クロ現+
2020年7月8日

自治体×IT企業“感染予報マップ”に挑む

日本で新型コロナウイルスの感染拡大が起き始めた当初から、慶應義塾大学の宮田さんは神奈川県やLINE社と連携し、1人1人の市民の健康状態に応じて必要な医療や生活の情報を提供する「パーソナルサポート」を立ち上げ、ビッグデータを用いた感染症対策に取り組んできました。
そして今、感染拡大の第2波への備えなど長期化するウイルスとの戦いに向けて、ビッグデータを応用した新たなシステム「コロナ警戒マップ」の開発に取り組んでいます。
「コロナ警戒マップ」とはどんな取り組みなのか。ビッグデータを分析することで、人々の行動変容にどうつなげていけるのか。

感染リスクを“予報”する


宮田さん
「天気予報のようなかたちで、1人1人が集めるデータで、1歩先の未来が見える」

いまだ終息がみえない新型コロナウイルスとの戦い。宮田さんが、目下取り組んでいるのが目に見えない感染リスクを“予報”する「コロナ警戒マップ」の開発です。

神奈川県やIT大手のLINEと連携。県民1人1人にLINEを通じて年齢や職業、発熱やのどの痛みなどの体調、感染予防行動の有無、住んでいる地域の郵便番号、それに陽性患者との接触歴などを回答してもらい、それらの情報を匿名化してビッグデータとして分析します。
ことし3月から行ってきたパーソナルサポートの取り組みでも同様のデータを蓄積していて、すでに70万人以上の県民が回答しています。そのなかには、医療機関で新型コロナウイルスの感染を診断された人のデータも蓄積されていて、それらの回答の傾向を分析することで、まだ陽性と診断されていない人が潜在的にウイルスに感染しているリスクを、回答された体調や行動の特徴から統計的に割り出します。
匿名化された1人1人のデータから推定された感染リスクを居住地域ごとに積み重ねていくことで、どの地域で潜在的な感染リスクの高い人が増えているのかという動向を地図として可視化することができ、コロナ警戒マップとして1週間に1度、LINEやホームページを通じて県民にフィードバックする予定です。



定期的にコロナ警戒マップを配信することで、人々が外出する前にマップを確認し、目的地周辺で感染リスクが増えている場合には、より厳重な感染予防対策をしたり、外出をとりやめたりといった行動を促すことができるといいます。
回答する人が多ければ多いほどデータの精度、つまり“予報”の精度が高まると期待されています。

いま必要なことは行動の変容


先月9日、宮田さんは神奈川県庁を訪ね、「コロナ警戒マップ」について黒岩知事とLINE執行役員・江口清貴さんと意見を交わしました。

宮田さんは、人々が地域全体で「行動変容」を起こせば、感染が再び拡大することを回避できる可能性はあると指摘しました。

宮田さん
「いま一番大事なことは、もう一回感染拡大を起こさないということ。リスク予防行動、つまりマスクを着けて3密を回避するといった行動をある程度取っていれば、緊急事態宣言や休業要請の再発動を避けることができるシナリオはあるんじゃないかと思います。そのためには、地域全体で行動を改善していくということが求められている。ワクチンが開発されるまでは、感染が拡大したあとになって休業要請などの対策をするのではなく、その手前で気を引き締めたり、行動を改善したりして事態を安定させていくほうが好ましい」

黒岩知事
「私たちが行っている警戒アラートの取り組みもその発想だ。もう一度、緊急事態宣言のような厳しい対策が発動されないよう、私たち県が早め早めに注意を呼びかけようと考えている。みんなもう二度とあんな厳しい外出自粛とか、休業要請は耐えられないと思っているのではないか」

感染の再拡大を防ぐには、一人一人が感染を避けるための行動を意識して実践することが欠かせません。コロナ警戒マップを、「行動の変容」にどうつなげていけるのか。

江口さん
「いままでは神奈川県全体で患者が何人出ましたという、県全体の情報になっていたので、県民1人1人が自分事としては捉えられなかったと思う。このシステムである程度細かく情報を提供することで、このエリアに出かけるときは普段よりも気をつけようとか、自分事として捉えてもらえ、その少しの行動の差がその後の感染予防に重要になってくる。いかに自分事と捉えて、自分の行動変容につなげて、病気から自分を守るかということがポイントです」

黒岩知事
「自分の置かれている状態をデータで客観的に見ることができれば、そのデータを基盤にして自分をコントロールしていくことができる。民主的なプロセスとして人々にデータを還元して、ともに解決していこうという考え方だが、いままさにそういった新しい健康の時代が来たということを感じる」

今こそITの力が試されている
長期化が見込まれるウイルスとの戦いのなかで、データを活用して対策を図っていくためには、これまでのように行政だけが取り組むのではなく、技術をもつIT企業や研究者がお互いに連携し合うことが欠かせないという指摘も出されました。



黒岩知事
「データ、ビッグデータがいままさに鍵を握っていると思う。これからの時代はウイルスは必ずどこかにいて、でもどこにいるかは分からないから1人1人が用心をしていくしかない。自分の身は自分で守ってほしいというメッセージをずっと出しているが、そのためにも、感染リスクがあるエリアがどこにあって、自分に危機が迫っているということを感じてもらえれば、みんなが主体となって用心しながら自分の健康を守っていくという流れをつくることができる」



江口さん
「これからの時代はいままでの常識が通用しないから、試行錯誤を繰り返していくしかない。自分たちのようなIT企業が行政とコラボレーションして、PDCAサイクルをぐるぐる回していくということをやり続けていかなければならない時代になったと思う。コロナ警戒マップにしても、1つのキラーアプリで解決するということはなくて、複数の取り組みを組み合わせていって、面的に対策を行っていくということをやらなくてはいけない」



宮田さん
「官や学だけではなく、民間との連携のなかで一緒にサービスをつくっていかないと課題解決ができない時代になっている。今回、みなさんは素晴らしい早さで対応してくれている。コロナとの戦いはまだまだこれからが長いので、データを使って人々に寄り添って、1人1人が行動するためのサポートをしていきたい。民主国家で人々のデータを使わせてもらうにはトラスト(信頼)が欠かせない。データの活用が人々にとっての価値や行動にどうつながるのかをお示しして、信頼につなげていくことが重要になると思う」

新たな社会像を示せるか
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、私たちの社会は大きな変化を余儀なくされています。テレワークやソーシャルディスタンスが当たり前になるなかで、その行動の指針としてのデータの活用がますます重要になってきています。

データによって地域の感染リスクを可視化し、人々に還元することで行動の変容を促そうという宮田さんたちの取り組みが、どんな社会をもたらすことができるのか。今後も注目したいと思います。

コロナ警戒マップの取り組みを含む、データを活用した新型コロナウイルス対策の詳細については、8日(水)午後10時放送のクローズアップ現代+で詳しくお伝えします。

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