クローズアップ現代トップ > みんなでプラス > 宮田裕章さんと考える データとわたしたちの社会 > 主婦の日常は・・家事、子育て、アプリ開発!? ~“協働”のシビックテック~
クロ現+
2020年8月1日

主婦の日常は・・家事、子育て、アプリ開発!? ~“協働”のシビックテック~

市民自らがデータを武器に新たなサービスを作る“シビックテック”。新型コロナウイルスからわたしたちの暮らしを守る新たな取り組みとして注目されていますが、その主役はプログラマーやITエンジニアなど技術者だけではありません。主婦や学生、高齢者など、IT技術にまったく詳しくなくても、自らが持つ問題意識や能力を地域の問題解決に生かすことができるのがシビックテックの大きな特徴です。
 宮田さんは「シビックテックに参加するには一定以上の技術がないと難しいと思われがちですが、そんなことはありません。大切なのは技術ではなく、地域の課題やニーズをどう解決していきたいかという1人1人の気持ちだと私は思います。身近になりつつあるIT技術を使って、シビックテックという形で個人が社会と関わっていくことは、これからの豊かな生き方を実現するうえでの1つの選択肢になっていきます」と話しています。
 さまざまな立場の人による“協働”が、今後の持続可能なシビックテックの在り方を示そうとしています。
(報道局ネットワーク報道部 斉藤直哉)

アプリ開発者を訪ねてみたら
 新型コロナウイルスへの対策としてシビックテックによって数多くのサービスが生み出されています。外出自粛のなかで活路を見出そうと新たにテイクアウトを始める飲食店と市民をつなぐ「テイクアウトマップ」もその1つです。

 日本各地で同様のマップが開発されていますが、そのうちの1つ、千葉県流山市のテイクアウトマップは緊急事態宣言が発表されて間もない4月上旬にリリースされ、現在は市内におよそ500ある飲食店のうち150ほどの店舗が参加するなどして利用が広がっています。



 ほかの地域からも注目を集めているというこのアプリについて話を聞こうと、開発者の自宅を訪ねました。閑静な住宅地の1軒を訪ねると、アプリを開発した白澤美幸さんがお子さんとともに出迎えてくれました。



 白澤さんは小学4年生と6年生の子どもと夫の4人暮らしで、数年前に流山市に引っ越してきました。現在は実家の手伝いをする以外は主婦として子育てと家事に励んでいます。
 アプリを開発したきっかけの1つが、学校が休校になり、主婦として毎日の食事づくりの負担が増えたことだったといいます。



流山テイクアウトマップの開発者・白澤美幸さん
「子どもたちが1日中家にいて外出もできないので、朝・昼・晩すべての食事を作らなくてはいけなくなって、飽きないように毎日メニューを考えるのが大変で困っていました。そのときに知り合いから地域の飲食店が外出の自粛で経営が大変になっているって聞いて、それだったらお店の料理をテイクアウトで買いたいと思ったけれど、全然どこにお店があるか知らなかったので、私もその情報をアプリで簡単に知ることができたら便利だと思いました」

開発は子どもが寝たあとで
 白澤さんは以前IT関連の企業に勤めていましたが、営業の仕事だったためシステム開発やITの詳しい技術については知識や経験がまったくありませんでした。結婚して主婦になってからも、SNSやメールは普段から使っていますが、アプリやシステムを開発した経験はこれまでまったくなかったといいます。
 ただ、ボランティアなど地域に貢献したいという思いから以前からシビックテックに関心があり、関係するイベントを手伝うなどしていました。そのつながりから、ITの知識がなくても簡単にアプリ開発ができるツールを教えてもらい、みずから目の前の課題を解決しようと立ち上がりました。



 利用したのはオンラインのモバイルアプリ開発ツール。表計算ソフトでデータを加工するだけで簡単にモバイルアプリを作ることができるというもので、白澤さんは知り合いからネットで教えてもらいながら初めて利用しましたが、詳しい知識がなくても簡単に取り組むことができたといいます。実際にテイクアウトマップの開発にあたっても、プログラムを打ち込むような作業はなく、文字や画面のデザインをメニューから選んだり、表示させたい店舗の情報を入力したりするだけで、実際にサービスを提供できるまでのシステムが構築できたといいます。



流山テイクアウトマップの開発者・白澤美幸さん
「私はプログラムとか全然わからないけれど、画面のボタンを押すだけで開発できるツールだったので簡単にできました。日中は子どもが家にいたり家事をしたりで開発の時間はあまり取れず、子どもが食事をしている間とか、夜な夜なリビングでテレビを見ながらとかでパソコンに向き合っていました。集中して一生懸命作業したのは最初の2日くらいで、仲間とこのサービスを思い立ってから5日でリリースすることができました」

 開発を始めた4月はじめは新型コロナウイルスの影響で学校が休校になり、家族の毎日の食事の準備だけでなく、子どもたちが課された宿題をこなしているかをチェックしたり、分散登校の準備をしたりするなど、主婦として目まぐるしい毎日だったといいます。それでも白澤さんはリビングや食卓でノートパソコンを広げ、少しの空いた時間で作業にあたりました。



小学6年生の長男
「お母さんはご飯食べるのも忘れて作業に没頭していたり、ご飯食べたあともオンラインで打合せしていたりして辛そうにしていたときもあって、頑張ってって思っていました。お母さんが作ったアプリをたくさんの人が使っているのは自慢に思っています。」

非エンジニアが中心の開発チーム


 今回のテイクアウトマップのプロジェクトは白澤さんのほかに4人のメンバーが参加していて、一般の企業につとめていたり地元で英会話教室を開いたりしていたりと、いずれも専業のITエンジニアではありませんでした。
 白澤さんが中心となってアプリを開発する一方で、ほかのメンバーがSNSでアプリの宣伝をしたり、表示される店舗のデータを整えたりするなどの作業を分担したほか、アプリのデザインや使い勝手についてそれぞれ意見を出しながら改善を重ねていったといいます。



 新型コロナウイルスの影響で作業はすべてSNSを介したオンライン。記者が取材に訪れた6月中旬、いったん感染の拡大が収まったこともあり、チーム全員が初めてオフラインで顔を合わせました。5人で集まるのは初めてでしたが、それぞれが地域のイベントなどで知り合いだったりしていて、終始和やかな雰囲気で今後の展開などを話し合っていました。

チームメンバーの女性
「メンバーそれぞれが個別に地域の市民活動などに携わっていて、それで緩くつながっていました。みんながITをつくる側だと利用者の目線が抜けてしまうことがありますが、このチームの強みはサービスをつくる側と利用する側の両方の気持ちが分かるので、使いやすいアプリにできたと感じています。固定されたメンバーではないので、これからも参加したいという人がいたら自由に参加してもらいたい」

 アプリでは、テイクアウトを提供している飲食店の場所などの情報を一覧で表示していて、飲食店ごとのメニューなどのデータは飲食店側で簡単に編集できるようになっています。アプリのリリースにあわせて流山市や商工会議所が宣伝などをバックアップしたことで、いまでは多くの飲食店が参加していて、随時情報が更新されています。



テイクアウトマップに参加した飲食店の店主
「公開までのスピードや対応がすごく早かったですし、アプリを見て初めて訪れてくれたお客さんも結構いましたので、飲食店としてはとてもいいサービスだと思っています。やはり、普段から食べに来られていたりする市民の方の目線で作られているから使いやすいというか広がっているのかなと感じています」

空いた時間で社会貢献
 白澤さんはテイクアウトマップだけではなく、子どもたちの宿題や予定を把握できるスケジュール管理のアプリも開発し、市内で同じく子どもを持つ親たちに試験的に提供しています。今後もできる範囲で地域の課題解決に取り組みたいと話しています。



流山テイクアウトマップの開発者・白澤美幸さん
「シビックテックというとすごい技術を持つエンジニアさんがたくさん活躍されているけど、私がつくったような簡単な技術でも『これが欲しかったんだ』と地域の人がすごくありがたがってくれたので、エンジニアではない人でも地域への貢献ができるんだと思いました。そのなかで、時間割のアプリもそうですが、一般の主婦や子育てしている人の視点が新しいきっかけになっています。幼い子どもを抱えているとなかなかボランティアに参加するのは難しいですが、シビックテックだったら自分の好きな時間にできる範囲で作業ができることがメリットなので、若い世代の方には浸透しやすいと思います」

社会も多様、シビックテックも多様であるべき
 エンジニアの知識や技術がなくても活躍できるシビックテック。白澤さんのように簡単な技術でアプリを開発する活動も広がっていますが、市民としてふだんの暮らしの中で培ってきた知識や経験を、問題解決のアイデアに反映させていくような貢献こそ、シビックテックに欠かせないといいます。
 日本で初めてのシビックテックの団体として、2013年から金沢市で活動している「Code for Kanazawa」の代表、福島健一郎さんに話を聞きました。



Code for Kanazawa代表・福島健一郎さん
「社会の問題を解決するのがシビックテックであるならば、エンジニアだけが思っている課題を解決するのではいけない。社会が多様であるならば、シビックテックもまた多様であるべきです。私たちの団体でもエンジニアではない多くの方が参加してくれていますが、プロジェクトのリーダー役や宣伝担当などを精力的に行ってもらっています。シビックテックは自分事でないと意欲が持続しないので、本当に問題意識のある人が中心にならなければいけない」

「してほしい」ではなく「一緒にしましょう」
 「Code for Kanazawa」では複数のプロジェクトごとにエンジニアや市民が関わっていて、現在はのべ100人ほどが参加していますが、その8割ほどがIT技術に詳しくない学生や主婦などのいわゆる非エンジニアだといいます。




 非エンジニアの方の活躍により重要なサービスが次々に生まれています。Code for Kanazawaが2016年から奥能登地方の2市2町で運営している子育て情報アプリ「のとノットアローン」は、これまでは回覧板や公民館の掲示板でしか知ることができなかった、小さな子どもを連れて行ける地域のイベントやお祭りの情報をスマートフォンのアプリで一覧で見られるようにしたサービスですが、このアプリの開発も地域で子育てをする女性たちが中心になってプロジェクトが進められたといいます。

Code for Kanazawa代表・福島健一郎さん
「はじめは地域のお母さんたちが私たちのところに来て『困っているので、こうゆうサービスを作ってほしい』という話をされました。そこで私たちは『一緒に作りましょう』といって参加してもらいました。プロジェクトにあたっては、エンジニアが使いがちな専門用語が分からなかったり、反対にエンジニアが地域の事情に詳しくなかったりと、お互いにマインドが異なることはありましたが、私のような調整役が通訳として入って、お互いに歩み寄っていくことで、よりよいものになったと思います」

参加した母親たちによる「のとノットアローン」のアイデアシート
ここからアプリ開発が始まった
 
ヒーローはエンジニアだけじゃない
Code for Kanazawa代表・福島健一郎さん
「プログラムを書いたりアプリを開発したりするのは大変な作業なので、エンジニアはシビックテックではヒーローだと思っています。ただ、ヒーローはエンジニアだけではありません。地域の問題を解決したいと思う1人1人が重要な役割を果たすことが求められています。もしシビックテックに関心があれば、お住いの地域でどんなプロジェクトが始まっているのかを調べてもらうとともに、普段使っているスマートフォンやアプリとはどうゆうものなのかといったITの知識についても少し知ってもらうと、より理解が深まって自分が貢献できることが見つかるかもしれません」

 シビックテックで重要なのは、プログラムを魔法のように操って夢のサービスを実現するエンジニアだと思われがちですが、実際の社会はそんなに単純ではないと福島さんは語ってくれました。複雑な社会だからこそ、多様な人が多様な視点や能力で参加することが持続可能なシビックテックには欠かせません。

 宮田さんは、シビックテックの多くは最先端のテクノロジーではなく、すでに普及しているITやサービスを地域のニーズとうまくマッチングさせて地域の課題を解決していると話していて、大事なのはどれだけ最先端のテクノロジーを使うかではなく、1人1人が地域の問題をどう解決していきたいという気持ちだと指摘しています。

慶應義塾大学 宮田裕章教授
「誰もが参加できることと、みんなで課題解決そのものを考えることが民主主義にとって一番大切な部分であって、どんな社会問題を解決すべきかというアジェンダセッティング(課題設定)を一部の特別な集団だけ行うのではなく、市民を介して行っていくことができるようになることはテクノロジーが持っている大事な可能性の1つです。これまでは、地域の回覧板のようにコミュニケーションの手段が限られていると、個人が周囲に与えられる影響は小さなものでしたが、ITやサービスの進歩によって、自分の好きなことや関心のあることでほかの人とつながって、それが一緒に新しいことを始める力になったり、関心がなかったほかの人も巻き込んだりして、新たな社会の力につなげていくことができるようになってきています。シビックテックのように、1人1人が大事にしたいことを大事にするその延長線上で能動的に社会に影響を及ぼしあうことは、個人の豊かな生き方を実現する手段になっていくと思います」

宮田さんの注目する「シビックテック」についてのご感想・ご意見は、下の「コメント」からお寄せください。