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“インクルーシブな社会” 準備室 写真
“インクルーシブな社会” 準備室
“女の子はスカートをはくもの―”
“見た目が '外国人’ だったら英語が話せる―”

周囲が当たり前のように思い込んでいることが、本人にとっては”生きづらさ”につながっていた…私たちの身の回りにはそんなケースがいくつもあります。

さまざまな要素を持った人たちが集まるこの社会。それぞれの多様性を認め、ひとりひとりが自分らしく生きられる“インクルーシブ(排除しない)な社会” にするために必要なことは?
みなさんの声を取材し、考えていきます。


外国ルーツの人達の事情を知る
いま日本に住む“外国ルーツ”の人は約280万人、ここ数年は毎年10万ずつ増えています。
「在日外国人」とひとくくりに言っても、日本に来て暮らしている背景や事情は様々。
隣り合って暮らす外国ルーツの人たちを理解し、私たちの社会に何が必要か考えます。

・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【後編】『表現の自由』どう考える
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【前編】差別あおる言葉なくすには
・いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”
・マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
・在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント 
・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声




ジェンダーをこえて考えよう #BeyondGender
社会的につくりだされた”男らしさ” ”女らしさ”に縛られず、
“ありのままの自分”でいられる社会になるために…
さまざまな視点から考えていきます。

・Vol.7  脱コルセット “女らしさ”という束縛から脱却する女性たち
・Vol.6  ジェンダーをこえて考えよう みなさんの声①
・Vol.5 「私たちはなぜミスコンがしんどいのか」
・Vol.4 更年期対策にピル代負担まで⁉︎ 変わる企業の“健康経営”
・Vol.3 AMH検査で“卵子の残り数”がわかる!? 産みどき考えるヒントに
・Vol.2 次々登場“フェムテック” 生理用ショーツに更年期対策も
・Vol.1 “有毒な男らしさ”を考える
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2021年1月15日
Vol.7 脱コルセット “女らしさ”という束縛から脱却する女性たち
いま “脱コルセット”が若い女性たちの間に広がっています。
コルセットは体を締めつける道具のことですが、“脱コルセット” という言葉は、化粧や髪型など『女性はこうあるべき』という固定概念や、それを押しつける社会に抵抗する意味で使われています。

大学生のArataさんは、かつて1時間かけていた化粧をやめ、髪を刈り上げています。きっかけは交際していた男性からの ある“ひと言” でした。
去年”脱コル”した20歳のヒナさんの動機は、日頃から無意識な発言をする父親への反発でした。
社会でつくり出されたイメージから脱却しようとする動きが高まるなか、”コルセット” を押しつけるような広告をやめた企業もあります。

“脱コル” の背景に何があるのか、取材しました。↓↓
https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2020/12/1206.html

“脱コルセット” や “コンプレックス広告”について、あなたはどう思いますか?
記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
#BeyondGender#多様性
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2020年12月25日
“全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【前編】差別あおる言葉なくすには
『同じ国に住んでいるのに、なぜ悪く言われなきゃいけないの…』 11歳の在日コリアンの女の子がもらした、胸が締め付けられるような言葉。女の子と出会ったのは、川崎市。ことし全国で初めて、「ヘイトスピーチ」に対する罰則付き条例が施行されたものの、条例への激しい批判や、施行後の運用の現状に、当事者たちの間には不安が残っています。
ヘイトスピーチをなくす道筋はどこにあるのか。川崎市、地元の在日コリアン、研究者、規制に反対する活動家らに取材を重ねました。(10/30放送「首都圏情報ネタドリ」から)
(NHK首都圏局 ディレクター 安 世陽)

“差別をなくそう” 川崎市が踏み込んだ、全国初の条例

ことし7月、川崎市で“全国初”の条例が施行されたことをご存じでしょうか?「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」。ヘイトスピーチの規制を目的とした条例で、とりわけ注目を集めたのが罰則の内容です。公共の場所で民族差別的な言動を、市の勧告や命令に従わずに3回繰り返した場合に罰金が科され、全国の自治体のなかで初めて、刑事罰に踏み込んだ条例となりました。

「川崎市の条例は、本当に差別をなくせるのだろうか…?」私は条例の今後に期待する一方で、不安も感じていました。差別的言動がそう簡単になくなるとは思えなかったからです。

「朝鮮人は出ていけ!」に、あふれた住民の涙

ヘイトスピーチの現状を取材しようと川崎のまちを訪ねました。 まず向かったのは、条例が成立した背景の1つとなった場所。JR川崎駅からバスで10分ほどの場所に位置する桜本地区です。在日コリアンが多く暮らすこの地域に、4年前、住民たちに向けた激しいデモが行われました。

2016年に激しいデモがあった現場(桜本地区)


桜本に暮らす在日コリアン3世の崔江以子さんが、その現場を案内してくれました。当時、およそ60人の集団が大声をあげながら桜本に向かい行進しました。自分たち在日コリアンの住民に向けた攻撃的なことばの数々に、絶句するしかなかったという崔さん。デモ参加者たちの表情がいまも忘れられないと話してくれました。



崔江以子さん
「地域の人で泣いている人もいて、私も怖いのと苦しいのと悔しいので声も出なくて。でもヘイトデモの参加者は笑っていました。差別で苦しんでいる人を見て笑っていました」
「ここを通ると思い出すからできれば通りたくないですが、ここは地元の信用金庫があって、通っている病院があって、お花屋さんがあって、私たちの生活のスペースなんです。日常の生活の場所に、あのデモが襲ってきたということです」

こうした差別をあおる言葉が日本社会で公然と叫ばれるようになったのは、10年ほど前でした。在日コリアンたちに向けた激しいデモが全国各地で繰り広げられ、多いときには毎週末おこなわれていた時期もありました。 しかし当時はまだ、ヘイトスピーチを規制する法律や条例はありませんでした。


待ち望んだ、条例成立

「どうしてこんなにひどいことをされているのに、助けてくれないんだろう」
デモで心に深い傷を負った崔さんは、仲間たちと共にヘイトスピーチに対する規制を求めて署名運動などを行います。 一方、国連から法律での規制を勧告されていたなか、国会では規制法案が審議されていました。デモから2か月後の2016年3月、崔さんは参考人として、デモ被害について意見陳述も行いました。

記者会見に臨む崔さん(2019年)

その後、国は「ヘイトスピーチ解消法」を制定。罰則はないものの、差別解消のための理念を示しました。そして昨年末には、崔さんの地元・川崎市で罰則付きの条例が成立し、今ではかつてのような過激なデモは見かけなくなりました。


どんな言葉がヘイトスピーチにあたる?

では実際に、どんな言葉がヘイトスピーチにあたるとされているのか。 法務省の人権擁護局は、典型的な例として次のように示しています。

・「○○人は殺せ」など、特定の民族や国籍に属する人々に対して危害を加えるとするもの
・特定の国や地域の出身である人を、差別的な意味合いで昆虫や動物に例えるなど、著しく見下すような内容のもの
・「○○人は出て行け」「祖国へ帰れ」など、特定の民族や国籍の人々を,合理的な理由なく,一律に排除・排斥することをあおり立てるもの
【参照:法務省ホームページ】




ようやく始まった、ヘイトスピーチによる差別解消のための取り組み。 しかし川崎のまちは、新たな事態に直面していました。条例ができたことに反対する団体が現れたのです。


「条例を撤廃せよ!」 繰り広げられる街宣活動

9⽉20⽇、⽇曜⽇。多くの⼈たちが⾏きかうJR川崎駅前を私は訪ねました。条例に反対する団体による、街宣活動が⾏われると知ったからです。 街宣がおこなわれる場所には、警備にあたる大勢の警察官や、カウンターと呼ばれる抗議活動にやってきた人々が集結。異様な雰囲気が立ち込めるなか、街宣は始まりました。


川崎駅前で街宣をおこなう団体

「日本人を抑圧する条例を取っ払え!」団体は在日コリアンへの直接的な言動ではなく、条例そのものを批判。条例が日本人の「表現の自由」を制限していると主張しました。こうした駅前での街宣活動を月に一度ほどのペースでおこなっています。これに対し川崎市は、今のところ規制の対象となる言動は確認されていないとしています。


街宣演説の様子

「同じ国に住んでいるのに…」 街宣現場で出会った11歳の女の子

そんな騒然とした現場で、一人の女の子を見かけました。 なぜこんなところにいるのだろう…気になって話しかけました。

街宣を見ていたソラさん(仮名、11歳)

女の子の名前はソラさん(仮名)。川崎市で暮らす11歳の在日コリアン4世でした。 友達と遊んだ帰り道に、駅前でたまたま街宣活動に遭遇したのでした。

地元で暮らす当事者としてどんな気持ちで眺めていたのか。たずねるとソラさんは答えました。

ソラさん
「ちょっとイヤでもあるし、在日のほうから見ても胸が痛い。同じ国に住んでいるのに、なんでそんなに言われなきゃいけないのって感じ」

自分たちを守ってくれる条例に対する批判。団体からの直接的な激しい言葉がなくとも、自分たちが責められているように感じとっているようでした。


“条例は日本人の表現の自由を奪っている” 活動家が取材に応じた

なぜ条例に反対するのか。街宣に立つ70代の男性が、取材に応じました。

街宣活動に参加している男性(70代)

男性は商社で勤務していた50代の頃、仕事の関係で韓国に行くようになったことをきっかけに、日韓関係の問題を独学で勉強し始めたといいます。「取引相手と酒を飲むときに政治の話が出るかもしれない」。そんな思いで新聞の広告欄に掲載されていた本を読みました。しかし、そこで得た情報をもとに、次第に韓国への怒りを感じるようになったそうです。

領土問題や歴史認識をめぐる問題、拉致問題…。男性は反発の声をあげようと、やがてデモ活動に参加。在日コリアンなどに対し、「帰れ」といった排除するような言葉を叫び始めます。当時デモ参加者のなかには、「朝鮮人は死ね」といったプラカードを掲げたり、過激な発言をする人もいましたが、男性はそうした言葉を吐くのは仕方のないことだったと話しました。

街宣活動に参加している男性
「(在日コリアンを)言葉の暴力で傷つけているだろうなとは思いますよ。しかし在日コリアンには、日本人の怒りを受け止めて、日韓の問題を改善してもらわないと困る」 「直接暴力をふるっているわけではないんだから。あくまで言葉による感情の発露なわけでしょ。ある意味私は、言葉でならどこまで言ってもいいと思いますよ。言葉である以上はね」

その後、国の「解消法」や川崎市の条例ができたことで、以前より言葉を選ばざるを得なくなったという男性。自分たち日本人の表現の自由を奪う条例は、すぐさまなくすべきだと言います。

街宣活動に参加している男性
「『死ね』や『殺せ』といった言葉も表現の自由」 「差別的なことを言わないよう自己規制してますよ。ストレスですね。条例は日本人に不公平です」

たとえ政治的信条が理由だとしても、そうした問題とは直接関係のない在日コリアンに対して過激な発言が向けられるのは間違いではないか。わたしがそう問い直すと、男性はハッキリと答えました。

街宣活動に参加している男性
「在日コリアンの人たちが『自分たちは関係ない』と言ったって、韓国人である以上、自分の民族の問題には責任を持たなければならないということですね」

ヘイトスピーチ すぐになくなるとは言い切れない理由

条例に反対する人たちは皆、男性のような考えを持っているのでしょうか。私は、聞き取り調査を通じて街宣活動に関わる人たちの実態を研究している、社会学者の吉田穣さんに話を聞きました。
吉田さんは、街宣活動に参加する人たちの特徴として、年齢・性別・学歴・職業のなかで特定の層が多いといったわけではなく、幅広い層が参加していたと言及しました。その多くは、川崎市の条例や解消法が、自分たちの行動が制限されるきっかけになった、と認識しているといいます。

吉田穣さん
「立法や、あるいはヘイトに対する反対する運動が登場したことによって、以前のような自由な活動に制約がかかっており、例えば、直接的な過激なヘイトスピーチはできなくなっている。という実感があるということです」




しかし街宣活動の参加者たちが、差別解消という法律や条例の趣旨を理解するようになったかは、疑問が残ると指摘します。 なぜなら彼らのうちの多くは、これまでとは異なる方法を使って怒りを表現したいと考えているからです。

吉田穣さん
「言葉尻を少し変えれば、以前と同じようなことを言っても、まったく問題がないという見方をする人もいました」 「こういった活動は、誰かがトップダウンで命令して、こうしなさいというように動いている運動ではありませんので、必ずしもヘイトスピーチにあたる運動がなくなるかというと、そうではないと思います」

続く 後編の記事では、ヘイトスピーチをなくそうとすると必ず直面する、表現の自由の問題について、ネット上の書き込みを中心に、どう対応していけばよいのかを考えます。

【あわせて読む】
・”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【後編】『表現の自由』どう考える
・いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”
・マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
・在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント 
・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声
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2020年12月25日
”全国初” 川崎市ヘイトスピーチ規制【後編】『表現の自由』どう考える
全国で初めて、罰則付きのヘイトスピーチ規制の条例ができた川崎市。前回の記事では、新たに出てきた規制への反発について掘り下げました。 今回の取材を通じて、条例が抱えるもう一つの課題として見えてきたのが、ネット上の書き込みへの対応です。
(10/30放送「首都圏情報ネタドリ」から)
(NHK首都圏局 ディレクター 安 世陽)

もう1つの課題 ネット上の差別的な書き込み

ことし7月に川崎市で全面施行された、ヘイトスピーチを規制する条例。公共の場所での民族差別的な言動に対し、全国で初めて刑事罰を科すことが盛り込まれています。 条例は、ネット上の書き込みについても規定しています。罰則の対象ではないものの、既に取り組みが始まっているほかの自治体と同様、民族差別的な書き込みについて、市がプロバイダなどに削除要請を行うとしています。

実際に川崎市は条例の施行後、ツイッターやネット掲示板などに書き込まれた「早く祖国へ帰れ」など、56件の書き込みを「差別的言動」だと判断。閲覧できるものについては、削除要請を行いました。(2020年12月21日現在)




“差別的言動” 認定されたのはごくわずか

川崎市の条例制定を求めてきた崔江以子さんは、2016年に国会で意見陳述したことを契機に、ネットやSNS上で自身を攻撃する書き込みを受けるようになりました。 崔さんは条例の成立を受け、弁護士とともに自身を攻撃する書き込み300件以上を市に報告しました。


市に報告した ネットへの書き込みのリスト


しかし結論が出たのは、報告から3か月以上が経ってのこと。
しかも、ほとんどは「対象ではない」と結論づけられたのです。



師岡 康子 弁護士
「(300件以上について、そのほとんどを)認定しないというのは、ヘイトスピーチとは何かという理解のところに誤解があると思います。被害者救済という観点から、もう一度検討しなおしてほしい」




崔 江以子さん
「生活のなかに被害が及んでくるのではないかという恐怖が日々続いています。差別の根絶に向けて、あの条例の力が発揮されていくことを期待しています」


“表現の自由に配慮” 慎重な川崎市

川崎市はどのように判断を行っているのか。条例を管轄する部署の担当課長が取材に応じました。
川崎市 人権・男女共同参画室 大西 哲史 担当課長


市ではまず、担当の部署がネット上の膨大な書き込みについて調査。条例に抵触する可能性があると判断したものを、専門家からなる審査会に回しています。審査は必要に応じて複数回行われます。

前後の文脈も重視し、前後にどういった書き込みがあるのか、特定の個人を狙った書き込みなのかどうかなどを判断しています。

削除要請を行うかどうかを判断するまでの審査の流れ


担当課長の大西さんによると、憲法で保障されている「表現の自由」に配慮するため、判断に慎重を期していると言います。

川崎市 大西 哲史 担当課長
「色々と差別的なことが書いてあったとしても、表現の自由を過度に制限しないように、非常に慎重に丁寧にやっていく必要があると考えています」


しかし市で削除要請をしたとしても、全てがネット上から削除されるわけではありません。SNSや掲示板などの運営者の判断に任せられているからです。実際、川崎市が削除要請をした47件の書きこみのうち4分の1以上にあたる14件は現在も削除されずに残っています。(2020年12月25日現在)

崔さんのように、現に被害に遭っている人はどうすればいいのか。質問を重ね続けると、担当課長は「表現の自由に対して踏み込んで施策を講じるうえでは、本当に慎重でなければならない」としつつも、悩む様子を見せながらこう答えました。



川崎市 大西 哲史 担当課長
「(当事者からの)期待は大きいとは思いますよ。うーん、でもね…」 「そもそもヘイトスピーチとは何か、差別とは何か、自分の心にそういったものがないか、そういったものから見直していきませんかとか、そういう啓発の仕方。人間性に訴えるではないけど、そういったことも、やっていかなければいけないのではないかと思っています」


“規制は表現の自由の「例外」” 専門家の意見

表現の自由とヘイトスピーチ規制。この2つを両立することは出来ないのか。ヘイトスピーチ問題に詳しい、法政大学特任研究員の明戸隆浩さんに意見を伺いました。すると、返ってきたのは意外なことばでした。

法政大学 特任研究員 明戸隆浩さん(2019年撮影)


明戸 隆浩さん
「二項対立で捉えられがちですが、“ヘイトスピーチ”規制は“表現の自由”を侵すものではありません。表現の自由にも“例外”がある、ということなんです」

表現の自由の“例外”? どういうことなのか、さらに詳しく聞いてみました。

明戸 隆浩さん
「無視できない被害の現実がある場合には、表現の自由にも“例外”を設定すべきだということです。もちろん、表現の自由を軽視するわけではありません」

明戸さんは続けて、ネット上の書き込みへの対応について、自身の見解を示しました。

明戸 隆浩さん
「ネット上の書き込みは数が多く、そして一日の間にあっという間に広まってしまいます。広がる前に止めることを考える必要があります。いまドイツでは通報から48時間以内、フランスでは24時間以内に対応をしなければいけなくなっています」

現状では、ネット上の被害の広がりを止める仕組みが不足しているといいます。では、ヘイトスピーチを根絶するためには何が必要なのか。明戸さんは、川﨑市での条例反対の動きを見ても、やはり少しでも規制する動きをつくっていくことが大事だと話します。

明戸 隆浩さん
「根絶できれば理想なのですが、残念ながら先行して法律をつくっているヨーロッパをみても、法律をつくったらなくなるというわけではないです。だからむしろ、法律をつくって少しずつ抑え込んでいく。今回条例をつくった川崎市だけでは、効果は限られます。隣の相模原市ではいま、川崎市にならって条例をつくろうという動きがあるのですが、そういう流れをもっとつくっていかないといけないです」


街宣で出会った女の子は何を思うのか

これまでの取材を思い返し、私にはもう一度話を聞きたい人がいました。それは、川崎駅前の街宣現場で出会った11歳のソラさんでした。当事者たちはヘイトスピーチ規制のこれからについて何を思うのか。ソラさんとその父親に取材をお願いし、再び会うことになりました。

ソラさんと父親


ソラさんの父親は、条例だけでなく、ヘイトに繋がりかねない心の持ちようにも目を向けてほしいと訴えました。そう語るのは、娘のソラさんがある体験をしたからだといいます。

ソラさんが近所の公園にいると、同い年ほどの男の子から一緒にブランコをしようと誘われました。その後、ソラさんの兄が合流し、普段のように韓国語で兄と話していると、男の子から心無い言葉を言われました。

「(韓国人とは)遊ぶなって(親から)言われたから、遊べない」

そうした言葉を直接的に言われたのは、ソラさんにとって初めての出来事でした。



ソラさん
「そっちは朝鮮人、こっちは日本人。だから遊べないとか、話せないとか、関わっちゃいけないとか言われたりしたら、なんかイヤです」

差別的なことを無くすには、条例による規制だけでは容易ではない。そう感じざるを得ませんでした。

自分たちも同じ日本社会に暮らす一市民であり、普通に暮らしていきたいというソラさんの父親。子どもたちのためにも、在日コリアンという出自を理由とした、攻撃的な言葉が使われることのない世の中になってほしいと言います。



ソラさんの父親
「こういう差別的なことに対して、もっと国を挙げてやってほしいなという気持ちはあります」 「やはり卑屈な思いで生きてほしくないですよね、子どもたちが。そういう社会になってほしいですよね」



取材後記
どうすればヘイトスピーチによる差別はなくなるのか。私も在日コリアンとして日本で育ったなかで感じてきたこの疑問に、今回、初めて向き合うことになりました。 取材では様々な立場の方々に話を伺いましたが、たとえどんな理由であれ、人種や民族といった“出自”から、政治的問題とは直接関係のない人たちを差別的な言動で傷つけることは、許されるべきではありません。やはり一定の規制は必要だと感じました。

川崎市の条例による規制には課題が残されていますが、取材で出会ったソラさんが体験した出来事のように、規制だけでは差別的な言動は解消されません。

相手に対して、国籍や民族に基づいたレッテルを安易に貼るのではなく、同じ社会で暮らす一員としてどう向き合うべきか一人一人がいま一度考え、そのうえで、社会でヘイトスピーチがどう規制されるべきか、活発に議論をしていく必要があると感じました。
(NHK首都圏局 ディレクター 安 世陽)


【あわせて読む】
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2020年12月25日
Vol.6  ジェンダーをこえて考えよう みなさんの声①
社会的・文化的に作られた性差「ジェンダー」や、“思い込み”から生まれる偏見「ジェンダー・バイアス」について、みなさんからさまざまな声が寄せられています。日ごろから感じている疑問や”モヤモヤ”、どうすれば解決できるのか…。
あなたも一緒に、ジェンダーをこえて考えてみませんか。

ジェンダーについての “モヤモヤ”…


“男のくせに” “女々しい” とは…

「男のくせに」「女々しい」という表現があります。前者は『男』が『女』より優れている、上であるなどというのがあり、後者は『男』が下の存在である『女』のような真似(まね)をしているから言われるというのもあります。 その非対称性を無視して語られているのを見たりするといつもモヤモヤします。

夫に暴行されていた妻を助けた女子プロレスラーを「男前」と評して、後輩を殴った力士(の親方)が「女々しい」と報道されたことがあったそうです。 このように、女の人がいいことをしたときに「男前」とほめられたのに対し、男の人が悪いことをしたときに「女々しい」などと非難されたのを見たときもモヤモヤしました。 なぜ性別を持ち出すのかなと思います。

10代・女性

  



なぜ女性だけに防犯ブザー?

交通事業に関わる社員です。職場で女性社員のみ、防犯ブザーが配布されています。有事の際に必要とのことですが、このご時世、男性社員が被害に遭わないとは限りません。 防犯上必要との理由ならば、男女問わず配布すべきであり、どちらか片方に配布というのは、男性・女性双方に対する差別ではないでしょうか。

男性・愛知

  



人材の半数を活用・育成しきれていないのは損失

ジェンダーの問題は、「○○するのが当たり前」という思考停止が原因ではないでしょうか。男性は稼いで当たり前、養えない男性は結婚するに値しない、など。

男女差別は文化の問題でもありますが、経済に与える影響を考えたときに、人口が少なくなっていく日本では男性だけが働いて稼いでも生産性は上がりませんし、教育分野で男女平等に育てている日本でいよいよ社会に還元するという段階で、人材の半数を占める女性を活用・育成しきれていないのは相当な損失だと思います。女性が能力伸長をあきらめて、ケア労働にばかり回る社会では、どれだけ男性が頑張っても、男女同等に活躍する国がある限りは、その国に人材活用の分野で差がつけられるのは仕方がないことかと思います。

20代・女性・東京

  



ジェンダー問題を語れない空気がある

ジェンダー問題を語ろうとしても、できる人とできない人がいる。そうした問題を、空気を乱すもののように見ている人がいることが現状ではないだろうか。当然のようにセクハラもあるし、性的マイノリティへの理解はもっと根深いといえると思う。

20代・男性・宮城

  



日頃から「おかしい」と感じていること

選択的夫婦別姓が未だに実現していないのはおかしい。名前を知らない誰かのことを呼ぶときに、 「おばあさん」「おじいさん」 「おばさん」「おじさん」 「おねえさん」「おにいさん」 など、血縁に基づいた、性別を断定する呼び名ばかりなのが不便。 新しい言葉が欲しい。緊急避妊ピルが薬局で売られるかどうかについて、日本産婦人科医会の男性が「どんな時も薬局で買えるようにするのはおかしい」と反対を表明しているのはおかしい。

日頃から「おかしい」と感じていること、もっとこうなればいいなと思うこと、知りたいと思うことがたくさんある。     

30代・女性・愛知

  



異性愛が前提の番組にギモン

私が常々思うことは異性愛中心主義の根深さです。恋愛、結婚するのが当たり前。そして、それが異性であることが前提の番組作り、会話の進め方が多いです。ジェンダー、セクシュアリティーは多様だとはいうが、それは口で言うだけで、その考えを実際に取り込んで会話を進めている番組は少ないと思います。

ぜひ、恋愛、結婚、異性愛であることが前提という風潮に疑問を持つような番組を作ってほしいです。         

20代・女性・東京

  



男性も悩んでいます

男性も悩みや生き方で悩んでいます。 男性であっても、その性がつらい人々の多様さにも焦点を当ててほしいと思います。 ちなみに私は男でいることが嫌になり、今年から自宅では女性のファッションを身に付けています。性欲は男性の性器、女性との性交にあり、複雑です。 女性になりたい、そして女性が好きです。

50代・男性・東京

  



“女らしさ”は“男性のため”!?

人が自分を都合の良いように扱うために、“女性らしさ”を使われていたことに幼い頃から傷ついてきました。私にしか割り振られないものは、家事、お客様の接待。いずれ結婚した女性がするからというのです。結婚や出産は誰しも望んでいるわけじゃないし、女性の仕事が家事労働ということにも納得がいきませんでした。ジェンダー規範が嫌で、「女性でなくていい!女性らしさに当てはまらない私は女性じゃない!」と長きにわたり、“女性よりのXジェンダー”を自認してきました。

「女らしくしなさい」には、おとなしく従順で「男性のために役立て」と言われている気さえします。「女性らしさ」と言われているものが必要にされるときは、会社などの組織の中で、男性の目がある時です。同性といるとき、女らしさなんか気にもとめません。自分を魅力的に見せたい場合ならまだしも、そうでない時さえ、マナーとして男性を立てる必要が出てきたり、身だしなみをきちんとしたり。女性らしくしていないと社会人失格のような扱いさえ受けます。自立した人間同士なのに、いびつな形だと思います。

20代・女性・栃木

  

ジェンダー・バイアスをなくすためには?


職業や立場で縛ることをやめよう

看護師の男性です。「女性はまめでやさしいから介護看護職向きだけど、男は雑で荒っぽい」という潜在的な性別観を、患者家族はもちろん同僚の姿勢に感じ、悩まされることが結構あります。逆に“らしさの呪縛”を解くために、男が化粧したり、女が大股を広げたりすることであらがうことにも違和感を覚えます。

少なくとも、職業や立場で縛るのをまずやめないと。社会構造だけでなく、心理的精神的構造に性別固定的観念がくみこまれているので、変えられるところから変えないと。

40代・男性・鹿児島

  



「そういう人もいる」と認めていくことが大切

先日、男性のタレントさんがテレビで、お肌のケアに気をつかったり、化粧品にこだわったりしていると話しているのを聞いて、両親が「男がメイクなんて、気持ち悪い」と言いました。生きてきた“時代”の考えが無意識的に働いただけで、悪意はなかったのだと思います。

でも、「気持ち悪い」「男なのに」「女なのに」そういう言葉ひとつひとつに傷つけられ、好きなことを好きにできない方々はまだまだたくさんいるかもしれないと思うと、とてもつらくなります。 好きなことを好きなだけできない、周りの人間に認めてもらえないのは、誰にとっても苦しくてつらいものだということは、少し想像すれば分かることではないでしょうか。

例え理解できないことであったとしても、「そういう人もいるんだな」と認めていくことで、みんなが息苦しくない世の中になっていくのではないかなと私は思います。もっともっと良い時代に向かっていきますように。

20代・女性・愛知

  



性別が “星座くらいの存在感”になってほしい

「性別が生き方・人生に影響してはならない」と考えています。性別は何かしら与えられてしまうもの。せめて「星座」くらいの存在感になってほしい。蟹座の人は獅子座の人より偉い、なんて誰も思いませんよね。性別も本当はそんなモンです。性別によって相手を縛ったり、自分を縛ったりするのはおかしなこと。自由と寛容の社会にしていきましょう。人はみんな同じ「人」です。

30代・女性・神奈川

  



少数派がいることを見える化

身長150センチ台の男性です。背の低い男もいろいろ苦しんでいます。身長が低いことを笑われることは当然、既成の靴や服がほぼ無いなど日常的につらい思いをしています。何もしなければ、多数派に圧されるのは当然です。

少数派が居ることを見える化して、差別しないだけでなく、可能な範囲で少しだけ手をさしのべることの大切さを意識することが大切なのではないでしょうか?

50代・男性・愛知

  



知ることが理解につながる

日本では「~らしさ」を大事にしている風習があるので、つらい思いをされてきた人もいると思います。ですが、知ることから、理解につながると思っています。勇気のいることだと思いますが、これから理解者は増えるはずです。 

60代・女性・埼玉

  



賛成・反対 いろいろな意見を聞く

男性だからカッコよくあってほしい。女性だからかわいくあってほしい。と思うのは普通だと思う。でも、それを他人に押しつけるのは違う。「トランスジェンダーだから変」とか「性同一性障害だから変」とか、そんなわけないのに。障害があってもなくても、それぞれ1人の人であることを忘れてはいけない。

自分は人それぞれで百人百色ってことでいいと思う。でも、みんなそう思っているわけじゃないからSNSや学校、職場で嫌な思いをする人が出てしまう。だから、もしよかったら一方的にこれは良いことだと報道しないで、いろんな意見を聞かせてほしい。「そう思わない」っていう人の意見も聞いて、自分なりの考えをまとめたい。特に田舎は意見の交流会みたいなことがないから、テレビを通して沢山の違う意見の人の話を聞いてみたい。

10代・女性・岩手

  


こらからも、みなさまから寄せられた「声」をさまざまなカタチで紹介させていただきます。




<あわせてお読みいただきたい記事>

<ジェンダーについて考える その他の関連記事・放送予定はこちら>



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2020年12月18日
Vol.5 「私たちはなぜミスコンがしんどいのか」
“女子アナウンサーへの登竜門”とも言われてきた「ミスコンテスト」。かつては企業がスポンサーとなって運営資金を援助するなど、大学祭の一大イベントでしたが、いま、そのありかたを見直す動きが生まれています。取材を通して見えてきたのは、自分の意志に関係なく比較や評価をされ続けることに対して、若者たちに広がる “しんどい” という思いでした。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201118/k10012718071000.html

従来のミスコンを変えようと奮闘する学生たちの取り組みについて、以下の番組で伝えます。
<放送予定>
12月22日(火)【総合】午後4:50
シブ5時「“ミスコン”が変わる? 学生たちの挑戦」

あなたは大学の「ミス・ミスターコンテスト」について、どう思いますか。あなたの身近にも “ミスコン”はありませんか。 記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。
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2020年12月18日
Vol.4 更年期対策にピル代負担まで⁉︎ 変わる企業の“健康経営”
働く女性の健康を守る制度 必要なのは生理休暇だけじゃないんです


生理・不妊・更年期など女性特有の体の悩み。
これまで周りに言えずに、一人抱え込んでいたという女性も少なくないと思います。

「会議中に急に体がほてって、汗が止まらなくなった」
「生理前には気分が落ち込み、ちょっとした仕事のミスでも自分を責めてしまう」
「不妊治療中、『明日病院に来て下さい』と言われても、急に仕事は休めない」


働く女性が増えるいま、企業にとっても「女性の健康」は健康経営を進める上で大きな課題となっています。更年期症状への対策や、低用量ピルの費用負担まで!? “健康経営”の最前線を取材しました。

(首都圏局ディレクター 柳田理央子)

“生理休暇”という名前を廃止
IT企業のサイバーエージェントは、“生理休暇”という名前を無くしました。女性社員が取得する全ての休暇を「エフ休」(エフ=FemaleのF)という名前に統一。さらに、生理だけでなく、つわり、婦人科疾患、更年期症状など女性特有の体調不良の際に使えるように、有休の特別休暇を月に1日追加しました。もちろん、これも「エフ休」という名前なので、どんな理由で休むのかは、上司や同僚にはわかりません。休む理由の言いづらさをなくすことで、取得しやすいように配慮しています。


(エフ休の取得画面 他の人には取得理由はわかりません)

会社負担で婦人科受診 さらにピルの処方まで
生理日を管理するアプリなどを運営しているエムティーアイでは、今年2月から、女性社員の婦人科受診を支援する福利厚生制度を始めました。提携する婦人科を受診する費用、そして低用量ピルの費用も、会社が負担するというものです。


(社員の吉崎美帆さん)

「生理痛はあるけど、我慢できないほどではないし・・・」と病院に行くのをためらう女性も少なくないと思います。この制度を利用している社員の吉崎美帆さんもその一人。生理痛やPMS(月経前症候群)の症状を感じていたものの、市販の薬を飲んでやり過ごしていたそうです。しかし、制度についての社内説明会で、婦人科医から、女性の体の仕組みや生理前後に起こる変化などについて聞いたことで、気持ちが変わったと言います。

吉崎さん
「これまで生理前後の症状で困ってはいたものの、我慢できないほどではなく、改善するための行動が取れていませんでしたが、まずは支援制度を通じて婦人科を受診してみようと前向きに考えるきっかけとなりました」

医師の診察を受け、処方されたのは低容量ピル。低容量ピルとは、エストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンが配合された錠剤で、排卵を抑えるため、生理が軽くなったり、ほとんどなくなったりします。


(低容量ピル)

吉崎さんは、オンラインで継続的に診療を受け、薬を処方してもらっています。わざわざ会社を休んだり、早退したりしなくても、勤務時間内にオンライン診療を受けることができるため、とても手軽。前日の夜に予約して、次の日の仕事の合間に受けることもあるそう。ピルは郵送で自宅に届きます。


(オンライン診療の画面)

この制度を利用して、ピルの服薬を開始した女性社員にアンケートをとったところ、飲む前は「横になって休息したくなるほど仕事への支障をきたす」と答えていた人が53.8%いましたが、飲むようになって15.4%まで減ったそうです。

会社としては全ての女性社員にピルの服用を推奨している訳ではないと言います。あくまでも一番の目的は、「かかりつけの婦人科をもってほしい」ということ。生理痛やPMSなどの症状を気軽に相談できる環境をつくり、低用量ピルについても正しく理解してもらった上で、必要であれば服用することで、つらい症状の改善を目指しているということです。女性自身、毎月のことで我慢するのが当たり前になっていた生理について、会社が「ちょっと考えてみてはどうですか?」と、機会を与えてくれているんですね。

吉崎さん
「福利厚生制度になったことをきっかけに、将来を見据えて自身の健康と体の状態に向き合うことができました。今後も低用量ピルの服薬を継続し、定期的に婦人科受診することで、自身の体調に目を配っていきたいと思います。」


女性が元気に働けないことは企業にとってもマイナス
婦人科疾患を抱える女性が仕事を休んだり、仕事の効率が下がったりすることによって失われる生産性損失は、年間5兆円近くになるという調査があります。(働く女性の健康増進調査 2016年)

企業に対して、健康経営の取り組みで関心が高いものを聞いた調査では、「40~50代男性のメタボ、健康意識対策」を抜いて、「女性特有の健康問題対策」が最も上位に。(健康経営に関する実務者連絡会 参加者アンケート)

経済産業省などが選定する「健康経営銘柄」の要件にも「女性の健康保持・増進に向けた取り込み」が追加されるなど、企業にとって、女性の健康への取り組みは待ったなしとなっています。

逆に言うと、女性の体に理解のない企業は、生き残れない社会になってきているのかも・・・?

“健康経営”で育休・産休からの復職率100%
「健康経営」という言葉が一般的になるずっと以前から、社員が健康に働ける環境づくりに力を入れてきた企業があります。ロート製薬では、2002年から全社員を対象にした体力測定を開始、2004年には社員の健康増進を専任に行う部署を作るなど、取り組みを進めてきました。


(全社員が参加する毎年恒例の体力測定)

2014年には「チーフヘルスオフィサー・最高健康責任者」を設置。今年6月からチーフヘルスオフィサーを務める力石正子さんに、なぜそこまで健康経営に力を入れているのか伺うと、思わぬお答えが。


(チーフヘルスオフィサーの力石正子さん)

力石正子さん
「健康経営に力を入れ始めたという意識はなくて、入社したときから毎朝、ラジオ体操が当たり前で、職場対抗のスポーツ大会でめちゃくちゃ熱くなって応援し合うというのを、すごく楽しんでやってきていました。最近、健康経営という言葉が流行っていますが、私たちの会社では、特に健康経営に力を入れようとやっていたというよりは、本当に会社の風土です。」

現在、この会社の社員は6割が女性。育休からの復職率はなんと100%だそう!女性社員の健康を意識した制度づくりを続けてきました。例えば、健康診断。多くの企業で行っているのは、メタボ健診など男性の生活習慣病予防のための検査で、婦人科疾患を予防するための検査は、ほとんどないのが現状です。この会社では、乳がん検診・子宮がん検診を無料にしています。


(乳がん検診も無料で)

さらに、通常の血液検査ではわからない“隠れ貧血”を調べるための検査を取り入れました。内臓に貯蔵されている鉄の量を量る、フェリチン検査というもの。疲れやすさなどにもつながる“隠れ貧血”は女性に多く、この数値が低く、明らかな鉄欠乏の状態にある女性は20~40代の4割以上にのぼるとされています。


(「隠れ貧血」を調べるフェリチン検査)

“働き盛り” 40代以降の女性をサポートするために
今、女性社員の平均年齢はちょうど40歳。責任のある仕事を任されたり、管理職になったりする世代です。でも、この時期に重なるのが更年期。女性ホルモン(エストロゲン)が一気に減少し、様々な更年期症状が出てきます。一方、男性のホルモン分泌は現役世代の内はほぼ一定で、減少も女性に比べるとなだらかです。


(女性ホルモンは40代後半から激減)

会社では、社内のイントラサイトで、更年期症状に備えるための検査を提供しています。エストロゲンと似た働きをするエクオールという物質を作れる体質かどうか、尿検査で調べるキットです。エクオールを作れる人は日本人の2人に1人とされています。


(エクオールが作れる体質か検査するキット)


(社員の八巻佳奈さん)

この検査を受けたという八巻佳奈さん。現在40歳で、今年、営業企画推進部の管理職となりました。更年期にどんな症状が出るのか、どう備えたらいいのかわからず、不安を抱いていました。


(八巻さんのエクオール検査の結果)

検査の結果、八巻さんはエクオールを作れる体質だとわかりました。会社では、エクオールを作れない体質の人に向けて、サプリメントを紹介。さらに、専門の医師を招いて、更年期についてのセミナーも開いています。八巻さんも、このセミナーを受講。人によって症状が異なること、そのメカニズム、症状に応じてホルモン補充療法など様々な治療があると知ることができたと言います。


(八巻佳奈さん)

八巻さん
「正しく知って、備えるっていうことがとても大事だなと感じました。私もそうですが、女性は、仕事のことも考えなくてはいけないし、家族のことも考えないといけないし、ついつい自分の健康を後回しにしてしまう。会社が、検査やセミナーなどの機会を作ってくれたということもあるので、会社も元気にいきいき働くことを応援してくれていると感じることができたのが、すごく心強かったです。」


「女性活躍」に本当に必要なものとは?
「女性活躍推進」という言葉が声高に叫ばれるようになって久しいですが、私は1人の女性としてこの言葉にどうしてもモヤモヤしてしまいます。自分の体を犠牲にして、「男性並」に働くことが、本当に女性の活躍なのでしょうか?そんなモヤモヤを抱える私に、力石さんがこんな言葉をかけてくれました。

力石さん
「女性の力って素晴らしいものがあって、別に男性に劣っているところなんて全くありません。ただ、体のメンテナンスは、男性とは違うところがあるので、それさえしっかりメンテナンスできれば、もっともっと輝く女性が増えると思います。女性ばかりを特別に保護するつもりはないけれど、違う性があることを認め合って、それぞれに合ったケアが必要だということを、オープンにしていくことは大切だと思います。」



どうにもできない体の不調があるときには、無理せず休んだり仕事をセーブできたり、それが当たり前の社会になればいいですよね。でも、ただ「休みたい」だけではないのです。少なくとも私は、どうしてもやり遂げたいプロジェクトがあったり、がむしゃらに頑張りたい時期があったりします。女性の健康を守るための制度があったり、男性社員も含めて学ぶ機会があったり、会社が体のことを一緒に考えて、背中を押してくれていると思えたら、自分の力を最大限発揮して、いきいきと働くことができると思います。そんな企業が少しでも増えればいいなと、1人の働く女性として、強く思った取材でした。

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フェムテックについてもっと知りたい方は、こちらの記事も↓
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2020年12月11日
Vol.3 AMH検査で“卵子の残り数”がわかる!? 産みどき考えるヒントに
わずかな血をとって送るだけで自分の卵子の残り数がわかる。そんなフェムテックがいま注目を集めています。年齢とともに減っていく卵子が、卵巣内にどれぐらい残っているかを示すAMHというホルモンの値を調べる検査キットで妊娠のタイムリミットを知る手がかりの一つになるというのです。 これまで病院でしかできなかった検査が、約2万円で自宅でできるというこのキット。働く女性の人生設計にどう役立てられるのか、利用の際の注意点もあわせて、取材しました。

(ディレクター 浅岡理紗 宣英理)

“妊娠のタイムリミットの目安がわかる”
働く女性を悩ませる“産みどき”。11月に放送したクローズアップ現代プラス『女性の体の新常識 フェムテックで社会が変わる』のディレクターは全員30代女性ということもあって、取材中も話題に上りました。「長期のプロジェクトに関わることもあるし、出産のタイミングがわからない」「子どもが欲しいと思ったとき自分は産めるのか不安だけど、病院に行く時間もない」・・・
こうした悩みに応えようと、去年7月に発売されたのが、このAMH検査キットです。



男性の精子が毎日新しく作られるのと対照的に、女性の卵子は胎児の頃に一生分が作られます。出生時には約200万個の卵子(原始卵胞)を持っていますが、月経時に排出されたり、自然に消えたりして減っていき、30代で残っているのは2~3万個です。私も初めて知ったとき、ちょっと“ガツン”と来ました・・・

卵子の数を知る手がかりになるのがAMHというホルモンの値です。この値が高ければ多くの卵子が残っている、低ければ数が少なくなっていることを示すため「妊娠可能な期間」の目安になります。


(提供 浅田レディースクリニック)

AMHの値は一般的に年齢とともに下がっていき、2以下では不妊治療が効果的に行えなくなる可能性があるといいます。しかし個人差が大きいため、自分の値は検査しなければわかりません。AMH検査はこれまでも病院では受けられましたが、産婦人科の受診はハードルが高いという人も多いため、自宅で受けられる検査キットが作られました。

どうする? 仕事と産みどき
検査キットを利用することにした夫婦を取材しました。ことし入籍した渡部英里菜さん(32)と夫の光樹さん(40)。光樹さんは早く子どもが欲しいと思っていますが、英里菜さんは正社員として転職したばかり。まだ慣れない中、出産で職場を離れることに不安を感じています。一方、同世代の友人たちが不妊治療を始めたこともあり、妊娠のタイムリミットが気になっているといいます。



英里菜さん
「漠然とあと2~3年たったら子どもを、と思っているんですが、そのときに不妊だとわかったら手遅れにならないか、怖いですね。家でできるなら、ちょっと調べてみようと思いました。」
光樹さん
「女性は卵子の数が年齢とともに減っていくなんて、全然知らなかったです。男女ともに30代前半は仕事のやりがいが出てくる時期なのに、反比例するように体の問題が出てくるなんて、女性は本当に大変・・・、せめて応援したいと思いました。」



指先に針を刺し、にじみ出た血液を容器に入れて送ると、10日前後で結果をスマートフォンで確認できます。

32歳の英里菜さんのAMHの値は・・・

英里菜さん
「あー、やばい! 実年齢より高い・・・」

妊娠や不妊治療を急がねばならない値ではなかったものの、渡部さん夫婦は結果に少し戸惑っているように見えました。ふたりは、1年後には妊活を始めようかと話し合ったそうです。

英里菜さん
「やってよかったです。仕事ばかり優先するのではなく、そろそろシフトチェンジも考えなければいけないのかな。判断基準として、知ることができるのは、助けになります。」
光樹さん
「自宅で検査に立ち会い、結果を共有できたことで、男性も一緒に考えるべきことだと感じました。漠然としていたものがハッキリしたことで、ライフプランを真剣に考えるきっかけになりました。次は病院で自分の精子の状態も調べてみたいです。」


不妊治療による離職を防ぎたい


検査キットを提供しているのは、不妊治療に関する情報共有を行うウェブサイトの運営会社です。開発のきっかけは、利用者に「もっと早く治療を始めればよかった」という声が多かったことでした。

F treatment代表 服部恵子さん
「不妊治療との両立の難しさから仕事を辞めたり、子どもを諦めたりした人を数多く見てきて、社会にとっても大きな損失だと思いました。少しでも早く自分の体の状態を知る人が増えれば、離職も減らせるのではないかと、産婦人科の先生と意気投合したんです。生き方は人それぞれですが、自分の体を知った上で人生の選択をしていただけたらと思います。」



11月に発表された調査では、不妊治療をしている女性の83%が「仕事との両立が困難」だと答えています。 産婦人科医の浅田義正さんも、同じ問題意識から検査キットの商品化に協力したと言います。



浅田レディースクリニック 浅田義正医師
「不妊治療を始める年齢が年々上がり、40代が主流になっていますが、病院で初めてAMHを測って、結果にがく然とする人が少なくありません。卵子が少なくなってから不妊治療を始めると、期間や費用がよりかかります。自宅で手軽にできれば、検査のハードルが下がると期待しています。」

検査キットの開発で最も難しかったのが精度です。医療機関での採血と違い、自宅で個人が採取できる量には限りがあり、わずか0.1mlからAMHの値を正しく測定する技術を確立するのに苦労したと言います。値段は2万円弱と高価ですがこれまでに約1200人が利用しました。

AMH検査には注意点も
ただ浅田医師によると、検査結果を受け止める上で注意点もあると言います。

  • AMHの値は、あくまでも卵子の“残り数”の目安であり、“質や老化”を反映するものではありません。AMHの値が低い人でも、年齢が若ければ卵子の質が良く、妊娠できることもあるため、数値だけに振り回されて絶望する必要はありません。


  • AMHの値が高いからと安心するのも危険です。不妊には卵子の残り数以外にさまざまな要因があり、別の不妊の要因を見落としてしまうリスクもあります。
    ※値が年齢の水準より大幅に高いと「多膿疱性卵巣症候群」、大幅に低いと「早発閉経」などの病気の可能性も。

妊娠を考える人は、この検査をきっかけに早めに産婦人科医を受診してほしいと、浅田医師は強調していました。

身近になるAMH検査 人生を変えることも
こうした検査キットは、海外でも次々と登場しています。カリフォルニアのスタートアップ、Modern Fertilityは、AMHなど9種類のホルモンを調べることで、卵子の残り数や閉経の予想時期、卵子凍結や体外受精の適性などがわかるという検査キットを発売。検査結果をどう読み解くのか、産婦人科医などがアドバイスしてくれる仕組みや、利用者同士で情報交換ができるコミュニティも提供しています。キットはスーパーの店頭でも販売され、身近なものになってきています。

アメリカのフェムテック事情に詳しい
デロイトトーマツベンチャーサポート・セントジョン美樹さん

「アメリカでは今、ジェンダー平等が政治的にも経済的にも重要なテーマとなっています。女性が人生を豊かにしていくために、まずは自分の体を知り、いろいろな選択肢をデザインする。フェムテックは、そうした個人の人生設計とエンパワーメントのみならず、それを支える寛容な社会への変革に大きな役割を果たすと期待されています。」

この番組の40代女性プロデューサーも、かつて取材の一環でAMH検査を受けたことがあるそうです。当時30代半ばでしたが、40代半ばの水準という極めて低い値が出て、ショックを受けたと言います。それまで「あと1本番組を出せたら・・・」と出産を先延ばしにしてきましたが、この結果を受けて異動希望を出し、一時期、妊活を優先しながら働くことを決めました。
その後 授かったお子さんは今は8歳になり、「あのとき検査を受けていなければ、娘はいなかったかもしれない・・・」と、AMH検査が人生の分岐点になったと感じているそうです。



 これまで見えなかった“体の中の状態”を知る手がかりとなるフェムテック。「いつかは産みたい、でもいつ?」、そんな悩みを抱える女性が後悔のない選択をする上で、手助けになるかもしれないと思いました。

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2020年12月11日
いまさら母国には帰れない 日系人写真家が伝える“デカセギ”
「コンビニでアルバイトをする留学生」「農家や工場で働く技能実習生」・・・
いまの日本に欠かせない外国人労働者たち。その先駆けともいえるのが日本にルーツを持つ外国人たちです。1990年に入管法が改正され、多くの日系ブラジル人や日系ペルー人などが来日し、貴重な労働力として製造業などを支えてきました。それから30年の節目となった今年、私は日系ブラジル人が多く暮らす東海地方を中心に取材を続けてきました。
クローズアップ現代プラス「60代の孤独死 団地の片隅で ~外国人労働者の末路~」
取材中で出会ったのが”デカセギ”の歴史を写真で表現しているジュニオールさんです。ジュニオールさんの写真から、外国人労働者の30年の歩みを見つめました。
(NHK名古屋放送局 ディレクター 植村 優香)

日系ブラジル人の30年を知ってほしい デカセギの歴史切り取る写真家
写真家・前田ジュニオールさん


静岡県浜松市に住む、日系ブラジル人のマエダ・ジュニオールさん。初めて会った日、一冊の写真集を見せてくれました。タイトルは「デカセギブラジル」。被写体は、90年代に出稼ぎのために来日した「デカセギ・ブラジル人」たちの生活。それも、当時撮影したものものではなく、ジュニオールさんが日系ブラジル人たちの協力を得て、90年代のデカセギの日常の様々な風景を再現して撮ったものです。


撮影:マエダ ジュニオール




撮影:マエダ ジュニオール


ジュニオールさんがあえて「再現」という手法を使っているのは、デカセギに来た人たちが経験してきた困難や複雑な心境を、日本人や新たに日本にやってきた外国人に伝えるためです。当時の空気を想像してもらうためにモノクロカラーで表現しています。


日本食弁当、和式トイレ・・・なかなか慣れない日本の生活。 目覚めて目に入る蛍光灯の形で日本に来たことを思い出す。
撮影:マエダ ジュニオール



母国の家族への手紙は送料を下げるために薄い紙。 国際電話ボックスにはブラジル人の行列が。前の人の会話は後ろの人に筒抜け。
撮影:マエダ ジュニオール


14歳でデカセギになったジュニオールさん

ジュニオールさんが来日したのは1990年。14歳の時でした。この年、出入国管理法が改正され、日系のルーツのある外国人が日本に住み、働くことができる在留資格が与えられることになりました。

ジュニオールさんは、祖父母が高知県からブラジルに移住した日本人で、日系3世にあたります。祖父母は十代の頃、貧しさから抜け出し豊かさを求めたいと、国も奨励していたブラジル移住に踏み切りました。実際に待っていたのは、厳しい農業での労働。安定した収入を得られるようになるまでに時間がかかりました。しかし、ブラジルで子どもたちも育ち、亡くなるまで日本に戻ることはしませんでした。

ブラジルで生まれ育ったジュニオールさんの父は、家電屋で働いていました。ブラジルは80年代以降激しいインフレで、給料は安いのに家賃や光熱費など支払いは高く、生活は苦しかったといいます。貧しい暮らしを続ける家族にとって、ジュニオールさんが日本でデカセギをすることは一筋の希望の光だったといいます。

ジュニオールさん
「ブラジルのすごく貧乏なところで過ごしました。ファベーラ(貧困街)に住んでいたんです。8歳から働いていました。デパートの従業員にレストランから弁当を運ぶ仕事です。弁当を渡して、食べ終わるまで待つ。そして、また空の弁当箱を集めてレストランに運んでいました。日本に行けば、普通の生活ができるかなと思っていました」

自動車部品工場で働くジュニオールさん


ジュニオールさんは来日してすぐ、千葉県の自動車部品工場で働き始めました。日本語も分からない中、ひたすら必死に働きましたが、ときに、日本人の上司から「バカ、アホ」「クビ、使えない」と暴言を吐かれることもありました。日本語の意味が分からなかったため、メモをして後で調べて意味を知り、傷ついたことも。

いろいろな仕事を転々とする中、最もきつかった仕事は、魚の解体工場でした。朝6時から、遅い日には夜11時まで。鰹やマグロをひたすらさばき続けました。・・・それでも、ジュニオールさんはブラジルと違って十分な給料をもらえる仕事がある幸せを噛みしめていたといいます。

“デカセギ”のままではいられない病!? 

ジュニオールさんが面白い言葉を教えてくれました。「デカセギ病」という言葉です。デカセギのつもりで日本にやってきても、だんだん帰ることができなくなる現象をブラジル人たちの間ではそう呼んでいるそうです。ジュニオールさんも最初は少しお金を貯めたらブラジルに帰って、欲しかったバイクを買おうと思っていたといいます。しかし、仕事は過酷でも欲しい物を買うことができる日本の生活は、だんだん手放しがたくなっていきました。

ジュニオールさん
「ブラジルは大好きだったけど、うまくいくチャンスが少ない。日本は頑張ればなんでもできます。20万円もらえれば何でも買える。車を分割で買ってもいいし、いい服を買ってもいいし、レストランで毎日ご飯を食べることもできる。日本に長く住んだ人はブラジルに戻ったら生活になじめない。それを”デカセギ病”っていいます」

ジュニオールさん自身は現在独身ですが、日本の生活の中で恋愛をし、結婚をし、子どもが生まれるブラジル人たちも増えていきました。苦労が多い労働の日々、家族の存在が大きな精神的な支えとなったのです。多くのブラジル人はある程度お金を貯めることができたら、ブラジルに帰ろうと計画していました。しかし、日本で生まれ育つ子どもたちは、日本の保育園や学校に通ううちに日本語もペラペラに。友達も日本で作り、勉強も日本で始めた子どもたちは、むしろ母国を知らず、親が帰国を決意しても、子どもたちに拒まれるという場合も少なくありません。

私たちがブラジル人100人に行ったアンケート調査では、「20年以上日本に住んでいる」と答えた60人のうち大多数の53人が、「当初は5年以内に帰国予定だった」と答えています。

100人へのアンケートより



コロナ禍だからこそ思い出して 12年前の痛み

ブラジル人の多くは短い契約の非正規雇用で働いています。早くに帰国する予定だったため年金保険料も払っておらず、老後の保障がまったくない人も少なくありません。いま、新型コロナウイルスの影響で多くの人たちが職を失っています。もちろん、日本人も状況は同じですが、外国人は特に真っ先に解雇や雇い止めの対象となるケースが後を絶ちません。



多くの外国人労働者が突然仕事を失う事態は、10年以上前にも起きていました。リーマンショックの影響でいわゆる“派遣切り”が横行。職を失うと同時に、派遣会社の寮で暮らしていた多くのブラジル人達は、住む場所も失い、突然帰国を余儀なくされました。下のグラフは日本に住むブラジル人の数です。経済の浮き沈みと共に雇用の調整弁となっているようすが読み取れます。

法務省 在留外国人統計より作成(2020年の数値は集計中)


ジュニオールさんは、リーマンショックの頃のことを写真で表現したいと、当時の悲惨な状況を目の当たりにしていた人に話を聞きました。浜松市のキリスト教の教会の神父としてさまざまなボランティア活動を行っていたブラジル人の神父、比嘉エバリストさんです。
エバリストさんの話を書き留めるジュニオールさん


エバリストさん
「当時は、多くのブラジル人が仕事を失って、助けを求めて教会に集まっていました。さらに、ブラジル人学校に通っていた子どもたちが、親が月謝を払えなくなり学校に通えなくなり、教会に集まってきていました。私たちは炊き出しをしたり、臨時の教室をつくって支援をしました。また、橋の下でホームレス生活をするブラジル人たちがいました。私たちはそこへ見回りに行き、食べ物や着るもの、銭湯の券などを配りに行っていました」


ジュニオールさんは、エバリストさんから聞いた写真を一枚の写真で表現しました。 橋の下で寄り添う家族。右下に写した女性の姿は、家族を助けに来た支援者ともとれるし、家族の前を通り過ぎる無関心な人にも見えます。家族に手を差し伸べる人はいたのか?日本社会のまなざしを問いかけました。

家族に手を差し伸べる人はいたのか? 撮影:マエダ ジュニオール



日本で暮らし続けたい デカセギ30年の重み

私が日系ブラジル人たちを取材していて、一番よく聞く言葉があります。
「私たちはブラジルにいるときは日本人だと言われていた。でも日本にやってきても“ガイジン”と言われます」

ルーツは日本にあるけれど、ブラジルで生まれ育ち、そして日本にやってきたジュニオールさん。自分はいったい“ナニジン”なのか?そんな葛藤をジュニオールさんも抱えてきました。それでも今は、自分の生きる国は日本だと感じています。

ジュニオールさん
「もう30年近く日本にいます。もし今ブラジルに戻ったら、僕はまた外国人です。何も分からない。人間関係も仕事も最初から始めなきゃいけない。日本でずっと暮らし続けたいです」


祖父母とジュニオールさん


ジュニオールさんの祖父母は、ブラジルで長年農業に従事したあと、晩年は日本式の写真屋を営んでいました。その影響もあって、小さな時からカメラが好きだったジュニオールさん。最初の工場に勤めていた10代の頃、稼いだお金でカメラを購入しました。友達もおらず、工場のまわりで花や木を一人で撮影していたといいます。

そのとき、ジュニオールさんに話しかけてきた工場の日本人の先輩がいました。写真の撮影を趣味にしていたその先輩は日本語もうまく話せないジュニオールさんにカメラの使い方を身振り手振りで教えてくれたといいます。それから二人は、色々な場所へ一緒に撮影に行きました。ジュニオールさんは、彼に言われた言葉を今も覚えています。

「言葉とか関係ない、やる気があればどこまでもいける。ジュニオールが一生懸命頑張れば、きっと信じられないところまでいけるぞ」

ジュニオールさんを写真家の道に導いた”先輩”


ジュニオールさんはその言葉を胸に、工場で働くかたわら、時には睡眠時間を削って写真の勉強を続けてきました。「ブラジルでバイクを買いたい」だったジュニオールさんの夢はいつしか「日本でカメラマンになりたい」という夢に変わっていたのです。

写真館で撮影中のジュニオールさん


そして去年、ついにジュニオールさんの夢は叶い、日本の写真館で正社員として採用されました。ジュニオールさんはいま、写真館でフルタイムで働きながら、日系ブラジル人の写真も撮り続けています。写真館で働くジュニオールさんに会いに行くと、目は輝きにあふれ、その陽気な人柄で自然と引き出すお客さんたちの笑顔がとても印象的でした。

少子高齢化が止まらない日本は、今後も外国人労働者の存在がなければ経済が立ちゆかないのが現実です。しかし今回ジュニオールさんたちを取材する中で改めて思ったのは、ふだん私たちが彼らの「労働者」としての側面しか見ておらず、ひとりひとりの「人生」に目を向けてこなかったのではないか、ということです。
外国人と日本でともに暮らすこと、それは私たちが彼らの「人生」を受け入れることにほかならないのだと、強く感じました。
(NHK名古屋放送局 ディレクター 植村 優香)


日系ブラジル人コミュニティの取材から生まれた番組が12月29日(火)に放送されます。是非ご覧下さい。
番組名:BS1スペシャル 「ワタシたちはガイジンじゃない!」
概要:夢を抱いて日本にやってきたブラジル人たちが、30年間日本で見た光景はどのようなものだったのか。イッセー尾形さんが、取材元になった日系ブラジル人が多く住む団地の一角で前代未聞の“公開一人芝居”。脚本は、宮藤官九郎さん。日系ブラジル人から見た“日本人あるある”や、彼らを「ガイジン」「労働力」として見てきた日本社会の側面を、笑いあり、涙ありに描く。「ガイジン」と呼ばれてきた人たちが歩んできたニッポンでの30年間とは?
放送予定:12月29日(火) 【前編】午後9:00~9:50 【後編】午後10 :00~10:49


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・マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
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・在留資格のない子どもたち 連載2 背景は【インフォグラフィックス解説】

・在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声

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2020年12月2日
マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の"芽"
足が速いんでしょ」「英語ペラペラなんですよね」「元々黒いから日焼けしなくて、いいね」――日本に住むアフリカをルーツにもつ人たちがたびたび言われるという言葉です。
ふだんの会話の中で、何の気なしに発せられるものですが、中には言われた側が傷つき、さらにいじめや差別などにもつながることもあることもわかってきました。こうした行為は「マイクロアグレッション(小さな攻撃性)」とも言われ、海外では長らく問題視されています。
「マイクロアグレッション」がなぜ、どんな場面で生まれるのか。傷つく人を減らすためにどうしたよいのか考えます。
(取材:「おはよう日本」ディレクター 加藤 麗)

渋谷で開かれた#BLMデモに3500人が参加

わたしは大学時代、アフリカのルワンダ共和国に10か月間留学した経験があり、アフリカや黒人差別の問題に関心を持ってきました。人種差別に対する抗議の波が世界中に広がり続けていた6月、東京・渋谷で行われた#BLM(ブラックライブズマター)のデモの現場を取材しました。この日、渋谷のデモに集まったのは3500人。私は参加者たちが掲げるボードの一つに目が止まりました。「BLMは対岸の火事じゃない」ー


2020年6月に渋谷で行われた#BLM デモ



「“黒人”としてではなく、人として接してほしい」

日本も「対岸の火事じゃない」とはどういうことなのか? 私は日本に住むアフリカにルーツを持つ若者たちの”居場所”として活動する「アフリカン・ユース・ミートアップ」に取材を申し込みました。代表の三浦アークさん(17・高校生)は、東アフリカのウガンダ共和国と日本のルーツを持ち、日本で生まれ育ちました。


はじけるような笑顔が印象的な三浦アークさん 実体験を動画にし自作曲とともにSNSに投稿している


三浦さんは中学校でバスケットボール部に入部すると、すぐに周囲から「スポーツがうまそう」と声をかけられ、チームの戦力として期待が寄せられました。しかし「期待に応えたい」という気持ちとはうらはらになかなか上達せず、逆にからかわれるようになります。それはやがていじめへとつながっていきました。

日焼けをした同級生が肌を並べてきて「三浦と色が近づいた」と嫌そうに言うなど、外見の違いをネタにしていじめられることも重なり自尊心を失っていきました。そのうち学校が怖くなり、不登校になりました。

三浦アークさん
「“黒人“としてみんなが期待するように運動ができるわけでもない。日本では、髪がサラサラで肌が白くて小柄な女の子がかわいい、と言われるけど自分は正反対。残念な存在だなと思っていました


「目立ちたくない」という思いから、三浦さんはカメレオンのように、その場の状況に適応することを心がけてきたといいます。高校に入るといじめはなくなりましたが、制服で立っているだけで職務質問を受けたり、行く先々で出身国を聞かれるなど、見た目だけをもとに判断されていると感じることは続き、自分は何者なのか?という問いに苦しめられました。

三浦アークさん
「17年間日本で育っているので見た目以外は日本人なんです。それなのにどこに行っても外人というレッテルで見られているように感じます。一人の人として接してもらいたいそれが一番の願いです」


三浦さんが仲間と立ち上げた”アフリカン・ユース・ミートアップ”の集まり


一人悩んだ経験生かして 高校1年で”若者の居場所づくり”

周りに相談できる人がおらず一人で悩んだ経験から、三浦さんは高校1年生だった去年、同じようなルーツを持つ若者が集まる“居場所”にしたいと、「アフリカン・ユース・ミートアップ」を立ち上げました。いまは月に1回ほどオンラインでミーティングを開いています。 仲間と話すことで三浦さん自身、⾃らのルーツに誇りを持てるようになっていったといいます。

三浦アークさん
「いじめを経験すると、みんな自分を ”ダメな存在だ” と責めてしまうんです。でも肌の色みたいに、自分では変えられないものを理由に、言われる言葉が(他の人と)変わるのはよくないですよね。これは普通の人がしない経験です・・・。同じ経験やルーツを持つ人たち同士でアドバイスし合うことで”自分は自分でいい” と思い直せるように。”自分を責めないで生きてほしい” と伝えたいです」


アフリカンルーツの若者が日本社会で経験する差別

三浦さんが体験したような「肌の色やルーツに対する差別」はどのくらい起きているのか。アフリカにルーツを持ち日本で育った5人に集まってもらい、差別にあった経験についてたずねました。似た背景を持つ者同士が集まっている安心感もあってか、ふだんの生活の中ではあえて話さないような体験談が次々と出てきました。

「患者さんを治療しようとしたら ”このゴリラめ”、”お前みたいな原始人めが” って言われて、すごくショックを受けて、何も言えなくて言い返せないでいたら、”お前なんかもう看護師になるんじゃねえ!”、”もう別の人呼んでこい"」とか言われて。結局ちょっと半泣きしながら先輩を呼んできて先輩と一緒に謝ったんですけど、次の日に思い出してブワァってすごい泣きました(ナナさん・仮名/看護師)」

「職務質問をしょっちゅう受けます。止められるだけならまだ我慢できるんですが、”クスリをやってるんだろう” って決めつけて言われちゃうんですよ。”黒人って財布のここの部分に麻薬が入ってるんだよね” みたいな。(ナカオ・エイベルさん/モデル)」

「”お父さんどこの人?”と聞かれて、ガーナ人ですっと言うと ”じゃあ出稼ぎなの?”、”どこの部族なの?” とか。アフリカ系の人とか黒人系の人が野蛮だったりとか知能が低いとか、そういうイメージを持って前提として話されるんです。”日本人と結婚できてお父さんラッキーだったね” みたいなこととか。(アリサさん・仮名)」


悪意のない発言にも潜むネガティブな力

そして5人が口をそろえたのが、明らかな差別だけでなく悪意のない言葉や行動のなかにも深く傷つくものがある”ということでした。

・「足が速そう、歌やダンスが得意そう」と言われる
・「その髪どうなっているの?」と言われ、勝手に触られたり引っ張られたりする
・「元々黒いから日焼けしなくて、いいね」と言われる
・「英語が話せない」と言うと、「変だね」と言われる
・「日本で育ちました」と伝えても、「お国はどちら?いつ帰るんですか?」と聞かれる
・レストランで、日本語で話していても英語のメニューとフォークが出てくる


当然ながら、アフリカをルーツに持つ人でも、運動や歌などが苦手な人はたくさんいます。得意でないことに過度なプレッシャーをかけられることで、期待にこたえられない自分を責めてしまい、自尊心を失ってしまうといいます。

ルーツのある国を聞かれることも、1回なら問題がなくとも、1日に何十回も、毎日のように質問されると「あなたはこの国の人ではない」というメッセージとなり、心の中に積み重なっていくといいます。

今回参加してくれた5人は、長年こうした言葉に悩まされてきましたが、そのことを特に声に出して発信することはありませんでした。周囲に相談しても「気にしすぎ」「聞き流せば良い」と言われることが多かったからです。

日本人vs外国人のようになってしまうのは望んでいません。相手に悪気がないこともわかっているので、加害者であるかのように責めることはしたくないですし、今まで強く指摘しないようにしてきました。でも、僕らの下の代の子たちも同じことで苦しみ続けています。僕はモデルですが、自分が世に出ることで、僕らの経験や思いを理解してもらうきっかけになればと思い、この職を選びました」(ナカオ・エイベルさん/モデル)

座談会で語るナカオ・エイベルさん(モデル)


放っておくと危険な「マイクロアグレッション」

アパルトヘイトなど差別問題の解決に長年関わり、アフリカにルーツを持つ日本の若者の支援を行っている津山直子さん(アフリカ日本協議会代表)に、5人の体験を読み解いてもらいました。「明らかな差別に見えなくとも、先入観や偏見を基に相手を傷つける行為」は「マイクロアグレッション」(小さな攻撃性)と呼ばれ、アメリカでは1970年代から問題視されてきたといいます。

下の図はマイクロアグレッションの危険性を示した「ヘイトのピラミッド」です。

監修: アフリカ日本協議会代表 津山直子さん


1つ1つは大したことがないように見えても、小さな攻撃性を持つ言葉や行為が社会にまん延すると、ピラミッドの上段にあたる、よりひどい差別が起こりやすくなります。社会に偏見が広がると過激な差別発言をする人が増えますし、ステレオタイプを元にした”からかい”が増えれば、いじめにつながりやすくなるといわれています。こうしたことは、国を問わず、特にマイノリティや力の弱い人々に対して共通して起きている問題だといいます。


「マイクロアグレッション」をどうしたら無くせる?解決へのヒント

先日、「おはよう日本」でマイクロアグレッションについての企画を放送し、 それを動画にしてSNSでも投稿したところ、”何の気なしの言葉に傷つくなどと言われたら、コミュニケーション自体しづらくなる” という意見を数多く頂きました。マイクロアグレッションをなくすためにはどうすればいいのか。座談会の5人の意見を紹介します。

「やっぱり学校教育が変わってほしいです。黒人奴隷としてだけでしか私たち(のルーツ)が描写されてないんですよね。それも歴史の記録の問題かもしれないですが、今はどうなのかとか、身近な生活につなげるディスカッションをもっとしたほうがいいと思います。(三浦アークさん/高校生)」

「ふだん日本で見かけるアフリカの映像って悪い面ばかり。アフリカは貧しくてみんな飢え死にしてるわけじゃないのですが・・・。”今でもジャングルで住んでる人とかいるの?” って聞かれたんですよ。"いるかもしれないけど、ほぼいません" って感じです。アフリカ人はみんなジャングルで動物と暮らしてる、みたいなイメージがまだあるということが、よくないと思います」。(ナナさん・仮名/看護師)


日常会話の中で、ちょっと気をつけるだけで大丈夫、という具体的なポイントも教えてもらいました。

「みんな日本に住んでいるので ”ハロー” とかじゃなくて普通に ”こんにちは”でいいです。”ハロー” と言われると ”こんにちは、でも私は日本人です” っていうところからのスタートになっちゃうので。(アリサさん・仮名)」

バックグラウンドとかそういう質問を投げかけてもらう時に、”もしこれ聞いて傷ついたら申し訳ないけど” とか前置きがあってくれるとすごくいいなって。(マヤさん・仮名/デザイナー)」


いま「マイクロアグレッション」を考えたい理由

取材をしていると私自身、ギクッとすることが多くありました。私もアフリカに留学していたとき「目が細くてキレイだね」「日本人だからカンフー上手いでしょ」などと言われ、悪意がないとわかっていてもモヤッとした経験があります。にもかかわらず、自分も日本でアフリカのルーツを持つように見える人に対して「きっとこうだろう」という安易な推測をもとに発言をしてしまったことがあると思うからです。

親切心やほめことばが、マイクロアグレッションにつながってしまう場合もあり、どこからがマイクロアグレッションかというのは難しい問題です。だからこそ取材した皆さんも「自分だけが我慢すれば良い」と声を抑えてきたのだと思います。今回、勇気を出して取材を受けてくれた人の中には、涙ぐみながら、複雑な心境や差別体験を語ってくれる方が多くいました。

誰が悪い、何が悪いという話ではなく「外国人=全員よそから来た人」という先入観を疑い、コミュニケーションすることが大事だと感じました。日本には、多種多様なルーツを持つ人々がいて、日本人として生きている人も数多くいます。相手がどういう事情や思いを抱えているのか、もっと想像をしながら接することが、社会の“⽣きづらさ” をなくしていくためのカギではないかと感じています。
(取材:「おはよう日本」ディレクター 加藤 麗)


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2020年11月27日
在留資格のない子どもたち 連載3 海外に見る解決のヒント
11月に放送した クローズアップ現代+「日本で暮らし続けたい~ルポ“在留資格”のない子どもたち~」では、在留資格を持たない、いわゆる“非正規滞在”の外国人について取り上げました。こうした非正規滞在の外国人と諸外国はどう向き合っているのか。日本と異なる制度や仕組みを導入している2か国について、海外の移民政策に詳しい小井土彰宏・一橋大学教授にお話を聞きました。
(取材:「クローズアップ現代プラス」ディレクター 前田 陽一))

非正規移民の若者たちを救った!? アメリカの注目政策

まず、最初に紹介するのはアメリカ合衆国です。「移民の国」として知られるアメリカは、非正規移民の数が推定1150万人。トランプ大統領の非正規移民に対する強硬策は、報道などを通して知っている人も多いでしょう。非正規移民に対して厳しい国、というイメージがあるアメリカですが、注目すべき政策があります。それが「DACA(ダカ)」プログラムです。DACAによって、2012年以降、76万の若者が暫定的ながら、一定の権利を認められています。

DACAとは?
若年移民に対する国外強制退去の延期措置(Deferred Action for Childhood Arrival)のこと。子どものときに親に連れられてアメリカに不法入国した人などの強制送還を猶予する制度です。猶予は2年間で、更新可能。

DACAに至る背景 声を上げ続けた非正規移民の若者たち

2000年代、アメリカでの非正規移民が1000万人を超え、改革が必要と求められていきますが、その中でも柱として考えられたのが、高学歴層の若者の滞在と就学・就労を承認するという目的で提案されたドリーム法案(DREAM ACT)でした。ドリーム法というネーミングには、困難な中で大学進学を果たすなど、非正規移民の若者が実現してきたものこそがまさに現代のアメリカン・ドリームであるという意味が込められており、数世代前に夢を追ってアメリカにやってきた多くのアメリカ市民たちの理解を受ける狙いでつけられました。

しかし、この法案はなかなか実現しませんでした。変革を訴えて登場したオバマ大統領は、非正規移民たちからドリーム法案の実現を強く期待されていました。しかし、グローバル金融危機を背景に登場したオバマ政権は、本格的な改革に着手できませんでした。共和党が支配する連邦議会でもドリーム法案は繰り返し挫折します。
それどころか、日本ではあまり認識されていませんでしたが、オバマ政権は多くの非正規移民たちを強制送還し、その数は一時年間40万人に達したほどです。きわめて大規模な強制移動です。

(非正規移民の若者と面会するオバマ元大統領)

DACAは、このような大きなジレンマの中でオバマ政権が状況の突破口として編み出したものでした。2012年6月にオバマ政権は、立法府である連邦議会を通さない形で、連邦の方針として該当者に強制送還を猶予し、一定の権利を与えることを決めたと発表しました。

その該当者とは、16歳未満で国境を越えて米国に来て、成長して大学に進学したり、高校在学中で大学進学が可能な状態にある人でした。加えて、非行集団に属した経験などがないといった、アメリカ社会に順調に適応しているという条件を満たしていることが求められます。

DACAがもたらしたものとは

彼らに与えられる権利は、強制送還の2年間の猶予です。暫定的ではありますが、合法的にアメリカに滞在することが認められ、DACAと記された身分証明書を与えられ、大学の進学奨学金への応募も幅広く認められるようになります。

そして、卒業後は、合法的に就労が可能となります。これまで学費を稼ぐために例えば家事労働や、洗車といった、低賃金で流動性が高い職種で働かざるを得なかった彼らが、DACA認定を受けることで、大学で学んだ内容を活かせるような職種につくことが可能になっていきました。
DACAの権利の有効期間は2年間で、完全な合法化・正規化とは異なるものの、更新が可能でそれが繰り返される限りは、就労に支障もありませんでした。

DACAは非正規移民の子どもたちに何をもたらしたのか。複数の専門家の実証研究によると平均的な時給や所得の上昇といった経済的な改善が見られました。また、ホワイトカラーの専門職への就職、大学院への進学という形で、自らの職業的能力を発揮したり、知的能力を向上させたりするルートが増えました。
例えば、国内有数の名門大学であるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)には数百名のDACAを受けた学生がいるという報告もあります。


(DACAを求める非正規移民の若者たち)

トランプ政権による移民排斥ばかりがクローズアップされるアメリカですが非正規移民に対する政策の中には日本も学ぶべきものもあります。もちろんDACAには、高学歴層に限定するなど、様々な問題がありますが、結果的に救われている人がいるのも事実です。そして、それが実現した背景には声を上げ続けた当事者たち、彼らの力を必要とする産業界の声など、様々な要素が相まっているのです。
DACAに否定的だったトランプ政権の終焉が確実になってきたことにより、この制度の存続が可能になる見通しとなりました。今後、非正規移民の若者のより安定的な権利に向けての議論が再び活発化していくものと考えられます。


ヨーロッパ中でも“ユニーク”な移民政策で知られるスペイン

次にご紹介するのは、移民を巡って揺れ動いてきたヨーロッパの中でもユニークな政策で知られるスペインです。知らない人も多いかも知れませんが、21世紀の最初の10年間で、アメリカに次ぐ世界二位の移民受け入れ国となったのがスペインで、人口4000万を切る程度の国だったのが400万人以上を新たに受け入れた結果、人口に占める移民の割合は12%を突破しています。これはヨーロッパの中ではドイツに匹敵する数字です。その後、経済危機により近年は減少に転じました。
しかし、より注目すべきはこれだけ短期間に急激な移民人口増を見ながらも、スペインでは本格的な移民を巡る深刻な社会的紛争は限られており、また少なくとも2019年ごろまでは本格的な移民排斥運動も極右の台頭も見られてこなかった点です。この非常に興味深いケースを内部から観察するため、私は2014年夏より1年間かけて現地調査するなどしてきました。


(スペインとモロッコの国境。アフリカ西部からの流入が多い)


かつては移民を“送り出す”側だったスペイン

スペインの歴史は、西欧諸国と比較して独特です。戦後も独裁体制が継続し、スペインは政治的に孤立して経済発展は遅れていました。この結果、スペインは戦後1970年代半ばまで、ドイツやかつてスペイン帝国の旧植民地であったラテンアメリカに向けての移民送出し国であり、亡命者が出ていく国であったのです。
1975年以降スペインは民主化を経験することで、その後、急激に経済成長を経験していきます。この結果、1980年代後半になって初めて本格的な移民受け入れを経験していきます。過去、移民や難民の経験を持つ人々が国内の各層に多数いる中で、新たな移民を受け入れていったわけで、このことが独自の移民政策の素地となりました。


(第二次世界大戦後もフランコ政権による独裁が続いた)

社会への“定着性”を評価

実は、スペインも急激に移民労働者が増大した際に正規の手続きを行わずに入国し、非正規移民として就労を続ける人々が急増しました。日本にも似て表向きは厳しいビザ手続きがありなかなか取得できない一方、実は国内には労働力が不足する中小自営業等が多数存在し、非正規移民労働者を雇用して事業を続ける雇用主が多数いました。これに対するスペイン国家の対応は、周期的に正規化=合法化を行うことで、非正規移民が一定数を超えることを避けながら必要な労働力を維持することでした。

ここでスペインが特徴的なのは、たとえ非正規であっても、社会や職場に定着したことを評価して、在留資格を与える「正規化」を行ってきたのです。過去最大の正規化を行ったのは2005年、実にその数、70万人に達しました。このときは、過去1年間の就労実績と社会的な「定着」が考慮されました。
つまり、技能を語学試験や、免許などの形式的な資格ではなく、現場で身に着けたものを評価するという発想です。正規化の際には、例えばシェフがコックとして働く移民の能力を証明したり、建設の小事業主が移民の大工としての能力と就労した事実を証明したりするわけです。

なぜ排外主義は台頭してこなかったのか

スペイン政府はこの大規模正規化とともに、「社会統合全国フォーラム」という協議会を設立し、担当官庁や人権・支援NPO、そして移民自身の団体を組み込んだ三者による円卓形式の会議を、移民専門家を議長に据えて、定期的に開催してきました。このような当事者たちの「声」を組み込むことで、参加民主主義的な形で相互理解を促進することを重視してきました。

また、社会統合研究所という機関を各自治州に設置して、移民たちの動向を分析し、地域的な議論として活用してきました。 各自治体レベルでは、「通文化(間文化)媒介者」と呼ばれる、 移民と地元の人々の間や多様な移民相互間の文化を橋渡しする人々を配置。住民と移民の間の偏見や誤解に基づく紛争を事前に回避したり、緩和したりするための政策を進めてきました。このような実質的な受入れと共生政策を合わせて打ち出すことで、急激な移民増加による社会的緊張を緩和させることができたと言えるでしょう。

このような制度構築ができた背景には、移民として働いた経験のある労働者層に加えて、エリート層の中にも亡命者として他国で滞在したことがある者がいたことがあります。スペインは、移民の視点を理解することの重要性を歴史の中で体得してきたのです。

ちなみに2018年、「Vox」という極右政党が民主化後初めて議会で一定の議席を獲得したことが注目されていますが、これをもって単純に反移民勢力が台頭したとも言えません。この政党への支持はカタルーニャ州の分離独立主義に対するマドリードの保守派層などを含んでおり、同じ選挙では移民に寛容な社会労働党も議席を増加しています。不況長期化=反移民台頭という図式では簡単に語ることは難しいと思います。

“非正規滞在外国人”と国家 どう向き合えばいい?

ここまで、アメリカとスペインの2か国について見てきました。現代、世界のどこの国家においても、非常にうまく移民政策を実施できているとは言い切れません。ですが、そのことへの反発で現実的に必要な人々の受入れを恣意的に断ち切ろうとすれば、より深い問題を作ることにもなりかねません。
一挙に理想的な移民政策を打ち出せると考えたり、逆に難しい問題が出てくるからといって移民政策という課題を否定したり回避したりすることは現実的ではありません。現実の経済的・社会的必要に応じて制度を構築し、それを常に“manage”する。すなわち多面的な課題に何とか対処しながら、時間をかけ、段階的に制度を改善していくことが大切でしょう。

小井土彰宏 一橋大学大学院社会学研究科・教授
ジョンズ・ホプキンズ大学社会学部博士課程修了、カリフォルニア大学サンディエゴ校研究員、北海道大学文学部助教授、上智大学国際関係研究所助教授を経て現職。『移民政策研究』編集委員長


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2020年11月27日
在留資格のない子どもたち 背景は?【インフォグラフィックス解説】
在留資格のない子どもたちやその家族の事情を説明しようとすると、どうしても耳慣れない言葉の羅列になってしまいがちです。今回、”在留資格”のない子どもたちを理解するうえでとても大切な”帰れない”事情を、取材で会った様々な家族を思い出しながらインフォグラフィックスでまとめてみました。























連載3では、在留資格のない外国人に海外ではどう対応しているのかをご紹介します。日本の状況を改善するヒントになればと思います。

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2020年11月21日
Vol.2 次々登場“フェムテック” 生理用ショーツに更年期対策も 
女性の“生きづらさ”をテクノロジーで解決! 
「ん、漏れてる?…あ、ヤバイ!」 仕事中、ふと股間を伝う違和感にドキッとしてしまうこと、ありますよね。

私も仕事に没頭しすぎて、気づいたら経血漏れでイスが大惨事という経験が・・・その後はイスにじっと張り付いて、同僚たちが帰るのをひたすら待ちました。夜、静まりかえったオフィスで座面の赤いシミを拭いていたら、涙がこぼれてしまって・・・。

ところがそんな私の日常に最近、革命が起きました。それが「ナプキンの要らない生理用ショーツ」です。半信半疑でしたが、試してみると本当に1日経っても漏れがなくて、まさに目からウロコ。小6以来の悩みの一つがあっさりと解消されたのです。

「生理」「更年期」など女性特有の様々な悩みを、新たなアイデアや科学技術を用いて解決する・・・こうした商品を「フェムテック」と言います。(Female(女性)とTechnology(技術)をかけ合わせた造語です。)

社会の中で生きる女性たちを応援してくれそう!と期待高まる「フェムテック」、その最前線をお伝えします。 (関連記事「AMH検査で“卵子の残り数”がわかる!?」

(クローズアップ現代プラス 浅岡理紗ディレクター)


スタートアップが続々登場 “フェムテック”
いま世界中で、フェムテックの新たなアイテムが続々と登場しています。 2020年7月、そうした製品を取りそろえた生活雑貨店が東京・港区にオープンしたので、行ってきました。


■冒頭で紹介した、ナプキンが要らない生理用ショーツ
何層にも重ねた特殊な生地が経血を吸収し、表にしみ出すのも防ぎます。国内外のメーカーからデザインも性能もさまざまなショーツが登場していて、自分にあった商品を選べます。



■妊娠しやすいタイミングを教えてくれる機器(アメリカ製)
白くて丸いデバイスを膣の中に入れると、おりものの成分を測定し、妊娠しやすいタイミングを教えてくれます。妊活中の女性のニーズから誕生しました。



■尿漏れを防ぐトレーニンググッズ(イギリス製)
更年期の女性に多い「尿漏れ」の悩み解消のための製品。楕円形のボールを膣の中に入れてキュッと閉めると、連動したスマートフォンの画面でボールがポーンと跳ね上がります。排尿コントロールに大切な骨盤底筋を、キュッ、ポーン、キュッ、ポーンと、ゲーム感覚で鍛えることが出来ます。


「生理」「妊娠」「更年期」といった女性特有の悩みを、テクノロジーで真っ向から解決していこうというフェムテック。それは、これまでタブーとして見過ごされてきたこれらの課題を明るみに引き出し、具体的な問題解決はもちろん、人々の意識までも変化させて、社会に革新をもたらそうとしています。


(店のプロデューサー 小尾奈央子さん)

小尾さん
「女性の社会進出が進み、こうした(女性特有の)悩みが社会全体で解決すべきことになってきています。もうタブーではない!タブーのままではいけないのです。お店にはカップルで来店される人もいます。男性も、生理のことを女性に聞いてはいけないという概念があったかと思いますが、こうしたフェムテック製品を一緒に手に取ることで、話してもいい、共有していい話題なんだと認識する方もいます。」

体の悩みと深く関わる女性ホルモン
フェムテックが解決をめざす女性ならではの体の悩みと深く関わっているのが性ホルモンです。女性ホルモンの分泌量は10代で急上昇し、毎月の生理のたびに変動、そして40代から急降下します。その動きに伴って、生理痛や更年期症状などさまざまな不調が起きます。そのジェットコースターのような変動は、現役世代の間はホルモン分泌がほぼ一定の男性とは対照的です。


(女性と男性のホルモンの変化)

「漏れない生理用ショーツ」 オンナの実体験にビジネスチャンスあり!
女性たちに立ちはだかる課題を新ビジネスの舞台ととらえフェムテックを生み出しているのは、一体どんな人たちなのでしょう。私の悩みを解消してくれた「生理用ショーツ」を開発した企業を東京・渋谷区に訪ねました。


(中央の左が山本未奈子さん、右が髙橋くみさん)

社員30人はすべて女性。「女性の輝く社会」をコンセプトに、化粧品など様々な商品開発を行っています。

この会社を率いる、山本未奈子さんと髙橋くみさん。
働く女性として、二人も「生理」の悩みを切実に感じてきました。


(山本さん)

山本さん
「会議が長引いて仕事に入り込んでしまうと、トイレに行くタイミングを忘れてしまうんです。 会社の椅子が白いのもあって結構シミに・・・。私もよく漏れてしまってアッ!ということがあります。」

2人がショーツ開発を始めたのは3年前。アメリカで「ナプキンの要らない生理用ショーツ」を目にしたのがきっかけでした。「これこそ働く女性が求めている商品だ」と確信し、日本人のニーズに合わせた商品を自分たちで開発すると決意します。 製造を依頼したのは山陰地方にある小さな縫製工場です。


(縫製工場)

もともと高齢者向けの尿漏れパンツを得意とし、布に水分を吸収させる豊富なノウハウを持っていました。でも工場側は、「生理用ショーツ」という思いもよらない依頼に、最初は戸惑ったそうです。

縫製工場社員
「難しいと、一旦はお断りしたんです。どうしても女性の生活を変えたいということを何度も口説かれて、気持ちが動いたといいますか、やってみようという気持ちになりました。」

難しかったのは、吸水量の大幅UPでした。通常の尿漏れパンツでは、吸水量は多くても50ml程度ですが、今回のショーツは120mlの性能を持たせました。それは、生理2日目の経血量の3倍にあたります。

吸水体は、性質の異なる5枚の特殊な布を組み合わせたもので、身体からずれないように、縫い付け方も工夫されています。2年半をかけて、漏れを防ぐ工夫を結集したショーツが出来上がりました。


(募ったクラウドファンディング)

実は、 山本さんと髙橋さんはショーツ開発の過程で、ネット上から投資を募るクラウドファンディングを行ったのですが、1か月で9000人以上が参加し、なんと1億円以上の資金が寄せられました。商品への期待の高さがうかがえますよね。

このファンドに参加し、ショーツを使い始めた女性に話を聞きました。

洗濯は基本的に手洗いをしていて、しっかりキレイにしたいときには、そのあと他の衣類と一緒に洗濯機にかけているそうです。使い心地を聞いたところ・・・

女性
「普通に生活して歩いたり動いたりしても漏れないし、寝ている時も漏れないので驚きました。仕事で外を歩き回ることも多く、そんなときはトイレに行けず困っていました。これでもっと活動的になれると思う。」

女性たちが感じてきた“生きづらさ”を背景に、次々と生まれているフェムテック。それは社会全体に地殻変動を起こしてくれるのではないかと感じました。

私たちは今後もこのテーマについて取材を続けていきます。

次回紹介するフェムテックは、女性の体の中の「目に見えないアレ」を手軽に知ることで、「人生設計がもっと立てやすくなる」という内容です。

あなたは女性ならではの“体の悩み”についてどう思いますか?“体の違い”がある中で、皆が生きやすい社会・職場にするには、何が必要だと思いますか? 記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。



フェムテックについてもっと知りたい方は、こちらの記事も↓
#BeyondGender#多様性
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2020年11月13日
在留資格のない子どもたち 連載1 届けられた声
日本で生まれ、あるいは育ちながら“在留資格”がないために国外退去の対象となっている子どもたちがいます。多くが、難民申請をしたものの認められなかったり、オーバーステイの親から生まれたりしたケースです。未成年のため入管施設への収容は免れていますが、「仮放免」という立場で、様々な制約を受けながら暮らしています。統計上、その数は全国に300人あまりとされていますが、どこでどのような生活を送っているのか、詳しくは分かっていません。

クローズアップ現代+「日本で暮らし続けたい~ルポ“在留資格”のない子どもたち~」では、支援者や弁護士の協力を得て、連絡先が分かっている子どもたち50人とその家族にアンケートに答えてもらいました。番組ではお伝えしきれなかった、子どもたちの切実な声をご紹介します。(取材:「クローズアップ現代プラス」ディレクター 前田 陽一)

※かっこ()の中は、子どもたちや親の出身地です。また、表記は子どもたちが書いたものから変えずにご紹介します。
“在留資格がないことで困ったことは何ですか?

「病気になったとき、病院でお金を100%払わないといけなく、それがなかなか高いから気軽にいけない。日本のあらゆる保障を受けられないため慎重に生活をしなきゃいけないとき」(14歳/ベトナム)

「友だちと県外にでかけられない(※1)/将来がとても不安」(13歳/ペルー)

「これからある大学にもいけない。働くこともできないから将来が不安でしかたない」(16歳/ペルー)

「職業につけない、学費はらえない、アルバイトができない」(17歳/ガーナ)

「ともだちができることが自分はできない。せいかつがくるしい。なにをするにもじゆうがない。さべつがおおい」(年齢不明/トルコ)

※1:仮放免中は、都道府県をまたぐ移動は、事前に入管の許可がいるため




日本を離れることができない理由は何ですか?
「日本で生まれ日本でずっと生活してきて、日本の社会に適応して、日本でやりたいこと、したいこと、将来の夢があるのに、日本を追い出され何もわからないところにいって言語が話せなくて、そのまま仕事につけなかったりするのが嫌だから」(14歳/ベトナム)

「親の故郷の言葉と文字がわからないからなのと、友だちとはなれたくない。私は人見知りだからはじめていった場所になじむまですごく時間がかかるから近くにしっている人がいないと私はとてもこまるんです。言葉がわからないのでもっと困る」(13歳/ベトナム)

「私は日本でうまれ、日本で育ちました。これからも家族や友だちとずっと大好きな日本にふつうに暮らしたいです。理由はただそれだけです」(13歳/ペルー)

「日本語しか話すことができない。ましてや同じ年の日本人の子どもと同じように教育機関を受けたのにいきなりペルーで過ごせと言われても上手くやっていけるわけがない。リスニング、リーディング力がペルーの幼い子供よりないのに」(19歳/ペルー)





法務省はいま入管法の改正を目指しています。収容のあり方を見直す一方、国外退去に従わない場合は、懲役刑を含む罰則を科すことを検討しています。


罰則が厳しくなるかもしれないことについてどう思いますか?
「20歳になったら自分もつかまってしまうとおもってこわかった」(12歳/コンゴ)

「なにもしてないからかえるいみがわからないです。まるで僕らにじんけんがないようにあつかわれて、とてもはらがたちます。みんなびょうどうとかきれいごといってるのに、私たちのことを人としてあつかわない、これはじんけんしんがいだと思います」(年齢不明/トルコ)

「“でていけ”だけで済ませるだけではなくて1人1人の声、じじょうをもっと知ってほしいです。入管の人はかんたんに“でていけ”と言いますが、その人たちに私たちの生活がどのようなものかを知ってほしいです」(13歳/ペルー)

「もっとよく考えなおしてほしい。100人以上の同じ問題の人がすごく苦しんでいる人の気持ちをかんがえてほしい」(17歳/ペルー)


切実な声が多く寄せられる一方で、日本で生まれ育った子どもたちが、この国をふるさと、自分の居場所として考えていることも伝わってきました。




あなたの将来の夢は何ですか?

「弁護士になって困っている人を助けたい」「教師になって、将来日本の未来を切りひらいてくれるような人材を育てたい」(14歳/ベトナム)

「日本でだれかを笑顔にする仕事がしたい」(13歳/ペルー)

「ファッションデザイナー」(17歳/ガーナ)

「航空整備士として、日本国内の空港で働きたいです」(17歳/インド)

「人を支えられるような仕事」(17歳/ペルー)




アンケートの自由記述欄にも多くの本音が寄せられました。その中から、支援団体が集めた寄付金によって大学に通う19歳の声をご紹介します。


「私の様な子供はたくさんいます。少しで良いのであなた方も想像して下さい。考えて下さい。本当に変わらないんです。私も生まれは日本なんです。同じ日本人なのです。お願いですどうか他人事だと考えないで下さい。私たちは自由のために戦います。ですがあなた方日本人も少しで良いです私たちのために働きかけて下さい。この戦いに勝つために」(19歳/ペルー)


今回集められたのは計50人の子どもたちの声です。国外退去の対象となっている在留資格のない子どもたちは、学校には通えるようになっていますが、その他のセーフティネットからこぼれ落ちているケースも多く、支援団体や弁護士でも居場所を把握していない家族もいるとのことでした。
大変な状況の中、声を寄せてくださった皆さん、本当にありがとうございました。





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10
2020年11月12日
Vol.1 “有毒な男らしさ”を考える 
いまSNS上で「#有毒な男らしさ」という言葉が飛び交っています。

「面倒なことは女に押しつける、“有毒な男らしさ”」
「間違えても謝らないという態度、“有毒な男らしさ”」

(英語で Toxic masculinity “有害な男らしさ”とも訳されています)

周りに悪影響を与える「有毒な男らしさ」をコロナ禍で実感する人が増えたといわれます。はたして、その〝解毒剤〟はあるのか。理想の有名人夫婦ランキング“常連”の佐々木健介さん、北斗晶さん夫妻と考えます。 

(おはよう日本 取材班)

“自分が稼がねば” 男らしさに苦しめられた男性
街なかで現役世代の男性に聞いてみると…

「こういうご時世で給料面でも厳しい。これ以上下がると自分が情けなくなってしまう。家に帰って相談事をするのは…、弱い人間だと思われたくない」(40代 会社員)

「“男が女性より頑張っている、勝ってないといけない…”そういうのが まだ残っている」(40代 会社員)

『自分の稼ぎで家族を養わねば…』コロナの影響が続く中、そんな思いに追いつめられた男性がいます。松山市内で居酒屋を営む清水裕一(しみず ゆういち)さん(43歳)。


(居酒屋オーナー 清水裕一さん)

元々はサラリーマンでしたが、子どもが生まれた後に一念発起。9年前に独立しました。「働く姿を家族に見せたい」との思いからでした。

清水さん
「“男らしさ”のひとつではありますけど、やっぱり“一国一城”じゃないですが、何か一旗揚げて“ちょっとやったよ”という爪痕を残す。」


(清水さんと家族)

ところが新型コロナの影響で、2か月間、営業は休止。5月の売り上げは去年の2割以下に。助成金の申請書類の作成など、自宅での作業に追われた清水さん。これまで店が休みの日以外は、ほとんど顔をあわすことのなかった子どもたちと一緒に過ごす時間が増えました。
仕事への不安や、慣れない子どもの世話。誰にも相談できないまま、日に日にストレスがたまっていきました。さらに看護師の妻が、コロナ禍においても毎日仕事に行く姿に自分のふがいなさも感じました。そして いつしか子どもたちに、強くあたるようになったといいます。

清水さん
「ふだんは怒らないんですけど、子どものことまで かまっていられない。余裕がなかった。『早く(勉強)やれって言っているでしょ!』と、よく怒っていました。」

妻の恵(めぐみ)さんは、傷ついた娘からこっそり報告を受けたそうです。


(妻 恵さん)

妻 恵さん
「(娘から)『パパには言わないでほしいんだけどね』という感じで。『パパと3人は楽しいけど、ちょっとしたことですぐ怒る』って。主人に、客観的に知っておいてほしいと思ったので、『どう思う?』みたいに尋ねたら、『あー、そうかもしれない』という感じでした。」

清水さん
「言われてハッとしました。反省しました。昔、女性経営者の方に、“いちばん邪魔なのは男のプライド。1円にもならない男のプライド”と言われたことがあって、『何を言っているんだ、この人は』と思っていたんですけど、てきめん そういう部分なんだろうな。わかっているけど、変えられなかった。」


佐々木健介さん&北斗晶さんの家庭は?

(理想の有名人夫婦ランキング常連 北斗晶さん・佐々木健介さん)

佐々木健介さん
「僕も若かったときは、『俺は男だ!』といばっていましたけど、今は年をとって丸くなった。いいオッサン。洗い物でもなんでも率先してやります。」

北斗晶さん
「そうですね。いいオッサンになりました。(笑)」

健介さん
「『男だから、やらなきゃいけない!』『家族のために』と思いがちな男性もいるかもしれませんが、たいへんなのは男だけでなく、女性も家事のことなどでたいへん。お互いが分かり合えないといけないですよね。」

北斗さん
「男性が思っているほど、妻のほうは『男だからやらなきゃ!』『男だからやって!』とそこまで強くは思っていないと思う。共に暮らしながら(妻は)『お互いに頑張らなきゃいけない』と思っているでしょうけど、それを口に出して言わないと、(夫にとっては)プレッシャーになってしまうのかもしれないですね。」

コロナで露呈!?“有毒な男らしさ”

(大正大学 心理社会学部 准教授 田中俊之さん)

ジェンダーの問題を男性の視点から研究する「男性学」が専門の田中俊之(たなか としゆき)さん(大正大学 心理社会学部 准教授)は、コロナの影響で生活スタイルが変わる中、“有毒な男らしさ”があらわになったと指摘します。「男は仕事」という社会の代表的な価値観が、通勤不要や収入減などで一気にぐらつく中、変化に対応できずに過去の価値観にしばられ、毒をばらまいている男性が少なくないそうです。

田中俊之さん(大正大学 心理社会学部 准教授)
「“有毒な男らしさ”からなかなか抜け出せない男性には、2つの共通する傾向があります。
1つ目は、“さびついた有能感”です。高度成長期以降は残業、休日出勤、転勤などをいとわない、全てを仕事に捧げられる人が“有能”とされていました。でも、それは妻が専業主婦だった時代のこと。
今は、出産後も働く女性が増えているし、独身で自分の家計を支えている人も、男女問わず、少なくありません。「24時間 働ける男が“男らしい”」というのは通用しないのに、今もさびついた“有能感”を持ち続けている人がいます。

2つ目の傾向は、“強すぎる支配欲”
仕事だと自分で計画を立てて、成果を出して…というように、自分でコントロールできていると有能感を得やすい。でも、家庭ではそううまくはいきません。
あす朝早いから子どもを早く寝かせようと計画を立てても、子どもはなかなか寝つかない。そうなるとコントロールできずにイライラして、家族に悪影響を及ぼしてしまうことがあるんです。」

ゴリラに学ぶ“令和の男らしさ”
ゴリラ研究の世界的な権威で、「男らしさ」についての書籍を出版している霊長類学者の山極壽一(やまぎわ じゅいち)さん。コロナ後の新しい“男らしさ”のヒントは、霊長類にあるといいます。


(霊長類学者 山極壽一さん)

まず、山極さんが「旧来の男性中心の社会に似ている」と指摘するのがチンパンジー。チンパンジーは、オスどうしの中で厳格に序列を決めています。食べ物は上の者から順に食べることで、無用な争いは起きません。しかし、ひとたびリーダーの力が衰えたと察したとたん、部下どうしが組んで下克上を起こすこともあるそうです。


(力の衰えた“リーダー”<左奥1頭>に対し 徒党を組むオスのチンパンジー<右手前2頭>)

山極さん
「チンパンジーは1頭では他のオスと戦えない。複数のオスによってたかって攻撃されると負けてしまう。複数でいれば、1頭よりも大きく見せられる。常に自分の味方をしてくれる仲間を求めながら、その関係の維持を図っているわけです。人間の男の悪いところは、徒党を組むことを覚えてしまったということ。ここはチンパンジーに似ている。」

一方、これからの“男らしさ”のヒントになると山極さんが提示するのが、ゴリラです。オスどうしで群れるチンパンジーと違って、ゴリラは家族と過ごすことが多いといいます。


(弱いものに合わせる オスのゴリラ)

ゴリラは、子どもが1歳を過ぎた頃から、父親が積極的に子育てをします。子どもと一緒に遊び、見守るのは父親の役割。さらに、ゴリラどうしでケンカが起きたとき、年少者やメスなど、力が弱い側の味方になって仲裁します。大きな体を、自分のためではなく、弱いもののために使うのです。

山極さん
「ゴリラのオスは泰然自若としていて、メスや子どもの時間にたやすく合わせることができる。待つ姿勢ですね。それを、われわれ男性は学ばなくちゃいけない。(人間の)男は“自己実現”とか“自分の主張を出して前に進む”ということが求められているが、本当はそうではなくて、世の中は、力の強いものが自分の力を落として、力の弱い者に合わせることによって、いろんな時間やいろんな空間がつくられているんです。」

健介さん&北斗さん “令和の男らしさ”とは…
健介さん
「ゴリラの家族、我が家みたいです。僕も、子どもが小さいころから子育てをやってきたので。まさか、(ゴリラ)自分じゃないかなと(笑)。」

北斗さん
「本当に。リビングで寝転んで、子どもが遊んでいるのを うれしそうに見ている健介みたい。」

どうしたら、ゴリラのような“男らしさ”に近づくことができるのか。田中さんは、家庭を“社会”のひとつと捉え、その最大の利益を見つけることが大切といいます。

田中俊之さん(大正大学 心理社会学部 准教授)
「これまでは、日本語で“社会”というと“企業社会”、そこに正社員として参入する人が“社会人”と捉えられてきた。でもコロナの影響などで、家庭や地域で過ごす人が増える中、考えなくてはならないのは、家庭や地域も“ひとつの社会”であり、それぞれルールが違うということ。会社は利潤を追求するので『もうかるか、もうからないか』の基準が大事。家庭もひとつの社会。妻、子ども、家族にとって、それぞれの視点に立った時の『最大の利益は何か』を考えられるといいと思います。」

健介さん
「自分自身は結婚した当初、料理など手伝わなかったんです。“男はこうでいいのかな”と思っていたんですけど、間違っていた。すごく(妻から)怒られて、あ、こういうものなんだというのを勉強しました。」

北斗さん
「家庭を大切にする男のほうが“強い男”という気がします。“男らしさ”は優しさ。強くなければ優しくなれないし、優しくなれなければ強くもなれない。人にきちんと謝ることができたり、その場を収められたりする人のほうが男らしいと思います。」

“有毒な男らしさ”を捨てるには まず相談
“有毒な男らしさ”を捨てるためには、自分で抱え込まずに周りに相談することが大切だと、田中さんはいいます。でも、自分から相談するのは苦手だったり、“相談してもうまくいかないのでは…”と心配したりしてしまう人もいるのではないでしょうか。田中さんからのアドバイスは、「相談の目的を 相手と共有すること」です。



田中俊之さん(大正大学 心理社会学部 准教授)
「悩みを相談するときにあらかじめ相談する相手に、何を自分が求めているかを言ってしまう。単純に悩みを聞いてほしいのか。話すことに対する評価がほしいのか。解決策を提示してほしいのか。男だからって弱音をはいちゃいけないことはありません。ぜひ周りに相談してほしいと思います。」

一方、相手が悩みを打ち明けやすいようにするために、周りはどうしたらいいのでしょうか。


(スウェーデンの首都 ストックホルム)

世界で、いち早く男女平等を推進してきたスウェーデンには、自治体などが主導して設立した、男性のための相談機関、「男性危機センター」があります。専門のカウンセラーが常駐していて、コロナ禍の今はオンラインで相談に乗っています。


(「男性危機センター」オンラインで相談にのるカウンセラー ウルフ・カルバートさん)

カウンセラーのカルバートさんは、「相談したがらない」男性に心の扉を開かせるためには、男性が引け目を感じるような言葉を避け、過去に相談した人が立ち直った具体的な事例を示すことで、孤独にさせないことだといいます。

カルバートさん
「男性たちは内心、自分が世界でただ一人、男らしくないと思いこんでいます。私は『そうではありません、男性にはよくあることです』と伝えます。すると、ほとんどの男性は、自分は変な人間ではないと安心するのです。」



一度心を開きさえすれば、解決に向けて途端に前向きになるのも、男性なのだとか。

カルバートさん
「心を開いた男性たちは、自分自身を変えたいと強く思っています。それは、非常に強いモチベーションであり、私たちも深いコアの部分に入り込みやすくなります。大切なのは、自分が周りからどんな人間に見られているのか、どんな態度を取っているのか、鏡に映すようにはっきりと示してあげることです。男性たちはショックを受けるかもしれませんが、そうすることが重要なのです。」

健介さん
「相談しやすい空気があれば、ありがたいですね。男は口下手な人が多いですし、“自分は何を言っていいんだろ”“言ったら恥ずかしいのでは…”と思ってしまうけど、(周りの)心遣いがあったら、しゃべりやすい空気になると思います。」

北斗さん
「『強く見せなくてもいいんだよ』と男性に言ってあげたい。仕事が激減したら、もし結婚していたら、相手とともに働けばいい。妻が仕事に出ていたら、家事をしてくれればいい。夫が仕事だったら、私(妻)がやればいいし。もっとお互い気軽に考えられる世の中になってほしいですね。」



あなたは“有毒な男らしさ”について、どう思いますか。“有害な男らしさ”をなくすために、何が必要だと考えますか。記事への感想やご意見などを下の「コメントする」か、ご意見募集ページから お寄せください。
#BeyondGender#多様性
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