#みんなのネット社会

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『デマ』や『ひぼう中傷』の問題から、コロナ禍で人気が高まる『オンラインサロン』などの新しいコミュニティーまで、ネット上の様々な動きを取材し、ネット社会がどうあるべきか考えていきたいと思います。ご意見・ご感想をぜひコメント欄に書き込んでください。

ネットの「投げ銭」子どもの高額課金を防ぐには?専門家が解説 NEW!
ワクチン”誤情報”や”デマ” 私はこうして抜け出した

フェイク・バスターズ#5「新型コロナワクチンと誤情報」2021/8/10放送
『こびナビ』 ”信頼できる情報”を発信し続ける 医療者の挑戦
妻が『ワクチン打たない…』 誤情報が生んだ夫婦の亀裂
ワクチンの“誤情報” ごく一部の医療関係者からの発信も
新型コロナワクチン “不妊デマ”はなぜ拡散し続けるのか?
「ドンと背中を押してもらった」妊娠中の女性がワクチンを打つまで
スタジオ未公開トーク【前編】不安なときこそ”デマ”に注意
スタジオ未公開トーク【後編】ワクチン情報をめぐる”分断” どう乗り越える

フェイク・バスターズ#4「“選挙とフェイク”」2020/12/18放送
ダイジェスト① アメリカ大統領選挙を混乱させた“選挙フェイク”
ダイジェスト② “選挙フェイク”を見極める 具体的なノウハウは?
ダイジェスト③ 陰謀論が生んだ家族の分断 そしてマスメディアの役割は?
『フェイク・バスターズ用語集』
“選挙フェイク”を見極めるには?具体的な方法を専門家が議論

フェイク・バスターズ#3「ひぼう中傷 被害を減らすには」2020/8/20放送
Vol.1 もしも身近な人がひぼう中傷を受けたら…
Vol.2 ひぼう中傷の被害者を救う 第三者がカギに!
Vol.3 ひぼう中傷をなくすために…プラットフォームの役割は?
番外編vol.1 こんな被害も…“なりすまし”の実態
番外編Vol.2 未公開トーク「表現の自由」と「表現の責任」
番外編Vol.3 「匿名だからこそ傷つく」10代 20代にとってのひぼう中傷 ―みたらし加奈さん
対談記事「ツイッタージャパン社長に聞いてみた」【前編】ひぼう中傷対策に使える機能
対談記事「ツイッタージャパン社長に聞いてみた」【後編】「表現の自由」は守れる?

追跡!オンラインサロン コロナ禍でハマる人たち 2021/3/31放送
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2021年10月26日

ネットの「投げ銭」 子どもの高額課金を防ぐには 専門家が解説

ネットのライブ配信などで、気に入ったコンテンツに対して送金するシステム「投げ銭」。ブームが広がる一方で、子どもが親の知らないうちに高額の課金をするケースも増加。
中には複数のクレジットカードを無断で使ってしまい700万円もの請求が来た例も。

トラブルを防ぐにはどうすればいいのか?返金はしてもらえるのか?

この問題に詳しい「ECネットワーク」理事の原田由里さんに、保護者が知っておくべき4つのポイントを聞きました。

(クローズアップ現代+取材班)

クローズアップ現代+「“投げ銭”急拡大 空前のブームで何が」(2021/10/26放送)

NHKプラスでは放送1週間後まで見逃し配信中です(~11/2まで)






①最も確実な対策は「ペアレンタルコントロール」
現在ネットのライブ配信の多くは「アプリ」で運用されていて、“投げ銭”をすると「Apple ID (App store )」や「Googleアカウント(Google Play)」といったプラットフォームのアカウントを経由して決済されるのが基本です。クレジットカードや(携帯電話会社の)キャリア決済、プリペイドカードなどで支払います。

これらのプラットフォームでは、子どものアプリの利用を管理・保護するための機能が使えるようになっています。それが「ペアレンタルコントロール」です。
iOS/iPadの場合は「スクリーンタイム」と「ファミリー共有」、Androidの場合は「ファミリーリンク」というサービスで設定ができます。


iOS/iPadの場合

子どものスマホやタブレット上で「ペアレンタルコントロール」を設定すると、『保護者の承認がないとアプリのダウンロードやアプリ内での課金ができない』ように制限をかけることができます(画像・左)。『アプリ内での課金を許可しない設定』(画像・右)も可能です。

つまり「ペアレンタルコントロール」を設定しておくことで、子どもの高額課金のかなりの部分は防ぐことができるのです。(設定方法は、各プラットフォームのHP上に掲載されています)

またキャリア決済(携帯電話料金とまとめて支払い)の場合は、利用できる上限額が設定されています。子どもの年齢によって多少の違いはありますが、ほとんどの携帯電話会社で、未成年の上限額は月1万~2万円です。金額は1000円単位で変更することも可能です。決済する際のパスワードは保護者が管理し、「2段階認証」も設定すると安心です。 

しかし子どもの年齢や、家庭の事情によってペアレンタルコントロールをかけることが難しい場合もあるかもしれません。そうした場合はどうすればいいのか、次に見ていきます。

②「クレジットカード」の管理を徹底


一部の”格安スマホ”などではキャリア決済が利用できないため、子どもの端末で課金する場合に保護者のクレジットカードで支払うことがあると思います。そうした場合には、以下の点に注意が必要です。


■子どものスマホにクレジットカード情報を登録しない
「1000円だけ課金させて」と子どもにせがまれ、一度だけ保護者のクレジットカードで支払いをしたら、その後高額な請求が届いた…というケースがありました。

クレジットカードを利用するための情報(クレジットカード番号やパスワードなど)は、一度端末に登録すると自動保存されるのが一般的です。
ペアレンタルコントロールを設定していない場合、そのままの状態にしてしまうと、保護者の知らないうちに子どもがクレジットカードを利用できてしまうので高額課金のリスクになります。クレジットカードの情報は、その都度入力するように設定してください。

(※厳密には「クレジットカードの第三者への貸与」にあたり、名義人にはカードの強制解約や全額一括返済を求められる可能性があります)


■クレジットカードは子どもに渡さない
クレジットカードの情報を入力する際には、子どもにそのままカードを渡さないようにしてください。カードの番号を写真で撮影していたり、メモや暗記をしていたケースがあります。

■子どもにわかるパスワードを設定しない
またパスワードの設定にも注意が必要です。誕生日など子どもでもすぐにわかってしまうようなものは避けましょう。保護者がパスワードを入力する際は、子どもに見せないようにしましょう。


■保管の徹底と、明細の確認
複数のクレジットカードを持っている人が、普段使用しないカードを引き出しなどに入れていて、それを子どもが勝手に使って課金をしていた…というケースも。

カードの保管にも気を配ってください。言わずもがなですが、クレジットカードの明細も定期的に確認するようにしましょう。


ここまで言われると「何だか子どもを信用していないみたい…」と思う人もいるかもしれません。もちろん家庭で話し合ってルールを決めることが理想ですが、特にライブ配信の場合は、「まさにその瞬間」に投げ銭をしたくなってしまうため、衝動的に課金し、そのまま隠してしまったという子どもが多いのも事実です。同じことが何度も繰り返されるなどの場合は、厳しめの対策が必要な場合もあります。

③返金の可能性も「未成年契約の取り消し」


万が一、子どもが高額な課金をしてしまったらどうすればいいのか?
そんなときは「未成年者契約の取消し」という方法もあります。

未成年者が保護者(法定代理人)の許可なく結んだ契約を取り消す手続きのことで、民法で定められています。
この手続きによって、実際に一部の返金や全額返金が認められたケースもあります。

ただしライブ配信サービスを利用する際に、子どもが年齢を偽って登録していたり、サービスの利用規約に「保護者の同意」についての条項が含まれている場合などは、「未成年者契約の取り消し」が認められないケースもあります。また仮に認められても、2回目が認められるケースはほとんどありません。

「未成年者契約の取り消し」の適用には、以下の要件をすべて満たすことが必要です。
  • 契約時の年齢が未成年(現在は20歳未満)であること
  • 契約当事者が婚姻の経験がないこと
  • 法定代理人(保護者など)が同意していないこと
  • 法定代理人から、処分を許された財産(小遣い)の範囲内でないこと
  • 法定代理人から許された営業に関する取引でないこと
  • 未成年者が詐術を用いていないこと(成人であると偽っていないこと)
  • 法定代理人の追認がないこと
  • 取消権が時効になっていないこと(未成年者が成年になったときから5年間、または契約から20年間)

細かい手続き方法などは、最寄りの消費生活センターなどに相談してください。
消費者ホットライン → 局番なし「188」(いやや!)
※最寄りの市区町村や都道府県の消費生活センター等を案内する、全国共通の3桁の電話番号です。

④“100%安全”はない 家庭でルール決めを


新しいネットサービスが次々に登場する中で、「これをしておけば100%安全」という対策はありません。 最も重要なのは、家庭内でコミュニケーションをとり、子どものスマホの利用方法(スマホを使う時間や場所など)をしっかり決めておくこと。そして、課金をする際の「ルール」を決めることだと思います。

予防の意味でも、再発防止の意味でも、保護者ができるかぎりの対策を講じて見守ることが重要です。

子どもたちのネットやスマホの使い方。保護者の方も悩みが多いと思います。「うちではこんなルールを決めている」など、みんなで共有できるアイディアがありましたら、ぜひ下のコメント欄に書き込んで下さい。


※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2021年9月27日

ワクチン”誤情報”や”デマ” 私はこうして抜け出した

新型コロナワクチンに関する根拠の不確かな情報が飛び交う中、誤った情報を信じ込み家族や友人に広めてしまったものの、後でその情報が間違っていたと知って「後悔している」という人たちもいます。
何がきっかけで誤情報だと気付き、そこから抜け出すことができたのでしょうか。

(「おはよう日本」ディレクター 髙野浩司)

新型コロナワクチンの最新情報はこちらから

おはよう日本 けさのクローズアップの記事はこちらから


かかりつけ医が「ワクチンで不妊」とSNSで発信


オンラインで取材に応じてくれた まひろさん(仮名)

取材に応じてくれたのは50代の主婦・まひろさん(仮名)
「ワクチンを打つと不妊になる」という誤情報を身近な人に広めてしまった経験があります。

きっかけは近所のかかりつけの医師のSNSでした。その医師はマスクやワクチンの効果を疑問視していて、「ワクチンで女性は永久に妊娠できなくなる恐れ」などの情報をフェイスブックでシェアしていたといいます。


実際にまひろさんが見たフェイスブックの投稿

ワクチンで不妊になるという情報は、国や学会が「科学的根拠がない」として明確に否定しています。妊娠中であっても時期を問わずワクチンを接種することが推奨されています。
厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」※NHKのサイトを離れます)

しかし、まひろさんは主治医の主張を”真実”だと思い込みました。

まひろさん(仮名)
「私は本当に主治医のことを信頼していました。ですのでその医師が発信していることは正確な情報なのだろうと思いました」


まひろさんはこの情報を20代の娘にLINEで伝え、さらに友人にもフェイスブックのメッセンジャーで送りました。


(左)まひろさんが娘に送ったLINEのメッセージ
(右)友人に送ったFacebookのメッセージ

まひろさん(仮名)
「この知らせを一刻も早く教えてあげないといけないと思いました。
家族を守りたいという、そういう気持ちが大きかったです」

「ワクチンは敵」だと思い込んでいたが…


新型コロナウイルスやワクチンの情報を発信している医師たちのグループ「こびナビ」の動画

その頃まひろさんは、本気でワクチンを「敵」だと思い込んでいたといいます。そして「敵」と戦うためには、ワクチンを勧めている人たちのことを知る必要があると考えました。

SNSで「ワクチンで不妊という情報は誤り」と発信している医療者たちをフォローするようになったのですが、それがきっかけでまひろさん自身の考えが次第に変化していきます。

まひろさん(仮名)
「医者のボランティア団体を知ることになり、そこから色々な先生のツイッターやインスタグラムなどで、むさぼるように情報収集を始めました。そのうちに、『もしかしたら私は、間違えていたのかもしれない』と気持ちが変わっていきました。ワクチンの成分や仕組み、副反応についても知ることができたので、これはむしろ打たなければいけないものだという気持ちになりました」

医師たちは科学的根拠にもとづいた情報を紹介し「公的機関が発表している情報を信用して」と呼びかけていました。自分でも色々な専門家が発信している情報を調べたところ、多くの専門家が「ワクチンで不妊になる」という情報を否定しているのを知りました。

まひろさんは自分が信じていたのが「誤情報だった」と考えを改め、ワクチン接種への理解も次第に深まってきたといいます。

8月、まひろさんはワクチンを接種し、情報は誤りだったという訂正のメッセージも娘や友人に送りました。


(左)まひろさん (右)まひろさんの娘

まひろさん(仮名)
「いくら信頼する人が発信している情報でも、うのみにするのは良くないことだなと。必ず一度は疑ってかかってみる。立ち止まってみる。人に伝えるのはそれからだなということを感じました」

サークルに浸透していた“ワクチン陰謀論”


オンラインで取材に応じてくれた あかりさん(仮名)

これまでとは違うSNSを使い始めたことで「誤情報に気がついた」という人もいます。

主婦のあかりさん(仮名)は、薬や手術を使わずに体の不調を治そうとする「代替医療」の情報を共有するサークルに参加していました。医療従事者や経営者、教師など60人ほどがメンバーだったといいます。

新型コロナウイルスの感染が広がった後、メンバーの何人かがワクチンに関する根拠の不確かな情報をサークルのSNSに書き込むようになりました。いわゆる“陰謀論”のような荒唐無稽な話も多かったと言います.

あかりさん(仮名)
「サークルでは『ワクチンは人類コントロールのためのもの』『ばく大な金儲けのために作られ、ワクチンを打たせたい組織による世界的施策である』といった考えが主流となり、皆がそれを信じていました」

サークルのメンバーは、「ワクチンは遺伝子を操作する」といった動画などを、外部からは見えないLINEやフェイスブックなどのSNSで共有し、閉ざされたコミュニティーの中で“誤情報”が蓄積されていきました。

それらを見るうちにあかりさんも「ワクチンは国や製薬会社による陰謀だ」と信じていました。そして、自身もサークルへの勧誘と並行して“ワクチンと陰謀論”の考えを広めていったといいます。

あかりさん(仮名)
「人助けをしているような高揚感がありました。人が知らない真実を知っているという、一種の優越感にすがっていた部分は大きかっただろうと今振り返ると思います」

ツイッターで違う意見に初めて触れて…



あかりさんが考えを転換するきっかけとなったのは、自分の気持ちの整理のために始めたというツイッターでした。タイムラインに流れてきた書き込みに”ワクチンの陰謀論”を否定する意見が複数あったのです。

それまで使っていたLINEやフェイスブックでは、同じ意見を持つ人たちと閉じたコミュニティーの中で情報を共有していましたが、これまでとは違う情報に触れたことで、”真実”だと信じていたことに疑問を感じるようになったのです。

あかりさん(仮名)
「タイムリーに生の情報が専門家から届くこと、リアルな現状が把握できること、私と同じような経験をされている方の新鮮な声が聞こえること、これらが私の頭の中をひっくり返していきました」

その後、あかりさんはサークルを退会し8月にはワクチンも打ちました。しかしそれには相当な勇気が必要だったと話します。



あかりさん(仮名)
私のいたグループは仲間意識が強く、違う考えの人は”排除”しようとします。そこから抜け出すには相当の勇気と覚悟が要ります。私がこれまでの自分の考え方や態度が間違っていたことに気付き、思想や思考を180度転換したことで、それまでの人間関係が破綻しました。

(いま悩んでいる方へ)
考え方を変えることを恐れないでほしいと思います。特に今回のような、自分自身はもとより周りの人の命に関わることは良く考えてほしいと思います。誤情報のコミュニティーを脱出しても、新しい社会生活はできます。

ワクチン誤情報 拡散しないためにどうすれば

一度信じてしまうと、なかなか抜け出せなくなる”誤情報“。私たちはどのように対応すればいいのでしょうか。ネット上の情報拡散について研究する専門家に聞きました。


国際大学 山口真一准教授 ネット上の情報拡散について研究している

国際大学・山口真一准教授
「1つ目は家族や友人などといった身近な人からの情報であったとしても、それをうのみにしないということです。

2つ目は拡散しようとする前に一呼吸置く。特に“怒り”と“不安”を感じた時ほどそのまま拡散してしまうのではなくて、『これ本当かな?』と立ち止まる。その上で他の情報源に当たってみたり、一次資料を確認したりするなどして、自分でしっかり考えて判断するのが大切です。

3つ目は分からないことは人に伝えないことです。調べても分からなかったら拡散しない。これだけです。拡散しないで自分でストップさせておく。そうすれば少なくとも自分がその誤情報を拡散する立場になることはないわけですよね。そのことを一人ひとりが守ることが非常に重要であるといえます。



ワクチン接種は任意ですが、正しい情報に基づいて判断することが大切です。迷ったらまず、公的機関などが発表している「科学的に検証された情報」にあたることをお勧めします。

※厚生労働省では新型コロナワクチンに関する「誤情報の一覧」をまとめています(NHKのサイトを離れます)

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2021年8月13日

『こびナビ』 ”信頼できる情報”を発信する 医療者の挑戦

国内外の医師30人ほどが参加するプロジェクト「こびナビ」。新型コロナウイルス感染症やワクチンについて、最新の研究をもとにした”科学的根拠のある情報”を発信しようと取り組んでいます。

「デマを拡散するのは簡単、正しい情報をつくるのはすごく難しい」

その言葉が意味するものはー

(8月10日放送 フェイク・バスターズ「新型コロナワクチンと誤情報」から
取材:藤松翔太郎ディレクター)

新型コロナワクチンの最新情報はこちらから


“デマ対策やらないとコロナは終わらない”



毎朝6時30分、感染症専門医の谷口俊文医師は千葉大学医学部附属病院に出勤します。

病院では感染者の急増に合わせてベッドを拡充し、千葉県内で最多となる約40人の感染患者を受け入れています。谷口医師はそのすべての患者の治療を管理しています。

私たちが取材したのは4回目の緊急事態宣言が出る直前の7月上旬。足早にICUに向かう谷口医師は、エレベーターの中でこうつぶやきました。



谷口俊文 医師
「ネットの情報の中にある『コロナ』と、実際に目の前で見る『コロナ』は大きく違います。いまデマ対策をしっかりやらないと、コロナ終わらないですよね」

最初に谷口医師が新型コロナの患者を診たのは去年2月のことでした。ダイヤモンド・プリンス号で感染した乗客でした。

谷口医師は日本とアメリカの両方で感染症専門医の資格を取得したスペシャリストですが、実際に新型コロナウイルスの感染患者を治療し「非常にやっかいな感染症」だという印象を持ったと話します。

最近では若い世代でも重症になるケースが増えていて、感染した患者本人からも「こんなに重い症状なのか」と悲痛の声が上がっていると言います。

谷口俊文 医師
「ネットでよく目にする新型コロナの情報は『肺炎から回復して、普通に生活している』か『亡くなってしまう』かの2つだと思うんです。でも実際は違います。正しい情報を得られずにコロナに感染してしまって重症化してしまったり、回復しても後遺症が残ってしまった方も一定数いらっしゃいます。若い方でも酸素を吸引している状態で退院される方も多くいらっしゃいます」


“正確な情報を増やしたい” 「こびナビ」プロジェクト始動


千葉大学付属病院の新型コロナ重症者病棟


最前線で新型コロナ患者の治療にあたる中で、谷口医師は「病院内での治療だけではなく、病院の外で正しい情報を届けない限り、感染の収束は難しい」と考えるようになりました。

そして今年1月、同じ問題意識を持つ医師たちと「自分たちで情報を発信することはできないか」話し合いを始めました。千葉大附属病院だけでなく国内外の医師や研究者などに協力を求めました。

プロジェクトの名前は「こびナビ」
「こび」は新型コロナウイルスを意味する「COVID-19」の頭文字。「ナビ」はナビゲート(案内する)からとりました。

活動の支援を呼びかけるクラウドファンディングを呼び掛けたところ、「応援したい」という声が多数寄せられ、約2千人の支援者から3千万円が集まりました。
そして動き始めてから1週間後には公式ウェブサイトが立ち上がり、新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する、医療者による”信頼できる情報”の発信がスタートしました。


「こびナビ」ホームページから



「こびナビ」の発信はインターネットがメインです。ウェブサイトでは新型コロナワクチンの安全性や副反応に関する解説しているほか、不安を感じる人たちの質問や相談に答えるQ&Aなどを掲載しています。(「こびナビ」公式サイトはこちら ※NHKのサイトを離れます)

SNSもフル活用しています。ツイッターでの投稿はもちろんのこと「ライブ配信」も積極的に利用しています。



平日の朝8時半からはTwitter「スペース」でワクチンに関する最新情報を紹介。毎晩10時15分からは「インスタグラム」のライブ配信でユーザーから直接質問に答えています。

「こびナビ」に参加しているメンバーはみな、治療や研究の最前線に立つ医療者ばかりですが、本当に必要な人に情報を届けるためには自分たちが直接出演して、親しみを感じてもらうことが不可欠だと、多忙な合間を縫って協力しています。全員ボランティアです。

”1回ミスしたら信じてもらえない” 正確な情報を伝える難しさ

SNSを駆使してわかりやすい発信を心がける「こびナビ」ですが、メンバーが「もっとも力を入れている」と口を揃えるのが、”情報の正確性を担保すること”です。そのために多くの時間と労力を費やしています。

新型コロナウイルスに関する研究は世界中で行われていて、情報も頻繁に更新されています。新しい治療法についての論文が発表されたかと思えば、他の国の研究者が検証して誤りが見つかり、撤回されることも少なくありません。

そのため「こびナビ」では、感染症専門医だけでなく、公衆衛生の専門家やウイルス研究者、疫学や、薬事規制などさまざまな専門分野を持つメンバーたちが、それぞれ膨大な量の論文を読み込み、研究の妥当性や他の論文との比較検討など、お互いの視点から意見を交わしています。


「こびナビ」メンバーたちのオンライン会議


そしてメンバーの間で「最低限これだけは言える」と合意がとれたものを発信していると言います。

数年前から、SNSで”わかりやすい医療情報”の発信を続けている医師の山本健人さん(外科医けいゆう)は、「そもそも医療情報には”100%正しい”ものはほとんど存在せず”どれもグレー”なものばかり」だと指摘します。その中で「多くの専門家が検証し、合意が得られたものこそが、いちばん”白に近いグレー”であり、”科学的根拠がある”と言える情報だ」としています。
山本医師が出演した「フェイク・バスターズ」についてはこちら)

「こびナビ」が実践する【論文を読む】→【議論】→【合意が得られた情報を発信】という手続き。
これは山本さんの言う”いちばん白に近いグレー”な情報、つまり”現段階で”最も信頼できる情報”を発信するのための手段と言えます。

近くで取材していると、非常に手間がかかっていることがよくわかりますが、谷口医師は「絶対に必要なプロセスだ」と語ります。



谷口俊文 医師
「発信した情報がもし間違っていたら、誰もついてきてくれなくなります。
一回でもミスをしたら、『嘘をついていた』と信じてもらえなくなります。

もしわたし1人だったら怖くて発信できません。感染症の専門家であっても、ワクチンの専門家であっても、1人では全部の情報をカバーできないし、すべての論文が正確だという保証もありません。

「こびナビ」では1人の意見に対して、必ず他の専門分野の人から検証が入ります。『批判的吟味』といいますが、それが本当に正しいのか、考え方はこれでいいのか、厳しい目で見てもらえることは大きな強みだと思います。メンバー同士で吟味した結果であれば、私も自信を持って発信できると思っています」


“ワクチンは得体が知れない”と思って当然



「こびナビ」のホームページには、ワクチンに不安を感じる人たちからの質問や相談が、700件以上寄せられています。

その一つ一つに目を通して返事を返しているのが、「こびナビ」事務局長の黑川友哉医師です。

耳鼻咽頭科の専門医であるとともに、以前はワクチンの副反応など医薬品の審査を行うPMDA=医薬品医療機器総合機構に所属。臨床研究や医薬品の承認プロセス、薬事規制などにも精通しています。

実は黑川医師は、ファイザーやモデルナの「mRNAワクチン」に対して、当初はその効果と安全性に慎重な考えを持っていたと言います。

黑川友哉 医師
「私は最初にmRNAワクチンについて聞いたとき、正直『そんなもの使えるわけがない』と思っていました。しかし海外の臨床試験の結果が論文になり読んでみると、非常に高い有効性が得られている。また国内の審査報告書の中でも、この薬がどうやってつくられ、どのような工夫によって使うことができるようになったかについても、しっかり書かれていました。それを見て私は初めて納得して、このワクチンは使えるという確信を得たんです。

つまりわれわれ医師でさえも、理解するまでに非常に時間がかかったので、医療にあまり親しみのない方にとっては、得体のしれない物質だと感じることは当然かと思ってます」


回答文を”スマホの音声認識”で作る理由

わたしたちが取材した日、黑川医師は外来の診察を受け持っていました。
次々と患者を診る中、途中で10分ほどの待ち時間ができました。

すると黑川医師はすかさず、自分のスマートフォンを取り出します。画面に表示させたのは「こびナビ」に寄せられた質問の一覧表。次の患者が来ていないことを確認すると、スマホのマイクに向かって話し始めました。

黑川友哉 医師
「お問い合わせいただきありがとうございます まる」

スマホの音声認識機能を使って、質問への回答文を作っていたのです。

スマホの音声認識機能で回答文を作る黑川医師


黑川医師によると、ワクチンに不安な人ほどネットやSNSで検索を繰り返し、誤った情報を集めてしまいがちだと言います。少しでも早く返事を出すことで、不確かな情報にのめり込む人を減らしたいと、わずかな空き時間を使って返事を返すようにしているのです。

そして音声認識機能を使うのにはもう一つの理由もあります。
普段、診察室で患者に説明しているときと同じような口調で、相談に答えたいと考えているからです。

ネットやSNSは顔が見えない上、文章での説明は冷たい印象を与えがちなため、話し言葉をそのまま文字にすることを思いついたと言います。

実際に、黑川医師が質問に答えた例をご紹介します。
相談者は、SNSで「接種すると数年後に死ぬ」という根拠がない投稿を見て不安になり、ワクチンの長期的な安全性について訪ねていました。



黑川医師の回答
「お問い合わせいただきありがとうございます。

治験において『長期的な副反応が確認されていない』というのは、ある意味“事実”ですが、今回のワクチンは、数日以内に体内から消えるので、長期的な副反応は考えにくいです。

実際に治験では、1年以上経ってからの重大な副反応は、報告されていません。それ以上の長期の副反応については、世界中で常に監視が続いています。

『長期の』といっても、これはいつまで調べれば“安全”といえるのか。答えのない『終わりの見えないマラソン』のようなものです。現時点で『長期の副反応』というゴールのない不安で、接種をためらう必要はないと考えます」


不安で”何を信じていいかわからない”という人へー

歯止めの利かない感染拡大、そして先の見えない不安が社会を覆う中、いま何を信じたらいいかわからないと感じる人は少なくありません。

そうした人たちに向けて、黑川医師は伝えたいことがあるといいます。



黑川友哉 医師
「何かの情報を見たときに、不安に思うのは当然の反応です。まずはその気持ちを否定しないで下さい。それと同時に「その情報が本当に正しいのか」立ち止まって確認してほしいと思います。

私たちは、行政機関や学会が発表している公的な情報をかみ砕いて、どんな表現をすれば伝わるのか考えながら発信をしています。そういう情報をぜひ見ていただければと思います」

いま「こびナビ」には医療関係者だけでなく、医学生やデザイナー、漫画家、動画クリエイターなど様々な人がボランティアで参加し始めています。活動の幅も徐々に広がり、自治体に配布するガイドブックの作成やより手の込んだ動画の作成など、医師だけでは難しかったこともできるようになりました。

”信頼できる情報”を届けるための「こびナビ」の挑戦は、これからも続きます。

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2021年8月13日

妻が『ワクチン打たない…』 誤情報が生んだ夫婦の亀裂

新型コロナワクチンを巡ってさまざまな情報があふれる中、根拠のない情報を目にして、不安を感じていませんか?その不安が増幅していった結果、「ワクチンは危険だ」という根拠の不確かな情報を信じ込んでしまうケースも少なくありません。今回、ワクチンの誤情報に翻弄され、夫婦関係に亀裂が走った当事者が取材に応じてくれました。幸せな家族に、いったい何があったのでしょうか。

(8月10日放送 フェイク・バスターズ「新型コロナワクチンと誤情報」から
取材:吉田達裕ディレクター)

新型コロナワクチンの最新情報はこちらから



ある日突然、妻が「ワクチンは危険だ」と言い始めた



取材に応じてくれたのは、関東地方に住む会社員の江戸川ジュンさん(仮名)。

妻のユカリさん(仮名)とは学生時代からの幼なじみで、明るく社交的な性格に惹かれたジュンさんが猛アプローチをし、10年前に結婚しました。
2人の子どもにも恵まれ、家族4人で幸せに暮らしてきました。

しかし今年の初め頃、新型コロナワクチンに関するニュースが報じられようになると、妻は突然、気になることを口にし始めました。

妻 「ねえ。コロナのワクチン、絶対打たないでね」

夫 「えっ!? 急になんだよ」

妻 「ワクチンを打つと死ぬかもしれないんだって。SNSでみんなが言ってるの」





夫 ジュンさん(仮名)
「突然、妻が『新型コロナワクチンは危険だ。家族にその危険なものを打たせたくないから、打たないでほしい』ということを言い始めまして・・・。普段の妻の様子とは違ったので、驚きましたね・・・」

妻が陥ってしまった「フィルターバブル」のワナ

これまで妻は、ワクチンに対して特に強い関心は持っていませんでした。
子どもたちにも「任意接種」のものも含めて、国が推奨しているワクチンを受けさせていました。

それなのになぜ、突然そんなことを言い始めたのか。

ジュンさんは、妻が口にした「SNSの情報」がどんな内容なのかか知りたいと考えました。
ジュンさん自身はこれまでSNSはほとんど使っていませんでしたが、フェイスブックに登録し、妻に「友達」になってもらいました。



妻は以前から、家族の健康を気遣い、自然食品やサプリメントに強い関心を持っていました。フェイスブックでもそうした情報を発信している人たちとコメントを書き込み合うなど、積極的に交流している様子でした。

しかしそのうちの一部の人が、「国やメディアはワクチンの重大な健康被害を隠している」という根拠のない主張を、繰り返し投稿していたのです。

中には、個人でクリニックを運営している医師など、医療関係者による投稿もありました。

夫 ジュンさん(仮名)
「とんでもないことを言っている人たちが、妻の周りにいっぱいいたんです。しかも、その人たちをフォローしているだけではなくて、その投稿に対して『いいね』をつけているので、応援をしているというか、自分もその意見に同意しているという状態ですよね。それを見て、衝撃的でした」
ごく一部の医療関係者が、ワクチンの誤情報を拡散している現状については、
こちらの記事 でもくわしく解説しています。


時間が経つにつれて、妻のタイムラインには同じような書き込みばかりが並ぶようになっていました。

ネットやSNSで同じような情報ばかりが表示される現象は、「フィルターバブル」と呼ばれています。

フォローをしている相手や過去に検索した履歴などを元に、アルゴリズムが、その人に興味を持ちそうな情報を自動的に表示するようになっているためです。



フィルターバブルによって同じような情報に囲まれると、自分とは異なる意見が目に入りづらくなってしまい、「目にしている情報が正しい」と思い込みやすくなります。

「その情報はデマ」 妻の“説得“を試みるも・・・

危機感を感じたジュンさんは、国が発表している情報やメディアの報道をもとにして、妻の説得を試みました。

夫 「ユカリが見ている情報は根拠がないデマ!信じちゃダメだ!」

妻 「じゃあ“100%安全”って言い切れるの? 
   あなたの方こそ、だまされてるんじゃないの?」




夫 ジュンさん(仮名)
「私が、『国はワクチンの安全性についてこういうふうに説明しているんだから大丈夫なんじゃないの?』と伝えるんです。するとその投げかけに対して妻は『あなたは、なんで国やテレビが言っていることをそのまま鵜呑みにしてしまうの?』と返してくるんです。ずっとその繰り返しで、堂々巡りなんです」

なぜ妻のユカリさんは、夫であるジュンさんの言葉よりもSNSの情報を信じるのでしょうか。

取材を重ねる中で、ユカリさん本人から話を聞くことができました。



妻 ユカリさん(仮名)
「国としては『ワクチンを推奨したい』というところがあるとは思っているので、そういう姿勢が、すごく偏ってるように思います。国やマスメディアが『ワクチンを打っても大丈夫』と言っていても、ネット上にそれとは正反対のことを言ってる人がいっぱいいる中で、『100パーセント安全とは言えないんじゃないか』と疑ってる自分がいます。

安心して打っても大丈夫なワクチンであれば、私も打ちたいと思っています。ただ、今の段階だと、そうは思えない。私もむしろ確かなものが欲しいんです」


ワクチンの情報について夫婦の意見の溝が埋まらない中、ユカリさんは次第にジュンさんを避けるようになりました。
風呂場やトイレに長時間閉じこもり、スマホにかじりつくようになりました。

そして、ジュンさんにとってさらに衝撃的なできごとが起きました。 幼い子どもまで「ワクチンは危ない」と口にし始めたのです。

長男 「ワクチンは危ない人体実験だから、絶対に打っちゃダメなんだよ~」





夫 ジュンさん(仮名)
「妻が子どもたちに言ったのか、それとも私たちの会話を聞いていたからなのか、はっきりしたことは分かりません。ただ、子どももそういう思想を持ち始めていることが、ショックでした。今までは、普通の幸せな家族だったと思うんです。でも、ワクチンの情報によって、子どもにまで悪影響が出始めていて・・・。もう完全に、実害ですよね」


妻の両親に届いた「ワクチン接種券」

ワクチン接種が本格化した6月。妻の両親のもとに、自治体から接種券が届きました。

それ以前から妻は両親に対しても、「ワクチンは危険だから打たないで欲しい」と訴えていました。もはや見過ごせないと考えたジュンさんは、妻と両親の4人で話し合いをすることに決めました。

話し合いの当日、妻は顔を合わせた両親に向かって「ワクチンを打つと、周囲の人に有害なものがうつる」と主張しました。
SNSで拡散されていた誤った情報で、科学的な根拠がないと公的機関や専門家が明確に否定しています。

ジュンさんと妻の両親は説得を試みましたが、妻の態度はかえって頑なになっていきました。

妻 「もしお父さんとお母さんがワクチンを打ったら、私もう二度と会わないからね」

父 「おい、ユカリ・・・」

夫 「ちょっと待て! じゃあ、俺が打ったらどうするんだよ!」

妻 「一緒に生活はできません」





夫 ジュンさん(仮名)
「『もう夫婦ではいられない』という回答でした。言葉で表せないぐらいのショックっていえばいいんですかね。このままにしていたらまずいとは思っていたんですけど、それが具体的に、家族の崩壊に結びついた瞬間でした。ネット上の話だと思っていたものが、現実の危機になってしまった」

「説得」ではなく「相手の気持ちを聞く」

なんとかして妻の考えを変える方法はないのか。

ジュンさんは、デマや陰謀論などに関する記事を読みあさり、必死にヒントを探しました。

その中で目にとまったのが「相手の話を否定せずに聞くこと」という専門家のコメントでした。



「相手が口にした“言葉”よりも、相手がなぜそのように思ったのかという“心”の面に寄り添うこと」が大切だと、紹介されていたのです。

夫 ジュンさん(仮名)
「妻を、本気で連れ出したいって思ったんです。妻の言葉を頭ごなしに否定してはいけない。まず大前提としてそうしなくちゃいけない」


半年ぶりに心が通じ合った夜



説得を始めてから半年が経った夜のこと。
ジュンさんは、これまでとは違う口ぶりで、妻に話しかけました。

夫 「ユカリがワクチンに反対するのは、どうしてなの?」

妻 「・・・家族を守りたいから。大切な家族に万が一のことがあったら嫌なの・・・」

夫 「そこまで家族のことを考えてくれてありがとう。その気持ちは俺も一緒だよ」

妻 「・・・うん」





妻は、夫の話をどう受け止めたのか。
ユカリさんに尋ねると、その夜のことをこう振り返りました。

妻 ユカリさん(仮名)
「寄り添って、丁寧に、私がどう思っているかまで調べた上で言ってくれている言葉だと思ったので、真剣に聞こうと思いました。夜な夜なずっと話し合って、主人が自分に対してすごく深い思いを抱いてくれているんだと感じましたし、ホントかウソか分からない情報で相手を傷つけたり、つらい思いをさせたりするのはおかしいことだと気づきました。

まだお互いにいろいろと思うことはありますが、『家族が大事』だという共通のベースを大事にしながら、これから一緒にどう生きていくかということを考えたいなと」

少しずつでも、一緒に出口を見つけたい

この日をきっかけに、少しずつ2人の会話が増えていきました。

ユカリさんは今もまだ、ワクチンへの不安がぬぐいきれたわけではないと言います。
それでもジュンさんのすすめに応じて、科学的根拠に基づく情報に意識的に触れるようになりました。

少しずつですが、「フィルターバブル」から抜けだしつつあります。



夫 ジュンさん(仮名)
「早く出口を一緒に見つけたいなと思っています。たぶん乗り越えられると思っていますし、また、今までどおりの幸せな生活に戻れるんじゃないかなと思っています」




※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2021年8月12日

ワクチンの“誤情報” ごく一部の医療関係者からの発信も

感染拡大が止まらない中、新型コロナワクチンについて不安をあおる情報がネット上などで飛び交っています。前回の記事では、こうした情報が「拡散される構図」について取り上げましたが、中にはごく一部の医療関係者が、根拠の不確かな情報をブログやSNSで発信しているケースもありました。(NHK松江放送局・鈴木貴大ディレクター)

(8月10日放送 フェイク・バスターズ「新型コロナワクチンと誤情報」)から

新型コロナワクチンの最新情報はこちらから



科学的根拠のない誤情報 一部の医師などもSNSに

取材を進める中で、ワクチンの誤った情報が広まった背景に、ある問題があることが浮かび上がってきました。

ごく一部の医療関係者が科学的根拠のない情報をSNSやブログで発信していたのです。

主に、個人で医療機関を経営している医師などによるもので、「ワクチンが不妊や流産の原因になる」という国や多くの専門家が繰り返し否定している情報や、「ワクチンを打つと磁気を帯びて体に金属がくっつく」「接種すると全員2年以内に死ぬ」といった、明らかに根拠のない誤情報をたびたび投稿していたのです。

発信された誤情報は、「医師の○○先生が言ってた」という形で引用され、ネット上で拡散されていました。そうした記事や動画のいくつかは、すでに大手プラットフォームによって警告が表示されたり、削除されたりしています。

医療関係者が誤情報を流す状況 どう考える?



なぜ科学的根拠のない情報を発信しているのか。
こうした投稿を繰り返していた複数の医療関係者に取材を試みましたが、いずれも「取材は受け付けていない」との説明でした。

中には、医師本人ではありませんが、スタッフが「医師が海外の論文を翻訳し、それに基づく推測を掲載しています」と説明したところもありました。

国や学会の専門家たちが否定している情報を、ごく一部とはいえ医療関係者が積極的に発信している状況をどう受け止めればいいのでしょうか。

医師の情報発信に詳しい、島根大学医学部附属病院・臨床研究センターの大野智教授は次のように課題を指摘しています。



大野智教授
「医療者がそれぞれの信念、考え方に基づいて、正しいと思う治療法や研究内容について発信する、それ自体は『表現の自由』といえます。しかし今回の新型コロナワクチンについては、同じ医師という肩書でも相反することを言っているケースがあり、医療知識のない方が見極めるのは難しいかと思います。誤った情報であっても、それを医師が発信しているのを目にすると、新型コロナワクチンというのは何か怖いものなんじゃないかと、リスクを過大視してしまうことにもつながりかねません」

信頼できる情報を見極めるにはどうすれば?

情報が氾濫する中で、信頼できるものを見極めるためにはどうすればいいのか。

「外科医けいゆう」の名で、SNSで医療情報を発信している山本健人医師は、「医療では“100%安全”なものはほとんど存在せず、ゼロリスクを求めると、かえって不利益につながる恐れがある」と言います。

その上で、情報を見極めるためのポイントについて次のように話します。



山本健人医師
「医療に関する情報は、新しい研究結果が出ると次々に更新されていきます。そのため、医療者が全く同じ主張を続けることは、必ずしも価値が高いとは言い切れません。情報を受け取る側は、特定の医師が発信する情報だけに注目するのではなく、多くの専門家が同じことを言っている部分、“最大公約数”を見つけることが重要だと思います。それが、いま最も“科学的根拠がある”と言える情報であり、その最たるものが、学会や公的機関が発表している情報です」


※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2021年8月11日

新型コロナワクチン “不妊デマ”はなぜ拡散し続けるのか?

「新型コロナワクチンを打つと不妊になる」という科学的根拠がない情報がネット上で拡散しています。多くの専門家が否定しているのにも関わらず、なぜ誤情報が広まったのか?そもそも誰が発信しているのか?専門家の協力を得て、SNSのビッグデータを分析したところ、拡散の構造が見えてきました。感染拡大に歯止めがかからない中で、誤った情報に惑わされないためにはどうしたらいいのでしょうか。(ネットワーク報道部・斉藤直哉記者)

(8月10日放送 フェイク・バスターズ「新型コロナワクチンと誤情報」)から

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“不妊デマ” 20万件の徹底投稿を分析



私たちはまずツイッターで「ワクチン」と「不妊」という言葉が含まれる投稿を分析しました。対象は去年12月から6月までの投稿で、リツイートを含めて約20万件です。

内容をみると、ことし4月までは「ワクチン接種で不妊になる」という、多くの専門家が否定している情報が主に広がっていて、5月からは医師やメディア、公的機関などがそれを打ち消す、「ワクチンで不妊になるというのは誤った情報だ」という情報が広がっていました。

2つに分断されたアカウント群 異なる意見入りづらく



私たちは、情報を投稿したアカウントどうしの関係を、わかりやすく、上記のような図に表しました。こちらの図では、ひとつひとつの点が、情報を投稿したひとつひとつのアカウントを表しています。細い線は、投稿をリツイート(シェア)したアカウントどうしを結んでいます。

赤色のかたまりが、主に「ワクチン接種で不妊になる」という投稿をしている集団で、青色が、「誤った情報だ」と打ち消す投稿をしている集団です。意見が近いアカウントどうしで投稿をシェアしあって、2つの色の集団ができあがっています。

「エコーチェンバー」と呼ばれる現象で、自分と同じ意見を持つ人の情報ばかりをネットで共有することで、異なる意見が目に入りにくくなり、分断が生じていることがうかがえます。

”発信源”は少数のアカウント

次に、ワクチンで不妊になるという情報を投稿しているアカウントのみについて、アカウントどうしの関係を詳しく調べました。



放射状に広がっている細い線のなかに、いくつか大きな丸があります。これが特に多くシェアされた情報を発信しているアカウントです。

分析の結果、全体で数万のアカウントのなかで、「上位20の発信者」の投稿だけで、全体の約4割を占めていました。最も多い発信者では2500ものアカウントにシェアされていて、限られた少数の発信者が大きな影響力をもっていることが分かりました。

厚生労働省や各国の研究機関は相次いで否定

特に多くシェアされていた投稿をみると、「ファイザー社の元職員が、コロナワクチンを接種すると無期限の不妊になると発言した」という情報が目立ちました。ワクチンの開発元の関係者による「内部告発」だとして、去年12月上旬から広がり続けています。

この情報について厚生労働省や海外の研究機関は、「ワクチン接種で不妊になる科学的根拠はない」と否定しています。

厚生労働省はホームページで、
・新型コロナワクチンには、排卵や妊娠に直接作用するホルモンは含まれていないこと
・卵巣や子宮に影響を与えることが知られている化学物質も含まれていないこと
などと説明しています。

また実際にワクチンを接種した妊娠中の女性のその後を調査したアメリカの研究チームの結果にも触れていて、そこでは「ワクチンを接種した人の流産率」が「自然に発生する流産率」を上回ることはなく、「ワクチンが妊娠に与える好ましくない影響は確認されませんでした」と、妊娠中の女性への調査結果を紹介しています。

より専門的な説明としては、医師らでつくる「こびナビ」というグループのホームページで専門用語をまじえて説明されています。



「こびナビ」のホームページでは、拡散した情報の中にある「ワクチンによってつくられる抗体が女性の胎盤を攻撃する」ことはないと考えられる、と説明しています。

しかし、こうした「ワクチン接種と不妊との関係を否定する情報」を国や専門家たちが発信しても、不安を訴える投稿の拡散は止まらず、「ワクチンによる不妊」のまとめ記事を紹介する投稿だけでも、5月以降で2000回以上繰り返し投稿されていました。

ワクチンが「なんとなく不安」という理由から接種を控えている方もいると思います。そうした方は「ワクチンへの不安」と「コロナ感染のリスク」について、妊娠中の女性の実体験をもとに解説した こちらの記事 もあわせてお読みください。


誤情報が広がる背景に”拡散者”の存在

科学的に否定されている情報なのに拡散し続ける背景には、熱心に情報を広めようとする「拡散者」の存在があるといいます。

SNSビッグデータ解析の専門家である東京大学大学院 鳥海不二夫教授は、ことし1月から7月はじめまでに投稿された、「ワクチンによって不妊や流産になった」(科学的根拠がなく多くの専門家が否定している)「ワクチンは人口削減のための毒」(いわゆる陰謀論)などといった投稿、約62万件を分析しました。

クラスタリングという手法を用いて、内容が似ている投稿をグループに分けたところ、「ワクチンで不妊や流産」という投稿は28万件余りで、科学的根拠を示して打ち消す投稿の17万件余りを大きく上回っていました。

ところが投稿しているアカウントの数に注目すると逆の結果でした。根拠のない投稿をしたのは約5万アカウント、情報を打ち消す投稿は8万アカウントで、打ち消す投稿をしたほうが多くなっていたのです。

それなのになぜ?



東京大学大学院 鳥海不二夫教授
「根拠が無い情報を否定する人は『これはデマだと1回発信すればそれで役割は終わり』と思ってしまいますが、それを信じている人は『またこんな情報が出てきた』と新しい情報が出るたびに内容を更新して拡散するということだと考えられます」




さらに積極的に情報を発信している「発信者」の投稿を熱心にリツイートを繰り返す、いわば「拡散者」が、根拠のない情報をより多くの人に広めていると鳥海教授は分析します。

分析では全体の投稿の約50%を、拡散者たちがリツイートした少数の発信者の投稿が占めていました。

さらに拡散者のアカウントのふだんの投稿やリツイートの傾向を分析したところ、異なる主義主張の人たちが、コロナワクチンについてはいわば“党派を超えて”拡散に加わっていることがうかがえました。

例えばふだんの投稿は、
▽アメリカ大統領選にまつわる陰謀論をよく投稿していたり、
▽日本の外交や安全保障をめぐる話題を投稿していたり、
▽あるいは「集団ストーカー」や「電磁波」など犯罪や疑似科学についての話題を投稿していたりするグループなど合わせて15ものグループが確認できました。



東京大学大学院 鳥海不二夫教授
「私が過去に分析したケースでは、特定の政党への思いがある人たちが広めていたことが多かったのですが、ワクチンについては“党派を超えて”広げていると感じました。情報を否定されたことで、真実を知っているのは私たちだからもっと広めなければいけないと考えた人も一定数いるようです」

取り込まれないためにはどうしたら?

さらに、こうした不確かな情報が拡散者ではない一般の人にも届きつつあると鳥海教授は指摘しています。



東京大学大学院 鳥海不二夫教授
「エコーチェンバーと呼ばれる特定の人たちのなかだけで情報が回っている状況にあったのですが、ことし5月から状況が変わりつつあります。少しずつではありますが、特定のグループではない人たちも誤った情報を拡散するようになりつつあります。ファクトチェックや公的機関の発信が広がったのと同時に、こういった情報(デマ)があるということを知ってしまう人も増えているとみられます」

ワクチンの接種の判断にあたっては信頼できる情報が不可欠ですが、ワクチンをめぐる不確かな情報に私たちが取り込まれないためにはどうすればいいのか。
鳥海教授は一度信じてしまったあとの行動が大事だとアドバイスしています。

東京大学大学院 鳥海不二夫教授
「まず、デマは必ず存在すると思っておいたほうがいいです。そして、デマは必ずしもデマの顔をしてやってきません。もしだまされたとしても、そのあと新しい情報が得られたら、それに応じて考えを変えていくというスタンスが大事です。信じていた情報が間違いだったと気づいたときには、過去の自分の言動にとらわれすぎないように柔軟に情報に向き合っていけるといいと思います」


※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2021年8月10日

「ドンと背中を押してもらった」妊娠中の女性がワクチンを打つまで

“ワクチンを接種すると不妊になる、流産する”というデマがSNSなどで出回り、それを見て不安になる人が少なくありません。今年5月に出産したマリさん(仮名・アメリカ在住)もその一人です。一度は「ワクチンを打つのをやめよう」と思ったマリさんですが、ある医師の動画を見たことで考えを変え、出産前にワクチンを接種しました。マリさんの背中を押した医師の言葉とは。

(8月10日放送 フェイク・バスターズ「新型コロナワクチンと誤情報」から
取材:吉田達裕ディレクター 構成:涌井瑞希ディレクター)

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世界中で拡散した誤情報 出産を控えた人たちを不安に

アメリカに住むマリさんは、5月に第二子を出産しました。アメリカでは去年12月からワクチンの接種が始まりましたが、妊娠中にワクチンを打つことにマリさんには迷いがありました。

去年12月、ワクチンを製造するファイザー社の元職員が「新型コロナワクチンは胎盤に悪影響を及ぼし、不妊症や流産の原因になる」という主張をSNSなどで発信。根拠のない誤情報にもかかわらず、“元ファイザー”という肩書きもあり、ネット上で幅広く拡散されていたからです。最初は英語圏で、その後日本でも広まっていました。

スマートフォンを見るマリさん

マリさんは新型コロナウイルスの感染拡大以降、情報を求めてSNSを頻繁にチェックするようになっていました。“ワクチンが不妊や流産の原因になる”とするデマは、Twitterのタイムラインにたびたび流れてきました。マリさんがフォローしている人たちも「いいね」や「リツイート」をしていました。



マリさん
「妊娠中っていうのはただでさえ不安なんですよね。本当に生まれてくるまで分からない。そこを突いてくる。赤ちゃんに悪い影響があるよっていうふうにささやかれると、え、本当かなって思っちゃいますよね」

その頃、マリさんはほぼ家の中で過ごしていたこともあり、自分が感染するリスクは低いと判断し、「出産するまでは打たないでおこう」と考えました。

デマだと思っていても、早産や流産になるリスクはやはり怖く、感染リスクが低いのであれば「打たない方がいいのではないか」と思ったのです。一緒に暮らす夫はワクチンを接種することにしましたが、妊娠中のマリさんの身を案じて「やめておこう」と話していたそうです。


届いた一本の動画 女性医師が語った経験は



そんな時、マリさんのもとに友人からある動画が送られてきました。新型コロナウイルスの情報を発信している医師たちのグループ「こびナビ」の動画でした。

「こびナビ」は、感染症専門医やウイルス研究者、公衆衛生の専門家など30人ほどがボランティアで参加していて、ウェブサイトやSNSをフル活用し、ワクチンの有効性や副反応など、科学的根拠に基づいた情報を毎日発信し続けています。(「こびナビ」公式サイトはこちら ※NHKのサイトを離れます)

マリさんが見たのは、「こびナビ」のメンバーのひとり内田舞医師が、妊娠中の女性に向けて発信した動画でした。

動画で情報発信する内田舞医師(下) 「こびナビ」HPより

内田医師はアメリカ在住でハーバード大学医学部助教授やマサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長を務めています。自分自身が妊娠中に新型コロナワクチンを接種した経験から、女性たちの不安に寄り添いたいと、最新の論文や研究結果をわかりやすく紹介しています。


“なんとなく怖いから接種しない” それにはリスクがある

内田医師が解説する動画の中で、マリさんが特に気になった言葉がありました。

内田医師
「“なんとなく怖いから何もしない”、すなわち“ワクチンを接種しない”という選択にも、大きなリスクがあることを忘れてはなりません」



日本産科婦人科学会やアメリカ疾病対策センター(CDC)などによると、妊娠中に新型コロナに感染した場合、妊娠していない同年代の女性に比べて、重症化しやすくなるとされています。内田医師はこうした研究結果をもとに、ワクチンを打つリスクと打たないリスクを天秤にかけて判断をしてほしいと呼びかけていました。

マリさん
「これまで“打たないことのリスク”はあまり考えたことがありませんでした。重症化してECMO につながれるかもしれないと考えたときに、『あ、それは本当に怖いことだ』と。私が感染してしまったら『家族はどうなるんだろう』『赤ちゃんはどうなるんだろう』と思いました。ドンと背中を押してもらったような感じがしました」

この動画を見てから考えが変わったマリさんは、出産前にワクチンを接種。その後、無事に女の子が生まれました。

赤ちゃんを抱っこするマリさん


“ワクチンで流産や不妊”の科学的根拠はない

ワクチン接種が「不妊」や「流産」の原因になるという情報は、世界中の公的機関が『科学的な根拠がない』と否定しています。その詳しい理由を内田医師さんに改めて解説してもらいました。

内田舞医師(ハーバード大学医学部助教授/マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長)
妊娠中にワクチンを接種。今年2月に元気な男の子を出産した。

内田医師
「ワクチンを接種することによって、新型コロナウイルスの周りを囲む『スパイクたんぱく質』に対する抗体ができます。デマの元になったのは、この『スパイクたんぱく質』と『胎盤を構成しているたんぱく質』が似ているため、抗体が胎盤に対しても反応するのではという説でした。しかし、検証の結果、2つのたんぱく質は全く似ておらず、胎盤に悪影響を与えることはないことが分かっています。

流産については、アメリカでは妊娠中にワクチンを接種した人3万人以上を対象とした調査が行われ、コロナの流行以前の一般的な流産率15~20%に対して、ワクチン接種後の流産率は12.6%という結果が出ています(CDC・米疾病対策センターの最新の論文より)。実際にワクチンが原因で流産が増えていることはないと確認されています。

また不妊については、ワクチンの臨床試験中にワクチンを接種したグループと、プラセボ(偽薬)を接種したグループを比較したところ、妊娠した確率は全く同じだったことが分かっています。新型コロナワクチンが流産や不妊を起こすという科学的根拠はありません」

こうした情報を発信するようになってから、内田医師のもとには質問やコメントが数千件の単位で寄せられるようになったといいます。その多くは不安を訴える女性たちの声で、それを読んだ内田医師は、改めてデマの悪質さを感じたと言います。

内田医師
「ほとんどの不妊や流産は、何かをしたり、しなかったりで確率が増えることはほとんどありません。それでも不妊や流産を経験された方々は、自分を責めることが非常に多いんですよね。私もその気持ちはすごくよくわかります。そうした心の弱いところを突いてくる意地悪なデマだなと思います」


【8月13日追記】

11日、アメリカCDC=疾病対策センターは「妊娠中の女性が新型コロナウイルスのワクチンを接種することによる、安全性に懸念はみられない」とする新たな分析結果を公表し、 妊娠中の女性にも接種を強く推奨する声明を出しました。

詳しくは こちらのニュース記事 をご覧ください。


※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2021年8月2日

ワクチン情報をめぐる”分断” どう乗り越える 「フェイク・バスターズ」未公開トーク【後編】

新型コロナワクチンをめぐり根拠の不確かな情報が飛び交っています。
信頼できる情報を見極めるにはどうすればいいのか?
8月10日放送の「フェイク・バスターズ」から、放送でご紹介できなかった部分も含め、スタジオでの議論をお伝えします。<前編はこちら>

新型コロナワクチンに関する最新情報はこちらから


宇野常寬さん(評論家)
ネット社会に対する鋭い批評で知られる

一青窈さん(歌手)
ワクチンへの不安から、根拠の不確かな情報に翻弄された経験をもつ

古田大輔さん(ジャーナリスト)
フェイク情報やファクトチェックなどについて詳しい

関屋裕希さん(心理学者)
メンタルヘルスの専門家。「不安」と向き合う方法に詳しい

山本健人さん(医師)
「外科医けいゆう」としてSNSなどでわかりやすい医療情報を発信


ワクチン情報をめぐる意見の対立



宇野 常寬さん(評論家)
いま、SNSで偏った情報をただ浴び続けている人たちと、それを一呼吸置いて受け取る人たちの世界が、本当に別のものになっていると思うんです。この分断の問題をどう思いますか。

古田 大輔さん(ジャーナリスト)

本当に難しいんですよね。ただ分断ってすごく強調されがちなんですけれども、その間には分厚い中間層があるんです。情報を発信する時には相手の状況を考える必要があると思います。

自分と完全に反対のことを言っている場合には、まず「2人の共有点は何か」っていうところを見つけることが必要だし、迷っている中間層の人たちに広く発信する場合には、「データはこうだよね」というのを見せることも必要だし、その場に応じて使い分けるしかないと思います。

一青窈さん(歌手)
「ワクチンを打たないほうがいい」って言ってる人たちも、そもそもは「このコロナの局面をみんなで乗り越えたいよね」って思ってるんですよね。

古田

どこが一致しているかを最初に聞いたほうがいいと思うんですよね。共通点が見つかれば、そこから会話を始めることができる。

宇野
対話に関して言うと、相手の揚げ足をとって「論破しちゃった」みたいなこと多いじゃないですか。「俺はお前よりも知性が高いんだ」とドヤ顔するような、ああいったコミュニケーションになると、説得もクソもないですよね。

山本 健人さん(医師/「外科医けいゆう」)

宇野さんの意見に賛成です。論理で物事を理解してきた人は、論理的な説明をすれば「相手も自分と同じ考えになってくれるはず」という落とし穴に陥りがちなんだと思います。しかも相手が身近な人だと「助けたい、力になりたい」っていう気持ちが強くて、さらにアクセルを踏んでいくんですね。

古田
ファクトチェックって理詰めなんです。論理でデータをバンバン並べて「ほら、だからこの情報は間違ってますよ」「これはミスリーディングですよ」って。
もちろんファクトチェック自体はすごく重要です。ただ1対1のコミュニケーションの時に「こういうデータがあるからお前の言ってることは間違ってる」って言ったら、相手はカチンと来ますよね。真っ向からのけんかになっちゃうので、ファクトチェックをやる相手や場面を考えないといけないですね。

関屋 裕希さん(心理学者)

論理やエビデンスのようなものではない、“気持ち”の部分を口に出す機会が限られてしまう状況はあると思います。
不安や曖昧さの中にいることを受け止める時間だったり、家族と話をする機会。それがないと“わかりやすいカード”を見て「よし、これ!」ってなってしまう。
この情報の世界を生きていく上で、論理的整合性があることはもちろん大事なんですが、身近な人とコミュニケーションをとる中で、“感情”についてもっと話をした方がいいんだろうなって、すごく思います。

宇野
いま、世の中みんな不安ですよね。わからないことばかりの中でさっきのVTRにもあった「家族の健康がとても心配です」という気持ちもよくわかる。そんなとき、色々なことが解き明かされる“魔法のカード”がほしいって、やっぱり人間は思っちゃうんですよね。
ワクチンデマがたちが悪いと思うのは、本当に聞かなくてはいけないその“小さな声”を押しつぶしてしまうことなんです。ある種の誘惑に満ちた1枚のカードを差し出すことで、不安と粘り強く付き合っていく訓練を積むとか、クッションになる人間関係を育む可能性を、押し潰してしまっているんじゃないかと思うんですよ。

ごく一部の医師による“誤情報”の発信



新型コロナワクチンの情報について取材をすると、ごく一部の医療関係者が、科学的根拠のない情報を発信していることがわかりました。国や学会が否定している誤情報をブログや動画で繰り返し発信し、それが「ワクチンは危険だ」と主張する人たちに引用されて、拡散されています。そうした投稿やアカウントのいくつかは、大手プラットフォームによって警告が表示されたり削除されています。(詳しくはこちらの記事へ)

宇野
十分に証拠がそろっていない情報を流している中には、医療関係者もいるということなんですが、けいゆうさんは医師として率直にどう思われますか。

山本

お答えが難しい質問ですけれども、新型コロナに限らずがんの領域でも昔からあるんですよね。パターンもいくつかあって、「誰かのためになりたい」という真摯な思いで言っていることが実は誤っている場合とか、自分の利益のためにやっている人とか、一概には言えないと思います。
難しいのは、医学や科学が発展していく上で『仮説を立ててみんなで検証する』ことは欠かせないプロセスだということです。ですので、仮説を主張することには、ある程度の自由が担保される方がいいとは思うんです。
その上でお話ししたいことは2つあって、まず情報の受け手についてですが、特定の人に対して「この人の言っていることはいつも信頼できる」と考える習慣は結構危ないと思うんです。
重要なのは、多くの専門家の意見が一致している部分、いわば“最大公約数”を拾っていくことだと思います。黒か白かで言うと、“より白寄り”の部分ですね。そういう情報は大体が信頼できる研究結果を出典として明示していて、エビデンスがあるんです。

一青窈
うーん、なるほど。

山本

もう1つは、誤情報を流しているような専門家を見かけて、激しい論争をするときは気をつけた方が良いということです。
両方とも専門家同士なので、知らない人から見ると、明らかに一方が間違っていても、どちらにも一理あるかのように見えてしまう。互角の戦いに見えて、逆効果になることもあるため、誤情報を指摘する側にも慎重さが求められると思っています。

宇野
専門家同士で論争すると、かえって誤情報の拡散を助長してしまう危険があると。
これどうしたらいいと思いますか?

古田

本当に難しい問題ですね。放っておくと、不正確なことを言っている専門家が勝利宣言をしてしまうんですよね。「ほら、やっぱりわれわれの言っていることが勝ってる」って。それも問題なんですよ。
僕が思うのは、誰かがちゃんとファクトチェックをやるべきだということです。疑問に思った人がネット検索したとき、必ずファクトチェックされた情報も見れる状況にしておく。それがないと、本当に間違った情報が広がってしまうので。

宇野
みなさんのお話を聞いていて思うのは、ちゃんと検証されていない情報を鵜呑みにするというのは、まさに「未検証の情報のワクチン」を打っているのと同じなんじゃないかということです。
「ワクチン」か「反ワクチン」かがあるんじゃなくて、「検証された情報」と「検証されていない情報」があるだけなんだと思うんですよね。この本当の問題を、どうしっかり伝えていくかが大きいのかなと思います。


感染防止には信頼できる情報が不可欠 立ち上がった医師たち

「信頼できるワクチンの情報を発信することが、感染拡大を食い止めることにつながる」。そんな思いをもった医師たちが、今年2月、あるチームを立ち上げました。その名も「こびナビ」。「こび」はCOVID-19の頭文字、ナビは案内役(ナビゲーション)からとりました。感染症専門医やウイルス研究者、公衆衛生の専門家など30人ほどがボランティアで参加。ネットやSNSをフル活用し、科学的根拠に基づいた情報を毎日発信しています。

宇野
古田さんは「こびナビ」の活動についてどう思いますか?

古田

「一度考えが固まった人は、なかなか考えを変えないんじゃないか」という方もいますが、正しい情報発信というのは確実に良い影響を広げていく。「こびナビ」メンバーの方が「なんで続けるんですか」という質問に、「私が情報発信を続けないと」とおっしゃっていましたが、そのためにすごく地道に頑張っている方々がいるんですよね。そういうこともより広く知ってほしいと思います。

宇野
けいゆうさんは「こびナビ」に近い活動をされてますよね。

山本

私が何か語るのもおこがましいんですけれども、私自身も数年前から仲間と一緒に情報発信を続けてきて、そのなかでひぼう中傷を浴びることも頻繁にあったんですけれど、新しい発信のかたちをつくることは痛みを伴うものなのかなと、お互い励まし合ってやってきました。
ただ正直言って、こういう状況だと持続性がないというか、社会的意義はあってもこれを後輩に勧めるのは、今のままだと難しいなと思うんですよね。あまりにも大変だし、しんどいし、全部手弁当でやらないといけなかったり、すごく難しいです。
僕たちの本分は、やはり医療現場で目の前の患者さんのために全力を尽くすことだと思っています。発信については、その道のプロであるメディアとうまく連携していくことがやっぱり重要になってくると思います。
それとともに学会とか公的機関とかと連携して、組織の中で自分たちの身を守りながら発信をしていく。その仕組みづくりをすることが大事なのではないかなと思いますね。

宇野
必ずしも情報発信の専門家でもないお医者さんたちに、結果的に押しつけている状態になっていると。関屋さんはこの問題についていかがですか。

関屋

そうですね、論文をたくさん読み込んで「発信しても大丈夫」っていう合意を得るのは、すごく時間がかかります。私もそうなんですが、エビデンスのあることを言おうとすると、どうしても口が重くなるというか回りくどくなってしまうところがあって、いつも発信する時に悩んでいます。
だから今、けいゆうさんが言ったみたいに、メディアの人と連携する意味は大きいと思います。

古田
こういう活動をどう支援していくか、ということでいうと、こびナビの人たちに対する一番の応援は「こびナビの発信を見て私はワクチン打ちました」と言ってくれることじゃないかと思います。


ミスリードを防ぐために メディア・プラットフォームの役割



ワクチンに関する明らかなデマや確かな情報が氾濫する中、事実に基づいたニュースでも、誤解を生むことがあります。たとえば「ワクチンを接種した人がその後死亡した」というニュースでは、死亡とワクチン接種の間に因果関係があるかはわかりません。しかしニュースを見た人が「ワクチンの副反応で死亡した」と、誤って受けとるケースも少なくないと言われています。情報を伝えるメディアや大手プラットホームは、対策を迫られています。

宇野
メディアや大手プラットフォームのワクチン副反応の伝え方については、どう思いますか。

古田

例えば一時期、「ワクチン接種後に○人死亡」っていう速報がよく流れてましたよね。あれを見ると「ワクチンを打ったら人が死ぬんだ、怖い」っていう印象を当然持ちますよね。ワクチン接種後に死亡したこと自体は厚生労働省などから発表されるし、間違いはないんです。
ただしですね、日本ではワクチンに関係なく、1日に3,800人くらいの方が亡くなっています。これまでに1回以上ワクチンを接種した人が4,000万人(※6,000万人)を超えているので、単純計算でそのうち1日1,200人(※2,000人)ぐらいの方が亡くなっても、統計的にはおかしくないんです。

※かっこ内は、8月11日時点の統計を基にした数値
もちろん中にはワクチンが原因の可能性があるかもしれないので、役所は発表します。ただ、発表があったからメディアはそのまま速報を流していいんですかと。
メディアの中にも、丁寧な但し書きをつけて出しているところもあります。「ワクチン接種後に死亡したけど因果関係はわかっていない。でも透明性を高めるため発表してます」といったように。その一方で、単に「接種後に死亡」と報じてしまうところもあって、正しい情報だとしても間違った印象を与える可能性があります。
より読者のことを考えて情報発信をする責任が、メディアにはあると思ってます。

宇野
けいゆうさんはどう思われますか。

山本

事実を伝えることは大切なんですけれども、それと一緒に「事実をどう解釈するか」の“手引き”を一緒に伝えることも大事だと思います。
副反応にしても、因果関係があるのかないのか、それが何かと比べて多いのかなど、解釈をすべて読者や視聴者自身にゆだねてしまうと、反射的に「これは不安だ」とか「これで安心だ」という感情が生まれて、それがすぐに行動に反映されてしまうと思います。

関屋
自由に解釈すると、どうしても恐怖や不安が強まる方向にいってしまいますよね。

山本

解釈をするためには、統計的なデータを扱うための専門知識が必要になります。メディアが事実だけを伝えて「解釈の部分は視聴者にお任せ」と丸投げするよりは、専門家がどう解釈しているかについての情報も一緒に伝えるほうが望ましいと思いますね。

宇野
僕はまず、メディアが進化する必要があると思います。ジャーナリズムの中でも特にマスメディアは、これまで守られてきた歴史があって、その中で、ネットの飛ばし記事ほどではないにせよ、エビデンスが不十分な記事もこれまで出てきたんだと思うんです。例えば、相関関係しかないのにあたかも因果関係があるように書いてしまったり。これはある種の印象操作につながってしまう。

その上で僕は、メディアとファクトチェックがもっと緊張関係を持つべきだと思うんです。記者は記事を世に出す時に、ファクトチェックを本当にくぐり抜けられるのかを真剣に考えるべきだし、ファクトチェックする側も、影響力の大きいマスメディアにもっと注意を向けるべきだと思うんですよね。

不安を情報で埋めないために



宇野常寛さん(評論家)
今日たくさん話しをしてきて、最後に視聴者の方に伝えたいことをそれぞれお願いできればと思います。
一青窈さんいかがでしたか。

一青窈さん(歌手)

自分の考えと対極にあるようなものも含めて、なるべく満遍なく情報を拾って自分の考えをアップデートしてくことをみなさんに勧めたいですね。わたし自身もそうしているので、いま迷っている方がいたら、自分と同じような意見ばかりを摂取するのではなく、違う意見も見てほしいなって思います。

宇野
けいゆうさんお願いします。

山本健人さん(医師/「外科医けいゆう」

僕は医療現場で、いろんな方の不安とか恐怖を毎日見ています。不安や恐怖が心に渦巻いている時に、情報を適切に解釈するのはすごく難しいです。こうした危機に日頃から備えておこう、というのが一番伝えたいことです。
自分や家族にとって幸せな判断ができるように平時から備えておく。そのためにどんなところから、どんなふうに情報を集めればいいのかをいつも考えてほしいと思います。

関屋裕希さん(心理学者)
私は不安とのつき合い方という点で、2つお薦めしていることがあります。1つは書き出すこと。目で見える状態にしてみると少し落ち着いて考えられる状態になります。
もう1つは口に出すことです。自分の家族とかパートナーとか、大切な人とちょっと話し合ってみる。もちろんこれで不安がすぐに解消するわけではないので、つき合い続けて、抱え続けていくことも大事だと思います。

宇野
僕はね、不安を情報で埋めないことが大事なんじゃないかと思うんですよね。パンデミックの不安の中で、「この情報を信じたら自分の不安が解消できる」というのはやはり危険だと思います。そうした心理状態だとまったく検証されてない情報も平気で受け入れてしまう。それはやはり“未検証のワクチン”を体に打つ行為と一緒なんだと思うんですよね。
1人で世界に孤独に向き合った時に「情報Aと情報Bどっちが検証されたものか」をゼロから考える、これが大事なんじゃないないかなと思いました。
みなさん今日は長い時間、ありがとうございました。


※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2021年8月2日

不安なときこそ”デマ”に注意 「フェイク・バスターズ」未公開トーク【前編】 

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中、対策に欠かせないワクチンについて、不安をあおるさまざまな情報が飛び交っています。荒唐無稽なデマ、根拠がないとして国や専門家が否定しているもの。こうした情報の氾濫が、感染の収束を遅らせかねないと専門家は警鐘を鳴らしています。
信頼できる情報をどう見極めればいいのか。8月10日放送の「フェイク・バスターズ」で話し合いました。3時間に及んだ議論を番組でご紹介できなかった部分も含めてご紹介します。

新型コロナワクチンに関する最新情報はこちらから


宇野常寬さん(評論家)
ネット社会に対する鋭い批評で知られる

一青窈さん(歌手)
ワクチンへの不安から、根拠の不確かな情報に翻弄された経験をもつ
複数の医師に疑問をぶつけるなど、何を信じればいいか模索し続けている

古田大輔さん(ジャーナリスト)
フェイク情報やファクトチェックなどについて詳しい

関屋裕希さん(心理学者)
メンタルヘルスの専門家。「不安」と向き合う方法に詳しい

山本健人さん(医師)
「外科医けいゆう」としてSNSなどでわかりやすい医療情報を発信


医療情報はすべて“グレー” 信頼できる情報を見極めるには?

宇野 常寬さん
今日は『新型コロナワクチンをめぐる誤情報』について見ていこうと思うんすが、あらかじめお伝えしておきたいのは、「ワクチンを打つ、打たない」はあくまで個人の判断です。ただし、その判断の基準となる情報は、あくまで“正しい”ものでなくてはいけません。そのためのヒントをこれから考えていければと思いますので、よろしくお願いいたします。
まず古田さん、この夏までの状況についてどう分析されていますか。

古田 大輔さん(ジャーナリスト)

ワクチンに関する誤情報ってたくさんあるんです。例えば、「ワクチンにはマイクロチップが入っていて、人を洗脳しようとしている」といった荒唐無稽なものから、「接種したら不妊になる」というデマのようにみんなが気になってしまうものもあります。
色々な情報が流れている中で、ワクチンに対して恐怖感とか不安を抱くのは仕方がないと思います。一方で僕も含めて、世の中のほとんどの人は、専門的な医学論文を読み解くための医学リテラシーなんて持っていないですよね。ではなぜワクチンを打つことを『選ぶ人』と『選ばない人』がいるのかを、突き詰めて考える必要があると思います。

宇野
けいゆう(山本)さんは、以前からネット上の医療情報の難しさにずっと向き合ってきましたけど、今の状況をどう考えていますか。

山本 健人さん(医師/「外科医けいゆう」)

ワクチンに限らず、医療の情報というのは常にグレーで、白黒はっきりしているものはすごく少ないんです。“白寄りのグレー”や“黒寄りのグレー”という、濃淡でしかないんです。あらゆる医療行為には必ずリスクがあって『100%安全な治療』というのはありません。
重要なのは、医療行為を『受けるリスク』と『受けないリスク』を天秤に掛けて考えることです。そのためにはリスクを事前に見積もる必要があるんですが、それには信頼できる情報をうまく集めるテクニック、ノウハウが必要になってくると思うんです。


不安や曖昧さに耐えきれず “極端な選択”も




宇野
そして今日は、歌手の一青窈さんにも来ていただいています。

一青窈さん(歌手)

よろしくお願いします。


宇野
実は一青窈さんは一時期、ワクチンについての誤った情報に接して、色々考えることがあっと聞いたんですが?

一青窈さん(歌手)

いまも常々悩んだりしてます。最初は、子ども生んだときにワクチンにすごく不安を感じたのがきっかけだったんです。すごい過密スケジュールで赤ちゃんの柔肌に打たなければいけないんだと思って。
その時に「ワクチンは打たないほうがいい」というシンポジウムに友人に誘われて参加して、「やっぱりやめよう」みたいな考えが強くなったんです。その後、偏った情報だけを得て、偏った本だけを読みという時期が続いたんですね。
私はきょうは「単純にすごく不安なんです」という市民代表としてここにいて、周りには「何となく不安だから打つのやめるわ」っていう人は結構たくさんいるんですね。いま私自身はワクチンについては中立なところにいるんですけど、そういう情報に耳を傾けてしまう気持ちはすごく共感します。


宇野
なるほど、ありがとうございます。
関屋さんはいまのお話しを含めて、心理学の観点からどうお考えですか。

関屋 裕希さん(心理学者)

やはり1つのキーとしては「不安」というのがあると思います。
さっき古田さんも仰ってましたが、この状況で不安になるのはすごく自然なことなんです。新型コロナウイルスもそうですし、ワクチンもそうですし、人って曖昧な状況や先が見えない状況に直面すると、心地が良くないですよね。その曖昧さに耐えられないと極端な選択をしてしまいやすくなるです。
さらに一度その選択をしてしまうと、それに合致するような情報に注意が向きやすくなる。「確証バイアス」というんですが、それによってまた思い込みを強めてしまう。さらにSNSの特性がかけ合わさって、1回「いいね」を押すと、それに合致する情報が何度も何度も出てくる。
そうすると「やっぱりそうじゃないか」というふうに、偏った情報を信じやすくなってしまうというのが、人の心理としてあると思います。


宇野
みなさんのお話を聞いてると2つ問題があると思うんですよね。1つは、そもそもなんでこんなに誤情報が拡散してしまっているのか。その環境下で僕たちがどうやって情報と接していったらいいのかという、メディアやそれに対するリテラシーの問題。
もう1つが、色々な異なる意見を信じている人たちの間で、どうコミュニケーションをしていったらいいのか。この2つの問題があると思うんです。


“情報は食べ物” 食べる前に吟味が必要



古田
僕は情報は『食べ物』だと思ってます。質のいい情報を食べると精神的に健康になっていくものだと思うんですね。逆に道に転がってる変な形のキノコをいきなりパクって食べますか? 食べないですよね。

一青窈

まあ、キノコにはないにしても野いちごぐらい? 


古田
野いちごですか(笑)。情報も食べ物と同じである程度の吟味が必要で、しかも今回の場合は、自分や周りの人の健康に関わる情報なので、何でも口に入れたらいいわけではないと思うんですよね。

一青窈

ただ、情報の確度や質の高さものを見極めるのって、それなりの知識がないと無理だと思うんです。医学的な根拠に基づいた情報ってどうしても言葉が“固い”くて、「集団免疫といって…」って言われると頭が「ゴチャゴチャゴチャ」ってなってしまう。
それよりも「ワクチン打つと洗脳されるらしいよ」「死んじゃうらしいよ」っていう方がわかりやすい言葉だし…


宇野 常寬さん
僕は「何かおかしい」とか「何か変だ」っていう気持ちは否定すべきじゃないと思うんですよ。問題はその「何かおかしい」という気持ちが、とりあえず不安を和らげてくれる”わかりやすい物語”に持っていかれてしまうことだと思うんですよ。
だから不安を解消するための物語ではなくて、不安と付き合っていくためのデータやエビデンスの方向につなげる回路が、弱いんだと思うんですよね。

山本

そうですね、そのなかで重要だと思うのは、強い不安や恐怖によって、危機的状況に陥ってしまったときに情報を冷静に見極めるのは、極めて難しいということです。もうこれは大前提としてあると思うんですよ。僕だってパッと見てすごくわかりやすいものが目に入ったら、たとえ誤情報でも信じてしまうかもしれない。

一青窈
うん。


山本


ですのでそういう状況に陥る前に、日頃からネットで情報収集するときのリスクについて、十分知っておく必要があると思うんです。
『フィルターバブル』などはよく知られたリスクです。例えば自分がフォローしているアカウントが信用できると思っているときにも、「実はフィルターバブルに陥っているんじゃないか」って常に点検しておくことが重要だと思うんです。
フィルターバブルの中にいると、周りはみんなその意見に賛同しているように見え、それ以外の考えは見えにくくなって、偏りを自覚しにくくなるんじゃないかといつも思ってます。

フィルターバブル:ネットやSNSで同じような情報ばかりが表示されること。アルゴリズムによって、フォローしている相手や過去に検索した履歴などから、その人が興味を持ちそうな情報が自動的に表示される現象。自分の考えと異なる情報が目に入りづらくなる。

山本
もうひとつ、目の前の情報が適切なのか判断する上で重要なのは、本当にその分野の専門家が言っているのか、そして1人だけではなく複数の専門家が言っているのかを確認することです。
例えば「おいしいニンジンを買いたい」と思った時に、魚屋さんと肉屋さんと八百屋さんに相談すればバランスのよい判断ができる、というわけではないですよね。相談すべきは「複数の八百屋さん」のはずです。日頃からそういった心の準備がしておくべきじゃないかなというのが、私の意見ですね。


間違った口コミは “ラーメンの話”で防ぐ?



宇野
古田さん、日本で誤情報が拡散する際の特徴ってありますか?

古田
最近、国際大学GLOCOMが「イノベーション日本」というレポートを出したんですが、その中に『間違った情報を入手した人が、それをどうやって周りの人に伝えたか』という調査があるんです。
一番多かったのはなんと『口コミ』なんですよね。

一青窈

おお。


古田
自分の友人や家族に「どうもワクチンで不妊になるらしいよ」とか、ママ友たちが公園で「ワクチン打った?」「でも不妊になるらしいよ」みたいな。最初にそういった情報を広げる起点になるのはインターネットが好きな人が多い。ネットで情報を仕入れて「これは人に教えてあげないと」っていう親切心から伝えてしまうんですよね。
自分の友達から言われたら「え、そうなんだ」って影響を受けるじゃないですか。それが先に耳に入るとどうしても引っ張られてしまうので、できるだけ早い段階で正確な情報を伝えておくことが重要だと思います。

一青窈

「これはたくさんの人に知らせないとヤバイ」っていう、おせっかいで親切な近所の人みたいな感じなのかな。


宇野
身近な人同士で話すと「このグループから浮きたくない」という理由で判断を間違えそうな気がするんですよ。

一青窈

うんうん、距離感ですね。


宇野
そうです、距離感。僕の周りにもその分野に詳しいわけでもないのに、たぶん不安をごまかしたいという動機であまり根拠のない推論などを言ってくる人っているわけです。僕はそういう場面に出くわしたら、話題をお天気とかご飯のことに移すようにしてます。
なぜかというと、その人が言ってることが正しいかどうか、僕には判断つかないんですよ。でも不安だとだまされやすい精神状態にある。だから僕なりの自衛として、「この前行こうと思ってたラーメン屋だけどさ…」みたいに、話をずらすことを心掛けてるんです。


【スタジオトーク後編】へ続く


※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

クロ現+
2021年3月31日

コロナ禍で急増!オンラインサロンにハマる人たち

今、ネット上の有料会員コミュニティー「オンラインサロン」に入会する人が急増している。コロナ禍で失われた、人とのつながりを得られる新たな「居場所」となる一方、サロン内の閉じた世界ゆえに「まるで宗教のようだ」と指摘する声もある。何が多くの人々をひきつけているのか?危険はないのか?実情に迫った。

記事はこちらから

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

クロ現+
2021年3月31日

オンラインサロンのトラブル 相談窓口

「月額2万円と聞いてオンラインサロンに入会し、途中退会を申し出たら1年契約になっていた」などインターネットを通じて会員制で情報交換などを行える「オンラインサロン」に関する相談が相次いでいるとして国民生活センターが注意を呼びかけています。

「オンラインサロン」は、インターネットを通じた会員制のサービスで入会費や定額の会費を支払うことで著名人から話を聞けたり、会員どうしで情報交換したりすることができ、利用が広がっています。

国民生活センターによりますと今年度のオンラインサロンに関する相談は、少なくとも180件ほどと前の年より急増していて、若者を中心に相談が相次いでいるということです。

具体的には、
▼月額2万円で資産形成について学べると勧められて入会したが、思った内容ではなかったため途中退会を申し出たところ「1年契約だ」と言われてやめられなかったケースや
▼有名企業の元社員から経営術を学べると聞いて入会したところ経歴が嘘だと分かり、返金を求めたが、一部しか応じてくれなかったケースなどがあったということです。

このほか、ほかの会員から投資話を持ちかけられたり、入会したあと高額な商品を購入するよう指示されたりするなど、オンラインサロンをきっかけにトラブルにあったという相談も寄せられています。

国民生活センター相談情報部の神辺寛之さんは、「トラブルに備えてサロン運営者の連絡先などは必ず確認し、勧誘などのやりとりは履歴を残しておくことが大切です。不安に感じたら最寄りの消費生活センターなどにすぐに相談してもらいたい」と話しています。

オンラインサロンでのトラブルに関して悩みを抱えている場合は、以下の問い合わせ窓口があります。

【相談窓口情報】
※開設時間は変動する可能性があるため、各団体のホームページなどで 最新の情報をご確認ください。

▼消費者ホットライン
 局番なし「188」

▼国民生活センター
「平日バックアップ相談」
 03-3446-1623
(祝日除く月曜~金曜/10時~12時、13時~16時)

▼全国消費生活相談員協会
「週末電話相談室」
03-5614-0189
(土曜日曜/10時~12時、13時~16時)
011-612-7518
(土曜/13時~16時)
06-6203-7650
(日曜/10時~12時、13時~16時)

▼日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会
「ウィークエンド・テレホン」
06-4790-8110
(土曜/10時~12時、13時~16時)
03-6450-6631
(日曜/11時~16時)

▼日本消費者協会
「消費者相談室」
03-5282-5319
(火曜~金曜/10時~12時、13時~15時半)

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

クロ現+
2021年3月31日

婚活オンラインサロン 体験取材してみた

オンラインサロンに入ったのは、取材のためだ。でも、期待することがあった。その理由は自分のなかにある「自己肯定感の低さ」。子供のころから引きずってきたこのネガティブな性格が、もしかしたら少しでも変わるのか……。
選んだサロンは、“溺愛女子サロン”。婚活のサロンで、結婚の相手をサロンで探すのではなく、女性が集まって恋愛・結婚のコミュニケーションを学ぶ。実は「溺愛思考」という、自分を愛するための思考法も学べるという。恋愛を進めていく上で相手に心を開くのが大の苦手な私は、どうすればもっと「上手」に関係性を築いていけるのか知れるのではないかと、期待を寄せていた。これは、その心の軌跡。
(クローズアップ現代プラス ディレクター・上田ひかり)

“溺愛女子サロン”は、婚活コーチの吉乃菜穂さんが運営している。
月5500円でFacebookの非公開グループに入って会員にしか見られない情報を見たり、アドバイスを受けたりすることができる。女性限定のサロンで3月31日現在463人が入会している。多くのオンラインサロンは、活動の内容を外に公表してはいけないというルールがある。
でも、ここのサロンでは参加者のプライバシーを守ることを条件に取材を受け入れてくれた。期待と不安が入り交じる中、入局2年目のディレクターの私は、第6期のサロンメンバーとして3月1日から入会した。



まず始めに行ったのは「自己紹介」欄の記入。

自信を持って打ち出せることが本当に少ないなと改めて実感する。

名前、居住地、現在の交際のステータス(婚活中、恋人の有無、婚約中、既婚者)、そういった「データ」は書けても、呼んで欲しいあだ名や好きなこと、趣味・特技を書く段階でどうしても躊躇してしまう。

「自分よりもこの分野について詳しいひとなんてたくさんいるんじゃない?」

「英語が特技って言い切ってしまってもいいんだろうか……」

「お笑い芸人のぺこぱさんが好きでYouTubeも見ているけど、『ホンモノ』のファンと比べたら私なんてライトな層だし」と、ぐるぐる頭の中で自己批判と反省が止まらない。

私は、子供の頃から自己肯定感の低さに悩んできた。
身近なひとから手放しで褒めてもらった記憶も少ない。
何かが仮に上手くいったとしても自分の努力ではない、ただ運がよかっただけなんだと思い込んでしまう。
なぜか、心のどこか深いところで、必ずいつか失敗して酷い目に遭うと思っている。
自分がやることなすこと一切合切が信じられず、「生きたい」と強くは思ったこともない。友人からは「自分を大切にできていないから、結局なにも大事なものを持てないんだろうね、心臓をなくしているんだろうね」と言われたこともある。

自分でもどうかと思うこの自己肯定感の低さが、もし月額いくらかで解消されるのであれば、安いんじゃないか?とも思った。

サロンに参加しているほかの女性たちの投稿を見ると、書き方も軽やかで可愛い絵文字がふんだんに使われ、きらきらして見える。

場違いなことをしないように気をつけようと思った。
どうやら首都圏以外からの参加者もたくさんいるようだ。
中にはプロフィールにUSAと書かれている人もいた。

記入し終えて1分も経たないうちに主宰者の菜穂さんから自分の投稿に反応があった。 ほかのメンバーからも次々に温かい反応が寄せられる。

果たして自分なんかがここにいていいんだろうかという不安が少しずつ解消されていくのを感じた。

“溺愛女子サロン”には婚活だけではない、さまざまなコンテンツが揃っている。 自己肯定感の高め方、資産運用や起業の方法、言語化のメソッドを学ぶもの、親子関係の改善に役立つ動画とテキストのワークショップなど。
菜穂さんのコラムや動画、Facebookのスレッド機能を利用した相談など、読むもの、見るものが盛りだくさんで時間がついつい過ぎていった。



サロンの主宰者以外のメンバーが自主的に会を開くこともある。

ある朝、ラジオ体操をサロンのメンバーで行うと聞いたので参加してみた。

7時に起きて運動をするなんて何年ぶりだろうか。



ラジオ体操をしたあとは参加者でゆるゆるとごはんを食べたり、メイクをしたりしながら時間を自由に過ごす。

あまり頑張りすぎずに参加することが長く続くこつらしい。

オンラインでの会に参加するとき、なにか発言をすると必ず褒めてもらえる、小さな挑戦1つ1つを丁寧に見逃さずに肯定してもらえる。
とにかく、褒めてもらえる。

サロンでは、他人と比べないことや否定語を使わないことが基本的なルールになっていた。



ほかの参加メンバーもかつては同じような不安や所在なさを感じていたからこそ、新規のメンバーには積極的に優しくなれるのだと話していた。

あるメンバーの女性は、毎週、必ずほかのメンバーを集めて雑談をする会をオンラインで開いていた。女性は、責任を持って活動を進めることが、大きなやりがいだと話した。

「(主宰者の)菜穂さんからは『これやって、あれやって』という指示がないから好き、やりやすい。自分で好きなように活動できている。自分の仕事だと失敗が怖くてチャレンジできないけれど、オンラインサロンの中だと失敗も怖くない。だから、挑戦を続ける中で仕事では得られなかった自信を身につけることができた」



参加メンバーは、働いている女性が多いということもあり、平日は夜7時から10時までの活動が多く、時には11時を回ることもあり、だんだん夜更かしになってしまっていた。

いろいろな人とおしゃべりしたり、動画やコラムで得た知識でメンバーのひとたちが話していることをより深く理解できるようになってうれしくなったり。ハマっていくと大変なのは、オンラインだからこそ、いつでもつながれる、どこでも参加できてしまうこと、実生活とのバランスに気をつけて活用していかないと、と思った。

サロンで、最も心地よいと感じたのは、自分のダメなところ、弱いところを見せていって、それで褒めてもらえる、肯定してもらえる、という点だ。

職場で自分の弱音を吐くことはできない。プライベートな悩みを誰か、自分より経験の豊富なおとなに相談する機会もほぼない。コロナ禍で、ここ1年は学生時代の友人と会って語り合うこともままならなかった。

自分は思っている以上に不安を抱え、それを受け止めてもらえる場を求めていたんだなと、気がつく。

少人数の集まりでは、自分の恋愛体験を思わず打ち明けていた。

「好きかどうかもうわからない人がいる。優しく連絡をくれて、好きになってしまったあとで向こうに彼女がいることを知った。いまは、相手の彼女にとって自分がどういう風に見えていたんだろうと考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる」



すると、会の参加者は「あなたは悪くない。ピュアに相手のことが好きだっただけ。申し訳なく思う必要なんてないよ」と優しく告げてくれた。

ほんの少し気持ちがうるうると高ぶってしまった。



主宰者の菜穂さんはサロン内のライブで、本当に多種多様な疑問にはっきりと答えていた。

その語りのペースと、弾けるようなエネルギーに圧倒される。

菜穂さんのすごいところは、自分自身の失敗談やダメなところ、その日もし調子があまりよくなかった日だったなら、それさえもどんどん話してくれるところだ。

これほど赤裸々に語るひとをこれまでほとんど見かけることがなかったので、自分ももっと自由に生きてみてもよいのかな、と背中を押されているような気持ちになった。

サロンのメンバーには、実際に、「自由になった」「人生が変わった」と語る人もいた。

私は、「好意を寄せていた人に彼女がいることがわかったが、まだちょっかいをかけられている」という、先ほどの悩みを、菜穂さんにも投げてみた。

菜穂さんは、すぐに私の質問に目を止め、「あっ、ひかりんじゃん!」と言ってくれた。

どきっとした。

さぁ、どんな答えをくれるのかな……。

「私はね、その時点でないなって思う、冷めちゃうかも」

え~!そうなんだ。ばっさりと切ってもらえて、小気味よく、気分が上昇するのを感じた。

サロンの活動は楽しく、同じような悩みを抱えるひとたちに肯定してもらえ、自分の不安や肯定感の低さが和らいでいくように感じた。



上田の悩みに菜穂さんがブログでも回答してくれた画像

サロンに入会してから10日ほど経過した頃。

最初に感じていた安心感や高揚感とは打って変わって、言いようのない不安に包まれている自分にふと気づいた。

サロンのメンバーはとてもポジティブで、いつも前向き、自分の心に従って判断をすることを常に肯定してくれる。でも、それはそもそも、本当にいいことなのだろうか。

例えば「転職しようと思っている」というメンバーに即座に「いいじゃん!」と返すやり取り。そして、「好きなひとに彼女がいた」という私の相談に「別に彼と遊ぶのはいいんじゃない?」というコメント。

もしかしたら、この肯定には、根拠がないのではないか、と思い始めていた。

気分がぐらつくのを感じた。

サロンに参加したそもそもの動機、自己肯定感は、逆に下がっているようにも感じてきた。



どういう風に、サロンメンバーのアドバイスを受け止めていけばいいんだろうか?

自分の求める、心から信じられる深い肯定感、それはもしかして手に入れられないものだと言うのだろうか。

気分が落ち込んでいく中、なぜか思い出したのはいま同居している2人のルームメイトのことば。以前、彼女たちに同じ恋愛相談をしたときのやりとりだった。

「不毛な恋愛に時間を使うのは絶対にやめた方がいい」

あのときのことを、2人に尋ねてみた。

「あなたが泣いているところを見たらすごく哀しいから。なんか、止められたかもしれないのに止めなかったらもやもやするじゃん」

「ケンカもしたし、いろいろあったけどさ、それを乗り越えたから生まれた信頼、みたいなのもあるのかなって」

そんな風に思っていたとは。なんだか、こそばゆかった。

彼女たちとは、一緒に生活している中、育ってきた環境や考え方も全く違ったため、これまで何度も衝突することがあった。ケンカやすれ違いを繰り返していたようにも思う。
でも、それだからこそ自然に培われていた不思議な信頼感、一つの屋根の下で同じ時間を積み重ねてきた、その安心感に、なんだか懐かしさのようなものを感じた。



最後に主宰者の吉乃菜穂さんに直接インタビューする機会を得た。

まず、自分がサロンに参加して、最も強く抱いた疑問、真の肯定はオンラインサロンで得られるのかを尋ねてみた。

菜穂さんの答えとしては、「ノー」。サロンの中だけでは決して幸せになれないと。でもサロン内でコミュニケーションの形を学び、成功体験を得ることで実生活の中でノウハウを活用して、前向きにサロンメンバーに生きていって欲しいと思っている、と告げられた。

とても腑に落ちた。
私は、オンラインサロンに参加することで近道して自分の自己肯定感を上げようとしすぎていたのかもしれない。

サロンに参加するのだから、人生を変えたい、いまの自分から変わりたいという欲求、期待は当然だと思う。でも、その欲求が先行して、どうなりたいのか、なにになりたいのかということを考えていないと、自分を見失ってしまう。

自律して自分の頭で考えながら、人生を前向きに旅するためのエネルギーを得る場所。
オンラインサロンはそんなところなのかもしれない。


今回、オンラインサロンに入ってみて、世界が広くなっていくようにも狭くなっていくようにも思え、不思議な感覚を味わった。

会社と家の往復だけでは得られない、ほかの年代や業種の女性と語り合うことができた経験はとても貴重で、オンラインサロンにハマるひとの気持ちがよくわかった。

クローズドなSNSの強みも実感した。いまの時代はオープンな場ではなかなか本音を言いづらい。そのための安全地帯としてオンラインサロンが機能しているのかもしれない。

コロナ禍で迎える2度目の春。
私は、取材のために入った「オンラインサロン」という場を通して、結果として、自分自身と深く向き合うことになった。
いまは、子供の頃から感じていた呪縛のようなわだかまりからほんの少しだけ解放されたような気もする。新しい人生に向けて旅立つことができるかも、という予感のようなものも芽生えた。でも、それは、決してオンラインサロンのおかげだけではないと思うことにする。取材者として得た今回の体験を、大事にしていきたいと思う。

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年12月18日

陰謀論が生んだ家族の分断 そしてマスメディアの役割は?

「フェイク・バスターズ」番組ダイジェストPART③
自分が信じたい情報ばかりに目がいき、それ以外のものは無視してしまいがちになる。
そうした『確証バイアス』によって、偏った情報を信じ込んでしまった結果、家族に亀裂が生じたケースもあります。
そして”選挙をめぐるフェイク”が飛び交う状況に、マスメディアは何をすべきなのか?
12月18日放送「フェイク・バスターズ」の放送内容からご紹介します。
“選挙フェイク”が生んだ家族関係の亀裂


アメリカ人の動画クリエイター・スティーブさんと、母のスージーさん。明るく社交的な性格だったスージーさんは、去年夫を亡くしてから独りで暮らすようになっていました。



その日のスージーさんは、いつもと様子が違っていました。





スージーさんが見ていたのは、いわゆる「陰謀論」が多数投稿されているSNSでした。

「Qアノン」と呼ばれるグループによるもので、大統領選挙を前に急速に拡散されていました。『アメリカは、一部のエリートやメディアからなる闇の政府に支配されている。トランプ大統領はそれらと戦う救世主だ』と主張していました。





スティーブ(仮名)さん
「父が借金を残したまま亡くなり、その直後に新型コロナウイルスが流行しました。母と同年代の友達もなくなりました。母は『ちょっと待って、どうして私は思い描いていた老後が送れないの?これはおかしいわ』と思うようになったんです。そんな母に“答え”を与えたのがQアノンだったのです」


さらに新型コロナウイルスが追い打ちをかけました。
スージーさんは一日中パソコンに向かい、ネットの「おすすめ」に表示されるQアノンの記事や動画に没頭していったのです。

スティーブ(仮名)さん
「あるとき母が、僕や妹、いとこたちにあるメッセージを送ってきたんです。『とても危ない』と思いました」




母から送られてきたのは、Qアノンの陰謀論をもとに作られた動画のリンクでした。



スティープさんは、親戚たちとともに母を説得しようと試みましたが・・・



大統領選挙の投票日が近づくと、スージーさんは誰彼かまわず、Qアノンの投稿を送りつけるようになっていました。親しかった人たちは、次第に距離を置くようになりました。

スティーブ(仮名)さん
「母は良かれと思って拡散を続けています。でもそれによって人間関係の輪が狭まり、最終的にはQアノンの人たちばかりに囲まれるのではないかと心配しています。私は父を失ったばかりで、その上、母とも疎遠になるのは嫌なんです。解決策が見つかることを願うばかりです」


もし身近な人が「陰謀論」にのめりこんでしまったら?


社会心理学者 安野智子さん(以下、安野)
社会的に孤立している状況では、“フェイクニュース”に限らず、説得や洗脳などを受けやすい状況にあります

ファクトチェック団体理事 古田大輔さん(以下、古田)
陰謀論の何が怖いかというと、全てを疑うことにつながっているんです。例えばQアノンの人たちは、「この世は影の政府に支配されている。エリートたちに支配されている。今は間違った社会で、実はワクチンも全て間違いだ」などと、全部を疑いだすんです。

評論家 宇野常寛さん (以下、宇野)
札幌にいる僕の母(67)が、もしQアノンにはまってしまったら、どうしたらいいですか?

メディア研究者 平和博さん(以下、平)
アメリカの掲示板サイトでは、Qアノンからの“脱会”を支援する動きが出てきています。



この「Qアノンの被害者たち」というサイトには、身近な人が陰謀論を信じてしまい困っている人たちなど約5万人登録しています。
中には、一度信じ込んだ人が、家族や友人の態度を見て我に返り『陰謀論から抜け出した』という書き込みも。



古田
これは「心のケア」の問題で、「否定しないで話を聞き続ける・対話を続ける」ということが、最初のとっかかりになってくるんじゃないかと思います。相手の意見を頭ごなしに否定しないというのが重要だと思います。「なぜこの人はQアノンを信じるようになってしまったんだろう?」という対話を続けていく。丁寧にコミュニティーを取り続けていくしかないと思います。


“選挙フェイク” マスメディアはどうあるべきか
宇野
ここでこの話をしておきたいんですが、フェイク情報がネット上に常に飛び交ってる世の中で、マスメディアはどうあるべきなんですか?この話をちゃんとしておかないと、テレビで有識者が集まってネットをたたいてるイタい番組になるんですよ。

安野
ネット上でフェイク情報が流れてしまう背景には『マスメディアが流している情報ではないところに真実があるかもしれない』というマスメディア不信、あるいは既得権益層・エリート不信などがある可能性があります。


マスメディアがどのような判断でそのニュースを出しているのか、その基準が分からないところが、一つ大きな点だと思います。例えば取材やニュース制作のプロセスをもっとオープンにしていく、透明化の度合いを上げていく、というのは一つのアプローチだろうと思います。

古田
それでいうといま世界中のニュースメディアが、ファクトチェックに一生懸命に取り組んでいるんですよ。しかし日本の全国紙やテレビ局のような大きなメディアが、ファクトチェックのようなコーナーを持ってるかというと、日本はまだ数が少ないんですよね。

疋田
ファクトチェックをしている企業に対して、私はSNS上で一生懸命「いいね」をおしていて、小さな寄付のような気持ちで『見てるよ、頑張れ』と応援しているんです。できれば、それを他の人にもやってほしいなと思います

2021年の総選挙 どのように情報を見極めればいい?

2021年、衆議院が任期満了を迎える10月までには、必ず総選挙が行われます。 私たちはどのように情報を見極め、投票日を迎えればいいのでしょうか?

怒ったり、驚いたり、感情が高ぶってきたらいったん冷静になる。条件反射的な情報拡散ではなくて、まずは自分の頭で考えてみる。ソーシャルメディア時代のリテラシーはまずそこが第一歩じゃないかなと思います。

古田
とても重要なのが「事実」の部分と「意見」の部分を切り分けること。たとえ自分と同じ意見だとしても、根拠が間違ってたら『ここは間違ってる』と認識するというのが大切だと思います。

疋田
どんどん「おすすめ」が表示されるときに「あれ?これって1種類しか出てきてないよね。大丈夫かな?」と考えるようにして、「Aさんはこう言ってる。Bさんはこう言ってる。違う意見だな。なるほど」と、共感できなくてもいいから理解しにいこうとする。“混沌”そのままで、一つの正しい真実みたいなのがないことを、むしろ愛することが大事だと思います。

宇野
僕は2つありまして、ひとつは「ファクトを最大限に尊重する」。
徹底してファクトチェックを行い、その情報を共有する。これがないと、どう考えても民主主義は成り立たないと思います。
もうひとつは「1つのファクトを過大評価しない」
。何か隠されてる事実があって、その事実を1個持ってきたら全体を全部否定できるというストーリーに持っていきがちじゃないですか。このファクトに対しての二つの態度を、僕は徹底すべきだと思いますね。


「フェイク・バスターズ」番組ダイジェスト↓↓
PART① “選挙フェイク” すでに日本でも…
PART② “選挙フェイク”を見極める! 具体的なノウハウとは?

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年12月18日

“選挙フェイク”を見極める 具体的なノウハウは?

「フェイク・バスターズ」番組ダイジェストPART②
選挙をめぐって飛び交うデマや不確かな情報。
とくに2つの勢力がきっ抗した選挙戦では、フェイクが飛び交いやすいという指摘も。
続いて見ていくのは、事実上の一騎打ちとなった2018年の沖縄知事選挙のケースです。
12月18日放送「フェイク・バスターズ」の放送内容からご紹介します。

沖縄県知事選挙のケース


2018年に行われた沖縄県知事選挙。当時大学2年生だったゆいさん(仮名)は、フェイクに振り回された苦い経験があります。

ゆいさん
「今思えばすごくアホだったというか。何でもかんでも全部鵜呑み状態で『自分はなんでこんな情報にのまれているんだろう?』という感じでした」


この選挙は、アメリカ軍普天間基地の辺野古移設阻止を掲げた玉城デニー氏と、県民の所得向上を最優先に掲げた佐喜真淳氏による、事実上の一騎打ちとなりました。選挙戦では候補者をおとしめるような情報が多数拡散されました。

選挙が近づくにつれて、ゆいは友人たちともこの話題で盛り上がるようになったといいます。





ゆいさん
「選挙権を持ってるからには自分たちの将来に関わってくることだし、大学の休み時間とかで、暇があれば情報収集をしていました」


そんなとき、ツイッターに流れてきたある投稿に目がとまりました。






それは『玉城氏の公約が佐喜真氏に比べて文字数が少なく、政策の中身が薄い』という投稿で、匿名のアカウントが書き込んだものでした。

ゆいさん
「みんなが“リツイート”したり、それに対して“いいね”したり。特に友人とかがそれをやったりすると、あたかも真実かのように見えてくる」




これをきっかけにゆいさんは、玉城氏に対する批判的なコメントを自ら探すようになりました。





ところが投票日の3日前のこと・・・





地元紙に掲載されていたのは、ネットで拡散されていた候補者の情報を、記者が検証した記事でした。



記事には、ゆいさんが信じていた「公約の文字数」についての投稿も取り上げられていました。実際には玉城氏の政策集の方が文字数が多く、この投稿は誤りであると指摘されていました。




この選挙では「候補者をおとしめるフェイク」が双方に飛び交い、選挙戦に影を落としました。こうした事態に対して、佐喜真氏の陣営で選挙対策の指揮を執っていた松本哲治氏(現 浦添市長)は、自身のSNSアカウントで、次のような声明を発表しています。

松本哲治氏のフェイスブックより
「私たちがいまやるべきことは相手をおとしめることではなく、相手候補者にもリスペクトを払いながら、政策論争を正々堂々と展開することです」


投票日直前、ゆいさんは複数の新聞を読み比べるなどして、2人の政策を一から調べ、投票先を選び直しました。
しかし誤った情報を教えてしまった友人たちには、投票日までにそのことを伝えることはできませんでした。

ゆいさん
「ちゃんとした根拠、ちゃんとした真実があってこそ、人には正しい情報を伝えるべきだなって、すごく感じます」


選挙を巡るフェイク情報 どうすれば見抜くことができるのか?


評論家 宇野常寛さん (以下、宇野)
実際に僕らがフェイク情報に接したときに、だまされないための心得や、普段から心がけておいたほうが良いことってあるんですか?

メディア研究者 平和博さん(以下、平)
まずはその情報を流しているアカウントが「実名」なのか「匿名」なのかを、チェックすることが重要だと思います。もし実名であれば「過去にどういう投稿をしているのか」「その内容に根拠はあるのか」などを一つ一つチェックして、信用できる情報かどうかを判断することが、SNSのユーザーに求められると思います。

ファクトチェック団体理事 古田大輔さん(以下、古田)
それは本当に重要だと思います。2年前の沖縄県知事選挙では、選挙が始まる直前にニュースメディアを装ったサイトがいくつも現れました。ところが僕たちが調査すると、すぐにそのサイトは削除されてしまったんですね。「運営元や問い合わせ窓口が記載されていない」「問い合わせても返信がない」というような場合は、実体がなくかなり怪しいサイトです。信じないほうがいいと思います。

宇野
選挙戦ではどの陣営も「自分に有利な情報を流している」という前提を、多くの人が理解していると思うんですが、なぜだまされてしまうんですか?

社会心理学者 安野智子さん(以下、安野)
どんな人でも、自分の思い込みや“信じたい情報”は、深く調べることなく正しいと思い込みやすい傾向があります。これを『確証バイアス』といいます。



『確証バイアス』とは、自分の思い込みや信じたいものに近い情報ばかりに目がいき、それ以外の情報は無視してしまいがちなこと。逆に自分の考えと同じであれば、間違った情報でも、信じてしまいやすくなります。

安野
『確証バイアス』はわたしたちみんなにあることを、自覚する必要があると考えます。

古田
『確証バイアス』は悪い意味でネットとすごく相性がいいんです。自分が「もしかしたらこうかな?」と思いネット検索しますよね。するとそれを補強してくれるような情報がネット上にはたくさんあるんです。

疋田
ネットで一度検索をすると「これも好きじゃないですか?」というように、どんどん記事がレコメンド(おすすめ)されるのも、すごく“危ない”と思っています。YouTubeなども動画を見終わるとその横に「おすすめ」が出てきてしまう。そうした「検索のアルゴリズム」にあらがって生きていかないと、どんどん『確証バイアス』から抜け出せなくなってしまうと思います。



『信じたい情報ばかりを信じてしまう』 そのことが家族の関に亀裂を生むケースもあります。
「フェイク・バスターズ」番組ダイジェストの続きはこちら↓↓
PART③ 陰謀論が生んだ家族の分断
PART① “選挙フェイク” すでに日本でも…

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年12月18日

アメリカ大統領選挙を混乱させた“選挙フェイク” すでに日本でも…

「フェイク・バスターズ」番組ダイジェストPART①
悪意のあるデマ根拠の不確かな情報が多数飛び交ったアメリカ大統領選挙。
フェイクが社会を混乱させている現実を、わたしたちは改めて目の当たりにしました。
何が真実で、何がフェイクか?信頼できる情報を見極めるにはどうすればいいのか?
わたしたち有権者は”選挙フェイク”とどう向き合えばいいのでしょうか。
12月18日放送「フェイク・バスターズ」の放送内容からご紹介します。

無数の“選挙フェイク”が混乱を招いたアメリカ大統領選挙
激戦の末、バイデン氏が勝利したアメリカ大統領選挙では、長きにわたる選挙戦を通じてさまざまな“フェイク”が作られ、拡散されてました。

例えばツイッターに投稿された、バイデン氏が「ジョージ」という名前を繰り返し口にしている動画は、トランプ氏のことをジョージ・ブッシュ元大統領と呼び間違えたかのように見せています。


以前からトランプ氏が「バイデン氏は認知症だ」という主張をしていたこともあり、この動画はそれを裏付ける「証拠」だとして、200万回以上も再生されました。

ところがこの動画は、バイデン氏の発言を意図的に編集された「フェイク動画」でした。実際にはバイデン氏が「ジョージ」と呼んでいたのは、インタビュアーをしていたジョージ・ロペス氏のことでした




一方「トランプ氏への票が不正に廃棄された」として、投票用紙が道路に捨てられているように見える写真を使っているこちらの投稿は、約2万回リツイートされました。



使われていた写真は2年前のまったく別のニュースのものであるなど、この投稿はフェイクだということが明らかになっています。

しかしトランプ氏自身が「選挙に不正があった」という投稿を拡散し続ける中、それに同調するように、同じようなフェイクが次々と広まっていきました。



ファクトチェックドットオルグ代表 ユージーン・カイリーさん
「事実を提示しても受け入れてもらえず、それどころか“事実を知りたいとさえ思わない人”もいるでしょう」

長年フェイクニュースと戦い続けてきたジャーナリストのユージーン・カイリー氏は、SNSで急速に拡散されている情報をチェックし、それが事実かどうかを検証するファクトチェックに取り組んでいます。しかしいくらファクトチェックを行っても、それを受け入れようとしない人たちが後を絶たないといいます。

ユージーン・カイリーさん
「我々の記事が、読んだ人に届くかどうかが問題です。私たちに必要なのは氾濫するフェイクニュースに対して、あらゆる方法で対策をとることです。どれだけ量が多くても諦めてはいけません」


“選挙をめぐるフェイク” アメリカでいま何が起きている?
“選挙フェイク”を見極めるための具体的方法を、日頃から”フェイク情報”と向き合っている専門家たちが議論しました。



評論家 宇野常寛さん (以下、宇野)
“フェイクニュース”という言葉は、2016年の大統領選挙のときに大きく問題になりましたが、あれから4年が経って、フェイクを巡る状況は改善したんですか?

ファクトチェック団体理事 古田大輔さん(以下、古田)
僕は、この4年で、アメリカのフェイクをめぐる状況は悪化したと思います。最大の理由は、政治家や影響力を持つ人たちが、SNSなどに流れるフェイク情報を“武器”として利用するようになったことです。政治家自身が、自分が利益を得るために、フェイク情報をリツイートしたりシェアしたりする状況が生まれました。

メディアプロデューサー 疋田万理さん(以下、疋田)
私のパートナー(アメリカ人)の友人と話していると、フェイクニュースを「議論の根拠」として使う人がすごく多いです。例えば、「投票用紙が燃やされてる」というフェイク情報を広めている人に対して、その情報源やエビデンス(根拠)は信用できるものなのかを尋ねると、「エビデンスなんて関係ない。この写真を見れば一目瞭然でしょ」という答えが返ってきます。お互いに言いたいことがずっと伝わらない、“共通言語”がないような状態で議論が進んでいるアメリカの状況を、間近に感じています。

メディア研究者 平和博さん(以下、平)
今回のアメリカ大統領選挙ではトランプ氏・バイデン氏双方の陣営や支持者が、お互いに、相手の主張を「フェイクだ」「デマだ」だと批判し合いました。“分断”が“フェイク”を生み、その“フェイク”がさらに“分断”を深める堂々めぐりの中で、社会がどんどん悪化していくということが続いていくわけです

古田
選挙のときにフェイク情報が広がりやすい場所は、決まっているんです。それは、「拮抗する二つの勢力が争っている場所」です。事実上の1対1で争っている中で、少しでも相手陣営を上回ろうとして、いろいろなデマが飛び出してきます。


デマが飛び交った大阪住民投票 “選挙フェイク”の脅威は既に日本でも・・・


2020年11月に行われた、いわゆる“大阪都構想”の賛否を問う住民投票。
大阪市を廃止して4つの特別区に再編するという案をめぐって、賛成派・反対派が激しい論戦を繰り広げ、僅差で否決されました。この住民投票では、SNSを中心にさまざまな“噂”が飛び交いました。



実際のツイッター投稿より
「都構想が実現すると、図書館をはじめ、いろんな施設が廃止される」
(根拠が不確かな情報)
「都構想で、この先ずーっと税金の無駄づかいが減る」
(誇張された表現)
「都構想になれば、中国に乗っ取られてしまいます」
(陰謀論)




JX通信社 細野雄紀さん
「デマと隣り合わせの状態で住民投票当日を迎えてしまった」

AIをつかってSNS上の投稿を24時間分析しているベンチャー企業によると、 この住民投票で拡散された情報には、ある傾向がありました。

JX通信社 細野雄紀さん
「デマの種類で目立つ傾向としては喜怒哀楽に直結するものが多いです。住民サービスが劣化する・良くなるなど、そういった議論はとても分かりやすいんですよね。想起しやすいところに人の関心はいきやすいので、どうしてもそういったデマの投稿が増えてしまう」


政党や住民団体が、大量に配布したチラシの中にも誤解を生む表現がありました。

都構想を推進する「大阪維新の会」が作成したチラシでは、 「都構想が実現すれば、消防車の到着時間が早くなる」と断言されていました。



しかし大阪市消防局に確認すると・・・



「特別区が設置されただけでは、 消防車の到着時間も変わりません」 という返答でした。

大阪維新の会の代表だった松井氏は、チラシの内容について10月の住民説明会で次のように説明しています。
「都構想によって、消防を一元化できれば、消防車が早く到着することにつながる可能性もある



一方、反対派の議員や住民団体などが作成したチラシにも不正確な内容がありました。
「都構想が実現すれば、大阪市の水道料金が引き上げられる」という主張が、複数のチラシに掲載されていたのです。


しかし、大阪市水道局に確認すると・・・

大阪市水道局 経営改革課 小川敏弘さん
「こう表現されるんだと思って、ちょっとびっくりしました。水道局の職員としては、そういう話は今まで特には議論されてきておりません。やることも変わらず、料金体系もそれに伴って変更することはないという単純にそういう話です」


チラシを作成した複数の住民団体や議員に尋ねると、
「水道料金の値上げは都構想とは関係がないが、将来の可能性として主張した」という回答でした。どの団体もほぼ同じ内容でした。


それぞれのチラシに書かれていた消防と水道料金に関する主張はSNSでも議論の的となり、賛成・反対双方の支持者たちが、お互いに相手を「デマ」呼ばわりする投稿も相次ぎました。

JX通信社 細野雄紀さん
「デマだ、あるいは事実だっていう、そういう話合いから抜け出せないまま (有権者は)半信半疑の状態で住民投票を迎えざるを得なくなった デマと隣り合わせの状態だった。それはすごく顕著だったと思います」




日本にも既に忍び寄る“選挙フェイク” どう見極めればいいのか?
専門家たち「バスターズ」と具体的な対策を考えます。

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年12月16日

『フェイク・バスターズ用語集』

フェイクニュース(fake news)
2016年のアメリカ大統領選挙やEU離脱をめぐるイギリスの国民投票などで、根拠の不確かな情報が多数拡散したことから広く使われるようになった言葉。
最近は、自分と異なる意見を「フェイクニュース」と呼ぶ風潮が強まるなど、社会の分断を象徴する言葉にもなりつつある。

ディスインフォメーション(disinformation)
悪意のあるデマなど、意図的に流される「虚偽情報」のこと。
「フェイクニュース」という言葉はレッテル張りに使われることが増えたため、欧米のメディアなどは、このディスインフォメーションやミスインフォメーション(誤情報)を使うことが増えている。

ミスインフォメーション(misinformation)
確認不足や勘違いなどが原因の「誤った情報」のこと。

ディープフェイク(deep fake)
AI=人工知能に大量の画像データを読み込ませてつくられる精巧な「フェイク動画」のこと。細かい表情の動きや声のトーンまでリアルにつくられ、実物と見分けがつかない動画もある。ディープフェイクの多くはポルノ動画に悪用され、多数の被害が出ている。
2020年のアメリカ大統領選挙では、簡単な編集で作られた「チープフェイク」も大量に出回った。

エビデンス(evidence)
その情報のもととなっている証拠、根拠のこと。
医療の分野などでは「科学的に示された根拠」を指す。

ファクトチェック(fact check)
その情報がどんな根拠に基づいているかを調べ、信頼性を検証すること。
急速に拡散されている情報が「正確」なのか「虚偽」なのか「ミスリード(事実だが誤解を与える)」なのか、などを判定し記事などで公開する。海外では多くのメディアや専門の団体が取り組んでいる。

大手プラットフォーム企業
SNSを運営するツイッター社やフェイスブック社、検索大手のグーグルなど、ネットサービスを提供し世界中に多数のユーザーを抱える企業のこと。
”フェイクニュース”の拡散を野放しにしているとの批判を受け、2020年のアメリカ大統領選挙では根拠の不確かな情報などを非表示にしたり、警告を発するなどの対策をとった。

検索アルゴリズム
ネット検索で、どのサイトや記事を検索結果の上部に表示させるかを決める仕組みのこと。詳細は公開されていない。
自分の過去の検索履歴なども反映されるため、自分の興味関心に合うものが上位に表示されやすい傾向がある。

確証バイアス
心理学用語。人は自分の思い込みや信じたいものに近い情報ばかりを探してしまい、それ以外の情報を無視しがちなことを指す。
逆に自分の考えに近い情報だと、たとえそれが間違っていても信じやすくなるとされる。

フィルターバブル(filter bubble)
SNSで同じような意見のアカウントばかりフォローしたり、「検索アルゴリズム」によって興味のある情報ばかりが検索結果に表示されたりすることで、偏った情報に囲まれてしまうこと。
まるで泡(バブル)の中にいるように、自分が見たい情報しか見えなくなってしまう状態。

エコーチェンバー(echo chamber)
SNSなどで特定のコミュニティとだけつながり、同じような意見ばかり接するようになった結果、密閉空間で音が反響し、増幅していくように、特定の意見だけを信じてしまうこと。
一度この状況に陥ると異なる意見に耳を傾けなくなることも多い。

陰謀論
ある事件や歴史の背後には”邪悪で強力な集団や人物"による陰謀や謀略が関与している、とする言説。
多くの場合、信憑性に乏しいが“陰謀が存在しないことを証明する”ことは困難なため、ファクトチェックすることが難しいとされる。

Qアノン(QANON)
「アメリカは、一部のエリートやメディアからなる”闇の政府”に支配されている」という陰謀論を主張する人たちのこと。
2020年のアメリカ大統領選挙では「トランプ大統領こそ“闇の政府”と戦う救世主だ」として、トランプ氏を支持する人が多かった。

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年12月14日

“選挙フェイク”を見極めるには? 「フェイク・バスターズ」で専門家が議論

「フェイクニュース」という言葉が注目される大きなきっかけとなった2016年のアメリカ大統領選挙から4年。この間、世界のメディアや大手プラットフォーム企業は、フェイクの拡散を防ぐための対策に力を入れてきました。しかしそれにも関わらず、11月に行われた大統領選挙では、有権者の投票行動を歪めかねないデマやフェイクが次々に拡散され、バイデン氏が勝利宣言したあとも広がり続けています。

日本も、来年10月には衆議院が任期を迎え、総選挙が行われます。
有権者がフェイクに惑わされないためには、どうしたらいいのか?
自分がフェイクの拡散者にならないためには、何に気をつければいいのか?

12月18日放送の「フェイク・バスターズ」では、アメリカ大統領選挙、大阪住民投票、沖縄県知事選挙などで実際にあった事例を元に、日頃からフェイクの問題と向き合っている専門家たちが議論。信頼できる情報を見極めるための具体的なアイデアを紹介します。

フェイク・バスターズ 第4弾の出演者


宇野 常寛さん(評論家) ネット社会への鋭い批評で知られる
▼選挙前のSNSは“関ヶ原の合戦”
▼選挙関連の投稿は“承認欲求”が満たされやすい
▼“語り口”が情報を見極めるポイント

ツイッターなどのSNSでは選挙前になると、意見の違うユーザー同士が互いを激しく批判し合い、“関ヶ原の合戦”のような状態になりがちです。そのことが極端な意見やフェイク情報を生む原因になっていると思います。

特に注目度の高い選挙では、何年かに1回行われる“お祭り”のような高揚感があります。そういう雰囲気の中で、自分がSNSに投稿した意見に「いいね」がついたり「リツイート」されると、「自分が世の中を動かしている」と感じてしまう場合もあります。
選挙のときはいつも以上に「承認欲求」が満たされやすく、安易な書き込みが増えやすい状況にあることに注意が必要です。

僕が情報を見極める上で、ひとつの判断基準にしているのは「語り口」です。
例えば「A候補は豪華別荘を持っている」といった書き込みがあったとします。それ自体の信憑性も問題ですが、そのひとつの情報だけを理由に「だからA候補は信用できない」と、すべてを否定しようとする語り口は“危ない”と思います。
陰謀論が典型的ですが「この秘められた事実を知れば、どっちの候補に投票すればいいか分かりますよ」という語り口も同じです。詐欺師が人をだますときの方法にも似ていますけど、なるべく距離を置いて接するようにしています。


古田大輔さん(ファクトチェック団体理事)フェイク情報の検証記事を多数手がける
▼政治家がフェイクを“武器”にする時代
▼ファクトチェックは拡散防止の“ワクチン”
▼フェイクが多くてもあきらめてはいけない

4年前の大統領選挙と比べ、フェイクをめぐるアメリカの状況は悪化したと思います。最大の理由は、政治家などがSNSに流れるフェイク情報を“武器”として利用するようになったことです。例えば「トランプ氏への投票が不正に廃棄された」というフェイク情報が無数に出回りましたが、それらの投稿をトランプ氏本人がリツイートしていました。

一方で、「ファクトチェック(※)」が広まったことは良い変化です。
例えば、不確かな情報にもとづいた記事をある人がリツイートしたとします。それを見た他のユーザーが、リプライ(返信)欄にファクトチェック記事のリンクを貼って、間違いを指摘するというケースがよく見られます。ファクトチェックはフェイク情報の拡散を予防する“ワクチン”のような役割があると思っています。

いまはファクトチェックをする人よりフェイク情報の方が圧倒的に数が多く、すべてをチェックするのは困難です。でもあきらめたらそこで終わりです。
不確かな情報をひとつひとつ丁寧にファクトチェックしていくことを、続けていくべきだと思っています。

※「ファクトチェック」・・・その情報がどんな根拠にもとづいているかなどを調べ、情報の信頼性を検証すること。海外では多くのメディアや団体が取り組み、記事を発信している。


安野 智子さん(社会心理学者/中央大学教授) 世論の研究が専門
▼ひとは“信じたい情報”に目がいきがち
▼忙しいときほど“見た目”で判断しやすい
▼フェイクの手口を知っておこう

なぜ“選挙フェイク”を信じてしまうのか?要因のひとつに「確証バイアス」があります。 わたしたちは、自分の考えに近いなど“信じたい情報“にばかりに目がいき、それ以外の情報は無視してしまいがちです。“信じたい情報”は、深く調べることなく正しいと思い込みやすいです。「確証バイアス」は誰にでもあることを、ぜひ知って下さい。

また、あまり関心がない話題を目にしたときや、忙しくて時間がない場合などは、表面的な情報だけで判断しやすくなります。話し手の肩書きや話し方、ウェブサイトのデザインなどの見た目が“もっともらしい”と、それだけで「正しい」と判断してしまう恐れがあります。

たとえば詐欺にひっかからないためには詐欺の手口を事前に知っておくことが重要だと言われています。フェイク対策もそれと同じで、選挙に関連した真偽が不確かな情報がたくさん流れていることをよく認識し、いつでもフェイクに出くわす可能性があると身構えておくことが大事だと思います。


疋田 万理さん(メディアプロデューサー) 若者向けのネット動画を多数制作
▼「おすすめ動画」 実は要注意
▼支持していない候補者もあえてフォロー
▼アルゴリズムにあらがう

ユーチューブで動画を見ていると、同じような内容の動画が次々に表示されますよね。過去の検索履歴などをもとに、ユーチューブ側が自動的に「おすすめ」を選んでいるからなのですが、そのことが「興味のある情報ばかりに囲まれる」状況を作り出しています。
こうした“アルゴリズムの支配“によって、多様な情報に触れる機会が減ることが、フェイクを信じやすくなることにつながると考えています。

それを防ぐには、受け取る情報がかたよらないよう意識して工夫する必要があります。 たとえば、支持していない政党や候補者のアカウントもあえてフォローすることで、自分と反対の意見も自然に目に入るようになります。
また検索するときに履歴が保存されないように設定すると(Googleの「シークレットタブ」やSafariの「プライベートブラウズモード」など)検索結果がかたよらなくなります。 検索アルゴリズムにあらがっていくことが重要だと思っています。


平 和博さん(メディア研究者/桜美林大学教授) 自称“フェイクニュースの収集家”
▼“分断”と“フェイク”が堂々めぐり
▼否定よりも対話が重要
▼冷静になって自分の頭で考える

アメリカ大統領選挙ではトランプ氏・バイデン氏双方の陣営や支持者が、お互いに相手の主張を「フェイクだ」と批判し合いました。“分断”が“フェイク”を生み、その“フェイク”がさらに“分断”を深めるという堂々めぐりのなかで、社会がどんどん悪化しています。

その象徴が、極端な陰謀論をとなえる「Qアノン」というグループです。「アメリカは一部のエリートやメディアからなる闇の政府に支配されている。トランプ氏はそれと戦う救世主だ」と主張しています。ネット上では、Qアノンから“脱会”させるサポートの動きも出てきていますが否定しないで対話を続けることが重要だと思います。

選挙にかぎらずネットやSNSを見ていると、怒りを感じたり、驚いたり、感情が高ぶることがあると思います。そのときこそまず深呼吸をして冷静になることが重要です。反射的に情報を拡散するのではなく、自分の頭で考える。SNS時代のリテラシーはそれが第一歩だと思います。


「フェイク・バスターズ」
12月18日(金)夜10:00~10:30(総合テレビ)
(同時配信・見逃し配信あり)

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年8月24日

ネットのひぼう中傷に「匿名だからこそ傷つく」若者の価値観 ―みたらし加奈

ネット上のひぼう中傷にあったらどうしたらいいのか――
SNSで匿名の人から攻撃的な書き込みをされ、傷ついた経験のある人は少なくないと思いますが、10代・20代の若い世代は、上の世代にくらべ「より傷つきやすい」傾向があるそうです。デジタルネイティブならではの感覚について、臨床心理士のみたらし加奈さんに聞きました。


みたらし加奈さん
1993年生まれ 臨床心理士 NPO法人mimosas理事
SNSを通して 精神疾患やメンタルケアの認知を広める活動を行っている
大学院修了後は 総合病院の精神科にて勤務


10代~20代の心に重い影響 ネットのひぼう中傷
――みたらしさんが普段カウンセリングされている10代や20代の人たちからの、ネット上のひぼう中傷についての相談には、どんな特徴がありますか?

最初から「ネットのひぼう中傷に遭いました」と言ってくる人は少なくて、眠れないとか、食べられないとか、気分が落ち込む、といった症状を抱えていて、よくよく聞いてみるとネット上の人間関係やコミュニケーションが原因のようだということがよくあります。

ひぼう中傷というものには大きな破壊力があるのに、なぜか当事者以外から見ると“小さなこと”として処理されてしまうケースがありますよね。ひぼう中傷について誰かに打ち明けたとしても、「気にしなければいいじゃん」「無視すればいいよ」といった反応をされてしまう方も多いのではないでしょうか。当事者のほうも、そういう社会的な認識を知っているので、「ネットの言葉なのにこんなことで落ち込む自分が悪い」と思ってしまいがちです。自分で抱え込んで、救いを求められないままになっている人が多いと感じます。

匿名でも同じくらい辛い デジタルネイティブのアイデンティティー
――10代、20代はデジタルネイティブなので、ネット上の不特定多数の人からのひぼう中傷はスルーできるのかなと思っていましたが?

今の時代では匿名のネットユーザーが世論を変えたり、大きな影響力を持つ場面も多いですよね。だからこそデジタルネイティブ世代の中には、匿名と実名の影響力の差がないように感じている方も多いため、「匿名で寄せられたことば」こそ、すごく強く感じてしまうこともあるのです。
そして、そういった“ネット上のアイデンティティー”への認識を、上の世代と共有できないことが悩みになるケースもあります。上の世代の中には「実名のほうがインパクトが強い」と思っていらっしゃる方も多いので、親や先生などに相談すると「匿名でしか投稿できない人のことなんて気にしなくていいよ」と言われてしまったりすることも…。
私たちカウンセリングをする側も、その世代間ギャップを認識しながら、苦しんでいる当事者の置かれた状況を理解するように努力しています。


取材はウェブ会議で行った

自分の輪の外からアンチがやってくる
――みたらしさんご自身は、普段ひぼう中傷とどう向き合っていますか?

私はふだんから「精神疾患は特別なことではなく、自分や身近な人、誰でもなる可能性がある。」ということを伝えたいと思って、ネットでの発信を積極的に行っています。 有り難いことに、私の発信を支持してくれている方もいらっしゃって、普段のコメント欄は比較的平和なんです。そこまで酷い人格否定などの攻撃を受けたことはありません。ただ、特定のツイートがバズることによって、心ないコメントがくる時もあります。

例えば以前、「#伊藤詩織さんを支持します」というハッシュタグとともに、「性的同意のない性行為は、性暴力と一緒だ」と書いたときには、多くの反対意見やひぼう中傷のようなメッセージが寄せられました。その時には、「これを毎日のようにされてしまったら、本当にしんどいだろうな…」と思いましたね。

ひぼう中傷を見なくて済む設定をし 見ない習慣を付ける
――ご自身が実践している、ひぼう中傷から身を守るためのノウハウはありますか?

ツイッターの機能はいろいろ使っています。たとえばリアクションが一定数を超えたツイートについては、リプライが来ても自分のタイムラインに表示されないように「ミュート」をするようにしています。ツイートがある程度広がると、「攻撃のため」だけのリプライも増えてきます。そういった攻撃的なリプライは「対話」を目的としているものではないため、自分にとってのプラスはありません。
それから、ツイッターでは、メールアドレスを登録しなくてもアカウントが作れるのですが、メールアドレスと連携していないアカウントは「捨て垢」の場合が多く、そういったアカウントからのリプライについては、通知が来ないように設定しています。


――書かれていることが気になって見てしまうということはありませんか?

私はもう「見ないクセ」がつきました。でも、見てしまう心理は仕方ないんです。人間の初期設定として、未知の危機から自分の身を守るために、危機を敢えて把握しようとしてしまうという本能があると言われています。だからこそ、「自分の知らないところで悪く言われている」のをチェックしてしまうのは自然なことなのです。「自分の心が弱いから、気になって見てしまうんだ」と思う必要はありません。攻撃を見てしまったときは「これは私の本能なんだ」と思って、見ないように意識するほうが心理的安全性を保てるかもしれません。

痛みを受け入れて 相談してみて
――いまネット上のひぼう中傷や人間関係に苦しんでいる人へのメッセージはありますか?

先ほどお話しした「見ないクセをつけること」は1つの方法ですが、例えアンチコメントを見てしまったとしても、あなたが罪悪感を覚えたり、自分を責める必要は一切ありません。私はあなたの味方ですし、あなたが思っている以上に、あなたの味方は沢山います。どうか1人で抱え込まないでください。
もしネット上でのコミュニケーションで傷ついてしまった時は、痛みを感じないようにしたり、自分から切り離そうとしたりせず、しっかり受け入れてみてください。あなたが傷ついたり、痛みを感じることは恥ずかしいことではありません。あなたが傷ついていることを「私は傷ついている」と認識することこそが、セルフケアの第1歩だと考えています。もしそれができた時には無理のない範囲で、信頼できる身近な人や、専門機関に相談してみてください。相談機関には守秘義務があり、相談者の気持ちを楽にすることが一番の目的なので、安心して相談してみてほしいと思います。



8/20放送 「フェイク・バスターズ」番組ダイジェスト版
Vol.1 もしも身近な人がひぼう中傷を受けたら…
Vol.2 ひぼう中傷の被害者を救う 第三者がカギに!
Vol.3 ひぼう中傷をなくすために…プラットフォームの役割は?



「フェイク・バスターズ」

8月20日(木)夜10:00放送(総合テレビ)

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年8月21日

8/20放送「フェイク・バスターズ」番外編 Vol.2 未公開トーク「表現の自由」と「表現の責任」


8月20日に放送された「フェイク・バスターズ」、番組で紹介できなかった内容を番外編として公開する。2回目は、“バスターズ”たちの未公開トークを紹介。
「ネットは匿名だからひぼう中傷が起きるのか?」そして放送後多くの反響が寄せられた「表現の自由と責任」についての議論をまとめた。

「匿名」か「実名」か… ひぼう中傷をなくすには

――リアリティ番組に出演したことがきっかけで、SNS上で激しいひぼう中傷にあい、ことし5月に亡くなったプロレスラーの木村花さん。投げかけられた攻撃的な言葉の多くは、匿名のユーザーによるものだった。ネット言論の特徴でもある「匿名性」がひぼう中傷を生む原因なのか?


「フェイク・バスターズ」スタジオ出演者
左から ITリテラシー専門家 小木曽健さん・YouTuber 葉山潤奈さん・評論家 宇野常寛さん・弁護士 神田知宏さん・心理学者 関屋裕希さん


弁護士 神田 知宏さん(以下、神田)
「実名だったら書かない、匿名だから書いた」という部分はあると思います。というのも、木村花さんが亡くなった後に「自分も訴えられるんじゃないか」「自分が書いたことは違法なんじゃないか」という相談が多く寄せられています。相談に来る人の多くが「非常に反省しています。もう2度としませんから、教えてください」と言っています。

評論家 宇野 常寛さん(以下、宇野)
「インターネットは匿名社会なので、何をやってもいい」という思い込みが、この世界を覆っていることが一番問題な気がします。
ひぼう中傷の被害を受けた人の立場で考えてみると、どこの誰だかわからない不特定多数の人に群がられるのは、ものすごく苦痛だと思います。「自分が生きている社会が本当にフェアにできているのか」「この社会は信頼するに値するのか」という問題にまで関わってくると思います。僕は「実名主体」のインターネット社会に再編していくことには、ある程度の意味はあると思います。



ITリテラシー専門家 小木曽 健さん(以下、小木曽)
私は、実はネットに「匿名」というのはないと思っています。法的手段を踏めば特定できますし、たまたま実名がばれていないだけの状態を、みんな匿名だと思ってるだけで、実際はばれるような行動やきっかけがあれば、必ず身元は判明すると思います。

心理学者 関屋 裕希さん(以下、関屋)
「ばれる・ばれない」「匿名か実名か」に関係なく、まずは自分の口から発することに自分で責任を持つ、そもそもそこからという気もします。その一方で私は、「匿名」にも良い面があると思っています。例えばマイノリティーの人や、発言力を持つのが難しい人でも同じように発言できる。社会的な立場とかハンディを気にせずに発言できるというのは、良いことですよね。「匿名性をどうするか」という話よりも、すぐシェアやリツイートができてしまうとか、すぐダイレクトメッセージが送れてしまうとか、SNSの仕様を見直していく手もあるのかなと思います。

YouTuber 葉山 潤奈さん(以下、葉山)
私は攻撃的な言葉で傷つく人をなくしたいと考えています。「実名」になれば、顔を合わせて話すのと変わらない感覚になり、関屋さんが言うように、自分の言葉に責任を持って発言するようになるのではと思います。「実名」での発信になれば、「匿名」のときよりは、明らかにひぼう中傷の被害は減るのではないでしょうか。





「表現の自由」と「表現の責任」

――スタジオトークでは、ひぼう中傷をなくすためには「発信に制限が必要ではないか」という意見も出た。「表現の自由」を守りながら、ひぼう中傷はなくすことはできるのか?
率直な意見を交わした。


葉山
最近「表現の自由」だったり、「これは“意見”です」というのを盾にして攻撃する人が多いと感じています。例えば、TikTokで子どもがくすぐられて笑っているだけの動画があったんですね。それを見て「窒息死させようとしているのか」というコメントが何百件と寄せられて、投稿した人が叩かれていたんです。子どもは苦しんでいるわけでもないのに。
大勢が一斉に書いてしまうと、「攻撃してもいい」とスイッチが入ってしまいます。 発言の自由というのもわかるんですが、意見を言える関係性や立場のある人が言えばいいと私は思っています。例えば芸能人の不倫に関しても、第三者がつべこべ言わず、周りの友達がアドバイスをすればいいはずなのに、「誰でも自由に言えばいい」というのは私はちょっと間違っているなと思います。

小木曽
「表現・言論の自由」というのは「言論の責任」をとることでもあります。「自由になんでも言うけど、必ず責任をとりますよ」と。本来意見を言うことを我慢してはいけないはずですが、ひぼう中傷をめぐる状況が良い方向に向かわないと、「言論統制」が起きてしまうのではと心配しています。例えば、みんなが萎縮して意見を言わない、あるいは「何か言うと律で罰せられます」というような空気になるかもしれません。「ひぼう中傷は法律で全部取り締まりましょう」「“誹謗中傷警察”です」というのは、僕は“言論の自由の自殺”だと思うんです。

宇野
小木曽さんの言うことはよくわかるんですが、逆の事も言えると思うんです。何かを失敗した人が、大勢から“炎上”という形で攻撃を受けるという状況は、それ自体が「言論の多様性」を損なっていると思うんです。例えば、僕がワイドショー出ていた時によくこう言われていたんです。「MCのタレントさんが上手くまとめようとしているのに、余計なことを言うな」と。僕は、「お前の意見は間違っている」ということは、いくら言われても構わないと思うんです。それは当たり前の事だし、それがないと議論が世の中に生まれなくなります。でも、「お前は意見を言うな」は絶対アウトだと思うんですよね。
今インターネットは、「今こいつは叩いていい」という空気になった瞬間に、異論を許さない空気が増幅される構造になっていると思うんです。だから僕は、発信に一定の“枠”がないと、逆に言論の自由って成り立たないと思っています。

小木曽
ここ何年か、ネット社会は少しずつ良くなっていると僕は思います。10年前には、Twitterに書いた内容で訴えられるとか、リツイートで損害賠償責任を負うとか、みんな夢にも思っていなかったし、僕も認識していませんでした。でも今、「情報発信は責任を負うケースがあるんだ」とみんなが知り始めています。飲酒運転って減ったじゃないですか。みんなが痛ましい事故のことを知り、法改正もあり、道徳と仕組みの両方で改善していったんですよね。
インターネットも、今まで我慢してきた人たちが声を上げて、法律の仕組みを活用して、ひぼう中傷はダメだとみんなに伝える経験を、どんどん重ねていってるわけです。だから、去年よりは今年、今年よりは来年、絶対にひぼう中傷でつらい思いする人が減っていくと思っているし、そうじゃないとネットが生まれた意味がないと思います。

宇野
「今の状況は問題だから、変えていこう」と声を上げることが大事になると思います。誰もが発信する道具を手に入れ、その一部が制御不能に陥ったことで色々な問題が起きていますが、我々が声を上げることで状況を多方面から変えていく。それが唯一の道なのかなと思います。

スタジオトークの収録は2時間を超えるほど白熱した

8/20放送 「フェイク・バスターズ」番組ダイジェスト版
Vol.1 もしも身近な人がひぼう中傷を受けたら…
Vol.2 ひぼう中傷の被害者を救う 第三者がカギに!
Vol.3 ひぼう中傷をなくすために…プラットフォームの役割は?



「フェイク・バスターズ」

8月20日(木)夜10:00放送(総合テレビ)

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年8月21日

ネット上のなりすまし 被害に遭ったらどうする? ――8/20放送「フェイク・バスターズ」番外編vol.1

8月20日に放送された「フェイク・バスターズ」。
番組で紹介できなかった取材内容を「番外編」として紹介していく。1回目は、子どもたちの間で広がる“なりすまし”の被害について、その実態と解決策をお伝えする。

子どものネットトラブル “なりすまし”による被害
子どものネットトラブルの中でも多いのが“なりすまし”の被害。
なりすましとは、自分の名前や写真を、他人が勝手に使って偽のアカウントを作り、SNSなどに書き込まれてしまうことだ。



高校2年生のダイスケ(仮名)も“なりすまし”の被害にあった1人だ。
ダイスケはユーチューブに動画を投稿するのが趣味。フォロワーは直接知っている友達など数十人で、特に目立つ行動はしていなかった。



しかし、ある日突然、投稿した動画のコメント欄に、自分の名前を使ったアカウントが現れた。

プロフィールに使われていたのは、中学時代に友達がふざけて撮影したダイスケの顔写真。
偽アカウントは、ダイスケや友達に対し、攻撃的で卑猥な書き込みを繰り返した。

友達には直接説明して理解してもらえたが、偽アカウントの攻撃は続いた。
それでも、ダイスケは「大ごとにしたくない、自分で解決したい」と親には相談しなかった。

ダイスケ
「友達にも味方してもらえたので自分たちで片付けられるんじゃないかなって思って。自分たちの問題だから自分たちで解決しなきゃいけないかなって思った」


今回の取材をきっかけに、ダイスケは初めて両親に被害にあっていることを打ち明けた。

ダイスケの父親
「”なりすまし”というトラブルを抱えていることを知らなかったことが正直ショックでした。息子からは言われておりませんでした。特に不仲ではないので、もうちょっと早く相談してくれてもよかったかなと」


“なりすまし”被害から身を守るには? “バスターズ”が議論

評論家 宇野 常寛さん(以下、宇野)
僕も昔、“なりすまし”をやられた事があります。運営しているウェブメディアの偽物を作られたり、ツイッターで僕の偽アカウントが作られたりしました。特にツイッターでは、その偽アカウントが当時の総理大臣に「死ね」などのリプライ(返信メッセージ)を送っていました。悪質だなと思い、ツイッター社にも伝えて、そのアカウントを停止してもらいました。


宇野 常寛さん
評論家 インターネット社会への鋭い批評で知られる


ITリテラシー専門家 小木曽 健さん(以下、小木曽)
子どもたちの世界では、“なりすまし”の被害がすごく多いです※。
「自分の名前を使ったアカウントを勝手に作られて、炎上するような投稿をされた」とか、女の子だったら「画像をねつ造・合成されて、わいせつな投稿をされた」ということもありました。もう完全にいじめです。 身近な人が加害者であることがほとんどなんです。問題のある行動だし、法にも触れる可能性があるケースも中にはありますが、なかなか被害が表に出てきていないのが現状です。

※取材班追記:小木曽によると、子どもは自分が被害に遭っているという風に周りから思われたくないので、自分から親や先生に積極的に相談することはほぼないという。普段から親が、ネット上のトラブルについて子どもに話し、心の準備や対策を知らせておくことが大切だと小木曽は指摘する。


小木曽 健さん
ITリテラシーの専門家
全国の学校や企業から招かれ、ネットトラブルへの対策について講演を行っている


宇野
ダイスケくんの例はYouTube上で行われた“なりすまし”でしたが、テキストを使うほかのSNSでも被害が大きいんでしょうか?

小木曽
例えば、LINEの場合は電話番号の紐づけなどで複数のアカウントが作りづらい仕組みを作っています。ところが、ツイッターだと複数のアカウントを好きなだけ作れることが、いろいろな問題が起きる要因の1つとなっています。
問題行動をする時に、「捨てアカウント(削除されることを念頭に置き、素性を明かさないアカウント)」を使う方法がありますし、未成年に対してわいせつな行為を行う際に、自分の身分がばれないように複数のアカウントを使い分ける犯罪者もいます。ここは仕組みを考える必要があるんじゃないかと私は思っています。

宇野
“なりすまし”は法的には問題はないのですか?

弁護士 神田 知宏さん(以下、神田)
“なりすまし”のアカウントの削除請求や発信者情報開示請求をしたいという相談は結構ありますが、“なりすまし”の法的な解釈については議論があります。ポイントは「なりすました上で何をしてるか」です。そのアカウントが他人を罵倒していれば、“なりすまし”による名誉棄損と言えますし、あたかも本人であるかのような合成写真を載せていれば、プライバシー侵害というような考え方をします。
先ほどの宇野さんの“なりすました”ですが、「見たこともないアニメを評論をしている」というだけでは、名誉毀損やプライバシー侵害をしているとまでは言えず、違法だと言うのはなかなか難しいのかなという印象でした。


神田 知宏さん
弁護士
ネット関連の案件を2000件近く扱ってきたスペシャリスト。元IT企業社長。


宇野
マジですか。僕はアニメの批評などを書いて仕事としているわけだから、自分の責任が持てない文章を僕の文章・意見だと発表されたら、ものすごく不利益だと思うんですが、それは通用しないんですか?

神田
例えば、その“なりすまし”をする時に写真を使っているはずなので、本人の写真を使っていることによる肖像権侵害であるとか、著作権侵害であるとか、そちらの方で問うしかないかなという感じはします。

宇野
ハードルが高いですね。あくまで名誉棄損とかではなくて、自分の本来の所有物を盗まれた、という文脈では違反になってくるということですね。
小木曽さんが、今まで見てきたなりすましの実例ってどんなものがありましたか?

小木曽
子どもの世界では、自分のフルネーム、学校、顔写真など、本人が自分のアカウントで載せていないものも偽アカウントでどんどん載せられて、本人の名誉が損なわれるような投稿がされた例があります。そうした偽アカウントが他人にケンカは売る、問題のある写真は載せる、「どうしたらいい?」と相談を受けるケースです。

実際に“なりすまし”の相談を受けた時、私が伝えているのは「宣言」すること。「私のなりすましがいます。今こういうアカウントが自分になりすましています。偽者で今法的な対処を検討中です」と自分のアカウントで宣言すると、偽のアカウントがパッと消えることがあります。わざわざ法的な手段をとらなくても、子どもが困った時にこういうふうにやるといいんだよ、という対処法はある程度、子どもの世界でも通用しています。




8/20放送 「フェイク・バスターズ」番組ダイジェスト版
Vol.1 もしも身近な人がひぼう中傷を受けたら…
Vol.2 ひぼう中傷の被害者を救う 第三者がカギに!
Vol.3 ひぼう中傷をなくすために…プラットフォームの役割は?



「フェイク・バスターズ」

8月20日(木)夜10:00放送(総合テレビ)

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年8月20日

「フェイク・バスターズ」番組ダイジェストVol.3 ひぼう中傷 プラットフォームの役割は?


ネットのひぼう中傷 プラットフォームの役割は?
ひぼう中傷対策を考える上で欠かせないのが、グーグルやツイッター、フェイスブックなど、ネット上でサービスを提供する大手プラットフォーム企業の役割だ。
ユーザーから書き込みの削除などを求められた場合は、それぞれの企業の方針に基づいて判断しているが、被害者からは対応が不十分だという声も上がっている。

木村花さんの事件を受け、国も専門家による研究会を開いてプラットフォームのあり方を検討している。

総務省 総合通信基盤局 課長補佐 中川北斗さん
「(プラットフォームが)苦情の受け付け体制をしっかり確保しているのか。そういう対応をしっかり行うとともに、その対応に対する透明性や説明責任がしっかり果たされることが重要なんじゃないか。そういう議論を重ねているところです」




ツイッター社長に聞く ひぼう中傷どう減らす?
プラットフォーム企業は、ひぼう中傷の問題をどう受け止めているのか。今回、ツイッター・ジャパンの笹本裕・代表取締役が取材に応じた。ひぼう中傷を受けた経験のある葉山潤奈が疑問をぶつけた。



YouTuber 葉山 潤奈さん
「ひぼう中傷について、ツイッターさんの方で何か対策を打ったり、今後はこうしていきたいとを考えていらっしゃることはありますか?」

ツイッタージャパン 代表取締役 笹本裕さん
「そうですね。問題があるということは、我々本当に常に感じております」
「特に数年前から機械学習を使って、攻撃的なツイートを検知していく技術を強化しております。その上で365日24時間対応できるように、様々な国で、実際に人間の目で、そういったツイートを確認しています」


今月、ツイッタージャパンは新しい機能を追加した。
これまでは、ツイートを読んだ人は誰でも コメントを書き込むことができたが、新たな機能では、コメントできる人をアカウントの持ち主が選べるようになった。ひぼう中傷を防ぐ一定の効果があるとしている。



一方で、ツイッター社が強調したのが「表現の自由」。

ツイッタージャパン 代表取締役 笹本裕さん
「やはり表現の自由の重要性というのは、我々としてはすごく尊重したいと思ってます」
「例えば日本では『#検察庁法改正案に抗議します』というムーブメントが起きました。またアメリカでは『#MeToo』というムーブメントが数年前に起きました。こうしたことが起きるのもツイッターの特性であり、力でもあると思います」

YouTuber 葉山 潤奈さん
「自由な発言を大事にしたいという気持ちはすごく分かるんですが、実際それだけではもう止めようがないほどひぼう中傷がエスカレートしています。そこははかりにかけてみると『発言の自由』の方を大事にされたいということですか?」

ツイッタージャパン 代表取締役 笹本裕さん
「苦しいところではあるんですが、そういった部分と悪意のある部分を、我々としてはどう向き合っていくかということが非常に大きなテーマとして、まだまだ続いていくかなと思います」


プラットフォームの役割は
プラットフォームの役割について、バスターズからも様々な意見があがった。



弁護士 神田 知宏さん
プラットフォームが人の人生を左右する力を持っているのは、私は問題だと思っています。悪い口コミを書かれたり、悪い評価を書かれたりすることによって、自分はもうこの仕事ができないというふうに思う人がなんと多いことかと。

ITリテラシー専門家 小木曽 健さん(以下、小木曽)
私個人の考えとしては、SNS事業者がSNS上に載せるべきもの、載せてはいけないものをジャッジするような世界は作っていけないと思っています。あくまで情報の発信者が責任を負わなければいけないものであって、そこをSNS事業者がどうこうするというのは、言論統制なんじゃないか。

評論家 宇野 常寛さん(以下、宇野)
SNSというのは社会インフラの一部なので、プラットフォームに内容まで踏み込んだ削除権利みたいなのは与えすぎないほうがいい。その一方で、やっぱり仕様をどうにかした方がいいというのは間違いなくあると思うんですよ。

心理学者 関屋 裕希さん(以下、関屋)
SNSは人と自分を比較しやすいツールだと思うんですよね。つい攻撃したくなってしまう、ついやってしまうことを喚起しやすい仕様になってる部分はあると思っています。そうした仕様の工夫というのは、言論の自由に配慮しながらだとしても、行っていくべきだと思います。

YouTuber 葉山 潤奈さん(以下、葉山)
私としてはプラットフォーム側からもアクションを起こしていただき、使っている利用者側からも意識を変えていくという両者でやっていかないと、(ひぼう中傷対策は)もう間に合わなくなるのではないかと思います。

誰もが気軽に発信できる時代。自分がひぼう中傷の加害者にならないためには、何に気をつければいいのか?

関屋
SNSを使う時に、自分がどういうことをしてしまいやすいのか、どういう感情を抱きやすいのか、もう少し知っておくことがすごく大事だな思います。

小木曽
一人で車を運転している瞬間に『早く行けよ』とか、『腹減ったな』とかブツブツ言いますよね。SNSで一人でポチポチ投稿している時間は、車の運転の心理状態そっくりなんですよ。その人が丸裸になるんです。だから普段はいい人なのに、SNS上でだけ攻撃的だとか自慢が好きだとかいうことがある。このことは知ってほしいですね。

宇野
ちょっと目立ちすぎた人や、何か失敗した人に対して、みんなで石を投げてすっきりすることによって、安心するという文化が根づいてしまっていると思います。ここにメスを入れることが、大事なんじゃないかなと思うんです。

関屋
自分の口から発することや書き込むことは、自分が責任を持つべきことだという、そもそもそこからかなという気もします。

小木曽
「表現の自由」だけでなく「表現の責任」を考えてほしいと、あと100回くらい言いたいです。



「フェイク・バスターズ」番組ダイジェストを読む
Vol.1 もしも身近な人がひぼう中傷を受けたら…
Vol.2 ひぼう中傷の被害者を救う 第三者がカギに!



「フェイク・バスターズ」

8月20日(木)夜10:00~10:30(総合テレビ)

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年8月20日

「フェイク・バスターズ」番組ダイジェストVol.2 ひぼう中傷の被害者を救う!第三者がカギに


あなたもできる 被害者を救う“ひと言”
ひぼう中傷に関する興味深いデータがある。
多摩大学情報社会学研究所によると、ネットの炎上に加担したことのある人は、ユーザー全体の1.1パーセント。このことから、実際に攻撃的なコメントを書き込む人は、ごく一部だと分かる。そしてそれ以外の、多数を占める第三者こそが、被害を減らすカギを握っているのだ。



新型コロナウィルスに感染した経験を発信し、ひぼう中傷を受けたリョウスケさん。
被害が止まず、精神的に追い詰められる一方だった。そんな状況を大きく変えたのが、一部のフォロワーから寄せられた、リョウスケさんの味方をする書き込みだった。





リョウスケさん
「気分が沈んでいく状況の時に、自分を応援してくれる人や、励ましてくれる人がたくさんいることで、すごく嬉しくて頑張ろうっていう気持ちになりました」


取材をすると、リョウスケさんの味方をしたフォロワーの中には、中高生の子どもを持つ親たちも複数いた。

リョウスケさんに味方したフォロワー
「みんなのために発信している子がひぼう中傷を受けているのを見て、黙っていられませんでした」
「自分の娘と同年代の子が攻撃されているのを見過ごせませんでした」


リョウスケさんに対するひぼう中傷はいまも続いているが、こうした声のおかげもあり、以前のように気に病むことはなくなったと言う。

リョウスケさん 「こんな人がいたんだっていう程度に、(ひぼう中傷を)流せるようになりました。『発信している内容を見て、より一層感染対策に気をつけるようになった』という、DMやリプライをたくさんいただくので、発信を続けていこうかなと思っています」

困っている人には応援を


YouTuber 葉山 潤奈さん
友達やフォロワーさん、会ったことのない人たちでもいいので、声を上げていくことを本当にしてほしいです。叩かれて困っている人に、「私たちは応援しています」と愛が伝わる書き込みをする人が増えれば、ひぼう中傷しにくい環境ができるのではないかと思います。文章じゃなくハートマークだけでもいいと思う。こうした一言を投げるのはSNSのすごくいい使い方だと思います。

心理学者 関屋 裕希さん
そこはすごく大事なところで、ひぼう中傷を書かれている人は、世界が全部敵のように見えてしまう。例えば30件ぐらいコメントがついて、その中で1件だけでもネガティブなコメントがあると、人はそっちに注意が向きやすい。これは心理学で「ネガティビティ・バイアス」と呼ばれるものです。そこにハートマークのコメントや応援メッセージが来ると、『何か違う、一人じゃないんだな』と思えて、孤立から抜け出せると思います。

評論家 宇野 常寛さん
ひぼう中傷を受けた人は傷つきすぎないでほしいし、気にしすぎないでほしい。こんなものは世間で一部なんだということをはっきり言っておくことが大事だと思う。さっきのリョウスケくんのような立場に置かれた人も、過剰に絶望しないですむのではないかと思いました。



「フェイク・バスターズ」番組ダイジェストを読む
Vol.1 もしも身近な人がひぼう中傷を受けたら…
Vol.3 ひぼう中傷をなくすために…プラットフォームの役割は?



「フェイク・バスターズ」

8月20日(木)夜10:00~10:30(総合テレビ)

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年8月20日

「フェイク・バスターズ」番組ダイジェストVol.1 もしも身近な人がひぼう中傷を受けたら…


プロレスラーの木村花さんの死によって、被害の深刻さが改めて浮き彫りになったネット上のひぼう中傷。大人だけでなく、中高生など、子供たちへの被害も広がっている。指先一つで誰もが簡単に人を傷つけてしまう時代。もし、あなたやあなたの子どもが、SNSでひぼう中傷の被害にあったら…

まさか息子が 新型コロナでひぼう中傷
関東地方に住む高校生のリョウスケさん(仮名)は、ことし3月、新型コロナウイルスに感染し2週間入院した。PCR検査で陰性になった後も熱や倦怠感などの症状が続き、学校は長期間休んでいる。この間、症状の変化や病院での治療の様子などを、ツイッターで匿名で発信してきた。



リョウスケさん
「僕が情報発信することで、何か手助けになればいいなと思い、始めたのがきっかけです」
















リョウスケさんが反論するとコメントはさらに攻撃的になり、複数の匿名アカウントから1日数十件のひぼう中傷が書き込まれた。中には、リョウスケさんがウソの投稿で収入を得ているという、事実無根の書き込みまであった。

リョウスケさん
「ひぼう中傷は目に入ると流せない。無視したつもりでも心に残って、長い間続くと、どんどん心が削られて、精神もすり減っていった」

母・アケミさん(仮名)
「ひぼう中傷が来ている時は、息子は本当に落ち込んで、泣いたりすることもありました。(ひぼう中傷は)他の世界の話だと思っていたんですが、こんなに身近に起こり得るんだと」


「投稿者を特定したい」 裁判を起こした親子
もしひぼう中傷を受けたら、被害者や家族はどうすればいいのか。
ことし5月、プロレスラーの木村花さんが、リアリティ番組に出演したことがきっかけで激しいひぼう中傷に遭い、亡くなった後、ひぼう中傷に対して裁判を起こして立ち向かおうという声がわき起こった。



裁判をしたら、被害者はどこまで救われるのか?実際にそれを経験した親子がいる。
マモルさん(仮名)は、中学1年生の頃からいじめを受け、その延長でネットでも激しいひぼう中傷を受けた。「爆サイ」という匿名掲示板に専用のスレッドが立ち上がり、悪口などが次々と書き込まれたのだ。



母・ユウコさん
「息子はウソつきだとか、虚言癖があるとか。最初は、何でこんなこと書かれるんだろうって思って。みんな匿名なので誰なんだろうって。ただ学校関係者なんだろうというのは内容を見てわかった」




学校は全学年の保護者を集めて、説明会を開催。
しかし、掲示板の書き込みは、かえってエスカレートしていった。
中には、マモルさんの行動を監視しているような書き込みも現れた。



母・ユウコさん
「自転車でどこを走っていると、書かれているものがあった。息子は『もう外に出るのも怖い、誰かが見てる』と。部屋にいるのに、外から誰かに見られているかもしれないと。そんな状態になっちゃったんです」


もはや自力では解決できないと思ったユウコさんは、弁護士に相談した。





荒生裕樹弁護士
「印象としては、掲示板の内容が相当異常だと思ったんです。取り返しのつかない事態に陥る前に、なんとか事態をくい止めたいと」


荒生弁護士が提案したのは「発信者情報開示請求」という手続き。匿名で書き込みをした人の情報を明らかにするよう、サイトの運営会社やプロバイダーに求めるものだ。しかし、そこには厳しい条件がある。



手続きでは、特定の書き込みを指定して、その投稿者の情報を請求する。認められるには、誰に対して書かれたのかがわかり、かつ、明らかに、名誉毀損や侮辱、プライバシー侵害にあたる表現が含まれている必要があるという。
たとえば、先ほどの、「自転車に乗っていた」という書き込みは、本人にとっては辛い内容でも、裁判で情報開示が認められる可能性は極めて低いという。



荒生弁護士
「ご本人としては本当に見ていてつらいものでしょうけども、法的な観点でいうと、そういった権利侵害までは認められないという判断もあります」


スレッドの書き込みは全部で3千件近く。弁護士が検討したところ、そのうち裁判所に認めてもらえそうなのは、わずかに9件だった。
さらに、プロバイダーのアクセス記録が消去されているものを除くと、書き込んだ人をたどれるのは、9件のうち4件。その4件が裁判所に認められ、投稿者を特定することができた。



その後、謝罪してきた人を除く1人を相手に、損害賠償を求める裁判を行い、和解が成立した。最初の相談からここまで1年9ヶ月がかかった。

実際に特定できたのはわずかだったが、裁判がメディアに取り上げられるなど、影響は大きかった。裁判を起こしたあと、マモルさんの悪口が書かれていたスレッドは、掲示板から消えた。

母・ユウコさん
「やっぱり、匿名でひぼう中傷をしている人たちに対して、匿名だってバレるんだよっていうことが発信できたかなと。そこは一番よかったところだと思う」


マモルさんは、不登校のまま中学を卒業。高校は地元の人が少ないところを選び、今は毎日通学している。

マモルさん
「(中学時代は)色んなことがあって、悲しいときが多かったです。またいつ書かれるかわからないので、そこは怖いです」


知っておきたい もしひぼう中傷を受けたら
ひぼう中傷から身を守るには、どうすればいいのか。フェイク情報と戦う専門家「バスターズ」が議論しました。



評論家 宇野 常寛さん(以下、宇野)
スレッドの書き込みが3千件あって、実際に裁判所に認められそうなのが9件というのは、かなりシビアな判断基準に見えるんですが、仮に裁判をしようと思ったらどのような手続きを踏んだらいいんですか?

弁護士 神田 知宏さん(以下、神田)
まずは、書き込まれた画面の「証拠化」をしていただきたいです。
画面を印刷したりスクリーンショットを撮るなどして、ひぼう中傷を受けた証拠を残すことが重要です。その際重要なのが、URLがわかるようにすることです。スマホのブラウザだとURLが全部映ってない場合が多いので、パソコンに転送したり、メモアプリにコピーするなどしてURLをすべて残しておくようにしてください。



神田
もう一つ重要なのが、手続きのスピード。プロバイダーなどが保存しているアクセス記録は通常3ヶ月から6ヶ月で消去されてしまう。情報開示請求をするならなるべく早く弁護士に相談する必要がある。

宇野
裁判というと結構お金がかかるというイメージがありますよね。その辺はどうなんですか?

神田
1つ悪口を書かれて、書き込んだ人を最後まで特定しようと思うと、裁判費用が50万~100万円くらいはかかります。(※投稿者への損害賠償請求も含めた概算です)
「慰謝料で元がとれますか?」と聞かれる方がいるんですが、慰謝料はいまそんなに高くないんです。

YouTuber 葉山 潤奈さん(以下、葉山)
私は、加害者に賠償してほしい、謝ってほしいという気持ちももちろんありますけど、ひぼう中傷された時に「争う姿勢を打ち出すのも1つの手なんだ」と発信していく。これしかないんじゃないかなと思っています。

ITリテラシー専門家 小木曽 健さん(以下、小木曽)
ひぼう中傷をすると訴えられることがある、って知らない人もいるし、反撃できるって知らない人もいっぱいいる。なぜかというと、過渡期だからだと思います。今、我々がこうやって話をして情報発信をすることがその先に進むきっかけにもなる。

いま発信者情報開示請求を、被害者がより使いやすい仕組みに変えようという動きが進んでいる。開示する内容に、これまで含まれていなかった、書き込んだ人の電話番号を追加することや、より短い時間で情報開示が進む新たな裁判手続きについて検討されている。


被害者をサポートするため、裁判以外の相談窓口も整えられてきている。国が作った相談センターのほか、ネット企業の業界団体が作った窓口や、子どもの被害を専門に扱うところもある。どこに相談すればいいか迷ったら…

小木曽
もし「どの窓口に相談すればいい?」と聞かれたら、私は「全部に連絡してごらん」と言います。色々な人が色々なアドバイスをくれるから、その中で自分が「これは使えるな」と思うところを選んでいいんだよと。



「フェイク・バスターズ」番組ダイジェストの続きを読む
Vol.2 ひぼう中傷の被害者を救う 第三者がカギに!
Vol.3 ひぼう中傷をなくすために…プラットフォームの役割は?



「フェイク・バスターズ」

8月20日(木)夜10:00~10:30(総合テレビ)

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年8月20日

ひぼう中傷を受けたら… 困ったときの相談窓口

ひぼう中傷の被害が深刻化するなかで、被害の相談ができる窓口も増えています。
放送でも紹介した窓口など、主な窓口を詳しくご紹介します。
※各相談窓口のリンクをクリックすると、NHKサイトから離れます。

違法・有害情報相談センター
https://www.ihaho.jp/

総務省が運営する相談センター。サイトから相談内容を投稿すると、ひぼう中傷など人権を侵害する情報への対処や書き込みの削除方法をアドバイスしてくれます。
誹謗中傷ホットライン(一般社団法人セーファーインターネット協会)
https://www.saferinternet.or.jp/bullying/

ネット企業の業界団体「セーファーインターネット協会」が、今年6月に開設した窓口。サイトから相談を投稿すると、専門のスタッフが吟味したあと、相談者に代わりプラットフォームやサイトの運営者に対してひぼう中傷などの削除依頼を行ってくれます。
法務省 人権擁護局
http://www.moj.go.jp/JINKEN/index_soudan.html

法務省では、インターネット上の人権侵害の救済措置としてアドバイスを行っています。人権侵害が明らかなケースなどは法務省が直接、削除依頼をする場合もあります。

子どもが被害者の場合は、子どもの問題に精通しているスタッフが対応
「子供の人権110番」 0120-007-110
(フリーダイヤル・平日8時半~17時15分)


※8月28日~9月3日は「子どもの人権110番 強化月間」。相談受付時間を延長して、平日8時半~19時に延長。土日(午前10時~17時)も受け付けています。

ほかにも、最寄りの法務局や、「みんなの人権110番(0570-003-110)」、「女性の人権ホットライン110番(0570-070-810)」などからでも同じアドバイスを受けることができるので、相談しやすいと感じるところに相談してみてください。
法テラス
https://www.houterasu.or.jp/

0570-078-374 平日9時~21時、土曜9時~17時
国が設立した法的トラブル解決の総合案内所です。
警察 相談ホットライン #9110
(電話機のシャープと、数字の9110)

犯罪の可能性がある場合は警察に。相談ホットライン#9110は、相談の内容に応じて適切な窓口を紹介してくれます。

その他、民間のインターネット企業や携帯電話会社による相談窓口、各地のNPOや教育委員会などによる相談窓口もあります。


どこに相談すればいい?

小木曽 健さん
ITリテラシーの専門家
全国の学校や企業から招かれ、ネットトラブルへの対策について講演を行っている

ITリテラシー専門家の小木曽健さんによると、大切なのは複数の相談窓口に相談してみること。
ネットの問題は必ず正解があるとは限らず、相談員の方もそれぞれの経験により答えがまちまち、という場合もあるそうです。もし「どの窓口に相談したらいいか」迷ったら?

小木曽さん
「全部に連絡してみてください。色々な人が色々なアドバイスをくれるので、その中で『これは使える』と思ったものを選んで下さい」。

ひとつに絞らず複数に相談することで、自分に合った対処法を見つけて下さい。そして何より、自分で悩みを抱え込まないことが大切です。

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年8月19日

ツイッタージャパン社長に聞いてみた【後編】

ネット上のひぼう中傷に関するツイッタージャパンの代表取締役 笹本裕さんへのインタビュー続編。聞き手は「フェイク・バスターズ」出演者で自身もひぼう中傷を受けた経験のある葉山潤奈さん。
対談の後半、ツイッター側の発言からは、プラットフォームとして「ひぼう中傷対策」と「表現の自由」を両立させるための苦悩が垣間見えました。

「ツイッタージャパン代表に聞いてみた」対談の前編はこちら


笹本 裕さん
ツイッタージャパン 代表取締役  複数の外資系企業で要職を歴任。2014年から現職。


「表現の自由を守る」と「ひぼう中傷をなくす」…両立できる?

ツイッタージャパン代表 笹本 裕さん(以下、笹本)
(プロレスラーの木村花さんが亡くなった)事件の時は、社員それぞれが本当にすごく心を痛めました。社内の会議でも「なぜこういう事が起きてしまったのか」「我々ができる事は何だったのか」議論し合いました。その時にも話をしたのですが、日本にいる我々は自由に発言ができることの尊さや重みを忘れがちではないかと。
日本は「言論の自由」が担保されている一方で、それを悪意をもって使う人がいることがすごく残念です。言論統制にならないようにしつつ、利用者のリテラシーの向上や、倫理に反することにはしっかりと対応していきます。

葉山 潤奈さん(以下、葉山)
私も普段、ユーザーのリテラシーを高められるような発信をしているつもりですが、それだけでは、ひぼう中傷を防ぎきれないと感じています。発言する側に「自由のはき違え」がすごく多いと思っています。私としては、攻撃的なコメントを被害者が消せるようになってほしいとか、複数のアカウントを持つことに制限をかけてほしいと思うんですけれど、ツイッターとしては、それらを秤にかけた場合、「言論の自由」を大事にしたいということですか?

笹本
発言の自由はとても大切だと思っています。
例えば日本では「#検察庁法改正案に抗議します」というムーブメントが起きました。またアメリカでは「#MeToo」というムーブメントが数年前に起きました。こうしたことが起きるのもツイッターの特性であり、力でもあると思います。
誤解してもらいたくないのですが、我々も決して、悪意を持って人を攻撃したり、ひぼう中傷する人を守りたいわけではないんです。一方で、権力と対峙するような弱い立場の方々が、自分を守りながら自由に発言できることも担保したいと。


ネット上の「表現の自由」 日本とは事情が異なる国も

――世界中で1億8600万人が利用するツイッター。日本から海外に目を向けると、そもそもネット上の発言に「自由」が認められていないことも多いと笹本さんは語る。

笹本
ムーブメントが起きる時は、まず弱い立場の人が発信をして、それがだんだん広がっていくことが多いと思いますが、国によっては言論統制があって、発信者が特定され処罰されることもあると思います。
ある国では、中央政府がツイッターを閉鎖しようとしたことがありました※。
我々はグローバルなプラットフォームであるがゆえに、そうした動きにも日々触れています。
自由に発信できない国にいる人たちからすると「日本はすごく自由でいいね」と言われます。

葉山
うらやましい、というわけですね。

※イランでは2009年に、反政府デモの呼びかけに使われることを警戒し、政府がツイッターやフェイスブックの閲覧を禁止。 またトルコでは、政権への批判をおさえるため、2014年に政府がツイッターを遮断する措置を取った。その後、裁判所が憲法違反との判断を示し、遮断は解除された。

“日本の会社”として何ができる?


葉山 潤奈さん
芸能事務所社長、モデル、ユーチューバーなど多彩に活動。
過去にネット上で悪質なデマを拡散されたり、動画の生配信中にひぼう中傷が殺到するなどの被害に悩まされてきた。同じような被害に遭った人の相談に乗ったり、被害を減らすための発信を続けている。


葉山
ひぼう中傷をなくすために、グローバル企業としてではなく、「ツイッタージャパン」として、日本国内で何かやれることはないのでしょうか。

笹本
日本国内で対応できることも数多くあると思います。
グローバル企業だからと言って、日本と海外をすべて同じように考えているわけではありません。当然日本で起きている問題には、しっかりと対応していこうとしています。日本語のコンテクスト(前後の文脈)がわかる人材を強化し、その知見を機械学習に反映させるなど、日本から世界に対してしっかり声を出しています。
例えば、日本は自殺が多い国ですが、そういった方々をできるだけ多く救おうと、自殺に関する検索をした方に、注意喚起をする機能を追加しました。これは世界の中で日本が最初にスタートさせたものです。

もう1つは「※ソーシャルメディア利用環境整備機構」の発足です。国内のSNS事業者でつくる団体で、デジタル上の問題にいかに対峙していくのか議論を始めています。今後SNSに関する政策にも関わってくると思います。

※「ソーシャルメディア利用環境整備機構」
ツイッターやフェイスブック、LINEなどのSNS事業者がことし4月に設立した団体。5月には、プロレスラーの木村花さんがSNS上でひぼう中傷に遭い亡くなったことを受け、緊急声明を発表。嫌がらせや名誉毀損などを禁止事項し、違反があった場合のサービス利用停止などを徹底するとしている。




ひぼう中傷をなくすために必要なことは?

葉山
ユーザーとプラットフォーム、いろんな分野で対策をしないとどうにもできないというところは、私たちユーザー側もわかっています。
「もし法律が変わったら…」「プラットフォームの利用制限がかかったら…」ではなく、もともと道徳の話でもあると思うので、「やってはいけないことをやっている」という認識をもっと広めていきたいと思っています。

笹本
そうですね。今まさに葉山さんがおっしゃったように、リテラシーというのはまだ伸びしろがあります。「あの人と意見が違うから」と攻撃する人もいるので、多様性の大切さを知ってもらうことも必要だと思います。
また、SNSやYouTubeなどでビジネスをしている人の中には、炎上させることで注目を集める手法をとっている場合もあると思います。そういったことも「それがかっこいいことではないんだ」ということを、みんなで共有していくことも必要ではないかと、私も思っています。
「こういう課題がある」と発信することにぜひ力を入れたいと思うので、そういった取り組みをご一緒させていただけるとありがたいです。

葉山
そこは共感します。ぜひ、よろしくお願いします。


インタビューは8月5日にツイッタージャパンのイベントスペースで行われた

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年8月18日

ツイッタージャパン社長に聞いてみた【前編】

SNSを運営するプラットフォーム企業はネット上のひぼう中傷をどう受け止めているのか? ツイッタージャパンの代表取締役 笹本裕さんが8月20日放送「フェイク・バスターズ」の取材に応じました。聞き手は、自身もひぼう中傷を受けた経験のある、葉山潤奈さん。芸能事務所社長、モデル、YouTuberなど多彩な顔を持ち、ひぼう中傷をなくすための発信を続けています。
葉山が日頃から感じていた3つの疑問をぶつけました。
● ひとりが複数のアカウントが持てるのはなぜか?
● ツイートの削除依頼への対応基準は?
● 被害者自身が書き込みを消せるようにできないか?


笹本 裕さん
ツイッタージャパン 代表取締役  複数の外資系企業で要職を歴任。2014年から現職。


ひぼう中傷 ツイッター社の対策は…

葉山 潤奈さん(以下、葉山)
よろしくお願いします。早速ですが、ひぼう中傷の被害を減らすために「こういう取り組みをしていきたい」など、何か考えていらっしゃることはありますか?

ツイッタージャパン代表 笹本 裕さん(以下、笹本)
まず前提としてツイッターの中には様々な会話があります。例えば震災が起きた時に、ツイッターで情報発信したことで救助された方々もたくさんいますし、ひぼう中傷だけがツイッター上にあるわけではないと。

葉山
もちろんそうですね。

笹本
それを前提で申し上げますと、そうした(ひぼう中傷に関する)課題は我々としても当然認識していて、特に数年前から機械学習・深層学習などを活用して、攻撃的なツイートを検知する技術を強化しています。その上で365日24時間対応できるよう、様々な国で実際に目検で(目で見て)ツイートを確認しています。

葉山
人がやっているのですか?

笹本
ええ、組み合わせでやっています。機械学習は一朝一夕で完璧なものはできないので、我々も決して今の状態で満足しているわけではなく、人員も強化しなければいけないと認識しています。残念ながら、情報開示請求の数は日本がアメリカに次いで世界で2番目に多く、我々としてはユーザーの嫌な思いを、できるだけ少なくしていきたいと思っています。
苦しいところではあるんですが、そういった“悪意”の部分とどう向き合っていくのかが非常に大きなテーマとして、まだまだ続いていくかと思います。

複数のアカウントが持てることは問題?


葉山潤奈さん
芸能事務所社長、モデル、ユーチューバーなど多彩に活動。
過去にネット上で悪質なデマを拡散されたり、動画の生配信中にひぼう中傷が殺到するなどの被害に悩まされてきた。同じような被害に遭った人の相談に乗ったり、被害を減らすための発信を続けている。


葉山
私はツイッターを長く愛用していて、いい出会いにつながったこともあったり、自分にとってすごく大事なツールなんですね。その中で不思議に思っているのが、1人のユーザーが匿名で複数のアカウントを作れることなんです。私はそのことが、ひぼう中傷が起きる理由の1つではないかと思うんですが、仕組みを変えることは難しいんですか?

笹本
仕組み自体はどんどん進化していくと思うので、将来も同じかどうかは何とも申し上げられないんですが、同じ人が複数のアカウントを持てるというのは、他のSNSとの生い立ちや考え方の違いと関係があります。
多くのSNSは、人と人の「つながり」を中心に設計されていると思いますが、ツイッターはどちらかというと、人の「興味・関心」を発信してもらうことを前提に作られています。例えば、1人の方が「アイドルを追いかけたい」という趣味のアカウントと、「学校の友人たちとつながりたい」というアカウントを複数持つことで、多様な趣味・思考が発信できるのがツイッターかなと思っています。

ツイートを削除する基準は?

葉山
ひぼう中傷を受けたユーザーから、書き込みの削除依頼が送られてくると思うんですが、その場合「削除する/しない」の基準はどうなっているんですか?

笹本
まず、ツイッターのポリシー自体は開示されているので、ご参照いただければと思います。しかし、ひぼう中傷の定義は言語によっても違うでしょうし、文化によっても異なると思うんですね。異なる文化・言語・コンテクストを、人間の目でしっかりと見て、その前後の文脈なども含めて理解し対応していく形になるので、それを全部明文化して皆さんにお見せするのは非常に難しいところがあるんです。
例えば、他人から見るとすごく攻撃的でひぼう中傷に見えるケースであっても、実際は友人同士の“他愛もないやりとり”というケースもあるので。

葉山
そこまで見ていると…

笹本
日本に関するツイートであれば、世界各国に日本語ができて、かつコンテクスト(前後の文脈)を理解できる人材を配置して、できるだけ365日24時間対応できるようにしています。ただ、完璧に対応できているかというと心苦しいところで、そう申し上げられる状況ではないと思うんですが、日々進化させていかなければならないと責任は感じています。


インタビューは8月5日にツイッタージャパンのイベントスペースで行われた

「ブロック」「ミュート」機能で十分?

葉山
ツイッターには、「ブロック」や「ミュート」の機能がありますよね。それを使うと、書かれた本人はその投稿を見なくて済むと思うんですが、私は、ひぼう中傷というのは、それを第三者に見られてしまうことも被害者が傷つく原因の1つだと思うんです。例えばアカウントの持ち主が、書かれたコメントを削除できるようにはならないんでしょうか?

笹本
ご自身が?

葉山
そうです。本人の判断でリプライ(返信コメント)を消せるようにするのは、難しいんですか?

笹本
今は難しいと思います。機能が進化していくことは約束できるので、いろいろな形でそういった言葉を自分の目から遠ざけることには力を入れたいと思っています。
私自身もツイッターの利用者なので、いろいろな言葉や批判をもらって、心が傷つくことも当然あるんです。「ミュート」「ブロック」機能を使ってみた経験からも、葉山さんの気持ち・ご意見は、個人的にはすごく共感します。
その一方で、例えば私に対して、その方のご意見として発信されることに関しては、「個人の自由な発言」と捉えなくてはいけない時もあるのかなと思います。「表現の自由」の重要性は、我々としてはすごく尊重したいと思っています。
もちろん、誤解していただきたくないのは、批判や自分の意見を言うための自由と、攻撃する自由をはき違えてしまっていることが往々にしてあります。この線引きは難しいですが、我々としては、ツイッターとして何かを判断して行動に起こすより、警察など法的機関の法律に基づいた判断をまずは望みたいと思っています。もちろん、明らかなポリシー違反については対応してまいります。

葉山
平和に使って、楽しくいいものをシェアしてもらいたいと。

笹本
ツイッター創業者のジャック・ドーシーも常々言っていますが、我々としては「健全な会話」を、ツイッターの「1丁目1番地」にしたいと。もちろん民間企業ですので投資対効果を考えた上で色々な決断をしますが、この「健全な会話」を維持して、皆さんが意見や興味関心を安全に発信できる場にすることに、一番投資をしています。「ツイッターを健全に使ってもらいたい」という思いを、強く持っています。

ツイッター側が主張する「表現の自由」に対して、葉山は…
後日公開する【後編】へと続きます。

新機能で“特定の人だけ返信”が可能に
このインタビューが行われた数日後、ツイッタージャパンは新しい機能を追加した。
これまでは、ツイートを読んだ人は誰でも コメントを書き込むことができたが、新たな機能では、コメントできる人をアカウントの持ち主が選べるようになった。
ひぼう中傷を防ぐ一定の効果があるとしている。


ツイッターの新機能 アカウントの持ち主が選んだ特定の人にだけ返信をもらうことが可能に

対談の内容は番組内でも紹介します。

「フェイク・バスターズ」

 8月20日(木)夜10:00~10:30(総合テレビ)

指先一つで誰もが簡単に人を傷つけることができる時代。
ひぼう中傷の被害を防ぐための具体的な方法を考えていきたいと思います。

あなたの思いや考えをこのページへのコメントや #誹謗中傷をなくそうでツイートしてください。みなさんから寄せられた「声」は取材チームが一つ一つ目を通します。

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年8月17日

#誹謗中傷をなくそう

プロレスラーの木村花さんの死によって、被害の深刻さが改めて浮き彫りになったネット上のひぼう中傷。8月20日(木)放送の「フェイク・バスターズ」では、被害から身を守る方法や、ネット上でサービスを提供するプラットフォーム企業の役割などについて5人の専門家(=バスターズ)とともに考えます。

今回は放送に先立ち、出演者の紹介と、収録したトークを一部お伝えしたいと思います。


ネット社会の方向性 今が舵を切るタイミング
番組の進行役は評論家の宇野常寛さん。インターネット社会への鋭い批評で知られています。実は宇野さん自身も、これまで何度もSNSでひぼう中傷を受けてきました。

Q 自身の経験も踏まえて、今のネット社会をどう感じていますか?
宇野:以前民放のワイドショーに出演していたんですが、放送が終わる度にひぼう中傷の嵐でした。「こんなキモイやつテレビ出すな」みたいな罵詈雑言だらけで、人格をおとしめることを平気で言われる。さすがに「これは世の中に知らせた方がいいだろう」と思い、そうした攻撃的な書き込みを、僕のコメントをつけて引用リツイートしたんです。そうしたら今度は「お前は何万ものフォロワーに対して、一般人の俺をさらすのか」という罵倒が飛んで来たんです。これにはびっくりしました。僕が「こんなひどいことをされている」と世の中に訴えたことを、相手は「過剰防衛だ」と受け止めて攻撃してくるんですよね。

残念ながら「インターネットは、匿名だから何をやってもいいところなんだ」「これくらいのことは許されることなんだ」といった、どう見ても間違ったコンセンサスが、半分定着しつつあると思います。ですので今はまさに、きちんとアクションを起こし、間違った方向に行かないよう舵を切るべきタイミングなのだと思います。


ネット上での情報発信には必ず「責任」がともなう
大手IT企業の社員でITリテラシーの専門家・小木曽健さんは、全国の学校や企業から依頼を受け、ネットトラブル対策についての講演を行っています。ひぼう中傷の被害を減らすには、「情報発信には責任がともなう」ことをすべてのSNSユーザーが認識すべきだと、強く訴えました。

Q 私たちがネット発信するとき意識すべきことは?
小木曽:「表現の自由」ではなく、「表現の責任」を考えてほしいと言いたいです。ネットに書いた内容は書いた人が責任を負わなければいけない。好きなことを書いて、訴えられたり罪に問われる場合もあるかもしれないけど、それも含めて全部自分で責任を負いなさいというのが、本来の表現の自由だと思います。私は、ツイッターなどのプラットフォーム企業が、載せていい内容かどうかジャッジする世界は作ってはいけないと思っています。それは言論統制につながるものであり、あくまで情報発信者が責任を負うべきです。

一方でいま、これまでひぼう中傷を我慢してきた人たちが声を上げ始めています。法律の仕組みも活用して、「これはダメ」なんだという声が世の中に広まってきています。だから、去年よりは今年、今年よりは来年、絶対にひぼう中傷でつらい思いする人が減っていくと思っているし、そうじゃないとネットが生まれた意味がないと思います。


SNSのコメント ネガティブな意見にとらわれないで
心理学者の関屋裕希さん。東京大学大学院の客員研究員としてメンタルヘルスについて研究をするかたわら、社会人を中心に幅広い世代にカウンセリングを行っています。ひぼう中傷を減らすためには、SNSを使う際、「自分がどういう感情を抱きやすいのか」を知っておくことが大事だと話してくれました。

Q 批判的なコメントを見て落ち込んだら、何に気をつける?
関屋:例えば30件ぐらいコメントがついて、その中で1件だけでもネガティブなコメントがあると、人はそっちに注意が向きやすい。これは心理学で「ネガティビティ・バイアス」と呼ばれるものです。ネガティブな情報は対策をしないとリスクになることがあるので、ポジティブな情報よりもネガティブ情報に注意が向くようにできているんです。まずそのことをよく知ってほしいと思います。ネガティブな情報に意識がいくと視野が狭くなりがちです。そんな時は「ポジティブなコメントもたくさんある」など意識的に違う情報にも目を向けましょう。また、あえてリアルな友達と会う時間を増やしたりして、ポジティブな情報に触れる機会を自分で作ることも大切だと思います。


「応援しています」のメッセージが大きな救いに
芸能事務所社長、モデル、ユーチューバーなど多彩な活動をしている葉山潤奈さん。過去にネット上で悪質なデマを拡散されたり、動画の生配信中にひぼう中傷が殺到するなどの被害に悩まされてきました。その経験から、同じような被害に遭った人の相談に乗ったり、被害を減らすための発信を続けています。

Q もしタイムラインで、攻撃されている人を見たら…
葉山:叩かれて困っている人に向けて、「私たちは応援しています」と愛が伝わる書き込みをする人が増えると、ひぼう中傷しにくい環境ができるのではないかと思います。文章じゃなくハートマークだけでもいいと思う。私の経験だと、ひぼう中傷やよくない意見が10件中3件くらいの数になると、コメント欄全体がそちらの流れに持っていかれてしまいます。たとえそうなってしまった時でも、コメント欄にハートマークがあるのを見つけると、ネガティブなコメントを流すことができるんです。他の人たちも、ただ見ているだけじゃなくて、困っている人がいたら怖がらずに助けてあげてほしいです。

書き込んだ人を訴える場合 すぐに弁護士に相談を
神田知宏さんは、弁護士になる前はIT企業社長としてプログラミングやウェブデザインもこなしていたという、異色の経歴の持ち主。その経験を生かして、ネットに関する案件をこれまで2000件近く扱ってきました。プロレスラーの木村花さんが亡くなったあと、「裁判を起こしてひぼう中傷に立ち向かおう」という声が高まりましたが、神田さんの元には被害にあった人だけでなく、書き込んだ人からも「訴えられたらどうしよう」などの相談が増えているそうです。

Q 裁判を起こして、ひぼう中傷を書き込んだ人を特定する場合、まず必要なことは?
神田:まずは、書き込まれた画面の「証拠化」をしていただきたいです。画面を印刷する、スクリーンショットを撮るなどして、ひぼう中傷を受けた証拠を残すことが重要です。その際重要なのが、URLがわかるようにすることです。スマホのブラウザだとURLが全部映ってない場合が多いので、パソコンに転送したり、メモアプリにコピーするなどしてURLをすべて残しておくようにしてください。また、プロバイダーなどへのアクセス記録は通常3~6ヶ月間しか保存されません。記録が消去されると書き込んだ人を特定できなくなります。Twitterの場合は、アカウントごと消去されると1か月ぐらいしか記録が残りません。相手を特定しようと思ったら、すぐにでも弁護士に相談していただければと思います。


「フェイク・バスターズ」
 8月20日(木)夜10:00~10:30(総合テレビ)

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。

2020年8月14日

「フェイク・バスターズ」第3弾放送! テーマは“ネットのひぼう中傷”

ネットに出回るデマやフェイク情報などの実態を取材し、情報との向き合い方を考える番組「フェイク・バスターズ」。 去年12月、今年5月に続き、第3弾が今月20日 夜10時からNHK総合テレビで放送!

今回のテーマは、ネット上のひぼう中傷。
もしあなたの家族が、SNSでひぼう中傷を受けたら…? 中高生など子どもたちへの被害も相次ぐ中、身を守るための具体的な方法を、様々な分野の専門家=フェイク・バスターズとともに考えます。

今回の「フェイク・バスターズ」は…
「フェイク・バスターズ」―それはネット上の問題と、日々戦っている人々のこと。 IT、弁護士、心理学者など、様々な分野で “情報との向き合い方” を伝えようと奮闘するバスターズたちとともに、デジタル時代を生き抜くための具体的な方法を考えていきます。

【出演者】

フェイク・バスターズ 第3弾の出演者


宇野 常寛さん(MC)
評論家
インターネット社会への鋭い批評で知られる

小木曽 健さん
ITリテラシーの専門家
全国の学校や企業から招かれ、ネットトラブルへの対策について講演を行っている

神田 知宏さん
弁護士
ネット関連の案件を2000件近く扱ってきたスペシャリスト。元IT企業社長

葉山 潤奈さん
芸能事務所社長、モデル、ユーチューバーなど多彩な顔を持つ
ネット上のひぼう中傷をなくすための発信を続けている

関屋 裕希さん
心理学者
メンタルヘルスの専門家として、社会人を中心に幅広い世代にカウンセリングを行う
東京大学大学院客員研究員・臨床心理士

スタジオトーク 収録は2時間超!
今回は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、お互いに距離を取り、アクリル板で仕切られたスタジオでの収録でした。「お互いの声が聞こえづらい?」と心配するスタッフをよそに、トークは大盛り上がり。収録は2時間以上に及びました。

アクリル板の使用など感染拡大防止対策をした上で収録


今後このページでは番組でお伝えする内容以外にも、30分に収まらなかったトークやインタビューなどを紹介していきます。

#誹謗中傷をなくそう
指先一つで誰もが簡単に人を傷つけることができる時代。
ひぼう中傷の被害を防ぐための具体的な方法を考えていきたいと思います。

――もしあなたや家族がひぼう中傷を受けたら、どう身を守りますか?
――世の中からひぼう中傷をなくすために、何が必要だと思いますか?


あなたの思いや考えをこのページへのコメントや #誹謗中傷をなくそうでツイートしてください。
みなさんから寄せられた「声」は取材チームが一つ一つ目を通します。


「フェイク・バスターズ」
 8月20日(木)夜10:00~10:30(総合テレビ)

※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。