2021年4月23日

静かな抗議、届いていますか?

4月21日正午、国会議事堂の前に並んだマスク姿の人たち。
メッセージカードを掲げて、抗議デモ?…しかし誰も大きな声をあげることはありません。 彼らは去年SNS上で大きなムーブメントを起こした「SAVE the CINEMA」のメンバー。新型コロナウイルスの影響で危機的状況に陥ったミニシアター業界を救おうと国に公的支援を求め、ネット上で多くの支持を集めたプロジェクトでした。
あれからおよそ1年。いまなお続くコロナ禍で彼らは今、“静かな抗議”を国に届けようとしていました。
(「みんなでプラス」取材班ディレクター 板橋 俊輔)

「心も体も限界です」
SAVE the CINEMAが開催したサイレント・スタンディング
感染予防のルールを決めて行われた

東京都心で今年初めての夏日を記録した4月21日。正午になると、国会議事堂の前にマスク姿の人たちが次々と集まり始めました。それぞれの手にはメッセージカード。そこには「SAVE the CINEMA」プロジェクトのロゴや、訴えたいメッセージが印刷されていました。一見すると、町中で行われる抗議デモのようですが、拡声器もなければ、マイクを握って声をあげる人もいません――プロジェクトが行っていたのは、静かに立って抗議をする「サイレント・スタンディング」です。

新型コロナウイルスの感染予防のため、マスク着用は必須、大声をあげないなど、ルールを徹底。新型コロナの影響で「物心(ぶっしん)ともに限界」と語るミニシアター関係者たちの“静かな抗議”を、国に届けることが目的です。1時間のスタンディングには、SAVE the CINEMAのメンバーであるミニシアターの支配人や映画監督、さらにミニシアターのファンまで駆けつけ、最終的に30人ほどが集まりました。

元々はSNS上で「映画を守りたい」という思いを持つ関係者やファンたちが結びついて、大きなうねりを生み出してきたSAVE the CINEMAのプロジェクト。これまでプロジェクトの中心メンバーが政治家や省庁に対して直接陳情をすることはありましたが、このように公の場に集まって、何かを訴えるのは今回が初めてでした。新型コロナの感染が続く中、なぜオフラインの場に集まり、このようなスタンディングを行ったのでしょうか。


ポップコーンなど販売の有無で「協力金の対象外」に
多くのミニシアターは飲食販売はしておらず 協力金を得られない

今回、プロジェクトは国に対してどうしても伝えたい要望が2つありました。 1つめはメッセージカードにも書かれている「協力金」です。今年1月に、2度目の緊急事態宣言が出された際、映画館は営業時間を午後8時までに短縮する「働きかけ」を呼びかける対象となりました。
(※詳しくは、こちらの記事で説明しています)

「要請」のように強制力はないものの、多くの映画館やミニシアターでは20時での営業終了を余儀なくされました。この時、ポップコーンなどの販売を行うなど飲食店としての登録をしていた映画館は、レストランや居酒屋などと同じように、時短営業に応じた場合は6万円の協力金を得ることができました。 しかし、多くのミニシアターは飲食販売をしておらず、時短営業をしていても協力金が支給されることはありません。上映数や客数を減らして時短営業に応じているのに、なぜ飲食販売の有無で協力金が左右されるのか――その疑問を訴えたいというのです。

そして2つめは、収束の見通しがまだ立たないコロナ禍で、このまま協力金の支給がなければ、根拠なく時短営業や客席数を減らすことの要請や働きかけを行わないでほしいという訴えです。この1年間、多くの映画館では感染対策を取る以外にも、換気の良さをアピールするなど、安心・安全に鑑賞してもらえるよう工夫を凝らしてきました。
(※映画館の取り組みについては、こちらの記事でも紹介しています)

そうした努力も相まって、映画館ではこれまでに感染のクラスターの発生が報告されることはなかったと言います。それにもかかわらず、映画館に対して今も営業時間を短くすることなどが求められ、関係者は物心両面で重い負担を感じているとの声が多く寄せられているのです。


「要請」「働きかけ」…翻弄されてきたミニシアター


これまでに2回発令された「緊急事態宣言」や、今月適用された「まん延防止等重点措置」など、新型コロナウイルスの影響を大きく受けてきたミニシアター。

去年4月に発令された1回目の緊急事態宣言では、映画館などに対して休業要請が行われました。多くのミニシアターは国の持続化給付金などを得ながら、1か月近く営業を自粛していました。

そして今年1月の2回目の宣言。映画館は営業時間を午後8時までに短縮するよう「働きかけ」の対象となりました。多くの映画館は働きかけを受け入れ、上映本数を減らしたり、レイトショーの上映を取りやめたりしました。先述したように、飲食店として許可された映画館は協力金が支給されましたが、飲食販売をしていない多くのミニシアターでは、営業時間の短縮はしながらも、それに伴う支援はありませんでした。

緊急事態宣言が解除された後、一時的に営業時間は夜9時までとなったものの、今月には「まん延防止等重点措置」が、複数の都府県に適用。東京都ではこの措置により、再び営業時間を午後8時までとするよう映画館や遊興施設などに対して協力を呼びかけました。

そして今、3度目の「緊急事態宣言」の発令が目前に迫っています。映画館にどのような要請や協力の呼びかけがされるか、まだ決まっていません。


「俺に言われたってわからないよ…」 ミニシアター支配人の声
渋谷のミニシアター支配人 北條 誠人さん

見通しのきかない感染状況、そして二転三転する国の施策に翻弄され続けるミニシアターの関係者たち。サイレント・スタンディングの中には、以前取材をさせていただいたミニシアターの支配人の姿もありました。東京・渋谷でミニシアター「ユーロスペース」を運営する北條誠人さんです。
(※北條さんを取材した記事はこちら

宣言が解除されて一度は客足が戻りつつあったという北條さんのミニシアター。「まん延防止等重点措置」が東京都23区に適用されて以来、また少しずつ客足が遠のいていると言います。さらに、再び「緊急事態宣言」の発令が現実味を帯びてきた、ここ数日。映画の配給会社からは上映が予定通りできるのか、問い合わせが相次いでいると言います。

ミニシアター「ユーロスペース」支配人 北條誠人さん
「大型連休後に上映予定の映画の配給会社の人たちから、次の緊急事態宣言をどう考えたらいいのかと頻繁に連絡が来ています。正直、『俺に言われたってわからないよ』という思いです。こういう形の抗議で姿を見せて、危機感が高まっているのを感じてもらいたいです」


「こんなことで潰してたまるか」
ミニシアターや名画座などに通う男性はメッセージカードに「映画が好きだ」と加筆

SNS上で告知された今回のサイレント・スタンディング。現場には、SAVE the CINEMAのメンバー以外の姿もありました。「SNSで情報を見た」という都内に住む75歳の男性に話を聞きました。

自分で印刷してきたメッセージカードに「映画が好きだ」と書き加えたこの男性。子どものころから映画館に通ってきた大の映画ファンです。ミニシアターや名画座に今も通い、若手の無名だった俳優が作品を通じて、成長していく姿を見るのがとても好きだと言います。 SNS上の情報を見て、存続の危機にあるミニシアターのためにいてもたってもいられなくなり、今回のスタンディングに参加したと言います。

サイレント・スタンディングに参加した男性(75歳)
「映画文化が続いてきたのはそれだけ必要だったからだと思います。ミニシアターがあるから豊かな気持ちになる。生活に困ったときも、精神的に助けられた部分もあると思います。文化そのものがなくなるのは想像を絶することです。こんなことで潰してたまるかと」


1000件超の「#ミニシアターに協力金を」
サイレント・スタンディングと同時刻にSNS上には1000件以上の投稿が発信された

サイレント・スタンディングが行われた1時間の間に、SNS上でも動きが生まれていました。SAVE the CINEMAや「ミニシアターに協力金を」のハッシュタグをつけて、全国のミニシアターのファンや関係者が、メッセージを発信していました。

“マジでミニシアターがなくなると困る”
“ミニシアターは私にとって宝物のように大切な作品との出会いをくれました”

スタンディングには参加できないけれど、連帯して国に声を届けたい――1年前と同じように、ミニシアターを守りたいという声がタイムライン上に次々と流れてきました。発信された投稿の数は1000件以上。SAVE the CINEMAが始まった当初からのメンバーである、映画監督の西原孝至さんはスタンディング中、その声をスマートフォンで見つめていました。

「SAVE the CINEMA」メンバー・映画監督  西原孝至さん
「平日の昼間に東京でスタンディングをやっているので、来られない方もたくさんいます。 そういった方々の思いを表現できる場をSNS上にも作れないかと思って、今回も参加を呼びかけていました。SNSに加えて実際に現場に立って活動することも、いまミニシアターが置かれている状況や現状を可視化するためには必要なことだと感じています」



入り口にメッセージカードを置いた横浜のミニシアター
(画像提供:シネマ・ジャック&ベティ) 

中には、映画館の入り口にスタンディングと同じメッセージカードを掲げたミニシアターの投稿もありました。どのような思いでこの写真を投稿したのか、投稿主の横浜のミニシアター「シネマ・ジャック&ベティ」に話を聞きました。

こちらの映画館でも、時短営業の協力呼びかけを受けて、今年1月から、3月下旬まで時短営業を行っていました。通常であれば2つのスクリーンで、23時頃まで営業を行っているこのミニシアターにとって、1日あたり2回〜4回分の上映を休止するのは、大変な痛手だったといいます。

感染拡大を抑えたいという目標はミニシアターも同じでありながら、協力金の対象にならない。そして、補償を伴わない“お願い”や“要請”に右往左往させられ、苦しい判断をせざるをえない状況が続いている現状から、今回のスタンディングに連携したと言います。

シネマ・ジャック&ベティの担当者
「SNSで本日サイレント・スタンディングをするという情報は得ていましたが、当館が少ない人員で運営していることもあり、現場に伺うのは難しい状況でした。
ミニシアターを代表して、あるいは代理して行動してくださった方々の思いに胸が熱くなり、当館劇場入口の看板にロゴを貼りつけ、携帯で写真を撮影してすぐ投稿しました」


“静かな抗議”は届くのか


大きな声で主張することもなく、派手なパフォーマンスをするわけでもないサイレント・スタンディングは予定通り、午後1時に終了しました。ミニシアター関係者の“静かな抗議”は、国に届くのか――SAVE the CINEMAのメンバー何人かに話を聞きました。

「SAVE the CINEMA」メンバー・弁護士  馬奈木 厳太郎 まなぎ いづたろう さん
「一人ひとりの政治家に現状を伝えていると、耳を傾けてくれる人もいます。しかし、行政の対応は硬化しているようにも感じています。感染拡大を抑制するための措置はもちろん必要ですが、納得のいかない線引きでミニシアターが協力金を得られないのはおかしいと、引き続き声をあげていきたいと思います」

映画監督 西原 孝至さん
「1年前はプロジェクトがここまで長引くとは全く思っていませんでした。コロナ禍でこうやって、人が集まることには悩みもしましたが、ミニシアターが置かれている現状や、そこで働いている人たちの生活があることをまずは知ってほしいなと思っています」


この記事を書いている最中にも、東京・渋谷にあるミニシアター「アップリンク渋谷」が閉館を発表しました。
オンラインでの連携から、オフラインのサイレント・スタンディングへと活動の場を移すのは、参加するメンバーにとっても、決して負担の軽いことではなかったと思います。それだけの思いで開催した”静かな抗議“が、少しでも届けばと願わずにはいられませんでした。
皆さんはこの“静かな抗議”を、どのように受け止められるでしょうか。
(「みんなでプラス」取材班 ディレクター 板橋 俊輔)




あなたの身近で起こっている文化・芸術にまつわる課題について、教えてください。
現場で生まれた声を取材し、少しでも多くの人に届けます。


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