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2020年10月10日

それでも夜は明ける ~対談・宮田裕章さん×石井光太さん<前編>~

新型コロナの流行に伴い、政府や自治体が警戒を呼びかけ続けたのが、いわゆる”夜の街”と呼ばれる歓楽街。世間からの風当たりは強まり、客足は激減し、今も先の見えない苦境に立たされています。9月30日放送の「“夜の街”と呼ばれて ~新宿 歌舞伎町~」では老舗ホストクラブや風俗店で働く女性らの生きる姿を1か月に及ぶ密着ドキュメントで追い、放送後多くの反響が寄せられました。今回は長年にわたって歌舞伎町の取材を続ける作家・石井光太さんと宮田さんによる対談を実施。番組の感想に始まり、ホストビジネスの光と影、メディアの役割、さらにこの難局を乗り越えるためには何が必要なのかー。白熱した2人の対話を前後編でお届けします。

(対談取材:今氏源太)


「ホストってなくなると思う?」
宮田:まず番組をご覧になって石井さんはどう思われましたか?

石井:今回の番組は歌舞伎町で働く人たちが助け合いの中で頑張って生きる姿を描きましたが、それがある種の疑問を投げかけたのではないかと思います。本人たちが一生懸命生きていて、それが正しいとか間違いとかではない。でも世間からの風当たりなど、直面する課題はある。これからどうしていけばいいのかを問うような形で番組が終わるじゃないですか。見た人それぞれが多分考えるだろうし、それがホストクラブや水商売、あるいは社会をどう変えていくのかという議論につながっていくと思うんですよね。もし僕たちがスタジオ出演するとああですねこうですねと言ってある種の結論づけをしてしまう部分があるんです。VTRだけの構成にすることで疑問を投げかけるだけにすることができますし、それがVTRだけでしかできないことじゃないかと思いますね。
もうちょっと放送時期が早い方が良かったのかなと思うんですけれども。

宮田:夜の街と言われ、感染拡大の中心とされた報道が一段落したあとですからね。

石井:夜の街へのバッシングが強かった時期から2か月ぐらい経っていますからね。その時だったらもっと意味があったと思うんですけれども。

宮田:石井さんにとって印象的なシーンはありましたか?

石井:そうですね。ヘアメイクの女性のシーンはいろいろなものを象徴していたと思います


ホスト・渦巻レオンさんのヘアセットをするシーン
ヘアメイク女性「ホストってなくなると思う?」
渦巻さん「なくならないと思うよ、俺は。だってオアシスだもん、ホストって」

石井:まず、あのノリじゃないとホストなんてできっこないんですよ。あの軽いノリをお客さんは欲するんですよね。仕事帰りのお客さんに「じゃあ飲もうぜ」「難しいことはもういいじゃん」って。何も考えないで楽しむっていう、もの凄く刹那的な男と女がいる密室という空間がホストクラブの一番の醍醐(だいご)味なんです。逆にそうでなければホストクラブじゃないんですよね。
元々夜の街自体、居場所のない人たちがどうしても集まってきやすいんです。例えば家庭環境が非常に悪い中で育って18~19歳で東京に出てきて。そういった人からするとホストクラブで働くことで、一般的な雇用ではかなわない、お金を持てるチャンスがつかめます。ある種の弱者の居場所という見方があり、今回はそこにスポットを当てて実際にホストの言葉とかお客さんの言葉を受け止めた印象がありました。

女性に重い金銭負荷をかけるホストたち
石井:ただし夜の街というのはそれだけではなくて、ホストクラブのシステムというのは非常に残酷な面もあるんです。

宮田:石井さんはホストクラブの歴史を紐解いた著書を新たに出版するなど、歌舞伎町の背景について非常に造詣が深いですね。この点、詳しくお聞かせください。



石井:例えば昔のホストクラブだとお酒の値段というのは一般的な居酒屋の3倍くらいでした。それが今は10倍くらいに跳ね上がっているんですよ。普通に遊べば一晩で10 万円以上あっという間にいってしまいます。例えば、昔からホストクラブのお客さんの主な客は風俗で働く女性が多いですが、今の時代の風俗っていうのは全然稼げないんですよ。20年くらい前は、デリバリーヘルスとかファッションヘルスで働いていれば、頑張れば月収100万弱くらいはいきました。

宮田:昔はブランド品をたくさん身に着けていましたよね。確かに今の夜の街で働く女性たちにはそんな印象はありませんね。

石井:人にもよりますが、今では月収20~30万の子も珍しくありません。昔からすると稼ぎが3分の1とか4分の1くらいになっていて、30~40代の人だと生活するのがやっとということもあります。こういう女性たちは育った家庭環境など様々な理由から社会に居場所が作れず、今も安心できる家庭がなかったり、仕事の話ができるような友だちがいない人も少なくないです。1日中働いて疲れやストレスがたまってしまうぎりぎりのなかで、どうやって発散するかといえばホストクラブで大騒ぎしたり自分がお姫様の状態になってスカっとして、それで翌日また風俗で働いていけるというようなことなんですよ。ある種の麻薬のように散財してうっぷんを晴らせるから風俗業界で仕事をつづけられるという方々がいるんですよね。
ただそこでホストは女性たちに、ひと昔前と比べると何倍もの負荷をかけて、さらにアフターに連れて行っておごらせることもあります。今のホスト業界の構造はとにかく女性をつぶしてしまうほどの負荷をかけていると、ホストクラブのオーナーたちは言うんです。昔だったら1人の女性が来たら少なくとも何年間かは通えるくらいにして、そんなにとらなかったんですよね。

宮田:営業負荷をものすごくかけるということですね。

ホストバブルの影で・・広がる潜在的な歪み
石井:なぜそうなっているかというと、実はコロナ前のときには日本の歴史上1番のホストバブルだったんです。20年前は歌舞伎町に100軒弱ホストクラブがあったんですけれども今ではネットに載っているだけで約240軒以上です。

宮田:そんなにあるんですか!?


石井さんは長年にわたり歌舞伎町の取材を続け、
ホストクラブの歴史をまとめた新刊を先月発表した。

石井:歌舞伎町のホスト街ってわずか300メートル× 300メートルくらいの狭いエリアですからね。そこにとにかくホストクラブが溢れかえっている。店は少しでも人気ホストがほしいですから、多額の支度金を出して引き抜きをし合っている状態です。一方で、女性のお客さんの数はそんなに大きく増えてなく、特に風俗で働く女性はあまり稼げていないですから、1人あたりに負荷をかけるしかないんですね。

宮田:なるほど。例えるならガチャ課金を軸にしたモバイルゲームにも近いかもしれないですね。最初は無料で遊べますといって裾野を広げたあとに、より熱中する数%の人が毎月大金を課金することで売り上げを稼いでいます。一部の人からまとまって稼ぐ構造になっているんです。



石井:そうですね。あるいはアイドル商法と同じなんですよ。テレビで見て興味をもったファンを取り込んで、CD、握手券、グッズ、ファンクラブ会員費、ツアーなど様々なものを売り込む。 ただ大きく違うのは、アイドルの場合はファンの人数の母数が違うので1人から取るお金はそんなに多くなくていいんですよね。

宮田:番組ではホストがお客さんをとにかく楽しませる、まさに笑顔を売るさまが印象的でした。その一方で本人たちはきれいなところしか実は見ていないという側面もあるわけですよね。歌舞伎町のど真ん中にいるようで暗部の部分を見ないで働いているような人たちもいるわけですね。

石井:いますね。ホストたちが「俺たちはオアシスだ」と言っている気持ちもわかるんですよ。見えない構造ができてしまっているし、女性たちがホストを必要としているので。



宮田:女性たちのニーズがあり、ホスト本人たちにも悪意がないからといってシステム全体が正当化されるわけではないという、ここは独立して考える必要があるんでしょうね。

石井:お客さんの女性たちはずっとつらい境遇の中で生まれ育っている人も少なくないので、自分たちはこれで幸福なんだと言いますよ。だけどやはりその子たちの10年後20年後30年後を考えたときに、社会全体として本当にいいのか。その女性たちにとって果たして本当にいい場所なのかって言われたらそうではないかもしれないですよね。

宮田:印象的なシーンの話に戻りますが、ヘアメイクの女性が「ホストってなくなると思う?」と問いかけたときにホストの男性は「なくならないと思う」と言っていましたが、それに対して女性は返事をしませんでした。多分この女性はホストクラブのお金のシステム全体のこととか、どれくらいの女性が不幸になっているかとかを知っているのでは思いました。それらを含めて考えると少なくとも今のままじゃいけないっていうことを多分感じているのだろうなと私は受け取りました。

人のつながりが断たれたときに
宮田:このコロナ禍において、夜の街の方々から石井さんはどんなお話を聞かれてきたのでしょうか?

石井:いろいろな方を取材しましたけれども、ギリギリの綱渡り状態で生きてきている人が思っていたよりもはるかに多いという印象を強く感じました。今までギリギリの綱渡りをしている人たちばっかり追いかけてきたつもりですが、さらにこんなにいるのかと。



宮田:経済が止まった瞬間に生活の危機に直面した人が急に出てきたということですか?

石井:経済というよりも「人のつながり」でした。例えばある風俗店で働く女性の話ですが、店から大切に扱われて、男性客からは「かわいい」「癒される」とチヤホヤされていた。歌舞伎町こそが自分が輝ける場所だと思っていた。それなのに、コロナ禍で店から「寮を閉めるから出て行け」と言われて追い出され、ホームレスになってしまったんです。仕方なく、いつも優しくしてくれていた内勤の男性や、男性客にSNSで助けを求めた。そしたら、全員から「タダでセックスさせないと泊めない」と冷たく言われた。今までは男性客の方から「おごるからプライベートで会おうよ」と言われていたのに、弱い立場になった瞬間に一気に足元を見られて搾取される存在になった。彼女はショックで手首を切ってしまいました。もともと風俗という一種の虚飾の世界でなんとか生きていたのに、コロナでそれが揺らいだ瞬間に人と人とのつながりが急変してしまう。厳しすぎるリアルを突きつけられてしまう。それで、元気だった女性がわずか数日で自殺未遂をしてしまうまでになった。こういう子を見ていると、人間とはこんなにも脆く壊れてしまうのかというのは感じましたね。

宮田:番組でも、出てくる人々はお金よりも生きる場所が必要だと語っていましたよね。実家に帰るとか、行政の支援とか、お金は最終的にはいろいろな手段で何とかなる 。ただ人とのつながりの中で生きている点が失われることを皆さん恐れています。

石井:そうなんです。システムの話とはある意味逆説的なんですけれども、彼女たち彼らにとって実はお金っていうのは二の次でそれよりもやっぱり人なんですよ。風俗やホストクラブといった空間がつくりだす関係性の中で、彼らは生きている。それなのに、コロナ禍でその空間に亀裂が生じると、関係性が急に変わってしまう。先ほどの風俗の女性であれば、いきなり周りの全員から食い物にされてしまう。その時に自分が虚構の中で生きてきたということを初めて知るわけです。その絶望たるやすごいですよ。夜の街はこれほどまでに、人と人とのつながりがあるようでないのか、というのはやっぱり感じてしまいます。

「一瞬の輝き」の先を問う
宮田:長い目で見たときのサスティナビリティ、長期的な幸福とは矛盾している部分がありますね。今回の番組でもホストたちが今この瞬間を楽しむ、一瞬の輝きを追い求めるような姿があるんですけれども、果たしてそれだけでいいのだろうかということにもつながってくるんですね。

石井:そうなんです。少なくとも今を生きるという意味では彼ら彼女らには必要な場所ではありますが。

宮田:ただし一時的な拠り所だとして、それがある種の依存による快楽とは違わないのかという問いは常に必要だということですよね。



石井:ホストクラブに来る女性たちが長い目で見て損をしない仕組みがどうやったらできるだろうかということを考えていかないといけないと思います。料金面一つとっても、普通の居酒屋の2倍~3倍くらいであれば女性一人の負荷も減ります。そうすれば、ホストクラブしか息抜きの場がない女性が一晩で生活を破綻させられるような料金を払わなければならなくなることは減ります。もちろん、それ以外にも指名制度やアフターの習慣など様々なものを変えていく必要はありますが、構造自体を変えていくオーナーやお店が出てきて、そこの人気が出てみんなが追従しながら徐々に変わっていくということに期待するしかないかなと思います。

宮田:そのお客さんが笑顔で居続けられるための支えとしてのホストクラブみたいな形になって広く認められるようになれば業態そのものが革新されていきますよね。

石井:今回の番組では歌舞伎町のお金の仕組みは描かないで構成されていました。それはそれでひとつの方法だとは思うんですけど、夜の街とは何かといった議論を正当にするためには、やはりホストクラブの持つ負の側面にも目を向けないといけないと思いますね。

宮田:コロナ禍で人々が夜の街と呼び続けた場所、そこが単なる感染リスクの高い場所ということではなくて、一人ひとりの人生があり、様々な人たちが肩を寄せて生きているわけですよね。風当たりが強いなかで見えづらくなってしまったこの分断とどう向き合うか。完全にフラットな目線というのはないのですが、フラットに見えるように努力しながら問題を投げかけたところが今回の番組のひとつの意義だったんじゃないかなと思います。

(後編では、現在の難局を乗り越えるための取り組みや、支援の在り方、さらにドキュメンタリーの役割について、更に深い対話をお届けします。)

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