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“インクルーシブな社会” 準備室

“インクルーシブな社会” 準備室

“女の子はスカートをはくもの―”
“見た目が '外国人’ だったら英語が話せる―”

周囲が当たり前のように思い込んでいることが、本人にとっては”生きづらさ”につながっていた…私たちの身の回りにはそんなケースがいくつもあります。

さまざまな要素を持った人たちが集まるこの社会。それぞれの多様性を認め、ひとりひとりが自分らしく生きられる“インクルーシブ(排除しない)な社会” にするために必要なことは?
みなさんの声を取材し、考えていきます。


外国ルーツの人達の事情を知る
いま日本に住む“外国ルーツ”の人は約280万人、ここ数年は毎年10万ずつ増えています。
「在日外国人」とひとくくりに言っても、日本に来て暮らしている背景や事情は様々。
隣り合って暮らす外国ルーツの人たちを理解し、私たちの社会に何が必要か考えます。

・あなたがいるだけで十分なんだよ  作家・温又柔さんとの対話
・わたしたちが「黙って歩いた」意味 在日ミャンマー人によるサイレントデモ
・”アフリカ少年”だった漫画家が「“違い”を楽しもう」と呼びかける意味―星野ルネさん―
・集まってしまって、ごめんなさい 在日ミャンマー人の若者 民主主義への思い
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【後編】『表現の自由』どう考える
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【前編】差別あおる言葉なくすには
・いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”
・マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
・在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント 
・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声




ジェンダーをこえて考えよう #BeyondGender
社会的につくりだされた”男らしさ” ”女らしさ”に縛られず、“ありのままの自分”でいられる社会になるために…さまざまな視点から考えていきます。

・Vol.17 “性”について語ろう④ 性のあり方って?
・Vol.16 “性”について語ろう③ 男らしさ・女らしさに縛られてない?
・Vol.15 “性”について語ろう② 相手の気持ちも大切に
・Vol.14 “性”について語ろう① プライベートゾーンって?
・Vol.13 陣痛見守るモニターも アメリカのフェムテック最前線
・Vol.12 紗倉まな×NHK “あったらいいな こんな性教育”
・Vol.11 ジェンダーをこえて考えよう みなさんの声②
・Vol.10 “性”を語りやすい社会に
・Vol.9 “わきまえる”の波紋
・Vol.8  予期せぬ妊娠 命つなぐ マタニティホーム
・Vol.7  脱コルセット “女らしさ”という束縛から脱却する女性たち
・Vol.6  ジェンダーをこえて考えよう みなさんの声①
・Vol.5 「私たちはなぜミスコンがしんどいのか」
・Vol.4 更年期対策にピル代負担まで⁉︎ 変わる企業の“健康経営”
・Vol.3 AMH検査で“卵子の残り数”がわかる!? 産みどき考えるヒントに
・Vol.2 次々登場“フェムテック” 生理用ショーツに更年期対策も
・Vol.1 “有毒な男らしさ”を考える

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2021年4月23日

Vol.17 “性”について語ろう④ 性のあり方って?

“性”について考える『からだとこころの話』4本目は、性の多様性について。人間の性は男性と女性の2つだけではなく、実にさまざまです。好きになる相手が異性だけとも限りません。

 

性のあり方って?

女性を好きな女性。
男性を好きな男性。
男性も女性も、好きな人。
自分の「性」に違和感をもつ人。
ある調査では、LGBTなどの人は「10人に1人」という結果も。
「性のあり方」は人の数だけあるんです。

(監修:防衛医科大学校 教授 西岡笑子、慶應義塾大学大学院 特任准教授 本田由佳)


私たちひとりひとりの中に、いくつもの「性」があります。体の性(身体的性)、心の性(性自認)、表現する性(性別表現)、好きになる性(性的嗜好)。そして、その濃淡もひとりひとり異なります。例えば、体と心が女性で、表現する性(服装や言葉づかい)が男性、好きになる対象は男性という人もいます。体は男性で心が女性、表現する性は男性でも女性でもなく、恋愛感情をもたないという人もいます。性のあり方は、人それぞれです。

「性の多様性」は社会の活力(防衛医科大学校 教授 西岡笑子さん)

現在、「性」を男性か女性かといった“性別二元論”ではなく、連続するもの、「性のグラデーション」ととらえ直すことが提案されています。それぞれの「性」の要素の濃淡はひとりひとり違います。それは「セクシュアリティの個性」です。人口の数だけ「性」があります。

性的マイノリティがいるから性は多様なのではなく、すべての人ひとりひとりが異なる性を持っていて、「誰もが多様な性の構成員」です。人間という種の中の「性の多様性」は社会の活力になります。「性」について悩みを抱えている人も、そうでない人も、ぜひ、そのことを覚えておいていただきたいと思います。

#BeyondGenderのホームページには、あらゆる世代の方々から、自分の性のあり方について疑問やお悩みの声が寄せられます。

「僕は、体は女性。相手が男でも女でもそれ以外でも好きになります」(10代)

「20年以上前からパートナーと暮らしていますが、お互い、ゲイとカミングアウトせずに生活しています」(60代)

「“男の子”を押しつけられるようにして育てられましたが、ストレスからか、小学生のときから女性化乳房に…。親・親族への恐怖心から、女性らしくいたくても、それができません」(30代)


性のあり方はひとそれぞれ。むりやり型にはめるのでなく、誰もがありのままの自分でいられる社会に、居心地のいい社会になるために、皆さんのご意見をお聞かせてください。これからも取材を続けます。

あなたは、あなた自身がもつ、さまざまな「性」について、どう感じますか?「性は個性」と社会で広く受けとめられるようになるために、私たちひとりひとりは何ができると思いますか? 動画や記事への感想やご意見を、下の「コメントする」か、、下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


2021年4月23日

Vol.16 “性”について語ろう③ 男らしさ・女らしさに縛られてない?

“性”について考える『からだとこころの話』3本目は、性別をめぐる固定観念についてです。知らず知らずのうちに、“思い込み”や“決めつけ”をしていませんか。

 
『男らしさ・女らしさに縛られてない?』

男性は、積極的、社交的で、「外で仕事」?
女性は、やさしくて器用で、「家事育児」?

いま、共働き世帯は専業主婦世帯より多いんです。
役割・生き方は人それぞれ。
みんなが、自分らしく。

(監修:防衛医科大学校 教授 西岡笑子、慶應義塾大学大学院 特任准教授 本田由佳)


NHKが3月末に全国の18歳以上を対象に行った世論調査*で、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について、賛成か反対かを尋ねたところ、「反対」「どちらかといえば反対」を合わせた『反対』は5割近くを占めた一方、「賛成」「どちらかといえば賛成」を合わせた『賛成』も4割に上りました。



男女別では、回答に差はありませんでした。年代別にみると『反対』と答えた人は、60代までは5割以上~6割前後で多数を占め、『賛成』を大きく上回りました。これに対し、70歳以上は、『賛成』が5割を超えて、『反対』を大きく上回っていました。


【*NHK世論調査…期間:2021年3月26日~28日、方法:電話法(固定・携帯RDD)、対象:全国の18歳以上2,890人、回答数(率):1,508人(52.2%)】

では、実際に、夫が外で働き、妻が家庭を守っている世帯はどれくらいあるのでしょうか。国の調査によると、1990年代半ばから2019年まで「共働き世帯」(雇用者の共働き世帯)の数は、「専業主婦世帯」(男性雇用者と無業の妻からなる世帯)より増え続けていて、今では2倍以上です。



多くの人の“思い込み”と実態に大きなギャップがあることが分かります。

「性別への“思い込み”にとらわれないことが、自分自身の、そして、周りの人たちの可能性を広げることにもつながります。」

防衛医科大学校医学教育学部教授の西岡笑子さんは、公立中学校2年生に向けた「ジェンダーフリーについて考える」授業でそう伝えています。看護学生の実習の一環で行っているこの授業。まず、中学生に髪の長い子どもの写真を見せて、「女の子・男の子どちらと思う?」と尋ねます。「女の子」と答える生徒がほとんどですが、写真の子どもは実はウイッグ・ドネーションのために髪を伸ばしている男の子。さらに、職業でも、男性のキャビンアテンダントもいれば、女性の医者もいるなどの実態を伝えることで、社会がつくり出した性別をめぐる固定観念が、いかに自分たちの思考や行動の幅を狭めてしまっているか、“気づき”を促しています。

“性別の思い込み”にとらわれないために(防衛医科大学校教授 西岡笑子さん)

まず、自分の中にある“思い込み”に気づくことが重要です。そのためにも周りと話すことをおすすめします。人の話を聞く中で、自分の意見と同じ・違うなどと考えながら、おのずと自分の身の回りのことを振り返り、自身の考えが整理されていきます。

自分の中にある “思い込み”に気づき、その“思い込み”から自分を解放することで「一人の人間」として生きやすくなり、そして周りの人たちのことも尊重できるようになります。そういう人が増え続けることが多様性と包容力のある社会につながっていくと思います。

「男だから」「女だから」ではなく、「あなただから」「自分だから」という考え方を身に着けたいですね。

あなたは、性別をめぐる固定観念について、どう思いますか? そうした“思い込み”にとらわれないために、ご自身が気をつけたり、心がけたりしていることはありますか? 動画や記事への感想やご意見などを、下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


2021年4月23日

Vol.15 “性”について語ろう② 相手の気持ちも大切に

性教育動画『からだとこころの話』2本目は、「性的同意」です。「性的同意」とは、セックスはもちろん、手をつなぐ、ハグやキスなど、すべての性的な行為をするときに、それをお互いが積極的に望んでいるか、気持ちを確認することです。知らず知らずのうちに、大切な相手の心と体、自分自身の心と体を傷つけないためにも、「性的同意」は必ず必要です。

あなたが大切に思っている相手やパートナーといっしょに考えてみませんか。

 
『相手の気持ちも大切に』

「好きだから一緒にいたい。ふれたい」って自然な気持ち。
でも、待って。ふれる前に、相手の気持ちを言葉でしっかり確認しよう。

「イヤ」と言われたら、もちろんダメ。
返事がないのも、ダメ。
その場の雰囲気で相手の気持ちを判断するのもダメ。

“YES”は「いいよ」と言われたときだけ。
心と体、どちらも大切にしよう。 

(監修:防衛医科大学校 教授 西岡笑子、慶應義塾大学大学院 特任准教授 本田由佳)

性的同意をとるとき、どんなことに気をつければいいか。ジェンダー平等や多様性など、人権の尊重に基づいた「包括的性教育」の普及に取り組んでいる防衛医科大学校医学教育部教授の西岡笑子さんに聞きました。

性的同意のポイント(防衛医科大学西岡笑子教授)

●2人が対等な関係であることが大前提
上司と部下、教師と生徒、先輩と後輩のように社会的地位の上下関係や力関係がある場合、地位や力が弱いほうは、その後の関係性を考えて「NO」と言いづらいという実態があります。

●相手が「NO」と言える環境が不可欠
相手が泥酔していたり、寝ていたりしたら、同意はとれません。相手が恐怖を感じている場合は、言葉が出なかったり、動けなくなったりすることもあります。

●1つの行為への同意は他の行為への同意ではない
相手が2人だけでお酒を飲むことに、2人で個室で過ごすことに同意していたとしても、それはキスやセックスに同意したいうことにはなりません。必ず、その都度、言葉で確認することが大切です。

積極的な同意のない、強引で一方的な性的行為はすべて性暴力です。

西岡さんは、「本来、好きな相手とふれあったり、性行為をすることは、お互いを豊かにしてくれるはず。でも、どちらかの気持ちが少しでももやもやしたり、嫌な気持ちになったりするのは、同意が尊重されていないことに原因があることが少なくない」といいます。

内閣府の調査*では、およそ24人に1人、そのうち女性のおよそ14人に1人は「無理やりに性交等をされた」被害経験があります。加害者は「交際相手・元交際相手」が28.9%で最も多く、次いで「配偶者」(16.2%)、「元配偶者」(10.6%)、「職場・アルバイト先の関係者」(8.5%)など顔見知りがほとんどで、「まったく知らない人」は12.0%です。また、加害者が親族や交際相手以外だった人に加害者の立場について聞いたところ、職場やアルバイト先の上司や先輩、学校・大学の教職員や先輩など、自分よりも社会的な地位が「上位だった」が55.3%に上りました。(*内閣府2021年3月『男女間における暴力に関する調査』)

さらに被害にあったときの状況について、「相手から不意をつかれ、突然に襲いかかられた」が26.8%と最も多く、次いで「相手から、『何もしない』『変なことはしない』『乱暴しないなどとだまされた」、「相手との関係性(関係が壊れる、仕事への影響等)から拒否できなかった」がそれぞれ23.2%となっています。



“イヤよイヤよも好きのうち”ではありません。相手が何も言わなければ、それは“NO”です。
同意のない性行為はすべて性暴力です。

あなたは、パートナーと「性的同意」をどのように確認していますか? 自分や相手が気持ちを伝えやすくするために、心がけていることはありますか? 動画や記事への感想やご意見を、下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
2021年4月23日

Vol.14 “性”について語ろう① プライベートゾーンって?

”性”と聞くと、身がまえてしまう人も少なくないかもしれません。でも ”性”について考えることは、子どもを、大切な人を、あなた自身を性被害から守るために、そして、誰もが「体」と「心」の健康と幸せを守るために欠かせないものです。

#BeyondGenderでは、子どもも大人もいっしょに性教育を考える動画『からだとこころの話』4本を、放送やインターネットで発信しています。それぞれの内容を連載でお伝えします。

1本目は「プライベート ゾーンって?」。
親子で“性”について、語り始めるきっかけにしてみませんか。

 
『プライベート ゾーンって?』

「プライベート ゾーン」は、あなただけの特別で大切な体の一部。
自分のを誰かに見せない、さわらせない。
誰かのを勝手に見ない、さわらない。
自分はイヤなのに「見せて・さわらせて」と言われたら、はっきり「イヤ!」と言おう。
そして、安心できる人に話そう。

(監修:防衛医科大学校 教授 西岡笑子、慶應義塾大学大学院 特任准教授 本田由佳)

2009年にユネスコが発表した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」をご存知でしょうか。世界の「性教育」に大きな影響を与えている国際的な指針です。このガイダンスに基づいて、アメリカやヨーロッパ各国、アジアでも中国や韓国などで、5~8歳からプライベートゾーンや性器の大切さについて教えています。

最近、日本でも、保育園、幼稚園、小学校低学年などで、子どもたちがプライベートゾーンについて学ぶチャンスが増えています。また、関連する絵本やネット動画なども目にするようになりました。

家庭で、親子で、「プライベートゾーン」について、いつ、どのようなタイミングで話したらいいのでしょうか。ジェンダー平等や性の多様性などを含め、人権の尊重に基づいた包括的な性教育の普及に取り組んでいる防衛医科大学校 医学教育部教授の西岡笑子さんに聞きました。

「プライベートゾーン」を話すときのポイント(防衛医科大学校 教授 西岡笑子さん)

「個人差はあると思いますが、子どもが2~3歳になった頃から、入浴時に『性器は、自分で洗うよ』と、声かけを始めてみてはいかがでしょう。お父さん、お母さんが自分の性器や胸を洗ってみせるという方法もあると思います。

自分の体は自分で洗うことを、子どもたちに生活習慣として身につけさせることは大切です。子どもたちにとって『体は自分のもの」ということを実感する「体(からだ)感(観)」のもとになるからです。

さらに、『プライベートゾーンを大切にできる人は、自分を大切にできる人。そしてプライベートゾーンを大切にできる人は、友だちやまわりの人を大切にできる人なんだよ』と伝えていただけたらと思います。」   

プライベートゾーンは、体を守るためだけのものでなく、自分自身を、そして周りの人たちのことを大切に思う気持ちを育むことにもつながるんですね。お父さんが娘さんに、お母さんが息子さんに伝える場合、絵本などを使って言葉や図で補いながら話してみるのもいいそうです。

内閣府の調査*で、「無理やりに性交等された被害経験がある」という人は24人に1人。そのうち、未成年で被害にあった経験をもつ人は49.2%とほぼ半数に上ります。そのうち、「小学校入学前」は8.5%、「小学生のとき」は11.3%です。男性も女性も被害にあっています。(*内閣府2021年3月「男女間における暴力に関する調査」)



性別を問わず、子どもも大人も“性”について一緒に考えていくことが大切です。

あなたは プライベートゾーンや“性”について、子どもや周りの人と話したりしますか? 話しやすくするために工夫したり、心がけたりしていることはありますか? 動画や記事への感想やご意見を、下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
クロ現+
2021年3月30日

Vol.13 陣痛見守るモニターも アメリカのフェムテック最前線

女性特有の体の悩みを最新技術で解決しようというフェムテック。アメリカでは次々と新しい製品やサービスが生まれ、市場は拡大を続けています。その中で注目を集めるサービスの一つが陣痛モニターです。妊娠中にお腹に貼り付けるだけで、自宅にいながら子宮の動きや胎児の心拍をスマホで確認することができると言います。どんなサービスなのか、アメリカの最新事情を取材しました。

(政経・国際番組ディレクター 宣英理)


家にいながらお腹の赤ちゃんを見守る
新しいフェムテックが次々と生まれているアメリカ・シリコンバレー。ここに拠点を置くスタートアップ企業、ブルームライフは、妊婦の悩みを解決するフェムテックで、今世界的に注目を集めています。

この会社が2年前に開発したのが、小型の陣痛モニターです。
お腹に貼り付け、子宮の動きと、妊婦と胎児の心拍を計測できます。


(陣痛モニター)

妊娠後期になると、ときどき子宮収縮が起きますが、それが出産につながる陣痛なのか、多くの場合妊婦自身にはわからず、病院に行くのが遅れて、胎児に危険が及ぶこともあります。

このモニターを使うと、スマホで子宮収縮の頻度を確認でき、それが規則的になると陣痛が始まった可能性があると、いち早くわかると言います。


(青い線の波形が子宮の動きを示し、濃い青の部分が子宮収縮を表しているという。その上に表示される数字は子宮収縮の長さ。)

Bloomlife エリック・ディー代表
「女性たちが自宅にいながら、自分の体に何が起きているか分かる初めての装置です。これによって、妊娠中もより安心して過ごすことができます。」

働く女性の妊娠支える
このモニターを特に支持しているのが、働く女性です。



オリール・パーキンスさん。去年、妊娠中にこのモニターを活用していました。

看護師として1日12時間以上働いてきたパーキンスさん。14年前、予定日より3か月早い早産を経験しました。そのとき生まれた長男は、体重が1500グラム。集中治療室で5週間治療を受けなければなりませんでした。

オリール・パーキンスさん
「私のせいだと自分を責めました。私が仕事をしていたのがいけなかったのだろうか、と。」

アメリカでは、妊婦の10人に1人、年間38万人が早産しています。早産で生まれた子どもは、病気や障害のリスクが高まります。医療コストもかかり、社会全体の問題として捉えられています。

パーキンスさんは去年、妊娠中にこのモニターを知りました。利用料が月額20ドルと手ごろだったこともあり、「少しでも安心して過ごせるなら」と使い始めました。

すると、出産予定の2か月前、異変に気づきました。

オリール・パーキンスさん
「波形を見て驚きました。陣痛が始まっていることを示していたのです。病院に駆けつけ、医師に画面を見せると、急を要することがすぐに伝わったんです。」

パーキンスさんは、病院で子宮収縮を抑える薬を投与され、なんとか早産を回避することができました。その後、娘のアメリアちゃんを無事出産しました。


(パーキンスさんと娘のアメリアちゃん)

オリール・パーキンスさん
「私たちの命を救ってくれました。これなしに妊娠生活を送ることはもう想像できません。」

開発のきっかけは妻の流産
このモニターを開発したエリック・ディーさん。開発の背景には自身のつらい経験がありました。

妻が、一人目が生まれるまでに3回流産を経験したのです。ディーさんはその過程で、妊婦健診で病院に行かなければ、胎児の状態がわからないなど、数十年前と変わらない周産期医療のあり方に問題意識を持ったと言います。


(開発したBloomlife エリック・ディー代表)

Bloomlife エリック・ディー代表
「これほどイノベーションが起きていない医療分野は他にありません。近年、出産年齢の上昇などにより、出産に関わるリスクは高まり続けています。これは解決すべき課題だと思いました。」

ビッグデータの活用で広がる可能性
このモニターを使った妊婦はこれまでに1万2000人以上。ディーさんは今、集まったビッグデータの活用にも取り組んでいます。



蓄積された100万時間以上の妊婦と胎児の記録をデータベース化。これをその他の医療データと組み合わせ、AIで解析することで、胎児の異常や突然死、早産などの兆候を早期発見できないか、欧州の研究機関などと共同研究しているのです。

この会社には今、モニターの世界的な普及を期待する投資家や、新たな治療法の発見を期待する大手製薬会社などから、提携や投資の依頼が相次いでいます。これまでに集まった投資は、1400万ドルを超えました。

Bloomlife エリック・ディー代表
「彼らは、こうした医学的データには非常に価値があるということを知っています。投資家などが、女性の健康が巨大な未開拓市場だと気づいたことが、資金の流入につながっているのです。」

アメリカのフェムテック、最新トレンドは
アメリカには他にも、妊娠しやすい日を教えてくれるウェアラブル端末、妊娠可能期間や閉経時期の目安を教えてくれるホルモン検査キットなど、新たなフェムテックが次々と生まれています。現地の事情に詳しいデロイトトーマツベンチャーサポートのセントジョン美樹さんに、市場拡大の背景や今後の可能性について聞きました。


(デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 マネジャー セントジョン美樹さん)

セントジョン美樹さん
「アメリカでは、人口の約半数が39歳以下のミレニアル世代です。デジタルネイティブの世代でもあるため、自分の体についてデータで把握したいという傾向が強く、今後、フェムテックやスマートウォッチなどの普及によって、女性の体についての膨大なデータが蓄積されていくとみられます。妊婦や胎児に関するものだけでなく、女性ホルモンの値や月経周期などのビッグデータも集まっており、それを認知症などの病気の早期発見や治療に役立てようという研究が活発化しています。」

これまで、ベンチャーキャピタルの投資家は中高年の男性がほとんどで、女性の健康に関する商品開発には関心が薄く、投資が集まらない状況が続いてきましたが、潜在的な市場の大きさや可能性が明らかになったことで、一気に投資が増え、大手企業との連携も活発化していると言います。今後の注目ポイントは。

セントジョン美樹さん
「フェムテックは当初、生理周期を記録するアプリなど、「生理」に関するものから始まり、次に、「妊娠・出産・授乳」に関するものへと広がってきました。最近ホットになっているのが、「更年期」に関するもの。これまではタブーとされがちでしたが、更年期症状を抱えながら仕事や育児をする女性が増える中でニーズが高まっていて、将来の更年期症状のタイプを予測し、最適な治療法を紹介してくれるというサービスや、更年期特有のほてり対策用のウェアラブル端末などが登場しています。

また、健康経営や福利厚生の一環で、妊活などをサポートするフェムテックを社員に提供する動きも活発化しています。優秀な人材に選んでもらうためには、こうした取り組みが欠かせないと考える企業が増えているのです。 」

フェムテックはまだ黎明期で、中にはエビデンスが薄いものもあるため気をつけて活用した方がいいと指摘する専門家もいますが、これが広がることで女性たちが我慢していたことを話しやすくなるなど、社会に良い変化が生まれて欲しいと感じます。フェムテックによって、女性の暮らしはどう変わっていくのか、今後も海外の動きに注目したいと思います。
クロ現+
2021年3月12日

Vol.12 紗倉まな×NHK “あったらいいな こんな性教育”

2月26日放送の「不可避研究中」では、AV女優の紗倉まなさんと20-40代のNHK職員6人をオンラインでつなぎ、「性教育」について議論しました。紗倉さんは、小説家や情報番組のコメンテーターとしても活躍していて、「高齢者の性」を描いたり、性的同意(性行為の同意)の大切さなどについて発言したりと、さまざまな視点から「性」について積極的に発信しています。

なかなか誰かに話しいくい「性」の話。本音をさらけ出すことで見えてきたのは、性についてオープンに語りあえる社会の必要性、そして人と人とのコミュニケーションの大切さでした。

「性」を堂々と語りにくい…
紗倉まなさん(以下、紗倉さん)
早速ですが、皆さんはこれまでどんな性教育を受けた記憶がありますか?

秋山
僕の中で記憶に残っているのは、保健体育の先生が教室にやってきて、手に持っていた鉄の棒を教壇の上にドンって置いて、「いいか、こうやってつけるんだ」とコンドームをそこに装着し始めたんです。

(一同)
えー!



秋山
コンドームのつけ方って大事なことだから、強烈に印象には残ったけど。

紗倉
衝撃的ではあるけど、保健体育の授業としては実践的でありがたいような。

三日市
紗倉さん、例えば「コンドームしないでセックスしたい」って、パートナーが言ってきた場合に、何か言ったりしますか。

紗倉
言います。でも、言えるようになったのも、けっこう大人になってからなんです。断りきれない人も多いとよく聞きます。雰囲気が作られている中で手元にコンドームがなくて、いざセックスしようとしたときに、「コンドームつけて」➡「ないんだけど」➡「じゃあ買いに行こうか」➡萎(な)える、みたいな。ちゃんと言ったほうがいいけど、ムードを壊したくなくて配慮しちゃうっていうのも、問題としてはあるのかな。

立野
それこそ学校で、そこだけは教えておいてほしいですよね。「拒む権利があなたにはあります。お互いの体を大事にしましょう」って。



三日市
でも本音って、そういう雰囲気の中で言いづらい可能性もある。また、「嫌」と言っているのに、「嫌よ嫌よも(好きのうち)」みたいな感じで相手に誤解されてしまう可能性も。

髙田
AVのお仕事でも「嫌よ嫌よも…」でなし崩しOKしちゃうような演技が求められることはけっこうあるんですか?

紗倉
よくあります。そういう演出がひとり歩きしちゃうんじゃないかというのは、女性の立場からすると本当に悩みどころで。

(一同)
うーん。

紗倉
そのようなAVに影響を受けて、嫌がっている女性を見ても、「実は好きなんだけど嫌よっていうポーズをしているだけなんだ」と誤解されちゃったら困るなと思います。それが「ふり」なのか本音なのかは本当に個人差があるところで、そこを自分に都合のいいように解釈して進んではいけないのだとは思います。

リカD
「嫌よ嫌よ」は、多くの場合「嫌」を意味すると思いますけどね。

紗倉
そうですよね。本当に嫌なときって、「嫌」としか言えないし、体もやっぱり、こわばったり硬くなるじゃないですか。

(男性陣)
 やっぱり。そっか…。

三日市
「自分がこれをしたら相手はどう思うか・・・」。目の前にいる人の気持ちに想像をはせるのって大事ですね。

リカD
自分の身を守る知識をつけるのも大事なことですよね。もちろん体を守る術を知らないからって嫌なことをされてもいい理由には絶対にならないけど、コンドーム以外にも選択肢があって、使うかどうかを選択するのは個人によるけど知識をつけるのは大事だと思う。

紗倉
私、3年ぐらい前から子宮にミレーナ(子宮内避妊システム)っていうのを入れているんですけど、そういう避妊具やピルに関して全然教わった記憶がないし、実際教わっていないから、「コンドームしか選択肢がない、それがダメならもうダメ」みたいになってしまうのはすごく分かる。

リカD
性的同意について海外の事例とか、過去に髙田さん取材していましたよね。どうですか。

髙田
日本を訪れている外国人50人ぐらいに、性的同意について取材したことがあります。海外では恋愛関係のつきあい方って、(上下でなく対等な)パートナーシップが基本なので、「『イエス』『ノー』ってはっきりと言うよ」という人がほとんどでした。しかも、すごいと思ったのは、テレビカメラを構えて質問しても、カップルの男女がハキハキと話すんですよ。

紗倉
おおーっ。

髙田
そのカップルの片方は「私は昔から家庭でもそういう話をするし、今のパートナーとも、ちゃんと『イエス』『ノー』を確かめています」って。そうしたら、隣にいたパートナーも「そうだよね。それで断られることもあるし、僕が断ることもあるよ」と言っていました。

(一同)
へえー。

髙田
家族連れの人にも、「性的同意の話で取材しています」と伝えたところ、お父さんが娘さんに「何か意見ある?」と話を振って、娘さん自身もお父さんの前で意見を言っていました。

紗倉
ええー。

髙田
その子、13歳ぐらいだったんですけど、「今ボーイフレンドとつき合い始めて…」みたいなことを恥ずかしがらずに話していて。「性」が人生の中で特別なこととして浮いているのではなくて、人権として自分の意志をちゃんと伝えることの一部なのだなと感じました。

紗倉
セックスについてどう考えているかって、日本の中であんまり堂々と言える環境や機会もないような気がして。どこで海外との差が出てしまうのかなと、すごく感じます。隠すこととか、秘めることが美徳みたいなイメージじゃないですか、日本って。

性教育 日本と海外でどこが違う?
リカD
日本の性教育と海外の性教育について、調べてみました。日本では中学1年生で成長に伴い男女の体がどのように成熟していくか、ヒトの受精卵がどう胎内で成長するかを学ぶんですが、教科書ではその前提となる性行為については触れていません。避妊方法もほとんど教えていないようなんです。

(一同)
そうなんだ。

リカD
(中学校の)学習指導要領(文部科学省が定めている教育課程の基準)に1998年から「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という文言が含まれていて、いわゆる「歯止め規定」と呼ばれているそうなんです。

髙田
海外の場合、「性教育」の授業はもっと幅広い内容を教えているように思います。

リカD
そのとおりで、ユネスコ=国連教育科学文化機関が包括的性教育の枠組みを示した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」というものがあります。セックスや避妊、ジェンダーの平等など“性の権利”を基本的人権の一部と捉えています。これが2009年に公開されて以来、ヨーロッパ各国や台湾などアジアでも、このガイダンスを踏まえて性教育の方針を出しているそうですよ。

丸山
ユネスコのガイドラインの話を聞くと、人権・文化・家族とか、性教育の捉え方がすごく広い。「それって性教育とどう関係しているの?」と聞かれても答えられないと思うくらい、「性教育」という漢字3文字が表している幅が、今まで僕らが受けてきた日本の性教育だとすごく狭いのかなって感じますね。

紗倉
根本的にコミュニケーション不足がたたっている部分もあるのかと思う。オープンに話したり相談しづらいがために、独学でインターネットなどでいろいろと(誤った情報も含めて)詰め込んで、それをそのまま実践して、相手を傷つけてしまうこともありますよね。 正しい性の知識を知りたくても知ることができないというのは、寂しいことだなと思います。知りたくなくて避けてきたわけじゃなくて、なかなか知る機会がない。そこはどうにかして補いたいところだし、気後れしたり恥ずかしがったりすることもなく話せる環境や、相談できる場があれば、理想的なのかなと思いました。

ジェンダーロールにとらわれがち…
リカD
ユネスコのガイドラインにはジェンダーについての記載もあると説明しましたが、みなさんジェンダーロール(性的役割)について思うことはありますか?

秋山
セックスのときに「男はこうしなきゃいけない、女はこうしなきゃいけない」みたいなのにすごく縛られている感じはしますよね。

紗倉
確かに、役割分担みたいな。

立野
以前ジェンダーに関する番組を作ったときに、街中の人に、「男だから・女だからこうしろって言われて嫌な経験ありますか」とひたすら聞く取材をしました。たくさん出てくるんですよね。「女なんだから家事をしなさい」、「男なんだから泣くな」みたいな。「それが性行為のときにも起こっているな」とリンクしています、今。

丸山
それはすごく感じますよ。リードしないといけなさそうな気がするのと、そのタイミングって聞くことじゃなさそうな気がするっていうか。空気感やムードとか、「男が主導で進めていかなければダサい」みたいなことに、もしかしたら男側はとらわれているかも。

秋山
めちゃめちゃとらわれている。

丸山
よくも悪くも「男性側がリードすべし」を前提とされているイメージがあります。

紗倉
そうですよね、そこの負担、男性側は大きい気がしますよね。「今日はしたい・したくない」という、「イエス・ノー」に関してもそうですし、「こんなシチュエーションがいいな」という意見交換もそうですし、全体的なコミュニケーションって希薄なまま進むことが多いと感じやすいというか。

秋山
女性側はどうですかね。「台本にのっとってやられると冷める」とか、そういうことはない?

立野
でも、合意に関しては、絶対に台本どおりに聞いたほうがいいんじゃないですか。

髙田
私、その質問も海外の20代半ばの男の子たちに街頭インタビューで聞いたことがあります。「そういうことをすると日本だと『冷める』って言われるんですけど、どうですか?」って。そしたら「お互いの意志のほうが大切だから冷めても聞きます」って堂々と。

秋山
「する・しない」の同意はもちろん必要だけど、そのあとの詳細については?

髙田
詳細についてもたぶん同じことじゃない?それって秋山君が言わないと伝わらないじゃん。「僕はこうしたいんだけど」って。

(一同)
確かに、確かに(笑)。

秋山
あー、そっか。恥ずかしがらずに相談する。

リカD
「恥ずかしい」とか「聞けない」みたいなのも、ジェンダーロールに縛られがちな自分がいるからなのかもしれませんね。

家庭で「性教育」すべき?
紗倉
自分の次の世代の子どもたちにはどういったことを学んでほしいか、どんな風に引き継いでいったらいいかということも、課題だと思いました。やっぱり、大人が恥ずかしがるっていうのがよくないんですかね。

三日市
さっきの海外の方たちの話を聞いていると、日本の社会にあるような空気感とは違うコミュニケーションがあるのだろうなっていうのは分かるじゃないですか。

髙田
うんうん。

三日市
そもそも性教育って学校だけで教えるもの?すごく大事なことだから、親が子どもにしつけとか教育をすることがあるんだったら、性についても親が教える責任もあるのではないかと思ったりします。その反面、親子でオープンに性の話をするメンタルを僕自身が持ち合わせていないのは課題ですけど。



三日市
逆に性教育を、例えば「生理が始まるからやりましょう」という場当たり的なことじゃなくて、もう少し幼い頃から、はっきり教えずとも何が起こって自分が生まれたかということも含めて、当たり前のように家の中でしゃべることのできるような社会が日本にもあるといいんじゃないかなって思います。

紗倉
学校で教えることが難しいっていう点ももちろんあると同時に、ずっと「こうのとりに運んできてもらった話」をされるよりも、家の中でも堂々と自分の性やセクシュアリティについての話ができたり、相談できたり教えてもらったりっていう環境が自然と整うことも大事ですよね。

三日市
それが当たり前の環境になっていれば、たぶんカップルになったときも、「私こういうのが好きなのよ」とか、「きょう私は攻められたいの」とか「きょう、俺は攻めるよ」とか言いやすい感じにはなっているんだろうな。

丸山
そういえば僕、親から受けた性教育を今思い出しました。中学生のときに2つだけ教えてもらったなと思うことがあって、1個は、「体にいいから毎日牛乳を飲みなさい」もう1個が「コンドームをつけなさい」っていう話。

紗倉
牛乳とコンドーム。

丸山
中学生のときに、母がサランラップの芯をボンッと目の前に置いて、「こうやってつけるんだよ、将来必要になるから覚えておきな」と。

紗倉
ええーっ。

秋山
“サランラップ母さん” かっこいい。僕の場合は家庭内で性の話をしないっていう環境で育っているから、親と性についてオープンに話す環境をつくるということには、違和感をまだ感じています。そういう意味で学校が、家庭とはワンクッション距離を置いたところで、オープンに話せる場をつくる可能性はあるんじゃないかなって思いました。

髙田
いろんな事情で学べない場合もあるから、男女平等や性的同意とかもちゃんとできる社会の実現のためには、やっぱり学校の義務教育の範囲内で、ある程度やったほうがいいとも思います。

リカD
義務教育でも学びつつ、家庭でも必要なことは教えつつですね。 だいぶ盛り上がりましたけれども、そろそろお時間です。

紗倉
道徳とか歴史とか、性教育っていろんなジャンルの要素が含まれているカテゴリーだなってすごく感じたので、これ、ひと言でまとめるのは難しいですね。



秋山
でも、それぐらい根深いし広いですよね。保健体育だけには収まらない。

紗倉
広いです。「地理1」とか「地理2」とかあるじゃないですか。「道徳編/モラル編」とか、「避妊編」とか、ほんと、たくさん章立てしてほしいですね。

リカD
いろいろな側面を含んだ包括的な性教育、日本でも取り入れたいですね。

紗倉
というわけで、これを持ちまして本日の会議、終了にしたいと思います。皆様、本日はご参加いただきありがとうございました。

(一同)
ありがとうございました。

番組を企画・制作して…
今回の議論を通して、年代や性別は違っていても、みんな「性」に関して何かしら抱えているのだなと感じました。自分の体と向き合って、好きな人やパートナーができて、結婚して、親になって…それぞれのステージで悩むことはあると思います。誰にでも関わる「性」のこと。命を育むこと、大切な人を傷つけない・自分の身を守るために必要な知識、心や体の悩み。どこか切り離されているようで密接につながっているとも感じます。

4月から「生命(いのち)の安全教育」という、性にまつわる具体的なリスクを教えるための新しい教育が段階的に導入されます。今回の議論のように「タブー視せず、向き合ってみる」という機会が増えたら、どんな社会に変わるでしょうか。今後も取材を続けていきたいと思います。

(2021年2月26日放送『不可避研究中 #性の教科書・理想の目次』担当 リカD/川田莉加)


あなたは、キスやセックスをするときに「男だから・女だから、こうしないといけない」と感じたことはありますか?これまでにどんな性教育を受けてきましたか?それについてどう思いますか?下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。





<あわせて ご覧いただきたい動画・記事・番組情報>

クロ現+
2021年3月5日

Vol.11 ジェンダーをこえて考えよう みなさんの声②

ジェンダーについてご意見をお寄せいただき、ありがとうございます。10~20代のみなさんから多くの声が届いています。その中から、性別や性的役割が押しつけられることへの違和感、そして“生きづらさ”の解消・解決の手がかりを紹介します。
“性別”への違和感…
“結婚こそが幸せ”ではない

10代・女性・福井

私は高校生で大学への進学を考えています。将来的には自分の就きたい職に就いて、定年まで働きたいです。ですが、中学生の時から父に「おまえは女の子やからな~どうせ結婚して家庭を持つんやから大学で勉強せんでもいいしな~」や「いい旦那さんと結婚して幸せな家庭を持ってくれればそれでいい」と言われました。もちろん親孝行はしたいです。それでも「女の子=結婚」という考え方、そして結婚こそが幸せだという考え方は間違っていると思います。来年、私は生徒会長に立候補するつもりです。そこでの公約として、女子が上に立ちやすい活動を考えています。

人間は 男性と女性だけではない

20代・性別/男女以外

自分がLGBTQ当事者になって、日本のジェンダーへの意識、特に『男性と女性』だけのくくりの性的役割の意識の根深さに、がく然としています。そもそもなぜ「人間は男性と女性だけ」と思っていて、なぜ「同性は好きにならない」と思っているのか。先入観だけで生きてきたのではないか。

自分の性自認について、こんなに悩んで考えることがない社会が一刻も早く来てほしいです。 "男性"と"女性"だけを過剰に求めないでほしいです。相談することや打ち明けることすら勇気のいる社会で生きていくのはつらいです。

女子学生限定の会社説明会に疑問

20代・女性・福島

現在、就職活動中です。女子学生限定の会社説明会などがあり、人事の方は、「うちの会社は育休が取りやすい」などと話します。しかし、女性(女性に限らず)は、出産や育児をすることになれば、会社が育休を取りやすい雰囲気だろうとそうでなかろうと取得しなければいけない、と思います。

育休や急な早退などの時に、心の中で「申し訳ない」と思う必要がない環境を会社でつくることが大切なのであって、そのためには女子学生だけに話すのではなく、性別関係なくすべての学生に話すことで理解が深まると思います。育休を取得する男性が多くなっている現代で、女性だけなどと性別を限定して話す必要があるのか疑問に思います。会社がどのような意図でそのような説明会を開催しているのか知りたいです。

自分らしくいたい

10代・性別/男女以外・東京

トランスジェンダー*のFTM**ですが、学校では「足を閉じなさい」、「『僕』と言うのはやめなさい」、「女らしくしなさい」と言われます。制服もズボンにしたかったけど、スカートを履かされました。いつも恥さらしを受けてるみたいで、すごく嫌です。家でも「行動や口調を女らしく」とかいろいろ言われます。モヤモヤして、とても嫌です。

僕は、メンズ服を着たり、口調も「僕」とか「俺」にしたいんです。遊ぶ時も、「男子と二人きりはダメ」って言われますが、僕は二人きりでも平気。逆に女子が少し苦手なので、女子と二人きりは苦手です。 男になりたいといつも思います。「男・女」と分けないで自分らしくしたいです。
*トランスジェンダー…心と体の性が一致しない人
**FTM(Female to Male)…体は女性で、本人が認識する性「性自認」が男性。体が男性で、性自認が女性の場合はMTF(Male to Female)


体は女性、心は中性 親に打ち明けられない

10代・性別/男女以外

今、ジェンダーレスが広まり、多くの学校で女子のズボンが認められてきています。すごくいい取り組みと思いつつ、それで満足していいと思えません。男子のスカートは?女子のズボンよりも認められていないですよね。僕としてはそこが気になります。

僕は、体は女で心は中性。(相手が)男でも女でもそれ以外でも好きになります。打ち明けた友達は気にせずに接してくれます。普段スカートを履いて学校生活を送っています。まだ親にはっきりと打ち明けられていません。そこがずっとモヤモヤしています。

心は女性、体は男性 社会に出たら居場所がない

10代・男性

私は心が女性で、体が男性です。高校生の頃、ジェンダーについて悩み、とてもしんどく生きていました。当時、それを打ち明けた友達がいて、今もその友達とは仲良くしています。 ですが、やっぱり親というのは、男として生きてほしいのか、「自分は女だ」と言っても、どうしても認めてくれません。

洋服屋とかに行くと、レディースの服の方に目が移るし、「あの服かわいいな」と思いながら、いつも前を通り過ぎています。髪の長い女性を見ても、「あんなふうに伸ばしたい」と思います。自分はどうして女の子に生まれなかったのかな、と心が苦しいです。「私」という言葉を使うだけで、「〇〇さんは、『俺』とか『僕』とか使わないの?」と聞かれ、答えにも困ります。それって個人それぞれだと思います。 そして、もう一つ、高校生の頃は、居場所があったのに、社会人になったら居場所がないと気がつきました。

男性のような格好いいものになりたい

10代・女性・香川

私の好きなゲームに、ピーコックというキャラクターがいて、女の子なのに男性のような服装をして、男性のような言動をとっています。私自身のジェンダーがどうなっているのかはよく知りません。多分異性愛者の女性で間違いないです。でも、ピーコックを見つけたとき、なぜか「私を見ていてくれた人がいたんだ」と涙があふれました。

このキャラクターのファンたちのツイッター投稿を見ていると共通点があります。みんな、女性でありながら「格好いいものへの憧れ」が強いのではないかと思いました。それは「格好いい男性と恋愛をしたい」というものではなく、自分が男性を含めた「格好いいものになりたい」という憧れなのだと思います。

性別の悩み 親世代に受け入れられない

10代・女性・神奈川

漫画やアニメなどで自分の性別について悩んでいる人たちの話をよく見るので、そういった知識や考えを理解している人は私の高校では多いと思います。一方で私たちの親の世代はまだ受け入れられていないようで、ズボンを履いている女子生徒を変わった子と判断したり、自分の子供は同性愛者になってほしくないと考えているようです。

男性への圧倒的・無条件な信頼に疑問

10代・女性・愛媛

書類に家族の名前を書くことになったときに必ず、先に父(男性)の名前から書くこと、未成年のことで書類に親・保護者の名前を求められたときも、母ではなく父(男性)の名前を書くことが当たり前になっていることにずっと違和感を感じています。何かを新しく作ったり、契約したり、買ったりするときに必要な書類にも、女性が自分の名前を書こうとしても「ご主人様の名前でお願いします」という要求の言葉を目の当たりにします。

日常生活に必要な物事に出向くことを求められるのは、仕事中の男性に比べて、大部分は女性だと思います(これも違和感ですが)。なのに、その場にいない男性への圧倒的な無条件な信頼の大きさに疑問や不安が募ります。

“生きづらさ”を解消するために…
「こうあるべき」から「こうでもいい」へ

10代・女性・山形

「これって、おかしくない?」とジェンダー問題を問いかけても、「それが当たり前なんだから仕方ないよ」と、変化することをあきらめたような返事ばかり来ます。考えてすぐに大きな変化が生まれるわけでもなければ、深く考えたこともないことを聞かれたら「仕方ない」にたどり着くかもしれません。私は何より、ジェンダーへの関心が薄いことが日本の弱点だと思います。もっと皆が男女のあり方を考えて、「こうであるべき」という視点から、「こうでもいいし、こうでもいいよね」といったように、肯定的に考えられたらいいなと思います。

ジェンダーにとらわれない価値観 広げるアクションを

20代・女性・東京

「女性の活躍推進」が謳(うた)われるとき、想定されているのは『結婚し、子どもを産み育てる女性』という、ジェンダーにならったロールモデルばかりであることに強い違和感をもっています。 「結婚して子どもを産まない女性は社会に必要ない」と暗に言っているかのようです。今は父権的な慣習から抜け出すための最初の数歩であり、市民も社会も、より高い視座を持つ準備ができていないのかもしれません。

確かに子どもを産むのは生物学的な女性に特有の機能ですが、それを望まない・できない「女性」もいることを忘れてはならないでしょう。今後、ジェンダーやロールモデルにとらわれない価値観がもっと広がっていくためにどんなアクションが必要かを、自分自身も考え続けたいと思っています。

性を強要せず、個人を尊重する

20代・東京

私の見た目は女性です。しかしふたを開けると、ホルモンバランスの障害で妊娠出産は難しいと診断されている身体です。男性ホルモンが女性の平均以上 分泌されているためと伺いました。世間は女性に妊娠出産を求めます。それに応えられず、ホルモン値だけを見るなら男性的ですらある私は何者か、と自問自答した時期があります。

しかし、考えたところで私は私です。容(い)れ物こそ女性であれ、私が私らしくいられれば世間に呼応せずともそれで良い。個人は個人、性別は個性のひとつでしかない。 男性にも女性にも、性を持たない方に対しても、性を強要されず、求められない社会であってほしい。「性別」という要求にすんなり応えられる人間はそう多くない。まずはそれぞれが「個人」をきちんと尊敬し、尊重し、向き合えるようになってくれれば、多くの方が抱える生きづらさを少しだけ和らげられるんじゃないかと期待しています。

学校でLGBTQについて学ぶ機会を

10代・東京

僕の場合、学校で「キモい」「意味わからない」「〇〇ってLGBTなんだってw」「どうせ気分でしょw」とさんざんばかにされます。いちばんつらいのが信用してた友人にカミングアウトした次の日に「〇〇はジェンダーレスってヤツなんだって」と、悪気がないのは分かるんですが、ばらまかれてしまった。まだまだ学校で取り扱ってもらえないので、肩身が狭いです。学校教育の必修でLGBTQについてもっと学ぶ機会がほしい。そうすれば少しでもこのような問題を防ぐことができると思います。

カテゴリー化しなければ、排除されない

10代・東京

私はXジェンダー*でアセクシュアル**と自認しています。自分は男でも女でもないですし、恋愛をしません。仲の良い人との関係に、「恋人」や「友達」というような区別や名前はいるのか疑問に思います。人間という上で大きな共通点があるのにも関わらず、体が男だから女だから、肌の色が違うから、容姿が良くないから、などという理由で人々を区別するのはどうかと思います。

カテゴリー化という概念が、差別という概念を生み出すのであれば、区別しなければ排除される人間もいない。なぜそんな簡単なことができないのか。そもそも性を自認せずとも、誰もが自分らしく、自分の生きやすい生き方で生きていける社会になってほしい。人は誰でも1人きりだけど、だからこそ唯一無二の自分を探したいです。
*Xジェンダー…自分を男でも女でもないと感じる人
**アセクシュアル…誰かに恋愛感情をもったり 性的魅力を感じたりしない人、無性愛者


自分の特権に気づき、違いを認める

20代・女性・静岡

森会長の会見を見て感じたのが、他人が何を言っても、本人が自分で自主的に意識的に気づいたり学んだり変わるという思いがなければ、本質的な変化は期待できないということ。しかし、特権を持っている人が、その特権に気づくことはとても難しい。男性優位な社会で生きてきて、差別的な発言や行動が許されてきたような人に関しては、より難しいのだと思う。もちろんあのような発言は許されるべきではないが、そのような発言を許してきた社会を変えていかなければ根本的な解決にはならないと感じる。

もっと多くの人が問題意識を持ち、自分が持つ特権に気づき、それを自分のためではなく他人のために使い、違いが認められ、尊重され、個性が輝く社会になってほしいと強く願っている。自分の力はちっぽけかもしれないが、RBG*のように、どんな困難にもめげずに、明るい未来を信じて、自分の信念を強く持って、戦い続けたいと思う。
*RBG…2020年に亡くなるまで、アメリカ連邦最高裁の判事を務めたルース・ベイダー・ギンズバーグ。男女平等やマイノリティーの権利などの概念を一般に浸透させた。

自分のアイデンティティに名前をつけない

20代・性別/男女以外

私は、世間一般ではXジェンダーのパンセクシュアル*というアイデンティティに分類されるのかもしれません。 社会では、アイデンティティに特定のイメージが付きます。「Xジェンダーはこういう人である」というような。それは「男らしさ、女らしさ」といったところからも見て取れます。でもそれが窮屈です。自分で主体性を持って自認するアイデンティティのはずが、いつの間にか社会で表象されるアイデンティティによって自分がコントロールされてしまうから。

だから私は自分のアイデンティティに名前を与えるのをやめました。そうしたら、しがらみから解放されました。自由になりました。特定のアイデンティティに勝手にイメージを結びつけて、他人を、そして自分を縛るのはやめませんか。もっと自由で、多様でいいのではないですか?
*パンセクシュアル…男女ふくめ、あらゆる性の人に性的魅力を感じる人

ニュース番組で使う色やイラストに注意を

10代・女性

NHKや他の放送局のニュース番組で、男女別のグラフが表示されるとき、男性が青系統、女性が赤系統の色で表現されることがしばしばある。色によって、無意識のうちにステレオタイプの男女像を、より強化しているように見える。強い違和感と反感を覚える。このような色分けは、時代遅れだと思う。ニュースで使うイラストにも注意を払ってほしい。

性の多様性を学ぶ

10代・性別/男女以外・奈良

父さんには「女のくせに口答えをするな」と言われたり、先生には「どうして女のお前がリーダー的な行動を取るんだ」とどなられたり。母にはこう教え込まれました。「女が露出の多い服を着ていたら、胸が大きければ性被害にあっても仕方がない」「女の人はたくさんの男性とつき合って、その中でいい人を見つけて、結婚して子どもを産んで幸せになるものだよ」。 生まれたときに割り当てられた性別が女であったことで、どうしてこんなに苦しまなければならないのか、生き方まで決まってしまうのか。そんなモヤモヤを中学生のときから抱えていました。

大学生になって性の多様性を学びました。性のあり方は男女2択だけではなく、他人に強要されるものではない。「自分らしく生きていけばいい」という考えに出会えました。

1年に1つ、“生きづらさ”に目を向け、解消

10代・性別/男女以外・静岡

正装と呼ばれるような服は、現代ではメンズかレディースという2つの選択肢しかないに等しく、どちらにもしっかり当てはまらない不定性の自分はどの服を着れば良いのか、自分の着たいものを選べば礼儀がなっていないとばかにされないかなど相当な量の心のエネルギーを奪われます。

ジェンダーレスな正装がもっとたくさん流通して一般的になれば、オープンキャンパスや面接などの場へ向けた準備につらさや不安などの暗いイメージが先行せず、自分の未来への明るいイメージを持つことができたろうと思います。それは不安が先行してしまう現状と比べ物にならないほどの生きる意欲になると思います。

生きづらいことを完全になくすのはとても難しいとは思いますが、1年に1つ、生きづらさを解消していけ、10年後には10個解消できます。 少しずつでも、まずはどんなネックになること、つらいことがあるのかに目を向け、改善への歩みを進めることのできる優しい世の中であってほしいと思います。 いつか1人残らず楽しくて心地いい生活ができるように…。


“性別・性的役割の押しつけ”について、10~20代のみなさんが抱いている違和感や“生きづらさ”について、あなはたどう思いますか? どうすれば解消・解決されると考えますか?下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。





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クロ現+
2021年3月5日

あなたがいるだけで十分なんだよ  作家・温又柔さんとの対話

台湾で生まれ、3歳から日本で育った作家の温又柔さん。
2017年「真ん中の子どもたち」で芥川賞候補となり、2020年には「魯肉飯のさえずり」で織田作之助賞を受賞しました。日本語・台湾語・中国語が飛び交う家庭に育った影響から、複数の言語を用いた創作でも知られています。
作品には温さんと同じように多文化にルーツのある主人公が登場し、「自分は何者なのか」について悩み、葛藤する物語を書き続けてきました。

「普通じゃなくても、あなたがいるだけで十分」

温さんのメッセージは、生きづらさを抱える多くの人に力を与えています。
どのようにしてその言葉にたどり着いたのか、温さんにロングインタビューしました。

※ラジオ深夜便「明日へのことば」でのインタビューを再構成
(アナウンサー 鎌倉 千秋)


否定していた母の言葉が愛おしくなったとき

インタビュー収録のスタジオで 姉妹のように話題がつきませんでした(左・筆者)

台湾出身の母を持つ私にとって、共通する背景の多い温さんは、いつかお話を聞いてみたいと思っていた存在でした。温さんが生み出すたくさんのユニークな表現の中で、私がとりわけ惹きつけられたのは「ママ語」ということばです。

「ママ」とは温さんのお母さんのこと。台湾に生まれ、3歳の時に日本に移り住み、日本語を自然と身につけた温さんにとって、日本語、台湾語、中国語を混ぜて話す母の言葉が「雑音交じりの言葉」に聞こえたこともありました。

成長し、自ら多言語を用いて作品を書くうちに、母の話す言葉を「ママ語」として再発見したのだそうです。

温又柔さん
うちの母の言葉って、中国語でも日本語でも台湾語でもなく、全部が何となく混じり合っているんです。

私の育った環境や小学校って、私自身以外はほとんど日本の子たちしかいなかったので、日本人ではない自分のお母さんが、ちょっと普通じゃないような気がして、何で違うんだろうって。

その一番大きいところは母のしゃべる言葉だったんですね。授業参観のときとかに、ばーってしゃべるのを友達に聞かれると、みんな不思議な顔して見ている。他の子と違う自分が何か普通じゃないのが嫌だなって思ったことは、一時期ありましたね。

結局怒りとかいらだちが母にぶつかる、家に帰って、「なんでママあんな目立つんだよ」みたいな。普通のママだったらこんな思いしなくて済んだのにと。


大学生になった温さんに、母の言葉を見つめなおすきっかけが訪れました。

温又柔さん
両親の言葉を学ぼう、中国語をちゃんと勉強しようと学生時代に上海に留学に行ったんです。そこで、自分が思い通りに使える言葉ではない世界で生きるって、単純にこんなに大変なんだって。うちの母や父は、子どもを育てながらこんな事していたんだって思って。

急に、その日本語が世界の全てって思っていたことが相対化されたことによって、もっと日本語に対して、外国の人が頑張って学ぼうとしているその部分、親の苦労ですよね。

最初から日本語しか存在しない世界で、私はすっとなじめたけれど、なじめずにここに生きている人たちのことをもっと想像しなきゃなって思ったのが結構大きかったですね。


 
『ラジオ深夜便』の収録時、温さんは「ママ語」に関わるくだりを朗読してくれた



上海での経験は、母の言葉を見つめなおす「芽」となりました。そして作家として様々な場面で「あなたの母語はどれですか?」と問われる中で、次第にそれが「ママ語」という表現をもつ「花」となり「実」となっていったそうです。

温又柔さん
母の話す、全部が何となく混ざり合った言葉を自分の「母語」と呼ぶんだったら、いっそ、うちのママのことばだから「ママ語」という呼び方にしちゃおうかなって。わざと「ママ語」って呼ぶように決めたんです。


温さんの、多言語があふれる独特の執筆スタイルも「ママ語」と向き合ってきたことと深くかかわります。

温又柔さん
私は、母の日本語じゃない部分をノイズとして思い、いつも排除してきました。でも排除したものが傍らにあるのに、何もなかったふりをして端正な日本語を使って生きていることに、無理を感じるようになりました

今の社会も本当は(いろいろなものを)放り込んだほうが社会自体がすごく豊かになるきっかけをもっているかもしれないのに、それをノイズ扱いして不可視にしてしまうのはとてももったいない。自分がこの(多言語の)文体を見いだせたように、社会もそういうものを見いだせたらと思うから、自ら率先してノイズを立てていきたいんです。


温さんは、 “わたしの普通”は他人が決めるものではなく自分が決めるものだと気づいたとき、自身を育んできた「ママ語」をとても愛おしく感じるようになったのだそうです。

台湾に行くとどこでも、大好物の「魯肉飯(台湾語で”ロバプン”)」を頼んでしまうそう



「対岸の火事ではない。足元で燃えている」

多言語を使いながら、日本や台湾、中国にルーツのある主人公がアイデンティティに悩み、日本社会で居場所を見出そうと苦悩する姿を描き続けてきた温さん。そのテーマで書き続けるとの思いをより強くしたのは4年前。とある文学賞で選考委員から受けた批評がきっかけでした。

批評の内容は「当事者たちには深刻なアイデンティティと向き合うテーマかもしれないが、日本人の読み手にとっては対岸の火事であって同調しにくい。なるほどそういう問題も起こるのであろうという程度で他人事を永遠と読まされて退屈だった」というものでした。

温又柔さん
この選考委員の方が「俺にとって退屈だった。俺には他人事って」と言った主語がもしご自身であったら、「そっか、この人は私の書いたものが退屈だったんだな」で終わった話だったんです。主語が「日本人」だったことがやっぱり私の中でちょっと看過できないなって。

私は、日本人とは誰だろうとか、自分は日本人なのか何人なのかということを悩んでいる自分の分身のような人物たちの小説を書いたつもりなんです。著者である私は、その物語を日本語で書くしかなかった。このこと自体がこういう、「日本語で生きている」人もいるっていうことの証しだと思ったんですけれども。選考委員の1人がそのことを、「これは日本人とは関係ない話だ」と切り捨ててしまったことに、ものすごくショックを受けたんですね。


温さんはツイッターでこの選考委員のコメントへの反論を投稿しました。

温又柔さん
なんて言うのか、日本人であるというだけで、自分のものとばかりに日本語の中に安住してそこから1回もずれる恐怖も不安も感じずにすむ人が、私が日本語で書いたこの内容を、「対岸の火事」というふうに、遠くのものとして見なせることって…。やっぱり、「あなたにとっては対岸に見えるけれども、この炎はもう足元で、燃えているものだよ」ということを、ちょっと言っておこうと思って。


「もどかしく悲しく怒りに震えた」とまで書いた反論は注目され、論争が巻き起こりました。選考委員に同調する人たちから、小説は普遍的なものだから多くの人が共感できるものを書くべきという批判もあれば、文学の包容力はもっと大きいものではないかと温さんに共感する声もありました。 この経験が、温さんの決意を固めました。

温又柔さん
自分が小説家として表現するべきものは、変わらず自分のように日本社会になじめず、日本人になろうとすごくあがきながら、結局日本人になれなかった人たちの居場所を作ること。自分のような育ち、複雑なルーツを抱え込みながら、普通じゃないかもと悩んでいる人たちにとって、ここにいてもいいんだよって言ってあげられるものを作りたい。

一方で、お前たち普通じゃないぞっていう圧力を投げ続ける人たちに対しては、いやいやあなたたちの普通こそ盤石だと思うなよっていう、この両方をやっていかなきゃなっていう覚悟にはなったので、結果的にその選考委員のおかげで自分は考えがとても深まったので、よかったなとは思っていますね。



動かしようのない現実ほど、動かしたらみんな楽になる

外国語に限らず、たとえば方言を話すことで“普通”からはみ出してしまうと不安を感じる方もいるかもしれません。温さんは、他人の決めた“普通”に縛られ、生きづらさを感じる人たちに語りかけます。

温又柔さん
私の場合は外国にルーツがある人間だったけど、本当はこの国にたくさんいる日本人も、同調圧力にさらされながら、自分の感情を抑え込んだり、自分はちょっとおかしいって思い込まされたり。

自分自身を大事にできないと、そうじゃない人に対しての目もちょっと厳しくなってしまう。私はこんなに頑張って普通であろうとしているのに、何であの人たち普通じゃないのみたいなことで。何かこう悪い方向でお互いを絞め合っちゃう。もう、その、誰かが敷いたわけでもない普通をまず破ろうよって。そうすることでもしかしたらもっと楽になれるんじゃないのって。

私がなるべく心がけたいのは、その場を乱すこと。乱してでも変わった方がいいことは変えていきたいって思う。ルールとかモラルとか言われて、動かしようのない現実といわれていることほど、実は動かしたら多くの人が楽になれるんじゃないかって気がするんですね。

今みんな何となく信じ込まされているけど、実はそもそもおかしいんじゃないのってもっと気軽に言い合えるような仲間を作ったり、ちょっと連帯したりしていくことで、全体的に、社会全体にとっていい変化が起きるんじゃないかなと、信じたいところです。


確実にここに存在する違和感を、形にする

ー声を上げ続けることの意味って、温さんはどんなふうに考えていらっしゃるでしょうか。

温又柔さん
自分にとってはなにか身構えて声を上げているつもりはなくて、ただやっぱり、私自身のリアリティーがみんな伝わってないなら、伝えようかなという感じですね。そうじゃないと、自分の違和感とか自分のリアリティーがまるでないものになっちゃうのが怖いなと。確実にここに存在している自分の違和感とかをきちんとその都度その都度、形にするというか、声にすることによって、ちょっとずつ社会が、今の形じゃなくて、もっと包容力のある形になってゆくことを祈りつつ、という感じですね。


違和感をしまい込まず、声を上げることは、時に温さんにとっても、とても辛いことだといいます。なぜ、それでも続けることができるのでしょうか。

インタビューの最後、温さんは、「人の善意」を信じていると強く語りました。 それは温さん自身、小さい頃、周囲の日本人に温かく受け入れられた体験に根差す言葉でした。


自分以外の人たちを支える人でありたい

温又柔さん
はっきりいって心ない人のささいな行動とかささいな発言ですぐに絶望しそうになることが多いんですよ。絶望することにすら疲れてくるみたいなことがあるんだけど、でもやっぱり心ある人は必ずいる。心ある人が、すぐに言葉にならなくてもちゃんと、他人を信じようとか。自分以外の人たちを支えようと願っている人も、この世にはこの社会にはちゃんといるっていうことを忘れたくないし、自分もそういう人でありたいという、そのこと自体の信頼を、コロナ禍でやっぱりもう1回、自分の中でこれは守りたいなと思っています。

―そういう人が、社会には必ずどこかにいる?

温又柔さん
私自身もそういう人でありたいと。誰もがここにいていいんだよって、誰かが、私に思わせてくれた人たちがいるように私も、普通じゃないのかな、自分って悩んでいる人に、いいんだよって、全然普通じゃなくても、あなたがいるだけで十分なんだよということを 感じさせるような作品を描きたいなって思っていますね。



『ラジオ深夜便』インタビュー収録のスタジオにて


取材後記
私自身も、台湾出身の母、日本人の父の下、とある地方の街で育ちました。
周囲に外国人はそれほど多くなく、グローバル化や多様性という言葉がまだなじみのない時代、「“普通”って何だろう」という無意識の違和感を抱えながらも、地域の人たちには分け隔てなく受け入れられ、育ちました。

高度成長期は遠い日となり、社会の余裕が失われたのも一面には確かですが、本来的に大らかで他者に優しく、外への好奇心が旺盛な日本人の心は変わらないと信じ、まず自らが率先してそうありたいと思います。

この記事を書くきっかけになった温又柔さんへのインタビュー「“ふつう”って何だろう」を、NHKラジオ深夜便『アーカイブス』のコーナーで4月中に再放送することになりました。読んでくださった皆様に、ぜひ聞いていただきたいです。
(アナウンサー 鎌倉 千秋)


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クロ現+
2021年2月22日

Vol.10 “性”を語りやすい社会に

「どうしたら子どもはできるの?」

もし 子どもから こう聞かれたら、あなたはどう答えますか?

ネットで検索すればさまざまな性の情報に触れることができる時代。
子どもたちが間違った知識から、誰かを傷つけてしまうかもしれません。

しかし、「性の話はタブー」「話すのは恥ずかしい…」と感じている人も多いのではないでしょうか。性の正しい知識について、子どもから大人まで誰もが気軽に学び、語りあえるきっかけをつくろうと、さまざまなツールの開発・制作に取り組む若者を取材しました。

(NHK名古屋 ディレクター 大間千奈美)


“親しみやすい”性教育を
東京都内で性教育に関するワークショップが開かれました。学校や家庭でもなかなか教わらない性の話を詳しく知りたいと、10代から40代まで幅広い年代の人が参加。講義が始まると思いきや、参加者が始めたのは、なんとボードゲームでした。


ワークショップで性教育ボードゲームをする参加者

「初めての生理/射精。処理方法がわからない…」
「セックスという言葉を耳にした。インターネットで調べたら変な動画が出てきた」

誰もが思い当たるようなできごとの数々…。

ゲームを通して 子どもが直面する性の課題を体験してもらい、そのときどきに必要な、正しい知識を学ぶ仕掛けです。

このゲームを制作した鶴田七瀬さんです。親しみやすい性教育を広めようと取り組む団体を2年前、23歳のときに起業しました。


性知識を学ぶツールを開発する ソウレッジ代表 鶴田七瀬さん(25)

鶴田七瀬さん
「性教育とは『人生の中でこういうフェーズがあって、あなたにはこういう知識が必要なんですよ』みたいなことを一緒に歩んでいくような教育だと思います。日常に性教育を取り入れることをすごく大切にしています。」

海外で目にした「性知識」の伝え方
鶴田さんが性教育と向き合うようになったのは、大学生のとき。親友から性暴力の被害にあっていると打ち明けられたことがきっかけでした。


大学時代の鶴田さん

鶴田七瀬さん
「どうしたらいいか わからなかったから、話を聞くことしかできなくて。何を言ったらよくて何を言っちゃいけないのかが わからず、提案もサポートもできなくて、もどかしい気持ちになりました。そして、知識が必要なんだというところにたどり着きました。」

性について学ぼうと、ユネスコが作成した『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』をはじめ、性教育に関する本や記事を読みはじめた鶴田さん。調べていくうちに、海外では幼少期から性教育を行っている国があると知ります。実際にどのように行われているのか、自分の目で確かめるために、1年近く、デンマークやオランダ、フィンランドなどに留学しました。


留学中フィンランドの小学校で授業に参加した鶴田さん

そこで、学校や家庭で誰もが当たり前のように性について話し合う様子を目にします。

オランダでは、小学校の教育に性について学ぶ“性教育月間”があり、子どもたちは図書館などで性について、自分自身で本や資料を使って調べる習慣がありました。

イギリスでは幼児向けの動画を通して、性教育が行われていました。水着で隠れる部分は「プライベートゾーン」といい、大切なところだから人に触らせてはいけないということをポップな動画で伝えていました。

特に印象的だったのは、その伝え方です。幼少期より、「あなたは大切」と伝えることから性教育が始まり、「その大切なあなたをどうやったら守ることができるのか?」という視点で、性の知識を深めていくのです。

鶴田七瀬さん
「『自分の体があまり大切じゃない』という感覚を持っていたら、自分の体を守ろうとは思えないからだと思います。そこで、まず自分の体を大切にすることを伝え、それから相手の体や気持ちを尊重することを伝えていました。それを見て、性教育は『人生の中で必要なことを考える教育』だと思いました。」

日常で「性知識」を学べるように
自分や相手の体が大切であることを含め、性の正しい知識を、誰もが日々の暮らしのなかで身近に学べる環境を作りたいと思った鶴田さん。帰国後、まず始めに作ったのは「性教育トイレットペーパー」です。


性教育トイレットペーパー

トイレットペーパーに書かれているのは、性に関するさまざまな情報です。性別にも「自分らしさ」があり、さまざまなセクシュアリティがあるということ。「性暴力」とは、同意なしに性的な行為を無理やりすること。また、相手を傷つけないために気持ちを確認することが欠かせないという「性的同意」の話などを、わかりやすい言葉で盛り込んでいます。

開発資金をクラウドファンディングで募ると500人以上が賛同。一般向けに販売を開始し、子どもに食事や居場所を提供する 子ども食堂などには無料で配布したところ、親世代から大きな反響がありました。

「子どもにきちんと性教育をしてあげたいと思いながらもキッカケがなかったのですが、性教育トイレットペーパーが背中を押してくれました」

「こんなにわかりやすい教材が、私の子どもの頃にあったら良かったのに」


「性の悩み」を気軽に話せる環境づくり
知識を得るだけでなく、悩みを気軽に話せるようしたいと、鶴田さんが次に制作を手がけたのが、冒頭で紹介した性教育ボードゲーム。自分の経験を話すための工夫も盛り込まれています。


『性の課題を学ぶボードゲーム』

たとえば「通勤中の満員電車で痴漢にあった」というマスにはクイズも掲載しています。

問題 日本では痴漢にあったことがある人は何%いるのか?

答え 女性の70%、男性の32%が電車やバス、道路などの公共空間で 何らかのハラスメント被害を経験していると言われており、 痴漢被害にあった人の約半数が「我慢した」と答えています。

(#WeToo Japan調査より)


ボードゲームは、保護者や教員向けにネットで販売を始めています。また、鶴田さんは性教育のワークショップでも活用しています。この日のワークショップ。参加者のひとりの駒が「痴漢にあった」というマスに止まり、自身の体験を話し始めると、ほかの参加者たちも堰(せき)を切ったように語り出しました。


性について自身の経験を語り合う参加者

「痴漢にあったときに、親に全然話せなかったし、相談できなかった」

「私は痴漢にあったときに、母親から『なんで大声を出さなかったの?』と聞かれたその ひと言で二度と相談しなくなりました」


「知識を得るだけでなく、性の悩みを安心して話すきっかけになる」と、子育て中の親や養護教諭などにも好評です。


ワークショップで参加者と話す鶴田さん

鶴田七瀬さん
「話しても大丈夫と感じさせる環境を大人側がつくっていくことが重要。日常生活の中に性教育を取り入れることによって、もっと話しやすい環境、安心して相談できる場所ができるのではないかと思っています。」

取材して…
国の調査(「男女間における暴力に関する調査 報告書」内閣府男女共同参画局 平成30年3月)では男女あわせて20人に1人が「無理やりに性交等された被害経験がある」と回答していますが、そのうち女性の約6割、男性の約4割は、誰にも相談していないという実態があります。

鶴田さんの取り組みは被害が起きてからではなく、起きる前に私たちが知っておくべき情報を伝え、悩みを相談できる環境をつくることにつながっていると感じました。性被害から自分や大切な人を守るために、性の話をタブー視せず、日頃からしっかり向き合うことが何よりも大切だと強く思いました。

あなたが 子どもの時に知っておきたかった性の知識はありますか? 子どもたちに伝えたい、伝えておいたほうがいいと思う 性の知識はありますか? 下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。



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クロ現+
2021年2月19日

わたしたちが「黙って歩いた」意味

2月14日(日)、東京・渋谷に全国から在日ミャンマー人4,000人以上が集まり、ミャンマーの軍事クーデターに無言で抗議する「サイレントデモ」が行われました。
その中心メンバーのひとりが、1988年のミャンマーの民主化運動に参加し、難民となったチョウチョウソーさん(57)です。実は去年8月、わたしは新型コロナウイルスの影響が広がる中で「安心できるコミュニティーを守りたい」と奮闘するチョウチョウソーさんの様子を取材していました。
今回チョウチョウソーさんが語った、怒り、悲しみ、そして、希望・・・
デモに込められた思いは、日本に住むわたしたちへの問いかけでもありました。
(「みんなでプラス」取材班 ディレクター 伊藤 加奈子)

「新型コロナの中ですが、どうか力を貸してください」

子ども「コロナなのに、なんでこんなに人がいるの?」
母親 「それだけ“重要なこと”っていうことだよ」

春の陽気となった2月14日の代々木公園。在日ミャンマー人たちのデモの様子を見ていた日本人親子の会話です。この親子のように「デモを見た日本人にミャンマーで何が起きているのか考えるきっかけにしてほしい」というのが今回のデモの目的でした。人通りの多い渋谷周辺が選ばれたのも多くの人の目につくようにするためです。

デモを企画したひとりが、ミャンマー難民のチョウチョウソーさん(57)です。ミャンマー人が多く暮らす高田馬場で料理店を営んでいます。店は在日ミャンマー人たちが安心できる場であり、「駆け込み寺」のような存在です。

コロナで経営が苦しい中でも、職を失った仲間たちをサポートするなど、チョウチョウソーさんはコミュニティーのリーダー的役割を果たしています。日本人にミャンマーのことを伝える活動も積極的に行ってきました。

チョウチョウソーさん 経営する店は在日ミャンマー人たちにとって大切な場

チョウチョウソーさん
「今回クーデターが起きて最初に思ったのは、若者たちの夢が終わってしまったということです。日本に来ている留学生などは、日本のことを勉強し会社の仕組みなども学んで、ミャンマーに帰って国のために頑張ろうとしていました。
新型コロナでみんなが大変な中、軍の私利私欲のための“国民のためではない”クーデターが起きてしまったことが悲しい。」

今回のデモにあたりチョウチョウソーさんたちは大きなルールを決めました。声をあげず『ただ黙って歩くこと』です。クーデター後に日本でも連日デモが行われましたが、緊急事態宣言中に「集まって声を出すこと」には批判の声も寄せられました。そこで感染対策の強化を考えた結果、「サイレントデモ」の形をとることにしたのです。

行進する際も3列で速めに歩く、ゴミ袋を持ったスタッフが巡回する、デモへの理解を求めるチラシを用意する・・・といった工夫を行いました。

誘導するチョウさん。参加者はマスクに×印で「サイレントデモ」のアピール

整然かつ毅然と、黙って歩く4,000人。沿道で見ていた日本人の中には、強権的な政治への抵抗を示す3本の指を立てるポーズで、無言で応援する人もいました。それに対しチョウチョウソーさんも力強いポーズで応えていました。

チョウチョウソーさん
「デモを見た日本の人たちに『なぜ日曜日に、こんなにたくさんの人が無言で歩いているのか』を考えてもらい、ミャンマーに関心を持ってもらうきっかけを作りたいと思いました。
コロナの中で申し訳ありませんが、ミャンマーで何が起こっているのか理解して、応援してほしいのです。どうか力を貸してください。」

名古屋、香川などから来た参加者も


「政治こそが自分たちの未来」

チョウチョウソーさんが来日したのは1991年、28歳のときでした。1988年のミャンマーの民主化運動に参加し、仲間たちが次々と拘束される中、「もし捕まったら殺されるかもしれないと身の危険を感じた」といいます。
結婚したばかりだった妻ヌエさんをミャンマーに残して日本に逃れてきました。

日本に来てまもないころ ミャンマーでは会計士の仕事をしていた(写真提供:チョウチョウソーさん)

1998年に難民認定を受けたあと妻ヌエさんを呼び寄せ、都内でミャンマー料理店を開きました。店を切り盛りする一方で、ミャンマーの民主化実現に向けて日本の外務省や国会議員に働きかけるなど、ロビー活動を続けてきました。
「政治こそが自分たちの未来」だと信じてきたからです。

ミャンマー人の民主化への思いの強さを示すエピソードを、チョウチョウソーさんが教えてくれました。去年11月に総選挙が行われたときのことです。
日本に暮らすミャンマー人たちも東京の在日大使館で投票に参加し、地方からも投票のために多くの人が上京しました。貸し切りバスでやってきた人たちもいました。その中にはこんな人もいたそうです。

チョウチョウソーさん
「“コロナが拡大している今、東京に行くなんて・・・”と会社に言われて、投票後、14日間の自宅待機をした地方のミャンマー人もいました。この間、無給となりましたが、それでも投票したい思いはお金には換えられません。」

総選挙の結果はNLD=国民民主連盟の圧勝でした。民主的な政治を求める大多数の国民の願い。それが今回のクーデターによって覆されてしまったのです。

ダンスにゲーム、鍋たたき 広がるCDM

チョウチョウソーさんのもとにはSNSでミャンマーの情報が入ってくる

チョウチョウソーさんのスマホには、ミャンマー全土で広がる抗議活動の様子がひっきりなしに届きます。『市民的不服従運動(Civil Disobedience Movement)』略して『CDM』と呼ばれていて、夜8時に一斉に鍋をたたいたり、ダンスで抗議の思いを表現したり、ゲームを通じてデモの作戦を立てたり、多くの市民が様々な形で軍への抗議の意思を示しています。

運動の中心となっているのは20代~30代です。「このままでは自分たちの未来がなくなる」という切迫感が、若い世代を突き動かしているといいます。

チョウチョウソーさん
「88年のときは、とにかく“政治、社会のシステムを変えたい”という思いで動いていました。当時は国がクローズしていて海外と繋がれませんでしたが、民政になって以降は海外留学などのチャンスもひろがり、若者たちはそれぞれ夢を持っています。
みんながスマートフォンを持ち、自分たちのやりたいことを探せる時代です。若者たちは今、“自分の夢のために”動いています。その思いを支えたいのです。」

(『ミャンマー人の若者とデモ』こちらの記事も⇒「集まってしまって、ごめんなさい」
 
 
デモ帰りの人たちが店にやってくる

チョウチョウソーさんの店には、デモを終えた在日ミャンマー人の若者たちが数多く集まってきます。若者たちに対しチョウチョウソーさんは、こんな言葉をかけているそうです。

「ミャンマーがどうなるのかはまだわからないけれど、これから何をしたいか?日本でどうしたいのか?勉強は足りているか?きちんと自分の頭で考えてね。盲目的に何かを支持するのではなく、なぜやるのか、自分の責任で判断してね。」

デモで若者たちと一緒に歩くチョウチョウソーさん


  「自分の頭で考えているか」

チョウチョウソーさんと話をしていると「自分の頭で考える」という言葉が、繰り返し出てきます。実はこれには「ミャンマーの教育の在り方を変えたい」という思いがこめられています。

ミャンマーの学校教育は『先生が一方的に教える』スタイルが一般的だそうです。チョウチョウソーさんはこうした従来の教育を変え「自分で考えられる人を育てたい」と取り組んでいます。

在日ミャンマー人に日本語を教える活動をしている東京女子大学教授・松尾慎さんに協力を依頼し、2018年からミャンマーで、先生たちを対象にした参加型学習のワークショップをスタートさせたのです。

ワークショップでは、「医療・平和・教育・食事・意見表明という5つの権利のうち、もし手放すとしたらどの順番か?」など、正解が一つではない問いを投げかけ、対話をする経験を積んでもらっています。

ミャンマーでのワークショップ/左が松尾慎さん

2019年のグループワークの様子(写真提供:Villa Education Center事務局)

東京女子大学教授 松尾慎さん
「教育を変えたいというチョウチョウソーさんの熱い思いをミャンマーの先生たちに伝えるパイプができ、授業にも取り入れてほしいと考えていたところでした。去年はコロナの影響で、今度はクーデターで、次はいつ行かれるかわからなくなってしまったのが本当に残念です。」

松尾教授は日本でも、ただ日本語を教えるだけでなく、みんなで議論して学び合う場を設けています。
毎週活動に参加しているチョウチョウリンさん(59)は、ミャンマーで軍に拘束された経験があります。そこから逃れて来日し難民認定を受けました。

軍に拘束された経験があるチョウチョウリンさん

チョウチョウリンさん
「ミャンマーでは人が死ぬのは当たり前、仕方ないことだと思っていた。日本に来て『安心安全』とはどういう意味か知り、初めて怖くなってミャンマーに帰れなくなりました。」

その上でチョウチョウリンさんは「自分の頭で考えることの大切さ」を訴えます。

チョウチョウリンさん
「デモがエスカレートすれば、ミャンマーではまた人がたくさん死ぬかもしれない。デモの先のことをもっと考えて、議論をしないといけないとわたしは思っている。“アウンサンスーチーさんが解放されたらなんとかなる”のでも、“みんなに従えばよい”のでもなくて、これからのことを自分の力で考えないといけない。
わたしは自分の考えを話したけれど、それが正しいか正しくないかは、あなた自身が自分でちゃんと考えてね。」


  「これは日本にも関係する話なのです」

日本人に向けてミャンマーの状況を発信し続けている人もいます。
ミョウミンスウェさん(51)は東京大学大学院で修士号を取得後、ヤンゴンで日本との輸出入の仕事に従事するなど、日本とミャンマーの「ビジネス面でのかけはしになりたい」と考えてきました。しかし1月中旬から日本に来ていた間にクーデターが起き、帰国できなくなりました。ミャンマーにいる家族ともバラバラになっています。

そうした中でミョウミンスウェさんは、SNSでミャンマーの様子を日本語でも発信し、日本の人たちに関心を持ってほしいと呼びかけています。

東京大学大学院で修士号を取得したミョウミンスウェさん

ミョウミンスウェさん
「ミャンマーの国民たちは、コロナで死ぬより、軍事独裁下で抑圧されるのをもっと怖がっています。ヤンゴン近郊には日本が投資しているティラワ経済特区もあります。このままでは、日本の経済を支えているミャンマーの日系企業に大きな影響を及ぼすでしょう。
日本が沈黙しているとミャンマー国民からも信頼を失うことになりかねません。日本にも関係のある話だと知ってほしいです。」

チョウチョウソーさんも、日本人に向けてこう訴えます。

チョウチョウソーさん
「今の時代、何事も関係がないことはない。すべてが繋がっています。ミャンマーの安定は、アジアの安定につながり、最終的には日本にも利益があると思います。そういうつながりを、自分の頭で考えてみてほしいです。」


取材後記
日本にいるわたしにとって、軍事政権下の生活や民主化運動とは何なのか、想像しにくい部分がありました。その意味が少しわかったのが、2月10日のチョウさんとの会話です。その前日、ミャンマーでデモに参加していた19歳の女性が警察の発砲を受け、銃弾がヘルメットと頭の骨を貫通し、この時点で意識不明の重体となっていました。
チョウさんは一言、「こういうことなんですよ」と語気を強めました。
「夢のために立ち上がっただけなのに。もし撃たれたのが自分だったら・・・」 自分の頭で想像したら涙があふれてきました。
民主主義を守るために、微力でもできることを続けたいと改めて思いました。


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クロ現+
2021年2月16日

Vol.9 “わきまえる”の波紋

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森会長が、みずからの女性蔑視と取れる発言の責任を取って辞任する考えを明らかにしました。

「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」という発言に加え、「組織委員会にも女性がいるが、みんなわきまえている」という発言に対しても、SNSを中心に大きな議論が起きました。広がる波紋を取材すると、スポーツ界だけでなく、私たちの社会、組織のありように対する疑問の声が聞こえてきました。

(「おはよう日本」取材班)

#わきまえない女 声を上げる人たち


「わきまえない女、ここにいます」
「わきまえろと言われても声を上げ続けるのが私たちのやり方です」


森会長の発言以降、「わきまえない女」というキーワードをつけた投稿が、SNSで相次いでいます。

特に多くの賛同を集めているのが、家庭に居場所がなかったり、性搾取を受けたりしている10代の女性に衣食住を提供する活動をしている仁藤夢乃(にとうゆめの)さんの投稿です。青少年の支援について話し合う行政の会議に参加した際、出席者のほとんどが男性で、議論が既定路線で進む様子にショックを受けたとつづっていました。

『初めて行政の会議の委員になったとき、長年委員をしていた男性たちが、事前に決められた方向性やゴールに向けて誘導的な発言をするだけで、そのためのアリバイづくりみたいになっている会議に驚きショックだった。現状を変えるため、たくさん発言した。これからもそうしていく』


(一般社団法人Colabo(コラボ)代表 仁藤夢乃さん)

仁藤夢乃さん
「“もとから考えられている路線と違うことを言うなよ”という空気を感じながら、言うことは言うようにしています。女性差別とか、性搾取とか、多くの女性が困っている問題が放置されてきたのも、男社会で男性たちが権力を握って決めてきたから。現状を変えるためにも、多くの女性がはっきりと発言をして議論の場、決定の場に入っていくことが重要だと思っています。おとなしくしていることが『わきまえる』ことになってしまうという日本社会の現状が、女性差別の深刻な状況をあらわしていると思います。」

わきまえたこと、ある?


街の人に聞くと、男女を問わず、“わきまえた” 経験があるといいます。

20代 女性
「前の会社だと男社会という感じだったので、強気な『こうした方がいいのではないですか』という発言はしづらかった。」

18歳 男性
「部活とかだったら、年代が3世代で後輩先輩の差があるので、先輩に意見するときは自分の感情をちょっと抑えてというのが “わきまえた”経験かな。」

70代 男性
「男の人は出世しなきゃいけないところがあるじゃない。男の人だけでないかもしれないけど。みんな中央に向いている。」

“わきまえる”リスク 企業トップも・・・
こうした中、“わきまえる”ことについて危機感をにじませる意見を投稿した人がいます。

「これは私たち日本が育んできた文化・社会でもあります。私としては猛省する」

投稿したのは、国内最大級のフリマアプリ、メルカリの代表取締役・CEOの山田進太郎さん。“わきまえる”ことで多様な意見が出づらくなったら、企業は生き残れないといいます。


(メルカリ代表取締役・CEOの山田進太郎さん)

山田進太郎さん
「サービスが広がるほど、年齢、性別、外国人など、さまざまな方々の多様なニーズに対応するためには、社内で多様な声があるということがすごく重要。“わきまえる”というのは明確なマイナスがあると思う。」

山田さんはいま、社内で萎縮せずに意見を言える環境作りを模索しています。

山田進太郎さん
「誰も意見を言ってくれなっちゃったら、(自分が)どんどん“裸の王様”になってしまって、いくら気をつけていても(周りが自分に意見を)言いにくいことなどあると思います。だから、まずは みずから自覚することが大切。言い方もそうですし、“言える文化”というか、言い続けることで“言える文化”にしていくしかない。

私には子どもがいますが、今のこの社会、世界のまま、子どもたちに残せないと感じています。今回の件をきっかけにして、いろいろな人がダイバーシティを考えることが重要だと思います。 」

取材して感じたこと
そもそも「わきまえる」とは、「ものの道理を十分に知る」という意味で、必ずしも「黙ったほうがいい」というわけではないはず。しかし、改めて自分の経験を振り返ると、「リーダーは男性の方がいいだろう」など性別を理由に、プロジェクトの代表を決める場で、やってみたい意志があったものの立候補しなかったことがあったのを思い出し、反省しました。

今回の発言をきっかけにして、知らず知らずのうちに「言っても仕方がない」と思っていた問題に対して、きちんと声を発していく社会にどうすれば変えていけるのか、考え続けていきたいと思います。

みなさんから寄せられる声をもとに取材を続けます。ご意見をお待ちしています。

あなたは、職場、学校、家庭などで、性別によって役割や仕事を固定されたり、格差を感じたりしたことがありますか?そのような格差をなくすためにどうすればいいと思いますか?
ご自身のエピソードや周りで見聞きした経験でもかまいません。
下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
クロ現+
2021年2月15日

Vol.8 予期せぬ妊娠 命つなぐ マタニティホーム

去年11月、神戸市の元女子大生が、就職活動中に羽田空港のトイレで出産し、赤ちゃんの遺体を遺棄したとして、逮捕される事件がありました。生後間もない赤ちゃんが母親に遺棄され、亡くなるケースはあとを絶たず、おととしまでの16年間に全国で156件に上ります。

予期せぬ妊娠に悩む女性たちに支援が届いていれば、命を救えたかもしれない…。焦りが募るなか、去年12月、妊娠で追いつめられた女性たちの生活を支える滞在型の支援施設、マタニティホーム(妊婦の家)が神戸市に開設されたと聞き、取材しました。

全国でも珍しいこの取り組み。そこから見えてきたのは、誰にも頼ることができず、孤立に追い込まれる母子の実態でした。

(神戸放送局 記者 井上幸子、おはよう日本 ディレクター 朝隈芽生)


妊娠で追いつめられた女性に “ぬくもりある居場所”を

(マタニティホーム Musubi室内 撮影:小さないのちのドア)

神戸市内の住宅街にある「マタニティホーム Musubi」。寄付で運営され、滞在費は無料。助産師や保健師などのスタッフが24時間常駐し、妊婦たちの体と心のケアから、病院や行政へのつきそい、さらに出産後に体調が落ち着くまで、さまざまなサポートをしています。

入居する女性たちそれぞれに個室が準備されていますが、昼、晩の食事は、スタッフを含め、みんなでテーブルを囲みます。入居者からのリクエストに応えたメニューや手作りのケーキが並ぶこともあります。時には入居者同士が連れ立って日用品の買い物に行くなど、和やかな雰囲気に包まれていました。

入居者専用のセキュリティ対策の施された出入り口があって、外部の人は入れないようにするなど、プライバシーも守られています。産まれてきた赤ちゃんのためのおもちゃや絵本なども備えられていて、女性たちが少しでも安心して出産を迎えられるよう、さまざまな工夫や配慮がされているように感じました。


(一般社団法人「小さないのちのドア」代表 永原郁子さん<右>)

この施設を運営するのは、神戸市の団体「小さないのちのドア」です。代表を務める助産師の永原郁子さん。永原さんたちは3年前から予期せぬ妊娠に不安を抱える女性たちの相談を受けつけてきました。これまでに電話やSNSで寄せられた相談は1万3000件に上ります。

『陣痛が来ています。でも誰にも相談できない』
『たった今、ひとりで出産しました』
『赤ちゃんをどうしたらいいかわかりません』


家族にも打ち明けられないまま、ネットカフェや知人の家を転々としている、金銭的に余裕がなくて病院に行くことができない、母子手帳も持っていないという女性も少なくありません。特に、去年の春以降、新型コロナウイルスの感染拡大と比例するように相談は増えました。1回目の緊急事態宣言が出された時期には、小学生を含め、10代からの相談が急増。また、コロナで会社が倒産して仕事と住む場所を失い、生活費を稼ぐために援助交際や風俗業に入らざるを得ず、妊娠してしまったという女性も少なくありませんでした。


(「小さないのちのドア」にSNSで届いた相談)

助けを求めるせっぱ詰まった声の先で、小さな命が危機にさらされている…。それを痛感した永原さんは、相談を受けるだけでは命を守りきることができないと、マタニティホームの開設に踏み切りました。


(「小さないのちのドア」代表 永原郁子さん)

永原郁子さん
「話を聞くだけではもうどうにもならない。『住むところがない』『食べていない』と言われたら、電話ではもうどうにもならないですから。『信頼してもいいですか』と伸ばされてきた細い手をそっとつながないと、すっと引っ込められてしまう。だからこそ、ここから先は別のところに引き継ぎます、とは言えません。相談から生活支援、そして産後の自立支援まで一貫して行えるマタニティホームのような受け皿が必要なんです。」

“産んでも育てられない…” 

(ハルカさん(仮名)・18歳)

去年12月、マタニティホームが開設された数日後には、中国地方や九州などから女性が入居し、5部屋ある個室のうち、4部屋は埋まりました。私たちは入居者の女性の一人に話を聞くことができました。

出産を間近に控えた18歳のハルカさん(仮名)。去年10月、体に違和感を覚えて病院に行くと、すでに妊娠7か月と診断されました。中絶が許される期間をすでに過ぎていたため、医師から「産むしかない」と告げられました。仕事のストレスで体調を崩しただけだろうと思っていて、妊娠は想像もしていなかったといいます。

パニックになったハルカさんを見て、病院が「小さないのちのドア」につないでくれたといいます。

ハルカさん
「(病院は)このまま私がひとりで帰ったら自殺してしまうのではと思ったのかもしれません。いますぐ『小さないのちのドア』に相談に行きなさいと言われました。妊娠のことを親にも友達にも言えず、どうしようと思っていましたが、永原さんたちと話すことで落ち着くことができました。」

ハルカさんは子どもの父親についても言葉少なに語ってくれました。「つきあっている人ではない…」。妊娠のことを伝えても人ごとのような反応が返ってきたため、出産やこれからについて協力を得ることはできないと思ったそうです。

赤ちゃんもお母さんも守りたい
出産予定日が2か月後に迫る中、生まれてくる赤ちゃんを誰がどう育てていくか、ハルカさんは永原さんたちと繰り返し相談しました。妊娠によって高校を卒業してから働いていた会社を辞めざるを得ず、収入はありません。永原さんや保健師らの仲介で、家族に妊娠を伝えることはできましたが、サポートを得るのは難しく、1人で育てていくことに大きな不安を感じていました。

悩んだ末、ハルカさんは「特別養子縁組」で新しい家庭に子どもを育ててもらうことを決断しました。特別養子縁組は、さまざまな事情から実の親と暮らせない子どもを救うために、育ての親と法律上の親子関係が認められる制度です。

ハルカさん
「まだ自分も若いし、育てる自信がないから。中途半端な状態で、ひとりで育てるよりは託した方が赤ちゃんも幸せになると思う」


(ハルカさんと永原さん)

しかし、出産予定日が近づくにつれ、ハルカさんの気持ちは揺れていました。ハルカさんのこうした様子を見て、永原さんは優しく語りかけました。

永原郁子さん
「赤ちゃんの幸せのために新しいお母さんに託すんだから。すばらしい選択をしたんだって思えばいいからね。胸張って生きていったらいいからね。」

その後、ハルカさんは元気な男の子を出産。そしてまもなく赤ちゃんと別れ、ホームを去っていきました。その時、赤ちゃんにメッセージを残しました。

『私にとって、宝物が増えました。元気に生まれてきてくれてありがとう。』

赤ちゃんは今、新しい家庭で元気に育っています。

安心して産むことのできる場所があり、頼れる人がいれば、赤ちゃんの命も、お母さんのその後の人生も守ることができると、永原さんは確信しています。



永原郁子さん
「命がつながることができて、うれしいです。お母さんたちはここに来られるときは、涙を流し、つらい顔をしている。でも、ここで安心して出産して、笑顔に変わって出ていくことができる。そんな場所にしたいです。」

永原さんたちは、今後、お母さんたちの就労支援まで広げ、母子それぞれが安定して暮らせるようにサポートしていくということです。

孤立の原因は、相手の男性や周囲の心ない態度
予期せぬ妊娠に苦しむ女性たちを取材していて、強く思うのが、相手の男性の姿が見えないということです。ハルカさんのように、ひと事のような対応をされ、協力を得られないケースだけでなく、妊娠を伝えたとたんに連絡が取れなくなってしまうことも多いといいます。

相手の男性の無責任さに加えて、周りからの心ない言葉が、女性たちを孤立に追いこんでしまうと永原さんは感じています。

永原郁子さん
「妊娠したのは自業自得だとか、非難するような言葉が女性たちに向けられることがあります。『育てられないなら中絶しろ』とか、『風俗で妊娠しても女性の責任』というような風潮もあります。でも、女性は一人で妊娠したわけではありません。風俗で働かざるを得ない状況に追い込まれてしまった背景があるかもしれません。

相手の男性も周りの人たちも、そういうことをしっかり認識して、責任ある行動をとってほしい。女性を責めるのではなく寄り添って、どうすれば女性も赤ちゃんも救うことができるのか、一緒に悩み考えてほしい。

また、親から虐待を受けた経験があるなど、身近に頼れる人がいないというケースも少なくありません。妊娠が支援と出会うきっかけになるような、みんなで女性たちをあたたかく支えられる社会であってほしい。 」

マタニティホームを取材して…
「自分が救われたように、誰かの救いにつながるのであれば」と 今回、匿名を条件に話をしてくれた入居者の女性たち。中には、ネットカフェなどを転々としたあとに ようやくホームにたどり着き、疲れ切ってしばらく眠り続けていた人もいました。初めのうちは、心を開いてもよいのだろうかと警戒する様子の人もいました。しかし、手作りの食事をみんなで囲み、悩みを打ち明ける中で、自ら命をつなぐ決断をし、さらに表情も穏やかになっていったのが印象的でした。

今回の取材を通して、予期せぬ妊娠で孤立してしまった女性たちの生活を支える取り組みが全国に広がる必要があると強く思うと同時に、予期せぬ妊娠を防ぐための性教育、そして、妊娠で悩む女性たちを孤立させない社会をつくることが早急に求められていると痛感しました。これからも取材を続けます。

●一般社団法人 小さないのちのドア (24時間 対応)
ホームページ https://door.or.jp/  (※NHKホームページを離れます)
電話     078-743-2403
メール    inochi@door.or.jp 

もし、あなたが、あなたのパートナーや大切な人が予期せぬ妊娠をして悩んでいたら、どうしますか?どうしたら救われる・救うことができると思いますか?みなさんのご意見や記事への感想などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
クロ現+
2021年2月11日

”アフリカ少年”だった漫画家が「“違い”を楽しもう」と呼びかける意味―星野ルネさん―

いまSNSで『アフリカ少年が日本で育った結果』という漫画が話題になっています。作者はカメルーン生まれ・日本育ちの漫画家、星野ルネさん(36)。日本に移り住んでから体験した学校生活や、友人とのちょっとした会話の中に出てくる誤解などをコミカルに描いています。漫画を通じて差別や偏見などの問題に挑む星野さんに、いまの表現にたどり着くまでのお話を伺いました。 
(NHK 報道局「国際報道2021」ディレクター 重田 竣平)

“アフリカ少年”が見た日本の景色

「髪の毛触らせて!」と群がってくる同級生たちー 学校の入学式など新しい環境に移るたびに、“アフリカ少年”に好奇の目が向けられました。都内に暮らす漫画家・星野ルネさんは、そんな子ども時代の体験や何気ない日常を漫画にしてツイッターに投稿しています。3年前にスタートし現在 5万人のフォロワーを集めています。

漫画「好奇心の行方」


漫画「未知との遭遇」


星野ルネさん(自宅のアトリエにて)


星野ルネさん
「アフリカの少年が日本で育つと どういう景色が見えるのか。 みんなが当たり前に思っている日本の景色とは、違う景色があるというのを紹介したかったんです」


左:日本に移住した直後 4歳の星野さん
右:小学校6年生の星野さん 遠いアフリカからやってきた母と自分を温かく迎えてくれた大好きな祖母と


1984年、星野さんはカメルーン人の両親の元、ジャングル近くの農村で生まれました。転機が訪れたのは4歳の頃。母親が村に研究で訪れた日本人の生物学者と再婚し、兵庫県姫路市に移り住むことになったのです。
家の中で故郷の母語・フランス語と、播州弁(兵庫県の方言のひとつ)が飛び交う、ユニークな環境で育ちました。

しかし家から一歩外に出ると、アフリカ出身の子どもは地元では自分だけでした。そのため、さまざまな困難に直面したといいます。

“いつかは自分も『日本人らしい』同じ見た目になれるといいな…” そう願いながら、周囲との容姿の違いやアイデンティティに少年時代は悩み続けました。当時のエピソードは漫画「変身の時」で紹介されています。

「変身の時」


高校生になると、外見が理由でアルバイトを断られたこともありました。その後も自分が進むべき道がなかなか見つからず、仕事を転々としてきました。

「歩いていく」


星野さん
「日本人の思考パターン、考え方も知っているので、まあそうだろうな、自分を見て驚きはするだろうなっていうのはわかりつつ…。自分で選んでアフリカに生まれて日本に来ているわけではないので、周りと違うことで自分がどうして煩わしい思いをし続けなきゃいけないのか。心ないことを言う人も中にはいるし、自分のロールモデル、未来像が思い描けなかった」


“マイノリティーは自分だけじゃない”

思い悩んでいたある日、友人から「自身の体験を発信する」ことを勧められました。実は星野さんには、まだ日本語が話せなかった幼稚園のころに、絵を通して周りの子どもたちとコミュケーションをとり、友だちができた経験がありました、いまも星野さんにとって絵は、『自分の内面をもっとも繊細に表現できる手段』だといいます。星野さんは、心の奥にしまい込んできた過去を見つめなおし、少しずつ漫画にしていきました。

漫画を執筆する星野さん


得意な漫画で表現することを始めた星野さんですが、それをツイッターに投稿してみたところ、思わぬ反響がありました。同じように外国にルーツを持つ人たちだけでなく、障害のある人や、いじめにあった人など、さまざまな立場の人が星野さんに自分の姿を重ね、共感を寄せてくれたのです。

こうして読者と交流を続ける中で、気付かされたことがあるといいます。

星野さん
「自分は見た目が違うからこそ、最初からマイノリティーだとすぐわかる。でも実際には見た目にはわからない病気を抱えている人もいるし、職業がすごく珍しかったり、どこかに障害があったり。細かく見ていくとみんなどこかしらでマイノリティーなんですよね」


星野さんは次第に「自分は周りになじめていないんじゃないか」―。そんな不安を抱える人たちが前向きになれるような言葉を、漫画に込めるようになりました。

2018年の作品「導く光」では、攻撃されて闇に落ちたような気持ちになっても『必ず道しるべが見つかる』と伝えています。

「導く光」:2018年




若者に伝えたい “ありのままの君で”

そんな星野さんのメッセージを聞きたいと、毎月のように各地の高校や大学などから講演依頼が寄せられています。この日は、熊本市の大学で体験を語り、「不安な時代の中でも、個性を大切に生きてほしい」と伝えると、学生からも積極的な質問が集まっていました。

講演会の星野さん(去年10月)


会場の大学生からの質問に答えた


大学生
「私はそろそろ就活を始めます。もし自分が社会とのズレを感じたとき、どのように乗り越えていけば良いのでしょうか」

星野さん
「ズレの部分って個性でもあるし自分だけの味だったりもします。僕はみんなと見た目も違うし、経験してきたことも違うので、そのズレを生かせる仕事を選びました


さまざまな葛藤を乗り越えてきた星野さんがいま、若い世代に伝えたいことは―。

星野さん
「“ありのままの君でいいんだよ”ということ。君が君自身の良さに気づく日が絶対に来るから、自分の未来を信じてほしいということ。君はひとりじゃないんだよということとか、愛情と自信をつけてあげることはすごく大事にしています」


違いを楽しめる社会に

町を歩き、地域の人と触れあうことで漫画のアイデアが湧いてくるという


新型コロナウイルスの感染拡大や人種差別をめぐる問題で、世界中で“分断”が強調されたこの1年。星野さんは、これからは人々が互いの“違い”を楽しめるような社会になってほしいと考えています。

星野さん
「人間って本当は“違い”って好きなはずなんですよ。人間って、新しい情報に触れるのが好きなはずなんですよ。それが何かの掛け違いで“違い”が悪いようにフォーカスされることも多いけど、本来は楽しめたり、そこから学べるたりできるので、そういう発想がもっと広がればいいですよね。」


最後に「2021年はどんな年にしたい?」というテーマで、昨年末に描いていただいた作品をご紹介します。価値観を異にする人同士に“同じテーブルについて話し合おう”と呼びかけています。皆さんはどう読まれましたか?

「令和3人寄れば文殊の知恵」



取材を終えて
去年は私が携わる報道番組でも、「分断」「対立」という表現が嫌になるほど繰り返されました。そうした中で、人々の“違い”を厄介もの扱いするのではなく、むしろ積極的に面白がることで、アイデアや文化を創り出す力に変えていこうという星野さんのメッセージが、わたしの心に響きました。分断の端と端で遠くから罵り合うのではなく、対話しようと呼びかける姿勢が、今こそ大切だと感じます。

『国際報道2021』と『おはよう日本』でのインタビュー放送後、星野さんのSNSには「メッセージに勇気づけられた」という感想が多く寄せられたそうです。中でも多かったのが、30、40代の子育て世代。「子どもたちに多様性の大切さを伝えるため、この漫画を参考にしたい」という声もあったそうです。

日本社会はこれからますます多様化が進んでいき、同時に望まない軋轢も増えていくかもしれません。国籍や肌の色、性別などに関わらず、誰もが心地よく暮らしていける社会にするために、私たちは日々、どんなことができるでしょうか? 星野さんの漫画をきっかけに、みなさんと一緒に考えられたら幸いです。
(NHK 報道局「国際報道2021」 ディレクター 重田 竣平)


星野さんのように、人と違って悩んだ経験や、それを乗り越えた経験などがありましたら、ぜひこのページの下(動画の下)の「コメントする」から お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります


【あわせて読む】
・マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
・集まってしまって、ごめんなさい 在日ミャンマー人の若者の思い
・「安心できる場」である店を守りたい チョウチョウソーさん
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【前編】『表現の自由』どう考える
・いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”
・在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント 
・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声


【星野ルネさんへのインタビュー動画はこちら】
クロ現+
2021年2月8日

「集まってしまって、ごめんなさい」

2月最初の週、東京で数千人規模のデモが相次いで開かれました。主催したのは日本に住むミャンマー人たち。母国で軍がクーデターを起こし全権を掌握したことに抗議するためです。デモは日本各地に広がり今後も予定されています。

取材を進めるなかで、参加者の若者たちから託されたのが冒頭の言葉です。
「日本の皆さん、こんなときに集まって、ごめんなさい。私たちがいまやらないと、私たちの明日がなくなるんです」。

(“インクルーシブな社会”準備室 ディレクター 髙田 彩子)

緊急事態宣言下に相次いだデモ

2月1日の朝、ミャンマーでアウン・サン・スー・チー国家顧問が拘束されたニュースが在日ミャンマー人の間を駆け巡りました。その日、東京の国連大学前には1000人もの在日ミャンマー人が集まり「スー・チーさんを解放して」「国際社会は軍事政権を認めないで」と訴えました。

2月3日には外務省の前におよそ3000人。さらに2月7日には在日ミャンマー大使館前に5000人が集まりました。日本に住むミャンマー人は昨年6月段階で3万3000人あまり、そのうち約1万7000人が関東地方に住んでいますが、単純計算でその3分の1に近い人を動かすうねりが生まれています。

緊急事態宣言下の東京で、あえて集まる決断をした在日ミャンマー人たち。取材を進める中で私は、その強い覚悟と背景を知ることになりました。

2月3日 外務省前に3000人が集まり日本政府に協力を求めた(撮影:チョウ・チョウ・ソーさん)


カメラの前で謝った女性

2月4日、デモを呼びかけた団体のひとつ、在日ミャンマー人の労働組合(在日ビルマ市民労働組合)などが、抗議の趣旨を説明するために開いた記者会見。会場前方に在日ミャンマー人コミュニティのリーダーたちが座り、それと向き合う席に日本のメディアが10社ほど。その後方で20人以上の在日ミャンマー人が成り行きを見守っていました。

在日ビルマ市民労働組合は、1980~90年代に来日したミャンマー人らが作った組合です。在日ミャンマー人の間に不安と悲しみが広がるなか、コミュニティの中の情報整理を行い、デモが平和に行えるように会見や、警察とのやりとりなど実務的なことを引き受けました。

軍事クーデターへの抗議声明が読み上げられたあと、多くの時間が質疑応答にあてられました。

記者会見は、日本の労働組合JAMのサポートのもと開かれた


会見の途中で、鮮やかな民族衣装を着た女性が手を挙げました。看護師のレー・レー・ルィンさん。来日8年目で、来年にはミャンマーに一時帰国して、日本で学んだ医療や看護技術を伝える予定だったといいます。

クーデターによって、日本とミャンマーの人材の行き来やビジネスは先が見えない状況になっています。

レーさん
「日本に来ている若者は、みんな夢を持ってきました。でも、このままではミャンマーは鎖国になって、未来も何もない国になります」


レーさんは、医療が行き渡らない農村の出身で、治療が間に合わずに弟を亡くした経験があります。医者を目指したものの、軍関係者の子息の教育が優先される教育システムのなか夢は叶わず、日本に留学して看護大学を卒業してようやく、医療に携わる道を拓いたのだといいます。
キャリアにまい進するために、来日後も政治的なことには関わらずに暮らしてきました。しかし、クーデターで家族と連絡すら取れなくなる中、自分が動いて民主政権を取り戻そうと決意しました。

マイクを握りしめて語ったレーさん。最後に、「もうひとつ」と息をつぎました。

レーさん
「多くの人が集まってデモ活動を行ったことについてですが、コロナの中でこうしたことをやるのは本当にありえない、看護師としても本当にありえないと思います。日本の皆さんにも本当に申し訳ない気持ちです。申し訳ありません。本当にごめんなさい」。

声をつまらせながらレーさんは、深くおじぎをしました。

会見で発言し、日本社会に対して謝罪した看護師のレーさん


「日本のように平等な社会がほしい」

会見が終わって多くの人が会場をあとにする中、何か伝えたそうな様子でたたずんでいる2人の女性がいました。

大学で観光ビジネスを学ぶタン・タン・ニュンさん(29・来日6年目)と、旅行会社で働くエー・トェー・トェー・ミョンさん(32・来日5年目)です。エー・トェーさんが「取材を受けてもいいですよ」という視線を送ってくれたように感じました。タンさんのほうは、会話の中のここぞというときに追加情報を差し込んでくれる、仲の良さそうなコンビです。

在日ミャンマー人社会の“いま”を象徴する、若い世代に話が聞きたかった私は、2人に話しかけることにしました。

私は2012年から2015年にかけて、ミャンマー民主化の過程を取材した経験があります。「スー・チーさんが通る」というだけで遠くの丘まで埋め尽くす支持者たち、民主化の流れに乗って移住した日本人ビジネスマン、祖国に貢献しようと帰国した民主活動運動家らに、日本や現地で幾度となく、話を聞きました。

日本からミャンマーの民主化を実現しようとする運動は、「88世代」と呼ばれる人たちが担ってきました。1988年のミャンマーでの大規模な民主化要求に関わったり、影響を受けたりした人たちです。1988年の運動はミャンマー全土に広がったものの軍に鎮圧され、多くの人がミャンマー国外に亡命し、日本にもたどり着いたのです。

一方、1988年以降に生まれた世代は軍事政権下で教育を受け、2011年の民主化の始まりまでは、民主主義を知らずに育っています。


エー・トェーさん(左)とタンさん(右)


1988年生まれのエー・トェーさんは、ヤンゴン近郊の貧しい家に育ちました。家族は民主化を待ちわびスー・チー氏を支持していましたが、政治のことを家の外で話すと逮捕されるかもしれない、という恐れを心の中に抱えながら育ちました。

タンさんは1992年生まれ。両親は軍人で、ミャンマーの民主化の歴史やスー・チー氏のことは全く知らされずに育ちました。高校に入ってからスー・チー氏の存在を知ったものの、犯罪者と同列に考えていたといいます。

2人とも、ミャンマーでは十分な教育を受けることができなかったことで来日を決意、10歳近く年下の日本人学生に混ざって勉強をしてきました。


エー・トェーさん
「私たちの世代は、教育レベルが低くて、インターネットもパソコンもなく育っていて、頑張ってようやくここまで来ました。ミャンマーではどういう家に生まれるかですべてが決まります。運命だと言われてしまいます。日本のように、平等な社会がほしいです」


タンさん
「年を取ってから日本の大学に入学しました。日本の子供はいいな、19歳で入学して本当にうらやましいと思います。なぜ私はそういう時代や国に生まれなかったんだろう」

私と話しながらタンさんは嗚咽していました。いま留学や就職などで日本にいる20代から30代のミャンマー人の多くは、日本に来て初めてミャンマーの「経済や社会の遅れ」を実感し、ミャンマーの発展のために努力を積み重ねているといいます。クーデターによって、時代が逆戻りすることに心底から抵抗を覚えているのです。声を詰まらせるタンさんを補うように、エー・トェーさんが語気を荒げました。


エー・トェーさん
「世界の中でも時代遅れで、教育も何もできないのに、2021年でもう戦争の時代じゃないのに、なんでこんなことをやっているのか!国のメンバーとして、国民として本当に、ありえない!」



日本にいるからこそ 声を上げる

エー・トェーさんとタンさんにとって、自分の意見をメディアに向かって伝えることは、簡単なことではありません。2人が義務教育を受けた時代のミャンマーの学校では暗記が重視され、疑問や自分の考えを口にすると「感想はいらない」と叱られたといいます。

エー・トェーさん
「いまだに、こう言ったら相手はどう思うだろう、と考えてしまう癖がついていて、なかなか返事ができないことがあります」



大学1年生時のエー・トェーさん(真ん中)ずっと自分の意見を言えなかった


声を上げることに慣れておらず、しかも故郷の家族にも危険が及ぶかもしれないのに、民主化運動に参加し、私のようなメディアの人間に話をすることに、2人には、迷いはなかったのでしょうか。

タンさん
「迷いはないです。私がこんな場にいると知ったら、親は嫌がるでしょう。軍人の父はクーデターで喜んでいましたから。言葉にならないくらい苦しいですが、ひとりの人として、参加しています。何もできない状況にいるミャンマーの友達のために、私が代わりに頑張らないと」


エー・トェーさんは、クーデター後、外に出るたびに、気を張り詰めるようになったといいます。ミャンマーのことで取材を受けたら答えられるように、毎日、日本語・英語の両方で考えを整理して出かけるのだそうです。

エー・トェーさん
「私たちは言葉ができるので、説明する責任があります。いま世界はネットでつながっています。海外から閉ざされた軍政下で起きた1988年の弾圧のときのようには負けません。血を流すのではなく、SNSやメディアを使って海外に自分たちの声を伝えて、国に残っている人たちに、一緒に頑張りましょうと言いたいです」


”1988年のようにはならない” の意味

先に話したように、ミャンマーでは、1988年に起きた大規模な民主化運動が軍によって弾圧され、学生を含む多くの人が命を落としています。エー・トェーさんの話を聞きながら、私は、これまで運動を担ってきた在日ミャンマー人の「88世代」とのやりとりを思い出しました。

在日ビルマ市民労働組合書記長のミン・スエさん。デモ現場では参加者の誘導や、警察やメディアの窓口など裏方として活躍

筆者
「クーデターに反対する動きが過激になると、1988年のようにミャンマー国内で犠牲者が出ることにならないか心配です。平和に運動をしていくために、どういうメッセージを発信していますか?」


ティン・ティン・ウーさん(在日ビルマ市民労働組合)
「今はネット社会で、ミャンマーの若者たちにも、民主化活動をしてきた私たちの考えや、スー・チーさんのことが伝わるようになりました。昔みたいに血を流すことは、やりたくない。犠牲になってほしくない。ネットや若い力で世界からの支持を集めたいです」


ミン・スエさん(在日ビルマ市民労働組合 書記長)
「海外からミャンマーの政治を直接変えることは難しいですが、日本からミャンマーの人たちの心に力を与えようとしています。気持ちを伝えることがすごく大事です」


軍事政権に反対することの重大さを身に染みて知っている「88世代」は、世界各地で連携し、不服従で運動を広げようとしています。ミャンマー国内では抗議デモがいつ鎮圧されるかわからない緊張感がありますが、日本では集会と言論の自由があり、ルールを守っていればメッセージを伝えることができます。

2014年のタイの軍事クーデターへの抗議運動や香港の「雨傘運動」で広がった、無言で指を3本立てるサインを、日本のデモでも国軍への抵抗の表明として積極的に使っています。


無言で3本指を掲げるデモ参加者たち (2月7日 東京・在日ミャンマー大使館付近)



やらないと私たちの明日がなくなる

緊急事態宣言下の東京で行われたデモでは、3つのルールが徹底されていました。熱があったり調子が悪かったりしたらデモに参加しないこと、常時マスクを付けること、デモ会場入り口でアルコール消毒を受けることの3つです。2月7日にミャンマー大使館前で開かれたデモでは、10人ほどが消毒係として会場入り口で待ち受けていました。

来場者全員に手指の消毒を義務づけていた


日本語で「日本人の皆様へ、デモ活動を行って本当に申し訳ないと思っています」など、という紙を掲げている人達も散見されました。



ネット上では、デモのニュースに対して非難のコメントが多数寄せられています。

「今のデモは、コロナ感染を拡大させる無謀で迷惑なやり方です」
「東京都内は緊急事態宣言下です。はっきり言って迷惑です」
「国に帰ってやって」


日本語が堪能なミャンマー人の間では、こうした不安や批判のコメントに対して返信を書く動きも始まっています。ミャンマーの状況を説明する人、自分はデモには参加しない、と書いている人もいます。日本社会の理解を得るために自然発生的に生まれたアクションです。

在日ミャンマー人がネット上で返信したコメントの一部(左下、右)


記者会見で出会った2人の女性、エー・トェーさんとタンさんは、今回反発を覚悟でデモに参加した理由について、言葉を選びながら次のように話しました。


エー・トェーさん
「実は、会社でも恥ずかしいです。世界がコロナと闘っている時期に軍がクーデターをやったのが悔しいです。コロナで皆が困っているにもかかわらず、集まって抗議している自分たちが悔しいです。でも、私たちの命、みんなの命、1人1人の命は、コロナとも戦わないといけないけれど、軍政とも戦わないといけないのです」


タンさん
「いま抗議をしないと私たちの明日がなくなります。日本の皆さんに対して本当に申し訳ない気持ちですが、どうか理解してほしいです」



わたしたちにできる“支援”と“翻訳”

もし、エー・トェーさんやタンさんのような人達を応援したいと思ったら、私たちには何ができるのでしょうか。

一つは、小さなことでも関わって手助けをすること。思い出したのは、2人と出会ったあの記者会見のことです。会見はリモート中継も行われ、日本語、ミャンマー語で配布物が配られましたが、手伝ったのは日本の労働組合のJAM(ものづくり産業労働組合)でした。メディアとの連絡や配布プリント用の翻訳など、日本人に発信するために必要なものを、一緒に整えたそうです。JAMの椎木盛夫副書記長は、「在日外国人の生きる環境をよくすることは、私たちの生活環境をよくすることなんですよ」と話しました。

もう一つは、私たち自身が知ろうとすることです。60年近くにわたり在日ミャンマー人と付き合い「お父さん」と頼りにされてきた田辺寿夫さんは、とにかく耳を傾けてください、と言います。
田辺寿夫さん(ビルマ研究者、ジャーナリスト)

「ミャンマー人がなぜ行動しているのか、彼らの話をきちんと聞き、向こうの背景をきちんと知ることが大切です。日本人の中には、“途上国のためにやってあげている”、“日本がいいことをしてあげている”、という態度が時々見られます。対等に付き合い、お互いに助け合える関係を築くことで、言葉ができなくても、彼らの”翻訳者”にもなれます」。


話を聞かせてくれたミャンマー人の誰も、デモをせざるを得ない今の状況を望んではいませんでした。待ちわびてきた民主主義が奪われるかもしれない今、個々人にできる数少ないことを、やっているだけなのです。

まず知ってみよう、という方のために、この記事が情報になればと思います。


取材後記
ついこないだまで「民主化で経済発展する国」だったミャンマーが、「軍事クーデターで混とんとした国」になってしまっています。

絶望する時間もなく動き出した在日ミャンマー人たちを見て、ただでさえ苦労の多い在日外国人が行動することの重みを感じました。自分も、よりよい社会のために、必要なときに声を上げていきたいと感じています。
(“インクルーシブな社会”準備室 ディレクター 髙田 彩子)

【写真で見るデモの1日】

2月7日のミャンマー大使館前でのデモは10-13時に開かれた。主催者の一人は5時半に現地入りし、混乱が起きないように区割りや人の入れ替え、警察への説明などを準備したという



デモ会場に一度に入りきらず、警察の誘導で線路沿いにも並んで順番を待つ参加者たち




12時50分頃。13時の終了を前に、すでにほとんどの参加者は撤収。担当メンバーがゴミ拾いを行う




千葉から東京のデモに駆けつけた男性が、デモ終了後にミャンマーのデモのようすをフェイスブックライブで見ている。ミャンマー国内のインターネット回線は断続的に切断されており、海外SIMカードなどを経由して送られてくる。




東京のミャンマー大使館前からミャンマーの知人らに向けてフェイスブック・ライブを行っていた男性。動画は3時間で1300シェアされた。




エー・トェーさんと夫。NLDとスー・チー氏への支持を示すために赤い服を着てデモに参加した。


【あわせて読む】
・わたしたちが「黙って歩いた」意味 (ミャンマー人によるサイレント・デモ)
・”アフリカ少年”だった漫画家が「“違い”を楽しもう」と呼びかける意味―星野ルネさん―
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制『表現の自由』どう考える
・いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”
・マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
・在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント 
・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声
クロ現+
2021年1月15日

Vol.7 脱コルセット “女らしさ”という束縛から脱却する女性たち

いま “脱コルセット”が若い女性たちの間に広がっています。
コルセットは体を締めつける道具のことですが、“脱コルセット” という言葉は、化粧や髪型など『女性はこうあるべき』という固定概念や、それを押しつける社会に抵抗する意味で使われています。

大学生のArataさんは、かつて1時間かけていた化粧をやめ、髪を刈り上げています。きっかけは交際していた男性からの ある“ひと言” でした。
去年”脱コル”した20歳のヒナさんの動機は、日頃から無意識な発言をする父親への反発でした。
社会でつくり出されたイメージから脱却しようとする動きが高まるなか、”コルセット” を押しつけるような広告をやめた企業もあります。

“脱コル” の背景に何があるのか、取材しました。↓↓
https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2020/12/1206.html

“脱コルセット” や “コンプレックス広告”について、あなたはどう思いますか?
記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
クロ現+
2020年12月25日

”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【後編】『表現の自由』どう考える

全国で初めて、罰則付きのヘイトスピーチ規制の条例ができた川崎市。前回の記事では、新たに出てきた規制への反発について掘り下げました。 今回の取材を通じて、条例が抱えるもう一つの課題として見えてきたのが、ネット上の書き込みへの対応です。
(10/30放送「首都圏情報ネタドリ」から)
(NHK首都圏局 ディレクター 安 世陽)

もう1つの課題 ネット上の差別的な書き込み

ことし7月に川崎市で全面施行された、ヘイトスピーチを規制する条例。公共の場所での民族差別的な言動に対し、全国で初めて刑事罰を科すことが盛り込まれています。 条例は、ネット上の書き込みについても規定しています。罰則の対象ではないものの、既に取り組みが始まっているほかの自治体と同様、民族差別的な書き込みについて、市がプロバイダなどに削除要請を行うとしています。

実際に川崎市は条例の施行後、ツイッターやネット掲示板などに書き込まれた「早く祖国へ帰れ」など、56件の書き込みを「差別的言動」だと判断。閲覧できるものについては、削除要請を行いました。(2020年12月21日現在)




“差別的言動” 認定されたのはごくわずか

川崎市の条例制定を求めてきた崔江以子さんは、2016年に国会で意見陳述したことを契機に、ネットやSNS上で自身を攻撃する書き込みを受けるようになりました。 崔さんは条例の成立を受け、弁護士とともに自身を攻撃する書き込み300件以上を市に報告しました。


市に報告した ネットへの書き込みのリスト


しかし結論が出たのは、報告から3か月以上が経ってのこと。
しかも、ほとんどは「対象ではない」と結論づけられたのです。



師岡 康子 弁護士
「(300件以上について、そのほとんどを)認定しないというのは、ヘイトスピーチとは何かという理解のところに誤解があると思います。被害者救済という観点から、もう一度検討しなおしてほしい」




崔 江以子さん
「生活のなかに被害が及んでくるのではないかという恐怖が日々続いています。差別の根絶に向けて、あの条例の力が発揮されていくことを期待しています」


“表現の自由に配慮” 慎重な川崎市

川崎市はどのように判断を行っているのか。条例を管轄する部署の担当課長が取材に応じました。
川崎市 人権・男女共同参画室 大西 哲史 担当課長


市ではまず、担当の部署がネット上の膨大な書き込みについて調査。条例に抵触する可能性があると判断したものを、専門家からなる審査会に回しています。審査は必要に応じて複数回行われます。

前後の文脈も重視し、前後にどういった書き込みがあるのか、特定の個人を狙った書き込みなのかどうかなどを判断しています。

削除要請を行うかどうかを判断するまでの審査の流れ


担当課長の大西さんによると、憲法で保障されている「表現の自由」に配慮するため、判断に慎重を期していると言います。

川崎市 大西 哲史 担当課長
「色々と差別的なことが書いてあったとしても、表現の自由を過度に制限しないように、非常に慎重に丁寧にやっていく必要があると考えています」


しかし市で削除要請をしたとしても、全てがネット上から削除されるわけではありません。SNSや掲示板などの運営者の判断に任せられているからです。実際、川崎市が削除要請をした47件の書きこみのうち4分の1以上にあたる14件は現在も削除されずに残っています。(2020年12月25日現在)

崔さんのように、現に被害に遭っている人はどうすればいいのか。質問を重ね続けると、担当課長は「表現の自由に対して踏み込んで施策を講じるうえでは、本当に慎重でなければならない」としつつも、悩む様子を見せながらこう答えました。



川崎市 大西 哲史 担当課長
「(当事者からの)期待は大きいとは思いますよ。うーん、でもね…」 「そもそもヘイトスピーチとは何か、差別とは何か、自分の心にそういったものがないか、そういったものから見直していきませんかとか、そういう啓発の仕方。人間性に訴えるではないけど、そういったことも、やっていかなければいけないのではないかと思っています」


“規制は表現の自由の「例外」” 専門家の意見

表現の自由とヘイトスピーチ規制。この2つを両立することは出来ないのか。ヘイトスピーチ問題に詳しい、法政大学特任研究員の明戸隆浩さんに意見を伺いました。すると、返ってきたのは意外なことばでした。

法政大学 特任研究員 明戸隆浩さん(2019年撮影)


明戸 隆浩さん
「二項対立で捉えられがちですが、“ヘイトスピーチ”規制は“表現の自由”を侵すものではありません。表現の自由にも“例外”がある、ということなんです」

表現の自由の“例外”? どういうことなのか、さらに詳しく聞いてみました。

明戸 隆浩さん
「無視できない被害の現実がある場合には、表現の自由にも“例外”を設定すべきだということです。もちろん、表現の自由を軽視するわけではありません」

明戸さんは続けて、ネット上の書き込みへの対応について、自身の見解を示しました。

明戸 隆浩さん
「ネット上の書き込みは数が多く、そして一日の間にあっという間に広まってしまいます。広がる前に止めることを考える必要があります。いまドイツでは通報から48時間以内、フランスでは24時間以内に対応をしなければいけなくなっています」

現状では、ネット上の被害の広がりを止める仕組みが不足しているといいます。では、ヘイトスピーチを根絶するためには何が必要なのか。明戸さんは、川﨑市での条例反対の動きを見ても、やはり少しでも規制する動きをつくっていくことが大事だと話します。

明戸 隆浩さん
「根絶できれば理想なのですが、残念ながら先行して法律をつくっているヨーロッパをみても、法律をつくったらなくなるというわけではないです。だからむしろ、法律をつくって少しずつ抑え込んでいく。今回条例をつくった川崎市だけでは、効果は限られます。隣の相模原市ではいま、川崎市にならって条例をつくろうという動きがあるのですが、そういう流れをもっとつくっていかないといけないです」


街宣で出会った女の子は何を思うのか

これまでの取材を思い返し、私にはもう一度話を聞きたい人がいました。それは、川崎駅前の街宣現場で出会った11歳のソラさんでした。当事者たちはヘイトスピーチ規制のこれからについて何を思うのか。ソラさんとその父親に取材をお願いし、再び会うことになりました。

ソラさんと父親


ソラさんの父親は、条例だけでなく、ヘイトに繋がりかねない心の持ちようにも目を向けてほしいと訴えました。そう語るのは、娘のソラさんがある体験をしたからだといいます。

ソラさんが近所の公園にいると、同い年ほどの男の子から一緒にブランコをしようと誘われました。その後、ソラさんの兄が合流し、普段のように韓国語で兄と話していると、男の子から心無い言葉を言われました。

「(韓国人とは)遊ぶなって(親から)言われたから、遊べない」

そうした言葉を直接的に言われたのは、ソラさんにとって初めての出来事でした。



ソラさん
「そっちは朝鮮人、こっちは日本人。だから遊べないとか、話せないとか、関わっちゃいけないとか言われたりしたら、なんかイヤです」

差別的なことを無くすには、条例による規制だけでは容易ではない。そう感じざるを得ませんでした。

自分たちも同じ日本社会に暮らす一市民であり、普通に暮らしていきたいというソラさんの父親。子どもたちのためにも、在日コリアンという出自を理由とした、攻撃的な言葉が使われることのない世の中になってほしいと言います。



ソラさんの父親
「こういう差別的なことに対して、もっと国を挙げてやってほしいなという気持ちはあります」 「やはり卑屈な思いで生きてほしくないですよね、子どもたちが。そういう社会になってほしいですよね」



取材後記
どうすればヘイトスピーチによる差別はなくなるのか。私も在日コリアンとして日本で育ったなかで感じてきたこの疑問に、今回、初めて向き合うことになりました。 取材では様々な立場の方々に話を伺いましたが、たとえどんな理由であれ、人種や民族といった“出自”から、政治的問題とは直接関係のない人たちを差別的な言動で傷つけることは、許されるべきではありません。やはり一定の規制は必要だと感じました。

川崎市の条例による規制には課題が残されていますが、取材で出会ったソラさんが体験した出来事のように、規制だけでは差別的な言動は解消されません。

相手に対して、国籍や民族に基づいたレッテルを安易に貼るのではなく、同じ社会で暮らす一員としてどう向き合うべきか一人一人がいま一度考え、そのうえで、社会でヘイトスピーチがどう規制されるべきか、活発に議論をしていく必要があると感じました。
(NHK首都圏局 ディレクター 安 世陽)


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・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声
クロ現+
2020年12月25日

“全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【前編】差別あおる言葉なくすには

『同じ国に住んでいるのに、なぜ悪く言われなきゃいけないの…』 11歳の在日コリアンの女の子がもらした、胸が締め付けられるような言葉。女の子と出会ったのは、川崎市。ことし全国で初めて、「ヘイトスピーチ」に対する罰則付き条例が施行されたものの、条例への激しい批判や、施行後の運用の現状に、当事者たちの間には不安が残っています。
ヘイトスピーチをなくす道筋はどこにあるのか。川崎市、地元の在日コリアン、研究者、規制に反対する活動家らに取材を重ねました。(10/30放送「首都圏情報ネタドリ」から)
(NHK首都圏局 ディレクター 安 世陽)

“差別をなくそう” 川崎市が踏み込んだ、全国初の条例

ことし7月、川崎市で“全国初”の条例が施行されたことをご存じでしょうか?「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」。ヘイトスピーチの規制を目的とした条例で、とりわけ注目を集めたのが罰則の内容です。公共の場所で民族差別的な言動を、市の勧告や命令に従わずに3回繰り返した場合に罰金が科され、全国の自治体のなかで初めて、刑事罰に踏み込んだ条例となりました。

「川崎市の条例は、本当に差別をなくせるのだろうか…?」私は条例の今後に期待する一方で、不安も感じていました。差別的言動がそう簡単になくなるとは思えなかったからです。

「朝鮮人は出ていけ!」に、あふれた住民の涙

ヘイトスピーチの現状を取材しようと川崎のまちを訪ねました。 まず向かったのは、条例が成立した背景の1つとなった場所。JR川崎駅からバスで10分ほどの場所に位置する桜本地区です。在日コリアンが多く暮らすこの地域に、4年前、住民たちに向けた激しいデモが行われました。

2016年に激しいデモがあった現場(桜本地区)


桜本に暮らす在日コリアン3世の崔江以子さんが、その現場を案内してくれました。当時、およそ60人の集団が大声をあげながら桜本に向かい行進しました。自分たち在日コリアンの住民に向けた攻撃的なことばの数々に、絶句するしかなかったという崔さん。デモ参加者たちの表情がいまも忘れられないと話してくれました。



崔江以子さん
「地域の人で泣いている人もいて、私も怖いのと苦しいのと悔しいので声も出なくて。でもヘイトデモの参加者は笑っていました。差別で苦しんでいる人を見て笑っていました」
「ここを通ると思い出すからできれば通りたくないですが、ここは地元の信用金庫があって、通っている病院があって、お花屋さんがあって、私たちの生活のスペースなんです。日常の生活の場所に、あのデモが襲ってきたということです」

こうした差別をあおる言葉が日本社会で公然と叫ばれるようになったのは、10年ほど前でした。在日コリアンたちに向けた激しいデモが全国各地で繰り広げられ、多いときには毎週末おこなわれていた時期もありました。 しかし当時はまだ、ヘイトスピーチを規制する法律や条例はありませんでした。


待ち望んだ、条例成立

「どうしてこんなにひどいことをされているのに、助けてくれないんだろう」
デモで心に深い傷を負った崔さんは、仲間たちと共にヘイトスピーチに対する規制を求めて署名運動などを行います。 一方、国連から法律での規制を勧告されていたなか、国会では規制法案が審議されていました。デモから2か月後の2016年3月、崔さんは参考人として、デモ被害について意見陳述も行いました。

記者会見に臨む崔さん(2019年)

その後、国は「ヘイトスピーチ解消法」を制定。罰則はないものの、差別解消のための理念を示しました。そして昨年末には、崔さんの地元・川崎市で罰則付きの条例が成立し、今ではかつてのような過激なデモは見かけなくなりました。


どんな言葉がヘイトスピーチにあたる?

では実際に、どんな言葉がヘイトスピーチにあたるとされているのか。 法務省の人権擁護局は、典型的な例として次のように示しています。

・「○○人は殺せ」など、特定の民族や国籍に属する人々に対して危害を加えるとするもの
・特定の国や地域の出身である人を、差別的な意味合いで昆虫や動物に例えるなど、著しく見下すような内容のもの
・「○○人は出て行け」「祖国へ帰れ」など、特定の民族や国籍の人々を,合理的な理由なく,一律に排除・排斥することをあおり立てるもの
【参照:法務省ホームページ】




ようやく始まった、ヘイトスピーチによる差別解消のための取り組み。 しかし川崎のまちは、新たな事態に直面していました。条例ができたことに反対する団体が現れたのです。


「条例を撤廃せよ!」 繰り広げられる街宣活動

9⽉20⽇、⽇曜⽇。多くの⼈たちが⾏きかうJR川崎駅前を私は訪ねました。条例に反対する団体による、街宣活動が⾏われると知ったからです。 街宣がおこなわれる場所には、警備にあたる大勢の警察官や、カウンターと呼ばれる抗議活動にやってきた人々が集結。異様な雰囲気が立ち込めるなか、街宣は始まりました。


川崎駅前で街宣をおこなう団体

「日本人を抑圧する条例を取っ払え!」団体は在日コリアンへの直接的な言動ではなく、条例そのものを批判。条例が日本人の「表現の自由」を制限していると主張しました。こうした駅前での街宣活動を月に一度ほどのペースでおこなっています。これに対し川崎市は、今のところ規制の対象となる言動は確認されていないとしています。


街宣演説の様子

「同じ国に住んでいるのに…」 街宣現場で出会った11歳の女の子

そんな騒然とした現場で、一人の女の子を見かけました。 なぜこんなところにいるのだろう…気になって話しかけました。

街宣を見ていたソラさん(仮名、11歳)

女の子の名前はソラさん(仮名)。川崎市で暮らす11歳の在日コリアン4世でした。 友達と遊んだ帰り道に、駅前でたまたま街宣活動に遭遇したのでした。

地元で暮らす当事者としてどんな気持ちで眺めていたのか。たずねるとソラさんは答えました。

ソラさん
「ちょっとイヤでもあるし、在日のほうから見ても胸が痛い。同じ国に住んでいるのに、なんでそんなに言われなきゃいけないのって感じ」

自分たちを守ってくれる条例に対する批判。団体からの直接的な激しい言葉がなくとも、自分たちが責められているように感じとっているようでした。


“条例は日本人の表現の自由を奪っている” 活動家が取材に応じた

なぜ条例に反対するのか。街宣に立つ70代の男性が、取材に応じました。

街宣活動に参加している男性(70代)

男性は商社で勤務していた50代の頃、仕事の関係で韓国に行くようになったことをきっかけに、日韓関係の問題を独学で勉強し始めたといいます。「取引相手と酒を飲むときに政治の話が出るかもしれない」。そんな思いで新聞の広告欄に掲載されていた本を読みました。しかし、そこで得た情報をもとに、次第に韓国への怒りを感じるようになったそうです。

領土問題や歴史認識をめぐる問題、拉致問題…。男性は反発の声をあげようと、やがてデモ活動に参加。在日コリアンなどに対し、「帰れ」といった排除するような言葉を叫び始めます。当時デモ参加者のなかには、「朝鮮人は死ね」といったプラカードを掲げたり、過激な発言をする人もいましたが、男性はそうした言葉を吐くのは仕方のないことだったと話しました。

街宣活動に参加している男性
「(在日コリアンを)言葉の暴力で傷つけているだろうなとは思いますよ。しかし在日コリアンには、日本人の怒りを受け止めて、日韓の問題を改善してもらわないと困る」 「直接暴力をふるっているわけではないんだから。あくまで言葉による感情の発露なわけでしょ。ある意味私は、言葉でならどこまで言ってもいいと思いますよ。言葉である以上はね」

その後、国の「解消法」や川崎市の条例ができたことで、以前より言葉を選ばざるを得なくなったという男性。自分たち日本人の表現の自由を奪う条例は、すぐさまなくすべきだと言います。

街宣活動に参加している男性
「『死ね』や『殺せ』といった言葉も表現の自由」 「差別的なことを言わないよう自己規制してますよ。ストレスですね。条例は日本人に不公平です」

たとえ政治的信条が理由だとしても、そうした問題とは直接関係のない在日コリアンに対して過激な発言が向けられるのは間違いではないか。わたしがそう問い直すと、男性はハッキリと答えました。

街宣活動に参加している男性
「在日コリアンの人たちが『自分たちは関係ない』と言ったって、韓国人である以上、自分の民族の問題には責任を持たなければならないということですね」

ヘイトスピーチ すぐになくなるとは言い切れない理由

条例に反対する人たちは皆、男性のような考えを持っているのでしょうか。私は、聞き取り調査を通じて街宣活動に関わる人たちの実態を研究している、社会学者の吉田穣さんに話を聞きました。
吉田さんは、街宣活動に参加する人たちの特徴として、年齢・性別・学歴・職業のなかで特定の層が多いといったわけではなく、幅広い層が参加していたと言及しました。その多くは、川崎市の条例や解消法が、自分たちの行動が制限されるきっかけになった、と認識しているといいます。

吉田穣さん
「立法や、あるいはヘイトに対する反対する運動が登場したことによって、以前のような自由な活動に制約がかかっており、例えば、直接的な過激なヘイトスピーチはできなくなっている。という実感があるということです」




しかし街宣活動の参加者たちが、差別解消という法律や条例の趣旨を理解するようになったかは、疑問が残ると指摘します。 なぜなら彼らのうちの多くは、これまでとは異なる方法を使って怒りを表現したいと考えているからです。

吉田穣さん
「言葉尻を少し変えれば、以前と同じようなことを言っても、まったく問題がないという見方をする人もいました」 「こういった活動は、誰かがトップダウンで命令して、こうしなさいというように動いている運動ではありませんので、必ずしもヘイトスピーチにあたる運動がなくなるかというと、そうではないと思います」

続く 後編の記事では、ヘイトスピーチをなくそうとすると必ず直面する、表現の自由の問題について、ネット上の書き込みを中心に、どう対応していけばよいのかを考えます。

【あわせて読む】
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【後編】『表現の自由』どう考える
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・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声
クロ現+
2020年12月25日

Vol.6  ジェンダーをこえて考えよう みなさんの声①

社会的・文化的に作られた性差「ジェンダー」や、“思い込み”から生まれる偏見「ジェンダー・バイアス」について、みなさんからさまざまな声が寄せられています。日ごろから感じている疑問や”モヤモヤ”、どうすれば解決できるのか…。
あなたも一緒に、ジェンダーをこえて考えてみませんか。

ジェンダーについての “モヤモヤ”…


“男のくせに” “女々しい” とは…

「男のくせに」「女々しい」という表現があります。前者は『男』が『女』より優れている、上であるなどというのがあり、後者は『男』が下の存在である『女』のような真似(まね)をしているから言われるというのもあります。 その非対称性を無視して語られているのを見たりするといつもモヤモヤします。

夫に暴行されていた妻を助けた女子プロレスラーを「男前」と評して、後輩を殴った力士(の親方)が「女々しい」と報道されたことがあったそうです。 このように、女の人がいいことをしたときに「男前」とほめられたのに対し、男の人が悪いことをしたときに「女々しい」などと非難されたのを見たときもモヤモヤしました。 なぜ性別を持ち出すのかなと思います。

10代・女性

  



なぜ女性だけに防犯ブザー?

交通事業に関わる社員です。職場で女性社員のみ、防犯ブザーが配布されています。有事の際に必要とのことですが、このご時世、男性社員が被害に遭わないとは限りません。 防犯上必要との理由ならば、男女問わず配布すべきであり、どちらか片方に配布というのは、男性・女性双方に対する差別ではないでしょうか。

男性・愛知

  



人材の半数を活用・育成しきれていないのは損失

ジェンダーの問題は、「○○するのが当たり前」という思考停止が原因ではないでしょうか。男性は稼いで当たり前、養えない男性は結婚するに値しない、など。

男女差別は文化の問題でもありますが、経済に与える影響を考えたときに、人口が少なくなっていく日本では男性だけが働いて稼いでも生産性は上がりませんし、教育分野で男女平等に育てている日本でいよいよ社会に還元するという段階で、人材の半数を占める女性を活用・育成しきれていないのは相当な損失だと思います。女性が能力伸長をあきらめて、ケア労働にばかり回る社会では、どれだけ男性が頑張っても、男女同等に活躍する国がある限りは、その国に人材活用の分野で差がつけられるのは仕方がないことかと思います。

20代・女性・東京

  



ジェンダー問題を語れない空気がある

ジェンダー問題を語ろうとしても、できる人とできない人がいる。そうした問題を、空気を乱すもののように見ている人がいることが現状ではないだろうか。当然のようにセクハラもあるし、性的マイノリティへの理解はもっと根深いといえると思う。

20代・男性・宮城

  



日頃から「おかしい」と感じていること

選択的夫婦別姓が未だに実現していないのはおかしい。名前を知らない誰かのことを呼ぶときに、 「おばあさん」「おじいさん」 「おばさん」「おじさん」 「おねえさん」「おにいさん」 など、血縁に基づいた、性別を断定する呼び名ばかりなのが不便。 新しい言葉が欲しい。緊急避妊ピルが薬局で売られるかどうかについて、日本産婦人科医会の男性が「どんな時も薬局で買えるようにするのはおかしい」と反対を表明しているのはおかしい。

日頃から「おかしい」と感じていること、もっとこうなればいいなと思うこと、知りたいと思うことがたくさんある。     

30代・女性・愛知

  



異性愛が前提の番組にギモン

私が常々思うことは異性愛中心主義の根深さです。恋愛、結婚するのが当たり前。そして、それが異性であることが前提の番組作り、会話の進め方が多いです。ジェンダー、セクシュアリティーは多様だとはいうが、それは口で言うだけで、その考えを実際に取り込んで会話を進めている番組は少ないと思います。

ぜひ、恋愛、結婚、異性愛であることが前提という風潮に疑問を持つような番組を作ってほしいです。         

20代・女性・東京

  



男性も悩んでいます

男性も悩みや生き方で悩んでいます。 男性であっても、その性がつらい人々の多様さにも焦点を当ててほしいと思います。 ちなみに私は男でいることが嫌になり、今年から自宅では女性のファッションを身に付けています。性欲は男性の性器、女性との性交にあり、複雑です。 女性になりたい、そして女性が好きです。

50代・男性・東京

  



“女らしさ”は“男性のため”!?

人が自分を都合の良いように扱うために、“女性らしさ”を使われていたことに幼い頃から傷ついてきました。私にしか割り振られないものは、家事、お客様の接待。いずれ結婚した女性がするからというのです。結婚や出産は誰しも望んでいるわけじゃないし、女性の仕事が家事労働ということにも納得がいきませんでした。ジェンダー規範が嫌で、「女性でなくていい!女性らしさに当てはまらない私は女性じゃない!」と長きにわたり、“女性よりのXジェンダー”を自認してきました。

「女らしくしなさい」には、おとなしく従順で「男性のために役立て」と言われている気さえします。「女性らしさ」と言われているものが必要にされるときは、会社などの組織の中で、男性の目がある時です。同性といるとき、女らしさなんか気にもとめません。自分を魅力的に見せたい場合ならまだしも、そうでない時さえ、マナーとして男性を立てる必要が出てきたり、身だしなみをきちんとしたり。女性らしくしていないと社会人失格のような扱いさえ受けます。自立した人間同士なのに、いびつな形だと思います。

20代・女性・栃木

  

ジェンダー・バイアスをなくすためには?


職業や立場で縛ることをやめよう

看護師の男性です。「女性はまめでやさしいから介護看護職向きだけど、男は雑で荒っぽい」という潜在的な性別観を、患者家族はもちろん同僚の姿勢に感じ、悩まされることが結構あります。逆に“らしさの呪縛”を解くために、男が化粧したり、女が大股を広げたりすることであらがうことにも違和感を覚えます。

少なくとも、職業や立場で縛るのをまずやめないと。社会構造だけでなく、心理的精神的構造に性別固定的観念がくみこまれているので、変えられるところから変えないと。

40代・男性・鹿児島

  



「そういう人もいる」と認めていくことが大切

先日、男性のタレントさんがテレビで、お肌のケアに気をつかったり、化粧品にこだわったりしていると話しているのを聞いて、両親が「男がメイクなんて、気持ち悪い」と言いました。生きてきた“時代”の考えが無意識的に働いただけで、悪意はなかったのだと思います。

でも、「気持ち悪い」「男なのに」「女なのに」そういう言葉ひとつひとつに傷つけられ、好きなことを好きにできない方々はまだまだたくさんいるかもしれないと思うと、とてもつらくなります。 好きなことを好きなだけできない、周りの人間に認めてもらえないのは、誰にとっても苦しくてつらいものだということは、少し想像すれば分かることではないでしょうか。

例え理解できないことであったとしても、「そういう人もいるんだな」と認めていくことで、みんなが息苦しくない世の中になっていくのではないかなと私は思います。もっともっと良い時代に向かっていきますように。

20代・女性・愛知

  



性別が “星座くらいの存在感”になってほしい

「性別が生き方・人生に影響してはならない」と考えています。性別は何かしら与えられてしまうもの。せめて「星座」くらいの存在感になってほしい。蟹座の人は獅子座の人より偉い、なんて誰も思いませんよね。性別も本当はそんなモンです。性別によって相手を縛ったり、自分を縛ったりするのはおかしなこと。自由と寛容の社会にしていきましょう。人はみんな同じ「人」です。

30代・女性・神奈川

  



少数派がいることを見える化

身長150センチ台の男性です。背の低い男もいろいろ苦しんでいます。身長が低いことを笑われることは当然、既成の靴や服がほぼ無いなど日常的につらい思いをしています。何もしなければ、多数派に圧されるのは当然です。

少数派が居ることを見える化して、差別しないだけでなく、可能な範囲で少しだけ手をさしのべることの大切さを意識することが大切なのではないでしょうか?

50代・男性・愛知

  



知ることが理解につながる

日本では「~らしさ」を大事にしている風習があるので、つらい思いをされてきた人もいると思います。ですが、知ることから、理解につながると思っています。勇気のいることだと思いますが、これから理解者は増えるはずです。 

60代・女性・埼玉

  



賛成・反対 いろいろな意見を聞く

男性だからカッコよくあってほしい。女性だからかわいくあってほしい。と思うのは普通だと思う。でも、それを他人に押しつけるのは違う。「トランスジェンダーだから変」とか「性同一性障害だから変」とか、そんなわけないのに。障害があってもなくても、それぞれ1人の人であることを忘れてはいけない。

自分は人それぞれで百人百色ってことでいいと思う。でも、みんなそう思っているわけじゃないからSNSや学校、職場で嫌な思いをする人が出てしまう。だから、もしよかったら一方的にこれは良いことだと報道しないで、いろんな意見を聞かせてほしい。「そう思わない」っていう人の意見も聞いて、自分なりの考えをまとめたい。特に田舎は意見の交流会みたいなことがないから、テレビを通して沢山の違う意見の人の話を聞いてみたい。

10代・女性・岩手

  


こらからも、みなさまから寄せられた「声」をさまざまなカタチで紹介させていただきます。




<あわせてお読みいただきたい記事>

<ジェンダーについて考える その他の関連記事・放送予定はこちら>



あなたは、“男らしさ” “女らしさ”など、社会的・文化的につくられた「ジェンダー」について、どう思いますか?『みなさんの声』への感想やご意見などもお聞かせください。下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
クロ現+
2020年12月18日

Vol.5 「私たちはなぜミスコンがしんどいのか」

“女子アナウンサーへの登竜門”とも言われてきた「ミスコンテスト」。かつては企業がスポンサーとなって運営資金を援助するなど、大学祭の一大イベントでしたが、いま、そのありかたを見直す動きが生まれています。取材を通して見えてきたのは、自分の意志に関係なく比較や評価をされ続けることに対して、若者たちに広がる “しんどい” という思いでした。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201118/k10012718071000.html

従来のミスコンを変えようと奮闘する学生たちの取り組みについて、以下の番組で伝えます。
<放送予定>
12月22日(火)【総合】午後4:50
シブ5時「“ミスコン”が変わる? 学生たちの挑戦」

あなたは大学の「ミス・ミスターコンテスト」について、どう思いますか。あなたの身近にも “ミスコン”はありませんか。 記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
クロ現+
2020年12月18日

Vol.4 更年期対策にピル代負担まで⁉︎ 変わる企業の“健康経営”

働く女性の健康を守る制度 必要なのは生理休暇だけじゃないんです


生理・不妊・更年期など女性特有の体の悩み。
これまで周りに言えずに、一人抱え込んでいたという女性も少なくないと思います。

「会議中に急に体がほてって、汗が止まらなくなった」
「生理前には気分が落ち込み、ちょっとした仕事のミスでも自分を責めてしまう」
「不妊治療中、『明日病院に来て下さい』と言われても、急に仕事は休めない」


働く女性が増えるいま、企業にとっても「女性の健康」は健康経営を進める上で大きな課題となっています。更年期症状への対策や、低用量ピルの費用負担まで!? “健康経営”の最前線を取材しました。

(首都圏局ディレクター 柳田理央子)

“生理休暇”という名前を廃止
IT企業のサイバーエージェントは、“生理休暇”という名前を無くしました。女性社員が取得する全ての休暇を「エフ休」(エフ=FemaleのF)という名前に統一。さらに、生理だけでなく、つわり、婦人科疾患、更年期症状など女性特有の体調不良の際に使えるように、有休の特別休暇を月に1日追加しました。もちろん、これも「エフ休」という名前なので、どんな理由で休むのかは、上司や同僚にはわかりません。休む理由の言いづらさをなくすことで、取得しやすいように配慮しています。


(エフ休の取得画面 他の人には取得理由はわかりません)

会社負担で婦人科受診 さらにピルの処方まで
生理日を管理するアプリなどを運営しているエムティーアイでは、今年2月から、女性社員の婦人科受診を支援する福利厚生制度を始めました。提携する婦人科を受診する費用、そして低用量ピルの費用も、会社が負担するというものです。


(社員の吉崎美帆さん)

「生理痛はあるけど、我慢できないほどではないし・・・」と病院に行くのをためらう女性も少なくないと思います。この制度を利用している社員の吉崎美帆さんもその一人。生理痛やPMS(月経前症候群)の症状を感じていたものの、市販の薬を飲んでやり過ごしていたそうです。しかし、制度についての社内説明会で、婦人科医から、女性の体の仕組みや生理前後に起こる変化などについて聞いたことで、気持ちが変わったと言います。

吉崎さん
「これまで生理前後の症状で困ってはいたものの、我慢できないほどではなく、改善するための行動が取れていませんでしたが、まずは支援制度を通じて婦人科を受診してみようと前向きに考えるきっかけとなりました」

医師の診察を受け、処方されたのは低容量ピル。低容量ピルとは、エストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンが配合された錠剤で、排卵を抑えるため、生理が軽くなったり、ほとんどなくなったりします。


(低容量ピル)

吉崎さんは、オンラインで継続的に診療を受け、薬を処方してもらっています。わざわざ会社を休んだり、早退したりしなくても、勤務時間内にオンライン診療を受けることができるため、とても手軽。前日の夜に予約して、次の日の仕事の合間に受けることもあるそう。ピルは郵送で自宅に届きます。


(オンライン診療の画面)

この制度を利用して、ピルの服薬を開始した女性社員にアンケートをとったところ、飲む前は「横になって休息したくなるほど仕事への支障をきたす」と答えていた人が53.8%いましたが、飲むようになって15.4%まで減ったそうです。

会社としては全ての女性社員にピルの服用を推奨している訳ではないと言います。あくまでも一番の目的は、「かかりつけの婦人科をもってほしい」ということ。生理痛やPMSなどの症状を気軽に相談できる環境をつくり、低用量ピルについても正しく理解してもらった上で、必要であれば服用することで、つらい症状の改善を目指しているということです。女性自身、毎月のことで我慢するのが当たり前になっていた生理について、会社が「ちょっと考えてみてはどうですか?」と、機会を与えてくれているんですね。

吉崎さん
「福利厚生制度になったことをきっかけに、将来を見据えて自身の健康と体の状態に向き合うことができました。今後も低用量ピルの服薬を継続し、定期的に婦人科受診することで、自身の体調に目を配っていきたいと思います。」


女性が元気に働けないことは企業にとってもマイナス
婦人科疾患を抱える女性が仕事を休んだり、仕事の効率が下がったりすることによって失われる生産性損失は、年間5兆円近くになるという調査があります。(働く女性の健康増進調査 2016年)

企業に対して、健康経営の取り組みで関心が高いものを聞いた調査では、「40~50代男性のメタボ、健康意識対策」を抜いて、「女性特有の健康問題対策」が最も上位に。(健康経営に関する実務者連絡会 参加者アンケート)

経済産業省などが選定する「健康経営銘柄」の要件にも「女性の健康保持・増進に向けた取り込み」が追加されるなど、企業にとって、女性の健康への取り組みは待ったなしとなっています。

逆に言うと、女性の体に理解のない企業は、生き残れない社会になってきているのかも・・・?

“健康経営”で育休・産休からの復職率100%
「健康経営」という言葉が一般的になるずっと以前から、社員が健康に働ける環境づくりに力を入れてきた企業があります。ロート製薬では、2002年から全社員を対象にした体力測定を開始、2004年には社員の健康増進を専任に行う部署を作るなど、取り組みを進めてきました。


(全社員が参加する毎年恒例の体力測定)

2014年には「チーフヘルスオフィサー・最高健康責任者」を設置。今年6月からチーフヘルスオフィサーを務める力石正子さんに、なぜそこまで健康経営に力を入れているのか伺うと、思わぬお答えが。


(チーフヘルスオフィサーの力石正子さん)

力石正子さん
「健康経営に力を入れ始めたという意識はなくて、入社したときから毎朝、ラジオ体操が当たり前で、職場対抗のスポーツ大会でめちゃくちゃ熱くなって応援し合うというのを、すごく楽しんでやってきていました。最近、健康経営という言葉が流行っていますが、私たちの会社では、特に健康経営に力を入れようとやっていたというよりは、本当に会社の風土です。」

現在、この会社の社員は6割が女性。育休からの復職率はなんと100%だそう!女性社員の健康を意識した制度づくりを続けてきました。例えば、健康診断。多くの企業で行っているのは、メタボ健診など男性の生活習慣病予防のための検査で、婦人科疾患を予防するための検査は、ほとんどないのが現状です。この会社では、乳がん検診・子宮がん検診を無料にしています。


(乳がん検診も無料で)

さらに、通常の血液検査ではわからない“隠れ貧血”を調べるための検査を取り入れました。内臓に貯蔵されている鉄の量を量る、フェリチン検査というもの。疲れやすさなどにもつながる“隠れ貧血”は女性に多く、この数値が低く、明らかな鉄欠乏の状態にある女性は20~40代の4割以上にのぼるとされています。


(「隠れ貧血」を調べるフェリチン検査)

“働き盛り” 40代以降の女性をサポートするために
今、女性社員の平均年齢はちょうど40歳。責任のある仕事を任されたり、管理職になったりする世代です。でも、この時期に重なるのが更年期。女性ホルモン(エストロゲン)が一気に減少し、様々な更年期症状が出てきます。一方、男性のホルモン分泌は現役世代の内はほぼ一定で、減少も女性に比べるとなだらかです。


(女性ホルモンは40代後半から激減)

会社では、社内のイントラサイトで、更年期症状に備えるための検査を提供しています。エストロゲンと似た働きをするエクオールという物質を作れる体質かどうか、尿検査で調べるキットです。エクオールを作れる人は日本人の2人に1人とされています。


(エクオールが作れる体質か検査するキット)


(社員の八巻佳奈さん)

この検査を受けたという八巻佳奈さん。現在40歳で、今年、営業企画推進部の管理職となりました。更年期にどんな症状が出るのか、どう備えたらいいのかわからず、不安を抱いていました。


(八巻さんのエクオール検査の結果)

検査の結果、八巻さんはエクオールを作れる体質だとわかりました。会社では、エクオールを作れない体質の人に向けて、サプリメントを紹介。さらに、専門の医師を招いて、更年期についてのセミナーも開いています。八巻さんも、このセミナーを受講。人によって症状が異なること、そのメカニズム、症状に応じてホルモン補充療法など様々な治療があると知ることができたと言います。


(八巻佳奈さん)

八巻さん
「正しく知って、備えるっていうことがとても大事だなと感じました。私もそうですが、女性は、仕事のことも考えなくてはいけないし、家族のことも考えないといけないし、ついつい自分の健康を後回しにしてしまう。会社が、検査やセミナーなどの機会を作ってくれたということもあるので、会社も元気にいきいき働くことを応援してくれていると感じることができたのが、すごく心強かったです。」


「女性活躍」に本当に必要なものとは?
「女性活躍推進」という言葉が声高に叫ばれるようになって久しいですが、私は1人の女性としてこの言葉にどうしてもモヤモヤしてしまいます。自分の体を犠牲にして、「男性並」に働くことが、本当に女性の活躍なのでしょうか?そんなモヤモヤを抱える私に、力石さんがこんな言葉をかけてくれました。

力石さん
「女性の力って素晴らしいものがあって、別に男性に劣っているところなんて全くありません。ただ、体のメンテナンスは、男性とは違うところがあるので、それさえしっかりメンテナンスできれば、もっともっと輝く女性が増えると思います。女性ばかりを特別に保護するつもりはないけれど、違う性があることを認め合って、それぞれに合ったケアが必要だということを、オープンにしていくことは大切だと思います。」



どうにもできない体の不調があるときには、無理せず休んだり仕事をセーブできたり、それが当たり前の社会になればいいですよね。でも、ただ「休みたい」だけではないのです。少なくとも私は、どうしてもやり遂げたいプロジェクトがあったり、がむしゃらに頑張りたい時期があったりします。女性の健康を守るための制度があったり、男性社員も含めて学ぶ機会があったり、会社が体のことを一緒に考えて、背中を押してくれていると思えたら、自分の力を最大限発揮して、いきいきと働くことができると思います。そんな企業が少しでも増えればいいなと、1人の働く女性として、強く思った取材でした。

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2020年12月11日

Vol.3 AMH検査で“卵子の残り数”がわかる!? 産みどき考えるヒントに

わずかな血をとって送るだけで自分の卵子の残り数がわかる。そんなフェムテックがいま注目を集めています。年齢とともに減っていく卵子が、卵巣内にどれぐらい残っているかを示すAMHというホルモンの値を調べる検査キットで妊娠のタイムリミットを知る手がかりの一つになるというのです。 これまで病院でしかできなかった検査が、約2万円で自宅でできるというこのキット。働く女性の人生設計にどう役立てられるのか、利用の際の注意点もあわせて、取材しました。

(ディレクター 浅岡理紗 宣英理)

“妊娠のタイムリミットの目安がわかる”
働く女性を悩ませる“産みどき”。11月に放送したクローズアップ現代プラス『女性の体の新常識 フェムテックで社会が変わる』のディレクターは全員30代女性ということもあって、取材中も話題に上りました。「長期のプロジェクトに関わることもあるし、出産のタイミングがわからない」「子どもが欲しいと思ったとき自分は産めるのか不安だけど、病院に行く時間もない」・・・
こうした悩みに応えようと、去年7月に発売されたのが、このAMH検査キットです。



男性の精子が毎日新しく作られるのと対照的に、女性の卵子は胎児の頃に一生分が作られます。出生時には約200万個の卵子(原始卵胞)を持っていますが、月経時に排出されたり、自然に消えたりして減っていき、30代で残っているのは2~3万個です。私も初めて知ったとき、ちょっと“ガツン”と来ました・・・

卵子の数を知る手がかりになるのがAMHというホルモンの値です。この値が高ければ多くの卵子が残っている、低ければ数が少なくなっていることを示すため「妊娠可能な期間」の目安になります。


(提供 浅田レディースクリニック)

AMHの値は一般的に年齢とともに下がっていき、2以下では不妊治療が効果的に行えなくなる可能性があるといいます。しかし個人差が大きいため、自分の値は検査しなければわかりません。AMH検査はこれまでも病院では受けられましたが、産婦人科の受診はハードルが高いという人も多いため、自宅で受けられる検査キットが作られました。

どうする? 仕事と産みどき
検査キットを利用することにした夫婦を取材しました。ことし入籍した渡部英里菜さん(32)と夫の光樹さん(40)。光樹さんは早く子どもが欲しいと思っていますが、英里菜さんは正社員として転職したばかり。まだ慣れない中、出産で職場を離れることに不安を感じています。一方、同世代の友人たちが不妊治療を始めたこともあり、妊娠のタイムリミットが気になっているといいます。



英里菜さん
「漠然とあと2~3年たったら子どもを、と思っているんですが、そのときに不妊だとわかったら手遅れにならないか、怖いですね。家でできるなら、ちょっと調べてみようと思いました。」
光樹さん
「女性は卵子の数が年齢とともに減っていくなんて、全然知らなかったです。男女ともに30代前半は仕事のやりがいが出てくる時期なのに、反比例するように体の問題が出てくるなんて、女性は本当に大変・・・、せめて応援したいと思いました。」



指先に針を刺し、にじみ出た血液を容器に入れて送ると、10日前後で結果をスマートフォンで確認できます。

32歳の英里菜さんのAMHの値は・・・

英里菜さん
「あー、やばい! 実年齢より高い・・・」

妊娠や不妊治療を急がねばならない値ではなかったものの、渡部さん夫婦は結果に少し戸惑っているように見えました。ふたりは、1年後には妊活を始めようかと話し合ったそうです。

英里菜さん
「やってよかったです。仕事ばかり優先するのではなく、そろそろシフトチェンジも考えなければいけないのかな。判断基準として、知ることができるのは、助けになります。」
光樹さん
「自宅で検査に立ち会い、結果を共有できたことで、男性も一緒に考えるべきことだと感じました。漠然としていたものがハッキリしたことで、ライフプランを真剣に考えるきっかけになりました。次は病院で自分の精子の状態も調べてみたいです。」


不妊治療による離職を防ぎたい


検査キットを提供しているのは、不妊治療に関する情報共有を行うウェブサイトの運営会社です。開発のきっかけは、利用者に「もっと早く治療を始めればよかった」という声が多かったことでした。

F treatment代表 服部恵子さん
「不妊治療との両立の難しさから仕事を辞めたり、子どもを諦めたりした人を数多く見てきて、社会にとっても大きな損失だと思いました。少しでも早く自分の体の状態を知る人が増えれば、離職も減らせるのではないかと、産婦人科の先生と意気投合したんです。生き方は人それぞれですが、自分の体を知った上で人生の選択をしていただけたらと思います。」



11月に発表された調査では、不妊治療をしている女性の83%が「仕事との両立が困難」だと答えています。 産婦人科医の浅田義正さんも、同じ問題意識から検査キットの商品化に協力したと言います。



浅田レディースクリニック 浅田義正医師
「不妊治療を始める年齢が年々上がり、40代が主流になっていますが、病院で初めてAMHを測って、結果にがく然とする人が少なくありません。卵子が少なくなってから不妊治療を始めると、期間や費用がよりかかります。自宅で手軽にできれば、検査のハードルが下がると期待しています。」

検査キットの開発で最も難しかったのが精度です。医療機関での採血と違い、自宅で個人が採取できる量には限りがあり、わずか0.1mlからAMHの値を正しく測定する技術を確立するのに苦労したと言います。値段は2万円弱と高価ですがこれまでに約1200人が利用しました。

AMH検査には注意点も
ただ浅田医師によると、検査結果を受け止める上で注意点もあると言います。

  • AMHの値は、あくまでも卵子の“残り数”の目安であり、“質や老化”を反映するものではありません。AMHの値が低い人でも、年齢が若ければ卵子の質が良く、妊娠できることもあるため、数値だけに振り回されて絶望する必要はありません。


  • AMHの値が高いからと安心するのも危険です。不妊には卵子の残り数以外にさまざまな要因があり、別の不妊の要因を見落としてしまうリスクもあります。
    ※値が年齢の水準より大幅に高いと「多膿疱性卵巣症候群」、大幅に低いと「早発閉経」などの病気の可能性も。

妊娠を考える人は、この検査をきっかけに早めに産婦人科医を受診してほしいと、浅田医師は強調していました。

身近になるAMH検査 人生を変えることも
こうした検査キットは、海外でも次々と登場しています。カリフォルニアのスタートアップ、Modern Fertilityは、AMHなど9種類のホルモンを調べることで、卵子の残り数や閉経の予想時期、卵子凍結や体外受精の適性などがわかるという検査キットを発売。検査結果をどう読み解くのか、産婦人科医などがアドバイスしてくれる仕組みや、利用者同士で情報交換ができるコミュニティも提供しています。キットはスーパーの店頭でも販売され、身近なものになってきています。

アメリカのフェムテック事情に詳しい
デロイトトーマツベンチャーサポート・セントジョン美樹さん

「アメリカでは今、ジェンダー平等が政治的にも経済的にも重要なテーマとなっています。女性が人生を豊かにしていくために、まずは自分の体を知り、いろいろな選択肢をデザインする。フェムテックは、そうした個人の人生設計とエンパワーメントのみならず、それを支える寛容な社会への変革に大きな役割を果たすと期待されています。」

この番組の40代女性プロデューサーも、かつて取材の一環でAMH検査を受けたことがあるそうです。当時30代半ばでしたが、40代半ばの水準という極めて低い値が出て、ショックを受けたと言います。それまで「あと1本番組を出せたら・・・」と出産を先延ばしにしてきましたが、この結果を受けて異動希望を出し、一時期、妊活を優先しながら働くことを決めました。
その後 授かったお子さんは今は8歳になり、「あのとき検査を受けていなければ、娘はいなかったかもしれない・・・」と、AMH検査が人生の分岐点になったと感じているそうです。



 これまで見えなかった“体の中の状態”を知る手がかりとなるフェムテック。「いつかは産みたい、でもいつ?」、そんな悩みを抱える女性が後悔のない選択をする上で、手助けになるかもしれないと思いました。

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2020年12月11日

いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”

「コンビニでアルバイトをする留学生」「農家や工場で働く技能実習生」・・・
いまの日本に欠かせない外国人労働者たち。その先駆けともいえるのが日本にルーツを持つ外国人たちです。1990年に入管法が改正され、多くの日系ブラジル人や日系ペルー人などが来日し、貴重な労働力として製造業などを支えてきました。それから30年の節目となった今年、私は日系ブラジル人が多く暮らす東海地方を中心に取材を続けてきました。
クローズアップ現代プラス「60代の孤独死 団地の片隅で ~外国人労働者の末路~」
取材中で出会ったのが”デカセギ”の歴史を写真で表現しているジュニオールさんです。ジュニオールさんの写真から、外国人労働者の30年の歩みを見つめました。
(NHK名古屋放送局 ディレクター 植村 優香)

日系ブラジル人の30年を知ってほしい デカセギの歴史切り取る写真家
写真家・前田ジュニオールさん


静岡県浜松市に住む、日系ブラジル人のマエダ・ジュニオールさん。初めて会った日、一冊の写真集を見せてくれました。タイトルは「デカセギブラジル」。被写体は、90年代に出稼ぎのために来日した「デカセギ・ブラジル人」たちの生活。それも、当時撮影したものものではなく、ジュニオールさんが日系ブラジル人たちの協力を得て、90年代のデカセギの日常の様々な風景を再現して撮ったものです。


撮影:マエダ ジュニオール




撮影:マエダ ジュニオール


ジュニオールさんがあえて「再現」という手法を使っているのは、デカセギに来た人たちが経験してきた困難や複雑な心境を、日本人や新たに日本にやってきた外国人に伝えるためです。当時の空気を想像してもらうためにモノクロカラーで表現しています。


日本食弁当、和式トイレ・・・なかなか慣れない日本の生活。 目覚めて目に入る蛍光灯の形で日本に来たことを思い出す。
撮影:マエダ ジュニオール



母国の家族への手紙は送料を下げるために薄い紙。 国際電話ボックスにはブラジル人の行列が。前の人の会話は後ろの人に筒抜け。
撮影:マエダ ジュニオール


14歳でデカセギになったジュニオールさん

ジュニオールさんが来日したのは1990年。14歳の時でした。この年、出入国管理法が改正され、日系のルーツのある外国人が日本に住み、働くことができる在留資格が与えられることになりました。

ジュニオールさんは、祖父母が高知県からブラジルに移住した日本人で、日系3世にあたります。祖父母は十代の頃、貧しさから抜け出し豊かさを求めたいと、国も奨励していたブラジル移住に踏み切りました。実際に待っていたのは、厳しい農業での労働。安定した収入を得られるようになるまでに時間がかかりました。しかし、ブラジルで子どもたちも育ち、亡くなるまで日本に戻ることはしませんでした。

ブラジルで生まれ育ったジュニオールさんの父は、家電屋で働いていました。ブラジルは80年代以降激しいインフレで、給料は安いのに家賃や光熱費など支払いは高く、生活は苦しかったといいます。貧しい暮らしを続ける家族にとって、ジュニオールさんが日本でデカセギをすることは一筋の希望の光だったといいます。

ジュニオールさん
「ブラジルのすごく貧乏なところで過ごしました。ファベーラ(貧困街)に住んでいたんです。8歳から働いていました。デパートの従業員にレストランから弁当を運ぶ仕事です。弁当を渡して、食べ終わるまで待つ。そして、また空の弁当箱を集めてレストランに運んでいました。日本に行けば、普通の生活ができるかなと思っていました」

自動車部品工場で働くジュニオールさん


ジュニオールさんは来日してすぐ、千葉県の自動車部品工場で働き始めました。日本語も分からない中、ひたすら必死に働きましたが、ときに、日本人の上司から「バカ、アホ」「クビ、使えない」と暴言を吐かれることもありました。日本語の意味が分からなかったため、メモをして後で調べて意味を知り、傷ついたことも。

いろいろな仕事を転々とする中、最もきつかった仕事は、魚の解体工場でした。朝6時から、遅い日には夜11時まで。鰹やマグロをひたすらさばき続けました。・・・それでも、ジュニオールさんはブラジルと違って十分な給料をもらえる仕事がある幸せを噛みしめていたといいます。

“デカセギ”のままではいられない病!? 

ジュニオールさんが面白い言葉を教えてくれました。「デカセギ病」という言葉です。デカセギのつもりで日本にやってきても、だんだん帰ることができなくなる現象をブラジル人たちの間ではそう呼んでいるそうです。ジュニオールさんも最初は少しお金を貯めたらブラジルに帰って、欲しかったバイクを買おうと思っていたといいます。しかし、仕事は過酷でも欲しい物を買うことができる日本の生活は、だんだん手放しがたくなっていきました。

ジュニオールさん
「ブラジルは大好きだったけど、うまくいくチャンスが少ない。日本は頑張ればなんでもできます。20万円もらえれば何でも買える。車を分割で買ってもいいし、いい服を買ってもいいし、レストランで毎日ご飯を食べることもできる。日本に長く住んだ人はブラジルに戻ったら生活になじめない。それを”デカセギ病”っていいます」

ジュニオールさん自身は現在独身ですが、日本の生活の中で恋愛をし、結婚をし、子どもが生まれるブラジル人たちも増えていきました。苦労が多い労働の日々、家族の存在が大きな精神的な支えとなったのです。多くのブラジル人はある程度お金を貯めることができたら、ブラジルに帰ろうと計画していました。しかし、日本で生まれ育つ子どもたちは、日本の保育園や学校に通ううちに日本語もペラペラに。友達も日本で作り、勉強も日本で始めた子どもたちは、むしろ母国を知らず、親が帰国を決意しても、子どもたちに拒まれるという場合も少なくありません。

私たちがブラジル人100人に行ったアンケート調査では、「20年以上日本に住んでいる」と答えた60人のうち大多数の53人が、「当初は5年以内に帰国予定だった」と答えています。

100人へのアンケートより



コロナ禍だからこそ思い出して 12年前の痛み

ブラジル人の多くは短い契約の非正規雇用で働いています。早くに帰国する予定だったため年金保険料も払っておらず、老後の保障がまったくない人も少なくありません。いま、新型コロナウイルスの影響で多くの人たちが職を失っています。もちろん、日本人も状況は同じですが、外国人は特に真っ先に解雇や雇い止めの対象となるケースが後を絶ちません。



多くの外国人労働者が突然仕事を失う事態は、10年以上前にも起きていました。リーマンショックの影響でいわゆる“派遣切り”が横行。職を失うと同時に、派遣会社の寮で暮らしていた多くのブラジル人達は、住む場所も失い、突然帰国を余儀なくされました。下のグラフは日本に住むブラジル人の数です。経済の浮き沈みと共に雇用の調整弁となっているようすが読み取れます。

法務省 在留外国人統計より作成(2020年の数値は集計中)


ジュニオールさんは、リーマンショックの頃のことを写真で表現したいと、当時の悲惨な状況を目の当たりにしていた人に話を聞きました。浜松市のキリスト教の教会の神父としてさまざまなボランティア活動を行っていたブラジル人の神父、比嘉エバリストさんです。
エバリストさんの話を書き留めるジュニオールさん


エバリストさん
「当時は、多くのブラジル人が仕事を失って、助けを求めて教会に集まっていました。さらに、ブラジル人学校に通っていた子どもたちが、親が月謝を払えなくなり学校に通えなくなり、教会に集まってきていました。私たちは炊き出しをしたり、臨時の教室をつくって支援をしました。また、橋の下でホームレス生活をするブラジル人たちがいました。私たちはそこへ見回りに行き、食べ物や着るもの、銭湯の券などを配りに行っていました」


ジュニオールさんは、エバリストさんから聞いた写真を一枚の写真で表現しました。 橋の下で寄り添う家族。右下に写した女性の姿は、家族を助けに来た支援者ともとれるし、家族の前を通り過ぎる無関心な人にも見えます。家族に手を差し伸べる人はいたのか?日本社会のまなざしを問いかけました。

家族に手を差し伸べる人はいたのか? 撮影:マエダ ジュニオール



日本で暮らし続けたい デカセギ30年の重み

私が日系ブラジル人たちを取材していて、一番よく聞く言葉があります。
「私たちはブラジルにいるときは日本人だと言われていた。でも日本にやってきても“ガイジン”と言われます」

ルーツは日本にあるけれど、ブラジルで生まれ育ち、そして日本にやってきたジュニオールさん。自分はいったい“ナニジン”なのか?そんな葛藤をジュニオールさんも抱えてきました。それでも今は、自分の生きる国は日本だと感じています。

ジュニオールさん
「もう30年近く日本にいます。もし今ブラジルに戻ったら、僕はまた外国人です。何も分からない。人間関係も仕事も最初から始めなきゃいけない。日本でずっと暮らし続けたいです」


祖父母とジュニオールさん


ジュニオールさんの祖父母は、ブラジルで長年農業に従事したあと、晩年は日本式の写真屋を営んでいました。その影響もあって、小さな時からカメラが好きだったジュニオールさん。最初の工場に勤めていた10代の頃、稼いだお金でカメラを購入しました。友達もおらず、工場のまわりで花や木を一人で撮影していたといいます。

そのとき、ジュニオールさんに話しかけてきた工場の日本人の先輩がいました。写真の撮影を趣味にしていたその先輩は日本語もうまく話せないジュニオールさんにカメラの使い方を身振り手振りで教えてくれたといいます。それから二人は、色々な場所へ一緒に撮影に行きました。ジュニオールさんは、彼に言われた言葉を今も覚えています。

「言葉とか関係ない、やる気があればどこまでもいける。ジュニオールが一生懸命頑張れば、きっと信じられないところまでいけるぞ」

ジュニオールさんを写真家の道に導いた”先輩”


ジュニオールさんはその言葉を胸に、工場で働くかたわら、時には睡眠時間を削って写真の勉強を続けてきました。「ブラジルでバイクを買いたい」だったジュニオールさんの夢はいつしか「日本でカメラマンになりたい」という夢に変わっていたのです。

写真館で撮影中のジュニオールさん


そして去年、ついにジュニオールさんの夢は叶い、日本の写真館で正社員として採用されました。ジュニオールさんはいま、写真館でフルタイムで働きながら、日系ブラジル人の写真も撮り続けています。写真館で働くジュニオールさんに会いに行くと、目は輝きにあふれ、その陽気な人柄で自然と引き出すお客さんたちの笑顔がとても印象的でした。

少子高齢化が止まらない日本は、今後も外国人労働者の存在がなければ経済が立ちゆかないのが現実です。しかし今回ジュニオールさんたちを取材する中で改めて思ったのは、ふだん私たちが彼らの「労働者」としての側面しか見ておらず、ひとりひとりの「人生」に目を向けてこなかったのではないか、ということです。
外国人と日本でともに暮らすこと、それは私たちが彼らの「人生」を受け入れることにほかならないのだと、強く感じました。
(NHK名古屋放送局 ディレクター 植村 優香)


日系ブラジル人コミュニティの取材から生まれた番組が12月29日(火)にBS1、さらに2月11日(火)にNHK総合で放送されました。

番組名:「ワタシたちはガイジンじゃない!」
概要:夢を抱いて日本にやってきたブラジル人たちが、30年間日本で見た光景はどのようなものだったのか。イッセー尾形さんが、取材元になった日系ブラジル人が多く住む団地の一角で前代未聞の“公開一人芝居”。脚本は、宮藤官九郎さん。日系ブラジル人から見た“日本人あるある”や、彼らを「ガイジン」「労働力」として見てきた日本社会の側面を、笑いあり、涙ありに描く。「ガイジン」と呼ばれてきた人たちが歩んできたニッポンでの30年間とは?

こちらのサイトで、イッセー尾形さんのインタビューと、一人芝居の様子がわかる動画がご覧になれます。

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クロ現+
2020年12月2日

マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"

足が速いんでしょ」「英語ペラペラなんですよね」「元々黒いから日焼けしなくて、いいね」――日本に住むアフリカをルーツにもつ人たちがたびたび言われるという言葉です。
ふだんの会話の中で、何の気なしに発せられるものですが、中には言われた側が傷つき、さらにいじめや差別などにもつながることもあることもわかってきました。こうした行為は「マイクロアグレッション(小さな攻撃性)」とも言われ、海外では長らく問題視されています。
「マイクロアグレッション」がなぜ、どんな場面で生まれるのか。傷つく人を減らすためにどうしたよいのか考えます。
(取材:「おはよう日本」ディレクター 加藤 麗)

渋谷で開かれた#BLMデモに3500人が参加

わたしは大学時代、アフリカのルワンダ共和国に10か月間留学した経験があり、アフリカや黒人差別の問題に関心を持ってきました。人種差別に対する抗議の波が世界中に広がり続けていた6月、東京・渋谷で行われた#BLM(ブラックライブズマター)のデモの現場を取材しました。この日、渋谷のデモに集まったのは3500人。私は参加者たちが掲げるボードの一つに目が止まりました。「BLMは対岸の火事じゃない」ー


2020年6月に渋谷で行われた#BLM デモ



「“黒人”としてではなく、人として接してほしい」

日本も「対岸の火事じゃない」とはどういうことなのか? 私は日本に住むアフリカにルーツを持つ若者たちの”居場所”として活動する「アフリカン・ユース・ミートアップ」に取材を申し込みました。代表の三浦アークさん(17・高校生)は、東アフリカのウガンダ共和国と日本のルーツを持ち、日本で生まれ育ちました。


はじけるような笑顔が印象的な三浦アークさん 実体験を動画にし自作曲とともにSNSに投稿している


三浦さんは中学校でバスケットボール部に入部すると、すぐに周囲から「スポーツがうまそう」と声をかけられ、チームの戦力として期待が寄せられました。しかし「期待に応えたい」という気持ちとはうらはらになかなか上達せず、逆にからかわれるようになります。それはやがていじめへとつながっていきました。

日焼けをした同級生が肌を並べてきて「三浦と色が近づいた」と嫌そうに言うなど、外見の違いをネタにしていじめられることも重なり自尊心を失っていきました。そのうち学校が怖くなり、不登校になりました。

三浦アークさん
「“黒人“としてみんなが期待するように運動ができるわけでもない。日本では、髪がサラサラで肌が白くて小柄な女の子がかわいい、と言われるけど自分は正反対。残念な存在だなと思っていました


「目立ちたくない」という思いから、三浦さんはカメレオンのように、その場の状況に適応することを心がけてきたといいます。高校に入るといじめはなくなりましたが、制服で立っているだけで職務質問を受けたり、行く先々で出身国を聞かれるなど、見た目だけをもとに判断されていると感じることは続き、自分は何者なのか?という問いに苦しめられました。

三浦アークさん
「17年間日本で育っているので見た目以外は日本人なんです。それなのにどこに行っても外人というレッテルで見られているように感じます。一人の人として接してもらいたいそれが一番の願いです」


三浦さんが仲間と立ち上げた”アフリカン・ユース・ミートアップ”の集まり


一人悩んだ経験生かして 高校1年で”若者の居場所づくり”

周りに相談できる人がおらず一人で悩んだ経験から、三浦さんは高校1年生だった去年、同じようなルーツを持つ若者が集まる“居場所”にしたいと、「アフリカン・ユース・ミートアップ」を立ち上げました。いまは月に1回ほどオンラインでミーティングを開いています。 仲間と話すことで三浦さん自身、⾃らのルーツに誇りを持てるようになっていったといいます。

三浦アークさん
「いじめを経験すると、みんな自分を ”ダメな存在だ” と責めてしまうんです。でも肌の色みたいに、自分では変えられないものを理由に、言われる言葉が(他の人と)変わるのはよくないですよね。これは普通の人がしない経験です・・・。同じ経験やルーツを持つ人たち同士でアドバイスし合うことで”自分は自分でいい” と思い直せるように。”自分を責めないで生きてほしい” と伝えたいです」


アフリカンルーツの若者が日本社会で経験する差別

三浦さんが体験したような「肌の色やルーツに対する差別」はどのくらい起きているのか。アフリカにルーツを持ち日本で育った5人に集まってもらい、差別にあった経験についてたずねました。似た背景を持つ者同士が集まっている安心感もあってか、ふだんの生活の中ではあえて話さないような体験談が次々と出てきました。

「患者さんを治療しようとしたら ”このゴリラめ”、”お前みたいな原始人めが” って言われて、すごくショックを受けて、何も言えなくて言い返せないでいたら、”お前なんかもう看護師になるんじゃねえ!”、”もう別の人呼んでこい"」とか言われて。結局ちょっと半泣きしながら先輩を呼んできて先輩と一緒に謝ったんですけど、次の日に思い出してブワァってすごい泣きました(ナナさん・仮名/看護師)」

「職務質問をしょっちゅう受けます。止められるだけならまだ我慢できるんですが、”クスリをやってるんだろう” って決めつけて言われちゃうんですよ。”黒人って財布のここの部分に麻薬が入ってるんだよね” みたいな。(ナカオ・エイベルさん/モデル)」

「”お父さんどこの人?”と聞かれて、ガーナ人ですっと言うと ”じゃあ出稼ぎなの?”、”どこの部族なの?” とか。アフリカ系の人とか黒人系の人が野蛮だったりとか知能が低いとか、そういうイメージを持って前提として話されるんです。”日本人と結婚できてお父さんラッキーだったね” みたいなこととか。(アリサさん・仮名)」


悪意のない発言にも潜むネガティブな力

そして5人が口をそろえたのが、明らかな差別だけでなく悪意のない言葉や行動のなかにも深く傷つくものがある”ということでした。

・「足が速そう、歌やダンスが得意そう」と言われる
・「その髪どうなっているの?」と言われ、勝手に触られたり引っ張られたりする
・「元々黒いから日焼けしなくて、いいね」と言われる
・「英語が話せない」と言うと、「変だね」と言われる
・「日本で育ちました」と伝えても、「お国はどちら?いつ帰るんですか?」と聞かれる
・レストランで、日本語で話していても英語のメニューとフォークが出てくる


当然ながら、アフリカをルーツに持つ人でも、運動や歌などが苦手な人はたくさんいます。得意でないことに過度なプレッシャーをかけられることで、期待にこたえられない自分を責めてしまい、自尊心を失ってしまうといいます。

ルーツのある国を聞かれることも、1回なら問題がなくとも、1日に何十回も、毎日のように質問されると「あなたはこの国の人ではない」というメッセージとなり、心の中に積み重なっていくといいます。

今回参加してくれた5人は、長年こうした言葉に悩まされてきましたが、そのことを特に声に出して発信することはありませんでした。周囲に相談しても「気にしすぎ」「聞き流せば良い」と言われることが多かったからです。

日本人vs外国人のようになってしまうのは望んでいません。相手に悪気がないこともわかっているので、加害者であるかのように責めることはしたくないですし、今まで強く指摘しないようにしてきました。でも、僕らの下の代の子たちも同じことで苦しみ続けています。僕はモデルですが、自分が世に出ることで、僕らの経験や思いを理解してもらうきっかけになればと思い、この職を選びました」(ナカオ・エイベルさん/モデル)

座談会で語るナカオ・エイベルさん(モデル)


放っておくと危険な「マイクロアグレッション」

アパルトヘイトなど差別問題の解決に長年関わり、アフリカにルーツを持つ日本の若者の支援を行っている津山直子さん(アフリカ日本協議会代表)に、5人の体験を読み解いてもらいました。「明らかな差別に見えなくとも、先入観や偏見を基に相手を傷つける行為」は「マイクロアグレッション」(小さな攻撃性)と呼ばれ、アメリカでは1970年代から問題視されてきたといいます。

下の図はマイクロアグレッションの危険性を示した「ヘイトのピラミッド」です。

監修: アフリカ日本協議会代表 津山直子さん


1つ1つは大したことがないように見えても、小さな攻撃性を持つ言葉や行為が社会にまん延すると、ピラミッドの上段にあたる、よりひどい差別が起こりやすくなります。社会に偏見が広がると過激な差別発言をする人が増えますし、ステレオタイプを元にした”からかい”が増えれば、いじめにつながりやすくなるといわれています。こうしたことは、国を問わず、特にマイノリティや力の弱い人々に対して共通して起きている問題だといいます。


「マイクロアグレッション」をどうしたら無くせる?解決へのヒント

先日、「おはよう日本」でマイクロアグレッションについての企画を放送し、 それを動画にしてSNSでも投稿したところ、”何の気なしの言葉に傷つくなどと言われたら、コミュニケーション自体しづらくなる” という意見を数多く頂きました。マイクロアグレッションをなくすためにはどうすればいいのか。座談会の5人の意見を紹介します。

「やっぱり学校教育が変わってほしいです。黒人奴隷としてだけでしか私たち(のルーツ)が描写されてないんですよね。それも歴史の記録の問題かもしれないですが、今はどうなのかとか、身近な生活につなげるディスカッションをもっとしたほうがいいと思います。(三浦アークさん/高校生)」

「ふだん日本で見かけるアフリカの映像って悪い面ばかり。アフリカは貧しくてみんな飢え死にしてるわけじゃないのですが・・・。”今でもジャングルで住んでる人とかいるの?” って聞かれたんですよ。"いるかもしれないけど、ほぼいません" って感じです。アフリカ人はみんなジャングルで動物と暮らしてる、みたいなイメージがまだあるということが、よくないと思います」。(ナナさん・仮名/看護師)


日常会話の中で、ちょっと気をつけるだけで大丈夫、という具体的なポイントも教えてもらいました。

「みんな日本に住んでいるので ”ハロー” とかじゃなくて普通に ”こんにちは”でいいです。”ハロー” と言われると ”こんにちは、でも私は日本人です” っていうところからのスタートになっちゃうので。(アリサさん・仮名)」

バックグラウンドとかそういう質問を投げかけてもらう時に、”もしこれ聞いて傷ついたら申し訳ないけど” とか前置きがあってくれるとすごくいいなって。(マヤさん・仮名/デザイナー)」


いま「マイクロアグレッション」を考えたい理由

取材をしていると私自身、ギクッとすることが多くありました。私もアフリカに留学していたとき「目が細くてキレイだね」「日本人だからカンフー上手いでしょ」などと言われ、悪意がないとわかっていてもモヤッとした経験があります。にもかかわらず、自分も日本でアフリカのルーツを持つように見える人に対して「きっとこうだろう」という安易な推測をもとに発言をしてしまったことがあると思うからです。

親切心やほめことばが、マイクロアグレッションにつながってしまう場合もあり、どこからがマイクロアグレッションかというのは難しい問題です。だからこそ取材した皆さんも「自分だけが我慢すれば良い」と声を抑えてきたのだと思います。今回、勇気を出して取材を受けてくれた人の中には、涙ぐみながら、複雑な心境や差別体験を語ってくれる方が多くいました。

誰が悪い、何が悪いという話ではなく「外国人=全員よそから来た人」という先入観を疑い、コミュニケーションすることが大事だと感じました。日本には、多種多様なルーツを持つ人々がいて、日本人として生きている人も数多くいます。相手がどういう事情や思いを抱えているのか、もっと想像をしながら接することが、社会の“⽣きづらさ” をなくしていくためのカギではないかと感じています。
(取材:「おはよう日本」ディレクター 加藤 麗)


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・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声

クロ現+
2020年11月27日

在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント

11月に放送した クローズアップ現代+「日本で暮らし続けたい~ルポ“在留資格”のない子どもたち~」では、在留資格を持たない、いわゆる“非正規滞在”の外国人について取り上げました。こうした非正規滞在の外国人と諸外国はどう向き合っているのか。日本と異なる制度や仕組みを導入している2か国について、海外の移民政策に詳しい小井土彰宏・一橋大学教授にお話を聞きました。
(取材:「クローズアップ現代プラス」ディレクター 前田 陽一))

非正規移民の若者たちを救った!? アメリカの注目政策

まず、最初に紹介するのはアメリカ合衆国です。「移民の国」として知られるアメリカは、非正規移民の数が推定1150万人。トランプ大統領の非正規移民に対する強硬策は、報道などを通して知っている人も多いでしょう。非正規移民に対して厳しい国、というイメージがあるアメリカですが、注目すべき政策があります。それが「DACA(ダカ)」プログラムです。DACAによって、2012年以降、76万の若者が暫定的ながら、一定の権利を認められています。

DACAとは?
若年移民に対する国外強制退去の延期措置(Deferred Action for Childhood Arrival)のこと。子どものときに親に連れられてアメリカに不法入国した人などの強制送還を猶予する制度です。猶予は2年間で、更新可能。

DACAに至る背景 声を上げ続けた非正規移民の若者たち

2000年代、アメリカでの非正規移民が1000万人を超え、改革が必要と求められていきますが、その中でも柱として考えられたのが、高学歴層の若者の滞在と就学・就労を承認するという目的で提案されたドリーム法案(DREAM ACT)でした。ドリーム法というネーミングには、困難な中で大学進学を果たすなど、非正規移民の若者が実現してきたものこそがまさに現代のアメリカン・ドリームであるという意味が込められており、数世代前に夢を追ってアメリカにやってきた多くのアメリカ市民たちの理解を受ける狙いでつけられました。

しかし、この法案はなかなか実現しませんでした。変革を訴えて登場したオバマ大統領は、非正規移民たちからドリーム法案の実現を強く期待されていました。しかし、グローバル金融危機を背景に登場したオバマ政権は、本格的な改革に着手できませんでした。共和党が支配する連邦議会でもドリーム法案は繰り返し挫折します。
それどころか、日本ではあまり認識されていませんでしたが、オバマ政権は多くの非正規移民たちを強制送還し、その数は一時年間40万人に達したほどです。きわめて大規模な強制移動です。

(非正規移民の若者と面会するオバマ元大統領)

DACAは、このような大きなジレンマの中でオバマ政権が状況の突破口として編み出したものでした。2012年6月にオバマ政権は、立法府である連邦議会を通さない形で、連邦の方針として該当者に強制送還を猶予し、一定の権利を与えることを決めたと発表しました。

その該当者とは、16歳未満で国境を越えて米国に来て、成長して大学に進学したり、高校在学中で大学進学が可能な状態にある人でした。加えて、非行集団に属した経験などがないといった、アメリカ社会に順調に適応しているという条件を満たしていることが求められます。

DACAがもたらしたものとは

彼らに与えられる権利は、強制送還の2年間の猶予です。暫定的ではありますが、合法的にアメリカに滞在することが認められ、DACAと記された身分証明書を与えられ、大学の進学奨学金への応募も幅広く認められるようになります。

そして、卒業後は、合法的に就労が可能となります。これまで学費を稼ぐために例えば家事労働や、洗車といった、低賃金で流動性が高い職種で働かざるを得なかった彼らが、DACA認定を受けることで、大学で学んだ内容を活かせるような職種につくことが可能になっていきました。
DACAの権利の有効期間は2年間で、完全な合法化・正規化とは異なるものの、更新が可能でそれが繰り返される限りは、就労に支障もありませんでした。

DACAは非正規移民の子どもたちに何をもたらしたのか。複数の専門家の実証研究によると平均的な時給や所得の上昇といった経済的な改善が見られました。また、ホワイトカラーの専門職への就職、大学院への進学という形で、自らの職業的能力を発揮したり、知的能力を向上させたりするルートが増えました。
例えば、国内有数の名門大学であるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)には数百名のDACAを受けた学生がいるという報告もあります。


(DACAを求める非正規移民の若者たち)

トランプ政権による移民排斥ばかりがクローズアップされるアメリカですが非正規移民に対する政策の中には日本も学ぶべきものもあります。もちろんDACAには、高学歴層に限定するなど、様々な問題がありますが、結果的に救われている人がいるのも事実です。そして、それが実現した背景には声を上げ続けた当事者たち、彼らの力を必要とする産業界の声など、様々な要素が相まっているのです。
DACAに否定的だったトランプ政権の終焉が確実になってきたことにより、この制度の存続が可能になる見通しとなりました。今後、非正規移民の若者のより安定的な権利に向けての議論が再び活発化していくものと考えられます。


ヨーロッパ中でも“ユニーク”な移民政策で知られるスペイン

次にご紹介するのは、移民を巡って揺れ動いてきたヨーロッパの中でもユニークな政策で知られるスペインです。知らない人も多いかも知れませんが、21世紀の最初の10年間で、アメリカに次ぐ世界二位の移民受け入れ国となったのがスペインで、人口4000万を切る程度の国だったのが400万人以上を新たに受け入れた結果、人口に占める移民の割合は12%を突破しています。これはヨーロッパの中ではドイツに匹敵する数字です。その後、経済危機により近年は減少に転じました。
しかし、より注目すべきはこれだけ短期間に急激な移民人口増を見ながらも、スペインでは本格的な移民を巡る深刻な社会的紛争は限られており、また少なくとも2019年ごろまでは本格的な移民排斥運動も極右の台頭も見られてこなかった点です。この非常に興味深いケースを内部から観察するため、私は2014年夏より1年間かけて現地調査するなどしてきました。


(スペインとモロッコの国境。アフリカ西部からの流入が多い)


かつては移民を“送り出す”側だったスペイン

スペインの歴史は、西欧諸国と比較して独特です。戦後も独裁体制が継続し、スペインは政治的に孤立して経済発展は遅れていました。この結果、スペインは戦後1970年代半ばまで、ドイツやかつてスペイン帝国の旧植民地であったラテンアメリカに向けての移民送出し国であり、亡命者が出ていく国であったのです。
1975年以降スペインは民主化を経験することで、その後、急激に経済成長を経験していきます。この結果、1980年代後半になって初めて本格的な移民受け入れを経験していきます。過去、移民や難民の経験を持つ人々が国内の各層に多数いる中で、新たな移民を受け入れていったわけで、このことが独自の移民政策の素地となりました。


(第二次世界大戦後もフランコ政権による独裁が続いた)

社会への“定着性”を評価

実は、スペインも急激に移民労働者が増大した際に正規の手続きを行わずに入国し、非正規移民として就労を続ける人々が急増しました。日本にも似て表向きは厳しいビザ手続きがありなかなか取得できない一方、実は国内には労働力が不足する中小自営業等が多数存在し、非正規移民労働者を雇用して事業を続ける雇用主が多数いました。これに対するスペイン国家の対応は、周期的に正規化=合法化を行うことで、非正規移民が一定数を超えることを避けながら必要な労働力を維持することでした。

ここでスペインが特徴的なのは、たとえ非正規であっても、社会や職場に定着したことを評価して、在留資格を与える「正規化」を行ってきたのです。過去最大の正規化を行ったのは2005年、実にその数、70万人に達しました。このときは、過去1年間の就労実績と社会的な「定着」が考慮されました。
つまり、技能を語学試験や、免許などの形式的な資格ではなく、現場で身に着けたものを評価するという発想です。正規化の際には、例えばシェフがコックとして働く移民の能力を証明したり、建設の小事業主が移民の大工としての能力と就労した事実を証明したりするわけです。

なぜ排外主義は台頭してこなかったのか

スペイン政府はこの大規模正規化とともに、「社会統合全国フォーラム」という協議会を設立し、担当官庁や人権・支援NPO、そして移民自身の団体を組み込んだ三者による円卓形式の会議を、移民専門家を議長に据えて、定期的に開催してきました。このような当事者たちの「声」を組み込むことで、参加民主主義的な形で相互理解を促進することを重視してきました。

また、社会統合研究所という機関を各自治州に設置して、移民たちの動向を分析し、地域的な議論として活用してきました。 各自治体レベルでは、「通文化(間文化)媒介者」と呼ばれる、 移民と地元の人々の間や多様な移民相互間の文化を橋渡しする人々を配置。住民と移民の間の偏見や誤解に基づく紛争を事前に回避したり、緩和したりするための政策を進めてきました。このような実質的な受入れと共生政策を合わせて打ち出すことで、急激な移民増加による社会的緊張を緩和させることができたと言えるでしょう。

このような制度構築ができた背景には、移民として働いた経験のある労働者層に加えて、エリート層の中にも亡命者として他国で滞在したことがある者がいたことがあります。スペインは、移民の視点を理解することの重要性を歴史の中で体得してきたのです。

ちなみに2018年、「Vox」という極右政党が民主化後初めて議会で一定の議席を獲得したことが注目されていますが、これをもって単純に反移民勢力が台頭したとも言えません。この政党への支持はカタルーニャ州の分離独立主義に対するマドリードの保守派層などを含んでおり、同じ選挙では移民に寛容な社会労働党も議席を増加しています。不況長期化=反移民台頭という図式では簡単に語ることは難しいと思います。

“非正規滞在外国人”と国家 どう向き合えばいい?

ここまで、アメリカとスペインの2か国について見てきました。現代、世界のどこの国家においても、非常にうまく移民政策を実施できているとは言い切れません。ですが、そのことへの反発で現実的に必要な人々の受入れを恣意的に断ち切ろうとすれば、より深い問題を作ることにもなりかねません。
一挙に理想的な移民政策を打ち出せると考えたり、逆に難しい問題が出てくるからといって移民政策という課題を否定したり回避したりすることは現実的ではありません。現実の経済的・社会的必要に応じて制度を構築し、それを常に“manage”する。すなわち多面的な課題に何とか対処しながら、時間をかけ、段階的に制度を改善していくことが大切でしょう。

小井土彰宏 一橋大学大学院社会学研究科・教授
ジョンズ・ホプキンズ大学社会学部博士課程修了、カリフォルニア大学サンディエゴ校研究員、北海道大学文学部助教授、上智大学国際関係研究所助教授を経て現職。『移民政策研究』編集委員長


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クロ現+
2020年11月27日

在留資格のない子どもたち 背景は?【インフォグラフィックス解説】

在留資格のない子どもたちやその家族の事情を説明しようとすると、どうしても耳慣れない言葉の羅列になってしまいがちです。今回、”在留資格”のない子どもたちを理解するうえでとても大切な”帰れない”事情を、取材で会った様々な家族を思い出しながらインフォグラフィックスでまとめてみました。























連載3では、在留資格のない外国人に海外ではどう対応しているのかをご紹介します。日本の状況を改善するヒントになればと思います。

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クロ現+
2020年11月21日

Vol.2 次々登場“フェムテック” 生理用ショーツに更年期対策も

女性の“生きづらさ”をテクノロジーで解決! 
「ん、漏れてる?…あ、ヤバイ!」 仕事中、ふと股間を伝う違和感にドキッとしてしまうこと、ありますよね。

私も仕事に没頭しすぎて、気づいたら経血漏れでイスが大惨事という経験が・・・その後はイスにじっと張り付いて、同僚たちが帰るのをひたすら待ちました。夜、静まりかえったオフィスで座面の赤いシミを拭いていたら、涙がこぼれてしまって・・・。

ところがそんな私の日常に最近、革命が起きました。それが「ナプキンの要らない生理用ショーツ」です。半信半疑でしたが、試してみると本当に1日経っても漏れがなくて、まさに目からウロコ。小6以来の悩みの一つがあっさりと解消されたのです。

「生理」「更年期」など女性特有の様々な悩みを、新たなアイデアや科学技術を用いて解決する・・・こうした商品を「フェムテック」と言います。(Female(女性)とTechnology(技術)をかけ合わせた造語です。)

社会の中で生きる女性たちを応援してくれそう!と期待高まる「フェムテック」、その最前線をお伝えします。 (関連記事「AMH検査で“卵子の残り数”がわかる!?」

(クローズアップ現代プラス 浅岡理紗ディレクター)


スタートアップが続々登場 “フェムテック”
いま世界中で、フェムテックの新たなアイテムが続々と登場しています。 2020年7月、そうした製品を取りそろえた生活雑貨店が東京・港区にオープンしたので、行ってきました。


■冒頭で紹介した、ナプキンが要らない生理用ショーツ
何層にも重ねた特殊な生地が経血を吸収し、表にしみ出すのも防ぎます。国内外のメーカーからデザインも性能もさまざまなショーツが登場していて、自分にあった商品を選べます。



■妊娠しやすいタイミングを教えてくれる機器(アメリカ製)
白くて丸いデバイスを膣の中に入れると、おりものの成分を測定し、妊娠しやすいタイミングを教えてくれます。妊活中の女性のニーズから誕生しました。



■尿漏れを防ぐトレーニンググッズ(イギリス製)
更年期の女性に多い「尿漏れ」の悩み解消のための製品。楕円形のボールを膣の中に入れてキュッと閉めると、連動したスマートフォンの画面でボールがポーンと跳ね上がります。排尿コントロールに大切な骨盤底筋を、キュッ、ポーン、キュッ、ポーンと、ゲーム感覚で鍛えることが出来ます。


「生理」「妊娠」「更年期」といった女性特有の悩みを、テクノロジーで真っ向から解決していこうというフェムテック。それは、これまでタブーとして見過ごされてきたこれらの課題を明るみに引き出し、具体的な問題解決はもちろん、人々の意識までも変化させて、社会に革新をもたらそうとしています。


(店のプロデューサー 小尾奈央子さん)

小尾さん
「女性の社会進出が進み、こうした(女性特有の)悩みが社会全体で解決すべきことになってきています。もうタブーではない!タブーのままではいけないのです。お店にはカップルで来店される人もいます。男性も、生理のことを女性に聞いてはいけないという概念があったかと思いますが、こうしたフェムテック製品を一緒に手に取ることで、話してもいい、共有していい話題なんだと認識する方もいます。」

体の悩みと深く関わる女性ホルモン
フェムテックが解決をめざす女性ならではの体の悩みと深く関わっているのが性ホルモンです。女性ホルモンの分泌量は10代で急上昇し、毎月の生理のたびに変動、そして40代から急降下します。その動きに伴って、生理痛や更年期症状などさまざまな不調が起きます。そのジェットコースターのような変動は、現役世代の間はホルモン分泌がほぼ一定の男性とは対照的です。


(女性と男性のホルモンの変化)

「漏れない生理用ショーツ」 オンナの実体験にビジネスチャンスあり!
女性たちに立ちはだかる課題を新ビジネスの舞台ととらえフェムテックを生み出しているのは、一体どんな人たちなのでしょう。私の悩みを解消してくれた「生理用ショーツ」を開発した企業を東京・渋谷区に訪ねました。


(中央の左が山本未奈子さん、右が髙橋くみさん)

社員30人はすべて女性。「女性の輝く社会」をコンセプトに、化粧品など様々な商品開発を行っています。

この会社を率いる、山本未奈子さんと髙橋くみさん。
働く女性として、二人も「生理」の悩みを切実に感じてきました。


(山本さん)

山本さん
「会議が長引いて仕事に入り込んでしまうと、トイレに行くタイミングを忘れてしまうんです。 会社の椅子が白いのもあって結構シミに・・・。私もよく漏れてしまってアッ!ということがあります。」

2人がショーツ開発を始めたのは3年前。アメリカで「ナプキンの要らない生理用ショーツ」を目にしたのがきっかけでした。「これこそ働く女性が求めている商品だ」と確信し、日本人のニーズに合わせた商品を自分たちで開発すると決意します。 製造を依頼したのは山陰地方にある小さな縫製工場です。


(縫製工場)

もともと高齢者向けの尿漏れパンツを得意とし、布に水分を吸収させる豊富なノウハウを持っていました。でも工場側は、「生理用ショーツ」という思いもよらない依頼に、最初は戸惑ったそうです。

縫製工場社員
「難しいと、一旦はお断りしたんです。どうしても女性の生活を変えたいということを何度も口説かれて、気持ちが動いたといいますか、やってみようという気持ちになりました。」

難しかったのは、吸水量の大幅UPでした。通常の尿漏れパンツでは、吸水量は多くても50ml程度ですが、今回のショーツは120mlの性能を持たせました。それは、生理2日目の経血量の3倍にあたります。

吸水体は、性質の異なる5枚の特殊な布を組み合わせたもので、身体からずれないように、縫い付け方も工夫されています。2年半をかけて、漏れを防ぐ工夫を結集したショーツが出来上がりました。


(募ったクラウドファンディング)

実は、 山本さんと髙橋さんはショーツ開発の過程で、ネット上から投資を募るクラウドファンディングを行ったのですが、1か月で9000人以上が参加し、なんと1億円以上の資金が寄せられました。商品への期待の高さがうかがえますよね。

このファンドに参加し、ショーツを使い始めた女性に話を聞きました。

洗濯は基本的に手洗いをしていて、しっかりキレイにしたいときには、そのあと他の衣類と一緒に洗濯機にかけているそうです。使い心地を聞いたところ・・・

女性
「普通に生活して歩いたり動いたりしても漏れないし、寝ている時も漏れないので驚きました。仕事で外を歩き回ることも多く、そんなときはトイレに行けず困っていました。これでもっと活動的になれると思う。」

女性たちが感じてきた“生きづらさ”を背景に、次々と生まれているフェムテック。それは社会全体に地殻変動を起こしてくれるのではないかと感じました。

私たちは今後もこのテーマについて取材を続けていきます。

次回紹介するフェムテックは、女性の体の中の「目に見えないアレ」を手軽に知ることで、「人生設計がもっと立てやすくなる」という内容です。

あなたは女性ならではの“体の悩み”についてどう思いますか?“体の違い”がある中で、皆が生きやすい社会・職場にするには、何が必要だと思いますか? 記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。



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クロ現+
2020年11月13日

在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声

日本で生まれ、あるいは育ちながら“在留資格”がないために国外退去の対象となっている子どもたちがいます。多くが、難民申請をしたものの認められなかったり、オーバーステイの親から生まれたりしたケースです。未成年のため入管施設への収容は免れていますが、「仮放免」という立場で、様々な制約を受けながら暮らしています。統計上、その数は全国に300人あまりとされていますが、どこでどのような生活を送っているのか、詳しくは分かっていません。

クローズアップ現代+「日本で暮らし続けたい~ルポ“在留資格”のない子どもたち~」では、支援者や弁護士の協力を得て、連絡先が分かっている子どもたち50人とその家族にアンケートに答えてもらいました。番組ではお伝えしきれなかった、子どもたちの切実な声をご紹介します。(取材:「クローズアップ現代プラス」ディレクター 前田 陽一)

※かっこ()の中は、子どもたちや親の出身地です。また、表記は子どもたちが書いたものから変えずにご紹介します。
“在留資格がないことで困ったことは何ですか?

「病気になったとき、病院でお金を100%払わないといけなく、それがなかなか高いから気軽にいけない。日本のあらゆる保障を受けられないため慎重に生活をしなきゃいけないとき」(14歳/ベトナム)

「友だちと県外にでかけられない(※1)/将来がとても不安」(13歳/ペルー)

「これからある大学にもいけない。働くこともできないから将来が不安でしかたない」(16歳/ペルー)

「職業につけない、学費はらえない、アルバイトができない」(17歳/ガーナ)

「ともだちができることが自分はできない。せいかつがくるしい。なにをするにもじゆうがない。さべつがおおい」(年齢不明/トルコ)

※1:仮放免中は、都道府県をまたぐ移動は、事前に入管の許可がいるため




日本を離れることができない理由は何ですか?
「日本で生まれ日本でずっと生活してきて、日本の社会に適応して、日本でやりたいこと、したいこと、将来の夢があるのに、日本を追い出され何もわからないところにいって言語が話せなくて、そのまま仕事につけなかったりするのが嫌だから」(14歳/ベトナム)

「親の故郷の言葉と文字がわからないからなのと、友だちとはなれたくない。私は人見知りだからはじめていった場所になじむまですごく時間がかかるから近くにしっている人がいないと私はとてもこまるんです。言葉がわからないのでもっと困る」(13歳/ベトナム)

「私は日本でうまれ、日本で育ちました。これからも家族や友だちとずっと大好きな日本にふつうに暮らしたいです。理由はただそれだけです」(13歳/ペルー)

「日本語しか話すことができない。ましてや同じ年の日本人の子どもと同じように教育機関を受けたのにいきなりペルーで過ごせと言われても上手くやっていけるわけがない。リスニング、リーディング力がペルーの幼い子供よりないのに」(19歳/ペルー)





法務省はいま入管法の改正を目指しています。収容のあり方を見直す一方、国外退去に従わない場合は、懲役刑を含む罰則を科すことを検討しています。


罰則が厳しくなるかもしれないことについてどう思いますか?
「20歳になったら自分もつかまってしまうとおもってこわかった」(12歳/コンゴ)

「なにもしてないからかえるいみがわからないです。まるで僕らにじんけんがないようにあつかわれて、とてもはらがたちます。みんなびょうどうとかきれいごといってるのに、私たちのことを人としてあつかわない、これはじんけんしんがいだと思います」(年齢不明/トルコ)

「“でていけ”だけで済ませるだけではなくて1人1人の声、じじょうをもっと知ってほしいです。入管の人はかんたんに“でていけ”と言いますが、その人たちに私たちの生活がどのようなものかを知ってほしいです」(13歳/ペルー)

「もっとよく考えなおしてほしい。100人以上の同じ問題の人がすごく苦しんでいる人の気持ちをかんがえてほしい」(17歳/ペルー)


切実な声が多く寄せられる一方で、日本で生まれ育った子どもたちが、この国をふるさと、自分の居場所として考えていることも伝わってきました。




あなたの将来の夢は何ですか?

「弁護士になって困っている人を助けたい」「教師になって、将来日本の未来を切りひらいてくれるような人材を育てたい」(14歳/ベトナム)

「日本でだれかを笑顔にする仕事がしたい」(13歳/ペルー)

「ファッションデザイナー」(17歳/ガーナ)

「航空整備士として、日本国内の空港で働きたいです」(17歳/インド)

「人を支えられるような仕事」(17歳/ペルー)




アンケートの自由記述欄にも多くの本音が寄せられました。その中から、支援団体が集めた寄付金によって大学に通う19歳の声をご紹介します。


「私の様な子供はたくさんいます。少しで良いのであなた方も想像して下さい。考えて下さい。本当に変わらないんです。私も生まれは日本なんです。同じ日本人なのです。お願いですどうか他人事だと考えないで下さい。私たちは自由のために戦います。ですがあなた方日本人も少しで良いです私たちのために働きかけて下さい。この戦いに勝つために」(19歳/ペルー)


今回集められたのは計50人の子どもたちの声です。国外退去の対象となっている在留資格のない子どもたちは、学校には通えるようになっていますが、その他のセーフティネットからこぼれ落ちているケースも多く、支援団体や弁護士でも居場所を把握していない家族もいるとのことでした。
大変な状況の中、声を寄せてくださった皆さん、本当にありがとうございました。





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クロ現+
2020年11月12日

Vol.1 “有毒な男らしさ”を考える

いまSNS上で「#有毒な男らしさ」という言葉が飛び交っています。

「面倒なことは女に押しつける、“有毒な男らしさ”」
「間違えても謝らないという態度、“有毒な男らしさ”」

(英語で Toxic masculinity “有害な男らしさ”とも訳されています)

周りに悪影響を与える「有毒な男らしさ」をコロナ禍で実感する人が増えたといわれます。はたして、その〝解毒剤〟はあるのか。理想の有名人夫婦ランキング“常連”の佐々木健介さん、北斗晶さん夫妻と考えます。 

(おはよう日本 取材班)

“自分が稼がねば” 男らしさに苦しめられた男性
街なかで現役世代の男性に聞いてみると…

「こういうご時世で給料面でも厳しい。これ以上下がると自分が情けなくなってしまう。家に帰って相談事をするのは…、弱い人間だと思われたくない」(40代 会社員)

「“男が女性より頑張っている、勝ってないといけない…”そういうのが まだ残っている」(40代 会社員)

『自分の稼ぎで家族を養わねば…』コロナの影響が続く中、そんな思いに追いつめられた男性がいます。松山市内で居酒屋を営む清水裕一(しみず ゆういち)さん(43歳)。


(居酒屋オーナー 清水裕一さん)

元々はサラリーマンでしたが、子どもが生まれた後に一念発起。9年前に独立しました。「働く姿を家族に見せたい」との思いからでした。

清水さん
「“男らしさ”のひとつではありますけど、やっぱり“一国一城”じゃないですが、何か一旗揚げて“ちょっとやったよ”という爪痕を残す。」


(清水さんと家族)

ところが新型コロナの影響で、2か月間、営業は休止。5月の売り上げは去年の2割以下に。助成金の申請書類の作成など、自宅での作業に追われた清水さん。これまで店が休みの日以外は、ほとんど顔をあわすことのなかった子どもたちと一緒に過ごす時間が増えました。
仕事への不安や、慣れない子どもの世話。誰にも相談できないまま、日に日にストレスがたまっていきました。さらに看護師の妻が、コロナ禍においても毎日仕事に行く姿に自分のふがいなさも感じました。そして いつしか子どもたちに、強くあたるようになったといいます。

清水さん
「ふだんは怒らないんですけど、子どものことまで かまっていられない。余裕がなかった。『早く(勉強)やれって言っているでしょ!』と、よく怒っていました。」

妻の恵(めぐみ)さんは、傷ついた娘からこっそり報告を受けたそうです。


(妻 恵さん)

妻 恵さん
「(娘から)『パパには言わないでほしいんだけどね』という感じで。『パパと3人は楽しいけど、ちょっとしたことですぐ怒る』って。主人に、客観的に知っておいてほしいと思ったので、『どう思う?』みたいに尋ねたら、『あー、そうかもしれない』という感じでした。」

清水さん
「言われてハッとしました。反省しました。昔、女性経営者の方に、“いちばん邪魔なのは男のプライド。1円にもならない男のプライド”と言われたことがあって、『何を言っているんだ、この人は』と思っていたんですけど、てきめん そういう部分なんだろうな。わかっているけど、変えられなかった。」


佐々木健介さん&北斗晶さんの家庭は?

(理想の有名人夫婦ランキング常連 北斗晶さん・佐々木健介さん)

佐々木健介さん
「僕も若かったときは、『俺は男だ!』といばっていましたけど、今は年をとって丸くなった。いいオッサン。洗い物でもなんでも率先してやります。」

北斗晶さん
「そうですね。いいオッサンになりました。(笑)」

健介さん
「『男だから、やらなきゃいけない!』『家族のために』と思いがちな男性もいるかもしれませんが、たいへんなのは男だけでなく、女性も家事のことなどでたいへん。お互いが分かり合えないといけないですよね。」

北斗さん
「男性が思っているほど、妻のほうは『男だからやらなきゃ!』『男だからやって!』とそこまで強くは思っていないと思う。共に暮らしながら(妻は)『お互いに頑張らなきゃいけない』と思っているでしょうけど、それを口に出して言わないと、(夫にとっては)プレッシャーになってしまうのかもしれないですね。」

コロナで露呈!?“有毒な男らしさ”

(大正大学 心理社会学部 准教授 田中俊之さん)

ジェンダーの問題を男性の視点から研究する「男性学」が専門の田中俊之(たなか としゆき)さん(大正大学 心理社会学部 准教授)は、コロナの影響で生活スタイルが変わる中、“有毒な男らしさ”があらわになったと指摘します。「男は仕事」という社会の代表的な価値観が、通勤不要や収入減などで一気にぐらつく中、変化に対応できずに過去の価値観にしばられ、毒をばらまいている男性が少なくないそうです。

田中俊之さん(大正大学 心理社会学部 准教授)
「“有毒な男らしさ”からなかなか抜け出せない男性には、2つの共通する傾向があります。
1つ目は、“さびついた有能感”です。高度成長期以降は残業、休日出勤、転勤などをいとわない、全てを仕事に捧げられる人が“有能”とされていました。でも、それは妻が専業主婦だった時代のこと。
今は、出産後も働く女性が増えているし、独身で自分の家計を支えている人も、男女問わず、少なくありません。「24時間 働ける男が“男らしい”」というのは通用しないのに、今もさびついた“有能感”を持ち続けている人がいます。

2つ目の傾向は、“強すぎる支配欲”
仕事だと自分で計画を立てて、成果を出して…というように、自分でコントロールできていると有能感を得やすい。でも、家庭ではそううまくはいきません。
あす朝早いから子どもを早く寝かせようと計画を立てても、子どもはなかなか寝つかない。そうなるとコントロールできずにイライラして、家族に悪影響を及ぼしてしまうことがあるんです。」

ゴリラに学ぶ“令和の男らしさ”
ゴリラ研究の世界的な権威で、「男らしさ」についての書籍を出版している霊長類学者の山極壽一(やまぎわ じゅいち)さん。コロナ後の新しい“男らしさ”のヒントは、霊長類にあるといいます。


(霊長類学者 山極壽一さん)

まず、山極さんが「旧来の男性中心の社会に似ている」と指摘するのがチンパンジー。チンパンジーは、オスどうしの中で厳格に序列を決めています。食べ物は上の者から順に食べることで、無用な争いは起きません。しかし、ひとたびリーダーの力が衰えたと察したとたん、部下どうしが組んで下克上を起こすこともあるそうです。


(力の衰えた“リーダー”<左奥1頭>に対し 徒党を組むオスのチンパンジー<右手前2頭>)

山極さん
「チンパンジーは1頭では他のオスと戦えない。複数のオスによってたかって攻撃されると負けてしまう。複数でいれば、1頭よりも大きく見せられる。常に自分の味方をしてくれる仲間を求めながら、その関係の維持を図っているわけです。人間の男の悪いところは、徒党を組むことを覚えてしまったということ。ここはチンパンジーに似ている。」

一方、これからの“男らしさ”のヒントになると山極さんが提示するのが、ゴリラです。オスどうしで群れるチンパンジーと違って、ゴリラは家族と過ごすことが多いといいます。


(弱いものに合わせる オスのゴリラ)

ゴリラは、子どもが1歳を過ぎた頃から、父親が積極的に子育てをします。子どもと一緒に遊び、見守るのは父親の役割。さらに、ゴリラどうしでケンカが起きたとき、年少者やメスなど、力が弱い側の味方になって仲裁します。大きな体を、自分のためではなく、弱いもののために使うのです。

山極さん
「ゴリラのオスは泰然自若としていて、メスや子どもの時間にたやすく合わせることができる。待つ姿勢ですね。それを、われわれ男性は学ばなくちゃいけない。(人間の)男は“自己実現”とか“自分の主張を出して前に進む”ということが求められているが、本当はそうではなくて、世の中は、力の強いものが自分の力を落として、力の弱い者に合わせることによって、いろんな時間やいろんな空間がつくられているんです。」

健介さん&北斗さん “令和の男らしさ”とは…
健介さん
「ゴリラの家族、我が家みたいです。僕も、子どもが小さいころから子育てをやってきたので。まさか、(ゴリラ)自分じゃないかなと(笑)。」

北斗さん
「本当に。リビングで寝転んで、子どもが遊んでいるのを うれしそうに見ている健介みたい。」

どうしたら、ゴリラのような“男らしさ”に近づくことができるのか。田中さんは、家庭を“社会”のひとつと捉え、その最大の利益を見つけることが大切といいます。

田中俊之さん(大正大学 心理社会学部 准教授)
「これまでは、日本語で“社会”というと“企業社会”、そこに正社員として参入する人が“社会人”と捉えられてきた。でもコロナの影響などで、家庭や地域で過ごす人が増える中、考えなくてはならないのは、家庭や地域も“ひとつの社会”であり、それぞれルールが違うということ。会社は利潤を追求するので『もうかるか、もうからないか』の基準が大事。家庭もひとつの社会。妻、子ども、家族にとって、それぞれの視点に立った時の『最大の利益は何か』を考えられるといいと思います。」

健介さん
「自分自身は結婚した当初、料理など手伝わなかったんです。“男はこうでいいのかな”と思っていたんですけど、間違っていた。すごく(妻から)怒られて、あ、こういうものなんだというのを勉強しました。」

北斗さん
「家庭を大切にする男のほうが“強い男”という気がします。“男らしさ”は優しさ。強くなければ優しくなれないし、優しくなれなければ強くもなれない。人にきちんと謝ることができたり、その場を収められたりする人のほうが男らしいと思います。」

“有毒な男らしさ”を捨てるには まず相談
“有毒な男らしさ”を捨てるためには、自分で抱え込まずに周りに相談することが大切だと、田中さんはいいます。でも、自分から相談するのは苦手だったり、“相談してもうまくいかないのでは…”と心配したりしてしまう人もいるのではないでしょうか。田中さんからのアドバイスは、「相談の目的を 相手と共有すること」です。



田中俊之さん(大正大学 心理社会学部 准教授)
「悩みを相談するときにあらかじめ相談する相手に、何を自分が求めているかを言ってしまう。単純に悩みを聞いてほしいのか。話すことに対する評価がほしいのか。解決策を提示してほしいのか。男だからって弱音をはいちゃいけないことはありません。ぜひ周りに相談してほしいと思います。」

一方、相手が悩みを打ち明けやすいようにするために、周りはどうしたらいいのでしょうか。


(スウェーデンの首都 ストックホルム)

世界で、いち早く男女平等を推進してきたスウェーデンには、自治体などが主導して設立した、男性のための相談機関、「男性危機センター」があります。専門のカウンセラーが常駐していて、コロナ禍の今はオンラインで相談に乗っています。


(「男性危機センター」オンラインで相談にのるカウンセラー ウルフ・カルバートさん)

カウンセラーのカルバートさんは、「相談したがらない」男性に心の扉を開かせるためには、男性が引け目を感じるような言葉を避け、過去に相談した人が立ち直った具体的な事例を示すことで、孤独にさせないことだといいます。

カルバートさん
「男性たちは内心、自分が世界でただ一人、男らしくないと思いこんでいます。私は『そうではありません、男性にはよくあることです』と伝えます。すると、ほとんどの男性は、自分は変な人間ではないと安心するのです。」



一度心を開きさえすれば、解決に向けて途端に前向きになるのも、男性なのだとか。

カルバートさん
「心を開いた男性たちは、自分自身を変えたいと強く思っています。それは、非常に強いモチベーションであり、私たちも深いコアの部分に入り込みやすくなります。大切なのは、自分が周りからどんな人間に見られているのか、どんな態度を取っているのか、鏡に映すようにはっきりと示してあげることです。男性たちはショックを受けるかもしれませんが、そうすることが重要なのです。」

健介さん
「相談しやすい空気があれば、ありがたいですね。男は口下手な人が多いですし、“自分は何を言っていいんだろ”“言ったら恥ずかしいのでは…”と思ってしまうけど、(周りの)心遣いがあったら、しゃべりやすい空気になると思います。」

北斗さん
「『強く見せなくてもいいんだよ』と男性に言ってあげたい。仕事が激減したら、もし結婚していたら、相手とともに働けばいい。妻が仕事に出ていたら、家事をしてくれればいい。夫が仕事だったら、私(妻)がやればいいし。もっとお互い気軽に考えられる世の中になってほしいですね。」



あなたは“有毒な男らしさ”について、どう思いますか。“有害な男らしさ”をなくすために、何が必要だと考えますか。記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページから お寄せください。