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2020年10月14日

それでも夜は明ける ~対談・宮田裕章さん×石井光太さん<後編>~

9月30日放送の「“夜の街”と呼ばれて ~新宿 歌舞伎町~」を見た石井さんと宮田さんによる対談企画。前編では居場所を求めて集まる夜の街で働く人たちの苦境、現在のホストクラブが抱える負の側面、コロナ禍で絶たれた人のつながりなどが話し合われ、一面的には語れない歌舞伎町の姿が見えてきました。後編では現在の難局を乗り越えるための街ぐるみの取り組みや、これからの支えあいの在り方、さらにドキュメンタリーの役割にも話は及びました。

(対談取材:今氏源太)

新宿区とホストクラブの対話
宮田:歌舞伎町のある新宿区では、経済と感染予防を両立するための模索が街ぐるみで行われています。今回の番組でも新宿区長とホストクラブの経営者たちが話し合う場面がありましたが、良いシーンでした。



石井:新宿区長が本当に素晴らしいと思ったのは、行政として自分たちの政策だけを押し付けるのではなくて、相手の立場に立つことができたのではないかなと思いますね。

宮田:対話の場でしたよね。まず経営者という社会と接点を持たなければいけない人たちに対策への理解を得る。そうすると経営者が大切にしていることは従業員のホストたちにとっても大切なことですから対策が広がっていく。つながりを作りながら前向きに感染対策を行ったと思います。

石井:テレビだと区長の後ろにいた人とか画面には出てこないような、保健所の担当者や現場の方々ですよね。そういった人たちがお店ときちんと話をしたり、クラスターが起きたときにもきちんと対応したというのがとても大きかったんだと思います。



宮田:私は感染実態の調査や政策的な取り組みを行ってきましたが、接待を伴う飲食店もそうじゃないところも対策をやっていればかなり感染は下がるんですよね。飲食が悪いとか夜の街そのものが悪いというわけではなくて、まずはきちんとみんなで基本をやりましょう、と伝えてきました。最近まで新宿区全体が悪者という印象もあり、行政は焦っていたんでしょうね。今のところですけれども現在の小康状態まで持っていったのは彼らの尽力によるところがあります。

大切な人を守りたい気持ちは共通する
石井:ホストクラブの感染対策でいうとオーナークラスの人は本当に考えていますね。いろいろなホストクラブから話を聞いたなかですごく印象的だったのが「自分たちにとって社会からの批判はどうでもいい。守らなければいけないのはお店を信頼して来てくれるお客さんだ」という言葉です。彼らは10代の時から表の社会で生きることを捨てて歌舞伎町に来て、ずっと刹那的な存在として闇の深淵(しんえん)も知りながら20年30年と生きてきた。今さら社会に支援を求めるつもりなんてないし、社会からいくら嫌われても構わないという覚悟はある。ただし、そんな自分たちを信頼し、応援してくれているお客さんだけは守りたいって言うんです。夜の街でのつながりで生きているからこそ、そこで信頼を失ったら自らの存在価値自体もなくなってしまうんですよね。



石井:実はそのオーナーの店でクラスターが発生してしまったんですが、保健所からはひぼう中傷される恐れがあるので公表する必要はないと言われているのに、真っ先にホームページで公表したんですよね。なんですぐに公表したの?と聞くと、営業再開後に来てくれた100名以上のお客さんには連絡がついて事情を説明できたんだけど、3名のお客さんとだけは連絡がとれなかったからだと。その人たちに迷惑かけてしまったら2度と来てくれないし信頼を失ってしまうからだというんです。一般的な飲食店から考えればやりすぎなくらいにも思えますよね。

宮田:番組で取り上げたホストたちも一生懸命マスクつけて感染対策をしていました。その努力は絶対に無駄ではないですね。

石井:確かに僕たちと夜の街には大きな隔たりはあるんだけれども、大切な人に感染させたくないとか、危険にさらしたくないという気持ちは一緒じゃないですか。その点では完全にイコールになると思うんです。僕たちが考えなければいけないのは、全然違うところで生きているとしても、必ずどこかで一致するところがあるということです。違うところを探して批判するのではなく、一致するところがひとつでもあればそこで一緒に何かをやっていくという考え方が大切なのだと思います。

宮田:お互いに何を大事にするのかということを理解して、相手が大切にするものを一緒に大切にするということですね。

お金が必要、だけではない
宮田:私がもうひとつ番組で印象に残っているのはシングルマザーの女性です。シングルマザーの貧困率というのは日本では非常に高くて、平均的な家族モデルからこぼれ落ちてしまったときに急に生活が立ちいかなくなってしまう、今の日本の課題を象徴していると思いました。

石井:そうですね。いろいろな理由で育児困難になった女性たちを取材したことがあるんですけど、共通していたのは困難な状況になったときに真っ先に男が逃げてしまうんです。すると就労に不利な条件を持っている女性だけでは、子供を支えられなくなってしまいます。

宮田:普通の職で稼ぐことがなかなか難しい場合、夜の街がどうしても選択肢に入ってくる。それは歌舞伎町だけの問題ではなく社会という視点で見ても、風俗産業で働くことを前提にしないと生きていけない人たちがいるということですね。



石井:こうした女性をどう支援するかと考えたときに金銭的なサポートさえあればいいのかというとそれだけではないと思います。実は一部には生活保護をもらいながら風俗で働く女性もいるんです。彼女たちは「お金もほしいけど、それ以上に自分が必要とされる場がほしいから働いているんだ」と言います。ただ家に居続けるよりキャバクラでもスナックでも風俗でもいいから働いて、自分が輝ける場所が必要なんです。その気持ちはすごくわかります。

宮田:そうですね。日本の今の生活保護制度には、単に命を失わないというだけで支えている側面があります。そこから出ようとすると今度はお金を借りることが難しくなるなど、制度から抜けづらい仕組みになっています。



石井:一次的な緊急支援、つまり「命を助ける支援」というのはずっと足りないといわれてきましたが、貧困者支援、虐待防止などを支えるネットワークはかなり増えてきています。現に、ホームレスの数、自殺者の数、少年事件の数なんかは減少している。十分とは言いませんが、支援の環境は少しずつ整ってきている。しかし次のステップとなる二次的な自立支援、つまり命を助けた後に、「その人たちが社会で活躍できるようにする支援」はまだまだです。命を助けても、その人たちが社会に居場所を見つけられなければ、生殺しにしているのと同じです。再犯の問題、貧困の世代間連鎖の問題も同じ。社会的に弱い立場の人を社会に結びつけることがうまくいっていないことを意味します。個人的には、一次的な緊急支援だけでなく、二次的な自立支援の充実が必要になっているように思います。これからの時代、支援のベクトルをどこに向けるのか、2020年以降の支援のステージを考えていく必要があると思います。

宮田:“命を消さない”という目標だけではなくて“命輝く”を目指すということですね。一人ひとり輝けるようにどうするかっていったところまで含めた社会や支援の支え方を考えていかないと、負のスパイラルを止められないですね。まさにSDGsも“命を消さない”というところから始まった目標ですが、次のステップでは1人ひとりが輝くという視点が必要になるでしょう。1人ひとりが豊かに生きるということを支える中で、だれも取り残さないという世界の実現に近づくことができると考えています。

辛い過去も、その人らしさ
石井:社会からドロップアウトした経験や過去の傷も含めて生きていくための仕組みが大切です。一時代前は建設や料理などの職人の仕事が「更生の場」としての意味合いを持っていました。職人の世界には、ある種の不良気質みたいなものがあったりします。親方を筆頭にしたひとつの軍団みたいな組織があって、親方は「べらんめえ」口調だけど、手に職を持って富と名声を勝ち得ているので魅力がある、とか。そこに若い人たちが憧れを持ってついていく。元不良みたいな人たちからすれば、それまでの人生と同じようなスタイルで正業に就いて輝くことができる。でも、今はそういう空気が社会から減ってしまっています。料理店なんて全自動化されて、セントラルキッチンでつくったものをレンジでチンして提供するみたいな。服装も言葉遣いもすべてマニュアル化されている。手に職なんてつかないし、雇用形態だって悪いまま。つまり、それ以前の生き方のままでは、正業に就いて社会で活躍しにくいんです。自己肯定感という言葉はあんまり好きじゃないんですが、やはり自尊心を保てる仕組みが非常に失われてしまっていると思いますね。



石井:ただ、そんな中でも、過去の経験や傷を生かして輝いている人はたくさんいます。僕の知り合いの女性は、虐待や弟からの性被害の経験があり、その後風俗で働くようになって心を病んで自殺寸前までいきました。でも、30代後半になって保育園で働き始めて人生が変わるんです。仕事の何が生きがいになったかというと、虐待された子供のことが理解できるというんですね。自分にもその経験があるからです。

宮田:自分の経験をバネにする人は大学の研究者にもたくさんいます。

石井:いますよね。不登校だったからその経験を活かすために教師になる人もいるし、体が弱く入退院をくり返していたから看護師になったとか。つまり自分にとってマイナスの部分でも社会に出たときにそれを生かせる。それはやはり人間の強さだと思います。僕はこれを「当事者パワー」と呼んでいるんですけど、失敗したとか不幸な生い立ちがあったとかそういうことも含めてそれを生かせるような社会を目指していかないといけないと思います。

現場で感じた葛藤も撮れ
(番組ディレクター 菊地 啓) 実は私自身、かつて歌舞伎町で4年ぐらい働いていたことがありまして。

宮田:そうだったんですか。

菊地 啓ディレクター

菊地:はい。思い入れの強い街です。今回取材した方々は、歌舞伎町とあまり関わりのない人たちが自分たちのことを好き勝手に語っていることに傷ついたり、怒ったりしていました。ただ、現場でホストクラブが必要だと訴えるホストたちやお客さんの声を聞いて、彼らに共感しながらも、一方で先ほど(前編で)話されていたホストクラブの負の側面や業の深さというのも知って、それでもホストが必要なのかと、答えのない問いに悶々(もんもん)とするところがありました。コロナ禍でいやおうなくこうしたことが問われ始めてると感じています。

宮田:コロナとデジタル化というふたつのうねりによって、今全ての職種が問われているんですよ。その仕組みって要りますか?その会社って要りますか?その仕事って要りますか?そこから問いを立て直していかないと次の社会では生き残れないという、結構厳しい波がまさに来ています。

石井:東日本大震災もそうだったと思うんですけど、時代が変わる時は考えても簡単に出ない答えを、それでも探し続けるしかない。ひとつひとつ自分なりの答えを見つけて、その中で生きていくしかない。それしか方法はないと思います。

菊地:今の僕にできることは現場で生きている人の姿を素直に伝えていくしかないなと思って今回取材をしました。

石井:メディアの仕事というのはそういうものだと思います。今回取り上げた夜の街がまさにそうですが、現実ってものすごく複雑で多面的なものなんです。しっかりと現実と向き合ったら、答えなんて簡単に出るはずがないんですよ。現実の前で懊悩(おうのう)することこそが、答えを出すより、はるかにリアルに迫れるということがある。だからこそ、オールVTRにするときは、もっとディレクターが一人称で内面を語るということが僕は必要だと思います。現場で直面した矛盾や答えの出ない苦悩をそのまま提示して放送する。これが問題提起となり、様々な議論を呼び起こすことできれば、社会を変えていくことにつながるんじゃないでしょうか。

宮田:NHKとして中立で客観的なものを撮ってきたというより、ひとりの人間として現地を見てきたという方が面白い部分もありますよね。主観をあえて持ちこみ、葛藤にあがきながら中に入って映したものは考えさせられますよね。



石井:そうですよね、スタジオの専門家がこうですと言うよりも、そのVTRの方が深かったりしますからね。夜の街には独特な魅力がありますよね。菊地さんには取材者として、どんどんその沼にはまっていただきたいと思います(笑)

宮田:ありがとうございました。

それでも夜は明ける ~対談・宮田裕章さん×石井光太さん~前編は こちら
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0015/topic010.html

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