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不安なときこそ”デマ”に注意 「フェイク・バスターズ」未公開トーク【前編】 

新型コロナワクチンについて、不安をあおるさまざまな情報が飛び交っています。専門家はこうした情報の氾濫が、感染の収束を遅らせかねないと警鐘を鳴らしています。
信頼できる情報をどう見極めればいいのか。8月10日放送の「フェイク・バスターズ」で話し合いました。

新型コロナワクチンに関する最新情報はこちらから

出演者

宇野常寬さん(評論家)
 ネット社会に対する鋭い批評で知られる
一青窈さん(歌手)
 ワクチンへの不安から、根拠の不確かな情報に翻弄された経験をもつ
古田大輔さん(ジャーナリスト)
 フェイク情報やファクトチェックなどについて詳しい
関屋裕希さん(心理学者)
 メンタルヘルスの専門家。「不安」と向き合う方法に詳しい
山本健人さん(医師)
 「外科医けいゆう」としてSNSなどでわかりやすい医療情報を発信

医療情報はすべて“グレー” 信頼できる情報を見極めるには?

宇野 常寬さん

今日は『新型コロナワクチンをめぐる誤情報』について見ていこうと思うんすが、あらかじめお伝えしておきたいのは、「ワクチンを打つ、打たない」はあくまで個人の判断です。ただし、その判断の基準となる情報は、あくまで“正しい”ものでなくてはいけません。そのためのヒントをこれから考えていければと思いますので、よろしくお願いいたします。

まず古田さん、この夏までの状況についてどう分析されていますか。

古田 大輔さん(ジャーナリスト)

ワクチンに関する誤情報ってたくさんあるんです。例えば、「ワクチンにはマイクロチップが入っていて、人を洗脳しようとしている」といった荒唐無稽なものから、「接種したら不妊になる」というデマのようにみんなが気になってしまうものもあります。

色々な情報が流れている中で、ワクチンに対して恐怖感とか不安を抱くのは仕方がないと思います。一方で僕も含めて、世の中のほとんどの人は、専門的な医学論文を読み解くための医学リテラシーなんて持っていないですよね。ではなぜワクチンを打つことを『選ぶ人』と『選ばない人』がいるのかを、突き詰めて考える必要があると思います。

宇野

けいゆう(山本)さんは、以前からネット上の医療情報の難しさにずっと向き合ってきましたけど、今の状況をどう考えていますか。

山本 健人さん(医師/「外科医けいゆう」)

ワクチンに限らず、医療の情報というのは常にグレーで、白黒はっきりしているものはすごく少ないんです。“白寄りのグレー”や“黒寄りのグレー”という、濃淡でしかないんです。あらゆる医療行為には必ずリスクがあって『100%安全な治療』というのはありません。

重要なのは、医療行為を『受けるリスク』と『受けないリスク』を天秤に掛けて考えることです。そのためにはリスクを事前に見積もる必要があるんですが、それには信頼できる情報をうまく集めるテクニック、ノウハウが必要になってくると思うんです。

不安や曖昧さに耐えきれず “極端な選択”も

宇野

そして今日は、歌手の一青窈さんにも来ていただいています。

一青窈さん(歌手)

よろしくお願いします。

宇野

実は一青窈さんは一時期、ワクチンについての誤った情報に接して、色々考えることがあったと聞いたんですが?

一青窈

いまも常々悩んだりしてます。最初は、子ども生んだときにワクチンにすごく不安を感じたのがきっかけだったんです。すごい過密スケジュールで赤ちゃんの柔肌に打たなければいけないんだと思って。

その時に「ワクチンは打たないほうがいい」というシンポジウムに友人に誘われて参加して、「やっぱりやめよう」みたいな考えが強くなったんです。その後、偏った情報だけを得て、偏った本だけを読みという時期が続いたんですね。

私はきょうは「単純にすごく不安なんです」という市民代表としてここにいて、周りには「何となく不安だから打つのやめるわ」っていう人は結構たくさんいるんですね。いま私自身はワクチンについては中立なところにいるんですけど、そういう情報に耳を傾けてしまう気持ちはすごく共感します。

宇野

なるほど、ありがとうございます。
関屋さんはいまのお話しを含めて、心理学の観点からどうお考えですか。

関屋 裕希さん(心理学者)

やはり1つのキーとしては「不安」というのがあると思います。

さっき古田さんも仰ってましたが、この状況で不安になるのはすごく自然なことなんです。新型コロナウイルスもそうですし、ワクチンもそうですし、人って曖昧な状況や先が見えない状況に直面すると、心地が良くないですよね。その曖昧さに耐えられないと極端な選択をしてしまいやすくなるです。

さらに一度その選択をしてしまうと、それに合致するような情報に注意が向きやすくなる。「確証バイアス」というんですが、それによってまた思い込みを強めてしまう。さらにSNSの特性がかけ合わさって、1回「いいね」を押すと、それに合致する情報が何度も何度も出てくる。

そうすると「やっぱりそうじゃないか」というふうに、偏った情報を信じやすくなってしまうというのが、人の心理としてあると思います。

宇野

みなさんのお話を聞いてると2つ問題があると思うんですよね。1つは、そもそもなんでこんなに誤情報が拡散してしまっているのか。その環境下で僕たちがどうやって情報と接していったらいいのかという、メディアやそれに対するリテラシーの問題。

もう1つが、色々な異なる意見を信じている人たちの間で、どうコミュニケーションをしていったらいいのか。この2つの問題があると思うんです。

“情報は食べ物” 食べる前に吟味が必要

古田

僕は情報は『食べ物』だと思ってます。質のいい情報を食べると精神的に健康になっていくものだと思うんですね。逆に道に転がってる変な形のキノコをいきなりパクって食べますか? 食べないですよね。

一青窈

まあ、キノコにはないにしても野いちごぐらい?

古田

野いちごですか(笑)。情報も食べ物と同じである程度の吟味が必要で、しかも今回の場合は、自分や周りの人の健康に関わる情報なので、何でも口に入れたらいいわけではないと思うんですよね。

一青窈

ただ、情報の確度や質の高さものを見極めるのって、それなりの知識がないと無理だと思うんです。医学的な根拠に基づいた情報ってどうしても言葉が“固い”くて、「集団免疫といって…」って言われると頭が「ゴチャゴチャゴチャ」ってなってしまう。

それよりも「ワクチン打つと洗脳されるらしいよ」「死んじゃうらしいよ」っていう方がわかりやすい言葉だし…

宇野

僕は「何かおかしい」とか「何か変だ」っていう気持ちは否定すべきじゃないと思うんですよ。問題はその「何かおかしい」という気持ちが、とりあえず不安を和らげてくれる”わかりやすい物語”に持っていかれてしまうことだと思うんですよ。

だから不安を解消するための物語ではなくて、不安と付き合っていくためのデータやエビデンスの方向につなげる回路が、弱いんだと思うんですよね。

山本

そうですね、そのなかで重要だと思うのは、強い不安や恐怖によって、危機的状況に陥ってしまったときに情報を冷静に見極めるのは、極めて難しいということです。もうこれは大前提としてあると思うんですよ。僕だってパッと見てすごくわかりやすいものが目に入ったら、たとえ誤情報でも信じてしまうかもしれない。

一青窈

うん。

山本

ですのでそういう状況に陥る前に、日頃からネットで情報収集するときのリスクについて、十分知っておく必要があると思うんです。

『フィルターバブル』などはよく知られたリスクです。例えば自分がフォローしているアカウントが信用できると思っているときにも、「実はフィルターバブルに陥っているんじゃないか」って常に点検しておくことが重要だと思うんです。

フィルターバブルの中にいると、周りはみんなその意見に賛同しているように見え、それ以外の考えは見えにくくなって、偏りを自覚しにくくなるんじゃないかといつも思ってます。

フィルターバブル:ネットやSNSで同じような情報ばかりが表示されること。アルゴリズムによって、フォローしている相手や過去に検索した履歴などから、その人が興味を持ちそうな情報が自動的に表示される現象。自分の考えと異なる情報が目に入りづらくなる。

山本

もうひとつ、目の前の情報が適切なのか判断する上で重要なのは、本当にその分野の専門家が言っているのか、そして1人だけではなく複数の専門家が言っているのかを確認することです。

例えば「おいしいニンジンを買いたい」と思った時に、魚屋さんと肉屋さんと八百屋さんに相談すればバランスのよい判断ができる、というわけではないですよね。相談すべきは「複数の八百屋さん」のはずです。日頃からそういった心の準備がしておくべきじゃないかなというのが、私の意見ですね。

間違った口コミは “ラーメンの話”で防ぐ?

宇野

古田さん、日本で誤情報が拡散する際の特徴ってありますか?

古田

最近、国際大学GLOCOMが「イノベーション日本」というレポートを出したんですが、その中に『間違った情報を入手した人が、それをどうやって周りの人に伝えたか』という調査があるんです。

一番多かったのはなんと『口コミ』なんですよね。

一青窈

おお。

古田

自分の友人や家族に「どうもワクチンで不妊になるらしいよ」とか、ママ友たちが公園で「ワクチン打った?」「でも不妊になるらしいよ」みたいな。最初にそういった情報を広げる起点になるのはインターネットが好きな人が多い。ネットで情報を仕入れて「これは人に教えてあげないと」っていう親切心から伝えてしまうんですよね。

自分の友達から言われたら「え、そうなんだ」って影響を受けるじゃないですか。それが先に耳に入るとどうしても引っ張られてしまうので、できるだけ早い段階で正確な情報を伝えておくことが重要だと思います。

一青窈

「これはたくさんの人に知らせないとヤバイ」っていう、おせっかいで親切な近所の人みたいな感じなのかな。

宇野

身近な人同士で話すと「このグループから浮きたくない」という理由で判断を間違えそうな気がするんですよ。

一青窈

うんうん、距離感ですね。

宇野

そうです、距離感。僕の周りにもその分野に詳しいわけでもないのに、たぶん不安をごまかしたいという動機であまり根拠のない推論などを言ってくる人っているわけです。僕はそういう場面に出くわしたら、話題をお天気とかご飯のことに移すようにしてます。

なぜかというと、その人が言ってることが正しいかどうか、僕には判断つかないんですよ。でも不安だとだまされやすい精神状態にある。だから僕なりの自衛として、「この前行こうと思ってたラーメン屋だけどさ…」みたいに、話をずらすことを心掛けてるんです。

【スタジオトーク後編】へ続く

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