故郷の母語・フランス語と、播州弁(兵庫県の方言のひとつ)が飛び交う、ユニークな環境で育ちました。

しかし家から一歩外に出ると、アフリカ出身の子どもは地元では自分だけでした。そのため、さまざまな困難に直面したといいます。

“いつかは自分も『日本人らしい』同じ見た目になれるといいな…” そう願いながら、周囲との容姿の違いやアイデンティティに少年時代は悩み続けました。当時のエピソードは漫画「変身の時」で紹介されています。

「変身の時」


高校生になると、外見が理由でアルバイトを断られたこともありました。その後も自分が進むべき道がなかなか見つからず、仕事を転々としてきました。

「歩いていく」


星野さん
「日本人の思考パターン、考え方も知っているので、まあそうだろうな、自分を見て驚きはするだろうなっていうのはわかりつつ…。自分で選んでアフリカに生まれて日本に来ているわけではないので、周りと違うことで自分がどうして煩わしい思いをし続けなきゃいけないのか。心ないことを言う人も中にはいるし、自分のロールモデル、未来像が思い描けなかった」


“マイノリティーは自分だけじゃない”

思い悩んでいたある日、友人から「自身の体験を発信する」ことを勧められました。実は星野さんには、まだ日本語が話せなかった幼稚園のころに、絵を通して周りの子どもたちとコミュケーションをとり、友だちができた経験がありました、いまも星野さんにとって絵は、『自分の内面をもっとも繊細に表現できる手段』だといいます。星野さんは、心の奥にしまい込んできた過去を見つめなおし、少しずつ漫画にしていきました。

漫画を執筆する星野さん


得意な漫画で表現することを始めた星野さんですが、それをツイッターに投稿してみたところ、思わぬ反響がありました。同じように外国にルーツを持つ人たちだけでなく、障害のある人や、いじめにあった人など、さまざまな立場の人が星野さんに自分の姿を重ね、共感を寄せてくれたのです。

こうして読者と交流を続ける中で、気付かされたことがあるといいます。

星野さん
「自分は見た目が違うからこそ、最初からマイノリティーだとすぐわかる。でも実際には見た目にはわからない病気を抱えている人もいるし、職業がすごく珍しかったり、どこかに障害があったり。細かく見ていくとみんなどこかしらでマイノリティーなんですよね」


星野さんは次第に「自分は周りになじめていないんじゃないか」―。そんな不安を抱える人たちが前向きになれるような言葉を、漫画に込めるようになりました。

2018年の作品「導く光」では、攻撃されて闇に落ちたような気持ちになっても『必ず道しるべが見つかる』と伝えています。

「導く光」:2018年




若者に伝えたい “ありのままの君で”

そんな星野さんのメッセージを聞きたいと、毎月のように各地の高校や大学などから講演依頼が寄せられています。この日は、熊本市の大学で体験を語り、「不安な時代の中でも、個性を大切に生きてほしい」と伝えると、学生からも積極的な質問が集まっていました。

講演会の星野さん(去年10月)


会場の大学生からの質問に答えた


大学生
「私はそろそろ就活を始めます。もし自分が社会とのズレを感じたとき、どのように乗り越えていけば良いのでしょうか」

星野さん
「ズレの部分って個性でもあるし自分だけの味だったりもします。僕はみんなと見た目も違うし、経験してきたことも違うので、そのズレを生かせる仕事を選びました


さまざまな葛藤を乗り越えてきた星野さんがいま、若い世代に伝えたいことは―。

星野さん
「“ありのままの君でいいんだよ”ということ。君が君自身の良さに気づく日が絶対に来るから、自分の未来を信じてほしいということ。君はひとりじゃないんだよということとか、愛情と自信をつけてあげることはすごく大事にしています」


違いを楽しめる社会に

町を歩き、地域の人と触れあうことで漫画のアイデアが湧いてくるという


新型コロナウイルスの感染拡大や人種差別をめぐる問題で、世界中で“分断”が強調されたこの1年。星野さんは、これからは人々が互いの“違い”を楽しめるような社会になってほしいと考えています。

星野さん
「人間って本当は“違い”って好きなはずなんですよ。人間って、新しい情報に触れるのが好きなはずなんですよ。それが何かの掛け違いで“違い”が悪いようにフォーカスされることも多いけど、本来は楽しめたり、そこから学べるたりできるので、そういう発想がもっと広がればいいですよね。」


最後に「2021年はどんな年にしたい?」というテーマで、昨年末に描いていただいた作品をご紹介します。価値観を異にする人同士に“同じテーブルについて話し合おう”と呼びかけています。皆さんはどう読まれましたか?

「令和3人寄れば文殊の知恵」



取材を終えて
去年は私が携わる報道番組でも、「分断」「対立」という表現が嫌になるほど繰り返されました。そうした中で、人々の“違い”を厄介もの扱いするのではなく、むしろ積極的に面白がることで、アイデアや文化を創り出す力に変えていこうという星野さんのメッセージが、わたしの心に響きました。分断の端と端で遠くから罵り合うのではなく、対話しようと呼びかける姿勢が、今こそ大切だと感じます。

『国際報道2021』と『おはよう日本』でのインタビュー放送後、星野さんのSNSには「メッセージに勇気づけられた」という感想が多く寄せられたそうです。中でも多かったのが、30、40代の子育て世代。「子どもたちに多様性の大切さを伝えるため、この漫画を参考にしたい」という声もあったそうです。

日本社会はこれからますます多様化が進んでいき、同時に望まない軋轢も増えていくかもしれません。国籍や肌の色、性別などに関わらず、誰もが心地よく暮らしていける社会にするために、私たちは日々、どんなことができるでしょうか? 星野さんの漫画をきっかけに、みなさんと一緒に考えられたら幸いです。
(NHK 報道局「国際報道2021」 ディレクター 重田 竣平)


星野さんのように、人と違って悩んだ経験や、それを乗り越えた経験などがありましたら、ぜひこのページの下(動画の下)の「コメントする」から お寄せください。
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【星野ルネさんへのインタビュー動画はこちら】
2021年2月8日

「集まってしまって、ごめんなさい」

2月最初の週、東京で数千人規模のデモが相次いで開かれました。主催したのは日本に住むミャンマー人たち。母国で軍がクーデターを起こし全権を掌握したことに抗議するためです。デモは日本各地に広がり今後も予定されています。

取材を進めるなかで、参加者の若者たちから託されたのが冒頭の言葉です。
「日本の皆さん、こんなときに集まって、ごめんなさい。私たちがいまやらないと、私たちの明日がなくなるんです」。

(“インクルーシブな社会”準備室 ディレクター 髙田 彩子)

緊急事態宣言下に相次いだデモ

2月1日の朝、ミャンマーでアウン・サン・スー・チー国家顧問が拘束されたニュースが在日ミャンマー人の間を駆け巡りました。その日、東京の国連大学前には1000人もの在日ミャンマー人が集まり「スー・チーさんを解放して」「国際社会は軍事政権を認めないで」と訴えました。

2月3日には外務省の前におよそ3000人。さらに2月7日には在日ミャンマー大使館前に5000人が集まりました。日本に住むミャンマー人は昨年6月段階で3万3000人あまり、そのうち約1万7000人が関東地方に住んでいますが、単純計算でその3分の1に近い人を動かすうねりが生まれています。

緊急事態宣言下の東京で、あえて集まる決断をした在日ミャンマー人たち。取材を進める中で私は、その強い覚悟と背景を知ることになりました。

2月3日 外務省前に3000人が集まり日本政府に協力を求めた(撮影:チョウ・チョウ・ソーさん)


カメラの前で謝った女性

2月4日、デモを呼びかけた団体のひとつ、在日ミャンマー人の労働組合(在日ビルマ市民労働組合)などが、抗議の趣旨を説明するために開いた記者会見。会場前方に在日ミャンマー人コミュニティのリーダーたちが座り、それと向き合う席に日本のメディアが10社ほど。その後方で20人以上の在日ミャンマー人が成り行きを見守っていました。

在日ビルマ市民労働組合は、1980~90年代に来日したミャンマー人らが作った組合です。在日ミャンマー人の間に不安と悲しみが広がるなか、コミュニティの中の情報整理を行い、デモが平和に行えるように会見や、警察とのやりとりなど実務的なことを引き受けました。

軍事クーデターへの抗議声明が読み上げられたあと、多くの時間が質疑応答にあてられました。

記者会見は、日本の労働組合JAMのサポートのもと開かれた


会見の途中で、鮮やかな民族衣装を着た女性が手を挙げました。看護師のレー・レー・ルィンさん。来日8年目で、来年にはミャンマーに一時帰国して、日本で学んだ医療や看護技術を伝える予定だったといいます。

クーデターによって、日本とミャンマーの人材の行き来やビジネスは先が見えない状況になっています。

レーさん
「日本に来ている若者は、みんな夢を持ってきました。でも、このままではミャンマーは鎖国になって、未来も何もない国になります」


レーさんは、医療が行き渡らない農村の出身で、治療が間に合わずに弟を亡くした経験があります。医者を目指したものの、軍関係者の子息の教育が優先される教育システムのなか夢は叶わず、日本に留学して看護大学を卒業してようやく、医療に携わる道を拓いたのだといいます。
キャリアにまい進するために、来日後も政治的なことには関わらずに暮らしてきました。しかし、クーデターで家族と連絡すら取れなくなる中、自分が動いて民主政権を取り戻そうと決意しました。

マイクを握りしめて語ったレーさん。最後に、「もうひとつ」と息をつぎました。

レーさん
「多くの人が集まってデモ活動を行ったことについてですが、コロナの中でこうしたことをやるのは本当にありえない、看護師としても本当にありえないと思います。日本の皆さんにも本当に申し訳ない気持ちです。申し訳ありません。本当にごめんなさい」。

声をつまらせながらレーさんは、深くおじぎをしました。

会見で発言し、日本社会に対して謝罪した看護師のレーさん


「日本のように平等な社会がほしい」

会見が終わって多くの人が会場をあとにする中、何か伝えたそうな様子でたたずんでいる2人の女性がいました。

大学で観光ビジネスを学ぶタン・タン・ニュンさん(29・来日6年目)と、旅行会社で働くエー・トェー・トェー・ミョンさん(32・来日5年目)です。エー・トェーさんが「取材を受けてもいいですよ」という視線を送ってくれたように感じました。タンさんのほうは、会話の中のここぞというときに追加情報を差し込んでくれる、仲の良さそうなコンビです。

在日ミャンマー人社会の“いま”を象徴する、若い世代に話が聞きたかった私は、2人に話しかけることにしました。

私は2012年から2015年にかけて、ミャンマー民主化の過程を取材した経験があります。「スー・チーさんが通る」というだけで遠くの丘まで埋め尽くす支持者たち、民主化の流れに乗って移住した日本人ビジネスマン、祖国に貢献しようと帰国した民主活動運動家らに、日本や現地で幾度となく、話を聞きました。

日本からミャンマーの民主化を実現しようとする運動は、「88世代」と呼ばれる人たちが担ってきました。1988年のミャンマーでの大規模な民主化要求に関わったり、影響を受けたりした人たちです。1988年の運動はミャンマー全土に広がったものの軍に鎮圧され、多くの人がミャンマー国外に亡命し、日本にもたどり着いたのです。

一方、1988年以降に生まれた世代は軍事政権下で教育を受け、2011年の民主化の始まりまでは、民主主義を知らずに育っています。


エー・トェーさん(左)とタンさん(右)


1988年生まれのエー・トェーさんは、ヤンゴン近郊の貧しい家に育ちました。家族は民主化を待ちわびスー・チー氏を支持していましたが、政治のことを家の外で話すと逮捕されるかもしれない、という恐れを心の中に抱えながら育ちました。

タンさんは1992年生まれ。両親は軍人で、ミャンマーの民主化の歴史やスー・チー氏のことは全く知らされずに育ちました。高校に入ってからスー・チー氏の存在を知ったものの、犯罪者と同列に考えていたといいます。

2人とも、ミャンマーでは十分な教育を受けることができなかったことで来日を決意、10歳近く年下の日本人学生に混ざって勉強をしてきました。


エー・トェーさん
「私たちの世代は、教育レベルが低くて、インターネットもパソコンもなく育っていて、頑張ってようやくここまで来ました。ミャンマーではどういう家に生まれるかですべてが決まります。運命だと言われてしまいます。日本のように、平等な社会がほしいです」


タンさん
「年を取ってから日本の大学に入学しました。日本の子供はいいな、19歳で入学して本当にうらやましいと思います。なぜ私はそういう時代や国に生まれなかったんだろう」

私と話しながらタンさんは嗚咽していました。いま留学や就職などで日本にいる20代から30代のミャンマー人の多くは、日本に来て初めてミャンマーの「経済や社会の遅れ」を実感し、ミャンマーの発展のために努力を積み重ねているといいます。クーデターによって、時代が逆戻りすることに心底から抵抗を覚えているのです。声を詰まらせるタンさんを補うように、エー・トェーさんが語気を荒げました。


エー・トェーさん
「世界の中でも時代遅れで、教育も何もできないのに、2021年でもう戦争の時代じゃないのに、なんでこんなことをやっているのか!国のメンバーとして、国民として本当に、ありえない!」



日本にいるからこそ 声を上げる

エー・トェーさんとタンさんにとって、自分の意見をメディアに向かって伝えることは、簡単なことではありません。2人が義務教育を受けた時代のミャンマーの学校では暗記が重視され、疑問や自分の考えを口にすると「感想はいらない」と叱られたといいます。

エー・トェーさん
「いまだに、こう言ったら相手はどう思うだろう、と考えてしまう癖がついていて、なかなか返事ができないことがあります」



大学1年生時のエー・トェーさん(真ん中)ずっと自分の意見を言えなかった


声を上げることに慣れておらず、しかも故郷の家族にも危険が及ぶかもしれないのに、民主化運動に参加し、私のようなメディアの人間に話をすることに、2人には、迷いはなかったのでしょうか。

タンさん
「迷いはないです。私がこんな場にいると知ったら、親は嫌がるでしょう。軍人の父はクーデターで喜んでいましたから。言葉にならないくらい苦しいですが、ひとりの人として、参加しています。何もできない状況にいるミャンマーの友達のために、私が代わりに頑張らないと」


エー・トェーさんは、クーデター後、外に出るたびに、気を張り詰めるようになったといいます。ミャンマーのことで取材を受けたら答えられるように、毎日、日本語・英語の両方で考えを整理して出かけるのだそうです。

エー・トェーさん
「私たちは言葉ができるので、説明する責任があります。いま世界はネットでつながっています。海外から閉ざされた軍政下で起きた1988年の弾圧のときのようには負けません。血を流すのではなく、SNSやメディアを使って海外に自分たちの声を伝えて、国に残っている人たちに、一緒に頑張りましょうと言いたいです」


”1988年のようにはならない” の意味

先に話したように、ミャンマーでは、1988年に起きた大規模な民主化運動が軍によって弾圧され、学生を含む多くの人が命を落としています。エー・トェーさんの話を聞きながら、私は、これまで運動を担ってきた在日ミャンマー人の「88世代」とのやりとりを思い出しました。

在日ビルマ市民労働組合書記長のミン・スエさん。デモ現場では参加者の誘導や、警察やメディアの窓口など裏方として活躍

筆者
「クーデターに反対する動きが過激になると、1988年のようにミャンマー国内で犠牲者が出ることにならないか心配です。平和に運動をしていくために、どういうメッセージを発信していますか?」


ティン・ティン・ウーさん(在日ビルマ市民労働組合)
「今はネット社会で、ミャンマーの若者たちにも、民主化活動をしてきた私たちの考えや、スー・チーさんのことが伝わるようになりました。昔みたいに血を流すことは、やりたくない。犠牲になってほしくない。ネットや若い力で世界からの支持を集めたいです」


ミン・スエさん(在日ビルマ市民労働組合 書記長)
「海外からミャンマーの政治を直接変えることは難しいですが、日本からミャンマーの人たちの心に力を与えようとしています。気持ちを伝えることがすごく大事です」


軍事政権に反対することの重大さを身に染みて知っている「88世代」は、世界各地で連携し、不服従で運動を広げようとしています。ミャンマー国内では抗議デモがいつ鎮圧されるかわからない緊張感がありますが、日本では集会と言論の自由があり、ルールを守っていればメッセージを伝えることができます。

2014年のタイの軍事クーデターへの抗議運動や香港の「雨傘運動」で広がった、無言で指を3本立てるサインを、日本のデモでも国軍への抵抗の表明として積極的に使っています。


無言で3本指を掲げるデモ参加者たち (2月7日 東京・在日ミャンマー大使館付近)



やらないと私たちの明日がなくなる

緊急事態宣言下の東京で行われたデモでは、3つのルールが徹底されていました。熱があったり調子が悪かったりしたらデモに参加しないこと、常時マスクを付けること、デモ会場入り口でアルコール消毒を受けることの3つです。2月7日にミャンマー大使館前で開かれたデモでは、10人ほどが消毒係として会場入り口で待ち受けていました。

来場者全員に手指の消毒を義務づけていた


日本語で「日本人の皆様へ、デモ活動を行って本当に申し訳ないと思っています」など、という紙を掲げている人達も散見されました。



ネット上では、デモのニュースに対して非難のコメントが多数寄せられています。

「今のデモは、コロナ感染を拡大させる無謀で迷惑なやり方です」
「東京都内は緊急事態宣言下です。はっきり言って迷惑です」
「国に帰ってやって」


日本語が堪能なミャンマー人の間では、こうした不安や批判のコメントに対して返信を書く動きも始まっています。ミャンマーの状況を説明する人、自分はデモには参加しない、と書いている人もいます。日本社会の理解を得るために自然発生的に生まれたアクションです。

在日ミャンマー人がネット上で返信したコメントの一部(左下、右)


記者会見で出会った2人の女性、エー・トェーさんとタンさんは、今回反発を覚悟でデモに参加した理由について、言葉を選びながら次のように話しました。


エー・トェーさん
「実は、会社でも恥ずかしいです。世界がコロナと闘っている時期に軍がクーデターをやったのが悔しいです。コロナで皆が困っているにもかかわらず、集まって抗議している自分たちが悔しいです。でも、私たちの命、みんなの命、1人1人の命は、コロナとも戦わないといけないけれど、軍政とも戦わないといけないのです」


タンさん
「いま抗議をしないと私たちの明日がなくなります。日本の皆さんに対して本当に申し訳ない気持ちですが、どうか理解してほしいです」



わたしたちにできる“支援”と“翻訳”

もし、エー・トェーさんやタンさんのような人達を応援したいと思ったら、私たちには何ができるのでしょうか。

一つは、小さなことでも関わって手助けをすること。思い出したのは、2人と出会ったあの記者会見のことです。会見はリモート中継も行われ、日本語、ミャンマー語で配布物が配られましたが、手伝ったのは日本の労働組合のJAM(ものづくり産業労働組合)でした。メディアとの連絡や配布プリント用の翻訳など、日本人に発信するために必要なものを、一緒に整えたそうです。JAMの椎木盛夫副書記長は、「在日外国人の生きる環境をよくすることは、私たちの生活環境をよくすることなんですよ」と話しました。

もう一つは、私たち自身が知ろうとすることです。60年近くにわたり在日ミャンマー人と付き合い「お父さん」と頼りにされてきた田辺寿夫さんは、とにかく耳を傾けてください、と言います。

田辺寿夫さん(ビルマ研究者、ジャーナリスト)
「ミャンマー人がなぜ行動しているのか、彼らの話をきちんと聞き、向こうの背景をきちんと知ることが大切です。日本人の中には、“途上国のためにやってあげている”、“日本がいいことをしてあげている”、という態度が時々見られます。対等に付き合い、お互いに助け合える関係を築くことで、言葉ができなくても、彼らの”翻訳者”にもなれます」。


話を聞かせてくれたミャンマー人の誰も、デモをせざるを得ない今の状況を望んではいませんでした。待ちわびてきた民主主義が奪われるかもしれない今、個々人にできる数少ないことを、やっているだけなのです。

まず知ってみよう、という方のために、この記事が情報になればと思います。

取材後記
ついこないだまで「民主化で経済発展する国」だったミャンマーが、「軍事クーデターで混とんとした国」になってしまっています。

絶望する時間もなく動き出した在日ミャンマー人たちを見て、ただでさえ苦労の多い在日外国人が行動することの重みを感じました。自分も、よりよい社会のために、必要なときに声を上げていきたいと感じています。
(“インクルーシブな社会”準備室 ディレクター 髙田 彩子)

【写真で見るデモの1日】

2月7日のミャンマー大使館前でのデモは10-13時に開かれた。主催者の一人は5時半に現地入りし、混乱が起きないように区割りや人の入れ替え、警察への説明などを準備したという



デモ会場に一度に入りきらず、警察の誘導で線路沿いにも並んで順番を待つ参加者たち




12時50分頃。13時の終了を前に、すでにほとんどの参加者は撤収。担当メンバーがゴミ拾いを行う




千葉から東京のデモに駆けつけた男性が、デモ終了後にミャンマーのデモのようすをフェイスブックライブで見ている。ミャンマー国内のインターネット回線は断続的に切断されており、海外SIMカードなどを経由して送られてくる。




東京のミャンマー大使館前からミャンマーの知人らに向けてフェイスブック・ライブを行っていた男性。動画は3時間で1300シェアされた。




エー・トェーさんと夫。NLDとスー・チー氏への支持を示すために赤い服を着てデモに参加した。


【あわせて読む】
・わたしたちが「黙って歩いた」意味 (ミャンマー人によるサイレント・デモ)
・”アフリカ少年”だった漫画家が「“違い”を楽しもう」と呼びかける意味―星野ルネさん―
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制『表現の自由』どう考える
・いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”
・マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
・在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント 
・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声
#Beyond Gender
2021年1月15日

Vol.7 脱コルセット “女らしさ”という束縛から脱却する女性たち

いま “脱コルセット”が若い女性たちの間に広がっています。 コルセットは体を締めつける道具のことですが、“脱コルセット” という言葉は、化粧や髪型など『女性はこうあるべき』という固定概念や、それを押しつける社会に抵抗する意味で使われています。

大学生のArataさんは、かつて1時間かけていた化粧をやめ、髪を刈り上げています。きっかけは交際していた男性からの ある“ひと言” でした。去年”脱コル”した20歳のヒナさんの動機は、日頃から無意識な発言をする父親への反発でした。社会でつくり出されたイメージから脱却しようとする動きが高まるなか、”コルセット” を押しつけるような広告をやめた企業もあります。
“脱コル” の背景に何があるのか、取材しました。

(制作局 第2制作ユニット ディレクター 篠塚 茉莉花)

若い女性たちに静かに広がる“脱コル”
「脱コルセット」または「脱コル」が最近SNSを中心に若い女性たちの間で静かに広まっています。コルセットとは体を締め付ける道具。この場合、女性を束縛するものの象徴として使われ、SNSで「脱コル」と検索すると「化粧をやめた」「脱毛をやめた」「“女性らしい”髪型をやめた」といった投稿が出てきます。

NHKが専用ソフトで調べたところ、「脱コル」という言葉での投稿数はことし(2020年)夏から急激に増えていて、今も毎日のように投稿されています。


(NHKが専用ソフトで調べた「脱コル」投稿数の推移)

脱コルを実践する大学生 Arataさんの思い
大学生のArataさん(24)は脱コルを実践する女性の1人。ことしの春、脱コルに踏み出しました。左の写真は脱コルを知る前、右は脱コルを実践している今の姿です。


(脱コル前と現在のArataさん)

Arataさんは脱コルでいろいろなことをやめたと言います。例えば、それまで足が痛くても無理して履いていたヒールの高い靴。化粧道具も今はクローゼットの奥にしまわれています。


(クローゼットの奥にしまわれた化粧道具)

以前は念入りに化粧をし、常に人にどう見られるかを意識していました。

Arataさん
「リップガッツリ…。ヘアセットが結構時間かかってて、多分1時間くらいはかかっていましたね。」


(髪を刈り上げるArataさん)

今、髪は自分で刈り上げています。脱コルは実践者によってさまざまな捉え方がありますが、Arataさんにとっての脱コルは、女性だからやるべきと思っていた、自分を束縛することからの脱却です。

Arataさん
「私自身の脱コルは、社会的な女性らしさからの脱却です。しんどくなくて、無理をしてなくて、何かのために自分を変えていない状態かなって思います。」

きっかけは、髪を短くした時に交際していた男性から言われた言葉。女性を自分の付属品のように捉えていると感じました。

Arataさん
「『俺に恥をかかせたいのか』っていうふうに言われて、どういうことって思って。(彼は)もともと私の女らしいイメージがあって、それが崩れたから怒り始めて、私らしくあることじゃなく、女らしくあることを求められているのかもしれないって思い始めて。(だから私は)人からの評価を気にしない。自分は自分で自分らしく生きていく。」

7月、Arataさんは、毛の処理をやめた自分の腕の写真をSNSに投稿。すると「5,400いいね」と、多くの共感を集めました。しかし「女性には毛が生えない」というイメージを主張する人もいて、大きな溝を感じたと言います。


(ArataさんがSNSに投稿した自分の腕の写真)

Arataさん
「まさにこれです。『女もどき』。生えてたら女じゃないっていう。みんなの描くイメージの中の女性って、毛が絶対生えてなくて…これは私おかしいと思ってて、生えてても女ですよ、変わらないですよって。」

脱コル実践者が相次ぐ背景は?
脱コルは、美の規範が厳しい韓国や日本で実践する女性が相次いでいます。その背景には何があるのでしょうか。フェミニズム理論の専門家で、女性性の規範について研究している東京大学大学院の清水晶子教授は、社会に蔓延する「女性はこうあるべき」という固定観念への「違和感」がSNSで広まっていると指摘します。


(フェミニズム理論の研究者 東京大学大学院 清水晶子教授)

東京大学大学院 清水晶子教授
「女性に常にまず何よりも美しさっていうものを求める限りは、私たちの社会が女性に、まず賞品(男性の付属品)であることっていうのを求めています。その『男性に価値を与えるようなプライズ(賞品)になりなさい』という要請を拒絶することは、家父長制に対して抵抗するということでもあります。」

脱コルは「女らしさ」を押しつけてくる父親への抵抗
この夏から脱コルを始めたヒナさん(仮名・20歳)は、社会が女性に求めるイメージは、「家庭」で押しつけられると話します。脱コルの動機は、父親への反発。日頃から、女性を従属的に見る父が嫌でたまりませんでした。


(夏から脱コルを始めたヒナさん (仮名))

例えば父親は、テレビで企業で働く女性のインタビューを見ると「女なんて能力もないくせに管理職になるのはおかしい」といった発言をすると言います。

ヒナさん
「父は、結婚して出産して子育てをするのが、女性の役割であるっていうのを信じてやまないので、私はそれが受け入れられないなって思って。」

父が無意識に発する言葉に苦しめられているヒナさん。就職活動を控え、社会からも「女らしさ」を押しつけられるのではと不安を募らせています。

社会が要求する「女らしさ」に従わないと…
脱コルについて注意しなければならないことは、脱コルは女らしさをやめて男らしくしようとしているわけでは決してない、ということです。Arataさんもヒナさんも社会や周囲の人から押しつけられる「女らしさ」から脱却するために脱コルしている今の状態が、上のような姿なのです。また、脱コルは女性たちの話なのですが、イメージの押しつけについては、男性も苦しめられているという声があります。例えば、「体毛がないと男らしくない」とか「筋肉がないのは頼りない」といった固定観念です。

ただ、フェミニズム理論の研究者である東京大学の清水晶子教授によると、「女性の場合は、社会のイメージに従わないとこうむる不利益が大きい。職場などで『礼儀に欠ける』『協調性がない』『分をわきまえない』というマイナス評価を受ける」と話していました。

そうした「社会のイメージ」は広告などのメディアから押しつけられているという指摘もあります。ネットの広告で、脱毛しないと「汚らしい」とか、肥満体型だと「女として見られない」といったセリフがあります。


(“コンプレックス広告”)

人のコンプレックスを過剰にあおる広告は「コンプレックス広告」と言われ、女性たちを苦しめています。

「コンプレックス広告」がつらい

(コンプレックス広告に悩む大学生のアキさん)

「コンプレックス広告」を見る度に「つらくなる」という大学生のアキさん。元々、中学時代から体毛について悩んできました。脇の処理をしないといじめられるのではと、恐怖さえ抱いていたと言います。脱毛サロンに行きたいと母に泣いて頼みこみ、高校に入ってから脇の医療脱毛を受けたこともありました。

しかし今年の夏、アキさんも脱コルを始めました。SNSでArataさんの腕の毛についての投稿を見て、固定概念が崩れたことがきっかけでした。それでも、脱毛の広告を目にするたびに、やはり処理をしなくてはいけないのではないかと、不安でたまらなくなると言います。

アキさん
「目に入る広告、脱毛しなきゃみたいな、体毛を恥ずかしいよっていう…なんでここまで厳しく女だからって、こんな広告ばっかり目にしなきゃいけないんだって。しんどいですね。」

コンプレックス広告をなくしたい Arataさんの活動
脱コルを実践中のArataさんは、インターネットでコンプレックス広告に抗議する署名活動に取り組んでいます。同様の署名活動をする全国の仲間と協力して、広告主の企業やネット企業本社などへの働きかけを行っています。


(仲間の署名サイト)

Arataさん
「これから多分企業の反応も少しずつ増えるんじゃないかな。」

企業が変わる コルセットを押しつけない広告を
「女性はこうあるべき」というイメージを押しつける広告が問われ始める中、渋谷の街にこの夏、斬新なポスターが出現しました。キャッチコピーは、「ムダかどうかは自分で決める」。この広告を出したのは老舗の刃物メーカ-。使い捨てカミソリのシェアは国内トップです。


(刃物メーカーの広告)

自社の商品を一見否定するようにも見える広告を企画した齊藤淳一さんは、企業のブランドイメージを上げ、若者にささるメッセージは何か探ろうと、雑誌で20代のアーティストの対談を企画しました。


(ラッパー あっこゴリラ)

対談の中で、脇の毛を生やした姿を見せるラッパー、あっこゴリラさんが口にした言葉「人はそれぞれ違う もっと選択肢を」が、広告のヒントになりました。


(刃物メーカー広報宣伝部 齊藤淳一さん)

刃物メーカー広報宣伝部 齊藤淳一さん
「体毛に対する社会の圧力とか見えないプレッシャーみたいなものは、若者を中心にすごく感じています。」

そこでことし6月、「ムダかどうかは自分で決める」というキャッチコピーの新しい広告案をプレゼン。意外にも反対はありませんでした。


(齊藤さんの上司 上保大輔さん)

齊藤さんの上司 上保大輔さん
「最初に聞いた時はさすがにカミソリメーカーなのでちょっと戸惑いもあったんですけど、メッセージを出すのもメーカーの責任だと思いました。」

そして、コンプレックス広告に反対するArataさんと仲間たちの署名活動の盛り上がりを受けて、この夏の公開に踏み切りました。

刃物メーカー広報宣伝部 齊藤淳一さん
「『私って周りの視線を気にしてこういうことをしていたのかもしれない』という気づきとか議論とか起きたらうれしいなって感じています。」


取材して…
脱コルについてはいろいろな考え方・立場があり、取り組み方も本当に人それぞれでした。ですが、脱コルは多くの人にとって、今の状態が社会から押しつけられた「女らしさ」のイメージによるものではないかを問い直す、あるいは他人にイメージを押しつけていないか振り返るきっかけになっているように感じました。Arataさんの発信でアキさんが脱コルを始めたように、そうした大きな変化につながるのではないかと感じました。また、女性や男性は「こうあるべき」という固定観念は、雑誌やテレビなど「メディア」そのものも責任が大きいと痛感しました。無自覚にそうした表現を行っていないか―私自身、メディアの責任を意識して放送を出していきたいと思います。

“脱コルセット” や “コンプレックス広告”について、あなたはどう思いますか?
記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
2020年12月25日

”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【後編】『表現の自由』どう考える

全国で初めて、罰則付きのヘイトスピーチ規制の条例ができた川崎市。前回の記事では、新たに出てきた規制への反発について掘り下げました。 今回の取材を通じて、条例が抱えるもう一つの課題として見えてきたのが、ネット上の書き込みへの対応です。
(10/30放送「首都圏情報ネタドリ」から)
(NHK首都圏局 ディレクター 安 世陽)

もう1つの課題 ネット上の差別的な書き込み

ことし7月に川崎市で全面施行された、ヘイトスピーチを規制する条例。公共の場所での民族差別的な言動に対し、全国で初めて刑事罰を科すことが盛り込まれています。 条例は、ネット上の書き込みについても規定しています。罰則の対象ではないものの、既に取り組みが始まっているほかの自治体と同様、民族差別的な書き込みについて、市がプロバイダなどに削除要請を行うとしています。

実際に川崎市は条例の施行後、ツイッターやネット掲示板などに書き込まれた「早く祖国へ帰れ」など、56件の書き込みを「差別的言動」だと判断。閲覧できるものについては、削除要請を行いました。(2020年12月21日現在)




“差別的言動” 認定されたのはごくわずか

川崎市の条例制定を求めてきた崔江以子さんは、2016年に国会で意見陳述したことを契機に、ネットやSNS上で自身を攻撃する書き込みを受けるようになりました。 崔さんは条例の成立を受け、弁護士とともに自身を攻撃する書き込み300件以上を市に報告しました。


市に報告した ネットへの書き込みのリスト


しかし結論が出たのは、報告から3か月以上が経ってのこと。
しかも、ほとんどは「対象ではない」と結論づけられたのです。



師岡 康子 弁護士
「(300件以上について、そのほとんどを)認定しないというのは、ヘイトスピーチとは何かという理解のところに誤解があると思います。被害者救済という観点から、もう一度検討しなおしてほしい」




崔 江以子さん
「生活のなかに被害が及んでくるのではないかという恐怖が日々続いています。差別の根絶に向けて、あの条例の力が発揮されていくことを期待しています」


“表現の自由に配慮” 慎重な川崎市

川崎市はどのように判断を行っているのか。条例を管轄する部署の担当課長が取材に応じました。
川崎市 人権・男女共同参画室 大西 哲史 担当課長


市ではまず、担当の部署がネット上の膨大な書き込みについて調査。条例に抵触する可能性があると判断したものを、専門家からなる審査会に回しています。審査は必要に応じて複数回行われます。

前後の文脈も重視し、前後にどういった書き込みがあるのか、特定の個人を狙った書き込みなのかどうかなどを判断しています。

削除要請を行うかどうかを判断するまでの審査の流れ


担当課長の大西さんによると、憲法で保障されている「表現の自由」に配慮するため、判断に慎重を期していると言います。

川崎市 大西 哲史 担当課長
「色々と差別的なことが書いてあったとしても、表現の自由を過度に制限しないように、非常に慎重に丁寧にやっていく必要があると考えています」


しかし市で削除要請をしたとしても、全てがネット上から削除されるわけではありません。SNSや掲示板などの運営者の判断に任せられているからです。実際、川崎市が削除要請をした47件の書きこみのうち4分の1以上にあたる14件は現在も削除されずに残っています。(2020年12月25日現在)

崔さんのように、現に被害に遭っている人はどうすればいいのか。質問を重ね続けると、担当課長は「表現の自由に対して踏み込んで施策を講じるうえでは、本当に慎重でなければならない」としつつも、悩む様子を見せながらこう答えました。



川崎市 大西 哲史 担当課長
「(当事者からの)期待は大きいとは思いますよ。うーん、でもね…」 「そもそもヘイトスピーチとは何か、差別とは何か、自分の心にそういったものがないか、そういったものから見直していきませんかとか、そういう啓発の仕方。人間性に訴えるではないけど、そういったことも、やっていかなければいけないのではないかと思っています」


“規制は表現の自由の「例外」” 専門家の意見

表現の自由とヘイトスピーチ規制。この2つを両立することは出来ないのか。ヘイトスピーチ問題に詳しい、法政大学特任研究員の明戸隆浩さんに意見を伺いました。すると、返ってきたのは意外なことばでした。

法政大学 特任研究員 明戸隆浩さん(2019年撮影)


明戸 隆浩さん
「二項対立で捉えられがちですが、“ヘイトスピーチ”規制は“表現の自由”を侵すものではありません。表現の自由にも“例外”がある、ということなんです」

表現の自由の“例外”? どういうことなのか、さらに詳しく聞いてみました。

明戸 隆浩さん
「無視できない被害の現実がある場合には、表現の自由にも“例外”を設定すべきだということです。もちろん、表現の自由を軽視するわけではありません」

明戸さんは続けて、ネット上の書き込みへの対応について、自身の見解を示しました。

明戸 隆浩さん
「ネット上の書き込みは数が多く、そして一日の間にあっという間に広まってしまいます。広がる前に止めることを考える必要があります。いまドイツでは通報から48時間以内、フランスでは24時間以内に対応をしなければいけなくなっています」

現状では、ネット上の被害の広がりを止める仕組みが不足しているといいます。では、ヘイトスピーチを根絶するためには何が必要なのか。明戸さんは、川﨑市での条例反対の動きを見ても、やはり少しでも規制する動きをつくっていくことが大事だと話します。

明戸 隆浩さん
「根絶できれば理想なのですが、残念ながら先行して法律をつくっているヨーロッパをみても、法律をつくったらなくなるというわけではないです。だからむしろ、法律をつくって少しずつ抑え込んでいく。今回条例をつくった川崎市だけでは、効果は限られます。隣の相模原市ではいま、川崎市にならって条例をつくろうという動きがあるのですが、そういう流れをもっとつくっていかないといけないです」


街宣で出会った女の子は何を思うのか

これまでの取材を思い返し、私にはもう一度話を聞きたい人がいました。それは、川崎駅前の街宣現場で出会った11歳のソラさんでした。当事者たちはヘイトスピーチ規制のこれからについて何を思うのか。ソラさんとその父親に取材をお願いし、再び会うことになりました。

ソラさんと父親


ソラさんの父親は、条例だけでなく、ヘイトに繋がりかねない心の持ちようにも目を向けてほしいと訴えました。そう語るのは、娘のソラさんがある体験をしたからだといいます。

ソラさんが近所の公園にいると、同い年ほどの男の子から一緒にブランコをしようと誘われました。その後、ソラさんの兄が合流し、普段のように韓国語で兄と話していると、男の子から心無い言葉を言われました。

「(韓国人とは)遊ぶなって(親から)言われたから、遊べない」

そうした言葉を直接的に言われたのは、ソラさんにとって初めての出来事でした。



ソラさん
「そっちは朝鮮人、こっちは日本人。だから遊べないとか、話せないとか、関わっちゃいけないとか言われたりしたら、なんかイヤです」

差別的なことを無くすには、条例による規制だけでは容易ではない。そう感じざるを得ませんでした。

自分たちも同じ日本社会に暮らす一市民であり、普通に暮らしていきたいというソラさんの父親。子どもたちのためにも、在日コリアンという出自を理由とした、攻撃的な言葉が使われることのない世の中になってほしいと言います。



ソラさんの父親
「こういう差別的なことに対して、もっと国を挙げてやってほしいなという気持ちはあります」 「やはり卑屈な思いで生きてほしくないですよね、子どもたちが。そういう社会になってほしいですよね」



取材後記
どうすればヘイトスピーチによる差別はなくなるのか。私も在日コリアンとして日本で育ったなかで感じてきたこの疑問に、今回、初めて向き合うことになりました。 取材では様々な立場の方々に話を伺いましたが、たとえどんな理由であれ、人種や民族といった“出自”から、政治的問題とは直接関係のない人たちを差別的な言動で傷つけることは、許されるべきではありません。やはり一定の規制は必要だと感じました。

川崎市の条例による規制には課題が残されていますが、取材で出会ったソラさんが体験した出来事のように、規制だけでは差別的な言動は解消されません。

相手に対して、国籍や民族に基づいたレッテルを安易に貼るのではなく、同じ社会で暮らす一員としてどう向き合うべきか一人一人がいま一度考え、そのうえで、社会でヘイトスピーチがどう規制されるべきか、活発に議論をしていく必要があると感じました。
(NHK首都圏局 ディレクター 安 世陽)


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・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声
2020年12月25日

“全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【前編】差別あおる言葉なくすには

『同じ国に住んでいるのに、なぜ悪く言われなきゃいけないの…』 11歳の在日コリアンの女の子がもらした、胸が締め付けられるような言葉。女の子と出会ったのは、川崎市。ことし全国で初めて、「ヘイトスピーチ」に対する罰則付き条例が施行されたものの、条例への激しい批判や、施行後の運用の現状に、当事者たちの間には不安が残っています。
ヘイトスピーチをなくす道筋はどこにあるのか。川崎市、地元の在日コリアン、研究者、規制に反対する活動家らに取材を重ねました。(10/30放送「首都圏情報ネタドリ」から)
(NHK首都圏局 ディレクター 安 世陽)

“差別をなくそう” 川崎市が踏み込んだ、全国初の条例

ことし7月、川崎市で“全国初”の条例が施行されたことをご存じでしょうか?「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」。ヘイトスピーチの規制を目的とした条例で、とりわけ注目を集めたのが罰則の内容です。公共の場所で民族差別的な言動を、市の勧告や命令に従わずに3回繰り返した場合に罰金が科され、全国の自治体のなかで初めて、刑事罰に踏み込んだ条例となりました。

「川崎市の条例は、本当に差別をなくせるのだろうか…?」私は条例の今後に期待する一方で、不安も感じていました。差別的言動がそう簡単になくなるとは思えなかったからです。

「朝鮮人は出ていけ!」に、あふれた住民の涙

ヘイトスピーチの現状を取材しようと川崎のまちを訪ねました。 まず向かったのは、条例が成立した背景の1つとなった場所。JR川崎駅からバスで10分ほどの場所に位置する桜本地区です。在日コリアンが多く暮らすこの地域に、4年前、住民たちに向けた激しいデモが行われました。

2016年に激しいデモがあった現場(桜本地区)


桜本に暮らす在日コリアン3世の崔江以子さんが、その現場を案内してくれました。当時、およそ60人の集団が大声をあげながら桜本に向かい行進しました。自分たち在日コリアンの住民に向けた攻撃的なことばの数々に、絶句するしかなかったという崔さん。デモ参加者たちの表情がいまも忘れられないと話してくれました。



崔江以子さん
「地域の人で泣いている人もいて、私も怖いのと苦しいのと悔しいので声も出なくて。でもヘイトデモの参加者は笑っていました。差別で苦しんでいる人を見て笑っていました」
「ここを通ると思い出すからできれば通りたくないですが、ここは地元の信用金庫があって、通っている病院があって、お花屋さんがあって、私たちの生活のスペースなんです。日常の生活の場所に、あのデモが襲ってきたということです」

こうした差別をあおる言葉が日本社会で公然と叫ばれるようになったのは、10年ほど前でした。在日コリアンたちに向けた激しいデモが全国各地で繰り広げられ、多いときには毎週末おこなわれていた時期もありました。 しかし当時はまだ、ヘイトスピーチを規制する法律や条例はありませんでした。


待ち望んだ、条例成立

「どうしてこんなにひどいことをされているのに、助けてくれないんだろう」
デモで心に深い傷を負った崔さんは、仲間たちと共にヘイトスピーチに対する規制を求めて署名運動などを行います。 一方、国連から法律での規制を勧告されていたなか、国会では規制法案が審議されていました。デモから2か月後の2016年3月、崔さんは参考人として、デモ被害について意見陳述も行いました。

記者会見に臨む崔さん(2019年)

その後、国は「ヘイトスピーチ解消法」を制定。罰則はないものの、差別解消のための理念を示しました。そして昨年末には、崔さんの地元・川崎市で罰則付きの条例が成立し、今ではかつてのような過激なデモは見かけなくなりました。


どんな言葉がヘイトスピーチにあたる?

では実際に、どんな言葉がヘイトスピーチにあたるとされているのか。 法務省の人権擁護局は、典型的な例として次のように示しています。

・「○○人は殺せ」など、特定の民族や国籍に属する人々に対して危害を加えるとするもの
・特定の国や地域の出身である人を、差別的な意味合いで昆虫や動物に例えるなど、著しく見下すような内容のもの
・「○○人は出て行け」「祖国へ帰れ」など、特定の民族や国籍の人々を,合理的な理由なく,一律に排除・排斥することをあおり立てるもの
【参照:法務省ホームページ】




ようやく始まった、ヘイトスピーチによる差別解消のための取り組み。 しかし川崎のまちは、新たな事態に直面していました。条例ができたことに反対する団体が現れたのです。


「条例を撤廃せよ!」 繰り広げられる街宣活動

9⽉20⽇、⽇曜⽇。多くの⼈たちが⾏きかうJR川崎駅前を私は訪ねました。条例に反対する団体による、街宣活動が⾏われると知ったからです。 街宣がおこなわれる場所には、警備にあたる大勢の警察官や、カウンターと呼ばれる抗議活動にやってきた人々が集結。異様な雰囲気が立ち込めるなか、街宣は始まりました。


川崎駅前で街宣をおこなう団体

「日本人を抑圧する条例を取っ払え!」団体は在日コリアンへの直接的な言動ではなく、条例そのものを批判。条例が日本人の「表現の自由」を制限していると主張しました。こうした駅前での街宣活動を月に一度ほどのペースでおこなっています。これに対し川崎市は、今のところ規制の対象となる言動は確認されていないとしています。


街宣演説の様子

「同じ国に住んでいるのに…」 街宣現場で出会った11歳の女の子

そんな騒然とした現場で、一人の女の子を見かけました。 なぜこんなところにいるのだろう…気になって話しかけました。

街宣を見ていたソラさん(仮名、11歳)

女の子の名前はソラさん(仮名)。川崎市で暮らす11歳の在日コリアン4世でした。 友達と遊んだ帰り道に、駅前でたまたま街宣活動に遭遇したのでした。

地元で暮らす当事者としてどんな気持ちで眺めていたのか。たずねるとソラさんは答えました。

ソラさん
「ちょっとイヤでもあるし、在日のほうから見ても胸が痛い。同じ国に住んでいるのに、なんでそんなに言われなきゃいけないのって感じ」

自分たちを守ってくれる条例に対する批判。団体からの直接的な激しい言葉がなくとも、自分たちが責められているように感じとっているようでした。


“条例は日本人の表現の自由を奪っている” 活動家が取材に応じた

なぜ条例に反対するのか。街宣に立つ70代の男性が、取材に応じました。

街宣活動に参加している男性(70代)

男性は商社で勤務していた50代の頃、仕事の関係で韓国に行くようになったことをきっかけに、日韓関係の問題を独学で勉強し始めたといいます。「取引相手と酒を飲むときに政治の話が出るかもしれない」。そんな思いで新聞の広告欄に掲載されていた本を読みました。しかし、そこで得た情報をもとに、次第に韓国への怒りを感じるようになったそうです。

領土問題や歴史認識をめぐる問題、拉致問題…。男性は反発の声をあげようと、やがてデモ活動に参加。在日コリアンなどに対し、「帰れ」といった排除するような言葉を叫び始めます。当時デモ参加者のなかには、「朝鮮人は死ね」といったプラカードを掲げたり、過激な発言をする人もいましたが、男性はそうした言葉を吐くのは仕方のないことだったと話しました。

街宣活動に参加している男性
「(在日コリアンを)言葉の暴力で傷つけているだろうなとは思いますよ。しかし在日コリアンには、日本人の怒りを受け止めて、日韓の問題を改善してもらわないと困る」 「直接暴力をふるっているわけではないんだから。あくまで言葉による感情の発露なわけでしょ。ある意味私は、言葉でならどこまで言ってもいいと思いますよ。言葉である以上はね」

その後、国の「解消法」や川崎市の条例ができたことで、以前より言葉を選ばざるを得なくなったという男性。自分たち日本人の表現の自由を奪う条例は、すぐさまなくすべきだと言います。

街宣活動に参加している男性
「『死ね』や『殺せ』といった言葉も表現の自由」 「差別的なことを言わないよう自己規制してますよ。ストレスですね。条例は日本人に不公平です」

たとえ政治的信条が理由だとしても、そうした問題とは直接関係のない在日コリアンに対して過激な発言が向けられるのは間違いではないか。わたしがそう問い直すと、男性はハッキリと答えました。

街宣活動に参加している男性
「在日コリアンの人たちが『自分たちは関係ない』と言ったって、韓国人である以上、自分の民族の問題には責任を持たなければならないということですね」

ヘイトスピーチ すぐになくなるとは言い切れない理由

条例に反対する人たちは皆、男性のような考えを持っているのでしょうか。私は、聞き取り調査を通じて街宣活動に関わる人たちの実態を研究している、社会学者の吉田穣さんに話を聞きました。
吉田さんは、街宣活動に参加する人たちの特徴として、年齢・性別・学歴・職業のなかで特定の層が多いといったわけではなく、幅広い層が参加していたと言及しました。その多くは、川崎市の条例や解消法が、自分たちの行動が制限されるきっかけになった、と認識しているといいます。

吉田穣さん
「立法や、あるいはヘイトに対する反対する運動が登場したことによって、以前のような自由な活動に制約がかかっており、例えば、直接的な過激なヘイトスピーチはできなくなっている。という実感があるということです」




しかし街宣活動の参加者たちが、差別解消という法律や条例の趣旨を理解するようになったかは、疑問が残ると指摘します。 なぜなら彼らのうちの多くは、これまでとは異なる方法を使って怒りを表現したいと考えているからです。

吉田穣さん
「言葉尻を少し変えれば、以前と同じようなことを言っても、まったく問題がないという見方をする人もいました」 「こういった活動は、誰かがトップダウンで命令して、こうしなさいというように動いている運動ではありませんので、必ずしもヘイトスピーチにあたる運動がなくなるかというと、そうではないと思います」

続く 後編の記事では、ヘイトスピーチをなくそうとすると必ず直面する、表現の自由の問題について、ネット上の書き込みを中心に、どう対応していけばよいのかを考えます。

【あわせて読む】
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【後編】『表現の自由』どう考える
・いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”
・マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
・在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント 
・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声
#Beyond Gender
2020年12月25日

Vol.6  ジェンダーをこえて考えよう みなさんの声①

社会的・文化的に作られた性差「ジェンダー」や、“思い込み”から生まれる偏見「ジェンダー・バイアス」について、みなさんからさまざまな声が寄せられています。日ごろから感じている疑問や”モヤモヤ”、どうすれば解決できるのか…。
あなたも一緒に、ジェンダーをこえて考えてみませんか。

ジェンダーについての “モヤモヤ”…


“男のくせに” “女々しい” とは…

「男のくせに」「女々しい」という表現があります。前者は『男』が『女』より優れている、上であるなどというのがあり、後者は『男』が下の存在である『女』のような真似(まね)をしているから言われるというのもあります。 その非対称性を無視して語られているのを見たりするといつもモヤモヤします。

夫に暴行されていた妻を助けた女子プロレスラーを「男前」と評して、後輩を殴った力士(の親方)が「女々しい」と報道されたことがあったそうです。 このように、女の人がいいことをしたときに「男前」とほめられたのに対し、男の人が悪いことをしたときに「女々しい」などと非難されたのを見たときもモヤモヤしました。 なぜ性別を持ち出すのかなと思います。

10代・女性

  



なぜ女性だけに防犯ブザー?

交通事業に関わる社員です。職場で女性社員のみ、防犯ブザーが配布されています。有事の際に必要とのことですが、このご時世、男性社員が被害に遭わないとは限りません。 防犯上必要との理由ならば、男女問わず配布すべきであり、どちらか片方に配布というのは、男性・女性双方に対する差別ではないでしょうか。

男性・愛知

  



人材の半数を活用・育成しきれていないのは損失

ジェンダーの問題は、「○○するのが当たり前」という思考停止が原因ではないでしょうか。男性は稼いで当たり前、養えない男性は結婚するに値しない、など。

男女差別は文化の問題でもありますが、経済に与える影響を考えたときに、人口が少なくなっていく日本では男性だけが働いて稼いでも生産性は上がりませんし、教育分野で男女平等に育てている日本でいよいよ社会に還元するという段階で、人材の半数を占める女性を活用・育成しきれていないのは相当な損失だと思います。女性が能力伸長をあきらめて、ケア労働にばかり回る社会では、どれだけ男性が頑張っても、男女同等に活躍する国がある限りは、その国に人材活用の分野で差がつけられるのは仕方がないことかと思います。

20代・女性・東京

  



ジェンダー問題を語れない空気がある

ジェンダー問題を語ろうとしても、できる人とできない人がいる。そうした問題を、空気を乱すもののように見ている人がいることが現状ではないだろうか。当然のようにセクハラもあるし、性的マイノリティへの理解はもっと根深いといえると思う。

20代・男性・宮城

  



日頃から「おかしい」と感じていること

選択的夫婦別姓が未だに実現していないのはおかしい。名前を知らない誰かのことを呼ぶときに、 「おばあさん」「おじいさん」 「おばさん」「おじさん」 「おねえさん」「おにいさん」 など、血縁に基づいた、性別を断定する呼び名ばかりなのが不便。 新しい言葉が欲しい。緊急避妊ピルが薬局で売られるかどうかについて、日本産婦人科医会の男性が「どんな時も薬局で買えるようにするのはおかしい」と反対を表明しているのはおかしい。

日頃から「おかしい」と感じていること、もっとこうなればいいなと思うこと、知りたいと思うことがたくさんある。     

30代・女性・愛知

  



異性愛が前提の番組にギモン

私が常々思うことは異性愛中心主義の根深さです。恋愛、結婚するのが当たり前。そして、それが異性であることが前提の番組作り、会話の進め方が多いです。ジェンダー、セクシュアリティーは多様だとはいうが、それは口で言うだけで、その考えを実際に取り込んで会話を進めている番組は少ないと思います。

ぜひ、恋愛、結婚、異性愛であることが前提という風潮に疑問を持つような番組を作ってほしいです。         

20代・女性・東京

  



男性も悩んでいます

男性も悩みや生き方で悩んでいます。 男性であっても、その性がつらい人々の多様さにも焦点を当ててほしいと思います。 ちなみに私は男でいることが嫌になり、今年から自宅では女性のファッションを身に付けています。性欲は男性の性器、女性との性交にあり、複雑です。 女性になりたい、そして女性が好きです。

50代・男性・東京

  



“女らしさ”は“男性のため”!?

人が自分を都合の良いように扱うために、“女性らしさ”を使われていたことに幼い頃から傷ついてきました。私にしか割り振られないものは、家事、お客様の接待。いずれ結婚した女性がするからというのです。結婚や出産は誰しも望んでいるわけじゃないし、女性の仕事が家事労働ということにも納得がいきませんでした。ジェンダー規範が嫌で、「女性でなくていい!女性らしさに当てはまらない私は女性じゃない!」と長きにわたり、“女性よりのXジェンダー”を自認してきました。

「女らしくしなさい」には、おとなしく従順で「男性のために役立て」と言われている気さえします。「女性らしさ」と言われているものが必要にされるときは、会社などの組織の中で、男性の目がある時です。同性といるとき、女らしさなんか気にもとめません。自分を魅力的に見せたい場合ならまだしも、そうでない時さえ、マナーとして男性を立てる必要が出てきたり、身だしなみをきちんとしたり。女性らしくしていないと社会人失格のような扱いさえ受けます。自立した人間同士なのに、いびつな形だと思います。

20代・女性・栃木

  

ジェンダー・バイアスをなくすためには?


職業や立場で縛ることをやめよう

看護師の男性です。「女性はまめでやさしいから介護看護職向きだけど、男は雑で荒っぽい」という潜在的な性別観を、患者家族はもちろん同僚の姿勢に感じ、悩まされることが結構あります。逆に“らしさの呪縛”を解くために、男が化粧したり、女が大股を広げたりすることであらがうことにも違和感を覚えます。

少なくとも、職業や立場で縛るのをまずやめないと。社会構造だけでなく、心理的精神的構造に性別固定的観念がくみこまれているので、変えられるところから変えないと。

40代・男性・鹿児島

  



「そういう人もいる」と認めていくことが大切

先日、男性のタレントさんがテレビで、お肌のケアに気をつかったり、化粧品にこだわったりしていると話しているのを聞いて、両親が「男がメイクなんて、気持ち悪い」と言いました。生きてきた“時代”の考えが無意識的に働いただけで、悪意はなかったのだと思います。

でも、「気持ち悪い」「男なのに」「女なのに」そういう言葉ひとつひとつに傷つけられ、好きなことを好きにできない方々はまだまだたくさんいるかもしれないと思うと、とてもつらくなります。 好きなことを好きなだけできない、周りの人間に認めてもらえないのは、誰にとっても苦しくてつらいものだということは、少し想像すれば分かることではないでしょうか。

例え理解できないことであったとしても、「そういう人もいるんだな」と認めていくことで、みんなが息苦しくない世の中になっていくのではないかなと私は思います。もっともっと良い時代に向かっていきますように。

20代・女性・愛知

  



性別が “星座くらいの存在感”になってほしい

「性別が生き方・人生に影響してはならない」と考えています。性別は何かしら与えられてしまうもの。せめて「星座」くらいの存在感になってほしい。蟹座の人は獅子座の人より偉い、なんて誰も思いませんよね。性別も本当はそんなモンです。性別によって相手を縛ったり、自分を縛ったりするのはおかしなこと。自由と寛容の社会にしていきましょう。人はみんな同じ「人」です。

30代・女性・神奈川

  



少数派がいることを見える化

身長150センチ台の男性です。背の低い男もいろいろ苦しんでいます。身長が低いことを笑われることは当然、既成の靴や服がほぼ無いなど日常的につらい思いをしています。何もしなければ、多数派に圧されるのは当然です。

少数派が居ることを見える化して、差別しないだけでなく、可能な範囲で少しだけ手をさしのべることの大切さを意識することが大切なのではないでしょうか?

50代・男性・愛知

  



知ることが理解につながる

日本では「~らしさ」を大事にしている風習があるので、つらい思いをされてきた人もいると思います。ですが、知ることから、理解につながると思っています。勇気のいることだと思いますが、これから理解者は増えるはずです。 

60代・女性・埼玉

  



賛成・反対 いろいろな意見を聞く

男性だからカッコよくあってほしい。女性だからかわいくあってほしい。と思うのは普通だと思う。でも、それを他人に押しつけるのは違う。「トランスジェンダーだから変」とか「性同一性障害だから変」とか、そんなわけないのに。障害があってもなくても、それぞれ1人の人であることを忘れてはいけない。

自分は人それぞれで百人百色ってことでいいと思う。でも、みんなそう思っているわけじゃないからSNSや学校、職場で嫌な思いをする人が出てしまう。だから、もしよかったら一方的にこれは良いことだと報道しないで、いろんな意見を聞かせてほしい。「そう思わない」っていう人の意見も聞いて、自分なりの考えをまとめたい。特に田舎は意見の交流会みたいなことがないから、テレビを通して沢山の違う意見の人の話を聞いてみたい。

10代・女性・岩手

  


こらからも、みなさまから寄せられた「声」をさまざまなカタチで紹介させていただきます。




<あわせてお読みいただきたい記事>

<ジェンダーについて考える その他の関連記事・放送予定はこちら>



あなたは、“男らしさ” “女らしさ”など、社会的・文化的につくられた「ジェンダー」について、どう思いますか?『みなさんの声』への感想やご意見などもお聞かせください。下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
#Beyond Gender
2020年12月18日

Vol.5 「私たちはなぜミスコンがしんどいのか」

“女子アナウンサーへの登竜門”とも言われてきた「ミスコンテスト」。かつては企業がスポンサーとなって運営資金を援助するなど、大学祭の一大イベントでしたが、いま、そのありかたを見直す動きが生まれています。取材を通して見えてきたのは、自分の意志に関係なく比較や評価をされ続けることに対して、若者たちに広がる “しんどい” という思いでした。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201118/k10012718071000.html

従来のミスコンを変えようと奮闘する学生たちの取り組みについて、以下の番組で伝えます。
<放送予定>
12月22日(火)【総合】午後4:50
シブ5時「“ミスコン”が変わる? 学生たちの挑戦」

あなたは大学の「ミス・ミスターコンテスト」について、どう思いますか。あなたの身近にも “ミスコン”はありませんか。 記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
#Beyond Gender
2020年12月18日

Vol.4 更年期対策にピル代負担まで⁉︎ 変わる企業の“健康経営”

働く女性の健康を守る制度 必要なのは生理休暇だけじゃないんです


生理・不妊・更年期など女性特有の体の悩み。
これまで周りに言えずに、一人抱え込んでいたという女性も少なくないと思います。

「会議中に急に体がほてって、汗が止まらなくなった」
「生理前には気分が落ち込み、ちょっとした仕事のミスでも自分を責めてしまう」
「不妊治療中、『明日病院に来て下さい』と言われても、急に仕事は休めない」


働く女性が増えるいま、企業にとっても「女性の健康」は健康経営を進める上で大きな課題となっています。更年期症状への対策や、低用量ピルの費用負担まで!? “健康経営”の最前線を取材しました。

(首都圏局ディレクター 柳田理央子)

“生理休暇”という名前を廃止
IT企業のサイバーエージェントは、“生理休暇”という名前を無くしました。女性社員が取得する全ての休暇を「エフ休」(エフ=FemaleのF)という名前に統一。さらに、生理だけでなく、つわり、婦人科疾患、更年期症状など女性特有の体調不良の際に使えるように、有休の特別休暇を月に1日追加しました。もちろん、これも「エフ休」という名前なので、どんな理由で休むのかは、上司や同僚にはわかりません。休む理由の言いづらさをなくすことで、取得しやすいように配慮しています。


(エフ休の取得画面 他の人には取得理由はわかりません)

会社負担で婦人科受診 さらにピルの処方まで
生理日を管理するアプリなどを運営しているエムティーアイでは、今年2月から、女性社員の婦人科受診を支援する福利厚生制度を始めました。提携する婦人科を受診する費用、そして低用量ピルの費用も、会社が負担するというものです。


(社員の吉崎美帆さん)

「生理痛はあるけど、我慢できないほどではないし・・・」と病院に行くのをためらう女性も少なくないと思います。この制度を利用している社員の吉崎美帆さんもその一人。生理痛やPMS(月経前症候群)の症状を感じていたものの、市販の薬を飲んでやり過ごしていたそうです。しかし、制度についての社内説明会で、婦人科医から、女性の体の仕組みや生理前後に起こる変化などについて聞いたことで、気持ちが変わったと言います。

吉崎さん
「これまで生理前後の症状で困ってはいたものの、我慢できないほどではなく、改善するための行動が取れていませんでしたが、まずは支援制度を通じて婦人科を受診してみようと前向きに考えるきっかけとなりました」

医師の診察を受け、処方されたのは低容量ピル。低容量ピルとは、エストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンが配合された錠剤で、排卵を抑えるため、生理が軽くなったり、ほとんどなくなったりします。


(低容量ピル)

吉崎さんは、オンラインで継続的に診療を受け、薬を処方してもらっています。わざわざ会社を休んだり、早退したりしなくても、勤務時間内にオンライン診療を受けることができるため、とても手軽。前日の夜に予約して、次の日の仕事の合間に受けることもあるそう。ピルは郵送で自宅に届きます。


(オンライン診療の画面)

この制度を利用して、ピルの服薬を開始した女性社員にアンケートをとったところ、飲む前は「横になって休息したくなるほど仕事への支障をきたす」と答えていた人が53.8%いましたが、飲むようになって15.4%まで減ったそうです。

会社としては全ての女性社員にピルの服用を推奨している訳ではないと言います。あくまでも一番の目的は、「かかりつけの婦人科をもってほしい」ということ。生理痛やPMSなどの症状を気軽に相談できる環境をつくり、低用量ピルについても正しく理解してもらった上で、必要であれば服用することで、つらい症状の改善を目指しているということです。女性自身、毎月のことで我慢するのが当たり前になっていた生理について、会社が「ちょっと考えてみてはどうですか?」と、機会を与えてくれているんですね。

吉崎さん
「福利厚生制度になったことをきっかけに、将来を見据えて自身の健康と体の状態に向き合うことができました。今後も低用量ピルの服薬を継続し、定期的に婦人科受診することで、自身の体調に目を配っていきたいと思います。」


女性が元気に働けないことは企業にとってもマイナス
婦人科疾患を抱える女性が仕事を休んだり、仕事の効率が下がったりすることによって失われる生産性損失は、年間5兆円近くになるという調査があります。(働く女性の健康増進調査 2016年)

企業に対して、健康経営の取り組みで関心が高いものを聞いた調査では、「40~50代男性のメタボ、健康意識対策」を抜いて、「女性特有の健康問題対策」が最も上位に。(健康経営に関する実務者連絡会 参加者アンケート)

経済産業省などが選定する「健康経営銘柄」の要件にも「女性の健康保持・増進に向けた取り込み」が追加されるなど、企業にとって、女性の健康への取り組みは待ったなしとなっています。

逆に言うと、女性の体に理解のない企業は、生き残れない社会になってきているのかも・・・?

“健康経営”で育休・産休からの復職率100%
「健康経営」という言葉が一般的になるずっと以前から、社員が健康に働ける環境づくりに力を入れてきた企業があります。ロート製薬では、2002年から全社員を対象にした体力測定を開始、2004年には社員の健康増進を専任に行う部署を作るなど、取り組みを進めてきました。


(全社員が参加する毎年恒例の体力測定)

2014年には「チーフヘルスオフィサー・最高健康責任者」を設置。今年6月からチーフヘルスオフィサーを務める力石正子さんに、なぜそこまで健康経営に力を入れているのか伺うと、思わぬお答えが。


(チーフヘルスオフィサーの力石正子さん)

力石正子さん
「健康経営に力を入れ始めたという意識はなくて、入社したときから毎朝、ラジオ体操が当たり前で、職場対抗のスポーツ大会でめちゃくちゃ熱くなって応援し合うというのを、すごく楽しんでやってきていました。最近、健康経営という言葉が流行っていますが、私たちの会社では、特に健康経営に力を入れようとやっていたというよりは、本当に会社の風土です。」

現在、この会社の社員は6割が女性。育休からの復職率はなんと100%だそう!女性社員の健康を意識した制度づくりを続けてきました。例えば、健康診断。多くの企業で行っているのは、メタボ健診など男性の生活習慣病予防のための検査で、婦人科疾患を予防するための検査は、ほとんどないのが現状です。この会社では、乳がん検診・子宮がん検診を無料にしています。


(乳がん検診も無料で)

さらに、通常の血液検査ではわからない“隠れ貧血”を調べるための検査を取り入れました。内臓に貯蔵されている鉄の量を量る、フェリチン検査というもの。疲れやすさなどにもつながる“隠れ貧血”は女性に多く、この数値が低く、明らかな鉄欠乏の状態にある女性は20~40代の4割以上にのぼるとされています。


(「隠れ貧血」を調べるフェリチン検査)

“働き盛り” 40代以降の女性をサポートするために
今、女性社員の平均年齢はちょうど40歳。責任のある仕事を任されたり、管理職になったりする世代です。でも、この時期に重なるのが更年期。女性ホルモン(エストロゲン)が一気に減少し、様々な更年期症状が出てきます。一方、男性のホルモン分泌は現役世代の内はほぼ一定で、減少も女性に比べるとなだらかです。


(女性ホルモンは40代後半から激減)

会社では、社内のイントラサイトで、更年期症状に備えるための検査を提供しています。エストロゲンと似た働きをするエクオールという物質を作れる体質かどうか、尿検査で調べるキットです。エクオールを作れる人は日本人の2人に1人とされています。


(エクオールが作れる体質か検査するキット)


(社員の八巻佳奈さん)

この検査を受けたという八巻佳奈さん。現在40歳で、今年、営業企画推進部の管理職となりました。更年期にどんな症状が出るのか、どう備えたらいいのかわからず、不安を抱いていました。


(八巻さんのエクオール検査の結果)

検査の結果、八巻さんはエクオールを作れる体質だとわかりました。会社では、エクオールを作れない体質の人に向けて、サプリメントを紹介。さらに、専門の医師を招いて、更年期についてのセミナーも開いています。八巻さんも、このセミナーを受講。人によって症状が異なること、そのメカニズム、症状に応じてホルモン補充療法など様々な治療があると知ることができたと言います。


(八巻佳奈さん)

八巻さん
「正しく知って、備えるっていうことがとても大事だなと感じました。私もそうですが、女性は、仕事のことも考えなくてはいけないし、家族のことも考えないといけないし、ついつい自分の健康を後回しにしてしまう。会社が、検査やセミナーなどの機会を作ってくれたということもあるので、会社も元気にいきいき働くことを応援してくれていると感じることができたのが、すごく心強かったです。」


「女性活躍」に本当に必要なものとは?
「女性活躍推進」という言葉が声高に叫ばれるようになって久しいですが、私は1人の女性としてこの言葉にどうしてもモヤモヤしてしまいます。自分の体を犠牲にして、「男性並」に働くことが、本当に女性の活躍なのでしょうか?そんなモヤモヤを抱える私に、力石さんがこんな言葉をかけてくれました。

力石さん
「女性の力って素晴らしいものがあって、別に男性に劣っているところなんて全くありません。ただ、体のメンテナンスは、男性とは違うところがあるので、それさえしっかりメンテナンスできれば、もっともっと輝く女性が増えると思います。女性ばかりを特別に保護するつもりはないけれど、違う性があることを認め合って、それぞれに合ったケアが必要だということを、オープンにしていくことは大切だと思います。」



どうにもできない体の不調があるときには、無理せず休んだり仕事をセーブできたり、それが当たり前の社会になればいいですよね。でも、ただ「休みたい」だけではないのです。少なくとも私は、どうしてもやり遂げたいプロジェクトがあったり、がむしゃらに頑張りたい時期があったりします。女性の健康を守るための制度があったり、男性社員も含めて学ぶ機会があったり、会社が体のことを一緒に考えて、背中を押してくれていると思えたら、自分の力を最大限発揮して、いきいきと働くことができると思います。そんな企業が少しでも増えればいいなと、1人の働く女性として、強く思った取材でした。

あなたは女性ならではの“体の悩み”についてどう思いますか?“体の違い”がある中で、皆が生きやすい社会・職場にするには、何が必要だと思いますか? 記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


フェムテックについてもっと知りたい方は、こちらの記事も↓
#Beyond Gender
2020年12月11日

Vol.3 AMH検査で“卵子の残り数”がわかる!? 産みどき考えるヒントに

わずかな血をとって送るだけで自分の卵子の残り数がわかる。そんなフェムテックがいま注目を集めています。年齢とともに減っていく卵子が、卵巣内にどれぐらい残っているかを示すAMHというホルモンの値を調べる検査キットで妊娠のタイムリミットを知る手がかりの一つになるというのです。 これまで病院でしかできなかった検査が、約2万円で自宅でできるというこのキット。働く女性の人生設計にどう役立てられるのか、利用の際の注意点もあわせて、取材しました。

(ディレクター 浅岡理紗 宣英理)

“妊娠のタイムリミットの目安がわかる”
働く女性を悩ませる“産みどき”。11月に放送したクローズアップ現代プラス『女性の体の新常識 フェムテックで社会が変わる』のディレクターは全員30代女性ということもあって、取材中も話題に上りました。「長期のプロジェクトに関わることもあるし、出産のタイミングがわからない」「子どもが欲しいと思ったとき自分は産めるのか不安だけど、病院に行く時間もない」・・・
こうした悩みに応えようと、去年7月に発売されたのが、このAMH検査キットです。



男性の精子が毎日新しく作られるのと対照的に、女性の卵子は胎児の頃に一生分が作られます。出生時には約200万個の卵子(原始卵胞)を持っていますが、月経時に排出されたり、自然に消えたりして減っていき、30代で残っているのは2~3万個です。私も初めて知ったとき、ちょっと“ガツン”と来ました・・・

卵子の数を知る手がかりになるのがAMHというホルモンの値です。この値が高ければ多くの卵子が残っている、低ければ数が少なくなっていることを示すため「妊娠可能な期間」の目安になります。


(提供 浅田レディースクリニック)

AMHの値は一般的に年齢とともに下がっていき、2以下では不妊治療が効果的に行えなくなる可能性があるといいます。しかし個人差が大きいため、自分の値は検査しなければわかりません。AMH検査はこれまでも病院では受けられましたが、産婦人科の受診はハードルが高いという人も多いため、自宅で受けられる検査キットが作られました。

どうする? 仕事と産みどき
検査キットを利用することにした夫婦を取材しました。ことし入籍した渡部英里菜さん(32)と夫の光樹さん(40)。光樹さんは早く子どもが欲しいと思っていますが、英里菜さんは正社員として転職したばかり。まだ慣れない中、出産で職場を離れることに不安を感じています。一方、同世代の友人たちが不妊治療を始めたこともあり、妊娠のタイムリミットが気になっているといいます。



英里菜さん
「漠然とあと2~3年たったら子どもを、と思っているんですが、そのときに不妊だとわかったら手遅れにならないか、怖いですね。家でできるなら、ちょっと調べてみようと思いました。」
光樹さん
「女性は卵子の数が年齢とともに減っていくなんて、全然知らなかったです。男女ともに30代前半は仕事のやりがいが出てくる時期なのに、反比例するように体の問題が出てくるなんて、女性は本当に大変・・・、せめて応援したいと思いました。」



指先に針を刺し、にじみ出た血液を容器に入れて送ると、10日前後で結果をスマートフォンで確認できます。

32歳の英里菜さんのAMHの値は・・・

英里菜さん
「あー、やばい! 実年齢より高い・・・」

妊娠や不妊治療を急がねばならない値ではなかったものの、渡部さん夫婦は結果に少し戸惑っているように見えました。ふたりは、1年後には妊活を始めようかと話し合ったそうです。

英里菜さん
「やってよかったです。仕事ばかり優先するのではなく、そろそろシフトチェンジも考えなければいけないのかな。判断基準として、知ることができるのは、助けになります。」
光樹さん
「自宅で検査に立ち会い、結果を共有できたことで、男性も一緒に考えるべきことだと感じました。漠然としていたものがハッキリしたことで、ライフプランを真剣に考えるきっかけになりました。次は病院で自分の精子の状態も調べてみたいです。」


不妊治療による離職を防ぎたい


検査キットを提供しているのは、不妊治療に関する情報共有を行うウェブサイトの運営会社です。開発のきっかけは、利用者に「もっと早く治療を始めればよかった」という声が多かったことでした。

F treatment代表 服部恵子さん
「不妊治療との両立の難しさから仕事を辞めたり、子どもを諦めたりした人を数多く見てきて、社会にとっても大きな損失だと思いました。少しでも早く自分の体の状態を知る人が増えれば、離職も減らせるのではないかと、産婦人科の先生と意気投合したんです。生き方は人それぞれですが、自分の体を知った上で人生の選択をしていただけたらと思います。」



11月に発表された調査では、不妊治療をしている女性の83%が「仕事との両立が困難」だと答えています。 産婦人科医の浅田義正さんも、同じ問題意識から検査キットの商品化に協力したと言います。



浅田レディースクリニック 浅田義正医師
「不妊治療を始める年齢が年々上がり、40代が主流になっていますが、病院で初めてAMHを測って、結果にがく然とする人が少なくありません。卵子が少なくなってから不妊治療を始めると、期間や費用がよりかかります。自宅で手軽にできれば、検査のハードルが下がると期待しています。」

検査キットの開発で最も難しかったのが精度です。医療機関での採血と違い、自宅で個人が採取できる量には限りがあり、わずか0.1mlからAMHの値を正しく測定する技術を確立するのに苦労したと言います。値段は2万円弱と高価ですがこれまでに約1200人が利用しました。

AMH検査には注意点も
ただ浅田医師によると、検査結果を受け止める上で注意点もあると言います。

  • AMHの値は、あくまでも卵子の“残り数”の目安であり、“質や老化”を反映するものではありません。AMHの値が低い人でも、年齢が若ければ卵子の質が良く、妊娠できることもあるため、数値だけに振り回されて絶望する必要はありません。


  • AMHの値が高いからと安心するのも危険です。不妊には卵子の残り数以外にさまざまな要因があり、別の不妊の要因を見落としてしまうリスクもあります。
    ※値が年齢の水準より大幅に高いと「多膿疱性卵巣症候群」、大幅に低いと「早発閉経」などの病気の可能性も。

妊娠を考える人は、この検査をきっかけに早めに産婦人科医を受診してほしいと、浅田医師は強調していました。

身近になるAMH検査 人生を変えることも
こうした検査キットは、海外でも次々と登場しています。カリフォルニアのスタートアップ、Modern Fertilityは、AMHなど9種類のホルモンを調べることで、卵子の残り数や閉経の予想時期、卵子凍結や体外受精の適性などがわかるという検査キットを発売。検査結果をどう読み解くのか、産婦人科医などがアドバイスしてくれる仕組みや、利用者同士で情報交換ができるコミュニティも提供しています。キットはスーパーの店頭でも販売され、身近なものになってきています。

アメリカのフェムテック事情に詳しい
デロイトトーマツベンチャーサポート・セントジョン美樹さん

「アメリカでは今、ジェンダー平等が政治的にも経済的にも重要なテーマとなっています。女性が人生を豊かにしていくために、まずは自分の体を知り、いろいろな選択肢をデザインする。フェムテックは、そうした個人の人生設計とエンパワーメントのみならず、それを支える寛容な社会への変革に大きな役割を果たすと期待されています。」

この番組の40代女性プロデューサーも、かつて取材の一環でAMH検査を受けたことがあるそうです。当時30代半ばでしたが、40代半ばの水準という極めて低い値が出て、ショックを受けたと言います。それまで「あと1本番組を出せたら・・・」と出産を先延ばしにしてきましたが、この結果を受けて異動希望を出し、一時期、妊活を優先しながら働くことを決めました。
その後 授かったお子さんは今は8歳になり、「あのとき検査を受けていなければ、娘はいなかったかもしれない・・・」と、AMH検査が人生の分岐点になったと感じているそうです。



 これまで見えなかった“体の中の状態”を知る手がかりとなるフェムテック。「いつかは産みたい、でもいつ?」、そんな悩みを抱える女性が後悔のない選択をする上で、手助けになるかもしれないと思いました。

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2020年12月11日

いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”

「コンビニでアルバイトをする留学生」「農家や工場で働く技能実習生」・・・
いまの日本に欠かせない外国人労働者たち。その先駆けともいえるのが日本にルーツを持つ外国人たちです。1990年に入管法が改正され、多くの日系ブラジル人や日系ペルー人などが来日し、貴重な労働力として製造業などを支えてきました。それから30年の節目となった今年、私は日系ブラジル人が多く暮らす東海地方を中心に取材を続けてきました。
クローズアップ現代プラス「60代の孤独死 団地の片隅で ~外国人労働者の末路~」
取材中で出会ったのが”デカセギ”の歴史を写真で表現しているジュニオールさんです。ジュニオールさんの写真から、外国人労働者の30年の歩みを見つめました。
(NHK名古屋放送局 ディレクター 植村 優香)

日系ブラジル人の30年を知ってほしい デカセギの歴史切り取る写真家
写真家・前田ジュニオールさん


静岡県浜松市に住む、日系ブラジル人のマエダ・ジュニオールさん。初めて会った日、一冊の写真集を見せてくれました。タイトルは「デカセギブラジル」。被写体は、90年代に出稼ぎのために来日した「デカセギ・ブラジル人」たちの生活。それも、当時撮影したものものではなく、ジュニオールさんが日系ブラジル人たちの協力を得て、90年代のデカセギの日常の様々な風景を再現して撮ったものです。


撮影:マエダ ジュニオール




撮影:マエダ ジュニオール


ジュニオールさんがあえて「再現」という手法を使っているのは、デカセギに来た人たちが経験してきた困難や複雑な心境を、日本人や新たに日本にやってきた外国人に伝えるためです。当時の空気を想像してもらうためにモノクロカラーで表現しています。


日本食弁当、和式トイレ・・・なかなか慣れない日本の生活。 目覚めて目に入る蛍光灯の形で日本に来たことを思い出す。
撮影:マエダ ジュニオール



母国の家族への手紙は送料を下げるために薄い紙。 国際電話ボックスにはブラジル人の行列が。前の人の会話は後ろの人に筒抜け。
撮影:マエダ ジュニオール


14歳でデカセギになったジュニオールさん

ジュニオールさんが来日したのは1990年。14歳の時でした。この年、出入国管理法が改正され、日系のルーツのある外国人が日本に住み、働くことができる在留資格が与えられることになりました。

ジュニオールさんは、祖父母が高知県からブラジルに移住した日本人で、日系3世にあたります。祖父母は十代の頃、貧しさから抜け出し豊かさを求めたいと、国も奨励していたブラジル移住に踏み切りました。実際に待っていたのは、厳しい農業での労働。安定した収入を得られるようになるまでに時間がかかりました。しかし、ブラジルで子どもたちも育ち、亡くなるまで日本に戻ることはしませんでした。

ブラジルで生まれ育ったジュニオールさんの父は、家電屋で働いていました。ブラジルは80年代以降激しいインフレで、給料は安いのに家賃や光熱費など支払いは高く、生活は苦しかったといいます。貧しい暮らしを続ける家族にとって、ジュニオールさんが日本でデカセギをすることは一筋の希望の光だったといいます。

ジュニオールさん
「ブラジルのすごく貧乏なところで過ごしました。ファベーラ(貧困街)に住んでいたんです。8歳から働いていました。デパートの従業員にレストランから弁当を運ぶ仕事です。弁当を渡して、食べ終わるまで待つ。そして、また空の弁当箱を集めてレストランに運んでいました。日本に行けば、普通の生活ができるかなと思っていました」

自動車部品工場で働くジュニオールさん


ジュニオールさんは来日してすぐ、千葉県の自動車部品工場で働き始めました。日本語も分からない中、ひたすら必死に働きましたが、ときに、日本人の上司から「バカ、アホ」「クビ、使えない」と暴言を吐かれることもありました。日本語の意味が分からなかったため、メモをして後で調べて意味を知り、傷ついたことも。

いろいろな仕事を転々とする中、最もきつかった仕事は、魚の解体工場でした。朝6時から、遅い日には夜11時まで。鰹やマグロをひたすらさばき続けました。・・・それでも、ジュニオールさんはブラジルと違って十分な給料をもらえる仕事がある幸せを噛みしめていたといいます。

“デカセギ”のままではいられない病!? 

ジュニオールさんが面白い言葉を教えてくれました。「デカセギ病」という言葉です。デカセギのつもりで日本にやってきても、だんだん帰ることができなくなる現象をブラジル人たちの間ではそう呼んでいるそうです。ジュニオールさんも最初は少しお金を貯めたらブラジルに帰って、欲しかったバイクを買おうと思っていたといいます。しかし、仕事は過酷でも欲しい物を買うことができる日本の生活は、だんだん手放しがたくなっていきました。

ジュニオールさん
「ブラジルは大好きだったけど、うまくいくチャンスが少ない。日本は頑張ればなんでもできます。20万円もらえれば何でも買える。車を分割で買ってもいいし、いい服を買ってもいいし、レストランで毎日ご飯を食べることもできる。日本に長く住んだ人はブラジルに戻ったら生活になじめない。それを”デカセギ病”っていいます」

ジュニオールさん自身は現在独身ですが、日本の生活の中で恋愛をし、結婚をし、子どもが生まれるブラジル人たちも増えていきました。苦労が多い労働の日々、家族の存在が大きな精神的な支えとなったのです。多くのブラジル人はある程度お金を貯めることができたら、ブラジルに帰ろうと計画していました。しかし、日本で生まれ育つ子どもたちは、日本の保育園や学校に通ううちに日本語もペラペラに。友達も日本で作り、勉強も日本で始めた子どもたちは、むしろ母国を知らず、親が帰国を決意しても、子どもたちに拒まれるという場合も少なくありません。

私たちがブラジル人100人に行ったアンケート調査では、「20年以上日本に住んでいる」と答えた60人のうち大多数の53人が、「当初は5年以内に帰国予定だった」と答えています。

100人へのアンケートより



コロナ禍だからこそ思い出して 12年前の痛み

ブラジル人の多くは短い契約の非正規雇用で働いています。早くに帰国する予定だったため年金保険料も払っておらず、老後の保障がまったくない人も少なくありません。いま、新型コロナウイルスの影響で多くの人たちが職を失っています。もちろん、日本人も状況は同じですが、外国人は特に真っ先に解雇や雇い止めの対象となるケースが後を絶ちません。



多くの外国人労働者が突然仕事を失う事態は、10年以上前にも起きていました。リーマンショックの影響でいわゆる“派遣切り”が横行。職を失うと同時に、派遣会社の寮で暮らしていた多くのブラジル人達は、住む場所も失い、突然帰国を余儀なくされました。下のグラフは日本に住むブラジル人の数です。経済の浮き沈みと共に雇用の調整弁となっているようすが読み取れます。

法務省 在留外国人統計より作成(2020年の数値は集計中)


ジュニオールさんは、リーマンショックの頃のことを写真で表現したいと、当時の悲惨な状況を目の当たりにしていた人に話を聞きました。浜松市のキリスト教の教会の神父としてさまざまなボランティア活動を行っていたブラジル人の神父、比嘉エバリストさんです。
エバリストさんの話を書き留めるジュニオールさん


エバリストさん
「当時は、多くのブラジル人が仕事を失って、助けを求めて教会に集まっていました。さらに、ブラジル人学校に通っていた子どもたちが、親が月謝を払えなくなり学校に通えなくなり、教会に集まってきていました。私たちは炊き出しをしたり、臨時の教室をつくって支援をしました。また、橋の下でホームレス生活をするブラジル人たちがいました。私たちはそこへ見回りに行き、食べ物や着るもの、銭湯の券などを配りに行っていました」


ジュニオールさんは、エバリストさんから聞いた写真を一枚の写真で表現しました。 橋の下で寄り添う家族。右下に写した女性の姿は、家族を助けに来た支援者ともとれるし、家族の前を通り過ぎる無関心な人にも見えます。家族に手を差し伸べる人はいたのか?日本社会のまなざしを問いかけました。

家族に手を差し伸べる人はいたのか? 撮影:マエダ ジュニオール



日本で暮らし続けたい デカセギ30年の重み

私が日系ブラジル人たちを取材していて、一番よく聞く言葉があります。
「私たちはブラジルにいるときは日本人だと言われていた。でも日本にやってきても“ガイジン”と言われます」

ルーツは日本にあるけれど、ブラジルで生まれ育ち、そして日本にやってきたジュニオールさん。自分はいったい“ナニジン”なのか?そんな葛藤をジュニオールさんも抱えてきました。それでも今は、自分の生きる国は日本だと感じています。

ジュニオールさん
「もう30年近く日本にいます。もし今ブラジルに戻ったら、僕はまた外国人です。何も分からない。人間関係も仕事も最初から始めなきゃいけない。日本でずっと暮らし続けたいです」


祖父母とジュニオールさん


ジュニオールさんの祖父母は、ブラジルで長年農業に従事したあと、晩年は日本式の写真屋を営んでいました。その影響もあって、小さな時からカメラが好きだったジュニオールさん。最初の工場に勤めていた10代の頃、稼いだお金でカメラを購入しました。友達もおらず、工場のまわりで花や木を一人で撮影していたといいます。

そのとき、ジュニオールさんに話しかけてきた工場の日本人の先輩がいました。写真の撮影を趣味にしていたその先輩は日本語もうまく話せないジュニオールさんにカメラの使い方を身振り手振りで教えてくれたといいます。それから二人は、色々な場所へ一緒に撮影に行きました。ジュニオールさんは、彼に言われた言葉を今も覚えています。

「言葉とか関係ない、やる気があればどこまでもいける。ジュニオールが一生懸命頑張れば、きっと信じられないところまでいけるぞ」

ジュニオールさんを写真家の道に導いた”先輩”


ジュニオールさんはその言葉を胸に、工場で働くかたわら、時には睡眠時間を削って写真の勉強を続けてきました。「ブラジルでバイクを買いたい」だったジュニオールさんの夢はいつしか「日本でカメラマンになりたい」という夢に変わっていたのです。

写真館で撮影中のジュニオールさん


そして去年、ついにジュニオールさんの夢は叶い、日本の写真館で正社員として採用されました。ジュニオールさんはいま、写真館でフルタイムで働きながら、日系ブラジル人の写真も撮り続けています。写真館で働くジュニオールさんに会いに行くと、目は輝きにあふれ、その陽気な人柄で自然と引き出すお客さんたちの笑顔がとても印象的でした。

少子高齢化が止まらない日本は、今後も外国人労働者の存在がなければ経済が立ちゆかないのが現実です。しかし今回ジュニオールさんたちを取材する中で改めて思ったのは、ふだん私たちが彼らの「労働者」としての側面しか見ておらず、ひとりひとりの「人生」に目を向けてこなかったのではないか、ということです。
外国人と日本でともに暮らすこと、それは私たちが彼らの「人生」を受け入れることにほかならないのだと、強く感じました。
(NHK名古屋放送局 ディレクター 植村 優香)


日系ブラジル人コミュニティの取材から生まれた番組が12月29日(火)にBS1、さらに2月11日(火)にNHK総合で放送されました。

番組名:「ワタシたちはガイジンじゃない!」
概要:夢を抱いて日本にやってきたブラジル人たちが、30年間日本で見た光景はどのようなものだったのか。イッセー尾形さんが、取材元になった日系ブラジル人が多く住む団地の一角で前代未聞の“公開一人芝居”。脚本は、宮藤官九郎さん。日系ブラジル人から見た“日本人あるある”や、彼らを「ガイジン」「労働力」として見てきた日本社会の側面を、笑いあり、涙ありに描く。「ガイジン」と呼ばれてきた人たちが歩んできたニッポンでの30年間とは?

こちらのサイトで、イッセー尾形さんのインタビューと、一人芝居の様子がわかる動画がご覧になれます。

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・マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
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・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声

2020年12月2日

マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"

足が速いんでしょ」「英語ペラペラなんですよね」「元々黒いから日焼けしなくて、いいね」――日本に住むアフリカをルーツにもつ人たちがたびたび言われるという言葉です。
ふだんの会話の中で、何の気なしに発せられるものですが、中には言われた側が傷つき、さらにいじめや差別などにもつながることもあることもわかってきました。こうした行為は「マイクロアグレッション(小さな攻撃性)」とも言われ、海外では長らく問題視されています。
「マイクロアグレッション」がなぜ、どんな場面で生まれるのか。傷つく人を減らすためにどうしたよいのか考えます。
(取材:「おはよう日本」ディレクター 加藤 麗)

渋谷で開かれた#BLMデモに3500人が参加

わたしは大学時代、アフリカのルワンダ共和国に10か月間留学した経験があり、アフリカや黒人差別の問題に関心を持ってきました。人種差別に対する抗議の波が世界中に広がり続けていた6月、東京・渋谷で行われた#BLM(ブラックライブズマター)のデモの現場を取材しました。この日、渋谷のデモに集まったのは3500人。私は参加者たちが掲げるボードの一つに目が止まりました。「BLMは対岸の火事じゃない」ー


2020年6月に渋谷で行われた#BLM デモ



「“黒人”としてではなく、人として接してほしい」

日本も「対岸の火事じゃない」とはどういうことなのか? 私は日本に住むアフリカにルーツを持つ若者たちの”居場所”として活動する「アフリカン・ユース・ミートアップ」に取材を申し込みました。代表の三浦アークさん(17・高校生)は、東アフリカのウガンダ共和国と日本のルーツを持ち、日本で生まれ育ちました。


はじけるような笑顔が印象的な三浦アークさん 実体験を動画にし自作曲とともにSNSに投稿している


三浦さんは中学校でバスケットボール部に入部すると、すぐに周囲から「スポーツがうまそう」と声をかけられ、チームの戦力として期待が寄せられました。しかし「期待に応えたい」という気持ちとはうらはらになかなか上達せず、逆にからかわれるようになります。それはやがていじめへとつながっていきました。

日焼けをした同級生が肌を並べてきて「三浦と色が近づいた」と嫌そうに言うなど、外見の違いをネタにしていじめられることも重なり自尊心を失っていきました。そのうち学校が怖くなり、不登校になりました。

三浦アークさん
「“黒人“としてみんなが期待するように運動ができるわけでもない。日本では、髪がサラサラで肌が白くて小柄な女の子がかわいい、と言われるけど自分は正反対。残念な存在だなと思っていました


「目立ちたくない」という思いから、三浦さんはカメレオンのように、その場の状況に適応することを心がけてきたといいます。高校に入るといじめはなくなりましたが、制服で立っているだけで職務質問を受けたり、行く先々で出身国を聞かれるなど、見た目だけをもとに判断されていると感じることは続き、自分は何者なのか?という問いに苦しめられました。

三浦アークさん
「17年間日本で育っているので見た目以外は日本人なんです。それなのにどこに行っても外人というレッテルで見られているように感じます。一人の人として接してもらいたいそれが一番の願いです」


三浦さんが仲間と立ち上げた”アフリカン・ユース・ミートアップ”の集まり


一人悩んだ経験生かして 高校1年で”若者の居場所づくり”

周りに相談できる人がおらず一人で悩んだ経験から、三浦さんは高校1年生だった去年、同じようなルーツを持つ若者が集まる“居場所”にしたいと、「アフリカン・ユース・ミートアップ」を立ち上げました。いまは月に1回ほどオンラインでミーティングを開いています。 仲間と話すことで三浦さん自身、⾃らのルーツに誇りを持てるようになっていったといいます。

三浦アークさん
「いじめを経験すると、みんな自分を ”ダメな存在だ” と責めてしまうんです。でも肌の色みたいに、自分では変えられないものを理由に、言われる言葉が(他の人と)変わるのはよくないですよね。これは普通の人がしない経験です・・・。同じ経験やルーツを持つ人たち同士でアドバイスし合うことで”自分は自分でいい” と思い直せるように。”自分を責めないで生きてほしい” と伝えたいです」


アフリカンルーツの若者が日本社会で経験する差別

三浦さんが体験したような「肌の色やルーツに対する差別」はどのくらい起きているのか。アフリカにルーツを持ち日本で育った5人に集まってもらい、差別にあった経験についてたずねました。似た背景を持つ者同士が集まっている安心感もあってか、ふだんの生活の中ではあえて話さないような体験談が次々と出てきました。

「患者さんを治療しようとしたら ”このゴリラめ”、”お前みたいな原始人めが” って言われて、すごくショックを受けて、何も言えなくて言い返せないでいたら、”お前なんかもう看護師になるんじゃねえ!”、”もう別の人呼んでこい"」とか言われて。結局ちょっと半泣きしながら先輩を呼んできて先輩と一緒に謝ったんですけど、次の日に思い出してブワァってすごい泣きました(ナナさん・仮名/看護師)」

「職務質問をしょっちゅう受けます。止められるだけならまだ我慢できるんですが、”クスリをやってるんだろう” って決めつけて言われちゃうんですよ。”黒人って財布のここの部分に麻薬が入ってるんだよね” みたいな。(ナカオ・エイベルさん/モデル)」

「”お父さんどこの人?”と聞かれて、ガーナ人ですっと言うと ”じゃあ出稼ぎなの?”、”どこの部族なの?” とか。アフリカ系の人とか黒人系の人が野蛮だったりとか知能が低いとか、そういうイメージを持って前提として話されるんです。”日本人と結婚できてお父さんラッキーだったね” みたいなこととか。(アリサさん・仮名)」


悪意のない発言にも潜むネガティブな力

そして5人が口をそろえたのが、明らかな差別だけでなく悪意のない言葉や行動のなかにも深く傷つくものがある”ということでした。

・「足が速そう、歌やダンスが得意そう」と言われる
・「その髪どうなっているの?」と言われ、勝手に触られたり引っ張られたりする
・「元々黒いから日焼けしなくて、いいね」と言われる
・「英語が話せない」と言うと、「変だね」と言われる
・「日本で育ちました」と伝えても、「お国はどちら?いつ帰るんですか?」と聞かれる
・レストランで、日本語で話していても英語のメニューとフォークが出てくる


当然ながら、アフリカをルーツに持つ人でも、運動や歌などが苦手な人はたくさんいます。得意でないことに過度なプレッシャーをかけられることで、期待にこたえられない自分を責めてしまい、自尊心を失ってしまうといいます。

ルーツのある国を聞かれることも、1回なら問題がなくとも、1日に何十回も、毎日のように質問されると「あなたはこの国の人ではない」というメッセージとなり、心の中に積み重なっていくといいます。

今回参加してくれた5人は、長年こうした言葉に悩まされてきましたが、そのことを特に声に出して発信することはありませんでした。周囲に相談しても「気にしすぎ」「聞き流せば良い」と言われることが多かったからです。

日本人vs外国人のようになってしまうのは望んでいません。相手に悪気がないこともわかっているので、加害者であるかのように責めることはしたくないですし、今まで強く指摘しないようにしてきました。でも、僕らの下の代の子たちも同じことで苦しみ続けています。僕はモデルですが、自分が世に出ることで、僕らの経験や思いを理解してもらうきっかけになればと思い、この職を選びました」(ナカオ・エイベルさん/モデル)

座談会で語るナカオ・エイベルさん(モデル)


放っておくと危険な「マイクロアグレッション」

アパルトヘイトなど差別問題の解決に長年関わり、アフリカにルーツを持つ日本の若者の支援を行っている津山直子さん(アフリカ日本協議会代表)に、5人の体験を読み解いてもらいました。「明らかな差別に見えなくとも、先入観や偏見を基に相手を傷つける行為」は「マイクロアグレッション」(小さな攻撃性)と呼ばれ、アメリカでは1970年代から問題視されてきたといいます。

下の図はマイクロアグレッションの危険性を示した「ヘイトのピラミッド」です。

監修: アフリカ日本協議会代表 津山直子さん


1つ1つは大したことがないように見えても、小さな攻撃性を持つ言葉や行為が社会にまん延すると、ピラミッドの上段にあたる、よりひどい差別が起こりやすくなります。社会に偏見が広がると過激な差別発言をする人が増えますし、ステレオタイプを元にした”からかい”が増えれば、いじめにつながりやすくなるといわれています。こうしたことは、国を問わず、特にマイノリティや力の弱い人々に対して共通して起きている問題だといいます。


「マイクロアグレッション」をどうしたら無くせる?解決へのヒント

先日、「おはよう日本」でマイクロアグレッションについての企画を放送し、 それを動画にしてSNSでも投稿したところ、”何の気なしの言葉に傷つくなどと言われたら、コミュニケーション自体しづらくなる” という意見を数多く頂きました。マイクロアグレッションをなくすためにはどうすればいいのか。座談会の5人の意見を紹介します。

「やっぱり学校教育が変わってほしいです。黒人奴隷としてだけでしか私たち(のルーツ)が描写されてないんですよね。それも歴史の記録の問題かもしれないですが、今はどうなのかとか、身近な生活につなげるディスカッションをもっとしたほうがいいと思います。(三浦アークさん/高校生)」

「ふだん日本で見かけるアフリカの映像って悪い面ばかり。アフリカは貧しくてみんな飢え死にしてるわけじゃないのですが・・・。”今でもジャングルで住んでる人とかいるの?” って聞かれたんですよ。"いるかもしれないけど、ほぼいません" って感じです。アフリカ人はみんなジャングルで動物と暮らしてる、みたいなイメージがまだあるということが、よくないと思います」。(ナナさん・仮名/看護師)


日常会話の中で、ちょっと気をつけるだけで大丈夫、という具体的なポイントも教えてもらいました。

「みんな日本に住んでいるので ”ハロー” とかじゃなくて普通に ”こんにちは”でいいです。”ハロー” と言われると ”こんにちは、でも私は日本人です” っていうところからのスタートになっちゃうので。(アリサさん・仮名)」

バックグラウンドとかそういう質問を投げかけてもらう時に、”もしこれ聞いて傷ついたら申し訳ないけど” とか前置きがあってくれるとすごくいいなって。(マヤさん・仮名/デザイナー)」


いま「マイクロアグレッション」を考えたい理由

取材をしていると私自身、ギクッとすることが多くありました。私もアフリカに留学していたとき「目が細くてキレイだね」「日本人だからカンフー上手いでしょ」などと言われ、悪意がないとわかっていてもモヤッとした経験があります。にもかかわらず、自分も日本でアフリカのルーツを持つように見える人に対して「きっとこうだろう」という安易な推測をもとに発言をしてしまったことがあると思うからです。

親切心やほめことばが、マイクロアグレッションにつながってしまう場合もあり、どこからがマイクロアグレッションかというのは難しい問題です。だからこそ取材した皆さんも「自分だけが我慢すれば良い」と声を抑えてきたのだと思います。今回、勇気を出して取材を受けてくれた人の中には、涙ぐみながら、複雑な心境や差別体験を語ってくれる方が多くいました。

誰が悪い、何が悪いという話ではなく「外国人=全員よそから来た人」という先入観を疑い、コミュニケーションすることが大事だと感じました。日本には、多種多様なルーツを持つ人々がいて、日本人として生きている人も数多くいます。相手がどういう事情や思いを抱えているのか、もっと想像をしながら接することが、社会の“⽣きづらさ” をなくしていくためのカギではないかと感じています。
(取材:「おはよう日本」ディレクター 加藤 麗)


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2020年11月27日

在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント

11月に放送した クローズアップ現代+「日本で暮らし続けたい~ルポ“在留資格”のない子どもたち~」では、在留資格を持たない、いわゆる“非正規滞在”の外国人について取り上げました。こうした非正規滞在の外国人と諸外国はどう向き合っているのか。日本と異なる制度や仕組みを導入している2か国について、海外の移民政策に詳しい小井土彰宏・一橋大学教授にお話を聞きました。
(取材:「クローズアップ現代プラス」ディレクター 前田 陽一))

非正規移民の若者たちを救った!? アメリカの注目政策

まず、最初に紹介するのはアメリカ合衆国です。「移民の国」として知られるアメリカは、非正規移民の数が推定1150万人。トランプ大統領の非正規移民に対する強硬策は、報道などを通して知っている人も多いでしょう。非正規移民に対して厳しい国、というイメージがあるアメリカですが、注目すべき政策があります。それが「DACA(ダカ)」プログラムです。DACAによって、2012年以降、76万の若者が暫定的ながら、一定の権利を認められています。

DACAとは?
若年移民に対する国外強制退去の延期措置(Deferred Action for Childhood Arrival)のこと。子どものときに親に連れられてアメリカに不法入国した人などの強制送還を猶予する制度です。猶予は2年間で、更新可能。

DACAに至る背景 声を上げ続けた非正規移民の若者たち

2000年代、アメリカでの非正規移民が1000万人を超え、改革が必要と求められていきますが、その中でも柱として考えられたのが、高学歴層の若者の滞在と就学・就労を承認するという目的で提案されたドリーム法案(DREAM ACT)でした。ドリーム法というネーミングには、困難な中で大学進学を果たすなど、非正規移民の若者が実現してきたものこそがまさに現代のアメリカン・ドリームであるという意味が込められており、数世代前に夢を追ってアメリカにやってきた多くのアメリカ市民たちの理解を受ける狙いでつけられました。

しかし、この法案はなかなか実現しませんでした。変革を訴えて登場したオバマ大統領は、非正規移民たちからドリーム法案の実現を強く期待されていました。しかし、グローバル金融危機を背景に登場したオバマ政権は、本格的な改革に着手できませんでした。共和党が支配する連邦議会でもドリーム法案は繰り返し挫折します。
それどころか、日本ではあまり認識されていませんでしたが、オバマ政権は多くの非正規移民たちを強制送還し、その数は一時年間40万人に達したほどです。きわめて大規模な強制移動です。

(非正規移民の若者と面会するオバマ元大統領)

DACAは、このような大きなジレンマの中でオバマ政権が状況の突破口として編み出したものでした。2012年6月にオバマ政権は、立法府である連邦議会を通さない形で、連邦の方針として該当者に強制送還を猶予し、一定の権利を与えることを決めたと発表しました。

その該当者とは、16歳未満で国境を越えて米国に来て、成長して大学に進学したり、高校在学中で大学進学が可能な状態にある人でした。加えて、非行集団に属した経験などがないといった、アメリカ社会に順調に適応しているという条件を満たしていることが求められます。

DACAがもたらしたものとは

彼らに与えられる権利は、強制送還の2年間の猶予です。暫定的ではありますが、合法的にアメリカに滞在することが認められ、DACAと記された身分証明書を与えられ、大学の進学奨学金への応募も幅広く認められるようになります。

そして、卒業後は、合法的に就労が可能となります。これまで学費を稼ぐために例えば家事労働や、洗車といった、低賃金で流動性が高い職種で働かざるを得なかった彼らが、DACA認定を受けることで、大学で学んだ内容を活かせるような職種につくことが可能になっていきました。
DACAの権利の有効期間は2年間で、完全な合法化・正規化とは異なるものの、更新が可能でそれが繰り返される限りは、就労に支障もありませんでした。

DACAは非正規移民の子どもたちに何をもたらしたのか。複数の専門家の実証研究によると平均的な時給や所得の上昇といった経済的な改善が見られました。また、ホワイトカラーの専門職への就職、大学院への進学という形で、自らの職業的能力を発揮したり、知的能力を向上させたりするルートが増えました。
例えば、国内有数の名門大学であるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)には数百名のDACAを受けた学生がいるという報告もあります。


(DACAを求める非正規移民の若者たち)

トランプ政権による移民排斥ばかりがクローズアップされるアメリカですが非正規移民に対する政策の中には日本も学ぶべきものもあります。もちろんDACAには、高学歴層に限定するなど、様々な問題がありますが、結果的に救われている人がいるのも事実です。そして、それが実現した背景には声を上げ続けた当事者たち、彼らの力を必要とする産業界の声など、様々な要素が相まっているのです。
DACAに否定的だったトランプ政権の終焉が確実になってきたことにより、この制度の存続が可能になる見通しとなりました。今後、非正規移民の若者のより安定的な権利に向けての議論が再び活発化していくものと考えられます。


ヨーロッパ中でも“ユニーク”な移民政策で知られるスペイン

次にご紹介するのは、移民を巡って揺れ動いてきたヨーロッパの中でもユニークな政策で知られるスペインです。知らない人も多いかも知れませんが、21世紀の最初の10年間で、アメリカに次ぐ世界二位の移民受け入れ国となったのがスペインで、人口4000万を切る程度の国だったのが400万人以上を新たに受け入れた結果、人口に占める移民の割合は12%を突破しています。これはヨーロッパの中ではドイツに匹敵する数字です。その後、経済危機により近年は減少に転じました。
しかし、より注目すべきはこれだけ短期間に急激な移民人口増を見ながらも、スペインでは本格的な移民を巡る深刻な社会的紛争は限られており、また少なくとも2019年ごろまでは本格的な移民排斥運動も極右の台頭も見られてこなかった点です。この非常に興味深いケースを内部から観察するため、私は2014年夏より1年間かけて現地調査するなどしてきました。


(スペインとモロッコの国境。アフリカ西部からの流入が多い)


かつては移民を“送り出す”側だったスペイン

スペインの歴史は、西欧諸国と比較して独特です。戦後も独裁体制が継続し、スペインは政治的に孤立して経済発展は遅れていました。この結果、スペインは戦後1970年代半ばまで、ドイツやかつてスペイン帝国の旧植民地であったラテンアメリカに向けての移民送出し国であり、亡命者が出ていく国であったのです。
1975年以降スペインは民主化を経験することで、その後、急激に経済成長を経験していきます。この結果、1980年代後半になって初めて本格的な移民受け入れを経験していきます。過去、移民や難民の経験を持つ人々が国内の各層に多数いる中で、新たな移民を受け入れていったわけで、このことが独自の移民政策の素地となりました。


(第二次世界大戦後もフランコ政権による独裁が続いた)

社会への“定着性”を評価

実は、スペインも急激に移民労働者が増大した際に正規の手続きを行わずに入国し、非正規移民として就労を続ける人々が急増しました。日本にも似て表向きは厳しいビザ手続きがありなかなか取得できない一方、実は国内には労働力が不足する中小自営業等が多数存在し、非正規移民労働者を雇用して事業を続ける雇用主が多数いました。これに対するスペイン国家の対応は、周期的に正規化=合法化を行うことで、非正規移民が一定数を超えることを避けながら必要な労働力を維持することでした。

ここでスペインが特徴的なのは、たとえ非正規であっても、社会や職場に定着したことを評価して、在留資格を与える「正規化」を行ってきたのです。過去最大の正規化を行ったのは2005年、実にその数、70万人に達しました。このときは、過去1年間の就労実績と社会的な「定着」が考慮されました。
つまり、技能を語学試験や、免許などの形式的な資格ではなく、現場で身に着けたものを評価するという発想です。正規化の際には、例えばシェフがコックとして働く移民の能力を証明したり、建設の小事業主が移民の大工としての能力と就労した事実を証明したりするわけです。

なぜ排外主義は台頭してこなかったのか

スペイン政府はこの大規模正規化とともに、「社会統合全国フォーラム」という協議会を設立し、担当官庁や人権・支援NPO、そして移民自身の団体を組み込んだ三者による円卓形式の会議を、移民専門家を議長に据えて、定期的に開催してきました。このような当事者たちの「声」を組み込むことで、参加民主主義的な形で相互理解を促進することを重視してきました。

また、社会統合研究所という機関を各自治州に設置して、移民たちの動向を分析し、地域的な議論として活用してきました。 各自治体レベルでは、「通文化(間文化)媒介者」と呼ばれる、 移民と地元の人々の間や多様な移民相互間の文化を橋渡しする人々を配置。住民と移民の間の偏見や誤解に基づく紛争を事前に回避したり、緩和したりするための政策を進めてきました。このような実質的な受入れと共生政策を合わせて打ち出すことで、急激な移民増加による社会的緊張を緩和させることができたと言えるでしょう。

このような制度構築ができた背景には、移民として働いた経験のある労働者層に加えて、エリート層の中にも亡命者として他国で滞在したことがある者がいたことがあります。スペインは、移民の視点を理解することの重要性を歴史の中で体得してきたのです。

ちなみに2018年、「Vox」という極右政党が民主化後初めて議会で一定の議席を獲得したことが注目されていますが、これをもって単純に反移民勢力が台頭したとも言えません。この政党への支持はカタルーニャ州の分離独立主義に対するマドリードの保守派層などを含んでおり、同じ選挙では移民に寛容な社会労働党も議席を増加しています。不況長期化=反移民台頭という図式では簡単に語ることは難しいと思います。

“非正規滞在外国人”と国家 どう向き合えばいい?

ここまで、アメリカとスペインの2か国について見てきました。現代、世界のどこの国家においても、非常にうまく移民政策を実施できているとは言い切れません。ですが、そのことへの反発で現実的に必要な人々の受入れを恣意的に断ち切ろうとすれば、より深い問題を作ることにもなりかねません。
一挙に理想的な移民政策を打ち出せると考えたり、逆に難しい問題が出てくるからといって移民政策という課題を否定したり回避したりすることは現実的ではありません。現実の経済的・社会的必要に応じて制度を構築し、それを常に“manage”する。すなわち多面的な課題に何とか対処しながら、時間をかけ、段階的に制度を改善していくことが大切でしょう。

小井土彰宏 一橋大学大学院社会学研究科・教授
ジョンズ・ホプキンズ大学社会学部博士課程修了、カリフォルニア大学サンディエゴ校研究員、北海道大学文学部助教授、上智大学国際関係研究所助教授を経て現職。『移民政策研究』編集委員長


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・マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
2020年11月27日

在留資格のない子どもたち 背景は?【インフォグラフィックス解説】

在留資格のない子どもたちやその家族の事情を説明しようとすると、どうしても耳慣れない言葉の羅列になってしまいがちです。今回、”在留資格”のない子どもたちを理解するうえでとても大切な”帰れない”事情を、取材で会った様々な家族を思い出しながらインフォグラフィックスでまとめてみました。























連載3では、在留資格のない外国人に海外ではどう対応しているのかをご紹介します。日本の状況を改善するヒントになればと思います。

【あわせて読む】
・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声
・在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント
・いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”

・マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【後編】『表現の自由』どう考える
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【前編】差別あおる言葉なくすには
#Beyond Gender
2020年11月21日

Vol.2 次々登場“フェムテック” 生理用ショーツに更年期対策も

女性の“生きづらさ”をテクノロジーで解決! 
「ん、漏れてる?…あ、ヤバイ!」 仕事中、ふと股間を伝う違和感にドキッとしてしまうこと、ありますよね。

私も仕事に没頭しすぎて、気づいたら経血漏れでイスが大惨事という経験が・・・その後はイスにじっと張り付いて、同僚たちが帰るのをひたすら待ちました。夜、静まりかえったオフィスで座面の赤いシミを拭いていたら、涙がこぼれてしまって・・・。

ところがそんな私の日常に最近、革命が起きました。それが「ナプキンの要らない生理用ショーツ」です。半信半疑でしたが、試してみると本当に1日経っても漏れがなくて、まさに目からウロコ。小6以来の悩みの一つがあっさりと解消されたのです。

「生理」「更年期」など女性特有の様々な悩みを、新たなアイデアや科学技術を用いて解決する・・・こうした商品を「フェムテック」と言います。(Female(女性)とTechnology(技術)をかけ合わせた造語です。)

社会の中で生きる女性たちを応援してくれそう!と期待高まる「フェムテック」、その最前線をお伝えします。 (関連記事「AMH検査で“卵子の残り数”がわかる!?」

(クローズアップ現代プラス 浅岡理紗ディレクター)


スタートアップが続々登場 “フェムテック”
いま世界中で、フェムテックの新たなアイテムが続々と登場しています。 2020年7月、そうした製品を取りそろえた生活雑貨店が東京・港区にオープンしたので、行ってきました。


■冒頭で紹介した、ナプキンが要らない生理用ショーツ
何層にも重ねた特殊な生地が経血を吸収し、表にしみ出すのも防ぎます。国内外のメーカーからデザインも性能もさまざまなショーツが登場していて、自分にあった商品を選べます。



■妊娠しやすいタイミングを教えてくれる機器(アメリカ製)
白くて丸いデバイスを膣の中に入れると、おりものの成分を測定し、妊娠しやすいタイミングを教えてくれます。妊活中の女性のニーズから誕生しました。



■尿漏れを防ぐトレーニンググッズ(イギリス製)
更年期の女性に多い「尿漏れ」の悩み解消のための製品。楕円形のボールを膣の中に入れてキュッと閉めると、連動したスマートフォンの画面でボールがポーンと跳ね上がります。排尿コントロールに大切な骨盤底筋を、キュッ、ポーン、キュッ、ポーンと、ゲーム感覚で鍛えることが出来ます。


「生理」「妊娠」「更年期」といった女性特有の悩みを、テクノロジーで真っ向から解決していこうというフェムテック。それは、これまでタブーとして見過ごされてきたこれらの課題を明るみに引き出し、具体的な問題解決はもちろん、人々の意識までも変化させて、社会に革新をもたらそうとしています。


(店のプロデューサー 小尾奈央子さん)

小尾さん
「女性の社会進出が進み、こうした(女性特有の)悩みが社会全体で解決すべきことになってきています。もうタブーではない!タブーのままではいけないのです。お店にはカップルで来店される人もいます。男性も、生理のことを女性に聞いてはいけないという概念があったかと思いますが、こうしたフェムテック製品を一緒に手に取ることで、話してもいい、共有していい話題なんだと認識する方もいます。」

体の悩みと深く関わる女性ホルモン
フェムテックが解決をめざす女性ならではの体の悩みと深く関わっているのが性ホルモンです。女性ホルモンの分泌量は10代で急上昇し、毎月の生理のたびに変動、そして40代から急降下します。その動きに伴って、生理痛や更年期症状などさまざまな不調が起きます。そのジェットコースターのような変動は、現役世代の間はホルモン分泌がほぼ一定の男性とは対照的です。


(女性と男性のホルモンの変化)

「漏れない生理用ショーツ」 オンナの実体験にビジネスチャンスあり!
女性たちに立ちはだかる課題を新ビジネスの舞台ととらえフェムテックを生み出しているのは、一体どんな人たちなのでしょう。私の悩みを解消してくれた「生理用ショーツ」を開発した企業を東京・渋谷区に訪ねました。


(中央の左が山本未奈子さん、右が髙橋くみさん)

社員30人はすべて女性。「女性の輝く社会」をコンセプトに、化粧品など様々な商品開発を行っています。

この会社を率いる、山本未奈子さんと髙橋くみさん。
働く女性として、二人も「生理」の悩みを切実に感じてきました。


(山本さん)

山本さん
「会議が長引いて仕事に入り込んでしまうと、トイレに行くタイミングを忘れてしまうんです。 会社の椅子が白いのもあって結構シミに・・・。私もよく漏れてしまってアッ!ということがあります。」

2人がショーツ開発を始めたのは3年前。アメリカで「ナプキンの要らない生理用ショーツ」を目にしたのがきっかけでした。「これこそ働く女性が求めている商品だ」と確信し、日本人のニーズに合わせた商品を自分たちで開発すると決意します。 製造を依頼したのは山陰地方にある小さな縫製工場です。


(縫製工場)

もともと高齢者向けの尿漏れパンツを得意とし、布に水分を吸収させる豊富なノウハウを持っていました。でも工場側は、「生理用ショーツ」という思いもよらない依頼に、最初は戸惑ったそうです。

縫製工場社員
「難しいと、一旦はお断りしたんです。どうしても女性の生活を変えたいということを何度も口説かれて、気持ちが動いたといいますか、やってみようという気持ちになりました。」

難しかったのは、吸水量の大幅UPでした。通常の尿漏れパンツでは、吸水量は多くても50ml程度ですが、今回のショーツは120mlの性能を持たせました。それは、生理2日目の経血量の3倍にあたります。

吸水体は、性質の異なる5枚の特殊な布を組み合わせたもので、身体からずれないように、縫い付け方も工夫されています。2年半をかけて、漏れを防ぐ工夫を結集したショーツが出来上がりました。


(募ったクラウドファンディング)

実は、 山本さんと髙橋さんはショーツ開発の過程で、ネット上から投資を募るクラウドファンディングを行ったのですが、1か月で9000人以上が参加し、なんと1億円以上の資金が寄せられました。商品への期待の高さがうかがえますよね。

このファンドに参加し、ショーツを使い始めた女性に話を聞きました。

洗濯は基本的に手洗いをしていて、しっかりキレイにしたいときには、そのあと他の衣類と一緒に洗濯機にかけているそうです。使い心地を聞いたところ・・・

女性
「普通に生活して歩いたり動いたりしても漏れないし、寝ている時も漏れないので驚きました。仕事で外を歩き回ることも多く、そんなときはトイレに行けず困っていました。これでもっと活動的になれると思う。」

女性たちが感じてきた“生きづらさ”を背景に、次々と生まれているフェムテック。それは社会全体に地殻変動を起こしてくれるのではないかと感じました。

私たちは今後もこのテーマについて取材を続けていきます。

次回紹介するフェムテックは、女性の体の中の「目に見えないアレ」を手軽に知ることで、「人生設計がもっと立てやすくなる」という内容です。

あなたは女性ならではの“体の悩み”についてどう思いますか?“体の違い”がある中で、皆が生きやすい社会・職場にするには、何が必要だと思いますか? 記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。



フェムテックについてもっと知りたい方は、こちらの記事も↓
#Beyond Gender
2020年11月13日

在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声

日本で生まれ、あるいは育ちながら“在留資格”がないために国外退去の対象となっている子どもたちがいます。多くが、難民申請をしたものの認められなかったり、オーバーステイの親から生まれたりしたケースです。未成年のため入管施設への収容は免れていますが、「仮放免」という立場で、様々な制約を受けながら暮らしています。統計上、その数は全国に300人あまりとされていますが、どこでどのような生活を送っているのか、詳しくは分かっていません。

クローズアップ現代+「日本で暮らし続けたい~ルポ“在留資格”のない子どもたち~」では、支援者や弁護士の協力を得て、連絡先が分かっている子どもたち50人とその家族にアンケートに答えてもらいました。番組ではお伝えしきれなかった、子どもたちの切実な声をご紹介します。(取材:「クローズアップ現代プラス」ディレクター 前田 陽一)

※かっこ()の中は、子どもたちや親の出身地です。また、表記は子どもたちが書いたものから変えずにご紹介します。
“在留資格がないことで困ったことは何ですか?

「病気になったとき、病院でお金を100%払わないといけなく、それがなかなか高いから気軽にいけない。日本のあらゆる保障を受けられないため慎重に生活をしなきゃいけないとき」(14歳/ベトナム)

「友だちと県外にでかけられない(※1)/将来がとても不安」(13歳/ペルー)

「これからある大学にもいけない。働くこともできないから将来が不安でしかたない」(16歳/ペルー)

「職業につけない、学費はらえない、アルバイトができない」(17歳/ガーナ)

「ともだちができることが自分はできない。せいかつがくるしい。なにをするにもじゆうがない。さべつがおおい」(年齢不明/トルコ)

※1:仮放免中は、都道府県をまたぐ移動は、事前に入管の許可がいるため




日本を離れることができない理由は何ですか?
「日本で生まれ日本でずっと生活してきて、日本の社会に適応して、日本でやりたいこと、したいこと、将来の夢があるのに、日本を追い出され何もわからないところにいって言語が話せなくて、そのまま仕事につけなかったりするのが嫌だから」(14歳/ベトナム)

「親の故郷の言葉と文字がわからないからなのと、友だちとはなれたくない。私は人見知りだからはじめていった場所になじむまですごく時間がかかるから近くにしっている人がいないと私はとてもこまるんです。言葉がわからないのでもっと困る」(13歳/ベトナム)

「私は日本でうまれ、日本で育ちました。これからも家族や友だちとずっと大好きな日本にふつうに暮らしたいです。理由はただそれだけです」(13歳/ペルー)

「日本語しか話すことができない。ましてや同じ年の日本人の子どもと同じように教育機関を受けたのにいきなりペルーで過ごせと言われても上手くやっていけるわけがない。リスニング、リーディング力がペルーの幼い子供よりないのに」(19歳/ペルー)





法務省はいま入管法の改正を目指しています。収容のあり方を見直す一方、国外退去に従わない場合は、懲役刑を含む罰則を科すことを検討しています。


罰則が厳しくなるかもしれないことについてどう思いますか?
「20歳になったら自分もつかまってしまうとおもってこわかった」(12歳/コンゴ)

「なにもしてないからかえるいみがわからないです。まるで僕らにじんけんがないようにあつかわれて、とてもはらがたちます。みんなびょうどうとかきれいごといってるのに、私たちのことを人としてあつかわない、これはじんけんしんがいだと思います」(年齢不明/トルコ)

「“でていけ”だけで済ませるだけではなくて1人1人の声、じじょうをもっと知ってほしいです。入管の人はかんたんに“でていけ”と言いますが、その人たちに私たちの生活がどのようなものかを知ってほしいです」(13歳/ペルー)

「もっとよく考えなおしてほしい。100人以上の同じ問題の人がすごく苦しんでいる人の気持ちをかんがえてほしい」(17歳/ペルー)


切実な声が多く寄せられる一方で、日本で生まれ育った子どもたちが、この国をふるさと、自分の居場所として考えていることも伝わってきました。




あなたの将来の夢は何ですか?

「弁護士になって困っている人を助けたい」「教師になって、将来日本の未来を切りひらいてくれるような人材を育てたい」(14歳/ベトナム)

「日本でだれかを笑顔にする仕事がしたい」(13歳/ペルー)

「ファッションデザイナー」(17歳/ガーナ)

「航空整備士として、日本国内の空港で働きたいです」(17歳/インド)

「人を支えられるような仕事」(17歳/ペルー)




アンケートの自由記述欄にも多くの本音が寄せられました。その中から、支援団体が集めた寄付金によって大学に通う19歳の声をご紹介します。


「私の様な子供はたくさんいます。少しで良いのであなた方も想像して下さい。考えて下さい。本当に変わらないんです。私も生まれは日本なんです。同じ日本人なのです。お願いですどうか他人事だと考えないで下さい。私たちは自由のために戦います。ですがあなた方日本人も少しで良いです私たちのために働きかけて下さい。この戦いに勝つために」(19歳/ペルー)


今回集められたのは計50人の子どもたちの声です。国外退去の対象となっている在留資格のない子どもたちは、学校には通えるようになっていますが、その他のセーフティネットからこぼれ落ちているケースも多く、支援団体や弁護士でも居場所を把握していない家族もいるとのことでした。
大変な状況の中、声を寄せてくださった皆さん、本当にありがとうございました。





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2020年11月12日

Vol.1 “有毒な男らしさ”を考える

いまSNS上で「#有毒な男らしさ」という言葉が飛び交っています。

「面倒なことは女に押しつける、“有毒な男らしさ”」
「間違えても謝らないという態度、“有毒な男らしさ”」

(英語で Toxic masculinity “有害な男らしさ”とも訳されています)

周りに悪影響を与える「有毒な男らしさ」をコロナ禍で実感する人が増えたといわれます。はたして、その〝解毒剤〟はあるのか。理想の有名人夫婦ランキング“常連”の佐々木健介さん、北斗晶さん夫妻と考えます。 

(おはよう日本 取材班)

“自分が稼がねば” 男らしさに苦しめられた男性
街なかで現役世代の男性に聞いてみると…

「こういうご時世で給料面でも厳しい。これ以上下がると自分が情けなくなってしまう。家に帰って相談事をするのは…、弱い人間だと思われたくない」(40代 会社員)

「“男が女性より頑張っている、勝ってないといけない…”そういうのが まだ残っている」(40代 会社員)

『自分の稼ぎで家族を養わねば…』コロナの影響が続く中、そんな思いに追いつめられた男性がいます。松山市内で居酒屋を営む清水裕一(しみず ゆういち)さん(43歳)。


(居酒屋オーナー 清水裕一さん)

元々はサラリーマンでしたが、子どもが生まれた後に一念発起。9年前に独立しました。「働く姿を家族に見せたい」との思いからでした。

清水さん
「“男らしさ”のひとつではありますけど、やっぱり“一国一城”じゃないですが、何か一旗揚げて“ちょっとやったよ”という爪痕を残す。」


(清水さんと家族)

ところが新型コロナの影響で、2か月間、営業は休止。5月の売り上げは去年の2割以下に。助成金の申請書類の作成など、自宅での作業に追われた清水さん。これまで店が休みの日以外は、ほとんど顔をあわすことのなかった子どもたちと一緒に過ごす時間が増えました。
仕事への不安や、慣れない子どもの世話。誰にも相談できないまま、日に日にストレスがたまっていきました。さらに看護師の妻が、コロナ禍においても毎日仕事に行く姿に自分のふがいなさも感じました。そして いつしか子どもたちに、強くあたるようになったといいます。

清水さん
「ふだんは怒らないんですけど、子どものことまで かまっていられない。余裕がなかった。『早く(勉強)やれって言っているでしょ!』と、よく怒っていました。」

妻の恵(めぐみ)さんは、傷ついた娘からこっそり報告を受けたそうです。


(妻 恵さん)

妻 恵さん
「(娘から)『パパには言わないでほしいんだけどね』という感じで。『パパと3人は楽しいけど、ちょっとしたことですぐ怒る』って。主人に、客観的に知っておいてほしいと思ったので、『どう思う?』みたいに尋ねたら、『あー、そうかもしれない』という感じでした。」

清水さん
「言われてハッとしました。反省しました。昔、女性経営者の方に、“いちばん邪魔なのは男のプライド。1円にもならない男のプライド”と言われたことがあって、『何を言っているんだ、この人は』と思っていたんですけど、てきめん そういう部分なんだろうな。わかっているけど、変えられなかった。」


佐々木健介さん&北斗晶さんの家庭は?

(理想の有名人夫婦ランキング常連 北斗晶さん・佐々木健介さん)

佐々木健介さん
「僕も若かったときは、『俺は男だ!』といばっていましたけど、今は年をとって丸くなった。いいオッサン。洗い物でもなんでも率先してやります。」

北斗晶さん
「そうですね。いいオッサンになりました。(笑)」

健介さん
「『男だから、やらなきゃいけない!』『家族のために』と思いがちな男性もいるかもしれませんが、たいへんなのは男だけでなく、女性も家事のことなどでたいへん。お互いが分かり合えないといけないですよね。」

北斗さん
「男性が思っているほど、妻のほうは『男だからやらなきゃ!』『男だからやって!』とそこまで強くは思っていないと思う。共に暮らしながら(妻は)『お互いに頑張らなきゃいけない』と思っているでしょうけど、それを口に出して言わないと、(夫にとっては)プレッシャーになってしまうのかもしれないですね。」

コロナで露呈!?“有毒な男らしさ”

(大正大学 心理社会学部 准教授 田中俊之さん)

ジェンダーの問題を男性の視点から研究する「男性学」が専門の田中俊之(たなか としゆき)さん(大正大学 心理社会学部 准教授)は、コロナの影響で生活スタイルが変わる中、“有毒な男らしさ”があらわになったと指摘します。「男は仕事」という社会の代表的な価値観が、通勤不要や収入減などで一気にぐらつく中、変化に対応できずに過去の価値観にしばられ、毒をばらまいている男性が少なくないそうです。

田中俊之さん(大正大学 心理社会学部 准教授)
「“有毒な男らしさ”からなかなか抜け出せない男性には、2つの共通する傾向があります。
1つ目は、“さびついた有能感”です。高度成長期以降は残業、休日出勤、転勤などをいとわない、全てを仕事に捧げられる人が“有能”とされていました。でも、それは妻が専業主婦だった時代のこと。
今は、出産後も働く女性が増えているし、独身で自分の家計を支えている人も、男女問わず、少なくありません。「24時間 働ける男が“男らしい”」というのは通用しないのに、今もさびついた“有能感”を持ち続けている人がいます。

2つ目の傾向は、“強すぎる支配欲”
仕事だと自分で計画を立てて、成果を出して…というように、自分でコントロールできていると有能感を得やすい。でも、家庭ではそううまくはいきません。
あす朝早いから子どもを早く寝かせようと計画を立てても、子どもはなかなか寝つかない。そうなるとコントロールできずにイライラして、家族に悪影響を及ぼしてしまうことがあるんです。」

ゴリラに学ぶ“令和の男らしさ”
ゴリラ研究の世界的な権威で、「男らしさ」についての書籍を出版している霊長類学者の山極壽一(やまぎわ じゅいち)さん。コロナ後の新しい“男らしさ”のヒントは、霊長類にあるといいます。


(霊長類学者 山極壽一さん)

まず、山極さんが「旧来の男性中心の社会に似ている」と指摘するのがチンパンジー。チンパンジーは、オスどうしの中で厳格に序列を決めています。食べ物は上の者から順に食べることで、無用な争いは起きません。しかし、ひとたびリーダーの力が衰えたと察したとたん、部下どうしが組んで下克上を起こすこともあるそうです。


(力の衰えた“リーダー”<左奥1頭>に対し 徒党を組むオスのチンパンジー<右手前2頭>)

山極さん
「チンパンジーは1頭では他のオスと戦えない。複数のオスによってたかって攻撃されると負けてしまう。複数でいれば、1頭よりも大きく見せられる。常に自分の味方をしてくれる仲間を求めながら、その関係の維持を図っているわけです。人間の男の悪いところは、徒党を組むことを覚えてしまったということ。ここはチンパンジーに似ている。」

一方、これからの“男らしさ”のヒントになると山極さんが提示するのが、ゴリラです。オスどうしで群れるチンパンジーと違って、ゴリラは家族と過ごすことが多いといいます。


(弱いものに合わせる オスのゴリラ)

ゴリラは、子どもが1歳を過ぎた頃から、父親が積極的に子育てをします。子どもと一緒に遊び、見守るのは父親の役割。さらに、ゴリラどうしでケンカが起きたとき、年少者やメスなど、力が弱い側の味方になって仲裁します。大きな体を、自分のためではなく、弱いもののために使うのです。

山極さん
「ゴリラのオスは泰然自若としていて、メスや子どもの時間にたやすく合わせることができる。待つ姿勢ですね。それを、われわれ男性は学ばなくちゃいけない。(人間の)男は“自己実現”とか“自分の主張を出して前に進む”ということが求められているが、本当はそうではなくて、世の中は、力の強いものが自分の力を落として、力の弱い者に合わせることによって、いろんな時間やいろんな空間がつくられているんです。」

健介さん&北斗さん “令和の男らしさ”とは…
健介さん
「ゴリラの家族、我が家みたいです。僕も、子どもが小さいころから子育てをやってきたので。まさか、(ゴリラ)自分じゃないかなと(笑)。」

北斗さん
「本当に。リビングで寝転んで、子どもが遊んでいるのを うれしそうに見ている健介みたい。」

どうしたら、ゴリラのような“男らしさ”に近づくことができるのか。田中さんは、家庭を“社会”のひとつと捉え、その最大の利益を見つけることが大切といいます。

田中俊之さん(大正大学 心理社会学部 准教授)
「これまでは、日本語で“社会”というと“企業社会”、そこに正社員として参入する人が“社会人”と捉えられてきた。でもコロナの影響などで、家庭や地域で過ごす人が増える中、考えなくてはならないのは、家庭や地域も“ひとつの社会”であり、それぞれルールが違うということ。会社は利潤を追求するので『もうかるか、もうからないか』の基準が大事。家庭もひとつの社会。妻、子ども、家族にとって、それぞれの視点に立った時の『最大の利益は何か』を考えられるといいと思います。」

健介さん
「自分自身は結婚した当初、料理など手伝わなかったんです。“男はこうでいいのかな”と思っていたんですけど、間違っていた。すごく(妻から)怒られて、あ、こういうものなんだというのを勉強しました。」

北斗さん
「家庭を大切にする男のほうが“強い男”という気がします。“男らしさ”は優しさ。強くなければ優しくなれないし、優しくなれなければ強くもなれない。人にきちんと謝ることができたり、その場を収められたりする人のほうが男らしいと思います。」

“有毒な男らしさ”を捨てるには まず相談
“有毒な男らしさ”を捨てるためには、自分で抱え込まずに周りに相談することが大切だと、田中さんはいいます。でも、自分から相談するのは苦手だったり、“相談してもうまくいかないのでは…”と心配したりしてしまう人もいるのではないでしょうか。田中さんからのアドバイスは、「相談の目的を 相手と共有すること」です。



田中俊之さん(大正大学 心理社会学部 准教授)
「悩みを相談するときにあらかじめ相談する相手に、何を自分が求めているかを言ってしまう。単純に悩みを聞いてほしいのか。話すことに対する評価がほしいのか。解決策を提示してほしいのか。男だからって弱音をはいちゃいけないことはありません。ぜひ周りに相談してほしいと思います。」

一方、相手が悩みを打ち明けやすいようにするために、周りはどうしたらいいのでしょうか。


(スウェーデンの首都 ストックホルム)

世界で、いち早く男女平等を推進してきたスウェーデンには、自治体などが主導して設立した、男性のための相談機関、「男性危機センター」があります。専門のカウンセラーが常駐していて、コロナ禍の今はオンラインで相談に乗っています。


(「男性危機センター」オンラインで相談にのるカウンセラー ウルフ・カルバートさん)

カウンセラーのカルバートさんは、「相談したがらない」男性に心の扉を開かせるためには、男性が引け目を感じるような言葉を避け、過去に相談した人が立ち直った具体的な事例を示すことで、孤独にさせないことだといいます。

カルバートさん
「男性たちは内心、自分が世界でただ一人、男らしくないと思いこんでいます。私は『そうではありません、男性にはよくあることです』と伝えます。すると、ほとんどの男性は、自分は変な人間ではないと安心するのです。」



一度心を開きさえすれば、解決に向けて途端に前向きになるのも、男性なのだとか。

カルバートさん
「心を開いた男性たちは、自分自身を変えたいと強く思っています。それは、非常に強いモチベーションであり、私たちも深いコアの部分に入り込みやすくなります。大切なのは、自分が周りからどんな人間に見られているのか、どんな態度を取っているのか、鏡に映すようにはっきりと示してあげることです。男性たちはショックを受けるかもしれませんが、そうすることが重要なのです。」

健介さん
「相談しやすい空気があれば、ありがたいですね。男は口下手な人が多いですし、“自分は何を言っていいんだろ”“言ったら恥ずかしいのでは…”と思ってしまうけど、(周りの)心遣いがあったら、しゃべりやすい空気になると思います。」

北斗さん
「『強く見せなくてもいいんだよ』と男性に言ってあげたい。仕事が激減したら、もし結婚していたら、相手とともに働けばいい。妻が仕事に出ていたら、家事をしてくれればいい。夫が仕事だったら、私(妻)がやればいいし。もっとお互い気軽に考えられる世の中になってほしいですね。」



あなたは“有毒な男らしさ”について、どう思いますか。“有害な男らしさ”をなくすために、何が必要だと考えますか。記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページから お寄せください。