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2021年8月2日

ワクチン情報をめぐる”分断” どう乗り越える 「フェイク・バスターズ」未公開トーク【後編】

新型コロナワクチンをめぐり根拠の不確かな情報が飛び交っています。
信頼できる情報を見極めるにはどうすればいいのか?
8月10日放送の「フェイク・バスターズ」から、放送でご紹介できなかった部分も含め、スタジオでの議論をお伝えします。<前編はこちら>

新型コロナワクチンに関する最新情報はこちらから


宇野常寬さん(評論家)
ネット社会に対する鋭い批評で知られる

一青窈さん(歌手)
ワクチンへの不安から、根拠の不確かな情報に翻弄された経験をもつ

古田大輔さん(ジャーナリスト)
フェイク情報やファクトチェックなどについて詳しい

関屋裕希さん(心理学者)
メンタルヘルスの専門家。「不安」と向き合う方法に詳しい

山本健人さん(医師)
「外科医けいゆう」としてSNSなどでわかりやすい医療情報を発信


ワクチン情報をめぐる意見の対立



宇野 常寬さん(評論家)
いま、SNSで偏った情報をただ浴び続けている人たちと、それを一呼吸置いて受け取る人たちの世界が、本当に別のものになっていると思うんです。この分断の問題をどう思いますか。

古田 大輔さん(ジャーナリスト)

本当に難しいんですよね。ただ分断ってすごく強調されがちなんですけれども、その間には分厚い中間層があるんです。情報を発信する時には相手の状況を考える必要があると思います。

自分と完全に反対のことを言っている場合には、まず「2人の共有点は何か」っていうところを見つけることが必要だし、迷っている中間層の人たちに広く発信する場合には、「データはこうだよね」というのを見せることも必要だし、その場に応じて使い分けるしかないと思います。

一青窈さん(歌手)
「ワクチンを打たないほうがいい」って言ってる人たちも、そもそもは「このコロナの局面をみんなで乗り越えたいよね」って思ってるんですよね。

古田

どこが一致しているかを最初に聞いたほうがいいと思うんですよね。共通点が見つかれば、そこから会話を始めることができる。

宇野
対話に関して言うと、相手の揚げ足をとって「論破しちゃった」みたいなこと多いじゃないですか。「俺はお前よりも知性が高いんだ」とドヤ顔するような、ああいったコミュニケーションになると、説得もクソもないですよね。

山本 健人さん(医師/「外科医けいゆう」)

宇野さんの意見に賛成です。論理で物事を理解してきた人は、論理的な説明をすれば「相手も自分と同じ考えになってくれるはず」という落とし穴に陥りがちなんだと思います。しかも相手が身近な人だと「助けたい、力になりたい」っていう気持ちが強くて、さらにアクセルを踏んでいくんですね。

古田
ファクトチェックって理詰めなんです。論理でデータをバンバン並べて「ほら、だからこの情報は間違ってますよ」「これはミスリーディングですよ」って。
もちろんファクトチェック自体はすごく重要です。ただ1対1のコミュニケーションの時に「こういうデータがあるからお前の言ってることは間違ってる」って言ったら、相手はカチンと来ますよね。真っ向からのけんかになっちゃうので、ファクトチェックをやる相手や場面を考えないといけないですね。

関屋 裕希さん(心理学者)

論理やエビデンスのようなものではない、“気持ち”の部分を口に出す機会が限られてしまう状況はあると思います。
不安や曖昧さの中にいることを受け止める時間だったり、家族と話をする機会。それがないと“わかりやすいカード”を見て「よし、これ!」ってなってしまう。
この情報の世界を生きていく上で、論理的整合性があることはもちろん大事なんですが、身近な人とコミュニケーションをとる中で、“感情”についてもっと話をした方がいいんだろうなって、すごく思います。

宇野
いま、世の中みんな不安ですよね。わからないことばかりの中でさっきのVTRにもあった「家族の健康がとても心配です」という気持ちもよくわかる。そんなとき、色々なことが解き明かされる“魔法のカード”がほしいって、やっぱり人間は思っちゃうんですよね。
ワクチンデマがたちが悪いと思うのは、本当に聞かなくてはいけないその“小さな声”を押しつぶしてしまうことなんです。ある種の誘惑に満ちた1枚のカードを差し出すことで、不安と粘り強く付き合っていく訓練を積むとか、クッションになる人間関係を育む可能性を、押し潰してしまっているんじゃないかと思うんですよ。

ごく一部の医師による“誤情報”の発信



新型コロナワクチンの情報について取材をすると、ごく一部の医療関係者が、科学的根拠のない情報を発信していることがわかりました。国や学会が否定している誤情報をブログや動画で繰り返し発信し、それが「ワクチンは危険だ」と主張する人たちに引用されて、拡散されています。そうした投稿やアカウントのいくつかは、大手プラットフォームによって警告が表示されたり削除されています。(詳しくはこちらの記事へ)

宇野
十分に証拠がそろっていない情報を流している中には、医療関係者もいるということなんですが、けいゆうさんは医師として率直にどう思われますか。

山本

お答えが難しい質問ですけれども、新型コロナに限らずがんの領域でも昔からあるんですよね。パターンもいくつかあって、「誰かのためになりたい」という真摯な思いで言っていることが実は誤っている場合とか、自分の利益のためにやっている人とか、一概には言えないと思います。
難しいのは、医学や科学が発展していく上で『仮説を立ててみんなで検証する』ことは欠かせないプロセスだということです。ですので、仮説を主張することには、ある程度の自由が担保される方がいいとは思うんです。
その上でお話ししたいことは2つあって、まず情報の受け手についてですが、特定の人に対して「この人の言っていることはいつも信頼できる」と考える習慣は結構危ないと思うんです。
重要なのは、多くの専門家の意見が一致している部分、いわば“最大公約数”を拾っていくことだと思います。黒か白かで言うと、“より白寄り”の部分ですね。そういう情報は大体が信頼できる研究結果を出典として明示していて、エビデンスがあるんです。

一青窈
うーん、なるほど。

山本

もう1つは、誤情報を流しているような専門家を見かけて、激しい論争をするときは気をつけた方が良いということです。
両方とも専門家同士なので、知らない人から見ると、明らかに一方が間違っていても、どちらにも一理あるかのように見えてしまう。互角の戦いに見えて、逆効果になることもあるため、誤情報を指摘する側にも慎重さが求められると思っています。

宇野
専門家同士で論争すると、かえって誤情報の拡散を助長してしまう危険があると。
これどうしたらいいと思いますか?

古田

本当に難しい問題ですね。放っておくと、不正確なことを言っている専門家が勝利宣言をしてしまうんですよね。「ほら、やっぱりわれわれの言っていることが勝ってる」って。それも問題なんですよ。
僕が思うのは、誰かがちゃんとファクトチェックをやるべきだということです。疑問に思った人がネット検索したとき、必ずファクトチェックされた情報も見れる状況にしておく。それがないと、本当に間違った情報が広がってしまうので。

宇野
みなさんのお話を聞いていて思うのは、ちゃんと検証されていない情報を鵜呑みにするというのは、まさに「未検証の情報のワクチン」を打っているのと同じなんじゃないかということです。
「ワクチン」か「反ワクチン」かがあるんじゃなくて、「検証された情報」と「検証されていない情報」があるだけなんだと思うんですよね。この本当の問題を、どうしっかり伝えていくかが大きいのかなと思います。


感染防止には信頼できる情報が不可欠 立ち上がった医師たち

「信頼できるワクチンの情報を発信することが、感染拡大を食い止めることにつながる」。そんな思いをもった医師たちが、今年2月、あるチームを立ち上げました。その名も「こびナビ」。「こび」はCOVID-19の頭文字、ナビは案内役(ナビゲーション)からとりました。感染症専門医やウイルス研究者、公衆衛生の専門家など30人ほどがボランティアで参加。ネットやSNSをフル活用し、科学的根拠に基づいた情報を毎日発信しています。

宇野
古田さんは「こびナビ」の活動についてどう思いますか?

古田

「一度考えが固まった人は、なかなか考えを変えないんじゃないか」という方もいますが、正しい情報発信というのは確実に良い影響を広げていく。「こびナビ」メンバーの方が「なんで続けるんですか」という質問に、「私が情報発信を続けないと」とおっしゃっていましたが、そのためにすごく地道に頑張っている方々がいるんですよね。そういうこともより広く知ってほしいと思います。

宇野
けいゆうさんは「こびナビ」に近い活動をされてますよね。

山本

私が何か語るのもおこがましいんですけれども、私自身も数年前から仲間と一緒に情報発信を続けてきて、そのなかでひぼう中傷を浴びることも頻繁にあったんですけれど、新しい発信のかたちをつくることは痛みを伴うものなのかなと、お互い励まし合ってやってきました。
ただ正直言って、こういう状況だと持続性がないというか、社会的意義はあってもこれを後輩に勧めるのは、今のままだと難しいなと思うんですよね。あまりにも大変だし、しんどいし、全部手弁当でやらないといけなかったり、すごく難しいです。
僕たちの本分は、やはり医療現場で目の前の患者さんのために全力を尽くすことだと思っています。発信については、その道のプロであるメディアとうまく連携していくことがやっぱり重要になってくると思います。
それとともに学会とか公的機関とかと連携して、組織の中で自分たちの身を守りながら発信をしていく。その仕組みづくりをすることが大事なのではないかなと思いますね。

宇野
必ずしも情報発信の専門家でもないお医者さんたちに、結果的に押しつけている状態になっていると。関屋さんはこの問題についていかがですか。

関屋

そうですね、論文をたくさん読み込んで「発信しても大丈夫」っていう合意を得るのは、すごく時間がかかります。私もそうなんですが、エビデンスのあることを言おうとすると、どうしても口が重くなるというか回りくどくなってしまうところがあって、いつも発信する時に悩んでいます。
だから今、けいゆうさんが言ったみたいに、メディアの人と連携する意味は大きいと思います。

古田
こういう活動をどう支援していくか、ということでいうと、こびナビの人たちに対する一番の応援は「こびナビの発信を見て私はワクチン打ちました」と言ってくれることじゃないかと思います。


ミスリードを防ぐために メディア・プラットフォームの役割



ワクチンに関する明らかなデマや確かな情報が氾濫する中、事実に基づいたニュースでも、誤解を生むことがあります。たとえば「ワクチンを接種した人がその後死亡した」というニュースでは、死亡とワクチン接種の間に因果関係があるかはわかりません。しかしニュースを見た人が「ワクチンの副反応で死亡した」と、誤って受けとるケースも少なくないと言われています。情報を伝えるメディアや大手プラットホームは、対策を迫られています。

宇野
メディアや大手プラットフォームのワクチン副反応の伝え方については、どう思いますか。

古田

例えば一時期、「ワクチン接種後に○人死亡」っていう速報がよく流れてましたよね。あれを見ると「ワクチンを打ったら人が死ぬんだ、怖い」っていう印象を当然持ちますよね。ワクチン接種後に死亡したこと自体は厚生労働省などから発表されるし、間違いはないんです。
ただしですね、日本ではワクチンに関係なく、1日に3,800人くらいの方が亡くなっています。これまでに1回以上ワクチンを接種した人が4,000万人(※6,000万人)を超えているので、単純計算でそのうち1日1,200人(※2,000人)ぐらいの方が亡くなっても、統計的にはおかしくないんです。

※かっこ内は、8月11日時点の統計を基にした数値
もちろん中にはワクチンが原因の可能性があるかもしれないので、役所は発表します。ただ、発表があったからメディアはそのまま速報を流していいんですかと。
メディアの中にも、丁寧な但し書きをつけて出しているところもあります。「ワクチン接種後に死亡したけど因果関係はわかっていない。でも透明性を高めるため発表してます」といったように。その一方で、単に「接種後に死亡」と報じてしまうところもあって、正しい情報だとしても間違った印象を与える可能性があります。
より読者のことを考えて情報発信をする責任が、メディアにはあると思ってます。

宇野
けいゆうさんはどう思われますか。

山本

事実を伝えることは大切なんですけれども、それと一緒に「事実をどう解釈するか」の“手引き”を一緒に伝えることも大事だと思います。
副反応にしても、因果関係があるのかないのか、それが何かと比べて多いのかなど、解釈をすべて読者や視聴者自身にゆだねてしまうと、反射的に「これは不安だ」とか「これで安心だ」という感情が生まれて、それがすぐに行動に反映されてしまうと思います。

関屋
自由に解釈すると、どうしても恐怖や不安が強まる方向にいってしまいますよね。

山本

解釈をするためには、統計的なデータを扱うための専門知識が必要になります。メディアが事実だけを伝えて「解釈の部分は視聴者にお任せ」と丸投げするよりは、専門家がどう解釈しているかについての情報も一緒に伝えるほうが望ましいと思いますね。

宇野
僕はまず、メディアが進化する必要があると思います。ジャーナリズムの中でも特にマスメディアは、これまで守られてきた歴史があって、その中で、ネットの飛ばし記事ほどではないにせよ、エビデンスが不十分な記事もこれまで出てきたんだと思うんです。例えば、相関関係しかないのにあたかも因果関係があるように書いてしまったり。これはある種の印象操作につながってしまう。

その上で僕は、メディアとファクトチェックがもっと緊張関係を持つべきだと思うんです。記者は記事を世に出す時に、ファクトチェックを本当にくぐり抜けられるのかを真剣に考えるべきだし、ファクトチェックする側も、影響力の大きいマスメディアにもっと注意を向けるべきだと思うんですよね。

不安を情報で埋めないために



宇野常寛さん(評論家)
今日たくさん話しをしてきて、最後に視聴者の方に伝えたいことをそれぞれお願いできればと思います。
一青窈さんいかがでしたか。

一青窈さん(歌手)

自分の考えと対極にあるようなものも含めて、なるべく満遍なく情報を拾って自分の考えをアップデートしてくことをみなさんに勧めたいですね。わたし自身もそうしているので、いま迷っている方がいたら、自分と同じような意見ばかりを摂取するのではなく、違う意見も見てほしいなって思います。

宇野
けいゆうさんお願いします。

山本健人さん(医師/「外科医けいゆう」

僕は医療現場で、いろんな方の不安とか恐怖を毎日見ています。不安や恐怖が心に渦巻いている時に、情報を適切に解釈するのはすごく難しいです。こうした危機に日頃から備えておこう、というのが一番伝えたいことです。
自分や家族にとって幸せな判断ができるように平時から備えておく。そのためにどんなところから、どんなふうに情報を集めればいいのかをいつも考えてほしいと思います。

関屋裕希さん(心理学者)
私は不安とのつき合い方という点で、2つお薦めしていることがあります。1つは書き出すこと。目で見える状態にしてみると少し落ち着いて考えられる状態になります。
もう1つは口に出すことです。自分の家族とかパートナーとか、大切な人とちょっと話し合ってみる。もちろんこれで不安がすぐに解消するわけではないので、つき合い続けて、抱え続けていくことも大事だと思います。

宇野
僕はね、不安を情報で埋めないことが大事なんじゃないかと思うんですよね。パンデミックの不安の中で、「この情報を信じたら自分の不安が解消できる」というのはやはり危険だと思います。そうした心理状態だとまったく検証されてない情報も平気で受け入れてしまう。それはやはり“未検証のワクチン”を体に打つ行為と一緒なんだと思うんですよね。
1人で世界に孤独に向き合った時に「情報Aと情報Bどっちが検証されたものか」をゼロから考える、これが大事なんじゃないないかなと思いました。
みなさん今日は長い時間、ありがとうございました。