2020年10月16日

「SAVE the CINEMA」から半年 ミニシアターはいま《後編》

新型コロナウイルスの影響で、苦境に立たされる映画業界。中でも小規模な映画館「ミニシアター」は、休業に追い込まれるほどの打撃を受けるところもありました。こうした映画館を救おうと、ことし4月「SAVE the CINEMA」の運動が始まり、一大ムーブメントを起こしました。
あれから半年――いまも先行きが見えない中、「SAVE the CINEMA」のメンバーはミニシアターを救う“次の一手”のため、再び国へ働きかけることにしました。一方、若手の映画関係者たちはミニシアターを少しでも盛り上げたいと、別の道を模索しています。《前編》に続き、ミニシアターをめぐる最新の状況を取材しました。

記事の《前編》はこちら
(クローズアップ現代プラス ディレクター 板橋俊輔)

映画を救うための“次の一手” 再び国に要請へ

10月14日 文化庁に要望書を手渡す映画監督の諏訪敦彦さん


10月14日、「SAVE the CINEMA」プロジェクトをめぐり、新たな動きがありました。記事の《前編》でもお伝えした、文化庁による支援事業。その改善のために「SAVE the CINEMA」が再び、国に要請を行うことになったのです。

560億円超の予算が組まれた、文化庁による「文化芸術活動の継続支援事業」。現場の期待とは裏腹にミニシアターや映画の関係者の間では、“使い勝手の悪さ”を指摘する声が相次いでいました。申請の募集要項が難解であり、必要な書類を揃えて提出しても、申請内容や書類に不備を指摘されて何度も突き返されたという声や、いざ申請書類を提出しても審査時間が長く、すぐに必要なことに支援が使えないという声が後を絶ちませんでした。さらに、給付型ではなく、必要な経費は自己負担をした上で補助を受けるという制度の仕組みそのものも、厳しいハードルとなりました。いまの苦境を持ちこたえるための運転資金が足りないという切迫した映画関係者の中には支援の申請を見送る人もいました。

そこで今回、支援の使いづらさを指摘する声を同様にあげた音楽業界や演劇業界とともに、セーブザシネマは支援事業の改善を求めることにしたのです。


映画・音楽・演劇の3業界が提出した要望書に掲げられた9点の改善項目


要望書の項目は「事業の実施期間の来年3月31日までの延長」や「煩雑な申請の簡略化」、「事業の対象の条件の見直し」など、9つに上りました。その中には、多くの関係者が望んでいた自己負担をなくした定額補助、つまりは運転資金など喫緊の危機に対応するため、身銭を切らなくて済む“給付”を求める項目もありました。
趣旨に賛同した超党派の議員連盟も立ち会って行われた要望書の提出。終了後、記者会見が開かれました。
「まだ切迫感が伝わっていないのでは・・・」

要請後、3業界による記者会見が開かれた


新聞社やテレビ局、ウェブメディアなど20社以上が集まった記者会見。要請をした手応えについては決して、満足のいくものではなかったと言います。

「SAVE the CINEMA」メンバー/弁護士 馬奈木 厳太郎さん
「文化庁側はまだまだ文化・芸術の人が置かれた現状を把握しておらず、切迫感を感じていないという印象を受けました。」

同時に、会見では業界の窮状についても報告がありました。中には、「最近では、閉館を考えているというミニシアターの声もちらほら耳に入ってきている」というショッキングな話も現場から寄せられていると言います。「SAVE the CINEMA」をはじめ3つの業界では、文化庁の動向を見ながら、引き続き働きかけをしていくとしています。

「SAVE the CINEMA」メンバー/弁護士 馬奈木 厳太郎さん
「一度支援事業があったら、これで終わりというわけではありません。この危機は来年度も続くことが予想されるため、来年度予算に支援を盛り込んでもらうことも含めて、メンバーでスピーディーに検討していきたいと思います」


「SAVE the CINEMA」メンバー/弁護士 馬奈木 厳太郎さん


動き出した若手の映画監督たち SAVE the CINEMA “movement”
この先、ミニシアターはどうなるのか――
取材を続けると、このコロナ禍を機に映画関係者がつながることで、ミニシアターを盛り上げるきっかけにしようとする団体と出会いました。

「新型コロナを機に、逆に“ミニシアターに行ってみよう”と思ってくれる人を増やしたい」
苦境に立たされたミニシアターの取材を続ける中、前向きな言葉を語った2人の映画関係者。映画プロデューサーの雨無麻友子さんと、脚本家・映画監督の上村奈帆さんです。2人は、「SAVE the CINEMA」プロジェクトと提携する団体、「SAVE the CINEMA movement(以下、movement)」のメンバーです。


Instagramなどを活用してミニシアターの魅力を伝えるSAVE the CINEMA movement


「movement」は20代~30代の若手の映画監督や俳優、プロデューサーなど10数名が中心となり、ミニシアターににぎわいを生むための活動をしています。新型コロナウイルスの影響で、ミニシアターの危機が叫ばれた3月末に有志が集結。その後、協賛企業もつき、今では100名ほどのボランティアも参加して活動しています。メンバー間の連絡の手段はほとんどがLINE。この半年間、スピード感を持って活動を続けてきました。

なぜ、ここまで多くの“若手”がミニシアターのために動き出したのか――その背景には、若手映画監督とミニシアターの深いつながりがあると上村さんは言います。シネコンと違って独立した経営をするミニシアターでは、支配人が上映作品を選びます。 中には、まだ駆け出しの若手監督を応援しようと声をかけてくれるミニシアターもあり、それが自身の作品を世に送り出すきっかけの場となっています。感染拡大が日に日に深刻化していった今年の春、SNS上には若手の映画関係者の間で「何か自分たちにできることはないのか」という声があがるようになったと言います。

「SAVE the CINEMA movement」メンバー/脚本家・映画監督  上村奈帆さん
「若手の監督や制作者にとって、『これを上映したい』とミニシアターに選んでもらえるのはとてもうれしいことです。こうしたつながりは、ミニシアターにしかない貴重なものです。だからこそ、『このままだとやばいんじゃないか』『いま何か出来ることがないか』と何もせずにはいられず、若手の映画関係者が一斉に声をあげたのだと思います」

「新型コロナを機に若い世代にもミニシアターへ」


マップやスタンプラリー・・・ミニシアターに足を運んでもらう取り組みを次々と打ち出してきた


ミニシアターへの資金面での支援はクラウドファンディングが同じ時期に進んでいたため、「movement」が目指したのは長期的にミニシアターを支えることでした。新型コロナの影響による入場制限などがなくなり、再び映画館に足を運べるようになったとき、これまでミニシアターに馴染みのなかった新しいファンを獲得するための取り組みを始めたのです。ミニシアターは65歳以上のシニア層に支えられてきたところが多く、今回「movement」は若い世代へのアピールを意識しました。

例えば、全国のミニシアターに呼びかけて制作を始めたミニシアターマップ。各館の情報や特徴を劇場のスタッフに寄せてもらい、日々情報を更新しています。また、9月からは何度もミニシアターに足を運んでもらおうと、全国60館以上と協力してミニシアタースタンプラリーを開催。さらに、映画のレビューサイトや“インスタグラマー”と連携して、Instagram上でお勧めのミニシアターのことを、ハッシュタグを付けて投稿してもらうなど、発信にも力を入れてきました。こうした取り組みに参加している様子がSNS上で徐々に投稿されるようになり、ミニシアターへの関心が少しずつ広がっていることに2人は手応えを感じていると言います。

逆境が生んだ横のつながり 新型コロナを機に“声をあげていいんだ”


映画のレビューサイトやインスタグラマーとSNS上で連携 寄せられた投稿はシェアされて関心を広げている


これらの試みが生まれた背景には、これまでになかった“横のつながり”が生まれたことがありました。これまでは若手の映画関係者の間でも、なかなか知り合い以外との横のつながりはありませんでした。ところが新型コロナの感染が拡大する中で、強い思いを共有した仲間が連携し、「movement」の動きにつながっていったと言います。

「SAVE the CINEMA movement」メンバー/映画プロデューサー 雨無麻友子さん
「感染拡大の中で、『私も声をあげていいんだ』というポジティブな雰囲気が若手の映画関係者の間で生まれたように思います。一人だと、ふだんはなかなか身動きが取れませんでしたが、今後はさらにいろいろな団体やプロジェクトと連携して、若い世代にもミニシアターの魅力を伝えていきたいと思います」

スタートから半年、「SAVE the CINEMA」の活動はまだ続くと語ったメンバー。少しでもミニシアターの力になりたいと動き出す関係者が増えていることは、新たな希望にもなると、取材をしていて感じました。
引き続き、ミニシアターを取り巻く状況や、再起のために立ち上がる人々を取材し続けていきたいと思います。

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