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みんなでプラス > 宮田裕章さんと考える データとわたしたちの社会 > 「VR爆心地」に浮かんだヒロシマの日常
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2020年8月22日
「VR爆心地」に浮かんだヒロシマの日常
 7月29日に放送したクローズアップ現代+「戦後75年 吉永小百合 戦争を語り継ぐ」の放送1か月前の打合せで、出演者の宮田さんから番組の根幹に関わる指摘を受けました。

慶應義塾大学 宮田裕章教授
「“われわれは戦争をいかに語り継いでいくべきか?”というけれど、“戦争は語り継ぐべきものである”ことを前提としてしまっていて、それでは若い世代の視聴者の心には響かないのではないか。外部から強制されるのではなく、“戦争についてもっと知りたい、伝えたい”という内なる動機に基づいた“学び”なくしては、戦争はますます語り継がれないものとなってしまうのではないか?」

 戦後75年のいま、親だけでなく祖父母の世代も戦後生まれで、生々しい戦争体験にふれる機会が乏しい “第4世代”と呼ばれる層が年々増えています。こうした世代の若者たちは戦争をどうとらえ、今後どう語り継いでいくのか…。宮田さんからの“宿題”を胸に、私たちが取材したのが、広島県立福山工業高校です。VR技術を使った“学び”を通して戦争体験の継承を行うというユニークな取り組みがいま、世界的にも高く評価されています。彼らの活動を取材しました。

(番組ディレクター 上田ひかり)


精緻に組み上げられた“かつての広島の日常”


 広島県立福山工業高校の計算技術研究部。主にVR映像の製作を中心に活動するというこの部活動では、部員たちがみずから、最新のVR技術を用いて、原子爆弾が落とされる前の広島の町並みを忠実に再現しています。プロジェクト名は「VR爆心地」。ゴーグルをつけると、視界いっぱいに昔の広島市の風景が広がりました。



 CG(コンピューター・グラフィックス)技術を使って3D空間に建物を1から描き起こし、プログラミング技術でより細かく作り込んでいきます。金属のでこぼことした質感や、年月を経てあせた看板の色なども想像しながら付け足すという繊細さ。何人かで1つの建物を競争で製作し、最も丁寧に作られているものが町並みに採用されるため、生徒たちはCG作りに真剣に取り組み、切磋琢磨(せっさたくま)し合っています。
 VR作りで大切にしているのが「生活感」。原爆が投下される直前まで営まれていた、当時の普段の暮らしをリアルに想像できるよう、手触り感のあるCGをそこかしこに組み込んでいます。

 例えばこちら。「街の巡査が自転車の盗難が相次いだことから、建物の影からこっそり見張っていて犯人を摘発していた」という逸話に基づき、自転車がおかれた場所まで忠実に再現しています。



 こちらは町を流れる元安川の水中から見上げた様子。VRで川に向かって歩いていくと水の中に入ることができるのです。奥にうっすらと見える窓のついた建物が現在の原爆ドーム。一体なぜこんな細かいところまで?



 実は当時この川では子どもたちはボート遊びやエビとり、魚釣りをして遊んでいたそうです。「その頃は元安川の水は今よりもずっと澄んでいて、潜っても遠くまで見渡せた」という元住民の証言が強く印象に残り、「澄んだ川の水も再現しよう!」というアイデアが生まれたのです。これも、当時の子どもたちが見ていたであろう“日常の光景”です。

よみがえった原爆ドームの元の姿


 最も生徒たちが力を入れた建物が、現在の原爆ドームである広島県産業奨励館。完成するまで、5か月を要したというこだわりです。
 まず設計図をもとに、3か月かけて正確な形を作り上げていきました。全体が3階建てで、真ん中の部分だけ5階まであり、テラスが備え付けられていたという、広島市内でも傑出したモダンな建物。図面だけでわからない見た目は、当時の絵葉書なども参考にしました。



 CGは「ポリゴン」と呼ばれる、細かな平面の貼り合わせで構成されています。広島県産業奨励館は、外見だけで7万5000枚、内部も含めると13万枚にのぼるポリゴンを組み上げました。これらを1枚1枚、位置を微調整し、色づけを行い、VRが快適に動くように不必要なデータを取り除く「間引き」を行う…。バランス感覚の求められる、緻密で膨大な作業が続きました。これを、先輩が後輩に技術を伝えながら、高校生だけで行っているというのが驚きです。



 内部の細かな構造を作り込む上で欠かせなかったのが、元住民の証言です。建物に入ると2つのらせん状の階段が1階から3階までをつないでいて、その手すりでは近所の子供たちがよく遊んでいたそうです。また2階から先は、一般人は立ち入り禁止で、軍の関係者だけが入ることができたといいます。父親がこの建物に勤めていたという女性は、階段を全部上り切った先にあるテラスで、父の仕事の終わるのを待ちながら、よく夕涼みをしていた、テラスへと続く階段部分がとても狭く、人が1人通るのがやっとだった、という思い出を語ってくれました。生徒たちはこうした生活実感も、可能な限りCGの作り込みに取り入れていきました。



 現在このVRは、センサーの稼働範囲である、教室の中の広さ程度しか歩きまわることができません。今後さらに高性能のシステムへの移植を行い、体育館程度の広さを実際に歩き回れるようにする計画だといいます。
 また、新たな資料が見つかったり、証言が得られると、現在ある建物を1から作り直し、かつての町並みにさらに近づける努力も続けています。広島県産業奨励館も、すでに5回程度のリメイクを経ていると言います。現在も、修復作業、調整作業は続いているそうで、町並み再現への情熱は尽きることがありません。

テクノロジーが支える「自発的な学び」


 生徒たちはパソコンに向かってCGを作るだけではありません。調査活動は緻密で多岐にわたります。たとえば地形の調査。当時と現在では橋の位置が異なっていたり、埋め立てや護岸工事を経て川沿いの地形が変わっていたりと、昔と今を単純に比較することが難しくなっています。そのため、当時の航空写真といまの航空写真、聞き取りで得た昔の地図を何回も見比べ、さらに実際に現地で測量も行いながら、道の幅や長さ、建物の大きさなどを調整していきます。VR映像はパソコンで起こしたものと実際に人間の目で見たもの微妙なズレが大きな違和感となってしまうため、こうした補正が重要だそうです。

 さらに、被爆体験者の手記を全てパソコンに打ち込み、当時の電話帳のデータも手分けして入力。後輩たちが将来さらにVRの町並みを充実させ、当時の町についてより深く学ぶための手がかりを、共有するための作業です。

 「原爆投下前の広島の町について、相当詳しくなりました」と胸を張る生徒たち。しかし実は、入部当初、生徒のほとんどが原爆投下の日時さえ知らなかったと言います。大半の入部希望理由は「学校公開で体験したVRのデモがおもしろかったから」というものです。


2年生・臼井 和海くん 祖父母も60代で身近な人から戦争体験を聞く機会がなかった

 しかし、このプロジェクトに関わっている中で少しずつ意識が変わっていったと語ります。2年生の臼井くんは「戦争というと、原爆というイメージが強かった。しかし、町作りに関わる中で、広島市に住んでいたひとがこれだけ亡くなった、生活が失われたということを実感でき、考え方も変わった」と言います。



 どうして生徒たちは活動にのめり込んだのか。顧問の長谷川勝志さんは「自分なりのこだわりを持ってVR作りと向き合うことで、先輩たちから受け継がれてきた思いにも触れ、やがて能動的に取り組んでいくようになる。つまり小さな継承活動が毎日行われているんです」と言います。自分なりのこだわりを持つことで、自分だけの疑問や気になることが生まれ、さらに知りたくなるという好循環が生まれているのです。


「ボート遊びとかされたんですか?」生徒の問いかけに当時の思い出を語る濱井徳三さん

 元住民の思い出を聞き、質問をする生徒たちは自然で、誰かに強いられて戦争を学習するような雰囲気がありません。実際に昔遊んだ場所で生徒たちに思い出を語る元住民の表情は明るく、次から次へと思い出が湧き出てくるようです。


「国民学校で1番賢かった」という濱井さんの逸話に生徒からも笑みがこぼれる

 「戦争を知らない若者」というフレーズは使い古されていますが、実際には、戦後生まれは誰もが、本当には戦争を知りません。しかし、この部活動に参加する生徒たちは元住民の思い出に出てくる建物も正確に理解しています。曲がり角の位置を示したり、建物の裏の抜け道を尋ねたり、2畳の狭い店の位置までも把握しています。まるで昔から住んでいる町の話をお互いに確認し合っているようです。生徒たちが自分のふるさとの町並みに愛着を持ってくれていることで元住民はどんどん嬉しそうに、楽しそうに思い出を語り、打てば響くような反応が生徒から返ってきます。自分の意志と興味で戦争体験を学ぶとはこういうことなのか…と、私は取材の中で一番の衝撃を受けました。

 高校を卒業すると、生徒たちはコンピューターなどの技術を生かせる職場に就職したり、またCGクリエイターを目指して進学する生徒もいるといいます。「テクノロジーが学びを支え、社会課題を解決する」ことを肌身で感じ学んできた生徒たちの、これからの活躍にもぜひ期待したいと思いました。

宮田さんが考える「テクノロジーと学び」
データやテクノロジーは時に手触り感のない単なる情報という印象をイメージしますが、宮田さんは “記憶の継承”にも貢献できると、大きな可能性を感じているといいます。

慶應義塾大学 宮田裕章教授
「これまでも人類は、戦争や災害から学んだ記憶をいかに風化させないかということに取り組んできました。古くは石碑に刻んだり、物語を語り継いだり、そして映像に残したり、といった形です。そうした中で新しいテクノロジーがその媒体となることは、歴史の経緯を踏まえてもとても自然だと思います。VRを通じて、かつての日常を再現することにより、日常を壊すという戦争の悲惨さを実感し、その体験を共有することができます。他者が大事にするものを、一緒に大事にするということは、社会を創るうえでも大切な視点です。そうした点からもVRは現実のような臨場感を持って、過去や立場の違う人達とつながり、思いを共有するという点で大きな可能性があると思いました。またこうした取り組みを通じて、福山工業高校の皆さんが、『戦争のことを知ることが、未来にどうつながるのか?』『平和の理解を深めることで、今を生きる私たちがどう豊かになるのか?』ということを自分たちの言葉で紡いでいくことに、新しい可能性と未来への希望を感じます。VRに込められた広島県立福山工業高校の皆さんの情熱と完成度の高さに、改めて敬意を表したいと思います。」
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