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2021年8月11日

新型コロナワクチン “不妊デマ”はなぜ拡散し続けるのか?

「新型コロナワクチンを打つと不妊になる」という科学的根拠がない情報がネット上で拡散しています。多くの専門家が否定しているのにも関わらず、なぜ誤情報が広まったのか?そもそも誰が発信しているのか?専門家の協力を得て、SNSのビッグデータを分析したところ、拡散の構造が見えてきました。感染拡大に歯止めがかからない中で、誤った情報に惑わされないためにはどうしたらいいのでしょうか。(ネットワーク報道部・斉藤直哉記者)

(8月10日放送 フェイク・バスターズ「新型コロナワクチンと誤情報」)から

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“不妊デマ” 20万件の徹底投稿を分析



私たちはまずツイッターで「ワクチン」と「不妊」という言葉が含まれる投稿を分析しました。対象は去年12月から6月までの投稿で、リツイートを含めて約20万件です。

内容をみると、ことし4月までは「ワクチン接種で不妊になる」という、多くの専門家が否定している情報が主に広がっていて、5月からは医師やメディア、公的機関などがそれを打ち消す、「ワクチンで不妊になるというのは誤った情報だ」という情報が広がっていました。

2つに分断されたアカウント群 異なる意見入りづらく



私たちは、情報を投稿したアカウントどうしの関係を、わかりやすく、上記のような図に表しました。こちらの図では、ひとつひとつの点が、情報を投稿したひとつひとつのアカウントを表しています。細い線は、投稿をリツイート(シェア)したアカウントどうしを結んでいます。

赤色のかたまりが、主に「ワクチン接種で不妊になる」という投稿をしている集団で、青色が、「誤った情報だ」と打ち消す投稿をしている集団です。意見が近いアカウントどうしで投稿をシェアしあって、2つの色の集団ができあがっています。

「エコーチェンバー」と呼ばれる現象で、自分と同じ意見を持つ人の情報ばかりをネットで共有することで、異なる意見が目に入りにくくなり、分断が生じていることがうかがえます。

”発信源”は少数のアカウント

次に、ワクチンで不妊になるという情報を投稿しているアカウントのみについて、アカウントどうしの関係を詳しく調べました。



放射状に広がっている細い線のなかに、いくつか大きな丸があります。これが特に多くシェアされた情報を発信しているアカウントです。

分析の結果、全体で数万のアカウントのなかで、「上位20の発信者」の投稿だけで、全体の約4割を占めていました。最も多い発信者では2500ものアカウントにシェアされていて、限られた少数の発信者が大きな影響力をもっていることが分かりました。

厚生労働省や各国の研究機関は相次いで否定

特に多くシェアされていた投稿をみると、「ファイザー社の元職員が、コロナワクチンを接種すると無期限の不妊になると発言した」という情報が目立ちました。ワクチンの開発元の関係者による「内部告発」だとして、去年12月上旬から広がり続けています。

この情報について厚生労働省や海外の研究機関は、「ワクチン接種で不妊になる科学的根拠はない」と否定しています。

厚生労働省はホームページで、
・新型コロナワクチンには、排卵や妊娠に直接作用するホルモンは含まれていないこと
・卵巣や子宮に影響を与えることが知られている化学物質も含まれていないこと
などと説明しています。

また実際にワクチンを接種した妊娠中の女性のその後を調査したアメリカの研究チームの結果にも触れていて、そこでは「ワクチンを接種した人の流産率」が「自然に発生する流産率」を上回ることはなく、「ワクチンが妊娠に与える好ましくない影響は確認されませんでした」と、妊娠中の女性への調査結果を紹介しています。

より専門的な説明としては、医師らでつくる「こびナビ」というグループのホームページで専門用語をまじえて説明されています。



「こびナビ」のホームページでは、拡散した情報の中にある「ワクチンによってつくられる抗体が女性の胎盤を攻撃する」ことはないと考えられる、と説明しています。

しかし、こうした「ワクチン接種と不妊との関係を否定する情報」を国や専門家たちが発信しても、不安を訴える投稿の拡散は止まらず、「ワクチンによる不妊」のまとめ記事を紹介する投稿だけでも、5月以降で2000回以上繰り返し投稿されていました。

ワクチンが「なんとなく不安」という理由から接種を控えている方もいると思います。そうした方は「ワクチンへの不安」と「コロナ感染のリスク」について、妊娠中の女性の実体験をもとに解説した こちらの記事 もあわせてお読みください。


誤情報が広がる背景に”拡散者”の存在

科学的に否定されている情報なのに拡散し続ける背景には、熱心に情報を広めようとする「拡散者」の存在があるといいます。

SNSビッグデータ解析の専門家である東京大学大学院 鳥海不二夫教授は、ことし1月から7月はじめまでに投稿された、「ワクチンによって不妊や流産になった」(科学的根拠がなく多くの専門家が否定している)「ワクチンは人口削減のための毒」(いわゆる陰謀論)などといった投稿、約62万件を分析しました。

クラスタリングという手法を用いて、内容が似ている投稿をグループに分けたところ、「ワクチンで不妊や流産」という投稿は28万件余りで、科学的根拠を示して打ち消す投稿の17万件余りを大きく上回っていました。

ところが投稿しているアカウントの数に注目すると逆の結果でした。根拠のない投稿をしたのは約5万アカウント、情報を打ち消す投稿は8万アカウントで、打ち消す投稿をしたほうが多くなっていたのです。

それなのになぜ?



東京大学大学院 鳥海不二夫教授
「根拠が無い情報を否定する人は『これはデマだと1回発信すればそれで役割は終わり』と思ってしまいますが、それを信じている人は『またこんな情報が出てきた』と新しい情報が出るたびに内容を更新して拡散するということだと考えられます」




さらに積極的に情報を発信している「発信者」の投稿を熱心にリツイートを繰り返す、いわば「拡散者」が、根拠のない情報をより多くの人に広めていると鳥海教授は分析します。

分析では全体の投稿の約50%を、拡散者たちがリツイートした少数の発信者の投稿が占めていました。

さらに拡散者のアカウントのふだんの投稿やリツイートの傾向を分析したところ、異なる主義主張の人たちが、コロナワクチンについてはいわば“党派を超えて”拡散に加わっていることがうかがえました。

例えばふだんの投稿は、
▽アメリカ大統領選にまつわる陰謀論をよく投稿していたり、
▽日本の外交や安全保障をめぐる話題を投稿していたり、
▽あるいは「集団ストーカー」や「電磁波」など犯罪や疑似科学についての話題を投稿していたりするグループなど合わせて15ものグループが確認できました。



東京大学大学院 鳥海不二夫教授
「私が過去に分析したケースでは、特定の政党への思いがある人たちが広めていたことが多かったのですが、ワクチンについては“党派を超えて”広げていると感じました。情報を否定されたことで、真実を知っているのは私たちだからもっと広めなければいけないと考えた人も一定数いるようです」

取り込まれないためにはどうしたら?

さらに、こうした不確かな情報が拡散者ではない一般の人にも届きつつあると鳥海教授は指摘しています。



東京大学大学院 鳥海不二夫教授
「エコーチェンバーと呼ばれる特定の人たちのなかだけで情報が回っている状況にあったのですが、ことし5月から状況が変わりつつあります。少しずつではありますが、特定のグループではない人たちも誤った情報を拡散するようになりつつあります。ファクトチェックや公的機関の発信が広がったのと同時に、こういった情報(デマ)があるということを知ってしまう人も増えているとみられます」

ワクチンの接種の判断にあたっては信頼できる情報が不可欠ですが、ワクチンをめぐる不確かな情報に私たちが取り込まれないためにはどうすればいいのか。
鳥海教授は一度信じてしまったあとの行動が大事だとアドバイスしています。

東京大学大学院 鳥海不二夫教授
「まず、デマは必ず存在すると思っておいたほうがいいです。そして、デマは必ずしもデマの顔をしてやってきません。もしだまされたとしても、そのあと新しい情報が得られたら、それに応じて考えを変えていくというスタンスが大事です。信じていた情報が間違いだったと気づいたときには、過去の自分の言動にとらわれすぎないように柔軟に情報に向き合っていけるといいと思います」


※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。