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2021年8月13日

妻が『ワクチン打たない…』 誤情報が生んだ夫婦の亀裂

新型コロナワクチンを巡ってさまざまな情報があふれる中、根拠のない情報を目にして、不安を感じていませんか?その不安が増幅していった結果、「ワクチンは危険だ」という根拠の不確かな情報を信じ込んでしまうケースも少なくありません。今回、ワクチンの誤情報に翻弄され、夫婦関係に亀裂が走った当事者が取材に応じてくれました。幸せな家族に、いったい何があったのでしょうか。

(8月10日放送 フェイク・バスターズ「新型コロナワクチンと誤情報」から
取材:吉田達裕ディレクター)

新型コロナワクチンの最新情報はこちらから



ある日突然、妻が「ワクチンは危険だ」と言い始めた



取材に応じてくれたのは、関東地方に住む会社員の江戸川ジュンさん(仮名)。

妻のユカリさん(仮名)とは学生時代からの幼なじみで、明るく社交的な性格に惹かれたジュンさんが猛アプローチをし、10年前に結婚しました。
2人の子どもにも恵まれ、家族4人で幸せに暮らしてきました。

しかし今年の初め頃、新型コロナワクチンに関するニュースが報じられようになると、妻は突然、気になることを口にし始めました。

妻 「ねえ。コロナのワクチン、絶対打たないでね」

夫 「えっ!? 急になんだよ」

妻 「ワクチンを打つと死ぬかもしれないんだって。SNSでみんなが言ってるの」





夫 ジュンさん(仮名)
「突然、妻が『新型コロナワクチンは危険だ。家族にその危険なものを打たせたくないから、打たないでほしい』ということを言い始めまして・・・。普段の妻の様子とは違ったので、驚きましたね・・・」

妻が陥ってしまった「フィルターバブル」のワナ

これまで妻は、ワクチンに対して特に強い関心は持っていませんでした。
子どもたちにも「任意接種」のものも含めて、国が推奨しているワクチンを受けさせていました。

それなのになぜ、突然そんなことを言い始めたのか。

ジュンさんは、妻が口にした「SNSの情報」がどんな内容なのかか知りたいと考えました。
ジュンさん自身はこれまでSNSはほとんど使っていませんでしたが、フェイスブックに登録し、妻に「友達」になってもらいました。



妻は以前から、家族の健康を気遣い、自然食品やサプリメントに強い関心を持っていました。フェイスブックでもそうした情報を発信している人たちとコメントを書き込み合うなど、積極的に交流している様子でした。

しかしそのうちの一部の人が、「国やメディアはワクチンの重大な健康被害を隠している」という根拠のない主張を、繰り返し投稿していたのです。

中には、個人でクリニックを運営している医師など、医療関係者による投稿もありました。

夫 ジュンさん(仮名)
「とんでもないことを言っている人たちが、妻の周りにいっぱいいたんです。しかも、その人たちをフォローしているだけではなくて、その投稿に対して『いいね』をつけているので、応援をしているというか、自分もその意見に同意しているという状態ですよね。それを見て、衝撃的でした」
ごく一部の医療関係者が、ワクチンの誤情報を拡散している現状については、
こちらの記事 でもくわしく解説しています。


時間が経つにつれて、妻のタイムラインには同じような書き込みばかりが並ぶようになっていました。

ネットやSNSで同じような情報ばかりが表示される現象は、「フィルターバブル」と呼ばれています。

フォローをしている相手や過去に検索した履歴などを元に、アルゴリズムが、その人に興味を持ちそうな情報を自動的に表示するようになっているためです。



フィルターバブルによって同じような情報に囲まれると、自分とは異なる意見が目に入りづらくなってしまい、「目にしている情報が正しい」と思い込みやすくなります。

「その情報はデマ」 妻の“説得“を試みるも・・・

危機感を感じたジュンさんは、国が発表している情報やメディアの報道をもとにして、妻の説得を試みました。

夫 「ユカリが見ている情報は根拠がないデマ!信じちゃダメだ!」

妻 「じゃあ“100%安全”って言い切れるの? 
   あなたの方こそ、だまされてるんじゃないの?」




夫 ジュンさん(仮名)
「私が、『国はワクチンの安全性についてこういうふうに説明しているんだから大丈夫なんじゃないの?』と伝えるんです。するとその投げかけに対して妻は『あなたは、なんで国やテレビが言っていることをそのまま鵜呑みにしてしまうの?』と返してくるんです。ずっとその繰り返しで、堂々巡りなんです」

なぜ妻のユカリさんは、夫であるジュンさんの言葉よりもSNSの情報を信じるのでしょうか。

取材を重ねる中で、ユカリさん本人から話を聞くことができました。



妻 ユカリさん(仮名)
「国としては『ワクチンを推奨したい』というところがあるとは思っているので、そういう姿勢が、すごく偏ってるように思います。国やマスメディアが『ワクチンを打っても大丈夫』と言っていても、ネット上にそれとは正反対のことを言ってる人がいっぱいいる中で、『100パーセント安全とは言えないんじゃないか』と疑ってる自分がいます。

安心して打っても大丈夫なワクチンであれば、私も打ちたいと思っています。ただ、今の段階だと、そうは思えない。私もむしろ確かなものが欲しいんです」


ワクチンの情報について夫婦の意見の溝が埋まらない中、ユカリさんは次第にジュンさんを避けるようになりました。
風呂場やトイレに長時間閉じこもり、スマホにかじりつくようになりました。

そして、ジュンさんにとってさらに衝撃的なできごとが起きました。 幼い子どもまで「ワクチンは危ない」と口にし始めたのです。

長男 「ワクチンは危ない人体実験だから、絶対に打っちゃダメなんだよ~」





夫 ジュンさん(仮名)
「妻が子どもたちに言ったのか、それとも私たちの会話を聞いていたからなのか、はっきりしたことは分かりません。ただ、子どももそういう思想を持ち始めていることが、ショックでした。今までは、普通の幸せな家族だったと思うんです。でも、ワクチンの情報によって、子どもにまで悪影響が出始めていて・・・。もう完全に、実害ですよね」


妻の両親に届いた「ワクチン接種券」

ワクチン接種が本格化した6月。妻の両親のもとに、自治体から接種券が届きました。

それ以前から妻は両親に対しても、「ワクチンは危険だから打たないで欲しい」と訴えていました。もはや見過ごせないと考えたジュンさんは、妻と両親の4人で話し合いをすることに決めました。

話し合いの当日、妻は顔を合わせた両親に向かって「ワクチンを打つと、周囲の人に有害なものがうつる」と主張しました。
SNSで拡散されていた誤った情報で、科学的な根拠がないと公的機関や専門家が明確に否定しています。

ジュンさんと妻の両親は説得を試みましたが、妻の態度はかえって頑なになっていきました。

妻 「もしお父さんとお母さんがワクチンを打ったら、私もう二度と会わないからね」

父 「おい、ユカリ・・・」

夫 「ちょっと待て! じゃあ、俺が打ったらどうするんだよ!」

妻 「一緒に生活はできません」





夫 ジュンさん(仮名)
「『もう夫婦ではいられない』という回答でした。言葉で表せないぐらいのショックっていえばいいんですかね。このままにしていたらまずいとは思っていたんですけど、それが具体的に、家族の崩壊に結びついた瞬間でした。ネット上の話だと思っていたものが、現実の危機になってしまった」

「説得」ではなく「相手の気持ちを聞く」

なんとかして妻の考えを変える方法はないのか。

ジュンさんは、デマや陰謀論などに関する記事を読みあさり、必死にヒントを探しました。

その中で目にとまったのが「相手の話を否定せずに聞くこと」という専門家のコメントでした。



「相手が口にした“言葉”よりも、相手がなぜそのように思ったのかという“心”の面に寄り添うこと」が大切だと、紹介されていたのです。

夫 ジュンさん(仮名)
「妻を、本気で連れ出したいって思ったんです。妻の言葉を頭ごなしに否定してはいけない。まず大前提としてそうしなくちゃいけない」


半年ぶりに心が通じ合った夜



説得を始めてから半年が経った夜のこと。
ジュンさんは、これまでとは違う口ぶりで、妻に話しかけました。

夫 「ユカリがワクチンに反対するのは、どうしてなの?」

妻 「・・・家族を守りたいから。大切な家族に万が一のことがあったら嫌なの・・・」

夫 「そこまで家族のことを考えてくれてありがとう。その気持ちは俺も一緒だよ」

妻 「・・・うん」





妻は、夫の話をどう受け止めたのか。
ユカリさんに尋ねると、その夜のことをこう振り返りました。

妻 ユカリさん(仮名)
「寄り添って、丁寧に、私がどう思っているかまで調べた上で言ってくれている言葉だと思ったので、真剣に聞こうと思いました。夜な夜なずっと話し合って、主人が自分に対してすごく深い思いを抱いてくれているんだと感じましたし、ホントかウソか分からない情報で相手を傷つけたり、つらい思いをさせたりするのはおかしいことだと気づきました。

まだお互いにいろいろと思うことはありますが、『家族が大事』だという共通のベースを大事にしながら、これから一緒にどう生きていくかということを考えたいなと」

少しずつでも、一緒に出口を見つけたい

この日をきっかけに、少しずつ2人の会話が増えていきました。

ユカリさんは今もまだ、ワクチンへの不安がぬぐいきれたわけではないと言います。
それでもジュンさんのすすめに応じて、科学的根拠に基づく情報に意識的に触れるようになりました。

少しずつですが、「フィルターバブル」から抜けだしつつあります。



夫 ジュンさん(仮名)
「早く出口を一緒に見つけたいなと思っています。たぶん乗り越えられると思っていますし、また、今までどおりの幸せな生活に戻れるんじゃないかなと思っています」




※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。