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2020年10月8日

コロナ禍の映画業界―「SAVE the CINEMA」ムーブメントから半年 ミニシアターはいま《前編》

新型コロナウイルスの影響で、苦境に立たされる映画業界。中でも小規模な映画館「ミニシアター」は感染が拡大した4月~5月、休業に追い込まれるほどの打撃を受けるところもありました。こうした映画館を救おうと、ことし4月に「SAVE the CINEMA」というSNS上の運動が始まりました。ネット上から始まり、大きなうねりとなった取り組みからおよそ半年。映画界、そしてミニシアターはいまどうなっているのかを取材しました。
(クローズアップ現代プラス ディレクター 板橋俊輔)

「映画界を救おう」 #SaveTheCinema が生んだ一大ムーブメント
緊急事態宣言が発令された半年前、映画業界は大きな不安に包まれていました。作品を上映する映画館、とりわけ小規模な「ミニシアター」が閉館に追い込まれるのではないか――危機感を抱いた映画関係者はSNS上で警鐘を鳴らしました。そこで、声をあげた映画監督やミニシアターの支配人、弁護士などが集まり、「SAVE the CINEMA」プロジェクトが4月に始まりました。

SNS上でハッシュタグを用いて呼びかけ、ネットで集めた署名は9万筆以上。有志で政府に対して緊急支援を求める要望書を作成し、政府や関係省庁へ提出しました。 この動きと平行して「SAVE the CINEMA」と提携した支援団体が大規模なクラウドファンディングを実施。3万人以上から、目標額の1億円を大きく上回る3億円超の支援が集まり、全国118館のミニシアターに対しおよそ300万円ずつが分配されました。

5月には文化庁が、映画界に限らず演劇や音楽なども含めた文化芸術活動に対して、500億円を超える支援事業を決めました。
SNS上の「映画界を救おう」という声が集まって一大ムーブメントを巻き起こし、世の中を動かす様子をTwitter上で見ていた私はミニシアターに寄せる人々の思いの強さ、そして映画の持つ力をスマートフォンの画面越しに感じていました。


SAVE the CINEMAのSNSアカウント 呼びかけは映画関係者や愛好家に広く拡散された

ミニシアターはいま 入場制限は緩和されたけれど・・・「安心はできない」
あの“熱狂”から半年、ミニシアターは復活したのか――9月末、私はその現状を知るため、渋谷にあるミニシアター「ユーロスペース」へと取材に向かいました。
取材日の約1週間前、イベントの入場制限が緩和されました。これまで新型コロナの感染拡大を受けて、観客数を定員の半分以下にする対応を取っていましたが、19日からすべての座席を対象に観客を入れることができるようになったのです。


制限が解除された9月19日 マスクの着用や手の消毒、検温などの感染予防対策を実施

スクリーンの入り口に置かれたたくさんの消毒液など感染対策が施された以外は、以前と変わらない劇場内の様子。「客足も元通りに戻っているのかな」と楽観的に考えていた私の考えと裏腹に、ミニシアターの支配人・北條誠人さんからの言葉は深刻なものでした。

ミニシアター『ユーロスペース』支配人  北條誠人さん
「去年に比べて、観客の入りは8割ほどに回復しました。しかし全く安心はできません」

このミニシアターは緊急事態宣言が出た4月から5月にかけて、55日間に及び閉館していました。その間の売り上げはゼロ、それでも人件費などを支払わねばなりませんでした。「その頃に比べて8割まで戻ったのならもう安心なのでは・・・」と当初、私は安直に思っていました。ところが、事態はそんなに単純なものではなく、ミニシアターならではの事情により予断を許さない状況が続いていたのです。

ミニシアターとは? 日本の上映映画の70%が上映される“映画を支える場所”


ミニシアター「ユーロスペース」 1982年に開館した

ミニシアターならではの事情を説明する前に、そもそもミニシアターとはどのような映画館なのでしょうか。ミニシアターは、大手の映画製作会社や配給会社の直接の影響下にない独立した経営を行い、単館ないしは数館による公開を前提とした作品を中心に上映する小規模な映画館です。多くのスクリーンがある「シネコン(シネマコンプレックス)」とは違い、ミニシアターのスクリーン数は1~2つの所が多く、ミニシアターごとに上映する作品を独自に選んでいるため、劇場ごとに個性のあるプログラムを組んでいることが特徴です。
ミニシアターは全国に120館ほどあると言われています。

上映スクリーン数としてはシネコンが9割、ミニシアターは1割。ミニシアターは数は少ないながらも、商業的な成功を追求する作品よりも、アート系の映画や、ハリウッドのような大作映画ではない世界各国の映画、まだメジャーになっていない国内の若手監督の作品などを上演。“全米が泣いた”作品ではなく、一人ひとりの心に刺さる多様な価値観を提供し、日本の映画文化の多様性を担ってきました。

ミニシアターの全国団体「コミュニティシネマセンター」によると、2019年に日本で公開された作品のうち、70%がミニシアターで上映され、50%の作品はミニシアターのみで上映されました。ミニシアターが無ければ、50%の映画が上映の場所を失うことになるのです。

再び感染が拡大したら・・・先行きの見えないミニシアターの不安
話を元に戻します。8割の観客が戻ってきていても苦境にあるというミニシアターならではの事情、それは先述した上映のあり方が大きく関係しています。これまで、多くのミニシアターでは、人気作品の上映や舞台挨拶などの時に入場数を増やして収益を出し、その利益をユニークな作品やまだ無名の監督の作品上映に充てて、採算を合わせてきました。

そのためミニシアターの経営は“コロナ禍”以前から、決して余裕のあるものではありませんでした。そこに新型コロナによる打撃が加わることになりました。去年の8割近くまで観客の入場数が回復したからといって決して黒字になるわけではなく、油断のできない状況が続いている、それが多くのミニシアターの置かれた現状でした。

また、もしも客の入りが元に戻ったとしても、「再び感染が拡大したら」「ミニシアターでクラスターが発生したら」・・・不安はつきないと、ユーロスペース支配人の北條さんは言います。

ミニシアター『ユーロスペース』支配人  北條誠人さん
「シニア層、65歳以上のお客さんに支えられているミニシアターは多いです。この半年間ほど映画館から足が遠ざかっていた人が、果たしてまた戻ってきてくれるでしょうか・・・。入場制限は緩和されましたが、まだまだ先は見えません」


ミニシアター「ユーロスペース」支配人 北條誠人さん

#SaveTheCinemaから半年 映画界復活への課題はいまも山積
いまも不安定な状態が続いているミニシアター。その状況を誰よりも理解しているのが、半年前に一大ムーブメントを起こした「SAVE the CINEMA」プロジェクトのメンバーです。彼らはいまも月に2~3回、オンラインや対面で打ち合わせを重ねていました。大成功を収めたプロジェクトがいま、何を話し合っているのか――私は、打ち合わせの場を取材させてもらいました。

土曜日の夜、都内の会議室の一室に集まったのは映画監督や弁護士、映画館の関係者など。ビデオ会議での参加者もあわせると10名以上にのぼりました。打ち合わせには、ミニシアター「ユーロスペース」の支配人・北條さんの姿もありました。

打ち合わせの内容は、コロナ禍の映画界に様々な課題がまだ山積していることをうかがわせる内容でした。特にこの日話題になっていたのが、文化庁による支援事業についてです。


この日の打ち合わせには映画監督や弁護士、ミニシアター支配人などが参加

文化庁からの支援事業がスタートするも・・・支援額は予算のおよそ3分の2にとどまる
映画界に限らず、演劇・音楽業界とともに国に働きかけたことが後押しとなって決まった、文化庁による支援事業。新型コロナウイルス感染拡大の影響により活動自粛を余儀なくされた文化芸術関係団体などを対象に支援をするものです。今年度の第2次補正予算事業で、予算が500億円つきました。

支援の形式はフリーランスや団体など、対象によって3種類に分かれており、支援の上限は20万円から150万円まで。とても良い制度に見えますが、打ち合わせの場では、映画関係者から様々な声が寄せられていると報告がありました。

「申請の手続きが煩雑すぎる。用意する資料が多くて途中で挫折してしまった」
「周りの映画関係者も結局出さずじまいに終わりそうだ」

中でも特に多かったのが、「支援が給付ではなく、助成・補助のためのもので申請がしづらい」という声でした。


文化庁ホームページ

文化庁によると、この支援事業は
“感染対策を行いつつ、直面する課題を克服し、活動の再開・継続に向けた積極的取組等に必要な経費を支援し、文化芸術の振興を図ることを目的” (文化庁ホームページより)
としています。つまり、感染対策や新たな活動のために必要な経費の一部を、事後に補助するものでした。

例えば、感染対策のための消毒液や検温計などの対策グッズを新たに導入しようとした場合、その対策に必要な経費は、まず自己資金でまかなわなければなりません。コロナ禍で厳しい資金繰りを強いられている状況のミニシアターや映画の関係者にとって、支援を得るためには身銭を切らないといけないため、厳しいハードルとなりました。彼らが必要なのは、この苦境を持ちこたえるための運転資金であり、出費をして、その一部の補助を待つことになるこの制度では、使い勝手が悪いと言います。


新たな取り組みの実施に必要な費用の一部を事後に補助

この支援事業について、SNS上では「使い勝手の悪さ」を指摘する声が多く上がる一方、「申請が通って一安心した」と評価する声も挙がっています。ただ、文化庁によると実際に映画・演劇・音楽業界などの支援に充てられた総額は、予算の3分の2程度(約260億円~280億円)にとどまったと推計されており、十分に支援がいかされていないのが現状です。

支援事業への申請は9月30日に募集がいったん締め切られたものの、事業を延長する要望も寄せられていることから、文化庁は追加で募集を行うことにしています。

SAVE the CINEMAプロジェクト メンバー・映画監督 西原孝至さん
「文化庁の年間予算はおよそ1000億円、その半分近くにあたる予算を割いてくれたのはとてもありがたいことです。しかし、現場の“こうしてほしい”という声をもっと反映してもらえないと、せっかくの支援が十分にいかせません。ミニシアターや映画関係者の多くは、まだこれからも苦しい状況が続きます。次の一手を考える必要があるとメンバーでも話しています」


苦境に立たされた映画関係者が声を上げて半年。ミニシアターを始め、映画関係者は今も先行きが見えない不安を抱えていることが取材を通してわかりました。その一方で、映画文化の灯を消さないために、前へ進もうとする動きも生まれています。
《後編》では、若手の映画関係者やSAVE the CINEMAプロジェクトの新たな取り組みを紹介します。



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